(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】排ガス浄化用触媒およびこれを用いた触媒体
(51)【国際特許分類】
B01J 23/42 20060101AFI20240213BHJP
B01D 53/94 20060101ALI20240213BHJP
B01J 23/63 20060101ALI20240213BHJP
B01J 35/45 20240101ALI20240213BHJP
B01J 35/53 20240101ALI20240213BHJP
B01J 35/57 20240101ALI20240213BHJP
F01N 3/10 20060101ALI20240213BHJP
F01N 3/24 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B01J23/42 A ZAB
B01D53/94 222
B01D53/94 245
B01D53/94 280
B01J23/63 A
B01J35/45
B01J35/53
B01J35/57 L
F01N3/10 A
F01N3/24 C
(21)【出願番号】P 2022166917
(22)【出願日】2022-10-18
【審査請求日】2023-11-15
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000104607
【氏名又は名称】株式会社キャタラー
(74)【代理人】
【識別番号】100117606
【氏名又は名称】安部 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100130605
【氏名又は名称】天野 浩治
(72)【発明者】
【氏名】田中 江里子
(72)【発明者】
【氏名】谷 斗志生
(72)【発明者】
【氏名】大石 隼輔
(72)【発明者】
【氏名】冨樫 ひろ美
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 正尚
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-261681(JP,A)
【文献】特開2010-005590(JP,A)
【文献】特開平05-237383(JP,A)
【文献】特開2020-157262(JP,A)
【文献】特開2013-198879(JP,A)
【文献】国際公開第2022/224993(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01D 53/73
B01D 53/86 - 53/90
B01D 53/94 - 53/96
F01N 3/00
F01N 3/02
F01N 3/04 - 3/38
F01N 9/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミナ粒子と、前記アルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆するジルコニアと、を含む母材と、
前記母材に担持され、少なくともPtを含有する触媒貴金属と、
を含み、
集束イオンビーム走査型電子顕微鏡によって求まる前記ジルコニアの平均粒径は、50nm以下であり、
前記Ptに対する前記ジルコニアのモル比(ZrO
2/Pt)は、8以上であ
り、
前記アルミナ粒子の表面から中心に向かって、電解放出型電子プローブマイクロアナライザを用いてZrの定量ライン分析を行って、表面を0%、中心を100%として表面から中心までの深さを表した場合に、0~30%の範囲内にZr強度のピークトップが存在する、
排ガス浄化用触媒。
【請求項2】
前記母材における前記ジルコニアの質量割合が、5質量%以上30質量%以下である、請求項
1に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項3】
前記モル比(ZrO
2/Pt)が、30以下である、
請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項4】
前記触媒貴金属が、Rhを含まない、
請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒。
【請求項5】
基材と、前記基材に設けられている触媒層と、を備え、
前記触媒層が、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒を含有する、
排ガス浄化用触媒体。
【請求項6】
前記触媒層が、
前記基材側に位置する下層部と、
前記触媒層の表面側に位置する上層部と、を備え、
前記下層部が、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒を含有し、
前記上層部が、前記下層部と異なる排ガス浄化用触媒を含有する、
請求項
5に記載の排ガス浄化用触媒体。
【請求項7】
前記触媒層が、排ガスの流れ方向において、
前記触媒層の上流側に位置する前段部と、
前記触媒層の下流側に位置する後段部と、を備え、
前記後段部が、請求項1または2に記載の排ガス浄化用触媒を含有し、
前記前段部が、前記後段部と異なる排ガス浄化用触媒を含有する、
請求項
5に記載の排ガス浄化用触媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、排ガス浄化用触媒および、これを用いた排ガス浄化用触媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車エンジン等の内燃機関から排出される排ガスには、炭化水素(HC)、一酸化炭素(CO)、窒素酸化物(NOx)等の有害成分が含まれる。これら有害成分を排ガス中から効率よく反応・除去するために、アルミナ等の母材に触媒貴金属を担持してなる排ガス浄化用触媒が汎用されている(特許文献1、2参照)。例えば特許文献1には、アルミナ粒子に、ジルコニアと白金(Pt)とが担持された排ガス浄化用触媒が記載されている。特許文献1によれば、上記排ガス浄化用触媒では、ジルコニアが、Ptの粒子成長を抑制するためのブロック材の役割を果たすので、高温の排ガスに長時間晒されてもPtのシンタリングが抑えられ、特に一酸化窒素(NO)を酸化する酸化活性の低下が抑制されうる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-198879号公報
【文献】特開2006-198594号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の実施例では、800℃で20時間熱処理した後の酸化活性で、耐久性を評価している。しかしながら、さらに長時間の耐久性を考慮すると、上記従来技術には未だ改善の余地があった。
【0005】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、その目的は、高温に長時間晒された場合の酸化活性が向上した排ガス浄化用触媒を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、特許文献1とは異なるアプローチで、触媒貴金属の酸化活性の低下を抑制することを考えた。すなわち、本発明者らの鋭意検討によれば、触媒貴金属は、リーン雰囲気で活性の低い酸化状態になりやすい。一方で、触媒貴金属を担持する担体の酸性質は、触媒貴金属の電子状態に影響を及ぼす。そのため、アルミナの酸性質を変化させて酸点を増やすことで触媒貴金属を活性の高い電子リッチな状態(金属状態)に維持でき、耐久後も触媒貴金属の酸化活性の低下を抑制できると考えた。アルミナの酸点を増やす方法としては、ジルコニアを添加することが考えられる。ただし、酸点はアルミナとジルコニアとの界面で生成されると推定されるため、微細化したジルコニアがアルミナ表面に配置されることが必要である。
【0007】
しかしながら、
図12に示すように、特許文献1、2に記載されるような従来の排ガス浄化用触媒100Xでは、例えば製造方法に起因して、アルミナ32Xの表面に配置されたジルコニア34Xの平均粒径(二次粒子径)が、概ね100nm以上、例えば100~1000nmの大きさである。このように、従来技術ではジルコニア34Xの粒径が大きく、アルミナとジルコニアとの界面が少ないため、本発明者らの調査によれば、アルミナ32Xの酸点を増やす効果が得られていなかった。このような知見に基づき、本発明者らは、ジルコニア34Xの平均粒径を従来よりも微細化し、アルミナ32Xとジルコニア34Xとの接点を増やすことで、アルミナ32Xの酸点を増加させれば、触媒貴金属40Xを金属の状態で維持しやすくなり、ひいては酸化活性の低下をさらに高いレベルで抑制できると考えた。そこで、本発明が創出された。
【0008】
本発明により、アルミナ粒子と、上記アルミナ粒子の表面の少なくとも一部を被覆するジルコニアと、を含む母材と、上記母材に担持され、少なくともPtを含有する触媒貴金属とを含み、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡によって求まる上記ジルコニアの平均粒径は、50nm以下であり、上記Ptに対する上記ジルコニアのモル比(ZrO2/Pt)は、8以上である、排ガス浄化用触媒[1]が提供される。
【0009】
排ガス浄化用触媒[1]は、従来よりも微細化されたジルコニアを所定以上のモル比で含んでいる。これにより、ジルコニアを従来よりもアルミナ粒子の表面に高分散に配置でき、アルミナ粒子とジルコニアとの接点を増やすことができる。その結果、アルミナの酸点を増加させることができ、触媒貴金属(特にはPt)を金属の状態(活性状態)で維持しやすくなる。したがって、本発明によれば、高温に長時間晒された場合であっても、従来よりも高いレベルで酸化活性の低下を抑制でき、優れた排ガス浄化性能(例えばCO浄化性能)を発揮できる。
【0010】
排ガス浄化用触媒[2]は、上記排ガス浄化用触媒[1]において、上記アルミナ粒子の表面から中心に向かって、電解放出型電子プローブマイクロアナライザを用いてZrの定量ライン分析を行って、表面を0%、中心を100%として表面から中心までの深さを表した場合に、0~30%の範囲内にZr強度のピークトップが存在する。これにより、アルミナ粒子の表面に存在するジルコニアの割合が高くなり、アルミナの表面の酸点を効果的に増加させることができる。したがって、ここに開示される技術の効果をより高いレベルで発揮できる。
【0011】
排ガス浄化用触媒[3]は、上記排ガス浄化用触媒[1]または[2]において、上記母材における上記ジルコニアの質量割合が、5質量%以上30質量%以下である。これにより、アルミナの表面の酸点を、より効果的に増加させることができ、ここに開示される技術の効果をさらに高いレベルで発揮できる。
【0012】
排ガス浄化用触媒[4]は、上記排ガス浄化用触媒[1]~[3]のいずれか1つにおいて、上記モル比(ZrO2/Pt)が、30以下である。これにより、凝集したジルコニア上に担持されるPtの割合を抑えられる。本発明者らの検討によれば、ジルコニア上に担持されたPtの活性は、アルミナ上に担持されたPtの活性よりも低いため、ZrO2/Ptを上記範囲とすることで、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0013】
排ガス浄化用触媒[5]は、上記排ガス浄化用触媒[1]~[4]のいずれか1つにおいて、上記触媒貴金属が、Rhを含まない。これにより、還元反応による排ガスの浄化との競合を避けて、酸化反応をスムーズに進行させることができ、排ガス中のCOをより高いレベルで浄化することができる。
【0014】
排ガス浄化用触媒体[6]は、基材と、上記基材に設けられている触媒層と、を備え、上記触媒層が、上記排ガス浄化用触媒[1]~[5]のいずれか1つを含有する。これにより、高温に長時間晒された場合でも、優れた排ガス浄化性能(例えばCO浄化性能)を発揮できる。
【0015】
排ガス浄化用触媒体[7]は、上記排ガス浄化用触媒体[6]において、上記触媒層が、上記基材側に位置する下層部と、上記触媒層の表面側に位置する上層部と、を備え、上記下層部が、上記排ガス浄化用触媒[1]~[5]のいずれか1つを含有し、上記上層部が、上記下層部と異なる排ガス浄化用触媒を含有する。これにより、上記排ガス浄化用触媒の効果が高いレベルで発揮され、排ガス中に含まれる様々な有害成分を効率よく反応・除去できる。
【0016】
排ガス浄化用触媒体[8]は、上記排ガス浄化用触媒体[6]において、上記触媒層が、排ガスの流れ方向において、上記触媒層の上流側に位置する前段部と、上記触媒層の下流側に位置する後段部と、を備え、上記後段部が、上記排ガス浄化用触媒[1]~[5]のいずれか1つを含有し、上記前段部が、上記後段部と異なる排ガス浄化用触媒を含有する。これにより、上記排ガス浄化用触媒の効果が高いレベルで発揮され、排ガス中に含まれる様々な有害成分を効率よく反応・除去できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】
図1は、本実施形態に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【
図2】
図2は、本実施形態に係る排ガス浄化システムを示す模式図である。
【
図3】
図3は、
図2の排ガス浄化用触媒体を模式的に示す斜視図である。
【
図4】
図4は、
図3の排ガス浄化用触媒体を筒軸方向に切断した部分断面図である。
【
図8A】
図8Aは、実施例2のFIB-SEM観察画像である。
【
図8B】
図8Bは、比較例6のFIB-SEM観察画像である。
【
図9】
図9は、実施例2のFE-EPMAのライン分析のチャートである。
【
図10】
図10は、表1のCO50%浄化温度を比較したグラフである。
【
図11】
図11は、表2のCO50%浄化温度を比較したグラフである。
【
図12】
図12は、従来技術に係る排ガス浄化用触媒を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しつつ本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項以外の事柄であって本発明の実施に必要な事柄は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。また、以下の図面において、同じ作用を奏する部材・部位には同じ符号を付し、重複する説明は省略又は簡略化することがある。各図における寸法関係(長さ、幅、厚み等)は、実際の寸法関係を必ずしも反映するものではない。また、本明細書において範囲を示す「A~B」(A,Bは任意の数値)の表記は、A以上B以下の意と共に、「好ましくはAより大きい」および「好ましくはBより小さい」の意を包含する。
【0019】
≪排ガス浄化用触媒100≫
図1は、本実施形態の排ガス浄化用触媒100を模式的に示す断面図である。
図1に示すように、排ガス浄化用触媒100は、母材30と、母材に担持された触媒貴金属40と、を含む。詳しくは後述するが、母材30は、アルミナ粒子32と、アルミナ粒子32の表面の少なくとも一部を被覆するジルコニア34とを含む。
図1に示すように、触媒貴金属40は、アルミナ粒子32と当接していることが好ましい。触媒貴金属40は、ジルコニア34とも当接していることがさらに好ましい。
【0020】
触媒貴金属40は、少なくとも白金(Pt)を含有する。触媒貴金属40が、Ptを含有することにより、酸化活性を向上でき、例えば排ガス中のCOを効率よく浄化できる。触媒貴金属40は、例えばPtのみで構成されていてもよいし、Ptに加えて酸化触媒であるPdを含んで構成されていてもよい。触媒貴金属40は、ここに開示される技術の効果を顕著に阻害しない範囲内(例えば、触媒貴金属40全体の10質量%以下)で、Ptおよび/またはPd以外の貴金属(すなわち、金(Au)、銀(Ag)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os))をさらに含有していてもよい。触媒貴金属40は、還元触媒、例えばロジウム(Rh)を含まないことが好ましい。これにより、還元反応による排ガスの浄化との競合を避けて、酸化反応をスムーズに進行させることができ、例えば排ガス中のCOをより高いレベルで浄化することができる。
【0021】
触媒貴金属40は、Ptを主体とすること(言い換えれば、50質量%以上を占めること)が好ましい。触媒貴金属40の全体に占めるPtの割合は、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは95質量%以上であり、最も好ましくは100質量%(すなわち、触媒貴金属40がPtのみで構成されている)である。
【0022】
触媒貴金属40は、典型的には、粒子状である。触媒貴金属40の平均粒径は、特に限定されない。排ガスとの接触面積を高める観点から、触媒貴金属40は、十分に小さい粒径の微粒子であることが好ましい。触媒貴金属40の平均粒径は、典型的にはジルコニア34よりも小さく、例えば15nm以下であり、好ましくは10nm以下であり、より好ましくは5nm以下である。触媒貴金属40の平均粒径は、例えば1nm以上であってよい。なお、触媒貴金属40の平均粒径は、透過電子顕微鏡(TEM)観察により求められる、50個以上の触媒貴金属40の粒径の平均値(個数基準)として求めることができる。
【0023】
触媒貴金属40の担持量は、特に限定されず、例えば排ガス浄化用触媒100を用いた排ガス浄化用触媒体の設計に応じて適宜決定することができる。触媒貴金属40の担持量は、母材30の質量を100質量部としたときに、例えば0.01質量部以上、好ましくは0.05質量部以上、より好ましくは0.1質量部以上である。また、触媒貴金属40の担持量は、母材30の質量を100質量部としたときに、例えば10質量部以下、好ましくは5質量部以下、より好ましくは3質量部以下である。
【0024】
母材30は、図示されるように、アルミナ(Al2O3、酸化アルミニウム)粒子32と、アルミナ粒子32の表面の少なくとも一部を被覆するジルコニア(ZrO2、酸化ジルコニウム)34とを含む。言い換えると、母材30は、少なくとも一部の表面がジルコニア34で被覆されたアルミナ粒子32である。
【0025】
母材30の全体形状は特に限定されず、略球状、略楕円球状、不定形等であってよい。なお、本明細書において「略球状」とは、全体として概ね球体(ボール)と見なせる形態をいい、平均アスペクト比が、概ね1~2、例えば1~1.5であることをいう。
【0026】
母材30の平均粒径(典型的には二次粒子径)は特に限定されない。母材30の平均粒径は、通常、触媒貴金属40ないしジルコニア34の平均粒径よりも大きく、例えば0.5μm以上であり、好ましくは1μm以上であり、より好ましくは3μm以上である。母材30の平均粒径は、例えば200μm以下であり、好ましくは100μm以下であり、より好ましくは60μm以下である。なお、母材30の平均粒径は、レーザ回折・散乱法に基づく測定によって、メジアン径(D50:体積基準)として求めることができる。
【0027】
アルミナ粒子32は、典型的には、母材30の第1成分(質量基準で最も含有割合の高い成分)である。アルミナ粒子32は、母材30の主体となることが好ましい。アルミナ粒子32は、実質的に(例えば、95質量%以上が)Al2O3で構成されていてもよいし、ここに開示される技術の効果を顕著に阻害しない範囲内で、Al2O3以外の添加成分を含有していてもよい。添加成分の一例として、酸化ランタン(La2O3)、Pr2O3、Nd2O3、Y2O3等の希土類元素の酸化物が挙げられる。なかでも、La2O3が好ましい。すなわち、アルミナ粒子32は、ランタン-アルミナ複合酸化物の粒子であってもよい。アルミナ粒子32が希土類元素の酸化物を含有することで、排ガス浄化用触媒100の耐熱性等を向上できる。
【0028】
アルミナ粒子32が希土類元素を含む場合、アルミナ粒子32の全体に占める希土類元素の含有量は、酸化物換算で、例えば0.1質量%以上、0.5質量%以上、1質量%以上であってもよい。また、アルミナ粒子32における希土類元素の含有量は、酸化物換算で、例えば20質量%以下、10質量%以下、5質量%以下である。アルミナ粒子32の全体に占める希土類元素の含有量は、蛍光X線分析装置(XRF)を用いた測定によって求めることができる。
【0029】
アルミナ粒子32の形状は、典型的には略球状である。ただし、アルミナ粒子32の形状は特に限定されず、略楕円球状、不定形等であってよい。アルミナ粒子32は、通常、一次粒子が凝集した二次粒子(凝集体)である。アルミナ粒子32が二次粒子である場合には、大きな比表面積を確保することができる。しかしながら、アルミナ粒子32は、一次粒子であってもよいし、一次粒子と二次粒子の混合物であってもよい。
【0030】
ジルコニア34は、図示されるように、微細な粒状であり、アルミナ粒子32の表面上に点在している。ジルコニア34は、アルミナ粒子32の表面上において、一次粒子が凝集した二次粒子(凝集体)でありうる。本実施形態において、ジルコニア34の平均粒径(典型的には二次粒子径)は、50nm以下である。これにより、ジルコニア34を従来よりもアルミナ粒子32の表面上に高分散に配置でき、アルミナ粒子32とジルコニア34との接点を増やすことができる。その結果、アルミナ粒子32の酸点を増加させることができ、触媒貴金属40を金属の状態(活性状態)で維持しやすくなる。なお、ジルコニア34の平均粒径は、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM)によって得られるSEM観察画像から任意に選ばれる6個以上のジルコニア34の円相当径(言い換えると、ヘイウッド径)を測定し、その平均値として求めることができる。平均粒径を求めるためには、少なくとも300,000倍の測定倍率で、SEM観察を行うことが好ましい。円相当径および平均値の算出には、画像解析ソフト(例えば、ImageJ等)を使用してよい。
【0031】
ジルコニア34の平均粒径は、好ましくは50nm未満であり、より好ましくは40nm以下、さらに好ましくは30nm以下、特に好ましくは25nm以下、例えば21nm以下であるとよい。これにより、アルミナ粒子32とジルコニア34との接点がさらに増えて、アルミナ粒子32の酸点を効果的に増加させることができる。ジルコニア34の平均粒径は、概ね5nm以上、好ましくは10nm以上、例えば15nm以上であるとよい。SEMで観察できるジルコニア34の平均粒径(凝集体の二次粒子径)が所定値以上であると、アルミナ粒子32の表面に充分量のジルコニア34を高分散に配置できる。これにより、触媒貴金属40の電子状態に影響を及ぼせるほど、アルミナ粒子32の表面の酸点を効果的に増加させて、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0032】
本実施形態において、Ptに対するジルコニア34のモル比(ジルコニア34/Pt)は、8以上である。これにより、ジルコニア34の平均粒径が50nm以下と微小化されている場合であっても、多くのPtが、ジルコニア34に当接して、またはジルコニア34の近傍に存在できるようになる。その結果、ジルコニア34によって生成される酸点量がPtの担持量に対して充分量となり、Ptの状態を好適に金属状態に維持できる。したがって、耐久後もPtの酸化活性の低下を抑制でき、優れた排ガス浄化性能(例えばCO浄化性能)を維持できる。上記モル比(ジルコニア34/Pt)は、概ね50以下であるとよく、好ましくは30以下であり、例えば29以下である。これにより、凝集したジルコニア34上に担持されるPt(すなわち、活性低いPt)の割合を抑えられ、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。
【0033】
母材30におけるジルコニアの質量割合、すなわち、母材30の全質量(アルミナ粒子32とジルコニア34の合計質量)に対するジルコニアの質量割合は、概ね1質量%以上、例えば3質量%以上であり、好ましくは5質量%以上であるとよい。これにより、ジルコニア34の分散度がより高まり、アルミナ粒子32の表面の酸点を、より効果的に増加させることができる。一方、母材30におけるジルコニアの質量割合は、好ましくは30質量%以下であり、より好ましくは25質量%以下であり、さらに好ましくは21質量%以下である。これにより、凝集したジルコニア34に担持されるPt(すなわち、活性低いPt)の割合を抑えられ、ここに開示される技術の効果を高いレベルで発揮できる。なお、母材30におけるジルコニアの質量割合は、蛍光X線分析装置(XRF)を用いた測定によって求めることができる。
【0034】
ジルコニアは、アルミナ粒子32の表面の酸点を効果的に増加させるために、アルミナ粒子32の表面のみ、または、アルミナ粒子32の表面およびその近傍に多く分布していることが好ましい。したがって、アルミナ粒子32の表面から中心に向かって、電解放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA)を用いてZrの定量ライン分析を行って、表面を0%、中心を100%として表面から中心までの深さを表した場合に、Zr強度のピークトップが、0~30%の範囲内に存在することが好ましい。Zr強度のピークトップは、0~25%の範囲内に存在することがより好ましく、0~24%の範囲内に存在することが特に好ましい。
【0035】
なお、ジルコニア34の形状、個数等は、図示されたものに限られない。排ガス浄化用触媒100において、ジルコニアは、典型的にはアルミナ粒子32の表面にジルコニア34として存在する。しかしながら、本発明の効果を顕著に阻害しない範囲内で、アルミナ粒子32の内部にもジルコニアが存在していてもよい。例えば、後述のスプレードライ法によってアルミナ粒子32の表面にジルコニア34を被覆する場合、アルミナ粒子32が二次粒子状であると一次粒子間の隙間から後述のジルコニア前駆体が入り込んで、アルミナ粒子32の内部にもジルコニアが存在し得る。また、ジルコニア34は、ここに開示される技術の効果を顕著に阻害しない範囲内(例えば、10質量%以下)で、ZrO2以外の添加成分を含有していてもよい。
【0036】
≪排ガス浄化用触媒100の製造方法≫
特に限定されるものではないが、排ガス浄化用触媒100は、例えば、(S1)懸濁液調製工程と、(S2)スプレードライ工程と、(S3)焼成工程と、(S4)触媒貴金属担持工程とを、この順に含む方法により、次のようにして作製することができる。
【0037】
(S1)懸濁液調製工程では、まず、ジルコニア34の原料として、ジルコニア前駆体を用意する。ジルコニア前駆体は、Zrイオンが溶媒中に十分に溶解した溶液(Zr溶液)の形態であることが好ましい。これにより、例えば特許文献1に開示される「ジルコニアゾル」を用いる方法と比べて、ジルコニア34の平均粒径を相対的に小さく調整しやすくなり、50nm以下の平均粒径を好適に実現できる。ジルコニア前駆体の一例として、溶媒に水を使用したオキシ硝酸ジルコニウム水和物が挙げられる。次いで、ジルコニア前駆体を、溶媒(例えば純水)中でアルミナ粒子32と混合することにより、アルミナ粒子32が分散され、かつジルコニア前駆体が溶解された懸濁液を調製する。
【0038】
(S2)スプレードライ工程では、上記で調製した懸濁液を、噴霧乾燥装置でスプレードライする。スプレードライの条件は、スプレードライ法によって粒子を溶液の固形分で被覆する際に採用されている公知の条件を参考にして決定するとよい。これにより、アルミナ粒子32の表面に、高度な分散状態でジルコニア前駆体が付着した粉体を得ることができる。スプレードライ法によれば、懸濁液を微細化した液滴として熱風中に噴霧し、瞬時に溶媒を蒸発させて粉末を得ることができるので、50nm以下の平均粒径のジルコニア34を好適に実現できる。なお、母材30におけるジルコニアの質量割合は、懸濁液中のアルミナ粒子32とジルコニア前駆体との濃度比を変化させることによって調整できる。また、溶媒を十分に除去するために、本工程の後に、さらに乾燥を行ってもよい。
【0039】
(S3)焼成工程では、上記で得られた粉体を焼成する。これにより、ジルコニア前駆体(例えば、Zrイオン)が、ジルコニア34に変換される。焼成条件は、例えばジルコニア前駆体の種類に応じて適宜決定するとよい。これにより、少なくとも一部の表面がジルコニア34で被覆されたアルミナ粒子32(すなわち母材30)を得ることができる。
【0040】
(S4)触媒貴金属担持工程では、まず、少なくともPtを含む触媒貴金属源(例えば、Ptをイオンとして含む溶液)と、母材30とを、分散媒中で混合する。次いで、得られた混合液を乾燥する。そして、得られた乾燥物を、焼成する。これにより、母材30に触媒貴金属40を担持させることができる。すなわち、上記したような排ガス浄化用触媒100を得ることができる。
【0041】
≪排ガス浄化用触媒100の使用≫
排ガス浄化用触媒100は、典型的にはハニカム構造体等に担持されて使用される。排ガス浄化用触媒100は、例えばストレートフロー型のハニカム構造体に担持することで、ディーゼル酸化触媒(DOC:Diesel Oxidation Catalyst)や、NOx吸蔵還元触媒(NSR:NOx Storage Reduction)、アンモニアスリップ触媒(ASC:Ammonia Slip Catalyst)、の触媒成分として、好適に用いることができる。また、排ガス浄化用触媒100は、例えばウォールフロー構造のハニカム構造体に担持することで、排ガスに含まれる粒子状物質(PM:Particulate matter)を除去するガソリンパティキュレートフィルタ(GPF:Gasoline Particulate Filter)や、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF:Diesel Particulate Filter)に塗布する触媒成分として、好適に用いることができる。
【0042】
≪排ガス浄化システム1≫
図2は、排ガス浄化システム1の模式図である。排ガス浄化システム1は、内燃機関(エンジン)2と、排ガス浄化装置3と、エンジンコントロールユニット(Engine Control Unit:ECU)7と、を備えている。排ガス浄化システム1は、内燃機関2から排出される排ガスに含まれる有害成分、例えば、HC、CO、NOx等を、排ガス浄化装置3で浄化するように構成されている。なお、
図2等の矢印は、排ガスの流動方向を示している。また、以下の説明では、排ガスの流れに沿って、内燃機関2に近い側を上流側、内燃機関2から遠い側を下流側という。
【0043】
内燃機関2は、ここではディーゼル車両のディーゼルエンジンを主体として構成されている。ただし、内燃機関2は、ディーゼル以外のエンジン、例えばガソリンエンジンや、ハイブリッド車に搭載されるハイブリッド系エンジン等であってもよい。内燃機関2は、燃焼室(図示せず)を備えている。燃焼室は、燃料タンク(図示せず)に接続されている。燃料タンクには、ここではディーゼル燃料(軽油)が貯留されている。ただし、燃料タンクに貯留される燃料は、ガソリン等であってもよい。燃焼室では、燃料タンクから供給された燃料が酸素と混合され、燃焼される。これにより、燃焼エネルギーが力学的エネルギーへと変換される。燃焼室は、排気ポート2aに連通している。排気ポート2aは、排ガス浄化装置3に連通している。燃焼された燃料ガスは、排ガスとなって排ガス浄化装置3に排出される。
【0044】
排ガス浄化装置3は、内燃機関2と連通する排気経路4と、圧力センサ8と、第1触媒体10と、第2触媒体10Rrと、を備えている。排気経路4は、排ガスが流動する排ガス流路である。排気経路4は、ここではエキゾーストマニホールド5と排気管6とを備えている。エキゾーストマニホールド5の上流側の端部は、内燃機関2の排気ポート2aに連結されている。エキゾーストマニホールド5の下流側の端部は、排気管6に連結されている。排気管6の途中には、上流側から順に、第1触媒体10と第2触媒体10Rrとが配置されている。ただし、第1触媒体10と第2触媒体10Rrとの配置は任意に可変であってよい。また、第1触媒体10と第2触媒体10Rrとの個数は特に限定されず、それぞれ複数個が設けられてもよい。また、第2触媒体10Rrは必須の構成ではなく、他の実施形態において省略することもできる。また、第2触媒体10Rrの下流側には、第3触媒体が配置されていてもよい。また、第2触媒体10Rrおよび/または第3触媒体は、それぞれ、1つであってもよく、2つ以上であってもよい。
【0045】
第1触媒体10は、上述の排ガス浄化用触媒100を用いた排ガス浄化用触媒体の一例である。第1触媒体10は、例えば、ディーゼル酸化触媒(DOC);NOx吸蔵還元触媒(NSR);排ガスに含まれるHC、CO、NOxを同時に浄化する三元触媒(TWC:Three-Way Catalyst);等でありうる。なお、以下では、第1触媒体10を「排ガス浄化用触媒体」ということがある。第1触媒体(排ガス浄化用触媒体)10の構成については、後に詳述する。
【0046】
第2触媒体10Rrについては従来と同様でよく、特に限定されない。第2触媒体10Rrは、例えば、ディーゼルパティキュレートフィルタ(DPF);SCR触媒;ガソリンパティキュレートフィルタ(GPF);等である。また、第2触媒体10Rrの下流側には、第3触媒体として、SCR触媒;アンモニアスリップ触媒(ASC);上流側から順に並んだ、SCR触媒およびアンモニアスリップ触媒;等を含んでいてもよい。
【0047】
ECU7は、内燃機関2と排ガス浄化装置3とを制御する。ECU7は、内燃機関2と、排ガス浄化装置3の各部位に設置されているセンサ(例えば、圧力センサ8や、温度センサ、酸素センサ等)とに、電気的に接続されている。なお、ECU7の構成については従来と同様でよく、特に限定されない。ECU7は、例えばプロセッサや集積回路である。ECU7は、入力ポート(図示せず)と出力ポート(図示せず)とを備えている。ECU7は、例えば、車両の運転状態や、内燃機関2から排出される排ガスの量、温度、圧力等の情報を受信する。ECU7は、センサで検知された情報(例えば、圧力センサ8で計測された圧力)を、入力ポートを介して受信する。ECU7は、例えば受信した情報に基づいて、出力ポートを介して制御信号を送信する。ECU7は、例えば内燃機関2の燃料噴射制御や点火制御、吸入空気量調節制御等の運転を制御する。ECU7は、例えば内燃機関2の運転状態や内燃機関2から排出される排ガスの量等に基づいて、排ガス浄化装置3の駆動と停止とを制御する。
【0048】
≪排ガス浄化用触媒体10≫
図3は、排ガス浄化用触媒体10を模式的に示す斜視図である。排ガス浄化用触媒体10は、上述の排ガス浄化用触媒100を含む第1触媒体10の一例である。
図3では、相対的に内燃機関2に近い排気経路4の上流側が左側に表され、相対的に内燃機関2から遠い排気経路の下流側が右側に表されている。また、
図3において、符号Xは、排ガス浄化用触媒体10の筒軸方向を表している。排ガス浄化用触媒体10は、筒軸方向Xが排ガスの流動方向に沿うように排気経路4に設置されている。筒軸方向Xは、排ガスの流動方向である。以下では、筒軸方向Xのうち、一の方向X1を上流側(排ガス流入側、フロント側ともいう。)といい、他の方向X2を下流側(排ガス流出側、リア側ともいう。)ということがある。ただし、これは説明の便宜上の方向に過ぎず、排ガス浄化用触媒体10の設置形態を何ら限定するものではない。
【0049】
排ガス浄化用触媒体10は、基材11と、基材11に設けられている触媒層20(
図4参照)と、を備えている。排ガス浄化用触媒体10は、基材11および触媒層20以外の部材を備えていてもよい。排ガス浄化用触媒体10は、例えば触媒層20以外の層をさらに有していてもよい。排ガス浄化用触媒体10の一の方向X1の端部は排ガスの流入口10aであり、他の方向X2の端部は排ガスの流出口10bである。排ガス浄化用触媒体10の外形は、ここでは円筒形状である。ただし、排ガス浄化用触媒体10の外形は特に限定されず、例えば、楕円筒形状、多角筒形状、パイプ状、フォーム状、ペレット形状、繊維状等であってもよい。
【0050】
基材11は、排ガス浄化用触媒体10の骨組みを構成するものである。基材11としては特に限定されず、従来のこの種の用途に用いられる種々の素材および形態のものが使用可能である。基材11は、ここではストレートフロー構造である。ただし、他の実施形態において、基材は、例えばGPFやDPFとして排ガス浄化用触媒体を使用する場合等に、ウォールフロー構造であってもよい。この場合、触媒層は、基材の隔壁の表面上に形成することもできるし、基材の細孔内に形成することもできる。
【0051】
基材11は、例えば、コージェライト、チタン酸アルミニウム、炭化ケイ素等のセラミックスで構成されるセラミックス担体であってもよいし、ステンレス鋼(SUS)、Fe-Cr-Al系合金、Ni-Cr-Al系合金等で構成されるメタル担体であってもよい。
図3に示すように、基材11は、ここではハニカム構造を有している。基材11は、筒軸方向Xに規則的に配列された複数のセル(空洞)12と、複数のセル12を仕切る隔壁(リブ)14と、を備えている。特に限定されるものではないが、基材11の体積(セル12の容積を含んだ見掛けの体積)は、概ね0.1~10L、例えば0.5~5Lであってもよい。また、基材11の筒軸方向Xに沿う平均長さ(全長)Lは、概ね10~500mm、例えば50~300mmであってもよい。
【0052】
セル12は、排ガスの流路となる。セル12は、筒軸方向Xに延びている。セル12は、基材11を筒軸方向Xに貫通する貫通孔である。セル12の形状、大きさ、数等は、例えば、排ガス浄化用触媒体10を流動する排ガスの流量や成分等を考慮して設計すればよい。セル12の筒軸方向Xに直交する断面の形状は特に限定されない。セル12の断面形状は、例えば、正方形、平行四辺形、長方形、台形等の四角形や、その他の多角形(例えば、三角形、六角形、八角形)、波形、円形等種々の幾何学形状であってよい。隔壁14は、セル12に面し、隣り合うセル12の間を区切っている。特に限定されるものではないが、隔壁14の平均厚み(表面に直交する方向の寸法。以下同じ。)は、機械的強度を向上する観点や圧損を低減する観点等から、概ね0.1~10mil(1milは、約25.4μm)、例えば0.2~5milであってもよい。隔壁14は、排ガスが通過可能なように多孔質であってもよい。
【0053】
触媒層20は、排ガス中の有害成分を浄化する反応場である。触媒層20は、多数の細孔(空隙)を有する多孔質体である。排ガス浄化用触媒体10に流入した排ガスは、排ガス浄化用触媒体10の流路内(セル12)を流動している間に触媒層20と接触する。これによって、排ガス中の有害成分が浄化される。
【0054】
図4は、排ガス浄化用触媒体10を筒軸方向Xに沿って切断した断面の一部を模式的に示す部分断面図である。触媒層20は、ここでは基材11の上、具体的には隔壁14の表面に設けられている。ただし、触媒層20は、その一部または全部が、隔壁14の内部に浸透していてもよい。
【0055】
触媒層20は、上述の排ガス浄化用触媒100を含有する。そのため、排ガス浄化用触媒100は、必須の構成成分として、母材30としてのアルミナ粒子32およびジルコニア34を含む。また、排ガス浄化用触媒100は、触媒貴金属40として少なくともPtを含む。排ガス浄化用触媒体10は、典型的には排ガスに含まれるCOおよび/またはHCを酸化して、排ガスを浄化することができる。排ガス浄化用触媒100は、高温に長時間晒された場合でも、従来よりも高いレベルで酸化活性を保つことができる。したがって、排ガス浄化用触媒100は、優れた排ガス浄化性能(例えばCOおよび/またはHCの浄化性能)を発揮できる。
【0056】
Ptに対するジルコニア34のモル比(ジルコニア34/Pt)は、上記した排ガス浄化用触媒100と同様である。基材11の体積1L当たりの触媒貴金属40(特にはPt)のモル量は、例えば排ガス量や用途、触媒貴金属の種類等に応じて適宜決定することができ、特に限定されないが、例えば、0.001モル/L以上、0.002モル/L以上、0.005モル/L以上であって、例えば、0.1モル/L以下、0.05モルg/L以下、0.01モル/L以下であってよい。また、基材11の体積1L当たりのジルコニア34のモル量は、特に限定されないが、例えば、0.01モル/L以上、0.02モルg/L以上、または0.04モルg/L以上であってよく、また、例えば、1モルg/L以下、0.5モル/L以下、または0.2g/L以下であってよい。
【0057】
なお、本明細書において「基材11の体積1L当たり」とは、基材11(排ガス浄化用触媒体10)の純体積にセル通路の容積も含めた全体の嵩容積(見かけ体積)1L当たりをいう。以下の説明において、「モル/L」は、基材の体積1Lに含まれる量(すなわち、モル/L―cat.)を示し、「g/L」は、基材の体積1Lに含まれる量(すなわち、g/L―cat.)を示す。
【0058】
触媒層20は、排ガス浄化用触媒100以外の任意成分を含有していてもよい。任意成分の一例として、(1)OSC材、(2)非OSC材、(3)Pt以外の触媒金属を含むガス浄化用触媒、(4)アルカリ土類元素、(5)その他添加成分、が挙げられる。
【0059】
(1)OSC材は、酸素貯蔵能を有する材料である。触媒層20がOSC材を含有する場合、車両の走行条件等によって排ガスの空燃比が変動したときでも、排ガス浄化用触媒体10は、安定して優れた浄化性能を発揮することができる。OSC材の一例として、セリアを含む複合酸化物、例えば、セリアとジルコニアとを含む複合酸化物(セリア-ジルコニア複合酸化物、いわゆる、CZ複合酸化物またはZC複合酸化物)等が挙げられる。OSC材にジルコニアが含有されている場合には、セリアの熱劣化を抑制できることから、OSC材としては、セリア-ジルコニア複合酸化物が好ましい。
【0060】
OSC材がセリアを含む複合酸化物である場合、その酸素吸蔵能を十分に発揮させる観点から、CZ複合酸化物の全体に占めるセリアの含有率は、好ましくは15質量%以上であり、より好ましくは20質量%以上である。一方、セリアの含有率が高過ぎると、OSC材の塩基性が高くなり過ぎるおそれがある。そのため、セリアの含有率は、好ましくは40質量%以下であり、より好ましくは30質量%以下である。
【0061】
OSC材は、特性(特に耐熱性と酸素吸放出特性等)の向上を目的として、希土類元素の酸化物を含んでいても良い。希土類元素の例としては、Sc、Y、La、Pr、Nd、Pm、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Lu等が挙げられる。希土類元素の酸化物の好適例としては、Pr2O3、Nd2O3、La2O3、Y2O3が挙げられる。
【0062】
基材11の体積1L当たりのOSC材の量は、特に限定されないが、例えば、10g/L以上、25g/L以上、または50g/L以上であってよく、また、例えば、150g/L以下、100g/L以下、または80g/L以下であってよい。
【0063】
(2)非OSC材は、酸素貯蔵能を有しない材料である。非OSC材の一例として、アルミナ、チタニア、ジルコニア、シリカ等の酸化物が挙げられる。非OSC材として用いられる酸化物には、耐熱性等を向上させるために、Pr2O3、Nd2O3、La2O3、Y2O3等の希土類元素の酸化物が、少量(例えば、1質量%以上10質量%以下)添加されていてもよい。耐熱性および耐久性に特に優れることから、非OSC材は、Al2O3が好ましく、La2O3が複合化されたAl2O3(La2O3-Al2O3複合酸化物;LA複合酸化物)であることがより好ましい。
【0064】
基材11の体積1L当たりの非OSC材の量は、特に限定されないが、例えば、10g/L以上、25g/L以上、または50g/L以上であってよく、また、例えば、150g/L以下、100g/L以下、または80g/L以下であってよい。
【0065】
(3)Pt以外の触媒金属を含む排ガス浄化触媒は、任意の排ガス浄化用触媒である。触媒層20では、上述の排ガス浄化用触媒100と、Pt以外の任意の触媒金属を含む排ガス浄化用触媒と、が併用されていてもよい。特に、触媒層20において、上述の排ガス浄化用触媒100と、Pt以外の任意の触媒金属を含む排ガス浄化用触媒とを併用した場合には、排ガス浄化用触媒体10は、排ガスに含まれるCOの浄化性能だけでなく、HCおよび/またはNOxの浄化性能にも優れたものとなりうる。
【0066】
任意の排ガス浄化用触媒において、Pt以外の任意の触媒金属は、典型的には、担体に担持されている。担体の例としては、上記(1)OSC材および/または上記(2)非OSC材が挙げられる。担体は、上述の排ガス浄化用触媒100に用いられる母材30であってもよい。
【0067】
いくつかの実施形態において、任意の触媒金属は、Rhを含まないことが好ましい。いくつかの実施形態において、任意の触媒金属は、Pt以外の触媒貴金属、例えば、Au、Ir、Ru等であってもよい。また、他のいくつかの実施形態において、任意の触媒金属は、アルカリ金属やアルカリ土類金属、遷移金属等、貴金属以外の金属種であってもよい。Pt以外の任意の触媒金属は、排ガスとの接触面積を高める観点から、十分に小さい粒径の微粒子として使用されることが好ましい。触媒金属の平均粒径(具体的には、透過電子顕微鏡(TEM)観察により求められる、50個以上の触媒金属の粒径の平均値)は、概ね1~15nm、例えば10nm以下、さらには5nm以下であるとよい。
【0068】
排ガス浄化用触媒体10における触媒金属の総量(Pt以外の触媒金属を含む場合は、合計量でありうる。)は、高い排ガス浄化性能の観点からは、例えば、0.01g/L以上、0.05g/L以上、0.1g/L以上、0.5g/L以上、1g/L以上であってよい。排ガス浄化性能とコストとのバランスの観点からは、例えば、15g/L以下、10g/L以下、5g/L以下、3g/L以下、1.5g/L以下であってよい。
【0069】
(4)アルカリ土類元素としては、例えば、カルシウム(Ca)やバリウム(Ba)が挙げられる。アルカリ土類元素によって、触媒金属(特に酸化触媒)の被毒を抑制することができる。また、アルカリ土類元素によって、触媒金属の分散性が高められ、触媒金属の粒子成長に伴うシンタリングを抑制することができる。また、触媒層20が、OSC材と共にアルカリ土類元素を含む場合には、理論空燃比よりも燃料が薄いリーン雰囲気(酸素過剰雰囲気)において、OSC材への酸素吸収量をさらに向上させることができる。アルカリ土類元素は、酸化物、水酸化物、炭酸塩、硝酸塩、硫酸塩、リン酸塩、酢酸塩、ギ酸塩、シュウ酸塩、ハロゲン化物等の形態で含有され得る。
【0070】
(5)その他添加成分としては、NOx吸蔵能を有するNOx吸蔵材、安定化剤、バインダ、各種添加剤等が挙げられる。NOx吸蔵材としては、例えば、Ce等の希土類、Mg、Ca、Sr、Ba等のアルカリ土類金属、K、Cs等のアルカリ金属、が挙げられる。安定化剤としては、例えば、イットリウム(Y)、ランタン(La)、ネオジウム(Nd)等の希土類元素が挙げられる。なお、希土類元素は、酸化物の形態で触媒層20に存在しうる。バインダとしては、アルミナゾル、シリカゾル、ベーマイト等が挙げられる。
【0071】
特に限定されるものではないが、触媒層20のコート量(成形量)は、排ガス浄化用触媒体10の体積(基材11の体積)1Lあたり、概ね30g/L以上、典型的には50g/L以上、好ましくは70g/L以上、例えば100g/L以上であってよく、概ね500g/L以下、典型的には400g/L以下、例えば、300g/L以下であってもよい。上記範囲を満たすことにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。なお、本明細書において「コート量」とは、排ガス浄化用触媒体10の単位体積あたりに含まれる固形分の質量をいう。
【0072】
触媒層20の長さや厚みは、例えば、基材11のセル12の大きさや排ガス浄化用触媒体10に流通する排ガスの流量等を考慮して適宜設計することができる。触媒層20は、基材11の隔壁14に連続的に設けられていてもよく、断続的に設けられていてもよい。触媒層20は、例えば、排ガスの流入口10aから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよいし、排ガスの流出口10bから筒軸方向Xに沿って設けられていてもよい。
【0073】
特に限定されるものではないが、触媒層20のコート厚み(平均厚み)は、概ね1~300μm、典型的には5~200μm、例えば10~100μmである。これにより、浄化性能の向上と圧損の低減とを高いレベルで兼ね備えることができる。特に限定されるものではないが、触媒層20の筒軸方向Xの全体のコート幅(平均長さ)は、基材11の全長Lの概ね20%以上、好ましくは50%以上、典型的には80%以上、例えば90%以上であるとよく、基材11の全長Lと同じ長さであってもよい。すなわち、排ガス浄化用触媒100を、触媒層20の一部の領域のみに含有させてもよい。
【0074】
≪第1変形例≫
図5は、第1変形例に係る
図4対応図である。排ガス浄化用触媒体10Aは、触媒層20にかえて触媒層20Aを備えている。触媒層20Aは、相互に構成の異なる部分触媒層が厚み方向に2つ以上積層された積層構造である。具体的には、触媒層20Aは、基材11側に位置する下層部21と、下層部21よりも触媒層20Aの表面側に位置する上層部22とが、厚み方向に積層されて構成されている。ここでは、基材11の表面に接するように下層部21が設けられ、下層部21の上面に接するように上層部22が設けられている。なお、
図5では触媒層20Aが2層構造であるが、触媒層20Aは、3層以上の積層構造を有していてもよい。例えば、触媒層20Aは、下層部21と上層部22との間に中間層を有していてもよいし、触媒層20Aは、上層部22の上にさらに別の層を有していてもよい。
【0075】
積層構造の触媒層20Aでは、一方の部分触媒層が排ガス浄化用触媒100を含有し、それ以外の層(2層構造の場合は、他方の部分触媒層)が、排ガス浄化用触媒100以外の排ガス浄化用触媒を含有していてもよい。一好適例では、下層部21が、排ガス浄化用触媒100を含有している。一方、上層部22は、排ガス浄化用触媒100以外の排ガス浄化用触媒(例えば、上記した任意の排ガス浄化用触媒)を含有している。なお、下層部21および上層部22は、触媒層20と同様に任意成分を含有していてもよい。
【0076】
ディーゼル酸化触媒(DOC)では、下層部21が、排ガスに含まれるNОを浄化する、NOの酸化層として機能しうる。そのため、下層部21は、排ガス浄化用触媒100を含有することが好ましい。下層部21は、さらにアルカリ土類金属を含有していてもよい。一方、上層部22は、排ガスに含まれるHCおよび/またはCOを浄化する、HCおよび/またはCO酸化層として機能しうる。そのため、上層部22に含まれる排ガス浄化用触媒は、触媒金属として、Ptおよび/またはPdを含有することが好ましい。上層部22は、さらにアルカリ土類金属を含有していてもよい。
【0077】
NOx吸蔵還元触媒(NSR)では、酸素過剰の雰囲気(リーン条件下)で、下層部21が、NOxを吸蔵するNOx吸蔵層として機能しうる。そのため、下層部21は、排ガス浄化用触媒100を含有することが好ましい。下層部21は、さらに、その他添加成分として上記したようなNOx吸蔵材を含有することが好ましい。一方、上層部22は、燃料を多めに噴射した時に(リッチ条件下で)、HC、COを還元剤としてNOxを浄化するNOx還元層として機能しうる。そのため、いくつかの実施形態において、上層部22に含まれる排ガス浄化用触媒は、触媒金属として、Rhを含有することが好ましい。また、他のいくつかの実施形態において、上層部22に含まれる排ガス浄化用触媒は、触媒金属として、Ptおよび/またはPdを含有することが好ましい。上層部22は、さらにCe等のNOx吸蔵材を含有することが好ましい。
【0078】
アンモニアスリップ触媒(ASC)では、下層部21が、NH3酸化層として機能しうる。そのため、下層部21は、排ガス浄化用触媒100を含有することが好ましい。一方、上層部22は、SCR(Selective Catalytic Reduction)触媒層として機能しうる。そのため、上層部22に含まれる排ガス浄化用触媒は、SCRの触媒成分として、CuやFeを担持したゼオライト、または、バナジウムやタングステンを含む酸化物、を含有することが好ましい。
【0079】
≪第2変形例≫
図6は、第2変形例に係る
図4対応図である。排ガス浄化用触媒体10Bは、第1変形例の触媒層20にかえて触媒層20Bを備えている。触媒層20Bは、相互に構成の異なる部分触媒層が筒軸方向Xに2つ以上が並んだ構造である。具体的には、触媒層20Bは、排ガスの流動方向において、上流側X1に位置する前段部23と、前段部23よりも下流側X2に位置する後段部24と、を有する。ここでは、排ガスの流入口10aから筒軸方向Xに沿って前段部23が設けられ、排ガスの流出口10bから筒軸方向Xに沿って後段部24が設けられている。
【0080】
なお、
図6では触媒層20Bが、前段部23と後段部24で構成されているが、触媒層20Bは、さらに他の(第3の)触媒層を有していてもよい。また
図6では、前段部23および後段部24は、それぞれ基材11の全長Lの50%に当たる部分に設けられているが、各層の筒軸方向Xの長さは、相互に異なっていてもよい。また
図6では、前段部23および後段部24は、それぞれ同じ厚みで設けられているが、相互に厚みが異なっていてもよい。また
図6では、前段部23および後段部24は、それぞれ基材11の表面に接するように設けられているが、例えば、前段部23の一部が後段部24の上面を覆うように設けられていてもよい。
【0081】
触媒層20Bでは、一方の部分触媒層が排ガス浄化用触媒100を含有し、それ以外の層(2層構造の場合は、他方の部分触媒層)が、排ガス浄化用触媒100以外の排ガス浄化用触媒を含有していてもよい。一好適例では、後段部24が、排ガス浄化用触媒100を含有している。一方、前段部23は、排ガス浄化用触媒100以外の排ガス浄化用触媒(例えば、上記した任意の排ガス浄化用触媒)を含有している。
【0082】
ディーゼル酸化触媒(DOC)では、後段部24が、NOの酸化層として機能しうる。後段部24の構成は、上記した第1変形例の下層部21と同様であって良い。また、前段部23は、HCおよび/またはCOの酸化層として機能しうる。前段部23の構成は、上記した第1変形例の上層部22と同様であって良い。
【0083】
≪第3変形例≫
図7は、第3変形例に係る
図4対応図である。排ガス浄化用触媒体10Cは、第2変形例の触媒層20Bにかえて触媒層20Cを備えている。前段部23および後段部24は、それぞれ、相互に構成の異なる部分触媒層が厚み方向に2つ以上積層された積層構造を有している。ただし、前段部23および/または後段部24は、第2変形例のごとく単層構造であってもよい。また、前段部23および/または後段部24は、3層以上の積層構造であってもよい。前段部23は、ここでは前段下層23dと、前段下層23dの上に形成された前段上層23uと、を備えている。後段部24は、ここでは後段下層24dと、後段下層24dの上に形成された後段上層24uと、を備えている。
【0084】
触媒層20Cでは、1つ以上(例えば1つ)の部分触媒層が排ガス浄化用触媒100を含有し、それ以外の層が、排ガス浄化用触媒100以外の排ガス浄化用触媒を含有していてもよい。一好適例では、後段下層24d(例えば、後段下層24dのみ)が、排ガス浄化用触媒100を含有している。一方、前段下層23d、前段上層23u、および後段上層24uのうち1つ以上は、排ガス浄化用触媒100以外の排ガス浄化用触媒(例えば、上記した任意の排ガス浄化用触媒)を含有している。前段下層23d、前段上層23u、および後段上層24uは、同じ排ガス浄化用触媒を含有していてもよい。
【0085】
アンモニアスリップ触媒(ASC)では、後段下層24dが、NH3酸化層として機能しうる。後段下層24dの構成は、例えば、上記した第1変形例の下層部21と同様であって良い。また、前段下層23d、前段上層23u、および後段上層24uは、SCR触媒層として機能しうる。前段下層23d、前段上層23u、および後段上層24uの構成は、例えば、上記した第1変形例の上層部22と同様であって良い。
【0086】
≪排ガス浄化用触媒体10の用途≫
排ガス浄化用触媒体10は、自動車やトラック等の車両や、自動二輪車や原動機付き自転車をはじめとして、船舶、タンカー、水上バイク、パーソナルウォータークラフト、船外機等のマリン用製品、草刈機、チェーンソー、トリマー等のガーデニング用製品、ゴルフカート、四輪バギー等のレジャー用製品、コージェネレーションシステム等の発電設備、ゴミ焼却炉等の内燃機関から排出される排ガスの浄化に好適に用いることができる。なかでも、自動車等の車両に対して好適に用いることができ、特に、ディーゼルエンジンを備える車両に対して好適に用いることができる。
【0087】
以下、本発明に関する試験例を説明するが、本発明を以下の試験例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0088】
≪試験例I≫
〔母材1~4、6の作製〕
以降の実施例1~4で用いる母材1~4、および比較例2で用いる母材6を、スプレードライ法で作製した。具体的には、まず、ジルコニア前駆体としてのオキシ硝酸ジルコニウムと、アルミナ粉末とを、表1に示す質量割合となるように容器に入れ、純水を加えながら撹拌した。これにより、オキシ硝酸ジルコニウムが溶解し、アルミナ粉末が分散した懸濁液を調製した。なお、母材1では、ランタンを含まないアルミナ粉末を用い、母材2~4では、表1に示す質量割合でランタンを含むアルミナ粉末を用いた。また、アルミナ粉末としては、平均粒径(D50)範囲が27~43μm、細孔容積が0.3~0.55ml/gの粉末を用いた。
【0089】
次いで、この懸濁液を、ノズル型のスプレードライ装置(大川原化工機製のODT-8)を用いて、熱風中に微細化した液滴として噴霧し、瞬時に溶媒を蒸発させることで、アルミナ粉末の表面にオキシ硝酸ジルコニウムが付着した粒子を成形した。なお、スプレードライの条件は、入ガス温度200℃、出ガス温度110℃、ポンプ流量20ccmとした。次いで、得られた粉末を、電気炉にて120℃で8時間乾燥した後、500℃で2時間焼成した。これにより、アルミナ粉末の表面にジルコニアを有する母材1~4、6を得た。
【0090】
〔母材5の用意〕
以降の比較例1で用いる母材5として、表1に示す質量割合となるようにランタンを含むアルミナ粉末を用意した。母材5は、アルミナの表面にジルコニアが被覆されていない母材である。
【0091】
〔母材7の作製〕
以降の比較例3で用いる母材7では、アルミナの表面に共沈でジルコニアを配置した。具体的には、まず、上記と同じオキシ硝酸ジルコニウムとアルミナ粉末を、表1に示す質量割合となるように容器に入れ、純水を加えながら撹拌した。これにより、オキシ硝酸ジルコニウムが溶解し、アルミナ粉末が分散した懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液に対して、懸濁液がアルカリ性になるように、アンモニア水を添加して、共沈を行った。そして、沈殿物を回収し、電気炉にて200℃で2時間乾燥した後、500℃で2時間焼成した。これにより、アルミナ粉末の表面にジルコニアを有する母材7を得た。
【0092】
〔母材8、9の作製〕
以降の比較例4,5で用いる母材8、9は、特許文献2に開示されるような蒸発乾固法で作製した。具体的には、母材8については、まず、市販の硝酪セリウムを純水に溶解後、上記と同じアルミナ粉末を加えて撹拌した。これにより、硝酪セリウムが溶解し、アルミナ粉末が分散した懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液を、電気炉にて120℃で8時間、蒸発乾固させた後、500℃で2時間焼成した。これにより、アルミナ粉末の表面にセリアを有する母材8を得た。
【0093】
母材9については、まず、市販のオキシ硝酸ジルコニウムを純水に溶解後、上記と同じアルミナ粉末を加えて撹拌した。これにより、オキシ硝酸ジルコニウムが溶解し、アルミナ粉末が分散した懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液を、電気炉にて120℃で8時間、蒸発乾固させた後、500℃で2時間焼成した。これにより、アルミナ粉末の表面にジルコニアを有する母材9を得た。
【0094】
〔母材10の作製〕
以降の比較例6で用いる母材10は、特許文献1に開示されるような蒸発乾固法で作製した。具体的には、まず、市販のジルコニアゾル(ZrO2の平均粒径(D50)範囲が60~80nm)を純水で希釈後、上記と同じアルミナ粉末を加えて撹拌した。これにより、ジルコニアゾルおよびアルミナ粉末が分散した懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液を、電気炉にて120℃で8時間乾燥した後、500℃で2時間焼成した。これにより、アルミナ粉末の表面にジルコニアを有する母材10を得た。
【0095】
[XRFによる元素分析]
上記作製した母材1~10に対し、蛍光X線分析装置(XRF、スペクトリス社製のMalvern Panalytical Axios)を用いて、ZrO2、Al2O3、La2O3の組成割合(質量%)を求めた。なお、測定条件は、X線出力:2.4kW、加速電圧:30kV、電流値:80mAとし、FP法により割合を算出した。結果を表1に示す。
【0096】
〔排ガス浄化用触媒(実施例1~4、比較例1~6)の作製〕
母材1~10にそれぞれ触媒貴金属を担持して、排ガス浄化用触媒を作製した。具体的には、まず、表1に示す母材1~10(89.9g)を、それぞれ純水に分散させた後、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液を、表1に示すモル比となるように、Pt換算で1.0g分、添加した。これにより、ジニトロジアンミン白金が溶解し、母材が分散した懸濁液を調製した。次いで、この懸濁液を、電気炉にて乾燥した後、500℃で1時間焼成した。このようにして、母材にPtを担持し、各例の排ガス浄化用触媒を得た。
【0097】
[FIB-SEM観察]
上記作製した排ガス浄化用触媒のうち、実施例1~4、比較例2、3,6について、集束イオンビーム走査型電子顕微鏡(FIB-SEM:JEOL製のJXA-8530F)で観察した。測定条件は、加速電圧:7kVまたは3kV、電流値:0.4nA、WD:4mmとした。一例として、実施例2と比較例6の排ガス浄化用触媒のFIB-SEM観察画像(測定倍率300,000倍)を、
図8A、
図8Bにそれぞれ示す。
【0098】
例えば
図8Aに示すように、母材の作製時(ジルコニアの被覆時)にスプレードライ法を採用した実施例1~4、比較例2では、測定倍率300,000倍で観察した場合に、アルミナ粒子の表面に微細なジルコニアが配置されているのが確認できた。一方、例えば
図8Bに示すように、従来法である共沈や蒸発乾固法を採用した比較例3,6では、アルミナ粒子の表面に粗大なジルコニアが配置され、微細なジルコニアが殆ど見られなかった。
【0099】
次いで、測定倍率300,000倍のSEM観察画像において、任意に6個以上のジルコニアを選択し、その円相当径(すなわち、ヘイウッド径)を求めた。そして、円相当径の平均値(すなわち、ジルコニアの平均粒径の値)を算出した。結果を表1に示す。なお、比較例2は、SEMではジルコニアを粒子として検出できず、平均粒径の算出が困難だった。この理由として、アルミナ粒子の表面に微細なジルコニアが分散しているジルコニアの量が少ないために、検出できなかったことが考えられる。したがって、比較例2の円相当径は、検出限界以下(1nm以下)と推定された。
【0100】
[FE-EPMAによるライン分析]
上記作製した排ガス浄化用触媒のうち、ジルコニアを含む実施例1~4、比較例2、3,5,6について、電解放出型電子プローブマイクロアナライザ(FE-EPMA、FEI製のHelios G4UX)を用いて、Zrの定量ライン分析を行った。具体的には、まず、アルミナ粒子を断面出しして測定試料を作製した。次いで、FE-EPMAを用い、「Al Level」のIntensityの上限を3000に設定して、Alのマッピング像を取得した。そして、AlのIntensityが500以上の領域を、排ガス浄化用触媒の粒子が存在する領域とした。
【0101】
次いで、「Zr Level」のIntensityの上限を300に設定して、ZrのIntensityが30以上を検出範囲に設定した。次いで、排ガス浄化用触媒の粒子が存在する領域に対し、粒子の直径でZrの定量ライン分析を行った。一例として、実施例2の排ガス浄化用触媒のライン分析のチャートを
図9に示す。そして、このようなチャートで、Al強度の閾値を500として粒子の直径を算出し、1/2して、半径(表面から中心まで)とした。次に、Zr強度の閾値を30として、粒子の表面を0%、中心を100%としたときのZrの位置を調べ、粒子の表面から何%の位置にZr強度のピークトップがあるかを求めた。結果を表1に示す。なお、比較例2は、ジルコニアの添加量が少なかったため、Zr levelのIntensityが小さすぎて、ピークトップが判別できなかった。また、共沈で作製した比較例3は、粗大なジルコニアが生成されているために、アルミナ粒子の位置の範囲外にジルコニアのピークトップ位置が現れてしまい、アルミナ粒子の位置に対するZrのピークトップ位置を算出できなかった。
【0102】
〔排ガス浄化用触媒体(実施例1~4、比較例1~6)の作製〕
上記作製した排ガス浄化用触媒を用いて、排ガス浄化用触媒体を作製した。具体的には、まず、基材として、コージェライト製のハニカム基材(全長:2.5cm、直径Φ:3cm、体積:0.0176L、隔壁厚み:6mil、セル数:400cpsi)を用意した。
【0103】
次いで、各例につき、上記作製した排ガス浄化用触媒50gと、バインダとしてのベーマイト6gとを、純水100g中に添加して撹拌し、触媒層形成用のスラリーを調製した。このスラリーを、ウォッシュコート法により基材上に塗布した。なお、各例につき、スラリーのコート量は98g/Lとし、Ptは1.0g/Lとし、母材(アルミナ粉末とジルコニアの合計)は89.8g/Lとし、バインダは7.2g/Lとした。なお、表1には、モル換算の含有量(g/L)およびモル比(ジルコニア/Pt)を併記している。次いで、スラリーが付着した基材を、電気炉内にて乾燥後、500℃で1時間焼成した。このようにして、基材上に、排ガス浄化用触媒を含有する触媒層を設け、各例の排ガス浄化用触媒体を得た。
【0104】
[耐久性評価(CO-T50の測定)]
まず、各例の排ガス浄化用触媒体(体積0.018L)を、チャンバー型電気炉内に設置し、大気雰囲気下にて750℃で50時間熱処理し、耐久処理した。次いで、耐久処理後の排ガス浄化用触媒体を、活性評価装置にセットした。そして、装置内に以下の成分を含むモデルガスを14.8L/minの流速で流しながら、100℃から500℃まで20℃/minの昇温速度で昇温した。この昇温時に、COの浄化率が50%に到達する温度(CO50%浄化温度:CO-T50)を測定した。結果を表1および
図10に示す。
<モデルガスの成分>
CO 800ppm
C
3H
6 3000ppmC
NO 200ppm
O
2 8%
CO
2 7%
H
2O 7%
【0105】
【0106】
表1および
図10に示すように、モル比(ジルコニア/Pt)が8未満である比較例2は、ジルコニアが被覆されていない比較例1と、50時間耐久処理した後のCO50%浄化温度が略同じであり、ジルコニアを被覆した効果が認められなかった。また、比較例3は、ジルコニアが被覆されていない比較例1よりもCO50%浄化温度が悪かった。この理由としては、ジルコニアの粒径が大きいために、アルミナとの接点が少なく、アルミナ酸性質の変化が小さかったことや、凝集したジルコニアに担持されたPt(活性低いPt)の割合が増えたこと等が考えられる。
【0107】
また、特許文献2に係る比較例5および、特許文献1に係る比較例6は、ジルコニアが被覆されていない比較例1とCO50%浄化温度が略同じで、ジルコニアを被覆した効果が十分発揮されていなかった。この理由としては、オキシ硝酸ジルコニウムを蒸発乾固法で付着させた場合、アルミナ粒子の表面と内部の全体にジルコニアが配置されるため、アルミナ粒子の表面に配置されるジルコニアの量が少なくなり、ガス接触確率の高い粒子表面で酸性質の変化が少なかったことが考えられる。また、ジルコニアゾルを蒸発乾固した場合、表面に配置されるジルコニアが少ないことに加えて、表面に配置されるジルコニアの粒径が大きくなったために、粒子表面でのアルミナ粒子との接点が少なくなり、ガス接触確率の高い粒子表面の酸性質の変化が少なかったことが考えられる。
【0108】
また、特許文献2に係る比較例4でも、ジルコニアが被覆されていない比較例1よりもCO50%浄化温度が悪かった。このことから、添加元素がセリアであっても、比較例5,6と同様の理由で、効果が十分発揮されなかったことが考えられる。
【0109】
これら比較例1~6に対して、平均粒径が従来よりも微細な50nm以下のジルコニアを、モル比(ジルコニア/Pt)が8以上となるように含ませた実施例1~4では、CO50%浄化温度が明確に向上していた。とりわけ、ジルコニアの平均粒径が40nm以下の実施例1~3、さらには、ジルコニアの平均粒径が25nm以下の実施例1,2では、CO50%浄化温度が顕著に向上していた。これらの結果は、ここに開示される技術の意義を示すものである。
【0110】
≪試験例II≫
〔排ガス浄化用触媒体(実施例5~7、比較例7~9)の作製〕
実施例5,6および比較例7,8では、触媒貴金属として、Ptに加えてPdを使用した。すなわち、実施例5,6および比較例7,8では、表1に示す母材2,5(89.9g)を、それぞれ純水に分散させた後、ジニトロジアンミン白金(II)硝酸溶液を、Pt換算で1.0g分、添加し、さらに、硝酸パラジウム溶液を、Pd換算で0.2g分あるいは0.5g分、添加した。このこと以外は上記試験例Iと同様に、排ガス浄化用触媒と、それを用いた排ガス浄化用触媒体を作製し、評価を行った。CO50%浄化温度の評価結果を表2および
図11に示す。
【0111】
【0112】
表2および
図11に示すように、実施例5,6は、比較例7,8のCO50%浄化温度をもれなく上回っていた。したがって、触媒貴金属として、Ptに加えてPdを使用した場合でも、ここに開示される技術の効果が適切に発揮されることがわかった。また詳細は省略するが、触媒貴金属として、PtにかえてPdのみを使用した場合は、CO50%浄化温度の改善幅が相対的に小さくとどまった。したがって、ここに開示される技術の効果は、触媒貴金属が少なくともPtを含む場合に、とりわけ顕著に発揮されることがわかった。
【0113】
以上、本発明のいくつかの実施形態について説明したが、上記実施形態は一例に過ぎない。本発明は、種々の形態にて実施することができる。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。請求の範囲に記載の技術には、上記に例示した実施形態を様々に変形、変更したものが含まれる。
【符号の説明】
【0114】
1 排ガス浄化システム
2 内燃機関
3 排ガス浄化装置
10 第1触媒体(排ガス浄化用触媒体)
11 基材
20 触媒層
30 母材
32 アルミナ粒子
34 ジルコニア
40 触媒貴金属
100 排ガス浄化用触媒
【要約】
【課題】高温に長時間晒された場合の酸化活性が向上した排ガス浄化用触媒を提供する。
【解決手段】ここに開示される排ガス浄化用触媒は、アルミナ粒子32と、アルミナ粒子32の表面の少なくとも一部を被覆するジルコニア34と、を含む母材30と、母材30に担持され、少なくともPtを含有する触媒貴金属40と、を含む。集束イオンビーム走査型電子顕微鏡によって求まるジルコニア34の平均粒径は、50nm以下である。Ptに対するジルコニア34のモル比(ZrO
2/Pt)は、8以上である。
【選択図】
図1