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▶ オリンパステルモバイオマテリアル株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】骨プレート
(51)【国際特許分類】
   A61B 17/80 20060101AFI20240213BHJP
【FI】
A61B17/80
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2022530459
(86)(22)【出願日】2020-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2020023035
(87)【国際公開番号】W WO2021250853
(87)【国際公開日】2021-12-16
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】304050912
【氏名又は名称】オリンパステルモバイオマテリアル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100118913
【弁理士】
【氏名又は名称】上田 邦生
(74)【代理人】
【識別番号】100142789
【弁理士】
【氏名又は名称】柳 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100201466
【弁理士】
【氏名又は名称】竹内 邦彦
(72)【発明者】
【氏名】横山 靖治
(72)【発明者】
【氏名】岩永 宗久
【審査官】鈴木 敏史
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0209194(US,A1)
【文献】国際公開第2017/195307(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/208318(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 17/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
骨端部の側面が骨幹部の側面に対して突出する脛骨の側面に適用され、骨固定具によって前記脛骨の前記側面に固定される、脛骨顆外反骨切り術用の骨プレートであって、
前記骨幹部の前記側面に配置される本体部であって、前記骨固定具が挿入される少なくとも1つの貫通孔を有する長尺の帯板状の本体部と、
前記骨端部の前記側面に配置される横行部であって、前記本体部の一端側に配置され、前記骨固定具が挿入される少なくとも1つの貫通孔を有する横行部と、
前記横行部と前記本体部とを連結する連結部とを備え、
前記本体部が、前記横行部に対して、前記本体部の長手軸に平行な軸線回りにねじれ、
前記骨プレートは、前記本体部の短手方向に見たときに、前記連結部が前記本体部の長手方向に対して傾斜し前記本体部および前記横行部が前記骨プレートの板厚方向に相互にオフセットするクランク形状に湾曲し、前記脛骨の前記側面の形態に適合する形状を有し、
前記本体部に対する前記横行部の前記軸線回りのねじれ角度が、8°~30°であり、
前記本体部と前記横行部との間の前記板厚方向のオフセット量が、9mm±3mmである、骨プレート。
【請求項2】
前記横行部が、前記本体部に対して前記脛骨の後側に対応する方向に向かって、前記本体部の長手方向に交差する方向に延び、該長手方向に交差する方向に湾曲し、
前記横行部の短手方向に見たときに、前記横行部の前記脛骨の側面側に配置される下面が、20mmの曲率半径および40mmの曲率半径を有し前記横行部の長手方向の両端を通過する2つの円弧の間を通過する請求項1に記載の骨プレート。
【請求項3】
前記横行部の短手軸に沿う前記骨プレートの縦断面において、前記横行部の短手軸と前記連結部の長手軸との間の角度が155°±10°であり、前記連結部の長手軸と前記本体部の長手軸との間の角度が160°±10°であり、前記本体部の最近位の貫通孔の中心と前記横行部の最遠位の貫通孔の中心との間の前記連結部に沿う方向の長さが38.5mm±5mmである請求項1または請求項に記載の骨プレート。
【請求項4】
前記横行部の短手方向に見たときに、前記横行部の全ての前記貫通孔の中心軸が、相互に異なる方向を向いている請求項から請求項のいずれかに記載の骨プレート。
【請求項5】
前記横行部が、同一直線上に並ばない3つの前記貫通孔を有し、
該3つの貫通孔の中心軸は、該3つの貫通孔を通る3つの前記骨固定具が前記骨端部の内部で相互に接触するように、相互に傾斜する請求項から請求項のいずれかに記載の骨プレート。
【請求項6】
前記横行部が、該横行部の長手方向に配列する2以上の前記貫通孔を有し、
該2以上の貫通孔の中心軸が、前記骨固定具の挿入方向に向かって前記骨端部の前側に対応する側にそれぞれ傾斜するとともに、前記骨固定具の挿入方向に向かって前記脛骨の遠位側に対応する側に相互に同一の角度で傾斜する請求項から請求項のいずれかに記載の骨プレート。
【請求項7】
前記横行部が、前記骨端部の前側に対応する側から前記骨端部の後側に対応する側に向かって順に、横行部の長手方向に配列する第1の貫通孔、第2の貫通孔および第3の貫通孔を有し、
前記第1の貫通孔の中心軸が、該第1の貫通孔における下面の接平面の法線に対して23°±5°だけ傾斜し、
前記第2の貫通孔の中心軸が、該第2の貫通孔における下面の接平面の法線に対して8.5°±5°だけ傾斜し、
前記第3の貫通孔の中心軸が、該第3の貫通孔における下面の接平面の法線に対して9.5°±5°だけ傾斜する、請求項から請求項のいずれかに記載の骨プレート。
【請求項8】
前記本体部の最も前記横行部側の前記貫通孔と、前記横行部の最も前記本体部側の前記貫通孔との間の間隙が、28.5mm~45.0mmである請求項1から請求項のいずれかに記載の骨プレート。
【請求項9】
前記骨プレートが、前記脛骨の側面側に配置される下面と、前記下面と対向し前記脛骨の側面とは反対側に配置される上面とを有し、
前記本体部および前記横行部の少なくとも1つの前記貫通孔の中心軸が、該少なくとも1つの貫通孔における前記上面の接平面の法線に対して傾斜し、
前記上面が、前記少なくとも1つの貫通孔の周囲に設けられた隆起部を有し、
該隆起部は、前記中心軸と前記接平面とが成す角度が鈍角である側に設けられる、請求項1から請求項のいずれかに記載の骨プレート。
【請求項10】
前記少なくとも1つの貫通孔の中心軸が、前記法線に対して5°~25°だけ傾斜し、
前記貫通孔に配置される前記骨固定具の頭部の外径が、4.5mm~8mmであり、
前記法線に交差する方向における前記隆起部の最大幅が、12mm以下であり、
前記隆起部の周囲の上面からの前記隆起部の最大突出量が、1.2mm以下である、請求項に記載の骨プレート。
【請求項11】
前記本体部の幅が、11mm~18mmであり、
前記横行部の幅が、20mm~40mm、好ましくは25mm~35mmであり、
前記連結部の幅が、12mm~25mmであり、
前記骨プレートの厚さが、3mm±1mmであり、
前記骨プレートが、前記横行部の短手軸に沿う前記骨プレートの縦断面において下記条件を満たす形状を有する請求項から請求項10のいずかに記載の骨プレート。
33.5mm≦L2≦43.5mm
54mm≦L1+L2≦64mm
104mm≦L1+L2+L3≦135mm
ただし、
L1は、前記横行部の近位端と前記横行部の最遠位の貫通孔の中心軸との間の長さ、
L2は、前記横行部の最遠位の貫通孔の中心軸と前記本体部の最近位の貫通孔の中心軸との間の長さ、
L3は、前記本体部の最近位の貫通孔の中心軸と前記本体部の遠位端との間の長さである。
【請求項12】
前記横行部の全ての前記貫通孔が、前記本体部の長手軸に対して前記脛骨の後側に対応する側に配置され、
前記本体部の長手軸に沿う方向に見たときに、前記本体部の少なくとも2つの前記貫通孔の中心軸の延長線と、前記横行部の全ての前記貫通孔の中心軸の延長線とが、前記本体部の短手方向において前記骨プレートの両端の間で交差する、請求項から請求項11のいずれかに記載の骨プレート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、骨プレートに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、整形外科用の骨プレートが知られている(例えば、特許文献1~3参照。)。
特許文献1および2には、変形性膝関節症の治療法の1つである高位脛骨骨切り術(HTO)用の骨プレートが開示されている。HTOにおいて、脛骨の内側から外側に向かって切り込みが形成され、切り込みを開大することによって、内反膝の荷重線を内側から外側へシフトさせるように脛骨が矯正される。骨癒合までの期間、矯正された脛骨は骨プレートおよび骨スクリュによって固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5505767号公報
【文献】特許第4322039号公報
【文献】特許第6250836号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
膝の関節面Bが、図12Aに示されるようなPagoda型である場合、HTOによって荷重線を移動させるのみでは膝の動揺性が改善しないことがある。つまり、膝の関節面Bの内側と外側の両方を同時に大腿骨の関節面に接触させることができず、内側および外側のいずれかにおいて関節面間に隙間が生じてしまう。
このような症例に対する治療法として、脛骨顆外反骨切り術(TCVO)が提案されている。図12Bに示されるように、TCVOにおいて、内側の骨端部が関節面までL字型に骨切りされ、骨切り部の開大によって内側および外側の両方の関節面Bが大腿骨の関節面に接触させられる。
【0005】
HTOの場合、脛骨Aの外側面の近傍のヒンジ部を中心に骨端部を骨幹部に対して回転させて骨切り部を開大させる。一方、TCVOの場合、関節面Bの中央を中心に内側の骨端部を骨幹部に対して持ち上げながら回転させて骨切り部を開大させる。そのため、TCVOの場合、HTOと比較して、骨端部の内側面が、骨幹部の内側面に対して内側に大きく出っ張る。
【0006】
このように、HTOとTCVOとでは、骨切り部を開大した後の脛骨Aの形態が異なるため、HTO用の骨プレートはTCVOには不向きである。具体的には、HTO用の骨プレートは、骨端部の内側面と骨幹部の内側面との間の段差に対応することができず、骨表面から浮いてしまう。骨プレートが脛骨Aの周辺組織へ与える影響を低減するために、骨表面からの骨プレートの浮きは無いか、または少ないことが好ましい。
【0007】
本発明は、上述した事情に鑑みてなされたものであって、骨端部の側面が骨幹部の側面に対して突出する脛骨の側面に好適に使用することができる骨プレートを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するため、本発明は以下の手段を提供する。
本発明の一態様は、骨端部の側面が骨幹部の側面に対して突出する脛骨の側面に適用され、骨固定具によって前記脛骨の前記側面に固定される骨プレートであって、前記骨幹部の前記側面に配置される本体部であって、前記骨固定具が挿入される少なくとも1つの貫通孔を有する長尺の帯板状の本体部と、前記骨端部の前記側面に配置される横行部であって、前記本体部の一端側に配置され、前記骨固定具が挿入される少なくとも1つの貫通孔を有する横行部と、前記横行部と前記本体部とを連結する連結部とを備え、前記本体部が、前記横行部に対して、前記本体部の長手軸に平行な軸線回りにねじれ、前記骨プレートは、前記本体部の短手方向に見たときに、前記連結部が前記本体部の長手方向に対して傾斜し前記本体部および前記横行部が前記骨プレートの板厚方向に相互にオフセットするクランク形状に湾曲し、前記脛骨の前記側面の形態に適合する形状を有する、骨プレートである。
【0009】
本態様の骨プレートは、横行部が本体部に対して板厚方向にオフセットするクランク形状である。したがって、本体部に対する横行部のオフセット方向が骨幹部の側面に対する骨端部の側面の突出方向に一致するように骨プレートを脛骨の側面に配置することによって、骨プレートの形状を脛骨の側面の形態に適合させることができる。すなわち、本体部および横行部を骨幹部の側面および骨端部の側面にそれぞれ同時に配置することができ、骨端部の側面が骨幹部の側面に対して突出する脛骨の側面に好適に使用することができる。また、本体部が、横行部に対してねじれているので、骨幹部の側面が、骨端部の側面に対して前側または後側にオフセットしねじれた位置に配置されている場合に、本体部および横行部を骨幹部の側面および骨端部の側面にそれぞれ適切に配置することができる。
【0010】
上記態様において、前記本体部に対する前記横行部の前記軸線回りのねじれ角度が、8°~30°であってもよい。
上記態様において、前記本体部と前記横行部との間の前記板厚方向のオフセット量が、9mm±3mmであってもよい。
【0011】
上記態様において、前記横行部が、前記本体部に対して前記脛骨の後側に対応する方向に向かって、前記本体部の長手方向に交差する方向に延びていてもよい。
この構成によれば、骨端部の側面が、骨幹部の側面に対して後側にオフセットしている場合に、本体部および横行部を骨幹部の側面および骨端部の側面にそれぞれより適切に配置することができる。この構成において、前記横行部の短手方向に見たときに、前記横行部の前記脛骨の側面側に配置される下面が、20mmの曲率半径および40mmの曲率半径を有し前記横行部の長手方向の両端を通過する2つの円弧の間を通過していてもよい。
【0012】
上記態様において、前記横行部の短手軸に沿う前記骨プレートの縦断面において、前記横行部の短手軸と前記連結部の長手軸との間の角度が155°±10°であり、前記連結部の長手軸と前記本体部の長手軸との間の角度が160°±10°であり、前記本体部の最近位の貫通孔の中心と前記横行部の最遠位の貫通孔の中心との間の前記連結部に沿う方向の長さが38.5mm±5mmであってもよい。
この構成によれば、本体部と横行部との間の適切なオフセット量、例えば9mm±3mmのオフセット量を実現することができる。
【0013】
上記態様において、前記横行部の短手方向に見たときに、前記横行部の全ての前記貫通孔の中心軸が、相互に異なる方向を向いていてもよい。
骨端部の側面に対する横行部の位置に応じて、貫通孔を通って骨端部に挿入される骨固定具の向きが異なる。横行部の全ての貫通孔の中心軸の方向が相互に異なることによって、骨端部の側面から十分な深さまでより確実に骨固定具を挿入することができる。
【0014】
上記態様において、前記横行部が、同一直線上に並ばない3つの前記貫通孔を有し、該3つの貫通孔の中心軸は、該3つの貫通孔を通る3つの前記骨固定具が前記骨端部の内部で相互に接触するように、相互に傾斜していてもよい。
先端部において相互に接触する3本の骨スクリュは、立体トラス構造を構成し、一体となって荷重を受ける。このような立体トラス構造の骨スクリュは、3本の骨スクリュが相互に独立に荷重を受ける場合と比較して、より大きな荷重に耐えることができる。
【0015】
上記態様において、前記横行部が、該横行部の長手方向に配列する2以上の前記貫通孔を有し、該2以上の貫通孔の中心軸が、前記骨固定具の挿入方向に向かって前記骨端部の前側に対応する側に傾斜していてもよい。
横行部は、骨端部の側面に対して前側寄りに配置されやすい。横行部の貫通孔が前側に傾斜していることによって、横行部が骨端部の側面に対して前側寄りに配置された場合においても、長い骨固定具を、骨端部の表面から突出させることなく骨端部に挿入することができる。
【0016】
上記態様において、前記横行部が、該横行部の長手方向に配列する2以上の前記貫通孔を有し、該2以上の貫通孔の中心軸が、前記骨固定具の挿入方向に向かって前記脛骨の遠位側に対応する側に相互に同一の角度で傾斜していてもよい。
横行部が骨端部の側面に対して遠位側寄りに配置された場合と近位側寄りに配置された場合とで、骨端部への骨固定具の挿入方向が大きく異なる。貫通孔の中心軸が遠位側に同一角度で傾斜していることによって、骨固定具の先端部が関節面と干渉することを防止することができる。この構成において、横行部の近位端と、横行部と連結部との境界とを結ぶ線分に対して、前記2以上の貫通孔の中心軸が77°±5°の傾斜角度で傾斜することが好ましい。
【0017】
上記態様において、前記本体部の最も前記横行部側の前記貫通孔と、前記横行部の最も前記本体部側の前記貫通孔との間の間隙が、28.5mm~45.0mmであってもよい。
本体部の最も横行部側の貫通孔および横行部の最も本体部側の貫通孔に挿入された骨固定具はそれぞれ、骨切り面の近傍を通る。前記間隙が28.5mm以上であることによって、骨固定具が骨切り面と干渉することを防ぐことができる。また、前記間隙が45.0mm以下であることによって、骨固定具が骨切り面から過度に離間することを防ぐことができる。
【0018】
上記態様において、前記骨プレートが、前記脛骨の前記側面側に配置される下面と、前記下面と対向し前記脛骨の前記側面とは反対側に配置される上面とを有し、前記本体部および前記横行部の少なくとも1つの前記貫通孔の中心軸が、該少なくとも1つの貫通孔における前記上面の接平面の法線に対して傾斜し、前記上面が、前記少なくとも1つの貫通孔の周囲に設けられた隆起部を有し、該隆起部は、前記中心軸と前記接平面とが成す角度が鈍角である側に設けられていてもよい。
隆起部が設けられていない場合、接平面の法線に対して中心軸が傾斜する貫通孔内の頭部の角部は、鈍角側において上面から突出する。隆起部を設けることによって、貫通孔内の頭部の鈍角側が隆起部によって覆われるので、上面からの頭部の角部の突出を防止することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、骨端部の側面が骨幹部の側面に対して突出する脛骨の側面に好適に使用することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1A】本発明の一実施形態に係る骨プレートの正面図である。
図1B図1Aの骨プレートの背面図である。
図1C図1Aの骨プレートの平面図である。
図1D図1Aの骨プレートの底面図である。
図1E図1Aの骨プレートの右側面図である。
図1F図1Aの骨プレートの左側面図である。
図2A】本発明の一実施形態に係る骨固定具の正面図である。
図2B図2Aの骨固定具のII-II線における縦断面図である。
図3A】使用状態の骨プレートおよび骨固定具を脛骨の前側から見た図である。
図3B】使用状態の骨プレートを脛骨の内側から見た図である。
図3C】骨プレートの使用状態における脛骨を関節面側から見た図であり、脛骨に対する本体部および横行部の位置関係を説明する図である。
図4】骨プレートの設計値を説明する右側面図である。
図5A】骨プレートの本体部と横行部との間のオフセット量を説明する図であり、図1Aの骨プレートのI-I線における縦断面図である。
図5B】骨プレートの設計値を説明する図であり、図1Aの骨プレートのI-I線における縦断面図である。
図5C】骨プレートの他の設計値を説明する図であり、図1Aの骨プレートのI-I線における縦断面図である。
図6】横行部の貫通孔の中心軸の方向を説明する、骨プレートの右側面図である。
図7】脛骨に対する骨プレートの配置を説明する図である。
図8A】横行部の貫通孔の中心軸の方向および横行部の貫通孔内に挿入された骨固定具の位置関係を説明する底面図である。
図8B図8Aの骨プレートおよび骨固定具の背面図である。
図9】脛骨に対する骨プレートの配置を説明する他の図である。
図10A】横行部の拡大正面図である。
図10B】横行部の拡大底面図である。
図11A】隆起部を有する横行部の部分縦断面図である。
図11B】隆起部を有しない横行部の部分縦断面図である。
図12A】HTOを説明する図である。
図12B】TCVOを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の一実施形態に係る骨プレート1および骨プレートシステムについて図面を参照して説明する。
図1Aから図1Fは、骨プレート1を示し、図2Aおよび図2Bは、骨プレート1の貫通孔6a~6d,7a~7d内に挿入され骨プレート1を脛骨Aに固定するための骨固定具2を示し、図3Aおよび図3Bは、骨プレート1および骨固定具2の使用状態の一例を示している。図1Aから図3Bに示されるように、骨プレートシステムは、骨プレート1と、複数本の骨固定具2とを備える。
【0022】
骨プレートシステムは、骨幹部Dの側面に対して骨端部Cの側面が突出する脛骨Aの側面に適用される。本実施形態において、骨プレートシステムを脛骨Aの内側の骨端部CをL字形に骨切りする脛骨顆外反骨切り術(TCVO)に使用する場合について説明する。
図3Aおよび図3Bに示されるように、TCVOにおいて、脛骨Aの内側の骨端部Cを内側面から関節面BまでL字形に骨切りし、内側の骨端部Cの骨片C1を離断する。次に、骨片C1を持ち上げながら回転させることによって骨切り部Eを開大し、外側の関節面Bを大腿骨の外側の関節面に接触させる。必要に応じて、開大された骨切り部Eに人工骨を挿入する。次に、骨プレート1を脛骨Aの内側面上に配置し、骨プレート1を骨固定具2によって骨端部Cおよび骨幹部Dに固定する。
【0023】
このように、TCVOでは、離断された骨片C1を、関節面Bの略中央を中心に回転させることによって持ち上げる。そのため、HTOと比較して、骨片C1が骨幹部Dに対して内側に大きく突き出す。また、関節面Bの形状の個人差に応じて、内側の関節面Bが大腿骨の関節面と適合するように骨片C1の位置を矯正するため、骨片C1は、前側に持ち上がったり、または、後側に持ち上がったりする。また、関節面Bにおいて骨片C1と外側の骨端部C2との間に隙間が空くこともある。
このように、HTOとは異なり、TCVOの矯正後の骨形態は、正常な膝の骨形態と大きく相違する。
【0024】
図1Aから図1Fに示されるように、骨プレート1は、長尺の帯板状の本体部3と、本体部3の一端側に配置された横行部4と、本体部3と横行部4との間で延び本体部3と横行部4とを連結する帯板状の連結部5とを備える。横行部4は、本体部3の長手方向に交差する方向に延び本体部3よりも短尺の帯板状である。したがって、骨プレート1は、本体部3の板厚方向に見た正面視において、略L字型または略T字型の板状の部材である。また、骨プレート1は、板厚方向に相互に対向する上面1aおよび下面1bを有する。
【0025】
骨プレート1は、脛骨Aの近位側、遠位側、前側、後側、内側および外側にそれぞれ対応する近位側、遠位側、前側、後側、上側および下側を有する。参照する図面の骨プレート1は、左脚の脛骨A用である。横行部4は本体部3の近位側に配置され、上面1aおよび下面1bは、上側および下側にそれぞれ配置される。骨プレート1は、下面1bが脛骨Aの表面と接するように、脛骨Aの内側面上に配置される。
【0026】
骨プレート1の一設計例において、本体部3の幅は11mm~18mmであり、横行部4の幅は20mm~40mm、好ましくは25mm~35mmであり、連結部5の幅は12mm~25mmである。骨プレート1の厚さは、骨プレート1の高い強度と薄さとを両立するために、3mm±1mmであることが好ましい。幅は、本体部3の短手方向における寸法である。
【0027】
本体部3は、相互に間隔を空けて配列し本体部3を板厚方向に貫通する複数の貫通孔6a~6dを有する。横行部4は、相互に間隔を空けて配列し横行部4を板厚方向に貫通する複数の貫通孔7a~7dを有する。連結部5は、本体部3との境界部および横行部4との境界部を除き、骨固定具2用の貫通孔を有しない。図示する例において、本体部3は、本体部3の長手方向に配列する4つの貫通孔6a,6b,6c,6dを有し、横行部4は、2列に配列する4つの貫通孔7a,7b,7c,7dを有する。
本体部3および横行部4の貫通孔の数はそれぞれ、1つ、2つ、3つ、または5つ以上であってもよい。また、横行部4の複数の貫通孔は、横行部4の長手方向に1列にのみ配列していてもよい。
【0028】
図3Aおよび図3Bに示されるように、本体部3は、骨幹部Dの内側面に骨幹部Dの長手方向に沿って配置され、複数本の骨固定具2によって骨幹部Dに固定される。横行部4は、骨片C1の内側面に骨端部Cの前後方向に沿って配置され、複数本の骨固定具2によって骨端部Cに固定される。連結部5は、開大された骨切り部Eに配置される。
横行部4と連結部5との間の境界付近は、骨片C1の遠位端の角に位置する。骨片の遠位端の角を受け入れるために、横行部4と連結部5との間の境界部は、上側に膨らんでいてもよい。
【0029】
図1Eおよび図1Fに示されるように、骨プレート1は、近位端から遠位端までの全長にわたって幅方向(本体部3の短手方向)に湾曲し、下面1bは、脛骨Aの凸表面に沿う凹面になっている。横行部4の下面1bを骨片C1の内側面によりぴったりと合致させるため、図4に示されるように、近位側から横行部4の短手軸に沿う方向に骨プレート1を見た側面視において、横行部4の下面1bは、2つの円弧Q1,Q2の間を通過することが好ましい。円弧Q1,Q2は、横行部4の前側および後側の両端を通過し、円弧Q1の曲率半径は20mmであり、円弧Q2の曲率半径は40mmである。
【0030】
骨固定具2は、棒状の部材であり、例えば、骨スクリュまたは骨ピンである。図2Aに示されるように、骨固定具2は、貫通孔6a~6d,7a~7d内を経由して脛骨内に挿入される棒状の軸部2aと、軸部2aの基端に固定され軸部2aよりも大径の頭部2bとを有する。
図2Bに示されるように、骨固定具2は、軸部2aの長手軸に沿って骨固定具2を貫通する中空部2cを有していてもよい。
【0031】
頭部2bの外周面には雄ねじが設けられている。雄ねじが貫通孔6a~6d,7a~7dの内周面に形成された雌ねじと締結することによって、軸部2aは貫通孔6a~6d,7a~7dと同軸に配置される。骨固定具2が骨スクリュである場合、軸部2aの外周面の少なくとも一部にも雄ねじが設けられる。
【0032】
TCVOにおいて、骨片C1は骨幹部Dおよび外側の骨端部C2から完全に離断されるので、骨片C1は、骨幹部Dと連続する外側の骨端部C2に骨固定具2によってしっかりと固定される必要がある。さらに、骨片C1と外側の骨端部C2との間に空隙があくことがある。
したがって、横行部4の固定には、骨幹部Dの外側面または外側面の近傍まで到達することができる長い軸部2aを有する骨固定具2が使用される。
【0033】
TCVOにおいて、骨固定具2の他にワイヤ等の棒状部材も使用される。各貫通孔6a~6d,7a~7dは、骨固定具2以外の棒状部材が挿入されてもよい。貫通孔6a~6d,7a~7dの用途に応じて、貫通孔6a~6dの一部および貫通孔7a~7dの一部は、雌ねじを有していなくてもよい。
【0034】
連結部5は、近位側から遠位側に向かって、本体部3の長手軸に平行な軸線回りに前側にねじれ、本体部3が、横行部4に対して前側にねじれた位置に配置される。図3Bおよび図3Cに示されるように、骨切り部Eを開大した状態において、骨幹部Dの内側面は、骨片C1の内側面に対して前側にオフセットする。本体部3が横行部4に対して前側にねじれていることによって、本体部3および横行部4を骨幹部Dの内側面および骨片C1の内側面にそれぞれ適切に配置することができる。
【0035】
図1Eに示されるように、横行部4の短手軸に沿う方向に見た側面視において、骨幹部Dの骨形態の個人差を考慮し、平面P1と平面P2とが成す角度γは8°~30°であることが好ましい。角度γは、本体部3と横行部4との間のねじれ角度に相当する。平面P1は、横行部4の短手軸に平行であり本体部3の下面1bの前側および後側の両端と接する平面であり、平面P2は、横行部4の短手軸に平行であり、横行部4の下面1bの前側および後側の両端と接する平面である。
【0036】
図1Cおよび図1Dに示されるように、骨プレート1を本体部3の短手方向に見た平面視または底面視において、本体部3および横行部4は、相互に平行または略平行であり、連結部5は、本体部3の長手方向に対して、近位側から遠位側に向かって下側に傾斜している。このような連結部5によって、骨プレート1は、本体部3および横行部4が板厚方向に平行な方向に相互にオフセットするクランク形状に湾曲し、特に、横行部4が本体部3に対して上側にオフセットしている。
【0037】
図5Aは、横行部4の短手軸に沿う骨プレート1の縦断面である。図5Aに示されるように、本体部3と横行部4との間のオフセット量Δは、9mm±3mmであることが好ましく、9mm±1mmであることがより好ましい。オフセット量Δは、本体部3の長手軸に直交する方向の2つの交点Pi,Pj間の距離である。交点Piは、本体部3の最近位の貫通孔6aの中心軸と下面1bとの交点であり、交点Pjは、横行部4の最近位の貫通孔7aの中心軸と下面1bとの交点である。
【0038】
図5Bおよび図5Cは、図5Aと同じく、横行部4の短手軸に沿う骨プレート1の縦断面であり、本体部3と横行部4との間のオフセット量Δが適切になるための骨プレート1の設計例を示している。
図5Bの縦断面において、角度αは155°±10°であり、角度βは160°±10°である。より好ましくは、角度αは160°±5°、角度βは165°±5°である。
角度αは、横行部4の短手軸と連結部5の長手軸とが成す角度であり、角度βは、連結部5の長手軸と本体部3の長手軸とが成す角度である。
【0039】
また、図5Cの縦断面において、長さL2は38.5mm±5mmであり、長さL1および長さL2の合計は59mm±5mmであり、長さL1、長さL2および長さL3の合計は104mm~135mmである。長さL1は、横行部4の近位端と、横行部4の最遠位の貫通孔7dの中心軸との間の長さである。長さL2は、横行部4の最遠位の貫通孔7dの中心軸と本体部3の最近位の貫通孔6aの中心軸との間の長さである。長さL3は、本体部3の最近位の貫通孔6aの中心軸と本体部3の遠位端との間の長さである。
【0040】
次に、骨プレート1および骨プレートシステムの作用について説明する。
骨プレートシステムを用いてTCVOを行うためには、内側の骨端部CをL字状に骨切りし、内側の骨端部Cの骨片C1を関節面Bの略中央を中心に持ち上げながら回転させることによって骨片C1と骨幹部Dとの間の骨切り部Eを開大する。必要に応じて、開大された骨切り部Eに人工骨を挿入する。
次に、開大された骨切り部Eを跨いで骨プレート1を脛骨Aの内側面に配置し、貫通孔7a~7dを経由して骨固定具2を骨端部Cに挿入することによって横行部4を骨端部Cに固定し、貫通孔6a~6dを経由して骨固定具2を骨幹部Dに挿入することによって本体部3を骨幹部Dに固定する。
【0041】
骨切り部Eが開大された状態において、脛骨Aの内側面は、骨片C1の内側面が骨幹部Dの内側面に対して内側に大きく突出した形態を有する。本実施形態の骨プレート1は、骨幹部Dに対する骨片C1の突出方向に対応する方向に横行部4が本体部3に対してオフセットするクランク形状を有し、骨切り部Eが開大された状態での脛骨Aの内側面の形態に適合する形状を有する。したがって、骨プレート1をTCVOに好適に使用することができる。具体的には、本体部3および横行部4が骨幹部Dの内側面および骨端部Cの内側面にそれぞれ接触するように骨プレート1を脛骨Aに配置することができ、骨表面からの骨プレート1の浮きを防止することができる。
特に、脛骨Aの内側を覆う軟組織は薄いため、脛骨Aの表面から浮いた骨プレートは、膝の内側の皮膚の突っ張り等の原因になる。本実施形態によれば、脛骨Aの表面からの骨プレートの浮きに因る軟組織への影響を防止することができる。
【0042】
本実施形態において、横行部4の貫通孔7a~7dは、横行部4の短手軸に沿う方向において少なくとも2列に配列することが好ましい。参照する図面において、近位側の1列目に3つの貫通孔7a~7cが配置され、遠位側の2列目に1つの貫通孔7dが配置されている。1列目の貫通孔7a~7cは等間隔で配列することが好ましい。
このように、貫通孔7a~7dを2列に配列することによって、近位側に大きく持ち上げられた骨片C1を縦方向に2列の骨固定具2によってより安定的に固定することができる。
【0043】
骨切り部Eの近傍に骨固定具2を挿入することがあるため、横行部4の2列目の貫通孔7dは、横行部4と連結部5との間の境界または境界に近い位置に設けられていることが好ましく、本体部3の最も近位側の貫通孔6aは、連結部5と本体部3との間の境界または境界に近い位置に設けられていることが好ましい。
また、軸部2aが骨切り面と干渉することを防ぐため、1列目の貫通孔7a,7b,7cを通る骨固定具2と2列目の貫通孔7dを通る骨固定具2との間の下面1bにおける最短距離は、3mm~15mmであることが好ましい。また、2列目の貫通孔7dと本体部3の最も近位側の貫通孔6aとの間の間隙は、28.5mm~45.0mmであることが好ましい。前記間隙は、貫通孔6aの近位縁と貫通孔7dの遠位縁との間の距離であって、貫通孔7dを通る骨固定具2の首下と貫通孔6aを通る骨固定具2の首下との間の最短距離に相当する。また、軸部2aの外径は、強度の観点から4.4mm~6.5mmであることが好ましい。
【0044】
本実施形態において、図1Aに示されるように、正面視において、骨プレート1は、横行部4が連結部5および本体部3に対して後側に延びる略L字型であることが好ましい。略L字型の骨プレート1において、横行部4の全ての貫通孔7a~7dが、図1Aにおいて二点鎖線で示される本体部3の長手軸よりも後側に配置されることが好ましい。また、本体部3の長手軸に沿う方向に見たときに、本体部3の貫通孔6a~6dの内の少なくとも2つの中心軸の延長線が、横行部4の全ての貫通孔7a~7dの中心軸の延長線と、本体部3の短手方向において骨プレート1の前側および後側の両端の間で交差することが好ましい。
【0045】
図3Bおよび図3Cに示されるように、骨端部Cの内側面は、骨幹部Dの内側面に対して後側にオフセットする。略L字型の骨プレート1によれば、略T字型の骨プレート1と比較して、本体部3および横行部4を骨幹部Dの内側面および骨端部Cの内側面にそれぞれより容易に配置することができる。また、このような配置によって、長い軸部2aを有する骨固定具2の骨端部Cおよび骨幹部Dの各々への適切な挿入が容易になる。
【0046】
略L字型の骨プレート1の正面視において、本体部3の長手軸と連結部5の長手軸とが相互に角度を成し、連結部5の長手軸と横行部4の短手軸とが相互に角度を成していてもよい。図1Aの例において、連結部5は、横行部4の短手軸に対して、近位側から遠位側に向かって前側に傾斜し、本体部3の長手軸と連結部5の長手軸との間の角度は約165°である。
【0047】
略L字型の骨プレート1の横行部4において、2列目の貫通孔7dは、1列目の前側の2つの貫通孔7a,7bの間に配置されることが好ましい。
骨プレート1の強度を向上するために横行部4の幅および厚さを増大した場合、骨端部Cの周囲の軟部組織に負担がかかる。2列目の貫通孔7dを横行部4の幅方向の中央付近に設ける場合、軟部組織の負担を考慮し、貫通孔7dは、前側の2つの貫通孔7a,7bの間に位置することが好ましい。
【0048】
本実施形態において、図6に示されるように、近位側から横行部4の短手軸に沿う方向に見た側面視において、横行部4の全ての貫通孔7a~7dの中心軸の方向が相互に異なることが好ましい。図6において、実線が貫通孔7a~7dの中心軸を表す。
【0049】
具体的には、1列目の中央の貫通孔(第2の貫通孔)7bの中心軸は、貫通孔7bにおける下面1bの接平面の法線に対して、上面1aから下面1bに向かって前側に傾斜し、好ましくは、法線に対して8.5°±5°だけ傾斜する。1列の前側の貫通孔(第1の貫通孔)7aの中心軸は、貫通孔7aにおける下面1bの接平面の法線に対して上面1aから下面1bに向かって前側に傾斜し、好ましくは、法線に対して23°±5°だけ傾斜する。1列目の後側の貫通孔(第3の貫通孔)7cの中心軸は、貫通孔7cにおける下面1bの接平面の法線に対して上面1aから下面1bに向かって後側に傾斜し、好ましくは、法線に対して9.5°±5°だけ傾斜する。2列目の貫通孔7dは、貫通孔7dにおける下面1bの接平面の法線に対して上面1aから下面1bに向かって前側に傾斜し、好ましくは、法線に対して5°±5°だけ傾斜する。
図6において、一点鎖線は、貫通孔7a,7b,7cの各々における下面1bの接平面の法線を表す。
【0050】
TCVOにおいて皮切の位置が膝の前側に偏り易く、そのため、図7の左図に示されるように、骨プレート1は、脛骨Aの前側寄りに配置されることが多い。上記のように横行部4の貫通孔7a~7dの中心軸が骨固定具2の挿入方向に向かって全体的に前側に傾斜していることによって、骨プレート1が脛骨Aに前側寄りに配置された場合においても、長い軸部2aを骨端部Cの表面から突出させることなく骨端部Cに適切に挿入することができる。また、図7の右図に示されるように、骨プレート1が脛骨Aに後側寄りに配置される場合においても、長い軸部2aを骨端部Cの表面から突出させることなく挿入することができる。
【0051】
また、1列目の貫通孔7a,7b,7cの中心軸が、下側に向かうにつれて相互に近接する方向に前後方向に相互に傾斜していることが好ましい。好ましくは、貫通孔7a,7b,7cの中心軸は、中央の貫通孔7bを通る骨固定具2の軸部2aが下面1bから80mm~120mm離間した位置で前側および後側の貫通孔7a,7cを通る骨固定具2の軸部2aと接触するような角度で相互に傾斜する。
この構成において、貫通孔7a,7b,7cを通る3本の骨固定具2の軸部2aは、骨端部C内において相互に収束する。これにより、図7の左図および右図に示されるように、骨プレート1が脛骨Aに対して前側または後側に寄った位置に配置される場合においても、長い軸部2aを骨表面から突出させることなく骨端部Cの外側面まで、または外側面の近傍まで挿入することができる。
【0052】
貫通孔7a,7b,7cの中心軸の向きが相互に異なる場合、中空部2cを有する骨固定具2を使用することが好ましい。
貫通孔7a~7dの中心軸の向きが相互に異なる場合、術者は、骨固定具2の骨端部Cへの挿入方向を正確にイメージし難いことがある。中空部2cを有する骨固定具2は、骨固定具2の脛骨Aへの挿入をガイドするワイヤと組み合わせて使用することができる。すなわち、脛骨AのX線画像を観察しながらワイヤを骨片C1および外側の骨端部C2に内側から外側へ挿入し、その後、ガイドワイヤに沿って骨固定具2を骨片C1および外側の骨端部C2に挿入する。これにより、各骨固定具2を骨端部Cに所望の方向に挿入することができる。
【0053】
さらに、近位側から横行部4の短手軸に沿う方向に見た側面視において、本体部3の貫通孔6a~6dの内、少なくとも1つの中心軸の方向が、横行部4の全ての貫通孔7a~7dの方向と異なっていることが好ましい。具体的には、図6に示されるように、貫通孔6a~6dの内、少なくとも1つの中心軸は、貫通孔7c,7dよりも大きい傾斜角度で、下側に向かって後側に傾斜していることが好ましい。
この構成によれば、骨端部Cに対して前側にオフセットした骨幹部Dにより適切に軸部2aを挿入することができる。
【0054】
本実施形態において、図8Aおよび図8Bに示されるように、幅方向に見た平面視または底面視において、横行部4の同一直線上に並ばない3つの貫通孔の中心軸が、下側に向かうにつれて相互に近接する方向に相互に傾斜していることが好ましい。
具体的には、2列目の貫通孔7dを通る骨固定具2の軸部2aの先端部が、1列目の3つの貫通孔7a,7b,7cの内の2つを通る骨固定具2の軸部2aの先端部と接触するように、好ましくは、後側および中央の貫通孔7c,7bを通る骨固定具2の軸部2aの先端部と接触するように、貫通孔7a~7dの中心軸の方向が設計されている。
3本の軸部2aの先端部は、外側の骨端部C2の内部において相互に接触することが好ましい。具体的には、図8Aに示されるように、貫通孔7dを通る骨固定具2の軸部2aが、下面1bから50mm~80mmだけ離れた位置において他の2本の軸部2aと接触することが好ましい。
【0055】
この構成によれば、一点で相互に接触する3本の骨固定具2が、立体トラス構造を構成する。これにより、3本の骨固定具2が相互に独立に荷重を受ける場合と比較して、耐荷重性を向上することができる。さらに、軸部2aの少なくとも先端部に雄ねじが設けられている場合には、接触位置において雄ねじが相互に噛み合うことによって、立体トラス構造がより安定する。
立体トラス構造の耐荷重は、軸部2aの外径に依存する。脛骨Aが受ける荷重を考慮し、立体トラス構造の耐荷重性を確保するために、軸部2aの外径は4.4mm~6.5mmであることが好ましい。
【0056】
図8Aおよび図8Bに示されるように、平面視または底面視において、横行部4の長手方向に一列に配列する3つの貫通孔7a,7b,7cの中心軸は、近位側または遠位側に相互に同一の傾斜角度で傾斜し、1列目の3つの貫通孔7a,7b,7cを通る3本の骨固定具2は、同一平面上に配置されることが好ましい。
1列目の貫通孔7a,7b,7cが近位側または遠位側に相互に異なる傾斜角度で傾斜している場合、一列目の3本の骨固定具2は、関節面Bに対して相互に異なる挿入角度で骨端部Cに挿入される。したがって、挿入角度に応じて軸部2aの長さが異なる骨固定具2の使用が必要となる可能性がある。3つの貫通孔7a,7b,7cの中心軸が相互に同一の傾斜角度で傾斜している場合、軸部2aの長さが同一である骨固定具2を使用することができる。
【0057】
この場合、同一平面上の3つの骨固定具2が骨プレート1の近位端よりも遠位側に配置されるように、3つの貫通孔7a,7b,7cの中心軸は、上面1aから下面1bに向かって遠位側に傾斜することが好ましい。好ましくは、図8Aに示されるように、3つの貫通孔7a,7b,7cの中心軸は、横行部4の中央における上面1aの接平面の法線に対して、角度ε=5°±3°だけ遠位側に傾斜する。また、好ましくは、平面視または底面視において、貫通孔7a,7b,7cの中心軸は、横行部4の近位端と、横行部4と連結部5との間の境界と、を結ぶ線分(太い破線参照。)に対してδ=77°±5°だけ傾斜する。
【0058】
図9に示されるように、脛骨Aに対する骨プレート1の配置に応じて脛骨Aに対する骨固定具2の挿入方向が異なる。また、外側の関節面Bに対して内側の関節面Bが高くなることが多い。貫通孔7a,7b,7cの中心軸が遠位側に傾斜していることによって、脛骨Aに対する骨プレート1の配置に関わらず、骨端部C内に挿入された骨固定具2が関節面Bと干渉することを防ぐことができる。
【0059】
一方、横行部4が、内側の関節面B付近に存在する骨棘(図示略)と干渉することを避けるため、関節面Bから遠位側にずれた位置に横行部4は配置される。したがって、1列目の3本の骨固定具2は、遠位側に過度に傾斜していることは好ましくなく、可能な限り関節面Bに平行に挿入されることが好ましい。そのため、前述のように、3本の貫通孔7a,7b,7cの傾斜角度εは5°±3°であり、傾斜角度δは77°±5°であることが好ましい。
【0060】
本実施形態において、図10Aおよび図10Bに示されるように、横行部4の貫通孔7a,7c,7d内の頭部2bの一部が上面1aから突出することを防止するため、貫通孔7a,7c,7dの周囲に隆起部8が設けられていてもよい。隆起部8は、隆起部8の周囲の上面1aに対して上側に盛り上がり局所的に厚さが増した部分である。
図11Aおよび図11Bはそれぞれ、隆起部8を有する横行部4および隆起部を有しない横行部4の、2列目の貫通孔7dの中心軸に沿う部分断面図である。貫通孔7dの中心軸は、貫通孔7dの位置における湾曲した上面1aまたは下面1bの接平面の法線に対して上面1aから下面1bに向かって遠位側に傾斜する。一設計例において、法線に対する貫通孔7dの中心軸の傾斜角度は、20°±5°である。
【0061】
図11Bに示されるように、貫通孔7dの周囲に隆起部8が設けられていない場合、貫通孔7dの中心軸と上面1aまたは上記接平面とが成す角度が鈍角である鈍角側において頭部2bの角部が上面1aから突出する。上面1aから突出する頭部2bは、周辺組織と接触する可能性が有るため、頭部2bは滑らかな上面1aよりも突出しないことが好ましい。貫通孔7a,7cについても同様である。
【0062】
隆起部8は、貫通孔7a,7c,7dの各々の鈍角側に設けられ、各貫通孔7a,7c,7dの各々の鋭角側には設けられない。具体的には、隆起部8は、1列目の前側の貫通孔7aの前側、1列目の後側の貫通孔7cの後側、2列目の貫通孔7dの遠位側に設けられている。図11Aに示されるように、隆起部8によって、上面1aと貫通孔7a,7c,7d内の頭部2bの頂面との間の段差が解消される。
このように、貫通孔7a,7c,7dの周囲に頭部2bの鈍角側を覆う隆起部8を設けることによって、上面1aから頭部2bの角部が突出することを防ぐことができる。
本体部3の上面1a上の貫通孔6a~6dの周囲および横行部4の上面1a上の貫通孔7bの周囲にも、必要に応じて隆起部8が設けられてもよい。
【0063】
上面1aからの頭部2bの突出を防ぐ他の手段として、頭部2bを受け入れる座繰り穴を上面1aに設ける方法がある。頭部2bと骨プレート1との間の締結長さを確保しながら座繰り穴を設ける場合、貫通孔付近の骨プレート1の厚さを増大する必要がある。また、骨プレート1の曲率が大きい場合や、上面1aの法線に対して貫通孔の中心軸が大きく傾斜している場合には、座繰り穴をより深くする必要があり、骨プレート1の厚さの増大を招く。骨プレート1が周辺組織に与える影響を低減するために、骨プレート1はより薄いことが好ましい。
【0064】
上記隆起部8によれば、横行部4の全体の厚さを増大することなく上面1aからの頭部2bの突出を防止することができ、薄い骨プレート1を容易に実現することができる。また、隆起部8の貫通孔7a、7cまたは7d側の面にも雌ねじを設けることによって、頭部2bと骨プレート1との間の締結長さを確保することができ、骨固定具2と骨プレート1との間の固定力を高めることができる。
【0065】
一構成例において、各貫通孔7a,7c,7dの中心軸の対応する法線に対する傾斜角度は5°~25°であり、頭部2bの外径は4.5mm~8mmであり、隆起部8を除く部分の骨プレート1の厚さは3mm±1mmであり、法線に交差する方向における隆起部8の最大幅は12mm以下であり、隆起部8の上面1aからの最大突出量は1.2mm以下である。
【0066】
隆起部8を有する締結構造は、骨プレート1の他に、スクリュの頭部を収容する貫通孔を有する任意の部材に設けることができる。つまり、部材の上面から下面まで貫通孔が貫通し、貫通孔の中心軸が、貫通孔における湾曲した上面の接平面の法線に対して傾斜している場合、上面上の貫通孔の周辺領域の内、鈍角側の領域に隆起部8が設けられる。スクリュは、上面側から下面側に向かって貫通孔に挿入され、頭部の雄ねじが貫通孔の雌ねじと締結される。
【0067】
本実施形態において、骨プレートシステムをTCVOに使用する場合について説明したが、骨プレートシステムの用途はこれに限定されるものではなく、骨端部の側面が骨幹部の側面に対して突出する脛骨の任意の治療に使用することができる。したがって、骨プレート1は、脛骨Aの内側面以外の部位に適用されてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 骨プレート
1a 上面
1b 下面
2 骨固定具
2a 軸部
2b 頭部
2c 中空部
3 本体部
4 横行部
5 連結部
6a,6b,6c,6d,7a,7b,7c,7d 貫通孔
8 隆起部
A 脛骨
B 関節面
C 骨端部
C1 骨片
C2 外側の骨端部
D 骨幹部
E 骨切り部
図1A
図1B
図1C
図1D
図1E
図1F
図2A
図2B
図3A
図3B
図3C
図4
図5A
図5B
図5C
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10A
図10B
図11A
図11B
図12A
図12B