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特許7434597透明圧電積層フィルムおよびタッチパネル
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】透明圧電積層フィルムおよびタッチパネル
(51)【国際特許分類】
   G06F 3/041 20060101AFI20240213BHJP
   B32B 27/30 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G06F3/041 600
G06F3/041 495
G06F3/041 490
B32B27/30 A
B32B27/30 D
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022559017
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038365
(87)【国際公開番号】W WO2022091827
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-03-06
(31)【優先権主張番号】P 2020183101
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
(72)【発明者】
【氏名】玉村 涼介
(72)【発明者】
【氏名】山口 慧
【審査官】岩橋 龍太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-211482(JP,A)
【文献】特開2010-108490(JP,A)
【文献】特開2017-215319(JP,A)
【文献】特開2013-162050(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041-3/047
B32B 1/00-43/00
H10N 30/00-39/00
C09J 7/00-7/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製の透明圧電フィルムと、0.20μm以上の厚みを有する透明コーティング層と、透明粘着剤層とがこの順で重ねられて構成されており、
85℃85%RHの環境下に300時間放置されたときのΔEが4.0以下である、透明圧電積層フィルム。
【請求項2】
フッ素樹脂製の透明圧電フィルムと、0.20μm以上の厚みを有し、(メタ)アクリル酸エステル樹脂製である透明コーティング層と、透明粘着剤層とがこの順で重ねられて構成されている、透明圧電積層フィルム。
【請求項3】
85℃85%RHの環境下に300時間放置されたときのΔEが4.0以下である、請求項2に記載の透明圧電積層フィルム。
【請求項4】
前記透明コーティング層の厚みは、4.0μm以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の透明圧電積層フィルム。
【請求項5】
前記透明粘着剤層は、アクリル樹脂系粘着剤を含有する、請求項1~のいずれか一項に記載の透明圧電積層フィルム。
【請求項6】
前記透明コーティング層および前記透明粘着剤層は、前記透明圧電フィルムの両面側のそれぞれに配置されている、請求項1~5のいずれか一項に記載の透明圧電積層フィルム。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか一項に記載の透明圧電積層フィルムを有する、タッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は透明圧電積層フィルムおよびタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
透明圧電積層フィルムは、圧力に応じて電気を発生するとともに圧力が印加された位置を特定可能であることから、タッチパネルの感圧センサに利用することができる。
【0003】
このような透明圧電積層フィルムには、フッ素樹脂であるフッ化ビニリデン-四フッ化エチレン共重合体を有する透明圧電積層シートが知られている(例えば、特許文献1参照)。また、当該透明圧電積層フィルムについて、透明圧電積層フィルムにおいて層間の接着に使用可能な、特定の酸化防止剤を含有するアクリル系の光学用粘着シートが知られている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-108490号公報
【文献】特開2011-168688号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明圧電フィルムは、通常、透明圧電積層フィルムにおいて、上記のような透明な光学用粘着シートを用いて他の層に接着されて用いられる。また、透明圧電積層フィルムの光学的特性は実質的に一定であることが好ましい。しかしながらフッ素樹脂製の透明圧電フィルムを上記のような粘着シートと貼り合わせると、当該透明圧電フィルムが継時的に黄色く発色することがある。特に、高温高湿環境下では、上記透明圧電フィルムの変色はより顕著である。このように、従来の技術では、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムの変色を防止する観点から検討の余地が残されている。
【0006】
本発明の一態様は、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムを有する透明圧電積層フィルムにおける透明圧電フィルムの変色防止を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る透明圧電積層フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムと、0.20μm以上の厚みを有する透明コーティング層と、透明粘着剤層とがこの順で重ねられて構成されている。
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係るタッチパネルは、上記の透明圧電積層フィルムを有する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の一態様によれば、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムを有する透明圧電積層フィルムにおける透明圧電フィルムの変色を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】本発明の一実施形態に係る透明圧電積層フィルムの層構成を模式的に示す図である。
図2】本発明の他の実施形態に係る透明圧電積層フィルムの層構成を模式的に示す図である。
図3】本発明の一実施形態に係るタッチパネルの層構成を模式的に示す図である。
図4】本発明の実施例および比較例の透明圧電積層フィルムのそれぞれを高湿熱環境に置いた時のΔE値を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
〔構成〕
本発明の一実施形態に係る透明圧電積層フィルムは、透明圧電フィルムと、透明コーティング層と、透明粘着剤層とがこの順で重ねられて構成されている。本実施形態において、「この順で重ねられている」とは、上記のフィルムおよび層を含む積層物において、当該フィルムおよび層が列挙された順番で配置されている状態を意味する。上記のフィルムおよび層は、本実施形態の効果を奏する範囲において、互いに接して重ねられていてもよいし、他のフィルムまたは層を介して重ねられていてもよい。
【0011】
[透明圧電フィルム]
本実施形態における透明圧電フィルムは、フッ素樹脂製である。本実施形態において「フッ素樹脂製」とは、透明圧電フィルムを構成する組成物においてフッ素樹脂が主成分であることを意味し、「フッ素樹脂が主成分である」とは、当該組成物においてフッ素樹脂が樹脂成分中で最多の成分であることを意味する。当該組成物におけるフッ素樹脂の含有量は、51質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0012】
また、「圧電フィルム」とは、圧電性を有するフィルムを意味する。また、本実施形態において、「透明」とは、透明圧電積層フィルムの用途に応じた所望の割合以上に可視光線を透過する光学的特性を意味する。
【0013】
本実施形態におけるフッ素樹脂は、圧電フィルムに使用可能ないかなるフッ素樹脂であってもよく、一種でもそれ以上でもよい。当該フッ素樹脂の例には、フッ化ビニリデン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂およびこれらの混合物が含まれる。
【0014】
フッ化ビニリデン樹脂の例には、フッ化ビニリデンの単独重合体、およびその共重合体が含まれる。フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン以外の単量体に由来する構成単位の含有量は、透明圧電積層フィルムの用途に応じた特性を発現可能な範囲で適宜に決めてよい。
【0015】
フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン以外の単量体の例には、炭化水素系単量体およびフッ素化合物が含まれる。当該炭化水素系単量体の例には、エチレンおよびプロピレンが含まれる。当該フッ素化合物は、フッ化ビニリデン以外のフッ素化合物であって、重合性の構造を有するフッ素化合物である。当該フッ素化合物の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルが含まれる。
【0016】
テトラフルオロエチレン樹脂の例には、テトラフルオロエチレンの単独重合体およびその共重合体が含まれる。当該共重合体の構造単位を構成するテトラフルオロエチレン以外の単量体の例には、エチレン、フルオロプロピレン、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロジオキシソールが含まれる。
【0017】
本実施形態における透明圧電フィルムは、本実施形態の効果が得られる範囲において種々の添加剤を含んでもよい。当該添加剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、可塑剤、滑剤、架橋剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、安定剤、抗酸化剤、界面活性剤および顔料が含まれる。
【0018】
本実施形態における透明圧電フィルムの厚みは、透明圧電積層フィルムの用途に応じて、本実施形態の効果が得られる範囲から適宜に決めることができる。透明圧電フィルムの厚みは、薄すぎると機械的強度が不十分となることがあり、厚すぎると効果が頭打ちになり、あるいは透明性が不十分になり、光学用途で使用することが難しくなることがある。
【0019】
透明圧電フィルムの厚みは、圧電性および機械的強度を十分に発現させる観点から、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、透明圧電フィルムの厚みは、透明性および圧電性を十分に発現させる観点から、200μm以下であることが好ましく、120μm以下であることがより好ましく、80μm以下であることがさらに好ましい。
【0020】
本実施形態における透明圧電フィルムの圧電特性は、透明圧電積層フィルムの用途に応じて、本実施形態の効果が得られる範囲から適宜に決めることができる。圧電特性が低すぎると圧電材料としての機能が不十分となることがある。十分な圧電特性を発現させる観点から、例えば透明圧電積層フィルムがタッチパネルである場合では、透明圧電フィルムの圧電特性は、圧電定数d33で6pC/N以上であることが好ましく、10pC/N以上であることがより好ましく、12pC/N以上であることがさらに好ましい。当該圧電特性の上限は限定されないが、上記の場合であれば、所期の効果が十分に得られる観点から、圧電定数d33で30pC/N以下であればよい。
【0021】
本実施形態における透明圧電フィルムは、例えば実施例に記載されているように、フッ素樹脂シートの延伸と分極処理によって製造することが可能である。当該製造において、前述した厚みになるように十分に薄くすることが、透明圧電フィルムの透明性を高める観点から好ましい。また、当該製造においてロール延伸する場合では、鏡面加工されたロールを用いる、あるいは、保護フィルムを用いること(例えば特開2019-67908号公報参照)が、透明圧電フィルムの表面における傷つきを防止し、透明圧電フィルムの透明性を高める観点から好ましい。
【0022】
[透明コーティング層]
本実施形態における透明コーティング層は、透明圧電フィルムと透明粘着剤層との間に位置する。透明コーティング層は、透明であり、また透明圧電フィルムの光学的な特性に実質的な影響を及ぼさない不活性さを有する層であればよい。透明コーティング層は、透明圧電フィルムの一表面側のみに配置されてもよいし、両面側に配置されてもよい。透明コーティング層を透明圧電フィルムの両面に形成する場合では、二つの透明コーティング層は、同じ組成、厚みおよび物性を有していてもよいし、異なる組成、厚みおよび物性を有していてもよい。透明コーティング層を透明圧電フィルムの両面に形成する場合では、後述する透明コーティング層の好ましい構成を、少なくとも一方の透明コーティング層が有していることが好ましく、両方の透明コーティング層が有していることがより好ましい。透明コーティング層は、前述した透明圧電フィルムの発色を防止する観点から、透明圧電積層フィルムの厚み方向において透明圧電フィルムに隣接して配置されていることが好ましい。
【0023】
本実施形態における透明コーティング層の厚みは、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができる。透明コーティング層が薄すぎると、透明コーティング層が透明圧電フィルムの表面を十分に覆うことができないことがあり、透明コーティング層から透明圧電フィルムが露出する部分が形成されることがある。透明コーティング層が厚すぎると、透明圧電積層フィルムの圧電性が不十分になることがある。
【0024】
透明コーティング層の厚みは、透明圧電フィルムの表面を十分に被覆する観点から、0.20μm以上であることが好ましく、0.25μm以上であることがより好ましく、0.30μm以上であることがさらに好ましい。また、透明コーティング層の厚みは、透明圧電フィルムの圧電特性を十分に反映させる観点から、4.0μm以下であることが好ましく、3.5μm以下であることがより好ましく、3.0μm以下であることがさらに好ましい。
【0025】
透明コーティング層は、いわゆるハードコート層とも呼ばれる、傷つき防止のための透明な表面保護層であってよい。透明コーティング層の材料は、前述の透明性と透明圧電フィルムに対する上記の不活性さとを有する範囲において、圧電フィルムに使用可能なあらゆる材料の中から選ぶことが可能である。当該材料は、無機材料でも有機材料でもよいし、一種でもそれ以上でもよい。また、当該コーティング層の材料は、ハードコート層の材料であってもよい。当該材料の例には、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、シラン化合物および金属酸化物が含まれる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の総称であり、これらの一方または両方を意味する。
【0026】
透明コーティング層の材料が(メタ)アクリル酸エステル樹脂であること、すなわち透明コーティング層が(メタ)アクリル酸エステル樹脂製であること、は、十分な透明性および透明圧電フィルムの十分なバリア機能を発現する観点、ならびに材料の種類の豊富さおよび原料価格の低さの観点から好ましい。透明コーティング層の材料は、透明コーティング層を構成するのに必要な他の材料を含んでいてよい。(メタ)アクリル酸エステル樹脂製透明コーティング層の材料であれば、一般に、開始剤、オリゴマー、モノマーおよびその他の成分が混合してなる組成物が使用され得る。この場合、透明コーティング層の物性は、主に、オリゴマーおよびモノマーによって決まる。当該オリゴマーの例には、単官能または多官能の(メタ)アクリルレートが含まれる。上記モノマーの例には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0027】
透明コーティング層は、本実施形態における効果が発現される範囲において種々の機能を有していてもよい。透明コーティング層の材料は、他の成分として、任意の機能を発現させるための材料をさらに含んでいてもよい。このような材料の例には、透明コーティング層の屈折率を制御するための光学調整剤、および、帯電防止剤、が含まれる。光学調整剤の例には、中空シリカ系微粒子、シランカップリング剤、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化錫が含まれる。帯電防止剤の例には、界面活性剤、五酸化アンチモン、酸化インジウム錫および導電性高分子が含まれる。
【0028】
[透明粘着剤層]
本実施形態における透明粘着剤層は、透明圧電フィルムと透明コーティング層との積層フィルムを接着可能とする粘着性を有する、透明コーティング層側に形成される透明な層である。
【0029】
透明粘着剤層の材料は、透明な積層フィルムに使用可能なあらゆる材料の中から選ぶことが可能である。当該材料は、無機材料でも有機材料でもよいし、一種でもそれ以上でもよい。当該材料の例には、アクリル樹脂系粘着剤、ゴム系粘着剤、シリコーン系粘着剤、ポリエステル系粘着剤、ポリウレタン系粘着剤、ポリアミド系粘着剤、エポキシ樹脂系粘着剤、ポリビニルアルキルエーテル系粘着剤およびフッ素樹脂系粘着剤が含まれる。
【0030】
中でも、アクリル樹脂系粘着剤は、透明性に優れ、重合によって分子量および架橋点の操作が容易である。また、原料となるモノマーの種類が豊富で、ガラス転移点を自由にコントロールすることができる。タッチパネル用の粘着剤は、通常、透明性、耐候性、耐久性などの様々な特性が要求される。このため、このような好ましい特性を有する上記アクリル樹脂系粘着剤は、本実施形態における透明粘着剤層の材料として好適である。
【0031】
アクリル樹脂系粘着剤は、エラストマーなどのアクリル酸系のモノマーの高分子で構成される。アクリル樹脂系粘着剤の構成単位の由来となるモノマーは、粘着剤の基本的な性能に寄与する主モノマーを含み、機能を高めるためのコモノマー、および、架橋点を導入するための官能基含有モノマーをさらに含んでいてもよい。主モノマーの例には、アクリル酸エチル、アクリル酸ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシルおよびアクリル酸イソノニルが含まれる。コモノマーのうち、例えば粘着剤の凝集力を高めるためのコモノマーの例には、酢酸ビニル、アクリルニトリル、アクリルアミド、スチレン、メタクリル酸メチルおよびアクリル酸メチルが含まれる。官能基含有モノマーの例には、アクリル酸、アクリル酸ヒドロキシエチル、アクリルアミドおよびメタクリル酸グリシジルが含まれる。
【0032】
なお、シリコーン系粘着剤の例には、紫外線硬化型の光学接着シリコーンであるLUMISILシリーズ(「LUMISIL」はワッカーケミー社の登録商標)、および、シリコン高透明粘着シートであるISR-SOCシリーズ、が含まれる。
【0033】
上記アクリル樹脂系粘着剤は、透明性および粘着性などの諸特性で優れているが、前述の透明圧電フィルムに接触していると、当該透明圧電フィルムを黄変させることがある。本実施形態では、透明粘着剤層がアクリル樹脂系粘着剤であっても、透明粘着剤層と透明圧電フィルムとの間には、前述の透明コーティング層が介在する。したがって、アクリル樹脂系粘着剤に起因すると考えられる透明圧電フィルムの経時的な黄変が防止される。
【0034】
透明粘着剤層の透明粘着剤の物性を判断する指標の一つに、ガラス転移温度が含まれる。粘着剤のゴム状態からガラス状態へ(あるいはその逆)に転移する際の温度である。アクリル樹脂系粘着剤では、一般に、ベースとなるポリマー(例えば前述した主モノマーで構成されるポリマーなど)のガラス転移温度によって、粘着性を発現する温度領域が決まる。透明粘着剤層のガラス転移温度は、このような所期の粘着性およびそれが発現される温度に応じて適宜に決めればよい。粘着剤では、通常、架橋の導入によって粘着性を高めることができ、架橋の導入によってガラス転移温度も変化し、一般に高くなる。このような粘着剤の分子構造によって、あるいは二種以上の樹脂の混合によって、ガラス転移温度は適宜に調整することが可能である。透明粘着剤層のガラス転移温度は、積層フィルムにおける各層のガラス転移温度を測定可能な公知の方法によって測定することが可能である。
【0035】
透明粘着剤層の厚みは、薄すぎると粘着力が不十分となることがあり、厚すぎると透明圧電積層フィルムにおける圧電特性が不十分になることがある。十分な粘着力を発現する観点から、透明粘着剤層の厚みは、25μm以上であることが好ましく、30μm以上であることがより好ましく、35μm以上であることがさらに好ましい。また、透明粘着剤層の厚みは、透明圧電積層フィルムにおける十分な圧電特性を発現させる観点から、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。
【0036】
[その他の層構成]
本実施形態の透明圧電積層フィルムは、本実施形態における効果が発現される範囲において、前述以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、前述した透明粘着剤層に当接し剥離可能な離型層、光学調整層(インデックスマッチング層)、および導電層が含まれる。当該光学調整層は、所期の性能を発現する範囲において、上述した透明コーティング層の材料を用いて形成することができる。
【0037】
なお、透明圧電積層フィルムを構成する各層の厚みは、透明圧電積層フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、透明圧電積層フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断し、当該断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することが可能である。当該層の厚みは、当該層の厚みの代表値であればよく、任意の複数の測定値の平均値であってもよいし、当該測定値の最大値であってもよいし、当該測定値の最小値であってもよい。
【0038】
〔物性〕
本実施形態の透明圧電積層フィルムは、十分な透光性を実現する観点から、十分に透明であることが好ましい。たとえば、透明圧電積層フィルムの全光線透過率は、当該透明圧電積層フィルムの用途に応じて適宜に決めることができる。透明圧電積層フィルムの全光線透過率は、タッチパネルの感圧センサの用途であれば80%以上であることが好ましく、タッチパネルにおいてディスプレイより表面側に配置される感圧センサに適用する観点から、83%以上であることがより好ましい。全光線透過率は、例えばヘイズメータを用いて、JIS K7361に記載の公知の方法に基づいて測定することが可能である。
【0039】
また、透明圧電積層フィルムのヘイズ値も、全光線透過率と同様に、当該透明圧電積層フィルムの用途に応じて適宜に決めることができる。透明圧電積層フィルムのヘイズ値は、タッチパネルの感圧センサの用途であれば1.5以下であることが好ましく、タッチパネルにおいてディスプレイより表面側に配置される感圧センサに適用する観点から、1.0以下であることがより好ましい。ヘイズ値は、例えばヘイズメータを用いて、JIS K7136に記載の公知の方法に基づいて測定することが可能である。
【0040】
なお、透明圧電積層フィルムは、その使用形態において電極層などの他の層をさらに有することがある。透明圧電積層フィルムの透明性は、このような使用形態での構成を考慮して決めることが可能であるが、概ね、透明圧電フィルムの透明性と同等である。したがって、透明圧電積層フィルムの透明性は、他の層などの存在による影響を加味することを条件に、透明圧電フィルムの透明性から適切に決めることが可能である。他の層などの透明性に対する影響は、例えば、他の層などの透明性を直接求めることによって求めてもよいし、透明圧電積層フィルムの透明性と透明圧電フィルムの透明性との差から求めてもよい。
【0041】
さらに、本実施形態の透明圧電積層フィルムは、安定した透光性を実現する観点から、変色しないことが好ましい。このような耐変色性も、当該透明圧電積層フィルムの用途に応じて適宜に決めることができる。
【0042】
前述した透明圧電フィルムと透明粘着剤層とが直に接すると、透明圧電フィルムが黄変することがある。当該黄変の程度は、L表色系におけるΔE値で表すことが可能である。たとえば、所期の環境に所期の時間放置したときの放置前後のΔE値の差が大きいほど、透明圧電フィルムの上記の黄変が著しく、ΔE値の差が小さいほど、透明圧電フィルムの上記の黄変が抑制されていることが表される。上記の所期の環境、所期の時間およびΔE値のような光学特性値の差は、透明圧電積層フィルムの用途に応じて適宜に決めてよい。上記のような色差は、分光測色計、分光色彩計を用いて、JIS Z8722に記載の公知の方法に基づいて測定することが可能である。なお、本実施形態において、ΔE値は下記式によって算出される。ΔEは色差を表す。ΔLは、放置前後L値の差を表し、Δaは、放置前後a値の差を表し、Δbは、放置前後b値の差を表す。
[式]
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb0.5
【0043】
本実施形態の透明圧電積層フィルムにおける上記のような光学特性は、その用途に応じた適切な環境下で測定してもよい。たとえば、カーナビゲーションシステムあるいはスマートフォンの液晶タッチパネルの用途では、特定の高温高湿環境下における耐変色性が求められる。このような用途での光学特性の安定性を図る観点から、85℃85%RHの環境下に300時間放置した透明圧電積層フィルムのL値は85以上であることが好ましく、a値は3以下であることが好ましく、b値は4以下であることが好ましい。また、透明圧電積層フィルムが高温高湿環境下に300時間放置されたときのΔEが好ましくは4.0以下、より好ましくは3.5以下、さらに好ましくは2.5以下であれば、タッチパネルの用途において高湿熱環境で十分な耐久性を有すると判断することができる。
【0044】
なお、本発明の実施形態において、透明圧電積層フィルムの物性値に代えて透明圧電フィルムと透明コーティング層との積層物の物性値を採用してもよい。透明圧電積層フィルムの物性値は、実用上、用途に応じて決めることができる。当該積層物の物性値は、当該用途に応じて、透明圧電積層フィルムの物性値に透明粘着剤層の影響を加味した値であればよく、物性によって、透明圧電積層フィルムの物性値と同じであってもよいし、透明粘着剤層の影響を加味した異なる値であってもよい。同様に、透明圧電積層フィルムの物性値に代えて透明圧電フィルム単独の物性値を採用し、透明コーティング層および透明粘着剤層の影響を加味して当該透明圧電フィルム単独の物性値を決定してもよい。また、本実施形態の透明圧電積層フィルムが透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明粘着剤層以外の他の構成をさらに有している場合、物性値の測定対象は、透明圧電積層フィルムの用途に応じて決定してもよい。たとえば、透明粘着剤層に当接し剥離可能な離型層を備える透明圧電積層フィルムを、当該離型層を剥離した後に実用する場合には、透明圧電積層フィルムから離型層を剥離した形態における物性値を測定してもよい。
【0045】
〔製法〕
本実施形態の透明圧電積層フィルムは、前述したフィルムを用い、前述した層を形成する以外は、公知の透明圧電積層フィルムと同様に製造することが可能である。たとえば、当該透明圧電積層フィルムは、透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明粘着層のそれぞれをこの順で重ねることによって製造されてもよい。あるいは、当該透明圧電積層フィルムは、透明圧電フィルムの表面に透明コーティング層を形成し、透明コーティング層の表面に透明粘着剤層を形成することによって製造されてもよい。あるいは、当該透明圧電積層フィルムは、透明圧電フィルムの表面に透明コーティング層を形成し、透明コーティング層の表面に(例えば離型フィルム上に形成されている)透明粘着剤層を貼り合わせることによって製造されてもよい。
【0046】
透明コーティング層は、透明コーティング層を形成するための塗料を透明圧電フィルムに塗布する工程と、当該塗布する工程で形成された塗膜を固化する工程と、によって製造することができる。当該塗料を塗布する工程は、公知の塗工方法によって実施することが可能である。塗工方法の例には、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートおよび蒸着が含まれる。当該塗膜の厚みは、塗布回数または塗料の粘度によって適宜に調整することができる。
【0047】
固化する工程は、上記の塗料の塗膜を固化する公知の方法によって実施することが可能である。固化する方法の例には、乾燥、加熱または光照射による重合での硬化、が含まれる。中でも、物体の表面での加工に適している観点および各層の熱変形を防ぐ観点から、紫外線(UV)照射などの光照射による重合での硬化が好ましい。たとえば、透明コーティング層は、上記塗料を塗工後、塗料中の溶媒を加熱により除去し、次いでUV照射によって塗膜を硬化させることにより、形成することができる。UV照射により透明コーティング層を形成する場合には、酸素による硬化阻害を防ぐ観点から、当該UV照射は不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0048】
透明コーティング層用の上記塗料は、ポリマーを含有していてもよいし、モノマーを含有していてもよいし、これらの両方を含有していてもよい。また、上記の塗料において、ポリマーが硬化をもたらす架橋構造を含んでいてもよいし、架橋構造を複数有する低分子化合物がさらに含有されていてもよい。さらに、当該塗料は、必要に応じて、当該重合反応を生じさせるための重合開始剤などの、固化のための添加剤を適宜に含有していてもよい。
【0049】
また、透明コーティング層は、透明圧電フィルムと透明コーティング層とを共押出成形することによって、透明圧電フィルムと同時に製造してもよい。
【0050】
透明粘着剤層は、透明粘着剤を透明コーティング層に塗布することによって作製することができる。このような塗布は、前述したような公知の塗工方法によって実施することが可能である。必要に応じて、透明粘着剤の塗布による塗膜を固化してもよい。当該固化は、加熱などによる乾燥によって実施することが可能である。あるいは、透明粘着剤層は、前述したように、作製済みの透明粘着剤の膜を透明コーティング層に貼り合わせることによって製造してもよい。
【0051】
以下、図を用いて本発明の実施形態を説明する。図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る透明圧電積層フィルム10は、透明圧電フィルム1と、透明コーティング層2と、透明粘着剤層3とがこの順で直接重ねられて構成されている。
【0052】
透明圧電フィルム1は、前述したようにフッ素樹脂製であり、例えばフッ素樹脂材料の延伸と分極処理とによって得られるフィルムであってよい。透明コーティング層2は、例えば前述した(メタ)アクリル酸エステル樹脂製であり、透明圧電フィルム1の一方の表面上に重ねられている。透明粘着剤層3は、例えば前述したアクリル樹脂系粘着剤であり、透明コーティング層2における透明圧電フィルム1とは反対側の表面上に重ねられている。透明圧電積層フィルム10は、透明粘着剤層3を介して他の構成部材に接着されることにより、タッチパネルなどの感圧センサに供される。
【0053】
また、図2に示されるように、本発明の他の実施形態に係る透明圧電積層フィルム20は、透明圧電フィルム1と、透明コーティング層2と、透明粘着剤層3とがこの順で直接重ねられて構成されている。透明圧電積層フィルム20では、透明コーティング層2および透明粘着剤層3は、透明圧電フィルム1の両面側のそれぞれに配置されている。すなわち、透明圧電フィルム1の一方の表面上には、透明コーティング層2aが重ねられており、透明圧電フィルム1の他方の表面上には、透明コーティング層2bが重ねられている。また、透明コーティング層2aの表面上には、透明粘着剤層3aが重ねられており、透明コーティング層2bの表面上には、透明粘着剤層3bが重ねられている。透明圧電積層フィルム20も、透明圧電積層フィルム10と同様に、透明粘着剤層3a、3bのそれぞれが他の層に接着されることにより、タッチパネルなどの感圧センサにおける積層構造の一部に供される。
【0054】
〔タッチパネル〕
本発明の一実施形態のタッチパネルは、前述した本実施形態の透明圧電積層フィルムを有する。当該タッチパネルにおける透明圧電積層フィルムの位置および数は、タッチパネルの用途または所期の機能に応じて、適宜に決めることができる。図3は、本発明の実施形態のタッチパネルにおける層構成の一例を模式的に示す図である。
【0055】
タッチパネル100は、図3に示されるように、図2に示される透明圧電積層フィルム20を透明電極4bとカバーガラス5とで挟んでなる構成を有している。また、透明圧電積層フィルム20とカバーガラス5との間には、透明圧電積層フィルム20からカバーガラス5へ向かって、透明基板6a、透明電極4a、透明粘着剤層3c、透明基板6c、透明電極4c、透明粘着剤層3dが、この順に重ねられて配置されている。また、透明圧電積層フィルム20と透明電極4bとの間には、透明基板6bが配置されている。このように、タッチパネル100は、透明電極4bと、透明圧電積層フィルム20と、カバーガラス5とがこの順に重ねられて構成されている。タッチパネル100を実用する場合、ディスプレイ30の表面に、タッチパネル100の透明電極4b側の表面を重ねて配置することができるが、これに限定されない。
【0056】
透明圧電積層フィルム20とカバーガラス5とは、透明粘着剤層3c、3d、透明電極4a、4c、および透明基板6a、6cを介して、透明粘着剤層3aによって接着されており、透明圧電積層フィルム20と透明電極4bとは、透明基板6bを介して、透明粘着剤層3bによって接着されている。また、透明電極4bの積層方向における透明圧電積層フィルム20の反対側には、有機EL表示パネルまたは液晶表示パネルなどの表示パネル、すなわちディスプレイ30が配置され得る。ディスプレイ30は、従来公知の表示パネルを採用することができるため、本明細書においては、その詳細な構成の説明は省略する。
【0057】
透明電極4a、4b、4cは、それぞれ透明基板6a、6b、6c上に形成され、透明基板6a、6b、6cとともにタッチパネル100中の所望の層に接着されていてもよいし、積層方向において透明電極4a、4b、4cが隣接する他の層の表面に直接形成され、透明粘着剤層3a、3b、3cまたは3dによって接着されてもよい。
【0058】
透明電極4a、4b、4cには、タッチパネルに用いることが可能な公知の透明電極を採用することができる。より詳しくは、透明電極4a、4b、4cは、実質的に透明な面状の電極であればよく、パターンを有する導電性の薄膜であってもよいし、極細の導電性の線材による平面的な構造であってもよい。透明電極4a、4b、4cを構成する材料は限定されず、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種の金属の金属酸化物が好適に用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、上記群に示された金属原子をさらに含んでいてもよい。当該金属酸化物には、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)、アンチモン-スズ複合酸化物(ATO)などが好ましく用いられ、ITOが特に好ましく用いられる。透明電極4a、4b、4cの他の代表的な材料の例には、銀ナノワイヤ、銀メッシュ、銅メッシュ、グラフェンおよびカーボンナノチューブが含まれる。透明基板6a、6b、6cには、上述の透明電極4a、4b、4cを支持する下地として用いることが可能な公知の透明なフィルムを採用することができる。透明基板6a、6b、6cを構成する材料は限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)が好適に用いられる。
【0059】
カバーガラス5は、タッチパネルのカバーガラスである。タッチパネル用のシート状の光透過部材であればよく、カバーガラス5のようなガラス板であってもよいし、透明樹脂シートであってもよい。
【0060】
本発明の実施形態におけるタッチパネルは、本実施形態の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに含んでいてもよい。
【0061】
また、本発明の実施形態におけるタッチパネルは、前述した本発明の実施形態の透明圧電積層フィルムを積層構造中に含んでいればよい。積層方向における当該タッチパネル中における当該透明圧電積層フィルムの位置は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めてよい。
【0062】
また、本発明の実施形態のタッチパネルは、GFFタイプまたはGF2タイプなどの従来のタッチパネルにおける積層構造中に、本実施形態における透明圧電積層フィルムを適宜に追加した構成を有していてもよい。この場合、本実施形態の透明圧電積層フィルムには、圧力を検出するための透明電極層および位置を検出するための位置センサが、直接積層されてもよいし、粘着剤層を介して接着されてもよい。このような構成を有するタッチパネルは、従来のタッチパネルの機能に加えて、透明圧電積層フィルムに起因する機能をさらに発現することができ、例えば透明な積層構造中に位置センサと圧力センサの両方を含むタッチパネルを構成することが可能である。
【0063】
なお、本実施形態のタッチパネルの製造において、透明粘着剤層は、透明コーティング層上のみならず、透明粘着剤層を介して透明コーティング層と接着する他の層の上に形成されていてもよい。この場合、透明粘着剤層は、透明コーティング層側にあってもよいし、なくてもよい。
【0064】
〔作用効果〕
本発明の実施形態における透明圧電積層フィルムは、前述したように、フッ素樹脂製の透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明粘着剤層で構成され得る。上記のような構成を有する透明圧電積層フィルムは、透明圧電フィルムによる十分な圧電性と、透明粘着剤層に由来する粘着性とを示すことに加え、透明圧電フィルムの経時的な変色を抑制することができ、長期にわたって十分な透明性を発現することが可能である。
【0065】
当該透明圧電積層フィルムは、上記のように安定した透明性を発現するとともに、樹脂などの有機層のみで構成され得ることから、このような十分な透明性を有する感圧センサの全体としての層の厚みをより一層薄くすることが可能である。したがって、当該透明圧電積層フィルムは、前述の表示パネルよりも表面(画像表示面)側に感圧センサとして配置することが可能である。よって、タッチパネルの層構成を従来より簡略化すること、あるいはタッチパネル全体としての層の厚みを薄くすること、が可能であり、また、タッチパネルにおける透明圧電積層フィルムの配置数および配置箇所の自由度を高めることが可能である。
【0066】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態の透明圧電積層フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムと、0.20μm以上の厚みを有する透明コーティング層と、透明粘着剤層とがこの順で重ねられて構成されている。また、本発明の実施形態のタッチパネルは、当該透明圧電積層フィルムを有する。したがって、当該透明圧電積層フィルムおよびタッチパネルは、いずれも、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムを有する透明圧電積層フィルムにおける透明圧電フィルムの変色を防止することができる。
【0067】
本発明の実施形態において、透明コーティング層の厚みが4.0μm以下であることは、透明圧電フィルムの変色の抑制と十分な圧電特性の発現とを実現させる観点からより一層効果的である。
【0068】
本発明の実施形態において、透明コーティング層が(メタ)アクリル酸エステル樹脂製であることは、透明圧電積層フィルムの十分な透明性を実現するとともに透明圧電フィルムの変色を抑制する観点からより一層効果的である。
【0069】
本発明の実施形態において、透明粘着剤層がアクリル樹脂系粘着剤を含有することは、接着面への透明コーティング層の十分な接着力を発現させる観点およびコスト低減の観点からより一層効果的である。
【0070】
本発明の実施形態において、透明圧電積層フィルムが85℃85%RHの環境下に300時間放置されたときのΔEが4.0以下であることは、タッチパネルの用途において高湿熱環境で十分な耐久性を実現する観点からより一層効果的である。
【0071】
本発明の実施形態において、透明コーティング層および透明粘着剤層が透明圧電フィルムの両面側のそれぞれに配置されていることは、両面側に透明粘着剤層を有し、透明粘着剤層のそれぞれが他の層に接着な透明圧電積層フィルムを実現する観点からより一層効果的である。
【0072】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例
【0073】
〔実施例1〕
厚みが140μmであるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)のシートを、延伸倍率が4.2倍になるように延伸した。延伸したシートに直流電圧を0kVから11.8kVに増加させながら印加して分極処理を行った。こうして、厚みが40μmの透明圧電フィルムを得た。
【0074】
次に、得られた透明圧電フィルムを130℃で1分間熱処理した。熱処理した透明圧電フィルムの片面に、バーコーターにてハードコート剤(「BS CH271」(荒川化学工業株式会社製))を塗布し、80℃で2分間乾燥させた。上記ハードコート剤はアクリル系のハードコート剤であり、UV硬化性を有する。
【0075】
次に、ハードコート剤の乾燥させた塗膜に、UV照射装置CSOT-40(株式会社GSユアサ製)を用い、400mJ/cmの積算光量でUVを照射した。こうして、後述する表に記載の厚みを有する透明コーティング層を片面に有するフィルムを得た。同様の操作を透明圧電フィルムの反対側の面に行うことで、透明コーティング層を透明圧電フィルムの両面に有する透明コーティングフィルムを得た。
【0076】
次に、アクリル系の光学粘着シート(「LUCIACS CS9827US」、日東電工株式会社製、「LUCIACS」は同社の登録商標)をハルダーラミネーターMRK-650Y型(株式会社MCK製)を用い、貼り合わせ圧力0.2MPa、貼り合わせ速度1.0m/分の条件で透明コーティングフィルムの両面に貼り合わせた。こうして、透明圧電積層フィルムを得た。この光学粘着シートを用いる透明圧電積層フィルムを「アクリル系1」とも言う。
【0077】
〔実施例2~4、比較例4〕
後述する表に記載の厚みを有するように透明コーティング層を形成する以外は実施例1と同様にして、透明コーティング層の厚みの異なる透明圧電積層フィルムをそれぞれ得た。
【0078】
〔実施例5〕
光学粘着シートを別のアクリル系の光学粘着シート(「NNX75M」、グンゼ株式会社製)に変更したこと以外は実施例1と同様にして、透明圧電積層フィルムを得た。この光学粘着シートを用いる透明圧電積層フィルムを「アクリル系2」とも言う。
【0079】
〔実施例6〕
分極処理の直流電圧を0kVから11.8kVに増加させる代わりに0kVから11.0kVに増加させること、および、ハードコート剤を「リオデュラス TYAB-M101」(トーヨーケム株式会社製、「リオデュラス」は東洋インキSCホールディングス株式会社の登録商標)に変更して後述する表に記載の厚みを有する透明コーティング層を形成する以外は実施例1と同様にして、アクリル系1の透明圧電積層フィルムを得た。
【0080】
〔実施例7、8〕
1.0μmの厚みを有する透明コーティング層を透明圧電フィルムの片面に形成し、実施例7では4.0μm、実施例8では10.0μmの厚みを有する透明コーティング層を反対側の面に形成する以外は、実施例1と同様にして、透明圧電フィルムの両面に配置されている透明コーティング層の厚みが互いに異なる透明圧電積層フィルムをそれぞれ得た。
【0081】
〔比較例1~3〕
ハードコート剤を塗布しないこと以外は実施例1、5および6のそれぞれと同様にして、比較例としての透明圧電積層フィルムをそれぞれ得た。
【0082】
〔評価〕
[透明コーティング層の厚み]
前述した実施例および比較例4の透明圧電積層フィルムのそれぞれをエポキシ樹脂に包埋し、透明圧電積層フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断した。露出した透明圧電積層フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(「SU3800」、株式会社日立ハイテク製)を用いて加速電圧3.0kV、倍率50000倍の条件で観察し、透明圧電積層フィルム中の透明コーティング層の厚みを測定した。
【0083】
なお、透明コーティング層の厚みの測定において、当該透明コーティング層のうちの2ヶ所の厚みを測定し、その平均値を透明コーティング層の厚みとした。なお、上記の観察条件において、透明コーティング層の界面は、ほぼ滑らかな線として観察され、透明コーティング層の厚みの測定では、当該線間の距離を測定した。
【0084】
[圧電定数d33値]
実施例および比較例4の透明コーティングフィルムならびに比較例1~3の透明圧電フィルムのそれぞれの圧電定数d33を、圧電定数測定装置(「ピエゾメーターシステムPM300」、PIEZOTEST社製)を用いて、0.2Nでサンプルをクリップし、0.15N、110Hzの力を加えた際の発生電荷を読み取った。圧電定数d33の実測値は、測定されるフィルムの表裏によって、プラスの値、またはマイナスの値となるが、本明細書中においては絶対値を記載した。圧電定数d33値は、6pC/N以上であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0085】
なお、透明圧電積層フィルムの圧電特性における透明圧電フィルムの影響は最も強く、当該圧電特性における透明粘着剤層の影響は、透明圧電フィルムおよび透明コーティング層による影響に比べて十分に小さいため、透明コーティングフィルムの圧電特性によって、透明圧電積層フィルムの圧電特性を検証することが可能である。
【0086】
[全光線透過率]
実施例および比較例4で用いる透明コーティングフィルムならびに比較例1~3で用いる透明圧電フィルムのそれぞれの全光線透過率を、ヘイズメータ(「NDH7700SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K7361-1に記載の方法に基づいて測定した。全光線透過率は、80%以上であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0087】
なお、透明圧電積層フィルムの透光性における透明粘着剤層の影響は、透明圧電フィルムおよび透明コーティング層による影響に比べて十分に小さいため、透明コーティングフィルムの透光性によって、透明圧電積層フィルムの透光性を検証することが可能である。
【0088】
[ヘイズ値]
実施例および比較例4で用いる透明コーティングフィルムならびに比較例1~3で用いる透明圧電フィルムのそれぞれのヘイズ値を、ヘイズメータ(「NDH7700SP II」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS K7136に記載の方法に基づいて測定した。ヘイズ値は、1.5以下であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0089】
[L値、a値、b値]
実施例および比較例4で用いる透明コーティングフィルムならびに比較例1~3で用いる透明圧電フィルムのそれぞれのL表色系におけるL値、a値およびb値を、分光色彩計(「SE7700」、日本電色工業株式会社製)を用いて、JIS Z8722に準拠する方法により測定した。L値は、85以上であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。a値は、3以下であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。b値は、4以下であればタッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0090】
[高湿熱環境試験]
実施例および比較例の透明圧電積層フィルムのそれぞれを、85℃85%RH雰囲気に制御された恒温恒湿槽(「エコナスLH34-14M」、ナガノサイエンス株式会社製)内に置き、所定時間前および所定時間後のL値、a値およびb値を上記の方法によって測定した。そして、上記雰囲気に所定時間後のΔEを、下記式によって算出した。下記式中、ΔEは、所定時間後の色差を表し、ΔL、Δa、Δbはそれぞれ、高湿熱環境における所定時間前後のL、a、bの差を表す。なお、上記高湿熱環境試験は、第1の離型層と、第1の透明粘着剤層と、第1の透明コーティング層と、透明圧電フィルムと、第2の透明コーティング層と、第2の透明粘着剤層と、第2の離型層とがこの順で重ねられて構成されており、他の層構成を備えない透明圧電積層フィルムを用いて、実施された。すなわち、材料として用いられた光学粘着シートが備えていた剥離可能な離型層を備えた形態の透明圧電積層フィルムを用いて、上記高湿熱環境試験は実施された。なお、離型層を備えた形態の透明圧電積層フィルムについて測定したΔEの値が表に記載する値であったため、離型層を備えない形態で透明圧電積層フィルムを実用する場合には、表に記載する値以下のΔEであると判断することができる。
[式]
ΔE={(ΔL+(Δa+(Δb0.5
【0091】
上記の評価結果を表1~表3に示す。表1および表3中のL値、a値およびb値は、上記高湿熱環境試験において300時間経過後の値であり、ΔEは、300時間の当該高湿熱環境試験前後における色差の値である。さらに、図4は、実施例2、4の透明圧電積層フィルムと比較例1の透明圧電積層フィルムにおける高湿熱環境試験の試験時間と色差ΔEとの関係を示す。経過時間が300時間でΔEが4.0以下であれば、タッチパネルの用途において高湿熱環境で十分な耐久性を有すると判断することができる。
【0092】
【表1】
【0093】
【表2】
【0094】
【表3】
【0095】
〔考察〕
実施例1~6の透明圧電積層フィルムは、いずれも、高湿熱環境下においても十分に高い透明性を有しており、また変色が十分に少なく、上記の高湿熱環境における十分な耐久性を有している。これは、透明コーティング層が透明圧電フィルムと光学粘着シートとの間に直接介在することから、透明圧電フィルムを変色させる光学粘着シート中の成分の透明圧電フィルムへの作用が十分に抑制されるため、と考えられる。
【0096】
これに対して、比較例1~3の透明圧電積層フィルムは、いずれも、実施例1~6の透明圧電積層フィルムに比べて高湿熱環境下での経時的な変色(黄変)が著しい。これは、光学粘着シートが透明圧電フィルムに接着していることから、透明圧電フィルムを変色させる光学粘着シート中の成分が透明圧電フィルムに作用するため、と考えられる。
【0097】
また、比較例4で用いる透明コーティングフィルムは、実施例1~6の透明コーティングフィルムに比べて、ヘイズ値が高い。これは、透明コーティング層の厚さが薄く、透明圧電フィルムの表面を十分に覆うことができていないため、製造における傷つき防止作用が不十分であったため、と考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0098】
本発明は、タッチパネルに利用することができる。
【符号の説明】
【0099】
1 透明圧電フィルム
2、2a、2b、2c 透明コーティング層
3、3a、3b、3c、3d 透明粘着剤層
4a、4b、4c 透明電極
5 カバーガラス
6a、6b、6c 透明基板
10、20 透明圧電積層フィルム
30 ディスプレイ
100 タッチパネル
図1
図2
図3
図4