(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】透明導電圧電フィルムおよびタッチパネル
(51)【国際特許分類】
G06F 3/041 20060101AFI20240213BHJP
H10N 30/857 20230101ALI20240213BHJP
H10N 30/06 20230101ALI20240213BHJP
H10N 30/87 20230101ALI20240213BHJP
C23C 14/08 20060101ALI20240213BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G06F3/041 495
G06F3/041 660
H10N30/857
H10N30/06
H10N30/87
C23C14/08 D
B32B27/30 D
B32B27/30 A
(21)【出願番号】P 2022559019
(86)(22)【出願日】2021-10-18
(86)【国際出願番号】 JP2021038368
(87)【国際公開番号】W WO2022091829
(87)【国際公開日】2022-05-05
【審査請求日】2023-02-24
(31)【優先権主張番号】P 2020183104
(32)【優先日】2020-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001100
【氏名又は名称】株式会社クレハ
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】弁理士法人 HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】今治 誠
【審査官】星野 裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-134293(JP,A)
【文献】特開2019-96680(JP,A)
【文献】特開2012-79257(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 3/041
H10N 30/857
H10N 30/06
H10N 30/87
C23C 14/08
B32B 27/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ素樹脂製の透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明電極がこの順で重ねられて構成されており、
前記透明圧電フィルムの厚みが20μm以上200μm以下であり、
前記透明コーティング層の総厚みは、0.6~4.5μmであり、
85℃の環境に250時間放置したときの放置前の表面抵抗
値に対する、放置後の表面抵抗値の比が1.30以下である、透明導電圧電フィルム。
【請求項2】
熱機械分析で求められる線膨張係数は、310×10
-6K
-1以下である、請求項1に記載の透明導電圧電フィルム。
【請求項3】
前記透明電極は、インジウム-スズ複合酸化物で構成されており、かつ、X線回折における前記インジウム-スズ複合酸化物のピークが検出されない、請求項1または2に記載の透明導電圧電フィルム。
【請求項4】
前記透明コーティング層が(メタ)アクリル酸エステル樹脂製である、請求項1~3のいずれか一項に記載の透明導電圧電フィルム。
【請求項5】
フッ素樹脂製の透明圧電フィルムの少なくとも一方の面上に0.6~4.5μmの総厚みを有する透明コーティング層を形成する工程と、
前記透明コーティング層の表面に、85℃の環境に250時間放置したときの放置前の表面抵抗
値に対する、放置後の表面抵抗値の比が1.30以下である透明電極を形成する工程と、
を含む、透明導電圧電フィルムの製造方法。
【請求項6】
前記透明電極を形成する工程では、酸化インジウムおよび酸化スズを含有する焼結体を原料とする反応性スパッタリング法によって、前記透明コーティング層上に前記透明電極としてインジウム-スズ複合酸化物の薄膜を形成する、請求項5に記載の透明導電圧電フィルムの製造方法。
【請求項7】
前記透明電極を形成する工程において、反応性スパッタリングを80℃以下の温度で実施する、請求項6に記載の透明導電圧電フィルムの製造方法。
【請求項8】
前記透明電極を形成する工程で形成した透明電極のアニーリング処理を実施しない、請求項5~7のいずれか一項に記載の透明圧電積層フィルムの製造方法。
【請求項9】
請求項1~4のいずれか一項に記載の透明導電圧電フィルムを有するタッチパネル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、透明導電圧電フィルムおよびタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
透明導電圧電フィルムは、圧力に応じて電気を発生するとともに圧力が印加された位置を特定可能であることから、タッチパネルの感圧センサに利用することができる。従来、タッチ位置の検知と押圧検知とを同時に行うタッチパネルが各種考案されている。当該タッチパネルには、タッチ位置を検知する静電式タッチパネル部に、押圧を検知する押圧センサ部を重ね合わせた構成のタッチパネルが知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
当該タッチパネルは、静電容量式タッチセンサと当該感圧センサとの組み合わせによって構成される。当該静電容量式タッチセンサには、通常、ポリエチレンテレフタラート(PET)フィルムが使用されている。静電容量式タッチパネルセンサには、透明なプラスチック基板を含む透明導電性フィルムが知られている(例えば、特許文献2および3参照)。また、フッ素系樹脂を透明圧電シートとして利用するタッチパネルが知られている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2013/021835号
【文献】特開2008-152767号公報
【文献】特開2007-059360号公報
【文献】特開2010-108490号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
透明導電圧電フィルムの研究を進めた結果、透明電極を圧電フィルムに積層させた透明導電圧電フィルムにおいては、温度の上昇に伴い、透明電極の抵抗値が上昇する傾向が見られることを見出した。よって、透明導電圧電フィルムを使用したタッチパネルでは、高温環境に暴露されると透明導電圧電フィルムの抵抗値が変化し、正確な入力情報を得ることができなくなることがある。
【0006】
本発明の一態様は、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムを有する透明導電圧電フィルムにおいて、高温環境下による表面抵抗値の変化の抑制を実現することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明の一態様に係る透明導電圧電フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明電極層がこの順で重ねられて構成されており、前記コーティング層の総厚みは、0.6~4.5μmであり、85℃環境に250時間放置したときの放置前の抵抗値の比に対する、放置後の抵抗値の比が1.30以下である。
【0008】
また、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る透明導電圧電フィルムの製造方法は、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムの少なくとも一方の面上に0.6~4.5μmの総厚みを有する透明コーティング層を形成する工程と、前記透明コーティング層の表面に透明電極を形成する工程と、を含む。
【0009】
さらに、上記課題を解決するために、本発明の一態様に係るタッチパネルは、上記の透明導電圧電フィルムを有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の一態様によれば、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムを有する透明導電圧電フィルムにおいて、高温環境下による表面抵抗値の変化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本発明の一実施形態に係る透明導電圧電フィルムの層構成を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の他の実施形態に係る透明導電圧電フィルムの層構成を模式的に示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るタッチパネルの層構成を模式的に示す図である。
【
図4】本発明の実施例および比較例における高温高湿環境の表面抵抗値への経時的な影響を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔構成〕
本発明の一実施形態に係る透明導電圧電フィルム(透明圧電積層フィルム)は、透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明電極がこの順で重ねられて構成されている。本実施形態において、「この順で重ねられている」とは、上記のフィルム、層および電極(以下、「層など」とも言う)を含む積層物において、当該フィルムおよび層が列挙された順番で配置されている状態を意味する。上記のフィルムおよび層は、本実施形態の効果を奏する範囲において、互いに接して重ねられていてもよいし、他のフィルムまたは層を介して重ねられていてもよい。
【0013】
[透明圧電フィルム]
本実施形態における透明圧電フィルムは、フッ素樹脂製である。本実施形態において「フッ素樹脂製」とは、透明圧電フィルムを構成する組成物においてフッ素樹脂が主成分であることを意味し、「フッ素樹脂が主成分である」とは、当該組成物においてフッ素樹脂が樹脂成分中で最多の成分であることを意味する。当該組成物におけるフッ素樹脂の含有量は、51質量%以上であってよく、80質量%以上であってよく、100質量%であってよい。
【0014】
また、「圧電フィルム」とは、圧電性を有するフィルムを意味する。また、本実施形態において、「透明」とは、透明導電圧電フィルムの用途に応じた所望の割合以上に可視光線を透過する光学的特性を意味する。たとえば、タッチパネルの用途であれば、「透明」とは、全光線透過率で80%以上であることを言う。
【0015】
本実施形態におけるフッ素樹脂は、圧電フィルムに使用可能ないかなるフッ素樹脂であってもよく、一種でもそれ以上でもよい。当該フッ素樹脂の例には、フッ化ビニリデン樹脂、テトラフルオロエチレン樹脂およびこれらの混合物が含まれる。
【0016】
フッ化ビニリデン樹脂の例には、フッ化ビニリデンの単独重合体、およびその共重合体が含まれる。フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン以外の単量体に由来する構成単位の含有量は、透明圧電フィルムの用途に応じた特性を発現可能な範囲で適宜に決めてよい。
【0017】
フッ化ビニリデンの共重合体におけるフッ化ビニリデン以外の単量体の例には、炭化水素系単量体およびフッ素化合物が含まれる。当該炭化水素系単量体の例には、エチレンおよびプロピレンが含まれる。当該フッ素化合物は、フッ化ビニリデン以外のフッ素化合物であって、重合性の構造を有するフッ素化合物である。当該フッ素化合物の例には、フッ化ビニル、トリフルオロエチレン、トリフルオロクロロエチレン、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルヘキサフルオロプロピレンおよびフルオロアルキルビニルエーテルが含まれる。
【0018】
テトラフルオロエチレン樹脂の例には、テトラフルオロエチレンの単独重合体およびその共重合体が含まれる。当該共重合体の構造単位を構成するテトラフルオロエチレン以外の単量体の例には、エチレン、フルオロプロピレン、フルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルキルビニルエーテルおよびパーフルオロジオキシソールが含まれる。
【0019】
本実施形態におけるフッ素樹脂が共重合体の場合では、当該フッ素樹脂におけるフッ化ビニリデン由来の構造単位の含有量は、本実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めることができ、この観点から、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、60質量%以上であることがさらに好ましい。
【0020】
本実施形態における透明圧電フィルムは、本実施形態の効果が得られる範囲において種々の添加剤を含んでもよい。当該添加剤は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、可塑剤、滑剤、架橋剤、紫外線吸収剤、pH調整剤、安定剤、抗酸化剤、界面活性剤および顔料が含まれる。
【0021】
本実施形態における透明圧電フィルムの厚みは、透明導電圧電フィルムの用途に応じて、本実施形態の効果が得られる範囲から適宜に決めることができる。透明圧電フィルムの厚みは、薄すぎると機械的強度が不十分となることがあり、厚すぎると効果が頭打ちになり、あるいは透明性が不十分になり、光学用途で使用することが難しくなることがある。透明圧電フィルムの厚みは、例えば10~200μmの範囲内から適宜に決めることが可能である。
【0022】
より具体的には、透明圧電フィルムの厚みは、機械的強度の観点から、10μm以上であることが好ましく、20μm以上であることがより好ましく、30μm以上であることがさらに好ましい。また、透明圧電フィルムの厚みは、機械的強度と経済性との両立の観点から、200μm以下であることが好ましく、150μm以下であることがより好ましく、100μm以下であることがさらに好ましい。厚みが上述の範囲内の透明圧電フィルムである透明導電圧電フィルムは、タッチパネルに好適に使用することができる。
【0023】
本実施形態における透明圧電フィルムの圧電特性は、透明導電圧電フィルムの用途に応じて、本実施形態の効果が得られる範囲から適宜に決めることができる。圧電特性が低すぎると圧電材料としての機能が不十分となることがある。十分な圧電特性を発現させる観点から、例えば透明導電圧電フィルムがタッチパネルである場合では、透明圧電フィルムの圧電特性は、圧電定数d33で6pC/N以上であることが好ましく、10pC/N以上であることがより好ましく、12pC/N以上であることがさらに好ましい。当該圧電特性の上限は限定されないが、上記の場合であれば、所期の効果が十分に得られる観点から、圧電定数d33で30pC/N以下であればよい。
【0024】
本実施形態における透明圧電フィルムは、例えば実施例に記載されているように、フッ素樹脂シートの延伸と分極処理によって製造することが可能である。
【0025】
[透明コーティング層]
本実施形態における透明コーティング層は、透明圧電フィルムと透明電極との間に位置する。透明コーティング層は、透明であり、また透明圧電フィルムに対して面方向の変形を抑制するのに十分な寸法安定性を有する層であればよい。また、透明コーティング層は、透明圧電フィルムの光学的な特性に実質的な影響を及ぼさない不活性さを有する層であることが、透明圧電フィルムの変色を抑制する観点から好ましい。
【0026】
透明コーティング層は、透明圧電フィルムの一表面側のみに配置されてもよく、環境による透明圧電フィルムの変形を十分に抑制する観点によれば、両面側に配置されてもよい。透明コーティング層は、透明導電圧電フィルムの透明性を高める観点、および、環境による透明圧電フィルムの発色を防止する観点から、透明導電圧電フィルムの厚み方向において透明圧電フィルムに隣接して配置されていることが好ましい。
【0027】
透明コーティング層は、単層であってもよいし、積層されている二以上の層で構成されてもよい。本実施形態では、透明圧電フィルムと透明電極との間に配置される層であって、透明圧電フィルムの寸法安定性に寄与する層であれば、透明コーティング層としてよい。二層以上で透明コーティング層を構成する場合では、その一部または全部は、本実施形態における効果が得られる範囲において、光学特性の調整などの、透明圧電フィルムの寸法安定性を付与する性質以外の他の性質をさらに有していてもよい。
【0028】
本実施形態における透明コーティング層の総厚みは、0.6~4.5μmである。本実施形態において透明コーティング層の「総厚み」とは、透明導電圧電フィルムが有する個々の透明コーティング層の厚みの総和である。透明コーティング層を透明圧電フィルムの一方の主面側のみに有する場合は、一方の主面側の透明コーティング層の厚みである。透明コーティング層を透明圧電フィルムの一方の主面と他方の主面の両側に有する場合は、一方の主面側の透明コーティング層の厚みと他方の主面側の透明コーティング層の厚みとの和である。透明コーティング層が薄すぎると、透明圧電フィルムの環境による変形の抑制が不十分となることがある。透明コーティング層が厚すぎると、透明導電圧電フィルムの圧電性が不十分になることがある。
【0029】
透明コーティング層の総厚みは、透明圧電フィルムの環境による変形を十分に抑制する観点から、0.6μm以上であることが好ましく、0.8μm以上であることがより好ましく、1.0μm以上であることがさらに好ましい。また、透明コーティング層の総厚みは、透明圧電フィルムの圧電特性を十分に反映させる観点から、4.0μm以下であることが好ましく、3.6μm以下であることがより好ましく、3.2μm以下であることがさらに好ましい。
【0030】
透明コーティング層を複数有する場合では、個々の透明コーティング層の厚みは、透明圧電フィルムの熱収縮を十分に抑制する観点から、0.3μm以上であることが好ましい。
【0031】
透明コーティング層は、いわゆるハードコート層とも呼ばれる、傷つき防止のための透明な表面保護層であってよい。透明コーティング層の材料は、前述の透明性と透明圧電フィルムに対する上記の不活性さとを有する範囲において、圧電フィルムに使用可能なあらゆる材料の中から選ぶことが可能である。当該材料は、無機材料でも有機材料でもよいし、一種でもそれ以上でもよい。また、当該コーティング層の材料は、ハードコート層の材料であってもよい。当該材料の例には、メラミン樹脂、ウレタン樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、シラン化合物および金属酸化物が含まれる。なお、「(メタ)アクリル酸」とは、アクリル酸およびメタクリル酸の総称であり、これらの一方または両方を意味する。
【0032】
透明コーティング層の材料が(メタ)アクリル酸エステル樹脂であること、すなわち透明コーティング層が(メタ)アクリル酸エステル樹脂製であること、は、十分な透明性、材料の種類の豊富さ、および、原料価格の低さの観点から好ましい。透明コーティング層の材料は、透明コーティング層を構成するのに必要な他の材料を含んでいてよい。(メタ)アクリル酸エステル樹脂製透明コーティング層の材料であれば、一般に、開始剤、オリゴマー、モノマーおよびその他の成分が混合してなる組成物が使用され得る。この場合、透明コーティング層の物性は、主に、オリゴマーおよびモノマーによって決まる。当該オリゴマーの例には、単官能または多官能の(メタ)アクリルレートが含まれる。上記モノマーの例には、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレートが含まれる。
【0033】
透明コーティング層は、本実施形態における効果が発現される範囲において種々の機能を有していてもよい。透明コーティング層の材料は、他の成分として、任意の機能を発現させるための材料をさらに含んでいてもよい。このような材料の例には、透明コーティング層の屈折率を制御するための光学調整剤、および、帯電防止剤、が含まれる。光学調整剤の例には、中空シリカ系微粒子、シランカップリング剤、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化亜鉛および酸化スズが含まれる。帯電防止剤の例には、界面活性剤、五酸化アンチモン、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)および導電性高分子が含まれる。一方で、透明コーティング層は、その透明性を高める観点から、他の成分を含有していなくてもよい。
【0034】
[透明電極]
本実施形態における透明電極は、平面状の広がりを有し導電性を有する構造であり、透明導電層とも言える。透明電極は、当該平面状の広がりを一つの層と仮定した時に、当該層が十分な透明性を発現すればよく、そのような構造であれば透明電極そのものが透明性を有さなくてもよい。たとえば、透明電極は、高い透明性を有する導電性の部材または組成で構成されてもよいし、透明性を有さない材料で構成されるが十分な透明性を発現可能な極薄または極細の微細な構造であってもよい。
【0035】
透明電極は、透明な基板上に形成され、当該基板とともに透明コーティング層に接着されていてもよいし、透明コーティング層または後述するタッチパネルの層構成において当該透明コーティング層に隣接する他の層の表面に直接形成されていてもよい。透明電極は、透明圧電フィルムの少なくとも片面側に配置されていればよい。透明コーティング層を透明圧電フィルムの両面側に形成する場合では、透明電極は、少なくともいずれか一方の透明コーティング層上に配置されていればよい。透明電極の形態は、限定されず、ナノワイヤでもよいし、メッシュでもよいし、薄膜であってもよい。当該薄膜は、単層でもよいし、複数層の積層構造であってもよい。
【0036】
透明電極を構成する材料は限定されず、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種の金属の金属酸化物が好適に用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、上記群に示された金属原子をさらに含んでいてもよい。当該金属酸化物には、ITO、アンチモン-スズ複合酸化物(ATO)などが好ましく用いられ、ITOが特に好ましく用いられる。透明電極4の他の代表的な材料の例には、銀ナノワイヤ、銀メッシュ、銅メッシュ、グラフェンおよびカーボンナノチューブが含まれる。
【0037】
透明電極の厚みは、制限されないが、その表面抵抗値を1×103Ω/□以下の良好な導電性を有する連続被膜とする観点から、10nm以上であることが好ましい。当該厚みが厚くなりすぎると透明性の低下などをきたすことがあり、薄すぎると電気抵抗が高くなることがあり、また膜構造中に非連続の部分が形成されることがある。当該厚みは、導電性をより高める観点から、15nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。一方で、透明電極の透明性をより高める観点から、透明電極の厚みは、55nm未満であることが好ましく、45nm未満であることがより好ましい。透明電極の厚みは、このような積層物の断面の観察から求める公知の方法によって求めることが可能である。
【0038】
透明電極の形成方法は、限定されず、従来公知の方法を採用して形成することが可能である。このような方法の例には、具体的には、真空蒸着法、スパッタリング法およびイオンプレーティング法が含まれる。また、必要とする膜厚に応じて適宜の方法を採用することもできる。
【0039】
さらには、透明電極は、その形成後に、加熱アニール処理を施して非晶質な透明電極材料を結晶化させなくてもよい。たとえば、本実施形態における透明電極の材料は、透明電極のパターニングのためのエッチングを容易にする観点から、非晶質であることが好ましい。透明電極が非晶質の材料で構成されていることは、例えば、X線回折法で透明電極の材料の結晶ピークが検出されないことによって確認することが可能である。
【0040】
透明電極における非晶性は、上記のようにX線回折法を利用して求めることが可能である、また、当該非晶性は、透明電極を形成した後のアニーリングのような透明電極の作製における結晶化を促進させる工程の実施の有無および実施の程度によって調整することが可能である。
【0041】
[その他の層構成]
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、本実施形態における効果が発現される範囲において、前述以外の他の構成をさらに有していてもよい。このような他の構成は、一種でもそれ以上でもよく、その例には、透明粘着剤層、および、当該透明粘着剤層に当接し剥離可能な離型層が含まれる。
【0042】
透明粘着剤層は、透明導電圧電フィルムまたは後述のタッチパネルを構成する任意の層を他の層に接着可能な粘着性を有する透明な層である。透明粘着剤層は、透明性を有する粘着剤であればよい。このような透明粘着剤は、透明性と粘着性とを発現するベースポリマーを含有していてよい。ベースポリマーの例には、アクリル系ポリマー、シリコーン系ポリマー、ポリエステル、ポリウレタン、ポリアミド、ポリビニルエーテル、酢酸ビニル/塩化ビニルコポリマー、変性ポリオレフィン、エポキシ系ポリマー、フッ素系ポリマー、およびゴム系ポリマーが含まれる。ゴム系ポリマーの例には、天然ゴムおよび合成ゴムが含まれる。ベースポリマーは、上記の例から適宜に選択して用いることができる。透明粘着剤には、特に、光学的透明性に優れ、適度な濡れ性、凝集性および接着性等の粘着特性を示し、耐候性および耐熱性にも優れるという観点から、アクリル系粘着剤が好ましく用いられる。
【0043】
なお、透明導電圧電フィルムを構成する各層などの厚みは、透明導電圧電フィルムをエポキシ樹脂に包埋し、透明導電圧電フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断し、当該断面を走査型電子顕微鏡で観察することにより測定することが可能である。当該層の厚みは、当該層の厚みの代表値であればよく、任意の複数の測定値の平均値であってもよいし、当該測定値の最大値であってもよいし、当該測定値の最小値であってもよい。
【0044】
〔物性〕
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、85℃の環境に250時間放置したときの放置前の表面抵抗値の比に対する、放置後の表面抵抗値の比が1.30以下である。透明圧電フィルムを構成するフッ素樹脂は、PETなどの本技術分野で従来汎用されている、二軸延伸による樹脂製フィルムに比べて、一般に熱収縮性が強い。このため、高温環境下では透明圧電フィルムが膨張、収縮しやすい。透明導電圧電フィルムの上記の表面抵抗値の比が1.30以下であることは、高温環境に一時的でも置かれることがある場合に、透明導電圧電フィルムにおける透明圧電フィルムの変形が十分に抑制される。このため、当該透明圧電フィルムの変形による透明電極の剥離が防止され、透明導電圧電フィルムにおける抵抗値の変化が十分に抑制される。
【0045】
このような透明圧電フィルムの変形による透明導電圧電フィルムの抵抗値の変化をさらに抑制する観点から、上記の表面抵抗値の比は、1.25以下であることが好ましい。また、上記の表面抵抗値の比は、同様の観点から0.75以上であることが好ましく、0.85以上であることがより好ましい。当該表面抵抗値は、導電性を有する樹脂フィルムの表面抵抗値を測定可能な公知の方法によって測定することが可能である。また、上記表面抵抗値は、透明導電圧電フィルムの表面における導電性に応じて調整することが可能である。
【0046】
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、より直接的に、高温環境における寸法安定性を有していることが、透明導電圧電フィルムにおける上記の環境変化による抵抗値の変化を抑制する観点から好ましい。このような高温環境における寸法安定性は、熱機械分析(TMA)によって測定することが可能である。たとえば、タッチパネルの感圧センサの用途における透明導電圧電フィルムの線膨張係数は、透明圧電フィルムの垂直方向(TD方向)であれば、310×10-6K-1以下であることが好ましく、300×10-6K-1以下であることがより好ましい。線膨張係数は、例えば熱機械分析装置を用いて、JIS K7197-1991に記載の公知の方法に基づいて測定することが可能である。また、当該線膨張係数は、透明導電圧電フィルムにおいて、熱膨張しにくい材料を使用すること、あるいは、熱膨張による応力を緩和可能な材料または構造を採用すること、によって調整することが可能である。
【0047】
〔製法〕
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムの少なくとも一方の面上に0.6~4.5μmの総厚みを有する透明コーティング層を形成する工程と、透明コーティング層の表面に透明電極を形成する工程と、を含む方法によって製造することが可能である。
【0048】
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、前述した透明圧電フィルムを用い、前述した層を形成する以外は、公知の透明導電圧電フィルムと同様に製造することが可能である。たとえば、当該透明導電圧電フィルムは、透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明電極を有する層のそれぞれをこの順で重ねることによって製造されてもよい。あるいは、当該透明導電圧電フィルムは、透明圧電フィルムの表面に透明コーティング層を形成し、透明コーティング層の表面に透明電極を形成することによって製造されてもよい。
【0049】
透明コーティング層は、透明コーティング層を形成するための塗料を透明圧電フィルムに塗布する工程と、当該塗布する工程で形成された塗膜を固化する工程と、によって製造することができる。当該塗料を塗布する工程は、公知の塗工方法によって実施することが可能である。塗工方法の例には、スプレーコート、ロールコート、ダイコート、エアナイフコート、ブレードコート、スピンコート、リバースコート、グラビアコートおよび蒸着が含まれる。当該塗膜の厚みは、塗布回数または塗料の粘度によって適宜に調整することができる。
【0050】
固化する工程は、上記の塗料の塗膜を固化する公知の方法によって実施することが可能である。固化する方法の例には、乾燥、加熱または光照射による重合での硬化、が含まれる。透明コーティング層用の上記塗料は、ポリマーを含有していてもよいし、モノマーを含有していてもよいし、これらの両方を含有していてもよい。また、上記の塗料において、ポリマーが硬化をもたらす架橋構造を含んでいてもよいし、架橋構造を複数有する低分子化合物がさらに含有されていてもよい。さらに、当該塗料は、必要に応じて、当該重合反応を生じさせるための重合開始剤などの、固化のための添加剤を適宜に含有していてもよい。
【0051】
あるいは、透明コーティング層は、透明圧電フィルムと透明コーティング層とを共押出成形することによって、透明圧電フィルムと同時に製造してもよい。
【0052】
透明電極は、電極材料の塗料を用いて透明コーティング層に塗布することによって作製することができる。このような塗布は、前述したような公知の塗工方法によって実施することが可能である。あるいは、透明電極は、スパッタリングによって透明コーティング層上に作製することが可能である。さらに、透明電極は、その材料とそれに適した形態とに応じて、公知の方法によって作製することが可能である。
【0053】
たとえば、透明電極としてITO膜を形成する場合では、透明電極を形成する工程は、酸化インジウムおよび酸化スズを含有する焼結体を原料とする反応性スパッタリング法によって、透明コーティング層上に透明電極としてITOの薄膜を形成することが可能である。この工程によれば、非晶質のITO膜を低温で形成することができ、透明電極のパターニングのためのエッチングをより容易にする観点、製造の省エネルギー化の観点、および、透明導電圧電フィルムの製造における透明圧電フィルムの熱収縮の発生を抑制する観点から好適である。
【0054】
上記の透明電極を形成する工程では、その後に通常実施されるエッチングをより容易にする観点から、より低温な環境で実行されることが好ましい。このような観点から、反応性スパッタリングを、例えば80℃以下で実施することが好ましい。反応性スパッタリングにおける上記の温度は、反応熱による系内温度の上昇の範囲に含まれ得る。したがって、上記の温度に制御するための冷却を積極的に実施しなくてもよいが、上記の反応熱を除熱するための冷却装置を利用して系内の温度を積極的に制御してもよい。
【0055】
透明導電圧電フィルムの製造方法は、本実施形態の効果が得られる範囲において、前述した工程以外の他の工程をさらに含んでいてもよい。また、透明導電圧電フィルムの製造方法は、本実施形態の効果を獲得し、あるいはより高める観点から、特定の工程を含まなくてもよい。たとえば、当該製造方法は、透明電極を形成した透明電極のアニーリング工程を実施しないことが、透明電極のパターニングをより容易にする観点から好ましい。一般に、PETフィルム上にITOの透明電極層を形成する場合では、PETにITOをスパッタリングした後に、150℃前後で60~90分間程度、アニーリング処理が実行される。本実施形態では、上記のようなITOの結晶化を生じさせる熱処理を実施しないことにより、透明電極のパターニングをより容易に実施することが可能である。
【0056】
以下、図を用いて本発明の実施形態を説明する。
図1に示されるように、本発明の一実施形態に係る透明導電圧電フィルム10は、透明圧電フィルム1と、透明コーティング層2と、透明電極3とがこの順で直接重ねられて構成されている。
【0057】
透明圧電フィルム1は、前述したようにフッ素樹脂製である。透明コーティング層2は、例えば前述した(メタ)アクリル酸エステル樹脂製であり、透明圧電フィルム1の一方の表面上に重ねられている。透明電極3は、例えばITOの層であり、透明コーティング層2における透明圧電フィルム1とは反対側の表面上に形成されている。透明導電圧電フィルム10は、前述した透明粘着剤層によって他の構成部材に接着されることにより、タッチパネルなどの感圧センサに供される。
【0058】
また、
図2に示されるように、本発明の他の実施形態に係る透明導電圧電フィルム20は、透明圧電フィルム1と、透明コーティング層2と、透明電極3とがこの順で直接重ねられて構成されている。透明導電圧電フィルム20では、透明コーティング層2および透明電極3は、透明圧電フィルム1の両面側のそれぞれに配置されている。
【0059】
すなわち、透明圧電フィルム1の一方の表面上には、透明コーティング層2aが重ねられており、透明圧電フィルム1の他方の表面上には、透明コーティング層2bが重ねられている。また、透明コーティング層2aの表面上には、透明電極3aが形成されており、透明コーティング層2bの表面上には、透明電極3bが形成されている。透明導電圧電フィルム20も、透明導電圧電フィルム10と同様に、透明電極3a、3bのそれぞれが他の層に接着されることにより、タッチパネルなどの感圧センサにおける積層構造の一部に供される。
【0060】
〔タッチパネル〕
本発明の一実施形態のタッチパネルは、前述した本実施形態の透明導電圧電フィルムを有する。当該タッチパネルにおける透明導電圧電フィルムの位置および数は、タッチパネルの用途または所期の機能に応じて、適宜に決めることができる。
図3は、本発明の実施形態のタッチパネルにおける層構成の一例を模式的に示す図である。
【0061】
タッチパネル100は、
図3に示されるように、
図2に示される透明圧電積層フィルム20を透明電極4bとカバーガラス5とで挟んでなる構成を有している。また、透明圧電積層フィルム20とカバーガラス5との間には、透明圧電積層フィルム20からカバーガラス5へ向かって、透明基板6a、透明電極4a、透明粘着剤層3c、透明基板6c、透明電極4c、透明粘着剤層3dが、この順に重ねられて配置されている。また、透明圧電積層フィルム20と透明電極4bとの間には、透明基板6bが配置されている。このように、タッチパネル100は、透明電極4bと、透明圧電積層フィルム20と、カバーガラス5とがこの順に重ねられて構成されている。タッチパネル100を実用する場合、ディスプレイ30の表面に、タッチパネル100の透明電極4b側の表面を重ねて配置することができるが、これに限定されない。
【0062】
透明圧電積層フィルム20とカバーガラス5とは、透明粘着剤層3c、3d、透明電極4a、4c、および透明基板6a、6cを介して、透明粘着剤層3aによって接着されており、透明圧電積層フィルム20と透明電極4bとは、透明基板6bを介して、透明粘着剤層3bによって接着されている。また、透明電極4bの積層方向における透明圧電積層フィルム20の反対側には、有機EL表示パネルまたは液晶表示パネルなどの表示パネル、すなわちディスプレイ30が配置され得る。ディスプレイ30は、従来公知の表示パネルを採用することができるため、本明細書においては、その詳細な構成の説明は省略する。
【0063】
透明電極4a、4b、4cは、それぞれ透明基板6a、6b、6c上に形成され、透明基板6a、6b、6cとともにタッチパネル100中の所望の層に接着されていてもよいし、積層方向において透明電極4a、4b、4cが隣接する他の層の表面に直接形成され、透明粘着剤層3a、3b、3cまたは3dによって接着されてもよい。
【0064】
透明電極4a、4b、4cには、タッチパネルに用いることが可能な公知の透明電極を採用することができる。より詳しくは、透明電極4a、4b、4cは、実質的に透明な面状の電極であればよく、パターンを有する導電性の薄膜であってもよいし、極細の導電性の線材による平面的な構造であってもよい。透明電極4a、4b、4cを構成する材料は限定されず、In、Sn、Zn、Ga、Sb、Ti、Si、Zr、Mg、Al、Au、Ag、Cu、Pd、Wからなる群より選択される少なくとも一種の金属の金属酸化物が好適に用いられる。当該金属酸化物には、必要に応じて、上記群に示された金属原子をさらに含んでいてもよい。当該金属酸化物には、インジウム-スズ複合酸化物(ITO)、アンチモン-スズ複合酸化物(ATO)などが好ましく用いられ、ITOが特に好ましく用いられる。透明電極4a、4b、4cの他の代表的な材料の例には、銀ナノワイヤ、銀メッシュ、銅メッシュ、グラフェンおよびカーボンナノチューブが含まれる。透明基板6a、6b、6cには、上述の透明電極4a、4b、4cを支持する下地として用いることが可能な公知の透明なフィルムを採用することができる。透明基板6a、6b、6cを構成する材料は限定されず、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、シクロオレフィンポリマー(COP)が好適に用いられる。
【0065】
カバーガラス5は、タッチパネルのカバーガラスである。タッチパネル用のシート状の光透過部材であればよく、カバーガラス5のようなガラス板であってもよいし、透明樹脂シートであってもよい。
【0066】
本発明の実施形態におけるタッチパネルは、本実施形態の効果が得られる範囲において、他の構成をさらに含んでいてもよい。
【0067】
また、発明の実施形態におけるタッチパネルは、前述した本発明の実施形態の透明導電圧電フィルムを積層構造中に含んでいればよい。積層方向における当該タッチパネル中における当該透明導電圧電フィルムの位置は、本発明の実施形態の効果が得られる範囲において適宜に決めてよい。
【0068】
たとえば、本発明の実施形態のタッチパネルは、GFFタイプまたはGF2タイプなどの従来のタッチパネルにおける積層構造中に、本実施形態における透明導電圧電フィルムを適宜に追加した構成を有していてもよい。この場合、本実施形態の透明導電圧電フィルムには、圧力を検出するための透明電極層および位置を検出するための位置センサが、直接積層されてもよいし、粘着剤層を介して接着されてもよい。このような構成を有するタッチパネルは、従来のタッチパネルの機能に加えて、透明導電圧電フィルムに起因する機能をさらに発現することができ、例えば透明な積層構造中に位置センサと圧力センサの両方を含むタッチパネルを構成することが可能である。
【0069】
〔作用効果〕
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、前述したように、透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明電極がこの順で重ねられて構成されており、透明コーティング層は特定の厚みを有する。このため、特定の高温高湿環境下での表面抵抗値の変化を十分に抑制することが可能である。
【0070】
フッ素樹脂としてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)フィルムは、優れた圧電特性を有している。一方で、PVDF製の圧電フィルムは、前述したように、従来、透明圧電フィルムで汎用されているPET製のフィルムに比べて高い熱収縮性を有している。このため、高温環境下で収縮しやすく、そのために抵抗値などの電気特性が変化してしまうことがある。この点、PVDF製の圧電フィルムは、従来のPET製のフィルムを含む静電容量式タッチセンサに比べて、上記の熱収縮による電気特性の変化の傾向がより顕著となることがある。
【0071】
本実施形態では、このようなフッ素樹脂製の透明圧電フィルム上に所定の厚みの透明コーティング層を形成することにより、高温または高湿環境にて保存されているときの透明導電圧電フィルムの抵抗増加が抑制される。
【0072】
なお、上記の抵抗の増加は、透明圧電フィルムが熱収縮するためにITOなどの透明電極が割れ、あるいは透明圧電フィルムと透明電極との剥離が生じるため、と推察される。このような割れまたは剥離による層構造の異常は、走査型電子顕微鏡(SEM)によって観察することが可能である。本実施形態では、当該層構造の異常の発生が十分に抑制されるために、上記環境による抵抗増加が抑制されると考えられる。
【0073】
さらに、透明電極が実質的に非晶質であることは、透明電極のエッチングを容易する観点から好適と考えられる。
【0074】
本実施形態の透明導電圧電フィルムは、透明性と電気特性の安定性とを有することから、タッチパネルでは、積層方向において静電容量式タッチパネルに隣接して配置することが可能となる。よって、タッチパネルにおいて位置と圧力とを近接した層構成で検知することが可能となる。したがって、従来より簡素な構成でタッチパネルを実現することが可能となる。
【0075】
また、本実施形態の透明導電圧電フィルムは、積層構造中に、透明の圧電層として配置することが可能である。
【0076】
〔変形例〕
透明コーティング層は、平面状に形成されていなくてもよく、たとえば格子状のようなパターンを有するように形成されていてもよい。透明コーティング層が複数の層で構成される場合では、複数の層の一部が上記パターンを有していてもよいし、全部が上記パターンを有していてもよい。パターンは、同一であっても異なっていてもよい。
【0077】
〔まとめ〕
以上の説明から明らかなように、本発明の実施形態の透明導電圧電フィルムは、フッ素樹脂製の透明圧電フィルム、透明コーティング層および透明電極がこの順で重ねられて構成されており、コーティング層の総厚みは、0.6~4.5μmであり、85℃の環境に250時間放置したときの放置前の表面抵抗値の比に対する、放置後の表面抵抗値の比が1.30以下である。また、本発明の実施形態のタッチパネルは、当該透明導電圧電フィルムを有する。したがって、当該透明導電圧電フィルムおよびタッチパネルは、いずれも、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムを有する透明導電圧電フィルムにおいて、高温環境下による表面抵抗値の変化の抑制を実現することができる。
【0078】
本発明の実施形態の透明導電圧電フィルムにおける熱機械分析で求められる線膨張係数が310×10-6K-1以下であることは、高温環境下における寸法安定性と表面抵抗値の変化の抑制とを高める観点からより一層効果的である。
【0079】
本発明の実施形態において、透明電極は、インジウム-スズ複合酸化物で構成されており、X線回折におけるインジウム-スズ複合酸化物のピークが検出されないことは、透明電極のエッチングを容易に実行する観点からより一層効果的である。
【0080】
本発明の実施形態において、透明コーティング層が(メタ)アクリル酸エステル樹脂製であることは、透明性、耐変色性、および、環境による変形に対する寸法安定性、を高める観点からより一層効果的である。
【0081】
また、本発明の実施形態における透明導電圧電フィルムの製造方法は、フッ素樹脂製の透明圧電フィルムの少なくとも一方の面上に0.6~4.5μmの総厚みを有する透明コーティング層を形成する工程と、透明コーティング層の表面に、85℃の環境に250時間放置したときの放置前の表面抵抗値の比に対する、放置後の表面抵抗値の比が1.30以下である透明電極を形成する工程と、を含む。したがって、本発明の実施形態は、高温環境下による表面抵抗値の変化の抑制を実現可能な本発明の実施形態の透明導電圧電フィルムを提供することができる。
【0082】
本発明の実施形態において、透明電極を形成する工程では、酸化インジウムおよび酸化スズを含有する焼結体を原料とする反応性スパッタリング法によって、透明コーティング層上に透明電極としてインジウム-スズ複合酸化物の薄膜を形成することは、高い導電性を有し、割れまたは剥がれが生じにくい透明電極を形成する観点からより一層効果的である。
【0083】
本発明の実施形態において、透明電極を形成する工程では、反応性スパッタリングを80℃以下の温度で実施することは、上記の製造方法において透明電極のエッチングを容易に実行する観点からより一層効果的である。
【0084】
また、本発明の実施形態において、透明電極を形成する工程で形成した透明電極のアニーリング処理を実施しないことが、上記の製造方法において透明電極のエッチングを容易に実行する観点からより一層効果的である。
【0085】
本発明は、上述した各実施形態に限定されず、請求項に示した範囲で種々の変更が可能である。異なる実施形態にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。
【実施例】
【0086】
〔実施例1〕
インヘレント粘度が1.3dl/gであるポリフッ化ビニリデン(株式会社クレハ製)から成形された樹脂フィルム(厚さ、120μm)を、表面温度110℃に加熱されている予熱ロールに通した。続いて、予熱ロールに通したフィルムを表面温度120℃に加熱されている延伸ロールに通し、延伸倍率が4.2倍になるように延伸した。延伸後、フィルムを分極ロールに通して分極処理を行い、圧電フィルムを得た。その際、直流電圧は0kVから13.5kVへと増加させながら印加することで分極処理を行った。分極処理後のフィルムをさらに130℃で1分間熱処理することで、厚みが40μmの透明圧電フィルムを得た。
【0087】
次に、透明圧電フィルムの片面(第一主面)に、バーコーターにてハードコート剤(「TYAB-M101」、トーヨーケム株式会社製)を塗布し、80℃で2分間乾燥させた。
【0088】
次に、ハードコート剤の乾燥させた塗膜に、UV照射装置CSOT-40(株式会社GSユアサ製)を用い、400mJ/cm2の積算光量でUVを照射した。こうして、厚みが2.0μmの透明コーティング層を片面に有するフィルムを得た。
【0089】
次に、透明コーティング層上に、90質量%の酸化インジウムおよび10質量%の酸化スズを含有する焼結体材料をターゲットとして用いる下記条件での反応性スパッタリング法により、透明導電層である厚み40nmのITO膜を形成した。こうして、透明電極のアニーリング処理を実施することなく、透明導電圧電フィルムを得た。
<条件>
初期圧力:到達真空度が7.0×10-4Pa以下
供給ガスの種類:Ar、O2
供給ガスの圧力:Ar:O2=100:1
【0090】
〔実施例2〕
透明コーティング層の厚みを1.5μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0091】
〔実施例3〕
透明コーティング層の厚みを1.0μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0092】
〔実施例4〕
実施例1におけるポリフッ化ビニリデン樹脂フィルムの分極処理における直流電圧を11.8kVに変更した。ハードコート剤に、「TYAB-M101」(トーヨーケム株式会社製)に代えて「BS CH271」(荒川化学工業株式会社製)を使用した。そして、透明圧電フィルムの第一主面に厚み0.4μmの透明コーティング層を形成し、さらに透明圧電フィルムのもう一方の片面(第二主面)に厚み0.4μmの透明コーティング層を形成した。そして第一主面側の透明コーティング層の表面に、実施例1と同様にしてITO膜を形成して透明導電圧電フィルムを得た。
【0093】
〔実施例5〕
第一主面上および第二主面上のそれぞれの透明コーティング層の厚みを0.7μmにする以外は実施例4と同様にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0094】
〔実施例6〕
第一主面上に厚み1.0μmの透明コーティング層を形成し、第二主面上に厚み0.9μmの透明コーティング層を形成する以外は実施例4と同様にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0095】
〔実施例7〕
第一主面上に厚み1.9μmの透明コーティング層を形成し、第二主面上に厚み2.1μmの透明コーティング層を形成する以外は実施例4と同様にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0096】
〔比較例1〕
透明コーティング層の厚みを0.4μmに変更したこと以外は実施例1と同様にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0097】
〔比較例2〕
透明コーティング層を形成せず、透明圧電フィルムにITO膜を形成したこと以外は実施例1にして、透明導電圧電フィルムを得た。
【0098】
〔評価〕
[透明コーティング層の厚み]
実施例1~7および比較例1の透明導電圧電フィルムのそれぞれをエポキシ樹脂に包埋し、透明導電圧電フィルムの断面が露出するようにエポキシ樹脂隗を切断した。露出した透明導電圧電フィルムの断面を、走査型電子顕微鏡(「SU3800」、株式会社日立ハイテク製)を用いて加速電圧3.0kV、倍率50,000倍の条件で観察し、透明導電圧電フィルム中の透明コーティング層の厚みを測定した。
【0099】
なお、透明コーティング層の厚みの測定において、当該透明コーティング層のうちの2ヶ所の厚みを測定し、その平均値を透明コーティング層の厚みとした。なお、上記の観察条件において、透明コーティング層の界面は、ほぼ滑らかな線として観察され、透明コーティング層の厚みの測定では、当該線間の距離を測定した。
【0100】
[透明導電層の厚み]
実施例1~7、比較例1および比較例2の透明導電圧電フィルムのそれぞれの断面を、上記走査型電子顕微鏡を用いて、加速電圧3.0kV、倍率50,000倍の条件で観察し、各ITO膜の二か所で厚みを測定した。得られた測定値の平均値を算出し、透明導電層の厚みとした。
【0101】
[初期接着力]
実施例1~7、比較例1および比較例2の透明導電圧電フィルムにおける、透明導電層であるITO膜の付着性を、ASTM試験法 D3359に準拠して測定した。
【0102】
[線膨張係数]
実施例1~7、比較例1および比較例2の透明導電圧電フィルムのそれぞれについて、JIS K7197-1991に準拠して、透明圧電フィルムの垂直方向(TD方向)における、常温(25℃)から85℃の線膨張係数を測定した。当該線膨張係数の測定には、熱機械分析装置(「TMA8311」、リガク社製)を用い、下記式を用いて平均線膨張係数(CTE)を算出し、透明導電圧電フィルムの線膨張係数とした。下記式中、「lr」は常温における試料の長さを表し、「l1」は温度T1(℃)における試料の長さを表し、「l2」は温度T2(℃)における試料の長さを表す。「t1」は25℃であり、「t2」は85℃である。
【0103】
【0104】
当該線膨張係数が310×10-6K-1以下であれば、タッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0105】
[高温環境下での表面抵抗特性]
実施例1~7、比較例1および比較例2の透明導電圧電フィルムのそれぞれを、85℃の雰囲気に制御された恒温槽(「エコナスLH34-14M」、ナガノサイエンス株式会社製)内に500時間置いた。
【0106】
上記の雰囲気内に置く前(0時間)と、上記の環境にt時間置かれた後とで、透明導電圧電フィルムの表面抵抗値を測定した。表面抵抗値の測定には、抵抗率計(「LorestaGP MCP-T700」、日東精工アナリテック株式会社製)を使用し、JIS K7194に準拠して表面抵抗値を測定した。測定は計3回行い、3回の平均値を代表値とした。そして、上記の雰囲気内に置く前の表面抵抗値(R0)に対する上記雰囲気におけるt時間での表面抵抗値(Rt)の比Rt/R0を求めた。250時間における上記比(R250/R0)が1.30以下であれば、タッチパネルの用途において実用上問題ないと判断することができる。
【0107】
[圧電特性]
実施例1~7、比較例1および比較例2の透明導電圧電フィルムのそれぞれの圧電定数d33を、圧電定数測定装置(「ピエゾメーターシステムPM300」、PIEZOTEST社製)を用いて、0.2Nでサンプルをクリップし、0.15N、110Hzの力を加えた際の発生電荷を読み取った。圧電定数d33の実測値は、測定されるフィルムの表裏によって、プラスの値、またはマイナスの値となるが、本明細書中においては絶対値を記載した。いずれの透明導電圧電フィルムのd33も、6.0~30の範囲内であり、タッチパネルの用途において実用上十分な圧電特性を有することを確認した。
【0108】
[ITO由来の回折ピーク]
実施例1~7、比較例1および比較例2の透明導電圧電フィルムのそれぞれについて、ITO膜のX線回折におけるITO由来の回折ピークの有無を測定した。当該回折ピークの有無は、X線回折装置(XRD)を用いるITO膜の表面のインプレーン(In-Plane)法によって測定した。当該測定において、回折角(2θ)=15.0~70.0°の範囲を走査速度1°/分で走査した。測定条件の詳細を以下に示す。ITO由来の回折ピークが測定される場合を「d.」とし、測定されない場合を「n.d.」とする。
<測定条件>
装置:株式会社リガク製SmartLab
X線源:Cu-Kα(λ=1.5418Å) 40kV 30mA
検出器:SC-70
ステップ幅:0.04°
スキャン範囲:15.0~70.0°
スリット:入射スリット=0.2mm
長手制御スリット=10mm
受光スリット=20mm
【0109】
上記の評価の結果を表1に示す。また、実施例および比較例における高温高湿環境の表面抵抗値への経時的な影響を
図4に示す。
【0110】
【0111】
〔考察〕
表1および
図4から明らかなように、実施例1~7の透明導電圧電フィルムは、いずれも、R
250/R
0が十分に低く、また十分な透明性を有している。これは、透明導電圧電フィルムが十分な厚みの透明コーティング層を有することにより、高温高湿環境下における当該フィルムの熱収縮が抑制され、熱収縮に伴うITOのクラック発生または剥がれの発生を十分に抑制することができたためと考えられる。
【0112】
これに対して、比較例1、2の透明導電圧電フィルムは、いずれも、R250/R0が比較的高い。これは、透明圧電フィルムが熱により収縮したことにより、ITOの割れ、あるいは当該フィルムとITOとの剥離が生じたためと考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0113】
本発明は、タッチパネルに利用することができる。
【符号の説明】
【0114】
1 透明圧電フィルム
2、2a、2b 透明コーティング層
3、3a、3b、3c、3d 透明電極
4a、4b、4c 透明粘着剤層
5 カバーガラス
6a、6b、6c 透明基板
10、20 透明導電圧電フィルム
30 ディスプレイ
100 タッチパネル