(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】改変された免疫グロブリンFc領域
(51)【国際特許分類】
C12N 15/13 20060101AFI20240213BHJP
C12N 15/63 20060101ALI20240213BHJP
C12N 1/15 20060101ALI20240213BHJP
C12N 1/19 20060101ALI20240213BHJP
C12N 1/21 20060101ALI20240213BHJP
C12N 5/10 20060101ALI20240213BHJP
C12P 21/08 20060101ALI20240213BHJP
A61K 39/395 20060101ALI20240213BHJP
A61K 35/76 20150101ALI20240213BHJP
A61K 48/00 20060101ALI20240213BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20240213BHJP
A61K 47/54 20170101ALI20240213BHJP
A61K 47/68 20170101ALI20240213BHJP
G01N 33/53 20060101ALI20240213BHJP
C07K 16/28 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/63 Z
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
C12P21/08
A61K39/395 D
A61K39/395 N
A61K35/76
A61K48/00
A61P43/00 111
A61K47/54
A61K47/68
G01N33/53 D
G01N33/53 Y
C07K16/28
(21)【出願番号】P 2022571805
(86)(22)【出願日】2021-05-20
(86)【国際出願番号】 GB2021051233
(87)【国際公開番号】W WO2021234402
(87)【国際公開日】2021-11-25
【審査請求日】2022-12-16
(32)【優先日】2020-05-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】522455076
【氏名又は名称】マブソルヴ・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】ジェフリー・ヘイル
(72)【発明者】
【氏名】イアン・ウィルキンソン
【審査官】松井 一泰
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-523408(JP,A)
【文献】特表2015-526429(JP,A)
【文献】国際公開第2019/211472(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/052692(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C07K 1/00- 19/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バリアントFc領域を含む
抗体であって、バリアントFc領域は、
(a)234位と235位の両方におけるアミノ酸置換;及び
(b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更
を含み;
(i)234位で置換されるアミノ酸は、D、E、G、H、K、Q、R、S、Tから選択され;
(ii)235位で置換されるアミノ酸は、A、D、E、G、H、I、K、Q、R、S、T、Vから選択され;
(iii)アミノ酸の番号付けは、Kabatに記載の通りのEUインデックスに従い;且つ
(iv)前記
抗体のヒトFcγRIへの結合は、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、
そのFc領域が配列番号2を含むことを除いて前記抗体と本質的に同一であるLALAPG参照タンパク質の結合の50%未満である、
抗体。
【請求項2】
前記アミノ酸置換及び変更の結果としての荷電アミノ酸残基の正味の変化は、1つ以下である、請求項1に記載の
抗体。
【請求項3】
表面プラズモン共鳴によって測定した場合、LALAPG参照タンパク質の結合が40応答単位より大きい条件下で、
抗体のヒトFcγRIへの結合が、20応答単位未満である、請求項1又は2に記載の
抗体。
【請求項4】
バリアントFc領域が、ヒトIgG1、ヒトIgG2、ヒトIgG3又はヒトIgG4であるか、又はそれから誘導される、請求項1から3のいずれか一項に記載の
抗体。
【請求項5】
バリアントIgG Fc領域又はバリアントCγ2ドメインを含む
抗体であって、バリアントIgG Fc領域又はバリアントCγ2ドメインは、(a)L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235H/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235I/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235H/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234R/L235T/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換の組合せを含むバリアントFc領域若しくはバリアントCγ2ドメイン;(b)V234A/A235S/Δ236R、V234A/A235T/Δ236R、V234D/A235H/Δ236R、V234D/A235K/Δ236R、V234D/A235Q/Δ236R、V234D/A235S/Δ236R、V234D/A235T/Δ236R、V234E/A235D/Δ236R、V234E/A235H/Δ236R、V234E/A235I/Δ236R、V234E/A235V/Δ236R、V234G/A235H/Δ236R、V234G/A235Q/Δ236R、V234G/A235S/Δ236R、V234H/A235I/Δ236R、V234H/A235S/Δ236R、V234K/A235Q/Δ236R、V234K/A235R/Δ236R、V234K/A235S/Δ236R、V234K/A235T/Δ236R、V234K/A235V/Δ236R、V234Q/A235D/Δ236R、V234Q/A235H/Δ236R、V234Q/A235Q/Δ236R、V234Q/A235R/Δ236R、V234Q/A235S/Δ236R、V234Q/A235T/Δ236R、V234Q/A235V/Δ236R、V234R/A235D/Δ236R、V234R/A235E/Δ236R、V234R/A235H/Δ236R、V234R/A235I/Δ236R、V234R/A235K/Δ236R、V234R/A235L/Δ236R、V234R/A235Q/Δ236R、V234R/A235R/Δ236R、V234R/A235T/Δ236R、V234S/A235D/Δ236R、V234S/A235E/Δ236R、V234S/A235G/Δ236R、V234S/A235H/Δ236R、V234S/A235I/Δ236R、V234S/A235L/Δ236R、V234S/A235R/Δ236R、V234S/A235T/Δ236R、V234S/A235V/Δ236R、V234T/A235I/Δ236R、V234T/A235K/Δ236R、V234T/A235Q/Δ236R、V234T/A235R/Δ236R、V234T/A235S/Δ236R、V234T/A235T/Δ236R、V234T/A235V/Δ236Rから選択されるアミノ酸の変更の組合せを含むバリアントヒトIgG2 Fc領域若しくはバリアントIgG2 Cγ2ドメイン;又は(c)F234A/L235A/G236R、F234A/L235S/G236R、F234A/L235T/G236R、F234D/L235H/G236R、F234D/L235K/G236R、F234D/L235Q/G236R、F234D/L235S/G236R、F234D/L235T/G236R、F234E/L235D/G236R、F234E/L235H/G236R、F234E/L235I/G236R、F234E/L235V/G236R、F234G/L235H/G236R、F234G/L235Q/G236R、F234G/L235S/G236R、F234H/L235I/G236R、F234H/L235S/G236R、F234K/L235Q/G236R、F234K/L235R/G236R、F234K/L235S/G236R、F234K/L235T/G236R、F234K/L235V/G236R、F234Q/L235A/G236R、F234Q/L235D/G236R、F234Q/L235H/G236R、F234Q/L235Q/G236R、F234Q/L235R/G236R、F234Q/L235S/G236R、F234Q/L235T/G236R、F234Q/L235V/G236R、F234R/L235D/G236R、F234R/L235E/G236R、F234R/L235H/G236R、F234R/L235I/G236R、F234R/L235K/G236R、F234R/L235Q/G236R、F234R/L235R/G236R、F234R/L235T/G236R、F234S/L235D/G236R、F234S/L235E/G236R、F234S/L235G/G236R、F234S/L235H/G236R、F234S/L235I/G236R、F234S/L235R/G236R、F234S/L235T/G236R、F234S/L235V/G236R、F234T/L235A/G236R、F234T/L235I/G236R、F234T/L235K/G236R、F234T/L235Q/G236R、F234T/L235R/G236R、F234T/L235S/G236R、F234T/L235T/G236R、F234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換の組合せを含むバリアントヒトIgG4 Fc領域若しくはバリアントIgG4 Cγ2ドメインのいずれかであり;(i)アミノ酸の番号付けは、Kabatに記載の通りのEUインデックスに従い;(ii)前記
抗体のヒトFcγRIへの結合は、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、
そのFc領域が配列番号2を含むことを除いて前記抗体と本質的に同一であるLALAPG参照タンパク質の結合の50%未満である、
抗体。
【請求項6】
バリアントFc領域又はバリアントCγ2ドメインが、L234G/L235S/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換の組合せを含む、請求項5に記載の
抗体。
【請求項7】
請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体をコードする配列を含む核酸。
【請求項8】
請求項7に記載の核酸を含む組成物。
【請求項9】
請求項7に記載の核酸を含むベクター。
【請求項10】
請求項7に記載の核酸;請求項8に記載の組成物;又は請求項9に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体を作製する方法であって、(a)請求項10に記載の細胞を培養する工程;及び(b)
抗体を単離する工程を含む、方法。
【請求項12】
請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体を含むコンジュゲート。
【請求項13】
請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体又は請求項12に記載のコンジュゲートを含む組成物。
【請求項14】
IgG Fc領域又はCγ2ドメインを含む
抗体の、Fcによって媒介される結合又はFcによって媒介されるエフェクター機能を低減させる方法であって、(a)請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体をコードする遺伝子を、設計し、合成し、発現させる工程;及び(b)
抗体を単離する工程を含む、方法。
【請求項15】
請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体;又は請求項12に記載のコンジュゲート;又は請求項8若しくは13に記載の組成物;又は請求項9に記載のベクターを含む、哺乳動物を処置するための医薬。
【請求項16】
医薬として使用するための、請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体、又は請求項12に記載のコンジュゲート、又は請求項8若しくは13に記載の組成物、又は請求項9に記載のベクターであって、前記
抗体の低減されたエフェクター機能は、(a)有害な臨床作用の可能性を低減させるか;(b)有益な臨床作用の可能性を増加させるか;又は(c)参照タンパク質と比較して、より高い用量、より高頻度の用量又はより多くの用量の使用を容易にする、
抗体、又はコンジュゲート、又は組成物、又はベクター。
【請求項17】
Fcγ受容体への結合を達成するリスクをなくすか又は低減させるための調査又は診断又は品質管理のための試験システムにおける使用のための、請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体、又は請求項12に記載のコンジュゲート、又は請求項8若しくは13に記載の組成物、又は請求項9に記載のベクター。
【請求項18】
酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光ベースのアッセイ、免疫組織化学試験又は画像診断試験における使用のための、請求項17に記載の
抗体、コンジュゲート、組成物、又はベクター。
【請求項19】
請求項1から6のいずれか一項に記載の
抗体、又は請求項12に記載のコンジュゲート、又は請求項8若しくは13に記載の組成物、又は請求項9に記載のベクターを含む、調査又は診断又は品質管理における使用のための試験システム又はキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、本質的にFc受容体への結合を消去する突然変異を有するバリアント免疫グロブリンFc領域を含むタンパク質に関する。
【背景技術】
【0002】
抗体は、典型的には、構造的及び機能的に別個の領域で構成される。可変領域は、抗原との結合に関与し、それに対して定常領域は、C1qやFc受容体等の様々なリガンドと相互作用し、特定の生理学的な性能又はエフェクター機能を抗体に付与する。
【0003】
ヒトにおいて、IgGと相互作用して免疫応答を開始させるFcγ受容体の3つのクラス:FcγRI(CD64)、FcγRII(CD32)及びFcγRIII(CD16)がある(Bruhns2009)。これらの受容体の1つ又は複数は、T細胞を除きほとんど全ての白血球の表面上で見出される。それらが媒介する応答としては、サイトカインの放出、B細胞の活性化及び分化、エンドサイトーシス、貪食並びに細胞傷害性が挙げられる。各受容体は、IgG Fc領域に結合するアルファ鎖を特徴とし、アルファ鎖の細胞質内部分又は会合した膜タンパク質のいずれかでシグナル伝達モチーフと会合する。
【0004】
FcγRIは、相対的に高親和性でヒトIgG1及びIgG3に結合し、それより低い親和性でIgG4に結合し、単球及びマクロファージ上で見出され、免疫複合体の貪食及び免疫メディエーターの放出に関与する。FcγRIIは、異なる機能と細胞分布を有する3つの形態で存在する。それらは、IgG1及びIgG3に低い親和性を有するが、凝集したIgGとより貪欲に結合する。FcγRIIAは、単球、顆粒球及び血小板上で発現される。これは、その細胞質内の尾部に、細胞活性化を媒介するITAMモチーフを有する。1つの対立遺伝子はまた、IgG2とも結合する。FcγRIIBはB細胞に見出され、細胞活性化をブロックするITIMモチーフを有する。FcγRIIIの2つの形態がある。両方とも、モノマーのIgG1及びIgG3に対して中程度の親和性を有する。FcγRIIIAは、他のFcRと同様に、膜貫通糖タンパク質である。これは、単球、マクロファージ、NK細胞及び一部のT細胞上に見出され、ITAMモチーフを有する別々の膜タンパク質と会合している。FcγRIIIBは、好中球上に見出される脂質アンカー型糖タンパク質である。IgGへの結合及び/又は機能的な活性の点で異なる、FcγRIIIの両方の形態の異なる対立遺伝子がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO199958572
【文献】WO2006076594
【文献】WO2006047350
【文献】WO2006053301
【文献】WO2011066501
【文献】WO2013165690
【文献】WO2012130831
【文献】WO2014108483
【文献】US20060235208
【文献】US6194551
【文献】US8969526
【文献】US10011660
【文献】WO2000042072
【文献】WO2006033386
【文献】WO2008145142
【文献】WO2010063785
【文献】US2017029521
【文献】WO2012022982
【非特許文献】
【0006】
【文献】Dictionary of Microbiology and Molecular Biology、第3版、2006年、John Wiley & Sons Ltd
【文献】Oxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、第2版、2006年、Oxford University Press
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
驚くべきことに、本発明者らは、識別可能なFcγRIへの結合を有する公知のバリアントFc領域で見られるものより有意に低いFcγRIへの結合をもたらすアミノ酸置換の新しいセットを含むバリアントFc領域を含有するタンパク質を同定した。本発明者らは、バリアントIgG Fcドメイン又は領域を含むタンパク質であって、アミノ酸置換L234A/L235A/P329Gを含む参照タンパク質と比較して、有意に低減したヒトFcγRIへの結合を呈示する、タンパク質を提供する。親タンパク質においてFcによって誘導されるエフェクター機能を低減させるための、組成物、処置の方法及び方法も提供される。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の態様において、バリアントFc領域又はバリアントCγ2ドメインを含むタンパク質であって、バリアントFc領域又はバリアントCγ2ドメインは、(a)234位におけるアミノ酸置換若しくは235位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換;及び(b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更を含み、アミノ酸の番号付けは、Kabatに記載の通りのEUインデックスに従い、タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、LALAPG参照タンパク質の結合と比較して有意に低減される、タンパク質が提供される。
【0009】
本発明の第2の態様において、バリアントIgG Fc領域を含むタンパク質であって、バリアントIgG Fc領域は、請求項19で定義される群から選択されるアミノ酸置換の組合せを含み、アミノ酸の番号付けは、Kabatに記載の通りのEUインデックスに従う、タンパク質が提供される。
【0010】
本発明の第3の態様において、上記で定義された通りのタンパク質をコードする配列を含む核酸が提供される。
【0011】
更なる態様において、上記で定義された核酸を含む、組成物、ベクター又は宿主細胞が提供される。
【0012】
更なる態様において、上記で定義されたタンパク質を作製する方法であって、(a)上記で定義された宿主細胞を培養する工程;及び(b)タンパク質を単離する工程を含む、方法が提供される。
【0013】
更なる態様において、上記で定義されたタンパク質を含むコンジュゲート又は組成物が提供される。
【0014】
更なる態様において、IgG Fc領域を含むタンパク質のFcによって媒介されるエフェクター機能を低減させる方法であって、(a)上記で定義されたタンパク質をコードする遺伝子の合成及び発現を設計する工程、及び(b)タンパク質を単離する工程を含む、方法が提供される。
【0015】
更なる態様において、哺乳動物を処置する方法であって、有効量の、上記で定義されたタンパク質、コンジュゲート、組成物又はベクターを哺乳動物に投与する工程を含む、方法が提供される。
【0016】
更なる態様において、医薬として使用するための、上記で定義されたタンパク質、コンジュゲート、組成物又はベクターであって、前記タンパク質の低減されたエフェクター機能は、(a)有害な臨床作用の可能性を低減させるか、(b)有益な臨床作用の可能性を増加させるか、又は(c)参照タンパク質と比較して、より高い用量、より高頻度の用量又はより多くの用量の使用を容易にする、タンパク質、コンジュゲート、組成物又はベクターが提供される。
【0017】
更なる態様において、調査又は診断又は品質管理のための試験システムにおける使用のための、例えば酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光ベースのアッセイ、免疫組織化学試験又は画像診断試験における使用等のための、上記で定義されたタンパク質、コンジュゲート、組成物又はベクターが提供される。
【0018】
ここで、以下の非限定的な図面を参照しながら本発明を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】ヒトIgG2、ヒトIgG2、ヒトIgG4、マウスIgG2a、ラットIgG2b及びウサギIgGからの野生型免疫グロブリンFc領域のアミノ酸配列のアライメントを示す図である。残基は、EUインデックスに従って番号付けされる。本明細書に記載される様々なバリアントにおいて変更されたアミノ酸残基は、ボックスで強調される。
【
図2】NanoBiT(登録商標)FcRnイムノアッセイにおけるヒトIgGに対する用量応答を示す図である。発光応答(二連の平均)は、ヒトIgGの濃度に対してプロットされる。
【
図3】ADCCアッセイにおける野生型CD20参照抗体に対する用量応答を示す図である。発光応答(8回の反復の平均)は、1000ng/mLにおける応答のパーセンテージとして平均の標準偏差と共にプロットされる。
【
図4】ADCPアッセイにおける野生型CD20参照抗体に対する用量応答を示す図である。発光応答(4回の反復の平均)は、1000ng/mLにおける応答のパーセンテージとして平均の標準偏差と共にプロットされる。
【
図5】
図5A~
図5Dは、10μg/mLの最終濃度での野生型又はバリアントCD3抗体での刺激後の、5人の健康なドナーからの末梢血単核細胞からのサイトカインの放出を示す図である。
【
図6】野生型及びバリアントCD20抗体の試料から放出された炭水化物の親水性相互作用液体クロマトグラフィーによる分析を示す図である。表5に記載された通りの試料を、HEK細胞から(
図6A)又はHEK細胞及びCHO細胞から(
図6B)調製した。
【発明を実施するための形態】
【0020】
定義
この発明で使用される特定の用語の意味は、文献で使用される類似の用語の意味と異なっている場合がある。このような用語の定義は、この発明の文脈において、以下に提供される。
【0021】
別段の指定がない限り、全ての専門用語や科学用語は、この発明が関連する分野における当業者により一般的に理解されるのと同じ意味を有する。例えば、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology、第3版、2006年、John Wiley & Sons Ltd及びOxford Dictionary of Biochemistry and Molecular Biology、第2版、2006年、Oxford University Pressは、この発明で使用される用語のうち多くの一般的な辞書を提供する。
【0022】
アミノ酸は、それらの一般的に公知の三文字記号か、又はIUPAC-IUB生化学命名委員会によって推奨された一文字記号のいずれかによって言及することができる。同様にヌクレオチドは、それらの一般的に容認された一文字表記によって言及することができる。
【0023】
本明細書及び特許請求の範囲にわたり、免疫グロブリンにおけるアミノ酸残基の番号付けは、ヒトIgG1 EU骨髄腫タンパク質の番号付けである(「EUインデックス」)。
【0024】
およそ。数値Xに関する用語「約」又は「およそ」は、例えば、Xプラス又はマイナス20%を意味する。
【0025】
親和性。用語「親和性」は、2つの分子(例えば免疫グロブリンFc領域及びFc受容体)が、非共有結合によって、すなわち共有結合による化学結合の形成を含まない相互作用の手段によって会合する(結合する)傾向を意味する。2つの分子が互いに親和性を有する場合、それは、それらを特異的に非共有結合によって会合させて複合体又は複合体を形成するのに好都合な傾向があることを意味する。本出願の目的に関して、親和性の規模は、温度、塩濃度及びpHの特定の条件下における相互作用に関する会合定数を得るために、遊離の分子及び複合体の濃度の比率に対して定義することができる。代替として、これは、相対的な親和性と定義される場合もあり、これは、標的分子(例えばFc受容体)に結合する目的の分子(例えばバリアントFc領域)及び同じ実験条件下で同じ標的分子に結合する参照分子(例えば野生型参照、LALAPG参照又はLALA参照)に関する会合定数と相関する測定値の比率である。
【0026】
アミノ酸の変更。用語「アミノ酸の変更」は、予め決定されたアミノ酸配列のアミノ酸配列における変化を指す。例示的な変更としては、アミノ酸残基の置換、挿入又は欠失が挙げられる。置換又は挿入されたアミノ酸残基は、天然に存在するアミノ酸残基(すなわち遺伝子コードによってコードされた)である。
【0027】
アミノ酸欠失。用語「アミノ酸欠失」は、予め決定されたアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸の欠失を指す。本明細書及び特許請求の範囲にわたり、アミノ酸欠失は、XnnnΔのように記載される場合があり、式中、Xは、予め決定されたアミノ酸配列における残基の一文字表記であり、nnnは、EUインデックスで定義されたその配列における位置であり、Δ(ギリシャ文字のデルタ)は、特定されたアミノ酸残基が欠失していることを示す。
【0028】
アミノ酸挿入。用語「アミノ酸挿入」は、予め決定されたアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸の挿入を指す。本明細書及び特許請求の範囲にわたり、アミノ酸挿入は、ΔnnnXのように記載される場合があり、式中、Δ(ギリシャ文字のデルタ)は、特定されたアミノ酸残基が予め決定されたアミノ酸配列に存在しないことを示し、nnnは、EUインデックスで定義されたその配列における位置であり、Xは、挿入されている残基の一文字表記である。
【0029】
アミノ酸置換。用語「アミノ酸置換」は、予め決定されたアミノ酸配列における少なくとも1つのアミノ酸残基の置き換えを指す。置き換えの残基は、天然に存在するアミノ酸残基(すなわち遺伝子コードによってコードされた)である。本明細書及び特許請求の範囲にわたり、アミノ酸置換は、XnnnYのように記載される場合があり、式中、Xは、予め決定されたアミノ酸配列における残基の一文字表記であり、nnnは、EUインデックスで定義されたその配列における位置であり、Yは、置き換えのアミノ酸残基の一文字表記である。
【0030】
抗体。用語「抗体」は、抗原に結合する可能性がある少なくとも1つのドメイン(「抗原-結合ドメイン」)を含む1つ又は複数のタンパク質鎖を有する免疫グロブリン分子又はその断片を含む。免疫グロブリンは、あらゆるアイソタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA又はIgY)、サブタイプ(例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はアロタイプのものであってもよいし、又はそれは、1つより多くのアイソタイプ、サブタイプ又はアロタイプ由来のもののハイブリッドであってもよい。免疫グロブリンは、あらゆる種(例えばヒト、サル、ラクダ、ラマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、マウス、ハムスター又はニワトリ)のものであってもよいし、又はそれは、1つより多くの種由来のもののハイブリッドであってもよい。抗体は、ポリクローナル抗体であってもよいし、又はモノクローナル抗体であってもよい。抗体は、天然に存在するものでもよいし、又は天然に存在しないもの(すなわち単離された抗体)でもよい。抗体は、遺伝子工学によって作り出されたもの(例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、ラクダ化抗体、細胞内抗体、二重特異性抗体)でもよい。抗体は、断片(例えばFab断片、F(ab')2断片、Fv断片、単鎖Fv断片)であってもよい。この定義によれば、「抗体」は、ポリクローナル抗体とモノクローナル抗体の両方、又はそれらのあらゆる混合物を含む。本発明のタンパク質は、本明細書で提供される「抗体」の定義のいずれかによる抗体又は抗体断片であってもよい。
【0031】
抗体依存性細胞媒介細胞傷害。抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)は、抗体依存性細胞傷害とも称され、これは、免疫系のエフェクター細胞が、Fc領域を含む抗体又は他のあらゆるタンパク質が結合する標的細胞を活発に溶解させる免疫防御のメカニズムである。ADCCは、免疫グロブリンFc領域の、エフェクター細胞上のFc受容体への結合を介して媒介される。これは、様々な種類のFc受容体及び様々な種類のエフェクター細胞を含み得るが、一般的に、ナチュラルキラー(NK)細胞上で発現されたFcγRIIIAを介して媒介される。
【0032】
抗体依存性細胞媒介貪食。抗体依存性細胞媒介貪食(ADCP)は、免疫系のエフェクター細胞が、Fc領域を含む抗体又は他のあらゆるタンパク質が結合する標的細胞を貪食する免疫防御のメカニズムである。ADCPは、単球、マクロファージ、好中球又は樹状細胞によって、FcγRIIA(CD32A)、FcγRI(CD64)、及び/又はFcγRIIIA(CD16A)を介して媒介され得る。
【0033】
結合。「結合」は、この発明の文脈において、可逆的な相互作用、典型的にはタンパク質等の高分子間の可逆的な相互作用を指す。最も簡単なケースにおいて、2つの高分子A及びB間の結合相互作用は、以下の方程式によって表すことができる:
【0034】
【0035】
質量作用の法則に従って、正反応の速度は、速度定数kaに別々の反応物の濃度を掛けたもの、すなわちka×[A]×[B]に等しく、逆反応の速度は、速度定数kdに複合体の濃度を掛けたもの、すなわちkd×[AB]に等しい(式中、角括弧は、反応物の濃度を示す)。平衡のとき、両方の反応物の速度は同じであり、結合親和性は、会合定数Kaとして:
【0036】
【0037】
又は解離定数Kdとして:
【0038】
【0039】
のいずれかの速度定数の比率に関して定義することができる。
【0040】
Kdは、単にKaの逆数である。文献においてより一般的には、Kdが、親和性の尺度として使用される。結合相互作用の強度は、会合定数Ka又は解離定数Kdによって決定することができる。代替として、更にこの発明の例における場合のように異なる物質の結合の比較に関して特定には、結合は、反応物A及びBの固定した濃度での複合体の濃度(AB)に対する応答の測定によって決定することができる。例えば、結合は、表面プラズモン共鳴(SPR)によって、固定した濃度の他の反応物(例えばFc受容体)が取り付けられた表面上に固定した濃度の1つの反応物(例えば抗体)を注入した後のSPR応答における増加として測定してもよい。又はここでも、結合は、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって、例えば、(a)反応物(例えば抗体)をマイクロプレートに吸着させる工程、(b)非特異的な結合部位をブロックする工程、(c)酵素(例えばホースラディッシュペルオキシダーゼ)で標識された第2の反応物(例えばC1q)とインキュベートする工程を含み得る一連の工程の後に、基質(例えばTMB)の酵素変換によって与えられる吸光度として測定してもよい。
【0041】
相対的な結合は、標的分子(例えばFc受容体)に結合する目的の分子(例えばバリアントFc領域)と、同じ実験条件下で同じ標的分子に結合する参照分子(例えば野生型参照、LALAPG参照、LALA参照)又は緩衝液単独との結合の測定値の比率であり得る。
【0042】
荷電アミノ酸残基。「荷電アミノ酸残基」は、この発明の文脈において、アスパラギン酸(D)、グルタミン酸(E)、ヒスチジン(H)、リジン(K)又はアルギニン(R)の1つである。負電荷を有するアミノ酸残基は、アスパラギン酸(D)又はグルタミン酸(E)のいずれかである。正電荷を有するアミノ酸残基は、ヒスチジン(H)、リジン(K)又はアルギニン(R)のいずれかである。アミノ酸の置換又は変更の結果としての「荷電アミノ酸残基における正味の変化」は、この発明のバリアントFc領域を含むタンパク質に含有される電荷を有する残基の正味の数と、その対応する野生型参照タンパク質に含有される電荷を有する残基の正味の数との差の絶対値であり、この場合、電荷を有する残基の正味の数は、全ての負電荷を有する残基の数を引いた全ての正電荷を有する残基の数である。
【0043】
補体系。この発明の文脈において、「補体系」は、他の状況では「補体」としても公知であり、抗体(又はFc領域を含む他のタンパク質)によって補充、活性化されて、炎症を促進し、標的細胞の細胞膜を攻撃することができる多数の血漿タンパク質を含む自然免疫系の一部を指す。古典的補体経路は、第1の成分であるC1複合体の活性化によって始まる。C1複合体は、3つのタイプのポリペプチド鎖、C1q、C1r及びC1sを含む。IgM又はIgG抗体のFc領域は、C1qに結合して、C1r及びC1sの活性化を開始させる。それに続く反応のカスケードは、標的細胞の表面上への膜侵襲複合体の堆積をもたらすことができる。
【0044】
補体依存性細胞傷害。補体依存性細胞傷害(CDC)は、補体媒介細胞傷害(CMC)とも称され、これは、標的細胞に結合したFc領域を含むタンパク質(例えば、抗体等)が補体系の活性化を開始させ、結果として標的細胞の溶解を引き起こす免疫防御のメカニズムである。CDCは、Fc領域のC1qへの結合を介して媒介され、その結果としてC1r及びC1sの活性化が起こり、それに続いて標的細胞の表面上への膜侵襲複合体の堆積をもたらすことができる反応のカスケードが起こる。
【0045】
組成物。「組成物」は、この発明の文脈において、薬理学的又は生理学的作用を有することが意図されている活性物質と、薬理学的又は生理学的作用を有することが意図されない不活性物質の両方を含む混合物である。不活性物質は、活性物質の安定な配合を提供するのに有用であり得る。組成物は、例えば、医薬物質を含む医薬製品であり得る。
【0046】
含む。用語「含む(comprise)」は、「含む(include)」に加えて「からなる」を意味する。例えば、X及びYを「含む」組成物は、もっぱらX及びYからなっていてもよいし、又は何らかの追加のものを含んでいてもよく、例えばX+Y+Zであってもよい。
【0047】
コンジュゲート(名詞)。「コンジュゲート」又は「コンジュゲートしたタンパク質」は、この発明の文脈において、別の物質が共有結合したタンパク質である。他の物質は、それ自体タンパク質を含んでいてもよいし、又は他のあらゆる種類の分子又は高分子を含んでいてもよい。他の物質は、様々な目的にとって有用な可能性があり、例えば、疾患の処置に有用であり、疾患の診断に有用であり、又は精製又は分析に有用である。
【0048】
コンセンサス方法。用語「コンセンサス方法」は、この発明の文脈において、Wang 2008によって記載されるようにMHCクラスII対立遺伝子へのペプチドの結合を決定するためのIEDBバージョン2.22のコンセンサス方法を指す。
【0049】
定常領域。用語「定常領域」は、可変ドメインを除いた免疫グロブリンドメインを指す。例えば、定常領域は、軽鎖の単一の定常ドメイン、又はIgA、IgD、若しくはIgG重鎖の3つの定常ドメイン、又はIgE若しくはIgM重鎖の4つの定常ドメインを含んでいてもよい。重鎖定常領域は、第1及び第2の定常ドメインの間にフレキシブルなヒンジ領域を含んでいてもよい。IgA又はIgM重鎖定常領域は、J鎖を含んでいてもよい。
【0050】
培養培地。「培養培地」は、細胞の成長を支持することが可能な水性混合物である。
【0051】
サイトカイン。「サイトカイン」は、細胞によって分泌され、異なる細胞間のシグナル伝達において役割を有するタンパク質の大きいグループのメンバーである。それらの多くは、受容体に結合して、体液性又は細胞性免疫応答等をモジュレートし、様々な方法で多数の細胞型の成長及び分化に関与する。サイトカインとしては、例えば、ケモカイン、インターフェロン、インターロイキン、リンフォカイン、及び腫瘍壊死因子が挙げられる。
【0052】
サイトカイン放出。用語「サイトカイン放出」は、この発明の文脈において、Fc領域を含むタンパク質に曝露された免疫系の細胞からの炎症性サイトカインの放出を指す。炎症性サイトカインとしては、例えば、GM-CSF、TNFα、IFNγ、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8及びIL-10の1つ又は複数が挙げられる。
【0053】
ドメイン。タンパク質「ドメイン」は、タンパク質鎖の残りの部分とは独立して発達する、機能する、及び存在することができる所与のタンパク質配列及び三次構造の保存された部分である。各ドメインは、コンパクトな3次元構造を形成し、しばしば独立して安定であり、折り畳まれている可能性がある。多くのタンパク質が、いくつかの構造ドメインからなる。抗体は、一般的に、各ポリペプチド鎖にいくつかの免疫グロブリンドメインを有する。可変ドメインは、高度な配列可変性を有し、抗原への結合に関与する。定常ドメインは、より高度に保存されており、抗体の構造的及び機能的な完全性に関与する。
【0054】
エフェクター機能。「エフェクター機能」は、この発明の文脈において、インビトロ又はインビボにおいてFc領域によって媒介され得る、いずれか1つ又は複数の生理学的作用を指す。このような作用としては、例えば、C1qへの結合、補体の活性化、補体依存性細胞傷害、FcγRIへの結合、FcγRIIへの結合、FcγRIIIへの結合、抗体依存性細胞媒介細胞傷害、抗体依存性細胞媒介貪食、又はサイトカイン放出の誘導が挙げられる。
【0055】
EUインデックス。「EUインデックス」又は「Kabatに記載の通りのEUインデックス」又は「EU番号付けスキーム」は、EU骨髄腫タンパク質の番号付けを指す(Edelman 1969;Kabat 1991)。
【0056】
Fc領域。用語「Fc領域」は、第1の定常ドメインを除いた免疫グロブリン重鎖の定常領域を指す。例えば、Fc領域は、IgA、IgD、若しくはIgG重鎖の最後の2つの定常ドメイン、又はIgE及びIgMの最後の3つの定常ドメインを含んでいてもよい。Fc領域は、これらのドメインのN末端にフレキシブルなヒンジを含んでいてもよい。IgA又はIgM Fc領域は、J鎖を含んでいてもよい。したがって、IgG Fc領域は、典型的には、定常ドメインCγ2及びCγ3を含み、Cγ1とCγ2との間にヒンジを含む場合もある。Fc領域の境界は可変であるが、ヒンジを有するヒトIgG Fc領域は、典型的には、そのカルボキシル末端に残基E216を含む。ヒトCγ2ドメインは、典型的には、残基A231~K340を含む。ヒトIgGCγ3ドメインは、典型的には、カルボキシル末端に残基G341を含む。Fc領域は、単量体であってもよいが、より一般的には二量体又は多量体である。
【0057】
Fcバリアント。用語「Fcバリアント」は、バリアントFc領域を含むタンパク質を指す。これは、バリアントFc領域を含む免疫グロブリンであってもよいし、又はタンパク質の構成要素の1つがバリアントFc領域を含む融合タンパク質であってもよい。
【0058】
Fc受容体。「Fc受容体」(FcR)は、例えば、Bリンパ球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞、樹状細胞、好中球、好塩基球、好酸球、血小板等の特定のタイプの細胞の表面上に見出される、免疫グロブリンのFc領域に結合するタンパク質である。いくつかのタイプのFc受容体があり、これらは、それらが結合する免疫グロブリンのクラスに従って分類される。例えば、Fc-ガンマ受容体(FcγR)は、IgGに結合し、Fc-イプシロン受容体(FcεR)は、IgEに結合し、Fc-アルファ受容体(FcαR)は、IgAに結合する。ヒトにおいて、例えば、FcγRI(CD64)、FcγRIIA(CD32A)、FcγRIIB(CD32B)、FcγRIIC(CD32C)、FcγRIIIA(CD16A)、FcγRIIIB(CD16B)等のFcγRの様々なサブタイプがあり、これらはIgGのサブクラスに対する親和性及び特異性の点で異なる。更に、様々な対立遺伝子の形態及び他のバリアントがある。FcγRに加えて、新生児Fc受容体(FcRn又はBrambell受容体)は、複数の細胞型で発現され、IgGの輸送、例えば胎盤を通過する、又は乳腺への輸送等に関与し、同様に、IgG異化及びIgG血清レベルのホメオスタシスの制御のためである。類似のFc受容体が他の哺乳動物で見出されているが、タイプ、サブタイプ及び対立遺伝子の数及び分布は、異なる種によって異なる場合がある。
【0059】
融合タンパク質。「融合タンパク質」(時にはキメラタンパク質としても公知)は、元々別個のタンパク質コードした2つ又はそれより多くの遺伝子を合体させることにより作り出されたタンパク質である。この融合遺伝子の転写及び翻訳は、元のタンパク質のそれぞれに由来する特性を有する単一又は複数のタンパク質をもたらす。天然に存在する融合タンパク質は、がん細胞に見出すことができる。用語「融合タンパク質」は、この発明の文脈において、遺伝子工学によって作り出された融合タンパク質を意味するものとし、これは、変更されている(別個のタンパク質をコードした元の遺伝子と比較して)遺伝子又は遺伝子セグメントを含んでいてもよい。融合タンパク質は、単一又は複数のタンパク質を含んでいてもよく、これらのいずれかは、翻訳後修飾されていてもよい。
【0060】
グリコフォーム。「グリコフォーム」は、付着した炭水化物の数、タイプ又は構造に関して異なる糖タンパク質の多数の異なる形態のいずれか1つを指す。免疫グロブリンFc領域は、典型的には、Asn297に付着した炭水化物を有する。この炭水化物の様々な構造は、Fc領域を含むタンパク質の異なるグリコフォームを生じさせる。「グリコフォームのスペクトル」は、この発明の文脈において、Fc領域を含むタンパク質からの炭水化物の放出、それに続く、異なる構造を解像し、図式的又は数学的な方法による異なる試料の比較を可能にする好適なクロマトグラフ技術による炭水化物の混合物の分離の後に決定することができる。
【0061】
重鎖。用語「重鎖」は、免疫グロブリンの高分子量タンパク質サブユニットを指す。重鎖は、あらゆる免疫グロブリンアイソタイプの重鎖(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA又はIgY)、サブタイプ(例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3、IgG4、IgA1又はIgA2)又はアロタイプであってもよい。
【0062】
宿主細胞。「宿主細胞」は、核酸でトランスフェクトして、核酸内に含まれる遺伝子の生成物を発現する細胞を生産することが可能な細胞である。
【0063】
免疫エピトープデータベース。「免疫エピトープデータベース」(IEDB)は、米国国立アレルギー感染症研究所(National Institute of Allergy and Infectious Disease)によって提供されるリソースであり、www.iedb.org(Dhanda 2019)で利用可能である。これは、感染性疾患、アレルギー、自己免疫及び移植の状況においてヒト、及び他の動物種において研究された抗体及びT細胞エピトープでの実験データを列挙する。IEDBもまた、MHC分子に結合する性質を有するペプチドを含むB細胞及びT細胞エピトープの予測及び分析を補助するためのツールを管理するものである。
【0064】
免疫グロブリン。「免疫グロブリン」は、この発明の文脈において、抗原に結合する可能性がある少なくとも1つのドメイン(「抗原-結合ドメイン」)及び少なくとも1つのFc領域を含む1つ又は複数のタンパク質鎖を有する分子を記載している。免疫グロブリンは、あらゆるアイソタイプ(例えばIgG、IgE、IgM、IgD、IgA又はIgY)、サブタイプ(例えばIgG1、IgG2、IgG2a、IgG2b、IgG2c、IgG3、IgG4、IgA1及びIgA2)又はアロタイプのものであってもよい。免疫グロブリンは、あらゆる種(例えばヒト、サル、ラクダ、ラマ、ヤギ、ヒツジ、ウサギ、マウス、ラット、マウス、ハムスター又はニワトリ)のものであってもよいし、又は1つより多くの種由来のもののハイブリッドであってもよい。免疫グロブリンは、ポリクローナル免疫グロブリンであってもよいし、又はモノクローナル免疫グロブリンであってもよい。免疫グロブリンは、天然に存在するものでもよいし、又は遺伝子工学によって作り出されたもの(例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、ラクダ化抗体、細胞内抗体)でもよい。
【0065】
標識。用語「標識」は、タンパク質に共有結合することが可能であり、またそれが有する固有の特性、例えば、色、蛍光、放射活性、発光、触媒活性、サイズ、質量に基づいて検出することも可能な、あらゆる有機若しくは無機分子又は分子複合体を指す。
【0066】
軽鎖。用語「軽鎖」は、免疫グロブリンの低分子量タンパク質サブユニットを指す。軽鎖は、あらゆるタイプ(例えばカッパ又はラムダ)、サブタイプ又はアロタイプの軽鎖であってもよい。
【0067】
主要組織適合複合体。「主要組織適合複合体」(MHC)は、脊椎動物の獲得免疫系にとって外来分子を認識するのに必須の細胞表面タンパク質をコードする遺伝子のセットである。MHC遺伝子ファミリーは、3つのサブグループ:MHCクラスI、MHCクラスII、及びMHCクラスIIIに分けられる。MHCクラスI分子は、CD8補助受容体によって認識され得るが、MHCクラスII分子は、CD4補助受容体によって認識され得る。両方ともは、(a)抗原由来のペプチドと結合するアルファ鎖、及び(b)ベータ2ミクログロブリン鎖を含む。ペプチドと特定のMHC分子との組合せは、T細胞受容体によって認識することができ、T細胞の免疫機能を開始させる可能性がある。ヒトにおいて、MHC分子はまた、ヒト白血球抗原(HLA)としても公知である。この発明の文脈において、「MHC」への言及は、別段の規定がない限り、「ヒトMHC」又は「HLA」への言及として理解されるであろう。
【0068】
核酸。核酸は、ホスホジエステル結合によって連結されたヌクレオチドの直鎖状の鎖を含む生物学的な高分子である。核酸は、デオキシリボ核酸(DNA)とリボ核酸(RNA)の両方を含む。
【0069】
薬物動態パラメーター。薬物動態学(PK)は、生物に投与された物質の運命を決定することに専念した薬理学の一分野である。これは、吸収、分布及び消失(すなわち代謝及び排出)のプロセスを説明し、測定する。これらのプロセスは、できる例えば、コンパートメント及びノンコンパートメントモデル等の様々な方法で数学的にモデル化することができる。様々な「薬物動態パラメーター」(他の状況では、薬物動態メトリクスとして公知)は、特定の量の薬物(D)を投与した後の時間(t)の関数としての濃度(C)の分析から決定することができる。それらとしては、例えば、以下が挙げられる:
【0070】
【0071】
多数の薬物動態パラメーター及びそれを決定するための方法が、Rowland 1995に記載されている。
【0072】
タンパク質。「タンパク質」は、ペプチド結合によって一緒に連結されたアミノ酸残基の1つ又は複数の鎖を含む高分子である。タンパク質は、典型的には、メッセンジャーRNAのリボソームによる翻訳によって生産される。タンパク質は加えて、様々な翻訳後修飾を含んでいてもよい。これらの例としては、例えば、脂質化、ミリストイル化、パルミトイル化、イソプレニル化、プレニル化、ファルネシル化、ゲラニルゲラニル化、グリピエーション(glypiation)、リポイル化、フラビンの付着、ヘムの付着、ホスホパンテテイニル化、シッフ塩基の形成、アシル化、アセチル化、アルキル化、アミド化、アミド結合の形成、ブチリル化、グリコシル化、マロニル化、水酸化、ヨウ素化、ヌクレオチド付加、リン酸化、アデニリル化、ウリジニリル化、プロピオニル化(proprionylation)、ピログルタミン酸の形成、S-グルタチオン付加、S-ニトロシル化、S-スルフェニル化S-スルフィニル化、S-スルホニル化、サクシニル化、硫酸化、糖化、カルボニル化、イソペプチド結合の形成、ビオチン化、カルバミル化、ジスルフィド結合の形成、ペグ化が挙げられる。
【0073】
参照タンパク質。「参照タンパク質」は、この発明の文脈において、例えば、Fc受容体への結合、C1qへの結合、熱安定性、凝集、グリコシル化、免疫原性、プロテアーゼ感受性等の1つ又は複数の機能的な特性に関してこの発明のタンパク質を比較することができる、Fc領域を含むタンパク質である。例えば、参照タンパク質は、(a)配列番号1で特定されたアミノ酸配列を有するヒトIgG1 Fc領域を含むタンパク質(「野生型参照」又は「野生型参照タンパク質」)、(b)配列番号2で特定されたアミノ酸配列を有するヒトIgG1 Fc領域を含むタンパク質(「LALAPG参照」又は「LALAPG参照タンパク質」)又は(c)配列番号3で特定されたアミノ酸配列を有するヒトIgG1 Fc領域を含むタンパク質(「LALA参照」又は「LALA参照タンパク質」)であり得る。
【0074】
有意に低減した。「有意に低減した」は、この発明の文脈において、適切な統計的検定によって評価した場合、単独で偶然起こる確率が5%未満である程度に低減したことを意味する。
【0075】
安定性。「安定性」は、この発明の文脈において、所定時間にわたり測定された特性に変化がないことを指す。
【0076】
実質的に低減した。「実質的に低減した」は、この発明の文脈において、顕著な程度に低減したこと、例えば50%、60%、70%、80%、90%、95%、98%、99%又は100%低減したことを意味する。
【0077】
表面プラズモン共鳴。「表面プラズモン共鳴」(SPR)は、入射光によって刺激された負及び正の誘電率材料の間の境界における伝導電子の共振振動である。この用語は、この発明の文脈において、タンパク質等の高分子間の非共有結合による相互作用を測定するためのSPRの原理に基づく技術を指す。この技術を含む多数のインプリメンテーションがあり、例えば、Biacore(登録商標)等である。
【0078】
熱安定性。用語「熱安定性」は、高い相対温度でその化学的又は物理的構造における不可逆的な変化に耐性を有する、物質、例えばタンパク質の能力を指す。タンパク質の熱安定性は、不可逆的な変化、例えばアンフォールディング、変性、凝集又は沈殿が起こる温度を決定することによって測定することができる。代替として、これは、特定の温度で起こるこのような変化の速度を決定することによっても測定することができる。
【0079】
可変領域。用語「可変領域」は、免疫グロブリン重鎖又は軽鎖の1つ又は複数の可変ドメインを指す。可変ドメインの境界は変化し得るが、ヒト重鎖可変ドメインは通常、アミノ末端から残基117の残基を含み、ヒト軽鎖可変ドメインは、アミノ末端からR108(カッパ軽鎖)又はG107a(ラムダ軽鎖)の残基を含む。
【0080】
バリアントFc領域。用語「バリアントFc領域」は、(a)最大12個までの1つ又は複数の位置におけるアミノ酸の変更を除いて、天然に存在するFc領域と同じアミノ酸配列を有するFc領域、又は(b)EUの番号付けに従って234位、235位及び236位の1つ又は複数におけるアミノ酸の変更を除いて、これまでに開示されたいずれかのFc領域と同じアミノ酸配列を有するFc領域を指す。
【0081】
バリアントCγ2ドメイン。用語「バリアントCγ2ドメイン」は、(a)最大12個までの1つ又は複数の位置におけるアミノ酸の変更を除いて、天然に存在するCγ2ドメインと同じアミノ酸配列を有するCγ2ドメイン、又は(b)EUの番号付けに従って234位、235位及び236位の1つ又は複数におけるアミノ酸の変更を除いて、これまでに開示されたいずれかのCγ2ドメインと同じアミノ酸配列を有するCγ2ドメインを指す。
【0082】
ベクター。「ベクター」は、この発明の文脈において、細胞に外来遺伝物質を人工的に運ぶために媒体として使用されるポリヌクレオチドであり、そこでベクターは、複製及び/又は発現させることができる。細胞は、原核生物であってもよいが、好ましくは真核生物である。ベクターは、プラスミド、ウイルスベクター、コスミド又は人工染色体であってもよい。真核宿主細胞におけるタンパク質の発現のためのベクターは、典型的には、(a)複製起点及び抗生物質耐性遺伝子を含む、細菌における複製に必要な配列(例えばカナマイシン又はアンピシリンに対する抵抗のための)、(b)外来遺伝物質の挿入のためのマルチクローニング部位、外来遺伝物質の発現を駆動させるための少なくとも1つのプロモーター配列、ポリアデニル化シグナル、リボソーム認識部位、例えばコザック配列を含む、真核細胞における外来遺伝物質の発現に必要な配列、及び任意選択で、(c)G418、ハイグロマイシン又はピューロマイシン等の抗生物質に対する抵抗のための、真核細胞において選択可能なマーカーをコードする配列を含む。
【0083】
様々なIgG Fc領域及びドメインへの適応可能性
本明細書にわたり、簡単かつ明確にするために、様々な位置(EU番号付けシステムに従って)に1つ又は複数のアミノ酸の変更を含むヒトIgG1抗体のバリアントFc領域への言及が頻繁になされる。これは、本発明の範囲を限定することをまったく意図していない。IgG2、IgG3及びIgG4を含むヒトIgGの他のサブクラス又は他の種からのIgGのあらゆるサブクラスにおける等価な位置におけるアミノ酸残基が、所望の作用をもたらすために、同じようにして変更することができる。他の種としては、例えば、鳥類及び哺乳動物、例えば:霊長類、げっ歯類、ウサギ目、肉食動物、偶蹄類等が挙げられる。また、IgGの天然に存在するアロタイプ、加えて他の突然変異を含むバリアント、例えば、ヒトFcRnへの結合を改変するために、又は他の構造的又は機能的特性、例えば、安定性又は不要な不均質性の排除を改善するために導入され得るものも、本明細書の範囲内に含まれる。更に、本明細書は、無傷の抗体のバリアントFc領域に限定されず、他のあらゆるタンパク質、例えば:融合タンパク質、イムノアドヘシン、イムノサイトカイン、単鎖抗体、二重特異性抗体、多重特異性抗体、二重特異性T細胞エンゲージャー、抗体-薬物コンジュゲート及び酵素置換-Fc融合タンパク質(enzyme replacement-Fc fusion protein)内に含まれるバリアントFc領域も含む。加えて、本明細書は、無傷の、又は完全なバリアントFc領域に限定されず、その野生型の形態でFcγ受容体に結合することが可能と予想されるFc領域のいずれか一部を含むバリアント、例えばCγ2ドメイン、又はヒンジ領域とCγ2ドメインとの組合せも含む。したがって、文脈上可能であればどのような場合でも、用語「Fc領域」は、無傷のFc領域だけでなく、その野生型の形態でFcγ受容体に結合することが可能であると予想されるFc領域のあらゆる部分を含むと理解されるべきである。
【0084】
Fc領域のFcγ受容体への結合
多くの状況において、IgGのFcγ受容体への結合を低減させる、又は好ましくはなくすことが望ましく、これはそれらが媒介する生物学的作用が不要であり、有害な可能性があるためである(例えばWang 2018を参照)。例えば、抗体が抗原の活性を中和するのに使用される場合、細胞の応答の併存する活性化は、望ましくない可能性がある。しかしながら、Fc領域は、他の有用な特性、とりわけFcRnへの結合に基づいて長い半減期を提供するその能力を有する。この特色は、融合タンパク質の開発において使用され、それにおいてFc領域は、他の生物活性タンパク質に半減期の延長を付与する。それにもかかわらず、細胞の応答の活性化が望ましくない場合がある。それゆえに、研究者は、FcγRへの結合を選択的に低減させる突然変異を有するFcのバリアント形態を開発した。
【0085】
Fc/FcγRIII複合体の部位特異的変異誘発及びX線結晶学の適用は、Fc受容体への結合に関与するFc領域におけるアミノ酸残基の同定を可能にした。その突然変異が、Fc受容体の1つ又は複数への結合における減少をもたらす可能性がある多くの様々な残基が同定された。しかしながら、FcγR結合を完全になくす単一の突然変異は見出されておらず、それゆえに研究者は、その所望の作用を有する突然変異の組合せ(好ましくはできる限り少数の)を同定することを試みた。非常に多くの可能性がある部位、及びそれらを欠失させるか又は19種の代替アミノ酸残基のいずれか1つに変換する可能性は、突然変異の可能性のある組合せの数が、実際に徹底的に試験するには多過ぎることを意味する。それにもかかわらず、特定の組合せが、免疫エフェクター機能を「完全に壊滅させる」ことができることが提唱されている(例えばSchlothauer 2016)。驚くべきことに、ここで本発明者らは、以前は不活性と考えられていた突然変異の組合せを含むFcバリアントがそれでもなお、検出可能な結合活性を有することを見出した。それゆえに、ヒトFcのFcγ受容体への結合を本当に消去する突然変異の最小のセットへの必要性がある。
【0086】
単一の部位におけるアミノ酸の変更
様々な研究者が、ヒトIgG1 Fc領域のヒトFcγRへの結合における個々のアミノ酸残基の役割を探求するために、部位特異的変異誘発を使用してきた。表1に結果の非限定的な選択をまとめる。
【0087】
【0088】
複数の部位におけるアミノ酸の変更
したがって、前述のものから、IgG1 Fc領域において、突然変異によりFcγRへの結合が低減する可能性がある少なくとも30個の位置がある。しかしながら、受容体の全てへの結合が完全になくなっていることが示されたものは一つもなかった。より効果的に結合がなくなっているバリアントを同定する目的で、研究者は、異なる位置における突然変異の組合せを試験した。例えば、WO199958572、WO2006076594、WO2006047350、WO2006053301、WO2011066501、WO2013165690、WO2012130831、WO2014108483、US20060235208、US6194551、US8969526、US10011660;Xu 2000;Hezarah 2001、Shields 2001、Lin 2013;Dall'Acqua 2006、Oganesyan 2008、Schlothauer 2016、Tam 2017を参照されたい。
【0089】
同定された突然変異に匹敵する組合せの可能な数(Table 1)は極めて大きい(およそ5×1017)。明らかに、各部位で起こり得る代替置換の膨大な数の組合せはもちろんのことそれらの全てを製造及び試験することは、まったく非現実的である。実際には、それより一層少ない数の組合せが試験された。これらのうち、Table 2で例示される臨床治験に入っている治療抗体に使用されたものはほとんどなかった。
【0090】
【0091】
Fc領域のFcRnへの結合
新生児Fc受容体(FcRn)は、上皮細胞で広く発現され、そこでFcRnは、IgGの輸送及び再利用の媒介に関与する(Kuo 2011)。IgGのFcRn媒介輸送は、細胞膜におけるIgGの流体相のピノサイトーシスから始まり、FcRnへの結合は、エンドソームの酸性条件下で起こる。そこからIgGは、逆の膜表面に経細胞輸送される場合もあるし(例えば胎盤を通過する輸送のために)、又は再利用されて元の膜表面に戻される場合もある。FcRnの活動の結果として、IgGは、それ以外の状況でそれが有するであろう半減期より一層長い半減期を有する。これは、Fc領域を含む治療剤の使用にとって明確な利点であり、Fcγ受容体(又はC1q)に結合するIgGの能力を低減し、FcRnへの結合に有害作用を与えないあらゆる改変が望ましい。実際に、多くの研究者が、薬物の半減期を増加させる目的でFcRnへの結合を強化しようとした(例えばDall'Acqua 2006;Zalevsky 2010)。FcRnの結合部位はCH2-CH3ドメインに配置されており、Fcγ受容体及びC1qの結合部位とは異なるため、受容体の一方のタイプの結合に影響を与えるが他方のタイプの結合に影響を与えない異なるアミノ酸の変更を同定することが考えられる。
【0092】
Fc受容体への結合の測定
バリアント免疫グロブリンの、FcγR及びFcRn等のFc受容体への結合を測定するのに、様々な異なる技術が使用されてきた。それらの例としては、可溶性組換えFc受容体を使用する酵素結合免疫検査法(ELISA)(例えばWO2000042072;Shields 2001)、Fc受容体をコードする遺伝子でトランスフェクトされた哺乳類細胞を使用するフローサイトメトリー(例えばWO2000042072;Shields 2001)、タグを有する可溶性組換えFc受容体を使用するAlphaScreen(登録商標)(ビーズベースの発光近接アッセイ)(例えばUS20060235208;WO2006047350、WO2011066501)、マルチプレックスマイクロスフェア(Luminex(登録商標))アッセイ(例えばBoesch)、可溶性組換えFc受容体と共にProteon(登録商標)システムを使用する表面プラズモン共鳴(例えばWO2013165690)、可溶性組換えFc受容体と共にBiacore(登録商標)システムを使用する表面プラズモン共鳴(例えばWO2011066501、WO2012130831;Schlothauer2016)が挙げられる。他の実験技術、及び前述の技術の他のインプリメンテーションもまた当業界において公知である。バリアント免疫グロブリン及びFc受容体の多種多様の実験技術、実験条件及び様々な調製が、FcγRへの結合をサイレンシングする目的に関して、突然変異の1つの特定の組合せが実際に別のものより有効かどうかを決定するために、異なる研究からの結果を確実に比較することを難しくするか又は不可能にしている。
【0093】
Fc領域のC1qへの結合
補体成分1q(C1q)は、軸に取り付けられた球状のヘッドにアセンブルされた、それぞれ3つのタンパク質鎖の6つのコピーで構成されるタンパク質複合体である。これは、抗体に結合して、補体系の活性化をもたらす反応のカスケードを開始させる。
【0094】
単一の部位におけるアミノ酸の変更
様々な研究者が、ヒトIgG1 Fc領域のヒトC1qへの結合における個々のアミノ酸残基の役割を探求するために、部位特異的変異誘発を使用してきた。表3に結果の非限定的な選択をまとめる。
【0095】
【0096】
複数の部位におけるアミノ酸の変更
したがって、前述のものから、IgG1 Fc領域において、突然変異によりC1qへの結合を低減する可能性がある少なくとも14個の位置がある。しかしながら、結合が完全になくなっていることが示されたものは一つもなかった。より効果的に結合がなくなっているバリアントを同定する目的で、研究者は、異なる位置における突然変異の組合せを試験した。例えば、Borrok 2017;Lin 2013;Vafa 2014;Schlothauer 2016を参照されたい。
【0097】
同定された突然変異に匹敵する組合せの可能な数(表3)はかなりの数である(およそ276480個)。明らかに、各部位で起こり得る代替置換の膨大な数の組合せ、又はC1qの結合とFcγRの結合の両方に影響を与える可能性がある置換の更により一層大きい数の組合せはもちろんのこと、それらの全てを製造及び試験することは、まったく非現実的である。実際には、ほんのわずかな数の組合せが試験された。これらのうち、表2で例示される臨床治験に入っている治療抗体に使用されたものはほとんどなかった。
【0098】
C1qへの結合の測定
バリアント免疫グロブリンのC1qへの結合を測定するために、様々な異なる技術が使用されてきた。それらの例としては、酵素結合免疫検査法(ELISA)(例えばHezarah 2001;Dall'Acqua 2006;Oganesyan 2008;Schlothauer 2016)、フローサイトメトリー(例えばKanda 2006)、マルチプレックスマイクロスフェア(Luminex)アッセイ(例えばBoesch 2014)、表面プラズモン共鳴(例えばBorrock 2017;Dall'Acqua 2006;Moore 2010)が挙げられる。他の実験技術、及び前述の技術の他のインプリメンテーションもまた当業界において公知である。バリアント免疫グロブリン及びFc受容体の多種多様の実験技術、実験条件及び様々な調製が、C1qへの結合をサイレンシングする目的に関して、突然変異の1つの特定の組合せが実際に別のものより有効であるかどうかを決定するために、異なる研究からの結果を確実に比較することを不可能にしている。
【0099】
ヒトFcγR及びヒトC1qへの結合が低減したバリアントFc領域
Fcバリアントの比較
FcγR又はC1qへの結合をサイレンシングする目的に関して、突然変異の1つの特定の組合せが実際に別のものより有効かどうかを決定するために、異なる公開された研究からの結果を確実に比較することは不可能である。それゆえに、実施例1に記載された通り、本発明者らは、当業界において公知の、ただし全て同じIgG1抗体に基づいたバリアントを表すバリアント免疫グロブリンのセットを調製した(表4)。ヒトFcγRへのへの結合を、実施例2に記載された通りに表面プラズモン共鳴によって測定した。驚くべきことに、これまでに公知のバリアントの全てが、これまでに、FcγRへの結合が、「完全に排除され、・・・検出不能なレベルに低減した」(WO2013165690)、「完全に不活性」(WO2014108483)、「完全に壊滅された」(Schlothauer 2016;Hezarah 2001)、「サイレント」(Tam 2017)又は「検出可能な結合がない」(Vafa 2014)のように記載された場合であっても、バックグラウンドを著しく超える応答で測定可能な程度のヒトFcγRIへの結合をもたらした(表8)。更に、実施例6で示されるように、L234A/L235A、L234F/L235E/P331S及びL234F/L235Q/K322Qを含むこれまでに公知のバリアントの一部もまた、ADCC及びADCPアッセイにおいて、バックグラウンドを著しく超える応答をもたらした(表20及び表21)。
【0100】
【0101】
新しいFcバリアントの特徴付け
本発明者らはここで、実施例1に記載された通りにFcバリアントの新規のセットを調製し、それらを公知のバリアントと比較した。結果から、本発明者らは、アミノ酸置換を組み合わせて、公知のバリアントよりヒトFcγRIへの結合のレベルが著しく低いバリアントFc領域をもたらすことができる少数のアミノ酸残基を同定することができた。本発明者らは、表面プラズモン共鳴(例えば実施例2を参照)を使用して、又はADCC又はADCPについては細胞ベースのアッセイ(例えば実施例6を参照)によって測定した場合に、ヒトFcγ受容体への検出可能な結合を実質的に低減させるか又は完全に壊滅させる2又は3つのアミノ酸置換を含むバリアントFc領域を同定した。ほとんどの場合、同じアミノ酸置換はまた、ELISA(例えば実施例4を参照)を使用して測定した場合に、ヒトC1qへの検出可能な結合も実質的に低減させるか又は完全に壊滅させる。記載しようとする実験的試験の一部のにおいて、アミノ酸置換を含むバリアントFc領域を含むタンパク質は、緩衝液のみを含有するブランク試料と比較されることになる。他の試験において、アミノ酸置換を含むバリアントFc領域を含むタンパク質は、参照タンパク質と比較されることになる。このようなケースにおいて、比較しようとするタンパク質は、比較試験の結果が有効であり得るためには、本質的に同じ細胞株及び本質的に同じ培養条件を使用して製造され、本質的に同じ方法で精製される。好ましくは、Fc領域以外の試験タンパク質及び参照タンパク質のあらゆる構成部分は、本質的に同一である。例えば、試験タンパク質が抗体である場合、試験タンパク質と参照タンパク質の両方は、好ましくは、同じ可変領域を有する。試験の目的に応じて、参照タンパク質は、天然に存在する(野生型)Fc領域(例えば配列番号1)を含んでいてもよいし、又はこれまでに記載されたFcバリアント、好ましくはL234A/L235A/P329G(LALAPG)(例えば配列番号2)に対応するアミノ酸の変更を有するバリアントFc領域を含んでいてもよい。
【0102】
新しいバリアントのヒトFcRnへの結合は、表面プラズモン共鳴によって測定された場合、野生型参照タンパク質の結合と比較して実質的に低減されない(例えば実施例3を参照)。更に、新しいバリアントの熱安定性は、40℃で最大14日間のインキュベーションの後にサイズ排除クロマトグラフィーによって(例えば実施例7を参照)、又は示差走査蛍光測定法によって(例えば実施例8、実施例12を参照)、又は光散乱によって(例えば実施例12を参照)測定される場合、野生型参照タンパク質の熱安定性と比較して実質的に低減されない。
【0103】
有意に低減した結合活性を有するバリアントFc領域を含むタンパク質
したがって、一部の態様において、
a)234位におけるアミノ酸置換若しくは235位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換、及び
b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更
を含むバリアントFc領域を含むタンパク質であって、
タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、参照タンパク質の結合と比較して有意に低減され、参照タンパク質は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むバリアントヒトIgG1 Fc領域を含む、タンパク質が提供される。
【0104】
236位における「アミノ酸の変更」は、アミノ酸置換(例えば、ヒトIgG1、IgG3、IgG4からのFc領域の場合)又はアミノ酸挿入(例えば、ヒトIgG2からのFc領域の場合)のいずれかを意味する。
【0105】
一部の実施態様において、
a)234位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換;及び
b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更
を含むバリアントFc領域を含むタンパク質であって、
タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、参照タンパク質の結合と比較して有意に低減され、参照タンパク質は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むバリアントヒトIgG1 Fc領域を含む、タンパク質
が提供される。
【0106】
上記の態様の下記の実施態様の全てにおいて、バリアントFc領域を含むタンパク質は、236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更を含み、タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、前記参照タンパク質の結合と比較して有意に低減される。
【0107】
一部の実施態様において、234位におけるアミノ酸は、A、D、E、G、H、K、Q、R、S又はTのいずれか1つに置換されている。一部の実施態様において、235位におけるアミノ酸は、A、D、E、G、H、I、K、Q、S、T又はVのいずれか1つに置換されている。
【0108】
一部の実施態様において、234位におけるアミノ酸は、A、D、E、G、H、K、Q、R、S又はTのいずれか1つに置換されており、235位におけるアミノ酸は、A、D、E、G、H、I、K、Q、R、S、T又はVのいずれか1つに置換されている。
【0109】
一部のアミノ酸置換又は変更は、電荷の変化をもたらす。例えば、非荷電性の残基(例えばA、F、G、L)の負電荷を有する残基(例えばD、E)での置換は、負電荷の正味の増加をもたらす。逆に言えば、正電荷を有する残基(例えばH、K、R)との置換は、をもたらす正電荷の正味の増加。1つの部位における負電荷を有する残基での置換及び別の部位における正電荷を有する残基での置換は、電荷を有する残基の正味の数における変化をもたらさないと予想される。他の組合せは、当業者にとって明らかであろう。電荷を有する残基の正味の数の変化は、タンパク質の等電点に影響を与え、これは、その製造の容易さ、安定性、溶解性、インビボにおける半減期、又は他の物理化学的若しくは生物学的な特性に対して、有害作用を有する可能性がある。このような変化は最小化されることが望ましい。それゆえに、この発明の一部の実施態様において、234位、235位及び236位のいずれかにおけるアミノ酸置換及び変更の結果としての荷電アミノ酸残基における正味の変化は、1つ以下である。例えば、一部の実施態様において、234位、235位及び236位におけるアミノ酸の変更は、0/0/+、0/-/+、-/0/+、-/-/+、-/+又は+/-/+から選択してもよく、ここで「0」は、変化がないか、又は非荷電アミノ酸での置換のいずれかを示し、「-」は、負電荷を有するアミノ酸での置換を示し、「+」は、正電荷を有するアミノ酸での置換を示す。電荷を有する残基の正味の数を2又は3変化させると予想されるためにそれほど望ましくない実施態様としては、0/+/+、+/0/+及び+/+/+が挙げられる。一部の実施態様において、234位又は235位における正電荷を有するアミノ酸へのあらゆる置換が回避される。
【0110】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質であって、バリアントFc領域は、(a)234位におけるアミノ酸置換若しくは235位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換;及び(b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更を含み、アミノ酸の番号付けは、Kabatに記載の通りのEUインデックスに従い、タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、LALAPG参照タンパク質の結合と比較して有意に低減され、前記アミノ酸置換及び変更の結果としての荷電アミノ酸残基における正味の変化は、1つ以下である、タンパク質が提供される。
【0111】
一部の実施態様において、234位におけるアミノ酸は、H、K又はRのいずれか1つに置換されており、235位におけるアミノ酸は、D又はEの1つに置換されているか、又は234位におけるアミノ酸は、D又はEの1つに置換されており、235位におけるアミノ酸は、H、K又はRのいずれか1つに置換されている。一部の実施態様において、234位におけるアミノ酸は、A、D、E、G、Q、S又はTのいずれか1つに置換されている。一部の実施態様において、235位におけるアミノ酸は、A、D、E、G、I、Q、S、T又はVのいずれか1つに置換されている。
【0112】
一部の実施態様において、234位におけるアミノ酸は、変更されず、235位におけるアミノ酸は、E、Q、S又はTのいずれか1つに置換されている。
【0113】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のヒトFcγRIへの結合は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むバリアントヒトIgG1 Fc領域を含む参照タンパク質の結合の、50%未満、好ましくは40%未満、30%未満、20%未満、10%未満又は5%未満である。タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、結合における小さい差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によって測定してもよい。好ましくは、結合は、例えば実施例2に記載された通りに、表面プラズモン共鳴によって測定される。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、表面プラズモン共鳴によって測定した場合、同等の野生型タンパク質が2000RUより大きいの結合応答を生じるか、又はアミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むバリアントヒトIgG1 Fc領域を含む参照タンパク質が40RUより大きい結合応答を生じる条件下で、表面プラズモン共鳴によって測定された場合、40応答単位(RU)未満、好ましくは30RU未満、20RU未満、10RU未満、又は5RU未満のヒトFcγRIへの結合応答を有する。
【0114】
一部の実施態様において、野生型ヒトIgG1 Fc領域のバリアントFcを含むタンパク質であって、
a)234位におけるアミノ酸置換若しくは235位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換、及び
b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸置換
を含み、
タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、参照タンパク質の結合と比較して有意に低減され、参照タンパク質は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むバリアントヒトIgG1 Fc領域を含む、タンパク質が提供される。
【0115】
一部の実施態様において、野生型ヒトIgG1 Fc領域のバリアントFcを含むタンパク質であって、
a)234位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換、及び
b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸置換
を含み、
タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、参照タンパク質の結合と比較して有意に低減され、参照タンパク質は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むバリアントヒトIgG1 Fc領域を含む、タンパク質が提供される。
【0116】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質であって、バリアントFc領域は、(a)234位におけるアミノ酸置換若しくは235位におけるアミノ酸置換又は234位と235位の両方におけるアミノ酸置換;及び(b)236位におけるアルギニン(R)へのアミノ酸の変更を含み、アミノ酸の番号付けは、Kabatに記載の通りのEUインデックスに従い、タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、LALAPG参照タンパク質の結合と比較して有意に低減され、前記アミノ酸置換及び変更の結果としての荷電アミノ酸残基における正味の変化は、1つ以下である、タンパクが提供される。
【0117】
一部の実施態様において、ヒトC1qへのタンパク質の結合は、効果的に検出できない(すなわち、緩衝液単独の試料の結合と比べてそれほど大きくない)。一部の実施態様において、ヒトC1qへのタンパク質の結合は、匹敵する野生型参照タンパク質と比較して実質的に低減される。一部の実施態様において、ヒトC1qへのタンパク質の結合は、野生型参照タンパク質の結合の、20%未満、好ましくは10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。一部の実施態様において、ヒトC1qへのタンパク質の結合は、LALAPG参照タンパク質の結合と有意に異なっていない。ヒトC1qへのタンパク質の結合は、結合における小さい差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によって測定してもよい。好ましくは、結合は、ELISAによって、例えば実施例4に記載された通りに測定される。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、ELISAによって測定された場合、同等の野生型タンパク質が1.0AUより大きい特異的な結合応答を生じる条件下で、0.1吸光度単位(AU)未満、好ましくは0.05AU未満、0.02AU未満、0.01AU未満、又は0.015AU未満の、ELISAによって測定されたヒトC1qへの特異的な結合応答を有し、この場合、「特異的な結合応答」は、緩衝液単独の結合応答より低い試験試料の結合応答である。
【0118】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、ヒトFcRnの結合を保持し、一部の実施態様において、FcRnへの結合は、野生型参照タンパク質と比較して、50%以下、40%以下、30%以下、20%以下、10%以下又は5%以下、低減される。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のヒトFcRnへの結合と、野生型参照タンパク質の結合との間に有意差はない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、野生型参照タンパク質より大きいヒトFcRnへの結合活性を有する。タンパク質のヒトFcRnへの結合は、結合における差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によって測定してもよく、例えば、実施例3に記載されたような表面プラズモン共鳴によって、又は実施例3に記載されたようなNanoBiT(登録商標)競合イムノアッセイ等によって測定してもよい。
【0119】
ADCCが実質的に低減したバリアントFc領域を含むタンパク質
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、対応する野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減したADCC活性を呈示する。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCC活性は、対応する野生型参照タンパク質のADCC活性の、20%未満、好ましくは10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCC活性は、アッセイ緩衝液のADCC活性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、最大10μg/mLの濃度で、検出可能なADCC活性を有さない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCC活性は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含むLALAPG参照タンパク質のADCC活性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCC活性は、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む参照タンパク質のADCC活性より有意に低い。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCC活性は、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む参照タンパク質のADCC活性の、50%未満、好ましくは20%未満、10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。ADCC活性は、活性における差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によってしてもよく、例えば、実施例6に記載されたような細胞ベースの発光アッセイによって測定してもよい。
【0120】
ADCPが実質的に低減したバリアントFc領域を含むタンパク質
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、対応する野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減したADCP活性を呈示する。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCP活性は、対応する野生型参照タンパク質のADCP活性の、20%未満、好ましくは10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCP活性は、アッセイ緩衝液のADCP活性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、最大10μg/mLの濃度で、検出可能なADCP活性を有さない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCP活性は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含む参照タンパク質のADCP活性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCP活性は、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む参照タンパク質のADCP活性より有意に低い。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のADCP活性は、アミノ酸置換L234A及びL235Aを含む参照タンパク質のADCP活性の、50%未満、好ましくは20%未満、10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。ADCP活性は、活性における差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によってしてもよく、例えば、実施例6に記載されたような細胞ベースの発光アッセイによって測定してもよい。
【0121】
CDCが実質的に低減したバリアントFc領域を含むタンパク質
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、対応する野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減したCDC活性を呈示する。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のCDC活性は、対応する野生型参照タンパク質のCDC活性の、20%未満、好ましくは10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のCDC活性は、アッセイ緩衝液のCDC活性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、最大10μg/mLの濃度で、検出可能なCDC活性を有さない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のCDC活性は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含む参照タンパク質のCDC活性と有意に異なっていない。CDC活性は、活性における差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によって測定してもよく、例えば、51Cr放出アッセイ(例えばHale 1983)又は発光アッセイ(例えばNiles 2007)によって測定してもよい。
【0122】
実質的に毒性が低減されたバリアントFc領域を含むタンパク質
Fc領域を含む特定のタンパク質、とりわけ、特定のモノクローナル抗体(例えばムロモナブ、アレムツズマブ、セラリズマブ)は、ヒトにおいて、炎症性サイトカイン(例えばガンマ-インターフェロン、腫瘍壊死因子、インターロイキン-6)の放出に関連する毒物学的作用を誘発することが公知である。このような毒物学的作用(時には「サイトカインストーム」と呼ばれる)はしばしば、Fc領域のFcγ受容体への結合によって引き起こされるか、又はそれによって悪化する可能性がある。このような毒物学的作用を(程度の差はあっても)予測する様々なインビトロのアッセイが当業界において公知である(例えばFinco 2014;Grimaldi 2016;Vessilier 2015)。例えば、いわゆる「全血」アッセイにおいて、試験試料は、未分画の血液(好ましくはヘパリンで抗凝血処理された)とインキュベートされ、炎症性サイトカインの放出が測定される(例えばWing 1995;Wolf 2012)。代替として、試験試料は、末梢血単核細胞(PBMC)とインキュベートされてもよく、炎症性サイトカインの放出が測定される(例えばVessilier 2015)。炎症性サイトカインとしては、GM-CSF、IFNγ、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10、TNFα又は炎症性応答に関連することが公知の他のサイトカインの一部又は全てを挙げることができる。一部のアッセイにおいて、試験試料は、例えば、マイクロプレートに結合させることによって(例えばFindlay 2010)又は上皮細胞上に(例えばFindlay 2011)固定させてもよい。他のアッセイにおいて、感受性は、高い密度でのPBMCの予備培養によって増加させることができる(例えばRomer 2011)。サイトカイン放出活性は、1時間~72時間の期間にわたり試験試料に曝露された細胞の培養上清中の1種又は複数のサイトカインの濃度を決定することによって測定してもよい。サイトカイン放出活性は、単一のドナー、又は1人より多くのドナーを使用して測定してもよいし、又はあらゆる人数のドナーの平均であってもよい。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減したサイトカイン放出活性を呈示する。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のサイトカイン放出活性は、対応する野生型参照タンパク質のサイトカイン放出活性の、20%未満、好ましくは10%未満、5%未満、2%未満又は1%未満である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のサイトカイン放出活性は、希釈剤のサイトカイン放出活性より低いか又は有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質のサイトカイン放出活性は、LALAPG参照タンパク質のサイトカイン放出活性と有意に異なっていない。サイトカイン放出活性は、例えば実施例9に記載された通りに、活性における差を検出するのに十分な感受性を有するあらゆる好適な方法によって測定してもよい。
【0123】
最小の免疫原性を有するバリアントFc領域を含むタンパク質
タンパク質に対する免疫応答における重要な工程は、抗原提示細胞の表面上への提示のための、タンパク質分解性プロセシング及び主要組織適合複合体(MHC)クラスIIへのペプチドの結合を含む。このようなペプチド-MHC複合体は、CD4+T細胞上の特異的な受容体によって認識される可能性があり、その結果としてT細胞の活性化が引き起こされ、B細胞による抗体応答の補助が提供される。MHCクラスIIへの結合の高い可能性を有する新しいペプチドを作り出す傾向は、様々な方法によって決定することができる、このような決定としては、「インシリコ」の方法(例えばJensen 2018;Nielson 2007;Sidney 2008;Sturniolo 1999;Bryson 2010;Jawa 2013;King 2014)又は「インビトロ」の方法(例えばBrinks 2013;Jawa、2013;Joubert 2016)の両方が挙げられる。
【0124】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、「インシリコ」の方法によって決定した場合、ヒトMHCクラスIIへの結合の高い可能性を有する新しいペプチドを作り出す性質を有さないアミノ酸置換を含む。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、IEDB MHC-II結合予測ツール(Fleri 2017)を使用して評価した場合、≦10%のランクスコアを有する新しいペプチド(野生型参照タンパク質と比較して)をまったく含有しない。実施例5に例を提供する。ヒトMHCクラスIIへの結合のより高い可能性を有する新しいペプチドを作り出すアミノ酸置換としては、L234F、L234I、L234M、L234W、L234Y、L235F、L235W及びL235Y(表19を参照)が挙げられる。一部の実施態様において、タンパク質は、残基234に、フェニルアラニン(F)、イソロイシン(I)、メチオニン(M)、トリプトファン(W)又はチロシン(Y)を含まないアミノ酸置換を含む。一部の実施態様において、タンパク質は、残基235に、フェニルアラニン(F)、トリプトファン(W)又はチロシン(Y)を含まないアミノ酸置換を含む。一部の実施態様において、タンパク質は、上記の置換のいずれも含まないアミノ酸置換を含む。
【0125】
一部の実施態様において、タンパク質は、ヒト抗原提示細胞(例えば、樹状細胞)の表面上に提示される高い可能性を有する新しいペプチドを作り出す性質を有さないアミノ酸置換を含む。ヒト抗原提示細胞の表面上に提示される高い可能性を有する新しいペプチドを作り出す性質は、あらゆる好適な方法によって決定することができる(例えばBrinks 2013;Jawa 2013;Joubert 2016)。実施例13に例を提供する。驚くべきことに、アミノ酸置換G236Rのみを有するペプチドは、対応する野生型ペプチドと比較して免疫原性のリスクの増加を有することが見出されたが、それに対して234位及び235位における追加の置換の追加は、このリスクを、対応する野生型ペプチドのリスク以下に減少させた。
【0126】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、インビボにおいて、対応する野生型参照タンパク質と比較して有意に低減した免疫原性を有する。インビボにおける免疫原性は、当業界において公知のあらゆる好適な方法によって測定することができる。例えば、対象、例えばマウス、ラット、ウサギ、非ヒト霊長類又はヒトは、1回又は複数の用量の試験試料で免疫化してもよい。免疫化後の好適な期間(例えば7~28日)の後、細胞性及び/又は体液性免疫応答を測定してもよい(例えばChen 2007;Loureiro 2011)。好ましくは、異なるタンパク質で免疫化されたグループ間の測定された免疫応答の統計学的な比較を行うことができるように、十分な数の対象(例えば5人又はそれより多く)が各試験物質で免疫化される。
【0127】
グリコシル化が不変のバリアントFc領域を含むタンパク質
哺乳類細胞によって発現される免疫グロブリンFc領域は、通常、N297でグリコシル化されており、製造プロセス、並びに特に宿主細胞の選択及び細胞培養条件に特徴的な異なるグリコフォームのスペクトルを呈示する(例えばJefferis 2005;Costa 2014;Werner 2007)。Fc領域を含むタンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルを特徴付けるための、当業界において公知の多くの方法がある(例えばReutsch 2015a ; Reutsch 2015bを参照)。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルは、対応する野生型参照タンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルと区別できない程度である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルは、対応する野生型参照タンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルと有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルは、対応する野生型参照タンパク質によって呈示されるグリコフォームのスペクトルと実質的に異ならない。それぞれのケースにおいて、比較しようとするタンパク質は、本質的に同じ細胞株及び本質的に同じ培養条件を使用して製造され、本質的に同じ方法で精製される。実施例11に例を提供する。
【0128】
バリアントFc領域を含むタンパク質が製造及び貯蔵中に均一であり安定であること
医薬品の製造で使用しようとするタンパク質は、長期間均一であり安定であることが望ましい。アスパラギン(N)、システイン(C)、メチオニン(M)を含む特定のアミノ酸残基は、アスパラギンの脱アミド又はシステイン若しくはメチオニンの酸化等の翻訳後修飾に供される可能性があり、これが、望ましくない不均質性又は不安定を引き起こす可能性がある。特に脱アミドしやすいモチーフとしては、NG、NS、NH及びQGが挙げられる。他のアミノ酸置換、すなわちグリシン(G)及びプロリン(P)は、タンパク質主鎖を不安定化し、3次元構造を崩壊させる可能性がある。アスパラギン酸を異性化する傾向があるモチーフとしては、DG、DP及びDSが挙げられる。ペプチド結合を切断する傾向があるモチーフとしては、TS、KK、RK及びKRが挙げられる。一部の実施態様において、タンパク質は、アスパラギン(N)、システイン(C)又はメチオニン(M)を含まないアミノ酸置換を含む。一部の実施態様において、タンパク質は、グリシン(G)又はプロリン(P)を含まないアミノ酸置換を含む。一部の実施態様において、タンパク質は、NG、NS、NH、QG、DG、DP、DS、TS、KK、RK又はKR等の2アミノ酸のモチーフを作り出さないアミノ酸置換を含む。
【0129】
様々なアミノ酸置換は、タンパク質がフォールディングしないか又はより低い秩序の形態を形成する傾向を増加させることによって、不均質性又は不安定を増加させることができる。このような傾向は、当業界において公知の様々な技術によって決定することができ、このような技術としては、例えば示差走査熱量測定(DSC)、示差走査蛍光測定法(DSF)、円偏光二色性(CD)、示差静的光散乱(differential static light scattering;DSLS)、等温変性(isothermal denaturation;ITD)又はサーマルチャレンジアッセイ(thermal challenge assay)(例えばSenisterra 2009を参照)を使用して、タンパク質の熱安定性を測定することが挙げられる。実施例8及び実施例12に例を提供する。少量の試料の迅速な測定に特に好適であり得る他の技術としては、親和性捕獲自己相互作用ナノ粒子分光法(affinity-capture self-interaction nanoparticle spectroscopy;AC-SINS)、バイオレイヤー干渉法によるクローン自己相互作用(CSI-BLI)、疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)、塩勾配親和性捕獲自己相互作用ナノ粒子分光法(SGAC-SINS)及びスタンドアップ単分子層吸着クロマトグラフィー(standup monolayer adsorption chromatography)(例えばJain 2017及びそこに記載される参考文献)が挙げられる。
【0130】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質の熱安定性は、等価な野生型参照タンパク質の熱安定性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質の熱安定性は、等価な野生型参照タンパク質の熱安定性の、±3℃以内、±2℃以内、又は±1℃以内である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質の熱安定性は、等価な野生型参照タンパク質の熱安定性より大きい。
【0131】
様々なアミノ酸置換は、二量体又はより高次の凝集体を形成するタンパク質の傾向を増加させることができる。このような傾向は、当業界において公知の様々な技術によって、例えば、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)、超遠心分離法動的光散乱法(DLS)及び他の多くのもの(例えばEngelsman 2011を参照)等によって決定することができる。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質における単量体の比率は、等価な野生型参照タンパク質における単量体の比率の、±3%以内、±2%以内又は±1%以内である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質における単量体の比率は、等価な野生型参照タンパク質における単量体の比率と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質における単量体の比率は、等価な野生型参照タンパク質における単量体の比率より大きい。
【0132】
生物医薬製剤は、その時間経過につれて変化するが、その特徴が製造元の仕様の範囲内に含まれる限り、安定であるとみなされる。推奨された貯蔵条件で生成物が安定なままである日数は、貯蔵寿命と称される。生成物の貯蔵寿命を推測するための基礎として役立たせるためのデータ収集のために一般的に使用される実験プロトコールは、安定性研究と称される。安定性試験は、一般的に、上昇させたストレス条件、例えばタンパク質濃度、温度、湿度、振盪又は光の曝露の上昇させたストレス条件下における、推奨された貯蔵条件又は加速安定性研究下でのリアルタイムの安定性研究の手段によって行われる(例えばBajaj 2012を参照)。一部の実施態様において、加速安定性試験は、1つ又は複数のタンパク質濃度で、1mg/mL~100mg/mLの範囲で行うことができる。一部の実施態様において、加速安定性試験は、25℃~60℃の範囲内の1つ又は複数の温度で行うことができる。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質の安定性は、等価な野生型参照タンパク質の安定性の±20%以内、±10%以内、±5%以内又は±2%以内である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質の安定性は、等価な野生型参照タンパク質の安定性と有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質の安定性は、等価な野生型参照タンパク質の安定性より大きい。それぞれのケースにおいて、安定性は、あらゆる好適な安定性の研究又は試験のいずれか1つ又は複数を使用して測定してもよく、このような研究又は試験としては、なかでも、例えば、DSC、DSF、CD、サーマルチャレンジアッセイ、SEC、超遠心分離法、DLS、抗原又は他のリガンド又は受容体のいずれかへの結合活性の測定等のあらゆる好適な実験的測定を用いた、あらゆる好適なタンパク質濃度又は温度での、リアルタイム安定性試験、加速安定性試験が挙げられる(例えばSenisterra 2009;Jain 2017を参照)。当業者周知の通り、これらの実験技術をインプリメントするための多くの様々なプロトコールがある。例えば、熱安定性は、蛍光プローブSYPRO(登録商標)オレンジを使用して、DSFによって測定してもよいが、様々な他の色素も使用することができる(例えばNiesen 2007
)。又は更なる実施例として、抗原又は他のリガンド又は受容体への結合は、表面プラズモン共鳴、酵素結合免疫検査法、NanoBiT(登録商標)イムノアッセイ又は他の多くのタイプのリガンド結合アッセイによって測定することができる。安定性測定の例は、実施例7、実施例8及び実施例12に提供される。
【0133】
薬物動態が不変のバリアントFc領域を含むタンパク質
Fc領域を含むタンパク質は、一般的に、FcRn受容体への結合により、インビボにおいて延長された半減期を有する。インビボにおける半減期を測定するための様々な方法は当業界において周知である(例えばLiu 2018を参照)。典型的には、それらは、好適な動物(例えばマウス又はラット)へのタンパク質の注射、好適なインターバルでの血液試料の収集、血漿(又は血清)におけるタンパク質の濃度の測定、及び得られたデータの数学的な分析を含む。半減期の他にも、例えば、分布容積、最大血漿濃度、曲線下面積及びクリアランス等の他の薬物動態パラメーターを決定してもよい。
【0134】
一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質によって呈示される薬物動態パラメーターは、対応する野生型参照タンパク質によって呈示される薬物動態パラメーターと区別できない程度である。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質によって呈示される薬物動態パラメーターは、対応する野生型参照タンパク質によって呈示される薬物動態パラメーターと有意に異なっていない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質によって呈示される薬物動態パラメーターは、対応する野生型参照タンパク質によって呈示される薬物動態パラメーターと実質的に異ならない。一部の実施態様において、バリアントFc領域を含むタンパク質は、1つ又は複数の薬物動態パラメーターにおいて、野生型参照タンパク質の半減期と、50%未満、好ましくは20%未満、10%未満又は5%未満、異なる。それぞれのケースにおいて、比較しようとするタンパク質は、本質的に同じ細胞株及び本質的に同じ培養条件を使用して製造され、本質的に同じ方法で精製される。それぞれのケースにおいて、「薬物動態パラメーター」は、哺乳動物にタンパク質を投与した後の血液、血漿又は血清の試料での濃度測定から、適切な数学的な方法を使用して決定された、半減期、分布容積、最大血漿濃度、曲線下面積及びクリアランス速度のいずれか1つ又は複数を意味する。
【0135】
一部の実施態様において、薬物動態パラメーターは、例えば実施例10に記載されたように、ヒトFcRnに関してトランスジェニックであるマウスに試験試料を投与した後に測定される。
【0136】
Fcによって誘導されるエフェクター機能を低減させるための方法
一部の態様において、以下:1つ又は複数のFcγ受容体への結合、C1qへの結合、ADCC、ADCP、CDCのいずれか1つ又は複数を実質的に低減させることによって、Fc領域を含むタンパク質のFcによって誘導されるエフェクター機能を実質的に低減させる方法が提供される。この方法は、
a)234位におけるアミノ酸又は235位におけるアミノ酸又は234位と235位の両方におけるアミノ酸を置換する工程、及び
b)236位におけるアミノ酸をアルギニン(R)に変更する工程
を含み、タンパク質のヒトFcγRIへの結合は、アミノ酸置換L234A、L235A及びP329Gを含む参照タンパク質の結合と比較して有意に低減される。一部の実施態様において、得られたバリアントFc領域を含むタンパク質は、上記でより詳細に列挙された所望の特性、すなわち、(a)野生型参照タンパク質と比較して、FcRnと類似した、又はそれより大きい結合活性、(b)野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減したADCC、(c)野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減したCDC、(d)野生型参照タンパク質と比較して、実質的に低減した毒性、(e)野生型参照タンパク質と比較して、最小の免疫原性、(f)野生型参照タンパク質と比較して、不変のグリコシル化、(g)野生型参照タンパク質と比較して、類似した又は改善された、製造及び/又は貯蔵中の均一性及び/又は安定性、(h)野生型参照タンパク質と比較して、類似した薬物動態パラメーターの1つ又は複数を有する。
【0137】
必要なアミノ酸置換は、当業界において周知の様々な技術のいずれかを使用して達成される。典型的には、これらは、(a)所望のアミノ酸置換を有するタンパク質をコードするDNAを合成及び/又はアセンブリする工程、(b)好適な細胞又は非細胞ベースの系を使用して、DNAによってコードされたタンパク質を発現させる工程、(c)タンパク質を単離する工程、(d)Fcによって誘導されたエフェクター機能における所望の低減に関して、単離したタンパク質を試験する工程を含む。工程(a)、(b)及び(c)の例は、実施例1に提供される。工程(d)の例は、実施例2、実施例4、実施例5、実施例6、実施例9に提供される。この方法における多くの可能性のあるバリエーションは、当業者にとって明らかであろう。
【0138】
特定のアミノ酸置換を有するバリアントFc領域を含むタンパク質
実施例2及び表8で示されるように、本発明者らは、驚くべきことに、同等なLALAPG参照タンパク質で見られるものより著しく低いFcγRIへの結合をもたらすアミノ酸置換の新しいセットを含むバリアントFc領域を含有するタンパク質を同定した(これまでFcγR及びC1q相互作用が「完全に壊滅された」と報告されているにもかかわらず。Schlothauer 2016を参照)。これらのアミノ酸置換の新しいセットはいずれも、LALAPG参照と比較してFcγRIへの結合を低減させるのに使用することができる。
【0139】
一部の態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235H/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235I/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235H/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234R/L235T/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0140】
一部の態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235H/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235I/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235H/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234R/L235T/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236R、L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0141】
一部の態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236R、L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0142】
一部の態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0143】
一部の態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0144】
一部の態様において、L234A/L235S/G236R、L234G/L235S/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0145】
一部の態様において、L234G/L235S/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むバリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0146】
IgGサブクラス
一部の実施態様において、バリアントFc領域を作り出すように変更されているFc領域は、IgG1、IgG2、IgG3又はIgG4から選択することができる。一部の実施態様において、Fc領域は、IgG1である。ヒトにおいて、IgG1におけるL234、L235及びG236(EUの番号付け)に対応する野生型残基は、IgG2においてV234、A235、Δ236;IgG3においてL234、L235及びG236、並びにIgG4においてF234、L235及びG236である。IgG2は、236位に欠失を有し、これは、FcRnへの低減した結合及び低減した経胎盤輸送に関与する(Stapleton 2018)。一部の実施態様において、236に挿入されたArg残基は、IgG1の結合により類似するようにIgG2のFcRnへの結合を回復させるため、循環中のIgG2の半減期増加させることができる。他の実施態様において、236における欠失の保持は、IgG2のFcRnへの結合の低減を維持する。
【0147】
一部の実施態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235H/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235I/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235H/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234R/L235T/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG1バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0148】
一部の実施態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235H/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235I/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235H/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234R/L235T/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236R、L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG1バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0149】
一部の実施態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234A/L235T/G236R、L234D/L235H/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235Q/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234E/L235D/G236R、L234E/L235H/G236R、L234E/L235I/G236R、L234E/L235V/G236R、L234G/L235Q/G236R、L234G/L235S/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235Q/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234S/L235D/G236R、L234S/L235E/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235A/G236R、L234T/L235I/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236R、L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG1バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0150】
一部の実施態様において、L234A/L235A/G236R、L234A/L235S/G236R、L234D/L235K/G236R、L234D/L235S/G236R、L234D/L235T/G236R、L234G/L235S/G236R、L234H/L235S/G236R、L234K/L235Q/G236R、L234K/L235R/G236R、L234K/L235S/G236R、L234K/L235T/G236R、L234K/L235V/G236R、L234Q/L235A/G236R、L234Q/L235D/G236R、L234Q/L235R/G236R、L234Q/L235S/G236R、L234Q/L235T/G236R、L234Q/L235V/G236R、L234R/L235D/G236R、L234R/L235E/G236R、L234R/L235H/G236R、L234R/L235I/G236R、L234R/L235K/G236R、L234R/L235Q/G236R、L234R/L235R/G236R、L234S/L235G/G236R、L234S/L235H/G236R、L234S/L235I/G236R、L234S/L235R/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235K/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235R/G236R、L234T/L235S/G236R、L234T/L235T/G236R、L234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG1バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0151】
一部の実施態様において、V234A/Δ236R、V234A/A235T/Δ236R、V234D/A235H/Δ236R、V234D/A235K/Δ236R、V234D/A235Q/Δ236R、V234D/A235S/Δ236R、V234D/A235T/Δ236R、V234E/A235D/Δ236R、V234E/A235H/Δ236R、V234E/A235I/Δ236R、V234E/A235V/Δ236R、V234G/A235H/Δ236R、V234G/A235Q/Δ236R、V234G/A235S/Δ236R、V234H/A235I/Δ236R、V234H/A235S/Δ236R、V234K/A235Q/Δ236R、V234K/A235R/Δ236R、V234K/A235S/Δ236R、V234K/A235T/Δ236R、V234K/A235V/Δ236R、V234Q/A235A/Δ236R、V234Q/A235D/Δ236R、V234Q/A235H/Δ236R、V234Q/A235Q/Δ236R、V234Q/A235R/Δ236R、V234Q/A235S/Δ236R、V234Q/A235T/Δ236R、V234Q/A235V/Δ236R、V234R/A235D/Δ236R、V234R/A235E/Δ236R、V234R/A235H/Δ236R、V234R/A235I/Δ236R、V234R/A235K/Δ236R、V234R/A235L/Δ236R、V234R/A235Q/Δ236R、V234R/A235R/Δ236R、V234R/A235T/Δ236R、V234S/A235D/Δ236R、V234S/A235E/Δ236R、V234S/A235G/Δ236R、V234S/A235H/Δ236R、V234S/A235I/Δ236R、V234S/A235L/Δ236R、V234S/A235R/Δ236R、V234S/A235T/Δ236R、V234S/A235V/Δ236R、V234T/Δ236R、V234T/A235I/Δ236R、V234T/A235K/Δ236R、V234T/A235Q/Δ236R、V234T/A235R/Δ236R、V234T/A235S/Δ236R、V234T/A235T/Δ236R、V234T/A235V/Δ236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0152】
一部の実施態様において、V234A/Δ236R、V234A/A235T/Δ236R、V234D/A235H/Δ236R、V234D/A235K/Δ236R、V234D/A235Q/Δ236R、V234D/A235S/Δ236R、V234D/A235T/Δ236R、V234E/A235D/Δ236R、V234E/A235H/Δ236R、V234E/A235I/Δ236R、V234E/A235V/Δ236R、V234G/A235H/Δ236R、V234G/A235Q/Δ236R、V234G/A235S/Δ236R、V234H/A235I/Δ236R、V234H/A235S/Δ236R、V234K/A235Q/Δ236R、V234K/A235R/Δ236R、V234K/A235S/Δ236R、V234K/A235T/Δ236R、V234K/A235V/Δ236R、V234Q/A235A/Δ236R、V234Q/A235D/Δ236R、V234Q/A235H/Δ236R、V234Q/A235Q/Δ236R、V234Q/A235R/Δ236R、V234Q/A235S/Δ236R、V234Q/A235T/Δ236R、V234Q/A235V/Δ236R、V234R/A235D/Δ236R、V234R/A235E/Δ236R、V234R/A235H/Δ236R、V234R/A235I/Δ236R、V234R/A235K/Δ236R、V234R/A235L/Δ236R、V234R/A235Q/Δ236R、V234R/A235R/Δ236R、V234R/A235T/Δ236R、V234S/A235D/Δ236R、V234S/A235E/Δ236R、V234S/A235G/Δ236R、V234S/A235H/Δ236R、V234S/A235I/Δ236R、V234S/A235L/Δ236R、V234S/A235R/Δ236R、V234S/A235T/Δ236R、V234S/A235V/Δ236R、V234T/Δ236R、V234T/A235I/Δ236R、V234T/A235K/Δ236R、V234T/A235Q/Δ236R、V234T/A235R/Δ236R、V234T/A235S/Δ236R、V234T/A235T/Δ236R、V234T/A235V/Δ236R、A235T/Δ236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0153】
一部の実施態様において、V234A/Δ236R、V234A/A235T/Δ236R、V234D/A235H/Δ236R、V234D/A235K/Δ236R、V234D/A235Q/Δ236R、V234D/A235S/Δ236R、V234D/A235T/Δ236R、V234E/A235D/Δ236R、V234E/A235H/Δ236R、V234E/A235I/Δ236R、V234E/A235V/Δ236R、V234G/A235Q/Δ236R、V234G/A235S/Δ236R、V234Q/A235A/Δ236R、V234Q/A235D/Δ236R、V234Q/A235Q/Δ236R、V234Q/A235S/Δ236R、V234Q/A235T/Δ236R、V234Q/A235V/Δ236R、V234R/A235D/Δ236R、V234R/A235E/Δ236R、V234S/A235D/Δ236R、V234S/A235E/Δ236R、V234S/A235G/Δ236R、V234S/A235I/Δ236R、V234S/A235L/Δ236R、V234S/A235T/Δ236R、V234S/A235V/Δ236R、V234T/Δ236R、V234T/A235I/Δ236R、V234T/A235Q/Δ236R、V234T/A235S/Δ236R、V234T/A235T/Δ236R、V234T/A235V/Δ236R、A235T/Δ236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0154】
一部の実施態様において、V234A/A235S、V234D/A235H、V234D/A235K、V234D/A235Q、V234D/A235S、V234D/A235T、V234E/A235D、V234E/A235H、V234E/A235I、V234E/A235V、V234G/A235H、V234G/A235Q、V234G/A235S、V234H/A235I、V234H/A235S、V234K/A235Q、V234K/A235R、V234K/A235S、V234K/A235T、V234K/A235V、V234Q/A235A、V234Q/A235D、V234Q/A235H、V234Q/A235Q、V234Q/A235R、V234Q/A235S、V234Q/A235T、V234Q/A235V、V234R/A235D、V234R/A235E、V234R/A235H、V234R/A235I、V234R/A235K、V234R/A235L、V234R/A235Q、V234R/A235R、V234R/A235T、V234S/A235D、V234S/A235E、V234S/A235G、V234S/A235H、V234S/A235I、V234S/A235L、V234S/A235R、V234S/A235T、V234S/A235V、V234T/A235I、V234T/A235K、V234T/A235Q、V234T/A235R、V234T/A235S、V234T/A235T、V234T/A235Vから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0155】
一部の実施態様において、V234A/A235S、V234D/A235H、V234D/A235K、V234D/A235Q、V234D/A235S、V234D/A235T、V234E/A235H、V234E/A235I、V234E/A235V、V234G/A235H、V234G/A235Q、V234G/A235S、V234H/A235I、V234H/A235S、V234K/A235Q、V234K/A235S、V234K/A235T、V234K/A235V、V234Q/A235A、V234Q/A235D、V234Q/A235H、V234Q/A235Q、V234Q/A235R、V234Q/A235S、V234Q/A235T、V234Q/A235V、V234R/A235D、V234R/A235E、V234R/A235I、V234R/A235L、V234R/A235Q、V234R/A235T、V234S/A235D、V234S/A235E、V234S/A235G、V234S/A235H、V234S/A235I、V234S/A235L、V234S/A235R、V234S/A235T、V234S/A235V、V234T/A235I、V234T/A235K、V234T/A235Q、V234T/A235R、V234T/A235S、V234T/A235T、V234T/A235Vから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0156】
一部の実施態様において、V234A/A235S、V234D/A235H、V234D/A235K、V234D/A235Q、V234D/A235S、V234D/A235T、V234E/A235D、V234E/A235H、V234E/A235I、V234E/A235V、V234G/A235Q、V234G/A235S、V234H/A235I、V234H/A235S、V234K/A235Q、V234K/A235R、V234K/A235S、V234K/A235T、V234K/A235V、V234Q/A235Q、V234Q/A235R、V234Q/A235S、V234Q/A235T、V234R/A235D、V234R/A235E、V234R/A235H、V234R/A235I、V234R/A235K、V234R/A235L、V234R/A235Q、V234R/A235R、V234R/A235T、V234S/A235D、V234S/A235E、V234S/A235G、V234S/A235H、V234S/A235I、V234S/A235L、V234S/A235R、V234S/A235T、V234S/A235V、V234T/A235I、V234T/A235K、V234T/A235Q、V234T/A235R、V234T/A235S、V234T/A235Tから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0157】
一部の実施態様において、V234D/A235K、V234D/A235Q、V234D/A235S、V234D/A235T、V234E/A235I、V234K/A235Q、V234K/A235R、V234K/A235S、V234K/A235T、V234R/A235D、V234R/A235E、V234R/A235I、V234R/A235K、V234R/A235L、V234R/A235Q、V234R/A235R、V234R/A235T、V234S/A235I、V234S/A235L、V234S/A235R、V234S/A235Tから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG2バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0158】
一部の実施態様において、F234A/L235A/G236R、F234A/L235S/G236R、F234A/L235T/G236R、F234D/L235H/G236R、F234D/L235K/G236R、F234D/L235Q/G236R、F234D/L235S/G236R、F234D/L235T/G236R、F234E/L235D/G236R、F234E/L235H/G236R、F234E/L235I/G236R、F234E/L235V/G236R、F234G/L235H/G236R、F234G/L235Q/G236R、F234G/L235S/G236R、F234H/L235I/G236R、F234H/L235S/G236R、F234K/L235Q/G236R、F234K/L235R/G236R、F234K/L235S/G236R、F234K/L235T/G236R、F234K/L235V/G236R、F234Q/L235A/G236R、F234Q/L235D/G236R、F234Q/L235H/G236R、F234Q/L235Q/G236R、F234Q/L235R/G236R、F234Q/L235S/G236R、F234Q/L235T/G236R、F234Q/L235V/G236R、F234R/L235D/G236R、F234R/L235E/G236R、F234R/L235H/G236R、F234R/L235I/G236R、F234R/L235K/G236R、F234R/G236R、F234R/L235Q/G236R、F234R/L235R/G236R、F234R/L235T/G236R、F234S/L235D/G236R、F234S/L235E/G236R、F234S/L235G/G236R、F234S/L235H/G236R、F234S/L235I/G236R、F234S/G236R、F234S/L235R/G236R、F234S/L235T/G236R、F234S/L235V/G236R、F234T/L235A/G236R、F234T/L235I/G236R、F234T/L235K/G236R、F234T/L235Q/G236R、F234T/L235R/G236R、F234T/L235S/G236R、F234T/L235T/G236R、F234T/L235V/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG4バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0159】
一部の実施態様において、F234A/L235A/G236R、F234A/L235S/G236R、F234A/L235T/G236R、F234D/L235H/G236R、F234D/L235K/G236R、F234D/L235Q/G236R、F234D/L235S/G236R、F234D/L235T/G236R、F234E/L235D/G236R、F234E/L235H/G236R、F234E/L235I/G236R、F234E/L235V/G236R、F234G/L235H/G236R、F234G/L235Q/G236R、F234G/L235S/G236R、F234H/L235I/G236R、F234H/L235S/G236R、F234K/L235Q/G236R、F234K/L235R/G236R、F234K/L235S/G236R、F234K/L235T/G236R、F234K/L235V/G236R、F234Q/L235A/G236R、F234Q/L235D/G236R、F234Q/L235H/G236R、F234Q/L235Q/G236R、F234Q/L235R/G236R、F234Q/L235S/G236R、F234Q/L235T/G236R、F234Q/L235V/G236R、F234R/L235D/G236R、F234R/L235E/G236R、F234R/L235H/G236R、F234R/L235I/G236R、F234R/L235K/G236R、F234R/G236R、F234R/L235Q/G236R、F234R/L235R/G236R、F234R/L235T/G236R、F234S/L235D/G236R、F234S/L235E/G236R、F234S/L235G/G236R、F234S/L235H/G236R、F234S/L235I/G236R、F234S/G236R、F234S/L235R/G236R、F234S/L235T/G236R、F234S/L235V/G236R、F234T/L235A/G236R、F234T/L235I/G236R、F234T/L235K/G236R、F234T/L235Q/G236R、F234T/L235R/G236R、F234T/L235S/G236R、F234T/L235T/G236R、F234T/L235V/G236R、L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG4バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0160】
一部の実施態様において、F234A/L235A/G236R、F234A/L235S/G236R、F234A/L235T/G236R、F234D/L235H/G236R、F234D/L235K/G236R、F234D/L235Q/G236R、F234D/L235S/G236R、F234D/L235T/G236R、F234E/L235D/G236R、F234E/L235H/G236R、F234E/L235I/G236R、F234E/L235V/G236R、F234G/L235Q/G236R、F234G/L235S/G236R、F234Q/L235A/G236R、F234Q/L235D/G236R、F234Q/L235Q/G236R、F234Q/L235S/G236R、F234Q/L235T/G236R、F234Q/L235V/G236R、F234R/L235D/G236R、F234R/L235E/G236R、F234S/L235D/G236R、F234S/L235E/G236R、F234S/L235G/G236R、F234S/L235I/G236R、F234S/G236R、F234S/L235T/G236R、F234S/L235V/G236R、F234T/L235A/G236R、F234T/L235I/G236R、F234T/L235Q/G236R、F234T/L235S/G236R、F234T/L235T/G236R、F234T/L235V/G236R、L235T/G236Rから選択されるアミノ酸置換のセットを含むヒトIgG4バリアントFc領域を含むタンパク質が提供される。
【0161】
様々な種
一部の実施態様において、バリアントFc領域を作り出すように変更されているFc領域は、あらゆる哺乳類種からのものであってもよい。一部の実施態様において、変更されるFc領域は、マウス、ラット、ウサギ、アカゲザル又はカニクイザルから選択される。一部の実施態様において、変更されるFc領域は、あらゆるIgGサブクラスから選択される。一部の実施態様において、変更されるFc領域は、マウスIgG1、マウスIgG2a、マウスIgG2b、マウスIgG3、ラットIgG1、ラットIgG2a、ラットIgG2b又はラットIgG2cから選択される。
【0162】
追加のアミノ酸の変更
一部の実施態様において、上述した通りの、又は上述した方法から得られるバリアントFc領域を含むタンパク質のいずれかはまた、追加のアミノ酸の変更を含んでいてもよく、このような変更は、挿入、欠失又は置換であってもよいし、他の所望の特性、例えば(a)変更されたFcRnへの結合活性であって、より高くてもよいし、又はより低くてもよい、結合活性、(b)変更された薬物動態パラメーターであって、より遅いクリアランス又はより迅速なクリアランスを挙げることができる、薬物動態パラメーター、(c)変更された免疫原性であって、より高くてもよいし、又はより低くてもよい、免疫原性、(d)グリコシル化の変更又はグリコシル化の消失(e)製造及び/又は貯蔵中の改善された均一性及び/又は安定性、(f)ヘテロ二量体構造を形成する能力(例えば二重特異性抗体の生成のための)、(g)単量体構造のみを形成する能力、(h)多量体構造(例えば六量体)を形成する能力、(i)部位特異的なコンジュゲートを形成する能力、(j)抗原に結合する能力、又は当業界において公知の他のあらゆる所望の特性のいずれか1つ又は複数等をもたらすものでもよい。適切なアミノ酸の変更の組合せによって、これらの所望の特性の1つ又は複数を、バリアントFc領域を含むタンパク質と組み合わせることができることが想定される。
【0163】
FcRnへの結合に関与するアミノ酸残基としては、Thr250、Met252、Ile253、Ser254、Thr256、Lys288、Val 305、Thr307、Val308、Leu309、His310、Gln311、Asp312、Leu314、Lys317、Lys360、Gln362、Ala378、Glu380、Glu382、Ser415、Ser424、Met428、His433、Asn434、His435、Tyr436、Thr437が挙げられる(Shields 2001;Kim 1999;Hinton 2004;Yeung 2009)。必ずしも全てのpH6.0におけるIgGのFcRnに対する親和性を増加させる変化が半減期における増加をもたらすとは限らない。pH6.0におけるFcRnへの結合を増加させ、更に、サル又はマウストランスジェニックにおいてヒトFcRnの排出相の半減期を増加させることも報告されているアミノ酸の変更の例としては、T250Q/M428L、V308P、M428L、M252Y/S254T/T256E、M428L/N434S、N434A、N434H、T307A/E380A/N434A、H433K/N434F、L309D/Q311H/N434Sが挙げられる(Datta-Mannan 2011;Petkova 2006;Deng 2010;Vaccaro 2005;Lee 2019)。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、250、252、253、254、256、288、305、307、308、309、310、311、312、314、317、360、362、378、380、382、415、424、428、433、434、435、436、437から選択される1、2又は3つの位置にアミノ酸置換を含んでいてもよい。(EUの番号付け)。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、T250Q/M428L、V308P、M428L、M252Y/S254T/T256E、M428L/N434S、N434A、N434H、T307A/E380A/N434A、H433K/N434F、L309D/Q311H/N434Sから選択されるアミノ酸置換を含んでいてもよい。
【0164】
Fcタンパク質において、Asn297は通常グリコシル化されている。このグリコシル化は、他のいずれかのアミノ酸残基の置換によって消去することができる。グリコシル化の消失は、得られたタンパク質の不均質性を低減させることができ、哺乳類細胞以外の細胞における製造にとって特に有利であり得る。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、N297の変更を含んでいてもよい。
【0165】
ヒトIgG4は、不均一な構造及び血清IgG4とヘテロ二量体を形成する傾向を有する。これは、アミノ酸置換S228Pによって壊滅させることができる(Angal 1993)。低いpH条件下でのIgG4の凝集及びFabアームの交換は、Arg409(WO2006033386;WO2008145142)又はLys370(WO2010063785;US2017029521)を変更することによって低減させることができる。IgG4はまた、ヒンジ領域上のいずれかのアミノ酸のCysへの置換と組み合わせたCys131の置換によって安定化させることもできる(WO2012022982)。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数にアミノ酸の変更を含む、これまでに記載されたバリアントIgG4 Fc領域のいずれかはまた、S228P、S228P/R409K、R409K、K370X、C131X/S217C、C131X/K218C、C131X/Y222C、C131X/G223Cから選択される1つ又は複数の置換も含んでいてもよい(式中、Xは、Cを除くあらゆるアミノ酸残基である)。
【0166】
IgGのC末端は、Lys447の存在又は非存在のために不均一であり得る。これは、最後の1又は2つのアミノ酸残基の欠失によって防ぐことができる。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、K447の欠失、又はG446及びK447の欠失の欠失を含んでいてもよい。
【0167】
Fc領域を含有する抗体及び他のタンパク質の物理化学的な特性は、好適なアミノ酸の変更の選択によって最適化することができる(Yang 2018によって総論されている)。これは、生成物の製造及び安定性に関して重要な利点をもたらすことができる。CH2及び/又はCH3ドメインにおける追加のドメイン内又はドメイン間のジスルフィド結合の導入は、構造を安定化することができる。例えば、L242C/K334C、V240C/L334C、L242C/K334C、A287C/L306C、R292C/V302C、P343C/A431C、S375C/P396C、S375C/P396C/P445G/G446E/K447C、P343C/A431C/P445G/G446E/K447C。新しいジスルフィド結合を導入しない他の安定化する置換としては、Q295F/Y296A及びD239E/L241Mが挙げられる。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、L242C/K334C、V240C/L334C、L242C/K334C、A287C/L306C、R292C/V302C、P343C/A431C、S375C/P396C、S375C/P396C/P445G/G446E/K447C、P343C/A431C/P445G/G446E/K447C、Q295F/Y296A、D239E/L241Mから選択される1つ又は複数の置換を含んでいてもよい。
【0168】
二重特異性又は多重特異性抗体は、益々関心が高まっており、それらを操作する膨大な数の様々な方法が当業界において公知である(例えばBrinkmann 2017を参照)。ヘテロ二量体Fc領域を含有する様式は、抗体の発展性及び創薬可能性を保持しながら、二重特異性及び結合価の変更を可能にするため、特に魅力的である(例えばMoore 2019を参照)。一般的なアプローチは、ホモ二量体のアセンブリが阻害されるがヘテロ二量体のアセンブリは促進されるように、2つの異なる重鎖における異なる相補的な突然変異を作製することである。例えば、これは、1つの鎖に嵩高な残基を置換し、別の鎖に小さい残基を置換すること(「ノブ・イントゥー・ホール」)によって行ってもよいし、又は逆の電荷を有する残基を置換すること(一方の鎖にD又はE、他方にK又はR)によって行ってもよい。例示的な突然変異の対としては、T366YとY407T(Ridgway 1996);S354C/T366WとY349C/T366S/L368A/Y407V(Merchant 1998);F405LとK409R(Labrijn 2013);D399K/E356KとK409D/K392D(Gunasekaran 2010);E357Q/S364KとL368D/K370S(Moore 2019);S364H/F405AとY349T/T394F(Moore 2011);D221E/P228E/L368EとD221R/P228R/K409R(Strop 2012);T350V/T366L/K392L/T394WとT350V/L351Y/F405A/Y407V(Von Kreudenstein 2013);K360E/K409WとQ347R/D399V/F405T(Choi 2013);K360E/K409W/Y349CとQ347R/D399V/F405T/S354C(Choi 2015a);K370E/K409WとE357N/D399V/F405T(Choi 2015b);K360D/D399M/Y407AとE345R/Q347R/T366V/K409V(Leaver-Fay 2016);Y349S/K370Y/T366M/K409VとE356G/E357D/S364Q/Y407A(Leaver-Fay 2016);L351D/L368EとL351K/T366K(Nardis 2017)が挙げられる。したがって、一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、T366YとY407T;S354C/T366WとY349C/T366S/L368A/Y407V;F405LとK409R;D399K/E356KとK409D/K392D;E357Q/S364KとL368D/K370S;S364H/F405AとY349T/T394F;D221E/P228E/L368EとD221R/P228R/K409R;T350V/T366L/K392L/T394WとT350V/L351Y/F405A/Y407V;K360E/K409WとQ347R/D399V/F405T;K360E/K409W/Y349CとQ347R/D399V/F405T/S354C;K370E/K409WとE357N/D399V/F405T;K360D/D399M/Y407AとE345R/Q347R/T366V/K409V;Y349S/K370Y/T366M/K409VとE356G/E357D/S364Q/Y407A;L351D/L368EとL351K/T366Kから選択される置換を含んでいてもよく、置換の対のうち第1のものは、一方のタンパク質鎖に適用され、対のうち第2のものは、他方のタンパク質鎖に適用される。
【0169】
IgG抗体の2価の性質、すなわち標的への結合の親和性を増加させること、及び例えば受容体二量体化によって生理学的作用をもたらす可能性を与えることは、しばしば有利である。しかしながら、これらの特性は必ずしも望ましいとは限らず、時には単量体の抗体を有することが好ましいと予想される。これは、会合する鎖の傾向を低減させるFc領域におけるアミノ酸の変更を作製することによって達成することができる。一部の場合において、ホモ二量体を形成する傾向の消失がこのような変更の特色であるため、このような変更は、二重特異性抗体の状態で、上述される置換の対の半分と同じであってもよい。単量体のFc領域の形成をもたらす多数の他のアミノ酸置換が記載されており、例えば、T394D、F408R(Wilkinson 2013);L351F/T366R/P395K/F405R/Y407E(Shan 2016);F405Q(Rose 2011);
L351Y/T366Y/L368A/P395R/F405R/Y407M/K409A;L351S/T366R/L368H/P395K/F405E/Y407K/K409A;
L351K/T366S/P395K/F405R/Y407A/K409Y(Ying 2012);L351S/T366R/L368H/P395K(Ying 2014);S364N/Y407N/K409T、F405N/Y407T(Ishino 2013)等が挙げられる。したがって、一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、T394D、F408R、L351F/T366R/P395K/F405R/Y407E;F405Q、L351Y/T366Y/L368A/P395R/F405R/Y407M/K409A;L351S/T366R/L368H/P395K/F405E/Y407K/K409A、
L351K/T366S/P395K/F405R/Y407A/K409Y、L351S/T366R/L368H/P395K、S364N/Y407N/K409T、F405N/Y407Tから選択される置換を含んでいてもよい。
【0170】
IgG抗体は、その抗原に結合した後に細胞表面上で秩序だった六量体に組織化することができる。
【0171】
これらの六量体は、補体C1の第1の成分と結合して、CDCを誘導する。六量体形成及び補体活性化を強化する突然変異が同定された(de Jong 2016)。その例としては、E345、E430及びS440における置換が挙げられる。一部の置換、例えばE345R及びE430Fは、溶液中で六量体形成を促進したが、それ以外のものは、抗体がその標的に結合したときだけ六量体形成を促進した。六量体形成を促進する代替方法は、置換L309C/H310Lを作製し、IgM又はIgAのC末端配列の一部を付加することである(Mekhaiel 2011)。補体活性化なしで制御された凝集が必要な場合、前述のFcバリアントの1つを六量体を促進する突然変異と組み合わせることが望ましいと予想される。したがって、一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、IgA又はIgMの適切な断片の付加と共に、E345、E430又はS440における置換、又は置換L309C/H310Lを含んでいてもよい。
【0172】
抗体-薬物コンジュゲートは有望な抗腫瘍剤である。しかしながら、タンパク質に薬物又は他の機能的な部分を付着させるための従来の方法は、タンパク質上の多数の異なる部位への変動しやすい付着の結果として不均一な生成物をもたらす。この問題を克服するために、例えば、システイン、グルタミン、天然にはないアミノ酸、短いペプチドタグ又はグリカンを含有するように特異的な部位を操作することによる部位特異的な改変のためのいくつかの方法が開発されてきた(Zhou 2017)。システインは、Fc領域中の様々な場所に挿入又は置換することができるが、部分的に溶媒に接近可能な部位が好ましい場合があり、これはなぜなら、このようなCys残基へのコンジュゲートが血漿中で最大の安定性を示したためである。好適な部位としては、T289C、A339C及びS442Cが挙げられる。あらゆる可能なコンジュゲーション部位の系統的なスクリーニングにおいて、重鎖定常領域において、以下の残基を含む、コンジュゲーションに関して高い安定性を提供する30個より多くの部位を同定した:120、166、172、178、187、199、203、209、262、336、337、344、345、382、388、411、421、424、438、443(Ohri 2018)。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、薬物又は他の機能的な部分の部位特異的なコンジュゲーションに好適な部位が生じるように設計された1つ又は複数のアミノ酸の変更を含んでいてもよく、そのような部位としては、例えば、120、166、172、178、187、199、203、209、262、289、336、337、339、344、345、382、388、411、421、424、438、442、443から選択される部位における1つ又は複数が挙げられる。
【0173】
Fc領域内の免疫グロブリン定常ドメインは、可変ドメインに高度に相同な方式で折り畳まれている。このような定常ドメイン、特定にはCH3ドメインは、アミノ酸の変更が新しい抗原-結合部位を作り出すことができる足場を提供することができる(Wozniak-Knopp 2017)。このような構築物は、二重特異性抗体の構築において特に有用であり得る。例えば、残基358~362、413~415及び418~422(これらは一緒になって、連続する溶媒に露出した表面を形成する)は、新しい抗原-結合部位を作り出す突然変異の候補である。また他の残基も、結合特徴を改善するために突然変異されてもよく、その例としては、例えば:355~357、383~389、389と390との間の最大5アミノ酸の挿入、416、417及び440~447が挙げられる(Wozniak-Knopp 2017)。したがって、一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、抗原-結合部位を作り出すように設計された1つ又は複数のアミノ酸の変更を含んでいてもよい。一部の実施態様において、残基234、235及び236の1つ又は複数においてアミノ酸の変更を含むこれまでに記載されたバリアントFc領域のいずれかはまた、抗原-結合部位を作り出すために、355~362、383~389、413~422、440~447から選択されるあらゆる数の残基に1つ又は複数のアミノ酸の変更を含んでいてもよい。
【0174】
抗体、抗体ミメティック及びそれらの断片
一部の実施態様において、上述した通りの、又は上述した方法から得られるバリアントFc領域を含むタンパク質のいずれかはまた、抗原-結合ドメインも含む。抗原-結合ドメインは、全長抗体、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、非ヒト抗体又はそれらの断片であり得る。抗原-結合ドメインは、重鎖及び軽鎖可変領域の組合せを含んでいてもよいし、又は単鎖可変領域(scFv)を含んでいてもよいし、又は単一の可変領域を含んでいてもよい。抗原-結合ドメインは、ダイアボディ、Fab断片又はF(ab」)2断片であり得る。バリアントFc領域を含むタンパク質は、それ自体、全長抗体、例えばキメラ抗体、ヒト化抗体又はヒト抗体であり得る。このようなタンパク質は、Fc領域を含むという条件で、二重特異性抗体、多重特異性抗体、又は当業界において公知の他のあらゆる種類の抗体であり得る。抗原-結合ドメインは、非免疫グロブリン足場(例えばアドネクチン、affibody(登録商標)、affilin(登録商標)、affimer(登録商標)、alphabody(登録商標)、anticalin(登録商標)、アビマー(avimer)、darpin(登録商標)、fynomer(登録商標)、グルボディ(glubody)、ノッチン(knottin)、クニッツドメイン、monobody(登録商標)、ナノクランプ(nanoclamp)、テトラネクチン(例えばSimeon 2018を参照)から得てもよい。
【0175】
実質的にあらゆる分子が、抗原-結合ドメインによって標的化することができ、当業界において公知の、又はまだ発見されていないあらゆる抗原-結合ドメインが、この発明のタンパク質に取り込むことができる。
【0176】
融合タンパク質
一部の実施態様において、上述した通りの、又は上述した方法から得られるバリアントFc領域を含むタンパク質のいずれかは、融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、いずれかの所望の特性を有する1つ又は複数の追加のドメインを含んでいてもよい。例えば、追加のドメインは、結合タンパク質、受容体、酵素又はサイトカインであり得る。追加のドメインは、例えば原核生物、真核生物、植物、動物、哺乳動物、ヒト等のあらゆる源から得てもよいし、又は合成的に得てもよい。多数のこのような融合タンパク質は、当業界において公知であり、その例としては、例えば、エタネルセプト、アレファセプト、アバタセプト、リロナセプト、ロミプロスチム、ベラタセプト、アフリベルセプトが挙げられる(Beck 2011;Jafari 2017)。一部の実施態様において、バリアントFc領域は、サイズ、溶解性、発現収量、及び/又は血清中半減期を増加させることが望ましいポリペプチドに融合されている。一部の実施態様において、バリアントFc領域は、ポリペプチドの精製及び/又は検出のためのタグとしてポリペプチドに融合されている。
【0177】
コンジュゲート
一部の実施態様において、上述した通りの、又は上述した方法から得られるバリアントFc領域を含むタンパク質のいずれかは、コンジュゲートしたタンパク質であってもよい。このようなコンジュゲートしたタンパク質は、いずれかの所望の特性を有する1つ又は複数の追加の成分を含んでいてもよい。例えば、追加の成分は、結合タンパク質、受容体、酵素、サイトカイン、毒素、薬物、ハプテン、標識、キレート剤、放射性同位体、親和性タグ、リンカー、ペプチド、核酸又は炭水化物であってもよい。このような追加の成分は、当業界において公知のあらゆる方法によってバリアントFc領域を含むタンパク質に付着されていてもよい。
【0178】
バリアントFc領域を含むタンパク質を生産する方法
一部の実施態様において、上述した通りの、又は上述した方法から得られるバリアントFc領域を含むタンパク質のいずれかは、化学合成によって生産してもよいし、又は好ましくは組換え発現技術によって生産してもよい。
【0179】
モノクローナル抗体は、慣例的であり当業界において周知の多種多様の技術を使用して生産することができ、その例としては、例えば、(a)動物(例えばマウス、ラット、ウサギ、ヒツジ、ラクダ、サメであり、ヒト免疫グロブリン遺伝子に関してトランスジェニックであり得る動物を含む)の免疫化、それに続くハイブリドーマの生産及び選択又は抗原特異的なB細胞の単離;(b)例えばヒト等の非免疫動物からの抗原特異的なB細胞の単離、(c)例えばファージ、酵母、リボソーム又は哺乳類ディスプレイ等のディスプレイ技術が挙げられる。またモノクローナル抗体生産のためのより新しい技術も予期され、その例としては、例えば、動物の免疫化、それに続く得られたポリクローナル抗体のシーケンシング、及び組換えDNA技術による対応するモノクローナル抗体の生産が挙げられる。抗体ミメティックは、非免疫グロブリン足場を利用する多種多様のディスプレイ技術を使用して生産することができる(例えばSimeon 2018を参照)。
【0180】
組換えタンパク質は、慣例的であり当業界において周知の多種多様の技術を使用して生産することができる。典型的なプロセスは、以下の工程を含む:
a)組換えタンパク質のアミノ酸配列を設計する工程。それが抗体、抗体断片又は抗体ミメティックからの抗原-結合ドメインを含むようになされる場合、抗原-結合ドメインの配列は、タンパク質のシーケンシング、又はそれをコードするDNA又はRNAのシーケンシングのいずれかによって決定される。組換えタンパク質が、自然源由来の1つ又は複数のドメインを含むことになる場合、このようなドメインの配列は、適切なデータベースから得てもよい。タンパク質ドメインは、好適なペプチドリンカー、典型的にはアミノ酸の短いフレキシブルなストリングによって接続されてもよい。所望のアミノ酸の変更は、設計された配列に導入されてもよい。
【0181】
b)所望のアミノ酸配列をコードするDNAを設計する工程。遺伝子コードの冗長性のために、多くの可能性のある核酸配列が、同じタンパク質をコードすることができる。それに続く操作に便利なように核酸配列の特性を最適化すること、及びタンパク質の高い発現レベルを確実にすることが望ましい。このような最適化としては、制限酵素部位の除去又は付加、宿主細胞の翻訳機構におけるあらゆるコドンバイアスを最大限利用するようにコドン最適化すること、不要なRNAスプライス部位の除去、mRNAに不要な二次構造を作り出す可能性がある配列の除去、及び当業界において公知の他のあらゆる最適化技術を挙げることができる。
【0182】
c)DNAを合成し、発現ベクターに挿入する工程。所望のアミノ酸配列をコードする遺伝子は、当業界において公知のあらゆる技術によってデノボ合成してもよいし、又は類似した既存の遺伝子からの部位特異的変異誘発によって作り出してもよい。このような遺伝子は、増幅のための細菌プラスミドに挿入して、DNAのストックを提供してもよく、それから遺伝子を切り出し、発現ベクターに挿入してもよく、このような発現ベクターは、例えばプラスミド又はレトロウイルスであってもよい。
【0183】
d)トランスフェクトし、タンパク質を発現させる工程。発現ベクターは、好適な宿主細胞にトランスフェクト又は形質導入され、このような細胞は、例えば、哺乳類細胞、例えばNS0、CHO、PER.C6又はHEKであってもよい。代替として、宿主細胞は、細菌、酵母、植物若しくは昆虫細胞、又は組換えタンパク質の生産に適した他のあらゆる細胞型であってもよい。細胞は、形質導入された遺伝子を発現させ、タンパク質を合成させ、(好ましくは)細胞から分泌させるような好適な条件下で培養される。発現ベクターの設計に応じて、トランスフェクション又は形質導入のための方法、並びにトランスフェクト又は形質導入された細胞の選択、遺伝子発現及びタンパク質合成のための手順は、一時的であってもよいし、又は安定であってもよく、これは構成的であってもよいし、又は誘導的であってもよい。
【0184】
e)タンパク質を精製する工程。タンパク質は、当業界において公知のあらゆる好適な技術によって、例えば、クロマトグラフィー(例えばイオン交換、親和性、及びサイズ排除クロマトグラフィー)、遠心分離、示差的な溶解性によって、又はタンパク質精製のための他のあらゆる標準的な技術等によって細胞溶解産物又は(好ましくは)培養上清から精製される。プロテインAを使用する親和性精製が、Fc領域を含むタンパク質の精製のための好ましい方法である。
【0185】
組換えタンパク質の生産のための代替プロセスは、無細胞発現系を使用するものであり得る(例えばGregorio 2019を参照)。この発明のタンパク質はこのようなプロセスによって作製可能であることが想定される。
【0186】
核酸
一部の態様において、残基234及び/又は235におけるアミノ酸置換及び残基236におけるArgのアミノ酸置換又は挿入を含むバリアントFc領域を含むタンパク質をコードする核酸が提供される。コードされたタンパク質はまた、上述した機能特性及び/若しくは追加のアミノ酸の変更のいずれか又はそれらのあらゆる組合せを有していてもよい。核酸は、DNAであってもよいし、又はRNAであってもよい。これは、当業界において公知のあらゆる好適な方法によって得てもよく、そのヌクレオチド配列は、当業界において公知のあらゆる好適な方法によって決定してもよい。
【0187】
ベクター
一部の態様において、残基234及び/又は235におけるアミノ酸置換並びに残基236におけるArgのアミノ酸置換又は挿入を含むバリアントFc領域を含むタンパク質をコードする核酸を含むベクターが提供される。コードされたタンパク質はまた、上述した機能特性及び/又は追加のアミノ酸の変更のいずれか又はそれらのあらゆる組合せを有していてもよい。一部の実施態様において、ベクターは、好適な宿主細胞に導入されると、タンパク質の発現を引き起こすことができる。一部の実施態様において、ベクターは、自己複製する染色体外ベクターである。一部の実施態様において、ベクターは、宿主細胞ゲノムに統合することができる。発現ベクターは、宿主細胞型に適合するように構築される。したがって、発現ベクターは、本発明において利用され、その例としては、これらに限定されないが、細菌、酵母、植物、昆虫又は哺乳類細胞における、加えて、例えばトランスジェニック動物又は植物の生成によるインビボの系における、バリアントFc領域を含むタンパク質の発現を可能にするものが挙げられる。当業界において公知のように、本発明のタンパク質の発現にを利用することができる様々な発現ベクターが、商業的に、又はそれ以外の方法で入手可能である。一部の実施態様において、ベクターは、ウイルスである。一部の実施態様において、ベクターは、インビボでヒト細胞に感染して、本発明のタンパク質の発現を引き起こすことが可能なウイルスである。一部の実施態様において、ベクターは、腫瘍溶解性ウイルスである。当業界において周知の通り、あらゆる発現ベクターを、あらゆる好適なプロモーター、エンハンサー又は他の発現を容易にするエレメントと関連させることができる。
【0188】
細胞
一部の態様において、残基234及び/又は235におけるアミノ酸置換及び残基236におけるArgのアミノ酸置換又は挿入を含むバリアントFc領域を含むタンパク質を生産することができる細胞が提供される。好適な宿主細胞の例としては、細菌、酵母、植物若しくは昆虫細胞、又はNS0、CHO、PER.C6又はHEK等の哺乳類細胞が挙げられる。代替として、宿主細胞は、組換えタンパク質の生産に適した他のあらゆる細胞型であってもよい。一部の実施態様において、宿主細胞は、細胞ゲノムに安定して組み込まれる、バリアントFc領域を含むタンパク質をコードする核酸を含む。他の実施態様において、宿主細胞は、バリアントFc領域を含むタンパク質をコードする、統合されていない核酸、例えばプラスミド、コスミド、ファージミド、又は直鎖状発現エレメントを含む。
【0189】
医薬組成物
一部の態様において、本発明は、本明細書において態様及び実施態様のいずれかで定義されたバリアントFc領域を含むタンパク質を含む医薬組成物を提供する。医薬組成物は、当業界において公知の従来の技術(例えばRemington 1995;Shire 2009を参照)に従って、医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバント及び/又は賦形剤を用いて製剤化されてもよい。医薬的に許容される担体、希釈剤、アジュバント及び賦形剤は、本発明のタンパク質及び選ばれた投与様式にとって好適なものであるべきである。適性は、所望の生物学的な特性(例えば抗原又は受容体のいずれかへの結合活性、安定性、薬物動態パラメーター)に著しい負の影響がないこと、及び組成物が投与されることになる対象に対して毒性がないことに基づいて決定される。医薬組成物における活性成分(この発明のタンパク質を含む)の量は、所望の治療応答を達成するのに効果的な量が得られるように変更することができる。選択された量は、活性成分の薬物動態学的特性、投与の経路及びタイミング、処置されている患者の年齢、性別、体重及び医学的状態、並びに当業界において周知の類似した要因によって決めることができる。医薬組成物は、あらゆる非経口経路(例えばによる注射又は輸注)によって投与されてもよい。
【0190】
治療用途
一部の態様において、本発明は、医薬として使用するための、本明細書に記載されるあらゆる態様又は実施態様で定義されるタンパク質、例えば抗体、又は医薬組成物を提供する。別の態様において、本発明は、疾患の処置における使用のための、本明細書に記載されるあらゆる態様又は実施態様で定義されるタンパク質、例えば抗体、又は医薬組成物を提供する。別の態様において、疾患を有する対象を処置する方法であって、有効量の本明細書に記載されるあらゆる態様又は実施態様で定義されるタンパク質、例えば抗体、又は医薬組成物を対象に投与する工程を含む、方法が提供される。この発明の抗体又はタンパク質は、いずれの特定の詳細又は様式に限定されないため、処置され得る疾患の範囲は極めて広範囲である。しかしながら、好適な疾患の適応症の選択における共通の要因は、Fcγ受容体に結合し、炎症反応を引き起こしたり、又は有害作用を引き起こす可能性がある他のエフェクター機能と関与したりする可能性があることが、医薬にとって望ましくないと予想されるという点である。このような疾患としては、例えば、血管浮腫、関節炎、喘息、アトピー性皮膚炎、自己免疫疾患、がん、キャッスルマン病、凝血障害、クローン病、クリオピリン関連周期性症候群、糖尿病、薬物毒性、湿疹、移植片対宿主病、高コレステロール血症、低リン酸血症、感染性疾患、虚血性心疾患、黄斑変性症、多発性硬化症、筋肉の喪失、骨粗鬆症、発作性夜間ヘモグロビン尿症、原発性血球貪食性リンパ組織球症、乾癬、敗血症、鎌状赤血球症、卒中、全身性エリテマトーデス、血小板減少性紫斑病、移植、潰瘍性大腸炎、又はヒト対象において治療用モノクローナル抗体又はFc融合タンパク質が使用若しくは試験されたことがあるか、又は現在使用若しくは試験されている他の疾患適応症が挙げられる。一部の環境において、この発明のタンパク質の使用により得られる望ましくない反応又は有害反応における低減(この発明のアミノ酸の変更を有さない類似したタンパク質と比較して)は、それ以外の状況で、この発明のアミノ酸の変更を有さない類似したタンパク質に関して安全又は慎重であるとみなされると予想される用量より、本発明のタンパク質の、より高い用量、より高頻度の用量又はより多くの用量の使用を許容する。したがってこの発明のタンパク質は、この発明のアミノ酸の変更を有さない類似したタンパク質より高い治療指数を有することが予測される。
【0191】
一部の態様において、本発明は、この発明のアミノ酸の変更を有さない類似したタンパク質と比較して低減した免疫原性を有する、本明細書に記載されるあらゆる態様又は実施態様で定義されたタンパク質、例えば抗体、又は組成物を提供する。生物学的薬物、特定にはタンパク質の不要な免疫原性は、それにより薬物の治療活性を中和したり、又は有害反応又は副作用を引き起こしたりする可能性がある抗薬物抗体の形成が生じるため、問題である。このような抗薬物抗体は、有効な処置の持続時間を制限する。Fc受容体への結合は、Fc領域を含むタンパク質の免疫原性を強化する可能性がある(Chen 2007、Loureiro 2011)。免疫原性が低減されたこの発明のタンパク質は、例えば、有効な療法剤の、より大きい効能、より低い毒性、より少ない副作用、より長い持続時間等の多数の理由で、治療用途に特に有用である。
【0192】
調査及び診断用途
一部の態様において、本発明は、調査又は診断試験又は品質管理試験における使用のための、本明細書に記載されるあらゆる態様又は実施態様で定義されたタンパク質、例えば抗体、又は組成物を提供する。したがって、本発明は、本明細書に記載されるタンパク質を使用する、調査及び診断方法並びに品質管理方法並びに組成物を提供する。このような方法及び組成物は、疾患を検出又は同定するため、処置の進行をモニターするため、処置後のステータスを評価するため、処置後に再発をモニターするため、疾患を発症させるリスクを評価するため、インビトロにおける生物学的薬物の活性に関する試験等のために、使用することができる。一部の態様において、診断方法又は組成物は、例えばこの発明の抗体又はタンパク質によって認識された抗原のレベルを検出又は測定するために、エクスビボで使用される。他の態様において、診断方法又は組成物は、例えばこの発明の抗体又はタンパク質によって認識された抗原の体内への内在化を決定するために、インビボにおいて使用される。この発明の抗体又はタンパク質は、いずれの特定の詳細又は様式に限定されないため、調査、品質管理及び診断試験の範囲は極めて広範囲であり、公知の、又はまだ発見されていないほとんど全ての抗原性標的を包含していてもよく、当業界において公知のあらゆる関連技術、例えば、酵素結合免疫検査法、細胞ベースのアッセイ、ラジオイムノアッセイ、蛍光アッセイ、フローサイトメトリー、表面プラズモン共鳴、化学発光、電気化学発光、クロマトグラフアッセイ、均一系イムノアッセイ(例えばAlphaLISA(登録商標)、Lumit(登録商標)、CEDIA(登録商標))、免疫組織学的アッセイ、ウェスタンブロット、免疫沈降、ラテラルフロー試験等を利用することができる。一部の態様において、本発明の抗体又はタンパク質は、選択された試験システムでの検出に好適な成分を含むコンジュゲートしたタンパク質である。一部の態様において、本発明の抗体又はタンパク質は、インビボの画像診断試験における使用のために放射標識されている。しかしながら、試験又は組成物の選択及び設計における共通の要因は、本発明の抗体又はタンパク質のFcγ受容体又はC1qへの不要な結合、又はそれ以外の理由でアッセイ干渉又は偽陽性若しくは偽陰性応答を引き起こす可能性がある他のエフェクター機能に携わることを回避することへの切望である。この発明のタンパク質に関する調査、品質管理及び診断用途としては、例えば、細胞への結合を測定するあらゆる種類の試験、又はFcγ受容体を提示させることができるタンパク質アレイが挙げられる。このような受容体への結合は、「偽陽性」応答を生じる可能性がある。このような不要な結合は、この発明のタンパク質の使用によって低減したり又はなくしたりすることができる。この発明のタンパク質の他の試験用途としては、例えば、この発明のタンパク質が、そのFcγ受容体又はC1qへの結合が欠如しているために対照試料として使用されるあらゆる種類の試験が挙げられる。
【0193】
この発明の一部の態様において、調査又は診断のための試験システムにおいて使用される、抗体若しくはFc融合タンパク質又は抗体コンジュゲート若しくはFc融合タンパク質コンジュゲートのFcγ受容体への不要な結合を低減させる方法であって、(a)本発明によるアミノ酸の変更を含有する前記抗体又はFc融合タンパク質又はコンジュゲートのバリアント形態を製造する工程、(b)元の抗体又はFc融合タンパク質又はコンジュゲートの代わりに、前記バリアント形態を置換する工程を含む、方法が提供される。試験システムは、例えば、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)、蛍光ベースのアッセイ、免疫組織化学試験、化学発光若しくは電気化学発光試験、画像診断試験又は他のあらゆる免疫学的な試験システムであってもよい。
【実施例】
【0194】
以下の実施例は、この発明の実施を例示するように記載される。これらは、この発明の全体範囲を限定又は定義することを意図しない。免疫グロブリン対立遺伝子における差のために、又は異なるクローニング戦略のために、本明細書に記載されるアミノ酸配列と、文献中の他所で報告されたものとの間にわずかな差(すなわちアミノ酸の変更)があってもよい。このような差は、この発明の範囲を限定しない。
【0195】
(実施例1)
バリアントFc領域を含む抗体の生産
1.1 設計、発現及び精製
野生型ヒトIgG1重鎖定常領域(配列番号4)又はそのバリアントをコードするコドン最適化された合成遺伝子を、Genewiz(登録商標)によってpUC57-Kanベクター中に提供した。精製されたDNAをNheI/NotI制限酵素で消化し、pUV哺乳類発現ベクターへのライゲーションのために遺伝子を抽出した。同様に、ヒトカッパ軽鎖定常領域(配列番号5)のためのコドン最適化された合成遺伝子をpUVベクターにライゲートした。抗CD20リツキシマブのVH及びVL可変領域(配列番号6及び配列番号7)、抗CD3ムロモナブ(配列番号8及び配列番号9)又は抗CD52アレムツズマブ(配列番号10及び配列番号11)をコードする合成遺伝子を、Genewiz(登録商標)によって、クローニングのために5'及び3'末端におけるNheI及びAvaI制限部位と共に提供した。VH遺伝子を消化し、切り出し、野生型ヒトIgG1重鎖pUVベクターにライゲートした。VL遺伝子を消化し、切り出し、ヒトカッパ軽鎖pUVベクターにライゲートした。バリアントを作り出すために、バリアントFc領域を含有する合成遺伝子を、5'及び3'末端におけるKasI及びSacII制限部位と共に合成し、消化し、切り出し、抗CD20の免疫グロブリン重鎖(配列番号12)をコードする現存するベクターにライゲートした。抗CD3重鎖(配列番号14)又は抗CD52重鎖(配列番号16)のバリアントを、適切なVH可変領域をNheI及びAvaIで消化し、続いて切り出し、同様にNheI及びAvaIで消化して、抗CD3又は抗CD52での置き換えのために抗CD20(canti-CD20)VH配列を除去した抗CD20バリアント重鎖ベクターにライゲートすることによって生成した。類似したプロセスを使用して、野生型ヒトIgG2(配列番号18)、ヒトIgG4(配列番号19)、マウスIgG2a(配列番号20)、ラットIgG2b(配列番号22)又はウサギIgG(配列番号24)のバリアントを作り出した。ヒトIgG4のケースにおいて、Fc受容体への結合を改変するためになされたアミノ酸の変更に加えて、抗体構造を安定化するために追加のアミノ酸置換S228Pを導入した(Angal 1993)。マウス、ラット又はウサギ抗体の発現のために、抗CD20VL遺伝子を、関連カッパ軽鎖定常領域をコードする遺伝子(配列番号21、配列番号23又は配列番号25)とライゲートした。
図1に、本明細書において使用される野生型IgG Fc領域のアミノ酸配列及びアミノ酸の変更の部位を例示する。最終的な挿入物の配列を、サンガーシーケンシングによって確認した。
【0196】
無傷の抗体を、適切な重鎖発現ベクターと、抗CD20(リツキシマブ)(配列番号13)、抗CD3(ムロモナブ)(配列番号15)又は抗CD52(アレムツズマブ)(配列番号17)の免疫グロブリン軽鎖をコードする対応する軽鎖発現ベクターとの混合物でのHEK293細胞の一過性トランスフェクションによって生産した。HEK293細胞を、無血清培養培地(ThermoFisherカタログ番号12338026)中に懸濁して増殖させ、直鎖状ポリエチレンイミンを使用して、生存細胞2×106個/mLの細胞数でトランスフェクトした。細胞を、エルレンマイヤーフラスコ中で、5%CO2中、140rpmで振盪しながら37℃で6日間培養した。Fc融合タンパク質を、必要な融合タンパク質をコードする発現ベクターでのHEK293細胞の一過性トランスフェクションによって類似した方法で生産した。代替として、抗体を、重鎖及び軽鎖発現ベクターの類似した混合物を使用したCHO細胞の一過性トランスフェクションによって生産した。懸濁適応CHO細胞を無血清培地中で培養し、MaxCyte緩衝液に細胞2×108個/mLで再懸濁し、MaxCyte STC装置(MaxCyte社、Gaithersburg、USA)を製造元の説明書に従って使用して、エレクトロポレーションによってトランスフェクトした。細胞を30分静置し、次いで37℃で24時間及び32℃で更に10日間培養した。細胞を、3000gで45分の遠心分離によって回収し、0.22μmの真空駆動フィルターを使用して上清を透明化した。
【0197】
培養上清を、非還元SDS-ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS-PAGE)、それに続くクーマシーブルーでの染色によって分析した。これは、試料の全てがおよそ150kDaの分子量に対応する単一のバンドを生じたことを示した。抗体を、1mLのMabSelect SuRe(登録商標)プロテインAクロマトグラフィーカラム(GE Life Sciences社)を使用して精製し、0.1Mのクエン酸ナトリウム緩衝液pH3.0で溶出させ、次いで10%(v/v)トリス塩基pH9.0で中和した。溶出させた抗体の緩衝液をPBS pH7.2に交換し、必要に応じて遠心濃縮機を使用して濃縮した。タンパク質濃度を、Nanodrop(登録商標)ND-1000分光光度計(Thermo-Fisher社)を使用して、280nmでの吸光度によって測定し、PBSでの希釈によって1mg/mLに調整した。いくつかの別のトランスフェクション実験を行った。表5に、調製された試料のリストを示す。
【0198】
【0199】
【0200】
【0201】
【0202】
【0203】
【0204】
【0205】
1.2 抗原結合
代表的なCD3及びCD52抗体の抗原結合特性を、酵素結合免疫吸着測定法(ELISA)によって試験した。全ての工程を室温(18~22℃)で行った。96ウェルマイクロプレート(Sigma社カタログ番号M9410-ICS)に、(a)PBS中1μg/mLの、CD3D/CD3Eヘテロ二量体(Sino Biologicals社カタログ番号CT038-H2508H)、又は(b)PBS中5μg/mLの、ヒツジFc-CD52融合タンパク質(Absolute Antibody社カタログ番号PR00205)のいずれかの50μLを添加し、およそ2時間振盪しながらインキュベートした。コーティング抗原を除去し、200μLの1%(w/v)カゼイン及び0.05%(v/v)プロクリンを含有するPBS(ブロック緩衝液)を添加し、およそ3時間インキュベートした。プレートを、0.05%(v/v)のTween 20を含有するPBS(洗浄緩衝液)で濯ぎ、ブロック緩衝液で希釈して5μg/mLの最終濃度にした試験試料を添加した。プレートをおよそ1時間振盪しながらインキュベートし、次いで洗浄緩衝液で濯いだ。HRP標識ウサギ抗ヒトIgG(Sigma社カタログ番号A8972)を、ブロック緩衝液で1:10,000に希釈し、100μLを各ウェルに添加した。プレートを、およそ2.5時間振盪しながらインキュベートし、次いで洗浄緩衝液で4回、水で2回洗浄した。100μLの3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン液体基質、超高感度(TMB)(Abcam社カタログ番号ab171523)を添加し、プレートをおよそ10分間インキュベートした。50μLの1M硫酸を添加して、反応を止め、マイクロプレート分光光度計(Anthos Labtec HT)を使用して、吸光度を、450nmで、620nmを引いて読んだ。各試料を4連で試験した。平均を計算し、陰性対照(緩衝液単独)の平均応答を引いた。表6に結果を示す。CD3バリアント抗体の全てが、CD3抗原への陽性結合をもたらし、CD52バリアント抗体の全てが、CD52抗原への陽性結合をもたらした。特異性対照として、野生型CD3抗体のCD52への、又は野生型CD52抗体のCD3への有意な結合はなかった。
【0206】
【0207】
(実施例2)
Fcγ受容体への結合
2.1 ヒトFcγRIへの結合に関するバリアントのパネルのスクリーニング
結合分析を、Biacore(登録商標)T200対照ソフトウェアを備えたBiacore(登録商標)T200装置を使用した25℃での表面プラズモン共鳴によって行った。泳動緩衝液(HBS-EP+)は、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、及び0.05%v/vの界面活性剤P20を含有する0.01MのHEPES pH7.4からなっていた。分析中、試料区画を4℃で保持した。方法を、Biacore(登録商標)T200装置ハンドブックに記載された通りの製造元の標準的な方法ウィザードを使用して試行した。
【0208】
ポリクローナル抗ヒスチジン抗体(GE Healthcare社カタログ番号28-9950-56)を、EDC/NHS化学によってCM5チップに固定した。細胞を、EDC/NHSでの処理によって7分活性化した。抗体を10mMの酢酸ナトリウムpH4.5で5μg/mLに希釈し、5μL/分で7分間注入した。フローセルを、7分にわたる1Mのエタノールアミンの注入によって不活性化した。このプロセスを、別々のフローセル上で抗his抗体の非存在下で繰り返して、参照表面を生成した。ヒスチジンタグを有する組換えヒトFcγRI(CD64)(Sino Biologicals社カタログ番号12056-H08H)をHBS-EPで10μg/mLに希釈し、30μL/分の流速で2分間注入した。バリアントFc領域を含むヒトIgG1抗体を発現するHEK293細胞からの希釈していない培養上清の試料を、30μL/分で1分間注入し、そのまま2分間解離させた。試験試料の全てが、対照野生型IgG抗体と比較して実質的に低減したFcγRIへの結合を示し、2分以内に完全に解離した。それゆえに、サイクル間の再生は不要であった。試験フローセル(抗His抗体とカップリングされた)への応答を、対照フローセル(擬似カップリングされた)への応答を引いた後に分析した。試料注入開始の55秒後に、相対的な結合応答を測定した。Hisタグを有するFcγRIの遅い解離に起因する応答におけるあらゆる起こり得るドリフトを説明するために、結合応答を、試料注入前と解離の終了時に配置された報告ポイント間を補間したベースラインに対して測定した。
【0209】
実験全体を3回繰り返した。試料の比較的粗製の性質(変化しやすい屈折率、培養培地や他の細胞生成物の存在)のために、一部のセンサーグラムは不十分であり、分析から排除した。次いで結合応答の平均及び標準偏差を、各試料につき計算した。全ての標準偏差の平均は6.7RUであった。65.0RUの最大の平均応答が、試料1-167(L234A/L235A)によって示された。突然変異G236Rを含有する全てのバリアントは、より低い平均応答を示した。試料1-119(L234Q/L235S/G236R)を、初期の実験により効果的にサイレンシングされた代表的なバリアントとして採用した。これは、11.9RUの平均応答を示した。21.9RUのカットオフは、この代表的なバリアントの平均応答に加えて試料の平均標準偏差の1.645倍に等しいと計算された。このカットオフを超える応答を生じる試料を、代表的な試料1-119と比較して有意に大きいFcγRIへの結合を生じるとみなした。
【0210】
【0211】
【0212】
【0213】
【0214】
【0215】
この実験から、低いレベルのヒトFcγRIへの結合をもたらした多数のバリアントが同定されたが、他の多くが、代表的な低結合試料(1-119)の平均に加えて応答の標準偏差の1.645倍に等しいカットオフより大きい結合をもたらした。これらのより高いレベルの結合をもたらしたバリアントを、それに続く分析から除外した。
【0216】
2.2 ヒトFcγRIへの結合に関する精製されたバリアントのパネルのスクリーニング
培養上清のスクリーニングの結果に基づいて、低いレベルのFcγRIへの結合をもたらすバリアントを、精製された抗体としての更なる分析のために選択した。結合分析を、Biacore(登録商標)T200対照ソフトウェアを備えたBiacore(登録商標)T200装置を使用した25℃での表面プラズモン共鳴によって行った。試料区画を5℃で保持した。泳動緩衝液(HBS-EP+)は、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、及び0.05%v/vの界面活性剤P20を含有する0.01MのHEPES pH7.4からなっていた。方法を、Biacore(登録商標)T200装置ハンドブックに記載された通りの製造元の標準的な方法ウィザードを使用して試行した。
【0217】
マウスモノクローナル抗ヒスチジン抗体(Qiagen社カタログ番号34670)を、EDC/NHS化学によってCM5チップに固定した。細胞を、EDC/NHSでの処理によって7分活性化した。抗体を10mMの酢酸ナトリウムpH5.0で10μg/mLに希釈し、5μL/分で7分間注入した。フローセルを、7分にわたる1Mのエタノールアミンの注入によって不活性化した。このプロセスを、別々のフローセル上で抗his抗体の非存在下で繰り返して、参照表面を生成した。ヒスチジンタグを有する組換えヒトFcγRI(CD64)(Sino Biological社カタログ番号12056-H08H)をHBS-EPで5μg/mLに希釈し、10μL/分の流速で2分間注入した。バリアントFc領域を含む精製された抗体の試料(PBS中1mg/mL)を、泳動緩衝液で100μg/mLに希釈し、30μL/分で1分間注入し、そのまま2分間解離させた。各サイクル間に、チップを、30μL/分の流速で0.5分にわたる10mMのグリシンpH3.0の注入によって再生し、FcγRIの新たな注入で再び負荷した。各実験の始めに、試験試料の代わりに緩衝液単独を注入する3回のブランクサイクルを試行した。平均SPRシグナル(参照細胞に対する)を、試験試料の注入前(ベースライン)のおよそ8~13秒の枠、及び注入の終了(応答)前のおよそ3~8秒の枠で測定した。結合したFcγRIの全ての解離を可能にして、各試験試料の補正された応答を得るために、ブランク(緩衝液)試料の3番目の応答を、各試験試料の応答から引いた。実験全体を、分析されている試験試料を異なる順番で各1回用いて、3回繰り返した。LALAPG参照抗体の2つの独立したロットを、各実験に組み入れた。1つのロット(試料2~66)を他のバリアントの全てと並行して調製し、統計比較のために使用し、一方で他のロット(試料10.75)は別の機会に調製した。各実験の開始時と終了に、このロットを一貫性のチェックとして泳動した。
【0218】
3つの実験にわたる各試料の補正された応答の平均を、不等分散と仮定した両側t検定を使用して、LALAPG参照抗体(試料66)に対して補正された応答の平均と比較した。Microsoft Excel(登録商標)2016におけるT.TEST機能を使用して計算を行った。結果に、LALAPG参照抗体(試料2-66)の平均の補正された応答と比べて、(a)より有意に低い(p≦0.05)、(b)同等(p>0.05)又は(c)より有意に高い(p≦0.05)として印をつけた。表8に結果を示す。新しいバリアントの大部分(試料2-2~2-64、それぞれを含む)が、LALAPG参照抗体と比較して有意に低いFcγRIへの結合をもたらし、それらの多くが、緩衝液対照と区別できないほどであった。対照的に、これまでに公開されたバリアント(試料2-65、2-67~2-78)及び対照(試料2-79~2-83)の全てが、LALAPG参照抗体と比較して高いか又は区別できないほどの結合をもたらした。これまでに公開されたバリアントである試料2-72は、FcγRIIIへの結合を強化するように設計された突然変異を含有しており、野生型参照に匹敵するFcγRIへの結合をもたらした。
【0219】
【0220】
【0221】
【0222】
この実験は、置換G236Rと共に234位及び/又は235位にアミノ酸置換を含む多くのバリアントのヒトFcγRIへの結合が、LALAPG参照抗体より有意に低いこと(p≦0.05)を示す。これまでにLALAPG参照抗体が「完全に壊滅されたFcγR相互作用」を有すると記載されたことを考慮すると、この結果は特に驚くべきことである(Schlothauer 2016)。全く対照的に、これまでに公開されたバリアント(試料2-65及び2-67~2-83)のうちLALAPG参照抗体より低い結合を示したものはなく、それらの多くが、それより有意に高かった(p≦0.05)。
【0223】
CHO細胞から生産された3つのものを含む追加のバリアントを同じようにして試験した。表9に結果を示す。
【0224】
【0225】
2.3 ヒトFcγRIと比較したマウス、ラット及びウサギFcγRIへの結合
非常に低いヒトFcγRIへの結合をもたらした新しいバリアントを代表するアミノ酸の変更L234Q/L235S/G236Rを有するバリアント抗体を、マウス、ラット及びウサギFcγRIへの結合に関して対照のセットと比較した。結合分析を、ヒトFcγRI、マウスFcγRI(Sino Biological社カタログ番号50086-M08H)、ラットFcγRI(Sino Biological社カタログ番号80016-R08H)又はウサギFcγRI(Sino Biological社カタログ番号65010-T08H)のいずれかを各5μg/mLでチップに入れたことを除いて実施例2.2に記載された通りに行った。前述したように、結合応答を、泳動緩衝液単独からなるブランク試料によって得られた応答を引くことによって補正した。表10に結果を示す。前述したように、L234Q/L235S/G236Rバリアントは、ヒトFcγRIへの結合に関して、LALAPG参照より実質的に低い応答をもたらした(72.9RUと比較して、2.0RU)。これはまた、それより実質的に低いウサギFcγRIへの結合ももたらした(5.6RUと比較して0.9RU)。いずれの試料もマウス又はラットFcγRIへの測定可能な結合を示さなかった。
【0226】
【0227】
2.4 ヒトFcγRII及びヒトFcγRIIIへの結合
非常に低いヒトFcγRIへの結合をもたらした新しいバリアントを代表するアミノ酸の変更L234Q/L235S/G236Rを有するバリアント抗体を、ヒトFcγRII及びヒトFcγRIIIの様々な形態への結合に関して対照のセットと比較した。結合分析を、ヒトFcγRIIA(R131、Sino Biological社カタログ番号10374-H08H)、ヒトFcγRIIB(Sino Biological社カタログ番号10259-H08H)、ヒトFcγRIIIA(F158、Sino Biological社カタログ番号10389-H08H)又はヒトFcγRIIIB(NA2アロタイプ、Sino Biological社カタログ番号11046-H08H)のいずれかをチップに入れたことを除いて実施例2.2に記載された通りに行った。前述したように、結合応答を、泳動緩衝液単独からなるブランク試料によって得られた応答を引くことによって補正した。表11に結果を示す。この実験において、L234Q/L235S/G236RバリアントもLALAPG参照抗体も、ヒトFcγRのいずれかへの測定可能な結合を示さなかった。
【0228】
【0229】
更なる実験を類似した方法で行って、ヒトFcγRIIIAへの選択されたバリアントの結合を測定した。表12に結果を示す。LALAPG参照抗体と類似して、新しいバリアントの大部分が、FcγRIIIAへの非常に低い結合を示した。
【0230】
【0231】
【0232】
2.4 更なるFcγ受容体への結合
追加の研究を行って、以下の突然変異:L234G/L235S/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R、L234T/L235Q/G236R、L234T/L235T/G236R、L234A/L235A(LALA)、L234A/L235A/P329G(LALAPG参照)及びN297Q(アグリコシル)を有するCD20、CD3及びCD52 IgG1抗体の結合を測定した。結合を、セクション2.2に記載された通りに、Biacore(登録商標)分析によって、以下の受容体:ヒトFcγRI、ヒトFcγRIIa R131対立遺伝子、ヒトFcγRIIb、ヒトFcγRIIIa F158対立遺伝子、ヒトFcγRIIIa V158対立遺伝子、ヒトFcγRIIIb NA2対立遺伝子、マウスFcγRI、ラットFcγRIを使用して測定した。前述したように、これまでに公開されたバリアントLALA、LALAPG及びアグリコシルは全て、陰性対照を有意に超えるFcγRIへの結合をもたらした。LALAバリアントも、陰性対照を有意に超える、FcγRII対立遺伝子R131及びFcγRIIIaの両方の対立遺伝子への結合をもたらした。アグリコシルバリアントは、陰性対照を有意に超えるマウス及びラットFcγRIの両方への実質的な結合をもたらした。対照的に、FcγRの全てへの新しいバリアントの全ての結合を陰性対照の結合を有意に超えなかった。
【0233】
更なる実験を行って、ヒトIgG1、IgG2及びIgG4、マウスIgG2a、ラットIgG2b及びウサギIgGからのFc領域とのCD20抗体の結合を測定した。これらの研究のために、代表的なバリアントL234Q/L235S/L236Rを使用した。野生型ヒトIgG2は、残基236に欠失を有する。一方において欠失が保持され(L234Q/L235S)、他方においてArg残基が挿入された(L234Q/L235S/Δ236R)2つのバリアントを作製した。バリアントIgG4抗体は、安定化突然変異S228Pを含んでいた。2つのIgG1バリアントはまた、FcRnへの結合を増加させるように設計された突然変異(L234Q/L235S/L236R/M252Y/S254T/T256E及びL234Q/L235S/L236R/T250Q/M428L)も含んでいた。結合を、セクション2.2に記載された通りに、Biacore(登録商標)分析によって、以下の受容体:ヒトFcγRI、ヒトFcγRIIa R131対立遺伝子、ヒトFcγRIIb、ヒトFcγRIIIa F158対立遺伝子、ヒトFcγRIIIa V158対立遺伝子、ヒトFcγRIIIb NA2対立遺伝子、マウスFcγRI、ラットFcγRIを使用して測定した。IgG2バリアントL234Q/L235S/Δ236Rは、ヒト及びマウスFcγRIへの弱い陽性結合応答をもたらした。IgG2バリアントL234Q/L235Sは、ヒトFcγRIへのより強い応答をもたらしたが、マウスFcγRIに対しては陰性であった。IgG2バリアントは、試験された全ての他のFcγ受容体と陰性結合応答をもたらした。ラットIgG2bバリアントは、ヒトFcγRI、FcγRIIa R131、FcγRIIb、FcγRIIIa F158、及びラットFcγRIと陽性応答をもたらしたが、ヒトFcγRIIIa V158及びマウスFcγRIとは陰性であった。半減期を延長する突然変異を有する、ヒトIgG4、マウスIgG2a、ウサギIgG及びヒトIgG1に基づくバリアントは、試験されたFcγ受容体の全てと陰性結合応答をもたらした。
【0234】
(実施例3)
FcRnへの結合
3.1 表面プラズモン共鳴によるFcRnへの結合
非常に低いヒトFcγRIへの結合をもたらした新しいバリアントを代表するアミノ酸の変更L234Q/L235S/G236Rを有するバリアント抗体を、ヒト及びサルFcRnへの結合に関して対照のセットと比較した。結合分析を、5μg/mLでのヒトFcRn(R&D Systems社カタログ番号8639-Fc)又は2μg/mLでのカニクイザルFcRn(Sino Biological社カタログ番号CT031-C08H)、及び全ての試料の希釈にも使用され、酢酸でpH6.0に調整された泳動緩衝液(HBS-EP+)のいずれかをチップに入れたことを除いて実施例2.2に記載された通りに行った。ヒトFcRnの結合を2回測定した。前述したように、結合応答を、泳動緩衝液単独からなるブランク試料によって得られた応答を引くことによって補正した。表13に結果を示す。試料の全ては、ヒト及びカニクイザルFcRnの両方に、実質的な全体的に類似した結合をもたらした。
【0235】
【0236】
更なる実験を類似した方法で行って、ヒトFcRn、カニクイザルFcRn及びマウスFcRn(Sino Biological社カタログ番号CT029-M08H)への選択されたバリアントの結合を測定した。表14に結果を示す。全てのバリアントは、野生型参照抗体と比較して全体的に類似した応答をもたらした。
【0237】
【0238】
更なる実験を行って、ヒトFcRnの結合に関してバリアントのより大きいパネルを試験した。比較的多数の試料のために、Biacore(登録商標)チップの繰り返しの再生に必要な、ベースラインドリフトの作用及び泳動中の結合能力の喪失に関して補正する必要があった。1つは泳動の開始時及び1つは終了時における2つのブランク試料の応答を補間することによってベースライン補正を計算して、各サイクルにつき個々のベースライン補正を決定し、これをそのサイクルで泳動された試料の応答から引いた。結合能力の喪失に関して補正するために、泳動の開始時及び終了時末端における参照試料10.75(LALAPG参照)の応答を補間することによって正規化因子を計算して、各サイクルにつき個々の正規化因子を決定した。次いでベースラインで補正された応答を正規化因子で割って、野生型参照の補間された応答のパーセンテージとして示される補正及び正規化された応答を得た。実験全体を3回行った。表15に結果を示す。試料2-67(N297Q、アグリコシル)を除いて、バリアントの全てが、野生型参照(試料2-1)の応答の93%~108%の範囲内の正規化された応答をもたらした。
【0239】
【0240】
【0241】
3.2 NanoBiT(登録商標)イムノアッセイによるFcRnへの結合
溶液中のFcRnへの結合を測定する代替の方法は、発光アッセイを使用する。NanoBiT(登録商標)FcRnイムノアッセイ(Promega社)は、ヒトFcRnと抗体を含むFcタンパク質との間の相互作用を測定するための均一系(洗浄なし)競合アッセイである。LgBiT(トレーサー-LgBiT)で標識されたヒトIgGは、トレーサーとして使用される。ストレプトアビジン-SmBiTに付着したC末端ビオチン化FcRn(FcRn-SAv-SmBiT)は、標的として使用される。IgGを含有しない試料の存在下で、トレーサー-LgBiTは、FcRn-SAv-SmBiT標的に結合し、結果として最大の発光シグナルをもたらす。IgGを含有する試料の場合、標識されていないIgGは、標的への結合に関してトレーサー-LgBiTと競合すると予想され、結果として発光シグナルにおける濃度依存性の減少が起こる。NanoBiT(登録商標)FcRnイムノアッセイキット(Promega社カタログ番号CS53019A)を使用して実験を製造元の説明書に従って行った。試料をオフラインプレートで希釈した;25μLの各試験試料(PBS中1mg/mL)を、2.5μLのpH調整緩衝液及び72.5μLのFcRnアッセイ緩衝液と混合して、pH6.0で250μg/mLの濃度を得た。陽性対照抗体(ヒトIgG)の4倍希釈物を4mg/mLから開始して調製した。25μLのトレーサー-LgBiTを、白色のマイクロプレート(Sigma社カタログ番号CLS3912)の各ウェルに、続いて25μLの試料(2連)に添加した。プレートをプレート振盪機上で短時間混合し、50μLのストレプトアビジン-SmBiTに加えてhFcRn-AviTagを各ウェルに添加した。プレートを、振盪機上で、室温で2.5時間インキュベートした。25μLのFcRn NanoGlo(登録商標)基質を添加し、5分後、発光を、Veritasマイクロプレートルミノメーター(Turner BioSystems社)で測定した。
図2に検量線を示す。生データを、5-パラメーターロジスティック方程式にフィッティングし、試験試料の基準濃度を、標準曲線での補間法によって計算した。基準濃度は、同じ阻害をもたらすと予想される陽性対照抗体の濃度を示す。平均の結果は、野生型参照の基準濃度のパーセンテージとして表し、表16に示される。
【0242】
【0243】
初期の結果(実施例3.1)と一致して、アグリコシル抗体(2-67)は、低減した結合活性を示した。2.77(マウスIgG2a)及び8.77(ラットIgG2b)に関して検出可能な結合活性はなかった。バリアント2-63(L234T/L235T/G236R)、11.77(IgG2 L234Q/L235S/Δ236R)、11.144(IgG2 L234Q/L235S)及び23.77(ウサギIgG)は、増加した結合活性を示した。FcRnへの結合を強化するように設計された追加の突然変異を含む2つのバリアント(10.145及び10.146)は、実際に、それより実質的に高い結合活性を示さなかった。他のバリアントの結合活性は、野生型参照の±30%以内であった。
【0244】
総合すると、これらの実験は、新しいバリアントが、FcRnへの結合に対してあったとしても最小の作用しか有さないことを実証する。
【0245】
(実施例4)
C1qへの結合
ヒトC1q(Sigma社カタログ番号20476)を、Lightning-Link(登録商標)HRPコンジュゲーションキット(Innova Biosciences社カタログ番号701-0003)を以下のように使用してホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にカップリングした:2μLのLightning-Link(登録商標)モディファイヤーを、1.15mg/mLで20μLのC1qと穏やかに混合した。混合物を、凍結乾燥したLightning-Link(登録商標)HRP(最大40μgのタンパク質まで十分である)に添加し、穏やかに混合した。混合物を4℃で3時間インキュベートした。2μLのLightning-Link(登録商標)クエンチャーを添加し、4℃で30分インキュベートした。得られたHRP標識C1qを、1%カゼインを含有するリン酸緩衝生理食塩水(PBS)(ブロック緩衝液)で20μg/mLに希釈し、4℃で貯蔵した。
【0246】
結合分析をELISAによって行った。全ての工程を室温(18~22℃)で行った。バリアントFc領域を含む精製された抗体の試料をPBSで10μg/mLに希釈した。陰性対照は、PBS単独からなっていた。100μLの複製それぞれを、2つの96ウェルの透明なMaxisorpマイクロプレート(Sigma社カタログ番号M9410-ICS)に添加し、振盪しながらおよそ60分間インキュベートした。プレートを、0.05%(v/v)Tween 20(洗浄緩衝液)を含有するPBSで濯ぎ、200μLのブロック緩衝液を添加した。プレートを、振盪しながらおよそ60分間インキュベートし、任意選択で4℃で一晩貯蔵し、次いで洗浄緩衝液で濯いだ。HRP標識C1qをブロック緩衝液で100ng/mLに希釈し、100μLを各ウェルに添加した。プレートを、振盪しながらおよそ90分間インキュベートし、次いで洗浄緩衝液で4回、水で2回洗浄した。100μLの3,3',5,5'-テトラメチルベンジジン液体基質、超高感度(TMB)(Sigma社カタログ番号T4444)を添加し、プレートを、振盪しながらおよそ10分間インキュベートした。50μLの1M硫酸を添加して、反応を止め、マイクロプレート分光光度計(Anthos Labtec HT)を使用して、吸光度を、450nmで、620nmを引いて読んだ。実験全体を、バリアント抗体の異なる選択を使用して3回繰り返した。実験1及び2では、各試料の6個の複製を試験し(各プレート上に3つ)、実験3では、12個の複製を試験した(各プレート上に6つ)。各試料の平均吸光度を計算した。表17にこれを示す。各実験内で、各試料の平均吸光度を、不等分散と仮定した片側t検定を使用して、緩衝液単独で得られた平均吸光度と比較した。得られた確率(P)値の平均を計算した。それらが緩衝液単独の応答より有意に高かった場合(p≦0.05)、結果に印をつけた。表17に結果を示す。2-25(L234K/L235T/G236R)及び2-39(L234R/L235I/G236R)を除いて、新しいバリアント(試料2-2~2-63)及び対照(2-65、2-66及び2-67)の全てが、C1qへの結合に関して緩衝液単独と区別できなかった。
【0247】
【0248】
【0249】
上記の実験を、抗CD20抗体であるリツキシマブ由来の可変領域を有するバリアントを使用して行った。上記の結果の普遍性を実証するために、追加の実験を、抗CD3抗体であるムロモナブ(OKT3)又は抗CD52抗体であるアレムツズマブ、加えて異なる免疫グロブリン種及びアイソタイプに基づく他のバリアント由来の可変領域を有するバリアントを使用して行った。
【0250】
これまでに記載されたものと本質的に同じ方法に従って、結合分析をELISAによって行った。マイクロプレート(Sigma社カタログ番号CLS 9018)及びTMB基質(Abcam社カタログ番号ab171523)の代替の供給元、並びにHRP標識C1qとの延長したインキュベーション(一晩)等のバリエーションは、結果に実質的な差を生じなかった。試料を、2つのマイクロプレートで、3連で試験した(合計で6個の複製)。各試料の平均吸光度を、不等分散と仮定した片側t検定を使用して、緩衝液単独で得られた平均吸光度と比較し、得られた確率(P)値を計算した。それらが緩衝液単独の応答より有意に高かった場合(p≦0.05)、結果に印をつけた。実験を2回行った。表18に、結果を平均P値と共に示す。バリアント抗CD3及び抗CD52抗体の結果は、バリアント抗CD20抗体に関する以前の結果と一致した。それらのC1qへの結合は、緩衝液単独の応答を極めてわずかに超える応答をもたらしたバリアント4-63(抗CD52 L234T/L235T/G236R)、4-65(抗CD52 L234A/L235A)及び4-66(抗CD52 L234A/L235A/P329G)を除いて、緩衝液単独と比べて有意に大きくなかった(p>0.05)。更に、新しいバリアントC1qへの結合と、対応するLALAPG参照の結合との間に有意差はなかった。変更L234Q/L235S/Δ236Rを有するヒトIgG2並びに変更L234Q/L235S/G236Rを有するヒトIgG4及びウサギIgGに関して、C1qへの結合は、緩衝液単独と比べて有意に大きくなかった。2つの変更L234Q/L235Sのみを有するヒトIgG2は、わずかに増加した結合を示し(p=0.017)、3つの変更L234Q/L235S/G236Rを有するラットIgG2bも同様であった(p=0.008)。対照的に、同じ3つの変更L234Q/L235S/G236Rを有するマウスIgG2aは、野生型ヒトIgG1と同等のC1q結合のレベルをもたらした。これは、マウスIgG上のC1qのための結合部位がヒトIgG上のものと異なることを示す以前の観察と一致する(Idusogie 2000)。最終的に、変更L234Q/L235S/G236Rと、増加したFcRnへの結合をもたらす変更の2つの異なるセット、すなわちM252Y/S254T/T256E又はT250Q/M428Lとの組合せは、それでもなお、緩衝液単独と比べて有意に大きくないC1qへの結合をもたらした。
【0251】
【0252】
【0253】
この実験のセットからの結果は、広範囲の多種多様の設定において、例えば、異なる可変領域、異なるIgGサブクラス、異なる種の状況等において、更に、一般的にIgGに導入される他のアミノ酸の変更との組合せにおいて、C1qの結合を検出不能なレベルに低減させるために、本発明者らが発見したアミノ酸の変更の普遍性を実証する。
【0254】
(実施例5)
MHCクラスIIへの可能性がある結合のインシリコの評価
ヒト主要組織適合複合体クラス2(MHCクラスII)に結合する理論上の能力を有するペプチドを生じるバリアントFc領域の可能性を、http://tools.iedb.org/mhcii/(2019年10月17日にアクセス)で入手可能な免疫エピトープデータベース(Immune Epitope Database;IEDB)(Fleri 2017)によって提供されるMHC-II結合予測ツールを使用して評価した。予測方法は、IEDB推奨のバージョン2.22であった。これは、分子に関して何らかの対応する予測変数が利用可能な場合、NN-アライン(Jensen 2018)、SMM-アライン(Nielson 2007)、CombLib(Sidney 2008)及びSturniolo(Sturniolo 1999)を組み合わせたコンセンサス方法、バージョン2.22を使用しており、それ以外の場合、NetMHCIIpan(Jensen 2018)を使用した。
【0255】
インプットは、C以外の234位及び235位におけるあらゆる残基、並びにRで置換された236位を有するヒトIgG1のアミノ酸残基C220~T250(それぞれを含む)に対応する、FASTAフォーマットにおける361種のペプチドのリストからなっていた。MHCクラスII対立遺伝子の「7-対立遺伝子」参照セットを選択した(Paul 2015)。これは、以下の対立遺伝子:DRB1*03:01、DRB1*07:01、DRB1*15:01、DRB3*01:01、DRB3*02:02、DRB4*01:01、DRB5*01:01からなる。15アミノ酸残基のデフォルトのペプチドエピトープの長さを選択した。アウトプットをランクスコアによってソートし、XHTML表として提示した。データを、更なる処理のためにMicrosoft Excel(登録商標)ファイルにエクスポートした。31-残基インプットペプチドから生じ得る可能性のある15-merペプチドのいずれか1つが、選択された対立遺伝子のいずれかへの結合に関して10%又はそれ未満のランクスコアをもたらした場合、AnFcバリアントを、MHCクラスIIに結合する可能性がある新しいペプチドを生産する「リスクがある」とみなした。27種のMHCクラスII対立遺伝子の完全参照セットを用いてプロセス全体を繰り返した(Greenbaum 2011)。表19に結果を示す。234位における疎水性アミノ酸残基F、I、L、M、V、W、若しくはY、及び/又は235位におけるF、W、Yの存在は、MHCクラスIIに結合する可能性がある新しいペプチドを作り出すリスクの増加に関連し、それゆえにもしかすると不要な免疫原性のリスクの増加にも関連していた。
【0256】
【0257】
この表において、「7」は、少なくとも1つのペプチドが、7-対立遺伝子参照セットからの1つ又は複数の対立遺伝子でランクスコア≦10%をもたらしたことを示し、「A」は、少なくとも1つのペプチドが、27-対立遺伝子参照セットからの1つ又は複数の対立遺伝子でランクスコア≦10%をもたらしたことを示す。ブランクは、いずれの対立遺伝子でランクスコア≦10%をもたらしたペプチドがないことを示す。
【0258】
(実施例6)
ADCC及びADCPにおける活性
6.1 FcγRIIIAを使用したADCC
抗体を、ADCCレポーターバイオアッセイ(Promega社カタログ番号G7015)を使用して、ADCCに従事するその能力に関して評価した。このキットは、CD20抗原を発現するRaji標的細胞と、FcγRIIIA受容体、V158(高親和性)バリアント及びホタルルシフェラーゼの発現を駆動できる活性化T細胞核内因子(NFAT)応答エレメントを安定して発現する操作されたJurkatエフェクター細胞とを含有する。これは、ADCC経路における初期応答、すなわちNFATを介した遺伝子転写の活性化の高感度測定を可能にする。実験を製造元の説明書に従って行った。標的細胞(Promega社カタログ番号G960A)及びエフェクター細胞(Promega社カタログ番号G701A)及び試料希釈物を全て、4%低IgG血清(Promega社カタログ番号G711A)を含有するRPMI1640培養培地(Promega社カタログ番号G708A)(アッセイ緩衝液)中で調製した。75μLのアッセイ緩衝液を、白色の平底マイクロプレート(Costar社カタログ番号3912)の端のウェルに添加し、25μLの標的細胞懸濁液を中央のウェルに添加した。必要に応じて試料希釈物をオフラインのプレートで調製した;25μLをアッセイプレートの中央のウェルに移し、プレート振盪機上で混合した。25μLのエフェクター細胞懸濁液を添加し、混合し、プレートを、37℃、5%CO2でおよそ6時間インキュベートし、次いで室温でおよそ15分間平衡化させた。ルシフェラーゼアッセイ基質(Promega社カタログ番号G720A)を、室温に平衡化したルシフェラーゼアッセイ緩衝液(Promega社カタログ番号G719A)の添加によって再構成し、75μLをマイクロプレートの中央のウェルに添加した。10分以内に、発光を、マイクロプレートルミノメーター(Promega社 Glomax(登録商標)96)を使用して測定した。
【0259】
実験当たり2つのマイクロプレートを使用して実験全体を2回行った。各プレート上で、野生型参照抗CD20抗体(試料2-1)を、3μg/mL(アッセイにおいて1μg/mLが最終)の濃度から開始して滴定し、続いて2.5倍希釈して、用量応答を決定した。
図3に用量応答曲線を示す。それらは、アッセイ性能が十分であったことを示す。試験試料を30μg/mLに希釈した(アッセイにおいて10μg/mLが最終)。全ての対照及び試験試料を2連で試験した。正規化された応答を、同じマイクロプレートにおける、1μg/mLの最終における野生型参照抗体の応答のパーセンテージとして表した。4つの反復にわたり各試料につき正規化した応答の平均を、不等分散と仮定した片側t検定を使用して、アッセイ緩衝液の正規化した応答の平均と比較した。結果がアッセイ緩衝液の正規化した応答より有意に高かった場合(p≦0.05)、その結果に印をつけた。表20に結果を示す。2-25(L234K/L235T/G236R)及び2-36(L234R/L235D/G236R)を除いて、新しいバリアントの全て(試料2-2~2-64、それぞれを含む)が、アッセイ緩衝液と区別できないほどの応答をもたらした。対照的に、これまでに公開されたバリアント2-65(L234A/L235A)、2-75(L234F/L235E/P331S)及び2-76(L234F/L235Q/K322Q)は、アッセイ緩衝液と比較して有意に高い応答をもたらした。
【0260】
【0261】
【0262】
6.2 FcγRIIAを使用したADCP
抗体を、ADCPレポーターバイオアッセイ(Promega社カタログ番号G9901)を使用して、ADCPに従事するその能力に関して評価した。このキットは、CD20抗原を発現するRaji標的細胞と、FcγRIIA受容体、H131バリアント及びホタルルシフェラーゼの発現を駆動できる活性化T細胞核内因子(NFAT)応答エレメントを安定して発現する操作されたJurkatエフェクター細胞とを含有する。アッセイを、製造元の説明書に従って、実施例6.1に記載された通りに、FcγRIIA-Hエフェクター細胞(Promega社カタログ番号G988A)を使用して行った。実験を1回行い、各試料は2連で試験した。正規化された応答を、実施例6.1に記載された通りに計算した。
図4に野生型参照抗体(試料2-1)の滴定のための用量応答曲線を示す。表21に結果を示す。2-25(L234K/L235T/G236R)、2-30(L234Q/G236R)、2-36(L234R/L235D/G236R)及び2-58(L234T/L235K/G236R)を除いて、新しいバリアント(試料2-2~2-64、それぞれを含む)の全てが、アッセイ緩衝液と有意に異なっていない応答をもたらした。対照的に、これまでに公開されたバリアント2-65(L234A/L235A)、2-75(L234F/L235E/P331S)及び2-76(L234F/L235Q/K322Q)は、アッセイ緩衝液と比較して有意に高い応答をもたらした。
【0263】
【0264】
【0265】
(実施例7)
サイズ排除クロマトグラフィー
精製された抗体を、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)によって分析した。SECを、0.2mL/分の流速で、pH7.2のPBS中で平衡化したSuperdex 200 Increase 5/150GLカラムを使用したAgilent 1100シリーズHPLCで実行した。吸光度を280nmで測定し、IgG単量体に対応するピークの面積を、溶出させた総タンパク質のパーセンテージとして測定した。調製の直後に、並びに40℃でのインキュベーション後の7日及び14日に再び、試料を分析した。表22に結果を示す。平均して、40℃で7日後に、単量体の画分において約1.7%の減少及び14日後に約4.4%の減少がみられ、これは、野生型参照試料によって厳密に反映された。
【0266】
【0267】
【0268】
【0269】
(実施例8)
示差走査蛍光測定法
示差走査蛍光測定法(DSF)を使用して抗体を評価して、プロテインサーマルシフトダイキット(Protein Thermal Shift Dye Kit)(ThermoFisherカタログ番号4461146)を製造元の説明書に従って使用して、それらの相対的な熱安定性の指標を提供した。5μLのプロテインサーマルシフトダイ緩衝液をポリプロピレンマイクロプレート(ThermoFisher社カタログ番号N8010560)に添加した。10μLの試験試料(PBS中1mg/mL)を添加し、混合した。プロテインサーマルシフトダイ(1000×)を水で希釈して、8×中間体ストックを得て、2.5μLを各試料に添加し、混合した。580±10nmでの励起及び623±14nmでの放出を用いたOrangeフィルターセットを使用したリアルタイムPCRシステム(ThemoFisher社 QuantStudio 3)を使用して、溶融曲線を測定した。温度を、0.05℃/秒の速度で、25℃からの90℃に連続して段階的に上昇させた。測定は、およそ0.1℃のインターバルでなされた。IgG分子は、異なる温度で溶融すると予想されるいくつかの異なるドメインを含有するため、蛍光応答は、予想通りに、単一の明確に画定された融解温度(Tm)を示さなかった。異なるバリアントの相対的な温度安定性の尺度を得るために、蛍光が25℃~35℃で測定された平均ベースライン蛍光より一貫して(3回の連続した測定にわたり)2000単位高かった温度を決定した。この温度を、融解(変性)プロセスの開始であると解釈した。各試料を2連で測定した。表23に平均の結果を示す。試料2-67(アグリコシル)を除いて、バリアントの全てが、野生型参照試料2-1より2.6℃低く3.8℃高い、61.2℃~67.6℃の範囲内の温度で溶融を開始させた。
【0270】
【0271】
【0272】
(実施例9)
サイトカイン放出
抗体を、ヒト末梢血単核細胞(PBMC)からのサイトカインの放出を引き起こすその能力に関して評価した。PBMCを、Ficoll-Paque PLUS(GE Healthcare社カタログ番号11778538)上での遠心分離によって5人の健康なドナーから単離し、1%熱不活性化ウシ胎児血清(FBS)(Fisher Scientific社カタログ番号11550526)及び1%ペニシリン/ストレプトマイシン(PS)(Sigma社カタログ番号4333)を含有するRPMI培地(Sigma社カタログ番号8758)で洗浄した。PBMCを、10%FBS及び1%PSを含有するRPMI(cRPMI)中2×106個/mLで再懸濁した。PBS中1mg/mLの抗CD3抗体をcRPMIで希釈して、200、20、2、0.2又は0.02μg/mLの濃度を得た。陰性対照は、cRPMIで5倍希釈したPBSからなっていた。各試料を3連で試験した。100μLの試験試料を、96ウェルの丸底マイクロプレート中で100μLの細胞懸濁液と混合し、37℃及び5%CO2で24時間培養した。プレートを、400×gで5分遠心分離し、培養上清を収集した。サイトカイン(GM-CSF、IFNγ、IL-2、IL-4、IL-6、IL-8、IL-10及びTNFα)を、製造元の説明書に従って、Bio-Plex Managerソフトウェアを備えたBio-Plex(登録商標)200システムでのLuminexアッセイ(Bio-Radカタログ番号M50000007A)によって、細胞培養上清中で定量化した。各サイトカインにつき、全ての5人のドナーから得られた平均濃度を、不等分散と仮定した片側t検定を使用して陰性対照で得られた平均濃度と比較した。結果が陰性対照での応答より有意に高かった場合(p≦0.05)、その結果に印をつけた。陽性応答は、10、1,0.1及び0.01μg/mLの最終濃度で、野生型参照抗体で得られた。
【0273】
図5に、10μg/mLからのサイトカイン放出の結果10μg/mLの最終濃度で刺激した5人のドナーを示す。バリアントL234S/L235T/G236R、L234S/L235V/G236R及びL234A/L235A/P329G(LALAPG)は、サイトカインのいずれについても、陰性対照を超える有意な増加をもたらさなかった。類似した結果が、0.1μg/mLで刺激した5人の独立したドナーから得られた。
【0274】
(実施例10)
薬物動態学
Tg276トランスジェニックマウスは、強いCAGプロモーターの制御下でヒトFCGRT遺伝子を発現する(Proetzel 2014)。株が高いレベルのヒトFcRnを発現し、マウスFcRnを発現しないように、マウスを類遺伝子FcRn-ヌル株に戻し交配した。これらのマウスは、インビボにおける抗体持続性におけるわずかな差を検出することに好適である。
【0275】
薬物動態学的(PK)研究は、Jackson Laboratory(Bar Harbor、ME、USA)により、その標準的手順に従って行われた。24匹の10週齢の雄B6.Cg-Fcgrttm1Dcr Tg(CAG-FCGRT)276Dcr/DcrJ(Tg276、JAXストック番号004919)ホモ接合型マウスを、グループ1つ当たり6匹のマウスで4つのグループに分配した。0日目に、5mg/kgでの試験物品を全てのマウスにIV投与した。血液試料を、15分、3時間、1日、3日、5日、7日、10日、及び14日に、EDTAに収集し、血漿に加工し、分析まで凍結貯蔵した。血漿試料を1/500に希釈し、ヒトIgG Fc特異的ELISAによって、標準として各試験物品を使用して評価した。用量応答曲線を、5-パラメーターロジスティック方程式によってフィッティングし、試験試料の濃度を補間法によって決定した。各試験試料を3連で測定し、反応速度論パラメーターの計算のために平均濃度を使用した。データを、ノンコンパートメント分析によって二相モデルにフィッティングし、24時間~15日から排出相半減期を計算した。表24に結果を示す。試料間の半減期における差を、テューキーの多重比較検定によって分析した。バリアントのそれぞれと野生型との間に統計学的に有意な差があったが、バリアント間に統計学的に有意な差はなかった。バリアントのそれぞれの薬物動態パラメーターの全て(半減期、クリアランス、Cmax、曲線下面積、分布容積)は、野生型抗体の対応するパラメーターの±50%以内であった。
【0276】
【0277】
(実施例11)
グリコシル化
親水性相互作用液体クロマトグラフィー(HILIC)による分離後に、N-結合型炭水化物を分析した。N-グリカンを、ラピッドPNGase F(NEB社カタログ番号P07010)を本質的に製造元の説明書に従って用いて放出させた。放出されたグリカンを、2-アミノ安息香酸及びシアノ水素化ホウ素ナトリウムでの還元的アミノ化によって蛍光標識した。標識されたオリゴ糖を、DPA-6S固相抽出カートリッジ(Sigma社カタログ番号52624-U)を使用したHILICによって記載された通りに精製した(Neville 2004)。精製された標識されたオリゴ糖を、アセトニトリル(最終濃度66%のアセトニトリル)で希釈し、30℃でBEHアミドカラム、3.5μm、2.1mm×150mm(Waters社カタログ番号186004861)を使用した、蛍光検出(240nmでの励起、430nmでの放出)でのAgilent社の1260 Quaternary HPLCシステムを使用して分析した。カラムを、0.15mL/分で、85:10:5から50:15:35のアセトニトリル:0.525M酢酸アンモニウムpH3.75:水の勾配で溶出させた。
図6Aに各試料の代表的なクロマトグラムを示す。試料のそれぞれにつき同じグリコフォームのスペクトルが見られた。HEK及びCHO細胞の両方から調製された選択されたCD20抗体を使用して実験を繰り返した。
図6Bに代表的なクロマトグラムを示す。グリコフォームのスペクトルは、異なる細胞型で調製された抗体間でわずかに異なっていたが、各細胞型内で、スペクトルは同じであった。
【0278】
(実施例12)
熱安定性
Uncle(登録商標)生物学的安定性プラットフォーム(Unchained Labs社、Pleasanton CA、USA)を製造元の説明書に従って使用して、抗体を評価した。試料を、25℃から開始して0.3℃/分の速度で95℃に増加させること熱勾配実験に供した。実験にわたり固有のタンパク質蛍光及び静的光散乱(266nm)を、それぞれタンパク質のアンフォールディング及び凝集のインジケーターとして測定した。各試料を、リン酸緩衝生理食塩水(PBS)1mg/mLの濃度及び9μLの試料体積で試験した。48個の個々の試料を同時に試験し、実験全体を3回行って、各試験試料につき3連の独立した温度プロファイルを得た。「融解温度」Tmを、蛍光対温度プロットにおける主要な変曲点、すなわち蛍光の変化の速度が最大に達した温度と定義した。「凝集温度」Taggを、光散乱が増加し始めた温度と定義した。バリアントを、両側t検定によって野生型参照と比較した。表25に結果を示す。
【0279】
CD20及びCD3抗体のアグリコシルバリアントは、より有意に低いTmを有し、全ての他のバリアントは、野生型より高いか又はそれと有意に異なっていないTmを有していた。CD20及びCD3抗体のアグリコシルバリアント及びL234Q/L235S/G236R CD20バリアントは、より有意に低いTaggを有し、全ての他のバリアントは、野生型より高いか又はそれと有意に異なっていないTaggを有していた。
【0280】
【0281】
(実施例13)
インビトロにおける不要な免疫原性の評価
ProMap(登録商標)免疫原性システムは、カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)で標識された細胞を追跡することによって細胞増殖を分析するフローサイトメトリー方法に基づく。CD4+T細胞に対する抗原提示細胞によって提示されたタンパク質又はペプチド抗原は、CFSEで標識した細胞の蛍光強度における減少によって測定できる細胞増殖をもたらす。研究は、Proimmune社(Oxford、UK)によって、それらの標準的なPromap(登録商標)T細胞増殖アッセイ手順に従って行われた。試験試料は、精製された20-merペプチド(Kendall Scientific Inc社、Lincolnshire、IL、USA)からなっていた。表26にペプチドの配列を示す。
【0282】
【0283】
陽性対照試料は予想通りの性能を示した。驚くべきことに、ペプチド09(G236R)は、20人中4人のドナーで陽性応答をもたらした。ペプチド11(L234S/L235V/G236R)は、20人中2人のドナーで陽性応答をもたらし、他のペプチドは、ドナーの誰にも陽性応答をもたらさなかったか又は1人のみのドナーでもたらした。ペプチドが可能性があるT細胞エピトープとみなされる場合、少なくとも2人のドナーが、陽性応答をもたらすであろう。
【0284】
【配列表】