(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】乗客コンベアシステムと移動体
(51)【国際特許分類】
B66B 29/08 20060101AFI20240213BHJP
B66B 23/12 20060101ALI20240213BHJP
B66B 31/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
B66B29/08 C
B66B23/12 B
B66B31/00 D
(21)【出願番号】P 2023099811
(22)【出願日】2023-06-19
【審査請求日】2023-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003395
【氏名又は名称】弁理士法人蔦田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】日野 遼介
【審査官】太田 義典
(56)【参考文献】
【文献】特開2023-078778(JP,A)
【文献】特開2021-054630(JP,A)
【文献】特開平03-088693(JP,A)
【文献】特開昭53-061891(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 21/00-31/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
乗客コンベアと移動体を含む乗客コンベアシステムにおいて、
前記乗客コンベアは、
乗り口から降り口に前後方向に移動する複数の踏段と、
前記踏段を移動させる駆動装置と、
前記駆動装置の制御装置と、
を有し、
複数の前記踏段の中の少なくとも一つの特定踏段のクリート面に磁性体が設けられ、
前記移動体は、
移動体本体と、
前記移動体本体を移動させる移動装置と、
前記移動体本体の下面に設けられた電磁石装置と、
移動体制御部と、
を有し、
前記移動体制御部は、前記特定踏段に前記移動体本体が乗っているときに、前記電磁石装置で前記磁性体を引き付けて、前記特定踏段の上に前記移動体本体を固定する、
ことを特徴とする乗客コンベアシステム。
【請求項2】
前記特定踏段のクリート面に識別子が設けられ、
前記移動体には、前記識別子を検出するために検出装置が設けられ、
前記移動体が前記乗り口の乗降板に乗っている場合に、前記移動体制御部は、前記検出装置が、前記乗降板から進出した前記特定踏段の前記識別子を検出したときに、前記踏段を停止させる停止信号を前記制御装置に送信し、前記乗降板から停止した前記特定踏段に前記移動装置を用いて前記移動体本体を移動させる、
請求項1に記載の乗客コンベアシステム。
【請求項3】
前記移動体には、前記特定踏段より一つ先を移動する前記踏段と、前記特定踏段が水平状態で並行したときを検出するための検出装置が設けられ、
前記移動体が前記特定踏段に乗っている場合に、前記移動体制御部は、
前記検出装置が、一つ先を移動する前記踏段と前記特定踏段が、水平状態に並行したときを検出したときに、前記踏段を停止させる停止信号を前記制御装置に送信し、停止した前記特定踏段から前記降り口の乗降板に前記移動装置を用いて前記移動体本体を移動させる、
請求項1に記載の乗客コンベアシステム。
【請求項4】
前記移動体は、前記降り口にある乗降板の先端にあるコムを検出する検出装置が設けられ、
前記移動体が前記特定踏段に乗っている場合に、前記移動体制御部は、
前記検出装置が、前記コムを検出したときに、前記踏段を停止させる停止信号を前記制御装置に送信し、停止した前記特定踏段から前記降り口の前記乗降板に前記移動装置を用いて前記移動体本体を移動させる、
請求項1に記載の乗客コンベアシステム。
【請求項5】
移動体本体と、
前記移動体本体を移動させる移動装置と、
前記移動体本体の下面に設けられた電磁石装置と、
移動体制御部と、
を有し、
前記移動体制御部は、前記移動体本体が、乗客コンベアの乗り口から降り口へ移動すると共に磁性体を有する特定踏段に乗っているときに、前記電磁石装置で前記磁性体を引き付けて、前記特定踏段の上に前記移動体本体を固定する、
ことを特徴とする移動体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアシステムと移動体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、エスカレータや動く歩道などの乗客コンベアの定期点検では、作業員が踏段に乗って様々な項目に関する確認作業を行っている。しかし、点検作業の都度、対象となる乗客コンベアまで出向いて作業を行うことは作業員にとって負担が大きい。
【0003】
そのため、作業員に代わって、ロボットなどの自律走行を行う移動体が乗客コンベアの点検作業を行う技術が開発されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記のような移動体が点検作業を行う場合に、移動体が踏段に乗る必要があり、そのとき移動体が移動する踏段から転倒して落下して乗客コンベアの部品を破損したり、事故に繋がったりするおそれがあるという問題点があった。
【0006】
そこで本発明の実施形態は上記問題点に鑑み、点検作業を行う移動体が、移動する踏段に安定して乗って移動することができる乗客コンベアシステムと移動体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の実施形態の乗客コンベアシステムは、乗客コンベアと移動体を含み、前記乗客コンベアは、乗り口から降り口に前後方向に移動する複数の踏段と、前記踏段を移動させる駆動装置と、前記駆動装置の制御装置と、を有し、複数の前記踏段の中の少なくとも一つの特定踏段のクリート面に磁性体が設けられ、前記移動体は、移動体本体と、前記移動体本体を移動させる移動装置と、前記移動体本体の下面に設けられた電磁石装置と、移動体制御部と、を有し、前記移動体制御部は、前記特定踏段に前記移動体本体が乗っているときに、前記電磁石装置で前記磁性体を引き付けて、前記特定踏段の上に前記移動体本体を固定する、ことを特徴とする。
【0008】
また、本発明の一実施形態の移動体は、移動体本体と、前記移動体本体を移動させる移動装置と、前記移動体本体の下面に設けられた電磁石装置と、移動体制御部と、を有し、前記移動体制御部は、前記移動体本体が、乗客コンベアの乗り口から降り口へ移動すると共に磁性体を有する特定踏段に乗っているときに、前記電磁石装置で前記磁性体を引き付けて、前記特定踏段の上に前記移動体本体を固定する、ことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本発明の一実施形態のエスカレータの右側から見た側面説明図である。
【
図2】上階側における乗り口付近の右側から見た側面図である。
【
図4】(a)は移動体が上階側の乗降板にあり、下降する特定踏段の識別子をカメラが検出するときの概略図であり、(b)は移動体が下階側の乗降板にあり、上昇する特定踏段の識別子を検出するときの概略図である。
【
図6】エスカレータに移動体が乗車し、降車するまでの流れを示すフローチャートである。
【
図7】(a)は下階側の乗降板に移動体があり、特定踏段の識別子を検出するときの概略図であり、(b)は移動体が特定踏段に乗ったときの概略図であり、(c)は移動体が乗った特定踏段と先行踏段が水平な状態で並行になったときの概略図であり、(d)は下階側の乗降板に移動体が降車したときの概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の一実施形態の乗客コンベアシステムであるエスカレータ10と移動体100について
図1~
図7を参照して説明する。
【0011】
(1)エスカレータ10
エスカレータ10の全体の構造について
図1を参照して説明する。
図1は、エスカレータ10を右側面から見た説明図である。但し、エスカレータ10の内部構造をわかりやすくするために、エスカレータ10の右側の部材の図示を省略している。なお、エスカレータ10の前後方向を説明するときは、上階から下階を見下ろし、上階が後側、下階が前側であるものとする。
【0012】
図1に示すように、エスカレータ10の枠組みであるトラス12が、建屋1の上階と下階に跨がって、支持アングル2,3を用いて前後方向に支持されている。トラス12の上端部にある上階側の機械室14内部には、踏段30を走行させる駆動装置18、左右一対の踏段スプロケット24,24、不図示の左右一対のベルトスプロケットが設けられている。この駆動装置18は、モータ20と、減速機21と、この減速機21の出力軸に取り付けられた駆動小スプロケット19と、モータ20の回転を停止させ、かつ、停止状態を保持するディスク式の電磁ブレーキ23とを有している。左右一対の踏段スプロケット24,24には、同軸に駆動大スプロケット17が取り付けられ、駆動小スプロケット19との間に無端状の駆動チェーン22が架け渡されている。また、上階側の機械室14内部には、モータ20や電磁ブレーキ23などを制御する主制御部である制御装置50が設けられている。
【0013】
トラス12の下端部にある下階側の機械室16内部には、左右一対の従動スプロケット26,26が設けられている。上階側の左右一対の踏段スプロケット24,24と下階側の左右一対の従動スプロケット26,26との間には、左右一対の無端状の踏段チェーン28,28が架け渡されている。左右一対の踏段チェーン28,28の間には、複数の踏段30の左右一対の第1輪301,301が一定間隔毎に連結されている。モータ20が回転すると踏段30の第1輪301は、トラス12に固定された第1輪専用の案内レールを走行し(
図1では図示を省略し、
図2に記載している)、踏段30の第2輪302は、トラス12に固定された第2輪専用の案内レール25を走行する。
【0014】
トラス12の上部の左右両側には、左右一対の欄干36,36が立設されている。この欄干36の上部には手摺りレール39が設けられ、この手摺りレール39に沿って無端状の手摺りベルト38が移動する。左右一対の手摺りベルト38,38は、不図示の左右一対のベルトスプロケットが左右一対の踏段スプロケット24,24と共に回転することにより踏段30と同期して移動する。
【0015】
左右一対の欄干36の上階側の正面下部には上階側の正面スカートガード40が設けられ、下階側の正面下部には下階側の正面スカートガード42が設けられている。正面スカートガード40,42から手摺りベルト38の出入口であるインレット部46,48がそれぞれ突出している。左右一対の欄干36の側面下部には、スカートガード44がそれぞれ設けられ、左右一対のスカートガード44,44の間を踏段30が走行する。
【0016】
上階側の左右一対のスカートガード44,44の間の乗降口である、機械室14の天井面には、上階側の乗降板32が水平に設けられている。下階側の左右一対のスカートガード44,44の間の乗降口である、機械室16の天井面には、下階側の乗降板34が水平に設けられている。上階側の乗降板32の先端には櫛歯状のコム60が設けられ、踏段30がこのコム60に進入したり、このコム60から進出したりする。また、下階側の乗降板34の先端にも櫛歯状のコム62が設けられている。
【0017】
(2)踏段30
次に、踏段30の構造について
図1~
図2を参照して説明する。
【0018】
まず、踏段30は、三角形に形成された左右一対の踏段フレーム303,303、左右一対の踏段フレーム303,303の上面に設けられたクリート面304、左右一対の踏段フレーム303,303の前面に設けられたライザ面305、左右一対の踏段フレーム303,303の後部に設けられた左右一対の第1輪301,301、左右一対の踏段フレーム303,303の前面下部、すなわちライザ面305の下部に設けられた左右一対の第2輪302,302を有している。踏段30の左右一対の第1輪301は、踏段チェーン28と一体に構成されている。
図2に示すように、三角形の踏段フレーム303は、その中央部分に開口部306が設けられ、踏段フレーム303の強度を維持しながら、非磁性体のアルミダイキャストで製造することにより軽量化している。
【0019】
踏段30の第1輪301は、トラス12に固定された第1輪専用の案内レール27を走行し(
図2参照)、踏段30の第2輪302は、トラス12に固定された第2輪専用の案内レール25を走行する(
図1と
図2参照)。
【0020】
無端状に連結された複数の踏段30の中で、1個の踏段(以下、「特定踏段」という)300のクリート面304の下面には、磁性体である長方形の金属板307が取り付けられている。また、クリート面304の4つの角部には四角形の識別子308がそれぞれ設けられている。この識別子308は、例えばクリート面304の色や、黄色のデマケーションラインから識別できるような、白色、赤色などの色のペンキをクリート面304にペイントして形成している。
【0021】
(3)移動体100
次に、エスカレータ10の左右一対の手摺りベルト38,38と踏段30が同期して移動しているか否かと、左右一対の欄干36の破損状態の点検を行うための移動体100について、
図2を参照して説明する。この移動体100は、自律走行可能なロボットであり、その目的は無人でエスカレータ10の点検を行うことである。
【0022】
図2に示すように、移動体100は、ほぼ立方体の移動体本体102を有し、この移動体本体102の大きさは、一つの踏段30のクリート面304に乗ることができる大きさに設計されている。その移動体本体102には、コンピュータなどよりなる移動体制御部104、移動モータ108、充電池110、カメラ112、電磁石装置114、移動体通信部116が設けられている。充電池110は、移動体100の各装置の電源である。
【0023】
移動体本体102の下部には、移動装置である4個の車輪106が設けられ、この4個の車輪106は移動モータ108で回転する。移動体制御部104は、移動モータ108の回転、停止、回転方向を制御することにより、移動体100を前進、後進、又は右若しくは左に回転させることができる。
【0024】
電磁石装置114は、移動体本体102の下面に設けられている。移動体100の移動体本体102が、特定踏段300のクリート面304に乗った場合に、電磁石装置114が作動し、磁性体である金属板307を磁力で引き付けることにより、移動体本体102を特定踏段300のクリート面304の上に固定できる。
【0025】
カメラ112は、移動体本体102の前面に設けられ、動画又は静止画である画像を撮影して、その画像を画像解析して、対象物を検出する検出装置である。ここでカメラ112による特定踏段300の識別子308の検出について、
図3及び
図4を参照して説明する。
【0026】
踏段30が下降運転をしている場合、
図4(a)に示すように、移動体本体102は上階側の乗降板32の上にあり、カメラ112の撮影方向は前方斜め下を向いている。そして、カメラ112が、乗降板32の先端にあるコム60から進出していく踏段30のクリート面304を撮影し続け、左右一対の識別子308,308を監視する。カメラ112が撮影した画像から、
図3に示すようにクリート面304の前部にある左右一対の識別子308,308を検出すると、特定踏段300が進出してきたとして、移動体制御部104は移動体通信部116を介して制御装置50の通信部64に踏段30の停止信号を送信する。なお、クリート面304の前部にある左右一対の識別子308,308を監視するのは、下降運転時には前部にある左右一対の識別子308,308がコム60から最初に進出するからである。
【0027】
踏段30が上昇運転をしている場合、
図4(b)に示すように、移動体本体102は下階側の乗降板34の上にあり、カメラ112の撮影方向は後方斜め下を向いている。そして、カメラ112が、乗降板34の先端にあるコム62から進出していく踏段30のクリート面304の後部を撮影し続け、左右一対の識別子308,308を監視する。カメラ112が撮影した画像から、クリート面304の後部にある左右一対の識別子308,308を検出すると、特定踏段300が進出してきたとして、移動体制御部104は移動体通信部116を介して制御装置50の通信部64に踏段30の停止信号を送信する。なお、クリート面304の後部にある左右一対の識別子308,308を監視するのは、上昇運転時には後部にある左右一対の識別子308,308がコム62から最初に進出するからである。
【0028】
(4)エスカレータ10と移動体100の電気的構成
次に、エスカレータ10と移動体100の電気的構成について、
図5のブロック図を参照して説明する。
【0029】
図5に示すように、上階側の機械室14内部にある制御装置50には、後述する移動体100の移動体通信部116と連絡を取るための通信部64が接続され、また、モータ20、電磁ブレーキ23を制御するための駆動回路66が接続されている。
【0030】
移動体100の移動体制御部104には、移動モータ108、充電池110、カメラ112、電磁石装置114、移動体通信部116が接続され、移動体通信部116は制御装置50にある通信部64と通信する。
【0031】
(5)移動体100の乗車と降車の方法
次に、移動体100が、エスカレータ10の特定踏段300に乗車するときと降車するときの方法について
図6のフローチャートと
図7を参照して説明する。ここでエスカレータ10は、下降運転をしているものとする。また、移動体100は、予め上階側の乗降板32に移動し、カメラ112が前方斜め下を撮影できる状態で停止している。
【0032】
ステップS1において、踏段30が上階の乗降板32のコム60から進出し、その進出する踏段30のクリート面304をカメラ112が撮影し、左右一対の識別子308,308を監視している(
図7(a)参照)。そして、クリート面304の前部にある左右一対の識別子308,308を検出すれば、特定踏段300がコム60から進出したとしてステップS2に進み(yの場合)、左右一対の識別子308,308を検出できなければステップS1の動作を継続する(nの場合)。
【0033】
ステップS2において、移動体制御部104は、特定踏段300の検出を受けて制御装置50に停止信号を送信し、ステップS3に進む。
【0034】
ステップS3において、制御装置50は、停止信号の入力を受けて、電磁ブレーキ23を用いてモータ20を停止させ、踏段30の移動、すなわちエスカレータ10を停止し、ステップS4に進む。
【0035】
ステップS4において、特定踏段300は、乗降板32のコム60から進出した状態で停止し、乗降板32の上面と特定踏段300のクリート面304とが水平な同一面上にある。そこで、移動体100は、移動モータ108を用いて前進し、乗降板32から特定踏段300のクリート面304に乗車する(
図7(b)参照)。そしてステップS5に進む。
【0036】
ステップS5において、移動体制御部104は、電磁石装置114をオンにして、電磁石装置114が、特定踏段300の金属板307を引き付け、移動体本体102を特定踏段300のクリート面304の上に固定する。そしてステップS6に進む。
【0037】
ステップS6において、移動体制御部104は、移動体本体102が特定踏段300の上に乗車して固定されたのを受けて、エスカレータ10の起動信号を制御装置50に送信する。そしてステップS7に進む。
【0038】
ステップS7において、制御装置50は、電磁ブレーキ23を解除し、駆動回路66を介してモータ20を用いて踏段30を下降させる。すなわち、エスカレータ10を起動させる。エスカレータ10が起動し、特定踏段300が下降しても、移動体本体102は電磁石装置114で金属板307を有する特定踏段300に固定されているので、転倒せず、安定して下降していく。そしてステップS8に進む。
【0039】
ステップS8において、特定踏段300が下降しているとき、移動体制御部104は、カメラ112が、自己が乗っている特定踏段300と、1つ前を移動する踏段(以下、「先行踏段」という)30を撮影し続け、特定踏段300と先行踏段が水平な状態で並行になるかを監視している。より具体的には、カメラ112が撮影した画像において、特定踏段300と先行踏段30とに段差がなくなり、特定踏段300のクリート面の側端部と、先行踏段30のクリート面の側端部が一直線になれば、水平な状態で並行していると判断する(
図7(c)参照)。そして、特定踏段300と先行踏段30とが水平状態で並行であることを検出すれば下階側の乗降板34が近いと判断してステップS9に進み(yの場合)、検出しなければ特定踏段300が下階側の乗降板34にまだ接近せず下降を続けていると判断してステップS8の動作を継続する(nの場合)。
【0040】
ステップS9において、移動体制御部104は、特定踏段300と先行踏段30とが水平状態で並行であることを検出したのを受けて、エスカレータ10の停止信号を制御装置50に送信し、ステップS10に進む。このとき、特定踏段300と先行踏段30の各クリート面と乗降板32の上面は水平な同一平面上にある。
【0041】
ステップS10において、制御装置50は、電磁ブレーキ23を用いてモータ20を停止させ、踏段30の移動、すなわちエスカレータ10を停止させる。踏段30の移動が停止すると、先行踏段30が下階側の乗降板34の先端にあるコム62に進入しようとしている状態で停止する。そして、ステップS11に進む。
【0042】
ステップS11において、移動体制御部104は、特定踏段300の移動が停止したため、電磁石装置114をオフし、ステップS12に進む。
【0043】
ステップS12において、電磁石装置114による磁力が消滅しているため、移動体制御部104が、移動体本体102の移動モータ108を用いて前進させることにより、移動体100は水平な同一面上にある特定踏段300のクリート面304、先行踏段30のクリート面304を移動し、乗降板34に降車する(
図7(d)参照)。そして終了する。
【0044】
(6)効果
本実施形態によれば、移動体100が移動する特定踏段300に乗っているときは、電磁石装置114が磁性体である金属板307を引き付けて固定するため、移動体100が移動する特定踏段300から転倒したり落下したりすることがない。
【0045】
また、移動体100が特定踏段300に乗車するときと降車するときには、電磁石装置114の磁力を解除するため、移動モータ108で移動できる。
【0046】
また、乗降板32にある移動体100は、カメラ112で、特定踏段300の識別子308を監視し、特定踏段300の識別子308を検出したときには、特定踏段300の移動を停止させ、確実に、かつ、安全に乗車できる。
【0047】
また、移動体100が特定踏段300から降車するときは、特定踏段300と先行踏段30とが水平な状態で並行になったときに、踏段30を停止させるため、乗降板34までは水平な経路が確保でき、移動体100は、確実に、かつ、安全に乗降板34に降車できる。
【0048】
また、特定踏段300に設けられている識別子308は、クリート面304の4つの角部にそれぞれ設けられているため、上階の乗降板32から乗車するときには、前部にある左右一対の識別子308,308を検出し、下階側の乗降板34から特定踏段300に乗り込むときは、後部にある左右一対の識別子308,308を検出すればよい。
【変更例】
【0049】
以下、上記実施形態の変更例について説明する。
【0050】
上記実施形態では、移動体制御部104にカメラ112を設けて識別子308を検出したが、これに代えて画像センサなどの他のセンサを用いてもよい。
【0051】
また、上記実施形態では、特定踏段300は1個であったが、無端状に連結された複数の踏段30の中で2個以上であってもよい。
【0052】
また、上記実施形態では移動体100が特定踏段300から降車するときは、特定踏段300と先行踏段30が水平状態で並行になったときにエスカレータ10を停止させ降車した。しかしこれに代えて、特定踏段300に乗っている移動体100のカメラ112が、下階側の乗降板34の黄色のコム62を検出し、コム62までの距離が、予め定められた距離になったときに、特定踏段300がコム62の手前まで移動したとして、エスカレータ10を停止させ、移動体100を降車させてもよい。
【0053】
また、上記実施形態では、エスカレータ10に適用して説明したが、これに代えて動く歩道に適用してもよい。なお、動く歩道では、踏段を「ステップ」という。
【0054】
上記では本発明の一実施形態を説明したが、この実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の主旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれると共に、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0055】
10・・・エスカレータ、18・・・駆動装置、20・・・モータ、23・・・電磁ブレーキ、30・・・踏段、32・・・上階側の乗降板、34・・・下階側の乗降板、100・・・移動体、102・・・移動体本体、104・・・移動体制御部、112・・・カメラ、114・・・電磁石装置、300・・・特定踏段、307・・・金属板、308・・・識別子
【要約】
【課題】移動する踏段に移動体が安定して乗ることができる乗客コンベアシステムと移動体を提供する。
【解決手段】エスカレータ10の複数の踏段30の中の少なくとも一つの特定踏段300のクリート面304に金属板307が設けられ、移動体100は、移動体本体102の下面に設けられた電磁石装置114を有し、移動体制御部104は、特定踏段300に移動体本体102が乗っているときに、電磁石装置114で金属板307を引き付けて、特定踏段300の上に移動体本体102を固定する。
【選択図】
図7