(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-09
(45)【発行日】2024-02-20
(54)【発明の名称】異音判定装置
(51)【国際特許分類】
G01M 99/00 20110101AFI20240213BHJP
G01H 17/00 20060101ALI20240213BHJP
【FI】
G01M99/00 A
G01H17/00 A
(21)【出願番号】P 2023535902
(86)(22)【出願日】2023-02-13
(86)【国際出願番号】 JP2023004819
【審査請求日】2023-06-13
(31)【優先権主張番号】P 2022102665
(32)【優先日】2022-06-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】598076591
【氏名又は名称】東芝インフラシステムズ株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】513296958
【氏名又は名称】東芝産業機器システム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110003708
【氏名又は名称】弁理士法人鈴榮特許綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】廣瀬 達也
(72)【発明者】
【氏名】竹内 文章
(72)【発明者】
【氏名】平手 利昌
(72)【発明者】
【氏名】上地 純平
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2006/043511(WO,A1)
【文献】特開2016-170085(JP,A)
【文献】国際公開第2021/065663(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 13/00-13/045、99/00
G01H 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
音響信号の所定範囲の周波数成分の兆候パラメータを算出し、前記兆候パラメータが第3閾値よりも小さいときに、前記音響信号の振幅スペクトルにおける複数のピークに基づいて振幅の平均値及び周波数の平均値を算出し、前記振幅の平均値と第1閾値との比較、及び前記周波数の平均値と第2閾値との比較の少なくとも一方を行う一次判定処理部と、 前記一次判定処理部での比較結果が所定の条件を満たすときに、前記音響信号の一部に基づく振幅スペクトルに含まれる複数のピークの値及び周波数を取得し、複数の前記ピークの値の順位を前記音響信号の異なる部分について複数回算出し、前記順位に応じて設定された点数を複数の前記ピークの周波数毎に合計した合計点数に基づいて、異音の原因を判定するパス周波数分析部と、
を備える異音判定装置。
【請求項2】
前記パス周波数分析部は、所定の時間幅を設定し、前記音響信号の前記時間幅の部分に基づく前記振幅スペクトルを用いて、複数の前記ピークの値の前記順位に基づく点数を、複数の前記ピークの周波数毎に取得し、前記音響信号の前記時間幅の複数の部分について取得した前記点数の、複数の前記ピークの前記周波数毎の合計点数を算出し、
前記音響信号の前記時間幅の複数の部分は、他の部分と重複している、
請求項1記載の異音判定装置。
【請求項3】
前記パス周波数分析部は、複数の前記ピークの周波数毎の合計点数の合計値と、第4閾値とを比較し、前記合計値が前記第4閾値よりも小さいときに、処理を終了する、
請求項1に記載の異音判定装置。
【請求項4】
前記パス周波数分析部は、複数の前記ピークの周波数毎の合計点数の合計値と、第4閾値とを比較し、前記合計値が前記第4閾値以上のときに、前記合計値に占める割合が最も高い合計点数に対応する周波数に基づいて、異音原因を判定する、
請求項1記載の異音判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、異音判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば電動機などの回転機器は、運転時間の経過とともに構成部品が劣化する。例えば、電動機のロータを支える軸受は、ロータの回転により徐々に劣化し、劣化が進行すると異常振動や異常音を引き起こすことが知られている。従来は、聴感により異常音を検知し、その後に加速度センサによって異常振動を計測、解析することによって電動機の異常部位の診断を行っていた。このとき、人間の聴感で異常音を判定すると基準が一定にならなかった。電動機の回転音をマイクロフォンで測定し、所定の指標を算出すれば一定の基準で異常判定を行うことができる。また、加速度センサにより振動を計測すれば、精度良く診断を行うことができる。振動加速度を測定して電動機を診断する場合、振動全体の大きさを示すオーバーオール値を計算し、オーバーオール値と所定の閾値とを比較して電動機に異常があるか判定することが提案されている。更に、上記判定を行った上で異常原因を調べる場合は、振動加速度の振幅スペクトル上にて、軸受パス周波数(軸受の寸法と回転周波数から計算される内輪や外輪等が損傷部位を通過する周波数)の振幅が顕著かを調査して、軸受損傷を判断することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-021453号公報
【文献】特開2004-020424号公報
【発明の概要】
【0004】
電動機から発せられる回転音を測定して、電動機の異常を判定する場合、周囲に居る人の話し声や作業音など回転音以外の音、いわゆるノイズが混入することが多く、測定した回転音の大きさにより電動機に異常があるかの一次判定することが難しかった。そのため、一次判定しないで、軸受パス周波数分析を実施すると、軸受けが正常なときにも異音原因が軸受であると判定される事例があり、異常判定の信頼性を担保することが難しかった。また、測定した回転音に突発的にノイズが混入した場合には、ノイズがパス周波数に相当する周波数ピークをさらに大きくすることがあり、こうした事例も異常判定の信頼性を低下させる原因であった。
【0005】
本発明の実施形態は上記事情を鑑みて成されたものであって、信頼性の高い異音判定を行う異音判定装置を提供することを目的とする。
【0006】
一実施形態に係る異音判定装置は、音響信号の所定範囲の周波数成分の兆候パラメータを算出し、前記兆候パラメータが第3閾値よりも小さいときに、前記音響信号の振幅スペクトルにおける複数のピークに基づいて振幅の平均値及び周波数の平均値を算出し、前記振幅の平均値と第1閾値との比較、及び前記周波数の平均値と第2閾値との比較の少なくとも一方を行う一次判定処理部と、前記一次判定処理部での比較結果が所定の条件を満たすときに、前記音響信号の一部に基づく振幅スペクトルに含まれる複数のピークの値及び周波数を取得し、複数の前記ピークの値の順位を前記音響信号の異なる部分について複数回算出し、前記順位に応じて設定された点数を複数の前記ピークの周波数毎に合計した合計点数に基づいて、異音の原因を判定するパス周波数分析部と、を備える。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、一実施形態に係る異音判定装置の構成の一例を示す概略図である。
【
図2】
図2は、一実施形態に係る異音判定装置の一次判定処理動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図3】
図3は、一実施形態に係る異音判定装置のパス周波数分析動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図4】
図4は、一実施形態に係る異音判定装置のパス周波数分析動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図5】
図5は、一実施形態に係る異音判定装置のパス周波数分析動作の一例について説明するためのフローチャートである。
【
図6】
図6は、一実施形態に係る異音判定装置の一次判定処理動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【
図7】
図7は、一実施形態に係る異音判定装置の一次判定処理動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【
図8】
図8は、一実施形態に係る異音判定装置の一次判定処理動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【
図9】
図9は、一実施形態に係る異音判定装置のパス周波数分析動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【
図10】
図10は、一実施形態に係る異音判定装置のパス周波数分析動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【実施形態】
【0008】
以下、実施形態に係る異音判定装置について図面を参照して詳細に説明する。なお、以下の実施形態の説明を用いる図面において、各部の縮尺は適宜変更されている。また、以下の実施形態の説明に用いる図面において、説明のために、構成を適宜省略している場合がある。
【0009】
図1は、一実施形態に係る異音判定装置1の一構成一例を概略的に示す図である。
本実施形態の異音判定装置1は、制御部2と、記憶部3と、通信部4と、入力部5と、出力部6と、バス通信線BLと、を備えている。
バス通信線BLは、異音判定装置1に含まれる構成のそれぞれと接続されている。
制御部2は、バス通信線BLを介して異音判定装置1に含まれる他の構成との間でデータを送受信することが可能である。
【0010】
通信部4は、異音判定装置1内の構成からデータを受信し、外部へデータを出力するとともに、外部から受信したデータを異音判定装置1内の構成へ送信する。通信部4は、例えば、インターネット、イーサネット(登録商標)、無線LAN(Wi-Fi(登録商標)等)、Bluetooth(登録商標)などの通信規格に基づいて通信を行うことができる。
【0011】
入力部5は、例えばマウスやキーボードなどのユーザーインタフェースや、マイクやタッチパネルやカメラや各種センサを含み得る。入力部5は、ユーザの操作により取得した情報を、バス通信線BLを介して制御部2へ送信する。なお、本実施形態の異音判定装置1における電動機の回転音信号の取得方法に関しては、異音判定装置1に取り付けられたマイク等で集音してもよいし、外部に設置された集音装置等で回転音信号を集音し、通信部4を介して外部から受信してもよい。
【0012】
出力部6は、例えばモニタなどの表示手段や、スピーカ等の音声出力手段を含み得る。なお、出力部6は、コンピュータの外部に接続される構成であっても構わない。
【0013】
制御部2は、CPU(Central Process Unit)、MPU(micro processing unit)、GPU(Graphics Processing Unit)、FPGA(field-programmable gate array)などのプロセッサを少なくとも1つ含む。制御部2は、補助記憶部32に記憶されたシステムソフトウェア、アプリケーションソフトウェア又はファームウェアなどのプログラムに基づいて、異音判定装置1の種々の機能を実現することが可能である。
【0014】
制御部2は、一次判定処理部21と、パス周波数分析部22とを備えている。
一次判定処理部21は、記憶部3から取得した音響信号の一次判定処理を行い、電動機に異常が有るか否かの一次判定を行う。一次判定処理部21は、音響信号の所定範囲の周波数成分における兆候パラメータを算出し、兆候パラメータと第3閾値とを比較する。兆候パラメータが第3閾値未満であるとき、一次判定処理部21は、振幅スペクトルにおける振幅の平均値(音圧レベル[dB])及び周波数の平均値を取得し、振幅の平均値と第1閾値との比較および周波数の平均値と第2閾値との比較の少なくとも一方を行う。一次判定処理部21の詳細な動作の説明は後述する。
【0015】
パス周波数分析部22は、一次判定処理部21の比較結果に応じて、異常の原因を特定するための処理を行う。パス周波数分析部22は、記憶部3から取得した音響信号の振幅スペクトルにおける複数のピークを取得し、複数のピーク順位に基づいて算出された合計点数を出力する。パス周波数分析部22の詳細な動作の説明は後述する。
【0016】
記憶部3は、例えば、主記憶部31と、補助記憶部32とを備えている。
主記憶部31は、例えば、ROM(read-only memory)、RAM(random-access memory)を含み得る。ROMは、専らデータの読み出しに用いられる不揮発性メモリであり、制御部2が各種の処理を行う上で使用するデータ及び各種の設定値などを記憶することができる。また、RAMは、制御部2が各種の処理を行う上で一時的にデータを記憶しておく、いわゆるワークエリアとして利用され得る。本実施形態の主記憶部31は、例えばRAMであって、メモリとして用いられる。
【0017】
主記憶部31は、内輪周波数ピーク順位に相当する第1ピーク順位、外輪周波数ピーク順位に相当する第2ピーク順位、転動体周波数ピーク順位に相当する第3ピーク順位、保持器周波数ピーク順位に相当する第4ピーク順位、第1ピーク順位に基づいて算出される第1合計点数、第2ピーク順位に基づいて算出される第2合計点数、第3ピーク順位に基づいて算出される第3合計点数、第4ピーク順位に基づいて算出される第4合計点数及び第1~第4合計点数を加算した第5合計点数(合計値)を一時的に記憶することができる。
【0018】
補助記憶部32は、制御部2を中枢とするコンピュータの非一時的なコンピュータ可読記憶媒体である。補助記憶部32は、例えば、EEPROM(登録商標)(electric erasable programmable read-only memory)、HDD(hard disk drive)又はSSD(solid state drive)などである。
【0019】
補助記憶部32は、制御部2は各種の処理を行う上で使用するデータ、制御部2での処理によって生成されたデータ又は各種の設定値などを保存することができる。例えば、補助記憶部32は、各種情報を記憶するメモリであり、音響信号、音響信号から抽出した所定範囲における周波数成分、抽出した成分の兆候パラメータ、音響信号の振幅スペクトル、振幅スペクトルのピーク、振幅の平均値、周波数の平均値、エンベロープ信号、内輪周波数ピーク順位に相当する第1ピーク順位、外輪周波数ピークに相当する第2ピーク順位、転動体周波数ピークに相当する第3ピーク順位、保持器周波数ピークに相当する第4ピーク順位、第1ピーク順位に基づいて算出される第1合計点数、第2ピーク順位に基づいて算出される第2合計点数、第3ピーク順位に基づいて算出される第3合計点数、第4ピーク順位に基づいて算出される第4合計点数、第1~第4合計点数を加算した第5合計点数、第1閾値、第2閾値、第3閾値及び第4閾値を記憶することができる。
【0020】
図2は、一実施形態に係る異音判定装置の一次判定処理動作の一例について説明するためのフローチャートである。
以下、異音判定装置1により電動機の音響信号を解析し、異音原因を判定する手順の一例について説明する。なお、以下の動作説明における処理の内容は一例であって、同様な効果を得ることが可能な様々な処理を適宜に利用できる。
【0021】
異音判定装置1は、例えば、入力部5であるマイクを通して電動機の音響信号を取得する。若しくは、異音判定装置1は、別の集音装置により集音された電動機の音響信号を通信部4で受信し、記憶部3に出力する。
【0022】
制御部2、特に一次判定処理部21は、記憶部3に記録された音響信号を取得し、所定の周波数範囲の音響信号成分を抽出する。本実施形態では、例えば、一次判定処理部21は、カットオフ周波数が1kHzのハイパスフィルタに音響信号を通して、所定の周波数範囲の音響信号成分を抽出する(ステップAct1)。
【0023】
一次判定処理部21は、抽出した所定の周波数範囲の成分の兆候パラメータを算出する。一次判定処理部21は、例えば、兆候パラメータとして1kHz以上のオーバーオール値を算出する(ステップAct2)。
【0024】
一次判定処理部21は、算出した兆候パラメータと第3閾値とを比較する(ステップAct3)。なお、第3閾値は、予め異音判定装置1の使用者等により設定されていてもいいし、一次判定処理部21が処理の都度変更するよう構成されていてもよい。
【0025】
一次判定処理部21は、ステップAct3の比較結果において、兆候パラメータが第3閾値以上であると判断すると(ステップAct3、YES)、一次判定処理からパス周波数分析部22の処理(
図3に示す)に遷移する。
一次判定処理部21は、ステップAct3の比較結果において、兆候パラメータが第3閾値より小さいと判断すると(ステップAct3、NO)、音響信号の振幅スペクトルを算出する。なお、振幅スペクトルは振幅データの配列であり、配列のインデックスは周波数を表している(ステップAct4)。
【0026】
続いて、一次判定処理部21は、算出した振幅スペクトルのピークを取得する(ステップAct5)。
その後、一次判定処理部21は、取得したピークの振幅が大きい順に上位10個の振幅データPEAK10を抽出する(ステップAct6)。
【0027】
なお、
図2に示す例では、一次判定処理部21がピークの振幅上位10個の振幅データPEAK10を抽出しているが、抽出する振幅データの数は10に限定されず、ピークの振幅上位を少なくとも1つ以上抽出できていればよい。
【0028】
一次判定処理部21は、振幅データPEAK10を抽出後、当該振幅データPEAK10における振幅の平均値AMPを算出する(ステップAct7)。
また、一次判定処理部21は、振幅データPEAK10における周波数の平均値FREQを算出する(ステップAct8)。
【0029】
振幅平均値AMP及び周波数平均値FREQを算出後、一次判定処理部21は、振幅平均値AMPと第1閾値とを比較する(ステップAct9)。
振幅平均値AMPが第1閾値以上であるとき(ステップAct9、YES)、一次判定処理からパス周波数分析部22の処理(
図3に示す)に遷移する。
【0030】
一次判定処理部21は、ステップAct9の比較結果において、振幅平均値AMPが第1閾値より小さいとき(ステップAct9、NO)、周波数平均値FREQと第2閾値とを比較する(ステップAct10)。
【0031】
周波数平均値FREQが第2閾値以上であるとき(ステップAct10、YES)、一次判定処理からパス周波数分析部22の処理(
図3に示す)に遷移する。
一次判定処理部21は、ステップAct10の比較結果において、FREQが第2閾値より小さいとき(ステップAct10、NO)、一次判定処理を終了する。
【0032】
図3乃至
図5は、一実施形態に係る異音判定装置のパス周波数分析動作の一例について説明するためのフローチャートである。
上記ステップAct3、ステップAct9若しくはステップAct10において、比較対象が所定の閾値以上であったとき(所定の条件を満たすとき)に、パス周波数分析部22はパス周波数分析を行う。
【0033】
パス周波数分析部22は、記憶部3に記録された音響信号を取得し、所定の周波数範囲の音響信号成分を抽出する。本実施形態では、パス周波数分析部22は、例えば、カットオフ周波数が1kHz~10kHzのバンドパスフィルタに音響信号を通して、所定の周波数範囲の音響信号成分を抽出する(ステップAct11)。
【0034】
パス周波数分析部22は、抽出した音響信号成分に対して、絶対値処理した後にローパスフィルタをかけるエンベロープ処理を行ったエンベロープ信号を取得する(ステップAct12)。
続いて、パス周波数分析部22は、時刻tをエンベロープ信号の開始時刻(=0)とする(Act13)。
【0035】
次に、パス周波数分析部22は、エンベロープ信号の一部、すなわちエンベロープ信号の時刻tから所定時間範囲ΔT(時間幅)後までの振幅スペクトルSPECTRUMiを算出する(ステップAct14)。
パス周波数分析部22は、算出した振幅スペクトルSPECTRUMiのピークPEAKiを取得する(ステップAct15)。
【0036】
パス周波数分析部22は、電動機に搭載された軸受けの内輪パス周波数における振幅スペクトルSPECTRUMiのピーク値の大きさについて、ピークPEAKi内での順位(以下、第1ピーク順位PO1という。)を取得する(ステップAct15)。
【0037】
なお、ここで取得する順位は、ピーク値が大きい順に付される順位であってもよく、ピーク値が小さい順に付される順位であってもよい。
同様に、パス周波数分析部22は、電動機に搭載された軸受けの外輪パス周波数における振幅スペクトルSPECTRUMiのピーク値の大きさについて、ピークPEAKi内での順位(以下、第2ピーク順位PO2という。)を取得する(ステップAct16)。
【0038】
パス周波数分析部22は、電動機に搭載された軸受けの転動体パス周波数における振幅スペクトルSPECTRUMiのピーク値の大きさについて、ピークPEAKi内での順位(以下、第3ピーク順位PO3という。)を取得する(ステップAct17)。
【0039】
パス周波数分析部22は、電動機に搭載された軸受けの保持器のパス周波数における振幅スペクトルSPECTRUMiのピークの大きさについて、ピークPEAKi内での順位(以下、第4ピーク順位PO4という。)を取得する(ステップAct18)。
【0040】
パス周波数分析部22は、取得した第1ピーク順位PO1~第4ピーク順位PO4を、記憶部3に記録する(ステップAct19)。
パス周波数分析部22は、時刻tに単位時間を加算して時刻tを更新する(ステップAct20)。
続いてパス周波数分析部22は、時刻tの所定時間範囲ΔT後の時刻(時刻t+所定時間範囲ΔT)とエンベロープ信号終了の時刻とを比較する(ステップAct21)。
【0041】
ここで、インデックスiは、上記ステップAct14~ステップAct21を行った回数を表すものであり、例えば、パス周波数分析部22は、ステップAct13の処理の後にステップAct14に遷移した場合、インデックスiを1として、処理を開始する。その後、ステップAct21から再びステップAct14の処理に遷移する度にインデックスiの数値に1を加算する。したがって、ステップAct14~ステップAct21において、振幅スペクトルSPECTRUMiとピークPEAKiとはインデックスiの数字が共通している。
【0042】
パス周波数分析部22は、例えば、インデックスiと、振幅スペクトルSPECTRUMi、ピークPEAKi、第1ピーク順位PO1、第2ピーク順位PO2、第3ピーク順位PO3及び第4ピーク順位PO4とを紐づけて、記憶部3に記録する。例えば、パス周波数分析部22は、インデックスiが1のとき、第1ピーク順位PO1が1位であれば、記憶部3にi=1と紐づけてPO1=1を記録し、第2ピーク順位PO2が2位であればi=1と紐づけて記憶部3にPO2=2を記録する。
【0043】
また、ステップAct20で時刻tに加算される単位時間及び所定時間範囲ΔTは、インデックスiの最大値、音響信号のサンプリング周波数、オーバーラップ率(振幅スペクトルSPECTRUMiの算出に用いられるエンベロープ信号の期間と、振幅スペクトルSPECTRUM(i+1)の算出に用いられるエンベロープ信号の期間とが重複する割合)等に応じて設定され得る。例えば、オーバーラップ率が50%である場合、パス周波数分析部22は、ステップAct20で時刻tを時刻t+ΔT/2に更新する。
【0044】
時刻t+所定時間範囲ΔTがエンベロープ信号の終了時刻を超えるまで、パス周波数分析部22は、上記ステップAct14~ステップAct21の処理を繰り返す。
【0045】
時刻t+所定時間範囲ΔTがエンベロープ信号の終了時刻を超えたときに、パス周波数分析部22は、ステップAct16で記憶部3に記録した複数の第1ピーク順位PO1を取得し、当該複数の第1ピーク順位に対応するすべての点数を加算して、第1合計点数を算出する(ステップAct22)。
【0046】
なお、パス周波数分析部22には、予め順位に対応する点数が割り当てられている。例えば、パス周波数分析部22が順位に割り当てる点数は、1位が16点、2位が8点、3位が4点、4位が2点、5位が1点と設定されている。パス周波数分析部22における点数の設定は、予め異音判定装置1の使用者等により設定され得る。
【0047】
同様に、パス周波数分析部22は、記憶部3に記録した複数の第2ピーク順位PO2を取得し、当該複数の第2ピーク順位PO2に対応する全ての点数を加算して、第2合計点数を算出する(ステップAct23)。
【0048】
パス周波数分析部22は、記憶部3に記録した複数の第3ピーク順位PO3を取得し、当該複数の第3ピーク順位PO3に対応する全ての点数を加算して、第3合計点数を算出する(ステップAct24)。
【0049】
パス周波数分析部22は、記憶部3に記録した複数の第4ピーク順位PO4を取得し、当該複数の第4ピーク順位PO4に対応する全ての点数を加算して、第4合計点数を算出する(ステップAct25)。
パス周波数分析部22は、ステップAct22~Act25で算出した第1合計点数、第2合計点数、第3合計点数及び第4合計点数を加算し、第5合計点数(合計値)を算出する(ステップAct26)。
【0050】
パス周波数分析部22は、第5合計点数と第4閾値を比較する(ステップAct27)。
パス周波数分析部22が、第5合計点は第4閾値よりも小さいと判断すると、パス周波数分析部22は、電動機から取得した音響信号における異音(ノイズ等)は軸受要因ではないこと等を示す情報を出力し、処理を終了する。
【0051】
パス周波数分析部22は、第5合計点数が第4閾値以上であるときに、第1合計点数~第4合計点数について、第5合計点数中に占める割合が最も高いか否かを判断し、判断結果に基づいて異音が軸受のどの部品に起因するものかを示す情報を出力する。
【0052】
具体的には、パス周波数分析部22は、第5合計点数中に占める割合が最も高いのは第1合計点数であるときに(ステップAct29、YES)、異音が軸受の内輪に起因するものであることを示す情報を出力する(ステップAct30)。
【0053】
パス周波数分析部22は、第5合計点数中に占める割合が最も高いのは第1合計得点ではない、つまり、他の合計点数が最も高い割合を占めるときに(ステップAct29、NO)、第2合計点数が第5合計点数中に占める割合が最も高いか否か判断する(ステップAct31)。
【0054】
パス周波数分析部22は、第5合計点数中に第2合計点数が占める割合が最も高いと判断したときに(ステップAct31、YES)、異音が軸受の外輪に起因するものであることを示す情報を出力する(ステップAct32)。
【0055】
パス周波数分析部22は、第5合計点数中に占める割合が最も高いのは第2合計得点でもない、つまり、第1合計点数及び第2合計点数の他の合計点数が最も高い割合を占めるときに(ステップAct29、NO)、第3合計点数が第5合計点数中に占める割合が最も高いか否か判断する(ステップAct33)。
【0056】
パス周波数分析部22は、第5合計点数中に占める割合が最も高いのは第3合計点数であると判断したときに(ステップAct33、YES)、異音が軸受の転動体に起因するものであることを示す情報を出力する(ステップAct34)。
【0057】
パス周波数分析部22は、第3合計点数の他の合計点数が最も高いと判断すると(ステップAct33、NO)、第5合計点数中に占める割合が最も高いのは第4合計点数であるか判断する(ステップAct35)。
【0058】
パス周波数分析部22は、第5合計点数中に占める割合が最も高いのは第4合計点数であると判断したときに(ステップAct35、YES)、異音が軸受の保持器に起因するものであることを示す情報を出力する(ステップAct36)。
パス周波数分析部22は、第4合計点数の他の合計点数が最も高いと判断すると(ステップAct35、NO)、処理を終了する。
【0059】
出力部6は、異音判定装置1の使用者等に、パス周波数分析部22から出力された情報を提供する。例えば、出力部6は、モニタであり、パス周波数分析部22から出力された情報を使用者が視認可能な態様で提供することができる。
【0060】
また、パス周波数分析部22は上記情報を通信部4へ出力してもよい。その場合、通信部4は、指定された通信デバイスに対してパス周波数分析部22から出力された情報を送信し、指定された通信デバイスが、使用者等に受信した情報を提供するよう構成されていてもよい。
【0061】
次に、本実施形態の異音判定装置1を用いて異音判定のシミュレーションを実行した結果の一例について説明する。
図6乃至
図8は、一実施形態に係る異音判定装置1の一次判定処理動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
【0062】
なお、本シミュレーションにおいて、10秒間の音響信号を複数実測し、複数の音響信号の生波形を処理した結果を識別するデータ番号を付している。本シミュレーションでは、データ番号1~39は、正常な軸受けを備えた電動機が動作しているときの音響信号を用いて処理した結果データであって、データ番号40~62は、内輪に傷がある軸受けを備えた電動機が動作しているときの音響信号を用いて処理した結果データである。
【0063】
図6では、データ番号1~62の兆候パラメータの値を示している。この例では、調光パラメータは、音響信号の音圧[Pa](オーバーオール値)である。
図6において、例えば、丸「〇」は正常な軸受をもつ電動機を動作させたときに取得された音響信号の音圧[Pa](オーバーオール値)を示している。三角「△」は、内輪に傷がある軸受をもつ電動機を動作させたときに取得された音響信号の音圧[Pa](オーバーオール値)を示している。
【0064】
図6に示す複数の兆候パラメータと第3閾値とを比較すると、例えば、正常な軸受を備えた電動機の動作音の兆候パラメータであっても、データ番号4、30は、第3閾値以上の値であった。また一方で内輪に傷がある軸受を備えた電動機の動作音の兆候パラメータであっても、データ番号40、41、45は、第3閾値未満の値であった。
【0065】
このことから、兆候パラメータと第3閾値とを比較することのみにより、どのデータが異常のある電動機の動作音に基づくものであるか判断すると、電動機の異常の一次判定を正確に行うことができず、異常判定の信頼性が低下する可能性がある。
【0066】
図7において、例えば、丸「〇」は正常な軸受をもつ電動機の動作音の音圧レベル[dB](振幅の平均値AMP)を示しており、三角「△」は内輪に傷がある軸受をもつ電動機の動作音の音圧レベル[dB](振幅の平均値AMP)を示している。
図7に示す複数の振幅の平均値AMPと第1閾値とを比較すると、データ番号1~39はすべて第1閾値未満であり、データ番号40~62はすべて第1閾値以下であった。
【0067】
図8において、例えば、丸「〇」は正常な軸受をもつ電動機の動作音の周波数の平均値[Hz]FREQを示しており、三角「△」は内輪に傷がある軸受をもつ電動機の周波数の平均値[Hz]FREQを示している。
図8に示す複数の周波数の平均値と第2閾値とを比較すると、データ番号1~39は、すべて第2閾値未満であり、データ番号40~62はすべて第2閾値以上であった。
【0068】
上記一次判定処理のシミュレーションの結果から、兆候パラメータ(オーバーオール値)による電動機の異常の一次判定だけでなく、更に振幅の平均値AMP及び周波数の平均値FREQを用いて電動機の異常の一次判定を行うことにより、電動機の異常の有無をより正確に判定できることが分かる。
【0069】
図9及び
図10は、一実施形態に係る異音判定装置1のパス周波数分析動作のシミュレーション結果の一例を概略的に示す図である。
ここでは、上記一次判定処理のシミュレーションにおいて、兆候パラメータが第3閾値以上であったデータ番号4、30、40~62の音響信号について、パス周波数分析のシミュレーションを行った結果について説明する。
【0070】
図9には、データ番号4、30、40~62の音響信号について、算出した第1合計点数(内輪)、第2合計点数(外輪)、第3合計点数(転動体)及び第4合計点数(保持器)の合計を棒グラフで示している。
【0071】
図9において、例えば、データ番号4及び30は正常な軸受をもつ電動機の動作音のシミュレーション結果であり、合計点数は第4閾値未満であった。データ番号40~62は、内輪に傷がある軸受をもつ電動機の動作音のシミュレーション結果であり、合計点数は第4閾値以上であった。
【0072】
図10には、
図9に示すデータ番号44のシミュレーション結果の第1合計点数~第4合計点数各々を示している。
図10において、例えば、データ番号44に着目すると、第5合計点数中の比率が最も高い点数は、内輪パス周波数に対応する第1合計点数であった。この結果から、パス周波数分析部22は、電動機の動作時の異音原因を内輪起因であると特定することができる。
【0073】
本実施形態の異音判定装置1によれば、一次判定処理動作での兆候パラメータ、振幅の平均値及び周波数の平均値各々と所定の閾値とを比較することにより、音響信号にノイズが含まれる場合であっても、異常がある電動機を判定する一次判定を正確に行うことができる。また、本実施形態の異音判定装置1によれば、パス周波数分析において、異常原因に応じた周波数における振幅スペクトルのピークの大きさに順位(ピーク順位)をつけて、ピーク順位に基づく重みづけをした点数の合計により、異音原因である軸受部位を特定することで、正確に異音原因を判定することができる。
すなわち、本実施形態によれば、信頼性の高い異音判定を行う異音判定装置を提供することができる。
【0074】
本実施形態に係るプログラムは、電子機器に記憶された状態で譲渡されてよいし、電子機器に記憶されていない状態で譲渡されてもよい。後者の場合は、プログラムは、ネットワークを介して譲渡されてよいし、記憶媒体に記憶された状態で譲渡されてもよい。記憶媒体は、非一時的な有形の媒体である。記憶媒体は、コンピュータ可読媒体である。記憶媒体は、CD-ROM、メモリカード等のプログラムを記憶可能かつコンピュータで読取可能な媒体であればよく、その形態は問わない。
【0075】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【要約】
一実施形態に係る異音判定装置は、信頼性の高い異音判定を行うものであって、音響信号の所定周波数成分の兆候パラメータを算出し、兆候パラメータが第3閾値よりも小さいときに、音響信号の振幅スペクトルに基づいて振幅の平均値及び周波数の平均値を算出し、振幅の平均値と第1閾値との比較、及び周波数の平均値と第2閾値との比較の少なくとも一方を行う一次判定処理部(21)と、一次判定処理部(21)での比較結果が所定の条件を満たすときに、音響信号の一部に基づく振幅スペクトルに含まれる複数のピークの値及び周波数を取得し、複数のピークの値の順位を音響信号の異なる部分について複数回算出し、順位に応じて設定された点数を複数のピークの周波数毎に合計した合計点数に基づいて、異音の原因を判定するパス周波数分析部(22)と、を備える。