(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】カチオン染料可染性再生セルロース繊維、その製造方法及び繊維構造物
(51)【国際特許分類】
D01F 2/00 20060101AFI20240214BHJP
D01F 2/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
D01F2/00 Z
D01F2/06 Z
(21)【出願番号】P 2019132087
(22)【出願日】2019-07-17
【審査請求日】2022-05-16
(73)【特許権者】
【識別番号】591264267
【氏名又は名称】ダイワボウレーヨン株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000040
【氏名又は名称】弁理士法人池内アンドパートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】山口 浩平
(72)【発明者】
【氏名】井上 裕邦
【審査官】河内 浩志
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-115328(JP,A)
【文献】特開2017-095559(JP,A)
【文献】特開2008-303245(JP,A)
【文献】特開2013-204204(JP,A)
【文献】特開2008-014623(JP,A)
【文献】特開2001-213955(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01F1/00- 6/96
9/00- 9/04
D06P1/00- 7/00
C08K3/00- 13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸性基を含む化合物と紫外線吸収剤とを含む再生セルロース繊維であって、
セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物を2質量部以上15質量部以下、及び前記紫外線吸収剤を1質量部以上15質量部以下含み、
前記紫外線吸収剤は、有機系化合物であり、平均粒子径が
0.1μm以上0.7μm以下であり、
前記紫外線吸収剤は、再生セルロース繊維中に分散していることを特徴とする、カチオン染料可染性再生セルロース繊維。
【請求項2】
前記紫外線吸収剤は、ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾフェノン化合物からなる群から選ばれる1種以上の有機系化合物である、請求項1に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維。
【請求項3】
前記酸性基を含む化合物は、カルボキシル基及びスルホン基からなる群から選ばれる1以上の酸性基を含有する化合物である請求項1又は2に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維。
【請求項4】
前記酸性基を含む化合物は、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物、並びに、フェノールスルホン酸及び/又はその塩・ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物からなる群から選ばれる1以上である請求項1~3のいずれか1項に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維。
【請求項5】
さらに、天然由来の油脂を含む請求項1~4のいずれか1項に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維。
【請求項6】
カチオン染料で染色されている請求項1~5のいずれか1項に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維。
【請求項7】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維の製造方法であって、
セルロース100質量部、酸性基を含む化合物2質量部以上15質量部以下及び紫外線吸収剤1質量部以上15質量部以下を含む紡糸液を紡糸ノズルから紡糸浴中に押し出し、セルロースを凝固再生させて再生セルロースフィラメント(トウ)を作製する工程、
前記再生セルロースフィラメント(トウ)を精練加工する工程を含み、
前記精練加工において、晒処理を行わないことを特徴とする、カチオン染料可染性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項8】
前記精練加工において、脱硫処理を行わない、請求項7に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維の製造方法。
【請求項9】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維を10質量%以上含む繊維構造物。
【請求項10】
ポリアクリル繊維、ポリウレタン弾性繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、綿及びウールからなる群から選ばれた一種以上の繊維をさらに含む請求項9に記載の繊維構造物。
【請求項11】
紡績糸、編物、織物及び不織布からなる群から選ばれる形態を有する請求項9又は10に記載の繊維構造物。
【請求項12】
カチオン染料で染色されている請求項9~11のいずれか1項に記載の繊維構造物。
【請求項13】
請求項1~6のいずれか1項に記載のカチオン染料可染性再生セルロース繊維を20質量%以上40質量%以下、ポリアクリル繊維を20質量%以上40質量%以下、カチオン可染型ポリエステル繊維を20質量%以上40質量%以下、及びポリウレタン弾性繊維を5質量%以上20質量%以下含む、衣料用繊維構造物。
【請求項14】
カチオン染料で染色されている請求項13に記載の衣料用繊維構造物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カチオン染料可染性再生セルロース繊維、その製造方法及び繊維構造物に関する。具体的には、本発明は、カチオン染料に対し染色性がよく、かつ耐光堅牢度が良好であるカチオン染料可染性再生セルロース繊維、その製造方法及び繊維構造物に関する。
【背景技術】
【0002】
レーヨン繊維等の再生セルロース繊維は、風合いに優れ、生分解性を有することから、衣料や産業基材等の様々な繊維製品に用いられている。一方、レーヨン繊維等の再生セルロース繊維は、直接染料や反応染料には優れた染色性を示すが、カチオン染料に対してはほとんど染色性を示さない。そのためポリアクリル繊維やカチオン可染性ポリエステル繊維との混紡品ではそれぞれの繊維を染色する2浴染めが必要になり、工程が煩雑なうえ、コストも高くなる。
【0003】
そこで、特許文献1には、再生セルロース繊維中にジヒドロキシジフェニルスルホン(4-ヒドロキシジフェニルスルホン)とp-フェノールスルホン酸塩のホルマリン縮合物を含ませることで、カチオン染料に対する染色性を高めることが提案されている。特許文献2には、レーヨン繊維に酸性基を含む化合物と紫外線吸収剤を含ませることで、カチオン染料に対する染色性及び耐光堅牢度を高めることが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-146628号公報
【文献】特開2001-115328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、引用文献1に記載のセルロース再生繊維は、カチオン染料に対する染色性は良好であるものの、耐光堅牢度を改善する必要があった。一方、引用文献2に記載のレーヨン繊維は、紡績糸等の繊維構造物の状態で染色した場合、スライバーに白色粉末状のものが付着してしまう場合があった。
【0006】
本発明は、前記従来の問題を解決するため、実用に耐える強度を有し、カチオン染料に対し染色性がよく、かつ耐光堅牢度が良好である上、繊維構造物の染色工程等の加工工程中に白色粉末が発生しないカチオン染料可染性再生セルロース繊維、その製造方法及び繊維構造物を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、酸性基を含む化合物と紫外線吸収剤とを含む再生セルロース繊維であって、セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物を2質量部以上15質量部以下、及び前記紫外線吸収剤を1質量部以上15質量部以下含み、前記紫外線吸収剤は、有機系化合物であり、平均粒子径が0.05μmを超え1μm未満であることを特徴とする、カチオン染料可染性再生セルロース繊維に関する。
【0008】
本発明は、また、前記のカチオン染料可染性再生セルロース繊維の製造方法であって、セルロース100質量部、酸性基を含む化合物2質量部以上15質量部以下及び紫外線吸収剤1質量部以上15質量部以下を含む紡糸液を紡糸ノズルから紡糸浴中に押し出し、セルロースを凝固再生させて再生セルロースフィラメント(トウ)を作製する工程、前記再生セルロースフィラメント(トウ)を精練加工する工程を含み、前記精練加工において、晒処理を行わない、カチオン染料可染性再生セルロース繊維の製造方法に関する。
【0009】
本発明は、また、前記のカチオン染料可染性再生セルロース繊維を含む繊維構造物に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、実用に耐える強度を有し、カチオン染料に対し染色性がよく、かつ耐光堅牢度が良好である上、繊維構造物の染色工程等の加工工程中に白色粉末が発生しないカチオン染料可染性再生セルロース繊維及びそれを含む繊維構造物を提供することができる。
また、本発明の製造方法によれば、実用に耐える強度を有し、カチオン染料に対し染色性がよく、かつ耐光堅牢度が良好である上、繊維構造物の染色工程等の加工工程中に白色粉末が発生しないカチオン染料可染性再生セルロース繊維を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】
図1は、実施例1で用いた紫外線吸収剤の水分散液を添加したビスコース液を透過型電子顕微鏡で観察した写真(640倍)である。
【
図2】
図2は、実施例2で用いた紫外線吸収剤のエマルジョンを添加したビスコース液を透過型電子顕微鏡で観察した写真(640倍)である。
【
図3】
図3は、実施例1のカチオン染料可染性再生セルロース繊維の側面の透過型電子顕微鏡写真(320倍)である。
【
図4】
図4は、実施例2のカチオン染料可染性再生セルロース繊維の側面の透過型電子顕微鏡写真(320倍)である。
【
図5】
図5は、実施例3のカチオン染料可染性再生セルロース繊維の側面の透過型電子顕微鏡写真(320倍)である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討したところ、酸性基を含む化合物及び紫外線吸収剤を含む再生セルロース繊維を含む紡績糸等の繊維構造物において、染色工程等の加工工程中で観察される白色粉末状のものは、これらの加工工程中にレーヨン繊維が温浴中に浸ることで、セルロースが膨潤して紫外線吸収剤がレーヨン繊維表面にブリードアウトしたものである可能性が高いことを見出した。そこで、再生セルロース繊維において、セルロース100質量部に対して、酸性基を含む化合物を2質量部以上15質量部以下と紫外線吸収剤を1質量部以上15質量部以下含ませるとともに、紫外線吸収剤として平均粒子径が0.05μmを超え1μm未満である有機系化合物を用いることで、カチオン染料に対し染色性がよく、かつ耐光堅牢度が良好である上、繊維構造物の染色工程等の加工工程中における白色粉末の発生が抑制されることを見出した。
【0013】
前記紫外線吸収剤は、有機系化合物であり、平均粒子径が0.05μm超え1μm未満である。前記有機系化合物は、20℃で液体であってもよく、20℃で固体であってもよい。これにより、紫外線吸収剤を水分散液(20℃で固体の有機系化合物の場合)又はエマルジョン(20℃で液体の有機系化合物の場合)として用いることで紫外線吸収剤を紡糸液中に均一に分散させることができ、それゆえ、紫外線吸収剤が再生セルロース繊維中に均一に分散し、湿潤状態において、紫外線吸収剤が繊維表面にブリードアウトすることが抑制され、それゆえ、繊維構造物の染色工程等の加工工程中に白色粉末が発生しなくなる。
【0014】
粒子径が大きい(1μm以上)紫外線吸収剤は、繊維中に点在することとなり、染料に対する紫外線遮蔽効果が低下する。紫外線吸収剤を微粒子化することで、繊維中に微分散させ表面積を大きくすることが好ましい。一方、粒子径が小さすぎる(0.05μm未満)場合には、紫外線は粒子の間をすり抜けてしまい、能力を十分に発揮することができない場合がある。十分に効果を発揮するためには、粒子径は紫外線の波長に相当する粒子径が、1/2~2倍程度が好ましい。前記有機系化合物は、平均粒子径が0.1μm以上0.7μm以下であることが好ましく、0.15μm以上0.5μm以下であることがより好ましく、0.2μm以上0.4μm以下であることがさらに好ましい。
【0015】
本発明において、紫外線吸収剤の平均粒子径は、レーザ回折・散乱式粒度分析測定法で測定した体積累積平均粒子径d50をいう。本発明において、セルロース、酸性基を含む化合物及び紫外線吸収剤を含む紡糸液を紡糸することで、紫外線吸収剤を再生セルロース繊維内に含ませているため、紫外線吸収剤は、紡糸液中で分散された状態のままか、それに近い状態で再生セルロース内に存在する。即ち、原料の紫外線吸収剤の粒子径と、カチオン染料可染性再生セルロース繊維中の紫外線吸収剤の粒子径はほぼ同一である。なお、本発明のカチオン染料可染性再生セルロース繊維中の紫外線吸収剤の粒子径は、マイクロスコープ(VHX-500F、キーエンス製)を用い、倍率3500倍で透過光により側面観察を行い、確認することができる。
【0016】
前記紫外線吸収剤として用いる有機系化合物は、特に限定されないが、例えば、ベンゾトリアゾール化合物、ベンゾフェノン化合物、サリシレート化合物、シアノアクリレート化合物、トリアジン化合物、オギザニリド化合物、マロン酸エステル化合物、及びヒンダードアミン化合物等が挙げられる。
【0017】
前記ベンゾトリアゾール化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-(3-ドデシル-2-ヒドロキシ-5-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール[「2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール」とも称される。]、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロロベンゾトリアゾール[「2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-(t-ブチル)フェノール」とも称される。]、2-(2'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)-5,6-ジクロルベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メチルフェニル)-5-エチルスルホンベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-t-ブチルフェニル)-5-クロルベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-アミノフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジメチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジメチルフェニル)-5-メトキシベンゾトリアゾール、2-(2'-メチル-4'-ヒドロキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ステアリルオキシ-3',5'-ジメチルフェニル)-5-メチルベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-メチル-5'-t-ブチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジ-t-ブチルフェニル)-5-クロルベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3'-t-ブチル-5'-メチルフェニル)-5-クロルベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-シクロヘキシルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジクロルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4',5'-ジクロルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-3',5'-ジメチルフェニル)-5-エチルスルホンベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-4'-オクトキシフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2'-ヒドロキシ-5'-メトキシフェニル)-5-メチルベンゾトリアゾール、及び2-(2'-アセトキシ-5'-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール等が挙げられる。
【0018】
前記ベンゾフェノン化合物としては、特に限定されないが、例えば、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,4-ジヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-n- オクトキシベゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-2'-カルボキシベンゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4,4'-ジメトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾイルオキシベゾフェノン、2,2'-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-4-メトキシ-5-スルホンベンゾフェノン、2,2'4,4'-テトラヒドロキシベンゾフェノン、2-ヒドロキシ-5-クロルベンゾフェノン、及びビス-(2-メトキシ-4-ヒドロキシ-5-ベンゾイルフェニル)メタン等が挙げられる。
【0019】
前記紫外線吸収剤は、耐光堅牢度を高める観点から、ベンゾトリアゾール化合物及びベンゾフェノン化合物からなる群から選ばれる1種以上の有機系化合物であることが好ましく、ベンゾトリアゾール化合物がより好ましく、2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチル-6-t-ブチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4,6-ビス(1-メチル-1-フェニルエチル)フェノール、2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-4-メチルフェノール等からなる群から選ばれる1種以上であることがさらに好ましい。
【0020】
前記酸性基を含む化合物は、特に限定されないが、例えば、カルボキシル基及びスルホン基からなる群から選ばれる1以上を用いることが好ましい。
【0021】
前記スルホン基を含む化合物としては、特に限定されないが、例えば、ナフタリンスルホン酸塩、ポリスチレンベンゼンスルホン酸塩、フェノールスルホン酸塩、ジヒドロキシジフェニルスルホン・スルホン酸塩縮合物、ヒドロキシフェニルスルホンのホルムアルデヒド縮合物、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物、並びに、フェノールスルホン酸及び/又はその塩・ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物等が挙げられる。
【0022】
前記酸性基を含む化合物は、カチオン染料に対する染色性を高める観点から、スルホン基を含む化合物であることが好ましく、ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物、並びに、フェノールスルホン酸及び/又はその塩・ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物からなる群から選ばれる1以上であることがより好ましい。また、酸性基を含む化合物として、これらのフェノール基及びスルホン基を含む化合物を用いることで、アンモニアに対する消臭性能が高まり、カチオン染色を行った後においてもアンモニアに対する消臭性能が高い。これは、酸性基に含まれるフェノールのOH基がアンモニアと結合し、スルホン基がカチオン染料に結合することで、消臭と染色での作用機構が違うため染色後も良好な消臭性を示す事ができると推定される。アンモニアに対する消臭性能、濃色染色性、汗堅牢度及び洗濯堅牢度を高める観点から、前記酸性基を含む化合物は、フェノールスルホン酸及び/又はその塩・ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物であることがさらに好ましい。
【0023】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物を2質量部以上15質量部以下含む。カチオン染料に対する染色性を高める観点から、セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物を3質量部以上含むことが好ましく、4質量部以上含むことがより好ましく、5質量部以上含むことがさらに好ましい。また、繊維強度を実用レベルにする観点から、セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物を14.5質量部以下含むことが好ましく、14質量部以下含むことがより好ましく、13.5質量部以下含むことがさらに好ましい。
【0024】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、セルロース100質量部に対して、前記紫外線吸収剤を1質量部以上15質量部以下含む。耐光堅牢度を高める観点から、セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物を2質量部以上含むことが好ましく、2.5質量部以上含むことがより好ましく、3質量部以上含むことがさらに好ましい。また、繊維強度を実用レベルにする観点から、セルロース100質量部に対して、前記紫外線吸収剤を13質量部以下含むことが好ましく、11質量部以下含むことがより好ましく、10質量部以下含むことがさらに好ましい。
【0025】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、実用レベル強度を保持しつつ、カチオン染料に対する染色性及び耐光堅牢度を高める観点から、セルロース100質量部に対して、前記酸性基を含む化合物と前記紫外線吸収剤を合計で3質量部以上30質量部以下含むことが好ましく、6.5質量部以上25質量部以下含むことがより好ましく、8質量部以上23.5質量部以下含むことがさらに好ましい。また、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維において、カチオン染料に対する染色性及び耐光堅牢度を両立する観点から、前記酸性基を含む化合物と前記紫外線吸収剤の質量比(酸性基を含む化合物/紫外線吸収剤)は、2/15以上15/1以下であることが好ましく、より好ましくは4/11以上14/2.5以下であり、さらに好ましくは5/10以上13.5/3以下である。
【0026】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、酸性基を含む化合物と前記紫外線吸収剤に加えて、他の機能剤を含んでもよい。他の機能剤としては、特に限定されないが、例えば、肌に潤いを与える油脂を含むことが好ましい。前記油脂は、肌になじみやすい観点から、20℃において液体の天然由来の油脂を用いることができる。
【0027】
前記天然由来の油脂(以下において、「天然油脂」とも記す。)としては、例えば、オリーブ果実より得られるオリーブオイル、ブドウ種子より得られるグレープシードオイル、ツバキ科のヤブツバキの種子から得られる椿油、ホホバの種子より得られるホホバオイル、アルガンの木の種子(仁)より得られるアルガンオイル等が挙げられる。
【0028】
前記天然油脂の添加量は、特に限定されないが、保湿効果等を高める観点から、例えば、セルロース100質量部に対して0.1質量部以上5質量部以下の範囲が好ましく、0.2質量部以上4質量部以下である。
【0029】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、セルロース100質量部、酸性基を含む化合物2質量部以上15質量部以下及び紫外線吸収剤1質量部以上15質量部以下を含む紡糸液を用い、精練加工において、晒処理を行わない以外は、通常の再生セルロース繊維の作製時と同様に作製することができる。次亜塩素酸ナトリウム等の塩素系の漂白剤を用いた晒処理(漂白処理)の場合は、紫外線吸収剤が塩素分に弱く、綿色が黄色になってしまう恐れ、過酸化水素水等の酸素系漂白剤を用いた晒処理の場合は、綿色が黄色にはならないが綺麗な白色には漂白できない恐れがある。
【0030】
まず、セルロース100質量部、酸性基を含む化合物2質量部以上15質量部以下及び紫外線吸収剤1質量部以上15質量部以下を含む紡糸液を準備する。例えば、セルロース含む紡糸液に、酸性基を含む化合物の水溶液、及び紫外線吸収剤の水分散液を、セルロース100質量部に対して、酸性基を含む化合物が2質量部以上15質量部以下、及び紫外線吸収剤が1質量部以上15質量部以下になるように添加して混合する。再生セルロース繊維がレーヨン繊維である場合、セルロース含む紡糸液として、ビスコースを用いる。該工程において、必要に応じて、紡糸液に、天然油脂等の他の機能剤を添加することができる。
【0031】
ビスコースは、例えば、セルロースを7質量%以上10質量%以下、水酸化ナトリウムを5質量%以上8質量%以下、二硫化炭素を2質量%以上3.5質量%以下含んでもよい。このとき、必要に応じて、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、二酸化チタン等の添加剤を使用することもできる。原料ビスコースの温度は18℃以上23℃以下に保持するのが好ましい。
【0032】
紫外線吸収剤の水分散液は、必要に、有機溶媒や界面活性剤等を適量含んでもよい。紫外線吸収剤が20℃で液体の場合、水分散液はエマルジョンとなる。有機溶媒としては、必要に応じて、ジエチレングリコール、プロピレングリコール等を用いてもよい。界面活性剤としては、必要に応じて、アニオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤等を用いてもよい。
【0033】
次に、前記で得られた紡糸液を紡糸ノズルから紡糸浴中に押し出し、セルロースを凝固再生させて再生セルロースフィラメント(トウ)を作製する。
【0034】
前記紡糸ノズルとしては、例えば通常の円形ノズルを用いることができる。例えば、目的とする生産量にもよるが、直径0.05mm以上0.12mm以下であり、ホール数が1000以上20000以下である円形ノズルを用いることが好ましい。また、異型断面のノズルを使用してもよい。
【0035】
前記紡糸ノズルを用いて、前記紡糸液を紡糸浴中に押し出して紡糸し、セルロースを凝固再生させる。紡糸速度は、特に限定されないが、例えば、30m/分以上80m/分以下の範囲が好ましい。また、延伸率は、特に限定されないが、例えば、39%以上55%以下が好ましい。ここで延伸率とは、延伸前のスライバー速度を100としたとき、延伸後のスライバー速度をどこまで速くしたかを示すものである。倍率で示すと、延伸前が1、延伸後は1.39倍以上1.55倍以下となる。
【0036】
再生セルロース繊維がレーヨン繊維の場合、紡糸浴(ミューラー浴)としては、例えば、硫酸を95g/L以上130g/L以下、硫酸亜鉛を10g/L以上17g/L以下、硫酸ナトリウム(芒硝)を290g/L以上370g/L以下含む強酸性浴を用いることが好ましい。より好ましい硫酸濃度は、95g/L以上120g/L以下である。紡糸浴の温度が、特に限定されないが、例えば、45~60℃であることが好ましい。
【0037】
前記のようにして得られた再生セルロースフィラメント(トウ)に対して精練加工を行う。一般的に、再生セルロース繊維の精練工程は、熱水処理、水洗、水流化ソーダによる脱硫処理、晒処理(漂白)、酸洗い、及び油剤付与の順で行うことができるが、本願では、上述したとおり、晒処理を行わない。なお、酸洗い及び油剤付与は省略してもよい。また、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維がアルガンオイル等の水流化ソーダ等による脱硫処理で脱落するおそれのある機能剤を含む場合は、脱硫処理を省略することが好ましい。前記精練は、フィラメント(トウ)の状態で行ってもよく、所定の長さ、例えば、25mm以上65mm以下にカットした後に行ってもよい。
【0038】
その後、必要に応じて圧縮ローラーや真空吸引等の方法で余分な油剤、水分を繊維から除去した後、乾燥処理を施す。
【0039】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、特に限定されないが、例えば、単繊維繊度が0.3dtex以上8.0dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.6dtex以上6.0dtex以下であり、さらに好ましくは0.7dtex以上3.6dtex以下である。単繊維繊度が0.3dtex未満であると、延伸時に単繊維切れが発生しやすい傾向にある。単繊維繊度が8.0dtexを越えると、繊維の再生状態が不良になりやすく、繊維の色相等が悪くなる場合がある。
【0040】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の引張強さ(以下、乾強度ともいう。)は1.5cN/dtex以上3.0cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましくは1.7cN/dtex以上2.7cN/dtex以下である。湿潤時の引張強さ(以下、湿強度ともいう。)で0.6cN/dtex以上2.0cN/dtex以下であることが好ましい。より好ましくは0.8cN/dtex以上1.8cN/dtex以下である。
【0041】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、JIS L 1015に準じて測定される標準時の伸び率(以下、乾伸度ともいう。)は15%以上25%以下であることが好ましい。より好ましくは16%以上24%以下である。湿潤時の伸び率(以下、湿伸度ともいう。)で15%以上40%以下であることが好ましい。より好ましくは18%以上35%以下である。
【0042】
引張強さ及び伸び率が上記範囲内にあると、紡糸性が良好で、且つ製品強度が良好になりやすい。
【0043】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、カチオン染料に対する染色性が良好であるとともに、染色堅牢度が高い。例えば、カチオン染料が3.0%o.w.f.の場合、JIS L 0842に規定のカーボンアーク灯に対する染色堅牢度試験方法(3級照射)で測定した耐光堅牢度が3級以上であることが好ましい。また、カチオン染料が3.0%o.w.f.の場合、JIS L 0848に規定の汗に対する染色堅牢度試験法によって測定した汗堅牢度(変退色)が4級以上であることが好ましい。また、カチオン染料が3.0%o.w.f.の場合、JIS L 0844 A-2号に規定の洗濯に対する染色堅牢度試験法によって測定した洗濯堅牢度(変退色)が4級以上であることが好ましい。
【0044】
前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は、アンモニアに対する消臭性能が高く、社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)の消臭加工繊維製品認定基準(平成23年4月1日改訂版)に準じて測定したアンモニアの消臭率が70%以上であることが好ましく、75%以上であることがより好ましい。また、洗濯10回後のアンモニアの消臭率が70%以上であることがさらに好ましく、75%以上であることが特に好ましい。
【0045】
本発明のカチオン染料可染性再生セルロース繊維は、長繊維状(例えば、フィラメント(トウ)、不織布等)、短繊維状(例えば、湿式抄紙用原綿、エアレイド不織布用原綿、カード用原綿等)の形態で提供され、繊維構造物を形成することが好ましい。前記繊維構造物としては、例えば、フィラメント(トウ)、紡績糸、不織布、編物、織物が好ましい。前記繊維構造物は、カチオン染料可染性再生セルロース繊維を含むため、風合いや消臭性が良好である。本発明の繊維構造物において、他の繊維と混紡する場合は、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維は10質量%以上含有させることが好ましい。より好ましくは20質量%以上であり、さらに好ましくは30質量%以上である。
【0046】
前記繊維構造物が紡績糸である場合、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維単独、又は前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維を、その他の再生セルロース繊維、ポリアクリル繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、コットン、麻、ウール等の他の繊維と混紡、複合することが好ましい。このような紡績糸は、例えば織編物に加工されて衣料等に用いることができる。
【0047】
前記繊維構造物が織物や編物である場合、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維単独、又は前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維を、その他の再生セルロース繊維、ポリアクリル繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、コットン、麻、ウール等の他の繊維と混紡、複合することが好ましい。織物や編物の組織は特に限定されない。例えば、編物では、丸編み、横編み、経編み(トリコット)が、織物では、平織、綾織、繻子織等が挙げられる。
【0048】
前記繊維構造物が不織布である場合、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維単独、又は前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維を、その他の再生セルロース繊維、ポリアクリル繊維、カチオン可染型ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、ポリオレフィン繊維、ポリウレタン繊維、コットン、麻、ウール等の他の繊維と混紡、複合することが好ましい。不織布の形態としては、例えば、湿式不織布(湿式抄紙)、エアレイド不織布、水流交絡不織布、ニードルパンチ不織布等が挙げられる。
【0049】
前記カチオン可染性再生セルロース繊維又はそれを含む繊維構造物をカチオン染料で染色する方法は、特に限定されず、一般的なカチオン染料による染色方法を用いればよい。
【0050】
前記繊維構造物は、衣料や産業基材等に用いることができる。衣料としては、例えば、肌着、下着、シャツ、ジャンパー、セーター、パンツ、トレーニングウエア、タイツ、腹巻、マフラー、帽子、手袋、靴下及び耳あて等が挙げられる。産業基材としては、例えば、カーペット、寝具及び家具等が挙げられる。
【0051】
衣料用繊維構造物としては、前記カチオン染料可染性再生セルロース繊維を20質量%以上40質量%以下、ポリアクリル繊維を20質量%以上40質量%以下、カチオン可染型ポリエステル繊維を20質量%以上40質量%以下、及びポリウレタン弾性繊維を5質量%以上20質量%以下含むことが好ましい。このような繊維構造物を用いることで、従来、ビスコースレーヨンと混用されるカチオン可染性繊維であるアクリルやカチオン可染ポリエステル(CDP)繊維との混紡、交織品も一浴染めが可能となる。カチオン染色の後に反応染料染色の二浴染色していた従来工程に比べ、大幅に染色時間、水量、熱源スチームの削減が可能となる。また、ビスコースレーヨンと混用されるカチオン可染性繊維であるアクリルやカチオン可染ポリエステル(CDP)繊維との混紡、交織品のカチオン染料プリントが可能となる。これにより、従来実施していた顔料プリントの欠点である、堅い風合いや、摩擦堅牢度を改善することができる。
【実施例】
【0052】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに具体的に説明する。本発明は、下記の実施例に限定されるものではない。
【0053】
まず、実施例及び比較例で用いた測定方法を説明する。
(1)紫外線吸収剤の平均粒子径
20℃で固体の場合、レーザ回折・散乱粒度分析測定装置(株式会社堀場製作所製「HORIBA LA-920」、相対屈折率:1.15-0.00i)を用いて測定した。
20℃で液体の場合、レーザ回折・散乱粒度分析測定装置(島津製作所製、ナノ粒子径分布測定装置「SALD-7500」、相対屈折率:1.35-0.00i)を用いて測定した。
(2)単繊維強度及び伸度
JIS L 1015に準じて、乾強度、湿強度、乾伸度及び湿伸度を測定した。
(3)染色性
染色性を下記の基準にしたがって評価した。
良好:染色されていない白い部分が無いかほとんど無い。
(4)染色堅牢性
耐光堅牢度:JIS L 0842に規定のカーボンアーク灯に対する染色堅牢度試験方法(3級照射)で測定した。
汗堅牢度:JIS L 0848に規定の汗に対する染色堅牢度試験法によって測定した。
洗濯堅牢度:JIS L 0844 A-2号に規定の洗濯に対する染色堅牢度試験法によって測定した。
(5)アンモニアに対する消臭性能
アンモニアに対する消臭性能は、社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)のSEKマーク繊維製品認定基準に定める方法に基づいて評価した。
具体的には、アンモニアに対する消臭性能は、社団法人繊維評価技術評議会で規定している機器分析(検知管法)に準じ、次のように評価した。試料0.51gを5Lのテドラーバックに入れて密封した。次に、シリンジを用いて規定の初期濃度になるように臭気成分ガス3Lをテドラーバックに注入した。臭気成分ガスを注入してから2時間後に、テドラーバックの臭気成分ガスの濃度を検知管により測定した。同様に空試験を行った。そして、空試験における測定値及び試料を用いた場合の測定値を用い、下記式によりアンモニアの減少率を求めた。アンモニアの初期濃度は100ppmであった。
減少率(%)=[(2時間後の空試験における測定値-2時間後の試料を用いた場合の測定値)/2時間後の空試験における測定値}×100
(6)洗濯後のアンモニアに対する消臭性能
<洗濯>
洗濯方法:社団法人繊維評価技術協議会(JTETC)のSEKマーク繊維製品認証基準に定める方法に従う。
洗濯回数:10回
<アンモニアに対する消臭性能>
洗濯を10回行った試料を用いた以外は、上述したとおりにアンモニアに対する消臭性能を評価した。
【0054】
(実施例1)
<紡糸液の調製>
セルロース8.5質量%、水酸化ナトリウム5.7質量%及び二硫化炭素を2.8質量%含むビスコースを用意した。
このビスコースに酸性基を含む化合物としてフェノールスルホン酸及びその塩(Na)・ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物の水溶液(商品名、オー・ジー株式会社製、商品名「SZ-9904」)を、セルロース100質量部に対してフェノールスルホン酸及びその塩(Na)・ビス(ヒドロキシフェニル)スルホン・ホルムアルデヒド重縮合物が11.0質量部となるように添加した。また、紫外線吸収剤として2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tブチル-4-メチルフェノールの水分散液を、セルロース100質量部に対して2-(5-クロロ-2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-tブチル-4-メチルフェノールが4質量部となるように添加した。そしてこれらが均一となるように撹拌混合した。
図1に、実施例1で用いた紫外線吸収剤の水分散液を添加したビスコース液を透過型電子顕微鏡(株式会社ニコンインステック製、品名「ECLIPSE LV100ND」)で観察した写真(640倍)を示した。
図1から分かるように、実施例1で用いた紫外線吸収剤は、短い針状結晶であった。また、紫外線吸収剤の平均粒子径を上述したとおり、株式会社堀場製作所製の「HORIBA LA-920」を用いて測定したところ、0.29μmであった。
<紡糸条件>
得られた紡糸液を紡糸速度50m/分、延伸率50%で紡糸して、表1に示す単繊維繊度を有するレーヨン繊維のトウを得た。紡糸浴として、硫酸115g/L、硫酸亜鉛13g/L、及び硫酸ナトリウム350g/Lを含むミューラー浴(温度50℃)を用いた。また、紡糸液を吐出する紡糸口金には、孔径0.05mmのホールを15000個有するノズルを用いた。紡糸中、単糸切れトウの不都合は生じず、酸性基を含む化合物及び紫外線吸収剤を含む紡糸液の紡糸性は良好であった。
<精練条件>
このようにして得られたレーヨン繊維のトウを、繊維長38mmに切断した後、熱水処理、水硫化ソーダによる脱硫処理、酸処理、水洗の順で精練工程を実施した。その後、圧縮ローラーで余分な水分を繊維から落とした後、乾燥処理(60℃、7時間)を施して、カチオン染料可染性レーヨン繊維を得た。
<不織布の作製>
上記で得られたレーヨン繊維100質量%を用いて、セミランダムカード機で目付100g/m
2のウェブを作製し、得られたウェブに水流交絡処理を施して、繊維同士を交絡して不織布を作製した。
<不織布の染色>
上記で得られた不織布を下記のようにカチオン染料で黒色に染色した。
《染料》
黒のカチオン染料(日成化成株式会社製、商品名「Nichilon Black TR(200%)」)
《濃度》
3.0%o.w.f.又は5.0%o.w.f.
《染色方法》
各繊維を酢酸0.5g/L、酢酸ナトリウム0.25g/Lの上記黒色カチオン染料の染色液に、浴比1:50で浸漬し、120℃で60分間染色した後、水洗、乾燥した。
【0055】
(実施例2)
ベンゾトリアゾール系水分散液に変えて20℃で液状のベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤である2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノール(BASFジャパン株式会社製、商品名「チヌビン571」)をエマルジョン化したものを使用し、セルロース100質量部に対して2-(2H-ベンゾトリアゾール-2-イル)-6-ドデシル-4-メチルフェノールが7質量部となるよう添加すること以外は、実施例1と同様にしてカチオン染料可染性レーヨン繊維を得た。また、実施例1と同様の工程で不織布を作製し、染色した。
図2に、実施例2で用いた紫外線吸収剤のエマルジョンを添加したビスコース液を透過型電子顕微鏡(株式会社ニコンインステック製、品名「ECLIPSE LV100ND」)で観察した写真(640倍)を示した。
図2から分かるように、実施例2で用いた紫外線吸収剤は、微小な液滴の形状であった。また、紫外線吸収剤の平均粒子径を上述したとおり、島津製作所製のナノ粒子径分布測定装置「SALD-7500」を用いて測定したところ、0.14μmであった。
【0056】
(実施例3)
ビスコースにさらにアルガンオイルのエマルジョンをセルロース100質量部に対してアルガンオイルが1.5質量部となるように添加したこと、熱水処理、酸処理、水洗の順で精練工程を実施したこと以外は、実施例1と同様にしてカチオン染料可染性レーヨン繊維を得た。また、実施例1と同様の工程で不織布を作製し、染色した。
【0057】
(実施例4)
ビスコースにさらにホホバオイルのエマルジョンをセルロース100質量部に対してホホバオイルが1.5質量部となるように添加したこと以外は、実施例1と同様にしてカチオン染料可染性レーヨン繊維を得た。また、実施例1と同様の工程で不織布を作製し、染色した。
【0058】
(比較例1)
ビスコースに紫外線吸収剤を添加しないこと以外は、実施例1と同様にしてレーヨン繊維を得た。また、実施例1と同様の工程で不織布を作製し、染色した。
【0059】
(比較例2)
ビスコースをそのまま紡糸液として用いたこと以外は、実施例1と同様にしてレーヨン繊維を得た。また、実施例1と同様の工程で不織布を作製し、染色した。
【0060】
実施例及び比較例で得られたレーヨン繊維の繊維物性を上述したとおりに測定した。実施例及び比較例で得られた不織布の染色性及び染色堅牢性を上述したとおりに測定した。その結果を下記表1に示した。表1において、5.0%o.w.f.と表記した以外は、3.0%o.w.f.のカチオン染料で染色したサンプルを用いた結果である。下記表1において、「-」は未測定を意味する。
【0061】
【0062】
表1の結果から分かるように、実施例のレーヨン繊維は、染色性並びに耐光堅牢度、洗濯堅牢度及び汗堅牢度等の染色堅牢度が良好であった。また、乾強度、湿強度、乾伸度及び湿伸度のいずれも比較例2のレギュラーレーヨン繊維とほとんど変わらず、繊維物性が良好であった。一方、酸性基を有する化合物のみを含む比較例1のレーヨン繊維は、染色性は良好であるものの、耐光堅牢度が悪かった。
【0063】
図3は実施例1のレーヨン繊維の側面写真であり、
図4は実施例2のレーヨン繊維の側面写真であり、
図5は実施例3のレーヨン繊維の側面写真である。
図3~5から分かるように、実施例のレーヨン繊維において、紫外線吸収剤はレーヨン繊維の内部に均一に分散しているため、該レーヨン繊維を含む繊維構造物の染色工程等の加工工程中において、紫外線吸収剤が繊維表面にブリードアウトすることが抑制され、それゆえ、白色粉末が発生しなくなると思われる。
【0064】
実施例1及び比較例2のレーヨン繊維のアンモニアに対する消臭性及び洗濯後のアンモニアに対する消臭性を上述した通りに測定した。また、実施例1のレーヨン繊維を上述した不織布の染色の場合と同様にカチオン染料(Nichilon Black TR(200%):5.0%o.w.f.)で黒色に染色した後、カチオン染料で染色されたレーヨン繊維のアンモニアに対する消臭性及び洗濯後のアンモニアに対する消臭性を上述した通りに測定した。その結果を下記表2に示した。下記表2において、「-」は未測定を意味する。
【0065】
【0066】
(実施例5)
実施例1で得られたカチオン染料可染性レーヨン繊維(繊度1.35dtex、繊維長38mm)55質量%と、ポリアクリル繊維(繊度1.0dtex、繊維長38mm)45質量%を混紡し、豊田自動織機社製リング式精紡機を使用して、64番毛番手の紡績糸(混紡糸)を得た。この紡績糸と、カチオン可染型ポリエステル長繊維(東レ株式会社製「テトロン」(登録商標)、84dtex、48フィラメント)をシングル丸編機( 釜径34インチ、28ゲージ、102フィーダー)を用いて、1本交互に配列し、ポリウレタン弾性繊維(東レオペロンテックス株式会社製「ライクラT-127C」、33dtex)を引き揃え編成することで、ベア天竺の丸編み地に編成し、ウェール40本/インチ、コース62本/インチの生機を得た。次いで、この生機を180℃、40秒間ピンテンターで生機セットし、液流染色機を用いてカチオン染料(日成化成株式会社製)を用いて染色した後、140℃、40秒間ピンテンターで仕上げセットを実施した。仕上生地は、幅155cm、目付145g/m2、ウェール48本/インチ、コース61本/インチであった。得られた丸編み地全体における繊維の混率は、レーヨン繊維33質量%、ポリアクリル繊維27質量%、カチオン可染型ポリエステル長繊維32質量%、ポリウレタン弾性繊維8質量%であった。
【0067】
(比較例3)
実施例1で得られたカチオン染料可染性レーヨン繊維に替えて、比較例2の通常のレーヨン繊維を用いたこと以外は、実施例5と同様にしてベア天竺丸編地を編成し、生機を得、実施例4と同様にカチオン染料を用いて染色した後、140℃、40秒間ピンテンターで仕上げセットを実施した。
【0068】
上記実施例5、比較例3における加工機条件及び加工条件について、それぞれ表3及び4に示した。
【0069】
【0070】
【0071】
実施例5で作製した生地の耐光堅牢度を上述したとおりに評価した。また、実施例5及び比較例3で作製した生地の洗濯堅牢度を上述したとおりに評価した。その結果を表5に示した。表5には、染色色相も示した。下記表5において、「-」は未測定を意味する。
【0072】
【0073】
実施例5の生地は、染色性及び耐光堅牢度が良好であった。また、実施例5の生地の染色工程を含む加工工程中で白色粉末の発生は認められなかった。
【0074】
(実施例6)
実施例5と同様にして得られた、カチオン染料可染性レーヨン繊維33質量%、ポリアクリル繊維27質量%、カチオン可染型ポリエステル長繊維32質量%、ポリウレタン弾性繊維8質量%からなる丸編ベア天竺の生機を、180℃、40秒間ピンテンターで生機セットし、液流染色機を用いて精練工程のみを実施後、140℃、40秒間ピンテンターで乾燥し、プリント用前処理生地を作製した。続いてこの生地を常法によりカチオン染料プリントを実施した。具体的には、色糊として下記表6の配合割合の色糊を調製し、該色糊と柄を彫刻した1200メッシュのスクリーン紗を用いて、フラットスクリーン捺染機で印捺した。なお、色糊については、色相に応じてカチオン染料(日成化成株式会社製)をX部使用し、残りに水をY部加えて合計量が100部になるように調製した。今回、色糊中の染料濃度Xは、黒6部、その他色の赤、青、黄は、発色濃度に応じて0.5部から5部の間で調製した。続いて、乾燥ボックスによる120℃、15分の中間乾燥後、スチームボックスによる105℃、30分のスチーミングを行い、発色を行った。続いて、全8槽から構成される連続水洗機を用いて1~3槽が水(常温)洗い、4~6槽が湯水(70℃)洗い、7~8槽が水(常温)洗いで洗浄後、140℃、40秒間ピンテンターで仕上げセットを実施し、プリント生地を得た。カチオン染料可染性レーヨン繊維を用いたことから、レーヨン繊維部分が、カチオン染料で染色できているため、捺染部分は均一なプリント発色しており、プリント生地として品位に優れたものであった。また、従来の顔料プリント品と比べて極めて柔軟性のある風合いであった。
【0075】
(比較例4)
実施例1で得られたカチオン染料可染性レーヨン繊維に替えて、比較例2の通常のレーヨン繊維を用いたこと以外は、実施例5と同様にして得られたレーヨン繊維33質量%、ポリアクリル繊維27質量%、カチオン可染型ポリエステル長繊維32質量%、ポリウレタン弾性繊維8質量%からなる丸編ベア天竺の生機を得、該丸編ベア天竺の生機を用いて実施例6と同様にしてプリント生地を得た。通常レーヨン繊維部分はカチオン染料で染色することができないため、捺染部分は均一なプリント発色することができず、プリント生地としては使用できないものであった。
【0076】