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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】測温プローブ
(51)【国際特許分類】
   G01K 1/08 20210101AFI20240214BHJP
   G01K 7/02 20210101ALI20240214BHJP
【FI】
G01K1/08 P
G01K7/02 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021058197
(22)【出願日】2021-03-30
(65)【公開番号】P2022154925
(43)【公開日】2022-10-13
【審査請求日】2022-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000220767
【氏名又は名称】東京窯業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100081776
【弁理士】
【氏名又は名称】大川 宏
(72)【発明者】
【氏名】高井 雅充
【審査官】松山 紗希
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-344170(JP,A)
【文献】特開2003-014549(JP,A)
【文献】特開2018-096750(JP,A)
【文献】特開2020-034381(JP,A)
【文献】実開昭55-086936(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01K 1/00-19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
先端が温度を測定する測温部となる測温手段と、
先端が閉塞した筒状を有する焼成体よりなり、前記測温手段を収容する保護管と、
不定形耐火物よりなり、前記保護管の外周面を被覆する保護スリーブと、
耐熱性材料よりなり、前記保護スリーブの基端部に設けられ、前記保護管及び前記保護スリーブの外周面に沿った先端からの熱の伝熱を抑える耐熱フランジと、
前記耐熱フランジより基端側に設けられ、前記保護管の基端部を固定するとともに、前記測温手段の基端部を外部に接続する接続頭部と、
を有する測温プローブであって、
前記接続頭部は、
内部空間を区画するケースと、
前記ケースの内部で前記保護管の前記基端部と間隔を隔てた位置に設けられた板状を有し、前記測温手段を固定する隔壁板と、
を有し、
前記隔壁板は、板厚方向で貫通する貫通孔が形成され、
前記ケースは、前記内部空間と外部とを連通するガス排出孔が形成されていることを特徴とする測温プローブ。
【請求項2】
前記測温手段は、前記保護管の内周面に前記測温部のみで当接する請求項1記載の測温プローブ。
【請求項3】
前記保護管の内周面と前記測温手段の外周面との間には、すき間が形成されている請求項1~2のいずれか1項に記載の測温プローブ。
【請求項4】
前記隔壁板は、複数の前記貫通孔を有する請求項1~3のいずれか1項に記載の測温プローブ。
【請求項5】
前記隔壁板は、セラミックス板である請求項1~4のいずれか1項に記載の測温プローブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、測温プローブに関する。
【背景技術】
【0002】
金属溶湯(例えば、溶鋼)の温度の測定(すなわち、高温の測温対象物の測温)には、測温プローブが用いられる。金属溶湯の測温に用いる測温プローブは、例えば、特許文献1に記載されている。
【0003】
特許文献1に記載の測温プローブは、測温対象物に接触する有底状の先端部及び中空室を形成する筒部をもつサーメット管と、中空室に挿入され測温対象物の温度を測定する熱電対要素と、筒部の外周壁面を被覆する保護スリーブとを有する。熱電対要素は、アルミナ等のセラミックスで形成された有底状の保護管の内部に形成された中空室に挿入配置され、サーメット管の中空室に挿入されている。熱電対要素は、測温プローブの基端部に設けた接続頭部(ターミナルヘッドとも称される)を介して外部に接続する。
【0004】
測温プローブは、タンディッシュ等の貯留容器に貯留する金属溶湯(測温対象物)に先端部を浸漬し、サーメット管の先端部及び保護管を伝導した熱の温度を熱電対要素で測定する。測温プローブは、貯留容器に貯留した金属溶湯からの熱(具体的には、金属溶湯からの輻射熱)の影響を接続頭部が受けることを防止するために、金属溶湯(測温対象物)と接続頭部との間に耐熱性のフランジ状の耐熱部材を配置している。
【0005】
測温プローブは、金属溶湯の高熱にさらされると、サーメット管に含まれる金属元素が酸化し、酸化した金属元素が中空室内に昇華することがある。特に、サーメット管の金属溶湯に浸漬している部分では、酸化した金属元素の昇華が生じやすい。測温中の測温プローブは、フランジ状の耐熱部材により、耐熱部材の基端側(上方側)の温度が先端部の温度より低くなっている。中空室の内部に昇華した金属(酸化物)は、フランジ状の耐熱部材より基端側に到達すると、低温にさらされた結果析出する。特に熱電対要素の表面に析出すると、熱電対要素の短絡を生じさせて起電力を低下させる。つまり、測温プローブは、正確な温度の測定が困難となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-169798号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、測温性能の低下が抑えられた測温プローブを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決する本発明の測温プローブは、先端が温度を測定する測温部となる測温手段と、先端が閉塞した筒状を有する焼成体よりなり、前記測温手段を収容する保護管と、不定形耐火物よりなり、前記保護管の外周面を被覆する保護スリーブと、耐熱性材料よりなり、前記保護スリーブの基端部に設けられ、前記保護管及び前記保護スリーブの外周面に沿った先端からの熱の伝熱を抑える耐熱フランジと、前記耐熱フランジより基端側に設けられ、前記保護管の基端部を固定するとともに、前記測温手段の基端部を外部に接続する接続頭部と、を有する測温プローブであって、前記接続頭部は、内部空間を区画するケースと、前記ケースの内部で前記保護管の前記基端部と間隔を隔てた位置に設けられた板状を有し、前記測温手段を固定する隔壁板と、を有し、前記隔壁板は、板厚方向で貫通する貫通孔が形成され、前記ケースは、前記内部空間と外部とを連通するガス排出孔が形成されていることを特徴とする。
【0009】
本発明の測温プローブは、接続頭部が、保護管の内部のガスをその外部へと排出可能な構成となっている。本発明の測温プローブは、保護管の内部に発生したガスが昇華した金属(酸化物)を含有していても、その金属(酸化物)が保護管の内部で析出する前に外部に排出する。この結果、本発明の測温プローブは、保護管の内部(特に、測温手段の表面)で金属(酸化物)が析出することが抑えられ、測温手段の測温性能が低下することが抑えられる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施形態の測温プローブの構成を示す断面図である。
図2図1中のII-II線での断面を示した断面図である。
図3】実施形態の測温プローブの先端部近傍の構成を示す拡大断面図である。
図4】実施形態の測温プローブの接続頭部の構成を示す拡大断面図である。
図5図4中のV-V線での断面を示した断面図である。
図6】実施形態の測温プローブの接続頭部の上面図である。
図7】実施形態の測温プローブの使用例を示す模式図である。
図8】比較例の測温プローブの接続頭部の構成を示す断面図である。
図9】実施例及び比較例の測温プローブの測温結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、実施形態を用いて本発明を具体的に説明する。なお、実施形態は、本発明を具体的に実施する1つの形態であり、本発明をこれらの形態のみに限定するものではない。また、実施形態において特に言及されない構成や材料は、従来の測温プローブと同様の構成や材料とすることができる。
【0012】
[実施形態]
本形態の測温プローブ1は、金属溶湯M(例えば、溶鋼)の温度を測定するプローブである。本形態の測温プローブ1は、熱電対装置2,保護管3,保護スリーブ4,耐熱フランジ5,接続頭部6を有する。
【0013】
本形態の測温プローブ1は、その構成を図1図6に示す。図1は、本形態の測温プローブ1の構成を模式的に示した断面図である。図2は、図1中のII-II線での断面を模式的に示した断面図である。図3は、本形態の測温プローブ1の先端部30の構成を模式的に示した断面図である。図4は、本形態の測温プローブ1の接続頭部6の構成を模式的に示した断面図である。図5は、図4中のV-V線での断面を模式的に示した断面図である。図6は、本形態の測温プローブ1の接続頭部6の上面図である。
【0014】
本形態等において、測温対象物(金属溶湯M)に浸漬する先端部30が位置する側を先端とし、接続頭部6が位置する側を基端とする。軸方向とは、測温プローブ1(及び保護管3)の延びる方向である。また、上下方向とは、基端を上方、先端を下方としたときの方向である(具体的には、図1の上下方向と同じ方向である)。
【0015】
(熱電対装置)
熱電対装置2は、測温対象物(金属溶湯M)の温度を測定する測温部20を先端に有する温度計(測温手段)である。熱電対装置2は、測温対象物(金属溶湯)の温度域で温度を測定できる熱電対から適宜選択される熱電対を有する。
【0016】
金属溶湯の温度を測定可能な熱電対としては、例えば、白金ロジウム型,タングステンレニウム型,イリジウムロジウム型,アルメルクロメル型,ニッケルモリブデン型,ナイクロシル型等の熱電対を挙げることができる。
【0017】
本形態の熱電対は、白金ロジウム型の熱電対である。白金ロジウム型の熱電対は、熱電対の+側が白金ロジウム合金の導線2Aよりなり、-側が白金ロジウム合金又は白金の導線2Bよりなり、2本の導線2A,2Bの接合点が測温部20となる熱電対である。白金ロジウム型の熱電対の具体的な組成及び構成は、従来公知の組成及び構成とすることができる。
【0018】
熱電対は、絶縁管21に組み付けられている。絶縁管21は、図2図3に示したように、互いに独立して軸方向に並走する一対の通孔22(22A,22B)が形成された略円柱状を有する部材である。絶縁管21の一方の通孔22Aに+側の導線2Aが、他方の通孔22Bに-側の導線2Bが挿入される。各導線2A,2Bは、その先端部が絶縁管21の先端側の端面21aから下方に突出した位置で接合している。各導線2A,2Bの先端部が接合してなる測温部20は、絶縁保護管23の先端部の内周面に当接している。なお、測温部20は、絶縁保護管23の先端部の内周面に当接せず、内周面との間に微少な間隔を隔てていてもよい。
【0019】
絶縁管21は、熱電対(の各導線2A,2B)が絶縁保護管23(及び保護管3)と電気的に接触することを抑える絶縁性の材料で形成される。絶縁性の材料としては、アルミナ,マグネシア,ムライト,ジルコニア等のセラミックスをあげることができる。本形態の絶縁管21は、アルミナセラミックスよりなる。
【0020】
絶縁保護管23は、先端が閉塞した筒状(有底筒状)をなしている部材である。絶縁保護管23は、図1及び図3に示すように、全体の形状が、先端部30が滑らかな湾曲形状(より具体的には略半球形状)をなすように閉じた形状をなす有底円筒形状の部材である。本形態の絶縁保護管23は、アルミナセラミックスよりなる。
【0021】
熱電対装置2は、絶縁保護管23の先端部が保護管3の先端部30の内周面3aに当接して組み付けられる。熱電対(を構成する導線2A,2B)の基端部は、接続頭部6(ターミナルヘッド、端子箱とも称される)を介して指示計(図示せず)に接続されている。
【0022】
(保護管)
保護管3は、その内部に熱電対装置2を収容する、先端が閉塞した筒状(有底筒状)をなしている部材である。保護管3は、図1及び図3に示すように、全体の形状が、先端部30が滑らかな湾曲形状(より具体的には略半球形状)をなすように閉じた形状をなす有底円筒形状の部材である。
【0023】
保護管3は、その内部に熱電対装置2を配したとき、熱電対装置2の絶縁保護管23の先端部以外が接触しない。すなわち、保護管3は、その内周面3aが熱電対装置2の絶縁保護管23の外周面との間にすき間を有する内径で形成されている。このすき間の径方向での距離は、ガスが通過可能な距離であればよく、例えば、0.5mm以上であることが好ましく、1mm以上であることがより好ましく、2mm以上であることが更に好ましい。なお、すき間が過剰に大きくなると、測温時に熱電対の測温部20近傍の温度が溶融金属Mの温度に安定するまでの時間が長くなる(すなわち、正確な温度が検知できるまでの時間が長時間となる)。
保護管3は、焼成体で形成される。焼成体とは、加熱炉で熱処理されてなる材料である。焼成体は、好ましくは焼結体である。
焼成体は、金属とセラミックスを含有する材料(金属-セラミックス複合材料),Si,サイアロン(シリコン・アルミナ窒化物)の少なくとも1種よりなることが好ましい。
【0024】
本形態の保護管3は、サーメットよりなる。サーメットは、金属とセラミックスを含有する材料(金属-セラミックス複合材料)である。サーメットは、測温プローブ1に用いたときに要求される硬度や強度、温度即答性を満たすことができる材料である。保護管3を形成する具体的な材料、すなわちサーメットの組成は、測温対象物の温度域で要求される特性により適宜選択できる。
【0025】
サーメット(金属-セラミックス複合材)を形成する金属としては、Mo,W,Tiより選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。サーメットを形成するセラミックスとしては、アルミナ,ジルコニア,マグネシア,スピネル,ムライト,炭化珪素,イットリアより選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましい。なお、サーメットを形成する金属及びセラミックスは、これらのみに限定されない。本形態のサーメットは、高い融点と強度を有するMo-ZrO系のMo-ZrOサーメットである。
【0026】
保護管3を形成するMo-ZrOサーメットは、MoとZrOとの複合材料であり、MoとZrOの含有割合が限定されない。MoがZrOより多く含有した複合材料であることが好ましく、全体を100mass%としたときに、Mo:ZrOが65~90%:35~10%の割合(質量比)で含まれる材料であることがより好ましい。
【0027】
保護管3を形成するサーメットは、強度及び伝熱性に優れることから、緻密体であることが好ましく、気孔率が小さいことが好ましい。ここで、サーメットの気孔率は、測定方法が限定されない。従来の測定装置を用いることができる。本形態では、見かけ密度から気孔率を算出する。サーメットは、気孔率が、0~5%(すなわち、5%以下)が好ましく、0~4%(すなわち、4%以下)であることがより好ましく、0~3%(すなわち、3%以下)であることが更に好ましい。
【0028】
(保護スリーブ)
保護スリーブ4は、保護管3の先端部30を露出した状態で、保護管3の外周面を被覆するように形成されている。保護スリーブ4は、全体が円筒形状をなすように形成されている。保護スリーブ4は、その内周面が保護管3の外周面に接触した状態で一体に形成されている。保護スリーブ4の内周面と、保護管3の外周面との間には、保護スリーブ4と保護管3とを接合する接合材(例えば、アルミナキャスタブル)を配していてもよい。
保護スリーブ4は、保護管3の外周面が露出しないように形成される。保護スリーブ4は、その下端の端部が、測温プローブ1で金属溶湯の測温を行うときの金属溶湯の湯面(スラグライン)よりも下方に位置する。
【0029】
保護スリーブ4は、定形耐火物よりなる。保護スリーブ4は、従来の測温プローブの外周面を形成する保護スリーブを用いることができる。本形態の保護スリーブ4は、カーボンが10~35mass%の割合で含むセラミックス-カーボンよりなる。なお、保護スリーブ4は、不定形耐火物で形成していてもよい。保護スリーブ4を形成する不定形耐火物の材料は具体的に限定されない。従来の測温プローブの外周面を形成するキャスタブルを用いることができる。例えば、定型耐火物と同様な組成の不定形耐火物である、カーボンを10~35mass%で含むセラミックス-カーボンキャスタブルをあげることができる。
保護スリーブ4は、保護管3よりも大きな気孔率を有する。
【0030】
(耐熱フランジ)
耐熱フランジ5は、保護スリーブ4の基端部に設けられ、全体として板状の耐熱性材料を有する。耐熱フランジ5は、本体部50、内側筒部52,外側筒部53を一体に備える。耐熱フランジ5は、測温プローブ1の先端側の熱が基端側に伝熱することを抑える。すなわち、先端部30が浸漬する金属溶湯Mの高熱が、保護管3及び保護スリーブ4の外周面に沿って接続頭部6側に伝熱すること(特に、輻射熱の伝熱)を抑える。
【0031】
本体部50は、軸方向に垂直な方向に広がる、略円環形状の板状を有する。本体部50は、略円環形状の軸芯部に、保護管3が貫通する貫通孔51が形成されている。貫通孔51は、保護管3が貫通可能な径で形成されている。本形態では、貫通孔51の内周形状(内径)が、保護管3の外周形状(外径)と略一致する。貫通孔51に保護管3が貫通した状態では、貫通孔51の内周面と保護管3の外周面とが全周にわたって密着する。
【0032】
内側筒部52は、本体部50の表面50a(基端側に向いた面)から基端側に立設する筒状の部分である。内側筒部52は、貫通孔51の開口形状と一致する内径をもつ円筒形状を有する。内側筒部52は、その内部に保護管3が貫通(あるいは嵌通)する。
【0033】
内側筒部52は、その軸方向長さが限定されない。すなわち、本体部50の表面50aから立設する立設高さが限定されない。内側筒部52の軸方向長さは、内側筒部52及び貫通孔51に貫通した保護管3を保持(支持又は固定)できる長さであればよい。内側筒部52は、内側筒部52に保護管3を保持(支持又は固定)する保持手段を設けてもよい。本形態では、内側筒部52と保護管3との間に、接合材を配して接合(保持)している。本形態の接合材は、セメントを用いた。
内側筒部52の基端側の端部は、接続頭部6に接続する。
【0034】
外側筒部53は、本体部50の裏面50bから先端側に立設する筒状の部分である。外側筒部53は、本体部50の外周形状と一致する内径をもつ円筒形状を有する。外側筒部53は、その内部に保護管3が貫通する。外側筒部53は、その内部に接合材54が充填される。接合材54は、保護スリーブ4の端部も囲包しており、耐熱フランジ5に保護スリーブ4を接合する。
【0035】
外側筒部53は、その軸方向長さが限定されない。すなわち、本体部50の裏面50bから立設する立設高さが限定されない。外側筒部53の軸方向長さは、保護スリーブ4を接合材54で接合・固定できる長さであればよい。
【0036】
耐熱フランジ5は、本体部50の裏面50b側に、従来の測温プローブで使用している耐熱材を配してもよい。耐熱材は、多孔質のセラミックス板よりなることが好ましい。耐熱材は、接合材54で本体部50に接合して固定する。
【0037】
接合材54は、保護スリーブ4を耐熱フランジ5に接合して固定する。接合材54は、保護スリーブ4の基端側の端面が耐熱フランジ5の裏面50bに密着した状態で、接合し固定する。接合材54は、従来の接合材を用いることができる。本形態の接合材54は、耐熱フランジ5の外側筒部53の内部に充填されたセメント(耐熱性材料)を固化して形成される。
【0038】
本体部50は、裏面50bに、接合材54の抜け落ちを防止するためのスタッドを有していてもよい。スタッドの形状や数等については限定されない。本体部50がスタッドを有する場合、接合材54は、スタッドを囲包する状態で充填されることが好ましい。
【0039】
(接続頭部)
接続頭部6は、耐熱フランジ5より基端側に設けられ、保護管3の基端を固定するとともに、熱電対装置2の熱電対の導線2A,2Bの基端を外部に接続する。接続頭部6は、ケース60,隔壁板65を備える。
【0040】
ケース60は、全体として略箱状を有し、内部空間61を区画する。ケース60は、保護管3の基端側の端部をその内部に収容する。ケース60は、ロアーケース62とアッパーケース63とを組み合わせて形成される。ケース60(ロアーケース62及びアッパーケース63)の材料は限定されず、本形態では耐熱性金属によりなる。
【0041】
ロアーケース62は、上部が開口する略槽状の形状を有する本体部620と、本体部620の底面に設けられた筒部621とを備える。本体部620は、内部空間61の一部を区画する。本体部620は、その形状が限定されず、本形態では先端側が閉じた略円筒形状を有する。筒部621は、本体部620の底面から先端側(下方側)に向けて突出して形成されている。筒部621は、軸芯が中空の筒形状を有し、ケース60の内部と外部を連通する。筒部621は、その内周面が、保護管3の基端側の端部近傍の外周面と略一致する。筒部621は、その先端の端面が内側筒部52の基端側の端面と全面で密着する。なお、本形態では、保護管3と筒部621とが当接した状態でもうけられているが、これらは間隔を隔てていてもよい(すなわち、保護管3の外周面が露出していてもよい)。
アッパーケース63は、ロアーケース62の上部の開口部を被覆する形状(蓋形状)を有している。アッパーケース63は、内部空間61と外部を連通するガス排出孔64が形成されている。
【0042】
ガス排出孔64は、内部空間61中のガスをケース60の外部に排出できるものであれば、その開口径や数が限定されない。本形態では、図6に示すように、周方向で等間隔に配された4つのガス排出孔64を有する。
【0043】
隔壁板65は、ケース60内に配された円板形状の部材である。隔壁板65は、軸方向に垂直な方向にそって表面が広がる状態でロアーケース62に固定される。隔壁板65は、保護管3の基端側の端部から上方に間隔を隔てた位置に固定される。
隔壁板65は、その材料が限定されない。隔壁板65を形成する材料は、例えば、金属、セラミックス等の材料をあげることができる。本形態では耐熱性に優れたセラミックスよりなる。
【0044】
隔壁板65は、円板形状の中心部に熱電対装置2の絶縁保護管23の基端側が貫通する第1貫通孔66と、第1貫通孔66より外径側で隔壁板65を板厚方向で貫通する第2貫通孔67が形成されている。
【0045】
第1貫通孔66は、円板状の隔壁板65を貫通して形成され、その内周面が熱電対装置2の絶縁保護管23の外周面と略一致する。第1貫通孔66を貫通する絶縁保護管23は、隔壁板65の両面側にストッパー(図示せず)を配した状態で組み付けられる。ストッパー(図示せず)は、絶縁保護管23の外周面から突出したフランジ形状を有する。ストッパー(図示せず)は、第1貫通孔66より大径で突出している。ストッパー(図示せず)は、絶縁保護管23(すなわち、導線2A及び2B)が軸方向に変位して位置がズレることを規制する部材である。本形態ではストッパー(図示せず)を隔壁板65の両面側に配しているが、片面側のみに配してもよい。
【0046】
第2貫通孔67は、円板状の隔壁板65を貫通して形成され、第1貫通孔66より外径側に設けられている。第2貫通孔67の数及び開口形状(開口面積,開口径)は限定されない。本形態では、第1貫通孔66より小径の円形の孔で、第1貫通孔66の外径側の位置に周方向に沿って等間隔で6つ設けられている。
【0047】
隔壁板65の基端側の表面(上面)には、熱電対の導線2A,2Bの基端を外部に接続する接続ターミナル(図示せず)が設けられている。接続ターミナル(図示せず)は、隔壁板65の基端側の表面(上面)に一体に固定され、熱電対の導線2A,2Bの基端のそれぞれが接続する一対の導電性の金属よりなる。接続ターミナル(図示せず)は、ケース60の外部に突出する端子部を備える。
【0048】
(作用・効果)
本形態の測温プローブ1は、金属溶湯M(測温対象物)に先端部30を浸漬して金属溶湯Mの温度を測定する。具体的には、図7に示すように、容器7(例えば、タンディッシュ)に貯留する金属溶湯Mの温度を測定する。容器7は、開口部71が開口する蓋70を備える。測温プローブ1は、開口部71に測温プローブ1の先端部30を挿入し、金属溶湯Mに先端部30を浸漬する。そうすると、保護管3の先端部30の温度が金属溶湯Mの温度に上昇する。そして、この温度を保護管3の先端部30の内周面3aに当接する熱電対装置2の測温部20が測定する。以上により、本形態の測温プローブ1は、金属溶湯Mの温度を測定する。
【0049】
金属溶湯Mの温度を連続測定すると、測温プローブ1の先端部30が金属溶湯Mに浸漬され続け、測温プローブ1(特に保護管3)が高温に維持される。そうすると、保護管3を形成するサーメットから、金属(金属元素)が酸化して昇華する。昇華した金属(酸化物)は、保護管3内を上昇し、基端面からケース60の内部空間61に流入する。そして、昇華した金属(酸化物)は、ガス排出孔64から接続頭部6(ケース60)の外部に排出する。
この結果、測温プローブ1の保護管3の内部に昇華した金属(酸化物)が残留することが抑えられ、昇華した金属(酸化物)が保護管3の内周面3aの表面や熱電対装置2の表面で析出することが抑えられる。
【0050】
特に、測温プローブ1は、図7に示すように、溶融金属Mの温度を測定している時には、高温に溶融金属Mの高熱にさらされている。ここで、測温プローブ1の耐熱フランジ5よりの上方側(特に、保護管3の上端部近傍及び接続頭部6)は、溶融金属Mの高熱にさらされておらず、先端部30ほどの高温となっていない。このため、耐熱フランジ5よりの上方側では、昇華した金属(酸化物)が析出しやすくなっている。しかし、本形態の測温プローブ1では、昇華した金属(酸化物)がただちに接続頭部6(ケース60)の外部に排出されるため、保護管3の内周面3aの表面に金属(酸化物)が析出することが抑えられる。
以上のように、本形態の測温プローブ1は、保護管3から昇華した金属(酸化物)が、析出して熱電対を短絡することが抑えられるという効果を発揮する。
【実施例
【0051】
以下、実施例を用いて本発明を説明する。
(実施例)
本例は、上記した実施形態の測温プローブである。
【0052】
(比較例)
本例の測温プローブ1は、図8に接続頭部6近傍の構成を断面図で示した構成を有する。本例の測温プローブ1は、熱電対装置2,保護管3,保護スリーブ4,耐熱フランジ5,接続頭部6を有する。なお、本例の特に言及しない構成は、実施例と同様である。
本例の測温プローブ1は、接続頭部6は、ケース60,隔壁板65を備える。
【0053】
隔壁板65は、円板状のセラミックス板よりなり、導線2A,2Bのそれぞれが挿通する一対の第3貫通孔68(68A,68B)が形成されている。本例の隔壁板65は、第1貫通孔66及び第2貫通孔67が形成されていない。
本例の測温プローブ1は、熱電対の各導線2A,2Bの基端が接続頭部6の筒部621内において、アルミナ接着材690で接合・固定されている。アルミナ接着材690は、ガスを透過しない。
【0054】
本例の測温プローブ1は、熱電対装置2(具体的には、絶縁保護管23)の外周面と保護管3の内周面の間に、熱伝導率の低下を防ぐ目的で、アルミナパウダー691が充填されている。このアルミナパウダー691は、保護管3の内部に、使用時の溶融金属Mの液面(スラグライン)より基端側(上方側)でありかつ耐熱フランジ5よりも先端側(下方側)の位置まで充填している。
【0055】
[評価]
まず、実施例及び比較例の測温プローブ1を用いて温度の測定試験を行い、その測定結果の温度のズレを観察した。
次に、測定試験後の熱電対装置2(具体的には、絶縁保護管23)の断面を観察した。
【0056】
(温度測定試験)
まず、実施例及び比較例の測温プローブ1を実使用した。すなわち、溶融金属M(具体的には溶鋼)の温度の測定を繰り返し行った。実使用後、実施例及び比較例の測温プローブ1を電気炉に設置し、炉内温度の測定を行った。電気炉は、炉内温度を1300℃に設定し、測定開始から1800sec経過後に、電気炉の電源をオフにした(自然冷却を開始した)。なお、本試験には、実使用後の実施例の測温プローブ1(図9中の実施例)と実使用後の比較例の測温プローブ1(図9中の比較例)だけでなく、基準として未使用の比較例の測温プローブ(図9中の基準例)で測定試験を行った。測定結果を図9に示した。
【0057】
図9に示すように、実施例の測温プローブ1は、基準例の測温プローブと同様な測定結果が得られた。一方、比較例の測温プローブ1は、実施例の測温プローブ1及び基準例の測温プローブの測定結果と比較して、測定結果に誤差が生じていることが確認できる。このことから、実施例の測温プローブ1は、繰り返しの使用(上記の実使用に相当)を行っても、測温性能の低下が見られないことがわかる。対して、比較例の測温プローブでは、繰り返しの使用(上記の実使用に相当)を行うと、測温性能が低下することがわかる。
【0058】
(断面観察)
実施例及び比較例の測温プローブ1を、比較例の測温プローブ1のパウダーラインに相当する位置で切断し、熱電対装置2の断面を観察した。
熱電対装置2の絶縁保護管23の断面を観察したところ、実施例の測温プローブ1は、外周面近傍に変色が確認された。対して、比較例の測温プローブ1は、熱電対装置2の絶縁保護管23の断面を観察したところ、外周面から内周面までの径方向の全体にわたっての変色が確認された。さらに、比較例の測温プローブ1の変色は、絶縁保護管23の径方向の全体でほぼ均一な色に変色していた。
【0059】
この変色は、保護管3を形成するサーメット(Mo-ZrOサーメット)に含まれるMoに由来する。詳しくは、Moは、約400℃で酸化して酸化モリブデンを生成する。そして、650℃~750℃以上となると酸化モリブデンがサーメットから昇華する。昇華した酸化モリブデンは、保護管3の内部のガスに拡散する。酸化モリブデンを含有するガスは保護管3の内部を基端側に向かって上昇する。そして、スラグラインより上方の位置(特に、パウダーラインより上方の位置)では、ガス化した酸化モリブデンが、熱電対装置2の絶縁保護管23の外周面に析出するとともに、析出した酸化モリブデンが絶縁保護管23(アルミナセラミックス)に拡散(浸透、浸食)する。この酸化モリブデンの拡散が生じている部分が、絶縁保護管23の変色している部分である。
【0060】
実施例の測温プローブ1は、保護管3から昇華した酸化モリブデンが含まれるガスは、接続頭部6から外部に排出され、保護管3の内部にとどまらない構成となっている。この構成によると、昇華した酸化モリブデンが絶縁保護管23の外周面で析出し、絶縁保護管23に拡散することが抑えられる。この結果、絶縁保護管23への酸化モリブデンの析出・拡散が抑えられた。
【0061】
対して、比較例の測温プローブ1は、保護管3から昇華した酸化モリブデンが含まれるガスは、保護管3の内部に留まる構成となっている。そうすると、昇華した酸化モリブデンが絶縁保護管23の外周面で析出し拡散することが継続し、酸化モリブデンが飽和するまで絶縁保護管23に拡散する。この結果、絶縁保護管23への酸化モリブデンの析出・拡散が進行した。そして、絶縁保護管23の内部にまで酸化モリブデンの拡散が生じ、測温の温度ズレを生じさせている。
【0062】
以上の試験結果から、実施例の測温プローブ1は、保護管3から昇華した酸化モリブデンがガス排出孔64から外部に排出されて絶縁保護管23に拡散しにくくなっており、繰り返しの使用(上記の実使用に相当)を行っても、測温性能の低下が見られない効果を発揮する。
【0063】
対して、比較例の測温プローブでは、保護管3から昇華した酸化モリブデンが保護管3内から排出されずに留まる構成であることから、繰り返しの使用(上記の実使用に相当)を行うと、熱電対に析出し、測温性能が低下する(熱電力の起電力が低下する)という問題が生じる。
【符号の説明】
【0064】
1:測温プローブ、
2:熱電対装置、2A,2B:導線、20:測温部、21:絶縁管、23:絶縁保護管、
3:保護管、30:先端部、
4:保護スリーブ、5:耐熱フランジ、
6:接続頭部、60:ケース、61:内部空間、64:ガス排出孔、65:隔壁板、66:第1貫通孔、67:第2貫通孔、
7:容器。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9