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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】歯科用ハンドピース
(51)【国際特許分類】
   A61C 3/03 20060101AFI20240214BHJP
   A61C 1/07 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61C3/03
A61C1/07 Z
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020150995
(22)【出願日】2020-09-09
(65)【公開番号】P2022045406
(43)【公開日】2022-03-22
【審査請求日】2023-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】591179101
【氏名又は名称】株式会社ミクロン
(74)【代理人】
【識別番号】100139594
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健次郎
(74)【代理人】
【氏名又は名称】森田 憲一
(72)【発明者】
【氏名】呉 麻紀
【審査官】岡▲さき▼ 潤
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-351104(JP,A)
【文献】特開2003-079639(JP,A)
【文献】特開2011-251357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 3/03
A61C 1/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
筐体(1)と、前記筐体に内蔵され、先端工具を取り付けるためのねじ穴(28)と振動源とを備えた振動カートリッジ(2)とを含む歯科用ハンドピース(10)であって、
前記振動カートリッジ(2)は、軸に対して径方向に柱状に突出し、且つ筐体内での振動カートリッジの軸を中心とする回転を防止するための回り止め(21)を有し、
前記筐体(1)は、その内壁に前記回り止めを収納し、且つ筐体内での振動カートリッジの前記回転を防止することのできる回り止め収納部(11)を有し、
前記歯科用ハンドピース(10)は、前記回り止めに着脱可能に取り付けられた環状の弾性体(3)を更に含み、
前記回り止め(21)の側面の内、前記ねじ穴に先端工具を取り付ける際、又は取り外す際に、前記弾性体を挟んで間接的に前記回り止め収納部の内側表面と接触する側面(21a(押圧面))の形状と、この側面に対向する回り止め収納部(11)の内側表面(11a(受圧面))の形状とが、前記取付け又は取り外しの際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる形状である、前記歯科用ハンドピース。
【請求項2】
前記回り止め(21)の端面(21b)の外周において角が取れている、請求項1に記載の歯科用ハンドピース。
【請求項3】
前記回り止め(21)の側面に、前記弾性体の過圧縮を低減することのできる過圧縮低減溝(29)を設ける、請求項1又は2に記載の歯科用ハンドピース。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、振動を利用して歯石を除去したり根管を洗浄する歯科用ハンドピースに関する。
【背景技術】
【0002】
振動を利用して歯石を除去したり根管を洗浄するハンドピースの内部には、振動源と、そこで発生させた振動をハンドピース先端方向に伝達する振動伝達部とを備えた振動カートリッジが内蔵されている。振動カートリッジの先端には先端工具を取り付けるためのねじ穴が設けられており、用途に合わせた先端工具をねじ止めにより振動カートリッジに取り付けられるようになっている(例えば、本件出願人による特許文献1)。
【0003】
先端工具をねじ止めにより振動カートリッジに取り付ける際、あるいは、取り外す際に、先端工具の回転に伴って振動カートリッジも一緒に回転してしまうことを防止するために、振動カートリッジには、軸に対して径方向に柱状に突出する回り止め(通常は一対)が、ハンドピースの筐体には、前記回り止めを収納することのできる回り止め収納部(通常は一対)が、それぞれ設けられている。回り止めには、振動カートリッジの振動が筐体に伝わらないように環状の弾性体(例えば、Oリング)が取り付けてある(特許文献1~3)。
【0004】
例えば、特許文献1、2では、横断面形状が円形の円柱状の回り止めが二個設けられており、回り止めの各々にOリングが取り付けてある(特許文献1の図2、特許文献2の段落0027)。特許文献3では、横断面形状がオーバル又はトラック形状(平行な二本の直線を半円、半楕円、又は円弧でつないだ形状)の柱状の回り止めが二個設けられており、回り止めの各々にOリングが取り付けてある(特許文献3の図6)。
【0005】
本出願人は、修理に持ち込まれたハンドピースを数多く観察する中で、修理理由によらず、回り止めのOリングが真っ二つに破断している事例が数多く発生していることに気が付いた。Oリングが切れると、振動カートリッジの振動が筐体に伝わってしまうというトラブル以外にも、振動カートリッジが回りやすくなったり、ずれやすくなったりして、先端工具の着脱時またはハンドピースの使用時に、振動カートリッジを所望の位置に制御することが難しくなるというトラブルが生じている。
【0006】
特許文献3において、スケーラーチップの着脱交換が頻繁になされるため、Oリングの過圧縮が繰り返されることになり、Oリングが破損または変形することにより、振動による騒音が大きくなったり、機構部の摩耗が促進されるといった問題点が指摘されている。特許文献3では、Oリング(弾性体)の過圧縮を防止する制御手段を設けることによりこの問題点を解決しているが、新たな手段を設けることから構造が複雑になるという欠点があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2019-037293号公報
【文献】特開2002-065699号公報
【文献】特開2004-351104号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の課題は、頻繁な先端工具の着脱交換が必要な歯科用ハンドピースにおいて、複雑な構成を必要とすることなく、振動カートリッジの回り止めに取り付ける環状弾性体の破断を防止できる構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、本発明である、
[1]筐体(1)と、前記筐体に内蔵され、先端工具を取り付けるためのねじ穴(28)と振動源とを備えた振動カートリッジ(2)とを含む歯科用ハンドピース(10)であって、前記振動カートリッジ(2)は、軸に対して径方向に柱状に突出し、且つ筐体内での振動カートリッジの軸を中心とする回転を防止するための回り止め(21)を有し、前記筐体(1)は、その内壁に前記回り止めを収納し、且つ筐体内での振動カートリッジの前記回転を防止することのできる回り止め収納部(11)を有し、前記歯科用ハンドピース(10)は、前記回り止めに着脱可能に取り付けられた環状の弾性体(3)を更に含み、前記回り止め(21)の側面の内、前記ねじ穴に先端工具を取り付ける際、又は取り外す際に、前記弾性体を挟んで間接的に前記回り止め収納部の内側表面と接触する側面(21a(押圧面))の形状と、この側面に対向する回り止め収納部(11)の内側表面(11a(受圧面))の形状とが、前記取付け又は取り外しの際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる形状である、前記歯科用ハンドピース;
[2]前記回り止め(21)の端面(21b)の外周において角が取れている、[1]の歯科用ハンドピース;
[3]前記回り止め(21)の側面に、前記弾性体の過圧縮を低減することのできる過圧縮低減溝(29)を設ける、[1]又は[2]の歯科用ハンドピース;
により解決することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、頻繁な先端工具の着脱交換が必要な歯科用ハンドピースにおいても、振動カートリッジの回り止めに取り付ける環状弾性体の破断の可能性を低減し、破断までの製品寿命を延ばすことができるため、環状弾性体の交換頻度を低く抑えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明によるハンドピースの一態様の主要部分を示す一部切欠き部分側面図である。
図2図1のA-A線断面図である。
図3図1のB-B線断面図である。
図4】(a)は、本発明における回り止めの一態様の形状を模式的に示す一部切欠き斜視図であり、(b)は、先端工具を取り付けた状態(弾性体に力が加わっていない状態)の模式的縦断面図であり、(c)は、先端工具の着脱時(弾性体に力が加わっている状態)の模式的縦断面図である。
図5】(a)は、本発明における回り止めの別の一態様の形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は、先端工具を取り付けた状態の模式的縦断面図であり、(c)は、先端工具の着脱時の模式的縦断面図である。(d)及び(e)は、更に別の態様の形状を模式的に示す斜視図である。
図6】特許文献1に開示の回り止めの形状および作用機序を模式的に示す横断面図及び縦断面図である。(a)及び(b)は、先端工具を取り付けた状態の横断面図および縦断面図であり、(c)及び(d)は、先端工具の着脱時の横断面図および縦断面図である。
図7】特許文献3の図6に開示の回り止めの形状および作用機序を模式的に示す横断面図及び縦断面図である。(a)及び(b)は、先端工具を取り付けた状態の横断面図および縦断面図であり、(c)及び(d)は、先端工具の着脱時の横断面図および縦断面図である。
図8】本発明における好適態様の一つである回り止めの端面の外周を角がとれている形状とした回り止めの模式的縦断面図であり、(a)は面取りを施した形状の回り止めであり、(b)はRを付けた形状の回り止めである。
図9】(a)は、本発明における好適態様の一つである過圧縮低減溝を設けた回り止めの模式的斜視図であり、(b)は(a)の部分縦断面図であり、(c)は(b)のC-C線断面図である。
図10】(a)は、試験例2で用いた回り止めの形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の端面図であり、(c)は(b)のA-A線断面図であり、(d)は(b)のB-B線断面図である。
図11】(a)は、試験例2で用いた別の回り止めの形状を模式的に示す斜視図であり、(b)は(a)の端面図であり、(c)は(b)のA-A線断面図であり、(d)は(b)のB-B線断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の歯科用ハンドピース(以下、本発明のハンドピースとも称する)を添付図面に沿って説明するが、本発明は添付図面に示す態様に限定されるものではない。
【0013】
図1は、本発明によるハンドピースの一態様の主要部分を示す一部切欠き部分側面図であり、切欠き部分は断面図である。図2は、図1のA-A線断面図であり、図3は、図1のB-B線断面図である。なお、各断面図では、構造が把握しやすいように、ハッチングを省略している場合がある。
【0014】
図1は、先端工具を外した状態のハンドピース10の主要部分の構造を示している。筐体1は、その内部を軸方向に貫通する内部空間24を有しており、その内部空間内に、振動伝達部26、振動源(図示せず)等からなる振動カートリッジ2を内蔵することができる。なお、振動カートリッジ部分は太線で示す。
【0015】
振動伝達部26の先端には、先端工具を取り付けるためのねじ穴28が設けられている。また、振動伝達部には、横断面形状が略長方形又は略正方形である柱状の回り止め21が二個一対で設けられており、各回り止めには環状の弾性体3(例えば、Oリング)が取り付けられている。
【0016】
一方、筐体1には、振動カートリッジを筐体内部の所定の位置に配置した際に、回り止めの一つを収納し、且つ筐体内での振動カートリッジの回転(振動カートリッジの軸を中心とする回転)を防止できる回り止め収納部11が、各回り止めにそれぞれ対応するように、筐体の内壁に設けられている。前記回り止め収納部は、筐体の内部空間と連絡しており、前記内部空間の一部と捉えることもできる。
【0017】
本発明のハンドピースでは、図2に示すように、回り止めの側面(回り止めの横断面形状が略長方形又は略正方形の場合には、四つの側面)の内、振動カートリッジのねじ穴に先端工具を取り付ける際、又は取り外す際(以下、併せて、「先端工具の着脱の際」と称する)に、弾性体を挟んで間接的に回り止め収納部の内側表面と接触する側面21a(以下、回り止めにおける「押圧面」と称する)の形状と、この側面に対向する回り止め収納部の内側表面11a(以下、回り止め収納部における「受圧面」と称する)の形状とが、前記取付け又は取り外しの際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる形状を採用する。
【0018】
本明細書において「弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる形状」とは、先端工具の着脱の際に、回り止めの押圧面から回り止め収納部の受圧面の方向に力がかかった場合に、押圧面の特定の一点と受圧面の特定の一点とに力が集中することなく、押圧面上の連続する直線又は特定の面領域と、それに対向する受圧面とで弾性体を挟みこむことにより、前記直線に沿って力を分散させることができる形状を意味する。
【0019】
例えば、図4に示す横断面形状が略長方形又は略正方形であり、振動カートリッジの軸に垂直な平面で切断した縦断面(以下、単に縦断面と称した場合は、この縦断面を意味する)形状が略長方形又は略正方形である角柱状の回り止めにおいては、先端工具の着脱の際に(図4c)、回り止めが傾き、押圧面21aと受圧面11aとで囲まれた空間が狭くなるため、弾性体の回り止め端面に近い部分(以下、便宜上、上部と称する)が大きく変形し、押圧面と受圧面との距離が最も短い回り止め端面(21b)の外周(図4に示すX)と、これに対向する受圧面11aとの間で弾性体3を線状に挟みこむ状態となるため、弾性体にかかる力を線状に分散させることができる。
【0020】
また、図5に示す横断面形状が略長方形又は略正方形であり、縦断面形状の上半分が略台形であり、縦断面形状の下半分が略長方形又は略正方形である回り止めにおいては、先端工具の着脱の際に(図5c)、回り止めが傾き、押圧面と受圧面で囲まれた空間が狭くなるため、弾性体上部が大きく変形し、回り止め側面の上半分の面領域(図5bに示す領域Y)と、これに対向する受圧面との間で弾性体を面状に挟みこむ状態となるか、あるいは、前記領域Yの上端(すなわち、回り止め端面の外周)又は領域Yの下端(すなわち、前記略台形部分と略長方形又は略正方形部分との境界)と、これに対向する受圧面との間で弾性体を線状に挟みこむ状態となるため、弾性体にかかる力を線状又は面状に分散させることができる。
また、横断面形状が略長方形又は略正方形であり、縦断面形状が略台形である切頭角錐(角錐台)状の回り止めにおいても、同様に、先端工具の着脱の際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことができる。
【0021】
このように、先端工具の着脱の際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる回り止めのその他の形状としては、例えば、図5dに示す横断面形状がオーバル又はトラック形状(平行な二本の直線を半円、半楕円、又は円弧でつないだ形状。但し、前記直線部分と半円、半楕円、又は円弧部分との位置関係は、前記直線部分が、弾性体を挟んで間接的に回り止め収納部の内側表面と接触するように配置する)である柱状形状、図5eに示す横断面形状が略長方形又は略正方形である角柱の側面間の各稜線の面取りをした柱状形状を挙げることができる。なお、これらの場合、回り止め収納部の内側表面の形状としては、図4図5に示す形状を採用することができる。
【0022】
一方、特許文献1には、図6に示すような、横断面形状が円形であり、縦断面形状が略長方形又は略正方形である円柱状の回り止め21が開示されている。この回り止めでは、回り止め収納部における受圧面11aの形状が平面であるため、先端工具の着脱の際に、回り止めが傾くと、図6cに示すように、回り止めの端面方向から見ると、回り止め端面の外周の一点(図6cに示すZ)と、これに対向する受圧面の特定の一点との間で弾性体3を挟み込む状態になる。一方、図6dに示すように、振動カートリッジの軸方向から見ても、押圧面と受圧面との距離が最も短い回り止め端面の外周の一点(図6dに示すZ)と、これに対向する受圧面の特定の一点との間で弾性体3を挟み込む状態になる。従って、弾性体の一点に力が集中することになり、後述の実施例に示すように、着脱の繰り返しで弾性体が破断しやすくなる。
【0023】
また、特許文献3の図6には、図7に示すような、横断面形状がオーバル又はトラック形状(但し、直線部分と半円、半楕円、円弧部分との位置関係は、前記半円、半楕円、円弧部分で、弾性体3を挟んで間接的に回り止め収納部の内側表面と接触するように配置する)であり、縦断面形状が略長方形又は略正方形である柱状の回り止め21と、受圧面11aが凹型の曲面である回り止め収納部との組合せが開示されている。回り止めの端面方向から見ると(図7a、図7c)、弾性体に力がかかっていない場合に(図7a)、両曲面の間隔が互いに面接触可能な距離であると仮定すると、Oリングに力がかかると(図7c)、両曲面の間隔が小さくなるため、面接触の状態が解消され、特定の一点に力が集中することになる。一方、先端工具の着脱の際に、回り止めが傾くと、図7dに示すように、振動カートリッジの軸方向から見ると、押圧面と受圧面との距離が最も短い回り止め端面の外周の一点(図7に示すZ)と、これに対向する受圧面の特定の一点との間で弾性体を挟み込む状態になる。従って、弾性体の一点に力が集中することになり弾性体が変形するため、着脱の繰り返しで弾性体が破断しやすくなることが予想される。この特許文献3では、弾性体の破断を、弾性体を取り付けない突起によって防止している。
【0024】
本発明のハンドピースでは、後述するように、所望により、回り止めの端面の外周、すなわち、回り止めの側面と端面との稜線部において、その全部又は一部について(好ましくは全周にわたって)角(かど)が取れている形状とすることができるが、この場合にも、角がとれている押圧面の形状と受圧面の形状とが、先端工具の着脱の際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる形状を採用する。
また、本発明のハンドピースでは、後述するように、所望により、回り止めの側面に、弾性体の過圧縮を低減することのできる、及び/又は、弾性体のずれを防止することのできる溝を設けることができるが、この場合にも、溝を設けた押圧面の形状と受圧面の形状とが、先端工具の着脱の際に、弾性体を線状又は面状に挟み込むことのできる形状を採用する。
【0025】
本発明のハンドピースでは、所望により、回り止め21の端面21bの外周、すなわち、回り止めの側面21cと端面との稜線部において、その全部又は一部について(好ましくは全周にわたって)角(かど)が取れている形状とすることができる。角が取れている形状としては、例えば、図8aに示す面取りを施した形状22a、図8bに示すR(アール)を付けた形状22bなどを挙げることができる。
【0026】
本明細書において「面取り」とは、稜線の角を削り取り、平面を形成することを意味する。
また、本明細書において「Rを付ける」又は「R面取り」とは、稜線の角を取り、丸みをつけることを意味する。
【0027】
本発明のハンドピースでは、面取りやRの程度は、回り止めに取り付けた弾性体が、先端工具の着脱時またはハンドピースの使用時に、所定の位置からずれたり、外れたりすることがない限り、特に限定されるものではなく、弾性体破断の抑制効果を指標として、適宜決定することができる。
【0028】
本発明のハンドピースにおいて、弾性体から距離のある回り止め端面の外周の角を取ることにより、環状弾性体の破断の可能性を低減し、破断までの製品寿命を延ばすことができる理由は、現在のところ不明であるが、回り止めの端面および側面と回り止め収納部の内壁との間で形成される内部空間において、先端工具の着脱の際に、回り止め及びそれに取り付けた弾性体が様々な方向から力を受けることにより、弾性体と回り止めとの位置関係が変わる(例えば、斜めや上にずれる)ため、回り止め端面の外周の形状が弾性体の破断に影響を与えるものと考えている。
【0029】
本発明のハンドピースでは、所望により、回り止めの側面に、その全周にわたって、あるいは、その一部に(例えば、図9に示すように、対向する2つの側面にのみ)、弾性体の過圧縮を低減することのできる過圧縮低減溝29を設けることができる。前記過圧縮低減溝は、弾性体のずれを防止するずれ防止溝としても機能することができる。
過圧縮低減溝の形状および大きさは、弾性体の過圧縮やずれ防止を低減することができる限り、特に限定されるものではなく、例えば、回り止めの形状や大きさ、弾性体の形状や大きさ等を考慮して適宜決定することができる。例えば、図9に示す振動カートリッジでは、回り止めの横断面形状が略長方形又は略正方形であり、対向する2つの側面に、振動カートリッジの軸方向に延びる溝を設けている。
本発明のハンドピースでは、所望により、前記過圧縮低減溝を設けることによって、先端工具の着脱の際に弾性体にかかる負荷を低減することができるため、あるいは、先端工具の着脱の際に弾性体と回り止めとの位置関係が変わることを抑制することができるため、弾性体の破断の可能性を低減し、破断までの製品寿命を延ばすことができるものと考えている。
【実施例
【0030】
以下、実施例によって本発明を具体的に説明するが、これらは本発明の範囲を限定するものではない。
【0031】
《試験例1》
本試験例では、市販の歯科用ハンドピースであるソニックエンド(ミクロン製)を使用し、回り止めの形状の異なる4種類の振動カートリッジについて、Oリングの破断のしにくさを検証した。なお、破断試験であるため、市販品に使用している一般のOリングよりも強度の低いOリングを使用した。
【0032】
前記ハンドピースの振動カートリッジは振動伝達部と振動源とに分離することができ、市販品に組み込まれている振動伝達部(回り止めの横断面形状が円形であり、回り止めの端面の外周が面取りされていない。以下、回り止めA(比較例))以外に、回り止めB(回り止めの横断面形状が円形であり、回り止めの端面の外周が面取りされている(比較例))、回り止めC(回り止めの横断面形状が略長方形又は略正方形(振動カートリッジの軸方向が長辺)であり、回り止めの端面の外周が面取りされていない(実施例))、回り止めD(回り止めの横断面形状が略長方形又は略正方形であり、回り止めの端面の外周が面取りされている(実施例))を備えた各振動伝達部を用意した。なお、回り止め収納部における受圧面の形状は、図2図3に示すとおり、平面である。
【0033】
各振動伝達部の回り止めにOリングを取り付けた状態でハンドピースに装着した後、先端工具の取り付けと取り外しを1作業工程とし、この1作業工程を10回繰り返すごとに、ハンドピースから振動伝達部を取り外してOリングの状態を観察し、亀裂の有無や、Oリングが何回で破断したかを確認した。
回り止めAにおけるOリング破断までの回数を1としたときの各回り止めにおける破断までの相対回数を表1に示す。なお、表1における相対回数「>10」は、相対回数が10回の時点で破断しなかったことを示す。
【0034】
回り止めBと回り止めCとの比較において、回り止めCの方が最終的な相対回数が多かったものの、亀裂の発生が早期に確認できたことから、面取りがないと、断面形状にかかわらず、Oリングに亀裂が入りやすくなることが確認できた。
亀裂が成長してOリングは破断するが、断面形状が円形である場合、力が亀裂に集中してしまい、少ない回数でOリングは破断した(回り止めA、回り止めB)。
断面形状が略長方形又は略正方形である場合、亀裂が入っても力が亀裂に集中しにくく、破断までの回数が多かった。
【0035】
【表1】
【0036】
《試験例2》
本試験例では、回り止め(二個一対)の横断面形状(過圧縮低減溝を設ける前の横断面形状)がいずれも略長方形又は略正方形であって、一方の回り止めにのみ、その側面(四面)の内、対向する二面(過圧縮低減溝を設けた場合に、前記溝の方向が振動カートリッジの軸方向と同じになる面)に、カートリッジの軸方向に延びる過圧縮低減溝を設けた回り止めE(溝無しの回り止めと溝有りの回り止めのいずれも実施例;図10)、回り止め(二個一対)の横断面形状(過圧縮低減溝を設ける前の横断面形状)がいずれも円形であって、一方の回り止めにのみ、その側面に、対向する二つの過圧縮低減溝を設けた回り止めF(溝無しの回り止め:比較例、溝有りの回り止め:実施例;図11)を備えた各振動伝達部を用いること以外は、前記試験例1に準じて、Oリングの破断のしにくさを検証した。なお、回り止めEに設ける溝は、図10の縦断面図B-Bに示すように、その横断面が円弧状の凹型曲面であり、回り止めFに設ける溝は、図11の縦断面図B-Bに示すように、その横断面が円弧状の凹型曲面である。
【0037】
横断面形状が略長方形又は略正方形の回り止めEでは、溝の有無にかかわらず、先端工具の取り付けと取り外しを150回行ってもOリングの破断は起きなかった。一方、横断面形状が円形の回り止めFでは、過圧縮低減溝のない回り止めが破断したときでも、過圧縮低減溝を設けた回り止めは破断しなかった。
【産業上の利用可能性】
【0038】
本発明は、歯科用医療機器の分野に利用することができる。
【符号の説明】
【0039】
10・・・歯科用ハンドピース;
1・・・筐体;11・・・回り止め収納部;11a・・・受圧面;
2・・・振動カートリッジ;21・・・回り止め;21a・・・押圧面;
21b・・・端面;21c・・・側面;22a・・・面取り;22b・・・R面取り;
24・・・内部空間;26・・・振動伝達部;
28・・・ねじ穴;29・・・過圧縮低減溝;
3・・・弾性体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11