(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】複合材料、複合材料を用いた水素容器及び複合材料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C25D 7/00 20060101AFI20240214BHJP
G01N 17/00 20060101ALI20240214BHJP
F17C 1/00 20060101ALI20240214BHJP
F16J 12/00 20060101ALI20240214BHJP
C23C 14/14 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C25D7/00 Y
G01N17/00
F17C1/00 Z
F16J12/00 C
C23C14/14 Z
(21)【出願番号】P 2020046961
(22)【出願日】2020-02-29
【審査請求日】2022-02-14
(73)【特許権者】
【識別番号】520093104
【氏名又は名称】西口 廣志
(72)【発明者】
【氏名】西口 廣志
【審査官】菅原 愛
(56)【参考文献】
【文献】特開昭61-276116(JP,A)
【文献】国際公開第2019/131433(WO,A1)
【文献】特開2008-170438(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 26/00
G01N 17/00
F17C 1/00
C25D 7/00
F16J 12/00
C23C 14/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項2】
母材材質である炭素鋼に、2種以上の金属イオンを溶解させた浴を用いて、電気メッキ法によって、前記2種以上の金属からなり粒径0.04μmから0.3μmの金属結晶あるいはアモルファスの微粒子からなる層が形成されている複合材料を用いた水素容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高圧水素ガス環境下や腐食環境下にある容器や配管の金属へ水素が侵入し水素脆化を起こすことを防止する成膜技術に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来の技術においてはばね鋼表面に1種若しくは2種以上を主成分とするめっき層を形成、さらに、母材中に炭窒化物を微細分散させ、この炭窒化物により侵入水素をトラップすることで、水素脆化を防止する方法がある。(特許文献1参照)また、鋼で形成された高圧水素用容器内面に、面心立方あるいは稠密六方構造の金属からなる水素侵入防止金属で形成された水素侵入防止金属膜を被覆し、水素侵入を防止する方法もある。(特許文献2参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平10-299803号公報
【文献】特開2006-9982号公報
【非特許文献】
【0004】
【文献】Junichiro Yamabe、Saburo Matsuoka、Yukitaka Murakami、“International Journal of Hydrogen Energy”、2013年8月12日、p.10141-10154
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1、特許文献2、非特許文献1に記載の技術においては水素環境下にさらされたときに単一金属のコーティングを重ねた多層コーティングや単層コーティングであるので界面が少なく、水素侵入が十分に防止できない、あるいはコーティングにより材料の性能が低下することがあった。本発明は、上記の点にかんがみてなされたものであり、材料の性能を低下させることなく、水素侵入を十分に防止可能な複合材料、複合材料を用いた水素容器及び複合材料の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明は金属または樹脂で形成された母材表面に、微小かつ無数の異種金属粒からなる層が形成されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
上記のように構成された本発明の成膜方法によれば、微小かつ無数の異種金属粒子間の界面が多層コーティングの場合より多く形成できるので、水素侵入を効率的に防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の微粒子コーティングのモデル図である。
【
図2】(a)スパッタ法によるコーティングで形成した膜断面の走査型電子顕微鏡SEM写真、(b)エネルギー分散型X線分析EDXマッピング写真および(c)コーティング部のSEM写真である。
(表1)水素チャージ方法とその条件下でチャージした試験片の水素量測定結果である。
【
図3】(a)電気めっき法によるコーティングで形成した膜断面のSEM写真と(b)EDXマッピング写真である。
【
図4】従来発明の多層コーティングを示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
異種金属界面に生成する不整合性(ミスフィット)が水素トラップ作用を要することから、
図1に示すような異種金属界面を多数有する微粒子コーティングは高圧水素侵入あるいは腐食環境下からの母材への水素侵入を防止する働きが強い。
【0010】
異種金属界面を多数有するコーティングを作成するためにスパッタリングを用いる方法がある。例えば純アルミニウム微粉末に純鉄微粉末をある割合で均質混合して製作したターゲットを使用し、母材にコーティングを施す。この方法でできた膜の断面SEM写真を
図2(a)に示す。写真では4.5μmの膜厚であった。膜厚は成膜時間によって変えることができる。EDXマッピング写真を
図2(b)に示しているが、このように2種の金属が混ざっている。さらに、
図2(c)の膜の粒子のSEM写真でアルミの粒径を見ると2~9μmであることがわかる。
【0011】
あるいは電気めっきを用いて、2種以上の金属イオンを溶解させた浴を用いると、ある金属イオンのモル濃度範囲の時にめっき膜が単一組織から複合組織へと変化することを利用し、異種金属界面を多数有する微粒子コーティングを行う。
図3(a)に電気めっきを用いたコーティングの断面のSEM写真および
図3(b)にEDXマッピング写真を示す。コーティングの膜厚は10μm形成している。このように2種の金属が混ざっている。粒径は0.04~0.3μmである。
【0012】
次に、S25C鋼に20%の引張塑性ひずみを与えた後、15mm×4mm×6mmの角材にコーティングを施した試料と、そうでない試料とを▲1▼腐食環境下:20mass%チオシアン酸アンモニウム水溶液中に48h浸漬、あるいは▲2▼高圧水素ガス環境下:11~100MPa、85~270℃、24時間あるいは200時間暴露した場合での水素侵入量を測定した。水素侵入量はガスクロマトグラフィー方式の昇温脱離分析装置(TDA)により測定した。表1にこれまでの水素侵入分析結果を示す。表1にはアルミ単層コーティングの結果(No.1~6)も示している。
【0013】
スパッタ法では▲1▼の腐食環境下では水素侵入を最大71%カットした(表1のNo.10)。▲2▼の高温高圧水素ガス環境下では34%カットした(表1のNo.11)。
【0014】
▲1▼のチャージ方法に関し、スパッタ法の時間を長くして膜厚を大きくするほど、水素侵入量が減少する傾向があった(No.7~10)。これは膜厚が大きくなるほど異種金属界面が大きくなるので、水素トラップが増え、侵入量が減少したことによると思われる。
一方、アルミ単層のコーティング材に▲2▼水素ガス暴露チャージ方法の温度を100℃と270℃で変えた場合の水素量測定結果を比較する(No.2,4)。これらはいずれも水素カット率がそれぞれ50%と51%で明確な差がない。水素は温度が高くなるほど拡散係数が高くなる。それにも関わらず水素カット率に差が見られないのは、コーティング部の膜厚ではなくコーティング部と母材の間の界面に水素侵入抑制の因子があることを示している。このように界面自体が重要な因子であることを考えると、アルミ単層のスパッタ法においては膜厚を変えても水素カット率は変わらないものと考えられる。したがって、アルミ単層のコーティングでは水素カット率をこれ以上増加させることはできないが、鉄の微粉末を混合させることでコーティング部自体に界面が増え、水素カット率が増加する。
【0015】
表1に示すように、母材がS25C鋼の場合(No.2~5)は水素ガス暴露チャージによって50%程度の水素侵入カットが確認できた(No.3だけは水素ガス圧力および温度が小さく、水素侵入量自体が小さかったため水素カット率を計算するときに誤差が大きく、9%という結果となった。)。一方、母材がオーステナイト系ステンレス鋼SUS304鋼のときは同じアルミの膜であるのにも関わらず水素侵入カット率は0%であった。この理由としてアルミ自体が水素侵入を抑止するものではなく、アルミ膜と母材の間の界面で水素侵入抑制能力があり、膜と母材の金属の組み合わせによって決まると思われる。界面効果が得られた一つの因子として結晶構造がアルミはFCC、S25C鋼はBCC、SUS304鋼はFCCであり、コーティング部と母材の間で異なる結晶構造であった場合に水素侵入カット率が変わった可能性が高い。すなわちコーティング部自体に異種金属あるいはアモルファスの界面を有する微粒子コーティングの場合、膜自体に水素トラップ作用を有することになる。
【0016】
次に、電気めっき法についてであるが
図3(b)のようにコーティング部にはそれぞれ異種の金属が存在していることがわかる。このようにある金属イオンのモル濃度範囲の時にめっき膜が単一組織から複合組織へと変化することを利用し、水素カット率を調査した。表1のNo.12~18に示すように一定の水素カット率が認められている。No.8とNo.12を比べると同じ膜厚でも電気めっき法の方がスパッタ法の場合より高い水素カット率を示している。これは表1に示すように電気めっき法の方が粒径が小さく異種金属界面の量(すなわち膜厚と粒径の間の比率)はスパッタ法に比べて大きいことによる。
【0017】
この手法は樹脂製の圧力容器や圧力配管内部にも用いることができる。方法は以下の通りである。まず無電解めっきにより樹脂表面に金属めっきを施す。さらにその上から電気めっきを施し、異種金属界面を有する微粒子コーティングを実施することで製膜が可能となる。したがってこの手法は、母材が金属であっても樹脂であっても、あらゆる素材で成膜可能である。
【0017】
図4に従来発明の多層コーティングを示す。この場合界面は母材とコーティング部の間のみであり、
図1の微粒子コーティングの界面密度の方が高い。そのため,本発明(
図1)の方が水素カット率が従来のコーティング(
図4)より多くなることが推察される。
【産業上の利用可能性】
【0018】
本発明のコーティング方法は、水素利用システムの配管やバルブ、タンクなどの圧力機器で水素侵入を防止する手法として有効に利用することができる。
【表1】