IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 凸版印刷株式会社の特許一覧

特許7434705薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜
<>
  • 特許-薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜 図1
  • 特許-薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜 図2
  • 特許-薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜 図3
  • 特許-薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜 図4
  • 特許-薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜
(51)【国際特許分類】
   B05D 1/02 20060101AFI20240214BHJP
   B05D 3/12 20060101ALI20240214BHJP
   B05D 7/24 20060101ALI20240214BHJP
   B05B 17/06 20060101ALI20240214BHJP
   B05B 7/04 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
B05D1/02 Z
B05D3/12 F
B05D7/24 302Z
B05B17/06
B05B7/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018182232
(22)【出願日】2018-09-27
(65)【公開番号】P2020049440
(43)【公開日】2020-04-02
【審査請求日】2021-08-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001276
【氏名又は名称】弁理士法人小笠原特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊池 雅博
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-200761(JP,A)
【文献】特開2017-039316(JP,A)
【文献】実開平07-006263(JP,U)
【文献】国際公開第2009/069210(WO,A1)
【文献】特開2009-199757(JP,A)
【文献】特開平07-014771(JP,A)
【文献】特開昭53-044915(JP,A)
【文献】特開2013-078748(JP,A)
【文献】特開2008-117689(JP,A)
【文献】特開2002-172355(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D1/00-7/26
B05B1/00-17/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材上に薄膜を形成する方法であって、
溶媒液供給部において前記薄膜の原料を分散させるための溶媒を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する工程と、
原料供給部において前記薄膜の原料を前記溶媒中に溶解または分散してなる原料液を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する工程と、
前記溶媒のミスト液滴を前記溶媒供給部から前記原料液供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送し、前記原料液のミスト液滴を前記原料液供給部から前記溶媒供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送し、搬送途中の前記溶媒のミスト液滴と前記原料液のミスト液滴とを合流させて混合する工程と、
混合した前記溶媒のミスト液滴と前記原料液のミスト液滴とを前記基材上に供給する工程とを含み、
前記溶媒は、エタノールであり
前記薄膜の原料は、PEDOT/PSSであり
前記原料液は、前記原料であるPEDOT/PSSの混合物を前記溶媒であるエタノールにて重量比で4倍希釈したものである、
薄膜形成方法。
【請求項2】
基材上に薄膜を形成する方法であって、
溶媒液供給部において前記薄膜の原料を分散させるための溶媒を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する工程と、
原料供給部において前記薄膜の原料を前記溶媒中に溶解または分散してなる原料液を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する工程と、
前記溶媒のミスト液滴を前記溶媒供給部から前記原料液供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送し、前記原料液のミスト液滴を前記原料液供給部から前記溶媒供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送し、搬送途中の前記溶媒のミスト液滴と前記原料液のミスト液滴とを合流させて混合する工程と、
混合した前記溶媒のミスト液滴と前記原料液のミスト液滴とを、中間転写体上に搬送して堆積させる工程と、
前記中間転写体に含有された前記溶媒および前記原料液を前記基材へ転写する工程とを含み、
前記溶媒は、エタノールであり
前記薄膜の原料は、PEDOT/PSSであり
前記原料液は、前記原料であるPEDOT/PSSの混合物を前記溶媒であるエタノールにて重量比で4倍希釈したものである、
薄膜形成方法。
【請求項3】
基材上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
原料であるPEDOT/PSSの混合物を溶媒であるエタノールにて重量比で4倍希釈してなる原料液を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する原料液供給部と
記薄膜の前記原料を分散させるための前記溶媒を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する溶媒供給部とを備え、
前記原料液供給部から前記溶媒供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送された前記原料液のミスト液滴と、前記溶媒供給部から前記原料液供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送された前記溶媒のミスト液滴とを混合し、前記基材上へ噴霧する、
薄膜形成装置。
【請求項4】
基材上に薄膜を形成する薄膜形成装置であって、
原料であるPEDOT/PSSの混合物を溶媒であるエタノールにて重量比で4倍希釈してなる原料液を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する原料液供給部と、
前記原料を分散させるための前記溶媒を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する溶媒供給部とを備え、
前記原料液供給部から前記溶媒供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送された前記原料液のミスト液滴と、前記溶媒供給部から前記原料液供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送された前記溶媒のミスト液滴とを混合して中間転写体上へ噴霧し、前記中間転写体に含有された前記原料液および前記溶媒を前記基材上に転写することができる、
薄膜形成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、原料をミスト化して、薄膜を形成する手法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年のネットワークの拡充や生活スタイルの多様化に伴い、フレキシブル性や大面積といった従来のSi半導体では実現困難な付加価値が機能デバイスに求められており、フィルム上に成膜・パターニング可能な機能性デバイスが注目されている。種々の機能デバイスにおいて、性能向上には機能の異なる材料を積層成膜することが重要になる。薄膜の作製方法として、一般的に真空蒸着法等のドライプロセス、およびスピンコート法等のウエットプロセスが知られている。
【0003】
前記ドライプロセスは、厚み一定の均一な薄膜を積層して成膜することが可能であるが、成膜する材料に高エネルギーを加えるため熱的に不安定な材料、例えば有機材料には適用できず、基材もガラスなどの耐熱性のある材料に限定されてしまうため、材料および基材に制約がある。また、多くが真空プロセスであることから生産性が低いという問題があった。
【0004】
ウエットプロセスでは、フィルムのようなフレキシブル性のある基材上に容易に成膜できるため、生産性や大面積化の観点では、ドライプロセスと比べ格段に優れている。また、ウエットプロセスでは、種々の印刷方法によりパターン形成が可能であるが、プロセス上、粘弾性特性の調整が必要となり、用いる塗料・インクに、工程上の流動性などを調整するための混ぜ物をする。この混ぜ物は、工程を経て基材上に形成した機能性パターンに混入することがあり、パターン内の機能性材料の純度を低下させ、パターンに求められる機能を低下させる問題がある。ウエットプロセスで、原料に混ぜ物を必要としないコーティング方法に、材料を微小液滴化し、基材に搬送して成膜を行うミストコーティング手法がある。
【0005】
ミストコーティングでは、材料に流動に関わる混ぜ物をする必要がなく、純度の高い材料を成膜することが可能であり、機能材料の薄膜形成や薄膜パターンを形成する場合には有利である。
また、ミスト液滴を基材へ搬送する時に液滴から溶媒成分を減少させる調整が容易であり、調整を加え、溶媒分を最適化することで積層時に下層を侵すことなくコートが可能なため、ウエットプロセスで薄膜積層も可能である。前記ミストコーティングで薄膜パターンを得るには、貫通孔のパターンがあるマスク版を通じて、ミストコートすることでパターン膜を形成する手法が用いられている。また、特許文献1のミスト手法では、基材に予め親水と撥水からなるパターンを形成しておき、ミスト材料を搬送してミスト液滴の基材への付着度合いにより、マスク版を用いずにパターンを形成する手法が提案されている。しかしながら、ミストコーティングで、微細パターンを形成する場合、ミスト液滴寸法がパターン解像度の限界になる。
【0006】
超音波ミスト法では、生成するミスト径は、一般的にはラング式によりに規定されるとされるが、超音波振動子により生成したミスト液滴を、基材へ搬送する工程中に溶媒を蒸散させることで、堆積前にミスト径を小径化することが可能である。例えば、ミスト搬送経路を溶媒の蒸発温度以上に加熱することで、搬送中のミスト液滴から溶媒分を蒸散させることが可能である。また、エレクトロスプレー法では、スプレー距離を離すことで液滴がクーロン力による自己分裂することで、原理的には分散材料サイズ(マイクロメートル、ナノメートル)まで小径化することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第2015/064438号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
薄膜形成や薄膜パターニングする際、ミスト液滴を微小化して基材に配置する必要がある。ミスト液滴を分裂させ微小化する方法、ミスト液滴から溶媒を蒸散させて微小化する方法により、基材配置時にミスト液滴を微小化することは可能であるが、液滴の粘度が上昇することで粒子形状を維持したまま基材に堆積してしまい、膜に空隙などの欠陥が生じることになる。また、ミスト液滴から微小パターンを基材に薄膜パターニングしたい場合、ミスト液滴を微小径化して基材に搬送することで液滴寸法を解像度限界とするパターンを形成することが可能となるが、液滴粘度が上昇するため流動性が低下することでレベリング性が低下し、形成したパターンに欠陥が発生し、パターンの連続性が低下する問題があった。
【0009】
薄膜を形成する方法としては、スパッタリングや印刷法も存在するが、スパッタリングは、蒸着させる物質に高いエネルギーを付与して成膜する。このため、樹脂のような高分子化合物は、スパッタリングのエネルギーで分解、変性してしまう可能性が高く、スパッタリングを用いた成膜に適していない面がある。
【0010】
また、印刷法では、成膜対象物をインキにする必要があり、目詰まり防止や流動性確保等の必要性から、成膜対象物(例えば高分子材料)以外の添加物(混ぜ物)を混合する必要があり、成膜対象物の純度(濃度)を高めることが難しく、インキ化(インキ製造)の際の添加物等が、製造した薄膜の欠陥の原因にもなっていた。
【0011】
本発明では、このような問題に鑑みて、薄膜の原料を含んだ液滴を微細化した際にも、欠陥が少なく機能性を損なわない、薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するための本発明の一局面は、基材上に薄膜を形成する方法であって、溶媒液供給部において薄膜の原料を分散させるための溶媒を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する工程と、原料供給部において薄膜の原料を溶媒中に溶解または分散してなる原料液を、2.4MHz駆動の振動子を電圧24Vで駆動することでミスト液滴化する工程と、溶媒のミスト液滴を溶媒供給部から原料液供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送し、原料液のミスト液滴を原料液供給部から溶媒供給部を経由しないように0.8kg/cm の空気により搬送し、搬送途中の溶媒のミスト液滴と原料液のミスト液滴とを合流させて混合する工程と、混合した溶媒のミスト液滴と原料液のミスト液滴とを、基材上に供給する工程とを含み、溶媒は、エタノールであり、薄膜の原料は、PEDOT/PSSであり原料液は、原料であるPEDOT/PSSの混合物を溶媒であるエタノールにて重量比で4倍希釈したものである、薄膜形成方法である。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、薄膜の原料を含んだ液滴を微細化した際にも、欠陥が少なく機能性を損なわない、薄膜形成方法、薄膜形成装置、および機能性薄膜を提供することができる。この薄膜形成方法は、ミストコート技術を基にした材料純度の高いパターン形成を可能とし、機能性パターン形成を可能とするものである。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明の一実施形態に係る薄膜形成方法の工程図
図2】本発明の一実施形態に係る薄膜形成装置の模式図
図3】変形例に係る薄膜形成装置の模式図
図4】本薄膜形成方法を用いた潜像形成方法の図である。
図5】実施例および比較例で作成した薄膜のSEM観察像
【発明を実施するための形態】
【0015】
(薄膜形成方法)
本発明の一実施形態に係る薄膜形成方法は、基材上に薄膜を形成する方法であって、薄膜の原料を溶解または分散させるための溶媒を、基材上に供給する工程と、薄膜の原料を前記溶媒中に溶解または分散してなる原料液の液滴を、基材上に搬送して堆積させる工程とを含む。
【0016】
また、上述の薄膜形成方法の変形例として、薄膜を基材上に直接形成せず、中間転写体上に形成し、この薄膜を中間転写体から基材に転写するようにしてもよい。具体的には、薄膜の原料を溶解または分散させるための溶媒を、中間転写体上に供給し、原料液の液滴を、中間転写体上に搬送して堆積させた後、中間転写体に含有された溶媒および原料液を基材へ転写して形成することができる。
【0017】
本発明で使用可能な溶媒は、水、有機溶媒、イオン性液体等が挙げられる。溶媒には、酸、アルカリ等が含まれていても良い。また、水とエタノールのように相溶性を有する溶媒を混合しても良い。
【0018】
本発明で使用可能な薄膜の原料(成膜物質)は、高分子化合物(樹脂)、無機物、セルロースなどの天然高分子が挙げられる。薄膜の原料は、上記の溶媒に溶解、分散可能なものが利用可能である。
【0019】
本発明の一実施形態に係る薄膜形成方法を図1を用いて説明する。図1の左には、一実施形態に係る薄膜形成方法(方法1)の工程図を示し、図1の右には、中間転写体を用いた変形例に係る薄膜形成方法(方法2)の工程図を示す。本発明の一実施形態に係る薄膜形成方法では、原料を溶媒に溶解、または分散した原料液を、物理的に微細液滴化し、目的の基材2に搬送して液滴を堆積させて薄膜を形成する手法を基本としている。
【0020】
方法1では、初めに基板2上に、溶媒供給装置1を用いて溶媒4を供給する。次に、ミスト供給装置5を用いて、薄膜の原料を溶媒4中に溶解または分散してなる原料液の微細な液滴6を、基材2上に搬送して堆積させる。図1に示すように、方法2では、これらの工程において溶媒4および液滴6を供給、堆積させる対象は中間転写体3となる。
【0021】
図1のミスト供給装置5は、原料液を細分化液滴化し搬送する装置である。微細液滴化する装置には、一例として、原料液に超音波を当ててキャピラリー原理により原料液から微細な液滴6を発生させ、基材2または中間転写体3に搬送する手法を取ることができる。また他の手法として、原料液をノズルから噴出させノズルと基材2または中間転写体3間に高電圧を印加して、ノズルから噴出した液滴6を電圧印加により荷電し、クーロン力の斥力により液滴6を細分化して基材2または中間転写体3に堆積させる、エレクトロスプレー(ESC)法を取ることができる。
【0022】
図1に示すように、基材2または中間転写体3に液滴6が着弾する時に、基材2または中間転写体3の表面には、別途溶媒供給装置1から溶媒4が予め供給されている。このため、着弾した液滴6へ溶媒4が供給され、付着した液滴6は溶媒リッチな状態になる。
【0023】
また、液滴6がミスト供給装置5のノズルから基材2または中間転写体3へ移動する工程中に、液滴6中の溶媒4が気化して抜けていく。このため、液滴6は薄膜の原料の固形物の比率が多くなり、基材2または中間転写体3に着弾したときには、流動性を失っていることが多い。基材2に着弾して流動性を失った液滴6により形成される膜(薄膜)表面は、凹凸を形成していることが多く、この状態のまま液滴6を堆積させると凹凸形状が残ったままの荒れた表面の薄膜となってしまい、所望の表面形状、機能性を得ることが困難な場合がある。これを解消するため、液滴6を一定量堆積した後に、基材上に堆積した液滴6により形成される膜(薄膜)表面に、さらに溶媒4のみを噴霧してもよい。
【0024】
このようにして堆積した液滴6が溶媒4の補給(供給)を受けることで流動性が増え、堆積した液滴6により形成される膜(薄膜)が流動することによってレベリングされ、平滑な薄膜8を形成することができる。中間転写体3に薄膜8を一旦形成した場合は、基材2に中間転写体3に含有された薄膜8を転写することで、基材2上に目的材料からなる薄膜8を形成することになる。
【0025】
最後に、加熱乾燥することで薄膜8から余分な溶媒を蒸発させることで、材料純度が高い薄膜8が形成される。中間転写体3に用いられる材料は、原料液の溶媒4を吸収、放出できる材料であればよく、特に限定されないが、一例としてシリコーンゴムのポリジメチルシロキサン(PDMS)が挙げられ、構造としては多孔質体を用いることができる。
【0026】
以上説明した薄膜形成方法によれば、溶媒と、薄膜の原料が当該溶媒に溶解または分散している液体(原料液)とを用いるだけでよく、インキ化する際に必要であった添加物等が不要となる。このため、本発明では、スパッタリング法では成膜できなかった物質の膜化、印刷法では実現できなかった、成膜対象物質の純度(濃度)の高い膜を成膜することが可能となり、従来得られなかった膜物性を得ることが可能となる。
【0027】
(薄膜形成装置)
図2、3は、本発明の一実施形態に係る薄膜形成方法を実現できる薄膜形成装置100、200の模式図である。薄膜形成装置は、原料液の液滴6を基材2上へ噴霧することができる原料液供給部を備え、原料液供給部により基材2上に原料液の液滴6を噴霧した後、または原料液の液滴6の噴霧と同時に、基材2上に溶媒4を噴霧することができる。また、薄膜形成装置は、溶媒4を基材2上に噴霧することができる溶媒供給部をさらに備えてもよい。なお、以下の説明では、液滴6および溶媒4の噴霧対象として基板2を例示しているが、中間転写体3に噴霧するように構成してもよい。
【0028】
図2に示す薄膜形成装置100では、原料液供給部および溶媒供給部としてエレクトロスプレー法のノズルを2本準備し、一方のノズル11を原料液の液的6の吐出(噴霧)、もう一方のノズル12を原料液の溶媒の吐出(噴霧)に用いる。基材2上には、ノズル11、12からそれぞれ、原料液の液滴6からなるミスト13と溶媒4からなるミスト14が吐出される。基材2の下方には、ノズル11、12と基板2との間に電圧を印加できる対向電極10が設けられる。薄膜形成装置100は、ノズル11と基材2との間の距離を調整することができ、この距離が近い場合は、液滴6の径が大きく、距離を離すことで液滴6の径を小さく調整可能である。ノズル11、12からの吐出を同時または、溶媒吐出を先行させることで、基材2上に適度な溶媒6を供給することができるため、ミスト13の基材2への着弾時に液滴6に溶媒4が供給される。この結果、基材2の表面に形成される薄膜の粘度が低下してレベリングされ、均一な薄膜8が形成される。基材2とノズル11、12の水平面の相対位置は適宜移動することを可能にしても良い。
【0029】
図3に示す薄膜形成装置200では、ミスト13およびミスト14の生成に超音波ミスト法を用いる。薄膜形成装置200は、超音波チャンバ21に原料液を、超音波チャンバ22に溶媒4をセットした後、各チャンバ21、22に設置された超音波振動子によりチャンバ内の原料液および溶媒4をミスト液滴化する。その後、各チャンバ21、22内に搬送エアを送り込むことで、原料供給ヘッド23及び、溶媒供給ヘッド24からそれぞれのミスト13、14を基材2に搬送(噴霧)することができる。図3では、薄膜形成装置は、ミスト13、14を基材2上で個別に搬送している状態を示しているが、各チャンバ21、22から出たミスト13、14を合流させ、ひとつのヘッドで原料液と溶媒の混合エアロゾルを基材2上に供給してもよい。
【0030】
薄膜形成装置200の場合にも、基材2上で着弾したミスト13中の液滴6が別途供給された溶媒4を吸収して、粘度が低下することでレベリングした薄膜8を形成することになる。ミスト13の供給経路には乾燥装置を導入し液滴6の溶媒量を調整してもよい。
【0031】
図4は、上述の薄膜形成方法を用いて、中間転写体3に溶媒4によりパターニングを行い、潜像を形成する方法を説明する図である。
【0032】
図4の(a)は、パターンマスク40を用いて中間転写体3にパターニングする手法を示している。マスクされた部分は、溶媒4の供給が遮られて開口部分のみに溶媒4が供給され、所定のパターンに基づく潜像43状に溶媒4が含有される。溶媒スプレー41は、溶媒4を霧状にして供給する塗工方式であれば限定されず、例えば超音波ミスト法による供給でも、エレクトロスプレーによる供給でも良い。
【0033】
図4の(b)は、インクジェット(IJ)ヘッド42を用いて溶媒4を所定のパターン状に供給する手法を示している。インクジェットヘッド42より溶媒4を供給し、中間転写体3上に溶媒4の含有する所定のパターンに基づく潜像43を形成する。
【0034】
図4の(a)または(b)に示した工程の後、図は省略するが、潜像43を形成した中間転写体3に液滴6を重力下で上方に設置した中間転写体3に吹きつけると、溶媒4が含有していない部分(すなわち、潜像43が形成されていない部分)では、微細化した液滴6は弾性体として跳ね返り付着しない。一方、溶媒4が含有する部分には着弾時に液滴6に溶媒4が供給されてそのまま吸着し、粘度が低下することでレベリングして潜像43に沿ったパターンが形成される。
【0035】
このように本発明によれば、原料が溶解または分散した原料液をミスト液滴化し、工程中に溶媒比率を下げて微細液滴化して基材2に着弾したときに、溶媒4を液滴に供給することで粘度を低下させてレベリングを可能とし、均一な薄膜8と薄膜パターニングを可能とするものである。
【実施例
【0036】
(実施例1)
ミスト発生部を2つ備える超音波方式のミストコート装置を用いて薄膜を形成した。第一のミスト発生部(原料液供給部)からは原料液が供給されるように、コート材料(薄膜の原料)であるPEDOT/PSS混合物(SV-3、ヘレウス社)をエタノールにて重量比で4倍希釈した原料液を充填した。第二のミスト発生部(溶媒供給部)からは溶媒が供給されるように、エタノール(溶媒)を100%充填した。
【0037】
第一と第二のミスト発生部の超音波振動子は、2.4MHz駆動の振動子(HM-2412、本多電子社製)を用いて、電圧24Vで駆動した。第一と第二のミスト発生部で発生したミスト液滴を0.8kg/cmの空気により搬送し、搬送経路途中で合流させて、0.7mm厚のガラス基材(EGLE-XG、コーニング社)に搬送して、ミスト液滴を3分間堆積させ、膜厚300nmのPEDOT/PSS膜を得た。PEDOTは、poly(3,4-ethylenedioxythiophene)の、PSSは、poly ( 4-styrenesulfonate)の略号である。
【0038】
(実施例2)
ミスト発生するノズルを2本持つ、エレクトロスプレー方式のミストコート装置において、第一ノズル(原料液供給部)からは、実施例と同じミスト原料が、第二ノズル(溶媒供給部)からはエタノール溶媒100%が供給されるようにした。第一と第二のミスト発生部では、ノズル径100μm、ノズルへの送液を0.1cc/分、ノズル-基材間電圧を14kVで行い、第一のノズルと基材の距離を70mm、第二のノズルと基材の距離を30mmとした。0.7mm厚のガラス基材(EGLE-XG、コーニング社)に対して、第二ノズル、第一ノズルの順にノズルを速度50mm/秒で走査させ、膜厚300nmのPEDOT/PSS膜を得た。
【0039】
(実施例3)
実施例1の第二のミスト発生部を用いて、3分間、溶媒ミストを中間転写体(ポリジメチルシロキサン;PDMS)に含有させておき、実施例1の第一ミスト発生部と同じミスト原料とミスト発生条件により中間転写体上にミスト原料を3分間堆積した後、中間転写体上に形成された薄膜をガラス基材に転写して膜厚300nmのPEDOT/PSS膜を得た。
【0040】
(比較例1)
実施例1と同じコート原料を用いて、2000RPMでスピンコート、80℃10分の乾燥を、コートと乾燥を4回繰り返して、膜厚300nmのPEDOT/PSS膜を得た。
【0041】
(比較例2)
実施例2において、第二のノズルから溶媒吐出をしなかった以外は、実施例2と同様の材料と工程で、ガラス基材上に膜厚300μmのPEDOT/PSS膜を得た。
【0042】
(比較例3)
実施例3において、中間転写体への予め溶媒を含有させる工程を省いた以外は実施例3と同じ材料と工程でガラス基材上に膜形成を試みたが、膜にはならなかった。
【0043】
実施例1~3、比較例1と2で得られたPEDOT/PSS膜について、表面状態を走査電子顕微鏡(日立S4800)により観察した像を図5に示す。また、それぞれの膜の表面抵抗を四探針抵抗測定装置(MCP-T610、三菱ケミカル)で測定した。表1に表面抵抗値と、表面抵抗値が低くSEM観察で粒状物の混入がほぼ見られないものを○、多少の混入があるものを△、表面抵抗値が高く全面に混入しているものを×とした成膜性の結果を示す。
【0044】
【表1】
【0045】
上記結果より、比較例では、膜の表面性が悪く表面抵抗値も高くなることが分かる。一方、本発明の実施例では、成膜性の良い薄膜が得られており、表面抵抗値も低い良好な特性を持つ薄膜が得られている。
【0046】
(実施例4)
パターンマスクを介して第二のミスト発生部を用いて溶媒をコートした以外は、実施例3と同様の手順で基材にコートしたところ、パターンマスクに従った膜厚300nmのパターンが形成された。
【0047】
(実施例5)
インクジェットヘッドを用いて、パターンコートした以外は、実施例3と同様の手順で基材にコートしたところ、インクジェットで形成したパターンに従った膜厚300nmのパターンが形成された。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、機能性薄膜の製造に用いることができる。
【符号の説明】
【0049】
1 溶媒供給装置
2 基材
3 中間転写体
4 供給溶媒
5 ミスト供給装置
6 ミスト液滴
8 材料薄膜
10 対向電極
11 ESCノズル1
12 ESCノズル2
13 原料ミスト
14 溶媒ミスト
21 超音波チャンバ1
22 超音波チャンバ2
23 原料ミスト供給ヘッド
24 溶媒ミスト供給ヘッド
30 マクス潜像形成
31 IJ潜像形成
40 パターンマスク
41 溶媒スプレー
42 溶媒IJヘッド
43 溶媒含有潜像
100、200 薄膜形成装置
図1
図2
図3
図4
図5