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  • 特許-燃料電池システム用エアフィルタ 図1
  • 特許-燃料電池システム用エアフィルタ 図2
  • 特許-燃料電池システム用エアフィルタ 図3
  • 特許-燃料電池システム用エアフィルタ 図4
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】燃料電池システム用エアフィルタ
(51)【国際特許分類】
   H01M 8/0662 20160101AFI20240214BHJP
   H01M 8/04 20160101ALI20240214BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20240214BHJP
   B01J 23/34 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01M8/0662
H01M8/04 N
B01D53/04 110
B01J23/34 A
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2019030459
(22)【出願日】2019-02-22
(65)【公開番号】P2020136162
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-08-19
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000241500
【氏名又は名称】トヨタ紡織株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】吉田 貴美子
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-037170(JP,A)
【文献】特開2003-088759(JP,A)
【文献】特開2006-346645(JP,A)
【文献】特開2003-001024(JP,A)
【文献】特開2004-181301(JP,A)
【文献】特開2005-071764(JP,A)
【文献】特開昭49-018785(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料電池システムに適用され、燃料電池本体に空気を供給する通路に設けられるとともに当該空気に含まれる硫黄系の不純ガスを除去するエアフィルタであって、
不織布からなる基材と、前記基材に担持されるとともに前記不純ガスを酸化させて硫酸にする触媒作用を奏する酸化触媒と、前記基材に担持されるとともに前記硫酸を吸着する吸着剤と、を備え
前記不織布の単位体積当たりの表面積である繊維表面積が、150m /m 以上700m /m 以下であり、
前記不織布の単位体積当たりの繊維の体積の割合である繊維充填率が、0.2%以上、1%以下であり、
前記酸化触媒の平均粒径が、4μm以上、5μm以下であり、
前記吸着剤の平均粒径が、10μm以上、20μm以下である、
燃料電池システム用エアフィルタ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システム用エアフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池システムにおいては、電解質膜を有する燃料電池本体に対して燃料ガス及び酸化ガスを各別に供給する通路が設けられている。
例えば燃料電池システムを搭載する車両、すなわち燃料電池本体により発電される電力を動力源として走行する車両では、酸化ガスとしての酸素を含む車外の空気がコンプレッサによって吸入されるとともに空気供給通路を通じて燃料電池本体に対して供給される(例えば特許文献1参照)。
【0003】
特許文献1には、空気供給通路においてコンプレッサの上流側に設けられた燃料電池システム用エアクリーナが開示されている。エアクリーナのハウジングの内部には、空気に含まれる塵埃を捕集する第1フィルタと、空気に含まれる不純ガスを吸着する第2フィルタとが空気の流れ方向に並んで配置されている。第2フィルタは、多数の透孔を有するハニカム構造の基材を備えている。また、上記基材の透孔の内面には、上記不純ガスとしての硫黄系ガスを酸化する酸化触媒及び上記不純ガスを吸着する吸着剤が担持されている。上記基材は、例えば断面正六角形などの所定の断面形状の多数の透孔が隔壁を介して隙間なく並べられた構造であり、アルミニウム箔によって形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-37170号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、特許文献1に記載の燃料電池システム用エアクリーナの第2フィルタは、ハニカム構造の基材を備えるものである。そのため、基材の構造が複雑になり、同基材の製造に手間を要するものとなっている。
【0006】
本発明の目的は、簡単な構成で不純ガスを除去できる燃料電池システム用エアフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するための燃料電池システム用エアフィルタは、燃料電池システムに適用され、燃料電池本体に空気を供給する通路に設けられるとともに当該空気に含まれる不純ガスを除去するものであって、不織布からなる基材と、前記基材に担持された酸化触媒と、を備える。
【0008】
同構成によれば、空気が不織布からなる基材を通過する際に、空気に含まれる二酸化硫黄や硫化水素などの硫黄系ガスが酸化触媒の触媒作用により酸化され、硫酸などが生成する。これにより、空気に含まれる二酸化硫黄や硫化水素などの不純ガスが除去される。
【0009】
ここで、上記構成によれば、基材が不織布からなるため、基材を簡単に製造することができる。したがって、簡単な構成で不純ガスを除去することができる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、簡単な構成で不純ガスを除去することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】燃料電池システム用エアフィルタの一実施形態を示す斜視図。
図2】基材の単位質量当たりのガス除去剤の質量と、圧力損失との関係を示すグラフ。
図3】基材の単位質量当たりのガス除去剤の質量と、不純ガスの除去効率との関係を示すグラフ。
図4】変更例のエアフィルタを示す斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図1図3を参照して、燃料電池システム用エアフィルタ(以下、エアフィルタ)の一実施形態について説明する。
図1に示すように、燃料電池システムの燃料電池本体に空気を供給する通路には、空気に含まれる不純ガスを除去するエアフィルタ10が設けられている。
【0013】
エアフィルタ10は、例えばポリプロピレンなどの合成樹脂繊維からなる不織布によって形成された直方体シート状の基材11を備えている。
同図に拡大して示すように、エアフィルタ10の基材11、より詳しくは基材11を構成する不織布の繊維には、空気に含まれる二酸化硫黄や硫化水素などの硫黄系の不純ガスを除去するガス除去剤がバインダーを介して担持されている。
【0014】
本実施形態のガス除去剤は、上記不純ガスを酸化する粉状の酸化触媒12と、酸化触媒12の触媒作用によって生成された硫酸などを吸着する粉状の吸着剤13とからなる。本実施形態では、酸化触媒12及び吸着剤13とバインダーとの分散液を基材11に対して塗布することにより酸化触媒12及び吸着剤13を基材11に担持させている。酸化触媒12としては二酸化マンガンが好ましい。また、吸着剤13としては、活性炭が好ましい。バインダーとしてはアクリル樹脂が好ましい。本実施形態のガス除去剤では、酸化触媒と吸着剤との質量比が8:2である。
【0015】
次に、基材11に坦持されるガス除去剤の構成について詳細に説明する。
<酸化触媒12>
酸化触媒12の平均粒径は、4μm~5μmであることが好ましい。
【0016】
酸化触媒12の平均粒径が5μmよりも大きい場合には、上記分散液中において、酸化触媒12が分散されにくくなり、基材11に対して酸化触媒12を均一に担持させることが難しくなる。
【0017】
一方、酸化触媒12の平均粒径が4μmよりも小さい場合には、上記分散液中において、酸化触媒12の粒子同士が凝集しやすくなり、同粒子同士の凝集体の粒径が5μmよりも大きくなる。
【0018】
本実施形態の酸化触媒12の平均粒径は、5μmである。
<吸着剤13>
吸着剤13の平均粒径は、10μm~20μmであることが好ましい。
【0019】
吸着剤13の平均粒径が20μmよりも大きい場合には、基材11を構成する不織布の繊維径よりも大きくなり、基材11に吸着剤13が担持されにくくなる。なお、不織布の繊維径については後に詳述する。
【0020】
一方、吸着剤13の平均粒径が10μmよりも小さい場合には、市販の吸着剤13を入手することが困難となり、吸着剤13のコストが増大することとなる。
次に、エアフィルタ10の基材11の構成について詳細に説明する。
【0021】
<基材11の繊維表面積S>
基材11を構成する不織布の単位体積当たりの表面積である繊維表面積Sは、150m/m~700m/mであることが好ましい。
【0022】
基材11の繊維表面積Sが700m/mよりも大きい場合には、不織布の繊維径を5μm以下にする必要がある。ただし、不織布の繊維径が5μm以下の場合には、上述した酸化触媒12及び吸着剤13の平均粒径よりも繊維径が小さくなり、基材11に酸化触媒12及び吸着剤13を安定的に担持させることが難しい。
【0023】
基材11の繊維表面積Sが150m/mよりも小さい場合には、酸化触媒12及び吸着剤13を担持させる面積、すなわち塗布面積が小さくなり、不純ガスの所望の除去効率を得る上で必要な量の酸化触媒12及び吸着剤13を担持させることが難しい。
【0024】
本実施形態では、基材11の繊維表面積Sが155m/mである。
<基材11の繊維充填率R>
基材11を構成する不織布(繊維及び繊維間の空間を含む)の単位体積当たりの繊維の体積の割合である繊維充填率Rは、0.2~1%であることが好ましい。
【0025】
基材11の繊維充填率Rが1%よりも大きい場合には、基材11自体の圧力損失が高くなるとともに、担持される酸化触媒12及び吸着剤13が少量であっても圧力損失の増大が無視できなくなる。
【0026】
上述したように、基材11の繊維表面積Sを好ましい範囲(150m/m~700m/m)内に維持しつつ、基材11の繊維充填率Rを低く設定することが好ましい。
一方、繊維充填率Rが0.2%よりも小さい場合には、不織布の繊維径を5μm以下にする必要がある。ただし、不織布の繊維径が5μm以下の場合には、上述した酸化触媒12及び吸着剤13の平均粒径よりも繊維径が小さくなり、基材11に酸化触媒12及び吸着剤13を安定的に担持させることが難しいことは上述したとおりである。
【0027】
本実施形態では、基材11の繊維充填率が1%である。
<基材11の単位質量当たりのガス除去剤の質量N>
基材11の単位質量当たりのガス除去剤の質量Nは、1.6~3.4であることが好ましい。
【0028】
図2に、基材11の単位質量当たりのガス除去剤の質量Nと、エアフィルタの圧力損失ΔPとの関係を示す。
図3に、基材11の単位質量当たりのガス除去剤の質量Nと、不純ガスの除去効率Eとの関係を示す。
【0029】
図2及び図3において、本実施形態のエアフィルタ10、すなわちガス除去剤における酸化触媒12と吸着剤13との質量比が8:2であるエアフィルタ10の測定結果を実線L1にて示す。また、比較例のエアフィルタ、すなわちガス除去剤に吸着剤13が含まれていないエアフィルタの測定結果を破線L2にて示す。なお、比較例のエアフィルタのその他の構成は、本実施形態のエアフィルタ10と同一である。
【0030】
図2に示すように、基材11の単位質量当たりのガス除去剤の質量Nが0から3.4までの範囲内においては、圧力損失ΔPは同質量Nに略比例して大きくなる。また、上記質量Nが3.4よりも大きい範囲においては、圧力損失ΔPは同質量Nの増加に対して急激に増大するようになる。
【0031】
図3に実線L1にて示すように、基材11の単位質量当たりのガス除去剤の質量Nが0から1.6までの範囲内においては、不純ガスの除去効率Eは、同質量Nの増加に対して「0」から急激に上昇する。そして、上記質量Nが1.6となると、不純ガスの除去効率Eは、約92%となる。また、上記質量Nが1.6よりも大きい範囲においては、不純ガスの除去効率Eは、同質量Nの増加に対して緩やかに上昇するようになる。
【0032】
これらのことから、本実施形態では、上記質量Nが2.6である。
ところで、図3に破線L2にて示すように、上記質量Nが0から3までの範囲内においては、担持される酸化触媒12の量が多いことにより、破線L2の不純ガスの除去効率Eが実線L1よりも高い。
【0033】
ただし、酸化触媒12の触媒作用によって生成された硫酸などが、基材11に坦持された酸化触媒12の表面に滞留すると、酸化触媒12の触媒機能が低下し、エアフィルタ10による不純ガス除去性能が低下するおそれがある。これに対して、本実施形態のエアフィルタ10によれば、生成された硫酸などが基材11に坦持された吸着剤13により吸着されることで、上述した不純ガス除去性能の低下を抑制できる。
【0034】
次に、本実施形態の作用効果について説明する。
(1)エアフィルタ10は、不織布からなる基材11と、基材11に担持された酸化触媒12とを備えている。
【0035】
こうした構成によれば、空気が不織布からなる基材11を通過する際に、空気に含まれる二酸化硫黄や硫化水素などの硫黄系ガスが酸化触媒の触媒作用により酸化され、硫酸などが生成する。これにより、空気に含まれる二酸化硫黄や硫化水素などの不純ガスが除去される。
【0036】
ここで、上記構成によれば、基材11が不織布からなるため、基材11を簡単に製造することができる。したがって、簡単な構成で不純ガスを除去することができる。
(2)基材11には、吸着剤13が担持されている。
【0037】
こうした構成によれば、生成された硫酸などが基材11に坦持された吸着剤13により吸着される。したがって、上述した不純ガス除去性能の低下を抑制できる。
<変更例>
上記実施形態は、例えば以下のように変更して実施することもできる。本実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施することができる。
【0038】
・複数のエアフィルタ10を空気の流れ方向に積層した構成としてもよい。
・基材11に坦持させる酸化触媒12と吸着剤13との質量比を10:0~8:2の間で任意に変更することができる。すなわち、基材11に、吸着剤13が坦持されていない構成であってもよい。
【0039】
図4に示すように、エアフィルタ10の空気の流れ方向の上流側及び下流側に、補助フィルタ20,30をそれぞれ隣り合わせて設けることもできる。このとき、各補助フィルタ20,30を、エアフィルタ10と同一の不織布によって形成し、エアフィルタ10の基材11と同一の形状を有する基材21,31を備えた構成とすればよい。
【0040】
こうした構成によれば、エアフィルタ10は、2つの補助フィルタ20,30によって空気の流れ方向の両側から挟まれている。このため、補助フィルタ20,30によって、空気に含まれる塵埃を捕集したり、他部材との干渉からエアフィルタ10を保護することができる。
【符号の説明】
【0041】
10…エアフィルタ、20,30…補助フィルタ、11,21,31…基材、12…酸化触媒、13…吸着剤。
図1
図2
図3
図4