(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電動駆動装置
(51)【国際特許分類】
H02K 3/24 20060101AFI20240214BHJP
H02K 3/50 20060101ALI20240214BHJP
H02K 1/20 20060101ALI20240214BHJP
H02K 9/19 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H02K3/24 J
H02K3/50 A
H02K1/20 A
H02K9/19 A
(21)【出願番号】P 2019044302
(22)【出願日】2019-03-11
【審査請求日】2022-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 寛士
(72)【発明者】
【氏名】谷江 亮
【審査官】服部 俊樹
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/176107(WO,A1)
【文献】特開2010-268633(JP,A)
【文献】特開2000-069729(JP,A)
【文献】特開2002-078269(JP,A)
【文献】特開2001-161050(JP,A)
【文献】特開2016-063630(JP,A)
【文献】特開2017-073897(JP,A)
【文献】実開昭49-117405(JP,U)
【文献】特開2001-169491(JP,A)
【文献】実開平03-070056(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/24
H02K 3/04
H02K 3/50
H02K 7/116
H02K 5/22
H02K 1/20
B60K 17/16
B60K 17/04
H02K 9/19
B60K 17/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸(11)と一体に回転自在に設けられた回転子(12)と、固定子コア(31)及び多相の固定子巻線(32)を有する固定子(13)と、前記回転子及び前記固定子を収容する第1ハウジング(14)とを備える回転電機(10)と、
前記回転軸の回転に伴い回転可能な動力伝達部(61)と、前記動力伝達部を収容する第2ハウジング(63)とを備え、前記第2ハウジング内に、前記動力伝達部を潤滑する潤滑油が充填されている変速機(60)と、
を備え、前記回転電機における軸方向両側のうち一方の側において前記第1ハウジングに対して前記第2ハウジングが一体的に設けられている電動駆動装置(1)であって、
前記第1ハウジングは、前記回転子及び前記固定子を包囲する筒状部(15)と、その筒状部の軸方向一端側及び他端側にそれぞれ設けられた第1端板部(16)及び第2端板部(17)とを有し、前記第2端板部に前記第2ハウジングが組み付けられており、
軸方向において、前記第2
端板部を挟んで前記固定子の逆側が、前記第2ハウジング内で前記動力伝達部を潤滑する潤滑油が存在する油密部となっているのに対し、前記第1
端板部を挟んで前記固定子の逆側は油密部になっておらず、
前記固定子巻線は、同相となる導線が周方向に所定間隔で配置され、軸方向一端側の第1コイルエンド(33A)及び他端側の第2コイルエンド(33B)において、同相となる導線どうしが接続されており、当該導線どうしの接続部として、各相の前記導線が屈曲形成されたターン部(42)と、同相の前記導線の端部どうしが互いに接合された接合部(46)とを有しており、
前記接合部では、前記ターン部に比べて、前記固定子コアからの軸方向の突出寸法が大きくなっており、
前記第2コイルエンドに前記接合部が設けられ、前記第1コイルエンドには前記接合部が設けられておらず、
前記回転電機が、前記第2コイルエンドを前記変速機の側、前記第1コイルエンドを前記変速機の逆側として前記変速機に一体化されている電動駆動装置。
【請求項2】
前記固定子巻線は、前記導線として、一対の直線部(41)と、その一対の直線部を繋ぐ前記ターン部とを有する複数の導体セグメント(40)を用い、前記直線部において前記ターン部とは逆側の端部を、異なる前記導体セグメントどうしで接合することで形成されており、
前記直線部の端部どうしが接合された部分が、前記第2コイルエンドにおける前記接合部である請求項1に記載の電動駆動装置。
【請求項3】
前記接合部において、前記導線の端部どうしが溶接により接合されている請求項1又は2に記載の電動駆動装置。
【請求項4】
前記固定子巻線は、前記第2コイルエンド側に、前記固定子巻線における各相の相巻線の一端が互いに接続された中性点接続部(51)を有している請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【請求項5】
前記固定子巻線における各相の相巻線には、それら各相巻線に対して電力を入出力させるバスバー(52)が接続されており、前記バスバーが前記第2コイルエンド側に設けられている請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【請求項6】
前記導線として平角導線が用いられている請求項1乃至5のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【請求項7】
前記第1ハウジングは、前記固定子コアが組み付けられる筒状部(15)を有し、
前記筒状部には、冷媒を流通させる環状の冷媒通路(24)が設けられており、
前記冷媒通路の通路開口は、前記第2コイルエンド側において軸方向に前記固定子コアよりも前記変速機側に延びるように設けられており、前記通路開口において前記第2コイルエンド側で前記固定子コアよりも軸方向外側に延びる長さは、前記第1コイルエンド側で前記固定子コアよりも軸方向外側に延びる長さより大きい請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【請求項8】
前記変速機は、前記回転電機における前記回転軸の回転を入力し前記動力伝達部に伝える回転入力部(64)を有しており、
前記第2ハウジング内には、前記動力伝達部の一部を浸漬させ、かつ前記回転入力部を浸漬させない状態とする量の潤滑油が充填されている請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【請求項9】
前記回転電機は、前記固定子巻線における各相の相巻線に対して電力を入出力させる電力端子(53)を備え、
前記第1ハウジングにおいて前記固定子コアよりも前記変速機側の位置に、前記電力端子を挿通させる挿通孔(54)が形成されている請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【請求項10】
車両における左右の各車輪の回転動力を生じさせる動力装置として用いられる電動駆動装置であって、
前記第2ハウジング内に、前記各車輪に繋がる一対の出力軸(65A,65B)に連結された状態でディファレンシャル装置(62)が設けられている請求項1乃至9のいずれか1項に記載の電動駆動装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転電機と変速機とを備える電動駆動装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば車両用の電動駆動装置として、回転電機と変速機とを一体化したものが知られている(特許文献1参照)。こうした電動駆動装置では、出力性能の向上や、車両等への搭載時における搭載性を高めるための小型化を実現すべく技術革新が図られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、回転電機と変速機とを一体化した電動駆動装置では、回転電機で生じた熱が変速機側に伝わり、その熱により、変速機で用いられている潤滑油が劣化することが懸念される。例えば、電動駆動装置において出力性能の向上を図るべく、固定子巻線の通電電流の増加等により出力密度を増加させようとすると、回転電機での発熱量の問題が顕著になると考えられる。上記特許文献1に開示された駆動装置では、回転電機の発熱に起因する潤滑油の劣化に関して何ら対策が施されておらず、潤滑油の劣化に伴う性能低下が懸念される。なお、回転電機や変速機に冷却部を新たに追加したり放熱構造を付加したりすることによる熱対策も考えられるが、こうした対策では電動駆動装置の大型化を招くことが懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、大型化を抑制しつつ変速機での潤滑油の熱劣化を抑制することができる電動駆動装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
以下、上記課題を解決するための手段、及びその作用効果について説明する。
【0007】
手段1は、
回転軸と一体に回転自在に設けられた回転子と、固定子コア及び多相の固定子巻線を有する固定子と、前記回転子及び前記固定子を収容する第1ハウジングとを備える回転電機と、
前記回転軸の回転に伴い回転可能な動力伝達部と、前記動力伝達部を収容する第2ハウジングとを備え、前記第2ハウジング内に、前記動力伝達部を潤滑する潤滑油が充填されている変速機と、
を備え、前記回転電機における軸方向両側のうち一方の側において前記第1ハウジングに対して前記第2ハウジングが一体的に設けられている電動駆動装置であって、
前記固定子巻線では、同相となる導線が周方向に所定間隔で配置され、軸方向一端側の第1コイルエンド及び他端側の第2コイルエンドにおいて、同相となる導線どうしが接続されており、
前記第1コイルエンドには、各相の前記導線を屈曲形成したターン部が設けられ、
前記第2コイルエンドには、同相の前記導線の端部どうしが互いに接合された接合部が設けられており、
前記回転電機が、前記第2コイルエンドを前記変速機の側、前記第1コイルエンドを前記変速機の逆側として前記変速機に一体化されている。
【0008】
本手段の電動駆動装置は、回転電機と変速機とを備えており、回転電機において第1ハウジング内に回転子及び固定子が収容されている一方で、変速機において第2ハウジング内に動力伝達部が収容されている。また、回転電機の第1ハウジングには、回転電機における軸方向両側のうち一方の側に変速機の第2ハウジングが一体的に設けられており、その第2ハウジング内に、動力伝達部を潤滑する潤滑油が充填されている。ここで、第1ハウジング及び第2ハウジングを一体的に設けた構成では、回転電機で発生する熱に起因して、第2ハウジング内の潤滑油の温度が上昇し、潤滑油の劣化が生じることが懸念される。
【0009】
この点上記構成では、回転電機の固定子巻線において、軸方向一端側の第1コイルエンドには、各相の導線が屈曲形成されたターン部が設けられ、軸方向他端側の第2コイルエンドには、同相の導線の端部どうしが互いに接合された接合部が設けられている。そして、回転電機が、第2コイルエンドを変速機の側、第1コイルエンドを変速機の逆側として変速機に一体化されている。この場合、第1コイルエンドと第2コイルエンドでは、導線を周方向に繋ぐ構造の違いにより軸方向の突出寸法が相違しており、導線どうしの接合部を有する側の第2コイルエンドでは、各相の導線が屈曲形成された第1コイルエンドに比べて軸方向の突出寸法が大きくなっている。そのため、第2コイルエンドを変速機の側として回転電機を変速機に一体化した構成では、その逆に第1コイルエンドを変速機の側として回転電機を変速機に一体化した構成に比べて、変速機に対して固定子(詳しくは固定子コア)を離して配置することができる。またこの場合、固定子の軸方向長さを同一にしたまま、すなわち回転電機の軸長を大きくすることなく、固定子を変速機から離して配置することが可能となる。その結果、電動駆動装置において大型化を抑制しつつ変速機での潤滑油の熱劣化を抑制することができる。
【0010】
手段2では、手段1において、前記固定子巻線は、前記導線として、一対の直線部と、その一対の直線部を繋ぐ前記ターン部とを有する複数の導体セグメントを用い、前記直線部において前記ターン部とは逆側の端部を、異なる前記導体セグメントどうしで接合することで形成されており、前記直線部の端部どうしが接合された部分が、前記第2コイルエンドにおける前記接合部である。
【0011】
固定子巻線として、一対の直線部と、その一対の直線部を繋ぐターン部とを有する複数の導体セグメントを用いた構成では、第2コイルエンドに、導体セグメントにおける直線部の端部どうしが接合された接合部が設けられる。この場合、導体セグメントの接合部では、各直線部の端部において絶縁被膜から露出した導体露出部どうしが重ね合わされた状態で互いに接合されることで、ターン部側と比べて、コイルエンドにおける軸方向突出量が大きくなる。そのため、第2コイルエンドを変速機の側として回転電機を変速機に一体化した構成において、変速機に対して固定子を離して配置する構成を好適に実現することができる。
【0012】
なお、固定子において導体セグメントを用いて固定子巻線を構成する場合には、固定子でのコイル占積率の向上を見込むことができ、電流出力密度の向上に伴う発熱量の増加が懸念される。この点、上記のとおり固定子を変速機から離して配置することで、変速機での潤滑油の熱対策を好適に実施することができる。
【0013】
手段3では、手段1又は2において、前記接合部において、前記導線の端部どうしが溶接により接合されている。
【0014】
固定子巻線の導線の端部どうしが溶接により接合されている構成では、例えば溶接作業時における絶縁距離の確保が強いられることにより、固定子コアから溶接部分(接合部)までの離間距離が大きくなる傾向にある。そのため、やはり固定子を変速機から離して配置でき、変速機での潤滑油の熱対策を好適に実施することができる。
【0015】
手段4では、手段1乃至3のいずれか1つにおいて、前記固定子巻線は、前記第2コイルエンド側に、前記固定子巻線における各相の相巻線の一端が互いに接続された中性点接続部を有している。
【0016】
固定子巻線が中性点接続部を有する構成において、その中性点接続部が第2コイルエンド側、すなわち変速機の側に設けられていることにより、中性点接続部の軸方向の長さ分、固定子が変速機から離して配置されることとなる。これにより、変速機での潤滑油の熱対策を好適に実施することができる。
【0017】
手段5では、手段1乃至4のいずれか1つにおいて、前記固定子巻線における各相の相巻線には、それら各相巻線に対して電力を入出力させるバスバーが接続されており、前記バスバーが前記第2コイルエンド側に設けられている。
【0018】
固定子巻線における各相の相巻線にバスバーが接続されている構成において、そのバスバーが第2コイルエンド側、すなわち変速機の側に設けられていることにより、バスバーの軸方向の長さ分、固定子が変速機から離して配置されることとなる。これにより、変速機での潤滑油の熱対策を好適に実施することができる。
【0019】
手段6では、手段1乃至5のいずれか1つにおいて、前記導線として平角導線が用いられている。
【0020】
固定子巻線の導線として平角導線が用いられている構成では、固定子における導体占積率を増加させ電流量を増加させることで、回転電機の出力密度を増加させることが可能となる。ただしその反面、高出力密度化により回転電機の体積あたり発熱量が増加し、変速機の潤滑油について熱劣化の懸念が大きくなる。この点、上記のとおり熱対策を付加したため、回転電機での出力性能の向上を図りつつも変速機での潤滑油の熱劣化を好適に抑制することができる。
【0021】
手段7では、手段1乃至6のいずれか1つにおいて、前記第1ハウジングは、前記固定子コアが組み付けられる筒状部を有し、前記筒状部には、冷媒を流通させる環状の冷媒通路が設けられており、前記冷媒通路の通路開口は、前記第2コイルエンド側において軸方向に前記固定子コアよりも前記変速機側に延びるように設けられており、前記通路開口において前記第2コイルエンド側で前記固定子コアよりも軸方向外側に延びる長さは、前記第1コイルエンド側で前記固定子コアよりも軸方向外側に延びる長さより大きい。
【0022】
固定子コアが第1ハウジングの筒状部に組み付けられる構成では、固定子で生じた熱は筒状部を経由して変速機側に伝達される。この場合、筒状部に冷媒通路が設けられていることにより、固定子側から変速機側への熱の伝わりが抑制される。また特に、冷媒通路の通路開口において第2コイルエンド側で固定子コアよりも軸方向外側に延びる長さを、第1コイルエンド側で固定子コアよりも軸方向外側に延びる長さよりも大きくしたため、固定子側から変速機側への熱の伝わりを効率よく抑制できるとともに、通路容積を過剰に大きくすることなく適切な冷却を行うことができる。
【0023】
手段8では、手段1乃至7のいずれか1つにおいて、前記変速機は、前記回転電機における前記回転軸の回転を入力し前記動力伝達部に伝える回転入力部を有しており、前記第2ハウジング内には、前記動力伝達部の一部を浸漬させ、かつ前記回転入力部を浸漬させない状態とする量の潤滑油が充填されている。
【0024】
上記構成の電動駆動装置は、変速機の第2ハウジング内において一部の構成のみが潤滑油に浸漬される状態で用いられるものとなっており、動力伝達部の少なくとも一部が浸漬され、かつ回転入力部が浸漬されない状態とする量の潤滑油が充填されるようになっている。この場合、回転入力部は、ギア等を含む動力伝達部よりも、回転電機からの熱により高温になりやすいが、その回転入力部が潤滑油に浸漬されないことで、潤滑油の熱劣化が生じにくくなっている。
【0025】
手段9では、手段1乃至8のいずれか1つにおいて、前記回転電機は、前記固定子巻線における各相の相巻線に対して電力を入出力させる電力端子を備え、前記第1ハウジングにおいて前記固定子コアよりも前記変速機側の位置に、前記電力端子を挿通させる挿通孔が形成されている。
【0026】
回転電機の第1ハウジングにおいて固定子コアよりも変速機側に挿通孔が形成され、その挿通孔に電力端子が挿通させている構成では、その挿通孔により、固定子側から変速機側への熱の伝わりを抑制することができる。
【0027】
第1ハウジングには周方向の全周のうち一部分に挿通孔が設けられているが、その挿通孔は、電動駆動装置の設置状態で、第2ハウジング内に充填されている潤滑油の上面よりも下方となる位置に設けられているとよい。例えば第1ハウジングにおいて鉛直方向下側となる位置に設けられているとよい。これにより、回転電機の第1ハウジングから第2ハウジング内の潤滑油への熱の伝わりが抑制される。
【0028】
手段10では、手段1乃至9のいずれか1つにおいて、車両における左右の各車輪の回転動力を生じさせる動力装置として用いられる電動駆動装置であって、前記第2ハウジング内に、前記各車輪に繋がる一対の出力軸に連結された状態でディファレンシャル装置が設けられている。
【0029】
変速機の第2ハウジング内にディファレンシャル装置が設けられている場合には、変速機内において潤滑油への熱負荷が増大する。この場合、潤滑油の熱対策が一層重要になるが、上記のとおり変速機に対して固定子を離して配置することで、変速機での潤滑油の熱劣化を適正に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図2】固定子コアに導体セグメントを挿入する状態を示す説明図。
【
図3】固定子コアに導体セグメントが組み付けられた状態を示す正面展開図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態における電動駆動装置は、例えば車両動力源としての回転電機を備えるものとなっている。ただし、電動駆動装置は、産業用、車両用、船舶用、航空機用、家電用などとして広く用いられることが可能となっている。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一又は均等である部分には、図中、同一符号を付しており、同一符号の部分についてはその説明を援用する。
【0032】
本実施形態に係る電動駆動装置1は、回転電機10と変速機60とを一体的に設けることで構成されている。
図1は、電動駆動装置1の縦断面を示す縦断面図である。回転電機10は、インナロータ式(内転式)の多相交流モータであり、例えば同期モータ又は誘導モータである。以下の記載では、回転電機10の回転軸11の延びる方向を軸方向とし、回転軸11を中心とする放射状の方向を径方向とし、回転軸11を中心とする円周状の方向を周方向としている。
【0033】
回転電機10は、回転軸11に一体回転可能に設けられた回転子12と、回転子12を包囲する位置に設けられた固定子13と、これら回転子12及び固定子13を収容するハウジング14とを備えている。回転子12及び固定子13は、径方向に互いに対向した状態で同軸に配置されている。ハウジング14は、回転子12及び固定子13を周方向と軸方向両側とから包囲するように設けられており、具体的には、回転子12及び固定子13を周方向から包囲する筒状部15と、その筒状部15の軸方向一端側及び他端側にそれぞれ設けられた端板16,17とを有している。端板16,17は、ボルト等からなる不図示の締結具により筒状部15に対して固定されている。端板16,17のうち、端板16が変速機60とは逆側のハウジング端部、端板17が変速機60側のハウジング端部となっている。
【0034】
なお、筒状部15は、軸方向両側に開口する筒状をなしており、その両端が端板16,17によりそれぞれ閉塞されているが、これに代えて、筒状部15が軸方向一方側に開口する有底筒状をなし、その開口端側が端板16又は端板17により閉塞されている構成であってもよい。
【0035】
ハウジング14の端板16,17において、一方の端板16には軸受21が固定され、他方の端板17にはボス18を介して軸受22が固定されている。これら軸受21,22により回転軸11及び回転子12が回転自在に支持されている。回転軸11は、端板16,17の中心部を貫通するようにして設けられている。
【0036】
回転子12は、周知のとおり例えば、複数の電磁鋼板が軸方向に積層されてなり回転軸11に固定された回転子コアと、その回転子コアに保持された複数の永久磁石とを有している。また、固定子13は、円環状の固定子コア31と、固定子コア31に巻装状態で一体化された多相の固定子巻線32とを備えている。固定子コア31は、円環状の複数の電磁鋼板を軸方向に積層し、カシメ等により固定することで構成されている。固定子巻線32は、例えば3相巻線であり、U相巻線、V相巻線及びW相巻線が星形結線(Y結線)されることで構成されている。固定子13は、回転子12の径方向外側に所定のエアギャップを隔てて対向配置されている。固定子巻線32の軸方向両端は、それぞれコイルエンド33A,33Bとなっている。
【0037】
固定子13は、固定子コア31がハウジング14の筒状部15の内周側に嵌め込まれた状態で、ハウジング14に対して固定されている。固定子コア31は、筒状部15に焼嵌め、圧入などの手段により締め代をもって固定されているとよい。
【0038】
筒状部15には、冷媒を流通させる環状の冷媒通路24が設けられている。冷媒通路24は、不図示の入口部と出口部との間において冷媒が周方向に流れるように設けられている。なお、冷却水を冷媒として用いる以外に、潤滑油などの液体を冷媒として用いることが可能である。冷媒通路24は、軸方向において固定子コア31と径方向内外に重複する位置に設けられている。
【0039】
上記構成の回転電機10は、不図示のインバータや制御部により固定子巻線32の通電状態が制御されるようになっており、その通電制御により、力行時及び発電時のトルクが制御される。
【0040】
本実施形態では、固定子13の構成として、複数の導体セグメントを用いたセグメントコイル構造を採用しており、以下にその構成を説明する。
図2は、固定子コア31に導体セグメント40を挿入する状態を示す説明図であり、
図3は、固定子コア31に導体セグメント40が組み付けられた状態を示す正面展開図である。なお、
図3には、説明の便宜上、3相のうち1相の導体セグメント40のみを示している。
【0041】
図2に示すように、固定子コア31は、円環状のバックコア35と、バックコア35から径方向内側に突出する複数のティース36とを有し、隣り合うティース36の間に、周方向並ぶ複数のスロット37が形成されている。各スロット37は、周方向に所定個ずつ(例えば2個ずつ)繰り返し配置されたU相スロット、V相スロット及びW相スロットよりなる。スロット37は、固定子コア31の径方向を長手として延びる開口形状をなし、そのスロット長手方向、すなわち径方向に複数の導体セグメント40を並べて配置可能となっている。
【0042】
導体セグメント40は、略U字状をなし、一対の直線部41と、一対の直線部41どうしを繋ぐように屈曲形成されたターン部42とを有している。一対の直線部41は、固定子コア31の軸方向の厚さよりも大きい長さを有している。ターン部42は、固定子コア31の端面に対して所定の角度で傾斜した一対の傾斜部43を有している。導体セグメント40は、横断面が矩形状をなす導体(対向する一対の平面部を有する導体)を絶縁被膜により被覆した平角導線を用いて構成され、略U字形状に塑性変形させることで形成されている。
【0043】
固定子コア31には、複数の導体セグメント40が径方向に一列に並べられた状態でスロット37内に挿入されている。導体セグメント40の一対の直線部41は、それぞれスロット37内における径方向位置が異なり、一方の直線部41が径方向にn番目の層に配置されるとともに、他方の直線部41がn+1番目の層に配置される。また、固定子コア31には、例えば周方向に隣接して同相の2個ずつのスロット37A,37Bが設けられ、そのスロット37A,37Bには、2個1組の導体セグメント40A,40Bが挿入配置される。この場合、2個の導体セグメント40A,40Bの各々の直線部41は、周方向に1スロットずつずらしながら、1磁極ピッチ離れた各スロット37に挿入される。なお、スロット37内には、固定子コア31と導体セグメント40との間を電気絶縁する絶縁シート38が設けられている。
【0044】
図3に示すように、固定子コア31には、導体セグメント40が周方向に並べて配置されており、固定子コア31の軸方向両端のうち一方側がコイルエンド33A、他方側がコイルエンド33Bとなっている。このうちコイルエンド33Aは、導体セグメント40のターン部42により形成されている。また、コイルエンド33Bは、導体セグメント40の一対の直線部41においてターン部42とは逆側の端部を、異なる導体セグメント40どうしで接合することで形成されている。
【0045】
コイルエンド33Bについてより詳しくは、導体セグメント40において、固定子コア31から軸方向外側へ延出した一対の直線部41の端部が、固定子コア31の端面に対して所定の角度をもって斜めに斜行するように互いに周方向反対側へ捻られ、略半磁極ピッチ分の長さの捻り部45が形成されている。そして、導体セグメント40の2つずつの捻り部45の端部どうしが溶接により接合されることで、接合部46が形成されている。接合部46では、各導体セグメント40の端部が、絶縁被膜から露出した導体露出部47となっており、その導体露出部47どうしが重ね合わされた状態で互いに接合されている。接合部46では、捻り部45よりも導体セグメント40が軸方向に平行となる向き(例えば軸方向に平行な向き)で設けられている。
【0046】
このように固定子コア31に複数の導体セグメント40が組み付けられ、その導体セグメント40どうしが所定のパターンで接続されることにより、固定子コア31に固定子巻線32が巻装された状態となっている。コイルエンド33Aが第1コイルエンドに相当し、コイルエンド33Bが第2コイルエンドに相当する。
【0047】
ここで、コイルエンド33A,33Bを比べると、導体セグメント40を用いた巻線構造に起因して、各コイルエンド33A,33Bで固定子コア31の軸方向端面からの軸方向の突出寸法が相違している。具体的には、コイルエンド33Aの突出寸法をH1、コイルエンド33Bの突出寸法をH2とすると、それらはH1<H2となっている。
【0048】
つまり、上述したとおりコイルエンド33Aは、導体セグメント40のターン部42により形成されているのに対し、コイルエンド33Bは、導体セグメント40の各直線部41の端部どうしを接合することで形成されている。この場合、コイルエンド33Bでは、導体セグメント40の各直線部41の端部どうしを重ね合わせることや、その状態で溶接等の作業が必要になること等により、コイルエンド33Aに比べて軸方向の突出寸法(軸長)が大きくなっている。接合手段として溶接を用いる場合には特に、溶接作業時に固定子コア31からの絶縁距離を確保する必要があることや、セグメント端部での溶接代を確保する必要があることから、その突出寸法が大きくなることが考えられる。
図1で言えば、左右方向が軸方向であり、その軸方向において右側がコイルエンド33A、左側がコイルエンド33Bとなっている。
【0049】
図4(a)~(c)は、コイルエンド33Bの構成を示す斜視図である。
図4(a)に示すように、各導体セグメント40により形成される接合部46は、互いに離間し、かつ周方向及び径方向のそれぞれに整列した状態で設けられている。かかる構成において、
図4(b)に示すように、各接合部46に対して個別に、絶縁材料(合成樹脂)により形成される絶縁被膜48を設ける構成としてもよい。また、
図4(c)に示すように、各接合部46をまとめて樹脂モールドして環状の絶縁層49を形成する構成としてもよい。
【0050】
また、
図1において、コイルエンド33B側(図の軸方向左側)には、固定子巻線32における各相の相巻線の端部が互いに接続された中性点接続部51が設けられている。中性点接続部51では、例えば、各相の相巻線の端部が重ね合わされた状態で溶接により互いに接合されている。
【0051】
また、同じくコイルエンド33B側には、各相の相巻線に対して電力を入出力させるバスバー52が設けられている。バスバー52は、各相の相巻線ごとに設けられ、相ごとに相巻線の端部に接続されている。なお、相ごとの各バスバー52を樹脂モールド等により一体化し、バスバーモジュールとして構成することも可能である。各相のバスバー52は、固定子巻線32に対する電力の入出力を行わせる電力端子53に接続されている。
【0052】
電力端子53は、ハウジング14の筒状部15に設けられた挿通孔54を通じてハウジング外に引き出され、不図示の電力ハーネスに接続されるようになっている。電力端子53は、例えば3相分の電力経路を横並びに配置して構成されており、その電力端子53を挿通させるべく、挿通孔54も横長に形成されている。本実施形態では、ハウジング14の筒状部15において、周方向が長手となる向きで挿通孔54が形成されている。なお、挿通孔54には電力端子53との隙間を埋めるシール材が充填されている。
【0053】
電動駆動装置1は、車両における左右の各車輪の回転動力を生じさせる動力装置として用いられるものであり、回転電機10で生じる動力は、変速機60を介して車両の車輪側に伝達され、その動力により車両の走行が可能となっている。特に本実施形態では、変速機60にディファレンシャル装置を設け、そのディファレンシャル装置により左右の車輪に対する動力配分を可能とする構成としている。
【0054】
図1に示すように、変速機60は、回転電機10の動力を伝達する動力伝達部61と、ディファレンシャル装置62と、それらを収容するハウジング63とを有している。ハウジング63内には、動力伝達部61及びディファレンシャル装置62を潤滑する潤滑油Lbが充填されている。ハウジング63内には、その容積の一部となる量の潤滑油Lbが充填されている。ハウジング63は、軸方向一方側に平板状の端板部63aを有しており、その端板部63aと回転電機10の端板17とが当接した状態で、ボルト等の締結具により互いに結合されることにより、回転電機10と変速機60とが一体化されている。
【0055】
本実施形態では、変速機60において、回転電機10の回転軸11に一体に設けられた回転入力部64から回転電機10の回転が入力され、その回転が、動力伝達部61及びディファレンシャル装置62を介して左右一対の出力軸65A,65Bから出力される構成となっている。回転入力部64(回転軸11)の回転は、減速又は増速されて各出力軸65A,65Bから出力される。各出力軸65A,65Bの回転により左右の各車輪が回転する。なお
図1には、回転電機10と変速機60とが同軸であり、出力軸65A,65Bのうち一方の出力軸65Aが、回転軸11の中空部11a内を貫通して設けられる構成が概略的に示されている。
【0056】
詳細な図示は省略するが、回転電機10及び変速機60の結合部分において、回転軸11は、回転電機10及び変速機60の各ハウジング14,63に設けられた孔に挿通されており、各ハウジング14,63の孔内周面と回転軸11の外周面との間に設けられた摺動シール等のシール部材により、回転電機10側と変速機60側とを遮断した状態で回転可能となっている。
【0057】
本実施形態では、
図1に示すように、回転軸11が水平方向に延びる向きとなるようにして回転電機10が車両等に搭載されることを想定しており、変速機60のハウジング63内には、動力伝達部61の一部を浸漬させ、かつ回転入力部64を浸漬させない状態とする量の潤滑油Lbが充填されている。この場合、車両の加減速に伴う油面の変化を考慮し、車両の加減速に伴う油面の上昇時にも回転入力部64が浸漬されないように油量が調整されているとよい。なお、ハウジング63には、潤滑油Lbの量を調整可能とする油抜き孔が設けられているとよい。
【0058】
ここで、変速機60の構成例を、
図5の概略図を用いて説明する。
図5に示す変速機60では、動力伝達部61としてダブルピニオン式の遊星歯車機構70を用いる構成としている。遊星歯車機構70は、内歯を有するリングギア71と、外歯を有するサンギア72と、互いに同軸に設けられた一対のピニオンギア73,74と、その一対のピニオンギア73,74を回転可能に支持するキャリア75とを有している。リングギア71は、ハウジング63に固定されている。サンギア72は、回転電機10の回転軸11に一体化された回転入力部64として設けられているとよい。一対のピニオンギア73,74は、一方がリングギア71に噛み合い、他方がサンギア72に噛み合う構成となっている。各ピニオンギア73,74はそれぞれ複数個ずつ設けられていてもよい。キャリア75は、ディファレンシャル装置62のデフケース81に固定されている。
【0059】
なお、回転入力部64をスプラインにより構成し、そのスプラインにサンギア72を固定する構成であってもよい。
【0060】
また、ディファレンシャル装置62は、デフケース81と、デフケース81内に設けられた複数のピニオンギア82と、同じくデフケース81内に設けられ、スプライン嵌合や圧入等により左右の出力軸65A,65Bにそれぞれ結合されている一対のサイドギア83とを備えている。
【0061】
変速機60において、回転軸11は軸受85により回転可能に支持され、キャリア75は軸受86により回転可能に支持され、デフケース81は軸受87により回転可能に支持されている。
【0062】
上記構成の変速機60では、回転軸11の回転時(回転子12の回転時)に、サンギア72の回転に応じて各ピニオンギア73,74が回転するとともに、そのピニオンギア73,74の回転に伴いキャリア75と共にデフケース81が一体回転する。このとき、回転軸11の回転が遊星歯車機構70にて定められた所定の減速比で減速され、減速後の回転速度でデフケース81と共に左右の各出力軸65A,65Bが回転する。なお、例えば車両のコーナ走行時において、左右の各出力軸65A,65Bで回転速度差が生じる場合には、ディファレンシャル装置62により左右の動力の振分が適宜行われる。
【0063】
本実施形態の電動駆動装置1では、変速機60において回転電機10で生じた熱に起因する潤滑油Lbの熱劣化が懸念されるため、潤滑油Lbの熱劣化対策が施されており、以下にはその対策について説明する。
【0064】
上述したとおり、回転電機10の固定子13では、軸方向一方側及び他方側のコイルエンド33A,33Bにおいて、固定子コア31の軸方向端面からの軸方向の固定子巻線32の突出寸法が相違しており、コイルエンド33Bでは、コイルエンド33Aに比べて軸方向の突出寸法(軸長)が大きくなっている。そのため、
図1に示すように、コイルエンド33Bを変速機60側(図の左側)、コイルエンド33Aを変速機60の逆側(図の右側)にして回転電機10を変速機60に組み付けた構成では、その逆にコイルエンド33Aを変速機60側にした構成と比べて、固定子コア31から変速機60までの離間距離が大きくなっている。
【0065】
より具体的には、コイルエンド33Bには、導体セグメント40の端部どうしが接合された接合部46が設けられている。この場合、導体セグメント40の接合部46では、導体露出部47どうしが重ね合わされた状態で互いに接合されていることから、ターン部42側(コイルエンド33A側)と比べて、固定子巻線32の軸方向突出量が大きくなっている。
【0066】
また、導体セグメント40の端部どうしが溶接により接合されているため、例えば熱の影響を考慮して導線長を長くすることにより、固定子コア31から溶接部分(接合部46)までの離間距離が大きくなり、やはり固定子巻線32の軸方向突出量が大きくなっている。
【0067】
また上記以外に、
図1に示す回転電機10では、固定子コア31から変速機60までの離間距離を大きくすることに貢献する構成として、コイルエンド33B側に、固定子巻線32の中性点接続部51が設けられるとともに、各相の相巻線に接続されたバスバー52が設けられている。
【0068】
固定子巻線32への通電に伴う発熱により固定子13が高温になると、その熱が固定子コア31からハウジング14に伝わり、そのハウジング14を介して変速機60側に伝達されると考えられるが、固定子コア31から変速機60までの離間距離を大きくしたことにより、変速機60に対する伝熱量の低減を図ることができる。この場合、回転電機10においてコイルエンド33Bを変速機60側にする構成と、その逆にコイルエンド33Aを変速機60側にする構成(コイルエンド33Bを反変速機側にする構成)とは、回転電機10としての軸長を変えるものではなく、回転電機10の大型化が回避できるものとなっている。
【0069】
また、筒状部15に設けられた冷媒通路24では、軸方向に見てその通路開口が固定子コア31よりも外側に拡張されており、固定子コア31よりも軸方向外側にはみ出たはみ出し量が、コイルエンド33A側とコイルエンド33B側とで異なっている。
図1において、コイルエンド33A側のはみ出し量D1と、コイルエンド33B側のはみ出し量D2とを比べると、D1<D2となっている。言うなれば、冷媒通路24の通路開口は、コイルエンド33B側において軸方向に固定子コア31よりも変速機60側に延びるように設けられており、通路開口においてコイルエンド33B側で固定子コア31よりも軸方向外側に延びる長さが、コイルエンド33A側で固定子コア31よりも軸方向外側に延びる長さより大きくなっている。なお、コイルエンド33B側でのみ、通路開口が固定子コア31よりも軸方向外側にはみ出ている構成としてもよい。
【0070】
この場合、固定子13で生じた熱は筒状部15を経由して変速機60側に伝達され、その際、筒状部15に冷媒通路24が設けられていることにより、固定子13側から変速機60側への熱の伝わりが抑制される。また特に、冷媒通路24の通路開口において、コイルエンド33B側のはみ出し量D2がコイルエンド33A側のはみ出し量D1よりも大きいため、固定子13側から変速機60側への熱の伝わりが効率よく抑制されるとともに、通路容積が過剰に大きくなることなく適切な冷却が行われる。
【0071】
さらに、回転電機10のハウジング14には、固定子コア31よりも変速機60側に挿通孔54が設けられているため、その挿通孔54により、固定子13側から変速機60側への熱の伝わりが阻害される。
この場合、ハウジング14の筒状部15には周方向の全周のうち一部分に挿通孔54が設けられているが、その挿通孔54は、電動駆動装置1の設置状態で、ハウジング63内に充填されている潤滑油Lbの上面よりも下方となる位置に設けられているとよい。例えばハウジング14において鉛直方向下側となる位置に設けられているとよい。これにより、回転電機10のハウジング14からハウジング63内の潤滑油Lbへの熱の伝わりが抑制される。
【0072】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0073】
回転電機10の固定子巻線32において一方のコイルエンド33Aに、各相の導線が屈曲形成されたターン部42を設けるとともに、他方のコイルエンド33Bに、同相の導線の端部どうしが互いに接合された接合部46を設け、コイルエンド33Bを変速機60側、コイルエンド33Aを変速機60の逆側として、回転電機10を変速機60に一体化する構成とした。この場合、各コイルエンド33A,33Bでは、導線を周方向に繋ぐ構造の違いにより軸方向の突出寸法が相違しており、導線どうしの接合部46を有する側のコイルエンド33Bでは、各相の導線が屈曲形成されたコイルエンド33Aに比べて軸方向の突出寸法が大きくなっている。そのため、コイルエンド33Bを変速機60側として回転電機10を変速機60に一体化した構成では、その逆にコイルエンド33Aを変速機60側として回転電機10を変速機60に一体化した構成に比べて、変速機60に対して固定子13(詳しくは固定子コア31)を離して配置することができる。またこの場合、固定子13の軸方向長さを同一にしたまま、すなわち回転電機10の軸長を大きくすることなく、固定子13を変速機60から離して配置することが可能となる。その結果、電動駆動装置1において大型化を抑制しつつ変速機60における潤滑油の熱劣化を抑制することができる。
【0074】
固定子巻線32として、一対の直線部41とターン部42とを有する複数の導体セグメント40を用い、コイルエンド33Bに、導体セグメント40における直線部41どうしの接合部46を含ませる構成とした。この場合、コイルエンド33Bを変速機60側として回転電機10を変速機60に一体化した構成において、変速機60に対して固定子13を離して配置する構成を好適に実現することができる。
【0075】
なお、固定子13において導体セグメント40を用いて固定子巻線32を構成する場合には、固定子13でのコイル占積率の向上を見込むことができ、電流出力密度の向上に伴う発熱量の増加が懸念される。この点、上記のとおり固定子13を変速機60から離して配置することで、変速機60での潤滑油の熱対策を好適に実施することができる。
【0076】
接合部46において、導線の端部どうしが溶接により接合されている構成としたため、溶接接合を行う上で必要となる軸方向の導線長を利用しつつ、固定子13を変速機60から離して配置した構成を好適に実現できる。
【0077】
固定子巻線32において、接合部46を絶縁材料により被覆する構成とした。これにより、コイルエンド33Bでの各導線の絶縁性能が向上するとともに、コイルエンド33Bから変速機60側への伝熱が抑制される。
【0078】
固定子巻線32の中性点接続部51をコイルエンド33B側に設ける構成とした。また、各相の相巻線に対して電力を入出力させるバスバー52をコイルエンド33B側に設ける構成とした。これらの構成により、固定子13が変速機60から離して配置されることとなり、変速機60での潤滑油の熱対策を好適に実施することができる。
【0079】
固定子巻線32の導線として平角導線が用いられている構成では、固定子13における導体占積率を増加させ電流量を増加させることで、回転電機10の出力密度を増加させることが可能となる。ただしその反面、高出力密度化により回転電機10の体積あたり発熱量が増加し、変速機60の潤滑油について熱劣化の懸念が大きくなる。この点、上記のとおり熱対策を付加したため、回転電機10での出力性能の向上を図りつつも変速機60での潤滑油の熱劣化を好適に抑制することができる。
【0080】
冷媒通路24の通路開口を、コイルエンド33B側でのはみ出し量D2がコイルエンド33A側でのはみ出し量D1よりも大きくなるように構成したため、固定子13側から変速機60側への熱の伝わりを効率よく抑制できるとともに、通路容積を過剰に大きくすることなく適切な冷却を行うことができる。なお、冷媒通路24の通路容積の過剰な拡大が抑制されることから、冷媒を流通させるためのポンプ負荷の増大が抑制される。
【0081】
変速機60のハウジング63内に、動力伝達部61の一部を浸漬させ、かつ回転入力部64を浸漬させない状態とする量の潤滑油Lbが充填される構成とした。この場合、回転入力部64は、ギア等を含む動力伝達部61よりも、回転電機10からの熱により高温になりやすいが、その回転入力部64が潤滑油Lbに浸漬されないことで、潤滑油Lbの熱劣化が生じにくくなっている。
【0082】
回転電機10のハウジング14において固定子コア31よりも変速機60側に、電力端子53を挿通させる挿通孔54を設けたため、その挿通孔54により、固定子13側から変速機60側への熱の伝わりを抑制することができる。
【0083】
変速機60のハウジング63内にディファレンシャル装置62が設けられている場合には、変速機60内において潤滑油Lbへの熱負荷が増大する。この場合、潤滑油Lbの熱対策が一層重要になるが、上記のとおり変速機60に対して固定子13を離して配置することで、変速機60での潤滑油の熱劣化を適正に抑制することができる。
【0084】
回転電機10及び変速機60の各ハウジング14,63を別体として設け、それを一体化する構成としたため、これら各ハウジング14,63を一体成形物として設ける構成に比べて、回転電機10側から変速機60側への伝熱を悪くすることができる。これにより、潤滑油Lbの劣化をより一層抑制することができる。
【0085】
軸方向の突出寸法の大きいコイルエンド33Bでは、同突出寸法の小さいコイルエンド33Aに比べて振動ストレスなどへの耐久性が低くなると考えられる。本実施形態では、そのコイルエンド33Bを、変速機60側、すなわち回転電機10及び変速機60のアセンブリにおいて組み付け時の部品割り面となる側に設ける構成とした。これにより、整備性の向上が見込まれる。また一般に、回転電機10と変速機60との境界部は、電動駆動装置1の車両への取り付け箇所から離れた位置となり、回転電機10において変速機60側の端部は、反変速機側の端部よりも路面振動ストレスの小さい位置になることが考えられる。そのため、コイルエンド33Bを変速機60側に配置することで、電動駆動装置1の全体としての耐久性向上を図ることができる。
【0086】
(他の実施形態)
上記実施形態を例えば次のように変更してもよい。
【0087】
・変速機60の他の構成を以下に示す。
図6に示す変速機60では、回転電機10と変速機60とを同軸式とし、動力伝達部61としてはすば歯車機構90を用いる構成としている。ここでは、減速比の異なる複数組(例えば2組)のはすば歯車対を用いる構成としている(後述の
図7,
図8も同様)。はすば歯車機構90は、回転軸11の回転に伴い回転する第1歯車対91と、その第1歯車対91の回転に伴いデフケース81を回転させる第2歯車対92とを有している。回転軸11の回転時(回転子12の回転時)には、各歯車対91,92がそれぞれ回転することに伴い各出力軸65A,65Bが回転軸11と同軸で回転する。
【0088】
また、
図7に示す変速機60では、回転電機10と変速機60とを多軸式とし、動力伝達部61としてはすば歯車機構100を用いる構成としている。はすば歯車機構100は、回転軸11の回転に伴い回転する第1歯車対101と、その第1歯車対101の回転に伴いデフケース81を回転させる第2歯車対102とを有している。回転軸11の回転時(回転子12の回転時)には、各歯車対101,102がそれぞれ回転することに伴い各出力軸65A,65Bが回転軸11と異なる軸を中心にして回転する。
【0089】
図8に示す変速機60は、動力伝達部61として
図7に示すはすば歯車機構100を用いており、相違点として、第1歯車対101と第2歯車対102との軸方向の配置を逆にしている。
【0090】
・上記実施形態では、変速機60のハウジング63内に動力伝達部61とディファレンシャル装置62とを収容する構成としたが、これを変更し、ハウジング63内に動力伝達部61を収容する構成(すなわちディファレンシャル装置62を収容しない構成)としてもよい。また、変速機60に設けられる動力伝達部61は、ギア式でなくてもよく、例えば摩擦伝達構造を有するものであってもよい。
【0091】
・回転電機10において、回転子12に対して軸方向一方側となる回転軸11の軸長(回転子12からの一方の突出長さ)と、軸方向他方側となる回転軸11の軸長(回転子12からの他方の突出長さ)とを異ならせ、変速機60側の回転軸11の軸長が、反変速機側の回転軸11の軸長よりも長くなるようにしてもよい。この場合、変速機60側の回転軸11の軸長が長いことにより、回転子12の熱が回転軸11に伝わる際にその熱が変速機60側へ伝わりにくくなる。これにより、潤滑油の熱劣化が抑制される。
【0092】
・上記実施形態では、回転電機10及び変速機60の各ハウジング14,63を別体で設け、それらを一体化する構成としたが、これを変更し、これらの各ハウジング14,63を一体成形物として作製することも可能である。
【0093】
・上記実施形態では、導体セグメント40を用いて固定子巻線32を構成したが、これを変更してもよい。例えば、固定子巻線32を、固定子コア31の各スロットに対して、平角導線を屈曲させつつ所定のコイルピッチで巻回させた構成とする。また、各相の相巻線を、複数の部分巻線を直列に接続した構成とする。かかる場合には、各コイルエンド33A,33Bに、各相の導線を屈曲形成したターン部が設けられるとともに、そのうち一方のコイルエンド33Bに、同相の部分巻線の端部どうしが互いに接合された接合部が設けられる。そして、コイルエンド33B(第2コイルエンド)を変速機60側、コイルエンド33A(第1コイルエンド)を変速機60の逆側として、回転電機10が変速機60に一体化されているとよい。
【0094】
・上記実施形態では、固定子巻線32を3相巻線とし、各相の相巻線を星形結線(Y結線)する構成としたが、これを変更してもよい。固定子巻線32は、3相の相巻線がΔ結線されている構成であってもよい。また、固定子巻線32は、3相以外の巻線であってもよい。
【0095】
・上記実施形態では、インナロータ式の回転電機での適用例を説明したが、これ以外にアウタロータ式の回転電機に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0096】
1…電動駆動装置、10…回転電機、11…回転軸、12…回転子、13…固定子、14…ハウジング(第1ハウジング)、31…固定子コア、32…固定子巻線、33A…コイルエンド(第1コイルエンド)、33B…コイルエンド(第2コイルエンド)、42…ターン部、46…接合部、60…変速機、61…動力伝達部、63…ハウジング(第2ハウジング)。