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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】バルブ制御装置および真空バルブ
(51)【国際特許分類】
   G05D 16/20 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
G05D16/20 C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019061601
(22)【出願日】2019-03-27
(65)【公開番号】P2020160980
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2021-06-21
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】小崎 純一郎
【審査官】田中 友章
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-204448(JP,A)
【文献】特開2018-112932(JP,A)
【文献】特開2007-069544(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G05D 16/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと真空ポンプとの間に設けられた真空バルブをクローズ制御により開度制御して、前記真空チャンバのチャンバ圧力を目標圧力へ調圧するバルブ制御装置であって、
前記目標圧力に基づいてクローズ制御による開度制御信号を生成する信号生成部と、
前記チャンバ圧力が目標圧近傍の予め設定された閾値に達したときに、予め定めた上限回数以下の回数だけ、このタイミングにおけるチャンバ圧力から前記目標圧力までの開度差に応じた開度増分信号を生成し、該開度増分信号を前記開度制御信号に加算して、前記チャンバ圧力が前記閾値に達したタイミングで前記真空バルブの開度を前記開度増分信号に対応する開度増分だけステップ状に増加させる開度増分生成部と、を備え、
前記開度増分生成部は、前記真空バルブの開度、前記チャンバ圧力、前記目標圧力および前記開度と前記真空チャンバにおける実効排気速度との相関関係に基づいて、前記開度増分信号を生成する、バルブ制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載のバルブ制御装置において、
前記開度増分生成部は、前記チャンバ圧力が前記閾値に達したタイミングで一回だけ、前記開度増分信号を生成し、該開度増分信号を前記開度制御信号に加算する、バルブ制御装置。
【請求項3】
請求項1または2に記載のバルブ制御装置において、
前記閾値は、前記目標圧力を含む所定圧力範囲に設定される、バルブ制御装置。
【請求項4】
請求項1または2に記載のバルブ制御装置において、
前記閾値は前記目標圧力に設定される、バルブ制御装置。
【請求項5】
弁体と、
前記弁体を開閉駆動する弁体駆動部と、
前記弁体駆動部による開閉駆動を制御する請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のバルブ制御装置と、を備える真空バルブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バルブ制御装置および真空バルブに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、バルブ弁体開度を自動制御して圧力調整し、チャンバ圧力をクローズ制御にて目標圧力へ収束させる真空バルブが知られている(例えば、特許文献1参照))。クローズ制御では、設定圧と検出されたチャンバ圧力との圧力偏差に基づいて設定開度信号を生成し、弁体開度がその設定開度値となるように弁体モータを駆動することで、圧力偏差がゼロとなるようにフィードバック制御している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2018-112933号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来のクローズ制御では、検出されるチャンバ圧力と目標圧力との差分である圧力偏差に基づいてフィードバック制御している。そのため、チャンバ圧力が目標圧力に収束している状態で目標圧力が変更されると、圧力偏差が急激に増加するため、例えば目標圧力が大きくなる方向に変更された場合、大きなオーバーシュートを発生し調圧時間が長くなることがあった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい態様によるバルブ制御装置は、真空チャンバと真空ポンプとの間に設けられた真空バルブをクローズ制御により開度制御して、前記真空チャンバのチャンバ圧力を目標圧力へ調圧するバルブ制御装置であって、前記目標圧力に基づいてクローズ制御による開度制御信号を生成する信号生成部と、前記チャンバ圧力が所定の圧力閾値に達したタイミングと同期して、前記タイミングにおけるチャンバ圧力から前記目標圧力までの開度差に応じた開度増分信号を生成し、該開度増分信号を前記開度制御信号に加算する開度増分生成部と、を備える。
さらに好ましい態様では、前記開度増分生成部は、前記真空バルブの開度、前記チャンバ圧力、前記目標圧力および前記開度と前記真空チャンバにおける実効排気速度との相関関係に基づいて、前記開度増分信号を生成する。
さらに好ましい態様では、前記所定の圧力閾値は、前記目標圧力を含む所定圧力範囲に設定される。
さらに好ましい態様では、前記所定の圧力閾値は前記目標圧力に設定される。
本発明の好ましい態様による真空バルブは、弁体と、前記弁体を開閉駆動する弁体駆動部と、前記弁体駆動部による開閉駆動を制御する前記バルブ制御装置と、を備える。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、調圧時間の短縮を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
図1図1は、真空装置の概略構成を示すブロック図である。
図2図2は、真空バルブの吸気口側を示す平面図である。
図3図3は、バルブ制御装置の構成を示すブロック図である。
図4図4は、比較例を説明する図である。
図5図5は、開度調整動作の一例を示すフローチャートである。
図6図6は、プラントゲインの一例を示す図である。
図7図7は、圧力Prと予測圧Pp04との関係を示す図である。
図8図8は、本実施の形態における圧力応答と開度θrとを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。図1は本発明のバルブ制御装置を説明する図であり、バルブ制御装置2で制御される真空バルブ1を備える真空装置100の概略構成を示すブロック図である。真空装置100は、例えば、CVD装置等の半導体製造装置であり、半導体処理の処理プロセスが行われる真空チャンバ3を備えている。真空チャンバ3は、真空バルブ1を介して装着された真空ポンプ4によって真空排気される。真空チャンバ3には、チャンバ内圧力を計測する真空計31と、真空チャンバ3に導入されるガスの流量Qinを制御する流量制御器32とが設けられている。真空バルブ1はバルブ制御装置2によってコントロールされる。真空ポンプ4には、例えば、ターボ分子ポンプ等が用いられる。
【0009】
真空バルブ1は、バルブプレート11と、バルブプレート11を開閉駆動するバルブモータ12とを備えている。バルブモータ12には、バルブプレート11の開度を検出するためのエンコーダ14が設けられている。エンコーダ14の検出信号(以下では、単に開度θrと称す)および真空計31で計測された真空チャンバ3の圧力Prは、バルブ制御装置2に入力される。真空バルブ1は自動圧力調整バルブであって、バルブ制御装置2は、入力される目標圧力Psと真空計31により計測された真空チャンバ3の圧力Prとに基づいて真空バルブ1の開度を制御し、真空チャンバ3の圧力Prを目標圧力Psへと調圧する。目標圧力Psは、例えば、真空装置100のコントローラ(不図示)からバルブ制御装置2に入力される。
【0010】
図2は、真空バルブ1の吸気口側を示す図である。バルブプレート11は、真空バルブ1のバルブボディ13内に納められている。バルブボディ13の吸気側には、開口131を有する吸気口フランジ132が設けられている。なお、バルブボディ13の排気側(吸気側とは反対側)には、真空ポンプ4が取り付けられる排気口フランジ(不図示)が吸気口フランジ132と同軸で設けられている。バルブモータ12を正方向および逆方向に回転駆動してバルブプレート11を揺動駆動させると、バルブプレート11が水平方向にスライドしてバルブ開閉動作が行われる。バルブプレート11は、開口131の全体に対向する開度0%の位置と開口131から退避した開度100%の位置との間で、開閉駆動される。
【0011】
(バルブ制御装置2)
図3は、バルブ制御装置2の構成を示すブロック図である。バルブ制御装置2は、クローズ制御部21、開度増分発生部22およびモータ制御器23を備えている。クローズ制御部21、開度増分発生部22およびモータ制御器23は、CPU、FPGAなどで構成されてもよく、電気回路などで構成されてもよい。クローズ制御部21は、設定圧生成部210およびフィードバック制御器211を備えている。開度増分発生部22は、演算部220および記憶部221を備えている。
【0012】
クローズ制御部21の設定圧生成部210は、入力された真空チャンバ3の目標圧力Psに基づいて、制御周期ごとの目先の目標圧力である設定圧Psetを生成し出力する。設定圧Psetとしては、例えば、特開2018-112933号公報に記載のような目標圧力Psがあるが、必ずしも目標圧力Psに限定されない。以下では、Pset=Psの場合を例に説明する。フィードバック制御器211には、計測された圧力Prと設定圧Psetとの差分である圧力偏差ε=Pr-Psetが入力される。フィードバック制御器211は、圧力偏差εに基づいて開度制御信号である開度設定出力Δθを出力する。通常、フィードバック制御器211は、比例ゲイン、積分ゲイン(所謂PIゲイン)で構成される。
【0013】
一方、開度増分発生部22の演算部220は、記憶部221に記憶されている開度と実効排気速度との相関関係(後述する実効排気速度SeやプラントゲインGp)と、入力される目標圧力Ps、真空計31により計測された圧力Prおよび開度θrとに基づいて、開度増分Δθblowを算出する。開度増分Δθblowの算出方法については後述する。開度増分発生部22からの開度増分Δθblowはフィードバック制御器211からの開度設定出力Δθに加算され、加算後の信号が開度設定出力θsetとしてモータ制御器23に入力される。なお、後述するように、開度増分Δθblowは、所定の条件の場合のときだけ開度増分発生部22から出力される。モータ制御器23は、開度設定出力θsetに基づいてバルブモータ12を駆動制御する。
【0014】
(比較例)
図3に示すバルブ制御装置2によるクローズ制御は、クローズ制御の所定タイミングにおいて開度増分発生部22から出力された開度増分Δθblowをフィードバック制御器211の開度設定出力Δθに加算する点が、従来のクローズ制御と異なっている。図4は、比較例として、従来のようにフィードバック制御器211の開度設定出力Δθのみによって開度制御を行った場合の、圧力応答と開度変化の一例を示したものである。図4(a)は圧力応答Prを示し、図4(b)は開度θrを示す。
【0015】
図4(a)の破線で示すラインL0は目標圧力Psを示しており、目標圧力Psはt=0にて20mTorrから30mTorr(=Ps)へとステップ状に変化している。目標圧力Psがt=0において20mTorr→30mTorrのように変更されると、図4(b)のラインL2で示す開度θrはクローズ制御により減少する。圧力PrはラインL1のように変化し、開度θrの低下とともに圧力Prは目標圧力Psに近づき、t=t1においてPr=Psとなる。開度θr(ラインL2)はt=t1の手前から上昇に転じ、最終的にはθsとなる。t=t1の時点では圧力Pr(ラインL1)はまだ上昇傾向にあり、目標圧力Psをオーバーシュートしてから徐々に目標圧力Psに収束する。開度θsは、圧力Prが目標圧力Psに収束した平衡状態における開度である。圧力がPsで開度がθsである平衡状態を、以下では平衡状態(Ps,θs)のように表すことにする。
【0016】
このように、クローズ制御では、目標圧力Psがステップ状に大きく変化するとラインL1のようなオーバーシュートが発生しやすくなり、圧力Prを目標圧力Psに収束させるための調圧時間が長くなってしまう。そこで、本実施の形態では、図3に示すような開度増分発生部22を設けて、所定タイミングで開度設定出力Δθに開度増分Δθblowを加算することで圧力Prのオーバーシュートを抑制し、調圧時間の短縮を図るようにした。
【0017】
(開度調整動作)
図5は、本実施の形態における開度調整動作の一例を示すフローチャートである。ステップS10では、目標圧力Psが入力されたか否かを判定し、目標圧力Psが入力されるとステップS11へ進む。ステップS11では、クローズ制御による開度調整を開始する。すなわち、設定圧生成部210から設定圧Pset(=Ps)が出力され、圧力偏差ε=Pr-Psetに基づく開度設定出力Δθがフィードバック制御器211から出力され、その開度設定出力Δθが開度設定出力θsetとしてモータ制御器23に入力される。モータ制御器23は、開度設定出力θset(=Δθ)に基づいてバルブモータ12を駆動制御する。
【0018】
ステップS12では、計測される真空チャンバ3の圧力Prが目標圧近傍の予め設定された閾値(例えば、Ps)に到達したか否かを判定する。そして、圧力Prが閾値に到達したと判定されるとステップS13へ進む。ステップS13では、開度増分発生部22は開度増分Δθblowを出力する。開度増分Δθblowはフィードバック制御器211から出力された開度設定出力Δθに加算され、モータ制御器23は加算後の開度設定出力θset=Δθ+Δθblowに基づいてバルブモータ12を駆動制御する。開度増分Δθblowは、圧力Prが閾値に到達したタイミングに1度だけ出力され、その後は、Δθblowが出力されたまま固定されて、開度設定出力θset=Δθ+Δθblow(固定)によるクローズ制御が継続される。ステップS14では、目標圧力Psが変更されたか否かを判定し、目標圧力Psが変更されるとステップS12へ戻る。
【0019】
(開度増分Δθblowの生成方法)
以下では、ステップS12における閾値をPsに設定した場合を例に説明する。真空チャンバ3の圧力Prに関して、次式(1)で表される排気の式が成立している。式(1)において、Vは真空チャンバ3の容積、Seは真空バルブ1のコンダクタンスを含む排気系の実効排気速度、Qinは真空チャンバ3に導入されるガスの流量である。実効排気速度Seの情報は、真空バルブ1の開度θと実効排気速度Seとの相関関係Se(θ)として与えられる。
V×(dPr/dt)+Se×Pr=Qin …(1)
【0020】
流量Qinが一定で、かつ、圧力平衡状態(すなわち、dPr/dt=0)である場合には、式(1)に示す排気の式から、圧力増分ΔP、開度増分Δθおよび実効排気速度増分ΔSeに関して次式(2)が成り立つ。
-(ΔP/Δθ)/Pr=(ΔSe/Δθ)/Se …(2)
以下では、式(2)で示す量を開度θの関数Gp(θ)で表し、プラントゲインと呼ぶことにする。すなわち、プラントゲインGp(θ)は次式(3)で定義される量であり、流量一定条件における平衡状態間の関係を示している。図6はプラントゲインGpの一例を示す図である。
Gp(θ)=(1/Se )・(ΔSe/Δθ)
=-(ΔP/Δθ)/Pr …(3)
【0021】
図5のステップS11のクローズ制御が開始されて、真空チャンバ3の圧力Prが目標圧力Psに到達するタイミング(図4(a)のt=t1)においては、真空チャンバ3に導入されるガスの流量Qinは既に所定の流量値Qin0に収束していると考えて良い。すなわち、Qin=Qin0=一定、とみなせる。プラントゲインGpは平衡状態間の関係なので、式(3)におけるΔPs、Δθsは、平衡状態(Ps,θs)とその近傍にある別の平衡状態(Ps1,θs1)との差分値を意味しており、ΔPs=Ps1-Ps、Δθs=θs1-θsである。よって、式(3)から次式(4)が導かれる。
θs-θs1=(Ps1-Ps)/(Ps×Gp(θs)) …(4)
【0022】
図4(a)のt=t1で圧力Prは目標圧力Psに到達するが、ラインL1からも分かるように圧力Prは上昇中であって速度dPr/dtはdPr/dt>0である。t=t1における開度をθs1としたとき、t=t1における状態(Ps,θs1)は非平衡状態であって、θs1<θsである。開度θs1において真空チャンバ3の圧力Prが収束する圧力値をPs1とした場合、すなわち、平衡状態(Ps1,θs1)の圧力Ps1はPs1>Psとなる。
【0023】
式(4)において開度θs,θs1は近傍値であるから、Gp(θs)≒Gp(θs1)であり、式(4)は近似的に次式(5)で表される。
θs-θs1=(Ps1-Ps)/(Ps×Gp(θs1)) …(5)
【0024】
また、上述したように、式(5)における開度θs1は、図4(a)のt=t1において真空チャンバ3の圧力PrがPr=Psとなるタイミングにおいて計測される開度θrであるので、θs1の代わりに計測値θrで表記することができる。すなわち、式(5)の開度θs1を開度θrで置き換えると、式(6)のように書き直すことができる。式(6)は、開度θrの時点(t=t1)における、目標開度θsまでの開度差を算出する式と考えることができる。
θs-θr=(Ps1―Ps)/(Ps×Gp (θr)) …(6)
【0025】
上述のように、式(6)はt=t1時点における目標とする開度θsとの開度差(θs-θr)を求める演算式であり、平衡状態(Ps1,θs1)における圧力Ps1が分かれば、開度差(θs-θr)を算出することができる。圧力Ps1は、開度θrをt=t1時点における開度θs1に固定した場合の平衡圧であるから、t=t1から比較的長い時間経過後(理想的にはt=∞の無限時間経過後)の予測圧とみなすことができる。このような予測圧の求め方としては、一例として、特開2018-106718号公報の段落0024等に記載のような方法がある。ここでは、その要点のみを説明する。
【0026】
予測圧の算出には、上述した排気の式(1)が用いられる。式(1)の一般解は次式(7)のように表される。
【数1】
…(7)
【0027】
式(7)により現在を基点としたt秒後の予測圧Ppを算出する方法として、例えば、下記に示すような離散化関係式(8),(9)を用いる。式(8),(9)を用いて、現在を基点とするt秒先までのΔt刻みの漸化式を求めて、t秒先の予測圧Ppを求める。例えば、k=1~99とし、t秒先を0.4秒とすると、Δt=4msecとなる。
P(Δt先)=Cp(現在)×P(現在)
+Cq(現在)×{Qin(現在)+A×Δt} …(8)
P((k+1)×Δt)=Cp(k)×P(k×Δt)
+Cq(k)×{Qin(現在)+A×k×Δt} …(9)
ただし、
Cp(k)=exp{(-Se(k×Δt)/V)×Δt}
Cq(k)=(1/V)×{1/(-Se(k×Δt)/V)}×(Cp(k)-1)
【0028】
式(8)、(9)を用いてt秒先の予測圧Ppを算出するためには、現在からt秒後までの流量推定値と、現在からt秒後までの実効排気速度Seが必要である。例えば、式(9)では{Qin(現在)+A×k×Δt}が現在からk×Δt秒後の流量推定値を表しており、ここでは、流量がA×k×Δtのように変化する場合を仮定し、Aは定数である。
【0029】
図4(a)のt=t1においては、上述したように流量Qinは所定の流量値Qin0に収束していて、Qin=Qin0=一定とみなせる。そのため、式(8),(9)の定数AはA=0となる。また、式(8)、(9)における実効排気速度Se(k×Δt)は開度の計画値に依存しているが、圧力Ps1は、開度θrをt=t1時点における開度θs1に固定した場合の平衡圧なので、Se(k×Δt)には開度θrにおける実効排気速度Se(θr)が用いられる。
【0030】
t秒先としては理想的にはt=∞が良いが算出が困難なので、上述した0.4秒先程度が現実的な値と言える。以下では、0.4秒先の予測圧Pp04を適用した場合を例に説明する。図7は、圧力Prと予測圧Pp04との関係を示す図である。圧力Prを示すラインL1は図4(a)に示したものと同一のものであり、ラインL3が予測圧Pp04を示している。この予測圧Pp04は、平衡状態(Ps1,θs1)における圧力Ps1にほぼ等しい(Ps1≒Pp04)とみなすことができる。その場合、式(6)は次式(10)のように表せる。
Δθblow=θs-θr≒(Pp04―Ps)/(Ps×Gp (θr)) …(10)
【0031】
式(10)は、開度θrにおける目標開度θsまでの開度増分(開度差)を表す式であり、上述した開度増分Δθblowに相当する。すなわち、図5のステップS13において、開度増分発生部22は式(10)で算出される開度増分Δθblowを出力する。
【0032】
Pr=Psとなるタイミング(t=t1)における予測圧Pp04は、図4(a)に示す圧力応答のオーバーシュートが大きいほど大きくなる。すなわち、オーバーシュートが大きいほど、Pr=Psのタイミングにおける開度θr=θs1がより小さいことを意味しており、開度θrをθs1に固定した状態での収束圧力Ps1がより大きくなる。そのため、θs1に基づいて算出される予測圧Pp,Pp04もより大きくなる。
【0033】
図8は、開度増分発生部22から開度増分Δθblowを出力する本実施の形態の場合の、圧力応答(図8(a))と開度θr(図8(b))とを示す図である。図8(a)のラインL10は本実施の形態の場合の圧力応答を示しており、一点鎖線で示すラインL1は図4(a)に示したラインL1と同様の圧力応答を示している。また、図8(b)のラインL11は本実施の形態の場合の開度θrを示しており、一点鎖線で示すラインL2は図4(b)に示したラインL2と同様の開度θrを示している。
【0034】
0<t<t1においては、図5で説明したように図3の開度設定出力θsetはθset=Δθなので、図8(b)に示すラインL11は図4(b)のラインL2と同一である。そのため、図8(a)のラインL10の0<t<t1における形状は、図4(a)のラインL1と同一になっている。
【0035】
t=t1において圧力Prが閾値(この場合はPs)に達すると、図5のステップS13において、図3の開度増分発生部22でt=t1のタイミングにおける開度増分Δθblowが算出され、開度増分発生部22から出力される。その結果、t=t1における開度設定出力θsetはθset=Δθ+Δθblowとなり、ラインL11は、t=t1において開度θrがΔθblowだけステップ状に増加している。
【0036】
t>t1においては、Δθblowが出力されたまま固定されて、開度設定出力θsetはθset=Δθ+Δθblow(固定)となり、ラインL11に示すように、開度θr=θs1から開度θr=θs1+Δθblow(固定)へステップアップして開度設定出力θset=Δθ±Δθblow(固定)に基づくクローズ制御が行われる。ラインL2と比較すると、より目標の開度θsに近い開度θrから開度制御が行われるので、図8(a)に示すように、ラインL10のオーバーシュートはラインL1のオーバーシュートに比べて低く抑えられている。その結果、調圧時間の短縮が図れる。
【0037】
また、大きなオーバーシュートが発生するケースでは、従来、PI制御器のパラメータ調整にて、ゲイン倍率を高めることでオーバーシュート量の低減を図ることが行われていたが、制御ゲインを高めると、フィードバック系のゲイン余裕が低下して発振現象が発生しやすくなる問題があった。しかし、本実施の形態では、ゲイン倍率を高めること無く、オーバーシュート量の低減を図っているので、フィードバック系のゲイン余裕低下による発振現象の発生を招くことが無い。
【0038】
(閾値について)
図8に示した例では、ステップS12における閾値を目標圧力Psと等しく設定した場合について説明したが、閾値の設定方法はこれに限らない。例えば、特開2018-106718号公報に記載されているような不感帯制御領域に達したタイミングで、開度増分Δθblowを出力するようにしても良い。不感帯制御領域では、開度を変化させずに維持される。不感帯制御領域は一般に目標圧力Psの±5%程度に設定されるので、例えば、目標圧力Psの5%直下で開度増分Δθblowを出力する場合には、Pr=0.95Psとなるタイミングで出力する。
【0039】
なお、オーバーシュートが発生する状況において式(10)を適用するにあたっては、差=Pp04―Psが正である場合に限られる。図7においては、Pr=Pr0のタイミングにおいて算出される予測圧Pp04は、目標圧力Psと等しくなっている。そのため、開度増分Δθblowを出力するタイミングの圧力Prは、Pr>Pr0のように設定するのが良い。例えば、開度増分発生部22はクローズ制御の制御周期ごとに予測圧Pp04を算出し、算出された予測圧Pp04が目標圧力Psを超えるPp04>Psのタイミングにおいて開度増分Δθblowを出力するようにしても良い。
【0040】
ただし、差=Pp04―Psはt=t1よりも手前側に離れるほど開度増分Δθblowは小さくなり、開度増分Δθblowを加算することによるオーバーシュート低減効果は小さくなってしまう。また、t>t1のタイミングに開度増分Δθblowを加算する場合、オーバーシュートの頂点を予め推定できないのでタイミングの設定が難しい。さらに、圧力Prがオーバーシュートの頂点付近となる状況では、差=Pp04―Psは大きいがθs-θrが小さくなるので、開度増分Δθblowがθs-θrよりも大きくなって逆に調圧時間が延びてしまうおそれがある。よって、開度増分Δθblowを出力するタイミングとしては、上述した不感帯制御領域のように、あるいは不感帯制御領域の有無にかかわらず、Pr=Psとなるt=t1を含む目標圧力近傍に設定するのが好ましい。
【0041】
(変形例)
上述した式(10)に示すΔθblowの演算式は近似式なので、実際の自動調圧において誤差を有する。従って、実状にあわせて、式(10)で算出されるΔθblowに一定係数を乗算し、それを開度増分として出力しても良い。係数としては、0.5~2程度が実用的である。例えば、上述のようにPr=Psのタイミングで開度増分Δθblowを出力して実際に調圧をしたときに、オーバーシュートが大きい傾向にある場合には、式(10)で算出されるΔθblowに係数β(>1)を乗算したものを開度増分とする。
【0042】
また、係数βを乗算する方法に代えて、圧力PrがPsに到達する前(Pr<Ps)のタイミングにおいて開度増分Δθblowを出力するようにしても良い。例えば、目標圧力Psよりも3%低めの圧力タイミングで開度増分Δθblowを出力する場合には、Pr=0.97Psとなるタイミングの開度θrを式(10)に適用して開度増分Δθblowを算出すれば良い。
【0043】
あるいは、別の変形例として、開度増分Δθblowを出力する機会を圧力Prが閾値に到達したタイミングに1度だけと上述したが、閾値条件を満たせば複数回出力しても良い。その場合、リミットサイクル現象の発生の可能性を無くすために、予め出力回数の上限回数を設定しておくと良い。さらに、開度増分Δθblowを出力する回数が増えるに従って、上記した係数β値を+0方向へ順に小さくして乗算し出力することも効果的である。
【0044】
以上の説明では、図4,8に示すように現在の目標圧力が前回の目標圧力よりも高くなる調圧イベントケースを例に説明したが、逆に、現在の目標圧力が前回の目標圧力よりも低くなる調圧イベントケースについても、同様に適用することができ、同様の効果を奏することができる。目標圧力Psが減少する調圧イベントケースでは、圧力Prが目標圧力Psを下回るアンダーシュートが発生するが、この場合、式(10)の(Pp04―Ps)がマイナスになり開度増分Δθblowがマイナス値となるので、開度増分Δθblow開度θrを小さくする(閉じる)方向に作用する。その結果、アンダーシュートが低減される。
【0045】
上述した実施の形態および変形例の作用効果をまとめると、以下のようになる。
(1)バルブ制御装置2は、目標圧力Psに基づいてクローズ制御による開度制御信号である開度設定出力Δθを生成するクローズ制御部21と、真空チャンバ3の圧力Prが所定の圧力閾値(Ps)に達したタイミングt1と同期して、タイミングt1におけるチャンバ圧力から目標圧力Psまでの開度差に応じた開度増分信号Δθblowを生成し、その開度増分Δθblowを開度制御信号Δθに加算する開度増分発生部22と、を備える。
【0046】
図8(b)に示すように、タイミングt1において開度増分Δθblowを開度設定出力Δθに加算することで、開度θrが極めて速く目標の開度θsに近づき、オーバーシュート量が低減され調圧時間の短縮を図ることができる。なお、開度増分Δθblowの生成・加算のタイミングは、例えば、圧力閾値(Ps)に達した時が好ましいが、時間的に若干遅れても同様の効果を奏する。
【0047】
(2)開度増分Δθblowは、例えば、上述した式(6),(10)のように、真空バルブ1の開度θr、圧力Pr、目標圧力Psおよび開度θと実効排気速度Seとの相関関係Se(θ),Gp(θ)に基づいて生成される。なお、式(6),(10)におけるPs1,Pp04は、タイミングt1における開度に維持した平衡状態における予測圧であり、t=t1から比較的長い時間経過後の予測圧である。Pp04は0.4秒後の予測圧である。もちろん、タイミングt1におけるチャンバ圧力から目標圧力Psまでの開度差に応じた開度増分信号Δθblowの生成方法は、上記に限定されない。
【0048】
(3)所定の圧力閾値としては、目標圧力Psを含む所定圧力範囲、例えば、上述した不感帯制御領域の幅と同程度のPs±5%の圧力範囲に設定される。好ましくは、目標圧力Psに設定されるのが良い。そのように設定することで、好適な開度増分Δθblowが好適なタイミングで加算され、オーバーシュート量の低減が効果的に行われる。
【0049】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。例えば、バルブプレート11を揺動駆動して開度を変化させる真空バルブ1を例に説明したが、他の構成の自動調圧式の真空バルブにも同様に適用することができる。
【符号の説明】
【0050】
1…真空バルブ1、2…バルブ制御装置、3…真空チャンバ、4…真空ポンプ、11…バルブプレート、12…バルブモータ、14…エンコーダ、21…クローズ制御部、22…開度増分発生部、23…モータ制御器、31…真空計、32…流量制御器、100…真空装置、210…設定圧生成部、211…フィードバック制御器、Ps…目標圧力、Δθ…フィードバック制御器の開度出力、θset…開度設定出力、Δθblow…開度増分
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8