(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ステータ及び電動機
(51)【国際特許分類】
H02K 3/38 20060101AFI20240214BHJP
H02K 3/18 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H02K3/38 A
H02K3/18 J
(21)【出願番号】P 2019066954
(22)【出願日】2019-03-29
【審査請求日】2022-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006611
【氏名又は名称】株式会社富士通ゼネラル
(74)【代理人】
【識別番号】110003339
【氏名又は名称】弁理士法人南青山国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100104215
【氏名又は名称】大森 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100196575
【氏名又は名称】高橋 満
(74)【代理人】
【識別番号】100144211
【氏名又は名称】日比野 幸信
(72)【発明者】
【氏名】田邉 洋一
(72)【発明者】
【氏名】松岡 忠雄
(72)【発明者】
【氏名】小嶋 智則
(72)【発明者】
【氏名】山田 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】守屋 颯馬
(72)【発明者】
【氏名】松井 庸佑
(72)【発明者】
【氏名】パッタラワディー パーオブトン
【審査官】稲葉 礼子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-167604(JP,A)
【文献】特開2010-246353(JP,A)
【文献】特開2007-300725(JP,A)
【文献】特開2017-118671(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02K 3/38
H02K 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
径方向内側に向かって突出する複数のティース部を有する円筒形状のステータコアと、
前記複数のティース部に巻回される3相の巻線と、
前記ステータコアの軸方向の端部に配置され、前記ステータコアと前記3相の巻線との間を絶縁するインシュレータとを備え、
前記3相の巻線は、各相に対応する第1の巻線、第2の巻線及び第3の巻線と、前記インシュレータの外周部にそれぞれ架け渡され、同相の巻線同士を接続し前記ステータコアの外周側に引き出される3つの相の渡り線とを含み、
前記軸方向の一方側に設けられた前記インシュレータは、前記3つの相の渡り線を保持する渡り線保持部を有し、
前記渡り線保持部は、前記インシュレータの外周面に、前記3つの相の渡り線のうち他の2つの相の渡り線が互いに平行に架け渡され
、前記3つの相の渡り線のうち1つの相の渡り線が前記他の2つの相の渡り線の間を通って前記他の2つの相の渡り線に対して斜めに架け渡さ
れ、かつ、前記インシュレータの外周側から見たときに前記3つの相の渡り線の全てが前記軸方向に重ならないように前記3つの相の渡り線を保持する
ステータ。
【請求項2】
請求項1に記載のステータであって、
前記渡り線保持部は、前記他の2つの相の渡り線を、前記軸方向において相互に異なる高さで、かつ、前記インシュレータの外周側から見たときに前記軸方向に相互に重ならない位置に保持する
ステータ。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のステータであって、
前記1つの相の渡り線の線長は、前記他の2つの相の渡り線の線長よりも長い
ステータ。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1つに記載のステータであって、
前記ステータコアは、前記第1の巻線が各々巻回され相互に隣り合う第1のティース部対と、前記第2の巻線が各々巻回され相互に隣り合う第2のティース部対と、前記第3の巻線が各々巻回され相互に隣り合う第3のティース部対とが順に配置された計12個のティース部を有し、
前記1つの相の渡り線は、前記他の2つの相の4個のティース部を間に挟んで配置される2つのティース部対の間に架け渡される
ステータ。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1つに記載のステータであって、
前記渡り線保持部は、前記他の2つの相の渡り線のうち一方を引き出すための第1の切欠き溝と、前記他の2つの相の渡り線のうち他方を引き出すための第2の切欠き溝と、を有し、
前記第1の切欠き溝及び前記第2の切欠き溝は、それぞれ前記軸方向に平行に延び、
前記第1の切欠き溝は、前記第2の切欠き溝よりも深い
ステータ。
【請求項6】
請求項1~
5のいずれか1つに記載のステータであって、
前記渡り線保持部は、
前記他の2つの相の渡り線のうち一方を架け渡す第1の外周部と、
前記第1の外周部とは異なる外径位置に設けられ、前記他の2つの相の渡り線のうち他方を架け渡す第2の外周部と、を有する
ステータ。
【請求項7】
請求項1~
6のいずれか1つに記載のステータを備えた電動機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ステータコアの複数のティース部に3相の巻線が巻回されたステータ及びこれを備えた電動機に関する。
【背景技術】
【0002】
ステータコアと巻線との間を絶縁するインシュレータに、同相の巻線同士を接続する渡り線を保持する渡り線保持部が設けられたものが知られている。例えば、12個のティース部を有する円筒形状のステータにおいて、3相電源の各相に対応して、渡り線保持部に、ステータの中心軸方向に3段に形成された渡り線収容溝を設けることにより、異相の渡り線間の絶縁距離を確保する技術が知られている(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2002-10607号公報
【文献】特開2010-246353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述した従来のステータにおいては、3相の各相に対応した渡り線の収容溝がステータの中心軸方向に3段に形成されているため、渡り線保持部が軸方向に大型化してしまうという問題があり、ステータ及びこれを備えた電動機の、ステータの中心軸方向への大型化が避けられない。
【0005】
以上のような事情に鑑み、本発明の目的は、ステータの中心軸方向への大型化を抑制することができるステータ及びこれを備えた電動機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の一形態に係るステータは、円筒形状のステータコアと、3相の巻線と、インシュレータとを備える。
前記ステータコアは、径方向内側に向かって突出する複数のティース部を有する。
前記3相の巻線は、前記複数のティース部に巻回される。
前記インシュレータは、前記ステータコアの軸方向の端部に配置され、前記ステータコアと前記3相の巻線との間を絶縁する。
前記3相の巻線は、各相に対応する第1の巻線、第2の巻線及び第3の巻線と、前記インシュレータの外周部にそれぞれ架け渡され、同相の巻線同士を接続し前記ステータコアの外周側に引き出される3つの相の渡り線とを含む。
前記軸方向の一方側に設けられた前記インシュレータは、当該インシュレータの外周面に、前記3つの相の渡り線のうち1つの相の渡り線が他の2つの相の渡り線の間を通って斜めに架け渡されるように、前記3つの相の渡り線を保持する渡り線保持部を有する。
【0007】
前記渡り線保持部は、前記他の2つの相の渡り線を、前記軸方向において相互に異なる高さで、かつ、前記インシュレータの外周側から見たときに前記軸方向に相互に重ならない位置に保持してもよい。
【0008】
前記1つの相の渡り線の線長は、典型的には、前記他の2つの相の渡り線の線長よりも長い。
【0009】
前記渡り線保持部は、前記インシュレータの外周側から見たときに前記3つの相の渡り線の全てが前記軸方向に重ならないように前記3つの相の渡り線をそれぞれ保持してもよい。
【0010】
前記ステータコアは、前記第1の巻線が各々巻回され相互に隣り合う第1のティース部対と、前記第2の巻線が各々巻回され相互に隣り合う第2のティース部対と、前記第3の巻線が各々巻回され相互に隣り合う第3のティース部対とが順に配置された計12個のティース部を有してもよい。
この場合、前記1つの相の渡り線は、前記他の2つの相の4個のティース部を間に挟んで配置される2つのティース部対の間に架け渡される。
【0011】
前記渡り線保持部は、前記他の2つの相の渡り線のうち一方を引き出すための第1の切欠き溝と、前記他の2つの相の渡り線のうち他方を引き出すための第2の切欠き溝と、を有してもよい。前記第1の切欠き溝及び前記第2の切欠き溝は、それぞれ前記軸方向に平行に延び、前記第1の切欠き溝は、前記第2の切欠き溝よりも深い。
【0012】
前記渡り線保持部は、前記他の2つの相の渡り線のうち一方を架け渡す第1の外周部と、前記第1の外周部とは異なる外径位置に設けられ、前記他の2つの相の渡り線のうち他方を架け渡す第2の外周部と、を有してもよい。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、ステータ及びこれを備えた電動機の軸方向への大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態に係る電動機の側断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るステータの斜視図である。
【
図5】上記ステータの各ティース部に対する巻線の巻回例を説明するステータの平面図であって、AはU相の巻線を、BはV相の巻線を、そして、CはW相の巻線をそれぞれ示す。
【
図6】上記ステータにおけるインシュレータの渡り線保持部及びステータコアの各ティース部との関係を示す展開図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照しながら、本発明の実施形態を説明する。
【0016】
[電動機の全体構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る電動機1の側断面図、
図2は
図1におけるA-A線方向の断面図である。電動機1は、ブラシレスDCモータであり、例えば、空気調和機の室外機に搭載される送風ファンの回転駆動源として用いられる。
【0017】
電動機1は、回転磁界を発生する円筒形状のステータ(固定子)2の内周側に、永久磁石を有するロータ(回転子)3を回転可能に配置したインナーロータ型の永久磁石電動機である。
【0018】
ステータ2は、円筒形状のヨーク部211とヨーク部211から径方向内側に延びる複数のティース部212とを有する円筒形状のステータコア(固定子鉄心)21と、インシュレータ22を介してティース部212に巻回された3相の巻線23を備えている。ステータ2は、ステータコア21の内周面を除いて、樹脂で形成されたモータ外郭6で覆われている。
【0019】
ロータ3は、ステータコア21の内周側に所定の空隙(ギャップ)を持って回転自在に配置されている。ロータ3の構造は特に限定されず、本実施形態では、ステータコア21に対向する外周面に環状に10個の永久磁石31を配置した10極の表面磁石型である。永久磁石31は、外周側鉄心32の外周面に固定されている。なお図示の例ではロータコアとして外周側鉄心32と内周側鉄心34の分割構造が採用されているが、これに限られず、絶縁部材33を備えていない単一のロータコアが採用されてもよい。
【0020】
シャフト35は、第1軸受41及び第2軸受42によって支持され、第1軸受41が第1ブラケット51に、第2軸受42が第2ブラケット52にそれぞれ支持されることで、ロータ3が回転自在に支持されている。
【0021】
第1軸受41は、回転子3のシャフト35の一端側(出力側)を支持している。第2軸受42は、回転子3のシャフト35の他端側(反出力側)を支持している。第1軸受41及び第2軸受42は、例えば、ボールベアリングが用いられる。
【0022】
第1ブラケット51は、金属製(鋼板やアルミニウムなど)であり、モータ外郭6の軸方向における一端側すなわちシャフト35の出力側に配置されている。なお、以下の説明において、軸方向とは、ステータの中心軸(軸心O)方向を意味する。また、電動機1、ステータ2、インシュレータ22、ロータ3、シャフト35のそれぞれの中心軸は、軸心Oに一致する。
【0023】
第1ブラケット51は、第1軸受41を収容するための第1軸受収容部511と、第1軸受収容部511の開放端から周りに広がるフランジ部512を有する。第1軸受収容部511は、シャフト35を通すための貫通孔を有する底部を有する円筒形状に形成されており、第1ブラケット51のフランジ部512は、モータ外郭6の成形時にインサート成形され、モータ外郭6と一体になっている。第1軸受収容部511の内面に第1軸受41の外輪が圧入され、この第1軸受41の内輪に支持されたシャフト35の出力側が、第1軸受収容部511の底部の中央に形成された貫通孔から外部に突出されている。
【0024】
第2ブラケット52は、金属製(鋼板やアルミニウムなど)であり、モータ外郭6の他端側すなわちシャフト35の反出力側に固定されている。第2ブラケット52は、円板形状のブラケット本体521と、モータ外郭6の反出力側の端部(外縁部)に当接する外縁部520と、第2軸受42を収容するための第2軸受収容部522とを有する。ブラケット本体521は、外縁部520がモータ外郭6の反出力側の端部(外縁部)にねじ留めされている。第2軸受収容部522は、ブラケット本体521の中央部の、出力側から反出力側に凹ませて設けられた円形の底面を有する孔として形成されている。
【0025】
第2ブラケット52は、径方向において第2軸受収容部522と外縁部520との間に放熱フィン523を一体的に備える。これにより、電動機1の省スペース化を図ることができる。第2ブラケット52は、ヒートシンクとして、シャフト35の反出力側に、外方へ向けて立設した放熱フィン523を備え、伝熱部材71を介し、電動機1を制御するための回路基板72に搭載された電子部品からの熱が放熱フィン523によって放熱されるようになっている。
【0026】
[ステータ]
続いて、ステータ2の詳細について説明する。
図3はステータ2の斜視図、
図4はその側面図である。
【0027】
ステータ2は、上述のように、円筒形状のステータコア21と、インシュレータ22と、巻線23とを有する。
【0028】
ステータコア21は、径方向内側に向かって突出する複数のティース部212を有し、電磁鋼板などの軟磁性材料で構成された薄板を軸方向に積層し一体化させることで作製される。本実施形態においてステータコア21は、12個のティース部212を有する12スロットのステータコアである。
【0029】
インシュレータ22は、絶縁性の合成樹脂材料の成形体であり、ステータコア21の軸方向の一方側(シャフト35の出力側)を被覆する環状の第1インシュレータ22Aと、ステータコア21の軸方向の他方側(シャフト35の反出力側)を被覆する環状の第2インシュレータ22Bとの結合体である。
【0030】
第1インシュレータ22A及び第2インシュレータ22Bは、それぞれ短い円筒形状に形成され、ステータコア21のヨーク部211を被覆する外周壁部221と、ステータコア21の複数のティース部212を被覆する複数の巻胴部222とを有する(
図2参照)。第1インシュレータ22Aの外周壁部221には、巻胴部222に巻回された巻線23を他の巻胴部222に架け渡すための渡り線保持部223Aが設けられている。また、第2インシュレータ22Bの外周壁部221には、各巻胴部222に巻回された巻線23を他の巻胴部222に架け渡すための渡り線保持部223Bが設けられている。
【0031】
巻線23は、第1インシュレータ22A及び第2インシュレータ22B各々の巻胴部222の上からステータコア21の複数のティース部212に巻回される3相交流の巻線である。ここでは、3相交流の各相をU相、V相及びW相としたとき、巻線23は、U相に対応する第1の巻線23Uと、V相に対応する第2の巻線23Vと、W相に対応する第3の巻線23Wとを含む。第1の巻線23U、第2の巻線23V及び第3の巻線23Wには、典型的には、樹脂被覆銅線が用いられる(
図5参照)。
【0032】
図5A~Cは、各ティース部212に対する巻線23の巻回例を説明する第1インシュレータ22A側から見たときのステータ2の平面図であって、Aは第1の巻線23Uの巻回例を、Bは第2の巻線23Vの巻回例を、そして、Cは第3の巻線23Wの巻回例をそれぞれ示す。
【0033】
図5A~Cに示すように、ステータコア21は、第1の巻線23Uが巻回される4つのティース部212(U1,U2,U3,U4)と、第2の巻線23Vが巻回される4つのティース部212(V1,V2,V3,V4)と、第3の巻線23Wが巻回される4つのティース部212(W1、W2,W3,W4)とを有する。
【0034】
第1の巻線23Uが巻回されるティース部212(U1、U2,U3,U4)に着目すると、U1とU2、及び、U3とU4は、それぞれ相互に隣り合う第1のティース部対を構成し、これら2組の第1のティース部対は、円筒形状のステータ2の軸心O(中心軸)に関して対称な位置に配置される。
図5Aに示すように、第1の巻線23Uは、隣り合うティース部にそれぞれ逆向きに巻回される。本実施形態において第1の巻線23Uは、ステータ2の軸心Oから見たとき、U1及びU4には時計まわりに巻回され、U2及びU3には反時計まわりに巻回される。
【0035】
また、第2の巻線23Vが巻回されるティース部212(V1、V2,V3,V4)に着目すると、V1とV2、及び、V3とV4は、それぞれ相互に隣り合う第2のティース部対を構成し、これら2組の第2のティース部対は、円筒形状のステータ2の軸心Oに関して対称な位置に配置される。
図5Bに示すように、第2の巻線23Vは、隣り合うティース部にそれぞれ逆向きに巻回される。本実施形態において第2の巻線23Vは、ステータ2の軸心Oから見たとき、V1及びV4には時計まわりに巻回され、V2及びV3には反時計まわりに巻回される。
【0036】
さらに、第3の巻線23Wが巻回されるティース部212(W1、W2,W3,W4)に着目すると、W1とW2、及び、W3とW4は、それぞれ相互に隣り合う第3のティース部対を構成し、これら2組の第3のティース部対は、円筒形状のステータ2の軸心Oに関して対称な位置に配置される。
図5Cに示すように、第3の巻線23Wは、隣り合うティース部にそれぞれ逆向きに巻回される。本実施形態において第3の巻線23Wは、ステータ2の軸心Oから見たとき、W1及びW4には時計まわりに巻回され、W2及びW3には反時計まわりに巻回される。
【0037】
第1の巻線23UはU1、U2、U3及びU4の順で、第2の巻線23VはV1、V2、V3及びV4の順で、そして、第3の巻線23WはW1,W2,W3及びW4の順で、それぞれティース部212に巻回される。巻線23は、同相の巻線同士を接続しステータコア21の外周側に引き出される3つの相の渡り線Uc、Vc及びWcを含む。各相の渡り線Uc、Vc及びWcは、インシュレータ22(第1インシュレータ22A)の外周部にそれぞれ架け渡される巻線23(23U、23V、23W)の一部である。
【0038】
U相の渡り線Ucは、
図5Aに示すように、相互に隣り合う2つのティース部212(U1とU2、及び、U3とU4)の間を架け渡す2つの第1の渡り線Uc1と、他の2つの相(V相とW相)の4つのティース部212(V3、V4、W1及びW2)を挟む2つのティース部212(U2とU3)の間を架け渡す1つの第2の渡り線Uc2とを有する。第2の渡り線Uc2の線長は、第1の渡り線Uc1の線長よりも長い。
【0039】
また、V相の渡り線Vcは、
図5Bに示すように、相互に隣り合う2つのティース部212(V1とV2、及び、V3とV4)の間を架け渡す2つの第1の渡り線Vc1と、他の2つの相(W相とU相)の4つのティース部212(W3、W4、U1及びU2)を挟む2つのティース部212(V2とV3)の間を架け渡す1つの第2の渡り線Vc2とを有する。第2の渡り線Vc2の線長は、第1の渡り線Vc1の線長よりも長い。
【0040】
そして、W相の渡り線Wcは、
図5Cに示すように、相互に隣り合う2つのティース部212(W1とW2、及び、W3とW4)の間を架け渡す2つの第1の渡り線Wc1と、他の2つの相(U相とV相)の4つのティース部212(U3、U4、V1及びV2)を挟む2つのティース部212(W2とW3)の間を架け渡す1つの第2の渡り線Wc2とを有する。第2の渡り線Wc2の線長は、第1の渡り線Wc1の線長よりも長い。
【0041】
[渡り線保持部]
続いて、各相の渡り線Uc,Vc,Wcを保持する渡り線保持部223Aについて説明する。
図6は、第1インシュレータ22Aにおける渡り線保持部223A及びステータコア21の各ティース部212との関係を示す展開図である。
【0042】
渡り線保持部223Aは、第1インシュレータ22Aの軸方向の先端部に設けられており、ティース部212間に架け渡される各相の渡り線Uc,Vc,Wcをそれぞれ保持することが可能な環状の壁部である。
図6に示すように、渡り線保持部223Aにはティース部212間を掛け渡される各相の渡り線Uc,Vc,Wcが架け渡される。
【0043】
渡り線保持部223Aは、その外周面において、3つの相の渡り線Uc,Vc,Wcのうち1つの相の渡り線が他の2つの相の渡り線の間を通って斜めに架け渡されるように、各相の渡り線Uc,Vc,Wcをそれぞれ保持する。
【0044】
例えば
図6に示すように、渡り線保持部223Aをその周方向に3つの角度範囲R1、R2及びR3に区分けしたとき、第1の角度範囲R1では、上記1つの相の渡り線がU相の渡り線Ucに該当し、上記他の2つの相の渡り線がV相及びW相の渡り線Vc,Wcに該当する。第1の角度範囲R1において、V相の渡り線Vc及びW相の渡り線Wcは、同相のティース部212(V3とV4、及び、W1とW2)の間を架け渡す第1の渡り線Vc1,Wc1に相当し、U相の渡り線Ucは、これら他の2つの相(V相とW相)の4つのティース部を挟むU相のティース部(U2とU3)との間を架け渡す第2の渡り線Uc2に相当する。
【0045】
第2の角度範囲R2では、上記1つの相の渡り線がW相の渡り線Wcに該当し、上記他の2つの相の渡り線がU相及びV相の渡り線Uc,Vcに該当する。第2の角度範囲R2において、U相の渡り線Uc及びV相の渡り線Vcは、同相のティース部212(U3とU4、及び、V1とV2)の間を架け渡す第1の渡り線Uc1,Vc1に相当し、W相の渡り線Wcは、これら他の2つの相(U相とV相)の4つのティース部を挟むW相のティース部(W2とW3)との間を架け渡す第2の渡り線Wc2に相当する。
【0046】
そして、第3の角度範囲R3では、上記1つの相の渡り線がV相の渡り線Vcに該当し、上記他の2つの相の渡り線がW相及びU相の渡り線Wc,Ucに該当する。第3の角度範囲R3において、W相の渡り線Wc及びU相の渡り線Ucは、同相のティース部212(W3とW4、及び、U1とU2)の間を架け渡す第1の渡り線Wc1,Uc1に相当し、V相の渡り線Vcは、これら他の2つの相(W相とU相)の4つのティース部を挟むV相のティース部(V2とV3)との間を架け渡す第2の渡り線Vc2に相当する。
【0047】
渡り線保持部223Aは、上記他の2つの相の渡り線を、軸方向において相互に異なる高さで、かつ、インシュレータ22(第1インシュレータ22A)の外周側から見たときに上記軸方向に相互に重ならない位置に保持する。本実施形態では、各相の渡り線Uc,Vc,Wcがそれぞれ線長の異なる第1の渡り線Uc1,Vc1,Wc1及び第2の渡り線Uc2,Vc2,Wc2を有するため、このような形態の架け渡し方法を容易に実現することができる。
【0048】
例えば、第1の角度範囲R1では、ステータ2の軸心Oと直交する仮想面において、V相の渡り線Vc(Vc1)が上側、W相の渡り線Wc(Wc1)が下側となるように、渡り線保持部223Aの異なる高さ位置に架け渡される。また、他の2つの相の渡り線であるV相の渡り線Vc(Vc1)とW相の渡り線Wc(Wc1)が軸方向に相互に重ならないように、円周方向に所定距離だけ離間した位置に保持される。
なお、第2の角度範囲R2では、ステータ2の軸心Oと直交する仮想面において、U相の渡り線Uc(Uc1)が上側、V相の渡り線Vc(Vc1)が下側となるように、渡り線保持部223Aの異なる高さ位置に架け渡される。また、他の2つの相の渡り線であるU相の渡り線Uc(Uc1)とV相の渡り線Vc(Vc1)が軸方向に相互に重ならないように、円周方向に所定距離だけ離間した位置に保持される。
同様に、第3の角度範囲R3では、ステータ2の軸心Oと直交する仮想面において、W相の渡り線Wc(Wc1)が上側、U相の渡り線Uc(Uc1)が下側となるように、渡り線保持部223Aの異なる高さ位置に架け渡される。また、他の2つの相の渡り線であるW相の渡り線Wc(Wc1)とU相の渡り線Uc(Uc1)が軸方向に相互に重ならないように、円周方向に所定距離だけ離間した位置に保持される。
【0049】
特に本実施形態では、渡り線保持部223Aは、インシュレータ22(第1インシュレータ22A)の外周側から見たときに3つの相の渡り線Uc,Vc,Wcの全てが軸方向に重ならないように(3つの相の渡り線Uc,Vc,Wcのうち任意の2つの相の渡り線が軸方向に重なる箇所は存在しても、3つの相の渡り線Uc,Vc,Wcの全てが軸方向に重なる箇所は存在しないように)、各相の渡り線Uc,Vc,Wcをそれぞれ保持する。これにより、渡り線Uc,Vc,Wcが軸方向に対して3本重ならないため、異なる相の渡り線同士の絶縁距離(すなわち、異なる相の渡り線同士を離間させることで、異なる相の渡り線の間で高周波パルスが相互に影響し合うこと抑制できる距離)を確保しつつ、渡り線保持部223Aの軸方向に沿った高さ寸法Hの低減が図れる。本実施形態においては、
図6に示される3つの相の渡り線Uc,Vc,Wcのうち、異なる相の渡り線同士が最も近接している箇所の離間距離を1mmとすることで、絶縁距離を十分に確保している。なお、この絶縁距離は、渡り線の線径、渡り線に印加される電圧、渡り線を流れる電流などの条件によって適宜変更される。
【0050】
上述のような形態で各相の渡り線Uc,Vc、Wcを架け渡すため、渡り線保持部223Aは、以下のように構成される。
【0051】
第1に、渡り線保持部223Aは、その軸方向の先端から他端側に向かって軸方向に平行に延びる2種類の切欠き溝(第1の切欠き溝G1及び第2の切欠き溝G2)を有する。これらの切欠き溝は、各相の渡り線Uc,Vc,Wcを第1インシュレータ22Aの径方向内側から径方向外側へ引き出し、あるいは径方向外側から径方向内側へ引き入れるための通路を形成する。複数の切欠き溝のうち、第1の切欠き溝G1及び第2の切欠き溝G2はそれぞれ複数個所に設けられ、第1の切欠き溝G1は第2の切欠き溝G2よりも深い。
【0052】
第1の切欠き溝G1及び第2の切欠き溝G2の形成位置は任意であり、各相の渡り線Uc,Vc,Wcを上述のような形態で架け渡すことができるように各々の配列間隔、配列順序などが決定される。
【0053】
例えば、第1の角度範囲R1においては、第1の切欠き溝G1と第2の切欠き溝G2とに、上記1つの相の渡り線に該当するU相の渡り線Uc(Uc2)が架け渡される。また、当該第1の切欠き溝G1と第2の切欠き溝G2との間に、上記他の2つの相の渡り線のうち一方の渡り線であるV相の渡り線Vc(Vc1)が架け渡される一対の第2の切欠き溝G2と、上記他の2つの相の渡り線のうち他方の渡り線であるW相の渡り線Wc(Wc1)が架け渡される他の一対の第1の切欠き溝G1が設けられる。
【0054】
第2に、渡り線保持部223Aは、互いに外径位置(
図5に示される軸心Oからの距離)が異なる複数の外周部(第1の外周部S1及び第2の外周部S2)を有する。これらの外周部は、軸方向に沿って形成された円周面であり、第1インシュレータ22Aの異なる外径位置にそれぞれ形成される。本実施形態においては、第2の外周部S2は、第1の外周部S1よりも外径側に位置している。
【0055】
例えば、第1の角度範囲R1においては、内径側の第1の外周部S1に、V相の渡り線Vc(Vc1)が架け渡され、外径側の第2の外周部S2に、W相の渡り線Wc(Wc1)が架け渡される。これにより、V相の渡り線VcとW相の渡り線Wcとが相互に重ならないようにすることができるため、これら2つの相の渡り線間の絶縁距離を容易に確保できる。また、異相の渡り線同士の絶縁距離が確保できることにより、各相の巻線23U,23V,23Wに供給される高周波パルスが相互に影響し合うことが防止される。これらは、第2の角度範囲R2、第3の角度範囲R3でも同様である。
【0056】
第3に、渡り線保持部223Aは、内径側の第1の外周部S1と外径側の第2の外周部S2との境界を形成する段部Tを有する。段部Tは、典型的には、円周方向に隣り合う一対の第1の切欠き溝G1の間に設けられる。段部Tは、3つの相の渡り線のうち、2つの相の渡り線の間を通って斜めに架け渡される相の渡り線を安定して保持するためのもので、2つの相の渡り線間の絶縁距離を確保できれば、その高さや位置は任意に設定できる。例えば、第1の角度範囲R1においては、段部Tによって、V相の渡り線VcとW相の渡り線Wcの間を通って斜めに架け渡されるU相の渡り線Ucを安定的に保持する。
【0057】
以上のようにして、各相の巻線23(23U,23V,23W)が渡り線保持部223Aに架け渡されながらステータコア21の各ティース部212へ巻回される。各ティース部212への巻線23U,23V,23Wの巻き付けは、3ノズル巻線機を用いて各相同時に行われる。渡り線保持部223Aに対する各相の渡り線Uc,Vc,Wcの架け渡しは、典型的には作業者による手作業で行われる。
【0058】
ステータ2は、各相の巻線23の巻始め端及び巻終り端に接続される複数のピン24(24U,24V,24W,24N)をさらに有する(
図3参照)。複数のピン24は、軸方向に沿って延び、第2インシュレータ22Bの任意の位置に設けられる。
【0059】
第1のピン24UはU相の巻線23Uの巻始め端に接続され、第2のピン24VはV相の巻線23Vの巻始め端に接続され、第3のピン24WはW相の巻線23Wの巻始め端に接続される。第4のピン24Nは、各相の巻線23U,23V,23Wの各々の巻終り端に共通に接続される中性点に相当する。これら複数のピン24は、
図1に示すようにステータ2と第2ブラケット52との間に配置された回路基板72に接続される。
【0060】
以上のように本実施形態によれば、渡り線保持部223Aの外周面において、3つの相の渡り線Uc,Vc,Wcのうち1の相の渡り線が他の2つの相の渡り線の間を斜めに通って架け渡されるように渡り線保持部223Aに保持されるため、U、V、Wの3つの相のそれぞれに対応する渡り線Uc、Vc、Wcを保持するのに必要な高さ寸法Hが上下2段分の高さで十分となり、従来のように各相に応じて3段分の高さの保持領域(背景技術の欄に記載の3段に形成された渡り線収容溝)を必要とすることがなくなる。これにより、3つの相の渡り線同士の絶縁距離を確保しつつ、渡り線保持部223Aの軸方向高さを低くできるとともに、ステータ2及びこれを備えた電動機1の軸方向への大型化を抑制することができる。
【符号の説明】
【0061】
1…電動機
2…ステータ
3…ロータ
21…ステータコア
22…インシュレータ
23(23U,23V,23W)…巻線
24(24U,24V,24W,24N)…ピン
35…シャフト
212…ティース部
223A…渡り線保持部
G1…第1の切欠き溝
G2…第2の切欠き溝
S1…第1の外周部
S2…第2の外周部
T…段部
Uc、Vc,Wc…渡り線