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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】点火コイル
(51)【国際特許分類】
   H01F 38/12 20060101AFI20240214BHJP
   H01F 41/12 20060101ALI20240214BHJP
   F02P 15/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01F38/12 G
H01F38/12 Q
H01F41/12 D
F02P15/00 303B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019089390
(22)【出願日】2019-05-09
(65)【公開番号】P2020188040
(43)【公開日】2020-11-19
【審査請求日】2022-04-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】安達 雅泰
(72)【発明者】
【氏名】三輪 哲也
【審査官】久保田 昌晴
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-099418(JP,U)
【文献】特開2007-311706(JP,A)
【文献】特開平06-290947(JP,A)
【文献】実開昭59-149602(JP,U)
【文献】実開昭61-081101(JP,U)
【文献】特開2009-088007(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 27/02、27/32、30/00-38/12、41/12
F02P 15/00
H01C 1/02-1/036
H01G 2/10、4/224
H05K 5/00-5/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納したケース(50)と、前記ケースの内部に充填された樹脂(80)とを備える点火コイル(10)であって、
前記ケースは、所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状であり、
前記開口の前記所定方向の端(51a)から、前記樹脂の前記所定方向の表面(80a)までの距離は、第1距離(h1)であり、
前記ケースにおいて、前記開口の前記所定方向の端から、前記第1距離よりも短い第2距離(h2、h21~h24)の部分には、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成されており、
前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、
前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の内縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分までのみに延びる第1縦溝(64)がそれぞれ形成されている、点火コイル。
【請求項2】
1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納したケース(50)を備え、前記ケースの内部に樹脂(80)が充填される点火コイル(10)であって、
前記ケースは、所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状であり、
前記ケースにおいて、前記開口の前記所定方向の端(51a)から、第2距離(h2、h21~h24)の部分には、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成されており、
前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、
前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の内縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分までのみに延びる第1縦溝(64)がそれぞれ形成されている、点火コイル。
【請求項3】
前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、
前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の外縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分まで延びる第2縦溝(68)がそれぞれ形成されている、請求項1又は2に記載の点火コイル。
【請求項4】
1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納したケース(50)と、前記ケースの内部に充填された樹脂(80)とを備える点火コイル(10)であって、
前記ケースは、所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状であり、
前記開口の前記所定方向の端(51a)から、前記樹脂の前記所定方向の表面(80a)までの距離は、第1距離(h1)であり、
前記ケースにおいて、前記開口の前記所定方向の端から、前記第1距離よりも短い第2距離(h2、h21~h24)の部分には、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成されており、
前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、
前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の外縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分まで延びる第2縦溝(68)がそれぞれ形成されている、点火コイル。
【請求項5】
1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納したケース(50)を備え、前記ケースの内部に樹脂(80)が充填される点火コイル(10)であって、
前記ケースは、所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状であり、
前記ケースにおいて、前記開口の前記所定方向の端(51a)から、第2距離(h2、h21~h24)の部分には、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成されており、
前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、
前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の外縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分まで延びる第2縦溝(68)がそれぞれ形成されている、点火コイル。
【請求項6】
前記薄肉部(60、60a~60d)は、前記開口の周方向に全周にわたって連続して形成されている、請求項1~5のいずれか1項に記載の点火コイル。
【請求項7】
前記薄肉部(60、60a~60d)は、前記ケースの外周縁部に溝が形成されることで形成されている、請求項に記載の点火コイル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ケースの内部に樹脂が充填される点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、上方側に開口した開口部を有するケースを備え、開口部からケースの内部に液状の樹脂を流し込んだ後、加熱工程で樹脂を硬化させて製造する点火コイルがある(特許文献1参照)。特許文献1に記載の点火コイルでは、開口部に、開口部の内周からケースの内側に向かって突出すると共に開口部の内側において上下方向に貫通する貫通口を有する環状のカバー部材を設けている。これにより、硬化前の液状の樹脂における液面の露出面積を縮小して、振動等の外力によって液面が波立った際の波高を小さくすることができ、樹脂の漏出を抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-58491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、特許文献1に記載の点火コイルでは、点火コイルのケースに上記カバー部材を設ける必要がある。
【0005】
また、液状の樹脂が漏出することを防止するために樹脂の液面に対して、ケースの高さを高くすることも考えられるが、点火コイルが大型化するため好ましくない。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、その主たる目的は、カバー部材を設けなくても、液状の樹脂の漏出及び点火コイルの大型化を抑制することのできる点火コイルを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための第1手段は、
1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納したケース(50)と、前記ケースの内部に充填された樹脂(80)とを備える点火コイル(10)であって、
前記ケースは、所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状であり、
前記開口の前記所定方向の端(51a)から、前記樹脂の前記所定方向の表面(80a)までの距離は、第1距離(h1)であり、
前記ケースにおいて、前記開口の前記所定方向の端から、前記第1距離よりも短い第2距離(h2、h21~h24)の部分には、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成されている。
【0008】
上記構成によれば、点火コイルは、1次コイル及び2次コイルを収納したケースと、ケースの内部に充填された樹脂と、を備えている。樹脂は、ケースの内部に液体の状態(液状)で流し込まれ、加熱工程等により硬化させられる。
【0009】
ここで、ケースは、所定方向の端部に開口が形成された有底筒状である。このため、開口からケースの内部に液状の樹脂を流し込んで溜めることができる。開口の所定方向の端から、樹脂の所定方向の表面までの距離は、第1距離である。必要な所定量の液状の樹脂を流し込んだ場合に、液面から開口の所定方向の端までの距離が長くなるように、ケースを設計することもできる。その場合、加熱工程等へ点火コイルを移動させる際に、点火コイルが傾いたり、点火コイルに振動等の外力が加わったりしても、液状の樹脂が開口から漏出することを抑制することができる。ただし、そのようにケースを設計すると、上記第1距離が長くなり、点火コイルが大型化するため好ましくない。
【0010】
この点、ケースにおいて、開口の所定方向の端から、第1距離よりも短い第2距離の部分には、開口の周方向に沿って薄肉部が形成されている。ケースにおいて、薄肉部が形成された部分の強度は、薄肉部が形成されていない部分の強度よりも低くなる。このため、液状の樹脂の漏出を抑制すべく第1距離が長くなったとしても、ケースにおいて開口の形成された所定方向の端部(以下、「所定端部」という)を薄肉部に沿って分断することができる。その結果、カバー部材を設けなくても、液状の樹脂の漏出及び点火コイルの大型化を抑制することができる。
【0011】
第2の手段は、
1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納したケース(50)を備え、前記ケースの内部に樹脂(80)が充填される点火コイル(10)であって、
前記ケースは、所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状であり、
前記ケースにおいて、前記開口の前記所定方向の端(51a)から、第2距離(h2、h21~h24)の部分には、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成されている。
【0012】
上記構成によれば、第1の手段と同様に、開口からケースの内部に必要な所定量の液状の樹脂を流し込んだ場合に、液面から開口の所定方向の端までの距離が長くなるように、ケースを設計することもできる。その場合、上記第1距離が長くなり、点火コイルが大型化するため好ましくない。この点、ケースにおいて、開口の所定方向の端から、第2距離の部分には、開口の周方向に沿って薄肉部が形成されている。これにより、第1の手段と同様の作用効果を奏することができる。
【0013】
第3の手段では、前記薄肉部は、前記開口の周方向に全周にわたって連続して形成されている。こうした構成によれば、薄肉部が開口の周方向に一定の間隔毎に形成されている構成と比較して、ケースにおいて所定端部の強度の偏りを抑制することができる。このため、所定端部を薄肉部に沿って分断することが容易となる。さらに、薄肉部の形状を簡潔にすることができ、ケースを樹脂成形等で形成することが容易となる。
【0014】
第4の手段では、前記薄肉部は、前記ケースの外周縁部に溝が形成されることで形成されている。こうした構成によれば、薄肉部がケースの内周縁部に溝が形成されることで形成されている構成と比較して、ケースを分断する位置である薄肉部の位置を目視で確認し易くなり、ケースを分断する作業が容易となる。
【0015】
第5の手段では、前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の内縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分まで延びる第1縦溝(64)がそれぞれ形成されている。
【0016】
上記構成によれば、ケースは、所定方向の端部に開口が形成された有底四角筒状である。このため、ケースは、4つの面と4つの角部(隅部)を有している。そして、ケースにおいて、所定方向の端部の4つの角部の内縁部には、開口の所定方向の端から上記第2距離の部分まで延びる第1縦溝がそれぞれ形成されている。このため、ケースの所定端部を薄肉部に沿って分断する際に、第1縦溝の部分で分断することにより、ケースの1面毎に所定端部を分断することができる。したがって、ケースの所定端部を容易に分断することができる。
【0017】
第6の手段では、前記ケースは、前記所定方向の端部に前記開口が形成された有底四角筒状であり、前記ケースにおいて、前記所定方向の端部の4つの角部(58)の外縁部には、前記開口の前記所定方向の端から前記第2距離の部分まで延びる第2縦溝(68)がそれぞれ形成されている。こうした構成によれば、ケースの所定端部を薄肉部に沿って分断する際に、第2縦溝の部分で分断することにより、ケースの1面毎に所定端部を分断することができる。したがって、ケースの所定端部を容易に分断することができる。
【0018】
第7の手段は、点火コイル(10)の製造方法であって、
所定方向の端部(59)に開口(51)が形成された有底筒状のケース(50)であって、前記開口の前記所定方向の端から第2距離(h2、h21~h24)の部分に、前記開口の周方向に沿って薄肉部(60、60a~60d、260)が形成された前記ケースを作成し、
前記ケースの内部に1次コイル(20)及び2次コイル(30)を収納し、
前記開口から前記ケースの内部へ所定量の液状の樹脂を流し込み、
前記液状の樹脂を硬化させて、前記開口の前記所定方向の端(51a)から前記樹脂(80)の前記所定方向の表面(80a)までの距離を、前記第2距離よりも長い第1距離(h1)とし、
前記液状の樹脂を硬化させた後に、前記ケースにおいて前記開口の形成された前記所定方向の端部を前記薄肉部に沿って分断する。
【0019】
上記工程によれば、所定方向の端部に開口が形成された有底筒状のケースであって、開口の所定方向の端から第2距離の部分に、開口の周方向に沿って薄肉部が形成されたケースが作成される。ケースの内部に1次コイル及び2次コイルが収納され、開口からケースの内部へ所定量の液状の樹脂が流し込まれる。
【0020】
ここで、液面から開口の所定方向の端までの距離が長ければ、ケースの内部の液状の樹脂を硬化させる前に、点火コイルが傾いたり、点火コイルに振動等の外力が加わったりしても、液状の樹脂が開口から漏出することを抑制することができる。ただし、液面から開口の所定方向の端までの距離が長くなるようにケースを設計すると、上記第1距離が長くなり、点火コイルが大型化するため好ましくない。
【0021】
この点、開口の所定方向の端から、第1距離よりも短い上記第2距離の部分に、開口の周方向に沿って薄肉部が形成されている。このため、液状の樹脂を硬化させた後に、ケースにおいて開口の形成された所定方向の端部(所定端部)を薄肉部に沿って分断することができる。したがって、カバー部材を設けなくても、液状の樹脂の漏出及び点火コイルの大型化を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】点火コイルの断面図。
図2】点火コイルの部分斜視図。
図3】ケース及び樹脂の部分断面図。
図4】ケース及び樹脂の部分平面図。
図5】上端部の切断態様を示す模式図。
図6】上端部の切断態様を示す模式図。
図7】上端部の分断態様を示す模式図。
図8】ケースの薄肉部の変更例を示す部分断面図。
図9】ケースの薄肉部の他の変更例を示す部分断面図。
図10】ケースの薄肉部の他の変更例を示す部分断面図。
図11】ケースの薄肉部の他の変更例を示す部分断面図。
図12】ケースの薄肉部の他の変更例を示す部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、内燃機関で用いられる点火コイルに具現化した一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。
【0024】
図1に示すように、点火コイル10は、1次巻線を巻回して形成された1次コイル20と、1次コイル20の外周に配置されて2次巻線を巻回して形成された2次コイル30とを備えている。点火コイル10は、1次コイル20及び2次コイル30の内側に挿通された中心コア40と、1次コイル20及び2次コイル30の外周に配置された外周コア45とを備えている。1次コイル20、2次コイル30、中心コア40及び外周コア45はケース50の内部に収納されている。ケース50の内部には、電気絶縁性を備えた樹脂80が充填されている。
【0025】
ケース50は、有底四角筒状(有底筒状)に形成されている。ケース50の上方向(所定方向)の端部59には、開口51が形成されている。すなわち、ケース50は、所定方向に開口51が形成された有底四角筒状(有底筒状)である。ケース50は、1次コイル20、2次コイル30、中心コア40、及び外周コア45を囲むと共に開口51を形成する側方壁部52と、側方壁部52における下方側(所定方向と反対側)を塞ぐ底部53とを備えている。なお、以下の説明では、ケース50において中心(重心)から開口51への方向を上方向、中心から底部53への方向を下方向とする。
【0026】
点火コイル10は、自動車等の内燃機関において、燃焼室内に電極を露出して配設された点火プラグに、高電圧を印加するために用いられる。点火コイル10では、1次コイル20における電流変化に伴って、2次コイル30に高電圧が誘起される。
【0027】
点火コイル10の1次コイル20は、1次巻線を1次スプール25の外周に巻回して形成されている。1次スプール25は、絶縁樹脂によって円筒状に形成されている。1次スプール25に1次巻線を巻回すことによって、円筒状の1次コイル20が形成されている。
【0028】
2次コイル30は、2次スプール35に2次巻線を巻回して形成されている。2次スプール35は、1次スプール25と同軸上でかつ、1次スプール25の外周に配置されている。2次スプール35は、円筒状の本体部36と、本体部36の外周面から外周側に向かって立設した複数の鍔部37とを有している。複数の鍔部37は、本体部36の軸線方向において、並んで配置されている。隣り合う鍔部37の間に2次巻線を巻回することによって2次コイル30が形成されている。
【0029】
1次スプール25の内側には中心コア40が設けられている。中心コア40は、複数の磁性鋼板を上下方向に積層して四角柱状に形成されている。中心コア40の長手方向は、1次スプール25の軸線方向と一致している。
【0030】
2次スプール35の外周には、外周コア45が設けられている。外周コア45は、複数の磁性鋼板を積層した積層体と、積層体の外周を覆う絶縁樹脂からなる被覆層とを有している。外周コア45は、上下方向に貫通する四角筒状に形成されている。外周コア45の内側には、1次コイル20、2次コイル30、及び中心コア40が配置されている。外周コア45は、これらの左右方向(上記軸線方向)及び奥行方向(紙面に垂直方向)、すなわち側方を囲んでいる。外周コア45の1つの側方部と中心コア40の一端との間には、1次コイル20に発生した磁束と反対方向の磁束を磁路中に発生させるマグネット72が設けられている。
【0031】
ケース50の側方壁部52には、中心コア40の軸線方向に沿うようにコネクタ55が形成されている。コネクタ55の内側には、イグナイタ70と電気的に接続された接続端子73が配置されている。
【0032】
底部53には、下方に向かって突出する筒状の突出部57が形成されている。突出部57の内側には、高圧接続端子74を介して2次コイル30と電気的に接続された高圧端子76が挿通されている。突出部57には、図示しないジョイントが組み付けられる。
【0033】
図2,3に示すように、ケース50の内部には、底部53から端部59付近まで樹脂80が充填されている。樹脂80は、開口51から液体の状態で流し込まれた後に、加熱されて硬化されている。開口51の上方向の端51aから、樹脂80の上方向の表面80aまでの距離は、第1距離h1である。なお、第1距離h1は、液状の樹脂がケース50内の隙間に含浸し、さらに加熱により収縮した後における端51aから表面80aまでの距離である。第1距離h1は、端51aから表面80aのうち最も低い部分までの距離である。
【0034】
ケース50において、開口51の上方向の端51aから、第1距離h1よりも短い第2距離h2の部分には、開口51の周方向に沿って環状の薄肉部60が形成されている。薄肉部60は、その周囲よりも肉厚(厚み)が薄い部分である。薄肉部60は、ケース50の側方壁部52の外面寄りの部分、すなわちケース50の外周縁部に、溝62が形成されることで形成されている。溝62は、ケース50において開口51の周方向に全周にわたって連続して形成されている。これにより、薄肉部60は、ケース50において開口51の周方向に全周にわたって連続して形成されている。溝62の断面形状は台形状である。なお、上下方向において、端51aから薄肉部60の最も薄い部分の中央までの距離を第2距離h2とする。
【0035】
図2,4に示すように、ケース50において、上方向の端部59の4つの角部58の内縁部には、開口51の上方向の端51aから第2距離h2の部分まで延びる第1縦溝64がそれぞれ形成されている。すなわち、第1縦溝64は、角部58の内縁部において開口51の上方向の端51aから薄肉部60の最も薄い部分まで延びている。第1縦溝64の断面形状は、三角形状(V字状)である。
【0036】
ケース50において、上方向の端部59の4つの角部58の外縁部には、開口51の上方向の端51aから第2距離h2の部分まで延びる第2縦溝68がそれぞれ形成されている。すなわち、第2縦溝68は、角部58の外縁部において開口51の上方向の端51aから薄肉部60の最も薄い部分まで延びている。第2縦溝68の断面形状は、台形状(矩形状)である。
【0037】
開口51の周方向において、第1縦溝64の位置と第2縦溝68の位置とは一致している。すなわち、第1縦溝64と第2縦溝68とは対向している。
【0038】
次に、点火コイル10の製造方法(生産方法)を説明する。
【0039】
まず、金型等を用いた絶縁樹脂の一体成形により、ケース50を作成する。詳しくは、上方向の51a部に開口51が形成された有底四角筒状のケース50であって、開口51の上方向の51aから第2距離h2の部分に、開口51の周方向に沿って環状の薄肉部60が形成されたケース50を作成する。
【0040】
続いて、ケース50の内部に、1次コイル20、2次コイル30、中心コア40、及び外周コア45、イグナイタ70等、点火コイル10の部品を収納する。そして、収納した部品をケース50に固定する。
【0041】
続いて、真空環境において、開口51からケース50の内部へ、熱硬化性且つ電気絶縁性の所定量の液状の樹脂(熱硬化前の樹脂)を流し込む。所定量は、熱硬化後の樹脂80が、1次コイル20、2次コイル30、中心コア40、及び外周コア45、イグナイタ70等を覆って保護することのできる量である。ケース50の内部へ流し込まれた液状の樹脂は、ケース50内の隙間に含浸する。このとき、液状の樹脂の液面は、熱硬化後の樹脂80の表面80aよりも若干高くなる。液状の樹脂の液面から開口51の上方向の端51aまでの距離は、加熱工程へ点火コイル10を移動させる際に、点火コイル10が傾いたり、点火コイル10に振動等の外力が加わったりしても、液状の樹脂が開口51から漏出することを抑制することができる距離になっている。すなわち、ケース50は、液状の樹脂の液面から開口51の上方向の端51aまでの距離が、液状の樹脂が漏出しない距離に設計されている。
【0042】
ただし、液状の樹脂の液面から開口51の上方向の端51aまでの距離が長くなるようにケース50を設計すると、樹脂を熱硬化後の第1距離h1が長くなり、点火コイル10が大型化するため好ましくない。この点、以下の工程により、液状の樹脂の漏出及び点火コイル10の大型化を抑制する。
【0043】
続いて、点火コイル10をコンベア(移動装置)に載せて加熱工程へ移動させる。詳しくは、パレット(荷置台)に複数の点火コイル10を載せて、パレットをコンベアに載せる。コンベアは、パレットを水平の状態で加熱工程へ移動させる。この際に、パレット(点火コイル10)が傾いたり、パレットに振動が加わったりして、液面が揺れるおそれがある。特に、1次コイルを複数持ち、エネルギ追加投入が可能な点火コイルは大型化し易く、開口面積も広くなり易い。このような大型の点火コイル10では、点火コイル10が傾いた際に生じる高低差が大きくなり、さらに液状の樹脂における液面の露出面積が大きいため、開口51から液状の樹脂が漏出し易い。しかしながら、液状の樹脂の液面から開口51の上方向の端51aまでの距離が長くなるようにケース50が設計されているため、開口51から液状の樹脂が漏出することを抑制することができ、大型コイルにおいて体格抑制効果を特に備える。
【0044】
続いて、加熱工程において、点火コイル10をほぼ水平にして、加熱装置により液状の樹脂を加熱して硬化させる。液状の樹脂は、加熱されることにより若干収縮する。さらに、加熱して硬化するまでの過程で、液状の樹脂の粘度は低下し、1次コイル20、2次コイル30、中心コア40、及び外周コア45等の隙間への含侵が促進され、硬化後の樹脂80の表面80aは低下する。そして、開口51の上方向の端51aから樹脂80の上方向の表面80aまでの距離が、上記第2距離h2よりも長い上記第1距離h1となる。
【0045】
続いて、図5に示すように、点火コイル10を冶具Jにより固定する。この際に、切断装置の刃Eが溝62(薄肉部60)に当たるように点火コイル10を固定する。そして、図5,6に示すように、切断装置の刃Eにより、ケース50において開口51の形成された上方向の端部59を、溝62に沿って切断(分断)する。このとき、ケース50の内部において、樹脂80の表面80aは薄肉部60よりも低い位置にあるため、樹脂80は切断されない。
【0046】
以上詳述した本実施形態は、以下の利点を有する。
【0047】
・ケース50において、開口51の上方向の端51aから、第1距離h1よりも短い第2距離h2の部分には、開口51の周方向に沿って薄肉部60が形成されている。ケース50において、薄肉部60が形成された部分の強度は、薄肉部60が形成されていない部分の強度よりも低くなる。このため、液状の樹脂の漏出を抑制すべく第1距離h1が長くなったとしても、ケース50において開口51の形成された上方向の端部59を薄肉部60に沿って切断することができる。その結果、カバー部材を設けなくても、液状の樹脂の漏出及び点火コイル10の大型化を抑制することができる。
【0048】
・薄肉部60は、開口51の周方向に全周にわたって連続して形成されている。こうした構成によれば、薄肉部60が開口51の周方向に一定の間隔毎に形成されている構成と比較して、ケース50において端部59の強度の偏りを抑制することができる。このため、端部59を薄肉部60に沿って切断することが容易となる。さらに、薄肉部60の形状を簡潔にすることができ、ケース50を樹脂成形で形成することが容易となる。
【0049】
・薄肉部60は、ケース50の外周縁部に溝62が形成されることで形成されている。こうした構成によれば、薄肉部60がケース50の内周縁部に溝62が形成されることで形成されている構成と比較して、ケース50を切断する位置である溝62(すなわち薄肉部60)の位置を目視で確認し易くなり、ケース50を切断する作業が容易となる。
【0050】
なお、上記実施形態を、以下のように変更して実施することもできる。上記実施形態と同一の部分については、同一の符号を付すことにより説明を省略する。
【0051】
図7に示すように、ペンチPやニッパー等を用いて、ケース50の端部59を分断してもよい。
【0052】
・ケース50は、上方向の端部59に開口51が形成された有底四角筒状である。このため、ケース50は、4つの側方壁部52(面)と4つの角部58(隅部)を有している。そして、ケース50において、上方向の端部59の4つの角部58の内縁部には、開口51の上方向の端51aから上記第2距離h2の部分まで延びる第1縦溝64がそれぞれ形成されている。このため、ペンチPやニッパー等により、ケース50の端部59を薄肉部60に沿って分断する際に、第1縦溝64の部分で分断することにより、ケース50の1面毎に端部59を分断することができる。したがって、ケース50の端部59を容易に分断することができる。
【0053】
・ケース50において、上方向の端部59の4つの角部58の外縁部には、開口51の上方向の端51aから第2距離h2の部分まで延びる第2縦溝68がそれぞれ形成されている。こうした構成によれば、ペンチPやニッパー等により、ケース50の端部59を薄肉部60に沿って分断する際に、第1縦溝64及び第2縦溝68の部分で分断することにより、ケース50の1面毎に端部59を分断することができる。したがって、ケース50の端部59をさらに容易に分断することができる。
【0054】
図8に示すように、ケース50の外周縁部に、断面形状が直角台形状である溝162を形成することにより、薄肉部60を形成してもよい。溝162は、ケース50において開口51の周方向に全周にわたって連続して形成されている。これにより、薄肉部60は、ケース50において開口51の周方向に全周にわたって連続して形成されている。さらに、図9に示すように溝162の断面形状を変更することもできる。また、溝62,162の断面形状は、台形状に限らず、矩形状、三角形状、半円状等、任意である。
【0055】
図10に示すように、複数の薄肉部60a~60dをケース50の端部59に形成することもできる。薄肉部60a~60dは、ケース50の外周縁部に、それぞれ溝62A~62Dが形成されることで形成されている。薄肉部60a~60dでは、第2距離h21~h24が互いに異なっている。こうした構成によれば、端部59を切断(分断)する位置を変更することにより、ケース50の高さ方向の寸法を変更することができる。
【0056】
図11に示すように、溝62,162に代えて、ケース50の端部59において、開口51の周方向に沿って複数の凹部262が形成されていてもよい。薄肉部260は、ケース50の外周縁部に、それぞれ凹部262が形成されることで形成されている。こうした構成によっても、ケース50において開口51の形成された上方向の端部59を、複数の薄肉部260に沿って切断することができる。図12に示すように、凹部262の数を変更することもできる。また、凹部262の断面形状は、台形状に限らず、矩形状、三角形状、半円状等、任意である。
【0057】
・対角の関係にある2つの角部58のみに、第1縦溝64及び第2縦溝68を形成してもよい。また、第1縦溝64を省略することもできる。また、第2縦溝68を省略することもできる。
【0058】
・ケース50を、有底六角筒状や、有底円筒状に形成することもできる。
【0059】
・ケース50の内周縁部に、溝62,162,62A~62D,凹部262を形成することで、薄肉部60,260を形成することもできる。
【0060】
・樹脂80は、熱硬化性樹脂に限らず、紫外線硬化樹脂等、ケース50の内部に液体の状態で流し込んだ後に硬化させるものであればよい。
【符号の説明】
【0061】
10…点火コイル、20…1次コイル、30…2次コイル、50…ケース、51…開口、51a…端、59…端部、60…薄肉部、60a…薄肉部、60b…薄肉部、60c…薄肉部、60d…薄肉部、80…樹脂、80a…表面、260…薄肉部。
図1
図2
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図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12