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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】調光シート、および、調光装置
(51)【国際特許分類】
   G02F 1/13 20060101AFI20240214BHJP
   G02F 1/1334 20060101ALI20240214BHJP
   G02F 1/1339 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G02F1/13 505
G02F1/1334
G02F1/1339 500
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019121809
(22)【出願日】2019-06-28
(65)【公開番号】P2021009188
(43)【公開日】2021-01-28
【審査請求日】2022-05-25
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】安原 寿二
【審査官】横井 亜矢子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-198744(JP,A)
【文献】特開平08-110524(JP,A)
【文献】実開昭64-002226(JP,U)
【文献】特開平01-113729(JP,A)
【文献】特開2007-279322(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2018/0284521(US,A1)
【文献】特開2016-224299(JP,A)
【文献】特表2018-507443(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/133,1/1333,1/1334
G02F 1/1339-1/1341,1/1347
G02F 1/13,1/137-1/141
G02F 1/15-1/19
E06B 3/54-3/88
E06B 9/24-9/388
C03C 27/00-29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1透明電極と、
第2透明電極と、
前記第1透明電極と前記第2透明電極との間に位置する液晶層と、
前記液晶層のなかに位置する複数のスペーサーと、を備え、
前記スペーサーの平均サイズは、3μm以上50μm以下であり、
前記スペーサーのサイズ分布は、2つ以上の離散的なピークを有し、全てのピークのなかでサイズの最頻値が最大であるピークに属するスペーサーのサイズが前記液晶層の厚みを有し、
前記液晶層は、液晶組成物に充填された空隙を区画する高分子層を備える
調光シート。
【請求項2】
前記サイズ分布は、第1ピークを含み、
前記第1ピークにおけるサイズの最頻値は、全てのピークのなかで最大であって、8μm以上50μm以下である
請求項1に記載の調光シート。
【請求項3】
前記サイズ分布は、第2ピークを含み、
前記第2ピークにおけるサイズの最頻値は、全てのピークのなかで前記第1ピークの次に大きく、3μm以上7μm以下である
請求項2に記載の調光シート。
【請求項4】
前記サイズ分布は、前記第1ピークと前記第2ピークとから構成され、
前記第2ピークに属するスペーサーの数量は、全てのスペーサーの数量に対する10%以上70%以下である
請求項3に記載の調光シート。
【請求項5】
前記第1ピークに属するスペーサーの数量は、前記第2ピークに属するスペーサーの数量よりも多い
請求項3または4に記載の調光シート。
【請求項6】
前記スペーサーの密度は、30個/mm以上500個/mm以下である
請求項1から5のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項7】
前記液晶層に接する接触層を備え、
前記スペーサーは、粒状スペーサー、および、前記接触層から前記液晶層に向けて突き出る突状スペーサーの少なくとも一方である
請求項1から6のいずれか一項に記載の調光シート。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか一項に記載の調光シートと、
前記調光シートを駆動する駆動回路と、を備える
調光装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、調光シート、および、調光装置に関する。
【背景技術】
【0002】
調光シートは、ポリマーネットワークなどの高分子層のなかに液晶組成物を保持する。高分子層の厚みは、スペーサーによって保たれる。液晶組成物は、高分子層に印加される電圧が変わることに応じて調光シートを透明と不透明とに変える(例えば、特許文献1を参照)。調光シートの型式は、ノーマル型とリバース型とに分類される。ノーマル型の調光シートは、非通電時に不透明であり、通電時に透明である。リバース型の調光シートは、非通電時に透明であり、通電時に不透明である(例えば、特許文献2,3を参照)。
【0003】
透明駆動時における透明の度合いは、ヘイズ(JIS K 7136:2000)によって評価される。例えば、ヘイズの値が低いほど、透明駆動時における透明の度合いが高いと評価される(例えば、特許文献4を参照)。不透明駆動時における不透明の度合いは、透過像鮮明度(JIS K 7374:2007)、あるいは、クラリティによって評価される。例えば、透過像鮮明度の値が低いほど、また、クラリティの値が低いほど、不透明駆動時における不透明の度合いが高いと評価される(例えば、特許文献5を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2018-066935号公報
【文献】特開2017-200856号公報
【文献】特開2018-112702号公報
【文献】特開2018-031870号公報
【文献】特許第6493598号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
調光シートの用途が広がる近年では、透明駆動時における調光シートの透明さを向上させること、および、不透明駆動時における不透明さを向上させることが、用途に応じて別々に高まっている。例えば、車両のウインドシールドなどに適用される調光シートにおいては、透明駆動時の視認性などを高めるため、透明駆動時におけるヘイズの値を低めることが強く求められる。会議室の窓などに適用される調光シートに用いられる調光シートにおいては、室内のプライバシーを守るため、不透明駆動時におけるクラリティの値を低める要請が強い。
【0006】
一方、不透明駆動時におけるクラリティの値や透過像鮮明度の値と、透明駆動時におけるヘイズの値とは、一方を低めると他方が高まってしまうという、言わばトレードオフの関係を有する。例えば、不透明駆動時におけるクラリティの値をスペーサー密度の上昇によって低めると、透明駆動時におけるヘイズの値が高まり、結果として、透明駆動時における透明の度合いが下がってしまう。反対に、透明駆動時におけるヘイズの値をスペーサー密度の低下によって低めると、不透明駆動時におけるクラリティの値が高まり、結果として、不透明駆動時における不透明の度合いが下がってしまう。このように、透明と不透明とを両立させる調光シートでは、相反する2つの物性値の相関関係を弱めるように、設計自由度の拡張が求められている。
本発明の目的は、設計自由度を拡張可能にした調光シート、および、調光装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するための調光シートは、第1透明電極と、第2透明電極と、前記第1透明電極と前記第2透明電極との間に位置する液晶層と、前記液晶層のなかに位置する複数のスペーサーと、を備え、前記スペーサーの平均サイズは、3μm以上50μm以下であり、前記スペーサーのサイズ分布は、2つ以上の離散的なピークを有する。
【0008】
上述したように、従前の構成では、サイズ分布が単一のピークからなり、スペーサー密度を単に低めると、透過駆動時における透明さは上がるが、不透過駆動時における不透明さが下がってしまう。反対に、スペーサー密度を単に高めると、不透明駆動時における不透明さは上がるが、透過駆動時における透明さが下がってしまう。
【0009】
この点、上記調光シートによれば、大きいサイズのスペーサーは、小さいサイズのスペーサーと比べて、ミー散乱による前方散乱光の強度を高める。そして、小さいサイズのスペーサーの配合比を高めることは、前方散乱光の強度を低める分だけ、不透過駆動時における不透明さを上げながらも、透過駆動時における透明さが下がることを抑える。また、大きいサイズのスペーサーの配合比を高めることは、ミー散乱による前方散乱光の強度を高める分だけ、透過駆動時における透明さを高めながらも、不透過駆動時における不透明さが下がることを抑える。結果として、相反する2つの特性値の相関関係を弱めるように、設計自由度を拡張することが可能である。
【0010】
上記調光シートにおいて、前記サイズ分布は、第1ピークを含み、前記第1ピークにおけるサイズの最頻値は、全てのピークのなかで最大であって、8μm以上50μm以下であってもよい。この調光シートによれば、第1ピークにおけるサイズの最頻値が8μm以上50μm以下であるから、透明と不透明との両方を液晶層に実現させるうえで、液晶層の厚みを適切な範囲に保つことが可能である。
【0011】
上記調光シートにおいて、前記サイズ分布は、第2ピークを含み、前記第2ピークにおけるサイズの最頻値は、全てのピークのなかで前記第1ピークの次に大きく、3μm以上7μm以下であってもよい。この調光シートによれば、第2ピークにおけるサイズの最頻値が3μm以上7μm以下であるから、第1ピークに属するスペーサと、第2ピークに属するスペーサーとの間での前方散乱光の差異を利用するうえで、スペーサーのサイズを適切な範囲とすることが容易である。
【0012】
上記調光シートにおいて、前記サイズ分布は、前記第1ピークと前記第2ピークとから構成され、前記第2ピークに属するスペーサーの数量は、全てのスペーサーの数量に対する10%以上70%以下であってもよい。この調光シートによれば、第2ピークに属するスペーサーが全てのスペーサーの10%以上70%以下であるため、透過駆動時におけるヘイズの値と、不透過駆動時におけるクラリティの値や透過像鮮明度の値とを、各別の好ましい範囲で実現することが容易である。
【0013】
上記調光シートにおいて、前記第1ピークに属するスペーサーの数量は、前記第2ピークに属するスペーサーの数量よりも多くてもよい。この調光シートによれば、相反する2つの特性値の相関関係を弱めるように、設計自由度を拡張することが可能であることに加えて、液晶層の厚みのばらつきが抑えられやすい。
【0014】
上記調光シートにおいて、前記スペーサーの密度は、30個/mm以上500個/mm以下であってもよい。この調光シートによれば、スペーサーの密度が30個/mm以上であるから、液晶層の厚みのばらつきが抑えられやすい。また、スペーサーの密度が500個/mm以下であるから、透明駆動時におけるヘイズの値が過大となることが抑制可能である。
【0015】
上記調光シートにおいて、前記液晶層に接する接触層を備え、前記スペーサーは、粒状スペーサー、および、前記接触層から前記液晶層に向けて突き出る突状スペーサーの少なくとも一方であってもよい。粒状スペーサーであれ、突状スペーサーであれ、相互に異なるピークに属するスペーサー間では、前方散乱の差異がサイズの差異に準じて生じ得る。スペーサーが粒状スペーサーおよび突状スペーサーの少なくとも一方であれば、上述した効果を得つつ、スペーサーの配合比やサイズの設計変更が容易である。
【0016】
上記課題を解決するための調光装置は、上記調光シートと、前記調光シートを駆動する駆動回路と、を備える。この調光装置によれば、相反する2つの特性値の相関関係を弱めるように、設計自由度を拡張することが可能である。
【発明の効果】
【0017】
本発明に係る調光シート、および、調光装置によれば、設計自由度を拡張可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】電圧が印加されていないときのノーマル型の調光シートを示す断面図。
図2】電圧が印加されているときのノーマル型の調光シートを示す断面図。
図3】電圧が印加されていないときのリバース型の調光シートを示す断面図。
図4】電圧が印加されているときのリバース型の調光シートを示す断面図。
図5】透過像鮮明度の測定装置を模式的に示す装置構成図。
図6】透過像鮮明度の測定装置における透過光量と受光位置との関係を示すグラフ。
図7】クラリティの測定装置を模式的に示す装置構成図。
図8】ヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティと目視順位との関係を示すグラフ。
図9】スペーサーのサイズ分布の一例を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1から図9を参照して、調光シート、および、調光装置の一実施形態を説明する。本実施形態では、調光シートを挟んで観測点とは反対側に存在する物体を観測対象と表す。観測対象は、例えば、人物などの動体、および、装置や置物などの静体を含む。
【0020】
[調光シート]
調光シートは、例えば、車両や航空機などの移動体が備える窓に取り付けられる。また、調光シートは、例えば、住宅、駅、空港などの各種の建物が備える窓、オフィスに設置されたパーティション、店舗に設置されたショーウインドウなどに取り付けられる。また、調光シートは、映像を投影するスクリーンなどに用いられる。
【0021】
調光シートの形状は、平面状であってもよいし、曲面状であってもよい。調光シートの形状は、調光シートが取り付けられる対象の形状に追従した形状であってもよいし、調光シートが取り付けられる対象とは異なる形状であってもよい。調光シートの型式は、ノーマル型であってもよいし、リバース型であってもよい。
【0022】
図1、および、図2を参照して、ノーマル型の調光シート、および、ノーマル型の調光シートを備えた調光装置を説明する。図1は、ノーマル型の調光シートが不透明状態であるときの調光シートの断面構造を示し、図2は、ノーマル型の調光シートが透明状態であるときの調光シートの断面構造を示す。
【0023】
図1が示すように、ノーマル型の調光シート10は、液晶層11と、一対の透明電極12とを備える。液晶層11は、複数のドメインを有した透明高分子層と、各ドメインを埋める液晶組成物とを備える。
【0024】
液晶組成物の保持型式は、ポリマーネットワーク型、高分子分散型、カプセル型からなる群から選択されるいずれか一種である。ポリマーネットワーク型は、3次元の網目状を有したポリマーネットワークを備える。ポリマーネットワークは、相互に連通した網目状の空隙のなかに液晶組成物を保持する。高分子分散型は、孤立した多数の空隙を区画する高分子層を備え、高分子層に分散した空隙のなかに液晶組成物を保持する。カプセル型は、カプセル状を有した液晶組成物を高分子層のなかに保持する。
【0025】
ドメインは、ポリマーネットワークが形成する空隙、高分子層のなかに分散した孤立する空隙、あるいは、高分子層のなかに分散したカプセルである。ドメインは、透明高分子に囲まれた空隙であってもよいし、隣接する他のドメインと繋がる空隙であってもよい。なお、図1から図4に示す調光シートは、保持形式がポリマーネットワーク型である例を示す。
図1が示すように、液晶層11は、透明高分子層の一例であるポリマーネットワーク11Aと、液晶組成物11Bとを備える。
【0026】
ポリマーネットワーク11Aは、紫外線重合性化合物の重合体である。ポリマーネットワーク11Aは、複数のドメイン11Dを区画する。ドメイン11Dは、隣接する他のドメイン11Dと繋がる空隙である。液晶層11は、例えば、塗膜に対する紫外線の照射によって形成される。塗膜は、ポリマーネットワーク11Aを形成するための紫外線重合性化合物と、液晶組成物11Bとの混合物である。
【0027】
液晶組成物11Bは、複数の液晶分子11BLを含む。液晶組成物11Bは、ドメイン11Dを充填する。液晶分子11BLは、例えば、シッフ塩基系、アゾ系、アゾキシ系、ビフェニル系、ターフェニル系、安息香酸エステル系、トラン系、ピリミジン系、シクロヘキサンカルボン酸エステル系、フェニルシクロヘキサン系、ジオキサン系からなる群から選択される一種である。液晶組成物11Bの主成分は、液晶分子11BLである。
【0028】
液晶組成物11Bにおける主成分の重量濃度は、液晶組成物11Bに対して80%以上である。液晶組成物11Bは、主成分以外の成分として、二色性色素、耐候剤、および、液晶層11の形成に際して混入する不可避成分を含んでもよい。耐候剤は、液晶組成物11Bの劣化を抑制するための紫外線吸収剤、あるいは、光安定剤である。不可避成分は、例えば、ポリマーネットワーク11Aの形成に用いられる紫外線重合性化合物の未反応成分である。
【0029】
[スペーサー]
複数の大スペーサーSP1は、液晶層11のなかに分散している。液晶層11の厚み方向において、大スペーサーSP1の有する長さは、液晶層11の厚みとほぼ等しい。複数の大スペーサーSP1は、液晶層11の厚みにばらつきが生じることを抑える。複数の小スペーサーSP2は、液晶層11のなかに分散している。液晶層11の厚み方向において、小スペーサーSP2の有する長さは、大スペーサーSP1の有する長さよりも短い。
【0030】
各スペーサーSP1,SP2は、例えば、粒状スペーサーである。粒状スペーサーは、球状スペーサー、および、非球状スペーサーを含む。非球状スペーサーは、直方体状スペーサー、十字状スペーサー、および、棒状スペーサーを含む。
【0031】
粒状スペーサーを構成する材料は、例えば、無機化合物、有機化合物、および、有機化合物と無機化合物との複合材料を含む。無機化合物は、例えば、二酸化ケイ素、あるいは、酸化アルミニウムや酸化チタンなどの金属酸化物である。有機化合物は、例えば、ジビニルベンゼン系樹脂、スチレン系樹脂、ベンゾグアナミン系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ樹脂からなる群から選択される少なくとも一種である。有機化合物スペーサーよりも圧縮特性が良好である無機化合物スペーサーは、高い圧縮特性を求められる大スペーサーSP1として好適である。
【0032】
粒状スペーサーは、液晶層11と接する他の層に対して定着性を有してもよい。例えば、粒状スペーサーは、透明電極12、あるいは、液晶層11と接する樹脂層と接着するように表面処理が施されたスペーサーであってもよい。
【0033】
粒状スペーサーの散布は、大スペーサーSP1と小スペーサーSP2との間で、互いに同じタイミングで行われてもよいし、互いに異なるタイミングで行われてもよい。粒状スペーサーを散布する方法は、湿式散布法、あるいは、乾式散布法のいずれでもよい。
【0034】
各スペーサーSP1,SP2は、例えば、突状スペーサーである。突条スペーサーは、フォトリソグラフィー法を用いて形成されるフォトスペーサーを含む。突条スペーサーは、例えば、透明電極12の上に積層された感光性樹脂層のパターニングによって形成される。あるいは、突条スペーサーは、例えば、液晶層11と透明電極12との間に存する感光性樹脂層のパターニングによって形成される。突条スペーサーは、透明電極12から液晶層11に向けて突き出る突状を有する。透明電極12、あるいは、液晶層11と透明電極12との間に存する感光性樹脂層は、接触層の一例である。
【0035】
各スペーサーSP1,SP2を構成する材料は、互いに同じであってもよいし、互いに異なってもよい。なお、液晶分子11BLの配向は、各スペーサーSP1,SP2が存することによって少なからず乱れる。そのため、大スペーサーSP1を構成する材料と、小スペーサーSP2を構成する材料とは、液晶分子11BLにおける配向の乱れを抑えるための共通した材料であることが好ましい。
【0036】
各スペーサーSP1,SP2が有する色は、不透明駆動時に求められる調光シートの色と同じであってもよいし、不透明駆動時に求められる調光シートの色と異なってもよい。なお、不透明駆動時に求められる調光シートの彩度を高められる観点において、各スペーサーSP1,SP2が有する色は、不透明駆動時に求められる調光シートの色と同じであることが好ましい。例えば、不透明駆動時に求められる調光シートの色が黒である場合、各スペーサーSP1,SP2は、カーボンブラックなどの黒色の顔料を含有して黒色を有することが好ましい。
【0037】
一対の透明電極12は、液晶層11の厚さ方向において、液晶層11を挟む。各透明電極12は、可視光領域の光を透過する。各透明電極12を構成する材料は、例えば、酸化インジウムスズ、フッ素ドープ酸化スズ、酸化スズ、酸化亜鉛、カーボンナノチューブ、ポリ(3,4-エチレンジオキシチオフェン)からなる群から選択されるいずれか一種である。
【0038】
調光シート10は、一対の透明基材13を備える。一対の透明基材13は、液晶層11の厚さ方向において、一対の透明電極12を挟む。各透明基材13は、可視光領域の光を透過する。各透明基材13を構成する材料は、例えば、透明ガラスや透明合成樹脂などである。
【0039】
液晶層11は、透明状態と不透明状態とを有する。液晶層11は、液晶分子11BLの配向を変える電圧の印加に応じて、液晶分子11BLの配向を変える。液晶層11は、液晶分子11BLの配向の変化に基づいて、透明状態と不透明状態とに切り替わる。液晶層11の透明状態は、観測対象の輪郭を、調光シート10を通して視覚認識可能とする状態である。液晶層11の不透明状態は、観測対象の輪郭を、調光シート10を通して視覚認識不能とする状態である。
【0040】
図1の調光シート10は、配向を変える電圧が印加されていない状態を示す。配向を変える電圧が液晶層11に印加されていないとき、各ドメイン11Dに位置する液晶分子11BLの配向方向はランダムである。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート10に入射した光は、液晶層11において様々な方向に散乱される。結果として、ノーマル型の液晶層11は、電圧が印加されていないときに、濁った状態である不透明状態となる。不透明状態の液晶層11は、白色に濁った状態であってもよいし、液晶層11が色素を有して有色に濁った状態であってもよい。
【0041】
液晶層11が不透明状態であるときに、JIS K 7374:2007に準拠した調光シート10の透過像鮮明度は、例えば、75%以下である。透過像鮮明度は、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度である。調光シート10の透過像鮮明度が75%以下であれば、観測対象の輪郭を、調光シート10を通して十分に視覚認識不能にできる。
【0042】
液晶層11が不透明状態であるときに、調光シート10のクラリティ(clarity)の値が、例えば、85%以下である。これにより、調光シート10の透過像鮮明度が75%以下である場合と同等の効果を得ることができる。
【0043】
液晶層11が透明状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シートのヘイズ(haze)が90%以上であることが好ましい。これにより、観測対象の輪郭を視覚認識不能にできることに加え、観測対象の存否を視覚認識不能にできる。
【0044】
図2が示すように、液晶分子11BLの配向を変える電圧が駆動回路10Dから液晶層11に印加されると、複数の液晶分子11BLの配向がランダムな配向から光を透過する方向に変わる。例えば、各液晶分子11BLは、液晶層11が広がる平面に対して、液晶分子11BLの長軸がほぼ垂直であるように、配向を変える。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート10に入射した光は、液晶層11においてほぼ散乱されることなく、液晶層11を透過する。結果として、ノーマル型の液晶層11は、電圧が印加されるときに、透明状態となる。
【0045】
液晶層11が透明状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シートのヘイズ(haze)が10%以下であることが好ましい。これにより、調光シートが存することに違和感を与えることなく、観測対象を十分に視覚認識可能にできる。
【0046】
図3、および、図4を参照して、リバース型の調光シート、および、それを備えた調光装置を説明する。図3は、リバース型の液晶層11が透明状態であるときの断面構造を示し、図4は、リバース型の液晶層11が不透明状態であるときの断面構造を示す。
【0047】
図3が示すように、リバース型の調光シート20は、液晶層11、一対の透明電極12、および、一対の透明基材13に加えて、一対の配向層21を備える。一対の配向層21は、液晶層11の厚さ方向において液晶層11を挟み、かつ、液晶層11の厚さ方向において一対の透明電極12よりも中央部寄りに位置している。
【0048】
一方の配向層21は、液晶層11と一方の透明電極12との間に位置して、液晶分子11BLに配向規制力を加える。他方の配向層21は、液晶層11と他方の透明電極12との間に位置して、液晶分子11BLに配向規制力を加える。配向層21を構成する材料は、例えば、ポリイミド、ポリアミド、ポリビニルアルコール、シアン化化合物等の有機化合物、シリコーン、シリコン酸化物、酸化ジルコニウムなどの無機化合物、または、これらの混合物により構成されている。
【0049】
各配向層21が垂直配向層である場合、液晶分子11BLの配向を変える電圧が液晶層11に印加されていないとき、各ドメイン11Dに位置する液晶分子11BLの配向方向は、垂直配向である。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート20に入射した光は、液晶層11においてほぼ散乱されることなく、液晶層11を透過する。結果として、リバース型の液晶層11は、液晶分子11BLの配向を変える電圧が印加されていないときに、透明状態となる。なお、各配向層21は、上述した接触層としての機能を兼ね備えて、各スペーサーSP1,SP2と一体に構成されてもよい。
【0050】
図4が示すように、液晶分子11BLの配向を変える電圧が駆動回路10Dから液晶層11に印加されるとき、複数の液晶分子11BLの配向は、例えば、垂直配向から水平配向に変わる。このとき、各液晶分子11BLは、液晶分子11BLの長軸が、液晶層11が広がる平面に沿って延びるように、ドメイン11Dに位置する。そして、一対の透明基材13のいずれかから調光シート20に入射した光は、液晶層11によって散乱される。結果として、リバース型の液晶層11は、液晶分子11BLの配向を変える電圧が印加されるときに、不透明状態となる。
【0051】
リバース型の調光シート20においても、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、ノーマル型の調光シート10と同様である。すなわち、液晶層11が不透明状態であるときに、調光シート20の透過像鮮明度であって、JIS K 7374:2007に準拠し、かつ、光学くし目幅が0.125mmに設定されたときの透過像鮮明度は、例えば、75%以下である。また、液晶層11が不透明状態であるときに、調光シート20のクラリティの値は、例えば、85%以下である。液晶層11が不透明状態であるときに、JIS K 7136:2000に準拠した調光シート20のヘイズ(haze)は、例えば、90%以上であることが好ましい。
【0052】
[透過像鮮明度]
次に、図5、および、図6を参照して、不透明状態における透過像鮮明度の測定方法を説明する。上述したように、透過像鮮明度は、JIS K 7374:2000に準拠する方法によって測定される値である。なお、ノーマル型の調光シート10では、液晶層11に電圧が印加されていない状態を不透明状態とする。また、リバース型の調光シート20では、液晶層11に所定の基準電圧が印加された状態を不透明状態とする。
【0053】
図5が示すように、透過像鮮明度の測定装置30は、光源31、光学くし32、および、受光部33を備える。測定装置30において、測定対象である調光シート10,20は、光源31と光学くし32との間に配置される。透過像鮮明度の測定時において、光学くし32は、光源31、調光シート、および、光学くし32が並ぶ方向と直交する平面に沿って、一定の速度で移動する。光学くし32では、光を遮蔽する遮蔽部32aにおいて、光学くし32の移動方向に沿う幅が、光学くし目幅である。光学くし32では、光学くし32が移動する方向において、遮蔽部32aの幅とスリットの幅とが互いに等しい。本実施形態において、光学くし目幅は0.125mmである。
【0054】
図6が示すように、光学くし32を透過する光量、言い換えれば、受光部33が受光する光量は、周期的に変化する。受光部33が受光する光量の最大値は、最高光量Mであり、光量の最小値は、最低光量MBである。最高光量Mは、調光シート10,20を透過した光が光学くし32によって遮蔽されなかったときに得られる光量である。最低光量MBは、調光シート10,20を透過した光が光学くし32によって遮蔽されたときに得られる光量である。
光学くし目幅がnであるときの透過像鮮明度C(n)(%)は、最高光量Mおよび最低光量MBを用いて、以下の式(1)によって算出することができる。
C(n) =100×(M-MB)/(M+MB) … 式(1)
【0055】
[クラリティ]
次に、図7を参照して、不透明状態におけるクラリティの測定方法を説明する。図7は、クラリティの測定に用いられる測定装置の一例を模式的に示している。なお、ノーマル型の調光シート10では、液晶層11に電圧が印加されていない状態を不透明状態とする。また、リバース型の調光シート20では、液晶層11に所定の基準電圧が印加された状態を不透明状態とする。
【0056】
図7が示すように、クラリティの測定装置40は、照射部41、受光部42、および、積分球43を備える。照射部41は、光源41Aとレンズ41Bとを備える。光源41Aは白色LEDであり、レンズ41Bは、光源41Aが放出した光を平行光に変換する。受光部42は、中央センサー42Cと、外周センサー42Rとを備える。中央センサー42Cおよび外周センサー42Rは、互いの中心軸を同一とする環状を有する。外周センサー42Rは、中央センサー42Cの外側に位置している。なお、測定装置40は、測定対象のクラリティを測定だけでなく、ヘイズの測定にも用いることが可能である。測定装置40の積分球43は、ヘイズの測定時にのみ用いられる。
【0057】
測定装置40において、測定対象である調光シート10,20は、照射部41と積分球43との間に配置される。レンズ41Bから射出された平行光LPの光束における直径は、本実施形態では14mmである。調光シート10,20を透過した光には、液晶層11に入射した平行光LPの光軸に沿って直進する直進光LSと、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内であって直進光LSを除く狭角散乱光LNSとが含まれる。直進光LSが平行光LPの光軸と形成する角度の範囲は、例えば、調光シート10,20が存しない状態で平行光LPが進行する範囲内であって実質的に0°であるように、測定装置40の仕様によって定められる。
【0058】
受光部42では、中央センサー42Cが直進光LSを受光し、外周センサー42Rが狭角散乱光LNSを受光する。液晶層11を透過した光のなかで、中央センサー42Cが受光した直進光LSの光量が中央光量LCであり、外周センサー42Rが受光した狭角散乱光LNSの光量が外周光量LRである。クラリティの値は、以下の式(2)によって算出される。
100×(LC-LR)/(LC+LR) … 式(2)
【0059】
上述したように、測定装置40を用いて調光シートにおけるヘイズを測定することが可能である。なお、ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠する方法によって測定される。また、測定装置40を用いてヘイズを測定する場合には、積分球43に配置された受光部によって、調光シートを透過した光を受光する。
【0060】
ヘイズは、測定対象を通過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率のことである。ヘイズの測定において、上述した平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°未満の光が平行光であり、±2.5°以上の光が広角散乱光である。広角散乱光の透過率を拡散透過率Tdとし、平行光の透過率を平行透過率Tpとし、平行透過率Tpと拡散透過率Tdとの和を全光透過率Ttとする。このとき、ヘイズは、全光透過率Tt中の拡散透過率Tdの割合である。
【0061】
上述したように、測定装置40を用いて、クラリティとヘイズとを測定することは可能ではある。一方、クラリティとヘイズとは、調光シート10,20における、互いに異なる性質を示す。透過像鮮明度とヘイズとは、これもまた、調光シート10,20における、互いに異なる性質を示す。なお、透過像鮮明度とクラリティとは、調光シート10,20において、互いに等しい性質を示し、互換性を有したパラメータである。
【0062】
ヘイズは、広角散乱光に基づく調光シート10,20の性質を示す。ヘイズは、調光シート10,20を目視によって観察した場合に、観察者が知覚する調光シート10,20の全体の濁り度合い、例えば、調光シート10,20の全体の白茶け度合いを示す。例えば、調光シート10,20におけるヘイズが大きいほど、観察者には観測対象がかすんで見える。
【0063】
クラリティは、狭角散乱光に基づく調光シート10,20の性質を示す。クラリティは、観測対象と観測対象以外との境界となる部分、あるいは、観測対象のなかの微小な部分が、どの程度鮮明であるかを示す。例えば、調光シート10,20におけるクラリティの値が小さいほど、調光シート10,20越しの観測対象の輪郭がぼやける、言い換えれば、観測対象の鮮明さが低下する。
【0064】
調光シート10,20における不透明さをヘイズによって定めた場合には、調光シート10,20の濁り度合いは十分であっても、観測対象の輪郭が鮮明である場合もあれば、観測対象の輪郭が不鮮明である場合もある。こうした輪郭のぼやけ度合いの差は、調光シート10,20が観察者によって目視された場合に、不透明さの度合いの違いとして観察者に知覚される。結果として、ヘイズによる不透明さと、視覚によって認識される不透明さとの間に乖離が生じてしまう。
【0065】
一方、調光シート10,20の不透明さをクラリティの範囲によって定めた場合には、クラリティの値が小さいほど、観測対象の輪郭のぼやけ度合いが高まる。結果として、クラリティによる不透明さと、視覚によって認識される不透明さとの間に、乖離が生じることが抑えられる。そして、クラリティの値が上述した範囲内(≦85%)であることによって、観測対象の輪郭における不鮮明さが担保される。このような調光シート10,20は、特に、調光シート10,20から観測対象までの距離が近い場面や、観測対象を照明する光源の照明範囲が狭い、あるいは、観測対象への照射光量が大きい場面での使用に有益である。
【0066】
なお、透過像鮮明度を用いて調光シート10,20の不透明さを評価した場合にも、クラリティを用いて不透明さを評価した場合と同等の効果を得ることができる。すなわち、透過像鮮明度によれば、透過像鮮明度による不透明さと、視覚によって認識される不透明さとの間に乖離が生じることが抑えられる。
【0067】
[目視評価]
次に、不透明状態の調光シートについて、ヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティーと、視覚によって認識される不透明さとの関係を説明する。なお、ノーマル型の調光シート10と、リバース型の調光シート20との間では、各パラメータと視覚によって認識される不透明さとの関係に、同様の関係が得られるため、以下では、ノーマル型の調光シート10を用いた評価を説明する。
【0068】
視覚によって認識される不透明さは、不透明状態の調光シートの背面から80cmの位置に光量が約3500lmの蛍光灯を配置し、調光シートの前面から20cmの位置から目視によって観察した評価の結果である。観察者の視点、調光シート、および、蛍光灯は、同一直線上に位置する。蛍光灯が目視によって最も近くされない水準から順に、目視順位を1位、2位、3位、4位、5位と付ける。
【0069】
透過像鮮明度は、写像性測定機(ICM‐1T、スガ試験機(株)製)を用い、かつ、JIS K 7374:2007に準拠した方法での測定値である。ヘイズは、ヘーズメーター(NDH7000SD、日本電色工業(株)製)を用い、かつ、JIS K 7136:2000に準拠した方法での測定値である。クラリティは、ヘイズ・透明性測定器(ヘイズガードi、BYK-Gardner社製)を用いて得られる測定値である。
【0070】
各目視順位におけるヘイズ、透過像鮮明度、および、クラリティの測定値を、図8に示す。図8が示すように、透過像鮮明度の値は、目視順位が高い調光シート10から順に、30.4%、36.5%、42.6%、51.5%、56.2%である。クラリティの値は、目視順位が高い調光シート10から順に、49.0%、64.6%、66.8%、75.8%、81.7%である。このように、透過像鮮明度の値、および、クラリティの値は、目視順位が高いほど低い。
【0071】
このように、クラリティ、および、透過像鮮明度は、より高い不透明さが与えられる範囲において、視覚によって認識される不透明さと合致する。そして、透過像鮮明度の値が75%以下であれば、蛍光灯の輪郭が視認されにくい不透明さが得られる。クラリティの値が85%以下であれば、蛍光灯の輪郭が視認されにくい不透明さが得られる。
【0072】
ヘイズの値は、目視順位が高い調光シートから順に、98.5%、98.2%、98.5%、97.9%、98.1%である。このように、ヘイズは、より高い不透明さが与えられる範囲において、目視順位との相関性が非常に低い。ヘイズは、より高い不透明さが与えられる範囲において、視覚によって認識される不透明さと合致しない。
【0073】
[スペーサーのサイズ分布]
次に、図9を参照して、調光シートが備えるスペーサーのサイズ分布について説明する。なお、図9では、各スペーサーSP1,SP2が球状スペーサーであって、スペーサーのサイズがスペーサーの粒径であって、小スペーサーSP2の粒径が一種類である例を示す。
【0074】
調光シートが備えるスペーサーのサイズ、および、サイズ分布は、下記条件1、および、条件2を満たす。調光シートが備えるスペーサーのサイズ分布は、下記条件3から条件7を満たすことが好ましい。
(条件1)3μm ≦ 平均サイズ ≦ 50μm
(条件2)2つの離散的なピークを有する。
(条件3)8μm ≦ 最頻値R1 ≦ 50μm
(条件4)3μm ≦ 最頻値R2 ≦ 7μm
(条件5)第2配合比 < 第1配合比
(条件6)10% ≦ 第2配合比 ≦ 70%
(条件7)30個/mm ≦ スペーサー密度 ≦ 500個/mm
【0075】
各スペーサーSP1,SP2が球状スペーサーである場合、各スペーサーSP1,SP2のサイズは、スペーサーの直径である粒径である。各スペーサーSP1,SP2が非球状である場合、各スペーサーSP1,SP2のサイズは、スペーサーに外接する球の直径である。例えば、各スペーサーSP1,SP2が棒状である場合、各スペーサーSP1,SP2のサイズは、スペーサーの延在方向におけるスペーサーの長さである。各スペーサーSP1,SP2が突状スペーサーである場合、各スペーサーSP1,SP2のサイズは、スペーサーが突き出る方向でのスペーサーの高さである。例えば、大スペーサーSP1が液晶層11を貫通するポストスペーサーである場合、大スペーサーSP1のサイズは、液晶層11の厚みである。
【0076】
スペーサーの平均サイズは、同じサイズに属するスペーサーの数量を重みとしたサイズの加重平均値である。平均サイズの算出に用いられる各スペーサーのサイズは、例えば、1mmの調光シートのなかに含まれるスペーサーを光学顕微鏡を用いて撮像した画像から計測される。調光シートが備えるスペーサーの平均サイズは、可視光に対してミー散乱を生じさせ得る大きさであり、3μm以上50μm以下であって、上記条件1を満たす。
【0077】
スペーサーのサイズ均一性は、例えば、CV値(Coefficient of Variation)によって示される。CV値は、平均粒子径に対する粒子径の標準偏差の比率として算出される。大スペーサーSP1のCV値、および、小スペーサーSP2のCV値は、例えば、3%以上5%以下である。
【0078】
図9が示すように、調光シートが備えるスペーサーのサイズ分布は、2つの離散的なピークを有して、上記条件1を満たす。2つの離散的なピークは、第1ピークと第2ピークとである。第1ピークは、大スペーサーSP1が属するピークである。第2ピークは、小スペーサーSP2が属するピークである。
【0079】
サイズ分布における各ピークは、図9の実線が示すように、互いに重ならないピークであってもよいし、図9の二点鎖線が示すように、一部同士が互いに重なる二峰性ピークであってもよい。第1ピークと第2ピークとは、第1ピークの最頻値R1と第2ピークの最頻値R2とが互いに異なる構成であればよい。第1ピークの最頻値R1は、第1ピークの極大値を与えるサイズである。第2ピークの最頻値R2は、第2ピークの極大値を与えるサイズである。なお、第1ピークの一部と、第2ピークの一部とが互いに重なる場合、各ピークを正規分布として近似するようなフィッティング技術を用いるピーク分離処理によって、第1ピークと第2ピークとが分離される。
【0080】
第1ピークにおけるサイズの最頻値R1は、第2ピークにおけるサイズの最頻値R2よりも大きい。第1ピークにおけるサイズの最頻値R1は、例えば、8μm以上50μm以下であって、上記条件3を満たすことが好ましい。第2ピークにおけるサイズの最頻値R2は、例えば、3μm以上7μm以下であって、上記条件4を満たすことが好ましい。
【0081】
第1ピークにおけるサイズの最頻値R1が8μm以上であれば、液晶層11の厚みを8μm以上に保ちやすくなるため、不透過駆動時における不透明さを高めやすい。第1ピークの最頻値R1が50μm以下であれば、液晶層11の厚みを50μm以下に保ちやすくなるため、透過駆動時における透明さを高めやすい。
【0082】
第2ピークにおけるサイズの最頻値R2が3μm以上であれば、小スペーサーSP2による前方散乱光を強めやすく、透明駆動時における透明さを高めやすい。第2ピークにおけるサイズの最頻値R2が7μm以下であれば、大スペーサーSP1が発揮する光学的な作用と、小スペーサーSP2が発揮する光学的な作用との差異を明確にしやすい。
【0083】
第1配合比は、全てのスペーサーに対する、第1ピークに属するスペーサーの配合比であって、大スペーサーSP1の配合比である。第2配合比は、全てのスペーサーに対する、第2ピークに属するスペーサーの配合比であって、小スペーサーSP2の配合比である。第1配合比は、例えば、第2配合比よりも高く、上記条件5を満たすことが好ましい。第1配合比が第2配合比よりも高い構成であれば、液晶層11の厚みにばらつきが生じることを抑えやすい。
【0084】
第2配合比は、例えば、10%以上70%以下であって、上記条件6を満たすことが好ましい。小スペーサーSP2の配合比が10%以上であれば、小スペーサーSP2による前方散乱光の強度の向上が、より高い確度で実現される。小スペーサーSP2の配合比が70%以下であれば、大スペーサーSP1による液晶層11の厚みの均一性が、より高められる。
【0085】
スペーサー密度は、液晶層11の単位面積あたりに含まれるスペーサーの個数である。スペーサー密度は、例えば、30個/mm以上500個/mm以下であって、上記条件7を満たすことが好ましい。スペーサー密度が30個/mm以上であれば、液晶層11の厚みのばらつきが抑えられやすい。また、スペーサー密度が500個/mm以下であれば、透明駆動時におけるヘイズの値が過大となることが抑制可能である。
【0086】
[試験例1]
各スペーサーSP1,SP2として球状の樹脂製スペーサーを用い、試験例1のポリマーネットワーク型調光シートを得た。この際、大スペーサーSP1として最頻値R1が20μmであるスペーサーを用い、小スペーサーSP2として最頻値R2が5μmであるスペーサーを用いた。また、スペーサー密度を32個/mmとして、第1配合比を70%とし、第2配合比を30%とした。
[試験例2]
スペーサー密度を265個/mmに変更し、それ以外の条件を試験例1と同じくして、試験例2のポリマーネットワーク型調光シートを得た。
[試験例3]
スペーサー密度を497個/mmに変更し、それ以外の条件を試験例1と同じくして、試験例3のポリマーネットワーク型調光シートを得た。
【0087】
[試験例4]
スペーサー密度を612個/mmに変更し、それ以外の条件を試験例1と同じくして、試験例4のポリマーネットワーク型調光シートを得た。
[試験例5]
スペーサー密度を25個/mmに変更し、それ以外の条件を試験例1と同じくして、試験例5のポリマーネットワーク型調光シートを得た。
【0088】
[試験例6]
スペーサー密度を172個/mmに変更した。また、第1配合比を25%とし、第2配合比を75%とし、それ以外の条件を試験例1と同じくして、試験例6のポリマーネットワーク型調光シートを得た。
[試験例7]
スペーサー密度を242個/mmに変更した。また、第1配合比の比率を95%とし、第2配合比を5%とし、それ以外の条件を試験例1と同じくして、試験例7のポリマーネットワーク型調光シートを得た。
【0089】
そして、試験例1から試験例7の各調光シートについて、ヘイズ測定器(ヘイズメータNDH-7000SP、日本電色工業社製)を用い、透明状態、および、不透明状態の両方において、ヘイズの値を測定した。また、上述したクラリティの測定方法に準じて、ヘイズ・透明性測定器(ヘイズガードi、BYK-Gardner社製)を用い、不透明状態におけるクラリティの値を測定した。また、高精度デジタルマイクロメーター(ミツトヨ社製)を用いて、調光シートの面内で10mmの間隔を空けて並ぶ10点の各測定位置について調光シートの総厚を測定し、次いで、溶剤で液晶層11を拭き取った後、再度、電極付き基材の厚みを測定し、これらの差分値を液晶層11の厚みとして、液晶層11における膜厚均一性を算出した。なお、液晶層11における膜厚均一性は、干渉膜厚計を用いて測定することも可能である。
【0090】
試験例1から試験例7の各調光シートにおける測定結果、すなわち、透明状態でのヘイズの値、不透明状態でのヘイズの値、不透明状態でのクラリティの値、および、膜厚均一性を表1に示す。なお、表1では、膜厚均一性が5%以下である試験例に「〇」を付し、膜厚均一性が5%を越える試験例に「×」を付して示す。膜厚均一性は、最大値と最小値との差を最大値と最小値との総和の半分で除算して得られる値とした。
【0091】
【表1】
【0092】
表1が示すように、試験例1から試験例4において、スペーサー密度が高いほど、不透明状態でのクラリティの値は低く、85%以下となる範囲で、不透明さを高めていることが認められる。一方、スペーサー密度が高いほど、透明状態でのヘイズの値は高く、10%を越えるまで、透明さを低めていることが認められる。なお、不透明状態でのヘイズは、いずれも90%以上であって、スペーサー密度の高さに依存しない。そして、試験例1から試験例4のいずれにおいても、十分な膜厚均一性が得られていることが認められる。
【0093】
試験例5は、試験例1から試験例4のいずれよりも、スペーサー密度が低く、これにより、透明状態では4.3%という低いヘイズの値が得られる一方で、不透明状態では98%という高いクラリティの値を示し、不透明さを下げていることが認められる。
【0094】
試験例6は、試験例1や試験例2よりも、第1配合比が低く、かつ、第2配合比が高い。これにより、透明状態でのヘイズの値、および、不透明状態でのクラリティの値が良好ではある一方で、膜厚均一性に劣ることが認められる。
【0095】
試験例7は、試験例2よりも、第1配合比が高く、かつ、第2配合比が高い。これにより、試験例7では、不透明状態でのクラリティの値が89%と高く、不透明状態での不透明さを下げていることが認められる。
【0096】
ここで、大スペーサーSP1は、小スペーサーSP2と比べて、ミー散乱による前方散乱光の強度を高める。そして、小スペーサーSP2の配合比である第2配合比を高めることは、試験例2と試験例7との比較によるように、前方散乱光の強度を低める分だけ、不透過駆動時における不透明さを上げる一方で、透過駆動時における透明さを十分に許容される範囲に止めることが認められる。
【0097】
また、大スペーサーSP1の配合比である第1配合比を高めることは、試験例1および2と試験例6との比較によるように、ミー散乱による前方散乱光の強度を高める分だけ、透過駆動時における透明さを上げながらも、不透過駆動時における不透明さを十分に許容される範囲に止めることが認められる。
【0098】
なお、第1配合比や第2配合比が互いに等しい構成においては、試験例1から試験例5のなかでの比較によるように、スペーサー密度が高まるほど、透明駆動時における透明さが低まり、不透明駆動における不透明さが高まるという傾向は保たれている。また、試験例1から6のなかでの比較によるように、大スペーサーSP1の密度が低すぎると、液晶層11の厚みにばらつきが生じはじめるという傾向も認められる。
【0099】
以上、上記実施形態によれば、以下に列挙する効果を得ることができる。
(1)上記条件1,2を満たす調光シート10,20であれば、大スペーサーSP1の配合比を高めたり、小スペーサーSP2の配合比を高めたりすることにより、透過駆動時における透明さと、不透過駆動時における不透明さとを、各別に調整することが可能となる。すなわち、相反する2つの特性値の相関関係を弱めるように、設計自由度を拡張することが可能である。
【0100】
(2)上記条件3を満たす調光シート10,20であれば、透明と不透明との両方を液晶層11に実現させるうえで、液晶層11の厚みを適切な範囲に保つことが可能である。
【0101】
(3)上記条件4を満たす調光シート10,20であれば、大スペーサーSP1と小スペーサーSP2との間での前方散乱光の差異を利用するうえで、スペーサーのサイズを適切な範囲とすることが容易である。
【0102】
(4)上記条件5を満たす調光シート10,20であれば、相反する2つの特性値の相関関係を弱めるように、設計自由度を拡張することが可能であることに加えて、液晶層11における厚みのばらつきが抑えられやすい。
【0103】
(5)上記条件6を満たす調光シート10,20であれば、透過駆動時におけるヘイズの値と、不透過駆動時におけるクラリティの値や透過像鮮明度の値とを、各別の好ましい範囲で実現することが容易である。
【0104】
(6)上記条件7を満たす調光シート10,20であれば、液晶層11における厚みのばらつきが抑えられやすく、また、透明駆動時におけるヘイズの値が過大となることが抑制可能である。
【0105】
なお、上記実施形態は、以下のように変更して実施することができる。
・スペーサーのサイズ分布は、3つ以上のピークを有してもよい。この際、ピークにおけるサイズの最頻値が最も大きいピークが第1ピークであり、第1ピーク以外の2つ以上のピークが第2ピークである。
【0106】
・調光シート10,20は、液晶層11の端面や透明電極12の表面などを覆うバリア層をさらに備えることも可能である。バリア層は、ガスバリア機能と紫外線バリア機能との少なくとも一方を備えてもよい。
【0107】
・調光シート10,20は、調光シートの機械的な強度を高める機能を有した光透過性基材をさらに備えることも可能である。光透過性基材を構成する材料の一例は、ガラスやシリコンなどの透明無機材料、ポリメタクリル酸エステル樹脂、ポリエチレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリビニルアルコール、ポリカーボネート、ポリ塩化ビニル、ポリイミド、ポリサルホンなどの透明有機材料である。
・ノーマル型の調光シート10において、液晶層11の不透明状態は、透明状態よりも低い電圧の印加によって実現されてもよい。
【符号の説明】
【0108】
LP…平行光、LS…直進光、LNS…狭角散乱光、M…最高光量、MB…最低光量、Td…拡散透過率、Tt…全光透過率、Tp…平行透過率、LC…中央光量、LR…外周光量、10,20…調光シート、10D…駆動回路、11…液晶層、11A…ポリマーネットワーク、11B…液晶組成物、11BL…液晶分子、12…透明電極、13…透明基材、21…配向層、30,40…測定装置、31…光源、32…光学くし、32a…遮蔽部、33…受光部、41…照射部、41A…光源、41B…レンズ、42…受光部、42C…中央センサー、42R…外周センサー、43…積分球。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9