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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】核酸の検出方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/686 20180101AFI20240214BHJP
   C12Q 1/6888 20180101ALI20240214BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z
C12Q1/6888 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 30
(21)【出願番号】P 2019134717
(22)【出願日】2019-07-22
(65)【公開番号】P2021016357
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】弁理士法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高岡 直子
(72)【発明者】
【氏名】四方 正光
(72)【発明者】
【氏名】二宮 健二
(72)【発明者】
【氏名】小林 慎一郎
【審査官】中山 基志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/198682(WO,A1)
【文献】国際公開第2007/052765(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/017452(WO,A1)
【文献】特表2015-533288(JP,A)
【文献】特表2019-506849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
検体中のRNAウイルスを検出する方法であって、
(1)検体を、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む精製水、生理食塩水または緩衝液に懸濁する工程;
(2)工程(1)で得られた懸濁液の遠心上清を抽出する工程;
(3)工程(2)で抽出した遠心上清と、検体処理液とを混合する工程;
(4)工程(3)で得られた混合液を、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液であって、工程(1)で選ばれた要素を含まない1ステップRT-PCR反応液と混合し、RT-PCRを行う工程;および、
(5)前記RT-PCR産物を検出する工程;
を含む方法。
【請求項2】
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
前記ノロウイルスの遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記工程(3)における検体処理液が、1種以上の界面活性剤を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記界面活性剤の濃度が、0.02~0.5%(w/v)である、請求項6~10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記工程(3)における検体処理液が、水酸化物を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記水酸化物の濃度が、10~100mMである、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記工程(3)における遠心上清と検体処理液との混合比が、体積比として1:3~6である、請求項1~14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項1に記載の方法。
【請求項18】
前記工程(5)におけるRT-PCR産物の検出が、リアルタイム測定によりモニターされる、請求項1に記載の方法。
【請求項19】
前記リアルタイム測定において、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線または融解曲線におけるピークを測定することにより、検体におけるRNAの存在が、陽性または陰性であることを判定する、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記リアルタイム測定において、内部コントロールDNAに対するPCR産物の増幅曲線または融解曲線におけるピークを測定することにより、検体に対する再検査が必要であるか否かを判定する、請求項18または19に記載の方法。
【請求項21】
検体中のRNAウイルス検出用キットであって、
(1)内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む精製水、生理食塩水または緩衝液;
(2)検体処理液;および、
(3)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼと、逆転写反応プライマーおよびPCRプライマーの少なくとも一方とを含む1ステップRT-PCR反応液であって、(1)で選ばれた要素を含まない1ステップRT-PCR反応液;
を含む、キット。
【請求項22】
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項21に記載のキット。
【請求項23】
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、請求項21に記載のキット。
【請求項24】
前記検体処理液が、1種以上の界面活性剤を含む、請求項21に記載のキット。
【請求項25】
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、請求項24に記載のキット。
【請求項26】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる、請求項25に記載のキット。
【請求項27】
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、請求項25に記載のキット。
【請求項28】
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、請求項27に記載のキット。
【請求項29】
前記検体処理液が、水酸化物を含む、請求項21に記載のキット。
【請求項30】
前記水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、請求項29に記載のキット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、逆転写-ポリメラーゼ連鎖反応(reverse transcription-polymerase chain reaction、RT-PCR)による検体中のRNAウイルスを検出する方法および該方法を実行するためのキットに関する。より具体的には、検体と混合し、分析試料である遠心上清を得るための精製水、生理食塩水または緩衝液が、予め内部コントロールDNA、該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーから選ばれる少なくとも1つの要素を含み、一方、RT-PCR反応液は、前記精製水、生理食塩水または緩衝液に含まれる前記要素を含まないことを特徴とする検査方法、および該方法を実行するためのキットに関する。
【背景技術】
【0002】
細菌またはウイルスによる感染の防止および感染の拡大を防止するためには、細菌またはウイルスの感染者または細菌またはウイルスによる汚染物を特定することが重要である。該汚染物としては、感染者の糞便または吐物およびこれらに直接的または間接的に汚染された物品類、ならびに細菌またはウイルスに汚染された食品類などが挙げられる。
【0003】
細菌またはウイルスの検出法には様々な方法があるが、迅速に測定する方法としては、PCR法による核酸検出法が普及している。例えば、RNAウイルスであるノロウイルスを迅速に高感度で測定する手段として、ノロウイルスのRNAをRT-PCRで増幅し、増幅産物量を測定する方法があげられる(特許文献1および2、非特許文献1)。国内においては、厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課による通知(非特許文献2および3)に準拠して、RT-PCR法によるノロウイルスの検出およびリアルタイムPCR法によるノロウイルスの定量的検出が広く行われており、ノロウイルス検出キットも市販されている。
【0004】
微生物である細菌またはウイルスの汚染を検査する対象が糞便などの排泄物である場合、通常、糞便を精製水または生理食塩水などに懸濁した糞便乳剤を高速遠心分離し、得られた遠心上清を検体として、PCRまたはRT-PCRにより、微生物に由来する遺伝子の分析が行われている。一般に、市販の核酸検査用キットには、内部コントロールDNAが含まれており、PCR反応系に添加することにより、核酸の検出が適切に行われているか否か、すなわちPCR反応が適切に進行したか否かを判断するための指標として用いられる。その結果、検体中の微生物由来の核酸に対する増幅曲線または増幅産物の融解曲線ピークが検出されない場合であっても、内部コントロールDNAの増幅曲線または増幅産物の融解曲線ピークが検出される場合には、微生物汚染に対して真の陰性であると判定される。また、検体に由来する成分によってPCR反応が阻害されると、検体中の微生物由来の核酸は検出されないが、内部コントロールDNAが共存すれば、内部コントロールDNAも検出されないため、検体の微生物汚染が陰性であると誤判定される事態(偽陰性)を避けることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】WO2002/029119
【文献】WO2002/029120
【非特許文献】
【0006】
【文献】Kageyama T, et al. Broadly reactive and highly sensitive assay for Norwalk-like viruses based on real-time quantitative reverse transcription-PCR. J Clin Microbiol. 2003 Apr;41(4):1548-57.
【文献】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 食安監発第1105001号(平成15年11月5日)別添「ノロウイルスの検出法について」、最終改正:食安監発0514004号(平成19年5月14日)
【文献】厚生労働省医薬食品局食品安全部監視安全課 食安監発第1105001号(平成15年11月5日)別添「ノロウイルスの検出法について」、最終改正:食安監発1022第1号(平成25年10月22日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
通常、核酸検査用キットには、内部コントロールとしての鋳型DNAおよびプライマーなどのPCR反応が進行する要素のすべてが、PCR反応液またはRT-PCR反応液に含まれる。そのため、微生物汚染を検査すべき検体が、分析作業上の人為的エラーなどによりPCR反応液またはRT-PCR反応液に添加されなかった場合であっても、内部コントロールDNAの増幅曲線または増幅産物の融解曲線ピークが検出されるため、分析対象の検体に微生物由来の遺伝子が存在したとしても、検査結果は陰性となり、誤った判定(偽陰性)に至る。
【0008】
本発明の目的は、検体が、人為的エラーによって、PCR反応液またはRT-PCR反応液へ添加されず、その結果として、検体の微生物汚染が陰性と判定される偽陰性を防止する方法および該方法を実行するための検査用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の目的は、以下の発明により達成される。
〔1〕
検体中のRNAウイルスを検出する方法であって、
(1)検体を、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む精製水、生理食塩水または緩衝液に懸濁する工程;
(2)工程(1)で得られた懸濁液の遠心上清を抽出する行程、
(3)工程(2)で抽出した遠心上清と、検体処理液とを混合する工程、
(4)工程(3)で得られた混合液を、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液であって、工程(1)で選ばれた要素を含まない1ステップRT-PCR反応液と混合し、RT-PCRを行う工程;および、
(5)前記RT-PCR産物を検出する工程;
を含む方法。
〔2〕
前記検体が、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、〔1〕に記載の方法。
〔3〕
前記検体が、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物および嘔吐物由来試料からなる群より選ばれる試料に由来する、〔1〕に記載の方法。
〔4〕
前記RNAウイルスが、ノロウイルスである、〔1〕に記載の方法。
〔5〕
前記ノロウイルスの遺伝子型が、ジェノグループI(GI)またはジェノグループII(GII)である、〔4〕に記載の方法。
〔6〕
前記工程(3)における検体処理液が、1種以上の界面活性剤を含む、〔1〕に記載の方法。
〔7〕
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、〔6〕に記載の方法。
〔8〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる、〔7〕に記載の方法。
〔9〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、〔7〕に記載の方法。
〔10〕
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、〔9〕に記載の方法。
〔11〕
前記界面活性剤の濃度が、0.02~0.5%(w/v)である、〔6〕~〔10〕のいずれかに記載の方法。
〔12〕
前記工程(3)における検体処理液が、水酸化物を含む、〔1〕に記載の方法。
〔13〕
前記水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、〔12〕に記載の方法。
〔14〕
前記水酸化物の濃度が、10~100mMである、〔12〕または〔13〕に記載の方法。
〔15〕
前記工程(3)における遠心上清と検体処理液との混合比が、体積比として1:3~6である、〔1〕~〔14〕のいずれかに記載の方法。
〔16〕
前記工程(3)における検体処理液が、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)に含まれるSample Treatment Reagentである、〔1〕に記載の方法。
〔17〕
前記工程(4)における1ステップRT-PCR反応液が、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)に含まれるNoV Reagent A、BおよびCの混合物であって、前記工程(1)で選ばれた要素を含まない混合物である、〔1〕に記載の方法。
〔18〕
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔1〕に記載の方法。
〔19〕
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔1〕に記載の方法。
〔20〕
前記工程(5)におけるRT-PCR産物の検出が、リアルタイム測定によりモニターされる、〔1〕に記載の方法。
〔21〕
前記リアルタイム測定において、蛍光フィルターを用いてRT-PCR産物の増幅曲線または融解曲線におけるピークを測定することにより、検体におけるRNAの存在が、陽性または陰性であることを判定する、〔20〕に記載の方法。
〔22〕
前記リアルタイム測定において、内部コントロールDNAに対するPCR産物の増幅曲線または融解曲線におけるピークを測定することにより、検体に対する再検査が必要であるか否かを判定する、〔20〕または〔21〕に記載の方法。
〔23〕
検体中のRNAウイルス検出用キットであって、
(1)内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む精製水、生理食塩水または緩衝液;
(2)検体処理液;および、
(3)逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む1ステップRT-PCR反応液であって、(1)で選ばれた要素を含まない1ステップRT-PCR反応液;
を含む、キット。
〔24〕
前記逆転写酵素が、AMV逆転写酵素、MMLV逆転写酵素、HIV逆転写酵素およびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔23〕に記載のキット。
〔25〕
前記DNAポリメラーゼが、Taq DNAポリメラーゼ、Tth DNAポリメラーゼ、KOD DNAポリメラーゼ、Pfu DNAポリメラーゼおよびこれらの変異体からなる群より選ばれる、〔23〕に記載のキット。
〔26〕
前記検体処理液が、1種以上の界面活性剤を含む、〔23〕に記載のキット。
〔27〕
前記界面活性剤が、陰イオン界面活性剤である、〔26〕に記載のキット。
〔28〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムからなる群より選ばれる、〔27〕に記載のキット。
〔29〕
前記陰イオン界面活性剤が、アルキルサルフェートである、〔27〕に記載のキット。
〔30〕
前記アルキルサルフェートが、ドデシル硫酸ナトリウムまたはドデシル硫酸アンモニウムである、〔29〕に記載のキット。
〔31〕
前記検体処理液が、水酸化物を含む、〔23〕に記載のキット。
〔32〕
前記水酸化物が、水酸化ナトリウムまたは水酸化カリウムである、〔31〕に記載のキット。
〔33〕
前記検体処理液が、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)に含まれるSample Treatment Reagentである、〔23〕に記載のキット。
〔34〕
前記1ステップRT-PCR反応液が、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)に含まれるNoV Reagent A、BおよびCの混合物であって、前記(1)で選ばれた要素を含まない混合物である、〔23〕に記載のキット。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、工程(1)において、検体を懸濁するために使用される精製水、生理食塩水または緩衝液は、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む。一方、工程(4)において使用されるRT-PCR反応液は、工程(1)で使用される精製水、生理食塩水または緩衝液に加えられる要素を含まない。したがって、内部コントロールDNAの増幅は、検体と前記精製水、生理食塩水または緩衝液との懸濁液の遠心上清が、前記RT-PCR反応液に添加された場合にのみ生じる。内部コントロールDNAの増幅が生じない場合は、RT-PCR反応に検体が供されていないことを示す。このようにして、検体がRT-PCR反応液へ添加されないことにより、検体が正しく分析されないという人為的エラーが検知され、微生物汚染についての偽陰性の判定が防止される。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ノロウイルスを含む糞便を、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーの各要素を含む蒸留水に懸濁し、得られた懸濁液の遠心上清を検体処理液と混合した。本図は、得られた混合液を、前記要素を含まない1ステップRT-PCR反応液に添加して行ったリアルタイムPCRにおける増幅曲線を示す図である。
図2】ノロウイルスを含まない糞便を、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーの各要素を含む蒸留水に懸濁し、得られた懸濁液の遠心上清を検体処理液と混合した。本図は、得られた混合液を、前記要素を含まない1ステップRT-PCR反応液に添加して行ったリアルタイムPCRにおける増幅曲線を示す図である。
図3】蒸留水を、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーを含まない1ステップRT-PCR反応液に添加して行ったリアルタイムPCRにおける増幅曲線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明は、検体中のRNAウイルスの存在を、検体中のRNAウイルスから抽出したRNAを、RT-PCRにより増幅することにより検出する検査方法であって、測定系に検体が加えられないまま検査され、誤った検査結果を与えるという人為的エラーを防止する方法である。
【0013】
本発明において、検出対象となるRNAウイルスは、ゲノムとしてRNAを持つウイルスであり、脂質二重層からなる膜であるエンベロープを持つコロナウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、C型肝炎ウイルス、日本脳炎ウイルス、デングウイルスなど、またエンベロープを持たないノロウイルス、ロタウイルス、ライノウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されない。
【0014】
本発明における検体としては、生物試料、生物由来試料、環境試料および環境由来試料などが挙げられる。生物試料としては、貝類の中腸腺などを含む動植物組織および血液、唾液、鼻汁、組織分泌液などの体液が含まれる。例えば貝類は、ノロウイルスよる食中毒の原因食品として最も重要視されている。生物由来試料としては、前記生体試料またはその懸濁液に対して、例えばソニケーションなどの処理をしたものが含まれる。環境試料としては、大気、土壌、塵埃、水などを含むあらゆる試料が挙げられる。環境由来試料としては、前記環境試料に対して、例えばソニケーションなどの処理をしたものが含まれる。
【0015】
本発明の別の実施態様として、検体としては、排泄物試料、排泄物由来試料、嘔吐物試料、嘔吐物由来試料、唾液などの体液試料および体液試料由来試料などが挙げられる。排泄物由来試料および嘔吐物由来試料には、拭き取り試料が含まれる。拭き取り試料とは、細菌またはウイルス汚染の確認を目的として、手指、食器、まな板、包丁、調理設備、トイレ設備、住宅設備などを綿棒、カット綿などで拭き取ったものをリン酸緩衝液などに溶出させたものである。得られた溶出液は超遠心分離し、遠心沈渣としたものを検体として使用することができる(宗村佳子ら、食品衛生学雑誌、2017 年 58 巻 4 号 p.201-204)。
【0016】
本発明の方法における工程(1)において、排泄物試料、嘔吐物試料および体液試料などの検体は、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む精製水、生理食塩水または緩衝液に、5~10%(w/v)で懸濁して乳剤または懸濁液とする。前記精製水は、イオン交換、蒸留、逆浸透または限外ろ過などを単独または組み合わせたシステムにより、常水より製造したものである。前記緩衝液としては、特に限定されないが、リン酸緩衝液、トリス緩衝液、ホウ酸緩衝液、HEPESなどのグッド(Good)緩衝液が挙げられる。前記乳剤または懸濁液は、前記工程(2)において、例えば10000~12000 rpmで2~20分間遠心分離を行い、得られた遠心上清を、前記工程(3)において使用する。
【0017】
本発明の工程(3)において、検体処理液を使用することにより、検体に含まれるRNAウイルスからRNAを抽出することができる。本発明の一実施態様において、工程(2)において使用される検体処理液は、1種以上の界面活性剤を含む。本明細書において「界面活性剤」とは、物質の境界面に作用し、性質を変化させる物質の総称である。界面活性剤は、分子内に親水性部分と疎水性部分の両方を持つ構造を有するである。界面活性剤は、陰イオン界面活性剤、陽イオン界面活性剤、両性界面活性剤および非イオン界面活性剤に分類される。陰イオン界面活性剤としては、アルキルサルフェート、アルキルエーテルサルフェート、ドキュセート、スルホネートフルオロ界面活性剤、アルキルベンゼンスルホネート、アルキルアリールエーテルホスフェート、アルキルエーテルホスフェート、アルキルカルボキシレート、ラウロイルサルコシンナトリウム、カルボキシレートフルオロ界面活性剤、コール酸ナトリウムおよびデオキシコール酸ナトリウムなどが挙げられるが、これらに限定されない。アルキルサルフェートとしては、ドデシル硫酸ナトリウム(Sodium Dodecyl Sulfate、SDS)およびドデシル硫酸アンモニウムが好ましく、ドデシル硫酸ナトリウムがより好ましい。ドデシル硫酸ナトリウムは、ラウリル硫酸ナトリウム(Sodium Lauryl Sulfate、SLS)とも称される。陽イオン界面活性剤としては、エチルトリメチルアンモニウムブロマイド、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミドおよびテトラデシルトリメチルアンモニウムブロミドなどが挙げられるが、これらに限定されない。両性界面活性剤としては、例えば、ベタインおよびアルキルアミノ脂肪酸塩が挙げられるが、これらに限定されない。非イオン界面活性剤としては、ノニルフェノキシポリエトキシエタノール(NP-40)、ポリオキシエチレンソルビタンモノオレエート(Tween(登録商標)80)、ポリオキシエチレンp-t-オクチルフェノール(Triton X-100(登録商標))などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0018】
界面活性剤は、水溶液中で一定濃度以上を添加すると、界面活性剤モノマーが集合してミセルを形成する。界面活性剤がミセルを形成するようになる濃度は、臨界ミセル濃度と呼ばれる。水溶液中で、界面活性剤ミセル内部の疎水性領域に、タンパク質や脂質の疎水性領域が取り込まれ、タンパク質や脂質は可溶化される。RNAウイルス粒子において、タンパク質の殻であるカプシドや脂質からなるエンベロープは、臨界ミセル濃度以上の界面活性化剤の存在下で可溶化され、変性され、または破壊される。その結果、カプシドに封入されたRNAが、水溶液中で露出した状態になりやすくなる。界面活性剤の臨界ミセル濃度は界面活性剤の種類によって異なるが、ウイルスRNAを効率よく露出させるためには、検体処理液中での界面活性剤の濃度が0.02~0.5%(w/v)であることが好ましく、0.05~0.2%(w/v)がより好ましく、0.1%(w/v)がさらに好ましい。
【0019】
本発明の工程(3)において、工程(2)で得られた遠心上清と検体処理液との混合比は、好ましくは体積比として1:3~6であり、より好ましくは1:4である。遠心上清と界面活性化剤を含む検体処理液とを混合することにより、混合液中の界面活性剤の濃度が低下するが、界面活性剤の上記濃度は、臨界ミセル濃度を維持するものである。
【0020】
本発明の一実施態様において、前記検体処理液は水酸化物を含む。本明細書において「水酸化物」とは、陽イオンとして金属イオンと、陰イオンとして水酸化物イオン(OH)とがイオン結合した物質を指す。金属は、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。水酸化物としては、水酸化リチウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウムおよび水酸化バリウムが例示されるが、水酸化ナトリウムおよび水酸化カリウムが好ましい。水酸化物は強塩基性を示し、水に溶解すると水酸化物イオンを生じるため、アルカリとも呼ばれる。水酸化物は、水溶液中でタンパク質分子中の、アスパラギン酸、グルタミン酸などの解離性アミノ酸の荷電状況を変化させ、タンパク質を変性させる。この作用により、RNAウイルス粒子をアルカリ処理するとカプシドの破壊が生じる。その結果、カプシドに封入されたRNAが、水溶液中で露出した状態になりやすくなる。ウイルスRNAを効率よく露出させるためには、検体処理液中での水酸化物濃度は、好ましくは10~100mMであり、より好ましくは40~60mMであり、50mMがさらに好ましい。
【0021】
カプシドや脂質からなるエンベロープを可溶化させ、変性させ、または破壊し、ウイルスRNAを効率よく露出させるためには、前記検体処理液において界面活性剤と水酸化物とが共存することが好ましい。
【0022】
カプシドよりウイルスRNAを効率よく露出させるための本発明の工程(3)は、1~60℃の温度下で行うことが好ましく、1~50℃で行うことがより好ましく、1~40℃で行うことがさらに好ましく、1~30℃の室温で行うことが最も好ましい。工程(2)で得られた遠心上清と検体処理液とを混合した後は、3分間以上放置することが好ましい。
【0023】
RNAウイルスからのRNA抽出には、市販されるノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ、241-09325-91または241-09325-92)に含まれる試薬Sample Treatment Reagentを用いることができる。この場合、本キット取扱説明書にしたがってRNAを抽出することができる。
【0024】
RNAウイルスからRNAを抽出するための検体処理液は、RT-PCR反応液と混合した場合であっても、RT-PCR反応を阻害しない、またはほとんど阻害しないものであって、RNAの抽出を可能にするものであれば、特に限定されない。
【0025】
前記工程(3)において、前記工程(2)で抽出した遠心上清と検体処理液との混合液は、RNAウイルスからのRNA抽出効率を上げるため熱処理することができる。熱処理としては、例えば、90℃で5分間の加熱処理が挙げられるが、加熱温度および加熱時間は、RNA抽出効率を向上させるために変化させることができる。
【0026】
本発明の一実施態様において、検体は、試料から分離し、精製したRNAであってもよい。RNAは、フェノール抽出/水溶性有機溶媒沈殿による方法(特許5572578)、カオトロピック塩溶液からの沈殿、シリカへの吸着による方法などにより精製することができる。カオトロピック塩溶液としては、フェノール-グアニジン法に基づくTRIzol(登録商標、Invitrogen社)およびISOGEN(ニッポン・ジーン社)などを使用してもよい。シリカへの吸着による方法としては、市販されるスピンカラムを使用することができる。例えば、NucleoSpin RNA(登録商標、タカラバイオ社)およびPureLink(登録商標、ThermoFisher社)が挙げられる。このようにRNAを抽出し、精製するための様々な方法があるが、これらは当業者には周知である。
【0027】
本発明の一実施態様において、検体中のRNAが、試料から分離し、精製したRNAである場合、本発明の工程(2)および(3)を実行することなく、工程(1)で得られる溶液を、直ちに工程(4)のRT-PCRに供してもよい。
【0028】
検体中のRNAをRT-PCR法により検出するために、前記工程(4)において使用される1ステップRT-PCR反応液の組成は、当業者であれば周知技術に基づいて構築することができる。本発明の一実施態様において、市販されるノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ、241-09325-91または241-09325-92)に含まれる試薬を使用することができる。1ステップRT-PCR反応液は、本キットに含まれるNoV Reagent A、BおよびCの混合物を用いることができる。NoV Reagent Aは、マグネシウムイオン、カリウムイオンおよびトリスを含有する。NoV Reagent Bは、逆転写反応プライマー、逆転写反応により生成したcDNAを増幅するためのPCRプライマー、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーを含むが、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーから選ばれる要素であって、工程(1)において使用する精製水、生理食塩水または緩衝液に添加された要素が除去される。NoV Reagent Cは、逆転写酵素およびDNAポリメラーゼを含む。1ステップRT-PCR反応においては、逆転写酵素とDNAポリメラーゼがあらかじめ混合されていることより、逆転写反応(1本鎖cDNA合成)およびPCRを同一容器内で行うことができる。
【0029】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素は、ウイルスRNAを鋳型として、1本鎖の相補的DNA(cDNA)を生成する酵素であり、逆転写反応を触媒する限り特に限定されないが、トリ骨髄芽球症ウイルス(Avian Myeloblastosis Virus、AMV)、モロニーマウス白血病ウイルス(Moloney Murine Leukemia Virus、M-MLV)およびヒト免疫不全ウイルス(Human Immunodeficiency Virus、HIV)などのRNAウイルス由来のRNA依存性DNAポリメラーゼならびにこれらの変異体を使用することができる。
【0030】
前記1ステップRT-PCR反応液に含まれるDNAポリメラーゼは、好熱性細菌由来の耐熱性DNAポリメラーゼであり、Taq、Tth、KOD、Pfuおよびこれらの変異体を使用することができるが、これらに限定されない。DNAポリメラーゼによる非特異的増幅を避けるため、ホットスタートDNAポリメラーゼを使用してもよい。ホットスタートDNAポリメラーゼは、例えば抗DNAポリメラーゼ抗体が結合したDNAポリメラーゼまたは酵素活性部位を熱感受性化学修飾したDNAポリメラーゼであり、PCRにおいて、最初の変性ステップ(90℃以上)を経た後にDNAポリメラーゼが活性化される酵素である。
【0031】
前記1ステップRT-PCR反応液には、逆転写反応およびPCRが適切な条件で遂行されるためのすべての成分が含まれる。該成分として、少なくとも前記逆転写酵素、逆転写反応プライマー、前記耐熱性DNAポリメラーゼ、PCRプライマー、dNTPミックス(deoxyribonucleotide 5’-triphosphate;dATP、dGTP、dCTPおよびdTTPからなる混合物)および緩衝液が含まれる。前記反応液には、RNA分解酵素阻害剤を添加することもできる。逆転写反応プライマーとしては、標的RNAの配列に特異的なプライマー、オリゴ(dT)プライマーまたはランダムプライマーを使用することができる。PCRプライマーとしては、逆転写反応により生成したcDNAの配列に特異的なプライマー対(フォワードおよびリバース)が使用される。PCRプライマーは、標的RNAの配列に特異的な前記逆転写反応プライマーと同一であってもよい。また、前記1ステップRT-PCR反応液には、増幅するDNA領域、すなわち標的配列の数に応じて2種類以上のPCRプライマーを添加してもよい。検査対象がノロウイルスである場合、前記成分を含んだ組成物として、市販のノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ、241-09325-91または241-09325-92)に含まれるNoV Reagent A、BおよびCを、キット取扱説明書にしたがって混合した混合物を、1ステップRT-PCR反応液として使用することができる。なお、前記した通り、内部コントロールDNAまたは該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードもしくはリバースプライマーであって、工程(1)において使用する精製水、生理食塩水または緩衝液に添加された要素は除去される。
【0032】
ノロウイルスRNAを検出する場合、例えば、特許文献1および2、非特許文献3ならびに特開2018-78806に記載のPCRプライマーを使用することにより、ノロウイルス遺伝子型におけるジェノグループI(GI)およびジェノグループII(GII)を検出することができるが、これらに限定されない。前記ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)には、非特許文献3に記載のPCRプライマーが含まれる。
【0033】
本発明の一実施態様において、前記工程(3)における検体処理液が界面活性剤としてSDSを含む場合、タンパク質に対する変性効果が強いSDSが、前記工程(4)に高い濃度で持ち込まれると、前記1ステップRT-PCR反応液に含まれる逆転写酵素およびDNAポリメラーゼの酵素活性を阻害し、RT-PCRが進行しない可能性がある。同様に、本発明の一実施態様において、工程(3)における検体処理液が水酸化物を含む場合、前記工程(4)に持ち込まれる水酸化物濃度が高いと、高pHによる前記酵素活性の低下を招く。このため、前記工程(4)において、工程(3)で得られる混合液と前記1ステップRT-PCR反応液との混合比は、好ましくは体積比として1:2~6であり、より好ましくは1:4である。
【0034】
RT-PCRにおける逆転写反応の反応温度条件、およびPCR条件(温度、時間およびサイクル数)の設定は、当業者であれば容易に行うことができる。
【0035】
本発明の一実施態様において、前記工程(5)におけるRT-PCR反応により生成されるRT-PCR産物は、リアルタイム測定によりモニターされる。該リアルタイム測定を行う場合、RT-PCRおよび該RT-PCR産物を検出する工程は同一容器内で行われる。
【0036】
PCR産物のリアルタイム測定は、リアルタイムPCRとも呼ばれる。リアルタイムPCRでは、通常PCR増幅産物を蛍光により検出する。蛍光検出方法には、インターカレーター性蛍光色素を用いる方法および蛍光標識プローブを用いる方法がある。インターカレーター性蛍光色素としては、SYBR(登録商標)Green Iが使用されるが、これに限定されるわけではない。インターカレーター性蛍光色素は、PCRによって合成された二本鎖DNAに結合し、励起光の照射により蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、PCR増幅産物の生成量を測定することができる。また温度解離曲線解析を行い、ピーク検出温度(核酸のTm値)を測定してもよい。
【0037】
蛍光標識プローブとしては、TaqManプローブ、Molecular Beacon、サイクリングプローブなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。TaqManプローブは、5’末端が蛍光色素で、また3’末端がクエンチャー物質で修飾されたオリゴヌクレオチドである。TaqManプローブは、PCRのアニーリングステップで鋳型DNAに特異的にハイブリダイズするが、プローブ上にクエンチャーが存在するため、励起光を照射しても蛍光の発生は抑制される。その後の伸長反応ステップで、Taq DNAポリメラーゼのもつ5’→3’エキソヌクレアーゼ活性により、鋳型DNAにハイブリダイズしたTaqManプローブが分解されると、蛍光色素がプローブから遊離し、クエンチャーによる蛍光の発生の抑制が解除されて蛍光を発する。この蛍光強度を測定することにより、増幅産物の生成量を測定することができる。前記蛍光色素としては、FAM、ROX、Cy5が挙げられるが、これらに限定されない。前記クエンチャーとしては、TAMRA(登録商標)およびMGBが挙げられるが、これらに限定されない。2種類以上のDNA標的配列を区別して検出するためには、それぞれ異なる蛍光色素を結合させた2種類以上のオリゴヌクレオチドプローブ(例えばTaqManプローブ)を用いてPCRを行う。
【0038】
PCR産物のリアルタイム測定において、使用する蛍光色素に対応した蛍光フィルターを用いてPCR産物の増幅曲線をモニターする。PCRサイクル数に応じて蛍光強度が増加する場合には、検体における分析対象の遺伝子の存在が陽性であると判定され、一方、PCRにおいて蛍光強度が増加しない場合は陰性であると判定される。温度解離曲線解析においては、所定の温度ピークが観察される場合は、分析対象の遺伝子の存在が陽性であると判定され、所定の温度ピークが観察されない場合には、分析対象の遺伝子の存在が陰性であると判定される。
【0039】
本発明の一実施態様において、RT-PCR法によるRNAウイルス検出用キットが提供される。該キットに含まれ、検体を懸濁するために使用される精製水、生理食塩水または緩衝液は、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素を含む。一方、前記キットに含まれる1ステップRT-PCR反応液には、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーからなる群より選ばれる少なくとも1つの要素であって、前記精製水、生理食塩水または緩衝液に含まれる要素が含まれない。このため、検体を含む検体処理液と1ステップRT-PCR反応液とが混合されなければ、内部コントロールDNAの増幅が観察されず、それと同時に、検体に由来する核酸の増幅も観察されない。このような結果が得られた検査は、RT-PCR反応が進行しなかった検査または人為的エラーによってRT-PCR反応に検体が供されなかった検査と判定されるので、検体に対する再検査が必要であることが示される。
【実施例
【0040】
次に実施例を挙げて本発明を詳細に説明するが、本発明の範囲はこれらよって限定されない。
【実施例1】
【0041】
(1)検体
検体であるノロウイルス感染患者の糞便を100mg採取し、1mLの蒸留水に懸濁して、約10%(w/v)の糞便乳剤とした。使用した蒸留水には、ノロウイルス検出試薬キット(プローブ法)(島津製作所、製品番号241-09325シリーズ)のNoV Reagent Bに含まれる内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーを予め添加した。得られた糞便乳剤を、微量遠心分離機により10000rpmで5分間遠心分離し、遠心上清を得た。
(2)検体処理
下記の成分を蒸留水に添加し、検体処理液を調製した。
50mM 水酸化ナトリウム(NaOH)、
0.1%(w/v)ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)、および
625μM dNTP(dATP、dGTP、dCTPおよびdTTP)
検体処理は、蓋なしPCR反応チューブに上記検体処理液4μLを取り、そこへ、(1)で得られた糞便乳剤の遠心上清1μLを加えた後、室温で3分間放置することにより行った。
(3)1ステップRT-PCR反応
(2)で得られた、糞便乳剤の遠心上清と検体処理液との混合液5μLを含むPCR反応チューブに、下記反応液組成になるように調製した1ステップRT-PCR反応液であって、内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーを含まないRT-PCR反応液20μLを添加し、撹拌混合した後、小型遠心分離器によりスピンダウンした。この後、リアルタイムPCR装置(GVP-9600、島津製作所)を用いて、直ちにRT-PCR反応をモニターした。反応は、45℃/5分間の逆転写反応後、95℃/3分間の初期変性を行い、次いで95℃/1秒間-56℃/10秒間のPCRを45サイクル行い、増幅曲線を測定した。PCRにおける測光は、56℃/10秒間のステップで行った。
(反応液組成)
40mM トリス
0.025ユニット/μL Taqポリメラーゼ
1ユニット/μL 逆転写酵素
3.75mM 塩化マグネシウム
400nM PCRプライマーセット(COG1F/COG1RおよびCOG2F/COG2R)(非特許文献3、表11を参照)
200nM 蛍光標識プローブ(TaqManプローブ:G1A、G1BおよびG2)
(4)結果
測定結果を図1に示した。内部コントロールDNAに帰属される増幅曲線が検出されることから、PCR反応が進行していることが示された。その上で、ノロウイルス遺伝子に帰属される増幅曲線が検出されることから、検査に供した検体はノロウイルス陽性と判定される。
【実施例2】
【0042】
ノロウイルスに感染していない健常人の糞便を使用した以外は、実施例1と同様にして検査を行った。測定結果を図2に示した。図2より、内部コントロールDNAに帰属される増幅曲線が検出されることから、PCR反応が進行していることが示された。一方、ノロウイルス遺伝子に帰属される増幅曲線は検出されなかったことから、検査に供した検体はノロウイルス陰性と判定される。
【実施例3】
【0043】
実施例1で調製された糞便乳剤の遠心上清が、RT-PCR反応に供されない場合について検討した。内部コントロールDNAならびに該DNAに特異的にハイブリダイズするフォワードおよびリバースプライマーを含まない1ステップRT-PCR反応液は、実施例1と同様にして調製した。実施例1に記載される検体処理液のみを含むPCR反応チューブに、1ステップRT-PCR反応液のみを添加し、実施例1と同様にして反応を行った。
【0044】
測定結果を図3に示した。ノロウイルス遺伝子に帰属される増幅曲線が検出されないという結果からは、ノロウイルス陰性と判定される。しかしながら、内部コントロールDNAに帰属される増幅曲線も検出されないことから、RT-PCR反応に対して、前記糞便乳剤の遠心上清が添加されていないことが示される。すなわち、検体が検査に供されていないことが示される。したがって、前記のノロウイルス陰性の判定は、偽陰性であり、検体に対する再検査が必要であることを示す。
図1
図2
図3