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特許7434751ポリプロピレンフィルムならびにこれを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ポリプロピレンフィルムならびにこれを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサ
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20240214BHJP
   B32B 15/085 20060101ALI20240214BHJP
   H01G 4/32 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08J5/18 CES
B32B15/085 Z
H01G4/32 511L
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2019150260
(22)【出願日】2019-08-20
(65)【公開番号】P2020033550
(43)【公開日】2020-03-05
【審査請求日】2022-06-27
(31)【優先権主張番号】P 2018155934
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018155935
(32)【優先日】2018-08-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003159
【氏名又は名称】東レ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】今西 康之
(72)【発明者】
【氏名】大倉 正寿
(72)【発明者】
【氏名】中西 佑太
【審査官】川井 美佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-110725(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043217(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/146894(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/181271(WO,A1)
【文献】特開2007-084813(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/12
B29K 23/00
B29L 7/00
B32B 1/00-43/00
C08J 5/00-5/02
C08J 5/12-5/22
H01G 4/32
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記測定条件により求められるフィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であり、フィルムの少なくとも一方の表面における突起形状の偏り度(Ssk)が-10を超えて100未満であるポリプロピレンフィルム。
<貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))の測定条件>
装置:EXSTAR DMS6100(セイコーインスツルメント(株)製)
試験モード :引張モード
チャック間距離:20mm
周波数 :1Hz
歪振幅 :10.0μm
ゲイン :1.5
力振幅初期値 :400mN
温度範囲 :23~260℃
昇温速度 :2℃/分
測定雰囲気 :窒素中
その他 :フィルム試長方向(長手方向または幅方向)を長辺方向として切り出したポリプロピレンフィルム(幅(短辺)10mm×長さ(長辺)50mm)を23℃雰囲気下で装置チャック部に取付けて測定を実施する。測定試験数はn=3で行い、その算術平均値をその方向での貯蔵弾性率とし、長手方向、幅方向それぞれの方向で測定を行う。
【請求項2】
キシレンでポリプロピレンを完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS)が1.5質量%未満である、請求項1に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項3】
フィルムの長手方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である、請求項1または2に記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項4】
フィルムの幅方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である、請求項1~3のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項5】
フィルムの少なくとも一方の表面において、1252μm×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積が1~12000μm3である、請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項6】
フィルムの少なくとも一方の表面の算術平均粗さSaが10~60nmであり、かつ最大高さSzが100~1000nmである、請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレンフィルム。
【請求項7】
請求項1~のいずれかに記載のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる金属膜積層フィルム。
【請求項8】
請求項に記載の金属膜積層フィルムを用いてなるフィルムコンデンサ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、特にコンデンサ用途に適して用いられる、ポリプロピレンフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、透明性、機械特性、電気特性等に優れるため、包装用途、テープ用途、ケーブルラッピングやコンデンサをはじめとする電気用途等の様々な用途に用いられている。
【0003】
この中でもコンデンサ用途においては、その優れた耐電圧性、低損失特性から直流、交流に限らず高電圧コンデンサの用途にポリプロピレンフィルムは特に好ましく用いられている。
【0004】
最近では、各種電気機器がインバーター化されつつあり、それに伴いコンデンサの小型化、大容量化の要求が一層強まってきている。そのような分野、特に自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)や太陽光発電、風力発電の用途からの要求を受け、ポリプロピレンフィルムとしても薄膜化と絶縁破壊電圧の向上、高温環境下で優れた耐電圧性能を有することが必須な状況となってきている。
【0005】
ポリプロピレンフィルムは、ポリオレフィン系フィルムの中では耐熱性および絶縁破壊電圧は高いとされている。一方で、前記の分野への適用に際しては使用環境温度での優れた寸法安定性と使用環境温度より10~20℃高い領域でも耐電性などの電気的性能として安定した性能を発揮することが重要である。ここで耐熱性という観点では、将来的に、シリコンカーバイト(SiC)を用いたパワー半導体用途を考えた場合、使用環境温度がより高温になるといわれている。コンデンサとしてさらなる高耐熱化と高い耐電圧性の要求から、110℃を超えた高温環境下でのフィルムの絶縁破壊電圧の向上が求められている。しかしながら、非特許文献1に記載のように、ポリプロピレンフィルムの使用温度上限は約110℃といわれており、このような温度環境下において絶縁破壊電圧を安定して維持することは極めて困難であった。
【0006】
これまでポリプロピレンフィルムを薄膜でかつ、コンデンサとしたときの高温環境下で優れた性能を得るための手法として、例えば室温での貯蔵弾性率に対し125℃の貯蔵弾性率の変化が小さくなるよう制御することで絶縁破壊電圧を向上させたフィルムの提案(例えば、特許文献1)、また室温での貯蔵弾性率に対し120℃の貯蔵弾性率の変化を制御でき剛性、耐熱性及び透明性を改良した二軸延伸ポリプロピレンフィルムに好適なプロピレン単独重合体を用いての提案がなされている(例えば、特許文献5)。さらには高温下での絶縁破壊電圧を高めるにはフィルムの弾性率を高めることが重要で、室温の引っ張り弾性率を高める方法として、例えば結晶性が低いポリプロピレン樹脂原料を用いるが同時二軸延伸で面積倍率を高めたフィルムの提案(例えば、特許文献2)、主要構成成分のポリプロピレン樹脂に低立体規則性度のアイソタクチックポリプロピレン樹脂を混合させ微結晶の運動の転移点を制御したフィルムの提案(例えば、特許文献3)、結晶性を高めたポリプロピレン樹脂を用い逐次二軸延伸後に再縦延伸し長手方向の強度向上させたフィルムの提案もなされている(例えば、特許文献4)。さらには室温だけでなく高温での弾性率を高めるため製膜時に石油樹脂を混合し可塑化作用によって長手方向の延伸倍率を高くなるよう制御したフィルムの提案がなされている(例えば、特許文献6、7)。しかしながら、特許文献1から7に記載のポリプロピレンフィルムは、いずれも110℃を超える高温環境下での絶縁破壊電圧の向上が十分ではなく、さらにコンデンサとしたときの高温環境下での耐電圧についても、十分とは言い難いものであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開WO2015/146894号パンフレット
【文献】特開2013-177645号公報
【文献】特開2010-280795号公報
【文献】特開平10-156940号公報
【文献】特開平8-73529号公報
【文献】特開2003-191324号公報
【文献】特開2003-105102号公報
【非特許文献】
【0008】
【文献】河合基伸、「フィルムコンデンサ躍進、クルマからエネルギーへ」、日経エレクトロニクス、日経BP社、2012年9月17日号、p.57-62
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
そこで、本発明は、高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムを提供することを目的とし、また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決するため鋭意検討を重ね、上記特許文献1~7に記載のポリプロピレンフィルムが高温環境下において絶縁破壊電圧、並びにコンデンサとしたときの高温環境での耐電圧性能が十分でない理由について、以下のように考えた。
【0011】
すなわち、特許文献1記載のポリプロピレンフィルムにおいて採用されている室温から125℃までの構造安定化に効果的な有効な熱処理は、125℃を超える温度に対しては十分な熱処理とはなっておらず、結晶性が不十分であり、改善余地があると考えた。なお、本発明者らは高温での結晶性が十分であるかは高温での貯蔵弾性率から知ることが可能であることを見いだした。特許文献5記載のポリプロピレンフィルムは柔軟な包装用途に適したフィルムであるため立体規則性が低い原料が用いられ、また、幅方向の延伸倍率および面積延伸倍率が低いために、高温領域での構造安定性が不十分であると考えた。特許文献3記載のポリプロピレンフィルムは立体規則性が低い原料が用いられ、また、幅方向の延伸倍率および面積延伸倍率が低く、また、横延伸後の熱処理が施されていないため高温領域での構造安定性が不十分であると考えた。特許文献4、6および7記載のポリプロピレンフィルムは立体規則性が高いポリプロピレン樹脂を用いてはいるが、冷キシレン可溶部(CXS)が多いことから全体的に結晶化度が低く、また横延伸前の予熱温度が低く、横延伸後の熱処理温度で徐冷処理が施されていないことから、分子鎖配向構造の安定化が不足し、高温領域での構造安定性が不十分であると考えた。
【0012】
以上の考察を踏まえて、本発明者らはさらに検討を重ね、ポリプロピレンフィルムの長手方向と幅方向の130℃における貯蔵弾性率の和が一定以上の値であるフィルムとすることにより上記の課題を解決できることを見出した。したがって、本発明の要旨とするところは、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上であるポリプロピレンフィルムである。
【発明の効果】
【0013】
本発明により、高温環境での耐電圧性能に優れ、高温度・高電圧下で用いられるコンデンサ用途等に好適な、熱に対して構造安定性に優れるポリプロピレンフィルムが提供される。また、それを用いた金属膜積層フィルムおよびフィルムコンデンサが提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本明細書において、以下ポリプロピレンフィルムを単にフィルムと称する場合がある。なお、本発明のポリプロピレンフィルムは微多孔フィルムではなく、多数の空孔を有していない。
【0015】
本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))が1.6GPa以上である。E’130(MD+TD)の値は好ましくは1.7GPa以上、さらに好ましくは1.9GPa以上、最も好ましくは2.1GPa以上である。大きなE’130(MD+TD)であるものほど高温度でも高い絶縁破壊電圧を実現できる。
【0016】
高温度での使用環境、すなわち110℃を超えるコンデンサ使用環境では、素子への加工時にその温度より高い(たとえば120~130℃)熱処理が与えられることがあるため、120~130℃の温度において一次構造はもちろん、二次構造においても安定であることが必要となってくる。すなわち、フィルムとしては高い結晶性を有すると共にその結晶は係る温度においても安定であることが必要であるということが判った。
【0017】
本発明者らは、特に高温度でのフィルムの構造と絶縁破壊電圧との関係について鋭意検討することにより、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))と高温環境下における耐電圧性との間に高い相関性があり、使用環境温度以上の温度領域の貯蔵弾性率が高くなるようフィルムに含まれるポリプロピレン樹脂の結晶性を制御することが重要であることを見出した。すなわち、130℃における貯蔵弾性率が上記した範囲を満たすポリプロピレンフィルムは、高温環境下でも高い剛性を有していると推察され、そうすると、高温環境でも分子鎖が動いたり緩んだりすることの抑制がされたフィルムといえる。すなわち、熱に対して非常に安定な構造をしたフィルムであるといえる。このように本発明においては、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))を1.6GPa以上とすることを本旨とするが、130℃における貯蔵弾性率を1.6GPa以上とする方法としては、例えば、製膜時の延伸工程で面積延伸倍率を高め、特に幅方向の延伸倍率を高めること、加えて、高メソペンタッド分率かつ冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を使用し、長手方向に一軸延伸後の幅方向への二軸延伸直前の予熱温度を、幅方向の延伸温度+5~+15℃高温にすること、二軸延伸後の熱固定処理および弛緩処理工程において、まず、幅方向の延伸温度より低温での熱処理(1段目)をしながら弛緩処理を行い、次いでフィルムを幅方向に緊張を保ったまま前記1段目の熱処理温度より低温で135℃以上の熱処理(2段目)、さらに80℃以上で前記2段目の熱処理温度未満の条件で熱処理(3段目)を施す多段方式の熱固定処理および弛緩処理をフィルムに適宜施すことにより得ることが可能である。
【0018】
一方、E’130(MD+TD)の値が1.6GPa未満の場合には、高温環境下で高電圧がかかるコンデンサとして用いられた場合、長い使用履歴の中でフィルムに含まれるポリプロピレンの結晶部の分子鎖の緩和が進行して耐電圧性を低下させ、コンデンサの容量減少やショートによる破壊などの問題を生じ、耐電圧・信頼性の劣ったコンデンサとなる。なお、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))の値について、上限は特に限定されないがフィルムの生産性の観点からは10.0GPa以下の程度である。例えば、E’130(MD+TD)を10.0GPaよりも大きくするには、結晶性をより一層高める必要があるが、そのためには、面積延伸倍率を高める必要があるところ、延伸工程で破れを生じる場合がある。
【0019】
また、本発明のポリプロピレンフィルムは好ましくはフィルムの長手方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下であり、また、好ましくはフィルムの幅方向の130℃における熱収縮応力値が2.0MPa以下である。
【0020】
本発明のポリプロピレンフィルムにおいて、「長手方向」とは、フィルム製造工程における流れ方向に対応する方向(以降、「MD」という場合がある)であり、「幅方向」とは、前記のフィルム製造工程における流れ方向と直交する方向(以降、「TD」という場合がある)である。フィルムサンプルがリール、ロール等の形状の場合はフィルム巻き取り方向が長手方向といえる。一方、フィルムの外観からは何れの方向がフィルム製造工程における流れ方向に対応する方向であるかが不明なフィルムの場合は、例えば、フィルム平面上の任意の直線を基準に15°刻みで線を引き、その各線に平行にスリット状のフィルム片をサンプリングして引張り試験器にて破断強度を求め、最大の破断強度を与える方向を、そのフィルム幅方向とみなし、そのフィルム幅方向に直交する方向を長手方向とみなす。詳細は後述するが、サンプルの幅が50mm未満で引張り試験器では破断強度を求めることができない場合は、広角X線によるポリプロピレンフィルムのα晶(110)面の結晶配向を次のように測定し、下記の判断基準に基づいてフィルム長手および幅方向とする。すなわち、フィルム表面に対して垂直方向にX線を入射し、2θ=約14°(α晶(110)面)における結晶ピークを円周方向にスキャンし、得られた回折強度分布の回折強度が高い方向をフィルム幅方向とし、それと直交する方向を長手方向とする。
【0021】
なお、フィルム長手方向と幅方向の130℃における固体粘弾性測定にて求められる貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))の詳細な測定方法は下に記載したとおりである。
【0022】
本発明のポリプロピレンフィルムは、熱機械分析装置を用いての熱収縮応力値の測定で130℃におけるフィルム長手方向の熱収縮応力値が2.0MPa以下であることが好ましい。この130℃におけるフィルム長手方向の熱収縮応力値は、さらに好ましくは1.6MPa以下、最も好ましくは1.2MPa以下である。130℃におけるフィルム長手方向の応力値が2.0MPaを超える場合には、コンデンサ製造工程および使用工程の熱によりフィルム自体の収縮が生じ、素子が巻き締まることでフィルムとフィルムとの間に適度な隙間がなくなるおそれがあるため自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難く、コンデンサの信頼性が低下したり、搬送工程でシワが生じて加工性が悪化したり、絶縁破壊時に重なり合うフィルムが複数層にわたり貫通するショート破壊を引き起こす可能性がある。130℃におけるフィルム長手方向の応力値の下限は特に限定されないが、コンデンサとしたときの容量の観点からは0.1MPaの程度である。130℃におけるフィルム長手方向の熱収縮応力値を前記好ましい範囲内に制御する方法としては、後述するように、例えば、高メソペンタッド分率、かつ冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を使用し、二軸延伸時に幅方向の延伸倍率は10.5倍以上とし、長手方向に一軸延伸後の幅方向への二軸延伸直前の予熱温度を、幅方向の延伸温度+5~+15℃高温にすることにより得ることができる。
【0023】
本発明のポリプロピレンフィルムは、熱機械分析装置を用いての熱収縮応力値の測定で130℃におけるフィルム幅方向の熱収縮応力値が2.0MPa以下であることが好ましい。この130℃におけるフィルム幅方向の熱収縮応力値は、より好ましくは1.6MPa以下、最も好ましくは1.2MPa以下である。130℃におけるフィルム幅方向の熱収縮応力値が2.0MPaを超える場合には、コンデンサ製造工程あるいは使用環境での熱によりフィルムの収縮が生じることがあり、アルミ蒸着面積が減少するためにコンデンサの容量減少を招いたり、搬送工程でシワが発生して加工性が低下することがある。130℃におけるフィルム幅方向の熱収縮応力値の下限は特に限定されないが、コンデンサとしたときの容量の観点からは0.1MPaの程度である。130℃におけるフィルム幅方向の熱収縮応力値を前記好ましい範囲内に制御する方法としては、後述するように、例えば、高メソペンタッド分率、かつ冷キシレン可溶部(CXS)が1.5質量%未満のポリプロピレン原料を使用し、二軸延伸後の熱固定処理および弛緩処理工程において、まず、幅方向の延伸温度より低温での熱処理(1段目)をしながら弛緩処理を行い、次いでフィルムを幅方向に緊張を保ったまま前記1段目の熱処理温度より低温で135℃以上の熱処理(2段目)、さらに80℃以上で前記2段目の熱処理温度未満の条件で熱処理(3段目)を施す多段方式の熱固定処理および弛緩処理をフィルムに適宜施すことにより得ることができる。
【0024】
なお、フィルムの長手方向または幅方向における熱収縮応力値の熱機械分析装置を用いての詳細な測定方法は下に記載したとおりである。
【0025】
本発明のポリプロピレンフィルムは、高温環境下でも高い絶縁破壊電圧を示し、コンデンサとしたときに高温環境下でも耐電圧性および信頼性を発現させるために、フィルムの少なくとも一方の表面における突起形状の偏り度(スキューネスとも呼ばれる。以下、Sskと表す)が-10を超えて100未満である。ここでSskとは、表面の凹凸の偏り度を示したパラメータである。このSskは二乗平均平方根高さSqの三乗によって無次元化した基準面において、Z(x,y)の三乗平均を表したもので、歪度(わいど)を意味し、平均面を中心とした山部と谷部の対称性を表す指標である。Ssk<0の場合は平均線に対して下側に偏っている、つまり山部よりも谷部が多く存在することを意味する。
【0026】
他方、Ssk>0の場合は平均線に対して上側に偏っている、つまり谷部よりも山部が多く存在することを意味する。そしてSsk=0の場合は、平均線に対して偏りの無い状態を意味する。Sskを上記の範囲とすることで、山部が適度に形成され、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間の滑り易さを発現し、さらに谷部が比較的に少ないことでフィルムが薄くなっている箇所を少なくすることができ、このこともあって該薄いカ所で絶縁破壊が生じる可能性を抑制でき、コンデンサとしたときの全体としての絶縁破壊電圧の底上げが可能となる。
【0027】
上記の観点より、Sskの下限は好ましくは0を超えて、最も好ましくは1を超える。他方、上限は好ましくは50未満、最も好ましくは10未満である。上記Sskが-10以下の場合は、フィルム表面に凹みを有する形状が多く偏っていることで絶縁破壊電圧の低下を招き、高電圧用コンデンサ用途に用いるに不利なものとなりやすい。他方、偏り度Sskが100以上の場合には、フィルム表面に山部が過剰に存在することで、コンデンサとする際にフィルムを積層したときにフィルム間にギャップが生じ易くなって、容量低下を引き起こしやすく、また、耐電圧性が損なわれることがある。Sskを上記した範囲内に制御する方法としては、例えば、キャスティングドラム温度を好ましい範囲で制御すること、長手方向の延伸温度を好ましい範囲で制御すること、二軸延伸時に面積延伸倍率を62倍以上であり、かつ幅方向の延伸倍率を10.5倍以上とすることにより得ることができる。
【0028】
本発明のポリプロピレンフィルムは、表面の凹みが少ない一方で適度な易滑性を持つことで素子加工性の向上と耐電圧性の向上をはかることができることから、フィルムの少なくとも一方の表面において、1252×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積が1~12000μmであることが好ましい。この総谷側体積は下限の観点からは300μm以上とすることがより好ましく、また、600μm以上とすることが最も好ましく、また、上限の観点からは5000μm以下とすることがより好ましく、また、1000μm以下とすることが最も好ましい。総谷側体積が1μm未満では表面の凹凸がなく平坦となり易く、その場合、フィルムの滑りが極端に低下してハンドリング性が低下したり、シワが発生しやすくなって素子加工性に影響が出ることがある。また、コンデンサとして長時間使用したときにシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルムとフィルムとの間に適度な隙間がないことから自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する可能性がある。他方、12000μmを超える場合、局所的に厚みが薄い部分が多くなり、当該部分からの絶縁破壊が生じるおそれがあり、フィルムの耐電圧性が低下し、特に高電圧用コンデンサ用途に用いたとき、高温環境下での耐電圧性と信頼性が損なわれる可能性がある。総谷側体積を上記した好ましい範囲に制御する方法としては、例えば、キャスティングドラム温度を好ましい範囲で制御すること、長手方向の延伸温度を好ましい範囲で制御すること、二軸延伸時に面積延伸倍率を60倍以上であり、かつ幅方向の延伸倍率を10.5倍以上とすることにより得ることができる。
【0029】
また本発明のポリプロピレンフィルムは表面を適度に粗面化しフィルムとフィルムとの間隙の均一性、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間のすべり易さ、コンデンサ素子作製時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を高める観点からフィルムの少なくとも一方の表面の算術平均高さSaが10~60nmであることが好ましい。この算術平均高さSaは、下限の観点からは15nm以上とすることがより好ましく、20nm以上とすることが最も好ましく、また、上限の観点からは50nm以下とすることがより好ましく、40nm以下とすることが最も好ましい。このSaが10nm未満であるとフィルムの滑りが極端に低下することがあることでハンドリング性が悪くなる可能性があり、シワの発生など、素子加工性に影響が出る可能性がある。またコンデンサとして長時間使用したときにシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルムとフィルムとに適度な隙間がないために自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する可能性がある。他方、少なくとも一方の表面のSaが60nmを超えると耐電圧性に対して悪い影響がある場合がある。
【0030】
また本発明のポリプロピレンフィルムは、表面を適度に粗面化しフィルムとフィルムとの間隙の均一性、フィルム同士あるいはフィルムと搬送ロールとの間のすべり易さ、コンデンサ素子作製時の加工性およびコンデンサとしての信頼性を高める観点から、フィルムの少なくとも一方の表面の最大高さSzが100~1000nmであることが好ましい。この最大高さSzは、上限の観点からは800nm以下とすることがより好ましく、500nm以下とすることが最も好ましい。少なくとも一方の表面のSzが100nm未満であるとフィルムの滑りが極端に低下することがあることでハンドリング性が悪くなる可能性があり、シワの発生など、素子加工性に影響が出る可能性がある。また、コンデンサとして長時間使用したときにシワ等の影響で容量変化が大きくなったり、フィルムを積層したコンデンサとした場合にフィルムとフィルムとの間に適度な隙間がないために自己回復機能(セルフヒーリング)が動作し難くコンデンサの信頼性が低下する可能性がある。他方、少なくとも一方の表面のSzが1000nmを超える場合は、粗大突起が存在している可能性があってし、当該粗大突起によって耐電圧性の低下する可能性があり、また、厚みの均一性が得られにくいためコンデンサとして長時間使用したときにシワ等の影響で大きな容量変化が現れる可能性がある。Sa、Szを上記した好ましい範囲に制御するには、例えば、キャスティングドラム温度を好ましい範囲で制御すること、長手方向の延伸温度を好ましい範囲で制御すること、長手方向に一軸延伸後の幅方向への二軸延伸直前の予熱温度を、幅方向の延伸温度+5~+15℃高温にすることにより得ることができる。
【0031】
なお、フィルム表面の突起形状の偏り度(Ssk)、1252μm×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積ならびにフィルム表面の算術平均粗さ(Sa)および最大高さ(Sz)の詳細な測定方法は下に記載したとおりである。
【0032】
フィルム表面の突起形状の偏り度(Ssk)、1252μm×939μmの領域における深さ20nm以上の谷の体積を合計した総谷側体積ならびにフィルム表面の算術平均粗さ(Sa)および最大高さ(Sz)は、フィルムの同一の面の側において求められた値として上記の好ましい範囲にあることが望ましい。
【0033】
本発明のポリプロピレンフィルムは、フィルムのメソペンタッド分率が0.970以上であることが好ましい。メソペンタッド分率は0.975以上がより好ましく、0.980以上がさらに好ましく、0.983以上が最も好ましい。メソペンタッド分率は核磁気共鳴法(NMR法)で測定されるポリプロピレンの結晶相の立体規則性を示す指標であり、該数値が高いものほど結晶化度が高く、融点が高くなり、高温の貯蔵弾性率を高める効果があり、高温環境下での絶縁破壊電圧を向上できるので好ましい。メソペンタッド分率の上限については特に規定するものではない(すなわち、1.0が上限である)。本発明では、高メソペンタッド分率のポリプロピレン樹脂は、特に、いわゆるチーグラー・ナッタ触媒により作製されたものが好ましく、該触媒において電子供与成分の選定を適宜行う方法等が好ましく採用され、これによるポリプロピレン樹脂は分子量分布(Mw/Mn)が3.0以上、<2,1>エリトロ部位欠損は0.1mol%以下とすることができ、このようなポリプロピレン樹脂を用いることが好ましい。ポリプロピレン樹脂のメソペンタッド分率が0.970未満の場合、ポリプロピレンの規則性が低い為、フィルムの高温環境下での強度の低下や絶縁破壊電圧の低下を招いたり、金属膜の蒸着工程やコンデンサ素子として巻き取り加工を行う工程及びかかる工程へのフィルム搬送中に破膜する場合がある。
【0034】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いるポリプロピレン樹脂の融点は164℃以上が好ましく、より好ましくは165℃以上、さらに好ましくは166℃以上である。ポリプロピレン樹脂の融点が164℃未満の場合、結晶性が低い為、高温での貯蔵弾性率が低くなったり、フィルムの高温環境下での絶縁破壊電圧の低下や熱寸法安定性の低下を招いたり、金属膜を蒸着により形成する工程やコンデンサ素子巻き取り加工での、フィルム搬送中に破膜する場合がある。
【0035】
本発明のポリプロピレンフィルムはキシレンでポリプロピレンを完全に溶解せしめた後、室温で析出させたときに、キシレン中に溶解しているポリプロピレン成分(CXS、冷キシレン可溶部とも言う)が、溶解させるポリプロピレンを100質量%としたとき、1.5質量%未満であることが好ましい。ここで冷キシレン可溶部(CXS)は、立体規則性が低い、分子量が低い等の理由で結晶化し難い成分に該当すると考えられる。CXSが1.5質量%以上である場合にはフィルムの高温における貯蔵弾性率の温度依存性が劣ったり、高温での貯蔵弾性率の絶対値が低くなったり、絶縁破壊電圧が低下したり、熱寸法安定性が低下したり、もれ電流が増加する等の問題を生じることがある。従って、CXSはより好ましくは1.3質量%以下、更に好ましくは1.1質量%以下、最も好ましくは0.9質量%以下である。このようなCXS含有量とするには、使用するポリプロピレン樹脂を得る際の触媒活性を高める方法、得られたポリプロピレン樹脂を溶媒あるいはプロピレンモノマー自身で洗浄する方法等の方法が使用できる。冷キシレン可溶部の量は低いほど好ましいので、下限については特に規定するものではないが、0.1質量%以下とすることはコストがかかる一方で改善効果の増分は小さい。
【0036】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレンは、製膜性の点から、好ましくはメルトフローレート(MFR)が1~10g/10分(230℃、21.18N荷重)、より好ましくは2~5g/10分(230℃、21.18N荷重)である。メルトフローレート(MFR)を上記の値とするためには、平均分子量や分子量分布を制御する方法などが採用される。
【0037】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレンは、主としてプロピレンの単独重合体からなるが、本発明の目的を損なわない範囲で他の不飽和炭化水素による共重合成分が用いられてもよいし、プロピレンの単独重合体ではない重合体がブレンドされていてもよい。このような共重合成分やブレンド物を構成するプロピレン以外の単量体成分として例えばエチレン、1-ブテン、1-ペンテン、3-メチルペンテン-1、3-メチルブテンー1、1-ヘキセン、4-メチルペンテン-1、5-エチルヘキセン-1、1-オクテン、1-デセン、1-ドデセン、ビニルシクロヘキセン、スチレン、アリルベンゼン、シクロペンテン、ノルボルネン、5-メチル-2-ノルボルネンなどが挙げられる。プロピレン成分以外の共重合量またはブレンド量は、絶縁破壊電圧、耐熱性の点から、共重合量としては1mol%未満とすることが好ましく、ブレンド量ではプロピレン以外の成分の量としてフィルムを構成する樹脂全体の1質量%未満とすることが好ましい。
【0038】
本発明のポリプロピレンフィルムは、高温環境下での絶縁破壊電圧を向上させる観点から分岐鎖状ポリプロピレンを含有していてもよく、含有する場合には全ポリプロピレンの質量を100質量%としたとき、0.05~10質量%含有することが好ましく、より好ましくは0.5~8質量%、さらに好ましくは1~5質量%含有することが好ましい。上記分岐鎖状ポリプロピレンを含有させることで溶融押出した樹脂シートの冷却工程で生成する球晶サイズを容易に小さく制御でき、延伸工程で生成する絶縁欠陥の生成を小さく抑えることにより、コンデンサとしたときの全体としての絶縁破壊電圧を改善することが可能である。
【0039】
本発明のポリプロピレンフィルムに用いられるポリプロピレン樹脂は、本発明の目的を損なわない範囲で種々の添加剤、例えば有機粒子、無機粒子、結晶核剤、酸化防止剤、熱安定剤、塩素捕捉剤、すべり剤、帯電防止剤、ブロッキング防止剤、充填剤、粘度調整剤、着色防止剤を含有してもよい。
【0040】
これらの中で酸化防止剤を含有させる場合、その酸化防止剤の種類および添加量の選定は、長期耐熱性の観点から重要である。すなわち、かかる酸化防止剤としては立体障害性を有するフェノール系のもので、そのうち少なくとも1種は分子量500以上の高分子量型のものが好ましい。その具体例としては種々のものが挙げられるが、例えば2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール(BHT:分子量220.4)とともに1,3,5-トリメチル-2,4,6-トリス(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシベンジル)ベンゼン(例えば、BASF社製Irganox(登録商標)1330:分子量775.2)またはテトラキス[メチレン-3(3,5-ジ-t-ブチル-4-ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン(例えばBASF社製Irganox(登録商標)1010:分子量1177.7)等を併用することが好ましい。これら酸化防止剤の総含有量はポリプロピレン全量に対して0.1~1.0質量%の範囲が好ましい。酸化防止剤が少なすぎると長期耐熱性に劣る場合がある。酸化防止剤が多すぎるとこれら酸化防止剤のブリードアウトによる高温下でのブロッキングにより、コンデンサ素子に悪影響を及ぼす場合がある。より好ましい総含有量は樹脂全体の質量の0.2~0.7質量%であり、特に好ましくは0.2~0.4質量%である。
【0041】
本発明のポリプロピレンフィルムは、耐電圧特性を向上させながら素子加工性を有する観点から、フィルムを重ね合わせた際の静摩擦係数(μs)が0.3以上、1.5以下であることが好ましい。μsが0.3未満であると、フィルムが滑りすぎて製膜時の巻き取りや素子加工時に巻きずれが発生する場合がある。μsが1.5を超えると、フィルムの滑りが極端に低下し、ハンドリング性に劣ったり、シワが発生しやすくなったり、素子加工性が劣ったりすることがある。μsの下限としては、より好ましくは0.4以上であり、最も好ましくは0.5以上である。他方、μsの上限としては、より好ましくは1.0以下であり、さらに好ましくは0.8以下である。
【0042】
本発明のポリプロピレンフィルムは、特に高温環境下で用いられる自動車用途(ハイブリッドカー用途含む)等に要求される薄膜の耐熱フィルムコンデンサ用に好適である観点から、フィルム厚みは0.5μm以上、10μm未満であることが好ましい。より好ましくは0.6μm以上、8μm以下、さらに好ましくは0.8μm以上、6μm以下であり、上記耐熱フィルムコンデンサ用途としては特性と薄膜化によるコンデンササイズのバランスから0.8μm以上、4μm以下が最も好ましい。
【0043】
本発明のポリプロピレンフィルムは単層フィルムの態様であることが好ましいが、積層フィルムの態様であっても構わない。
【0044】
本発明のポリプロピレンフィルムは、コンデンサ用誘電体フィルムとして好ましく用いられるものであるが、コンデンサのタイプは限定されるものではない。具体的には電極構成の観点では金属箔とフィルムとの併せ巻きコンデンサ、金属蒸着フィルムコンデンサのいずれであってもよいし、絶縁油を含浸させた油浸タイプのコンデンサや絶縁油を全く使用しない乾式コンデンサにも好ましく用いられる。しかしながら本発明のフィルムの特性から、特に金属蒸着フィルムコンデンサとして好ましく使用される。形状の観点では、巻回式であっても積層式であっても構わない。
【0045】
ポリプロピレンフィルムは通常、表面エネルギーが低く、金属蒸着を安定的に施すことが困難であるために、金属膜との接着性を改善する目的で、蒸着前に表面処理を行うことが好ましい。表面処理とは具体的にコロナ放電処理、プラズマ処理、グロー処理、火炎処理等が例示される。通常ポリプロピレンフィルムの表面濡れ張力は30mN/m程度であるが、これらの表面処理によって、濡れ張力を37~75mN/m、好ましくは39~65mN/m、最も好ましくは41~55mN/m程度とすることが、金属膜との接着性に優れ、保安性も良好となるので好ましい。
【0046】
本発明のポリプロピレンフィルムは、例えば、上述した特性を与えうる原料を用い、二軸延伸、熱処理および弛緩処理されることによって得ることが可能である。二軸延伸の方法としては、インフレーション同時二軸延伸法、テンター同時二軸延伸法、テンター逐次二軸延伸法のいずれによっても得られるが、その中でも、フィルムの製膜安定性、結晶・非晶構造、表面特性、機械特性および熱寸法安定性を制御する点においてテンター逐次二軸延伸法を採用することが好ましい。
【0047】
次に本発明のポリプロピレンフィルムを製造する方法について例を挙げて説明する。まず、ポリプロピレン樹脂を支持体上に溶融押出して未延伸ポリプロピレンフィルムとする。この未延伸ポリプロピレンフィルムを長手方向に延伸し、次いで幅方向に延伸して、逐次二軸延伸せしめる。その後、熱処理および弛緩処理を施して二軸配向ポリプロピレンフィルムを製造する。以下、より具体的に説明するが、本発明は必ずしもこれに限定して解釈されるものではない。
【0048】
まず、フィルムの高温の貯蔵弾性率絶対値を高め、絶縁破壊電圧および熱寸法安定性の向上、もれ電流を低減させる観点からCXSが1.5質量%未満であるポリプロピレン樹脂を押出温度220~280℃、好ましくは230~270℃に設定した単軸押出機から溶融押出し、濾過フィルタを通した後、200~260℃、より好ましくは210~240℃の温度でスリット状口金から押し出す。ここで溶融押出時は樹脂を十分に溶融させ、スクリュー回転によるせん断による分子鎖長の切断を防ぐことで高温の貯蔵弾性率を高めることができる観点から、濾過フィルタ前は高温、フィルタ通過後は低温とすることが好ましい。スリット状口金から押し出された溶融シートは、10~110℃、より好ましくは50~105℃、さらに好ましくは70~100℃の温度に制御されたキャスティングドラム(冷却ドラム)上で固化させ、未延伸ポリプロピレンフィルムを得る。溶融シートのキャスティングドラムへの密着方法としては静電印加法、水の表面張力を利用した密着方法、エアーナイフ法、プレスロール法、水中キャスト法、エアーチャンバー法などのうちいずれの手法を用いてもよいが、平面性が良好でかつ表面粗さの制御が可能なエアーナイフ法が好ましい。また、フィルムの振動を生じさせないために製膜下流側にエアーが流れるようにエアーナイフの位置を適宜調整することが好ましい。
【0049】
次に、未延伸ポリプロピレンフィルムを二軸延伸し、二軸配向せしめる。未延伸ポリプロピレンフィルムを70~150℃、好ましくは80~145℃に保たれたロール間に通して予熱し、引き続き該未延伸ポリプロピレンフィルムを70℃~150℃、好ましくは80~145℃の温度に保ち、長手方向に2~15倍、好ましくは4.5~12倍、より好ましくは5.5~10倍に延伸した後、室温まで冷却する。
【0050】
次いで長手方向に一軸延伸せしめたフィルムの端部をクリップで把持したまま、テンターに導く。ここで本発明においては幅方向へ延伸する直前の予熱工程の温度を幅方向の延伸温度+5~+15℃、好ましくは+5~+12℃、より好ましくは+5~+10℃とすることが一軸延伸で長手方向に高配向したフィブリル構造をさらに強化でき、結晶化度が向上することでフィルム長手方向および幅方向の高温の貯蔵弾性率を高められる。また一軸延伸後、配向の不十分な分子鎖を高温予熱で安定させることで熱寸法安定性が向上できる観点、さらには長手方向の延伸で配向したフィルム表面フィブリルの凸形状を顕著化でき、二軸延伸後のフィルム表面凹凸を形成できる観点で好ましい。予熱温度が延伸温度+5℃未満の場合は高温での貯蔵弾性率が低くなり、熱寸法安定性が向上しない場合や、表面凹凸が形成されない事がある。他方、予熱温度が延伸温度+15℃より高い場合には、表面が過度に粗面化することで耐電圧の低下を招いたり、延伸工程でフィルムが破れたりする場合がある。
【0051】
次いでフィルムの端部をクリップで把持したまま幅方向へ延伸する温度(幅方向の延伸温度)は150~170℃、好ましくは155~165℃である。
【0052】
高温での貯蔵弾性率の絶対値を高める観点から、幅方向の延伸倍率は10.5~20倍、より好ましくは11~19倍、最も好ましくは11.5~18倍である。幅方向の延伸倍率が10.5倍未満では、一軸延伸で長手方向に高配向したフィブリル構造の配向寄与が大きく残存するため、幅方向の貯蔵弾性率が高められず、フィルム面内の貯蔵弾性率も低くなるため、高温貯蔵弾性率に劣ったフィルムとなる。幅方向の延伸倍率を高めることは長手方向の高い配向状態を保ったまま、幅方向の配向が付与されるため、面内の分子鎖緊張が高まる観点で好ましい。他方、幅方向の延伸倍率が20倍を超えると、長手方向の配向度が過度に低下することで搬送張力によってフィルムに塑性変形が生じたり、幅方向の配向度が増加することでフィルムの熱収縮が生じやすくなり高温環境下においてコンデンサ容量低下を招いたり、製膜時フィルム破れが生じ易く生産性が劣ったものとなる場合がある。
【0053】
ここで、面積延伸倍率は60倍以上であることが高温の貯蔵弾性率が向上し、コンデンサとしたとき高温環境での耐電圧性に優れたものとなる観点で好ましい。本発明において、面積延伸倍率とは、長手方向の延伸倍率に幅方向の延伸倍率を乗じたものである。面積延伸倍率は、好ましくは62倍以上、より好ましくは64倍以上、さらに好ましくは68倍以上、最も好ましくは72倍以上である。
【0054】
続く熱処理および弛緩処理工程ではクリップで幅方向を緊張把持したまま幅方向に2~20%の弛緩を与えつつ、145℃以上165℃以下、かつ幅方向の延伸温度未満の温度(1段目熱処理温度)で熱固定(1段目熱処理)した後に、再度クリップで幅方向を緊張把持したまま135℃以上、前記の熱固定温度(1段目熱処理温度)未満の条件で熱処理を施し(2段目熱処理)、さらに緊張把持したまま80℃以上、前記の熱固定温度(2段目熱処理温度)未満の条件で熱固定(3段目熱処理)を施す多段方式の熱処理を行うことが、高温の貯蔵弾性率の絶対値を高められ、高温での貯蔵弾性率の温度依存性および熱寸法安定性を向上させ、コンデンサとしたときの耐電圧性、加工性を得る観点から好ましい。
【0055】
弛緩処理においては、熱寸法安定性を高める観点から、弛緩率は2~20%が好ましく、5~18%がより好ましく、8~15%がさらに好ましい。20%を超える場合はテンター内部でフィルムが弛みすぎ製品にシワが入り蒸着時にムラを発生させる場合があったり、機械特性の低下が生じたり、他方、弛緩率が2%より小さい場合は十分な熱寸法安定性が得られず、コンデンサとしたときの高温環境下で容量低下やショート破壊を引き起こす場合がある。
【0056】
多段式の熱処理を経た後はテンターの外側へ導き、室温雰囲気にてフィルム端部のクリップ解放し、ワインダ工程にてフィルムエッジ部をスリットし、フィルム厚み0.5μm以上10μm未満のフィルム製品ロールを巻き取る。ここでフィルムを巻取る前に蒸着を施す面に蒸着金属の接着性を良くするために、空気中、窒素中、炭酸ガス中あるいはこれらの混合気体中でコロナ放電処理を行うことが好ましい。
【0057】
なお、本発明のポリプロピレンフィルムを得るため、着眼される製造条件を具体的に挙げて見ると、例としては以下のとおりである。
・ポリプロピレン樹脂のCXSが1.5質量%未満であること。
・延伸の面積延伸倍率が60倍以上であること。
・幅方向の延伸倍率が10.5倍以上であること。
・幅方向の延伸前の予熱温度が幅方向の延伸温度+5~+15℃であること。
・1段目の熱処理温度が、145℃以上165℃以下であり、かつ幅方向の延伸温度未満の温度であること。
・2段目の熱処理温度が、135℃以上1段目の熱処理温度未満であること。
・3段目の熱処理温度が、80℃以上2段目の熱処理温度未満であること。
・1段目の熱処理工程において、幅方向に2~20%の弛緩処理が施されていること。
【0058】
続いて、本発明のポリプロピレンフィルムを用いてなる金属膜積層フィルム、それを用いてなるフィルムコンデンサ、およびそれらの製造方法について説明する。
【0059】
本発明の金属膜積層フィルムは、本発明のポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜が設けられてなる。
【0060】
また、本発明の金属膜積層フィルムの製造方法は、上記の本発明に係るポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に金属膜を設ける金属膜付与工程を有する。
【0061】
本発明において、金属膜を付与する方法は特に限定されないが、例えば、ポリプロピレンフィルムの少なくとも片面に、アルミニウムまたは、アルミニウムと亜鉛との合金を蒸着してフィルムコンデンサの内部電極となる蒸着膜等の金属膜を設ける方法が好ましく用いられる。このとき、アルミニウムと同時あるいは逐次に、例えば、ニッケル、銅、金、銀、クロムなどの他の金属成分を蒸着することもできる。また、蒸着膜上にオイルなどで保護層を設けることもできる。ポリプロピレンフィルム表面の粗さが表裏で異なる場合には、粗さが平滑な表面側に金属膜を設けて金属膜積層フィルムとすることが耐電圧性を高める観点から好ましい。
【0062】
本発明では、必要により、金属膜を形成後、金属膜積層フィルムを特定の温度でアニール処理を行なったり、熱処理を行なったりすることができる。また、絶縁もしくは他の目的で、金属膜積層フィルムの少なくとも片面に、ポリフェニレンオキサイドなど樹脂のコーティングを施すこともできる。
【0063】
本発明のフィルムコンデンサは、本発明の金属膜積層フィルムを用いてなる。
【0064】
例えば、上記した本発明の金属膜積層フィルムを、種々の方法で積層もしくは巻回すことにより本発明のフィルムコンデンサを得ることができる。巻回型フィルムコンデンサの好ましい製造方法を例示すると、次のとおりである。
【0065】
ポリプロピレンフィルムの片面にアルミニウムを減圧状態で蒸着する。その際、長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着する。次に、表面の各蒸着部の中央と各マージン部の中央に刃を入れてスリットし、表面の一方にマージンを有した、テープ状の巻取リールを作製する。左もしくは右にマージンを有するテープ状の巻取リールを左マージンおよび右マージンのもの各1本ずつを、幅方向に蒸着部分がマージン部よりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0066】
両面に蒸着を行う場合は、一方の面の長手方向に走るマージン部を有するストライプ状に蒸着し、もう一方の面には長手方向のマージン部が裏面側蒸着部の中央に位置するようにストライプ状に蒸着する。次に表裏それぞれのマージン部中央に刃を入れてスリットし、両面ともそれぞれ片側にマージン(例えば表面右側にマージンがあれば裏面には左側にマージン)を有するテープ状の巻取リールを作製する。得られたリールと未蒸着の合わせフィルム各1本ずつを、幅方向に金属化フィルムが合わせフィルムよりはみ出すように2枚重ね合わせて巻回し、巻回体を得る。
【0067】
以上のようにして作製した巻回体から芯材を抜いてプレスし、両端面にメタリコンを溶射して外部電極とし、メタリコンにリード線を溶接して巻回型フィルムコンデンサを得ることができる。フィルムコンデンサの用途は、鉄道車輌用、自動車用(ハイブリットカー、電気自動車)、太陽光発電・風力発電用および一般家電用等、多岐に亘っており、本発明のフィルムコンデンサもこれら用途に好適に用いることができる。その他、包装用フィルム、離型用フィルム、工程フィルム、衛生用品、農業用品、建築用品、医療用品など様々な用途でも用いることができる。
【0068】
本発明における特性値の測定方法、並びに効果の評価方法は次のとおりである。
【0069】
(1)フィルム厚み
ポリプロピレンフィルムの任意の10箇所の厚みを、23℃65%RHの雰囲気下で接触式のアンリツ(株)製電子マイクロメータ(K-312A型)を用いて測定した。その10箇所の厚みの算術平均値をポリプロピレンフィルムのフィルム厚みとした。
【0070】
(2)フィルム長手方向と幅方向の130℃における貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))
以下に示す装置および条件にて、フィルム試長方向(長手方向または幅方向)を長辺方向として切り出したポリプロピレンフィルム(幅(短辺)10mm×長さ(長辺)50mm)を23℃雰囲気下で装置チャック部に取付け、23℃から260℃まで昇温させて測定を行った。動的粘弾性法により粘弾性-温度曲線を描き、130℃での貯蔵弾性率(E’130)を読み取った。測定試験数はn=3で行いその算術平均値をその方向での貯蔵弾性率とし、長手方向、幅方向それぞれの方向で測定を行った。得られた結果から貯蔵弾性率の和(E’130(MD+TD))を算出した。
【0071】
装置 :EXSTAR DMS6100(セイコーインスツルメント(株)製)
試験モード :引張モード
チャック間距離:20mm
周波数 :1Hz
歪振幅 :10.0μm
ゲイン :1.5
力振幅初期値 :400mN
温度範囲 :23~260℃
昇温速度 :2℃/分
測定雰囲気 :窒素中
測定厚み :上記(1)のフィルム厚みを用いた。
【0072】
(3)フィルム長手方向および幅方向の130℃における熱収縮応力
ポリプロピレンフィルムを、フィルム試長方向(長手方向または幅方向)を長辺方向として切り出したポリプロピレンフィルム(幅4mm、長さ50mm)の試料に切り出し、試長20mmとなるよう金属製チャックにフィルムを挟み込んだ。前記チャックに挟んだサンプルを下記装置にセットし、下記温度プログラムにて試長を一定保持し応力曲線を求めた。得られた応力曲線から、130℃におけるフィルムの収縮応力を読み取った。 測定試験数はn=3で行いその算術平均値を収縮応力とした。なお、フィルムの長手方向、幅方向それぞれの方向に対して測定を行った。
【0073】
装置 :熱機械分析装置 TMA/SS6000(セイコーインスツルメント(株)製)
試験モード :L制御モード
試長 :20mm
温度範囲 :23~200℃
昇温速度 :10℃/分
SSプログラム:0.1μm/分
測定雰囲気 :窒素中
測定厚み :上記(1)のフィルム厚みを用いた。
【0074】
(4)表面の突起形状の偏り度Ssk(スキューネス)
測定は(株)菱化システムのVertScan2.0 R5300GL-Lite-ACを使用して行い、付属の解析ソフトにより撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いで補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を行った。ISO25178に基づいて各種パラメータを求め、一方の面内の任意の5箇所で測定を行い、それらの算術平均値を求めた。なお、フィルムの両面を測定したが、表に記載の値は、Ssk値の低い面の側の値である。ちなみに、通常はキャストドラムに接する側の面が小さい値となる。
測定条件は下記のとおり。
製造元:株式会社菱化システム
装置名:VertScan2.0 R5300GL-Lite-AC
測定条件:CCDカメラ SONY HR-57 1/2インチ(1.27センチ)
対物レンズ 10x
中間レンズ 0.5x
波長フィルタ 520nm white
測定モード:Phase
測定ソフトウェア:VS-Measure Version5.5.1
解析ソフトフェア:VS-Viewer Version5.5.1
測定面積:1.252×0.939mm
【0075】
(5)フィルム表面における深さ20nm以上の総谷側体積
上記(4)と同様の方法で測定し、付属の解析ソフトの解析ツールであるベアリング機能を用いて解析した。深さ20nm以上の谷側空隙を指定するため、高さ領域指定において、谷側高さ閾値を-20nmに設定した。次いで解析された谷側空隙体積の値を読み取り、有効数字2桁となるよう四捨五入した。なお、フィルムの両面を測定したが、表に記載の値は上記(4)のSsk値を求めた側の面の値である。
【0076】
(6)算術平均高さ(Sa)、最大高さ(Sz)
上記(4)と同様の方法で測定し、付属の解析ソフトにより撮影画面を多項式4次近似面補正にてうねり成分を除去し、次いで補間処理(高さデータの取得ができなかった画素に対し周囲の画素より算出した高さデータで補う処理)を行った。ISO25178に基づいて各種パラメータを求め、一方の面内の任意の5箇所で測定を行い、それらの算術平均値として求めた。なお、フィルムの両面を測定したが、表に記載の値は上記(4)のSsk値を求めた側の面の値である。
【0077】
(7)130℃でのフィルム絶縁破壊電圧(V/μm)
130℃に保温されたオーブン内でフィルムを1分間加熱後、その雰囲気中でJIS C2330(2001)7.4.11.2 B法(平板電極法)に準じて測定した。ただし、下部電極については、JIS C2330(2001)7.4.11.2のB法記載の金属板の上に、同一寸法の株式会社十川ゴム製「導電ゴムE-100<65>」を載せたものを電極として使用した。絶縁破壊電圧試験を30回行い、得られた値をフィルムの厚み(上記(1)で測定)で除し、(V/μm)に換算し、計30点の測定値(算出値)のうち最大値から大きい順に5点と最小値から小さい順に5点を除いた20点の算術平均値を130℃でのフィルム絶縁破壊電圧とした。
【0078】
(8)冷キシレン可溶部(CXS)
原料の場合はポリプロピレン樹脂、フィルムの場合はフィルム試料について0.5gを135℃のキシレン100mlに溶解して放冷後、20℃の恒温水槽で1時間再結晶させた後にろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分を液体クロマトグラフ法にて定量した。ろ過液に溶解しているポリプロピレン系成分の量をX(g)、試料0.5gの精量値をX0(g)として、下記式
CXS(%)=(X/X0)×100
から算出した。
【0079】
(9)メソペンタッド分率
原料の場合はポリプロピレン樹脂、フィルムの場合はフィルム試料について凍結粉砕にてパウダー状にし、60℃のn-ヘプタンで2時間抽出し、ポリプロピレン中の不純物・添加物を除去した後、130℃で2時間以上減圧乾燥したものをサンプルとした。該サンプルを溶媒に溶解し、13C-NMRを用いて、以下の条件にてメソペンタッド分率(mmmm)を求めた(単位:%)。
【0080】
測定条件
・装置:Bruker製DRX-500
・測定核:13C核(共鳴周波数:125.8MHz)
・測定濃度:10質量%
・溶媒:ベンゼン:重オルトジクロロベンゼン=1:3混合溶液(体積比)
・測定温度:130℃
・スピン回転数:12Hz
・NMR試料管:5mm管
・パルス幅:45°(4.5μs)
・パルス繰り返し時間:10秒
・データポイント:64K
・積算回数:10000回
・測定モード:complete decoupling
解析条件
LB(ラインブロードニングファクター)を1としてフーリエ変換を行い、mmmmピークを21.86ppmとした。WINFITソフト(Bruker製)を用いて、ピーク分割を行う。その際に、高磁場側のピークから以下のようにピーク分割を行い、更にソフトの自動フィッテイングを行い、ピーク分割の最適化を行った上で、mmmmのピーク分率の合計をメソペンタッド分率(mmmm)とする。
(1)mrrm
(2)(3)rrrm(2つのピークとして分割)
(4)rrrr
(5)mrmr
(6)mrmm+rmrr
(7)mmrr
(8)rmmr
(9)mmmr
(10)mmmm
同じサンプルについて同様の測定を5回行い、得られたメソペンタッド分率の算術平均値を当該サンプルのメソペンタッド分率とした。
【0081】
(10)ポリプロピレン樹脂の融点
示差走査熱量計(セイコーインスツル製EXSTAR DSC6220)を用いて、窒素雰囲気中で3mgのポリプロピレンチップを30℃から260℃まで20℃/分の条件で昇温する。次いで、260℃で5分間保持した後、20℃/分の条件で30℃まで降温する。さらに、30℃で5分間保持した後、30℃から260℃まで20℃/分の条件で昇温する。この昇温時に得られる吸熱カーブのピーク温度をポリプロピレン樹脂の融点とした。
【0082】
(11)静摩擦係数(μs)
東洋精機(株)製スリップテスターを用いて、JIS K 7125(1999)に準じて、25℃、65%RHにて測定した。なお、測定は、フィルム試料2枚を切り出し、フィルム長手方向を一致させ、一方のフィルムの表面と他方のフィルムの裏面とを重ねあわせて測定を行った。試験回数は5回とし、得られた値の算術平均値を当該フィルムの静摩擦係数(μs)とした。
【0083】
(12)フィルムコンデンサ特性の評価(120℃での素子加工性および耐電圧性)
フィルムの一方の面(なお、濡れ張力が表裏両面で異なる場合は、濡れ張力が高い方の面)に、(株)アルバック製真空蒸着機でアルミニウムを膜抵抗が10Ω/sqで長手方向に垂直な方向にマージン部を設けた、いわゆるT型マージン(マスキングオイルにより長手方向ピッチ(周期)が17mm、ヒューズ幅が0.5mm)を有する蒸着パターンで蒸着を施し、スリット後に、フィルム幅50mm(端部マージン幅2mm)の蒸着リールを得た。
【0084】
次いで、このリールを用いて(株)皆藤製作所製素子巻機(KAW-4NHB)にてコンデンサ素子を巻き取り、メタリコンを施した後、減圧下、130℃の温度で8時間の熱処理を施し、リード線を取り付けコンデンサ素子に仕上げた。
【0085】
こうして得られたコンデンサ素子10個を用いて、120℃高温下でコンデンサ素子に250VDCの電圧を印加し、該電圧で10分間経過後にステップ状に50VDC/1分で徐々に印加電圧を上昇させることを繰り返す所謂ステップアップ試験を行なった。
【0086】
<素子加工性の評価>
作製したコンデンサ素子について、目視により各規準で判定した。
◎:コンデンサ素子の変形、シワが全くない。
○:コンデンサ素子の変形、シワが僅かにある。
×:コンデンサ素子に目立った変形、シワが生じている。
◎、○は使用可能であり、◎がより高い性能といえる。×では実用が困難である。
【0087】
<耐電圧性の評価>
ステップアップ試験における静電容量変化を測定しグラフ上にプロットして、該容量が初期値の70%になった電圧をフィルムの厚み(上記(1))で割り返して耐電圧評価とし、以下の通り評価した。
◎:400V/μm以上
○:390V/μm以上400V/μm未満
△:380V/μm以上390V/μm未満
×:380V/μm未満
◎、○は使用可能であり、◎がより高い性能といえる。△、×ではこの順で実用上の性能に劣る。
【実施例
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
【0089】
(実施例1)
メソペンタッド分率が0.983、融点が168℃で、メルトフローレート(MFR)が2.3g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が0.8質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を温度255℃の押出機に供給し、溶融させ、濾過フィルターを通過後の、樹脂温度が220℃になるよう設定したT型スリットダイよりシート状に溶融押出し、該溶融シートを95℃に保持されたキャスティングドラム上で、エアーナイフにより密着させ冷却固化し未延伸ポリプロピレンフィルムを得た。該未延伸ポリプロピレンフィルムを複数のロール群にて段階的に140℃まで予熱し、そのまま周速差を設けたロール間に通し、長手方向に6.0倍に延伸した。引き続き該フィルムをテンターに導き、フィルム幅手の両端部をクリップで把持したまま173℃の温度(TD延伸温度+10℃)で予熱し、次いで164℃の温度で幅方向に12.5倍延伸した。さらに1段目の熱処理および弛緩処理として幅方向に12%の弛緩を与えながら152℃で熱処理を行ない、さらに2段目の熱処理としてクリップで幅方向把持したまま143℃で熱処理を行った。最後に3段目の熱処理として98℃の熱処理を経てテンターの外側へ導き、フィルム端部のクリップ解放し、次いでフィルム表面(キャスティングドラム接触面側)に25W・分/mの処理強度で大気中でコロナ放電処理を行い、フィルム厚み2.3μmのフィルムをフィルムロールとして巻き取った。本実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧は良好で、コンデンサとしての素子加工性・耐電圧性の評価も優れたものであった。
【0090】
(実施例2、3、4、5)
溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、実施例2では厚み2.3μmのポリプロピレンフィルム、実施例3~4では厚み2.4μmのポリプロピレンフィルム、実施例5では厚み6.0μmのポリプロピレンフィルムを得た。
【0091】
各実施例のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、実施例2のポリプロピレンフィルムの130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧は実施例1のポリプロピレンフィルムには劣るが使用可能であり、コンデンサとしての耐電圧性評価も問題ないレベルであり、素子加工性の評価において端面にわずかなズレがあるものの実使用上は問題ないレベルであった。実施例3のポリプロピレンフィルムも130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧、およびコンデンサの耐電圧性の評価は実施例1には劣るものの、素子加工性の評価において端面のフィルムのズレ、シワ、変形がなく優れたものであった。実施例4のポリプロピレンフィルムは130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧、およびコンデンサとしての耐電圧性評価が極めて良好であり、素子加工性の評価において端面にわずかなズレが認められるもののコンデンサとして実使用上問題ないレベルであった。実施例5のポリプロピレンフィルムは130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧、およびコンデンサの耐電圧性の評価は実施例1には劣るものの、素子加工性の評価において端面のフィルムのズレ、シワ、変形がなく加工性は優れたものであった。
【0092】
(実施例6)
1段目の熱処理および弛緩処理として、幅方向に3%の弛緩を与えながら152℃で熱処理を行なった以外は、実施例1と同様の方法で、ポリプロピレンフィルムを得た。なお、厚みは2.3μmであった。このフィルムの130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率、絶縁破壊電圧は実施例1のポリプロピレンフィルムには劣るが使用可能であり、コンデンサとしての耐電圧性評価も問題ないレベルであり、素子加工性の評価において端面にわずかなズレがあるものの実使用上は問題ないレベルであった。
【0093】
(実施例7)
メソペンタッド分率が0.975、融点が166℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.0g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.7質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を温度260℃の押出機に供給し溶融させ、濾過フィルターを通過後の樹脂温度が260℃になるよう設定したでT型スリットダイよりシート状に溶融押出し用い、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、実施例7ではでは厚み2.3μmのポリプロピレンフィルム得た。実施例6のポリプロピレンフィルムは130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が高く、コンデンサとして加工時が良好、耐電圧性の評価も高く、また、実使用上の信頼性に問題ないレベルであった。
【0094】
(比較例1)
比較例1は特許文献1(国際公開WO2015/146894号パンフレット)に記載の実施例1に記載の方法で製造したポリプロピレンフィルムである。比較例1のポリプロピレンフィルム特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りで、TD予熱温度とTD延伸温度が同一であり、横延伸後1段目の熱処理温度が低温であるため、延伸時の歪み除去が十分でないため加熱ロールの搬送工程でシワが発生することがあり、コンデンサとして素子加工性の評価でシワが認められることがあった。130℃におけるフィルムの絶縁破壊電圧も低く、また、コンデンサの耐電圧性の評価は実用上の性能に劣るレベルであった。
【0095】
(比較例2)
溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。比較例2のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、面積延伸倍率が低く、TD予熱温度とTD延伸温度がほぼ同一であり、TD延伸後の熱処理が施されていない。そのため130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分で、コンデンサの耐電圧性の評価も低く、コンデンサの素子加工性の評価でも形状が大きく変化しており、工業的な使用には適さないレベルであった。
【0096】
(比較例3)
溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とし、二軸延伸後にフィルムを140℃に予熱し、1.2倍の再縦延伸を行った以外は実施例1と同様にして 、厚み2.3μmのポリプロピレンフィルムを得た。比較例3のポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、幅方向の延伸倍率が低いため、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分であり、130℃のフィルムの絶縁破壊電圧も低い。また、MD方向の歪み残っているためと推察されるが、高温環境下でMD方向の熱収縮によって素子が巻き締まり、コンデンサの耐電圧性の評価ではショート破壊が発生した。一方、素子の加工性の評価では問題のないレベルであったが、再縦延伸時にフィルム破れが発生することがあった。
【0097】
(比較例4)
メソペンタッド分率が0.968、融点が164℃で、メルトフローレイト(MFR)が3.2g/10分、冷キシレン可溶部(CXS)が1.9質量%であるプライムポリマー(株)製ポリプロピレン樹脂を用い、溶融押出シートを冷却するキャスティングドラムの温度、二軸延伸時の延伸倍率、TD予熱温度、TD延伸温度および熱処理条件を表1の条件とした以外は実施例1と同様にして、厚み2.4μmのポリプロピレンフィルムを得た。
【0098】
このポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、ポリプロピレン原料の立体規則性が低く、CXSの量が多いため、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分で、130℃のフィルム絶縁破壊電圧も低く、また、コンデンサの信頼性は素子形状が大きく変化し破壊しており、耐電圧性の評価も不十分なため実使用できないレベルであった。
【0099】
(比較例5)
実施例1に記載の方法と同様の方法で、未延伸ポリプロピレンフィルムを得た。得られたフィルムをオーブン中で140℃、3分間の加熱処理を施して未延伸フィルムを得た。フィルムの厚みは200μmであったこのポリプロピレンフィルムの特性およびコンデンサ特性は表1に示す通りであり、二軸延伸されていないため、130℃におけるフィルムの貯蔵弾性率が不十分で、130℃のフィルム絶縁破壊電圧も低く、厚膜のため絶縁破壊電圧の測定許容範囲外であり、また、コンデンサに加工することができなかった。
【0100】
【表1】