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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】インジケータ機能を有するラベル
(51)【国際特許分類】
   G01N 31/22 20060101AFI20240214BHJP
   B01D 53/14 20060101ALI20240214BHJP
   A61L 9/01 20060101ALI20240214BHJP
   A61L 9/014 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 31/00 20060101ALI20240214BHJP
   G01N 21/78 20060101ALI20240214BHJP
   A61F 13/42 20060101ALI20240214BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01N31/22 121C
B01D53/14 100
A61L9/01 E
A61L9/014
G01N31/00 G
G01N31/00 P
G01N21/78 A
A61F13/42 B
A61F13/15 141
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019175302
(22)【出願日】2019-09-26
(65)【公開番号】P2021051043
(43)【公開日】2021-04-01
【審査請求日】2022-08-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【弁理士】
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【弁理士】
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100169063
【弁理士】
【氏名又は名称】鈴木 洋平
(72)【発明者】
【氏名】戸田 順子
【審査官】倉持 俊輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-056144(JP,A)
【文献】特開2002-165870(JP,A)
【文献】特開平09-168583(JP,A)
【文献】特開2006-136586(JP,A)
【文献】実開昭62-166235(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2003/0003589(US,A1)
【文献】特開2002-113078(JP,A)
【文献】特開2006-090862(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 31/22,
B01D 53/14,
A61L 9/00,9/01,9/014,
G01N 21/78,
A61F 13/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インジケータ機能を有するフィルム状またはシート状のラベルであって、
第一の表面及び第二の表面を有し、かつ、水溶性樹脂で構成された基材層と、
前記基材層の前記第一の表面上に形成されたインジケータと、
前記基材層の前記第二の表面上に設けられた粘着剤部と、
を備え、
前記インジケータは、アンモニアまたは硫化水素を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素を含有する層であり、前記色素が環境に無害な色素である、ラベル。
【請求項2】
前記粘着剤部に貼付された剥離紙を更に備える、請求項1に記載のラベル。
【請求項3】
おむつの側面に貼って使用される、請求項1又は2に記載のラベル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不快臭の除去の度合いを示すインジケータに関する。
【背景技術】
【0002】
医療用品や介護用品は、使用者が安心かつ快適に使用できることが重要である。この医療用品や介護用品は、病院内の患者および医療従事者に限らず、一般家庭や共同住居などに暮らす介護を受ける者およびその者を介護する家族や介護担当者であることが想定されている。
【0003】
超高齢化社会にともない、医療用品や介護用品を使用する人口は、右肩上がりで加速的に増加することが推測されている。介護に関する課題は多様であり、人手不足を中心に深刻な課題が多い。その中でも、医療用品や介護用品の使用者の状態および使用環境によって差異はあるが、不快臭に関しては上位に上がる課題として取り上げられることが少なくない。いかにして不快臭を軽減するかは様々なアプローチがある。しかし、医療用品や介護用品を使用する患者や介護を受ける者がその不快臭が気になり、精神的な負担を抱えている課題への対策はほとんどなく、緊急性が低いと見なされがちな状況にある。
【0004】
健康寿命の延伸対策としては、個人がいかにして心身ともに快適な生活を送るかが重要とされている。加齢に伴う身体能力の低下、排泄の問題によって行動が制限されることを抑制するための製品は増加傾向にあり、おむつ製品の進化はその代表例である。
【0005】
例えば、アクティブシニアといわれる世代においては、一般の下着と同等のおむつを使うことで活動範囲が広がったというポジティブな事例がある。その一方で、においが気になって外出せずに家などの中に閉じこもってしまう事例もある。また、手術に成功してストーマを利用することになった患者の中でも、不快臭に慣れてしまってその不快臭に鈍感になったために、不快臭が発生しているか否かが気になり内向的になってしまう、あるいは、対人恐怖症になってしまうという事例の報告も少なくない。
【0006】
さらに、介護する立場の関係者からは、「自分のにおいが気にならないか、本人から聞かれることはたびたびある。でも、本当のことは答えにくい。言ってあげた方がいいと思うが、言いにくい。」という声を聞くこともある。
【0007】
このように、例えば、排泄能力になんらかの不自由が発生した者、およびその者の介護者を含む関係者にとっては、不快臭に対する課題が存在するものの、センシティブな話題であるがゆえに、介護者などが介護を受ける者に本当のことが言えないという問題がある。そして、そのために具体的な解決策を検討できず、介護を受ける者とその介護者などの双方が、慢性的に不安な状態で活動していることが推測される。
【0008】
これらの問題を解決するために、消臭製品を使用する方法が考えられる。患者や介護を受ける者、および医療従事者や介護者がより安心して活動するためには、消臭能力だけでなく、消臭されていることを確認できることも必要である。近年、このように不快臭に対する消臭能力と共に、その不快臭が発生していることを目視で識別できる消臭製品が提案されている。
【0009】
例えば、特許文献1には、銅粉及び銅化合物粉末から選ばれる少なくとも1種を含有するケイ酸塩系脱臭材からなることを特徴とするインジケータ機能を有する脱臭材が提案されている。
【0010】
上記インジケータ機能を有する脱臭材により、悪臭に対して色相が大きく変化するため視覚的に鮮明で、脱臭効能の指示精度が良好である。
【0011】
しかし、脱臭剤の脱臭能力は、ケイ酸塩系脱臭材によるものであり、インジケータとして用いられるのは、銅又は銅化合物であり、脱臭剤自体の脱臭能力を直接表したものではない。
【0012】
また、特許文献2には、アルカリ性臭を吸収する酸性脱臭剤を基材シートに塗布または含浸せしめた脱臭シート面上の一部に、同脱臭剤とペーハーが変化するときに変色する指示薬を塗布または含浸せしめたインジケータ片を設けたことを特徴とするインジケータ付き脱臭シートが提案されている。
【0013】
上記脱臭シートにより、脱臭剤の能力の有無をインジケータ片により知ることができる。しかし、脱臭剤とインジケータを別に設ける必要があり、製造上手間である。また、脱臭剤とインジケータを別に設けるために、脱臭剤自体の真の消臭能力を表しているとは言い難い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平9-614号公報
【文献】実開平1-120845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明は、上記のような問題点に鑑み、特に医療や介護の現場で発生しやすい、アルカリ性成分による不快臭や硫黄性成分による不快臭に対して消臭能力を発揮し、消臭物質自体の真の消臭能力を表すことで、使用者が、その不快臭が発生しているまたは発生するおそれがある時を正確、早期に、かつ容易に判断したり、取り換え時期を確実に判断できるインジケータを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
請求項1に記載の発明は、色素を含有するインジケータであって、前記色素は、アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色することを特徴とするインジケータである。
【0017】
請求項2に記載の発明は、前記アルカリ性成分または硫黄性成分が不快臭を有する成分であることを特徴とするインジケータである。
【0018】
請求項3に記載の発明は、前記アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素を、0.05wt%以上20wt%以下含有する、請求項1または2のいずれかに記載のインジケータである。
【0019】
請求項4に記載の発明は、前記アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素を、外気に触れる部分に含有する、請求項1から3のいずれかに記載のインジケータである。
【0020】
請求項5に記載の発明は、アルカリ性成分または硫黄性成分に対する呈色反応性を調整するための臭い吸着物質と併用することを特徴とする、請求項1から4のいずれかに記載
のインジケータである。
【0021】
請求項6に記載の発明は、前記アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素は、その変色後の色差ΔEが15以上であることを特徴とする、請求項1から5のいずれかに記載のインジケータである。
【0022】
請求項7に記載の発明は、前記アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素にpH安定剤を含めることを特徴とする、請求項1から6のいずれかに記載のインジケータである。
【0023】
請求項8に記載の発明は、前記アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素は、人体または環境に無害な色素であることを特徴とする、請求項1から7のいずれかに記載のインジケータである。
【発明の効果】
【0024】
本発明に係るインジケータは、アルカリ性成分による不快臭や硫黄性成分による不快臭に対する消臭能力を持つと共に、そのインジケータ自体が、前記不快臭との反応により色が変化する。よって、そのインジケータの使用者は、前記不快臭が発生しているまたは発生するおそれがある時を正確、早期に、かつ容易に判断できる。さらに、不快臭の除去の度合いに応じた色彩変化により、不快臭の除去の程度や残存消臭能力の有無が可視化されることで、取り換え時期を確実に判断できる。
【0025】
また、上記インジケータを例えば医療用品もしくは介護用品に用いることで、使用中に不快臭が漏れている可能性が高いことを、それを使用する患者や介護を受ける者、または医療従事者や介護者が、正確に、早期に、かつ容易に発見できる。介護者などが不快臭の発生の状況や程度を介護を受ける者などに伝える必要がないため、介護を受ける者などと介護者などの双方にとって精神的負担が軽減され、双方が安心かつ快適に過ごすことができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
図1】本発明の第一実施形態に係るインジケータを用いたフィルムの断面概略図である。
図2図1に示すフィルムの使用態様の一例を示した図である。
図3図1に示すフィルムを用いたラベルの使用態様の一例を示した図である。
図4】色素の濃度と色素の色差の関係を示すグラフである。
図5】アンモニアの濃度と色素の呈色反応時間の関係を示すグラフである。
図6図1に示すフィルムを用いて、アンモニア臭の発生源からの距離と色素の呈色反応時間の関係を調べるために行った試験のモデルの平面概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、必要に応じて図面を参照して、本発明に係るインジケータの例について説明する。
【0028】
本発明に係るインジケータは、アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素を含有する。アルカリ性成分や硫黄性成分は、不快臭を有する成分である場合、本発明の目的である消臭能力の発揮と消臭度合いを示すインジケータ機能の発揮に、より貢献できる。
【0029】
アルカリ性成分による不快臭としては、例えば、アンモニア、アミン、トリメチルアミン等の不快臭、硫黄性成分の不快臭としては、例えば、硫化水素、メチルメルカプタン等
の不快臭が挙げられる。医療や介護の現場では、アルカリ性成分による不快臭として、例えば、トイレのニオイ、糞尿臭などが発生することがあり、硫黄系の不快臭として、例えば、糞臭などが発生することがある。
【0030】
これらの不快臭を除去すると共に、その不快臭の除去の度合いに応じて色彩を変化させ、この色彩変化から不快臭の除去の度合いを確認することができるように、インジケータに含有する色素は下記のとおりである。
【0031】
(色素について)
本発明で使用する色素は、アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素であれば特に限定されるものではない。しかし、人体に対する安全性が高く、廃棄後の環境への負荷を抑えることが可能な色素であることが好ましい。
【0032】
アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素は、まず、人体に無害であることが好ましい。本発明は、特に医療や介護の現場で使用することを想定しているため、人体への安全性は重要であり、人体に無害な色素を使用することで、使用者は安心して使用することができる。
【0033】
また、環境に無害な色素を使用することで、環境問題の発生を抑制したり、下水道に廃棄したりすることが可能となる。また、下水道に廃棄できるため、本発明に係る色素使用後の廃棄に手間がかからない。
【0034】
上述の人体または環境に無害な色素としては、例えば、天然由来の色素や、法律で使用が許可された食品添加物としての色素などが好ましく挙げられる。本発明に適する天然由来の色素の例を下記に説明する。
【0035】
本発明に適する天然由来の色素としては、例えば、アントシアニジン系色素、カルコン系色素、アントラキノン系色素、カロテノイド系色素、ポルフィリン系色素、ウコン色素、タマリンド色素、ビートレッド色素、クチナシ青色素、ベニコウジ赤色素などを使用することができる。これらの色素の中から選ばれた少なくとも1種の色素を有効成分として含有する他、これらを2種以上混同して用いてもよい。例えば、医療や介護の個々の現場で所望の着色や不快臭の種類に応じた消臭能力を付与できるように、適宜選択することができる。
【0036】
アントシアニジン系色素は、2-フェニルベンゾピリリウム構造を有する色素であり、具体的には、例えば、ブドウ科ブドウの果皮から抽出されエノシアニンおよびマルビジン-3-グルコシドを主成分とするブドウ果皮色素、アブラナ科ダイコンの赤紫根から抽出されペラルゴニジンアシルグルコシドを主成分とする赤ダイコン色素、アブラナ科キャベツの赤い葉から抽出されシアニジンアシルグルコシドを主成分とする赤キャベツ色素、スイカズラ科エルダーベリーの果実から抽出されシアニジングルコシドおよびデルフィニジングルコシドを主成分とするエルダーベリー色素、ヒルガオ科サツマイモの塊根から抽出されシアニジンアシルグルコシドおよびペオニジンアシルグルコシドを主成分とする紫イモ色素、イネ科トウモロコシの種子から抽出されシアニジン-3-グルコシドを主成分とする紫トウモロコシ色素、シソ科赤シソの葉から抽出されシソニンおよびマロニルシソニンを主成分とするシソ色素などである。
【0037】
カルコン系色素は、カルコン構造を有する色素であり、具体的には、例えば、キク科ベニバナの花から抽出されるサフロミンAおよびサフロミンBを主成分とするベニバナ黄色素などである。
【0038】
アントラキノン系色素は、アントラキノン構造を有する色素であり、具体的には、例えば、カイガラムシ科エンジムシから抽出されカルミン酸を主成分とするコチニール色素、カイガラムシ科ラックカイガラムシの分泌物質に含まれるラッカイン酸を主成分とするラック色素などである。
【0039】
カロテノイド系色素は、1重結合と2重結合とが交互に並んだポリエン構造を有するカロチンの誘導体であり、具体的には、例えば、ベニノキ科ベニノキの種子から抽出されるビキシンおよびノルビキシンを主成分とするアナトー色素、アカネ科クチナシの果実から抽出されるクロシンおよびクロセチンを主成分とするクチナシ黄色素などである。
【0040】
ポルフィリン系色素は、ポルフィリン構造を有する色素や、ポルフィリンの環状構造が開環した鎖状構造の化合物を含む色素であり、具体的には、例えば、スピルリナの全藻から抽出されるフィコシアニンを主成分とするスピルリナ色素、アカザ科ホウレンソウから抽出されるクロロフィルなどである。
【0041】
ウコン色素は、例えば、ショウガ科ウコンの根茎から抽出されたクルクミンを主成分とするものである。
【0042】
タマリンド色素は、例えば、マメ科タマリンドの種子から抽出されるフラボノイド(1、3-ジフェニルプロパノイド構造を有する化合物群)の重合体を主成分とするものである。
【0043】
ビートレッド色素は、例えば、アカザ科ビートの根から抽出されるベタニンおよびイソベタニンを主成分とするものである。
【0044】
クチナシ青色素は、例えば、アカネ科クチナシの果実から抽出されるイリドイド配糖体とタンパク質分解物との混合物に、β-グルコシダーゼを添加して得られたものである。
【0045】
ベニコウジ赤色素は、例えば、子のう菌類ベニコウジカビの培養液から得られるアンカフラビンおよびモナスコルブリンを主成分とするものである。
【0046】
上記の中で、特にアルカリ性成分による不快臭に対して高い消臭能力を示し、消臭に伴う色彩の変化(色差△E)が大きい、すなわち、インジケータ機能が優れている色素は、アントシアニジン系色素、カルコン系色素、アントラキノン系色素、カロテノイド系色素、ポルフィリン系色素、ウコン色素、タマリンド色素、ビートレッド色素である。
【0047】
一方、特に硫黄性成分による不快臭に対して高い消臭能力を示し、消臭に伴う色彩の変化(色差△E)が大きい、すなわち、インジケータ機能が優れている色素は、アントシアニジン系色素、カルコン系色素、アントラキノン系色素、カロテノイド系色素、ポルフィリン系色素、ウコン色素、タマリンド色素、ビートレッド色素、クチナシ青色素、ベニコウジ赤色素である。
【0048】
なお、上記の天然由来の色素を有する未利用バイオマスを適用することで、コストメリットも大きい。さらに、上記天然由来の色素を利用し、化学的方法により不快臭を除去することで、化学的方法以外の消臭方法に比べて、消臭に伴い変色する色素のインジケータ機能が向上する。
【0049】
消臭方法は、この化学的方法以外に、物理吸着による物理的方法、生物的な分解による生物的方法、および、マスキング法が挙げられる。活性炭など使用した物理吸着による物理的方法は、飽和状態になると効果がなくなる。微生物や酵素を使用した生物的方法は、
処理速度が遅く、設備コストが高い。芳香剤を用いて悪臭を感じないようにするマスキング法は、悪臭を感覚的になくすが、根本的解決とならない。一方、化学反応を利用した化学的方法により、消臭成分と不快臭成分とを化学反応させ、根本的に不快臭成分を違う成分に変えられる。
【0050】
アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素は、その変色後の色差ΔEの値が大きいほど色彩の変化が大きく、概ね色差ΔEが12以上であれば色彩の変化を確実に視認することができるが、その変色後の色差ΔEが15以上であることが好ましい。
【0051】
その変色後の色差ΔEを15以上とすることで、その色素を含有したインジケータの使用者が、不安になるレベルの不快臭が漏れていることを一目で容易に判別することが可能となる。
【0052】
また、アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素にpH安定剤を含めることで、上記成分による呈色反応後に色が不本意に変化したり、退色したりすることを防止できたり、また、目的や場所に応じた呈色の調整が可能となる。
【0053】
ここで、pH安定剤は、例えば、一般食品に添加しているpH安定剤など、人体への危険性のないpH安定剤であることが好ましい。
【0054】
色素によっては、アルカリ性成分または硫黄性成分に対する呈色反応後、経時的に、前記成分と無関係に呈色反応時の変色が進行したり、上記成分と無関係に他の色に変色したり、紫外線などにより退色したりする場合があり得る。色素にpH安定剤を含めることで、上記のような不本意な変色や退色を防ぐことができる。
【0055】
また、目的や場所に応じた呈色の調整のために、色素にpH安定剤を含めることもできる。
【0056】
このpH安定剤は、必要に応じて本発明に係る色素に含めるものであり、用途に応じて含めなくてもよい。色素にpH安定剤を含める方法としては、色素を分散させた溶液にpH安定剤を適量添加する方法が簡便である。なお、添加するpH安定剤の量は、pHが6.5未満の場合、好ましい消臭効果が発揮されないが、pH14以上の場合、取り扱いに注意が必要で、不都合となる。
【0057】
前記色素を含有するインジケータを、フィルムまたはシートに用いることができる。このフィルムまたはシートについて、下記に説明する。
【0058】
(フィルムまたはシートについて)
アルカリ性成分または硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素を含有するインジケータを用いたフィルムもしくはシートは、単層フィルムまたは単層シートでもよいし、複数の材料を積層した積層フィルムまたは積層シートでもよい。
【0059】
このフィルムまたはシートに色素を含有させる方法は、色素を含むコート剤を基材層にコートする方法、または、色素をフィルムまたはシートの層中に分散または含侵させる方法などがある。上記の色素を含むコート剤には、色素を溶媒中に分散させたものも含む。また、上記コートは、塗工、塗布、印刷、蒸着、スパッタリング、押出加工、滴下などの態様を含む。
【0060】
フィルムまたはシートに色素を分散または含侵させることで、色素がこれらのフィルムまたはシートと一体化するため、容易に脱落しない。
【0061】
図1は、本発明の第一実施形態に係るインジケータを用いたフィルム100の断面図である。図1のように、色素1を溶媒2中に分散した色素分散層3を基材層4上に塗工している。
【0062】
色素1を溶媒2中に分散させた色素分散層3を基材層4に塗工または塗布する場合は、例えば、色素1を塗料用樹脂液などの溶媒2中に均一に分散させてできた水溶性ポリマーを、基材層4上に塗工または塗布する方法がある。水溶性ポリマー以外にも透明水系インキを用いることで塗膜を形成することもできる。塗膜は、5μm~300μm程度であることが望ましい。なお、色素1の分散方法は、ディスパーやミルで攪拌させる方法を用いる。この分散工程において、色素1は、より微粉に粉砕される結果、表面積が著しく増大し、アルカリ性成分や硫黄性成分などに対してより敏感に感応するようになる。
【0063】
上記溶媒2として、水、エチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)、天然ゴム、シェラック、繊維素類、蛋白質、ロジンなどの天然樹脂、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリスチレン、ポリブタジエン、アクリル系樹脂、塩化ゴム、フェノール樹脂、セルロース誘導体、塩素化ポリプロピレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂などの合成樹脂などを用いることができる。
【0064】
上記溶媒は、種類により、色相、着色力、変色の巾、応答速度などは若干異なるため、この溶媒がコートされる基材層4の種類により、また必要に応じて1種もしくは2種以上を自由に選択して用いることができる。
【0065】
また、図1のように、この溶媒2に色素1を分散させた色素分散層3が塗工される基材層4に樹脂を使用する場合は、その基材層4として、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポロプロピレン(PP)などを使用することができる。
【0066】
上記の溶媒2や基材層4に用いる樹脂としては、環境に優しい水溶性樹脂を用いることがより好ましい。水溶性樹脂を構成する材料としては、例えば、水溶性ウレタン、ポリビニルアルコール系ポリマー、例えば、ポリビニルアルコール及びその変性体、ポリアクリルアミド、ポリアクリル酸系ポリマー、例えば、ポリアクリル酸、及びアクリル酸含有アクリルポリマー、ポリエチレンオキシド、ビニルエーテル系ポリマー、スルホ変性ポリエステル、ポリウレタン誘導体、並びに多糖類、例えば、カルボキシメチルセルロース塩及びアルギン酸塩が挙げられる。
【0067】
水溶性樹脂を用いることで、上記の樹脂に含有させる色素1も下水道に流せるものであれば、その色素1と合わせてトイレや下水道に廃棄可能である。
【0068】
上記の方法により得られた色素分散層3は、加工数量・塗工面積に応じて、グラビア方式、オフセット方式、シルクスクリーン方式、ロールコート方式、スプレー方式、スピンコート方式、などの各種印刷、塗工方式、または塗布方式により、基材層4に印刷、塗工、または塗布することができる。しかし、適度な酸素透過性の点から、薄膜を形成することが可能なグラビア方式、オフセット方式による塗工などが有利である。
【0069】
グラビア方式で基材層4の上に塗工などする場合は、例えば、基材層4としてのポリエチレンテレフタレート(PET)を用いた基材層4に、ポリビニルアルコール(PVA)に色素1を分散させた色素分散層3を積層する。その後、オーブンで熱して乾燥する。上
記の色素1を分散させた塗膜に、アルカリ性成分や硫黄性成分による不快臭が吸収される。
【0070】
一方、蒸着またはスパッタリングによりコートする場合は、色素分散層3を乾燥後、好ましくは減圧下で、基材層4表面に蒸着またはスパッタリングすることにより行うことができる。この場合、巻き取り連続方式、枚葉方式のどちらでもよく、また、真空蒸着の加熱方法としては、その蒸着中にスプラッシュと呼称される蒸着飛沫が発生しなければ、あるいは支障なく取り除ける程度に少なければ特に制限はなく、高周波誘導加熱,抵抗加熱,電子線加熱などの公知の加熱方法を用いることができる。また、真空蒸着の蒸発源としては、一般的なルツボ方式やボート方式でもかまわない。
【0071】
色素1を含むコート剤を基材層4に押出加工する場合は、例えば、加工性の良い低密度ポリエチレンに色素1を分散して押出加工する。この低密度ポリエチレンとして、例えば、宇部丸善ポリエチレン製のL491を用いることができる。
【0072】
フィルムまたはシートに色素1を含侵させる場合は、例えば、色素1を水に溶かして水溶液とし、この水溶液をグラスフィルターなどの多孔性の担体であるフィルムまたはシートに染み込ませ、その後、湿った状態もしくは乾燥させる状態で使用することができる。この多孔性の担体であるフィルムまたはシートに通気して、アルカリ性成分または硫黄性成分による不快臭を選択的に除去することができる。なお、含侵させる水溶液は、消臭能力の確保、および、発色ないし変色の視認性を考慮し、色素1の濃度は0.01質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上であるのがよい。
【0073】
色素1を紙類のフィルムまたはシートに含侵させる場合、所定濃度の水溶液を用いて浸漬けさせ、24時間自然乾燥したものを用いる。
【0074】
なお、アルカリ性成分を吸収し、かつその吸収に応じて呈色する色素1をフィルムまたはシートに含有させる場合、色素1を溶かした水溶液に、さらに、無臭または微香性の酸を含有するようにしてもよい。酸を添加することで、色素1と塩基性悪臭ガスとが直接反応するのに加え、アルカリ性成分による不快臭ガスなどの塩基性悪臭ガスを酸により中和することで、より一層消臭効果が高めることができる。
【0075】
無臭または微香性の酸を用いるのは、消臭剤自身が悪臭を発するのを回避するためであり、添加する酸としては、クエン酸、アスコルビン酸、乳酸、リンゴ酸が好ましい。
【0076】
また、アルカリ性成分や硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素1をフィルムまたはシートに含有させる場合、その色素1の濃度となる色素含有率は、0.05wt%以上20wt%以下であることが好ましい。0.05wt%以上とすることで、消臭によるインジケータ機能を発揮する。ただし、20wt%より多いと、取り扱いに注意が必要で、不都合であるとともに、コストが大きくなり経済的問題が発生する。
【0077】
色素1を含有させるフィルムまたはシートの材料は、上記のプラスチック以外に、例えば、紙類、フィルタ、不織布、織物、編物、皮革、または、これらの中の2つ以上を使用した複合フィルムまたは複合シートなどが挙げられる。
【0078】
上記のプラスチック類、紙類、フィルタ、不織布などの構成としては、例えば、ネット、多孔体、繊維体、綿体、スポンジ体などがある。また、ハニカム構造体や多孔質スポンジ状物に色素1を含侵させることもできる。
【0079】
上記の織物や編物で用いられる材料としての繊維には、羊毛、コットン等の天然繊維、
ポリエステル、ポリアミド、アクリル繊維などの合成繊維、あるいはレーヨン、ポリノジック繊維などがある。
【0080】
フィルムまたはシートは、全体として、薄くすることで目立たずまたは邪魔にならず、軽く、強度があり、水に早く溶けたり、生分解性があり、下水道に廃棄できたりするものが好ましい。
【0081】
上記フィルムまたはシートを単体で使用する場合は、不快臭のある場所に敷く、置く、貼付するなどが想定される。それにより、不快臭をより早く除去すると共に、不快臭の除去の程度に応じた色変化により、残存消臭能力の有無や取り換え時を正確かつ容易に判断できる。なお、後述の実施例の中の「3.アンモニア臭の発生源からの距離と色素の呈色反応時間との関係を調べる試験」で述べるとおり、本発明に係るインジケータとしてのフィルムを置く場所が不快臭の発生源から近いほど変色時間が早くなることが分かった。
【0082】
フィルムまたはシートを単体で使用する場合、そのフィルムまたはシートを敷く、置く、または貼付する場所は、例えば、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、部屋、壁紙、ベッド、寝具、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(肌着や靴下)、靴中用シート、マスク、トイレ、空調機器、室内消臭機器、などが挙げられる。
【0083】
また、アルカリ性成分や硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素1を、フィルムまたはシートの外気にふれる部分に含有することで、より高い消臭効果を発揮すると共に、より正確な呈色反応を示すことが出来る。
【0084】
フィルムまたはシートが、積層フィルムまたは積層シートである場合、その層構成は、例えば、下記の通りとなる。
【0085】
シーラント層と表層に加え、中間層を設けても良いが、これに限定されず、他の層、例えば印刷層などを加えても良い。シーラント層を構成する樹脂材料としてはヒートシール性があれば特に限定されず、各種の熱可塑性樹脂を使用できるが、例えばポリオレフィン系樹脂であれば、具体的には、低密度ポリエチレン樹脂(LDPE)、中密度ポリエチレン樹脂(MDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂(LLDPE)、エチレン-酢酸ビニル共重合体(EVA)、エチレン-αオレフィン共重合体、エチレン-メタアクリル酸樹脂共重合体などのエチレン系樹脂、ポリエチレンとポリブテンのブレンド樹脂、ホモポリプロピレン樹脂(PP)、無延伸ポリプロピレン樹脂(CPP)、プロピレン-エチレンランダム共重合体、プロピレン-エチレンブロック共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体などのポリプロピレン系樹脂等を使用することができる。
【0086】
表層を構成する樹脂材料としては、十分な破断強度を持つものであれば特に限定されないが、例えばポリオレフィン樹脂(ポリエチレン、延伸ポリプロピレン、直鎖状ポリプロピレン等)、ポリエステル樹脂(ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート等)、ポリアミド樹脂(ナイロン等)などの合成樹脂などの公知のプラスチックフィルムから適宜選択して使用できる。なお、例えば、後述のおむつなど肌に触れる製品を構成する材料として使用する場合は、透湿性を有するものが好ましい。
【0087】
上記各層を接着して積層フィルムまたは積層シートとするには、例えば、公知のドライラミネート法、押出ラミネーション法などを適用することができる。
【0088】
上記積層フィルムまたは積層シートへの色素1の含有方法としては、前述の通り、色素
1を含むコート剤を基材層4にコートしたり、色素1を前記層中に分散または含侵させたりする方法をとることができる。
【0089】
また、本色素1の呈色反応性を調整する方法として、上記積層フィルムの層構成や厚みを変える方法以外に、呈色反応性を調整するための臭い吸着物質を併用することもできる。ここで「調整」とは、臭い吸着物質の使用量が多いほど、不快臭の吸着量が多くなるので、アルカリ性成分や硫黄性成分の濃度が低くなり、本願の色素1を含有したフィルムやシートに供給される不快臭の成分が減少し、においインジケータとしての呈色反応性を遅らせることができる、という意味での調整を指す。
【0090】
呈色反応性を調整することで、利便性が向上される。
【0091】
なお、臭い吸着物質との併用なく単体で用いることも可能であり、用途に応じて最適な方法を選択して構わない。
【0092】
本色素1を用いる際、想定するにおいの発生源以外からの刺激臭(例えば排泄物から発生するアンモニア臭や硫黄性成分による不快臭以外のアルカリ性成分や硫黄性成分による刺激臭)に反応することがあるが、その場合、呈色反応性を調整するための臭い吸着物質との併用が好ましい。
【0093】
また、場所や状況によっては、臭い吸着物質で不快臭成分を吸着しないと、すぐに本発明に係る色素1が反応してしまう。よって、そのような場合に、臭い吸着物質と併用することで、初期の色度を安定させることができる。すなわち、使用前、つまり、本発明に係るインジケータを使用する、介護を受ける者などに起因する不快臭を除去し、その除去により変色する前の呈色反応を抑制し、本来の目的を達成できる。
【0094】
また、例えば、消臭能力があるとはいえ、色素1を印刷等で形成した場合は、その有効成分の量はたかが知れており、消臭能力やインジケータ機能もその量に応じたものである。例えばストーマのような、長時間使用されるものなどでは、本色素1の印刷だけでは消臭能力やインジケータ機能が不十分である。この場合も、臭い吸着物質を効果的に併用することができる。この呈色反応性を調整できる臭い吸着物質としては、例えば、活性炭6が好ましく挙げられる。活性炭6は、大きさや量を変えやすく、呈色反応性の調整のために用いる上で取り扱い易い。
【0095】
本発明に係るインジケータを用いたフィルム100は、この活性炭6と併用してカートリッジ20に用いることもできる。図2は、図1に示すフィルム100の使用態様の一例を示した図である。図2のように、カートリッジ20の中の活性炭6上に本色素1を含侵したフィルム100を設置する態様をとることができる。
【0096】
活性炭6などと併用する場合、図2のように、活性炭6が設置されているカートリッジ本体5に本フィルム100などを取り付けることが効果的である。
【0097】
この図2において、呈色反応性の調整は、上記の他、例えば、カートリッジ本体5の構成材料の種類や厚みを変えることによっても可能である。色素1を含有した積層フィルムを取り付けた場合は、その層構成や厚みを変えることでも調整できる。
【0098】
このカートリッジ20の取り換え時期は、それを使用する環境によっても相違する。例えば、トイレなど、頻繁に悪臭が発生する場所で使用すれば寿命は短くなり、リビングなど通常は悪臭の発生しにくい場所で使用すれば寿命は長くなる。
【0099】
カートリッジ20の形状は、特に限定されず、長方形、円柱状などの形状の容器の形態であってよい。
【0100】
また、取り換え時期をできるだけ正確に表示できるように、未使用時は、カートリッジ20に、アルミニウム、あるいは、アルミ蒸着ポリエチレンテレフタレートフィルム(VMPET)などのガスバリア性の包装材料を用いて保管し、使用時に、その包装材料から取り出して使用することが好ましい。
【0101】
この活性炭6などの臭い吸着物質との併用の態様として、上記以外に、フィルム100中に活性炭6などの臭い吸着物質を配置する方法もある。例えば、活性炭6をフィルム100中にサンドインチ状に配置する工程で、その一部に色素分散層3を同時にサンドインチ状に配置するか、あるいは、予め活性炭6を配置した積層フィルムを作成した後次工程で、インジケータとなる色素分散層3を塗工などしてもよい。
【0102】
本発明に係るインジケータを用いたフィルムまたはシートの場合、消臭能力をもったフィルムまたはシートが即変色インジケータ機能も発揮するため、このフィルムまたはシートを必要な分だけ細断して使用するなどの用途に用いることもできる。さらに、フィルム面またはシート面に、絵、図柄、文字などを印刷して用いるとか、香料を含ませたフィルムやシートなどの芳香性材料と複合して芳香消臭フィルムや芳香消臭シートとするなどしてもよい。
【0103】
前記フィルムまたはシートを包装材料やラベルに用いることもできる。その包装材料やラベルについて、下記に説明する。
【0104】
(包装材料について)
この包装材料は、保存用や保管用の袋、容器、または箱などを含む。また、例えば、四方体の包装材料の全面に、本発明に係るインジケータを用いたフィルムやシートを使用してもよい。
【0105】
包装材料に収納する内容物は、不快臭が発生し得る、例えば、食品、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(室内着、肌着、靴下など)、靴中用シート、マスク、トイレなどである。
【0106】
また、包装材料全体として、水に早く溶けたり、生分解性があり、下水道に廃棄できたりするものが好ましい。
【0107】
(ラベルについて)
前記フィルム100を用いたラベル7の使用態様の一例を図3に示す。図3は、図1に示すフィルム100を用いたラベル7の使用態様の一例を示した図である。図3に示す通り、例えば、おむつ30の側面に貼る態様で使用される。
【0108】
図3に示すおむつ30の使用により、例えば介護を受けるおむつ30の着用者が、不快臭の発生有無をそのラベル7の変色状況により一目で判断できると共に、その着用者を介護する介護者も、着用者に不快臭の発生状況を口頭で伝える必要がなくなる。よって、双方にとって精神的負担が軽減され、安心・快適に過ごすことができる。
【0109】
このラベル7には、粘着剤部を設けることもできる。この場合、粘着剤部は、基部と剥離紙との間に形成され、剥離紙を剥がして対象物に貼り付けるためのものであり、ゴム系接着剤、アクリル系接着剤などの公知の接着剤を用いられるが、油溶性で粘度が高いもの
が好ましい。また、ラベル7の貼り替えを要する場合など、本願のラベル7を貼った対象物を複数回使用する場合は、対象物から剥がす際、接着剤が対象物に残らないように、低粘着性の接着剤であることが好ましい。
【0110】
上記の剥離紙は、ラベル7が使用されるまでの保管や流通時などの期間に、ラベル7が不要な物に粘着するのを防止するために粘着剤部に貼付される。剥離紙は、保管や流通等の期間に剥離しない程度の接着強度であり、使用時に剥離できる程度である。
【0111】
ラベル7は、不快臭成分が発生する、または発生すると予想される対象物、部分、場所に付す。具体的には、上記おむつ以外に、例えば、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、部屋、壁紙、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(肌着や靴下)、靴中用シート、マスク、トイレ、包装容器、空調機器、室内消臭機器、などが挙げられる。
【0112】
ラベルの形態とすることで、包装容器や種々の物品などに後から貼り付けることができる。よって、予め専用の包装材料を用意しなくとも、包装容器や種々の物品などにラベル7を貼り付けることで、アルカリ性成分による不快臭や硫黄性成分による不快臭が発生したことを感知することができる。
【0113】
ラベル7全体として、薄くすることで目立たずまたは邪魔にならず、軽く、強度があり、水に早く溶けたり、生分解性があり、下水道に廃棄できたりするものが好ましい。
【0114】
ラベル7を貼る場合、対象物や対象部分の基準色としては、不快臭などで呈色した部分と該基準色との差により消臭能力の変化が視認できるものであればよい。しかし、該基準色は、使用開始前のラベル7自体の色と同一または近い色、または、消臭性失効時のラベル7自体の色と同一または近い色とすることが好ましい。ラベル7の取り換え時を使用者が容易に識別できるためには、対象物や対象部分の基準色を、消臭性失効時のラベル7自体の色と同一または近い色とすることがより好ましい。
【0115】
(ゲル状固体について)
本発明に係るインジケータをゲル状固体に用いることもできる。この場合、アルカリ性成分や硫黄性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素1をゲル状固体に含有させる。このゲル状固体について、下記に説明する。
【0116】
本発明に係るインジケータとしてのゲル状固体は、ゲル化剤に消臭能力を持つ色素1を混在させたものである。このゲル化剤は、例えば、寒天、ゼラチン等の天然物、ポリビニルアルコール、ポリアクリルサンアミド等の合成物である。ゲル状固体とすることで、形状安定性が高く、表面積も広く取ることができる。ゲル状固体は、表面積が大きいほど消臭効果は大きくなるため、細かい粒度であるほど、消臭効果や消臭持続効果(芳香の機能も追加した時は芳香の効果も)の高い消臭物質となるのである。例えば、ビーズ状にした場合、乾燥するにつれて、水分が減っていきビーズは小さくなっていくが、色素1はビーズに留まるため、最後まで消臭効果は発揮され続ける。
【0117】
ゲル状固体の製造方法として、公知で好ましい方法を以下に記す。まず粉状物である色素、ゲル化剤を分散剤によって分散させる。これに水を加え加熱、攪拌することにより、均一な溶液になる。必要に応じてpH調整剤を添加することでより均一に分散できる。この溶液を容器に注ぎ、冷却することにより本発明に係るインジケータとしてのゲル状固体を得ることができる。ゲル化剤と色素を分散してゲル状固体を調整することで、ゲルが形成でき、ゲルの外観や消臭能力の点でも好ましい。
【0118】
また、ゲル状固体に色素を分散させた場合も、上記フィルムやシートに色素を含有した場合と同様の呈色反応性を発現する。
【0119】
ゲル状固体は、吸水力が飽和点を超えた時にポリマーが水またはジェル状に変質してしまい、表面にべとべとした被膜状のものに形成するため、肌に直接触れる物、例えば、おむつなどには使用することはできない。この場合、使用者に不快感を与えるだけでなく、製品の仕様にも支障をきたすおそれがある。よって、例えば、そのゲル状固体を器などに入れて、介護室や病室の中の机上に置くなどの仕様が適する。
【0120】
ゲル状固体全体として、水に早く溶けたり、生分解性があり、下水道に廃棄できたりするものが好ましい。
【0121】
(医療用品または介護用品について)
上記の、フィルム、シート、包装材料、ラベル、または、ゲル状固体を医療用品や介護用品に用いることができる。
【0122】
医療用品や介護用品としては、例えば、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(室内着、肌着、靴下など)、靴中用シート、マスク、トイレなどが挙げられる。なお、これらの使い捨て可能物にも使用可能である。
【0123】
本発明に係るインジケータを用いたフィルムまたはシートを医療用品や介護用品に用いる場合、そのフィルムまたはシートを原材料として、例えば、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(室内着、肌着、靴下など)、靴中用シート、マスクなど、不快臭が発生し得る物を製造するなどの態様がある。
【0124】
本発明に係るインジケータを用いた包装材料を医療用品や介護用品に用いる場合、例えば、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(室内着、肌着、靴下など)、靴中用シート、マスク、トイレなど、不快臭が発生し得る物を包装または保管する際に、その包装材料として使用するなどの態様がある。
【0125】
本発明に係るインジケータを用いたラベルを医療用品や介護用品に用いる場合、例えば、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(室内着、肌着、靴下など)、靴中用シート、マスク、トイレなどの表面またはこれらの包装容器の表面など、不快臭が発生し得る部位・場所・範囲内にそのラベルを貼り付けて使用するなどの態様がある。
【0126】
本発明に係るインジケータを用いたゲル状固体を医療用品や介護用品に用いる場合、例えば、おむつ、パッド、ストーマ、生理用ナプキン、シーツ、ベッド、寝具、車いす、タオル、ウェットティッシュ、医療衣、衣類(室内着、肌着、靴下など)、靴中用シート、マスクなどを保管する部屋や、病室、介護室、またはトイレなど、不快臭が発生し得る場所・範囲内に、器に入れたゲル状固体を置いて使用するなどの態様がある。
【0127】
上記のフィルムもしくはシート、またはこれらを用いたラベルを医療用品や介護用品に接合する場合、その接合方法として、対象物へのヒートシール、ホットメルト、接着、縫い付け、その他の接合方法を用いることができる。
【0128】
また、本発明は、色素を含有しているものであるため、医療用品本体や介護用品本体を
、本発明に係るインジケータとしてのフィルムなどにより構成することで、医療用品や介護用品との一体化も可能である。色素である性質を利用して、医療用品や介護用品に着色することによって製品に色どりを与えることも可能である。
【0129】
なお、介護用品全体または医療用品全体として、水に早く溶けたり、生分解性があり、下水道に廃棄できたりするものが好ましい。
【実施例
【0130】
不快臭を有するアルカリ性成分を用いた物の例としてアンモニア水溶液を用いた。また、不快臭を有するアルカリ性成分を吸収し、かつ、その吸収に応じて呈色する色素を含有するフィルムの例として、図1で示すフィルム100を用いた。具体的には、前記色素を含有する塗膜(色素分散層3)を構成する材料として、以下の色素と溶媒を用いた。色素1の例として、ブドウ果皮色素(そのものの粉末)またはウコン色素を、そのそれぞれの色素1を分散させる溶媒2として、水、エチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)を用いた。
【0131】
上記塗膜を塗工させる基材層4には、ポリエチレンテレフタレート(PET)、または、ポロプロピレン(PP)を用いた。ここでは、ポリエチレンテレフタレート(PET)として、フタムラ化学製のFE2001(フィルムの厚み16μm)を、ポロプロピレン(PP)として、東レフィルム加工製のZK500(フィルムの厚み30μm)を用いた。
【0132】
上記材料を用いた塗膜をグラビア方式で基材層4に塗工した。つまり、基材層4のポリエチレンテレフタレート(PET)に、水、エチレングリコール、ポリビニルアルコール(PVA)による溶媒2に色素を分散させた色素分散層3を積層した。その後、オーブン40℃で6時間乾燥した。
【0133】
上記の色素などの材料を用いた塗膜をグラビア方式で基材層4に塗工したフィルム100を用いて下記の呈色反応性試験を行った。(なお、色素の種類ごとの消臭能力や色彩の変化については、特許第5234468号の明細書の[実施例]記載中の「1.アンモニアガスによる消臭試験」、「2.硫化水素ガスによる消臭試験」を参照していただきたい。)
【0134】
1.色差の濃度と色差との関係を調べる試験
上記それぞれの色素を0.15wt%、0.5wt%、5.0wt%のそれぞれの濃度で分散させた塗膜に、0.5wt%のアンモニア水溶液を滴下した結果、図4のグラフや表1に示すような色差ΔEが確認できた。
【0135】
この図4のグラフや表1より、色素の濃度が高いほど色差ΔEが大きくなるため、不快臭の除去の度合いを示すインジケータとしての機能を発揮しやすいと言うことができる。
【0136】
【表1】
【0137】
2.アンモニアの濃度と色素の呈色反応時間との関係を調べる試験
上記の塗膜に滴下するアンモニア水溶液におけるアンモニアの濃度によって、塗膜上の色素(ブドウ果皮色素とウコン色素のそれぞれ)の色差ΔEが15になるまでの反応時間に差異が見られた。その結果は、図5のグラフと表2に示す通りである。(ブドウ果皮色素とウコン色素のそれぞれにおいて同じ結果となった。)なお、色差ΔEは、値が大きいほど色彩の変化が大きく、概ね色差ΔEが12以上であれば色彩の変化を確実に視認することができる。この表2より、アンモニアの濃度が高いほど色素の呈色反応時間が早いことが分かる。
【0138】
【表2】
【0139】
3.アンモニア臭の発生源からの距離と色素の呈色反応時間との関係を調べる試験
アンモニア臭の発生源からの距離によっても、塗膜上の色素(ブドウ果皮色素とウコン色素のそれぞれ)の色差ΔEが15になるまでの反応時間に差異が見られた。この試験では、図6に示すモデルを使用した。図6は、図1に示すフィルム100を用いて、アンモニア臭の発生源からの距離と色素の呈色反応時間の関係を調べるために行った試験のモデルの平面概略図である。
【0140】
具体的には、アンモニアの濃度が0.1wt%のアンモニア水溶液を含侵した脱脂綿8を、ポリプロピレン(PP)からなる縦20mm、横30mmのチャック袋9に入れて封をした後、その脱脂綿8を入れたチャック袋9を、ポリプロピレン(PP)からなる縦0.5m、横0.5mの平パウチ袋40の中に設置した。この平パウチ袋40を構成する樹脂中、または、平パウチ袋40表面のコーティング層中に上記色素を分散させた。
【0141】
図6に示すA、B、Cの各場所に色素を含有したフィルム100を置いた結果、色素の色差ΔEが15になるまでの反応時間は、表3に示す通りとなった。(ブドウ果皮色素とウコン色素のそれぞれにおいて同じ結果となった。)表3のとおり、場所Aでは、数分後に、場所Bでは、約30分後に、場所Cでは、約1時間後に、色素の色差ΔEが15に変色した。この表3より、本発明に係るインジケータとしてのフィルム100を置く場所がアンモニア臭の発生源から近いほど、そのフィルムに含有した色素の呈色反応時間が早いということが分かる。
【0142】
【表3】
【0143】
4.活性炭の併用有無、アンモニア臭の発生源からの距離、および呈色反応時間との関係を調べる試験
この試験では、図3に示すカートリッジ20を用いた。具体的には、縦10mm、横30mmの大きさのカートリッジ20の中の活性炭6上に、上記色素(ブドウ果皮色素とウコン色素のそれぞれ)を含侵したフィルム100を設置した。この試験で用いたモデルは、図6で示すモデルと、フィルム100の代わりにフィルム100と活性炭6を入れたカートリッジ20を使用した以外は同じである。その結果、表4に示す通り、活性炭6ありの場合は、活性炭6なしの場合と比較して、色素の色差ΔEが15になるまでの反応時間に差が見られた。(ブドウ果皮色素とウコン色素のそれぞれにおいて同じ結果となった。)
【0144】
【表4】
【0145】
表4に示す通り、活性炭6なしの場合は、場所Aでは、数分後に、場所Bでは、約30分後に、場所Cでは、約1時間後に、色差ΔEが15に変色した。一方、活性炭6ありの場合は、場所Aでは、約1時間後に、場所Bでは、約2時間後に、場所Cでは、約5時間後に、色差の色差ΔEが15に変色した。
【0146】
以上より、活性炭6と併せて使った場合、色素の呈色反応時間が遅いことが確認できた。また、初期の色度も安定している、すなわち、使用前の呈色反応を抑制できることが確認できた。
【0147】
また、図2で示すカートリッジ20において、バリア性のある包装材料(凸版印刷製のGLフィルム(登録商標))内で保存した場合、1年後も使用前の色変化は発生していなかった。色差計で測定した結果、その色素の色差ΔEは、0.5~2.0であり、ほとんど変化していないことを確認できた。
【0148】
上記試験1から4の結果は、官能評価の結果とも一致していた。アンモニアの濃度が0.1wt%のアンモニア水溶液は、人が不快と感じるにおいであり、人間の排泄物から発生する不快臭を代替できるにおいとして設定している。よって、アンモニアの濃度が0.5wt%のアンモニア水溶液を用いた前記各試験結果は、同様の不快臭が発生する可能性として、例えば、おむつを使用している成人から排泄物に臭いが漏れている場合の代替変数として使用することができる。
【0149】
以上の通り、本発明により、特に医療や介護の現場で発生しやすいアルカリ性成分や硫黄性成分による不快臭に対する消臭能力とその消臭により呈色するインジケータ機能を発揮する。よって、本発明に係る医療用品や介護用品などを使用する患者や介護を受ける者、または医療従事者や介護者が、正確に、早期に、かつ容易に不快臭の発生状況を確認できる。そのため、患者と医療従事者、または、介護を受ける者と介護者の双方にとって精神的負担が軽減され、双方が安心かつ快適に過ごすことができる。
【0150】
なお、本発明の効果を妨げない範囲で、例えば、他の着香剤、殺菌抗菌剤、植物エキス、精油などの各種成分を配合することもできる。
【符号の説明】
【0151】
100・・・フィルム
20・・・カートリッジ
30・・・おむつ
40・・・平パウチ袋
1・・・色素
2・・・溶媒
3・・・色素分散層
4・・・基材層
5・・・カートリッジ本体
6・・・活性炭
7・・・ラベル
8・・・脱脂綿
9・・・チャック袋
図1
図2
図3
図4
図5
図6