(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
B41J 2/165 20060101AFI20240214BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B41J2/165 101
B41J2/165 205
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2019199722
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000002369
【氏名又は名称】セイコーエプソン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100179475
【氏名又は名称】仲井 智至
(74)【代理人】
【識別番号】100216253
【氏名又は名称】松岡 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100225901
【氏名又は名称】今村 真之
(72)【発明者】
【氏名】地舘 公介
【審査官】亀田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-065372(JP,A)
【文献】特開平11-268299(JP,A)
【文献】特開2011-063725(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0152390(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水系インク組成物と、前記水系インク組成物を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記ノズルを保護するキャップ部材と、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記水系インク組成物は、40mN/m以下の表面張力を有し、
前記水系インク組成物は、100℃以上の融点を有するワックスを含有し、
前記キャップ部材は、前記ノズルとの接触面に、シリコーン系消泡剤を含む塗膜を有する、
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記水系インク組成物を付着させる記録媒体が、布帛である、請求項1に記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記水系インク組成物が、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、又はフッ素系界面活性剤を含有する、請求項1又は2に記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記水系インク組成物が、20~25(cal/cm
3)
1/2のSP値を有する有機溶剤を含有する、請求項1~3のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記キャップ部材中で、前記ノズル側から加圧する加圧クリーニングをする機構を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項6】
前記キャップ部材の開口形状が、2.0倍以上の長軸/短軸比率を有し、且つ、3.0~4.0cm
2の開口面積を有する、請求項1~5のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項7】
前記水系インク組成物が、顔料及び樹脂粒子の少なくとも一方を含有する、請求項1~6のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項8】
前記水系インク組成物が、ノニオン性分散剤を含有する、請求項1~7のいずれか1項に記載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方法は、微細なノズルからインク組成物の小滴を吐出して、記録媒体に付着させて記録を行う方法である。この方法は、比較的安価な装置で高解像度かつ高品位な画像を、高速で記録できるという特徴を有する。また、インクジェット記録方法を用いて、布帛等を染色(捺染)することも行われている。従来、布帛(織布や不織布)に対する捺染方法としては、スクリーン捺染法、ローラー捺染法等が用いられてきたが、多種少量生産性、及び即時プリント性等の観点から、インクジェット記録方法を適用することが有利であるため種々検討されている。これらの検討の中で、インクジェット記録方法に用いるインク組成物として、耐擦性を向上させるため、インク組成物に、ワックスを含有させることが知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
インクジェット記録装置を商業用印刷に用いる場合、ノズルの詰りを防止する目的で、ノズルを保護するキャップ部材が使用されることがある。その場合、キャップ部材内で気泡が発生すると、当該気泡がノズルプレートに付着して、吐出不具合が発生し、ノズル抜けが観察されることがある。特に、記録物の発色性を向上させるため、インク組成物の表面張力を低下させると、ノズルキャップの開閉時及びクリーニング等による吸引時に気泡が発生しやすくなることが見出された。つまり、キャップ部材を備えるインクジェット記録装置では、記録物の優れた発色性を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制するという点で課題を有している。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、100℃以上の融点を有するワックスを含有する水系インク組成物を用い、キャップ部材のノズルとの接触面にシリコーン系消泡剤を含む塗膜を形成することで、記録物の優れた発色性を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制することができることを見出した。
【0006】
本発明の一実施形態は、水系インク組成物と、前記水系インク組成物を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、前記ノズルを保護するキャップ部材と、を備えるインクジェット記録装置であって、
前記水系インク組成物は、40mN/m以下の表面張力を有し、
前記水系インク組成物は、100℃以上の融点を有するワックスを含有し、
前記キャップ部材は、前記ノズルとの接触面に、シリコーン系消泡剤を含む塗膜を有する、
インクジェット記録装置に関する。
【0007】
当該水系インク組成物を付着させる当該記録媒体は、好ましくは布帛である。当該水系インク組成物は、好ましくは、アセチレン系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、又はフッ素系界面活性剤を含有する。当該水系インク組成物は、好ましくは、22~25(cal/cm3)1/2のSP値を有する有機溶剤を含有する。当該インクジェット記録装置は、当該キャップ部材中で、好ましくは、ノズル側から加圧する加圧クリーニングをする機構を有する。当該キャップ部材の開口形状が、2.0倍以上の長軸/短軸比率を有し、且つ、3.0~4.0cm2の開口面積を有することが好ましい。当該水系インク組成物が、好ましくは、顔料及び樹脂粒子の少なくとも一方を含有する。当該水系インク組成物は、好ましくはノニオン性分散剤を含有する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の製膜プロセスで使用された装置の概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、必要に応じて図面を参照しつつ、本発明の実施の形態(以下、「本実施形態」という。)について詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で様々な変形が可能である。なお、図面中、同一要素には同一符号を付すこととし、重複する説明は省略する。また、上下左右などの位置関係は、特に断らない限り、図面に示す位置関係に基づくものとする。さらに、図面の寸法比率は図示の比率に限られるものではない。
【0010】
-インクジェット記録装置-
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、水系インク組成物(以下、単に「インク組成物」ともいう。)と、当該インク組成物を吐出するノズルを有する液体噴射ヘッドと、当該ノズルを保護するキャップ部材と、を備える。本実施形態に係るインクジェット記録装置におけるインク組成物は、40mN/m以下の表面張力を有し、且つ、100℃以上の融点を有するワックスを含有する。さらに、当該キャップ部材は、当該ノズルとの接触面に、シリコーン系消泡剤を含む塗膜を有する。
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、以上の構成を有することで、記録物の優れた発色性を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制することができる。
【0011】
インク組成物の表面張力を40mN/m以下とすることで、記録物の発色性を向上させることができるが、キャップ部材の使用により内部で発泡が生じ、ノズル抜けが発生しやすくなる。これに対して、インク組成物に100℃以上の融点を有するワックスを含有させること、及びキャップ部材のノズルとの接触面にシリコーン系消泡剤を含む塗膜を形成することで、ノズル抜けを抑制することができることが見出された。なお、従来、ワックスは、耐擦性を向上させることが知られていたものの、このように発泡を抑制する効果があることは知られていなかった。
【0012】
本実施形態に係るインクジェット記録方法により上述の効果が得られる理由は定かではないが、以下のとおりに考えられる。ただし以下の理由に限定されない。通常、キャップ部材のシリコーン系消泡剤が剥がれてインク中の溶剤に溶け込んで均一化してしまうと消泡効果が失われる。しかしながら、インク組成物にワックスが含有されていることで、キャップ部材のシリコーン系消泡剤が剥がれ難くなっていると推定される。これは、ワックスは、シリコーン系消泡剤との親和性が高いが、他方でインク組成物中の水との親和性は低いため、キャップ上のシリコーン系消泡剤を含む塗膜の表面にワックスが局在していると考えられる。このようにワックスが局在することで、インク組成物中へのシリコーン系消泡剤の溶出を妨げる役割を有するものと考えられる。加えて、100℃以上の融点を有するワックスを含有することで、当該ワックスが、インク組成物中に溶解し難く、分散状態(固体状態)で存在する。シリコーン系消泡剤はワックスと親和性が高く、ワックスとともに局在していると推定される。そのため、たとえ、インク組成物中にワックスが溶解したとしても、破泡点として維持され、消泡効果が維持されるものと考えられる。
【0013】
以下、本実施形態に係るインクジェット記録装置について、インクカートリッジがキャリッジに搭載されたオンキャリッジタイプのプリンターを例に挙げて説明するが、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、オンキャリッジタイプのプリンターであることに限定されるものではなく、インクカートリッジがキャリッジに搭載されないで外部に固定された、オフキャリッジタイプのプリンターであってもよい。
【0014】
また、以下の説明に用いるプリンターは、所定の方向に移動するキャリッジに液体噴射ヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴って液体噴射ヘッドが移動することにより記録媒体上に液滴を吐出するシリアルプリンターであるが、本実施形態に係るインクジェット記録装置はシリアルプリンターに限定されるものではなく、液体噴射ヘッドが記録媒体の幅よりも広く形成され、液体噴射ヘッドが移動せずに記録媒体上に液滴を吐出するラインプリンターであってもよい。
【0015】
図1は、本実施形態に係るインクジェット記録装置の概略構成図である。インクジェット記録装置としては、例えば、
図1に示すインクジェットヘッドを搭載したインクジェット式プリンター(以下、プリンター)が挙げられる。
図1に示すように、プリンター1は、記録媒体2の表面に対してインク組成物を噴射して画像等の記録を行う装置である。このプリンター1は、インクジェットヘッド3、インクジェットヘッド3が取り付けられるキャリッジ4、キャリッジ4を主走査方向(プリンター1の長手方向、すなわち、記録媒体2の幅方向。)に移動させるキャリッジ移動機構5、記録媒体2を副走査方向(主走査方向に直交する方向。)に移送する搬送機構6等を備えている。
【0016】
ここで、インクジェット記録装置で用いる処理液及びインク組成物は、インクカートリッジ7に貯留されている。このインクカートリッジ7は、インクジェットヘッド3に対して着脱可能に装着される。なお、インクカートリッジ7がプリンター1の本体側に配置され、当該インクカートリッジ7からインク供給チューブを通じてインクジェットヘッド3に供給される構成を採用することもできる。
【0017】
上記のキャリッジ移動機構5はタイミングベルト8を備えている。そして、このタイミングベルト8はDCモーター等のパルスモーター9により駆動される。従って、パルスモーター9が作動すると、キャリッジ4は、プリンター1に架設されたガイドロッド10に案内されて、主走査方向を往復移動する。
【0018】
記録動作時のインクジェットヘッド3の下方には、プラテン11が配置されている。プラテン11は、記録動作を行う際のインクジェットヘッド3のノズル形成面(ノズルプレート;図示せず)に対向するように間隔を空けて配置され、記録媒体2を支持する。また、プラテン11の主走査方向の端部、詳しくは、プラテン11に配置された記録媒体2に対してインクが噴射される領域(記録領域)から外れた領域にフラッシングボックス12が設けられている。フラッシングボックス12は、例えば、浸透液やインクの予備吐出において、インクジェットヘッド3から噴射された浸透液やインクを捕集する部材である。本実施形態において、フラッシングボックス12は、上方(インクジェットヘッド3側)に向けて開口した箱体状に形成されている。そして、フラッシングボックス12の内部の底面には、例えば、ウレタンスポンジ等で作製された吸収材(図示せず)が配設されている。なお、このフラッシングボックス12は、プラテン11の主走査方向両側に設けることが望ましいが、少なくとも一方に設けられていればよい。
【0019】
インクジェットヘッド3は、記録媒体2に浸透液やインクを付着させる手段であり、浸透液やインクを吐出するノズル(図示せず)を備える。浸透液やインクをノズルから吐出させる方式としては、例えば、ノズルとノズルの前方に置いた加速電極の間に強電界を印加し、ノズルから液滴状の浸透液やインクを連続的に吐出させ、反応液の液滴が偏向電極間を飛翔する間に記録情報信号に対応して吐出させる方式(静電吸引方式);小型ポンプで反応液に圧力を加え、ノズルを水晶振動子等で機械的に振動させることにより、強制的に浸透液や油性インクの液滴を吐出させる方式;浸透液やインクに圧電素子で圧力と記録情報信号を同時に加え、浸透液やインクの液滴を吐出・記録させる方式(ピエゾ方式);浸透液やインクを記録情報信号にしたがって微小電極で加熱発泡させ、浸透液やインクの液滴を吐出・記録させる方式(サーマルジェット方式)等が挙げられる。
【0020】
インクジェットヘッド3としては、ライン式インクジェットヘッド、シリアル式インクジェットヘッドのいずれも使用可能であるが、本実施形態ではシリアル式インクジェットヘッドを用いている。
【0021】
ここで、シリアル式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置とは、インクジェットヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させつつインクを吐出させる走査(パス)を、複数回行うことによって記録を行うものである。シリアル式インクジェットヘッドとしては、例えば、記録媒体の幅方向(記録媒体の搬送方向に交差する方向)に移動するキャリッジにインクジェットヘッドが搭載されており、キャリッジの移動に伴ってインクジェットヘッドが移動することにより記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0022】
一方、ライン式インクジェットヘッドを備えたインクジェット記録装置は、インクジェットヘッドを記録媒体に対して相対的に移動させつつインク組成物を吐出させる走査(パス)を1回行うことにより記録を行うものである。ライン式インクジェットヘッドとしては、インクジェットヘッドが記録媒体の幅よりも広く形成され、インクジェットヘッドが移動せずに記録媒体上に液滴を吐出するものが挙げられる。
【0023】
なお、図示していないが、インクジェット記録装置には、乾燥機構を設けてもよい。乾燥機構を設けることにより、記録媒体に付着させた処理液やインク組成物から液状媒体を速やかに蒸発飛散させて、記録画像等を速やかに形成することができる。乾燥機構は、処理液やインク組成物に含まれる液状媒体の蒸発飛散を促進させる構成を備えていれば、特に制限されない。例えば、記録媒体に熱を加える加熱機構、処理液やインク組成物に風を吹き付ける送風機構、さらにそれらを組み合わせた機構が挙げられる。乾燥機構としては、例えば、強制空気加熱装置、輻射加熱装置、電導加熱装置、高周波乾燥装置、マイクロ波乾燥装置が挙げられる。
【0024】
乾燥機構による乾燥は、加熱を伴う乾燥であることが好ましく、インクジェット記録装置が、加熱された記録媒体へ吐出を行うことで記録を行うものであることが好ましい。加熱方法は、特に限定されるものではないが、例えばヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられ、記録媒体の加熱機構としては、例えば赤外線(ランプ)が挙げられる。この場合、加熱された記録媒体の温度は、30℃以上50℃以下であることが好ましく、30℃以上40℃以下であることがより好ましい。この場合には、記録工程におけるインク組成物の乾燥を促進することができる。
【0025】
――キャップ部材――
本実施形態に係るインクジェット記録装置は、ノズルを保護するキャップ部材を有する。
図2は、本実施形態に係るキャップ部材の概略構成図である。キャップ部材としては、例えば、
図2に示すキャップ部材20が挙げられる。キャップ部材20は、装着時にノズル列の周りを囲んで接触する開口部21と、ノズルへの装着時にノズルと接触しない底面部23とを備える。キャップ部材20の材料は、特に限定されないが、例えば、ゴム等のエラストマー材料である。
【0026】
キャップ部材の開口形状について、長軸L/短軸S比率は、好ましくは2.0倍以上であり、より好ましくは4.0倍以上であり、さらに好ましくは6.0倍以上である。当該範囲の長軸L/短軸S比率の開口形状を有するキャップ部材を用いると、キャップ部材内での発泡が生じやすく、ノズル抜けが生じやすくなるが、本実施形態に係るインクジェット記録装置によれば、ノズル抜けを抑制することができる。長軸L/短軸S比率は、その上限値は特に限定されないが、例えば、10.0倍以下であってもよい。
【0027】
キャップ部材の開口形状について、開口面積は、好ましくは3.0~4.0cm2であり、より好ましくは3.2~3.8cm2であり、さらに好ましくは3.4~3.6cm2である。当該範囲の開口面積を有するキャップ部材を用いると、キャップ部材内での発泡が生じやすく、ノズル抜けが生じやすくなるが、本実施形態に係るインクジェット記録装置によれば、ノズル抜けを抑制することができる。
【0028】
キャップ部材は、ノズルとの接触面に、シリコーン系消泡剤を含む塗膜を有する。
図2に示すように、キャップ部材20の開口部21には、シリコーン系消泡剤が塗布されている。
【0029】
――シリコーン系消泡剤――
キャップ部材が、シリコーン系消泡剤を含む塗膜を有することで、キャップ部材内での発泡を抑制し、ノズル抜けの発生が抑制される。シリコーン系消泡剤としては、特に限定されないが、例えば、シリコーン系界面活性剤が挙げられる。
【0030】
シリコーン系界面活性剤の市販品としては、例えば、3次元シロキサン「FOAM BAM(登録商標)MS-575」(製品名、Munzing社製)、KM-71、KM-75(以上製品名、信越化学工業株式会社製)、BYK-093、BYK-094(以上製品名、BYK社製)が挙げられる。
【0031】
なお、図示していないが、インクジェット記録装置は、クリーニング機構を備えることが好ましい。クリーニング機構は、ノズル側から吸引する吸引クリーニングする機構であってもよいし、ノズル側から加圧する加圧クリーニングする機構であってもよい。キャップ部材内での発泡を抑制して、ノズル抜けを抑制する観点からは、吸引クリーニングする機構が好ましい。しかしながら、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、加圧クリーニングする機構であっても、キャップ部材内での発泡を抑制してノズル抜けを抑制することができる。
【0032】
ここで、本実施形態のインクジェット記録装置は、以下に説明するインク組成物を用いてインクジェット記録方法を行う。
【0033】
-インク組成物-
インク組成物は、水系インク組成物である。水系インク組成物とは、溶剤として水を含むインク組成物を意味する。
【0034】
――表面張力――
インク組成物は、40mN/m以下の表面張力を有する。40mN/m以下の表面張力を有することで、優れた発色性を示す記録物が得られる。これは、表面張力が40mN/m以下であることで、記録媒体に対して濡れ広がりやすくなるためである。インク組成物の表面張力は、好ましくは10mN/m以上であり、より好ましくは20mN/m以上であり、さらに好ましくは25mN/m以上であり、よりさらに好ましくは30mN/m以上である。インク組成物の表面張力が、当該下限値以上であることで、耐滲み性を向上させることができる。
【0035】
インク組成物の表面張力は、25℃にて、ウィルヘルミー法で表面張力計により測定することができる。表面張力計としては、例えば、協和界面科学社製「CBVP-7」等を用いることができる。
【0036】
――ワックス――
インク組成物は、100℃以上の融点を有するワックスを含有する。当該ワックスを含有することで、キャップ部材に含まれるシリコーン系消泡剤の消泡能をより長期間持続することができ、ノズルの抜けを抑制することができる。
【0037】
ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、炭化水素ワックス、及び脂肪酸と1価アルコール又は多価アルコールとの縮合物であるエステルワックスが挙げられる。炭化水素ワックスとしては、特に限定されないが、例えば、パラフィンワックス、及びポリオレフィンワックスが挙げられる。これらのワックスは1種類を単独で用いてもよいし、2種以上を組合せて用いてもよい。これらのワックスの中でも、耐擦性を向上させる観点から、炭化水素ワックスであることが好ましく、ポリオレフィンワックスであることがより好ましい。
【0038】
パラフィンワックスの市販品としては、例えば、AQUACER497、及びAQUACER539(以上製品名、BYK社製)が挙げられる。
【0039】
ポリオレフィンワックスの市販品としては、例えば、ケミパール S120、S650、S75N(製品名、三井化学株式会社製)、AQUACER501、AQUACER506、AQUACER513、AQUACER515、AQUACER526、AQUACER593、及びAQUACER582(製品名、BYK社製)が挙げられる。
【0040】
ワックスの融点は、好ましくは106℃以上であり、より好ましくは110℃以上であり、さらに好ましくは130℃以上である。ワックスの融点が当該上限値以下であることで、ノズル抜け抑制の効果をより顕著にすることができる。ワックスの融点は、好ましくは200℃以下であり、より好ましくは180℃以下であり、さらに好ましくは150℃以下である。ワックスの融点が当該下限値以上であることで、記録物の耐擦性を向上させることができる。
【0041】
ワックスは、例えば、ワックスを水中に分散させた水系エマルション中に含まれるワックス粒子として添加することが好ましい。ワックス粒子は、例えば、分散のため界面活性剤を含有していてもよい。
【0042】
ワックス粒子の平均粒子径は、好ましくは30nm以上500nm以下であり、より好ましくは35nm以上300nm以下であり、さらに好ましくは40nm以上120nm以下である。平均粒子径は、特に明示がない限り体積基準のものである。測定方法としては、例えば、レーザー回折散乱法を測定原理とする粒度分布測定装置により測定することができる。粒度分布測定装置としては、例えば、動的光散乱法を測定原理とする粒度分布計(例えば、日機装株式会社社製のマイクロトラックUPA)が挙げられる。
【0043】
ワックスの含有量は、インク組成物の総質量に対して、好ましくは0.5質量%以上4.0質量%以下であり、より好ましくは0.5質量%以上3.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.5質量%以上2.0質量%以下である。ワックスの含有量が上記範囲内にあることにより、キャップ部材に含まれるシリコーン系消泡剤の消泡能をより長期間持続することができ、ノズルの抜けを抑制することができる。
【0044】
――色材――
本実施形態に使用するインク組成物は、好ましくは色材を含有する。色材は、顔料であっても、染料であってもよい。
【0045】
顔料は、有機顔料であっても、無機顔料であってもよい。有機顔料としては、特に限定されないが、例えば、アゾレーキ顔料、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料、フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、イソインドリン顔料、キノフタロン顔料、ジケトピロロピロール顔料等の多環式顔料、塩基性染料型レーキ、酸性染料型レーキ等の染料レーキ顔料、ニトロ顔料、ニトロソ顔料、アニリンブラック、昼光蛍光顔料が挙げられる。無機顔料としては、特に限定されないが、例えば、二酸化チタン、酸化亜鉛、酸化クロム等の金属酸化物顔料、カーボンブラックが挙げられる。
【0046】
顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.(Colour Index Generic Name)ピグメントイエロー1、3、12、13、14、17、24、34、35、37、42、53、55、74、81、83、95、97、98、100、101、104、108、109、110、117、120、138、153、155、180、C.I.ピグメントレッド1、2、3、5、17、22、23、31、38、48:2(パーマネントレッド2B(Ba))、48:2(パーマネントレッド2B(Ca))、48:3、48:4、49:1、52:2、53:1、57:1、60:1、63:1、63:2、64:1、81、83、88、101、104、105、106、108、112、114、122、123、146、149、166、168、170、172、177、178、179、185、190、193、209、219、C.I.ピグメントバイオレット19、23、C.I.ピグメントブルー1、2、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17:1、56、60、63、C.I.ピグメントグリーン1、4、7、8、10、17、18、36が挙げられる。
【0047】
黒色用の顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントブラック1、7(カーボンブラック)、11が挙げられる。白色用の顔料としては、特に限定されないが、例えば、C.I.ピグメントホワイト1、4、5、6(二酸化チタン)、6:1、7、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28が挙げられる。
【0048】
これらの着色用の顔料の他に、パール顔料、メタリック顔料等の光輝顔料を用いてもよい。
【0049】
インク組成物中での顔料の分散性を高めるために、顔料に表面処理を施してもよい。顔料の表面処理とは、物理的処理又は化学的処理によって、顔料の粒子表面に、インク組成物の媒体と親和性を有する官能基を導入する方法である。例えば、後述の水系インク組成物に用いる場合は、カルボキシ基、スルホ基等の親水性基を導入することが好ましい。なお、これらの顔料は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0050】
染料としては、特に限定されないが、例えば、酸性染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散剤(界面活性剤)を併用する分散染料、反応性染料が挙げられる。これらの染料としては、公知のものが採用可能である。
【0051】
インク組成物が色材を含む場合、色材の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.1質量%以上であり、より好ましくは0.5質量%以上であり、さらに好ましくは1.0質量%以上であり、よりさらに好ましくは1.5質量%以上である。顔料の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは30.0質量%以下であり、より好ましくは20.0質量%以下であり、さらに好ましくは15.0質量%以下であり、よりさらに好ましくは10.0質量%以下である。
【0052】
――分散剤――
インク組成物は、顔料を分散する観点から、好ましくは分散剤を含有する。分散剤は、ノニオン性分散剤であっても、アニオン性分散剤であってもよい。ノニオン性分散剤としては、ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテルが挙げられる。ノニオン性分散剤が含まれると、インク組成物中にシリコーン系消泡剤が溶解しやすくなるため、発砲に起因するノズル抜けが発生しやすくなるが、本実施形態に係るインクジェット記録装置では、インク組成物中にノニオン性分散剤が含まれる場合であっても、ノズル抜けを抑制することができる。
【0053】
分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、好ましくは5質量部以上であり、より好ましくは10質量部以上であり、さらに好ましくは20質量部以上である。分散剤の含有量は、顔料100質量部に対して、好ましくは80質量部以下であり、より好ましくは60質量部以下であり、さらに好ましくは35質量部以下である。
【0054】
本実施形態のインク組成物は、好ましくは界面活性剤を含有する。界面活性剤は、インク組成物の表面張力を低下させて、記録媒体に対する濡れ性を向上させる機能を有している。界面活性剤としては、特限定されないが、例えば、アセチレングリコール系界面活性剤、シリコーン系界面活性剤、フッ素系界面活性剤が挙げられる。
【0055】
アセチレングリコール系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、サーフィノール104、104E、104H、104A、104BC、104DPM、104PA、104PG-50、104S、420、440、465、485、SE、SE-F、504、61、DF37、CT111、CT121、CT131、CT136、TG、GA、DF110D(以上製品名、Air Products and Chemicals, Inc.社製)、オルフィンB、Y、P、A、STG、SPC、E1004、E1010、PD-001、PD-002W、PD-003、PD-004、EXP.4001、EXP.4036、EXP.4051、AF-103、AF-104、AK-02、SK-14、AE-3(以上製品名、日信化学工業株式会社製)、アセチレノールE00、E00P、E40、E100(以上製品名、川研ファインケミカル株式会社製)が挙げられる。
【0056】
シリコーン系界面活性剤としては、特に限定されないが、例えば、ポリエーテル変性オルガノシロキサン等のポリシロキサン系化合物が挙げられる。ポリエーテル変性オルガノシロキサンの市販品としては、例えば、BYK-306、BYK-307、BYK-333、BYK-341、BYK-345、BYK-346、BYK-348(以上製品名、BYK社製)、KF-351A、KF-352A、KF-353、KF-354L、KF-355A、KF-615A、KF-945、KF-640、KF-642、KF-643、KF-6020、X-22-4515、KF-6011、KF-6012、KF-6015、KF-6017(以上製品名、信越化学工業株式会社製)が挙げられる。
【0057】
フッ素系界面活性剤としては、フッ素変性ポリマーを用いることが好ましい。例えば、BYK-340(以上製品名、BYK社製)が挙げられる。
【0058】
界面活性剤の含有量は、インク組成物の表面張力に応じて適宜変更可能であるが、インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.2質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましく、0.3質量%以上3.0質量%以下であることがより好ましい。
【0059】
――水――
インク組成物に含まれる水としては、特に限定されないが、例えば、イオン交換水、限外ろ過水、逆浸透水、蒸留水等の純水、又は、超純水のようなイオン性不純物を極力除去したものが用いられる。また、紫外線照射や過酸化水素の添加などによって滅菌した水を使用すると、インク組成物を長期間保存する場合に、かびやバクテリアの発生を抑制することができる。水の含有量は、特に限定されないが、インク組成物の全質量に対して、例えば、好ましくは45質量%以上であり、より好ましくは50質量%以上95質量%以下であり、さらに好ましくは55質量%以上90質量%以下である。
【0060】
――有機溶剤――
インク組成物は、溶媒として有機溶剤を含有していてもよい。有機溶剤を含有することにより、粘度、表面張力等のインクジェットインクの物性や、記録媒体に塗布した際の乾燥、浸透等の挙動を制御することができる。
【0061】
有機溶剤としては、特に限定されないが、例えば、1,2-アルカンジオール類、多価アルコール類、2-ピロリドン類、グリコールエーテル類が挙げられる。
【0062】
1,2-アルカンジオール類としては、特に限定されないが、例えば、1,2-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,2-ペンタンジオール、1,2-ヘキサンジオール、1,2-オクタンジオールが挙げられる。1,2-アルカンジオール類は、記録媒体に対するインクの濡れ性を高めて、均一に濡らす作用に優れている。そのため、滲みを抑えた画像などを形成することができる。
【0063】
インク組成物が1,2-アルカンジオール類を含有する場合、1,2-アルカンジオールの含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは1.0質量%以上20.0質量%以下であり、より好ましくは1.5質量%以上10.0質量%以下であり、さらに好ましくは2.0質量%以上5.0質量%以下である。
【0064】
ここで、単に「多価アルコール類」とは、1,2-アルカンジオール類以外の多価アルコール類を意味する。多価アルコール類としては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,3-ブタンジオール、1,3-ペンタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,3-ブタンジオール、3-メチル-1,3-ブタンジオール、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、2-メチル-1,3-プロパンジオール、2,2-ジメチル-1,3-プロパンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、トリメチロールプロパン、グリセリンが挙げられる。多価アルコール類をインクジェットインクに添加することよって、噴射ヘッドの吐出ノズル内におけるインク組成物の乾燥固化を抑制して、吐出ノズルの目詰まりや吐出不良などを低減することができる。
【0065】
インク組成物が多価アルコール類を含有する場合、多価アルコール類の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは2.0質量%以上20.0質量%以下であり、より好ましくは5.0質量%以上15.0質量%以下である。
【0066】
2-ピロリドン類は、2―ピロリドン骨格を有する化合物である。2-ピロリドン類としては、置換基を有していない2-ピロリドンの他に、特に限定されないが、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、N-ビニル-2-ピロリドン等の置換基を有する2-ピロリドンが用いられる。2―ピロリドン骨格における置換基としては、例えば、炭素数1以上5以下の飽和又は不飽和の炭化水素基等の有機基が挙げられる。
【0067】
インク組成物が2-ピロリドン類を含有する場合、2-ピロリドン類の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.5質量%以上10.0質量%以下であり、より好ましくは1.0質量%以上8.0質量%以下である。
【0068】
グリコールエーテル類としては、特に限定されないが、例えば、アルキレングリコールモノエーテル、アルキレングリコールジエーテルが挙げられる。グリコールエーテル類をインクジェットインクに添加することよって、記録媒体に対する濡れ性や浸透速度を調整できるため、画像や模様などを鮮明に形成することができる。
【0069】
アルキレングリコールモノエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、テトラエチレングリコールモノメチルエーテル、テトラエチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルが挙げられる。
【0070】
アルキレングリコールジエーテルとしては、特に限定されないが、例えば、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールブチルメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジブチルエーテル、トリエチレングリコールブチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジエチルエーテル、テトラエチレングリコールジブチルエーテル、プロピレングリコールジメチルエーテル、プロピレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテルが挙げられる。
【0071】
インク組成物がグリコールエーテル類を含有する場合、グリコールエーテル類の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.05質量%以上、6質量%以下であることが好ましい。
【0072】
以上、これらの有機溶剤は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0073】
インク組成物は、20~25(cal/cm3)1/2のSP値を有する有機溶剤を含有することが好ましく、22~25(cal/cm3)1/2のSP値を有する有機溶剤を含有することがより好ましい。所定範囲のSP値を有する有機溶剤を含有することで、記録物の耐滲み性を向上させることができる。また、発色性の観点でインク組成物の表面張力を良好なものとしやすい。
【0074】
SP値とは、溶解度パラメータを意味する。SP値は、ヒルデブラント(Hildebrand)によって導入され正則理論により定義された値である。有機溶剤のSP値は、コーティングの基礎と工学(53ページ、原崎勇次著、加工技術研究会)記載のFedorsによる原子及び原子団の蒸発エネルギーとモル体積から計算で求めた値である。本実施形態におけるSP値の単位は、(cal/cm3)1/2であるが、1(cal/cm3)1/2=2.046×103(J/m3)1/2によって(J/m3)1/2の単位に換算することができる。
【0075】
20~25(cal/cm3)1/2のSP値を有する有機溶剤としては、例えば、上述のトリエチレングリコールモノブチルエーテル、1,2-ヘキサンジオール、トリイソプロパノールアミン、テトラエチレングリコール、N,N-ジメチルグリシンが挙げられる。
【0076】
20~25(cal/cm3)1/2のSP値を有する有機溶剤を含有する場合、当該有機溶剤の含有量は、好ましくは0.1質量%以上5.0質量%以下であり、より好ましくは0.7質量%以上3.0質量%以下であり、さらに好ましくは0.7質量%以上2.0質量%以下であり、よりさらに好ましくは1.0質量%以上1.7質量%以下である。当該範囲の含有量であることで、記録物の耐滲み性をより向上させることができる。
【0077】
――その他の成分――
インク組成物は、定着剤を含有していてもよい。定着剤は、インク組成物の記録媒体に対する定着性や、インク組成物が形成する塗膜の強度を向上させる機能を有する。定着剤としては、特に限定されないが、例えば、水溶性樹脂、樹脂粒子が挙げられる。
【0078】
水溶性樹脂としては、特に限定されないが、例えば、カルボキシメチルセルロース、酢酸セルロース、ヒドロキシエチルセルロース、又はこれらの塩が挙げられる。インク組成物が水溶性樹脂を含有する場合、水溶性樹脂の含有量は、インク組成物の全質量に対して、0.1質量%以上20.0質量%以下であることが好ましく、0.5質量%以上10.0質量%以下であることがより好ましく、1.0質量%以上5.0質量%以下であることがより好ましい。
【0079】
樹脂粒子は、例えば、水系の樹脂分散体であって、樹脂の微小な粒子を水性媒体中に分散させたものであることが好ましい。樹脂粒子として、樹脂エマルションを用いてもよい。樹脂の分散方法としては、乳化剤(界面活性剤)を利用した強制乳化型、樹脂の分子構造中に親水部(親水基)を導入した自己乳化型などを用いることができる。
【0080】
樹脂粒子に用いる樹脂としては、特に限定されないが、例えば、アクリル系樹脂、スチレン-アクリル系樹脂、フルオレン系樹脂、ウレタン系樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ロジン変性樹脂、テルペン系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、エポキシ系樹脂、塩化ビニル系樹脂、(塩化ビニル-酢酸ビニル)共重合体、(エチレン-酢酸ビニル)共重合体が挙げられる。これらの樹脂は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0081】
インク組成物が樹脂粒子を含有する場合、樹脂粒子の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは2.0質量%以上25.0質量%以下であり、より好ましくは4.0質量%以上15.0質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以上11.0質量%以下である。
【0082】
インク組成物は、pH調整剤を含有していてもよい。pH調整剤としては、特に限定されないが、例えば、塩基性有機物質、塩基性無機物質が挙げられる。これらのpH調整剤を用いて、インク組成物のpHを7.5以上、10.5以下の範囲に調整することが好ましい。
【0083】
塩基性有機物質としては、特に限定されないが、例えば、トリエタノールアミン、ジエタノールアミン、モノエタノールアミン、トリ-イソプロパノールアミン等のアルカノールアミン類が挙げられる。インク組成物が塩基性有機物質を含有する場合、塩基性有機物質の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.01質量%以上3.0質量%以下であり、より好ましくは0.1質量%以上2.0質量%以下である。
【0084】
塩基性無機物質としては、特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム、水酸化カリウム、水酸化カルシウム等のアルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物が挙げられる。インク組成物が塩基性無機物質を含有する場合、塩基性無機物質の含有量は、インク組成物の全質量に対して、好ましくは0.03質量%以上0.15質量%以下であり、より好ましくは0.05質量%以上0.10質量%以下である。
【0085】
インク組成物は、上述した成分の他に、防腐剤、防かび剤、酸化防止剤、キレート化剤等の種々の添加剤を含有していてもよい。
【0086】
本実施形態において、インク組成物は、上記した各成分を任意の順序で混合し、必要に応じてろ過等を行って不純物を除去することにより得られる。各成分の混合方法としては、メカニカルスターラー、マグネチックスターラー等の撹拌装置を備えた容器に順次材料を添加して撹拌混合する方法が好適に用いられる。ろ過方法としては、遠心ろ過、フィルターろ過等を必要に応じて行なうことができる。
【0087】
―記録媒体―
本実施形態に係るインクジェット記録装置に用いられる記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、吸収性の記録媒体又は非吸収性の記録媒体のいずれであってもよい。本実施形態に係るインクジェット記録装置では、水溶性のインク組成物の浸透が困難な非吸収性記録媒体から、水溶性のインク組成物の浸透が容易な吸収性記録媒体まで、様々な吸収性能を持つ記録媒体に幅広く適用できるが、吸収性記録媒体に適用することが好ましい。
【0088】
本実施形態における「吸収性記録媒体」は、インク組成物を吸収する性質を有する記録媒体を意味する。「非吸収性記録媒体」は、インク組成物を全く吸収しない、又はほとんど吸収しない性質を有する記録媒体を意味する。定量的には、「吸収性記録媒体」は、ブリストー(Bristow)法において接触開始から30msec1/2までの水吸収量が10mL/m2超である記録媒体である。「非吸収性記録媒体」は、当該水吸収量が10mL/m2以下である記録媒体である。このブリストー法の詳細は、「JAPAN TAPPI紙パルプ試験方法2000年版」の規格No.51「紙及び板紙-液体吸収性試験方法-ブリストー法」の記載による。
【0089】
吸収性記録媒体としては、特に限定されないが、例えば、布帛、インク組成物の浸透性が高い電子写真用紙などの普通紙、インクジェット用紙(シリカ粒子若しくはアルミナ粒子から構成されたインク吸収層、又は、ポリビニルアルコール(PVA)若しくはポリビニルピロリドン(PVP)等の親水性ポリマーから構成されたインク吸収層を備えたインクジェット専用紙)、インクの浸透性が比較的低い一般のオフセット印刷に用いられるアート紙、コート紙、及びキャスト紙が挙げられる。
【0090】
非吸収性記録媒体として、特に限定されないが、例えば、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンテレフタレート(PET)等のプラスチック類のフィルム及びプレート、鉄、銀、銅、アルミニウム等の金属類のプレート、並びにそれら各種金属を蒸着により製造した金属プレートやプラスチック製のフィルム、ステンレス及び真鋳等の合金のプレートが挙げられる。
【0091】
――布帛――
記録媒体は、布帛であることが好ましい。布帛を構成する繊維としては、特に限定されないが、例えば、綿、麻、羊毛、絹等の天然繊維、ポリプロピレン、ポリエステル、アセテート、トリアセテート、ポリアミド、ポリウレタン等の合成繊維、ポリ乳酸等の生分解性繊維、及びこれらの混紡繊維が挙げられる。
【0092】
布帛は、上記の繊維を、織物、編物、不織布等いずれの形態にしたものでもよい。また、本実施形態で使用する布帛の目付は、特に限定されないが、例えば、1.0oz以上10.0oz以下であってもよく、好ましくは2.0oz以上9.0oz以下であり、より好ましくは3.0oz以上8.0oz以下であり、さらに好ましくは、4.0oz以上7.0oz以下である。布帛の目付がこのような範囲であれば、良好な記録を行うことができる。さらに、本実施形態に係るインクジェット記録方法では、目付けの異なる複数種の布帛に適用することができ、良好な印捺を行うことができる。
【0093】
布帛は、吸収性記録媒体であり、特に布帛の厚さ方向へのインクの浸透があるため、表面での濡れ広がりが生じ難く、発色性を得にくい場合があるが、本実施形態に係るインク組成物によれば、表面張力が低いことで発色性を良好なものとすることができる。
【0094】
本実施形態における布帛の形態としては、例えば、布地、及び衣類やその他の服飾品が挙げられる。布地としては、例えば、織物、編物、及び不織布が挙げられる。衣類やその他の服飾品としては、例えば、縫製後のTシャツ、ハンカチ、スカーフ、タオル、手提げ袋、布製のバッグ、カーテン、シーツ、ベッドカバー、壁紙等のファーニチャー類、及び縫製前の部品としての裁断前後の布地が挙げられる。これらの形態としては、ロール状に巻かれた長尺のもの、所定の大きさに切断されたもの、製品形状のもの等が挙げられる。なお、布帛は、予め処理液を付与したものを用いてもよい。
【0095】
布帛としては、染料によって予め着色された綿布帛を用いてもよい。布帛が予め着色される染料としては、例えば、酸性染料、塩基性染料等の水溶性染料、分散剤を併用する分散染料、及び反応性染料が挙げられる。布帛の綿布帛を用いる場合には、綿の染色に適した反応性染料を用いることが好ましい。
【0096】
――処理液――
本実施形態において、布帛は処理液によって処理されていることが好ましい。処理液は、インクジェット記録の記録媒体として布帛を用いる場合に、布帛に対して予め付着して用いるものであり、例えば、カチオン性化合物と、上記の水や有機溶剤を含有する。
【0097】
カチオン性化合物は、インク組成物中の成分を凝集させる機能を有する。このため、処理液を付着させた布帛へインク組成物を付着させると、カチオン性化合物が顔料粒子や樹脂粒子の凝集を促進したり、インク組成物の粘度を高めて、布帛を構成する繊維の間隙あるいは内部への吸収を抑制する。このように、カチオン性化合物はインク組成物を布帛の表面に保持するため、印捺物におけるインク組成物の発色性が向上する。また、にじみやブリードを抑制する。
【0098】
カチオン性化合物としては、特に限定されないが、例えば、カルシウム塩及びマグネシウム塩等の多価金属塩、カチオン性のウレタン系樹脂、オレフィン系樹脂、アリルアミン系樹脂等のカチオン性樹脂、カチオン性界面活性剤、無機酸、及び有機酸が挙げられる。また、多価金属塩における塩としては、特に限定されないが、例えば、蟻酸、酢酸、安息香酸塩等のカルボン酸塩、硫酸塩、硝酸塩、塩化物、及びチオシアン酸塩が挙げられる。これらの中でも、顔料の発色性の向上及び綿布帛に好適である点により、多価金属塩を用いることが好ましい。これらのカチオン性化合物は、1種を単独で、又は2種以上を組合せて用いてもよい。
【0099】
カチオン性化合物の含有量は、特に限定されないが、処理液の総量に対して、好ましくは0.1質量%以上40.0質量%以下であり、より好ましくは2.0質量%以上25.0質量%以下であり、さらに好ましくは5.0質量%以上10.0質量%以下である。カチオン性化合物の含有量を上記の範囲とすることにより、処理液におけるカチオン性化合物の析出や分離等を抑えて、インク組成物中の顔料や樹脂粒子の凝集を促進し、布帛を構成する繊維の間隙あるいは内部に吸収されることを抑制する。これにより、印捺面の裏面方向に色材が裏抜ける現象が低減し、印捺物の発色性が向上する。
【0100】
処理液の付着方法は、布帛の少なくとも一部の領域に処理液を付着させることができれば特に限定されない。処理液の付着方法としては、特に限定されないが、例えば、処理液中に布帛を浸漬させる浸漬塗布、処理液を刷毛、ローラー、ヘラ、ロールコーター等を用いて付着させるローラー塗布、処理液をスプレー装置等にて噴射するスプレー塗布、及び処理液をインクジェット法にて付着させるインクジェット塗布が挙げられる。中でも、装置の構成が簡便で、処理液の付着が迅速に行える、浸漬塗布、ローラー塗布、スプレー塗布等を用いることが好ましい。
【0101】
―インクジェット記録方法―
本実施形態のインクジェット記録方法は、本実施形態に係る液体噴射ヘッドを備えるインクジェット記録装置を用いる。本実施形態のインクジェット記録方法は、液体噴射ヘッドからインク組成物を吐出する工程(以下、「吐出工程」ともいう)を含む。なお、当該インク組成物は、上述の本実施形態に係るインク組成物である。
【0102】
――吐出工程――
本実施形態のインクジェット記録方法は、ノズルから上述のインク組成物を吐出する。吐出したインク組成物は、例えば、布帛に付着させる。つまり、本実施形態のインクジェット記録方法では、記録媒体として布帛を用いてもよい。本実施形態において、吐出工程でインクジェット法を用いることにより、スクリーン捺染等のアナログ捺染で必要な版が不要となるなど、多品種少量生産への対応が容易になると共に、高精細な画像、テキスト、模様、色彩等を形成することができる。
【0103】
吐出工程では、記録媒体に対するインク組成物の付着量は、記録媒体の単位面積当たり、好ましくは10g/m2以上200g/m2以下であり、より好ましくは、15g/m2以上170g/m2以下である。インク組成物の付着量が当該範囲にあることにより、記録物の発色性が向上する。
【0104】
―加熱工程―
本実施形態のインクジェット記録方法は、吐出工程の後に、記録媒体に付着したインク組成物を加熱すること(以下、「加熱工程」ともいう)をさらに含んでいてもよい。
【0105】
加熱方法としては、特に限定されないが、例えば、ヒートプレス法、常圧スチーム法、高圧スチーム法、及びサーモフィックス法が挙げられる。加熱の熱源としては、特に限定されないが、例えば、赤外線ランプが挙げられる。加熱温度は、インク組成物の樹脂粒子が融着され、且つ水分等の媒体が揮発する温度であればよく、好ましくは100℃以上200℃以下であり、より好ましくは110℃以上190℃以下であり、さらに好ましくは120℃以上180℃以下である。ここで、加熱する工程における加熱温度とは、布帛に形成された画像等の表面温度を指す。加熱を施す時間は、特に限定されないが、例えば、30秒以上20分以下である。
【0106】
―洗浄工程―
本実施形態のインクジェット記録方法は、加熱工程後に、インク組成物が付着した被記録媒体を洗浄すること(以下、「洗浄工程」ともいう)をさらに含んでいてもよい。洗浄工程により、繊維に染着していない着色剤を効果的に除去することができる。洗浄工程は、例えば水を用いて行うことができ、必要に応じてソーピング処理を行ってもよい。ソーピング処理方法としては、特に限定されないが、例えば、即ち未固着の顔料を熱石鹸液等で洗い落とす方法が挙げられる。
【実施例】
【0107】
以下、本発明を実施例及び比較例を用いてより具体的に説明する。本発明は、以下の実施例によって何ら限定されるものではない。
【0108】
-顔料分散体の調製-
ポリオキシエチレンジスチレン化フェニルエーテル「エマルゲンA500」(製品名、花王株式会社製)5質量部、イソプロピルアルコール2質量部、及びイオン交換水80質量部を混合し、得られた混合物をウォーターバスで70℃に加温し、樹脂分を完全に溶解させた。この溶液に顔料として、キナクリドン系顔料、C.I.ピグメントレッド122「CROMOPHTAL Pink PT」(製品名、チバ・スペシャリティーケミカル社製)14質量部を加え、30分間プレミキシングを行った後、分散メデイアとして直径0.3mmのジルコニウムビーズを使用し分散機「コスモミル」(製品名、アイリッヒ社製)で3時間、分散処理することによりP.R.122分散液を調製した。
【0109】
-インク組成物の調製-
各材料を下記の表1に示す組成で混合撹拌し、各インク組成物を得た。具体的には、各材料を均一に混合し、フィルターで不溶解物を除去することにより、各インク組成物を調製した。
【0110】
【0111】
【0112】
【0113】
表中、各種略語は以下のとおりである。
P.R.122分散体:上述の方法により得られたP.R.122分散液
W-6061:ウレタン樹脂粒子「タケラックW-6061」(製品名、三井化学株式会社製)
E-1010:アセチレングリコール系界面活性剤「オルフィンE-1010」(製品名、日信化学工業株式会社製)
BYK-349:シリコーン系界面活性剤「BYK-349」(製品名、ビックケミー・ジャパン株式会社製)
S-231:フッ素系界面活性剤「サーフロンS-231」(製品名、AGCセイミケミカル株式会社製)
E-6500:ポリエチレンワックスエマルション「ハイテックE-6500」(製品名、東邦化学工業株式会社、融点140℃、表中の数字は固形分量を示す。)
AQUACER515:ポリエチレンワックスエマルション「AQUACER515」(製品名、BYK社製、融点135℃、表中の数字は固形分量を示す。)
E-8237:ポリエチレンワックスエマルション「ハイテックE-8237」(製品名、東邦化学工業株式会社、融点106℃、表中の数字は固形分量を示す。)
AQUACER537:パラフィンワックスエマルション「AQUACER537」(製品名、BYK社製、融点110℃、表中の数字は固形分量を示す。)
AQUACER539:パラフィンワックスエマルション「AQUACER539」(製品名、BYK社製、融点60℃、表中の数字は固形分量を示す。)
グリセリン(SP値31(cal/cm3)1/2)
トリエチレングリコール(SP値27.5(cal/cm3)1/2)
BTG:トリエチレングリコールモノブチルエーテル(SP値20.4(cal/cm3)1/2)
1,2-HD:1,2-ヘキサンジオール(SP値24.7(cal/cm3)1/2)
MS-575:シリコーン系消泡剤「FOAMBAN MS-575」(製品名、MUNZING CHEMIE GmbH社製)
【0114】
-処理液の調製-
硝酸カルシウム四水和物(Ca:17質量%)20質量部と、定着樹脂として、アクリル樹脂「モビニール6960」(日本合成化学株式会社製)2質量部と、アセチレン系界面活性剤「E1010」(製品名、日信化学工業株式会社製)0.5質量部と、イオン交換水77.5質量部とを混合して作製した。
【0115】
-布帛の前処理-
上述の方法で調製した処理液を、ピックアップ率80%で、布帛(綿100%、平織)に塗布し、160℃で2分間乾燥させた。
【0116】
-インクジェット記録方法(実施例1~13、比較例1~5、参考例1)-
1列に48ノズル開口を有し、それらのノズル開口のノズル間隔が120dpi(ドット/インチ)であるノズル列を6列備えたヘッドを搭載したインクジェットプリンタ「PM-870C」(製品名、セイコーエプソン株式会社製)を使用した。上述の前処理施した布帛に対して1ドット当たりの吐出インク質量を約40ngとし、縦横のインク付着密度を360×360dpiとして記録を行った。
【0117】
-評価-
――発色性――
得られた各記録物について、測色機「i1-Pro」(X-Rite社製)を用いて、OD値を測定し、以下の評価基準に従い評価した。
(評価基準)
A:OD値が1.3以上である。
C:OD値が1.3未満である。
【0118】
――耐ノズル抜け――
上述のプリンターを用いて所定の大きさのノズルを保護するためのキャップ部材を用いた。表中に塗布消包剤の種類が示されている実施例及び比較例では、キャップ部材に1質量%に希釈したシリコーン系消泡剤「FOAM BAM(登録商標)MS-575」(製品名、Munzing社製)の溶液を塗布し乾燥させた。上述のインクジェット記録方法で記録を行った後、下記のクリーニング動作をおこないその後ノズルチェックをおこなったときのノズル抜け本数をカウントし、以下の評価基準で評価した。ここでは、クリーニング動作に耐えられるかを確認する。
(クリーニング動作)
キャップ部材が、ノズルと接した後、キャップ部材からインク組成物を減圧吸引した。なお、クリーニング量は1チップ当たり2gのインク組成物を吸引し、吸引は廃液経路へ備えられたローラーポンプでおこなった。減圧停止後、ノズルから、キャップ部材を離した。
(評価基準)
A:100回以上クリーニング動作してもノズル抜けなし
B:70回以上100回未満の範囲でクリーニング動作してもノズル抜けなし
C:10回以上70回未満の範囲でクリーニング動作してもノズル抜けなし
D:10回未満のクリーニング動作でノズル抜け発生
【0119】
――耐滲み――
上記インクジェット記録方法により、各例のインクとYellowインクのストライプ画像を印刷した時の境界の状態を評価した。なお、Yellowインクとしては、表1中のインク組成No. A71を用いた。
(評価基準)
A:滲みはほとんど目立たない
C:滲みがわずかに目立つ(薄い箇所や滲んでいる部分が一部にある。)
【0120】
――保存安定性――
インク組成物50gにバブルユニット材料(シリコンゴム片)1gを投じて60℃2週間加熱した時の異物量の発生を確認し、以下の評価基準で評価を行った。
(評価基準)
A:異物が発生しない
C:異物が発生する
【0121】
【0122】
【0123】
【0124】
以上の実施例及び比較例の対比から、本実施形態に係るインクジェット記録装置は、記録物の優れた発色性を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制することができる。
【0125】
実施例1と比較例1との対比から、インク組成物中にワックスが含まれることで、ノズル抜けの発生が抑制されていることがわかる。
【0126】
実施例1と比較例2との対比から、インク組成物の表面張力が所定範囲内であることで、記録物の発色性が向上することがわかる。加えて、比較例1及び比較例2の結果から、ノズル抜け発生の課題が、インク組成物の表面張力が所定範囲内であることに起因して、発生することがわかる。
【0127】
実施例1と比較例3との対比から、インク組成物に含まれるワックスが所定範囲の融点を有することで、ノズル抜けの発生が抑制されていることがわかる。
【0128】
実施例1と、比較例4及び5の対比から、キャップ部材に使用される消泡剤が、シリコーン系界面活性剤を使用することで、ノズル抜けの発生が抑制されていることがわかる。
【0129】
実施例1と、参考例1との対比から、シリコーン系消泡剤が、キャップ部材に使用されず、インク組成物に含有させた場合には、インク組成物の保存安定性の観点から課題を生じることがわかる。
【0130】
実施例1及び実施例2の結果から、様々な種類の色材であっても、発色性に優れる記録物を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。実施例1、3、及び4の結果から、広い表面張力の範囲において、発色性に優れる記録物を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。また、これらの実施例の結果から、表面張力が所定範囲内であることで、記録物の滲みを抑制できることがわかる。
【0131】
実施例1、5、6及び7の結果から、様々な種類のワックスを用いても、発色性に優れる記録物を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。
【0132】
実施例1、8、9、10及び11の結果から、SP値が所定範囲内の有機溶剤を含有する場合、発色性に優れる記録物を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。
【0133】
実施例1、及び12の結果から様々な種類のシリコーン系消泡剤を使用した場合であっても、発色性に優れる記録物を得ながら、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。
【0134】
実施例13によれば、ノズル側から加圧する加圧クリーニングする場合であっても、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。加圧クリーニングの場合、特にキャップ部材内で発泡が生じやすくなるが、本実施形態に係るインクジェット記録装置によれば、ノズル抜けの発生を抑制できることがわかる。
【符号の説明】
【0135】
1…プリンター、2…記録媒体、3…インクジェットヘッド、4…キャリッジ、5…キャリッジ移動機構、6…搬送機構、7…インクカートリッジ、8…タイミングベルト、9…パルスモーター、10…ガイドロッド10、11…プラテン、12…フラッシングボックス、20…キャップ部材、21…開口部、23…底面部、L…長軸、S…短軸