(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20240214BHJP
B65H 75/08 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B32B27/32 Z
B32B27/32 E
B65H75/08
(21)【出願番号】P 2019201689
(22)【出願日】2019-11-06
【審査請求日】2022-10-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124431
【氏名又は名称】田中 順也
(74)【代理人】
【識別番号】100174160
【氏名又は名称】水谷 馨也
(72)【発明者】
【氏名】米田 美彦
(72)【発明者】
【氏名】中田 将裕
【審査官】印出 亮太
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-248080(JP,A)
【文献】特開平07-310273(JP,A)
【文献】特開2008-049485(JP,A)
【文献】特開2016-043560(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00 - 43/00
C09J 7/00
B65H 75/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コア層と、前記コア層の少なくとも一方面側に積層されたスキン層と、
を備える積層フィルムであって、
前記コア層を形成する樹脂は、ポリプロピレン樹脂であり、
前記スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーを含み、
前記スキン層における前記エチレン-プロピレンブロックコポリマー及び前記エチレン-プロピレンランダムコポリマーの合計含有率が90質量%以上であり、
前記スキン層中のエチレン含有率が4.5質量%以上40質量%以下であり、
前記積層フィルムの前記スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm
2圧力時の静摩擦力A1が、3.30gf/cm
2以上5.50gf/cm
2以下であり、
前記積層フィルムの前記スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm
2圧力時の静摩擦力A2に対する、33.33gf/cm
2圧力時の動摩擦力Bの割合の変化率:(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100が、110%以上である、積層フィルム。
【請求項2】
前記スキン層は、ポリエチレンを含んでいる、請求項1に記載の積層フィルム。
【請求項3】
前記コア層の両面側に、前記スキン層が積層されている、請求項1又は2に記載の積層フィルム。
【請求項4】
粘着剤層を保護するために用いられる、請求項1~3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
【請求項5】
基材フィルムと、粘着剤層と、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルムとがこの順に積層されている、積層体。
【請求項6】
基材フィルムと、粘着剤層と、請求項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルムとがこの順に積層された積層体の巻取体であって、
前記粘着剤層と前記積層フィルムの前記スキン層もしくは前記コア層の何れか一方面とが接面しており、
前記積層体は、巻芯に巻き取られた形態である、巻取体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、積層フィルムに関する。具体的には、例えば電子部品の製造に用いられるビルドアップフィルムの保護フィルムなどとして利用される、コア層とスキン層を備える積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
ポリプロピレンフィルムは、軽量性、熱的安定性及び機械特性に優れているため、包装用を始め、工業用材料フィルムとして広く用いられている。特に近年、ポリプロピレンフィルムの低い表面エネルギーを利用して、電子部品、電子基板の製造工程、繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程、感光性フィルムの製造工程等において、保護材や離型材として広く使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第6354634号
【文献】特開2018-204002号公報
【文献】特開平1-121332号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、ポリプロピレンフィルムは、電子部品の製造に用いられるビルドアップフィルム(ビルドアップフィルムは、基材フィルム(PETフィルムなど)、粘着剤層(電子基板の封止材となる未硬化又は半硬化の熱硬化性樹脂)、及び保護フィルムが積層された積層体の構成を有する)において、粘着剤層を保護するための保護フィルムとして利用されており、ビルドアップフィルムロールとして、巻取、保管、流通等され、使用されている。このようなビルドアップフィルムでは、基材フィルムに塗布された粘着剤層の上に、保護フィルムを貼り合せた後の巻取工程において、粘着剤層(未硬化又は半硬化の熱硬化性樹脂)は柔らかいため、巻き張力を高めると、巻取体の端面からの粘着剤層のはみ出しが発生しやすい。このため、当該巻取工程においては、熱硬化性樹脂のはみ出しが起こらないよう、低い巻き張力で巻き取るため、ビルドアップフィルムの巻取体の輸送工程等において、搬送機の振動等により、巻取体に含まれる保護フィルム(ポリプロピレンフィルム)と、基材フィルムとの間で巻ズレが生じやすいという問題がある。
【0005】
ポリプロピレンフィルムは、その加工性を高めるために、一般に、アンチブロッキング剤を添加して摩擦力を調節することが広く行われている。しかしながら、ビルドアップフィルムに用いられるポリプロピレンフィルムは、接触する熱硬化性樹脂(電子基板を封止する絶縁部材)の絶縁性能に影響及ぼす可能性があることから、アンチブロッキング剤等の添加に制限が設けられている。具体的には、アンチブロッキング剤の添加によってポリプロピレンフィルム表面に凹凸を付与した場合、ポリプロピレンフィルム(保護フィルム)を熱硬化性樹脂から剥がした際、ポリプロピレンフィルム表面に存在するアンチブロッキング剤が脱落し、熱硬化性樹脂に転移する可能性がある。熱硬化性樹脂表面のアンチブロッキング剤が転移した部分は、他の部分に比べて熱硬化性樹脂の層厚が薄くなり、絶縁性能の低下が起こる場合がある。このため、ビルドアップフィルムに用いられるポリプロピレンフィルムには、アンチブロッキング剤等の微粒子の添加に制限があるという問題がある。
【0006】
ポリプロピレンフィルムの加工に適した摩擦力を得る手段として、ポリプロピレンフィルムの表面にコロナ放電による表面改質処理が行われている。しかしながら、コロナ放電処理のみでは、ポリプロピレンフィルムの加工時に、搬送ロール上でのフィルム蛇行、シワの発生、さらに、ポリプロピレンフィルムを巻き取ったロール端面に巻ズレが起こる場合がある。
【0007】
アンチブロッキング剤等が配合されずに、適度な巻取り性を付与されたポリプロピレンフィルムとして、例えば、ポリプロピレン及びポリプロピレン以外のポリオレフィンを含み、樹脂の相溶性によって、フィルム表面に適度な粗化を有するフィルムが知られている(特許文献1)。このようなポリプロピレンフィルムは、仕掛品としての加工性には適していると考えられる。しかしながら、特許文献1に記載のフィルムをビルドアップフィルムの保護フィルムとして用いる場合、フィルム表面の粗化によって、巻き取り時の空気同伴に伴う相手方基材フィルム(PETフィルム等)との接触面積の低下による巻ズレは生じ難いが、一方で、フィルム表面を粗化すると、平滑性が高い相手方基材フィルム(PETフィルム等)との真実接触面積が減少するため、ビルドアップフィルムとして巻き取った巻取体の搬送時の振動により、保護フィルム(ポリプロピレンフィルム)と基材フィルム(PETフィルム等)との間で巻ズレが発生しやすいという問題がある。
【0008】
また、フィルムの滑り性(静摩擦係数、動摩擦係数、動摩擦係数の静摩擦係数に対する割合など)を付与したフィルムとして、ポリエチレン系樹脂組成物中に、凝着点となる末端分岐が少ない高密度ポリエチレン等を含有させて低い摩擦係数を得るポリエチレン系フィルムが知られている(特許文献2)。このようなポリプロピレンフィルムについても、仕掛品としての加工性には適していると考えられる。しかしながら、特許文献2に記載のフィルムでは、摩擦係数を低くする制御手段が採用されており、巻取体に物理的な外力が加わった場合の巻ズレ防止用途としては不適当である。
【0009】
さらに、ポリプロピレンフィルムの加工時におけるフィルムの蛇行、シワ、巻ズレが発生しないポリプロピレンフィルムとして、フィルムの少なくとも片面に5~30mm幅のコロナ放電処理部と5~50mm幅の非処理部が交互に位置する縦スジ状コロナ放電処理が施される技術が提案されている(特許文献3)。しかしながら、特許文献3に記載の技術では、コロナ放電処理部および非処理部の幅の調節が難しく、ポリプロピレンフィルムの加工工程のフィルム蛇行、シワ、巻ズレ防止技術としては不適当である。
【0010】
本発明は、フィルムの加工工程における搬送ロール上でのフィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制され、さらに、粘着剤層の保護フィルムとして、基材フィルムと共に巻回して巻取体とした場合に、当該巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することが好適に抑制される、新規な積層フィルムを提供することを主な目的とする。当該積層フィルムは、電子部品の製造に用いられるビルドアップフィルムの粘着剤層の保護フィルムなどとして好適に利用することができる。また、当該積層フィルムは、繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材(粘着剤層)の製造工程等の各種分野における保護フィルムとしても利用することもできる。また、本発明は、当該積層フィルムを利用した、巻きズレの発生が抑制された新規な巻取体を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決すべく鋭意検討を行った。その結果、コア層と、前記コア層の少なくとも一方面側に積層されたスキン層とを備える積層フィルムにおいて、スキン層を所定の樹脂組成物から形成した上で、スキン層中のエチレン含有率を所定範囲に設定し、さらに、スキン層の表面の静摩擦力と動摩擦力を制御することにより、フィルムの加工工程における搬送ロール上でのフィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制され、さらに、粘着剤層の保護フィルムとして、基材フィルムと共に巻回して巻取体とした場合に、当該巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することが好適に抑制されることを見出した。本発明は、かかる知見に基づいてさらに検討を重ねることにより完成したものである。
【0012】
すなわち、本発明には、以下のものが含まれる。
項1. コア層と、前記コア層の少なくとも一方面側に積層されたスキン層と、
を備える積層フィルムであって、
前記スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーを含み、
前記スキン層中のエチレン含有率が4.5質量%以上40質量%以下であり、
前記積層フィルムの前記スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1が、3.30gf/cm2以上5.50gf/cm2以下であり、
前記積層フィルムの前記スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2に対する、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bの割合の変化率:(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100が、110%以上である、積層フィルム。
項2. 前記スキン層は、ポリエチレンを含んでいる、項1に記載の積層フィルム。
項3. 前記コア層の両面側に、前記スキン層が積層されている、項1又は2に記載の積層フィルム。
項4. 粘着剤層を保護するために用いられる、項1~3のいずれか1項に記載の積層フィルム。
項5. 基材フィルムと、粘着剤層と、項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルムとがこの順に積層されている、積層体。
項6. 基材フィルムと、粘着剤層と、項1~4のいずれか1項に記載の積層フィルムとがこの順に積層された積層体の巻取体であって、
前記粘着剤層と前記積層フィルムの前記スキン層もしくは前記コア層の何れか一方面とが接面しており、
前記積層体は、巻芯に巻き取られた形態である、巻取体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、フィルムの加工工程における搬送ロール上でのフィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制され、さらに、粘着剤層の保護フィルムとして、基材フィルムと共に巻回して巻取体とした場合に、当該巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することが好適に抑制される、新規な積層フィルムを提供することができる。このような積層フィルムは、例えば電子部品の製造に利用されるビルドアップフィルムの保護フィルムとして好適に利用することができる。また、本発明は、当該積層フィルムを利用した、巻きズレの発生が抑制された新規な巻取体を提供することも目的とする。当該巻取体は、電子部品のビルドアップフィルムの巻取体の構成とすることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本実施形態に係る積層フィルムは、コア層と、当該コア層の少なくとも一方面側に積層されたスキン層とを備える。スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーを含む。スキン層中のエチレン含有率は、4.5~40質量%の範囲である。積層フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1が、3.30gf/cm2以上5.50gf/cm2以下である。さらに、積層フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2に対する、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bの割合の変化率:(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100が、110%以上である。本実施形態に係る積層フィルムは、これらの特徴を備えていることにより、前述した本発明の効果「フィルムの加工工程における搬送ロール上でのフィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制され、さらに、粘着剤層の保護フィルムとして、基材フィルムと共に巻回して巻取体とした場合に、当該巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することが好適に抑制される」を発揮することができる。
【0015】
また、本実施形態に係る巻取体は、本実施形態に係る積層フィルムを保護フィルムとして利用した積層体の巻取体であり、基材フィルムと、粘着剤層と、本実施形態に係る積層フィルムとがこの順に積層された積層体であって、粘着剤層と積層フィルムのスキン層もしくはコア層のいずれか一方が接面しており、積層体が巻芯に巻き取られた形態であることを特徴としている。本実施形態に係る巻取体は、本実施形態に係る積層フィルムを保護フィルムとして利用していることにより、巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することが好適に抑制されている。
【0016】
以下、本実施形態に係る積層フィルム、及び当該積層フィルムを利用した巻取体について詳述する。なお、本明細書において、数値範囲の「~」とは、以上と以下とを意味する。即ち、α~βという表記は、α以上β以下、或いは、β以上α以下を意味し、範囲としてα及びβを含む。
【0017】
<1.積層フィルム>
本実施形態に係る積層フィルムは、コア層と、当該コア層の少なくとも一方面側に積層されたスキン層とを備える。
【0018】
本実施形態に係る積層フィルムの厚みとしては、積層フィルムの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、本実施形態に係る積層フィルムを、電子部品の製造に利用されるビルドアップフィルムの保護フィルムなどとして好適に利用する観点からは、好ましくは200μm以下、より好ましくは100μm以下、さらに好ましくは80μm以下、特に好ましくは60μm以下であり、当該厚みの下限としては、例えば3μm以上、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上が挙げられる。積層フィルムの厚みは、マイクロメーター(JIS B-7502)を用いて、JIS C-2151に準拠して測定することができる。
【0019】
本実施形態に係る積層フィルムは、延伸積層フィルムであることが好ましく、2軸延伸積層フィルムであることがより好ましい。
【0020】
(コア層)
コア層を形成する樹脂としては、スキン層の支持体として機能し得るものであれば、特に制限されないが、好ましくはポリプロピレン樹脂が挙げられる。
【0021】
コア層の形成に適したポリプロピレン樹脂としては、プロピレンの単独重合体(ホモポリマー)、プロピレンとエチレンとのコポリマー、さらにプロピレンとエチレンと炭素数4~20のα-オレフィン(例えば、エチレン、ブテン、ペンテン、ヘキセンなどの少なくとも1種)とのコポリマーが挙げられる。これらの中でも、コア層の機械強度及び耐熱性を高めやすいこと、さらには、コア層表面を適度に粗化できることから、ポリプロピレンホモポリマー1種の単独使用もしくは2種以上の混合使用であることが好ましい。
【0022】
コア層を形成する樹脂におけるポリプロピレン樹脂の含有率としては、特に制限されないが、スキン層の支持体として機能させる観点から、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0023】
ポリプロピレン樹脂のメルトフローレート(MFR)は、好ましくは0.5g/10分~9.0g/10分であり、より好ましくは1.0g/10分~6.0g/10分であり、さらに好ましくは2.0g/10分~5.0g/10分である。ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが上記の下限以上であると、十分な樹脂流動性が得られ、キャスト原反シートの厚みを制御しやすく、幅方向に精度良く延伸されたフィルムを作製しやすいため好ましい。また、ポリプロピレン樹脂のメルトフローレートが上記の上限以下であると、得られるシートの力学特性を高めやすく、延伸性を高めやすいため好ましい。本明細書において、樹脂のMFRは、JIS K-7210(1999)に準拠し、メルトフローインデクサー(例えば、株式会社東洋精機製作所製メルトインデクサー)を用いて、230℃、荷重21.18Nで測定することができる。
【0024】
ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)は、好ましくは20万~60万であり、より好ましくは25万~50万である。ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが上記の下限以上であると、十分な樹脂流動性が得られ、キャスト原反シートの厚みを制御しやすく、幅方向に精度良く延伸されたコア層に適したフィルムを作製しやすいため好ましい。また、ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量Mwが上記の上限以下であると、得られるシートの力学特性を高めやすく、延伸性を高めやすく、コア層に適したフィルムが得られるため好ましい。
【0025】
ポリプロピレン樹脂の、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは4以上であり、より好ましくは4.5以上である。ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)が上記の下限以上であると、延伸前のキャスト原反シートにおいてβ晶を十分に生成させることができ、コア層として適切な強度が得られやすいため好ましい。ポリプロピレン樹脂の分子量分布(Mw/Mn)の上限は特に限定されないが、好ましくは10以下である。
【0026】
ポリプロピレン樹脂の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法によって測定することができる。GPC法に使用されるGPC装置には特に制限はなく、ポリオレフィン類の分子量分析が可能な市販の高温型GPC測定機(例えば、東ソー株式会社製、示差屈折計(RI)内蔵型高温GPC測定機、HLC-8121GPC-HT)等を使用することができる。この場合、例えば、実施例に記載するようなGPCカラム、カラム温度、溶離液、流速にて測定することができる。通常、標準ポリスチレンを用いて検量線を作製し、ポリスチレン換算により重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を得る。
【0027】
コア層の厚みとしては、本実施形態に係る積層フィルムの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、本実施形態に係る積層フィルムを、電子部品の製造に利用されるビルドアップフィルムの保護フィルムなどとして好適に利用する観点からは、積層フィルムの厚さ全体の50%以上93%以下が挙げられる。コア層の厚みは、積層フィルムを切断して断面を顕微鏡で観察して測定することができる。
【0028】
(スキン層)
スキン層は、コア層の少なくとも一方面側に積層されている。本実施形態に係る積層体においては、少なくとも一方の表面が、スキン層の表面によって構成されていればよい。本実施形態に係る積層フィルムは、コア層が保護対象物の表面に接面することによって、保護対象物を好適に保護することができる。また、積層フィルムの加工工程において、スキン層が搬送ロール側になるように設計することにより、積層フィルムの加工工程における搬送ロール上での積層フィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制される。さらに、粘着剤層の保護フィルムとして、基材フィルムに塗布された粘着剤層とコア層とが接面するようにして、基材フィルムと共に巻回して巻取体とした場合に、当該巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することも好適に抑制される。
【0029】
スキン層は、コア層の両面側に積層されていてもよい。本実施形態に係る積層体においては、両側の表面が、スキン層の表面によって構成されていることにより、積層体の何れの表面についても、保護対象物を好適に保護することができ、積層フィルムの加工工程における搬送ロール上での積層フィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制され、さらに巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することも好適に抑制することが可能となる。なお、コア層の両面側にスキン層が形成されている場合、それぞれのスキン層を形成する樹脂組成物、スキン層の厚み、スキン層の表面特性等は、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
なお、本実施形態に係る積層フィルムにおいては、コア層の一方側にスキン層が積層され、他方側にスキン層とは異なる層が積層されていてもよい。なお、スキン層とは異なる層についても、ポリプロピレン樹脂により形成されてことが好ましい。
【0031】
スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーを含む。具体的には、スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーを含む樹脂組成物から形成することができる。
【0032】
スキン層において、エチレン-プロピレンブロックコポリマーとエチレン-プロピレンランダムコポリマーとの質量比(エチレン-プロピレンブロックコポリマー:エチレン-プロピレンランダムコポリマー)としては、特に制限されないが、スキン層の表面特性(後述の静摩擦係数、動摩擦係数など)が良好となり、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、好ましくは10:90~90:10程度、より好ましくは30:70~70:30程度、さらに好ましくは35:65~65:35程度、特に好ましくは40:60~60:40程度である。
【0033】
また、スキン層において、エチレン-プロピレンブロックコポリマーにおけるエチレンの割合としては、スキン層中のエチレン含有率が4.5~40.0質量%の範囲となることを限度として、特に制限されないが、スキン層の表面特性(後述の静摩擦係数、動摩擦係数など)が良好となり、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、好ましくは1.0~15.0質量%程度、より好ましくは3.0~12.0質量%程度、さらに好ましくは3.0~10.0質量%程度、特に好ましくは3.0~8.0質量%が挙げられる。また、同様の観点から、エチレン-プロピレンランダムコポリマーにおけるエチレンの割合としては、好ましくは0.5~6.0質量%程度、より好ましくは1.0~5.0質量%程度、さらに好ましくは1.5~4.5質量%程度、特に好ましくは1.5~3.0質量%が挙げられる。
【0034】
スキン層の表面特性が良好となり、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、エチレン-プロピレンブロックコポリマーのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは3.0g/10分~12.0g/10分であり、より好ましくは5.0g/10分~10.0g/10分である。また、同様の観点から、エチレン-プロピレンランダムコポリマーのメルトフローレート(MFR)は、好ましくは5.0g/10分~14.0g/10分であり、より好ましくは7.0g/10分~12.0g/10分である。なお、MFRの測定方法については前述の通りである。
【0035】
エチレン-プロピレンブロックコポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、好ましくは20万~60万であり、より好ましくは30万~50万であり、また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上である。また、エチレン-プロピレンランダムコポリマーの重量平均分子量(Mw)は、特に制限されないが、好ましくは20万~60万であり、より好ましくは30万~50万であり、また、重量平均分子量(Mw)と数平均分子量(Mn)との比として算出される分子量分布(Mw/Mn)は、好ましくは4以上であり、より好ましくは5以上である。これらの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)の測定方法は、前述のポリプロピレン樹脂についての測定方法と同様である。
【0036】
スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーに加えて、さらにポリエチレンを含んでいることが好ましい。スキン層が、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーに加えて、さらにポリエチレンを含んでいることにより、スキン層の表面特性(後述の静摩擦係数、動摩擦係数など)がより良好となり、本発明の効果を好適に発揮させることができる。ポリエチレンとしては、低密度ポリエチレン(例えば、密度が0.91~0.93g/cm3程度)、高密度ポリエチレン(例えば、密度が0.94~0.96g/cm3程度)などが挙げられ、前述した本発明の効果をより一層好適に発揮させる観点から、低密度ポリエチレンが好ましい。
【0037】
スキン層がポリエチレンを含んでいる場合、ポリエチレンの割合としては、スキン層中のエチレン含有率が4.5~40質量%の範囲となることを限度として、特に制限されないが、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーの合計100質量部に対して、好ましくは50質量部以下、より好ましくは45質量部以下が挙げられ、下限については5質量部以上が好ましい。
【0038】
また、スキン層の表面特性が良好となり、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、スキン層において、エチレン-プロピレンブロックコポリマー、エチレン-プロピレンランダムコポリマー、及びポリエチレンの合計含有率としては、好ましくは90質量%以上、より好ましくは95質量%以上、さらに好ましくは98質量%以上である。
【0039】
本実施形態に係る積層フィルムにおいて、スキン層中のエチレン含有率は、4.5~40質量%の範囲にあればよい。スキン層の表面特性(後述の静摩擦係数、動摩擦係数など)が良好となり、本発明の効果を好適に発揮させる観点から、スキン層中のエチレン含有率は、好ましくは10~36質量%、より好ましくは11~36質量%、さらに好ましくは12~36質量%、さらに一層好ましくは12~25質量%、特に好ましくは12~20質量%が挙げられる。なお、スキン層中のエチレン含有率は、主として、エチレン-プロピレンブロックコポリマー、エチレン-プロピレンランダムコポリマー、及びポリエチレンに含まれているエチレン単位に由来する。スキン層中のエチレン含有率は、核磁気共鳴装置等を用いて求める。本発明においては、より具体的には、Bruker社製、AVANCE NEO700を用い、観測核は、13C(176.08MHz)にて測定した。
【0040】
測定モードは、逆ゲーテッドデカップリング(定量的手法)、シフト基準は、プロピレン単位5連鎖(mmmm)(21.95ppm)、積算回数は2048回、温度は130℃、で測定した。
【0041】
また、エチレン単位の含有率(mol%)は、頭-尾結合2連鎖に基づくメチレン炭素のシグナル積分値より、「G.J.Ray et al.,Macromolecules1977,10,p.773-778」、「Y.-D.Zhang et al.,Polym.J.2003,35,p.551-559」などの文献を参考に算出した。スキン層中のエチレン含有率は、スキン層の形成に用いた樹脂それぞれについて、前記の方法でエチレン含有率を測定し、スキン層への各樹脂の配合比率を考慮して算出した値である。
【0042】
本実施形態に係る積層フィルムは、スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1が、3.30gf/cm2以上5.50gf/cm2以下である。さらに、スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2に対する、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bの割合の変化率:(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100が、110%以上である。本実施形態に係る積層フィルムは、スキン層の表面がこのような表面特性を備えていることから、前述した本発明の効果を好適に発揮することが可能となっている。
【0043】
前述した本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1の下限については、好ましくは3.00gf/cm2以上、より好ましくは3.20gf/cm2以上、さらに好ましくは3.30gf/cm2以上であり、上限については、好ましくは5.35gf/cm2以下、より好ましくは5.20gf/cm2以下、さらに好ましくは5.10gf/cm2以下が挙げられる。
【0044】
また、前述した本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2に対する、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bの割合の変化率の下限については、好ましくは115%以上であり、上限については、好ましくは190%以下が挙げられる。また、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2については、前記の変化率を充足すれば特に制限されないが、好ましくは12.00~25.00gf/cm2程度が挙げられる。また、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bについては、前記の変化率を充足すれば特に制限されないが、好ましくは15.00~45.00gf/cm2程度が挙げられる。
【0045】
スキン層の表面について、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2、及び33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bは、それぞれ、以下の摩擦力の測定方法によって測定される。なお、より具体的な測定方法は、実施例に記載の方法を採用する。
【0046】
[摩擦力]
表面性測定機(例えば、新東科学(株)社製の「HEIDONトライボギア(型式:TYPE14FW)」)を使用して各種摩擦力を測定する。積層フィルムを、縦方向20cm、横方向3cmに切り出して試験用フィルムとする。次に、試験用フィルムを、シワのない状態で、30mm平面圧子(接触面積9cm2)にセットする。このとき、試験用フィルムのスキン層が外側になるようにセットする。次に、スキン層の摩擦力の測定に用いる二軸延伸ポリエステルフィルム(算術平均高さ(Sa)0.001μm、二乗平均平方根高さ(Sq)0.001μm、二乗平均平方根傾斜(Sdq)0.001、界面の面積展開比(Sdr)0.000%、コアのレベル差(Sk)0.002μm、突出谷部高さ(Svk)0.001μm、突出谷部の空間容積(Vvv)0.000ml/m2、コア部の空間容積(Vvc)0.001ml/m2、コア部の体積(Vmc)0.001ml/m2、最大高さ(Sz)0.08μm、厚み50μm)を縦方向20cm、横方向8cmに切り出し、シワのない状態で、コロナ放電などの表面改質処理が施されていない未処理面が上面になるように可動式テーブルにセットする。二軸延伸ポリエステルフィルムは、算術平均高さSa(ISO25178)が0.001μm、最大高さSz(ISO25178)が0.08μm、厚さ(JIS C-2318)が50μm、静摩擦係数(JIS K-7125)が0.46、動摩擦係数(JIS K-7125)が0.40、ヘイズ(JIS K-7105)が0.9%、全光線透過率(JIS K-7105)が92.0%のフィルムであり、スキン層に接面させて、静摩擦係数及び動摩擦係数を測定するために用いる。
【0047】
この状態で、試験用フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1を、テーブル速度100mm/min、垂直荷重50gf(圧力換算値5.56gf/cm2)、変位量60mm以上(片道移動)、データサンプリング速度50ms毎、測定温度23℃、測定湿度50%RHで計測する。各3回の計測で得られた値から、静摩擦力A1(変位量0~1mm間の最大値)を抽出する。
【0048】
また、試験用フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2と、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bは、テーブル速度100mm/min、垂直荷重300gf(圧力換算値33.33gf/cm2)、変位量60mm以上(片道移動)、データサンプリング速度50ms毎、測定温度23℃、測定湿度50%RHで計測する。各3回の計測で得られた値から、静摩擦力A2(変位量0~1mm間の最大値)と、動摩擦力B(動摩擦力ピーク(変位量1~60mm間の最大値))を抽出する。抽出した静摩擦力A2と動摩擦力ピークBを用いて、動摩擦力Bの静摩擦力A2に対する割合の変化率を、算出式=(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100(%)で求める。
【0049】
前述した本発明の効果をより一層好適に発揮する観点から、スキン層の表面粗さが、下記(a)~(i)のうち、少なくとも1つを充足することが好ましく、2つ以上を充足することがより好ましく、3つ以上を充足することがさらに好ましく、全てを充足することが特に好ましい。
【0050】
(a)算術平均高さ(Sa)が0.06~0.38μmである。
(b)二乗平均平方根高さ(Sq)が0.09~0.50μmである。
(c)二乗平均平方根傾斜(Sdq)が0.07~0.24である。
(d)界面の面積展開比(Sdr)が0.21~2.39%である。
(e)コア部のレベル差(Sk)が0.17~1.18μmである。
(f)突出谷部高さ(Svk)が0.05~0.36μmである。
(g)突出谷部の空間容積(Vvv)が0.01~0.04ml/m2である。
(h)コア部の空間容積(Vvc)が0.10~0.64ml/m2である。
(i)コア部の体積(Vmc)が0.06~0.42ml/m2である。
【0051】
スキン層の表面粗さに関する前記の物性は、以下の表面粗さの測定方法によって測定される。なお、より具体的な測定方法は、実施例に記載の方法を採用する。
【0052】
[表面粗さ]
光干渉式非接触表面形状測定機(例えば、(株)菱化システム製の「VertScan2.0(型式:R5500GML)」)を使用する。測定用サンプルとして、フィルムを20cm四方程度の任意の大きさに切り出し、シワを十分に伸ばした状態で、静電密着板などを利用して測定ステージにセットする。まず、計測にはWAVEモードを用い、530whiteフィルタ及び1×BODYの鏡筒を適用し、10倍対物レンズを用いて、一視野あたり(470μm×353μm)の計測を行う。この操作を対象試料フィルムのスキン層の表面の流れ方向・幅方向ともに中央となる箇所から流れ方向に1cm間隔で10箇所について行う。次に、得られたデータに対して、メディアンフィルタ(3×3)によるノイズ除去処理を行ない、その後、カットオフ値30μmによるガウシアンフィルタ処理を行い、うねり成分を除去する。これにより、スキン層の表面の状態を適切に計測できる状態とする。次に、「VertScan2.0」の解析ソフトウェア「VS-Viewer」のプラグイン機能「ベアリング」にある、「ISOパラメータ」を用いて解析を行い、Sa(μm)、Sq(μm)、Sdq(μm)、Sdr(%)、Sk(μm)、Svk(μm)、Vvv(ml/m2)、Vvc(ml/m2)、Vmc(ml/m2)を求め、上記10箇所で得られた各値の平均値を算出する。
【0053】
スキン層の厚みとしては、本実施形態に係る積層フィルムの用途に応じて適宜選択することができる。例えば、本実施形態に係る積層フィルムを、例えば、電子部品の製造に利用されるビルドアップフィルムの保護フィルムなどとして好適に利用する観点からは、下限については、好ましくは0.05μm以上、より好ましくは0.1μm以上、さらに好ましくは1μm以上であり、上限については、好ましくは80μm以下、より好ましくは50μm以下、さらに好ましくは30μm以下、特に好ましくは10μm以下である。また、スキン層の厚みとしては、積層フィルムの厚さ全体に対して、好ましくは0.5%以上が好ましく、より好ましくは1%以上、さらに好ましくは3%以上、さらに一層好ましくは5%以上、特に好ましくは10%以上である。また、スキン層の厚みとしては、積層フィルムの厚さ全体に対して、好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは25%以下、さらに一層好ましくは20%以下、特に好ましくは15%以下である。本実施形態に係る積層フィルムの両面にスキン層が形成されている場合、各両面のスキン層の厚みは、それぞれ、前記に記載された厚み範囲内であることが好ましい。また、本実施形態に係る積層フィルムの両面にスキン層が形成されている場合、それぞれのスキン層の厚みは、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。スキン層の厚みは、積層フィルムを切断して断面を顕微鏡で観察して測定することができる。
【0054】
スキン層及びコア層は、それぞれ、灰分が100ppm以下であることが好ましい。灰分は重合触媒残渣等に起因し、微小異物(フィッシュアイ)の原因となる。灰分の含有量が100ppm以下、好ましくは50ppm以下であると、フィッシュアイを防止することができる。灰分の含有量は、それぞれ、スキン層及びコア層を構成する樹脂の重合時の触媒の種類や使用量をコントロールする方法等により調整することができる。
【0055】
本明細書において、スキン層及びコア層の灰分の含有量は、それぞれ、ISO3451-1に準拠して、以下のように測定される。スキン層又はコア層を形成する樹脂をるつぼに入れ、マッフル炉にて750℃で1時間加熱し、るつぼ内の残存物の質量を測定する。そして、るつぼに投入した樹脂の質量に対する、るつぼ内の残存物の質量の割合を算出し、これを灰分の含有量とする。
【0056】
スキン層及びコア層は、添加剤を含有していてもよい。添加剤としては、特に制限されず、樹脂フィルムに添加される公知の添加剤を使用することができる。添加剤としては、一般的にポリプロピレン樹脂に使用されている添加剤を使用することができる。添加剤としては、例えば酸化防止剤、塩素吸収剤、紫外線吸収剤等の安定剤、滑剤、可塑剤、難燃化剤、帯電防止剤、着色剤等が挙げられる。このような添加剤を、本発明の効果を損なわないことを限度として、スキン層又はコア層に添加してよい。ただし、本実施形態に係る積層フィルムを、電子部品の製造に利用されるビルドアップフィルムの保護フィルムなどとして好適に利用する観点からは、スキン層に対しては、アンチブロッキング剤など、保護対象部材に転移して、保護対象部材の特性に影響を与える可能性のある成分を添加しないことが好ましい。
【0057】
本実施形態に係る積層フィルムは、電子部品の製造に用いられるビルドアップフィルムの粘着剤層の保護フィルムなどとして好適に利用することができる。また、当該積層フィルムは、繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等の各種分野における保護フィルムなどとしても利用することもできる。
【0058】
本実施形態に係る積層フィルムは、例えば、コア層及びスキン層を形成する樹脂組成物を押出成形することで、コア層とスキン層が積層されたフィルムとして得ることができる。例えば、積層フィルムを二軸延伸積層フィルムとして製造する場合であれば、コア層及びスキン層を形成する樹脂組成物を押出成形することで、延伸前のコア層及び延伸前のスキン層が積層されたキャスト原反シート製造する工程(i)と、該キャスト原反シートを二軸延伸する工程(ii)により、製造することができる。工程(i)及び工程(ii)の具体例を以下に例示する。
【0059】
工程(i)では、まず、コア層及びスキン層を形成する樹脂組成物をそれぞれ、押出機において、200~260℃で溶融混練した後、合流装置で合流させ、Tダイから押出す。この際、合流装置よりも上流側において、ポリマーフィルターを用い、各樹脂から粗大異物を除去しておくことが好ましい。
【0060】
合流は、Tダイよりも前の管内で行う方法、Tダイの樹脂導入部に設けられた積層ユニットにより行う方法(フィードブロック法)、Tダイ内で拡幅後に樹脂を積層する方法(マニホールド積層法)等の公知の方法で行える。これらの中では、マニホールド積層法が積層厚み精度の点で優れているのが、経済性等も考慮して、これらの中から適宜選択できる。
【0061】
次いで、このように押出された2層以上の構成の積層物を、ドラム面が75~100℃に制御された少なくとも1つの金属ドラム(冷却ドラム)上にエアナイフにより密着させて、シート状に成形し、例えば厚み500~5000μmのキャスト原反シートを得る。
【0062】
次いで、工程(ii)において、前記延伸前のキャスト原反シートに延伸処理を行うことにより、二軸延伸積層フィルムを製造することができる。当該延伸処理としては、流れ(長手、縦、MDとも称する)方向および幅(横、TDとの称する)方向への二軸延伸が好ましいが、必要に応じて斜め方向へ延伸する二軸延伸でもよい。
【0063】
延伸方法としては、チューブラー法、テンター法、周速差を設けたロール間で延伸する方法等があり、二軸を同時に延伸したり、二軸を逐次に延伸したりすることができる。厚み斑がなく、平面性が良好な二軸延伸積層フィルムが得られやすいことから、テンター法による同時二軸延伸法、テンター法による逐次二軸延伸法、および、周速差を設けたロール間で流れ方向に延伸した後テンター法にて幅方向に延伸する逐次二軸延伸法が好ましい。
【0064】
逐次二軸延伸法としては、例えば、まずキャスト原反シートを100~160℃の温度に保ち、速度差を設けたロール間に通す、あるいはテンターに導いて、流れ方向に3~8倍に延伸した後、必要に応じて0~10%程度緩和する。引き続き、当該一軸延伸フィルムをテンターに導いて120~180℃の温度で幅方向に6~12倍に延伸した後、必要に応じて0~10%程度緩和し、熱固定を施して、巻き取る。
【0065】
同時二軸延伸法では、キャスト原反シートをテンターに導いて、120~180℃の温度で、流れ方向および幅方向に上述の延伸倍率へ延伸した後、必要に応じて0~10%程度緩和し、熱固定を施す。その後、得られた二軸延伸積層フィルムの端部を必要に応じてトリミングした後、巻き取る。
【0066】
<2.積層体>
本実施形態に係る積層体は、本実施形態に係る積層フィルムを利用した積層体である。本実施形態に係る積層体は、基材フィルムと、粘着剤層と、前述した本実施形態に係る積層フィルムとがこの順に積層された構成を有している。
【0067】
本実施形態に係る積層フィルムについては、前述の通りである。
【0068】
また、本実施形態に係る積層体においては、本実施形態に係る積層フィルムが、基材フィルムの上に形成された粘着剤層を保護している。基材フィルム及び熱硬化性樹脂の材質や厚みなどは、それぞれ、本実施形態に係る積層体の用途に応じて、適宜選択される。例えば、電子部品の製造に用いられるビルドアップフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの基材フィルムの上に、粘着剤層(電子基板の封止材となる、エポキシ樹脂などの未硬化又は半硬化の熱硬化性樹脂)、及び保護フィルムが積層された積層体の構成を有しており、本実施形態に係る巻取体を、ビルドアップフィルムの巻取体とする場合、基材フィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、粘着剤層は未硬化又は半硬化のエポキシ樹脂により形成されていることが好ましい。
【0069】
基材フィルムの厚みとしては、特に制限されないが、例えば10~150μm程度である。また、粘着剤層の厚みとしては、特に制限されないが、例えば、ラミネートされる内層回路基板の導体厚以上で、導体厚+(10~120)μm程度である。
【0070】
また、本実施形態に係る積層フィルムを、繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等の各種分野における保護フィルムとしても利用する場合、基材フィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、粘着剤層は未硬化又は半硬化のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0071】
積層体に厚みとしては、特に制限されないが、例えば50~450μm程度である。
【0072】
<3.巻取体>
本実施形態に係る巻取体は、本実施形態に係る積層フィルムを利用した積層体の巻取体である。巻取体を構成する積層体は、前記の<2.積層体>の欄で説明した通りであり、基材フィルムと、粘着剤層と、前述した本実施形態に係る積層フィルムとがこの順に積層された構成を有しており、粘着剤層と積層フィルムのスキン層もしくはコア層のいずれか一方面とが接面している。また、積層体は、巻芯に巻き取られた形態である。
【0073】
本実施形態に係る積層フィルムについては、前述の通りである。
【0074】
また、本実施形態に係る巻取体においては、本実施形態に係る積層フィルムが、基材フィルムの上に形成された粘着剤層を保護している。基材フィルム及び熱硬化性樹脂の材質や厚みなどは、それぞれ、本実施形態に係る巻取体の用途(具体的には、巻取体の形態となっている前述の積層体の用途)に応じて、適宜選択される。例えば、電子部品の製造に用いられるビルドアップフィルムは、ポリエチレンテレフタレートフィルムなどの基材フィルムの上に、粘着剤層(電子基板の封止材となる、エポキシ樹脂などの未硬化又は半硬化の熱硬化性樹脂)、及び保護フィルムが積層された積層体の構成を有しており、本実施形態に係る巻取体を、ビルドアップフィルムの巻取体とする場合、基材フィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、粘着剤層は未硬化又は半硬化のエポキシ樹脂により形成されていることが好ましい。
【0075】
基材フィルム及び粘着剤層の厚みは、それぞれ、前記の<2.積層体>の欄に記載の通りである。
【0076】
また、前記の通り、本実施形態に係る積層フィルムを、繊維強化プラスチック等の熱硬化性樹脂部材の製造工程等の各種分野における保護フィルムとしても利用する場合、基材フィルムはポリエチレンテレフタレートフィルムであり、粘着剤層は未硬化又は半硬化のエポキシ樹脂であることが好ましい。
【0077】
巻取体を構成している積層体に厚みは、前記の<2.積層体>の欄に記載の通りである。
【0078】
巻芯は、円柱状又は円筒状であり、巻芯の円周方向に沿って積層体が巻回されている。
【0079】
巻芯の材質としては、特に制限されず、変形の少ないプラスチック、繊維強化プラスチック、紙、金属(鉄、SUS、アルミニウム等)等が挙げられる。これらの中でも、軽量かつ高強度であることから、繊維強化プラスチックが好ましい。繊維強化プラスチック製の巻芯としては、例えば、炭素繊維、ガラス繊維などを円筒形状に成形し、これに不飽和ポリエステル樹脂などの硬化性樹脂を含浸、硬化させたものなどが挙げられる。
【0080】
巻芯のサイズは、目的とする巻取体の大きさに合わせて設定することができる。巻芯の円径断面の外径としては、例えば50~200mm程度、より好ましくは、80~100mm程度が挙げられる。
【実施例】
【0081】
以下に実施例及び比較例を示して本発明を詳細に説明する。但し、本発明は実施例に限定されるものではない。なお、特記しない限り、部及び%はそれぞれ「質量部」及び「質量%」を示す。
【0082】
[実施例1]
(コア層)
ホモポリプロピレン(230℃でのMFR=3.5g/10min、重量平均分子量(MW)29万、数平均分子量(Mn)6.4万、分子量分布(Mw/Mn)4.5)のペレットのみを押出機Iにホッパーから投入し、溶融させて、コア層を形成する樹脂組成物を調製した。
【0083】
(スキン層)
低密度ポリエチレン(230℃でのMFR=0.3g/10min)と、エチレン-プロピレンブロック共重合体(230℃でのMFR=8.0g/10min、エチレン含有率11.42質量%(エチレン含有率の測定値16.2モル%から算出))と、エチレン-プロピレンランダム共重合体(230℃でのMFR=10g/10min、エチレン含有率4.08質量%(エチレン含有率の測定値6.0モル%から算出))とを、表1に示す配合比でドライブレンドし、混練用押出機を使用して230℃にて溶融混練し、ペレット化した。次いで、該ペレットを押出機IIにホッパーから投入し、溶融させて、スキン層を形成する樹脂組成物を調製した。
【0084】
(積層フィルムの調製)
スキン層およびコア層を形成する樹脂組成物を、それぞれ、ポリマーフィルターを経由させて、230℃で、マルチマニホールドダイから、スキン層/コア層/スキン層の2種3層構成の積層フィルムとなるように押出し、表面温度を90℃に調整した冷却ドラム上にエアナイフを用いて空気圧で押しつけながら、冷却固化させて、厚みが920μmのキャスト原反シートを得た。次いで、前記キャスト原反シートを、金属ロールに接触させながら153℃に加熱後、周速差のあるロール間で流れ方向に約4.6倍延伸させた。次いで、該一軸延伸フィルムをクリップに挟みながら熱風オーブン中に導入して180℃に予熱後、幅方向に約10倍延伸させ、引き続き幅方向に約10%の弛緩をしながら170℃で熱固定を行い、約20μmの厚みを有する、二軸延伸積層フィルムを連続的に得た。スキン層の厚みは、それぞれ、2.5μm、コア層の厚みは15μmである。得られた二軸延伸積層フィルムの端部をトリミングした後、巻芯に巻き取り、ロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0085】
[実施例2~3]
実施例1のスキン層を形成する樹脂組成物の調製において、表1に示す配合比としたこと以外は、それぞれ、実施例1と同様にしてロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0086】
[実施例4~5]
実施例1のスキン層を形成する樹脂組成物の調製において、スキン層に用いた低密度ポリエチレンを、高密度ポリエチレン(230℃でのMFR=0.04g/10min)に変えて、表1に示す配合比としたこと以外は、それぞれ、実施例1と同様にしてロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0087】
[実施例6~7]
実施例1のスキン層を形成する樹脂組成物の調製において、スキン層に用いた低密度ポリエチレンを配合せず、表1に示す配合比としたこと以外は、それぞれ、実施例1と同様にしてロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0088】
[比較例1]
実施例1のスキン層を形成する樹脂組成物の調製において、スキン層に用いた低密度ポリエチレンと、エチレン-プロピレンブロック共重合体と、エチレン-プロピレンランダム共重合体とを配合せず、樹脂組成物をすべてホモポリプロピレン(230℃でのMFR=3.5g/10min)に置き換えたこと以外は、実施例1と同様にしてロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0089】
[比較例2]
二軸延伸ポリエステルフィルム(東洋紡(株)社製「コスモシャイン(登録商標)A4100」、厚み50μm)の易接着面をスキン層表面とし、フィルム表面の平滑性が高い一般的なフィルムとして用いた。
【0090】
[比較例3~4]
実施例4のスキン層を形成する樹脂組成物の調製において、表1に示す配合比としたこと以外は、それぞれ、実施例4と同様にしてロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0091】
[比較例5]
実施例1のスキン層を形成する樹脂組成物の調製において、表1に示す配合比としたこと以外は、実施例1と同様にしてロール状の二軸延伸積層フィルムを得た。
【0092】
[分子量及び分子量分布の測定]
ホモポリプロピレンの重量平均分子量、数平均分子量、及び分子量分布の測定方法は、サイズ排除クロマトグラフィー(SEC)を用いた測定方法であり、測定条件の詳細は、以下の通りである。
装置:HLC-8321GPC/HT(検出器:示差屈折計(RI))(東ソー株式会社製)
カラム:TSKgel guardcolumnHHR(30)HT(7.5mmI.D.×7.5cm)×1本 + TSKgel GMHHR-H(20)HT(7.8mmI.D.×30cm)×3本 (東ソー株式会社製)
溶離液:1,2,4-トリクロロベンゼン(富士フィルム和光純薬製GPC用)+BHT(0.05%)
流速:1.0mL/分
検出条件:polarity-(-)
注入量:0.3mL
カラム温度:140℃
システム温度:40℃
試料濃度:1mg/mL
試料前処理:試料を秤量し、溶媒(0.1%のBHTを添加した1,2,4-トリクロロベンゼン)を加えて140℃で1時間振盪溶解させた。その後0.5μmの焼結フィルターで加熱濾過した。
検量線:東ソー株式会社製の標準ポリスチレンを用いた5次近似曲線の検量線を作成した。ただし、分子量はQ-ファクターを用いてポリプロピレンの分子量へ換算した。得られた検量線およびSECクロマトグラムより、測定装置用の解析ソフトウェアを用いて数平均分子量(Mn)、重量平均分子量(Mw)、及び、Z平均分子量(Mz)を得た。このMwとMnの値を用いて分子量分布(Mw/Mn)を得た。また、このMzとMnの値を用いて分子量分布(Mz/Mn)を得た。
【0093】
[表面粗さ]
光干渉式非接触表面形状測定機として(株)菱化システム製の「VertScan2.0(型式:R5500GML)」を使用した。測定用サンプルとして、フィルムを20cm四方程度の任意の大きさに切り出し、シワがなくなるようにシワを十分に伸ばした状態で、静電密着板などを利用して測定ステージにセットした。まず、計測にはWAVEモードを用い、530whiteフィルタ及び1×BODYの鏡筒を適用し、10倍対物レンズを用いて、一視野あたり(470μm×353μm)の計測を行った。この操作を対象試料フィルムのスキン層の表面の流れ方向・幅方向ともに中央となる箇所から流れ方向に1cm間隔で10箇所について行った。次に、得られたデータに対して、メディアンフィルタ(3×3)によるノイズ除去処理を行ない、その後、カットオフ値30μmによるガウシアンフィルタ処理を行い、うねり成分を除去した。これにより、スキン層の表面の状態を適切に計測できる状態とした。次に、「VertScan2.0」の解析ソフトウェア「VS-Viewer」のプラグイン機能「ベアリング」にある、「ISOパラメータ」を用いて解析を行い、Sa(μm)、Sq(μm)、Sdq(μm)、Sdr(%)、Sk(μm)、Svk(μm)、Vvv(ml/m2)、Vvc(ml/m2)、Vmc(ml/m2)を求め、上記10箇所で得られた各値の平均値を算出した。結果を表1に示す。
【0094】
[摩擦力]
表面性測定機として新東科学(株)社製の「HEIDONトライボギア(型式:TYPE14FW)」を使用した。実施例及び比較例で用意した各フィルムを、それぞれ、縦方向20cm、横方向3cmに切り出して試験用フィルムとした。次に、試験用フィルムを、シワのない状態で、30mm平面圧子(接触面積9cm2)にセットした。このとき、試験用フィルムのスキン層が外側になるようにセットした。次に、スキン層の摩擦力の測定に用いる二軸延伸ポリエステルフィルム(算術平均高さ(Sa)0.001μm、二乗平均平方根高さ(Sq)0.001μm、二乗平均平方根傾斜(Sdq)0.001、界面の面積展開比(Sdr)0.000%、コアのレベル差(Sk)0.002μm、突出谷部高さ(Svk)0.001μm、突出谷部の空間容積(Vvv)0.000ml/m2、コア部の空間容積(Vvc)0.001ml/m2、コア部の体積(Vmc)0.001ml/m2、最大高さ(Sz)0.08μm、厚み50μm)を縦方向20cm、横方向8cmに切り出し、シワのない状態で、コロナ放電などの表面改質処理が施されていない未処理面が上面になるように可動式テーブルにセットした。
【0095】
この状態で、試験用フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1を、テーブル速度100mm/min、垂直荷重50gf(圧力換算値5.56gf/cm2)、変位量60mm以上(片道移動)、データサンプリング速度50ms毎、測定温度23℃、測定湿度50%RHで計測した。各3回の計測で得られた値から、静摩擦力A1(変位量0~1mm間の最大値)を抽出した。
【0096】
また、試験用フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2と、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bは、テーブル速度100mm/min、垂直荷重300gf(圧力換算値33.33gf/cm2)、変位量60mm以上(片道移動)、データサンプリング速度50ms毎、測定温度23℃、測定湿度50%RHで計測した。各3回の計測で得られた値から、静摩擦力A2(変位量0~1mm間の最大値)と、動摩擦力B(動摩擦力ピーク(変位量1~60mm間の最大値))を抽出した。抽出した静摩擦力A2と動摩擦力ピークBを用いて、巻ズレ防止の指標とする動摩擦力Bの静摩擦力A2に対する割合の変化率を、算出式=(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100(%)で求めた。結果を表1に示す。
【0097】
[フィルムの蛇行・シワ評価]
実施例及び比較例で用意した各フィルム(1200mm幅)について、スリッター装置を用い、通常速度300m/分の条件と、フィルム蛇行・シワが発生し易い速度400m/分の条件にて、それぞれ、巻取寸法580mm幅×1500mにスリット加工を行った。スリット加工後の搬送ロール上にあるフィルムの蛇行・シワについて、目視で観察して、以下の評価基準で評価した。結果を表1に示す。
A:フィルム蛇行、シワがない。
B:フィルム蛇行、シワがない。ただし、速度上昇によりフィルム蛇行、シワが発生する恐れがある。
C:フィルム蛇行、シワのいずれか一つがある。
【0098】
[巻ズレ評価]
前記の[フィルムの蛇行・シワ評価]と同様にしてスリット加工した、寸法580mm幅×1500mの各フィルムを、巻芯(長さ620mm、直径92.5mm)の周囲に速度300m/分で巻き取り、フィルムロールの形態とした。得られたフィルムロールの端面の凹凸差を、「優:A」、「並:B」、「劣:C」の3段階で評価し、「並:B」以上である場合を合格として、次の基準で評価した。結果を表1に示す。
A:フィルムロールの端面の凹凸差が0mm
B:フィルムロールの端面の凹凸差が0mm超え1.0mm以下
C:フィルムロールの端面の凹凸差が1.0mm超え
【0099】
[巻取体の巻ズレ評価]
粘着剤層を有する基材フィルム(580mm幅×300m、非シリコーン系PETセパレータフィルム、粘着剤層:エポキシ系粘着剤(熱硬化性樹脂))を用意した。実施例及び比較例で用意した各フィルム(580mm幅にスリット加工したもの)のスキン層と、基材フィルムの粘着剤層とが接面するようにして、基材フィルムと各フィルムとを貼り合わせて、積層体を調製し、これを評価試料とした。評価試料を50m/分の速度で巻芯(長さ620mm、直径92.5mm)の周囲に巻き取り、巻取体とした。次に、巻取体を段ボール箱に梱包し、JIS-Z0232に規定された方法に従い、振動試験(レベル3)後、フィルムロール端面の凹凸差を、「優:A+」、「良:A」、「並:B」及び「劣:C」の4段階で評価し、「並:B」以上である場合を合格として、次の基準で評価した。結果を表1に示す。
A+:フィルムロール端面の凹凸差が0mm以上1.0mm以下
A:フィルムロール端面の凹凸差が1.0mm超え3.0mm以下
B:フィルムロール端面の凹凸差が3.0mm超え5.0mm以下
C:フィルムロール端面の凹凸差が5.0mm超え
【0100】
【0101】
実施例1~7の積層フィルムは、コア層と、前記コア層の少なくとも一方面側に積層されたスキン層とを備える積層フィルムであって、スキン層は、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーを含み、スキン層中のエチレン含有率が4.5質量%以上40質量%以下であり、積層フィルムのスキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、5.56gf/cm2圧力時の静摩擦力A1が、3.30gf/cm2以上5.50gf/cm2以下であり、積層フィルムの前記スキン層の表面と、二軸延伸ポリエステルフィルムとを重ねて測定される、33.33gf/cm2圧力時の静摩擦力A2に対する、33.33gf/cm2圧力時の動摩擦力Bの割合の変化率:(1+(動摩擦力B-静摩擦力A2)÷静摩擦力A2)×100が、110%以上である。実施例1~7の積層フィルムは、フィルムの加工工程における搬送ロール上でのフィルムの蛇行及びシワの発生、フィルムロールに巻き取る際の巻ズレが抑制され、さらに、粘着剤層の保護フィルムとして、基材フィルムと共に巻回して巻取体とした場合に、当該巻取体に物理的な外力が加わった際、巻取体の保護フィルムと基材フィルムとの間で巻ズレが発生することが好適に抑制されている。
【0102】
例えば、実施例1と実施例4との対比、実施例2と実施例5との対比、実施例3と比較例3との対比から理解されるように、スキン層の樹脂配合比において、低密度ポリエチレンに代えて高密度ポリエチレンを用いると、静摩擦力A1,A2及び動摩擦力B、及び前記変化率は、いずれも低下する傾向にあるといえる。ただし、静摩擦力A1については、スキン層中のエチレン-プロピレンランダムコポリマーやエチレン-プロピレンブロックコポリマーの含有率による影響も受けやすい。例えば、エチレン-プロピレンランダムコポリマーやエチレン-プロピレンブロックコポリマーの含有率が少ない場合に、低密度ポリエチレンに代えて高密度ポリエチレンを用いると、静摩擦力A1が低下する傾向が強くなるといえる。
【0103】
また、例えば実施例6と実施例7との対比、実施例3と比較例5との対比から理解されるように、エチレン-プロピレンランダムコポリマーの代わりにエチレン-プロピレンブロックコポリマーの割合を増やすと、静摩擦力A2及び動摩擦力Bは低下する傾向にあるといえる。一方、静摩擦力A1と前記変化率については、スキン層中の低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンの含有率による影響が大きい。低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンを含まない場合(スキン層中の低密度ポリエチレン及び高密度ポリエチレンの含有率が0質量%である場合(実施例6,7))、エチレン-プロピレンランダムコポリマーの代わりにエチレン-プロピレンブロックコポリマーの割合を増やすと静摩擦力A1は低下し、前記変化率は高まる傾向にある。また、低密度ポリエチレン又は高密度ポリエチレンを含む場合(実施例3、比較例3)、エチレン-プロピレンランダムコポリマーの代わりにエチレン-プロピレンブロックコポリマーの割合を増やすと静摩擦力A1は高まり、前記変化率は低下する傾向があるといえる。
【0104】
また、実施例1と実施例2との対比、実施例1と実施例3との対比、実施例2と実施例3との対比から理解されるように、スキン層において、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーの代わりに、低密度ポリエチレンの割合を増やすと、柔軟性が高まり、結果として動摩擦力Bや前記変化率は高まる傾向があるといえる。
【0105】
また、実施例7と実施例5との対比、実施例4と比較例4もしくは比較例3との対比から理解されるように、スキン層において、エチレン-プロピレンブロックコポリマー及びエチレン-プロピレンランダムコポリマーの代わりに、高密度ポリエチレンの割合を増やすと、柔軟性が低くなり、結果として動摩擦力Bや前記変化率は低下する傾向があるといえる。
【0106】
以上の傾向を踏まえて、スキン層の低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、エチレンプロピレンランダムコポリマー、エチレンプロピレンブロックコポリマーの含有率を適宜調整して、静摩擦力A1,A2,動摩擦力B、及び前記変化率を制御することができる。