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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】転がり軸受及び保持器
(51)【国際特許分類】
   F16C 33/41 20060101AFI20240214BHJP
   F16C 19/06 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F16C33/41
F16C19/06
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019203171
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2021076187
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山本 祐也
(72)【発明者】
【氏名】秋元 翔太
【審査官】倉田 和博
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-047122(JP,U)
【文献】特開2007-303600(JP,A)
【文献】特開2003-254337(JP,A)
【文献】実公平59-006264(JP,Y2)
【文献】特開2007-263280(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16C 33/41
F16C 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、
前記保持器は、前記転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、当該環状体から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、を有し、
前記つのには、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向に開口する欠損部が形成されていて、当該つのは、当該欠損部の周方向についての両側に前記転動体と接触する一対のつの本体を備え、
前記一対のつの本体の間に補剛リブが設けられていて、
前記補剛リブは、軸方向一方側に設けられ前記環状体と前記一対のつの本体とを繋げている第一リブ部と、前記第一リブ部から軸方向他方に延びてかつ周方向に間隔をあけて設けられ前記つの本体と繋がっている一対の第二リブ部と、を有し、
前記一対の第二リブ部の間に設けられている切り欠き部は、径方向外側から前記補剛リブを見た場合、角部の存在しない凹形状を有する、転がり軸受。
【請求項2】
前記内輪は、前記転動体としての玉が転がり接触する内輪軌道を有し、
前記保持器は、前記内輪軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部を有する、請求項1に記載の転がり軸受。
【請求項3】
前記補剛リブは、前記一対のつの本体の間のうちの径方向内側寄りの位置に設けられている、請求項1又は2に記載の転がり軸受。
【請求項4】
転がり軸受が備える転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、当該環状体から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、を有し、
前記つのには、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向に開口する欠損部が形成されていて、当該つのは、当該欠損部の周方向についての両側に前記転動体と接触する一対のつの本体を備え、
前記一対のつの本体の間に補剛リブが設けられていて、
前記補剛リブは、軸方向一方側に設けられ前記環状体と前記一対のつの本体とを繋げている第一リブ部と、前記第一リブ部から軸方向他方に延びてかつ周方向に間隔をあけて設けられ前記つの本体と繋がっている一対の第二リブ部と、を有し、
前記一対の第二リブ部の間に設けられている切り欠き部は、径方向外側から前記補剛リブを見た場合、角部の存在しない凹形状を有する、保持器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、転がり軸受及び保持器に関する。
【背景技術】
【0002】
転がり軸受は、内輪と、外輪と、これら内輪と外輪との間に設けられている複数の転動体と、環状の保持器とを備える。転動体が玉である玉軸受の場合、いわゆる冠型と呼ばれる樹脂製の保持器が用いられる。冠型の保持器が採用される転がり軸受では、グリース等の潤滑剤を撹拌しない領域(無撹拌領域)が広く、グリースのせん断が抑制されるという利点がある。特許文献1に、冠型の保持器を備える転がり軸受が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-35317号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
冠型の保持器は、転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、複数のつのとを有する。つのは、環状体から軸方向他方に延びて設けられている。このため、転がり軸受が回転すると、遠心力によってつのの先端側部が外輪側へ変形し、特に回転速度が高いと、つのの一部が外輪に接触し、保持器が偏摩耗する可能性がある。
【0005】
そこで、本開示は、遠心力によって保持器のつのが変形し難くなると共に、つのの強度低下を防ぐことを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の転がり軸受は、内輪と、外輪と、前記内輪と前記外輪との間に設けられている複数の転動体と、前記複数の転動体を周方向に間隔をあけて保持する環状の保持器と、を備え、前記保持器は、前記転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、当該環状体から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、を有し、前記つのには、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向に開口する欠損部が形成されていて、当該つのは、当該欠損部の周方向についての両側に前記転動体と接触する一対のつの本体を備え、前記一対のつの本体の間に補剛リブが設けられている。
【0007】
この転がり軸受によれば、つのに前記欠損部が形成されていることで、つのの重量が小さくなり、保持器に働く遠心力を小さくできる。転がり軸受が回転すると転動体がつのに周方向から接触する。つのの強度が前記欠損部により低下するが、前記補剛リブにより、つのの強度の低下を防ぐことができる。以上より、つのの重量を小さくして遠心力によってつのが変形し難くなると共に、補剛リブによりつのの強度低下を防ぐことができる。
【0008】
また、好ましくは、前記内輪は、前記転動体としての玉が転がり接触する内輪軌道を有し、前記保持器は、前記内輪軌道に接触することで当該保持器の位置決めを行うガイド部を有する。
この構成によれば、内輪軌道には玉が転がり接触することから、例えば研磨等の機械加工が行われる。このような内輪軌道にガイド部を接触させることで、保持器が安定してガイドされる。
【0009】
また、好ましくは、前記補剛リブは、前記一対のつの本体の間のうちの径方向内側寄りの位置に設けられている。
この構成によれば、補剛リブを径方向外側寄りの位置に設ける場合と比較して、欠損部の容積を大きくすることが可能となる場合があり、つのを軽量化する作用が高くなる。
【0010】
また、好ましくは、前記補剛リブは、軸方向一方側に設けられ前記環状体と前記一対のつの本体とを繋げている第一リブ部と、前記第一リブ部から軸方向他方に延びてかつ周方向に間隔をあけて設けられ前記つの本体と繋がっている一対の第二リブ部と、を有する。
この構成によれば、補剛リブは、一対の第二リブ部の間が欠損していて、補剛リブによる重量の増加を抑えることができる。しかも、第一リブ部及び第二リブ部によって、一対のつの本体と環状体とが繋がり、補剛リブは、つの本体の補剛材としての機能を十分に有することができる。
【0011】
また、本開示の保持器は、転がり軸受が備える転動体よりも軸方向一方に位置する環状体と、当該環状体から軸方向他方に延びて設けられている複数のつのと、を有し、前記つのには、当該つのの軸方向の一方側から他方側にわたって軸方向他方及び径方向に開口する欠損部が形成されていて、当該つのは、当該欠損部の周方向についての両側に、前記転動体と接触する一対のつの本体を備え、前記一対のつの本体の間に補剛リブが設けられている。
【0012】
この保持器によれば、つのに前記欠損部が形成されていることで、つのの重量が小さくなり、保持器に働く遠心力を小さくできる。保持器を備える転がり軸受が回転すると転動体がつのに周方向から接触する。つのの強度が前記欠損部により低下するが、前記補剛リブにより、つのの強度の低下を防ぐことができる。以上より、つのの重量を小さくして遠心力によってつのが変形し難くなると共に、補剛リブによりつのの強度低下を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0013】
本開示の発明によれば、保持器のつのが変形し難くなると共に、つのの強度低下を防ぐことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】転がり軸受の断面図である。
図2】保持器の斜視図である。
図3】保持器及びその周囲を示す断面図である。
図4】保持器の一部を径方向外側から見た拡大図である。
図5】保持器の一部を軸方向他方側から見た拡大図である。
図6図4におけるVI矢視の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、転がり軸受の断面図である。図1に示す転がり軸受10は、内輪11と、外輪12と、これら内輪11と外輪12との間に設けられている複数の転動体と、環状の保持器14とを備える。本開示の前記転動体は、玉13であり、転がり軸受10は玉軸受(深溝玉軸受)である。図1は、転がり軸受10の中心線C(「軸受中心線C」とも言う。)を含む断面を示す。
【0016】
本開示において、転がり軸受10の中心線Cに沿った方向が、転がり軸受10の軸方向であり、単に「軸方向」と称する。この軸方向には、中心線Cに平行な方向も含まれる。図1における右側を軸方向一方と定義し、図1における左側を軸方向他方と定義する。軸受中心線Cに直行する方向が、転がり軸受10の径方向であり、単に「径方向」と称する。軸受中心線Cを中心として転がり軸受10(本開示では内輪11)が回転する方向が、転がり軸受10の周方向であり、単に「周方向」と称する。
【0017】
図1に示す転がり軸受10は、更に、軸方向両側にシール15を備える。シール15は、内輪11と外輪12との間に形成される環状空間16(「軸受内部」とも言う。)のグリース等の潤滑剤が外部(軸受外部)へ漏れるのを防ぐ。また、シール15は、軸受外部の異物が軸受内部へ侵入するのを防止する機能も備える。
【0018】
内輪11は環状の部材であり、その外周に、玉13が転がり接触する内輪軌道21が形成されている。図1に示す断面において、内輪軌道21は、玉13の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。内輪11の軸方向両側部それぞれの外周面には、凹溝23が形成されている。凹溝23とシール15の内周部とが隙間を有して対向している。この隙間によりラビリンス隙間が構成される。
【0019】
外輪12は環状の部材であり、その内周に、玉13が転がり接触する外輪軌道22が形成されている。図1に示す断面において、外輪軌道22は、玉13の半径よりも僅かに大きな半径の凹円弧形状を有する溝により構成されている。外輪12の軸方向両側部それぞれの内周面には、シール溝24が形成されている。シール溝24にシール15の外周部が取り付けられている。
【0020】
玉13は、内輪軌道21と外輪軌道22との間に複数介在している。転がり軸受10(内輪11)が回転すると、玉13は内輪軌道21及び外輪軌道22を転動する。
【0021】
図2は、保持器14の斜視図である。図3は、保持器14及びその周囲を示す断面図である。保持器14は、環状体(環状部)31と、複数のつの(柱部)32とを有する。本開示の保持器14は、更に、ガイド部33を有する。環状体31は、円環形状の部分であり、玉13よりも軸方向一方に位置する。つの32はすべて同じ形状である。つの32は、環状体31から軸方向他方に延びて設けられている。ガイド部33は、つの32の径方向内方に設けられている。つの32とガイド部33との間には径方向の隙間17が設けられている。環状体31の軸方向他方側であって、周方向で隣り合う一対のつの32,32の間が、玉13を収容するポケット30となる。ポケット30は周方向に沿って複数形成されている。
【0022】
以上より、保持器14は、複数の玉13を周方向に間隔をあけて保持することができる。つの32の周方向に望む面28を有する部分(後述のつの本体38)がポケット30の一部となる。その面28に玉13が接触可能である。環状体31の軸方向他方側に望む面29を有する部分が、前記ポケット30の他部となる。その面29に玉13が接触可能である。保持器14は、例えばポリアミド等の樹脂製(合成樹脂製)であり、射出成形によって製造される。環状体31とつの32とガイド部33とは一体成形されており、保持器14は単一部材からなる。
【0023】
ガイド部33について更に説明する。ガイド部33は、環状体31の径方向内側の部分34(図3参照)から軸方向他方に延びて設けられている。ガイド部33は、環状体31に接続するガイド部本体61と、ガイド部本体61の軸方向他方側の径方向内方側に設けられている突出部35とを有する。突出部35は、内輪11側に突出している。突出部35の一部が、内輪軌道21に接触可能となる。
【0024】
保持器14の中心線が、軸受中心線Cと一致する状態で(図3の状態で)、突出部35と内輪軌道21との間に隙間が形成される。この状態から、保持器14が径方向に変位すると、突出部35が内輪軌道21に径方向から接触する。これにより、保持器14の径方向の変位が制限される。図3の状態から、保持器14が軸方向一方に変位すると、突出部35が内輪軌道21に軸方向から接触する。これにより、保持器14の軸方向一方の変位が制限される。なお、図3の状態から、保持器14が軸方向他方に変位すると、環状体31の前記面29が玉13に接触する。これにより、保持器14の軸方向他方の変位が制限される。
【0025】
このように、ガイド部33は、保持器14の径方向及び軸方向の移動を制限する機能を有する。つまり、ガイド部33は、内輪軌道21に接触することで保持器14の位置決めを行う。ガイド部33が内輪軌道21に接触(滑り接触)することによって保持器14の回転が案内される。すなわち、本開示の保持器14は、軌道ガイド(内輪軌道ガイド)の保持器となる。
【0026】
図4は、保持器14の一部を径方向外側から見た拡大図である。図5は、保持器14の一部を軸方向他方側から見た拡大図である。つの32に、欠損部37が形成されている。欠損部37は、つの32の軸方向の一方側から他方側にわたって設けられていて、軸方向他方及び径方向に開口している。本開示の発明では、後に説明するが、つの32の径方向内側寄りの位置に補剛リブ40が設けられていることから(図6参照)、欠損部37は、軸方向他方及び径方向外方に開口している。図6は、図4におけるVI矢視の断面図である。
【0027】
欠損部37により、つの32は、その欠損部37の周方向についての両側に一対のつの本体(柱本体)38を有することとなる(図4参照)。一対のつの本体38,38は、玉13と接触するポケット30の一部30aを構成する。なお、ポケット30の残りの他部30bは、環状体31により構成される。一対のつの本体38,38の間に補剛リブ40が設けられている。補剛リブ40は、欠損部37の一部に設けられている。補剛リブ40は、つの本体38よりも径方向の寸法が小さい板状である。
【0028】
図4において、補剛リブ40は、第一リブ部41と、一対の第二リブ部42,42とを有する。第一リブ部41は、欠損部37の軸方向一方側に設けられていて、環状体31と、一対のつの本体38,38の軸方向一方側の部分39a,39aとを繋ぐ。一対の第二リブ部42,42は、周方向に間隔をあけて設けられている。各第二リブ部42は、第一リブ部41から軸方向他方に延びて設けられている部分であり、つの本体38の軸方向他方側の部分39b,39bと繋がっている。
【0029】
前記のとおり、一対の第二リブ部42,42は、周方向に間隔をあけて設けられている。このため、第二リブ部42,42の間が欠損している。その欠損している部分を「切り欠き部43」と称する。図4に示すように、径方向外側から補剛リブ40を見た場合、切り欠き部43は、角部の存在しない凹形状を有する。これにより、切り欠き部43によって補剛リブ40に応力集中が生じにくい。
【0030】
補剛リブ40は、一対のつの本体38,38の間のうちの径方向内側寄りの位置に設けられている(図6参照)。補剛リブ40は、つの本体38における径方向についての中心一Sよりも径方向内側に設けられている。補剛リブ40の軸方向他方側の側面40aは、つの本体38の軸方向他方側の側面38aよりも、環状体31側に存在する。図4に示すように、つの本体38において玉13が接触する領域Jと、つの本体38を挟んで、反対側の領域の一部に、補剛リブ40(第二リブ部42)の少なくとも一部が設けられている。
【0031】
図2において、玉13が収容されている一つのポケット30を挟んで、周方向両側のつの32,32に着目する。これらつの32,32のうち、一方を第一のつの32-1とし、他方を第二のつの32-2とする。周方向で隣り合う一対のつの32-1,32-2それぞれの軸方向他方側の先端の間隔Qは、玉13の直径よりも大きい。
【0032】
これをより具体的に説明すると次のとおりである。第一のつの32-1は一対のつの本体38,38を有し、このうち、第二のつの32-2側のつの本体38の符号を図2において「38-1」とする。第二のつの32-2も一対のつの本体38,38を有し、このうち、第一のつの32-1側のつの本体38の符号を図2において「38-2」とする。玉13が収容されている一つのポケット30を挟んで、一方のつの本体38-1の軸方向他方側の先端と、他方のつの本体38-2の軸方向他方側の先端との間隔Qは、玉13の直径よりも大きい。
【0033】
前記構成により、保持器14が軸方向一方に変位しようとすると、その保持器14の変位は玉13によって制限されない。そこで、前記のとおり保持器14のガイド部33が内輪軌道21に軸方向から接触可能である。このため、保持器14は、内輪11と外輪12との間から脱落しない。
【0034】
なお、一般的な深溝玉軸受の場合、いわゆる冠型の保持器が採用される。その冠型の保持器は、つのの先端側に爪部を有し、周方向で隣り合う一対のつのの爪部の間隔は、玉の直径よりも小さい。この構成により、冠型の保持器は、玉によって軸方向の移動が規制され、これにより、その保持器は、内輪と外輪との間から脱落しない。
このような冠型の保持器に対して、本開示の保持器14では、一般的な冠型の保持器のような玉の直径よりも間隔が小さくなる一対の前記爪部が存在しない。このような爪部が設けられないことで、本開示の保持器14は軽量化される。
【0035】
以上のように、本開示の転がり軸受10が備える保持器14は、玉13よりも軸方向一方に位置する環状体31と、環状体31から軸方向他方に延びて設けられている複数のつの32とを有する。各つの32には欠損部37が形成されている。欠損部37は、つの32の軸方向の一方側から他方側にわたって設けられ、軸方向他方及び径方向に開口している。各つの32は、欠損部37の存在により、当該欠損部37の周方向についての両側に一対のつの本体38,38を備える。そして、一対のつの本体38,38の間に補剛リブ40が設けられている。
【0036】
この転がり軸受10(保持器14)によれば、つの32に欠損部37が形成されていることで、つの32の重量が小さくなり、保持器14に働く遠心力を小さくできる。各つの本体38は、玉13と接触するポケット30の一部を構成する。このため、転がり軸受10が回転すると玉13が進み遅れ等によって、つの32(つの本体38)に周方向から接触する。つの32の強度が欠損部37により低下するが、補剛リブ40により、つの32の強度の低下を防ぐことができる。つまり、補剛リブ40により、欠損部37が形成されているつの32における周方向の剛性が高まる。以上より、つの32の重量を小さくして遠心力によってつの32が変形し難くなると共に、補剛リブ40によりつの32の強度低下を防ぐことができる。
【0037】
本開示の転がり軸受10では、保持器14はガイド部33を有する。ガイド部33は、ガイド部33が有する突出部35が内輪軌道21に接触することで保持器14の位置決めを行う。つまり、ガイド部33は、保持器14の径方向及び軸方向の移動を規制し、保持器14の回転を案内する。内輪軌道21には玉13が転がり接触することから、例えば研磨等の機械加工が行われる。このような内輪軌道21にガイド部33を接触させることで、保持器14が安定してガイドされる。
【0038】
保持器14の回転は内輪11によってガイドされる構成であるため、保持器14が内輪11寄りに位置する。このため、保持器14の半径を小さくすることが可能となる。遠心力は、質量、角速度、回転中心からの距離(半径)のいずれかを小さくすれば、小さくなる。よって、本開示の保持器14によれば、保持器14が内輪11寄りに位置するため、保持器14に働く遠心力をより一層小さくすることが可能である。
【0039】
内輪ガイドの保持器14であるため、ポケット30と玉13との間の隙間を、(図示しないが)保持器が玉によってガイドされる転動体ガイドの場合よりも、広く設定することが可能となる。よって、保持器14のつの32が遠心力によって弾性変形しても、玉13とポケット30とが部分的に接触して保持器14の偏摩耗を防ぐことが可能となる。
【0040】
図6に示すように、補剛リブ40は、一対のつの本体38,38の間のうちの径方向内側寄りの位置に設けられている。このため、補剛リブ40を径方向外側寄りの位置に設ける場合と比較して、欠損部37の容積を大きくすることが可能となる。これは、一つのつの32における一対のつの本体38,38間の周方向の長さが(図5参照)、径方向内側寄りで小さく、径方向外側寄りで大きくなるためである。よって、つの32を軽量化する作用が高くなる。また、補剛リブ40が、径方向内側寄りに設けられることで、径方向外側寄りに設けられる場合よりも、回転中心からの距離(半径)が小さくなり、補剛リブ40に作用する遠心力は小さくなる。
【0041】
図4に示すように、補剛リブ40は、軸方向一方側に設けられている第一リブ部41と、一対の第二リブ部42,42とを有する。第一リブ部41は、環状体31と一対のつの本体38,38とを繋げている。一対の第二リブ部42,42は、第一リブ部41から軸方向他方に延びてかつ周方向に間隔をあけて設けられ、つの本体38,38と繋がっている。
【0042】
この補剛リブ40の構成によれば、一対の第二リブ部42,42の間が欠損していて、補剛リブ40による重量の増加を抑えることができる。しかも、第一リブ部41及び第二リブ部42,42によって、一対のつの本体38,38と環状体31とが繋がる。このため、補剛リブ40は、つの本体38,38の補剛材としての機能を十分に有することができる。また、補剛リブ40の軸方向他方側には、切り欠き部43が形成されている。このため、つの32の軸方向他方側の重量が特に軽くなり、遠心力によって外輪12側に変形し難くなる。
【0043】
以上より、本開示の転がり軸受10によれば、保持器14に作用する遠心力を小さくすることができる。このため、保持器14が遠心力によって外輪12側に弾性変形し難くなる。よって、保持器14の一部が外輪12に局部的に接触して偏摩耗するのを防ぐことができ、転がり軸受10の長寿命化を実現することが可能となる。特に、本開示の転がり軸受10(保持器14)は、高速回転に好適である。
【0044】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲の範囲に記載された構成と均等の範囲内での全ての変更が含まれる。
前記実施形態では、転がり軸受が深溝玉軸受である場合について説明したが、アンギュラ玉軸受であってもよい。
【符号の説明】
【0045】
10:転がり軸受 11:内輪 12:外輪
13:玉(転動体) 14:保持器 21:内輪軌道
31:環状体 32:つの 33:ガイド部
37:欠損部 38:つの本体 40:補剛リブ
41:第一リブ部 42:第二リブ部
図1
図2
図3
図4
図5
図6