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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】照明装置
(51)【国際特許分類】
   F21V 9/40 20180101AFI20240214BHJP
   F21V 3/00 20150101ALI20240214BHJP
   F21S 2/00 20160101ALI20240214BHJP
   F21Y 115/10 20160101ALN20240214BHJP
【FI】
F21V9/40 400
F21V3/00 320
F21S2/00 481
F21Y115:10
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019203866
(22)【出願日】2019-11-11
(65)【公開番号】P2021077534
(43)【公開日】2021-05-20
【審査請求日】2022-10-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】TOPPANホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】▲高▼橋 裕介
【審査官】野木 新治
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-153414(JP,A)
【文献】特開2013-168367(JP,A)
【文献】特開2012-113996(JP,A)
【文献】特表2017-536662(JP,A)
【文献】特開2018-128566(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F21V 9/40
F21V 3/00
F21S 2/00
F21Y 115/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
発光源が配置された光源装置と、
前記光源装置の後段に位置し、該光源装置からの光の拡散状態を切り替える光学素子を備え、
前記光学素子は、駆動電圧を印加する制御により、20%以下の低ヘイズ状態と90%以上の高ヘイズ状態との間で多段階に切り替え自在に構成され、
前記光学素子を透過した光のうち、前記光学素子に入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量Cとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Rとするときに、
100×(C-R)/(C+R) … 式(1)
式(1)で規定される前記光学素子のクラリティが、高ヘイズ状態で90%以下を維持することを特徴とする照明装置。
【請求項2】
前記光学素子は、100V以下の駆動電圧を印加する制御により、前記低ヘイズ状態と前記高ヘイズ状態との間で多段階に切り替え自在に構成されるものである請求項1記載の照明装置。
【請求項3】
前記光学素子は、
少なくとも透明電極が形成されたフレキシブルな透明基材フィルムを互いの透明電極側を対向して、厚さ5μm以上30μm以下の調光層を挟持してなる構成の全体厚さが2mm以下の調光フィルムを含んでおり、
前記調光層は、50nm以上200nm以下のサイズの液晶カプセルがポリマー中に分散配置された高分子分散型液晶、または三次元の網目状に形成された樹脂からなるポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に配置された液晶分子を有するドメインサイズが2μm以下のポリマーネットワーク型液晶、の何れかであることを特徴とする請求項1または2に記載の照明装置。
【請求項4】
前記光源装置における発光源の配置は、複数の点光源のマトリクス配列または複数の線状光源の1次元並列の何れかである請求項1~3の何れか一項に記載の照明装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、照明光の拡散状態の変調が可能な照明装置に関する。
【背景技術】
【0002】
照明光の拡散状態が変調される光学素子が応用される照明装置としては、照明器具のカバー,車両用ヘッドライト,表示装置用バックライト,トレース用ライトテーブル,光学的な検査装置などが考えられ、2次元画像と3次元画像の切替え表示を行なうためのレンズアレイが併用されるインテグラル方式のディスプレイへの採用に係る報告例も見られている。(特許文献1参照)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-104375号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
液晶材料を含む調光層を具備する調光装置では、調光層の状態を透明な状態と白濁した状態との間で切り替えることによって、調光層を挟む2つの空間において、一方の空間から他方の空間に向けた像の視認性を変えている。調光層の透明状態と白濁状態(光散乱状態)の評価パラメータとして、JIS K 7136:2000に規定されるヘイズ値が多用されている。
【0005】
調光層に発光源が近接して配置された形態で、発光源からの光の拡散状態を切り替える用途に前記調光層を適用する場合、調光層の拡散状態においても発光源の写り込みは解消されず、調光層のヘイズ値が90%を示す場合であっても、ホットスポットやホットバーと称される局所的に高輝度な現象を呈することが確認されており、調光層を有する面内での輝度の均一化は実現されにくい。
【0006】
本発明は、間隔を置いて配置された発光源の写り込みを解消して、一定面積内での輝度分布が均一化された面状光源を得る上で好適な光学特性を奏する光学素子を備える照明装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明による照明器具は、
発光源が配置された光源装置と、
前記光源装置の後段に位置し、該光源装置からの光の拡散状態を切り替える光学素子を備え、
前記光学素子は、100V/cm以下の駆動電圧での電気的制御により、20%以下 の低ヘイズ状態と90%以上の高ヘイズ状態との間で多段階に切り替え自在に構成され、
前記光学素子を透過した光のうち、前記光学素子に入射した平行光の光軸に対して直進する直進光の光量を光量Cとし、前記平行光の前記光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光の光量を光量Rとするときに、
100×(C-R)/(C+R) … 式(1)
式(1)で規定される前記光学素子のクラリティが、高ヘイズ状態で90%以下を維持することを特徴とする。
【0008】
前記光学素子は、100V/cm以下の駆動電圧での電気的制御により、15%以下
の低ヘイズ状態と90%以上の高ヘイズ状態との間で多段階に切り替え自在に構成されるものであっても良い。
【0009】
前記光学素子は、
少なくとも透明電極が形成されたフレキシブルな透明基材フィルムを互いの透明電極側を対向して、厚さ5μm以上30μm以下の調光層を挟持してなる構成の全体厚さが2mm以下の調光フィルムを含んでおり、
前記調光層は、50nm以上200nm以下のサイズの液晶カプセルがポリマー中に分散配置された高分子分散型液晶、または三次元の網目状に形成された樹脂からなるポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に配置された液晶分子を有するドメインサイズが2μm以下のポリマーネットワーク型液晶、の何れかが好適である。高分子分散型液晶の場合、液晶カプセルの平均サイズは110~120nmの範囲であることが好適である。
【0010】
前記光源装置における発光源の配置は、複数の点光源のマトリクス配列または複数の線状光源の1次元並列の何れかであっても良い。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、間隔を置いて配置された発光源の写り込みを解消して、一定面積内での輝度分布が均一化された面状光源への切り替わりが可能な照明装置が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一例に係る照明装置10の外観を示すモノクロ写真。
図2図1の照明装置10の主要部の概略を示す断面図。
図3】照明装置に収納したで発光源が透けて見える状態を示すモノクロ写真。
図4】クラリティの測定に用いられる測定装置の一例を示す説明図。
図5】ヘイズの値が同程度である3種類の調光フィルム20による光拡散特性について、調光フィルム20を透過した拡散光強度の配向特性として示すグラフ。
図6】調光フィルム20に駆動電力を供給する給電部70を含む平面図(a)および要部の拡大断面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0014】
図1は、本発明の一例に係る照明装置10の外観を示すモノクロ写真である。
【0015】
図1の照明装置では、発光源(ランプ)として発光ダイオード(図示せず)が照明装置10内に配列収納された光源装置に対向して、図中で照明カバーと示す光学素子11が照明装置10の表面に配置されている。
【0016】
省エネルギーに対する要求に応えるべく照明分野においても、白熱電球等に比べて高いエネルギー効率が実現可能なLEDを光源に用いた照明装置の普及が近年著しい。LED照明に使用されている発光ダイオード(LEDチップ)は、エネルギーの集積度が高いことや、従来の照明(白熱電球等)と比較すると輝度が高いことが知られている。そのため、発光ダイオードをそのまま室内用照明器具として使用することは、裸眼では眩しく感じられるため不適当とされている。また、LED照明では、複数の光源が存在するために多重の影が発生することも懸念されている。
【0017】
こうした点に鑑みて、LED照明の眩しさを軽減すると共に、多重の影を抑制するために、光源を覆う様に照明カバー(光拡散カバー)を配置し、照明カバー全体が均一な輝度分布で発光している様に見せかけることが行なわれている。
【0018】
一般的なLED照明装置は、発光する半導体デバイスである「LEDチップ」を表面実装型や砲弾型の形状とした「パッケージ」,基板に実装した「モジュール」,パッケージやモジュールを電球形や直管形の「ランプ」に組み込んだ光源から構成される。
【0019】
図2は、図1の照明装置10の主要部の概略を示す断面図である。基板15上に搭載された複数個のランプ(発光源)13が中空の筐体に収納され、発光の出射面側に照明カバー11が配置される。図2の例では、筐体内のランプは「横×縦=3×4」個のマトリクス状に収納されて、上下方向(同図で垂直方向)には4個のランプが並んでいる。
【0020】
本発明における主要な特徴部は、照明カバー11に、ヘイズを2段階以上に切り替え可能な調光フィルム20を適用してなる点にあり、調光フィルムの駆動に応じて、照明カバー11を通してユーザーが感覚する光線の輝度,ヘイズの少なくとも何れかが切り替わる照明光の照射が実現される。照明カバー11は、透明基材の一方の面(ランプ側が好ましい)に調光フィルム20をラミネートした構造である。
【0021】
ランプ(発光源)13が収納された筐体の外部には調光フィルム20を駆動する電圧制御ユニット14と照明器具10の電源12が図示される。電圧制御ユニット14,電源12は筐体下部の台座あるいは筐体の背面に収納されて、調光フィルム20,ランプ(発光源)13に所定信号を送り、それらを駆動する。
【0022】
<調光フィルム>
ヘイズを2段階以上に切り替え可能な調光フィルム20を構成する光学素子(調光層)としては、偏光板を用いずに光の利用効率の高い液晶素子であり、液晶の透過状態(透明状態ともいう)と散乱状態との間でスイッチングを行なうPDLCまたはPNLCが選択される。PDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)は、液晶分子がポリマー中に分散配置された高分子分散型液晶であり、PNLC(Polymer Network Liquid Crystal)は、三次元の網目状に形成された樹脂からなるポリマーネットワークの内部に形成された空隙内に配置された液晶分子を有するポリマーネットワーク型液晶である。
【0023】
PDLC,PNLCを調光層として用いる際、その使用態様により、ノーマルモードとリバースモードの二種が知られている。ノーマルモードとは、電圧印加により透過状態となり、電界除去により散乱状態となるモードを言う。また、リバースモードとは、電圧非印加により透過状態となり、電圧印加により散乱状態となるモードを言う。
【0024】
PNLCからなる調光層の製造にあたっては、特許第4387931号に例示される手法に従い、液晶と光重合性化合物(モノマー)との混合物を一対の透明電極基板の間に挟み、一定の条件下で紫外線を照射し、光重合によって光重合性化合物が高分子に変化すると共に、光重合および架橋結合により、微細なドメイン(高分子の空隙)を無数に有するポリマーネットワークが液晶中に形成する。
【0025】
PNLCの駆動電圧は、一般にポリマーネットワークの構造上の特性(ドメインの大きさや形状,ポリマーネットワークの膜厚など)に依存しており、ポリマーネットワークの構造と、得られる光透過と散乱度との関係において、駆動電圧が決定されている。100V以下の電圧領域において、十分な光透過と散乱度とが得られるようなPNLCを構成するには、各ドメインがいずれも適正な大きさで均一となるように、かつ、形状も均一となるようにポリマーネットワークを形成する必要がある。本発明では、ポリマーネットワーク構造に依存するドメインサイズを3μm以下、好ましくは2μm以下、一層好ましくは約1μmとなる様に制御する。
【0026】
調光層を具備するシート(フィルム)では、リジッドな一対の透明電極基板を用いた枚
葉式の製造プロセスまたはフレキシブルな一対の透明電極基板(フィルム)を用いたロール・トゥ・ロール(roll to roll)方式での製造プロセスが採用される。本発明においては、照明カバーが平坦面のみならず曲率を有する3次元形状である場合の変形例も多く想定されるため、調光フィルム20はフレキシブルな材料で製造されることが好適である。
【0027】
調光層は、5μm~30μm(好適には10μm~25μm程度)の厚さでの製造が好ましい。透明導電フィルムは、フレキシブルな透明樹脂フィルム上にITOやIZOや有機導電膜などの透明な導電材料からなる透明電極を成膜してなる透明導電フィルムを互いの透明電極側を対向して調光層を挟持する。透明電極の好適な厚さは略80nm以上150nm以下である。
【0028】
図6は、調光フィルム20を電気的制御により低ヘイズ状態と高ヘイズ状態とに切り替えるための駆動電力を供給する給電部70を含む平面図(a)および要部の拡大断面図(b)である。調光層22(PNLCまたはPDLC)に電圧を印加するための給電部の形成手法の一例では、透明導電フィルム23(a,b)それぞれの端部において、透明基材25,透明導電層26,(リバースモードの場合、配向膜も含めて),および調光層22が切り欠かれて露出させた透明導電層26の表面に、接着強度を一層高める上で銀ペースト,カーボンテープ,銅テープがそれぞれ用いられて、接続端子(給電部)70が形成され、ハンダを経由した引回し配線により、駆動制御手段80を経由して電源(不図示)に接続される。一方の透明導電フィルム側に形成される給電部70(a)は、他方の透明導電フィルム側に形成された給電部70(b)とは重なり合わず離間した箇所に形成される。こうして透明導電フィルム23に付与された給電部70から電圧が印加され、調光フィルム20の液晶駆動が行なわれる。
【0029】
調光フィルム20を構成するPNLCが「高ヘイズ」であると、照明カバー11の全面が光拡散状態となり、図1に示す様に、照明カバー全体が均一な輝度で発光している様に見える。尚、図2に示す照明カバー11と調光フィルム20の積層構造体の全体厚さとしては、2mm以下であることが好ましい。
【0030】
PNLCへの電圧印加状態を切り替え、PNLCが「低ヘイズ」となる様に調光フィルム20を駆動した場合、図3に示す様に、全面でランプ(発光源)13が透けて見える状態となり、照明カバー全面での均一な発光状態は解消されて光線透過率が高い(眩しい)状態での照明となる。
【0031】
PNLCが「低ヘイズ」を呈する場合、ヘイズが20%以下であると、調光フィルム20越しの被写体を観察するに必要十分な透明度は確保できる。ヘイズが15%以下であると、調光フィルム20自体を観察した場合の認識がほぼ透明となるような透明度を確保でき、美感の観点からも好適である。そのため、PNLCの低ヘイズ状態では、ヘイズが15%以下であることが一層好ましい。
【0032】
[クラリティの測定方法]
間隔を置いて配置されたランプ(発光源)13の写り込みを解消して、図1に示す様に、一定面積内での輝度分布が均一化された面状光源を得る上で好適な光学特性を奏する光学素子(調光フィルム20)の評価パラメータとして、本発明では「クラリティ」を併用する。
【0033】
図4を参照して、クラリティの測定方法を説明する。図4は、クラリティの測定に用いられる測定装置の一例を模式的に示している。
【0034】
図4に示すように、クラリティの測定装置40は、照射部41,受光部42,積分球43を備える。照射部41は、光源41Aとレンズ41Bとを備える。光源41Aは白色LEDであり、レンズ41Bは、光源41Aが放出した光を平行光に変換する。受光部42は、中央センサー42Cと、外周センサー42Rとを備える。中央センサー42Cおよび外周センサー42Rは、それぞれ環状を有する。外周センサー42Rは、中央センサー42Cの外側に位置している。なお、測定装置40は、測定対象のクラリティを測定だけでなく、ヘイズの測定にも用いることが可能である。測定装置40の積分球43は、ヘイズの測定時にのみ用いられる。
【0035】
測定装置40において、調光フィルム20は、照射部41と積分球43との間に配置される。レンズ41Bから射出された平行光の光束における直径は、本実施形態では14mmである。調光フィルム20を透過した光には、調光フィルム20に入射した平行光LPの光軸に対して直進する直進光LSと、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光LNSとが含まれる。受光部42では、中央センサー42Cが直進光LSを受光し、外周センサー42Rが狭角散乱光LNSを受光する。中央センサー42Cが受光した直進光LSの光量をCに設定し、外周センサー42Rが受光した狭角散乱光LNSの光量をRに設定する。
【0036】
クラリティは、調光フィルム20を透過した光のなかで、調光フィルム20に入射した平行光LPの光軸に対して直進する直進光LSの光量を光量Cとし、平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°以内である狭角散乱光LNSの光量を光量Rとするときに、以下の式(1)によって算出される。
【0037】
100×(C-R)/(C+R) … 式(1)
ここで、上述したように、測定装置40を用いて調光フィルム20におけるヘイズを測定することが可能である。なお、ヘイズは、JIS K 7136:2000に準拠する方法によって測定される。また、測定装置40を用いてヘイズを測定する場合には、積分球43内に配置された受光部によって、調光フィルム20を透過した光を受光する。
【0038】
ヘイズとは、測定対象を通過する透過光のうち、前方散乱によって入射光から2.5°以上それた透過光の百分率のことである。言い換えれば、ヘイズの測定において、上述した平行光LPの光軸に対する角度が±2.5°未満の光が平行光であり、±2.5°以上の光が広角散乱光である。広角散乱光の透過率を拡散透過率Tdとし、平行光の透過率を平行透過率Tとし、平行透過率Tと拡散透過率Tとの和を全光透過率Tとする。このとき、ヘイズは、全光透過率T中の拡散透過率Tの割合であり、次式で表される。
ヘイズ=100×(T/T)=100×(T/(T+T)) … 式(2)
上述したように、1つの測定装置40を用いて調光フィルム20のクラリティとヘイズとを測定することが可能ではある。しかしながら、クラリティとヘイズとは、調光フィルム20における全く異なる性質を数値化するためのパラメータである。
【0039】
つまり、ヘイズとは広角散乱光を用いて調光フィルム20の状態を評価するパラメータである。そのため、ヘイズによれば、調光フィルム20を目視によって観察した場合に、観察者が知覚する調光フィルム20全体の濁り度合い、例えば、調光フィルム20全体の白茶け度合いを評価することが可能である。これにより、観察者が、調光フィルム20を介して被写体を視認したときには、調光フィルム20におけるヘイズの値が大きいほど、調光フィルム20越しのランプ(発光源)13と、ランプ(発光源)13の周囲とのコントラストが低下し、観察者には被写体がかすんで見える。このように、ヘイズとは、あくまで調光フィルム20の濁り度合いを評価するためのパラメータである。
【0040】
これに対して、クラリティとは狭角散乱光を用いて調光フィルム20の状態を評価するパラメータである。そのため、クラリティによれば、調光フィルム20を通したランプ(発光源)13の像において、ランプ(発光源)13における非常に微小な部分が、どの程度鮮明であるかを評価することが可能である。これにより、観察者が、調光フィルム20を介してランプ(発光源)13を視認したときには、調光フィルム20におけるクラリティの値が小さいほど、調光フィルム20越しのランプ(発光源)13における輪郭がぼやける、言い換えれば、ランプ(発光源)13の鮮明さが低下する。このように、クラリティとは、調光フィルム20を介して視認されたランプ(発光源)13の像における鮮明さを評価するものであり、ヘイズとは全く異なる性質を評価するものである。すなわち、クラリティによれば、ヘイズによって評価することのできない調光フィルム20の性質を評価することが可能である。
【0041】
上述したように、ヘイズとは、調光フィルム20全体の濁り度合いを評価するパラメータである。そのため、調光フィルム20における不透明さをヘイズによって評価した場合には、調光フィルム20の濁り度合いは十分であっても、調光フィルム20越しに視認されたランプ(発光源)13の輪郭が鮮明に見える場合もある。言い換えれば、ヘイズによって評価された調光フィルム20には、調光フィルム20を介して視認されたランプ(発光源)13の輪郭を不鮮明にする能力が不足した調光フィルム20が含まれ得る。また言い換えれば、ヘイズの値が同程度である複数の調光フィルム20には、クラリティの値が互いに異なる調光フィルム20が含まれ得る。これらの調光フィルム20では、濁り度合いは互いにほぼ等しい一方で、調光フィルム20越しに視認されたランプ(発光源)13において、輪郭のぼやけ度合いが互いに異なる。そして、こうした輪郭のぼやけ度合いの差は、調光フィルム20が観察者によって目視された場合に、不透明さの度合いの違いとして観察者に知覚される。結果として、ヘイズの値による不透明さの評価と、目視による不透明さの評価との間に乖離が生じる。
【0042】
この点で、調光フィルム20の不透明さをクラリティによって評価した場合には、クラリティが小さいほど、調光フィルム20越しに観察した被写体における輪郭のぼやけ度合いが高まる。それゆえに、クラリティによる不透明さの評価と、目視による不透明さの評価との間に、乖離が生じることが抑えられる。
【0043】
図5は、ヘイズの値が同程度である3種類の調光フィルム20による光拡散特性について、調光フィルム20を透過した拡散光強度の配向特性として示すグラフである。縦軸が光強度,横軸が配向角に該当する。厳格には、配向角度=0°(正面)での透過光強度は平行光(=非拡散光)の透過率に相当する。ヘイズ値が同程度とは、拡散光の光量の総和が等しいことである。グラフ(a)(b)(c)の曲線と横軸(光強度=0)とで囲まれる部分の面積は全て等しい。
【0044】
一点鎖線でプロットするグラフ(a)は、配向角度=0°(正面)での拡散透過光の強度が高く、配向角度が大きくなると拡散透過光の強度が顕著に低下する拡散透過光の強度分布を示すタイプである。点線でプロットするグラフ(b)は、配向角度=0°(正面)での拡散透過光の強度は低く、配向角度が大きくなっても拡散透過光の強度が維持される拡散透過光の強度分布を示すタイプである。
【0045】
グラフ(a)のタイプでは、正面から離れた周辺角度からの視覚では、拡散性が低いため不透明さが不足して、調光フィルム20越しの先が透けて見える可能性が高い。グラフ(b)のタイプでは、正面から周辺にかけて視覚角度に応じての拡散性の増減は少なく、調光フィルム20越しの先は安定的に透けて見えないが、ぼやけ度合いが不十分と思われる可能性が高い。
【0046】
実線でプロットするグラフ(c)のタイプは、グラフ(a)のタイプとグラフ(b)のタイプとの中間的な光拡散特性を持つタイプであり、上述のクラリティを考慮した光拡散特性を有するタイプである。グラフ(d)に3タイプの光拡散特性を重ねて示す様に、グ
ラフ(c)は、配向角度=0°(正面)から+2.5°,-2.5°における拡散透過光の強度が3タイプのうち最も高い。±2.5°以内の狭角散乱光の光量は、その角度範囲内でのグラフ(a)(b)(c)の曲線と横軸(光強度=0)とで囲まれる部分の面積が大きいと、上述した「狭角散乱光LNSの光量R」が大きいことになる。前記光量Rの大小は、図5(e)で模式的に示される図形の面積で表される。
【0047】
[照明装置の管理方法]
照明装置の管理方法は、照明装置の製造方法や、照明装置の制御方法に用いられる。照明装置の管理方法は、調光フィルム20が正常であるか否かの判定を行う。調光フィルム20が正常であると判定する条件の一例は、下記条件1および条件2を含む。
(条件1):調光フィルム20が高ヘイズ状態であるときに、クラリティが90%以下である。クラリティは、上述した式(1)によって算出される。調光フィルム20が高ヘイズ状態では、90%以上のヘイズ値を示す。
(条件2):調光フィルム20が高ヘイズ状態では、90%以上のヘイズ値を示し、調光フィルム20が低ヘイズ状態では、20%以下(好ましくは、15%以下)のヘイズ値を示す。
【0048】
<実施例1>
厚さ125μmの透明基材フィルム(PETフィルム)の片面に厚さ100nmでITOからなる透明電極を成膜して構成される2枚の透明導電フィルムを、互いの透明電極側を対向した上で、PDLC(高分子分散型液晶)からなる調光層を膜厚20μmで挟持して、全体厚さ270μmのノーマルモードの調光フィルムを作製した。この調光フィルムは、調光層の内部にサイズが80~150nm(実測値)の液晶カプセルがポリマー中に分散配置されていることが確認された。
【0049】
100mm角サイズにカットした調光フィルムの一端に給電部および駆動制御手段を形成して光学素子とした後、調光フィルムの駆動に伴う光学特性を測定した。
【0050】
調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)では、ヘイズ値96%,クラリティ65%であった。調光フィルムに40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、ヘイズ値6%であった。
【0051】
光学素子を厚さ1mmの透明プラスチックからなる照明カバーに積層し、筐体内に発光源である約5mm角のLEDパッケージを10mm間隔で線状に10個配列して収納された照明装置の出射面側に配置した。発光源の配列面から光学素子までの離間距離は約10mmである。
【0052】
照明装置のLEDを点灯させ、調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)で観察したところ、収納されたLEDパッケージの輪郭は不明瞭であり、光学素子の面内の輝度が均一化されて一様に発光した面光源として認識された。調光フィルム40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、筐体内で線状に配列されたLEDパッケージの輪郭が明瞭になり、点光源が並んだ線状光源として認識された。
【0053】
<実施例2>
厚さ125μmの透明基材フィルム(PETフィルム)の片面に厚さ100nmでITOからなる透明電極を成膜して構成される2枚の透明導電フィルムを、互いの透明電極側を対向した上で、PDLC(高分子分散型液晶)からなる調光層を膜厚20μmで挟持して、全体厚さ270μmのノーマルモードの調光フィルムを作製した。この調光フィルムは、調光層の内部に平均サイズが115nmの液晶カプセルがポリマー中に分散配置されていることが確認された。
【0054】
100mm角サイズにカットした調光フィルムの一端に給電部および駆動制御手段を形成して光学素子とした後、調光フィルムの駆動に伴う光学特性を測定した。
調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)では、ヘイズ値96%,クラリティ85%であった。調光フィルムに40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、ヘイズ値18%であった。
【0055】
<比較例1>
厚さ125μmの透明基材フィルム(PETフィルム)の片面に厚さ100nmでITOからなる透明電極を成膜して構成される2枚の透明導電フィルムを、互いの透明電極側を対向した上で、PDLC(高分子分散型液晶)からなる調光層を膜厚20μmで挟持して、全体厚さ270μmのノーマルモードの調光フィルムを作製した。この調光フィルムは、調光層の内部に平均サイズが35nmの液晶カプセルがポリマー中に分散配置されていることが確認された。
【0056】
100mm角サイズにカットした調光フィルムの一端に給電部および駆動制御手段を形成して光学素子とした後、調光フィルムの駆動に伴う光学特性を測定した。
【0057】
調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)では、ヘイズ値94%,クラリティ95%であった。調光フィルムに40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、ヘイズ値6%であった。
【0058】
光学素子を厚さ1mmの透明プラスチックからなる照明カバーに積層し、筐体内に発光源である約5mm角のLEDパッケージを10mm間隔で線状に10個配列して収納された照明装置の出射面側に配置した。発光源の配列面から光学素子までの離間距離は約10mmである。
照明装置のLEDを点灯させ、調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)で観察したところ、光学素子の面内の輝度は均一化されず、発光源の写り込みが確認されて、収納されたLEDパッケージの形状が視認され、面光源としては不十分な機能であった。調光フィルム40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、筐体内で線状に配列されたLEDパッケージの輪郭は一層明瞭になり、点光源が並んだ線状光源として認識された。
【0059】
<比較例2>
厚さ125μmの透明基材フィルム(PETフィルム)の片面に厚さ100nmでITOからなる透明電極を成膜して構成される2枚の透明導電フィルムを、互いの透明電極側を対向した上で、PDLC(高分子分散型液晶)からなる調光層を膜厚20μmで挟持して、全体厚さ270μmのノーマルモードの調光フィルムを作製した。この調光フィルムは、調光層の内部に平均サイズが300nmの液晶カプセルがポリマー中に分散配置されていることが確認された。
【0060】
100mm角サイズにカットした調光フィルムの一端に給電部および駆動制御手段を形成して光学素子とした後、調光フィルムの駆動に伴う光学特性を測定した。
【0061】
調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)では、ヘイズ値94%,クラリティ95%であった。調光フィルムに40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、ヘイズ値6%であった。
【0062】
光学素子を厚さ1mmの透明プラスチックからなる照明カバーに積層し、筐体内に発光源である約5mm角のLEDパッケージを10mm間隔で線状に10個配列して収納された照明装置の出射面側に配置した。発光源の配列面から光学素子までの離間距離は約10mmである。
【0063】
照明装置のLEDを点灯させ、調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)で観察したところ、光学素子の面内の輝度は均一化されず、発光源の写り込みが確認されて、収納されたLEDパッケージの形状が視認され、面光源としては不十分な機能であった。調光フィルム40Vの電圧を印加した状態(透過状態)では、筐体内で線状に配列されたLEDパッケージの輪郭は一層明瞭になり、点光源が並んだ線状光源として認識された。
【0064】
光学素子を厚さ1mmの透明プラスチックからなる照明カバーに積層し、筐体内に発光源である約5mm角のLEDパッケージを10mm間隔で線状に10個配列して収納された照明装置の出射面側に配置した。発光源の配列面から光学素子までの離間距離は約10mmである。
【0065】
照明装置のLEDを点灯させ、調光フィルムへの電圧無印加状態(散乱状態)で観察したところ、収納されたLEDパッケージの輪郭は不明瞭であり、光学素子の面内の輝度が均一化されて一様に発光した面光源として認識された。調光フィルム40Vの電圧を印加した状態(透過状態)でも、筐体内で線状に配列されたLEDパッケージの輪郭は不明瞭なままであり、点光源が並んだ線状光源として明確に認識されず、ホットスポットやホットバーの視覚されるぼやけた面光源として認識された。
【0066】
実施例1,2および比較例1,2の評価結果を表1に示す。
【0067】
【表1】
【0068】
調光フィルムが高ヘイズ状態(電圧無印加の散乱状態)におけるクラリティが90%を超える比較例1,2では、発光源の写り込みが確認されて、収納されたLEDパッケージの形状が視認され、面内輝度が不均一な面光源となっている。
【0069】
実施例1では、面内輝度が均一な面光源から線状光源への切り替えが明瞭に行なわれ、発光状態を可変に制御できる照明装置が得られることが確認された。
【0070】
調光フィルムが低ヘイズ状態における透過性が若干低い(ヘイズが18%)実施例2では、LEDパッケージの輪郭は不明瞭なままで、点光源が並んだ線状光源として明確には認識されず、面内輝度が均一な面光源から線状光源への切り替えは、実施例1に比較して明瞭に行なわれなかった。点光源が並んだ線状光源としての視認性を向上する上では、調光フィルムが低ヘイズ状態における透過性が高い(ヘイズが低い)方が一層好ましい。
【0071】
ヘイズは、平行透過率Tpと拡散透過率Tとの和である全光透過率Tt中の拡散透過率Tの割合(=T/T)であり、T内には±2.5°以内の狭角散乱光の光量Rも含まれることから、±2.5°以外の広角散乱光の光量をXとするとTd=R+Xとなり、クラリティの要因である直進光の光量C(=T)として、散乱状態における実施例,比較例の光拡散特性について、ヘイズ値,クラリティ値を代入して計算する。
【0072】
実施例1の場合、
ヘイズ値96=100(R+X)/(C+R+X)
クラリティ値65=100(C-R)/(C+R)
であることから、R+X=24C,C=33R/7が導かれ、±2.5°以外の広角散乱光量X=785R/7となる。実施例2,比較例も含めた結果は、表2で示す通りになる。
【0073】
【表2】
【0074】
ヘイズ値が僅かに大きい実施例1,実施例2(共に96)は、比較例1,2(共に94
)に比べて、全光線中の拡散光の割合が平行光の24倍(比較例1,2は約15.7倍)となっている。クラリティ値が大きい比較例1,2(共に95)は、実施例1(65),実施例2(85)に比べて、平行光Cと広角散乱光Xの占める割合が、共に39R+935R=974Rとなっており、非常に大きい。狭角散乱光量Rは全光線中の1/975を占める微量である。
【0075】
実施例1では、平行光Cと広角散乱光Xの占める割合は、(33+785)R/7であり、狭角散乱光量Rは全光線中の約1/116.7である。実施例2では、平行光Cと広角散乱光Xの占める割合は、(37+885)R/3であり、狭角散乱光量Rは全光線中の約1/307.3である。ヘイズ=90,クラリティ値=90の場合の計算では、拡散光(R+X)は平行光(C)の9倍,平行光(C)は狭角散乱光量Rの19倍,広角散乱光Xは狭角散乱光量Rの170倍となり、狭角散乱光量Rは全光線中の1/190を占めることになる。
【0076】
以上説明した通り、従来の「ヘイズ」による評価に加えて、±2.5°以内の狭角散乱光量も考慮した新たなパラメータである「クラリティ」も併用した調光フィルムの不透明さを評価する手法の採用により、距離が近く照射輝度が高い発光源が配列された光源装置に対向して配置し、光源装置からの光の拡散状態を切り替える上で好適な光学素子に要求される光学特性(光拡散特性)の評価基準として有効である。
【符号の説明】
【0077】
10 照明装置
11 照明カバー
12 電源
13 ランプ(発光源)
14 電圧制御ユニット
15 基板
20 調光フィルム
22 調光層
23 透明導電フィルム(a,b)
25 透明基材(a,b)
26 透明導電層(a,b)
70 給電部(a,b)
80 駆動制御手段
40 測定装置
41 照射部
41A 光源
41B レンズ
42 受光部
42C 中央センサー
42R 外周センサー
43 積分球
LP 平行光
LS 直進光
LNS 狭角散乱光
図1
図2
図3
図4
図5
図6