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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】成形用組成物及び成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 67/02 20060101AFI20240214BHJP
   C08L 1/00 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 5/29 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 5/353 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 5/1515 20060101ALI20240214BHJP
   C08L 101/16 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
C08L67/02 ZBP
C08L1/00
C08K5/29
C08K5/353
C08K5/1515
C08L101/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019225243
(22)【出願日】2019-12-13
(65)【公開番号】P2021095432
(43)【公開日】2021-06-24
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】弁理士法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】小▲柳▼ 淳
(72)【発明者】
【氏名】立花 宏泰
【審査官】常見 優
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-152787(JP,A)
【文献】特開2005-154479(JP,A)
【文献】特開2010-270289(JP,A)
【文献】特開2002-097358(JP,A)
【文献】特開2010-229343(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/16
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤が混練されてなる成形用組成物であって、
前記生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネートを主成分として含み、
前記パルプ繊維の含有量をPとし、前記生分解性樹脂の含有量をQとした場合、P:Q=10:90~60:40であり、
前記滑剤は、炭素数が12以上の脂肪族化合物であり、前記脂肪族化合物は、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有し、
JIS K 7210 に準じて、190℃、10kg荷重条件下で測定される前記成形用組成物のメルトフローレートが9.0~20.0g/10minである、成形用組成物。
【請求項2】
前記加水分解抑制剤の含有量は、前記成形用組成物の全質量に対して、0.1~5.0質量%である、請求項1に記載の成形用組成物。
【請求項3】
前記滑剤の含有量は、前記成形用組成物の全質量に対して、0.1~5.0質量%である、請求項1又は2に記載の成形用組成物。
【請求項4】
前記加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1~3のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項5】
前記生分解性樹脂は、融点が160℃以下の樹脂である、請求項1~4のいずれか1項に記載の成形用組成物。
【請求項6】
請求項1~のいずれか1項に記載の成形用組成物を成形加工してなる、成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は成形用組成物及び成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
プラスチックは、私たちの生活に利便性と恩恵をもたらしている有用な物質であるが、通常、不適切な廃棄処分で流出すると長期間にわたり自然環境中にとどまることとなる。特に、海洋に流出しているプラスチックごみは世界全体で年間数百万トンを超えると推計されており、地球規模での環境汚染による生態系、生活環境、漁業、観光等への悪影響が懸念されている。こうした問題の解決のためには、経済活動を制約することなくプラスチックごみの流出を抑えることが望ましいが、仮に自然環境へ流出しても分解される素材の開発や、こうした素材への転換も期待されている。近年、こうした流れの中で生分解性プラスチックの利用が注目を集めており、農業用マルチフィルムや生ゴミ袋、釣り糸、植生ネットといった用途に活用され始めている。
【0003】
プラスチック製品の中で、家電部品や自動車部品のように耐久性の求められる用途においては、機械的強度を備えることが求められる。一般的に、樹脂に強度を付与するためには強化フィラーを添加する手法が取られる。これまでに強化フィラーとしてガラス繊維や炭素繊維のような強化繊維を添加したプラスチックが実用化されているが、これらは自然環境中での分解が困難であり、かつリサイクル性にも課題が残っている。
【0004】
一方、植物繊維は自然環境下で分解されるため、植物繊維により強化された生分解プラスチックは、環境中に流出しても負荷が少なく、様々な用途への展開が期待される。
【0005】
例えば、特許文献1では、熱可塑性の生分解性樹脂中にパルプまたはセルロース系繊維が5~60重量%含まれてなる生分解性複合材料からなる成形体が開示されている。ここでは、叩解した新聞古紙パルプとポリカプロラクトン繊維を水中で離解し、湿式造粒法により円柱状ペレットとし、得られたペレットを加熱して射出成形して成形体を得る方法が検討されている。また、特許文献2には、多塩基酸無水物により変性可能な熱可塑性樹脂に、セルロース及びリグニンを含有する植物繊維1~70重量%、イソシアネート系樹脂0.05~8重量%、さらに多塩基酸無水物0.05~30重量%、有機過酸化物0.05~8重量%を共に加えて加熱混練してなる複合材が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平06-345944号公報
【文献】特許第4002942号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
パルプ等の繊維をフィラーとして添加した成形体においては、樹脂と繊維の界面密着性が十分ではないために、繊維を添加せずに単一のプラスチックで構成した成形体と比べて、引張強度や引張破断伸びなどの引張特性が劣るという問題があった。とりわけ押出成形にてフィルムやシートなどの製品を生産する際には、延伸のかかった方向に対して分子・繊維配向が発生するため、配向と直角の方向には引張強度が弱くなり、裂けが発生しやすくなるため問題となる。
【0008】
また、パルプ等の繊維をフィラーとして添加した成形体をシート状に成形した後に真空成型や圧空成形を行う際は、パルプ自体が樹脂に比べて伸びにくいため、複雑な形状への形状追従性が劣り、繊維部分を起点とした部材強度の低下、および成形欠陥を引き起こしやすくなる。
【0009】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、成形性が良好であり、かつ引張特性に優れた成形体を提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤が混練されてなる成形用組成物において、パルプ繊維の含有量と生分解性樹脂の含有量を所定範囲内とし、さらに、所定構造を有する滑剤を用いることにより、成形性が良好であり、かつ引張特性に優れた成形体が得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0011】
[1] パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤が混練されてなる成形用組成物であって、
パルプ繊維の含有量をPとし、生分解性樹脂の含有量をQとした場合、P:Q=10:90~60:40であり、
滑剤は、炭素数が12以上の脂肪族化合物であり、脂肪族化合物は、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有する、成形用組成物。
[2] 加水分解抑制剤の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、0.1~5.0質量%である、[1]に記載の成形用組成物。
[3] 滑剤の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、0.1~5.0質量%である、[1]又は[2]に記載の成形用組成物。
[4] 加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1種である、[1]~[3]のいずれかに記載の成形用組成物。
[5] 生分解性樹脂は、融点が160℃以下の樹脂である、[1]~[4]のいずれかに記載の成形用組成物。
[6] 生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネートを主成分として含む、[1]~[5]のいずれかに記載の成形用組成物。
[7] JIS K 7210 に準じて、190℃、10kg荷重条件下で測定される成形用組成物のメルトフローレートが4.0~20.0g/10minである、[1]~[6]のいずれかに記載の成形用組成物。
[8] [1]~[7]のいずれかに記載の成形用組成物を成形加工してなる、成形体。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、成形性が良好であり、かつ引張特性に優れた成形体を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。なお、本明細書において「~」を用いて表される数値範囲は「~」前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0014】
(成形用組成物)
本発明は、パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤が混練されてなる成形用組成物に関する。ここで、成形用組成物中におけるパルプ繊維の含有量をPとし、生分解性樹脂の含有量をQとした場合、P:Q=10:90~60:40である。また、滑剤は、炭素数が12以上の脂肪族化合物であり、脂肪族化合物は、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有するものである。
【0015】
本発明の成形用組成物は、上記構成を有するものであるため、成形性が良好であり、かつ引張特性に優れた成形体を成形することができる。ここで、成形体の成形性については、成形用組成物から成形した板状成形物を、さらに湾曲部を有する形状に加熱加圧成形した際に成形欠陥が見られないか、もしくは、成形欠陥の発生が少ない場合に良好であると判定できる。本発明の成形用組成物は、湾曲部を有する形状や凹凸部を有する形状といった複雑な形状の成形体を成形する際にも優れた成形性を発揮することができる。また、成形体の引張特性は、JIS K 7161に準じて測定した成形体の引張強度によって評価できる。具体的には、成形体の引張強度は、45MPa以上であることが好ましく、50MPa以上であることがより好ましい。なお、成形体の引張強度の上限値は特に限定されるものではないが、例えば、200MPa以下であることが好ましい。
【0016】
本発明の成形用組成物においては、パルプ繊維と生分解性樹脂に加えて、加水分解抑制剤と所定構造を有する滑剤を混合したため、成形用組成物(混練体)の流動性を著しく向上させることに成功した。これにより、成形体の成形性を格段に向上させることができる。このような成形性の向上は、脂肪族化合物が有するカルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種が加水分解抑制剤と反応し、結合することにより樹脂と樹脂の間、もしくは樹脂とパルプの間に脂肪族化合物が入り込むことが可能となり、これにより、成形用組成物の流動性が高められたことによるものと考えられる。
【0017】
本発明の成形用組成物は、上記構成を有するものであるため、成形体の強度を高めることもできる。具体的には、本発明の成形用組成物から成形された成形体は、樹脂のみから成形された成形体に比べて、高い曲げ応力と曲げ弾性率を有している。
【0018】
また、本発明の成形用組成物は、バイオマス資源であるパルプ繊維と生分解性樹脂が混練されてなる成形用組成物である。そのため、製造時の低コスト化を可能とし、かつ生産が化石資源に依存しないカーボンニュートラルな素材の割合が増えるため、廃棄処理時には二酸化炭素の排出量を低減することも可能となる。また、本発明の成形体は、自然環境下で生分解され得るものであり、生分解性に優れている。成形体の生分解性は、例えば、ASTM D6691に規定された自然海水を用いた生分解性試験によって評価することができ、生分解度が所定値以上である場合、生分解性が良好であると評価することができる。
【0019】
なお、自然環境中には、セルロース分解性の微生物が数多く存在しており、30±2℃の自然海水中において6ヶ月でセルロースの80%以上が水と二酸化炭素に分解されることが知られている。このため自然環境中での生分解が比較的緩やかに行われる樹脂であっても、セルロースを配合することで組成物としての生分解速度を向上できる。加えて、組成物を構成するセルロースが分解されることで成形体に空隙が生じ、樹脂の表面積が増すため、樹脂自体の生分解速度の向上も期待できる。
【0020】
成形用組成物のメルトフローレート(MFR)は、4.0g/10min以上であることが好ましく、5.0g/10min以上であることがより好ましく、6.0g/10min以上であることがさらに好ましく、7.0g/10min以上であることが特に好ましい。また、成形用組成物のメルトフローレート(MFR)の上限値は特に限定されるものではないが、50.0g/10min以下であることが好ましい。成形用組成物のメルトフローレート(MFR)を上記範囲内とすることにより、成形用組成物から成形体を成形する際の成形性をより効果的に高めることができる。なお、成形用組成物のメルトフローレート(MFR)は、190℃、10kg荷重下においてJIS K 7210に準じて測定される値である。
【0021】
成形用組成物は、パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤が混練されてなる組成物であり、その性状は固形状体であってもよく、溶融状態の液状体であってもよい。なお、成形用組成物が固形状体である場合、成形用組成物は、ペレット状や、フレーク状、粉粒状であってもよい。
【0022】
(パルプ繊維)
パルプ繊維としては、木材パルプ、非木材パルプ、および脱墨パルプ等を用いることができる。木材パルプとしては、広葉樹晒クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹晒クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、広葉樹溶解パルプ(LDKP、LDSP)、針葉樹溶解パルプ(NDKP、NDSP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)および酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ、セミケミカルパルプ(SCP)およびケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)およびサーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ等が挙げられる。非木材パルプとしては、コットンリンターおよびコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わらおよびバガス等の非木材系パルプが挙げられる。脱墨パルプとしては、古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられる。中でも、パルプ繊維は、木材パルプ又は綿系パルプであることが好ましい。
【0023】
パルプ繊維としては、セルロース純度が90%以上のパルプ繊維を用いることが好ましい。セルロース純度が90%以上のパルプ繊維を用いることにより、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気を抑えることができる。これは、パルプ繊維のセルロース純度を90%以上とすることにより、通常の植物繊維に含まれるヘミセルロースやリグニンの含有率を有意に低減することが可能となり、これにより、ヘミセルロースやリグニンの分解時に生じる着色や臭気の発生を抑制できているものと推測される。
【0024】
セルロース純度が90%以上のパルプ繊維としては、例えば、溶解パルプやコットン繊維等を挙げることができる。中でも、溶解パルプは特に好ましく用いられる。なお、通常の抄紙工程で用いられる広葉樹や針葉樹の晒クラフトパルプのセルロース純度は、85%程度である。
【0025】
溶解パルプは、針葉樹パルプや広葉樹パルプ等に含まれるリグノセルロース物質からヘミセルロースとリグニンを選択的に除去することにより得ることができる。中でも、溶解パルプは、酸性サルファイト蒸解法又は前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた溶解パルプであることが好ましい。溶解パルプの生産に使用するリグノセルロース物質は、樹木、非樹木のいずれの原材料に由来するでもよく、異なる樹種、異なる原材料から得られたリグノセルロース物質を混合して加工した溶解パルプを用いてもよい。溶解パルプとしては、異なる樹種、異なる原材料から得られた溶解パルプを混合して用いてもよい。
【0026】
溶解パルプは、針葉樹由来パルプもしくは広葉樹由来パルプのいずれかであることが好ましいが、広葉樹由来パルプであることがより好ましい。一般に針葉樹材よりも広葉樹材の方が、容積重量が高く処理効率の高い溶解パルプが得られる点において好適である。さらに広葉樹の中でも容積重量が高いユーカリやアカシアは特に好ましく用いられる。このような広葉樹としては、例えば、ユーカリ・グロブラス、ユーカリ・グランディス、ユーカリ・ユーログランディス、ユーカリ・ペリータ、ユーカリ・ブラシアーナ、アカシア・メランシ等を挙げることができ、中でもユーカリ・ペリータは好ましく用いられる。
【0027】
広葉樹の容積重量は、450~700kg/m3であることが好ましく、500~650kg/m3であることがより好ましい。広葉樹の容積重量を上記範囲内とすることにより、パルプの生産効率を上げることができ、さらに、前加水分解やアルカリ蒸解時に薬液が十分に浸透するためセルロース純度の高いパルプを得ることができる。
【0028】
セルロース純度が90%以上のパルプ繊維として、コットン繊維を用いることも好ましい。コットン繊維は綿花から採取した原綿を原料とし、原綿に付着している種子片、葉片、塵などを除去しながら解きほぐすことによって得られる。コットン繊維は、必要に応じてカーディング、コーミング、引き延ばし、裁断などの処理を行い、所望する繊維長及び繊維径に調整することができる。
【0029】
パルプのセルロース純度は90%以上が好ましく、95%以上であることがより好ましい。パルプのセルロース純度を上記範囲内とすることにより、混練や成形の工程で加熱した際に発生する着色や臭気を効果的に抑えることができる。パルプのセルロース純度は98%以下であることが好ましい。パルプ中に極微量のヘミセルロースやリグニンが含まれることにより、パルプの分散性を向上させることができ、さらにヘミセルロース由来のカルボキシ基を介して、加水分解抑制剤と結合しやすくなる。
【0030】
パルプ繊維のセルロース純度は、具体的には、以下の方法で算出することができる、まず、20℃恒温水槽中のビーカーに絶乾量5gのパルプ繊維を入れた後、17.5質量%の水酸化ナトリウム溶液50mlを均一に添加する。3分30秒放置した後、ガラス棒を用いて5分間試料を押し潰して十分に離解させる。試料の表面を平らに均して20分間置いた後、蒸留水を50ml加えて内容物をガラス棒で掻き混ぜる。その後、内容物を濾過した後、洗浄水総量900mlで吸引・脱水を繰り返して内容物を水洗する。10%酢酸40mlを注ぎ5分間放置して酸液を十分に浸透させた後、1Lの煮沸水で水洗して内容物を乾燥させる。内容物の乾燥重量が供試料の絶乾量に占める割合をαセルロース含有率として算出し、セルロース純度(%)とする。
セルロース純度(%)=(絶乾αセルロースの重量/絶乾パルプ繊維の重量)×100
なお、パルプ繊維のセルロース純度を測定する際にはパルプ繊維単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する有機溶剤等を用いてパルプ分のみを抽出して試験に供することが好ましい。なお、抽出の際に用いる有機溶剤としては、公知のものを使用することができる。例えば、ケトン系有機溶剤、芳香族系炭化水素系有機溶剤、エーテル系有機溶剤、含ハロゲン系有機溶剤、アルコール系有機溶剤、エステル系有機溶剤、グリコール系有機溶剤などが挙げられる。有機溶剤は単独あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。溶解効率の良い有機溶剤としては、アセトン、メチルエチルケトン(2-ブタノン)(以後MEKと記す)、メチルイソプチルケトン(4ーメチルー2-ペンタノン)(以後MlBKと記す)、ジオキサン、テトラヒドロフラン、シクロへキサノン単独や、アセトンZエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、MEKZエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、ΜΙΒΚΖエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、ジオキサンΖエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、テトラヒドロフランΖエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、シクロへキサノンΖエチレングリコールモノブチルエーテル混合溶液、アセトンΖイソプロパノール混合溶液、ΜΕΚΖイソプロパノール混合溶液、MIBKZイソプロパノール混合溶液、ジオキサンZイソプロパノール混合溶液、テトラヒドロフランZイソプロパノール混合溶液、シクロへキサノンZイソプロパノール混合溶液などが好適に使用できる。
【0031】
パルプ繊維のJIS P 8121-1995に準じて測定されるカナダ標準パルプ濾水度は600~750mlであることが好ましく、650~750mlであることがより好ましい。パルプ繊維のカナダ標準パルプ濾水度を上記上限以下とすることにより、パルプ繊維同士が適度に交絡して、成形体の強度を高めることができる。また、パルプ繊維のカナダ標準パルプ濾水度を上記下限値以上とすることにより、成形用組成物中における生分解性樹脂の分散性が高まり、均一な成形用組成物が得られる。また、成形用組成物を混練及び成形する際の摩擦熱の発生を抑えてパルプ繊維由来の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。なお、パルプ繊維の濾水度を測定する際にはパルプ単体を測定に供することが好ましいが、パルプと樹脂の混錬物を測定に供してもよい。この場合、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出して、パルプ濾水度の試験に供することが好ましい。
【0032】
パルプ繊維の含有量は、成形用組成物の全質量に対して10~60質量%であればよく、15~55質量%であることが好ましく、20~50質量%であることがより好ましい。パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性をより効果的に高めることができる。また、パルプ繊維の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の強度を高めることもでき、さらには成形体の生分解性を高めることもできる。なお、成形用組成物中におけるパルプ繊維の含有量は、成形用組成物を作製する際に添加したパルプ繊維の配合量から算出できるが、成形用組成物をX線回折に供して得られた回折強度値から簡易的に算出することも可能である。例えば、パルプ繊維は回折角2θ=15.4、22.5に、ポリブチレンサクシネートは回折角2θ=19.6、22.7、28.9に結晶ピークが存在し、回折角2θ=15.4(パルプ繊維)、19.6(ポリブチレンサクシネート)はそれぞれ殆ど干渉しない。配合率が既知の複数の試料について非干渉ピーク部の回折強度を測定し、検量線を引くことで、配合率が未知の試料であってもその配合率推定が可能となる。また、パルプ繊維と成形用樹脂の配合比を測定する手段として、混練物中の樹脂成分を選択的に溶解する溶剤を用いてパルプ分のみを抽出し、重量比を測定してもよい。
【0033】
(生分解性樹脂)
生分解性樹脂は、微生物の働きによって最終的に水と二酸化炭素にまで分解される樹脂をいう。生分解性樹脂としては、例えば、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリ乳酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリグリコール酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)等の脂肪族ポリエステル樹脂;ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート等の脂肪族芳香族コポリエステル樹脂;デンプン、セルロース、キチン、キトサン、グルテン、ゼラチン、ゼイン、大豆タンパク、コラーゲン、ケラチン等の天然高分子;上述した脂肪族ポリエステル樹脂あるいは脂肪族芳香族コポリエステル樹脂との混合物;等の生分解性を有するポリエステル樹脂等が挙げられる。生分解性樹脂としては、上記樹脂が複数種類含有されていてもよい。また、生分解性を損なわない範囲で、上述した生分解性樹脂を構成するモノマー成分と生分解性樹脂以外の樹脂を構成するモノマー成分との共重合体を用いてもよく、生分解性樹脂と生分解性樹脂以外の樹脂の混合物を用いてもよい。
【0034】
生分解性樹脂は、脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル樹脂から選ばれる少なくとも1種類の樹脂を含むことが好ましい。この場合、脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル樹脂の合計含有量は、生分解性樹脂の全質量に対して、40質量%以上であることが好ましく、45質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。脂肪族ポリエステル樹脂及び脂肪族芳香族コポリエステル樹脂の合計含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の耐熱性や可撓性を高めることができる。
【0035】
生分解性樹脂は、融点が160℃以下の樹脂であることが好ましい。これにより、混練及び成形する際の着色や臭気の発生をより効果的に防ぐことができる。また、生分解性樹脂として、融点が160℃以下のポリエステル系樹脂を用いることにより、得られる成形体の引張強度を高めることもできる。
【0036】
融点が160℃以下のポリエステル樹脂としては、ポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート/アジペート、ポリエチレンサクシネート、ポリリンゴ酸、ポリジオキサノン、ポリ(2-オキセタノン)、ポリブチレンサクシネート/テレフタレート、ポリブチレンアジペート/テレフタレート、ポリテトラメチレンアジペート/テレフタレート、ポリウレタン等が挙げられる。中でも海洋分解性を有するポリヒドロキシアルカン酸、ポリカプロラクトン、ポリブチレンサクシネートが好ましく、パルプと混練した際の強度や柔軟性のバランスから、ポリブチレンサクシネートを用いることが特に好ましい。このように、生分解性樹脂は、ポリブチレンサクシネートを主成分として含む樹脂であることが特に好ましい。
【0037】
生分解性樹脂の含有量は、成形用組成物の全質量に対して40~90質量%であればよく、50~85質量%であることが好ましく、60~80質量%であることがより好ましい。生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の引張強度をより効果的に高めることができる。また、生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性を高めることができ、成形体の耐熱性や可撓性を高めることもできる。さらに、生分解性樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の生分解性を高めることもできる。
【0038】
(加水分解抑制剤)
加水分解抑制剤は、生分解性樹脂の加水分解によって生じるカルボン酸と反応し得る化合物である。加水分解抑制剤は、生分解性樹脂の加水分解によって生じる末端のカルボン酸と反応するため、生分解性樹脂の末端封止剤として機能し得る。生分解性樹脂が加水分解されることにより、生分解性樹脂の分子量は低下するが、成形用組成物が加水分解抑制剤を含有することにより、生分解性樹脂の分子量の低下を抑制することができる。これは、加水分解抑制剤が生分解性樹脂の加水分解によって生じる末端のカルボン酸と反応し、末端を封止することで、さらなる加水分解の連鎖を抑止することに加えて、加水分解抑制剤が生分解性樹脂同士を架橋することにより、その分子量の増大に寄与するためであると考えられる。これにより、成形体の成形性や強度を高めることができる。
【0039】
また、加水分解抑制剤は、生分解性樹脂の加水分解によって生じる末端のカルボン酸と、パルプ繊維が有する水酸基やカルボキシ基を架橋することもできる。このような架橋構造を形成することにより、得られる成形体の強度や引張特性を高めることができるものと考えられる。
【0040】
加水分解抑制剤は、カルボジイミド化合物、イソシアネート化合物、オキサゾリン化合物及びエポキシ化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。加水分解抑制剤として上記化合物を用いることにより、溶融混練時の生分解性樹脂の初期酸価を低下させることができる。さらに、生分解性樹脂の加水分解によって生じるカルボン酸と反応することで、分子量の低下を抑制することができる。中でも、加水分解抑制剤はカルボジイミド化合物及びイソシアネート化合物からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましく、カルボジイミド化合物であることがより好ましい。
【0041】
加水分解抑制剤としては、市販品を用いることもできる。具体的には、カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社、カルボジライトHMV-15CA、ラインケミー株式会社、スタバクゾールI、スタバクゾールP)、カルボジイミド変性イソシアネート(日清紡ケミカル株式会社、カルボジライトLA-1)、環状カルボジイミド(帝人株式会社、TCC-NP、TCC-FP100)、グリシジルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社、メタブレンP-1901)、オキサゾリン化合物(日本触媒株式会社、RPS1005)等を挙げることができる。
【0042】
加水分解抑制剤の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、加水分解抑制剤の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、5.0質量%以下であることが好ましい。加水分解抑制剤の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性や強度をより効果的に高めることができる。
【0043】
(滑剤)
滑剤は成形用組成物中の各成分同士の摩擦を低減する改質剤である。本発明において用いる滑剤は、炭素数が12以上の脂肪族化合物であり、脂肪族化合物は、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有している。本明細書において、脂肪族化合物とは、炭素原子が鎖状につながった化合物をいう。本発明の成形用組成物においては、このような所定構造を有する滑剤を用いているため、成形体の成形性を高めることができる。
【0044】
炭素数が12以上であり、かつカルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有する脂肪族化合物としては、例えば、ステアリルアルコール、セチルアルコール等の脂肪族アルコール;ラウリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、ベヘニン酸等の脂肪酸;ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、ステアリン酸亜鉛、ヒドロキシステアリン酸カルシウム等の脂肪酸の金属塩やその金属塩の複合体;オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド等の脂肪族モノアミド;エチレンビスステアリン酸アミド、エチレンビスラウリン酸アミド、エチレンビス12-ヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪族アルキレンビスアミド;ペンタエリスリトールセスキステアレート、ペンタエリスリトールテトラパルミテート等の多価アルコール脂肪酸エステル;12-ヒドロキシステアリン酸トリグリセライド等のヒドロキシ脂肪酸エステル;等が挙げられる。
【0045】
カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有する脂肪族化合物の炭素数は12以上であればよく、14以上であることが好ましく、16以上であることがより好ましい。また、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有する脂肪族化合物の炭素数は30以下であることが好ましい。脂肪族化合物の炭素数を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性をより効果的に高めることができる。
【0046】
脂肪族化合物は、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有している。中でも、脂肪族化合物は、カルボキシ基及び水酸基からなる群から選択される少なくとも1種を有していることが好ましく、カルボキシ基を有していることが特に好ましい。なお、カルボキシ基を有する脂肪族化合物は、脂肪酸と呼ばれることもある。
【0047】
本明細書において、カルボキシ基、水酸基、アミド基及びエステル結合からなる群から選択される少なくとも1種を有する脂肪族化合物には、脂肪族化合物の塩や複合体も含まれる。例えば、脂肪族化合物が、カルボキシ基、水酸基もしくはアミド基を有する脂肪族化合物である場合、脂肪族化合物には、脂肪族化合物の塩や複合体が包含される。
【0048】
本発明で用いる脂肪族化合物は、炭素数が12以上の脂肪酸及び炭素数が12以上の脂肪酸の塩からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。脂肪族化合物として、上記化合物を用いることにより、成形体の成形性をより効果的に高めることができ、かつ引張特性により優れた成形体を得ることができる。
【0049】
滑剤の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、0.1質量%以上であることが好ましく、0.3質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがさらに好ましい。また、滑剤の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、5.0質量%以下であることが好ましい。滑剤の含有量を上記範囲内とすることにより、成形体の成形性をより効果的に高めることができる。
【0050】
(任意成分)
本発明の成形用組成物は、パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤に加えて、他の任意成分を含んでいてもよい。任意成分としては、可塑剤;充填剤(無機充填剤、有機充填剤);難燃剤;酸化防止剤;紫外線吸収剤;帯電防止剤;防曇剤;光安定剤;顔料;防カビ剤;抗菌剤;発泡剤;界面活性剤;でんぷん類、アルギン酸等の多糖類;ゼラチン、ニカワ、カゼイン等の天然たんぱく質;タンニン、ゼオライト、セラミックス、金属粉末等の無機化合物;香料;流動調整剤;レベリング剤;導電剤;紫外線分散剤;消臭剤等を挙げることができる。また、任意成分として、生分解性樹脂以外の高分子材料や他の熱可塑性樹脂を添加してもよい。
【0051】
成形用組成物における任意成分の含有量は、成形用組成物の全質量に対して、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることがさらに好ましい。任意成分の含有量を上記範囲内とすることにより、自然環境における生分解性を高めることができる。
【0052】
(成形用組成物の製造方法)
本発明の成形用組成物は、パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤を溶融混練して得られるものである。溶融混練装置としては、単軸押出機、二軸押出機、多軸押出機、それらを組み合わせた二軸・単軸複合型押出機等の押出機など公知のものを用いることができる。より具体的には、KTK型二軸押出機(神戸製鋼所社製)、TEM型二軸押出機(東芝機械社製)、PCM型二軸押出機(池貝鉄工社製)、TEX型二軸押出機(日本製鋼所社製)等が挙げられる。
【0053】
溶融混練装置に原料を供給する方法としては、パルプ繊維、生分解性樹脂、加水分解抑制剤及び滑剤を個別に直接供給する方法、上記成分を予め混合した後に一括して供給する方法、上記成分一部予め混合した後に、他の成分を直接共有する方法、ヘンシェルミキサーなどの高速ミキサーを用いて原料を凝集(造粒)させた後に供給する方法などいずれの方法も用いることができる。溶融混練装置への原料供給は、供給量を一定に調節できる重量フィーダーを用いて供給することが好ましい。
【0054】
溶融混練時の設定温度は特に限定されないが、本発明では、パルプ繊維の退色と臭気の発生を抑制し、かつ強度の優れた成形体を製造する観点から、溶融混練物の温度(T(℃))が100℃≦T≦200℃であることが好ましく、100℃≦T≦180℃であることがより好ましい。
【0055】
混練された成形用組成物は、ストランドに成形されるが、後の射出成形時の操作性の観点から、ストランドをストランドカッターでカッティングしてペレット化したり、ダイスから排出されると同時にホットカッター又はアンダーウォーターカッターなどの切断手段を用いてペレット化したりしても構わない。なお、ストランドをストランドカッターでカッティングしてペレット化する際には、得られる溶融混練物の強度をより高くするために、溶融混練後にストランドを液体媒体中に保持してもよい。この際の液体媒体の温度は、15~40℃であることが好ましく、20~40℃であることがより好ましく、25~30℃であることがさらに好ましい。また、液体媒体中における保持時間は、0.5~10秒であることが好ましく、1~10秒であることがより好ましい。なお、液体媒体としては、例えば、水、エチレングリコール、シリコンオイル等の沸点が100℃以上の低粘度液体が挙げられ、安全性及び取扱い性の観点から水であることが好ましい。液体媒体の温度は、液体媒体を温調機器で循環させる等によって安定的に保持されることが好ましい。
【0056】
(成形体の製造方法)
本発明の成形用組成物を用いた成形体の製造方法としては、射出成形機による成形方法や溶融押出ダイによるシート状成形物の製造方法が挙げられる。射出成形型又は溶融押出ダイに注入する成形用組成物の温度は、得られる成形物の退色や臭気発生の抑制と強度を両立する観点から、120~200℃であることが好ましく、120~180℃であることがより好ましい。
【0057】
射出成形時の金型温度は、樹脂組成物の結晶化速度向上の観点から、10~90℃であることが好ましく、20~85℃であることがより好ましく、50~85℃であることがさらに好ましい。
【0058】
本発明の成形体は、上記方法により得られたシート状成形物といった成形体をさらに加熱加圧成形する工程を経て得られるものであってもよい。
【0059】
(成形体)
本発明は、上述した成形用組成物を成形加工してなる成形体に関するものでもある。なお、本発明において、成形体には、最終成形物の他に、成形用組成物を成形体加工してなる成形シートであって、さらに成形加工に供される成形シートも含まれている。このような成形シートをさらに成形加工することにより、湾曲部や凹凸部を有する複雑な形状の最終成形物を成形することが容易となる。このような成形シートは前駆成形体と呼ぶこともできる。
【0060】
成形体の曲げ弾性率は、1.0GPa以上であることが好ましく、1.5GPaで以上あることがより好ましく、2.0GPa以上であることがさらに好ましい。成形体の曲げ弾性率の上限値は特に限定されるものではないが、20.0GPa以下であることが好ましい。また、成形体の曲げ応力は、60MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、80MPa以上であることがさらに好ましい。成形体の曲げ応力の上限値は特に限定されるものではないが、300MPa以下であることが好ましい。成形体の曲げ弾性率及び曲げ応力は、JIS K7171に準じて測定される値である。
【0061】
成形体の曲げひずみは4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、6%以上であることがさらに好ましい。成形体の曲げひずみの上限値は特に限定されるものではないが、20%以下であることが好ましい。成形体の曲げひずみはJIS K 7171によって測定される値である。
【0062】
成形体の加重たわみ温度は、80~200℃であることが好ましく、100~200℃であることがより好ましい。成形体の加重たわみ温度は、JIS K7191-1に記載のB法(フラットワイズ、0.45MPa荷重)にて測定される。
【0063】
(成形体の用途)
本発明の成形体の用途としては、例えば、電子機器や家電製品などの筐体、補強材、土木、建材用部品、内装部品、自動車、二輪車用部品、航空機用部品、鉄道車両用部品、日用雑貨品、包装材などの部材等が挙げられるが、中でも、ディスポーザブルな用途として好適である。本発明の成形体は自然環境中に流出しないことが望ましいが、仮に流出しても、自然環境中で分解されるため環境への負荷を減らすことができる。
【実施例
【0064】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。なお、以下において、実施例2、4及び8はそれぞれ、参考例2、4及び8と読み替えるものとする。
【0065】
(実施例1)
前加水分解-クラフト蒸解法にて得られた、広葉樹由来の溶解パルプ(セルロース純度95%)30質量部とポリブチレンサクシネート樹脂(三菱ケミカル株式会社、バイオPBS FZ71PM)70質量部、カルボジイミド化合物(日清紡ケミカル株式会社、カルボジライトHMV-15CA)1質量部、ステアリン酸カルシウム(日油株式会社、カルシウムステアレート)1質量部を二軸混練機に投入し、温度を160℃、回転速度を30rpmとして溶融混練した。
溶融混練して得られた成形用組成物(樹脂組成物)は、ストランド形状に押出した後に断裁してペレットとした。射出成形機を用いてJIS K 7139に記載されたプラスチックの物性評価の標準形状(多目的試験片(A1)形状)に成形した。射出成形時は、シリンダー温度を一律165℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0066】
(実施例2)
原料として、ポリブチレンサクシネート樹脂の代わりにポリ乳酸樹脂(Nature works社、ingeo 3251D)を用いて、混練温度を180℃に設定し、射出成形時のシリンダー温度を180℃に設定した以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0067】
(実施例3)
原料として、カルボジイミド化合物の代わりにグリシジルメタクリレート(三菱ケミカル株式会社、メタブレンP-1901)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0068】
(実施例4)
原料として、ステアリン酸カルシウムの代わりにオレイン酸アミド(日油株式会社、アルフロー E-10)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0069】
(実施例5)
原料として、ステアリン酸カルシウムの代わりにステアリルアルコール(日油株式会社、NAA-45)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0070】
(実施例6)
原料として、ステアリン酸カルシウムの代わりにステアリルステアレート(日油株式会社、ユニスター M-9676)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0071】
(実施例7)
原料として、ステアリン酸カルシウムの代わりにステアリン酸(日油株式会社、NAA-180)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0072】
(実施例8)
広葉樹由来の溶解パルプの配合量を40質量部、ポリブチレンサクシネート樹脂の配合量を60質量部に変更した以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0073】
(比較例1)
原料として、ステアリン酸カルシウムの代わりにパラフィンワックス(日本精鑞株式会社、LUVAX-1266)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0074】
(比較例2)
原料として、ステアリン酸カルシウムを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0075】
(比較例3)
原料として、カルボジ変性イソシアネートを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0076】
(比較例4)
原料として、ステアリン酸カルシウムの代わりに無水マレイン酸(日本触媒株式会社)を用いた以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0077】
(比較例5)
原料として、ステアリン酸カルシウム及びカルボジ変性イソシアネートを添加しなかった以外は実施例1と同様にして、成形用組成物及び成形体を作製した。
【0078】
(参考例1)
射出成形機を用いて、ポリブチレンサクシネート樹脂(三菱ケミカル株式会社、バイオPBS FZ71PM)をJIS K 7139に記載された多目的試験片(A1)形状に成形した。射出成形時は、シリンダー温度は一律165℃とし、金型温度は30℃に設定した。
【0079】
(参考例2)
ポリブチレンサクシネート樹脂をポリ乳酸樹脂(Nature works社、ingeo 3251D)に変更し、シリンダー温度を180℃、金型温度を30℃に設定した以外は参考例1と同様にして、成形体を作製した。
【0080】
(測定)
<樹脂の融点>
樹脂の融点は、DSC装置(セイコー インスツルメンツ社製、DSC6200)を用いて、JIS K 7121に基づく示差走査熱量測定の昇温法による結晶融解吸熱ピーク温度から算出した。樹脂の融点の測定は、昇温速度10℃/分で20℃から250℃まで昇温して行った。
【0081】
<メルトフローレート(MFR)>
成形用組成物のメルトフローレート(MFR)の測定は、190℃、10kg荷重下においてJIS K 7210に準じて行った。参考例1及び参考例2の樹脂単体のMFRの測定は、190℃、2.16kg荷重下において行った。
【0082】
<成形性>
実施例及び比較例で得られた成形用組成物を、ヒートプレス機とSUS枠を用いて200mm×200mm、厚み1mmの板状に成形した。成形した板は、オーブントースターでマトリックス樹脂の融点+20~40℃に加温した後、80mm×80mm、高さ30mmの容器形状の金型を用いてプレス成形した。成形した容器を目視で観察して、下記基準にて成形性を評価した。
◎:成形欠陥はまったく見られず、薄肉部分の崩れが全くない。
○:微小な成形欠陥がごく一部で見られるか、もしくは薄肉部分に強い力をかけると崩れる。
△:微小な成形欠陥が複数の部位で見られるか、もしくは薄肉部分が軽微な力で崩れる。
×:成形欠陥が広範囲にわたって見られ、かつ薄肉部分が軽微な力で崩れる。
【0083】
<曲げ弾性率・曲げ応力・曲げひずみ>
実施例及び比較例で得られた成形体の曲げ弾性率、曲げ応力、曲げひずみを、JIS K 7171に準じて測定した。
【0084】
<引張強度>
実施例及び比較例で得られた成形体の引張強度を、JIS K 7161に準じて測定した。
【0085】
【表1】
【0086】
比較例に比べて実施例では、成形性が良好であり、かつ引張特性に優れた成形体が得られた。また、参考例と比較して実施例の成形体は生分解性にも優れている。