IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-構造体 図1
  • 特許-構造体 図2
  • 特許-構造体 図3
  • 特許-構造体 図4
  • 特許-構造体 図5
  • 特許-構造体 図6
  • 特許-構造体 図7
  • 特許-構造体 図8
  • 特許-構造体 図9
  • 特許-構造体 図10
  • 特許-構造体 図11
  • 特許-構造体 図12
  • 特許-構造体 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】構造体
(51)【国際特許分類】
   B32B 15/08 20060101AFI20240214BHJP
   B32B 15/092 20060101ALI20240214BHJP
   C09J 163/00 20060101ALI20240214BHJP
   C09J 183/04 20060101ALI20240214BHJP
   F28F 21/08 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B32B15/08 N
B32B15/092
B32B15/08 Q
C09J163/00
C09J183/04
F28F21/08 A
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020001210
(22)【出願日】2020-01-08
(65)【公開番号】P2021109336
(43)【公開日】2021-08-02
【審査請求日】2022-07-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 大未
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/195808(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/006805(WO,A1)
【文献】特開平08-081784(JP,A)
【文献】特表2006-509106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B1/00-43/00
C23C18/00-30/00
C09J1/00-5/10
9/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウム基材(111,112)と、上記アルミニウム基材の表面に接着した接着樹脂より構成される接着層(12)と、を有しており、
上記接着層は、上記アルミニウム基材との接着界面(131,132)に接する硬質層(121,122)と、上記硬質層に接する本体層(123)と、を備えており、
上記硬質層は、上記本体層よりも硬く、
上記接着樹脂は、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂である
構造体(1)。
【請求項2】
上記接着界面に垂直な上記接着層の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される上記硬質層の吸着力は、上記本体層の吸着力よりも大きい、
請求項1に記載の構造体。
【請求項3】
上記硬質層の吸着力は、上記接着界面から離れるにつれて小さくなる、
請求項2に記載の構造体。
【請求項4】
上記接着界面に垂直な上記接着層の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される上記硬質層の弾性率は、上記本体層の弾性率よりも大きい、
請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項5】
上記硬質層の弾性率は、上記接着界面から離れるにつれて小さくなる、
請求項4に記載の構造体。
【請求項6】
上記硬質層の厚さは、0.5μm以上である、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の構造体。
【請求項7】
上記硬質層の厚さは、1μm以上である、
請求項1から請求項のいずれか1項に記載の構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に接着したエポキシ樹脂等の接着樹脂より構成される接着層と、を有する構造体が広く知られている。
【0003】
また、特許文献1に記載されるように、アルミニウム基材と接着樹脂より構成される接着層との間にプライマーを塗布してなる構造体も知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2000-239644号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
従来広く知られた構造体は、アルミニウム基材と接着層との接着界面付近が弱い。そのため、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした際に、アルミニウム基材と接着層との接着界面にて剥離が生じる。
【0006】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした場合でも、高い接着強度を発揮することが可能な構造体を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様は、アルミニウム基材(111,112)と、上記アルミニウム基材の表面に接着した接着樹脂より構成される接着層(12)と、を有しており、
上記接着層は、上記アルミニウム基材との接着界面(131,132)に接する硬質層(121,122)と、上記硬質層に接する本体層(123)と、を備えており、
上記硬質層は、上記本体層よりも硬く、
上記接着樹脂は、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂である
構造体(1)にある。
【発明の効果】
【0008】
上記構造体によれば、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした場合でも、高い接着強度を発揮することができる。
【0009】
なお、特許請求の範囲および課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1図1は、実施形態1に係る構造体を模式的に示した図である。
図2図2は、接着強度向上の推定メカニズムの説明図であり、(a)は実施形態1に係る構造体における接着樹脂の状態を模式的に示した図であり、(b)は比較形態に係る構造体における接着樹脂の状態を模式的に示した図である。
図3図3は、接着層の断面における接着界面からの距離と、吸着力または弾性率との関係を模式的に示した図である。
図4図4は、実施形態2に係る構造体を模式的に示した図である。
図5図5は、実験例1において、走査型プローブ顕微鏡による表面観察にて得られた試料1の接着層断面の吸着力像を示した図である。
図6図6は、実験例1において、走査型プローブ顕微鏡による表面観察にて得られた試料1Cの接着層断面の吸着力像を示した図である。
図7図7は、実験例1において、走査型プローブ顕微鏡による表面観察にて得られた試料1の接着層断面の弾性率像を示した図である。
図8図8は、実験例1において、走査型プローブ顕微鏡による表面観察にて得られた試料1Cの接着層断面の弾性率像を示した図である。
図9図9は、実験例2において得られた、試料1および試料1Cの接着層の断面における接着界面からの距離と吸着力との関係を示した図である。
図10図10は、実験例2において得られた、試料2および試料2Cの接着層の断面における接着界面からの距離と吸着力との関係を示した図である。
図11図11は、実験例2において得られた、試料1および試料1Cの接着層の断面における接着界面からの距離と弾性率との関係を示した図である。
図12図12は、実験例2において得られた、試料2および試料2Cの接着層の断面における接着界面からの距離と弾性率との関係を示した図である。
図13図13は、実験例3において得られた、試料1および試料1Cの構造体についての各条件における引張りせん断強度を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本実施形態の構造体は、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に接着した接着樹脂より構成される接着層と、を有している。接着層は、アルミニウム基材との接着界面に接する硬質層と、硬質層に接する本体層と、を備えている。硬質層は、本体層よりも硬い。
【0012】
本実施形態の構造体は、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした場合でも、主に本体層にて破壊を生じさせることができる。つまり、本実施形態の構造体では、界面破壊ではなく、本体層の母材破壊が主となる。これは、同じ接着樹脂より構成される接着層であっても、本体層は、接着樹脂の樹脂物性が変化しておらず、その一方で、硬質層は、本体層に比べて硬質となるように接着界面に固定化された接着樹脂の樹脂物性が変化しており、接着界面付近の強度が増加するためであると考えられる。
よって、本実施形態の構造体によれば、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした場合でも、高い接着強度を発揮することができる。以下、これを詳説する。
【0013】
(実施形態1)
実施形態1の構造体について、図1図2を用いて説明する。図1に例示されるように、本実施形態の構造体1は、アルミニウム基材111と、接着層12と、を有している。
【0014】
アルミニウム基材111にいうアルミニウムは、純アルミニウムだけでなく、アルミニウム合金をも含む。アルミニウム基材111としては、具体的には、アルミニウムまたはアルミニウム合金より構成される各種形状の部材における基材などを挙げることができる。アルミニウム合金としては、例えば、1000系Al合金、2000系Al合金、3000系Al合金、4000系Al合金、5000系Al合金、6000系Al合金、7000系Al合金、ADC12等のアルミダイカスト合金などを挙げることができる。
【0015】
アルミニウム基材111の表面のうち、少なくとも接着層12が接着される接着面は、改質されることができる。具体的には、接着面は、酸化皮膜層(不図示)の全部または一部が除去されることができる。また、酸化皮膜層の全部または一部が除去された接着面の表面には、ケイ酸塩ガラス等より構成される改質層(不図示)を有することができる。この構成によれば、改質層と接着樹脂との間に共有結合を形成しやすくなり、接着界面131付近の強度向上効果と相まって高い接着強度を発揮させやすくなる。ケイ酸塩ガラスとしては、例えば、Al元素が固溶したケイ酸塩ガラスであるアルミノケイ酸塩ガラスなどを例示することができる。
【0016】
接着層12は、アルミニウム基材111の表面に接着した接着樹脂より構成される。接着層12は、具体的には、アルミニウム基材111の表面に部分的に形成されていてもよいし、アルミニウム基材111の表面の全てに形成されていてもよい。
【0017】
着樹脂としては、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂が用いられる。エポキシ樹脂、シリコーン樹脂は、アルミニウム基材111の表面に存在しうるOH基との化学反応により共有結合を生じることができるので、接着界面131付近の強度を向上させやすい。例えば、上述したように、アルミニウム基材111が表面にケイ酸塩ガラスより構成される改質層を有する場合、エポキシ樹脂は、改質層表面のOH基とエポキシ基との化学反応により共有結合を生じることができる。また、シリコーン樹脂は、改質層表面のOH基と脱水縮合反応により共有結合を生じることができる。なお、接着樹脂は、必要に応じて、一般的な樹脂系接着剤に適用される各種の添加物を1種または2種以上含むことができる。
【0018】
接着層12は、硬質層121と、本体層123と、を備えている。硬質層121は、アルミニウム基材111との接着界面131に接する。本体層123は、硬質層121に接する。硬質層121および本体層123は、ともに接着層12の一部であるから、基本的に接着層12を構成する同じ種類の接着樹脂より一体的に構成されている。但し、硬質層121と本体層123とで接着樹脂を構成する高分子の状態が異なっている。そのため、硬質層121と本体層123とは硬さが異なっている。具体的には、硬質層121は、本体層123よりも硬い。
【0019】
かかる構成を有する構造体が高い接着強度を発揮することができる推定メカニズムについて説明する。図2(b)に例示されるように、比較形態の構造体1’は、接着層12’が硬質層121と本体層123とを備えておらず、接着層12’全体が一様な硬さとされている。このような構成においては、接着層12’を構成する接着樹脂の架橋密度が、接着層12’の厚み方向でほぼ同じであり、接着界面131付近の強度は向上しない。そのため、従来の構造体1’は、接着界面131にて剥離が生じやすい。これに対し、本実施形態の構造体1は、接着層12が硬質層121と本体層123とを備えており、硬質層121は本体層123よりも硬い。このような構成においては、硬質層121を構成する接着樹脂の架橋密度が、本体層123を構成する接着樹脂の架橋密度よりも大きく、架橋密度の向上によって接着界面131付近の強度が向上する。なお、図2において、接着層12、12’に示される格子の交点が架橋点を意味する。これにより、構造体1では、相対的に強度の低い本体層123にて先に破壊が生じ(母材破壊)、接着界面131での界面破壊が生じ難くなる。そのため、構造体1は、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした場合でも、高い接着強度を発揮することができる。
【0020】
硬質層121は、アルミニウム基材111の表面に共有結合によって結合している構成とすることができる。この構成によれば、アルミニウム基材111の表面にアンカー効果や水素結合によって結合している構成に比べ、接着界面131に溶媒が侵入し難くなる。そのため、この構成によれば、接着界面131の強度劣化が生じ難くなり、接着界面131の強度向上効果を確実なものとすることができ、また、接着界面131の長期接着信頼性も向上する。なお、水素結合は接着界面131に侵入した溶媒によるアタックによって切断され、その切断部が新たな反応点となり連鎖反応が生じる。そのため、水素結合による結合は、共有結合による結合に比べ、有機溶媒等の溶媒に対して接着界面131が劣化しやすい。
【0021】
ここで、接着層12の硬さは、上述したように接着樹脂の架橋密度と関係があるから、直接的には、接着界面131から接着層12の内方への距離と架橋密度との関係を測定し、硬質層121の架橋密度が本体層123の架橋密度よりも大きければ、硬質層121が本体層123よりも硬いといえる。しかしながら、接着層12における接着樹脂の架橋密度分布を測定することは困難である。そこで、本発明者は、試行錯誤を重ねた結果、樹脂物性として接着樹脂の吸着力または弾性率を選択し、硬質層121の吸着力が本体層123の吸着力よりも大きい、または/および、硬質層121の弾性率が本体層123の弾性率よりも大きい場合に、硬質層121が本体層123よりも硬いということができ、上述した作用効果を奏することができることを見出した。
【0022】
具体的には、図3に例示されるように、構造体1は、接着界面131に垂直な接着層12の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される硬質層121の吸着力が本体層123の吸着力よりも大きい構成とされることができる。また、構造体1は、接着界面131に垂直な接着層12の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される硬質層121の弾性率が本体層123の弾性率よりも大きい構成とされることができる。これらの構成によれば、上述した作用効果を確実なものとすることができる。
【0023】
吸着力、弾性率の測定は、次のようにして実施することができる。測定対象の構造体1から接着界面131に垂直な接着層12の断面を有する測定試料を採取する。走査型プローブ顕微鏡としては、島津製作所社製 走査型プローブ顕微鏡「SPM9500」を用いることができる。なお、当該機種が廃番となり入手できない場合にはその後継機種を用いることができる。プローブには、Si製AFM用カンチレバー(日立ハイテクサイエンス社製 「SN-AF01」(バネ定数0.08N/m))を用いる。走査型プローブ顕微鏡の測定モードは、コンタクトモードとし、動作モードは、フォースカーブモードとする。測定時の周波数は1Hz、コンタクト電圧は0.5Vとする。上記走査型プローブ顕微鏡を用い、測定試料における接着層12の断面に現われている接着界面131から接着層12の厚み方向に沿って接着界面131からの距離を少しずつ離しながら接着層12の各位置におけるフォースカーブを測定する。つまり、接着層12における接着界面131から接着層12の内方への距離を徐々に変化させ、接着層12断面の各位置におけるフォースカーブを測定する。次いで、接着層12断面の各位置におけるフォースカーブから、接着層12断面の各位置における弾性率、吸着力を求める。なお、走査型プローブ顕微鏡による測定によれば、測定試料の表面にカンチレバーを接近させ、測定試料にカンチレバーが接触すると、カンチレバーに斥力側のたわみが発生する。そして、カンチレバーが測定試料から離れ始めると、カンチレバーのたわみが減少するが、測定試料の表面とカンチレバーとの間に生じる吸着力によって上記とは逆に引力側のたわみが発生する。その後、測定試料の表面からカンチレバーが完全に離脱する。弾性率は、カンチレバーが斥力側にたわんだ部分に相当するフォースカーブ部分のたわみ量から求めることができる。吸着力は、カンチレバーが引力側にたわんだ後、測定試料から離脱する部分に相当するフォースカーブ部分のたわみ量から求めることができる。これにより、図3に例示されるような、接着層12の断面における接着界面131からの距離と吸着力との関係図、接着層12の断面における接着界面131からの距離と弾性率との関係図が得られる。上記関係図において、接着界面131からの距離によって吸着力または弾性率の変化がほとんど見られない領域が本体層123に相当し、本体層123よりも吸着力または弾性率が大きく、接着界面131からの距離によって吸着力または弾性率の変化が見られる領域が硬質層121に相当する。このように、接着層12における硬質層121は、接着界面131に固定化された接着樹脂の吸着力または弾性率が、本体層123における接着樹脂の吸着力または弾性率と比べ変化している領域として把握することができる。
【0024】
構造体1において、硬質層121の吸着力が本体層123の吸着力よりも大きい構成とされる場合、硬質層121の吸着力は、接着界面131から離れるにつれて小さくなる構成とすることができる。この構成によれば、接着界面131の強度向上を確実なものとすることができるため、上述した作用効果を確実なものとすることができる。また、少しずつ接着樹脂の状態を変化させることにより応力集中する部位が少なくなり、より接着界面131付近に力がかかり難くなるなどの利点もある。硬質層121の吸着力は、接着界面131から離れるにつれて漸次小さくなってもよいし、接着界面131から離れるにつれて段階的に(階段状に)小さくなってもよい。
【0025】
同様に、構造体1において、硬質層121の弾性率が本体層123の弾性率よりも大きい構成とされる場合、硬質層121の弾性率は、接着界面131から離れるにつれて小さくなる構成とすることができる。この構成によれば、接着界面131の強度向上を確実なものとすることができるため、上述した作用効果を確実なものとすることができる。また、応力による変位が段階的に変化するため変位差による急激な応力集中を防ぎやすくなるなどの利点もある。硬質層121の弾性率は、接着界面131から離れるにつれて漸次小さくなってもよいし、接着界面131から離れるにつれて段階的に(階段状に)小さくなってもよい。
【0026】
構造体1において、硬質層121の厚みは、0.5μm以上とすることができる。この構成によれば、吸着力・弾性率が接着界面131付近の方が高く、接着樹脂の密度が高くなることから、接着界面131付近の接着樹脂が透過溶媒や透過ガスによって弱くなることを防止しやすくなるなどの利点がある。硬質層121の厚みは、接着樹脂の溶媒透過やガス透過を防ぎやすくする等の観点から、好ましくは、1μm以上、より好ましくは、2μm以上、さらに好ましくは、5μm以上とすることができる。また、この場合、硬質層121の厚みは、接着樹脂全体が硬質化すると、接着樹脂の密度が高くなり、接着樹脂の柔軟性が低下し、熱衝撃等に対して弱くなるおそれがあり、これを防止しやすくなるなどの観点から、好ましくは、2mm以下とすることができる。なお、硬質層121の厚みは、上述した接着層12の断面における接着界面131からの距離と吸着力との関係図、接着層12の断面における接着界面131からの距離と弾性率との関係図から、接着界面131から硬質層121と本体層123との界面までの距離として求めることができる。
【0027】
本実施形態の構造体1における接着層12は、例えば、アルミニウム基材111表面の樹脂コート、アルミニウム基材111表面に形成した封止材などとして用いることができる。
【0028】
(実施形態2)
実施形態2の構造体1について、図4を用いて説明する。なお、実施形態2以降において用いられる符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0029】
図4に例示されるように、本実施形態の構造体1は、実施形態1の構造体1と同様に、アルミニウム基材111と、接着層12と、を有している。本実施形態の構造体1は、さらに、アルミニウム基材112を有している。具体的には、本実施形態の構造体1は、アルミニウム基材111と、アルミニウム基材112と、これらアルミニウム基材111、112の間に配置され、アルミニウム基材111の表面およびアルミニウム基材112の表面に接着した接着樹脂より構成される接着層12と、を有している。つまり、本実施形態の構造体1は、接着層12を介してアルミニウム基材111とアルミニウム基材112とが接合された接合構造体である。
【0030】
図4に例示されるように、より具体的には、接着層12は、アルミニウム基材111との接着界面131に接する硬質層121と、アルミニウム基材112との接着界面132に接する硬質層122と、硬質層121および硬質層122に接する本体層123と、を備えている。そして、硬質層121は、本体層123よりも硬く、硬質層122は、本体層123よりも硬い。アルミニウム基材112、接着界面132、硬質層122については、実施形態1で説明したアルミニウム基材111、接着界面131、硬質層121の記載を参照し、同様に構成することができる。なお、アルミニウム基材112は、アルミニウム基材111と同じアルミニウム合金等より構成されていてもよいし、異なるアルミニウム合金等より構成されていてもよい。
【0031】
なお、本実施形態において、上述したアルミニウム基材111は第1アルミニウム基材、アルミニウム基材112は第2アルミニウム基材、硬質層121は第1硬質層、硬質層122は第2硬質層、接着界面131は第1接着界面、接着界面132は第2接着界面ということもできる。
【0032】
本実施形態の構造体1によれば、溶媒と長時間接触したり、熱衝撃が加わったりした場合でも、高い接着強度を発揮することができる接合構造体が得られる。
【0033】
構造体1において、硬質層121、122の厚みは、1μm以上とすることもできる。この構成によれば、弾性率が向上し、接着界面131、132の強度が高くなり、接着界面131、132およびその付近にて切断され難くなるなどの利点がある。硬質層121、122の厚みは、接着界面131、132の強度向上等の観点から、好ましくは、2μm以上、より好ましくは3μm以上、さらに好ましくは、5μm以上とすることができる。また、この場合、硬質層121、122の厚みは、弾性率が高くなり過ぎ内部応力を逃がし難くなるのを防止しやすい等の観点から、好ましくは、2mm以下とすることができる。
【0034】
本実施形態の構造体1は、アルミニウム部材とアルミニウム部材との接合に用いることができる。本実施形態の構造体1は、より具体的には、アルミニウム製の配管と配管部材(例えば、継手部材、固定部材等)との接合、配管同士の接合や、熱交換器の部材同士の接合、熱交換器と配管との接合等の熱交換器と熱交換器周辺の部品との接合などに種々適用することができる。その他の構成および作用効果は、実施形態1と同様である。
【0035】
(実験例)
<実験例1>
-試料1、試料1Cの作製-
長さl=40mm、幅w=10mm、厚さt=1mmの形状を有する酸化皮膜層付きのアルミニウム基材をアルカリ洗浄した後、これをpH12.4、液温50℃、ケイ酸ナトリウム濃度0.4mol/Lのケイ酸ナトリウム水溶液中に1分間浸漬し、その後、純水で洗浄した。これにより、アルミニウム基材の表面を改質した。アルミニウム基材表面の改質層は、Alよりなる酸化皮膜層より生成した、Al元素を固溶したケイ酸塩ガラスよりなる薄膜層である。
【0036】
次に、上記のように準備した2枚のアルミニウム基材を、各端部の基材面同士の間に隙間が形成された状態で長さ10mmの範囲にわたって重複するように配置した。なお、隙間の間隔は、200μmとした。次いで、上記隙間の端部に接着樹脂材料を塗布した。接着樹脂材料には、主剤としての2,2-ビス(4-ヒドロキシフェニル)プロパンジグリシジルエーテル(BPADGE)と、硬化剤としてのジシアンジアミド(DYCI)とにより構成されたエポキシ樹脂材料を用いた。次いで、80℃に加熱することにより、接着樹脂材料を低粘度化して流動移動させ、上記隙間に充填した。これにより、アルミニウム基材/接着樹脂材料/アルミニウム基材の順で積層された積層構造を有する積層体を得た。
【0037】
次に、得られた積層体を加熱し、135℃で10分間保持した後、さらに加熱温度を上げ、155℃で20分間保持して接着樹脂材料を硬化させた後、自然冷却した。これにより、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に接着したエポキシ樹脂より構成される接着層とを有する試料1の構造体(具体的には、アルミニウム基材/接着層/アルミニウム基材の順で積層された積層構造を有する構造体)を得た。なお、試料1の構造体では、硬質層の接着樹脂が、改質されたアルミニウム基材の表面に共有結合によって結合している。
【0038】
次に、上記試料1の構造体の作製において、ケイ酸ナトリウム水溶液にアルミニウム基材を浸漬しなかった点以外は同様にして、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に接着したエポキシ樹脂より構成される接着層とを有する試料1Cの構造体(具体的には、アルミニウム基材/接着層/アルミニウム基材の順で積層された積層構造を有する構造体)を得た。
【0039】
-試料2、試料2Cの作製-
上記試料1の構造体の作製において、接着樹脂材料として、エポキシ変性されたシリコーン樹脂材料(ダウ・東レ社製、「DOWSIL SE1714)を用いた点、2枚のアルミニウム基材の各端部の基材面に、長さ10mmの範囲にわたって重複するように上記シリコーン樹脂材料を塗布し、各端部の基材面間の間隔が200μmとなるように貼り合わせて積層体を形成した点、得られた積層体を加熱し、140℃で5分間保持した後、さらに加熱温度を上げ、170℃で5分間保持した後、自然冷却させた点以外は同様にして、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に接着した上記シリコーン樹脂より構成される接着層とを有する試料2の構造体を得た。なお、試料2の構造体では、硬質層の接着樹脂が、改質されたアルミニウム基材の表面に共有結合によって結合している。
【0040】
次に、上記試料2の構造体の作製において、ケイ酸ナトリウム水溶液にアルミニウム基材を浸漬しなかった点以外は同様にして、アルミニウム基材と、アルミニウム基材の表面に接着した上記シリコーン樹脂より構成される接着層とを有する試料2Cの構造体を得た。
【0041】
-走査型プローブ顕微鏡による吸着力像測定-
試料1および試料1Cの構造体から接着界面に垂直な接着層の断面を有する測定試料を採取した。なお、測定試料は、各構造体をワイヤーソーにて切断後、FIBにて断面を作製した。以下同様である。次いで、各接着層の断面について、走査型プローブ顕微鏡による表面観察を行い、各接着層の吸着力像を測定した。なお、当該吸着力像は、上述した測定条件による測定を断面全体に対して実施することで、各部位1点ごとの吸着力を求めマッピングすることにより得た。試料1の接着層断面の吸着力像を図5に示す。試料1Cの接着層断面の吸着力像を図6に示す。
【0042】
図6に示されるように、試料1Cの構造体の接着層は、接着層の全体にわたって吸着力がほぼ一定であった。このことから、試料1Cの構造体では、接着層を構成するエポキシ樹脂の架橋密度が厚み方向で変化がなく、接着層全体が一様な硬さになっていることがわかる。つまり、試料1Cの構造体の接着層は、硬質層と本体層とを備えていないことがわかる。これに対し、図5に示されるように、試料1の構造体の接着層は、アルミニウム基材と接着層との接着界面から接着層側に一定領域の吸着力が、上記一定領域よりも内方の接着層の吸着力よりも大きくなっていた。このことから、試料1の構造体では、接着層を構成するエポキシ樹脂の架橋密度が厚み方向で変化しており、接着界面から接着層側に一定領域の架橋密度が、上記一定領域よりも内方の接着層の架橋密度よりも大きくなっているといえる。つまり、試料1の構造体の接着層は、内部の本体層と、本体層よりも硬い硬質層とを備えていることがわかる。なお、試料2および試料2Cの構造体についても、試料1および試料1Cの構造体と同様の結果が得られた。
【0043】
-走査型プローブ顕微鏡による弾性率像測定-
試料1および試料1Cの構造体から接着界面に垂直な接着層の断面を有する測定試料を採取した。次いで、各接着層の断面について、走査型プローブ顕微鏡による表面観察を行い、各接着層の弾性率像を測定した。なお、当該弾性率像は、上述した測定条件による測定を断面全体に対して実施することで、各部位1点ごとの弾性率を求めマッピングすることにより得た。試料1の接着層断面の弾性率像を図7に示す。試料1Cの接着層断面の弾性率像を図8に示す。
【0044】
図8に示されるように、試料1Cの構造体の接着層は、接着層の全体にわたって弾性率がほぼ一定であった。このことから、試料1Cの構造体では、接着層を構成するエポキシ樹脂の架橋密度が厚み方向で変化がなく、接着層全体が一様な硬さになっていることがわかる。つまり、試料1Cの構造体の接着層は、硬質層と本体層とを備えていないことがわかる。これに対し、図7に示されるように、試料1の構造体の接着層は、アルミニウム基材と接着層との接着界面から接着層側に一定領域の弾性率が、上記一定領域よりも内方の接着層の弾性率よりも大きくなっていた。このことから、試料1の構造体では、接着層を構成するエポキシ樹脂の架橋密度が厚み方向で変化しており、接着界面から接着層側に一定領域の架橋密度が、上記一定領域よりも内方の接着層の架橋密度よりも大きくなっているといえる。つまり、試料1の構造体の接着層は、内部の本体層と、本体層よりも硬い硬質層とを備えていることがわかる。なお、試料2および試料2Cの構造体についても、試料1および試料1Cの構造体と同様の結果が得られた。
【0045】
<実験例2>
-接着層の断面における接着界面からの距離と吸着力または弾性率との関係-
試料1および試料1Cの構造体から接着界面に垂直な接着層の断面を有する測定試料を採取した。次いで、各接着層の断面について、上述した測定条件にて走査型プローブ顕微鏡による表面観察を行い、接着層の断面における接着界面からの距離と吸着力との関係、接着層の断面における接着界面からの距離と弾性率との関係を測定した。試料1および試料1Cの接着層の断面における接着界面からの距離と吸着力との関係を図9に示す。試料2および試料2Cの接着層の断面における接着界面からの距離と吸着力との関係を図10に示す。試料1および試料1Cの接着層の断面における接着界面からの距離と弾性率との関係を図11に示す。試料2および試料2Cの接着層の断面における接着界面からの距離と弾性率との関係を図12に示す。
【0046】
図9および図10図11および図12に示されるように、試料1Cおよび試料2Cの構造体は、接着界面からの距離によらず吸着力、弾性率が一定であることがわかる。このことから、試料1Cおよび試料2Cの構造体では、接着層を構成する接着樹脂の架橋密度が厚み方向で変化がなく、接着層全体が一様な硬さになっていることがわかる。これらに対し、図9および図10図11および図12に示されるように、試料1および試料2の構造体の接着層は、アルミニウム基材と接着層との接着界面から接着層側に一定距離までの吸着力、弾性率が、上記一定距離を超える距離における接着層の吸着力、弾性率よりも大きくなっていた。このことから、試料1および試料2の構造体では、接着層を構成する接着樹脂の架橋密度が厚み方向で変化しており、接着界面から接着層側に一定距離の架橋密度が、上記一定距離よりも内方の接着層の架橋密度よりも大きくなっているといえる。つまり、試料1および試料2構造体の接着層は、内部の本体層と、本体層よりも硬い硬質層とを備えていることがわかる。また、試料1および試料2の構造体における硬質層は、いずれも、接着界面から離れるにつれて小さくなっていた。
【0047】
<実験例3>
初期状態の試料1および試料1Cの構造体、テトラヒドロフラン(THF)に18時間浸漬した試料1および試料1Cの構造体、50℃まで加熱後、-196℃まで冷却するという熱サイクルを10回繰り返した試料1および試料1Cの構造体について、それぞれ、引張りせん断強度を測定した。測定には、万能試験装置(島津製作所製、「オートグラフ」)を用いた。測定条件は、引張速度5mm/分、掴み幅10mm、測定数=6とした。その結果を、図13に示す。
【0048】
図13に示されるように、試料1の構造体は、試料1Cの構造体に比べ、初期の引張りせん断強度が高かった。これは、試料1Cの構造体は、接着層が硬質層を有しておらず、また、接着樹脂がアルミニウム基材の表面にアンカー効果や水素結合等によって接着していたためである。これに対して、試料1の構造体は、硬質層によって接着界面付近の強度が向上したことに加え、硬質層の接着樹脂がアルミニウム基材の表面に共有結合によって結合している効果も相まって、初期の引張りせん断強度が高くなったものと考えられる。
【0049】
また、図13に示されるように、試料1の構造体は、試料1Cの構造体に比べ、THF浸漬後、熱サイクル負荷後のいずれの場合についても、引張りせん断強度の低下が少なく、高い引張りせん断強度を維持することができた。なお、試料1の破壊形態は、本体層の母材破壊が主であったが、試料1Cの構造体は、界面剥離が主であった。また、試料2および試料2Cの構造体についても、試料1および試料1Cの構造体と同様の結果が得られた。
【0050】
本発明は、上記各実施形態、各実験例に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の変更が可能である。また、各実施形態、各実験例に示される各構成は、それぞれ任意に組み合わせることができる。
以下、参考形態の例を付記する。
項1.
アルミニウム基材(111,112)と、上記アルミニウム基材の表面に接着した接着樹脂より構成される接着層(12)と、を有しており、
上記接着層は、上記アルミニウム基材との接着界面(131,132)に接する硬質層(121,122)と、上記硬質層に接する本体層(123)と、を備えており、
上記硬質層は、上記本体層よりも硬い、
構造体(1)。
項1.において、接着樹脂としては、例えば、エポキシ樹脂、ポリウレタン樹脂、メラニン樹脂、ユリア樹脂、シリコーン樹脂、ポリエステル樹脂などを挙げることができる。これらのうち、接着樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂が好ましい。
項2.
上記接着界面に垂直な上記接着層の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される上記硬質層の吸着力は、上記本体層の吸着力よりも大きい、
項1に記載の構造体。
項3.
上記硬質層の吸着力は、上記接着界面から離れるにつれて小さくなる、
項2に記載の構造体。
項4.
上記接着界面に垂直な上記接着層の断面につき、走査型プローブ顕微鏡を用いて測定される上記硬質層の弾性率は、上記本体層の弾性率よりも大きい、
項1から項3のいずれか1項に記載の構造体。
項5.
上記硬質層の弾性率は、上記接着界面から離れるにつれて小さくなる、
項4に記載の構造体。
項6.
上記接着樹脂は、エポキシ樹脂またはシリコーン樹脂である、
項1から項5のいずれか1項に記載の構造体。
項7.
上記硬質層の厚さは、0.5μm以上である、
項1から項6のいずれか1項に記載の構造体。
項8.
上記硬質層の厚さは、1μm以上である、
項1から項6のいずれか1項に記載の構造体。
【符号の説明】
【0051】
1 構造体
111、112 アルミニウム基材
12 接着層
121,122 硬質層
123 本体層
131,132 接着界面
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13