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特許7434917信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01S 7/526 20060101AFI20240214BHJP
   G01S 5/18 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01S7/526 J
G01S5/18
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020007195
(22)【出願日】2020-01-21
(65)【公開番号】P2021113766
(43)【公開日】2021-08-05
【審査請求日】2022-12-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小泉 理紗
(72)【発明者】
【氏名】美島 咲子
(72)【発明者】
【氏名】荒井 友督
【審査官】梶田 真也
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-070930(JP,A)
【文献】特開2014-056598(JP,A)
【文献】特開2002-139377(JP,A)
【文献】特開2008-085472(JP,A)
【文献】特開2019-185422(JP,A)
【文献】特開2011-145846(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0166142(US,A1)
【文献】特開平10-177066(JP,A)
【文献】特開2019-178889(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/00 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサが受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出する一致度算出部と、
記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、前記複数のセンサのうちの他のセンサが受波した前記入力信号と、に基づいて、前記センサが受波した前記入力信号の異常度を算出する異常度算出部と、
前記異常度と所定異常度とに基づいて異常が発生しているかを判定する異常判定部と、
前記複数の各センサの前記異常度を時系列でソートすることで、前記異常の発生位置の遷移パターンを形成して前記異常が発生した移動経路を推定し、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定する異常分類部と、
を備える信号検出装置。
【請求項2】
前記異常分類部は、
前記移動経路の終点に向かう最短経路を求め、
前記移動経路と前記最短経路との差が所定差未満の場合、前記異常は前記入力信号の信号源から発生したと判定する、
請求項1に記載の信号検出装置。
【請求項3】
前記一致度と前記相関関係とを定常状態で予め学習する定常状態学習部をさらに備える、
請求項1又は2に記載の信号検出装置。
【請求項4】
前記定常状態学習部が前記相関関係を学習する学習期間中、
前記一致度算出部は、前記一致度を前記定常状態学習部に出力し、
前記定常状態学習部は、前記相関関係を保存し、
前記異常判定部が、前記異常が発生しているかを判定する判定期間中、
前記一致度算出部は、前記一致度を前記異常度算出部に出力し、
前記定常状態学習部は、前記相関関係を前記異常度算出部に出力する、
請求項3に記載の信号検出装置。
【請求項5】
前記定常状態学習部は、グラフィカルラッソ法を使用して、前記定常状態における複数の前記入力信号間の前記相関関係を学習する、
請求項3又は4に記載の信号検出装置。
【請求項6】
複数の前記センサが受波した前記入力信号を周波数領域に変換して分析する周波数分析部をさらに備え、
前記一致度算出部は、前記周波数領域で前記一致度を算出し、
前記異常度算出部は、前記周波数領域で前記異常度を算出する、
請求項1から5のいずれか1つに記載の信号検出装置。
【請求項7】
複数のセンサと、信号検出装置と、を備え、
前記複数のセンサは、入力信号を受波する受波部を有し、
前記信号検出装置は、
前記複数のセンサが受波した前記入力信号と、所定信号と、の一致度を算出する一致度算出部と、
記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、前記複数のセンサのうちの他のセンサが受波した前記入力信号と、に基づいて、前記センサが受波した前記入力信号の異常度を算出する異常度算出部と、
前記複数の各センサの前記異常度を時系列でソートすることで、前記異常の発生位置の遷移パターンを形成して前記異常が発生した移動経路を推定し、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定する異常分類部と、を有する、
センサネットワークシステム。
【請求項8】
前記異常分類部は、
前記移動経路の終点に向かう最短経路を求め、
前記移動経路と前記最短経路との差が所定差未満の場合、前記異常は前記入力信号の信号源から発生したと推定する、
請求項7に記載のセンサネットワークシステム。
【請求項9】
複数のセンサが受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出することと、
記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、前記複数のセンサのうちの他のセンサが受波した前記入力信号と、に基づいて、前記センサが受波した前記入力信号の異常度を算出することと、
前記複数の各センサの前記異常度を時系列でソートすることで、前記異常の発生位置の遷移パターンを形成して前記異常が発生した移動経路を推定し、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定することと、
を備える信号検出方法。
【請求項10】
複数のセンサが受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出することと、
記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、前記複数のセンサのうちの他のセンサが受波した前記入力信号と、に基づいて、前記センサが受波した前記入力信号の異常度を算出することと、
前記複数の各センサの前記異常度を時系列でソートすることで、前記異常の発生位置の遷移パターンを形成して前記異常が発生した移動経路を推定し、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定することと、
をコンピュータに実行させる信号検出プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラムに関するものであり、特に、複数のセンサで受波した信号に基づき異常を検出することが可能な信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
水中の目標物が発した音波信号を受波し、目標の存在と位置(方位)を特定する信号検出装置、例えば、パッシブソーナー装置が知られている。パッシブソーナー装置が取得した音波信号は、信号処理の変換の後、目標物の有無の判定に使用される。パッシブソーナー装置が受波する音(音波信号)には、目標物である船舶等のエンジン等から発生する音以外にも、目標物ではない行合船や水中生物、波浪等から発生する音が含まれる。パッシブソーナー装置は、受波した音波信号について周波数分析処理を行い、目標物から発せられた音波信号の周波数成分を抽出する。オペレータは、聴音やパッシブソーナー装置で処理した分析結果が表示された画面を目視し、これらの情報を統合して信号の有無を判定する。
【0003】
また、単体のセンサよりも広範囲に、かつ、多様な音波信号(データ)を収集する目的で、パッシブソーナー装置と複数のセンサとを有するセンサネットワークシステムが知られている。また、未知の位置に出現する目標物を検出する目的で、複数のパッシブソーナー装置を海上に配置したセンサネットワークシステムも知られている。これらのセンサネットワークシステムにおいて、オペレータが音波信号を検出(探索)する場合、先ず、オペレータが任意の一つのセンサを手動で選択し、選択したセンサでの検出の有無を判定する。そして、オペレータは、センサによる検出が有りの場合、当該センサの位置等に基づいて、当該センサの周辺にある別のセンサの検出の有無を確認する。オペレータは、このような手続きを繰り返し、検出した音波信号の蓋然性を評価する。また、オペレータは、時間経過に伴う各センサの測定値の変化に基づいて、検出の原因となった事象を推定する。
【0004】
上述のようなパッシブソーナー装置やセンサネットワークシステムにおける目標物の検出は、オペレータの認識能力に依存しており、センサの数が多い場合、又は、検出のリアルタイム性が要求される場合、オペレータによる目標物の検出作業は難しいという課題があった。特に、センサの数が多くなりセンサネットワークシステムの規模が大きい場合、複数のセンサ間の関係が複雑になるので、オペレータによる検出作業はさらに難しくなっていた。
【0005】
特許文献1の0035段落には、定位用CONPアルゴリズム部は、学習時には、時間差特徴量抽出部が抽出した抽出結果である特異パターンを、類似度の順にベクトル量子化する、と記載されている。特許文献1の0036段落には、認識時には、定位用CONPアルゴリズム部は、特異パターンの参照ベクトルへのマッピングを行い、定位結果として、特異パターンを代表する参照ベクトルを持つニューロンからの発火信号を出力する、と記載されている。特許文献1には、入力信号の一致度と、複数の入力信号間の相関関係と、他の入力信号と、に基づいて、入力信号の異常度を算出し、異常が発生したセンサの位置に基づく移動経路により異常の原因を推定することは開示されていない。
【0006】
特許文献2の0056段落には、方向推定部は、物体の方向推定結果を算出して軌跡推定部へ出力する。軌跡推定部は、方向推定結果に基づいて軌跡の仮説集合を算出し、状態推定部へ出力する。状態推定部は、複数チャンネルの周波数領域信号と軌跡仮説集合と複数の源信号状態モデルを入力して、推定結果を算出する。そして、結果出力部は、物体種別の推定結果と警告表示に加えて、物体の軌跡と、音源分離結果を出力する、と記載されている。特許文献2には、入力信号の一致度と、複数の入力信号間の相関関係と、他の入力信号と、に基づいて、入力信号の異常度を算出し、異常が発生したセンサの位置に基づく移動経路により異常の原因を推定することは開示されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2008-085472号公報
【文献】特開2016-065764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述のように、センサの数が多くなりセンサネットワークシステムの規模が大きい場合、又は、検出のリアルタイム性が要求される場合、オペレータによる目標物の検出作業が難しいという課題があった。
【0009】
本開示の目的は、上述した課題を解決する信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本開示に係る信号検出装置は、
センサが受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出する一致度算出部と、
前記入力信号の前記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、他の入力信号と、に基づいて、前記入力信号の異常度を算出する異常度算出部と、
前記異常度と所定異常度とに基づいて異常が発生しているかを判定する異常判定部と、
前記異常が発生していると判定された前記入力信号を受波した複数の前記センサの位置に基づいて前記異常が発生した移動経路を求め、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定する異常分類部と、
を備える。
【0011】
本開示に係るセンサネットワークシステムは、
センサと、信号検出装置と、を備え、
前記センサは、入力信号を受波する受波部を有し、
前記信号検出装置は、
前記センサが受波した前記入力信号と、所定信号と、の一致度を算出する一致度算出部と、
前記入力信号の前記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、他の入力信号と、に基づいて、前記入力信号の異常度を算出する異常度算出部と、
前記異常度と所定異常度とに基づいて異常が発生しているかを判定する異常判定部と、
前記異常が発生していると判定された前記入力信号を受波した複数の前記センサの位置に基づいて前記異常が発生した移動経路を求め、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定する異常分類部と、を有する。
【0012】
本開示に係る信号検出方法は、
センサが受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出することと、
前記入力信号の前記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、他の入力信号と、に基づいて、前記入力信号の異常度を算出することと、
前記異常度と所定異常度とに基づいて異常が発生しているかを判定することと、
前記異常が発生していると判定された前記入力信号を受波した複数の前記センサの位置に基づいて前記異常が発生した移動経路を求め、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定することと、
を備える。
【0013】
本開示に係る信号検出プログラムは、
センサが受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出することと、
前記入力信号の前記一致度と、複数の前記入力信号間の相関関係と、他の入力信号と、に基づいて、前記入力信号の異常度を算出することと、
前記異常度と所定異常度とに基づいて異常が発生しているかを判定することと、
前記異常が発生していると判定された前記入力信号を受波した複数の前記センサの位置に基づいて前記異常が発生した移動経路を求め、前記移動経路に基づいて前記異常の原因を推定することと、
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0014】
本開示によれば、複数のセンサで受波した信号に基づき異常を検出することが可能な信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】実施の形態1に係る信号検出装置を例示するブロック図である。
図2】実施の形態1に係るセンサネットワークシステムを例示するブロック図である。
図3】実施の形態1に係る信号検出装置を例示するブロック図である。
図4】異常度の遷移パターンを例示するグラフである。
図5】異常度の遷移パターンを例示するグラフである。
図6】実施の形態2に係る信号検出装置によるセンサの反応の有無の認識方法を例示する模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。各図面において、同一又は対応する要素には同一の符号が付されており、説明の明確化のため、必要に応じて重複説明を省略する。
【0017】
[実施の形態1]
<信号検出装置>
実施の形態1に係る信号検出装置の概要を説明する。
図1は、実施の形態1に係る信号検出装置を例示するブロック図である。
図1は、実施の形態1に係る信号検出装置の最小限の構成を示す。
【0018】
図1に示すように、実施の形態1に係る信号検出装置11は、一致度算出部111と異常度算出部112と異常判定部113と異常分類部114とを備える。信号検出装置11の例としては、パッシブソーナー装置が挙げられる。
【0019】
一致度算出部111は、センサ(図示せず)が受波した入力信号と、所定信号と、の一致度を算出する。所定信号を目標信号と称することもある。一致度を目標スコアと称することもある。また、一致度算出部を目標スコア算出部と称することもある。
【0020】
異常度算出部112は、所定信号と複数のセンサから入力した入力信号との一致度と、複数の入力信号間の相関関係と、複数のセンサから入力した他の入力信号と、に基づいて、入力信号の異常度を算出する。異常度算出部112による異常度の算出方法については、詳細は後述する。尚、相関関係を相互関係と称することもある。
【0021】
異常判定部113は、異常度算出部112が算出した異常度と、所定異常度と、に基づいて入力信号に異常が発生しているか否かを判定する。
【0022】
異常分類部114は、異常が発生していると判定された入力信号を受波した複数のセンサの位置に基づいて異常が発生した移動経路を求める。異常分類部114は、求めた移動経路に基づいて異常の原因を推定する。
【0023】
実施の形態1に係る信号検出装置の詳細を説明する。
図2は、実施の形態1に係るセンサネットワークシステムを例示するブロック図である。
図3は、実施の形態1に係る信号検出装置を例示するブロック図である。
【0024】
図2に示すように、実施の形態1に係るセンサネットワークシステム10は、センサ50と、信号検出装置11と、を備える。センサ50は、入力信号を受波する受波部(図示せず)を有する。
【0025】
信号検出装置11は、信号分析部11aと信号検出部11bとを有する。信号分析部11aは、周波数分析部115と一致度算出部111とを有する。信号分析部11aは、複数のセンサ50毎に設けられる。
【0026】
信号検出部11bは、定常状態学習部116と異常度算出部112と異常判定部113と異常分類部114とを有する。また、図3に示すように、異常分類部114は、異常度整列部1141と検出対象スコア算出部1142と検出対象スコア閾値判定部1143とを有する。
【0027】
<信号分析部>
信号分析部11aの周波数分析部115は、センサ51、センサ52、センサ53のような複数のセンサ50が受波した入力信号を周波数領域に変換して分析する。具体的には、周波数分析部115は、入力された入力信号を周波数分析し、周波数軸上で表現されるデータに変換する。この変換は、例えば、離散フーリエ変換を使用してもよい。また、この変換には、時刻ごと、周波数ごとに入力信号の信号成分が確認できる方法を使用することができれば良く、分析方法は限定されない。周波数分析部115は、周波数分析の結果を、一致度算出部111に出力する。尚、一致度算出部を目標スコア算出部と称することもある。
【0028】
一致度算出部111は、例えば、周波数領域で一致度を算出する。すなわち、一致度算出部111は、入力信号の周波数分析の結果と所定信号(目標の周波数構造)とを照合し、その一致度を算出する。具体的には、一致度算出部111は、非負値行列因子分解(NMF:Non-negative Matrix Factorization)を用いて一致度を算出する。所定信号を、目標の周波数構造と称することもある。
【0029】
非負値行列因子分解は、複数のベクトルの積として行列で表現された画像や音響信号等のデータから、基底と称する任意のベクトルを探索する技術である。基底は、所定信号(目標の特徴)を周波数領域(周波数構造)で表現したものである。
【0030】
一致度算出部111は、非負値行列因子分解を行った結果の出力として、探索対象の基底がデータ中の「どの時刻」に「どの程度の強さ」で存在するかを示すベクトルを取得することができる。一致度算出部111は、非負値行列因子分解を使用した算出結果を目標スコア(一致度)として、学習時には定常状態学習部116に、検出時には異常度算出部112に出力する。また、一致度算出部111は、算出した結果である目標スコア(一致度)を表示画面等に表示する。
【0031】
尚、実施の形態1においては、一致度の算出方法として、非負値行列因子分解を用いる場合を例に挙げて説明したが、これには限定されない。
【0032】
<信号検出部>
信号検出部11bの定常状態学習部116は、入力信号と所定信号と一致度と、複数の入力信号間の相関関係と、を定常状態で予め学習する。すなわち、定常状態学習部116は、定常状態、すなわち、異常が発生していない状態においてネットワーク内の複数のセンサ50間の相関関係を学習する。複数のセンサ50間の相関関係の学習する方法には、例えば、グラフィカルラッソと呼ばれる手法を用いることができる。
【0033】
定常状態学習部116は、グラフィカルラッソ法を使用して、定常状態における複数の入力信号間の相関関係を学習してもよい。
【0034】
グラフィカルラッソとは、多変量解析の手法の1つである。グラフィカルラッソとは、変数間の相関を疎な精度行列(逆共分散行列)の形で学習し、グラフ構造(ガウス型グラフィカルモデル)で表現可能にするものである。
【0035】
定常状態学習部116は、定常状態のセンサ50間の相関をグラフ構造として学習する。具体的には、定常状態学習部116は、グラフィカルラッソを使用した学習結果を、学習時には定常状態の疎構造として記憶部117に保持し、また、検出時には異常度算出部112に出力する。
【0036】
異常度算出部112は、例えば、周波数領域で異常度を算出し、学習結果に基づいて異常を検出する。すなわち、異常度算出部112は、センサ50からの入力信号によってネットワークに生じた異常の大きさを、センサ50間の関係の異常度として算出する。
【0037】
具体的には、異常度算出部112は、センサiの入力信号xによるグラフ構造の異常度a(x)を、定常状態学習部116で学習した精度行列Λを用いて、例えば、以下の式を用いて算出する。
【0038】
【数1】
【0039】
尚、Mはセンサの総数を示し、i、jはセンサの番号を示す。また、xはセンサiが受波した入力信号であり、xjはセンサjが受波した入力信号である。また、Λi,iは、センサiが受波した入力信号と所定信号との間の相関関係の値、すなわち、一致度を示す。また、Λi,jは、センサiが受波した入力信号とセンサjが受波した入力信号jとの間の入力信号間の相関関係の値を示す。
【0040】
異常度算出部112は、算出した結果である異常度a(x)を、異常判定部113に出力し、または表示画面等に表示する。
【0041】
異常判定部113は、異常度算出部112から取得した異常度a(x)の値と閾値である所定異常度とを比較する。異常判定部113は、異常度の値が所定異常度の値以上の場合、検出すべき異常が発生していると判定する。すなわち、異常判定部113は、この場合、目標が検出される可能性があるとして、その旨を異常分類部114に通知(遷移)する。
【0042】
尚、定常状態学習部116が相関関係を学習する学習期間中、一致度算出部111は、一致度を定常状態学習部116に出力し、定常状態学習部116は、相関関係を記憶部117に保存してもよい。また、異常判定部113が、異常が発生しているかを判定する判定期間中、一致度算出部111は、一致度を異常度算出部112に出力し、定常状態学習部116は、相関関係を異常度算出部112に出力してもよい。また、判定期間を検出期間と称することもある。
【0043】
<異常分類部>
図3に示すように、異常分類部114の異常度整列部1141は、任意のセンサ50pを基点にして、距離の短い(小さい)順に各センサ50の異常度をソートする。ソートを時刻ごとに行うことで、位置が変化するパッシブソーナー装置を用いる場合にも対応する。異常度整列部1141は、ソートした結果の時系列の情報を、異常の発生位置の遷移パターンとして検出対象スコア算出部1142に出力し、または表示画面等に表示する。
【0044】
検出対象スコア算出部1142は、検出された異常の原因を推定する。具体的には、検出対象スコア算出部1142は、異常の発生位置の遷移パターンを異常が発生した移動経路と推定し、これが一連の連続した経路であり、かつ期待する形状の経路であるか否かを判定(判別)する。
【0045】
より具体的には、異常分類部114の検出対象スコア算出部1142は、センサ50が受波した入力信号等に基づいて、異常が発生した移動経路の終点に向かう最短経路を求める。検出対象スコア算出部1142は、移動経路と最短経路との差を算出する。検出対象スコア算出部1142は、移動経路と最短経路との差が所定差未満の場合、異常は入力信号の信号源から発生したと判定する。
【0046】
また、検出対象スコア算出部1142は、移動経路と最短経路との差が所定差以上の場合、異常は信号源から発生したものでは無く、例えば、水中行合船や水中生物、波浪等から発生したものであると判定する。
【0047】
実施の形態1では、判定方法として動的計画法を用いる場合を例に挙げて説明するが、これには限定されない。適用可能な手法は、この方法に限定されない。ここでは、例えば、海中において目標を検出する場合について説明する。
【0048】
図4は、異常度の遷移パターンを例示するグラフである。
図4は、目標となる移動体の異常度の遷移パターンを例示するグラフである。
図4に示す横軸は時間を示し、縦軸はセンサまでの距離を示す。
図4中、斜線部分は、異常度の値が所定異常度の値以上のエリア(部分)を示し、異常が発生していると判定される部分である。
【0049】
図5は、異常度の遷移パターンを例示するグラフである。
図5は、目標外の移動体や雑音が原因の異常度の遷移パターンを例示するグラフである。
図5に示す横軸は時間を示し、縦軸はセンサまでの距離を示す。
図5中、斜線部分は、異常度の値が所定異常度の値以上のエリア(部分)を示し、異常が発生していると判定される部分である。
【0050】
図4に示すように、短い距離に配置されたセンサから、遠い距離に配置されたセンサに向かう連続した経路において異常が発生して移動している場合、目標となる移動体が原因の異常であると判定できる。
【0051】
また、図5に示すように、同時に複数センサが反応するようにして異常が発生する場合や、時間経過に伴う異常の発生位置に図4に示すような遷移がない場合は、目標外によるものと判定できる。また、不連続な位置p1において、突発的に発生する異常は雑音によるものと判定できる。
【0052】
理由は、海中(水中)において目標となる船舶等は、信号を発していてもその信号強度のレベルが低いため、複数のセンサが反応する状況は稀であるからである。また、船舶等は、一定の速度で移動しているため、反応するセンサが変化しないことや、他のセンサに比べて遠い距離にあるセンサが瞬間的に反応することは想定されないからである。
【0053】
そこで、実施の形態1に係る信号検出装置11の検出対象スコア算出部1142は、異常の移動経路と、同じ終点に向かう最短経路に対して動的計画法を使用したスコアリングを行う。検出対象スコア算出部1142は、異常の移動経路のスコアと最短経路のスコアとを比較する。
【0054】
検出対象スコア算出部1142は、異常の移動経路のスコアと最短経路のスコアとの比較結果である差を、検出対象スコアとして、検出対象スコア閾値判定部1143に出力し、または表示画面等に表示する。
【0055】
検出対象スコア閾値判定部1143は、検出対象スコア算出部1142から取得した検出対象スコア(異常の移動経路のスコアと最短経路のスコアとの差)と、所定スコア閾値と、を比較する。
【0056】
検出対象スコア閾値判定部1143は、検出対象スコアが所定スコア閾値未満の場合、異常の移動経路は、図4に示す経路に近いものと判定し、検出すべき信号すなわち目標による信号が発生しているものと判定する。検出対象スコア閾値判定部1143は、異常原因が、目標による信号が発生していることが原因であると判定する。
【0057】
検出対象スコア閾値判定部1143は、判定した結果を外部に出力し、または表示画面等に表示する。
【0058】
検出対象スコア閾値判定部1143による判定では、水中で生じた雑音によって経路が途切れることも想定されるため、過去の所定時刻から現在までのセンサの反応の有無に基づき、連続性を評価することが望ましい。
【0059】
実施の形態1に係る信号検出装置11は、複数のセンサ50が受波した入力信号の異常度に基づいて異常が発生しているか否かを判定し、異常が発生していると判定された入力信号を受波した複数のセンサ50の位置に基づいて異常の原因を推定する。
【0060】
その結果、実施の形態1によれば、複数のセンサで受波した信号に基づき異常を検出し、異常の原因を推定することが可能な信号検出装置、センサネットワークシステム、信号検出方法、及び信号検出プログラムに提供することができる。
【0061】
また、実施の形態1に係る信号検出装置11は、複数の全てのセンサ50間の相関関係を、1つのグラフ構造として一括して学習する。そして、信号検出装置11は、このグラフ構造を用いて、入力信号がセンサネットワークシステム10の全体に与える影響の大きさを、異常度として算出する。これにより、一般的な検出方法では対応困難な規模のネットワークを対象とした目標物の検出について、自動化することができ、また、検出精度を向上させることができる。
【0062】
また、実施の形態1は、パターン認識のような汎用的なモデルを用いる方法ではないため、入力信号(データ)ごとに異なる多様な観測環境に適応して学習が可能である。
【0063】
また、異常分類部114は、入力としてセンサ50の位置情報と観測値のみを用いるため、例えば、パッシブソーナー装置で構成されたセンサネットワークシステム10を対象に異常の原因を自動で推定できる。
【0064】
また、各部の処理結果は、数値や画像として任意の出力先に表示することができ、手動による信号検出の支援も可能である。
【0065】
尚、一致度算出部111(目標スコア算出部)で、入力信号の周波数分析の結果と所定信号(目標の特徴)とを照合する方法として、周波数分析の結果から各時刻のスペクトルに基づく特徴を抽出し、パターン認識モデルやクラスタリングのアルゴリズムを用いて照合を行ってもよい。この場合、入力信号(データ)を蓄積して異常分類部を学習させる必要があるが、目標についての充分な既知情報がある状況であれば精度が確保でき、有効である。
【0066】
また、検出対象スコア算出部1142は、異常の移動経路の形状を判定する方法として、画像処理の技術を適用してもよい。検出対象スコア算出部1142は、例えば、ハフ変換を用いた形状検出によって、一定以上の傾きをもつ直線型の経路や緩やかな曲線型の経路を検出することで、図5に示すような移動経路を抽出できる。
【0067】
また、実施の形態1の説明では、パッシブソーナー装置を例に挙げて説明したが、これには限定されない。実施の形態1は、パッシブソーナー装置に限らず、センサネットワーク内の任意の地点で発生する異常の検知や、車両や船舶等、センサの周囲を移動する物体の追尾をするものであれば、他にも適用することができる。
【0068】
<特徴>
ここで、実施の形態1に係る信号検出装置11の特徴を記載する。
センサ50が受波した入力信号を、センサ50間の関係の変化に基づいて異常として検出し、その異常の信号源が目標であることを推定する機能を有する。
センサネットワークシステムの規模、及び、構成するセンサ50によらずに、精度良く目標物の信号を検出することができる。
【0069】
[実施の形態2]
図6は、実施の形態2に係る信号検出装置によるセンサの反応の有無の認識方法を例示する模式図である。
図6は、時刻t=0、時刻t=1、及び、時刻t=2におけるセンサ50の反応の有無を示す。
【0070】
実施の形態2に係る信号検出装置の異常度整列部は、図6に示すように、異常の発生位置の遷移を取得する方法として、全てのセンサ50の反応の有無をマップでとらえ、センサ50の時間変化を3次元的に取得する。実施の形態2に係る異常度整列部は、時刻t=0でセンサ52が異常を検出したこと、時刻t=1でセンサ53が異常を検出したこと、時刻t=2でセンサ54が異常を検出したこと、を3次元的に取得する。実施の形態2に係る異常度整列部は、図4及び図5に示すように、センサ50の時間変化を2次元的に取得するものでは無い。
【0071】
これにより、異常の発生位置が、例えば、大きく旋回するような場合等で移動経路が不連続になる場合でも、実施の形態2によれば、正確に移動経路を取得することができる。
【0072】
尚、上記の実施の形態では、本発明をハードウェアの構成として説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。本発明は、各構成要素の処理を、CPU(Central Processing Unit)にコンピュータプログラムを実行させることにより実現することも可能である。
【0073】
上記の実施の形態において、プログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実態のある記憶媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記憶媒体(具体的にはフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記憶媒体(具体的には光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)、CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(具体的には、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM))、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory)を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0074】
以上、実施の形態を参照して本願発明を説明したが、本願発明は上記によって限定されるものではない。本願発明の構成や詳細には、発明のスコープ内で当業者が理解し得る様々な変更をすることができる。
【0075】
尚、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0076】
10…センサネットワークシステム
11…信号検出装置
11a…信号分析部
11b…信号検出部
111…一致度算出部
112…異常度算出部
113…異常判定部
114…異常分類部
1141…異常度整列部
1142…検出対象スコア算出部
1143…検出対象スコア閾値判定部
115…周波数分析部
116…定常状態学習部
117…記憶部
50、51、52、53、54、50p…センサ
t…時刻
図1
図2
図3
図4
図5
図6