IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 堺化学工業株式会社の特許一覧

<>
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】塩素含有樹脂組成物
(51)【国際特許分類】
   C08L 27/04 20060101AFI20240214BHJP
   C08K 3/013 20180101ALI20240214BHJP
   C08K 3/11 20180101ALI20240214BHJP
   C08K 3/18 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 5/57 20060101ALI20240214BHJP
   C08K 9/06 20060101ALI20240214BHJP
   C08L 23/30 20060101ALI20240214BHJP
   C08J 5/18 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C08L27/04
C08K3/013
C08K3/11
C08K3/18
C08K5/57
C08K9/06
C08L23/30
C08J5/18 CEV
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020011793
(22)【出願日】2020-01-28
(65)【公開番号】P2021116379
(43)【公開日】2021-08-10
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000174541
【氏名又は名称】堺化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】森 純治
(72)【発明者】
【氏名】田井 康寛
(72)【発明者】
【氏名】津田 耕市
【審査官】岡部 佐知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-108411(JP,A)
【文献】特開平10-120912(JP,A)
【文献】特開2008-163139(JP,A)
【文献】特開2013-159774(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/16
C08J 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩素含有樹脂と、Fe-Cr系及びFe-Co-Cr系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料とを含む塩素含有樹脂組成物であって、
該塩素含有樹脂組成物は、塩素含有樹脂100重量部に対して、鉛系安定剤及び有機スズ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤0.1~10重量部と、
酸価が5~20mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックス0.01~5重量部を含むことを特徴とする塩素含有樹脂組成物。
【請求項2】
前記無機顔料は、シリコーン化合物及び/又はシラン化合物で表面処理されていることを特徴とする請求項に記載の塩素含有樹脂組成物。
【請求項3】
前記シリコーン化合物は、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサンから選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項に記載の塩素含有樹脂組成物。
【請求項4】
更に充填剤を含むことを特徴とする請求項1~のいずれかに記載の塩素含有樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載の塩素含有樹脂組成物を用いてなることを特徴とする成形体。
【請求項6】
パイプまたはパイプ継手であることを特徴とする請求項に記載の成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塩素含有樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリ塩化ビニルに代表される塩素含有樹脂は、柔軟性が高く加工しやすいうえ、機械的強度等の物性にも優れるため、樹脂パイプの材料等の様々な用途に広く使用されている。
従来よりパイプや継手の着色剤には、カーボンとチタンを用いたグレー顔料が使用されていたが、夏場のパイプ温度上昇による曲りを防止する目的で、有機系黒顔料を使用する技術が開示されている(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-031291号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のように、塩素含有樹脂に有機系黒顔料を使用する技術が開示されているが、有機系黒顔料は、加工方法等分散性の条件次第では、赤や青色が強く発色したり、光源によって見え方が変わるメタメリズム現象がみられるため、生産品質管理が難しいという課題がある。本発明者は、この課題に対し、有機系顔料に変えて鉄系の無機顔料の使用を検討したところ、上記色の変化やメタメリズムを抑制することはできたものの、塩素含有樹脂組成物中に顔料がプレートアウトし、金型に付着する不具合が発生するという新たな課題を見出した。
【0005】
本発明は、上記現状に鑑み、鉄系無機顔料を使用しながら、顔料のプレートアウトが抑制された塩素含有樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、鉄系無機顔料のプレートアウトが抑制された塩素含有樹脂組成物について検討し、鉄系無機顔料を含む塩素含有樹脂を、鉛系安定剤及び有機スズ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤と酸化ポリエチレンワックスとをそれぞれ所定の割合で含むものとすると、鉄系無機顔料を使用しながら顔料のプレートアウトを抑制することができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
すなわち本発明は、塩素含有樹脂と、Fe-Cr系及びFe-Co-Cr系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料とを含む塩素含有樹脂組成物であって、該塩素含有樹脂組成物は、塩素含有樹脂100重量部に対して、鉛系安定剤及び有機スズ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤0.1~10重量部と、酸化ポリエチレンワックス0.01~5重量部とを含むことを特徴とする塩素含有樹脂組成物である。
【0008】
上記酸化ポリエチレンワックスは、酸価が1~20mgKOH/gであることが好ましい。
【0009】
上記無機顔料は、シリコーン化合物及び/又はシラン化合物で表面処理されていることが好ましい。
【0010】
上記シリコーン化合物は、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0011】
上記塩素含有樹脂組成物は、更に充填剤を含むことが好ましい。
【0012】
本発明はまた、本発明の塩素含有樹脂組成物を用いてなることを特徴する成形体でもある。また、上記成形体は、パイプまたはパイプ継手であることが好ましい。
【発明の効果】
【0013】
本発明の塩素含有樹脂組成物は、鉄系無機顔料を含み、かつ、プレートアウトが抑制されたものであるため、下水用送水管等の材料として好適に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の好ましい形態について具体的に説明するが、本発明は以下の記載のみに限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において適宜変更して適用することができる。
【0015】
1.塩素含有樹脂組成物
本発明の塩素含有樹脂組成物は、Fe-Cr系及びFe-Co-Cr系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料と、塩素含有樹脂100重量部に対して、鉛系安定剤、有機スズ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤0.1~10重量部と、酸化ポリエチレンワックス0.01~5重量部とを含むことを特徴とする。
以下に、本発明の塩素含有樹脂組成物を構成する各成分について順に説明する。
【0016】
[塩素含有樹脂]
本発明において塩素含有樹脂としては、塩素原子を含む樹脂(重合体)である限り特に限定されないが、塩化ビニル系樹脂が好ましい。これにより、柔軟性や難燃性に優れる成形体が得られる。
塩化ビニル系樹脂としては、例えば、ポリ塩化ビニル、塩素化ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、塩素化ポリエチレン等の単独重合体;塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-エチレン共重合体、塩化ビニル-プロピレン共重合体、塩化ビニル-スチレン共重合体、塩化ビニル-イソブチレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル-ウレタン共重合体、塩化ビニル-アクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-スチレン-無水マレイン酸共重合体、塩化ビニル-スチレン-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-ブタジエン共重合体、塩化ビニル-イソプレン共重合体、塩化ビニル-塩素化プロピレン共重合体、塩化ビニル-塩化ビニリデン-酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル-マレイン酸エステル共重合体、塩化ビニル-メタクリル酸エステル共重合体、塩化ビニル-アクリロニトリル共重合体、塩化ビニル-マレイミド共重合体等の共重合体;等が挙げられる。なお、塩素含有樹脂と塩素非含有樹脂とのブレンド品を使用してもよいし、また塩化ビニル系樹脂を得るための重合方法は特に限定されない。
【0017】
[無機顔料]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、Fe-Cr系及びFe-Co-Cr系から選ばれる少なくとも1種の鉄系の無機顔料を含む。
塩素含有樹脂組成物が含む顔料として鉄系の無機顔料を用いることで、顔料の色の変化やメタメリズムを抑制することができる。
Fe-Cr系無機顔料としては、例えばBlack 6340、Black 6350(アサヒ化成工業社製、何れも商品名)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
Fe-Co-Cr系無機顔料としては、例えばBlack 9590(大日本精化社製、商品名)等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0018】
上記無機顔料は、シリコーン化合物及び/又はシラン化合物で表面処理されていることが好ましい。無機顔料がシリコーン化合物及び/又はシラン化合物で表面処理されたものであると、塩素含有樹脂組成物が耐水性、耐候性に優れたものとなる。
【0019】
上記表面処理に用いるシリコーン化合物としては、ジメチルポリシロキサン、メチルハイドロジェンポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン、環状ジメチルポリシロキサンから選択される少なくとも1種であることが好ましい。これらの中でもメチルハイドロジェンポリシロキサンがより好ましい。
【0020】
上記無機顔料の表面処理に使用されるシリコーン化合物の使用量は、最終的に得られる被覆層を有する無機顔料100重量%に対し、シリコーン化合物による被覆量が0.1~10重量%の範囲となるように調節することが好ましい。より好ましくは1~6重量%の範囲である。
【0021】
上記表面処理に用いるシラン化合物としては、アルキルアルコキシシラン化合物が好ましく、より好ましくは、アルキル基の炭素数が6~20のものであり、更に好ましくは、アルキル基の炭素数が6~10のものであり、特に好ましくは、アルキル基の炭素数が8~10のものである。
アルキル基の炭素数が6~20のアルキルアルコキシシラン化合物としては、ヘキシルトリメトキシシラン、ヘキシルトリエトキシシラン、オクチルトリエトキシシラン、デシルトリメトキシシラン等が挙げられる。これらの中でも、デシルトリメトキシシランが好ましい。
【0022】
上記無機顔料の表面処理に使用されるシラン化合物の使用量は、最終的に得られる被覆層を有する無機顔料100重量%に対し、表面処理剤による被覆量が0.1~10重量%の範囲となるように調節することが好ましい。より好ましくは1~6重量%の範囲である。
【0023】
本発明の塩素含有樹脂組成物が含む無機顔料は、シリコーン化合物、シラン化合物のいずれか一方で表面処理されていてもよく、両方で表面処理されていてもよいが、シラン化合物による表面処理と、シリコーン化合物による表面処理の両方がされていることがより好ましい。これにより、無機顔料を含む塩素含有樹脂組成物が耐水性、耐候性に更に優れたものとなる。表面処理は、シリコーン化合物で表面処理をした後にシラン化合物で表面処理をしてもよく、シラン化合物で表面処理をした後にシリコーン化合物で表面処理をしてもよい。
【0024】
上記無機顔料に対して、シラン化合物による表面処理と、シリコーン化合物による表面処理の両方を行う場合、最終的に得られる被覆層を有する無機顔料100重量%に対し、シラン化合物による被覆量とシリコーン化合物による被覆量の合計が0.1~10重量%の範囲となるように調節することが好ましい。より好ましくは1~6重量%の範囲である。
【0025】
上記無機顔料を表面処理する方法は特に制限されないが、例えば、無機顔料と表面処理剤とを乾式又は湿式で混合することや乾式処理した後熱処理すること等により行うことができる。
【0026】
本発明の塩素含有樹脂組成物において、Fe-Cr系及びFe-Co-Cr系から選ばれる少なくとも1種の無機顔料の含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~1重量部であることが好ましい。このような量であることで、塩素含有樹脂組成物をより十分にグレーに着色することができる。無機顔料の含有量は、より好ましくは、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~0.5重量部であり、更に好ましくは、0.01~0.3重量部である。
【0027】
本発明の塩素含有樹脂組成物は、Fe-Cr系無機顔料、Fe-Co-Cr系無機顔料以外のその他の顔料を含んでいてもよい。
その他の顔料としては、酸化チタン、カーボンブラック等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
その他の顔料の含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましい。より好ましくは、5重量部以下であり、更に好ましくは、1重量部以下である。
【0028】
[安定剤]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、鉛系安定剤及び有機スズ系安定剤から選択される少なくとも1種の安定剤を塩素含有樹脂100重量部に対して、0.1~10重量部含む。
これらの安定剤を含むことで、塩素含有樹脂組成物が耐水性、耐候性に優れ、加工時の熱安定性にも優れたものとなる。
【0029】
鉛系安定剤としては、鉛白、塩基性亜硫酸鉛、二塩基性亜硫酸鉛、三塩基性硫酸鉛、二塩基性亜燐酸鉛、シリカゲル共沈硅酸鉛等の無機系鉛安定剤;ステアリン酸鉛、ラウリン酸鉛、安息香酸鉛、二塩基性ステアリン酸鉛、ナフテン酸鉛等の有機酸鉛安定剤が挙げられ、これらの1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0030】
有機スズ系安定剤としては、ジメチル錫メルカプト、ジブチル錫メルカプト、ジオクチル錫メルカプト、ジブチル錫マレート、ジブチル錫マレートポリマー、ジオクチル錫マレート、ジオクチル錫マレートポリマー、ジブチル錫ラウレート、ジブチル錫ラウレートポリマー等が挙げられ、これらの1種を用いてもよく、2種以上を用いてもよい。
【0031】
本発明の塩素含有樹脂組成物における安定剤の含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対して0.1~10重量部であるが、より好ましくは、塩素含有樹脂100重量部に対して0.5~5.0重量部であり、更に好ましくは、1.0~3.0重量部である。
【0032】
[酸化ポリエチレンワックス]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~5重量部の酸化ポリエチレンワックスを含む。
酸化ポリエチレンワックスを含むことで塩素含有樹脂組成物中での鉄系無機顔料の分散性を良好にし、プレートアウトを効果的に抑制することができる。酸化ポリエチレンワックスの含有量が0.01重量部未満であると、プレートアウト抑制効果が不十分となる。一方、5重量部を超えると、本来の加工性(ゲル化特性)を損なってしまう可能性がある。
【0033】
酸化ポリエチレンワックスは、酸価が1~20mgKOH/gであることが好ましい。酸価が1~20mgKOH/gの酸化ポリエチレンワックスを用いることで、プレートアウトが抑制されることに加え、塩素含有樹脂組成物が加工性にも優れたものとなる。酸化ポリエチレンワックスの酸価が1mgKOH/g未満であると、プレートアウト抑制効果が低下する。一方、20mgKOH/gを超えると、組成物のゲル化するまでの時間が短くなる。酸化ポリエチレンワックスの酸価は、より好ましくは、5~18mgKOH/gであり、更に好ましくは、14~18mgKOH/gである。
酸化ポリエチレンワックスの酸価は、ASTM D-1386に準拠して測定することができる。
【0034】
酸化ポリエチレンワックスは、密度が1.00g/cm以下であることが好ましい。密度が1.00g/cm以下であると、樹脂の溶融粘度が下がり、より成形性が向上する。酸化ポリエチレンワックスの密度はより好ましくは、0.95g/cm以下である。
酸化ポリエチレンワックスの密度は、ASTM D-1505に準拠して測定することができる。
【0035】
酸化ポリエチレンワックスは、融点が80℃以上であることが好ましい。融点が80℃以上であると、昇華物等が減少し、本発明の塩素含有樹脂組成物が成形加工性において成形品の表面不良の低減効果をより十分に発揮することができる。酸化ポリエチレンワックスの融点は、より好ましくは、85℃以上であり、更に好ましくは、90℃以上である。また、酸化ポリエチレンワックスの融点は、通常、150℃以下である。
酸化ポリエチレンワックスの融点は、ASTM D-3418に準拠して測定することができる。
【0036】
酸化ポリエチレンワックスは、140℃での粘度が1000cps以下であることが好ましい。140℃での粘度が1000cps以下であると、本発明の塩素含有樹脂組成物が成形加工性に優れたものとなる。酸化ポリエチレンワックスの140℃での粘度は、800cps以下であることが好ましい。より好ましくは、500cps以下である。
酸化ポリエチレンワックスの140℃での粘度は、B型粘度計により測定することができる。
【0037】
酸化ポリエチレンワックスとしては、例えば、三井化学社製ハイワックスシリーズ、三洋化成社製サンワックスシリーズ、三洋化成社製ビスコールシリーズ、日本精蝋社製ルバックスシリーズ、ハニウェル社製ACシリーズ等が挙げられ、そのうち、上記物性を満たすものを適宜用いることができる。
【0038】
本発明の塩素含有樹脂組成物における酸化ポリエチレンワックスの含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対し、0.01~2.0重量部であることが好ましい。これにより、成形品の外観不良を抑制する効果がより充分に発揮される。より好ましくは0.05~1.5重量部であり、更に好ましくは0.10~1.0重量部である。
【0039】
[過塩素酸化合物]
本発明の塩素含有樹脂組成物は、更に過塩素酸含有ハイドロタルサイト、過塩素酸金属塩等の過塩素酸化合物を含むことが好ましい。無機顔料を含む塩素含有樹脂組成物に過塩素酸化合物を含むことで、耐水性、耐候性に更に優れたものとなる。
過塩素酸金属塩としては、過塩素酸ナトリウム、過塩素酸カリウム等の過塩素酸アルカリ金属塩;過塩素酸マグネシウム、過塩素酸バリウム、過塩素酸カルシウム等の過塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられ、これらの1種又は2種以上を用いることができる。
【0040】
上記過塩素酸含有ハイドロタルサイトは、過塩素酸イオンを含むハイドロタルサイトであり、ハイドロタルサイトは特に制限されないが、マグネシウム元素(Mg)及び/又は亜鉛元素(Zn)と、アルミニウム元素(Al)とを含むものが好ましい。
【0041】
上記ハイドロタルサイトとして特に好ましくは、下記一般式(1):
{(Mg)(Zn)}(Al)(OH)(An-x/n・mHO (1)
(式中、An-は、n価の層間アニオンを表す。x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0.2≦z≦0.4、x+y+z=1を満たす数であって、かつx+yとzとの比{(x+y)/z}は2.0以上、3.0以下である。n及びmは、それぞれ1≦n≦4、及び、0≦mを満たす数である。)で表されるものである。これにより、塩素含有樹脂組成物の耐熱性や熱安定性がより向上する。
【0042】
上記一般式(1)中、n価の層間アニオンとして、過塩素酸イオン(ClO )を含むが、その他のアニオンを含んでいてもよい。その他のアニオンとしては特に限定されないが、反応性及び環境負荷低減の観点から、水酸化物イオン(OH)、炭酸イオン(CO 2-)及び硫酸イオン(SO 2-)からなる群より選択される少なくとも1種が好適である。中でも、炭酸イオンが好ましい。
【0043】
x、y及びzは、0<x<1、0≦y<1、0.2≦z≦0.4、x+y+z=1を満たす数であって、かつx+yとzとの比{(x+y)/z}は2.0以上、3.0以下である。
ここで、y=0であるものは、Mg/Al系ハイドロタルサイトと称され、0<yであるものは、亜鉛変性ハイドロタルサイトと称される。本発明では、これらのいずれも好適に使用できる。
【0044】
x+yとzとの比{(x+y)/z}は、好ましくは2.25以下、より好ましくは2.1以下である。
【0045】
nは、1≦n≦4を満たす数であり、層間アニオンの価数によって変わる。
【0046】
ハイドロタルサイトは、吸油量が50ml/100g以下であることが好ましい。これにより、本発明の塩素含有樹脂組成物から得られる成形品の光沢が向上する。ハイドロタルサイトの吸油量は、より好ましくは、45ml/100g以下であり、更に好ましくは40ml/100g以下である。また、耐熱性の観点から5ml/100g以上であることが好ましい。より好ましくは10ml/100g以上である。
ハイドロタルサイトの吸油量は、JIS K5101-13-1(2004年:精製あまに油法)に準拠して測定することができる。
【0047】
本発明の塩素含有樹脂組成物において、過塩素酸化合物の含有量は、塩素含有樹脂100重量部に対して、過塩素酸化合物として、0.01~0.3重量部であることが好ましい。このような量であることで、耐候性の向上、耐熱性の向上が認められる。過塩素酸化合物の含有量は、より好ましくは、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~0.2重量部であり、更に好ましくは、0.01~0.1重量部である。
【0048】
[充填剤]
本発明の塩素含有樹脂組成物は更に、充填剤を含むことが好ましい。これにより、成形品の寸法安定性や成形品の強度が向上するので、成形体用途に好ましい樹脂組成物となる。
【0049】
充填剤としては特に限定されず、無機塩類、無機酸化物、無機水酸化物等の無機粉体が挙げられ、例えば、亜鉛、チタン、鉄、セリウム、バリウム、カルシウム、ケイ素、アルミニウム、マグネシウム、ストロンチウム、硼素、ジルコニウム等の塩類、酸化物、水酸化物、複合酸化物が挙げられる。塩類としては特に限定されず、例えば、硫酸塩、炭酸塩、塩化塩、酢酸塩、硝酸塩等が挙げられる。具体的には、例えば、炭酸カルシウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、シリカ、酸化セリウム、酸化鉄、硫酸バリウム、硫酸ストロンチウム、硫酸マグネシウム、酸化ケイ素、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、ケイ酸亜鉛、チタン酸亜鉛、チタン酸バリウム、タルク等が挙げられ、中でも、炭酸カルシウムが好適である。
【0050】
上記塩素含有樹脂組成物が充填剤を含む場合、その含有量は特に限定されないが、プレートアウトの発生を抑制する点から、塩素含有樹脂100重量部に対して40重量部以下であることが好ましい。より好ましくは30重量部以下である。また下限は1重量部以上が好ましく、より好ましくは2重量部以上、更に好ましくは3重量部以上である。最も好ましくは、比表面積が20m/g以下である炭酸カルシウムの含有量がこれらの好ましい範囲内にあることである。
【0051】
[その他の成分]
本発明の塩素含有樹脂組成物は更に、必要に応じてその他の成分を含んでもよい。例えば、耐熱助剤、滑剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、架橋助剤、可塑剤等の各種添加剤が挙げられる。添加剤はそれぞれ特に限定されないが、例えば、耐熱助剤としてはジペンタリスリトール等の多価アルコール化合物や、エポキシ樹脂等のエポキシ化合物が挙げられ、滑剤としてはステアリン酸モノグリセライド、パルミチン酸モノグリセライド、ステアリン酸、パルミチン酸、脂肪酸エステル系ワックス、酸化ポリエチレンワックス以外のポリエチレンワックス、ポリプロピレンワックス等が挙げられ、紫外線吸収剤としてはベンゾフェノン系化合物、ベンゾトリアゾール系化合物、芳香族ベンゾエート系化合物等が挙げられ、酸化防止剤としてはフェノール系化合物等が挙げられ、架橋助剤としてはトリメチロールプロパントリメタクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート等が挙げられ、可塑剤としてはジオクチルフタレート(DOP)やトリオクチルトリメリテート(TOTM)、ジオクチルアジペート(DOA)等が挙げられる。
【0052】
上記その他の成分の中でも、本発明の塩素含有樹脂組成物は酸化ポリエチレンワックス以外の滑剤を含むことが好ましい。酸化ポリエチレンワックス以外の滑剤を含むことで、塩素含有樹脂組成物が滑性に更に優れたものとなり、パイプ等の押出し成型加工により適したものとなる。
【0053】
酸化ポリエチレンワックス以外の滑剤を使用する場合の配合量は、塩素含有樹脂100重量部に対して、0.01~10重量部であることが好ましい。より好ましくは、0.1~5.0重量部であり、更に好ましくは、0.1~1.0重量部である。
【0054】
2.成形体
本発明の塩素含有樹脂組成物は、メタメリズムや色変化の発生が起こりにくく、プレートアウトも抑制された組成物であるから、パイプやパイプ継手等に成形して好適に用いることができる。このような、本発明の塩素含有樹脂組成物を用いてなる成形体もまた、本発明の1つである。
成形体の形状は特に限定されず、板状、シート状、フィルム状、膜状等の平面形状の他、ひも状、棒状、ペレット状、管状等のいずれの形状であってもよい。
【実施例
【0055】
本発明を詳細に説明するために以下に具体例を挙げるが、本発明はこれらの例のみに限定されるものではない。特に断りのない限り、「%」及び「wt%」とは「重量%(質量%)」を意味する。なお、各物性の測定方法は以下の通りである。
【0056】
1.原料
後述の表1に記載する原料は以下のとおりである。
[塩素含有樹脂]
塩化ビニル系樹脂(ポリ塩化ビニル):新第一塩ビ社製、ZEST1000Z(重合度1000)
【0057】
[顔料]
Fe-Cr系黒色顔料:アサヒ化成工業社製、BLACK6350(化学組成:Chromium Greeen-Black Hematite)に対し、3%のメチルハイドロジェンポリシロキサン処理をしたもの
酸化チタン:堺化学工業社製R-3L
【0058】
[酸化ポリエチレンワックス]
酸化ポリエチレンワックスA:三井化学社製、ハイワックス4052E(酸価20mgKOH/g)
酸化ポリエチレンワックスB:INNOSPEC社製、VISCOWAX253(酸価14~18mgKOH/g)
酸化ポリエチレンワックスC:三井化学社製、ハイワックス220MP(酸価1mgKOH/g)
【0059】
[安定剤]
ステアリン酸鉛:堺化学工業社製、SL-1000
三塩基性硫酸鉛:堺化学工業社製、TL-7000
【0060】
[過塩素酸化合物]
過塩素酸型ハイドロタルサイト:協和化学社製、アルカマイザー5
【0061】
[充填剤]
重質炭酸カルシウム:備北粉化工業社製、ソフトン1200
【0062】
[滑剤]
ステアリン酸:日油社製、粉末ステアリン酸さくら
脂肪族エステル系ワックス:理研ビタミン社製、リケスターSL-02
非酸化ポリエチレンワックス:中国精油社製、ポリレッツ200EL
ポリプロピレンワックス:三洋化成工業社製、ビスコール550-P
【0063】
2.実施例1~5、比較例1~3
20Lヘンシェルミキサーに表1に記載のとおりに各成分を添加し、80℃まで撹拌混合して塩素含有樹脂組成物を調製した。得られた塩素含有樹脂組成物について、以下の方法によりプレートアウト性、加工性の評価を行った。結果を表1に示す。
<プレートアウト性>
塩素含有樹脂組成物のコンパウンドを、冷却機能を備えた吸引サイジング(成形品の表面性を平滑にする装置)を有するラボ押出機(東洋精機社製、コニカル2D20C型)にて使用し、10時間連続してパイプを押出成形し、一定の長さ毎に切断して、パイプ成形品を得た。押出条件は以下のように設定した。
シリンダー温度は原料投入口に近い位置からシリンダー温度1:190℃、シリンダー温度2:185℃、シリンダー温度3:180℃とし、アダプター金型温度を165℃、金型1を180℃、金型2を210℃とし、金型1,2はパイプ成形用金型を使用した。
押出成形開始から所定の時間経過後に金型を取り外し、樹脂組成物と接触していた面の付着物の量を目視で確認し、以下の基準で評価した。
◎:金型2の内面局所的に極少量付着または付着物なし。
〇:金型2の内面局所的に少量付着。
△:金型2の内面全体に少量付着。
×:金型2の内面全体にまんべんなく大量付着。
<加工性>
ラボプラストミル(東洋精機製作所製4C150)を用い、以下の条件にて塩素含有樹脂組成物のゲル化性を評価し、比較例1配合の塩素含有樹脂組成物のゲル化時間を基準に差異を評価することで加工性評価を行った。
ゲル化性評価条件:
予熱時間30秒としたラボプラストミルに75gの試料を充填し、170℃、ローター回転数50rpmの条件で混練し、ゲル化時間を測定した。ゲル化時間は、混錬トルクがピークになるまでの時間とした。
◎:基準と比較し差が極少ない。
〇:基準と比較し差が少ない。
△:基準と比較し差がある。
×:基準と比較し差が大きい。
【0064】
【表1】
【0065】
表1に示されているとおり、酸化ポリエチレンワックスを用いなかった比較例1~3では顔料のプレートアウトを抑制できていないのに対し、酸化ポリエチレンワックスを用いた実施例1~5では、顔料のプレートアウトを十分に抑制できることが確認された。中でも、酸化ポリエチレンワックスA、Bを用いた実施例1、2では、酸化ポリエチレンワックスCを同量用いた実施例4に比し、より優れた顔料のプレートアウト抑制効果が得られることが確認された。
また、酸化ポリエチレンワックスを用いた実施例1~5では顔料のプレートアウト抑制効果に優れることに加え、加工性も良好であることが確認された。中でも酸化ポリエチレンワックスB、Cを用いた実施例2~5は、酸化ポリエチレンワックスAを用いた実施例1に比し、加工性により優れることが確認された。