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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】積層型バラン
(51)【国際特許分類】
   H01P 5/10 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
H01P5/10 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020014441
(22)【出願日】2020-01-31
(65)【公開番号】P2021121086
(43)【公開日】2021-08-19
【審査請求日】2022-11-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000003067
【氏名又は名称】TDK株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002907
【氏名又は名称】弁理士法人イトーシン国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】芦田 裕太
(72)【発明者】
【氏名】立松 雅大
(72)【発明者】
【氏名】澤口 修平
(72)【発明者】
【氏名】戸蒔 重光
(72)【発明者】
【氏名】後藤 哲三
(72)【発明者】
【氏名】木島 壯氏
【審査官】佐藤 当秀
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-260145(JP,A)
【文献】特開2001-168607(JP,A)
【文献】特開2002-271111(JP,A)
【文献】特開2003-110314(JP,A)
【文献】特開2006-094461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01P 5/10
H01F 19/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不平衡ポートと、
第1の平衡ポートと、
第2の平衡ポートと、
前記不平衡ポートに接続された第1の線路と、
前記第1の線路に直列に接続された第2の線路と、
前記第1の平衡ポートに接続され且つ前記第1の線路に対して電磁界結合する第3の線路と、
前記第2の平衡ポートに接続され且つ前記第2の線路に対して電磁界結合する第4の線路と、
前記不平衡ポート、前記第1および第2の平衡ポートならびに前記第1ないし第4の線路を一体化するための積層体とを備えた積層型バランであって、
前記積層体は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含み、
前記複数の導体層は、複数の線路用導体層と、グランドに接続される少なくとも1つのグランド用導体層とを含み、
前記複数の線路用導体層は、前記第1および第3の線路を構成する複数の第1の導体層と、前記第2および第4の線路を構成する複数の第2の導体層とを含むと共に、各々が前記複数の誘電体層と前記複数の導体層の積層方向に隣接し且つ互いに電磁界結合する2つの導体層からなる複数の導体層対を含み、
前記複数の第1の導体層は、前記積層体内の第1の領域に配置され、
前記複数の第2の導体層は、前記積層方向において前記第1の領域とは異なる位置にある前記積層体内の第2の領域に配置され、
前記少なくとも1つのグランド用導体層は、前記積層方向において前記第1および第2の領域とは異なる位置であって、前記第1の領域よりも前記第2の領域により近い位置に配置され、
前記複数の第2の導体層は、前記複数の導体層対のうち、前記2つの導体層の間隔が最小となる少なくとも1つの導体層対を含むことを特徴とする積層型バラン。
【請求項2】
前記複数の第1の導体層は、前記複数の導体層対のうち、前記2つの導体層の間隔が最大となる少なくとも1つの導体層対を含むことを特徴とする請求項1記載の積層型バラン。
【請求項3】
前記第1の線路と前記第3の線路の各々は、前記複数の第1の導体層のうちの2つ以上の第1の導体層によって構成され、
前記第2の線路と前記第4の線路の各々は、前記複数の第2の導体層のうちの2つ以上の第2の導体層によって構成されていることを特徴とする請求項1または2記載の積層型バラン。
【請求項4】
前記積層体は、前記積層方向の両端に位置する上面と底面を有し、
前記第2の領域は、前記第1の領域よりも前記積層体の前記上面により近い位置にあることを特徴とする請求項1ないし3のいずれかに記載の積層型バラン。
【請求項5】
前記少なくとも1つのグランド用導体層は、前記第2の領域と前記積層体の前記上面との間に配置されていることを特徴とする請求項4記載の積層型バラン。
【請求項6】
更に、前記不平衡ポートと前記第1の線路とを接続する第1の経路と、
前記第1の経路と前記グランドとの間に設けられた第1のキャパシタとを備え、
前記複数の導体層は、更に、前記第1のキャパシタを構成する第1のキャパシタ用導体層を含むことを特徴とする請求項1ないし5のいずれかに記載の積層型バラン。
【請求項7】
更に、前記第1の平衡ポートと前記第3の線路とを接続する第2の経路と、
前記第2の経路と前記グランドとの間に設けられた第2のキャパシタとを備え、
前記複数の導体層は、更に、前記第2のキャパシタを構成する第2のキャパシタ用導体層を含むことを特徴とする請求項1ないし6のいずれかに記載の積層型バラン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、広い周波数帯域において使用可能な積層型バランに関する。
【背景技術】
【0002】
携帯電話機、無線LAN通信機器等の無線通信機器の送受信回路に使用され得る電子部品の1つとして、不平衡信号と平衡信号との間の変換を行うバランがある。バランには、広い周波数帯域において振幅バランス特性および位相バランス特性が良好であることが求められる。振幅バランス特性が良好であるというのは、バランから出力される平衡信号を構成する2つの平衡要素信号の振幅の差が0に近いことである。位相バランス特性が良好であるというのは、2つの平衡要素信号の位相差が180度に近いことである。
【0003】
無線通信機器に使用されるバランの形態としては、例えば、特許文献1および特許文献2に記載されているような積層型バランがある。積層型バランは、積層された複数の誘電体層複数の導体層を含む積層体を用いて構成されたバランである。この積層型バランは、不平衡伝送線路と、不平衡伝送線路の一部に対して電磁界結合する第1の平衡伝送線路と、不平衡伝送線路の他の一部に対して電磁界結合する第2の平衡伝送線路と、グランドに接続されるグランド導体層と、積層体とを備えている。不平衡伝送線路、第1の平衡伝送線路、第2の平衡伝送線路およびグランド導体層は、複数の導体層を用いて構成されている。積層体は、不平衡伝送線路、第1の平衡伝送線路、第2の平衡伝送線路およびグランド導体層を一体化している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9-260145号公報
【文献】特開2003-198221号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
現在、第4世代までの移動通信システムが実用化されている。また、現在、第5世代移動通信システムの規格化が進められている。これらの移動通信システムにおいて広帯域伝送を可能にする技術の一つに、キャリアアグリゲーション(Carrier Aggregation、以下CAとも記す。)がある。CAは、コンポーネントキャリアと呼ばれる複数のキャリアを同時に用いて広帯域伝送を可能にする技術である。
【0006】
CAに対応した移動体通信機器では、複数の周波数帯域が同時に使用される。そのため、CAに対応した移動体通信機器では、従来よりも広帯域で使用可能なバランが求められている。
【0007】
特許文献1,2に記載されているように、積層型バランでは、グランド導体層は、シールドとして用いられる。しかし、従来の積層型バランでは、グランド導体層によって、使用周波数帯域の広帯域化が妨げられていることが分かった。
【0008】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、その目的は、広い周波数帯域において使用可能な積層型バランを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の積層型バランは、不平衡ポートと、第1の平衡ポートと、第2の平衡ポートと、不平衡ポートに接続された第1の線路と、第1の線路に直列に接続された第2の線路と、第1の平衡ポートに接続され且つ第1の線路に対して電磁界結合する第3の線路と、第2の平衡ポートに接続され且つ第2の線路に対して電磁界結合する第4の線路と、不平衡ポート、第1および第2の平衡ポートならびに第1ないし第4の線路を一体化するための積層体とを備えている。
【0010】
積層体は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含んでいる。複数の導体層は、複数の線路用導体層と、グランドに接続される少なくとも1つのグランド用導体層とを含んでいる。複数の線路用導体層は、第1および第3の線路を構成する複数の第1の導体層と、第2および第4の線路を構成する複数の第2の導体層とを含むと共に、各々が複数の誘電体層と複数の導体層の積層方向に隣接し且つ互いに電磁界結合する2つの導体層からなる複数の導体層対を含んでいる。
【0011】
複数の第1の導体層は、積層体内の第1の領域に配置されている。複数の第2の導体層は、積層方向において第1の領域とは異なる位置にある積層体内の第2の領域に配置されている。少なくとも1つのグランド用導体層は、積層方向において第1および第2の領域とは異なる位置であって、第1の領域よりも第2の領域により近い位置に配置されている。複数の第2の導体層は、複数の導体層対のうち、2つの導体層の間隔が最小となる少なくとも1つの導体層対を含んでいる。
【0012】
本発明の積層型バランにおいて、複数の第1の導体層は、複数の導体層対のうち、2つの導体層の間隔が最大となる少なくとも1つの導体層対を含んでいてもよい。
【0013】
また、本発明の積層型バランにおいて、第1の線路と第3の線路の各々は、複数の第1の導体層のうちの2つ以上の第1の導体層によって構成されていてもよい。また、第2の線路と第4の線路の各々は、複数の第2の導体層のうちの2つ以上の第2の導体層によって構成されていてもよい。
【0014】
また、本発明の積層型バランにおいて、積層体は、積層方向の両端に位置する上面と底面を有していてもよい。第2の領域は、第1の領域よりも積層体の上面により近い位置にあってもよい。この場合、少なくとも1つのグランド用導体層は、第2の領域と積層体の上面との間に配置されていてもよい。
【0015】
また、本発明の積層型バランは、更に、不平衡ポートと第1の線路とを接続する第1の経路と、第1の経路とグランドとの間に設けられた第1のキャパシタとを備えていてもよい。この場合、複数の導体層は、更に、第1のキャパシタを構成する第1のキャパシタ用導体層を含んでいてもよい。
【0016】
また、本発明の積層型バランは、更に、第1の平衡ポートと第3の線路とを接続する第2の経路と、第2の経路とグランドとの間に設けられた第2のキャパシタとを備えていてもよい。この場合、複数の導体層は、更に、第2のキャパシタを構成する第2のキャパシタ用導体層を含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0017】
本発明の積層型バランでは、少なくとも1つのグランド用導体層は、積層方向において第1および第2の領域とは異なる位置であって、第1の領域よりも第2の領域により近い位置に配置されている。また、複数の第2の導体層は、複数の導体層対のうち、2つの導体層の間隔が最小となる少なくとも1つの導体層対を含んでいる。これにより、本発明によれば、広い周波数帯域において使用可能な積層型バランを実現することが可能になるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの回路構成を示す回路図である。
図2】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの斜視図である。
図3】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの斜視図である。
図4図2および図3に示した積層型バランの内部を示す斜視図である。
図5図2および図3に示した積層型バランの内部を示す側面図である。
図6図2および図3に示した積層型バランの積層体における1層目ないし3層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図7図2および図3に示した積層型バランの積層体における4層目および5層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図8図2および図3に示した積層型バランの積層体における6層目および7層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図9図2および図3に示した積層型バランの積層体における8層目および9層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図10図2および図3に示した積層型バランの積層体における10層目および11層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図11図2および図3に示した積層型バランの積層体における12層目および13層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図12図2および図3に示した積層型バランの積層体における14層目および15層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図13図2および図3に示した積層型バランの積層体における16層目ないし18層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図14図2および図3に示した積層型バランの積層体における19層目および20層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図15図2および図3に示した積層型バランの積層体における21層目の誘電体層のパターン形成面を示す説明図である。
図16】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの反射特性の一例を示す特性図である。
図17】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの通過特性の一例を示す特性図である。
図18】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの振幅バランス特性の一例を示す特性図である。
図19】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの位相バランス特性の一例を示す特性図である。
図20】シミュレーションによって求めた第1ないし第4のモデルの反射特性を示す特性図である。
図21】シミュレーションによって求めた第1ないし第4のモデルの通過特性を示す特性図である。
図22】シミュレーションによって求めた第1ないし第4のモデルの振幅バランス特性を示す特性図である。
図23】シミュレーションによって求めた第1ないし第4のモデルの位相バランス特性を示す特性図である。
図24】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの第1の変形例の側面図である。
図25】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの第2の変形例の側面図である。
図26】本発明の一実施の形態に係る積層型バランの第3の変形例の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。始めに、図1を参照して、本発明の一実施の形態に係る積層型バラン(以下、単にバランと記す。)の回路構成について説明する。図1は、本実施の形態に係るバランの回路構成を示している。図1に示したように、バラン1は、不平衡ポート11と、第1の平衡ポート12と、第2の平衡ポート13と、ポート14と、不平衡ポート11に接続された第1の線路21と、第1の線路21に直列に接続された第2の線路22と、第1の平衡ポート12に接続された第3の線路23と、第2の平衡ポート13に接続された第4の線路24とを備えている。
【0020】
第1ないし第4の線路21~24の各々は、互いに反対側に位置する第1の端部と第2の端部を有している。第1の線路21の第1の端部は、不平衡ポート11に接続されている。第2の線路22の第1の端部は、第1の線路21の第2の端部に接続されている。第2の線路22の第2の端部は、開放されている。第1および第2の線路21,22は、不平衡伝送線路を構成する。
【0021】
第3の線路23の第1の端部は、第1の平衡ポート12に接続されている。第4の線路24の第1の端部は、第2の平衡ポート13に接続されている。第3の線路23の第2の端部と第4の線路24の第2の端部は、ポート14に接続されている。ポート14は、例えばグランドに接続される。
【0022】
第3および第4の線路23,24は、それぞれ平衡伝送線路を構成する。第3の線路23は、第1の線路21に対して電磁界結合する。第4の線路24は、第2の線路22に対して電磁界結合する。
【0023】
バラン1は、いわゆるマーチャントバランである。第1ないし第4の線路21~24の各々は、バラン1の使用周波数帯域内の所定の周波数に対応する波長の1/4に相当する長さを有する1/4波長線路である。
【0024】
バラン1は、更に、第1の経路15と、第2の経路16と、第1のキャパシタC1と、第2のキャパシタC2とを備えている。第1の経路15は、不平衡ポート11と第1の線路21とを接続している。第2の経路16は、第1の平衡ポート12と第3の線路23とを接続している。第1のキャパシタC1は、第1の経路15とグランドとの間に設けられている。第2のキャパシタC2は、第2の経路16とグランドとの間に設けられている。
【0025】
ここで、バラン1の作用について説明する。バラン1では、不平衡ポート11において不平衡信号が入出力され、第1の平衡ポート12において第1の平衡要素信号が入出力され、第2の平衡ポート13において第2の平衡要素信号が入出力される。第1の平衡要素信号と第2の平衡要素信号は、平衡信号を構成する。バラン1は、不平衡信号と平衡信号との間の変換を行う。
【0026】
次に、図2ないし図5を参照して、バラン1の構造について説明する。図2および図3は、バラン1の斜視図である。図4は、バラン1の内部を示す斜視図である。図5は、バラン1の内部を示す側面図である。バラン1は、更に、ポート11~14、第1ないし第4の線路21~24ならびに第1および第2のキャパシタC1,C2を一体化するための積層体30を備えている。後で詳しく説明するが、積層体30は、積層された複数の誘電体層と複数の導体層とを含んでいる。
【0027】
積層体30は、直方体形状をなしている。積層体30は、積層体30の外周部を構成する上面30A、底面30Bおよび4つの側面30C~30Fを有している。上面30Aと底面30Bは互いに反対側を向き、側面30C,30Dも互いに反対側を向き、側面30E,30Fも互いに反対側を向いている。側面30C~30Fは、上面30Aおよび底面30Bに対して垂直になっている。積層体30において、上面30Aおよび底面30Bに垂直な方向が、複数の誘電体層および複数の導体層の積層方向である。図2ないし図5では、この積層方向を、記号Tを付した矢印で示している。上面30Aと底面30Bは、積層方向Tの両端に位置する。図5は、側面30D側から見たバラン1を示している。
【0028】
ここで、図2ないし図5に示したように、X方向、Y方向、Z方向を定義する。X方向、Y方向、Z方向は、互いに直交する。本実施の形態では、積層方向Tに平行な一方向を、Z方向とする。図5では、X方向を図5における手前から奥に向かう方向として表し、Y方向を左側に向かう方向として表し、Z方向を上側に向かう方向として表している。また、X方向とは反対の方向を-X方向とし、Y方向とは反対の方向を-Y方向とし、Z方向とは反対の方向を-Z方向とする。
【0029】
図2および図3に示したように、上面30Aは、積層体30におけるZ方向の端に位置する。底面30Bは、積層体30における-Z方向の端に位置する。側面30Cは、積層体30におけるX方向の端に位置する。側面30Dは、積層体30における-X方向の端に位置する。側面30Eは、積層体30におけるY方向の端に位置する。側面30Fは、積層体30における-Y方向の端に位置する。
【0030】
バラン1は、更に、第1ないし第6の端子111,112,113,114,115,116を備えている。第1ないし第3の端子111~113の各々は、上面30Aから側面30Fを経由して底面30Bにかけて配置されている。また、第1ないし第3の端子111~113は、X方向にこの順に並んでいる。第4ないし第6の端子114~116の各々は、上面30Aから側面30Eを経由して底面30Bにかけて配置されている。また、第4ないし第6の端子114~116は、-X方向にこの順に並んでいる。
【0031】
第1の端子111は、不平衡ポート11に対応している。第2の端子112は、ポート14に対応している。第3の端子113は、第1の平衡ポート12に対応している。第4の端子114は、第2の平衡ポート13に対応している。第5の端子115は、グランドに接続される。
【0032】
次に、図6ないし図15を参照して、積層体30について詳しく説明する。積層体30は、積層された21層の誘電体層を含んでいる。以下、この21層の誘電体層を、下から順に1層目ないし21層目の誘電体層と呼ぶ。また、1層目ないし21層目の誘電体層を、符号31~51で表す。
【0033】
図6において(a)は、1層目の誘電体層31と2層目の誘電体層32の各々のパターン形成面を示している。誘電体層31,32には、導体層およびスルーホールは形成されていない。
【0034】
図6において(b)は、3層目の誘電体層33のパターン形成面を示している。誘電体層33のパターン形成面には、導体層331が形成されている。導体層331は、図2および図3に示した第1の端子111に接続される。また、誘電体層33には、導体層331に接続されたスルーホール33T1が形成されている。
【0035】
図7において(a)は、4層目の誘電体層34のパターン形成面を示している。誘電体層34のパターン形成面には、線路用導体層341が形成されている。導体層341は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。3層目の誘電体層33に形成されたスルーホール33T1は、導体層341における第1端の近傍部分に接続されている。また、誘電体層34には、スルーホール34T1が形成されている。スルーホール34T1は、導体層341における第2端の近傍部分に接続されている。
【0036】
図7において(b)は、5層目の誘電体層35のパターン形成面を示している。誘電体層35のパターン形成面には、導体層351が形成されている。導体層351は、図2および図3に示した第2の端子112に接続される。また、誘電体層35には、スルーホール35T1,35T2が形成されている。スルーホール35T1には、4層目の誘電体層34に形成されたスルーホール34T1が接続されている。スルーホール35T2は、導体層351に接続されている。
【0037】
図8において(a)は、6層目の誘電体層36のパターン形成面を示している。誘電体層36のパターン形成面には、線路用導体層361が形成されている。導体層361は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。5層目の誘電体層35に形成されたスルーホール35T2は、導体層361に接続されている。導体層361とスルーホール35T2の接続位置から導体層361の第1端までの導体層361の長さは、前記接続位置から導体層361の第2端までの導体層361の長さよりも短い。
【0038】
また、誘電体層36には、スルーホール36T1,36T2が形成されている。スルーホール36T1には、5層目の誘電体層35に形成されたスルーホール35T1が接続されている。スルーホール36T2は、導体層361における第2端の近傍部分に接続されている。
【0039】
図8において(b)は、7層目の誘電体層37のパターン形成面を示している。誘電体層37には、スルーホール37T1,37T2が形成されている。スルーホール37T1,37T2には、それぞれ、6層目の誘電体層36に形成されたスルーホール36T1,36T2が接続されている。
【0040】
図9において(a)は、8層目の誘電体層38のパターン形成面を示している。誘電体層38のパターン形成面には、線路用導体層381が形成されている。導体層381は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。7層目の誘電体層37に形成されたスルーホール37T1は、導体層381における第1端の近傍部分に接続されている。また、誘電体層38には、スルーホール38T1,38T2が形成されている。スルーホール38T1は、導体層381における第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール38T2には、誘電体層37に形成されたスルーホール37T2が接続されている。
【0041】
図9において(b)は、9層目の誘電体層39のパターン形成面を示している。誘電体層39には、スルーホール39T1,39T2が形成されている。スルーホール39T1,39T2には、それぞれ、8層目の誘電体層38に形成されたスルーホール38T1,38T2が接続されている。
【0042】
図10において(a)は、10層目の誘電体層40のパターン形成面を示している。誘電体層40のパターン形成面には、線路用導体層401が形成されている。導体層401は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。9層目の誘電体層39に形成されたスルーホール39T2は、導体層401における第1端の近傍部分に接続されている。
【0043】
また、誘電体層40には、スルーホール40T1,40T3が形成されている。スルーホール40T1には、9層目の誘電体層39に形成されたスルーホール39T1が接続されている。スルーホール40T3は、導体層401に接続されている。導体層401とスルーホール40T3の接続位置から導体層401の第2端までの導体層401の長さは、前記接続位置から導体層401の第1端までの導体層401の長さよりも短い。
【0044】
図10において(b)は、11層目の誘電体層41のパターン形成面を示している。誘電体層41のパターン形成面には、導体層411,412が形成されている。導体層411には、10層目の誘電体層40に形成されたスルーホール40T3が接続されている。また、導体層411は、図2および図3に示した第3の端子113に接続される。導体層412は、図2および図3に示した第4の端子114に接続される。
【0045】
また、誘電体層41には、スルーホール41T1,41T4が形成されている。スルーホール41T1には、10層目の誘電体層40に形成されたスルーホール40T1が接続されている。スルーホール41T4は、導体層412に接続されている。
【0046】
図11において(a)は、12層目の誘電体層42のパターン形成面を示している。誘電体層42のパターン形成面には、線路用導体層421が形成されている。導体層421は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。11層目の誘電体層41に形成されたスルーホール41T4は、導体層421における第1端の近傍部分に接続されている。また、誘電体層42には、スルーホール42T1,42T4が形成されている。スルーホール42T1には、誘電体層41に形成されたスルーホール41T1が接続されている。スルーホール42T4は、導体層421における第2端の近傍部分に接続されている。
【0047】
図11において(b)は、13層目の誘電体層43のパターン形成面を示している。誘電体層43のパターン形成面には、線路用導体層431が形成されている。導体層431は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。12層目の誘電体層42に形成されたスルーホール42T1は、導体層431における第1端の近傍に接続されている。また、誘電体層43には、スルーホール43T1,43T4が形成されている。スルーホール43T1は、導体層431における第2端の近傍部分に接続されている。スルーホール43T4には、誘電体層42に形成されたスルーホール42T4が接続されている。
【0048】
図12において(a)は、14層目の誘電体層44のパターン形成面を示している。誘電体層44のパターン形成面には、導体層441が形成されている。導体層441は、図2および図3に示した第2の端子112に接続される。また、誘電体層44には、スルーホール44T1,44T2,44T4が形成されている。スルーホール44T1,44T4には、それぞれ、13層目の誘電体層43に形成されたスルーホール43T1,43T4が接続されている。スルーホール44T2は、導体層441に接続されている。
【0049】
図12において(b)は、15層目の誘電体層45のパターン形成面を示している。誘電体層45のパターン形成面には、線路用導体層451が形成されている。導体層451は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。14層目の誘電体層44に形成されたスルーホール44T2,44T4は、導体層451に接続されている。導体層451とスルーホール44T2の接続位置から導体層451の第1端までの導体層451の長さは、前記接続位置から導体層451の第2端までの導体層451の長さよりも短い。スルーホール44T4は、導体層451における第2端の近傍部分に接続されている。
【0050】
また、誘電体層45には、スルーホール45T1が形成されている。スルーホール45T1には、14層目の誘電体層44に形成されたスルーホール44T1が接続されている。
【0051】
図13において(a)は、16層目の誘電体層46のパターン形成面を示している。誘電体層46のパターン形成面には、線路用導体層461が形成されている。導体層461は、互いに反対側に位置する第1端と第2端を有している。15層目の誘電体層45に形成されたスルーホール45T1は、導体層461における第1端の近傍部分に接続されている。
【0052】
図13において(b)は、17層目の誘電体層47と18層目の誘電体層48の各々のパターン形成面を示している。誘電体層47,48には、導体層およびスルーホールは形成されていない。
【0053】
図14において(a)は、19層目の誘電体層49のパターン形成面を示している。誘電体層49のパターン形成面には、第1のキャパシタ用導体層491と第2のキャパシタ用導体層492が形成されている。導体層491は、図2および図3に示した第1の端子111に接続される。導体層492は、図2および図3に示した第3の端子113に接続される。
【0054】
図14において(b)は、20層目の誘電体層50のパターン形成面を示している。誘電体層50のパターン形成面には、グランド用導体層501が形成されている。導体層501は、図2および図3に示した第5の端子115に接続される。
【0055】
図15は、21層目の誘電体層51のパターン形成面を示している。誘電体層51のパターン形成面には、マーク511が形成されている。
【0056】
図2および図3に示した積層体30は、1層目の誘電体層31のパターン形成面が積層体30の底面30Bになり、21層目の誘電体層51におけるパターン形成面とは反対側の面が積層体30の上面30Aになるように、1層目ないし21層目の誘電体層31~51が積層されて構成される。そして、この積層体30の外周部に対して第1ないし第6の端子111~116が形成されて、図2および図3に示したバラン1が完成する。
【0057】
なお、図4および図5では、マーク511を省略している。また、図5では、導体層331,351,411,412,441,491,492と、導体層501の一部と、全てのスルーホールを省略している。
【0058】
以下、バラン1の構成要素と、図6ないし図15に示した積層体30の内部の構成要素との対応関係について説明する。積層体30を構成する複数の導体層は、複数の線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461と、グランドに接続される少なくとも1つのグランド用導体層とを含んでいる。本実施の形態では特に、少なくとも1つのグランド用導体層は、1つのグランド用導体層501である。
【0059】
複数の線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461は、第1および第3の線路21,23を構成する複数の第1の導体層と、第2および第4の線路22,24を構成する複数の第2の導体層とを含んでいる。本実施の形態では、導体層341,361,381,401が第1の導体層に対応し、導体層421,431,451,461が第2の導体層に対応する。以下、導体層341,361,381,401を第1の導体層341,361,381,401とも記し、導体層421,431,451,461を第2の導体層421,431,451,461とも記す。
【0060】
第1の線路21は、第1の導体層341,381によって構成されている。導体層341における第1端の近傍部分は、導体層331およびスルーホール33T1を介して第1の端子111に接続されている。導体層381における第1端の近傍部分は、スルーホール34T1,35T1,36T1,37T1を介して導体層341における第2端の近傍部分に接続されている。
【0061】
第2の線路22は、第2の導体層431,461によって構成されている。導体層431における第1端の近傍部分は、スルーホール38T1,39T1,40T1,41T1,42T1を介して、第1の線路21を構成する導体層381における第2端の近傍部分に接続されている。導体層461における第1端の近傍部分は、スルーホール43T1,44T1,45T1を介して、導体層431における第2端の近傍部分に接続されている。
【0062】
第3の線路23は、第1の導体層361,401によって構成されている。導体層401は、スルーホール40T3および導体層411を介して、第3の端子113に接続されている。導体層361における第2端の近傍部分は、スルーホール36T2,37T2,38T2,39T2を介して、導体層401における第1端の近傍部分に接続されている。また、導体層361は、導体層351およびスルーホール35T2を介して、第2の端子112に接続されている。
【0063】
第4の線路24は、第2の導体層421,451によって構成されている。導体層421における第1端の近傍部分は、導体層412およびスルーホール41T4を介して第4の端子114に接続されている。導体層451における第2端の近傍部分は、スルーホール42T4,43T4,44T4を介して、導体層421における第2端の近傍部分に接続されている。また、導体層451は、導体層441およびスルーホール44T2を介して、第2の端子112に接続されている。
【0064】
第1のキャパシタC1は、第1のキャパシタ用導体層491と、グランド用導体層501と、導体層491,501の間の誘電体層49とによって構成されている。導体層491は、第1の端子111に接続されている。
【0065】
第2のキャパシタC2は、第2のキャパシタ用導体層492と、グランド用導体層501と、導体層492,501の間の誘電体層49とによって構成されている。導体層492は、第3の端子113に接続されている。
【0066】
次に、図5を参照して、バラン1の構造上の特徴について説明する。第1および第3の線路21,23を構成する第1の導体層341,361,381,401は、積層体30内の第1の領域R1に配置されている。第2および第4の線路22,24を構成する第2の導体層421,431,451,461は、積層体30内の第2の領域R2に配置されている。図5には、第1の領域R1と第2の領域R2を示している。図5に示したように、第2の領域R2は、積層方向Tにおいて第1の領域R1とは異なる位置にある。本実施の形態では特に、第2の領域R2は、第1の領域R1よりも積層体30の上面30Aにより近い位置にある。
【0067】
グランド用導体層501は、積層方向Tにおいて第1および第2の領域R1,R2とは異なる位置であって、第1の領域R1よりも第2の領域R2により近い位置に配置されている。より詳しく説明すると、グランド用導体層501は、第1の領域R1に配置された複数の第1の導体層341,361,381,401よりも、第2の領域R2に配置された複数の第2の導体層421,431,451,461により近い位置に配置されている。複数の第1の導体層341,361,381,401のうち、グランド用導体層501に最も近い導体層は、導体層401である。複数の第2の導体層421,431,451,461のうち、グランド用導体層501に最も近い導体層は、導体層461である。グランド用導体層501と導体層461の間隔は、グランド用導体層501と導体層401の間隔よりも小さい。
【0068】
本実施の形態では特に、グランド用導体層501は、第2の領域R2と積層体30の上面30Aとの間に配置されている。グランド用導体層501は、シールドとして機能する。
【0069】
複数の線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461は、各々が積層方向Tに隣接し且つ互いに電磁界結合する2つの導体層からなる複数の導体層対を含んでいる。本実施の形態では、導体層341,361の対、導体層381,401の対、導体層421,431の対および導体層451,461の対が、上記導体層対に対応する。
【0070】
複数の第2の導体層421,431,451,461は、上記の複数の導体層対のうち、2つの導体層の間隔が最小となる少なくとも1つの導体層対を含んでいる。また、複数の第1の導体層341,361,381,401は、上記の複数の導体層対のうち、2つの導体層の間隔が最大となる少なくとも1つの導体層対を含んでいる。
【0071】
本実施の形態では、導体層341,361の間隔と、導体層381,401の間隔は、互いに等しい。また、導体層421,431の間隔と、導体層451,461の間隔は、互いに等しい。なお、導体層341,361の間隔は、バラン1の作製の精度等の関係から、導体層381,401の間隔とはわずかに異なっていてもよい。同様に、導体層421,431の間隔は、導体層451,461の間隔とはわずかに異なっていてもよい。
【0072】
ここで、導体層341,361の間隔と導体層381,401の間隔を記号D1で表し、導体層421,431の間隔と導体層451,461の間隔を記号D2で表す。間隔D2は、間隔D1よりも小さい。導体層421,431の対と導体層451,461の対は、前述の2つの導体層の間隔が最小となる少なくとも1つの導体層対に対応する。また、導体層341,361の対と導体層381,401の対は、前述の2つの導体層の間隔が最大となる少なくとも1つの導体層対に対応する。
【0073】
以上説明したように、本実施の形態に係るバラン1では、複数の線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461と、グランド用導体層501は、上記のバラン1の構造上の特徴を満足するように配置されている。これにより、本実施の形態によれば、バラン1を、広い周波数帯域において使用することが可能になる。この効果については、後で、シミュレーションの結果を参照して詳しく説明する。
【0074】
次に、図16ないし図19を参照して、本実施の形態に係るバラン1の特性の一例について説明する。ここでは、第1および第2の平衡ポート12,13に接続される平衡線路のインピーダンスが50Ωになり、バラン1の使用周波数帯域が2.2GHz~3.9GHzの周波数帯域を含むように設計したときの、バラン1の特性の一例を示す。
【0075】
図16は、バラン1の反射特性の一例を示している。ここでは、バラン1の反射特性を、不平衡ポート11に不平衡信号を入力したときに不平衡ポート11から出力される信号の応答を表すシングルエンデッドSパラメータを用いて表す。以下、このSパラメータを反射損失と言う。図16において、横軸は周波数を示し、縦軸は反射損失を示している。反射損失を-r(dB)と表すと、rの値は、10以上の値であることが好ましい。図16に示したように、バラン1では、前述の周波数帯域において、rの値は、10以上の値となっている。
【0076】
図17は、バラン1の通過特性の一例を示している。ここでは、バラン1の通過特性を、不平衡ポート11に不平衡信号を入力したときに第1および第2の平衡ポート12,13から出力される第1および第2の平衡要素信号の差信号の応答を表すミックスト・モードSパラメータを用いて表す。以下、このSパラメータを挿入損失と言う。図17において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。挿入損失を-i(dB)と表すと、iの値は、1.5以下の値であることが好ましく、1.0以下の値であることがより好ましい。図17に示したように、バラン1では、前述の周波数帯域において、iの値は、1.0以下の値となっている。
【0077】
図18は、バラン1の振幅バランス特性の一例を示している。ここでは、バラン1の振幅バランス特性を、不平衡ポート11に不平衡信号を入力したときに第1および第2の平衡ポート12,13から出力される第1および第2の平衡要素信号の振幅の差(以下、振幅差と言う。)を用いて表す。振幅差は、第1の平衡要素信号の振幅が第2の平衡要素信号の振幅よりも大きい場合には正の値で表し、第1の平衡要素信号の振幅が第2の平衡要素信号の振幅よりも小さい場合には負の値で表す。図18において、横軸は周波数を示し、縦軸は振幅差を示している。振幅差をm(dB)と表すと、mの値は、-1.5以上1.5以下であることが好ましく、-1.0以上1.0以下であることがより好ましい。図18に示したように、バラン1では、前述の周波数帯域において、mの値は、-1.0以上1.0以下の値となっている。
【0078】
図19は、バラン1の位相バランス特性の一例を示している。ここでは、バラン1の位相バランス特性を、不平衡ポート11に不平衡信号を入力したときに第1および第2の平衡ポート12,13から出力される第1および第2の平衡要素信号の位相の差(以下、位相差と言う。)を用いて表す。位相差は、第2の平衡要素信号の位相に対して第1の平衡要素信号の位相が進んでいる大きさを表している。図19において、横軸は周波数を示し、縦軸は位相差を示している。位相差をp(deg)と表すと、pの値は、170以上190以下であることが好ましい。図19に示したように、バラン1では、前述の周波数帯域において、の値は、170以上190以下の値となっている。
【0079】
以上説明したように、図16ないし図19に示した特性を有するバラン1は、少なくとも2.2GHz~3.9GHzの広い周波数帯域において使用可能である。
【0080】
次に、バラン1の構造上の特徴とバラン1の特性との関係について調べたシミュレーションの結果について説明する。シミュレーションでは、グランド用導体層501の位置と対応関係を有するパラメータとして、偶インピーダンスZを用いた。また、シミュレーションでは、導体層対を構成する2つの導体層の間隔と対応関係を有するパラメータとして、奇インピーダンスZを用いた。
【0081】
ここで、互いに平行な2つの線路を考える。2つの線路間の静電容量をC12とし、2つの線路の各々とグランドとの間の1m当たりの静電容量をC11とする。偶インピーダンスZは、下記の式(1)で表される。式(1)において、vは光速を表し、εは比誘電率を表す。
【0082】
=√(ε)/(v*C11) …(1)
【0083】
また、奇インピーダンスZは、下記の式(2)で表される。
【0084】
=√(ε)/(v*(C11+2C12)) …(2)
【0085】
ところで、バランでは、C12は、C11よりも十分に大きくなる。C12がC11よりも十分に大きい場合には、奇インピーダンスZを、下記の近似式(3)で表すことができる。
【0086】
≒√(ε)/(v*(2C12)) …(3)
【0087】
2つの線路とグランドとの間隔が大きくなるほど、静電容量C11は小さくなる。従って、式(1)から、2つの線路とグランドとの間隔が大きくなるほど、偶インピーダンスZは大きくなる。このように、偶インピーダンスZは、2つの線路とグランドとの間隔と対応関係を有している。
【0088】
また、2つの線路の間隔が大きくなるほど、静電容量C12は小さくなる。従って、式(3)から、2つの線路の間隔が大きくなるほど、奇インピーダンスZは大きくなる。このように、奇インピーダンスZは、2つの線路の間隔と対応関係を有している。
【0089】
シミュレーションでは、本実施の形態に係るバラン1のモデルであって、第1および第3の線路21,23の組と第2および第4の線路22,24の組の各々の偶インピーダンスZと奇インピーダンスZを変化させた第1ないし第4のモデルを作成した。そして、第1ないし第4のモデルの各々について、反射特性、通過特性、振幅バランス特性および位相バランス特性を求めた。なお、第1ないし第4のモデルでは、第1および第2の平衡ポート12,13に接続される平衡線路のインピーダンスが50Ωになるように設計した。
【0090】
ここで、第1および第3の線路21,23の組の偶インピーダンスZと奇インピーダンスZをそれぞれ記号Ze1,Zo1で表し、第2および第4の線路22,24の組の偶インピーダンスZと奇インピーダンスZをそれぞれ記号Ze2,Zo2で表す。第1のモデルでは、Ze1を400Ωとし、Ze2を200Ωとし、Zo1を24Ωとし、Zo2を10Ωとした。第2のモデルでは、Ze1を200Ωとし、Ze2を400Ωとし、Zo1を24Ωとし、Zo2を10Ωとした。第3のモデルでは、Ze1を400Ωとし、Ze2を200Ωとし、Zo1を10Ωとし、Zo2を24Ωとした。第4のモデルでは、Ze1を200Ωとし、Ze2を400Ωとし、Zo1を10Ωとし、Zo2を24Ωとした。
【0091】
図20は、第1ないし第4のモデルの反射特性を示している。図20では、図16と同様に、第1ないし第4のモデルの反射特性を、反射損失を用いて表している。図20において、横軸は周波数を示し、縦軸は反射損失を示している。また、図20において、符号61は第1のモデルの反射損失を表し、符号62は第2のモデルの反射損失を表し、符号63は第3のモデルの反射損失を表し、符号64は第4のモデルの反射損失を表している。図20に示したように、反射損失を-r(dB)と表すと、例えば2.2GHz~3.9GHzの広い周波数帯域において、rの値は、第1および第2のモデルで大きくなり、第3および第4のモデルで小さくなる。rの値を大きくする観点から、第3および第4のモデルよりも第1および第2のモデルの方が好ましい。
【0092】
図21は、第1ないし第4のモデルの通過特性を示している。図21では、図17と同様に、第1ないし第4のモデルの通過特性を、挿入損失を用いて表している。図21において、横軸は周波数を示し、縦軸は挿入損失を示している。また、図21において、符号71は第1のモデルの挿入損失を表し、符号72は第2のモデルの挿入損失を表し、符号73は第3のモデルの挿入損失を表し、符号74は第4のモデルの挿入損失を表している。図21に示したように、挿入損失を-i(dB)と表すと、例えば2.2GHz~3.9GHzの広い周波数帯域において、iの値は、第1および第2のモデルで小さくなり、第3および第4のモデルで大きくなる。iの値を小さくする観点から、第3および第4のモデルよりも第1および第2のモデルの方が好ましい。
【0093】
図22は、第1ないし第4のモデルの振幅バランス特性を示している。図22では、図18と同様に、第1ないし第4のモデルの振幅バランス特性を、振幅差を用いて表している。また、図22において、符号81は第1のモデルの振幅差を表し、符号82は第2のモデルの振幅差を表し、符号83は第3のモデルの振幅差を表し、符号84は第4のモデルの振幅差を表している。振幅差をm(dB)と表すと、例えば2.2GHz~3.9GHzの広い周波数帯域において、mの絶対値は、第1および第4のモデルで小さくなり、第2および第3のモデルで大きくなる。mの絶対値を小さくする観点から、第2および第3のモデルよりも第1および第4のモデルの方が好ましい。
【0094】
図23は、第1ないし第4のモデルのバラン1の位相バランス特性を示している。図23では、図19と同様に、第1ないし第4のモデルのバラン1の位相バランス特性を、位相差を用いて表している。また、図23において、符号91は第1のモデルの位相差を表し、符号92は第2のモデルの位相差を表し、符号93は第3のモデルの位相差を表し、符号94は第4のモデルの位相差を表している。位相差をp(deg)と表すと、第1ないし第4のモデルで、pの絶対値にほとんど差は生じなかった。
【0095】
図20ないし図24から、第1のモデルが、広い周波数帯域において最良の特性を有していることが分かる。第1のモデルでは、Ze1はZe2よりも大きい。これは、グランド用導体層501と第1および第3の線路21,23の組との間隔が、グランド用導体層501と第2および第4の線路22,24の組との間隔よりも大きいことを意味する。また、第1のモデルでは、Zo1はZo2よりも大きい。これは、第1の線路21と第3の線路23の間隔が、第2の線路22と第4の線路24の間隔よりも大きいことを意味する。
【0096】
本実施の形態では、前述のバラン1の構造上の特徴で規定されているように、第1および第3の線路21,23を構成する第1の導体層341,361,381,401は、積層体30内の第1の領域R1に配置され、第2および第4の線路22,24を構成する第2の導体層421,431,451,461は、積層体30内の第2の領域R2に配置され、グランド用導体層501は、積層方向Tにおいて第1および第2の領域R1,R2とは異なる位置であって、第1の領域R1よりも第2の領域R2により近い位置に配置されている。これにより、本実施の形態によれば、グランド用導体層501と第1および第3の線路21,23の組との間隔を、グランド用導体層501と第2および第4の線路22,24の組との間隔よりも大きくすることができる。
【0097】
また、本実施の形態では、前述のバラン1の構造上の特徴で規定されているように、導体層421,431の間隔と導体層451,461の間隔すなわち間隔D2は、導体層341,361の間隔と導体層381,401の間隔すなわち間隔D1よりも小さい。言い換えると、間隔D1は、間隔D2よりも大きい。これにより、本実施の形態によれば、第1の線路21と第3の線路23の間隔を、第2の線路22と第4の線路24の間隔よりも大きくすることができる。
【0098】
以上のことから、本実施の形態によれば、複数の線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461とグランド用導体層501を、前述のバラン1の構造上の特徴を満足するように配置することにより、バラン1を広い周波数帯域において使用することが可能になる。
【0099】
次に、本実施の形態におけるその他の効果について説明する。本実施の形態では、不平衡ポート11と第1の線路21とを接続する第1の経路15とグランドとの間に、第1のキャパシタC1が設けられている。また、本実施の形態では、第1の平衡ポート12と第3の線路23とを接続する第2の経路16とグランドとの間に、第2のキャパシタC2が設けられている。本実施の形態によれば、第1および第2のキャパシタC1,C2によって、インピーダンス整合を行うことができる。
【0100】
[第1ないし第3の変形例]
次に、本実施の形態に係るバラン1の第1ないし第3の変形例について説明する。始めに、図24を参照して、第1の変形例について説明する。図24は、バラン1の第1の変形例の側面図である。図24に示したように、第1の変形例では、バラン1の積層体30を構成する複数の導体層は、図4図5および図14に示したグランド用導体層501の代わりに、グランド用導体層502を含んでいる。
【0101】
グランド用導体層502は、積層方向Tにおいて第1の領域R1と第2の領域R2との間に配置されている。第1の領域R1に配置された複数の第1の導体層341,361,381,401のうち、グランド用導体層502に最も近い導体層は、導体層401である。第2の領域R2に配置された複数の第2の導体層421,431,451,461のうち、グランド用導体層502に最も近い導体層は、導体層421である。グランド用導体層502と導体層421の間隔は、グランド用導体層502と導体層401の間隔よりも小さい。グランド用導体層502は、第1および第3の線路21,23の組と、第2および第4の線路22,24の組との間の、不要な電磁界結合を防止する機能を有している。
【0102】
次に、図25を参照して、第2の変形例について説明する。図25は、バラン1の第2の変形例の側面図である。図25に示したように、第2の変形例では、バラン1の積層体30を構成する複数の導体層は、図4図5および図14に示したグランド用導体層501に加えて、グランド用導体層503を含んでいる。
【0103】
グランド用導体層503は、第1の領域R1と積層体30の底面30Bとの間に配置されている。複数の第1の導体層341,361,381,401のうち、グランド用導体層503に最も近い導体層は、導体層341である。複数の第2の導体層421,431,451,461のうち、グランド用導体層501に最も近い導体層は、導体層461である。グランド用導体層503と導体層341の間隔は、グランド用導体層501と導体層461の間隔よりも大きい。
【0104】
次に、図26を参照して、第3の変形例について説明する。図26は、バラン1の第3の変形例の側面図である。図26に示したように、第3の変形例では、バラン1の積層体30を構成する複数の導体層は、図4図5および図14に示したグランド用導体層501に加えて、第1の変形例におけるグランド用導体層502と、第2の変形例におけるグランド用導体層503とを含んでいる。
【0105】
グランド用導体層502と線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461との位置関係は、第1の変形例と同じである。グランド用導体層501,503と線路用導体層341,361,381,401,421,431,451,461との位置関係は、第2の変形例と同じである。
【0106】
なお、本発明は、上記実施の形態に限定されず、種々の変更が可能である。例えば、本発明において、第1ないし第4の線路21~24のうちの少なくとも1つは、積層体30を構成する複数の導体層のうちの1つの導体層のみによって構成されていてもよいし、3つ以上の導体層によって構成されていてもよい。
【0107】
また、第1ないし第4の線路21~24の各々が複数の導体層によって構成されている場合、第1および第3の線路21,23を構成する複数の導体層対の各々を構成する2つの導体層の間隔は、互いに異なっていてもよく、第2および第4の線路22,24を構成する複数の導体層対の各々を構成する2つの導体層の間隔は、互いに異なっていてもよい。
【0108】
また、本発明のバランは、バラン以外の他の回路と一体化されて、1つの積層型電子部品を構成してもよい。他の回路としては、例えば、分波回路、フィルタ、整合回路等がある。
【符号の説明】
【0109】
1…バラン、11…不平衡ポート、12…第1の平衡ポート、13…第2の平衡ポート、14…ポート、15…第1の経路、16…第2の経路、21…第1の線路、22…第2の線路、23…第3の線路、24…第4の線路、30…積層体、111…第1の端子、112…第2の端子、113…第3の端子、114…第4の端子、115…第5の端子、116…第6の端子、341,361,381,401,421,431,451,461…線路用導体層、501…グランド用導体層、C1…第1のキャパシタ、C2…第2のキャパシタ、R1…第1の領域、R2…第2の領域。
図1
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