(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】点火コイル
(51)【国際特許分類】
H01F 38/12 20060101AFI20240214BHJP
F02P 15/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01F38/12 B
H01F38/12 E
F02P15/00 303B
(21)【出願番号】P 2020020341
(22)【出願日】2020-02-10
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000648
【氏名又は名称】弁理士法人あいち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】近藤 祐樹
【審査官】秋山 直人
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-084666(JP,A)
【文献】特開2009-290147(JP,A)
【文献】特開平08-045753(JP,A)
【文献】特開平08-045755(JP,A)
【文献】特開平06-077066(JP,A)
【文献】特開平06-061076(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 38/12
F02P 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに磁気結合した一次コイル(11)及び二次コイル(12)と、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に配される中心コア(2)と、
コイル軸方向(X)における前記中心コアの一方側に配される磁石体(3)と、
前記磁石体に対して前記中心コアと反対側から対向する第一対向辺(41)と、前記中心コアに対して前記磁石体と反対側から対向する第二対向辺(42)と、前記第一対向辺と前記第二対向辺とをつなぐ連結辺(43)とを有する外周コア(4)と、を備え、
前記中心コアは、前記磁石体側の端部に、コイル軸方向に直交する突出方向(Y)に突出した磁石側鍔部(21)を有し、
前記磁石側鍔部にコイル軸方向に重なる前記第一対向辺の部位の少なくとも一部と、前記磁石側鍔部及び前記磁石体の少なくとも一方に前記突出方向に重なる前記連結辺の部位の少なくとも一部との双方には、前記第二対向辺における最小厚み(T
min)より厚みが大きくなる肉厚部(40)が形成されて
おり、
前記第二対向辺における前記中心コアと反対側の面は、凹部(421)を有し、
前記凹部は、前記中心コアにおける前記第二対向辺側の面とコイル軸方向に重なる位置に配されており、
前記中心コアの前記磁石体と反対側の端部は、コイル軸方向に直交する方向において前記凹部よりも外側まで突出する反磁石側鍔部(23)を有する、点火コイル(1)。
【請求項2】
前記二次コイルを巻回する二次スプール(13)を更に備え、
コイル軸方向から見たとき、前記中心コアにおけるコイル軸方向の前記反磁石側鍔部が形成された部位は、前記二次スプールの内周側に収まっている、請求項1に記載の点火コイル。
【請求項3】
前記外周コアは、一対の前記連結辺を備えて環状に形成されており、かつ、前記第一対向辺及び一方の前記連結辺を備える第一分割コア(4a)と、前記第二対向辺及び他方の前記連結辺を有する第二分割コア(4b)とを組み合わせてなり、前記第一分割コアと前記第二分割コアとは、互いに同形状である、請求項
1又は2に記載の点火コイル。
【請求項4】
前記外周コアは、一対の前記連結辺を備えて環状に形成されており、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に位置する前記中心コアの被挿入部(221)におけるコイル軸方向に直交する断面の面積S1[mm
2
]と、
前記外周コアの磁路方向に直交する前記肉厚部の断面の最大面積S2[mm
2
]と、
前記連結辺と前記中心コアとの並び方向における、前記磁石側鍔部と前記連結辺との間の距離L[mm]と、
前記並び方向及びコイル軸方向の双方に直交する直交方向における、前記被挿入部の中心と前記外周コアの中心との距離D[mm]とは、
(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998、を満たす、請求項
1~3のいずれか一項に記載の点火コイル。
【請求項5】
互いに磁気結合した一次コイル(11)及び二次コイル(12)と、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に配される中心コア(2)と、
コイル軸方向(X)における前記中心コアの一方側に配される磁石体(3)と、
前記磁石体に対して前記中心コアと反対側から対向する第一対向辺(41)と、前記中心コアに対して前記磁石体と反対側から対向する第二対向辺(42)と、前記第一対向辺と前記第二対向辺とをつなぐ連結辺(43)とを有する外周コア(4)と、を備え、
前記中心コアは、前記磁石体側の端部に、コイル軸方向に直交する突出方向(Y)に突出した磁石側鍔部(21)を有し、
前記磁石側鍔部にコイル軸方向に重なる前記第一対向辺の部位の少なくとも一部と、前記磁石側鍔部及び前記磁石体の少なくとも一方に前記突出方向に重なる前記連結辺の部位の少なくとも一部との双方には、前記第二対向辺における最小厚み(T
min
)より厚みが大きくなる肉厚部(40)が形成されており、
前記外周コアは、一対の前記連結辺を備えて環状に形成されており、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に位置する前記中心コアの被挿入部(221)におけるコイル軸方向に直交する断面の面積S1[mm
2]と、
前記外周コアの磁路方向に直交する前記肉厚部の断面の
最大面積S2[mm
2]と、
前記連結辺と前記中心コアとの並び方向における、前記磁石側鍔部と前記連結辺との間の距離L[mm]と、
前記並び方向及びコイル軸方向の双方に直交する直交方向における、前記被挿入部の中心と前記外周コアの中心との距離D[mm]とは、
(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998、を満たす
、点火コイル(1)。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、点火コイルに関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、互いに磁気的に結合された一次コイル及び二次コイルと、一次コイル及び二次コイルの内側に配された中心コアと、中心コアを囲むよう形成された環状の外周コアとを備える点火コイルが開示されている。中心コア及び外周コアは、一次コイルへの通電によって生じる磁束を通過させる閉磁路を形成する。そして、点火コイルは、一次コイルへの通電を遮断することにより、前記閉磁路に形成される磁束量を変化させ、これによって二次コイルに高電圧の二次電圧を誘起させる。
【0003】
また、特許文献1に記載の点火コイルは、コイル軸方向における中心コアと外周コアとの間のギャップに配置された磁石体を備える。磁石体は、二次電圧、二次エネルギーの向上のため、前記閉磁路に磁気バイアスをかけるために用いられる。磁石体は、一次コイルへの通電時に前記閉磁路に発生する磁界の向きとは反対向きに磁化されており、一次コイルへの通電を遮断したときの前記閉磁路の磁束の変化量を大きくする。これにより、点火コイルにおける二次電圧、二次エネルギーを向上させることができる。
【0004】
さらに、特許文献1に記載の点火コイルにおいて、中心コアは、磁石体が配された側の端部に外周側に突出する鍔部を有する。これにより、中心コアの磁石体が配された側の端部の面積を大きくすることができる。それゆえ、磁石体の断面積を、中心コアの端部に対向させつつ大きくすることができ、磁気バイアスによる磁界を強めやすい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載の点火コイルにおいては、一次コイルへ投入される電気的な一次エネルギーを、二次コイルに発生する電気的な二次エネルギーへ変換する際のエネルギーの損失を抑制する観点から改善の余地がある。すなわち、外周コアにおける中心コアの鍔部近傍の部位においては、磁気飽和が生じやすく、外周コアと鍔部との間にエネルギー変換に寄与しない漏れ磁束が多く形成される懸念がある。
【0007】
本発明は、かかる課題に鑑みてなされたものであり、一次エネルギーを二次エネルギーへ変換する際のエネルギー損失を抑制することができる点火コイルを提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、互いに磁気結合した一次コイル(11)及び二次コイル(12)と、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に配される中心コア(2)と、
コイル軸方向(X)における前記中心コアの一方側に配される磁石体(3)と、
前記磁石体に対して前記中心コアと反対側から対向する第一対向辺(41)と、前記中心コアに対して前記磁石体と反対側から対向する第二対向辺(42)と、前記第一対向辺と前記第二対向辺とをつなぐ連結辺(43)とを有する外周コア(4)と、を備え、
前記中心コアは、前記磁石体側の端部に、コイル軸方向に直交する突出方向(Y)に突出した磁石側鍔部(21)を有し、
前記磁石側鍔部にコイル軸方向に重なる前記第一対向辺の部位の少なくとも一部と、前記磁石側鍔部及び前記磁石体の少なくとも一方に前記突出方向に重なる前記連結辺の部位の少なくとも一部との双方には、前記第二対向辺における最小厚み(Tmin)より厚みが大きくなる肉厚部(40)が形成されており、
前記第二対向辺における前記中心コアと反対側の面は、凹部(421)を有し、
前記凹部は、前記中心コアにおける前記第二対向辺側の面とコイル軸方向に重なる位置に配されており、
前記中心コアの前記磁石体と反対側の端部は、コイル軸方向に直交する方向において前記凹部よりも外側まで突出する反磁石側鍔部(23)を有する、点火コイル(1)にある。
また、本発明の他の態様は、
互いに磁気結合した一次コイル(11)及び二次コイル(12)と、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に配される中心コア(2)と、
コイル軸方向(X)における前記中心コアの一方側に配される磁石体(3)と、
前記磁石体に対して前記中心コアと反対側から対向する第一対向辺(41)と、前記中心コアに対して前記磁石体と反対側から対向する第二対向辺(42)と、前記第一対向辺と前記第二対向辺とをつなぐ連結辺(43)とを有する外周コア(4)と、を備え、
前記中心コアは、前記磁石体側の端部に、コイル軸方向に直交する突出方向(Y)に突出した磁石側鍔部(21)を有し、
前記磁石側鍔部にコイル軸方向に重なる前記第一対向辺の部位の少なくとも一部と、前記磁石側鍔部及び前記磁石体の少なくとも一方に前記突出方向に重なる前記連結辺の部位の少なくとも一部との双方には、前記第二対向辺における最小厚み(Tmin)より厚みが大きくなる肉厚部(40)が形成されており、
前記外周コアは、一対の前記連結辺を備えて環状に形成されており、
前記一次コイル及び前記二次コイルの内周側に位置する前記中心コアの被挿入部(221)におけるコイル軸方向に直交する断面の面積S1[mm
2
]と、
前記外周コアの磁路方向に直交する前記肉厚部の断面の最大面積S2[mm
2
]と、
前記連結辺と前記中心コアとの並び方向における、前記磁石側鍔部と前記連結辺との間の距離L[mm]と、
前記並び方向及びコイル軸方向の双方に直交する直交方向における、前記被挿入部の中心と前記外周コアの中心との距離D[mm]とは、
(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998、を満たす、点火コイル(1)にある。
【発明の効果】
【0009】
前記態様の点火コイルは、磁石側鍔部にコイル軸方向に重なる第一対向辺の部位の少なくとも一部と、磁石側鍔部及び磁石体の少なくとも一方に突出方向に重なる連結辺の部位の少なくとも一部との双方に、第二対向辺における最小厚みより厚みが大きくなる肉厚部が形成されている。このように、外周コアにおける磁気飽和が生じやすい部位に肉厚部を形成することにより、一次エネルギーを二次エネルギーへ変換する際のエネルギー損失を抑制することができる。
【0010】
以上のごとく、前記態様によれば、一次エネルギーを二次エネルギーへ変換する際のエネルギー損失を抑制することができる点火コイルを提供することができる。
なお、特許請求の範囲及び課題を解決する手段に記載した括弧内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものであり、本発明の技術的範囲を限定するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図3】実施形態1における、中心コア、磁石体、及び外周コアの平面図。
【
図6】比較形態における、中心コア、磁石体、及び外周コアの平面図であって、一次コイル及び二次コイルに鎖交しないループが形成されている様子を示す図。
【
図7】実施形態2における、中心コア、磁石体、及び外周コアの平面図。
【
図8】実施形態3における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図9】実施形態4における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図10】実施形態5における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図11】実施形態6における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図12】実施形態7における、点火コイルの、コイル軸方向及び磁石側鍔部の突出方向の双方に平行な断面図。
【
図13】実施形態7における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図14】実施形態7における、外周コアの分解平面図。
【
図15】実施形態7における、コネクタモジュールに対して二次スプールを組み付ける前の状態を示す断面図。
【
図16】実施形態7における、二次スプールの係止部が中心コアの後方鍔部を通過する様子を示す断面図。
【
図17】実施形態7における、二次スプールがコネクタモジュールに組み付いた様子を示す断面図。
【
図18】実施形態7における、コネクタモジュールに対して外周コアを組み付ける様子を説明するための断面図であって、コネクタモジュールに組み付けられた第一分割コアに対して第二分割コアを近付ける様子を示す断面図。
【
図19】実施形態7における、コネクタモジュールに対して外周コアを組み付ける様子を説明するための断面図であって、第一分割コアと第二分割コアとが磁石側鍔部の突出方向に当接した状態を示す断面図。
【
図20】実施形態7における、コネクタモジュールに対して外周コアを組み付ける様子を説明するための断面図であって、第一分割コアと第二分割コアとの双方がコネクタモジュールに対して組み付けられた状態を示す断面図。
【
図21】実施形態8における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図22】実施形態9における、中心コア、磁石体、及び外周コアの断面図。
【
図23】実施形態9における、コネクタモジュールに対して組み付けられた第一分割コアに、第二分割コアを組み付ける様子を示す断面図。
【
図24】実施形態9における、第一分割コアと第二分割コアとが当接した状態を示す断面図。
【
図25】実施形態9における、第一分割コアと第二分割コアとが互いに位置決めされた状態を示す断面図。
【
図26】実験例における、D=2.95mmのときの、(2×S2)/S1と二次エネルギーE2との関係を示すグラフ。
【
図27】実験例における、D=0mm、2.95mm、5mmのそれぞれの場合の、
図26に表れる飽和開始値をプロットした、Lと(2×S2)/S1との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
(実施形態1)
点火コイルの実施形態につき、
図1~
図5を用いて説明する。
本形態の点火コイル1は、
図1、
図2に示すごとく、一次コイル11、二次コイル12、中心コア2、磁石体3、及び外周コア4を備える。
【0013】
一次コイル11及び二次コイル12は、互いに磁気結合している。中心コア2は、一次コイル11及び二次コイル12の内周側に配されている。磁石体3は、コイル軸方向Xにおける中心コア2の一方側に配されている。
【0014】
図2、
図3に示すごとく、外周コア4は、第一対向辺41と第二対向辺42と連結辺43とを備える。第一対向辺41は、磁石体3に対して中心コア2と反対側から対向している。第二対向辺42は、中心コア2に対して磁石体3と反対側から対向している。連結辺43は、第一対向辺41と第二対向辺42とをつないでいる。
【0015】
中心コア2は、磁石体3側の端部に、コイル軸方向Xに直交する突出方向Yに突出した磁石側鍔部21を有する。磁石側鍔部21にコイル軸方向Xに重なる第一対向辺41の部位の少なくとも一部と、磁石側鍔部21及び磁石体3の少なくとも一方に突出方向Yに重なる連結辺43の部位の少なくとも一部との双方には、肉厚部40が形成されている。肉厚部40の厚みT
TPは、第二対向辺42における最小厚みT
minより大きい。なお、
図3において、磁石側鍔部21にコイル軸方向Xに重なる第一対向辺41の部位、及び、磁石側鍔部21及び磁石体3に突出方向Yに重なる連結辺43の部位には、便宜的にハッチングを施している。
以後、本形態につき詳説する。
【0016】
本明細書において、コイル軸方向Xは、一次コイル11及び二次コイル12の巻回軸が延在する方向である。以後、コイル軸方向XをX方向という。X方向の一方側であって、中心コア2に対して磁石体3が配された側を前方、その反対側を後方という。なお、前後の表現は、便宜的なものであり、例えば点火コイル1が搭載される車両に対する点火コイル1の配置姿勢を限定するものではない。X方向に直交する方向であって、中心コア2における磁石側鍔部21が突出する側をY方向という。X方向及びY方向の双方に直交する方向をZ方向という。
【0017】
本形態の点火コイル1は、例えば、自動車、コージェネレーション等の内燃機関に用いるものとすることができる。点火コイル1は、内燃機関に設置されるスパークプラグ(図示略)に接続され、スパークプラグに高電圧を印加する手段として用いられる。
【0018】
図1~
図3に示すごとく、中心コア2は、X方向に長尺に形成されている。例えば、中心コア2は、Z方向に厚みを有する軟磁性材料からなる複数の電磁鋼板を、Z方向に積層してなる。
図2に示すごとく、中心コア2は、Z方向に直交する断面形状が、略T字状を呈している。
【0019】
中心コア2は、X方向に延在する矩形柱状の柱状部22と、柱状部22の前端からY方向の両側に突出した一対の磁石側鍔部21とを備える。磁石側鍔部21の後面は、柱状部22から離れるほど前方に向かうよう傾斜している。これにより、磁石側鍔部21は、柱状部22から離れるほどY方向に直交する断面積が小さくなっている。磁石側鍔部21は、中心コア2の前面の面積を稼ぎ、これにより、X方向に直交する断面の面積が大きい磁石体3を中心コア2の前面に配置できるようにしている。中心コア2の前面に対面して当接するよう、磁石体3が配されている。
【0020】
磁石体3は、X方向に厚みを有する矩形板状に形成されている。磁石体3は、X方向から見たときの大きさが中心コア2の前面と同等であり、中心コア2の前面の略全面に配されている。磁石体3は、点火コイル1の出力電圧の向上のため、中心コア2に磁気バイアスをかけ、一次コイル11への通電の遮断時に、中心コア2及び外周コア4によって構成される磁気回路に形成される磁束Φの変化量を大きくして、二次コイル12に誘起される電圧を高めるためのものである。磁石体3の材料が同じであれば、磁石体3の断面積が大きい程、中心コア2に大きい磁気バイアスを印加することができる。中心コア2及び磁石体3を取り囲むように、外周コア4が配されている。
【0021】
図3に示すごとく、外周コア4は、Z方向から見たとき矩形環状を呈している。外周コア4は、例えば、Z方向に厚みを有する軟磁性材料からなる複数の電磁鋼板を、Z方向に積層してなる。外周コア4は、第一対向辺41、第二対向辺42、及び一対の連結辺43を備える。第一対向辺41は、磁石体3の前面に接合されているとともにY方向に延在している。第二対向辺42は、中心コア2の後面に接合されているとともにY方向に延在している。一対の連結辺43の一方の連結辺43は、第一対向辺41及び第二対向辺42のY方向の一端同士を連結しているとともにX方向に延在している。一対の連結辺43の他方の連結辺43は、第一対向辺41及び第二対向辺42のY方向の他端同士を連結しているとともにX方向に延在している。
【0022】
図3に示すごとく、本形態においては、第一対向辺41と一対の連結辺43に、肉厚部40が形成されている。前述のごとく、肉厚部40の厚みT
TPは、第二対向辺42における最小厚みT
minより厚みが大きい。
【0023】
第一対向辺41は、Y方向の両端部に、前方に突出する肉厚部40を有する。第一対向辺41の肉厚部40は、磁石側鍔部21の突出側端部(すなわち、柱状部22から遠い側の端部)とX方向に重なる位置に形成されている。第一対向辺41の肉厚部40は、磁石側鍔部21と連結辺43との間の間隙にX方向に重なる位置に形成されている。なお、本形態においては、それぞれの磁石側鍔部21にX方向に重なる外周コア4の部位に肉厚部40が形成されているが、肉厚部40は、少なくとも一方の磁石側鍔部21にX方向に重なる外周コア4の部位に形成されていればよい。
【0024】
各連結辺43は、前端部に、Y方向における中心コア2と反対側に突出する肉厚部40を備える。連結辺43の肉厚部40は、磁石側鍔部21及び磁石体3とY方向に重なる位置に形成されている。なお、本形態においては、それぞれの連結辺43に肉厚部40が形成されているが、肉厚部40は、少なくとも一方の連結辺43において、磁石側鍔部21及び磁石体3の少なくとも一方にY方向に重なる部位に形成されていればよい。
図4、
図5に示すごとく、第一対向辺41の肉厚部40及び連結辺43の肉厚部40は、外周コア4におけるZ方向の一端から他端までにわたって形成されている。
【0025】
図3に示すごとく、第二対向辺42は、Y方向の全体において略一定の厚みを有し、Y方向のいずれの部位も第二対向辺42の最小厚みT
minを構成する部位となる。肉厚部40の厚みT
TPと第二対向辺42の最小厚みをT
minとは、T
TP>T
min、を満たしていればよいが、本形態においてはT
TP>1.15×T
minをさらに満たしている。
【0026】
図1に示すごとく、Z方向における外周コア4の長さは、Z方向における中心コア2及び磁石体3の長さよりも大きく、外周コア4のZ方向の両側の部位は、中心コア2及び磁石体3からZ方向の両側に突出している。
図4に示すごとく、中心コア2の一次コイル11及び二次コイル12の内周側に挿入された被挿入部221(すなわち柱状部22の一部)の、Z方向の中央位置C1と、外周コア4のZ方向の中央位置C2とは、異なる位置にある。
【0027】
図4に示すごとく、中心コア2の被挿入部221におけるX方向に直交する断面の面積をS1[mm
2]とする。外周コア4の磁路方向に直交する各肉厚部40の断面の面積をS2[mm
2]とする。すなわち、S2は、肉厚部40の厚み方向とZ方向とに平行な肉厚部40の断面の面積である。
図3に示すごとく、連結辺43と中心コア2との並び方向(すなわちY方向)における、磁石側鍔部21と連結辺43との間の距離をL[mm]とする。Lは、各磁石側鍔部21のX方向の最大長さよりも小さい。
図4に示すごとく、Z方向における、被挿入部221の中心と外周コア4の中心との距離をD[mm]とする。このとき、S1、S2、L、及びDは、(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998、を満たす。S2については、いずれの肉厚部40においても、前記式を満たす。前記式の根拠については、後述の実験例にて述べる。
【0028】
図1、
図2に示すごとく、中心コア2は、後述のコネクタモジュール5を構成している。コネクタモジュール5は、これを構成する金型の内側に、中心コア2、後述のコネクタ部51の端子等を配置し、金型内に樹脂を注入するインサート成形により一体的に形成される。コネクタモジュール5は、コネクタ部51、嵌合壁52、接続壁53、及び一次スプール部54を有する。
【0029】
図1に示すごとく、コネクタ部51は、コネクタモジュール5の前端部に設けられている。コネクタ部51は、点火コイル1を外部機器等に接続するためのコネクタである。嵌合壁52は、X方向に厚みを有する板状に形成されており、点火コイル1のケース17に嵌合している。嵌合壁52から前方に向かってコネクタ部51が突出している。嵌合壁52から後方に向かって、接続壁53が延設されている。接続壁53は、外周コア4の第一対向辺41及び磁石体3のZ方向の一方側を通って、嵌合壁52と一次スプール部54とを接続している。一次スプール部54は、中心コア2を覆うとともに外周部に一次コイル11が巻回されている。中心コア2は、その前面及び後面を一次スプール部54から露出させた状態で一次スプール部54内に配されている。
【0030】
一次スプール部54の外周側には、二次スプール13が配されている。二次スプール13は、電気的絶縁性を有する樹脂等を筒状に形成してなり、一次スプール部54をその内側に挿入させている。そして、二次スプール13に、外周側から二次コイル12が巻回されている。二次コイル12は、一次コイル11と同軸状に形成されている。
【0031】
図1に示すごとく、二次スプール13の後端部には、接続端子14が設けられている。接続端子14は、二次コイル12の高圧側端部と接続される。そして、接続端子14は、点火コイル1の出力端子15に接続されている。出力端子15は、点火コイル1に形成された筒状の高圧タワー19を塞ぐよう配されている。出力端子15は、後述の封止樹脂18が点火コイル1のケース17から高圧タワー19内を通ってケース17外に漏れ出ることを防ぐための栓としての役割も有する。
【0032】
図1、
図2に示すごとく、点火コイル1は、外周コア4の第一対向辺41と嵌合壁52との間に配されたイグナイタ16を備える。ここで、
図2に示すごとく、外周コア4の第一対向辺41の前面は、第一対向辺41に形成された一対の肉厚部40の間に前方凹部411を有する。前方凹部411は、第一対向辺41に形成された肉厚部40から後方に向かって凹んでおり、Z方向の両側が開放されている。なお、前方凹部411は、第一対向辺41をX方向に貫通するスリットとして構成されていてもよい。イグナイタ16は、少なくとも一部が前方凹部411の内側に配されている。すなわち、X方向において、イグナイタ16の少なくとも一部は、前方凹部411の前端(すなわち第一対向辺41の肉厚部40の前端)よりも後方に収まっている。これにより、イグナイタ16の熱が外周コア4に放熱されやすいとともに、点火コイル1全体のX方向の小型化を図りやすい。イグナイタ16は、一次コイル11への通電及びその遮断の制御を行う。
【0033】
図1、
図2に示すごとく、点火コイル1を構成する部品は、ケース17及びこれに嵌合されたコネクタモジュール5の嵌合壁52の内側の領域に収容されている。ケース17は、電気的絶縁性を有する樹脂からなる。
図1に示すごとく、ケース17は、Z方向における一方側が開放されている。ケース17の前方の壁部には、嵌合壁52を嵌合するための嵌合凹部171が形成されている。嵌合凹部171は、ケース17の前方の壁部の一部が、ケース17の開放端からZ方向に切り欠かれたような形状を有する。そして、コネクタモジュール5の嵌合壁52を嵌合凹部171に嵌合させつつ、コネクタモジュール5がケース17の開放部からケース17内に組み付けられる。
【0034】
ケース17及び嵌合壁52によって囲まれた領域には、封止樹脂18が配されている。封止樹脂18は、例えば電気的絶縁性を有する熱硬化性樹脂からなる。封止樹脂18は、ケース17及び嵌合壁52の内側の領域に収容された点火コイル1の構成部品を封止している。
【0035】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
本形態の点火コイル1は、磁石側鍔部21とX方向に重なる第一対向辺41の部位の少なくとも一部と、磁石側鍔部21及び磁石体3の少なくとも一方にY方向に重なる連結辺43の部位の少なくとも一部との双方に、第二対向辺42における最小厚みTminより厚みTTPが大きくなる肉厚部40が形成されている。このように、外周コア4における磁気飽和が生じやすい部位に肉厚部40を形成することにより、一次エネルギーを二次エネルギーへ変換する際のエネルギー損失を抑制することができる。
【0036】
ここで、例えば
図6に示すごとく、外周コア4に肉厚部が形成されていない場合、外周コア4の、
図6において破線で囲む領域(すなわち、外周コア4における、磁石側鍔部21の突出側端部にX方向に重なる領域周辺、及びY方向に重なる領域周辺)において、磁気飽和が生じやすい。それゆえ、磁石側鍔部21の突出側端部周辺の外周コア4の部位において、一部の磁束Φ1が外周コア4及び中心コア2の外部に漏れ出し、ループを形成する。当該ループは、一次コイル11及び二次コイル12に鎖交しない経路に形成される。そのため、かかるループが形成された場合、一次エネルギーを二次エネルギーに変換する際のエネルギー損失が大きくなる。
【0037】
そこで、本形態のように肉厚部40を設けることで、外周コア4における磁気飽和しやすい部分の断面積を拡大でき、一次エネルギーから二次エネルギーへのエネルギー変換に寄与しない前述のような磁束のループが形成されることを抑制することができる。それゆえ、本形態においては、エネルギー損失を抑制しやすい。
【0038】
以上のごとく、本形態によれば、一次エネルギーを二次エネルギーへ変換する際のエネルギー損失を抑制することができる点火コイルを提供することができる。
【0039】
(実施形態2)
本形態は、
図7に示すごとく、実施形態1に対して、外周コア4の形状を変更した実施形態である。
【0040】
本形態において、肉厚部40は、磁石側鍔部21にX方向に重なる第一対向辺41の部位と、当該磁石側鍔部21にY方向に重なる連結辺43の部位との双方にわたって連続的に形成されている。第一対向辺41に形成された肉厚部40は、磁石側鍔部21の略全体に対してX方向に重なる位置に形成されている。そして、第一対向辺41に形成された一対の肉厚部40の間に、前方凹部411が形成されている。Z方向から見たとき、前方凹部411の全体は、柱状部22の略全体にX方向に重なる位置に形成されている。
【0041】
その他は、実施形態1と同様である。
なお、実施形態2以降において用いた符号のうち、既出の実施形態において用いた符号と同一のものは、特に示さない限り、既出の実施形態におけるものと同様の構成要素等を表す。
【0042】
本形態においては、外周コア4における、第一対向辺41と一対の連結辺43との間の角部近傍においても、磁路方向に直交する断面積を確保することができ、一層外周コア4において磁気飽和が生じることを抑制しやすい。それゆえ、本形態においては、一層一次エネルギーを二次エネルギーへ変換する際のエネルギー損失を抑制することができる。
【0043】
また、Z方向から見たとき、前方凹部411の全体は、柱状部22の略全体にX方向に重なる位置に形成されている。ここで、Z方向から見たときに柱状部22にX方向に重なる第一対向辺41の部位は、磁束の集中が生じ難く磁気飽和が生じ難い。それゆえ、かかる部位に前方凹部411を形成することで、外周コア4の磁気的な性能を低下させることなく、外周コア4の軽量化、低コスト化を図ることができる。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0044】
(実施形態3)
本形態は、
図8に示すごとく、実施形態2に対して、外周コア4の形状を変更した形態である。なお、本形態において、環状の外周コア4の周方向をコア周方向という。すなわち、コア周方向は、X方向から見たときの外周コア4に沿った環状の方向を意味する。また、外周コア4の内周側をコア内周側、外周コア4の外周側をコア外周側という。
【0045】
肉厚部40の外周面は、コア周方向の両端にテーパ面401を有する。テーパ面401は、コア周方向において肉厚部40の端に向かうにつれて、コア内周側に向かうよう傾斜している。連結辺43に形成されたテーパ面401は、磁石側鍔部21よりも後方まで形成されている。また、第一対向辺41に形成されたテーパ面401は、磁石側鍔部21の突出側端部にX方向に重なる位置に形成されている。
その他は、実施形態2と同様である。
【0046】
本形態においては、肉厚部40の外周面におけるコア周方向の両端部にテーパ面401を有する。それゆえ、肉厚部40の外周面におけるコア周方向の両端部にエッジが形成されることを防止できる。その結果、冷熱ストレスにより、封止樹脂18に前述のようなエッジを起点としたクラックが生じることを抑制することができる。
その他、実施形態2と同様の作用効果を有する。
【0047】
(実施形態4)
本形態は、
図9に示すごとく、実施形態2に対して、外周コア4の形状を変更した実施形態である。
【0048】
本形態において、肉厚部40は、一方の連結辺43の前端部から、第一対向辺41を介して、他端の連結辺43の前端部まで、連続的に形成されている。すなわち、本形態において、第一対向辺41の全体が肉厚部40になっているとともに、第一対向辺41に連なる連結辺43の前端部も肉厚部40となっている。
その他は、実施形態2と同様である。
【0049】
本形態においても、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0050】
(実施形態5)
本形態は、
図10に示すごとく、実施形態2に対して、各連結辺43の全体を肉厚部40とした形態である。その他は、実施形態2と同様である。
【0051】
本形態においても、実施形態2と同様の作用効果を有する。
【0052】
(実施形態6)
本形態は、
図11に示すごとく、実施形態5に対して、連結辺43のコア内周側の面の形状を変更した実施形態である。本形態において、連結辺43のコア内周側の面の略全体は、後方に向かうほど中心コア2から遠ざかるよう傾斜して形成されている。また、本形態において、二次コイル12は後端の部位ほど高圧となる。
その他は、実施形態5と同様である。
【0053】
本形態においては、外周コア4の連結辺43を、二次コイル12の高圧な部位(すなわち二次コイル12の後端部)から遠ざけることができる。それゆえ、外周コア4と二次コイル12との間の電気的絶縁性を確保しやすい。
その他、実施形態5と同様の作用効果を有する。
【0054】
(実施形態7)
本形態は、
図12~
図20に示すごとく、実施形態1に対して、外周コア4及び中心コア2の形状を変更した実施形態である。
【0055】
図12~
図14に示すごとく、外周コア4は、第一分割コア4aと第二分割コア4bとを組み合わせて環状に構成されている。第一分割コア4aは第一対向辺41と一方の連結辺43とを備え、第二分割コア4bは第二対向辺42と他方の連結辺43とを備える。第一分割コア4aと第二分割コア4bとは、それぞれL字状であり、互いに同形状である。第一分割コア4aと第二分割コア4bとは、互いに姿勢をコア周方向に180°回転させた姿勢で互いに組み付けられている。第一分割コア4aと第二分割コア4bとは、第一対向辺41のY方向の端面412と第二分割コア4bの連結辺43の前端部とが当接しているとともに、第二対向辺42のY方向の端面422と第一分割コア4aの連結辺43の後端部とが当接している。
【0056】
外周コア4は、第一分割コア4aの第一対向辺41に前述の前方凹部411を備えるとともに、第二分割コア4bの第二対向辺42に後方凹部421を備える。後方凹部421は、中心コア2の後面にX方向に重なる位置に形成されており、Z方向の両側が開放されている。
【0057】
外周コア4における前方凹部411及び後方凹部421が形成された部位以外の部位の全体は、肉厚部40を構成している。すなわち、
図13に示すごとく、外周コア4における前方凹部411及び後方凹部421が形成された部位以外の部位の全体は、第二対向辺42における最小厚みT
minより厚みが大きくなっている。第二対向辺42の最小厚みT
minは、後方凹部421が形成された部位のX方向の寸法である。第一分割コア4aと第二分割コア4bとの当接部は、肉厚部40によって構成されている。
【0058】
図12、
図13に示すごとく、中心コア2の磁石体3と反対側(すなわち後方)の端部は、Y方向において後方凹部421よりも外側まで突出する後方鍔部23を有する。後方鍔部23は、中心コア2の柱状部22の後端部からY方向の両側に突出している。後方鍔部23の前面は、柱状部22から離れるほど後方に向かうよう傾斜している。これにより、後方鍔部23は、柱状部22から離れるほどY方向に直交する断面積が小さくなっている。そして、Y方向の一方側の後方鍔部23は、後方凹部421よりもY方向の一方側に突出するとともに、Y方向の他方側の後方鍔部23は、後方凹部421よりもY方向の他方側に突出している。
【0059】
X方向から見たとき、中心コア2におけるX方向の後方鍔部23が存在する領域は、二次スプール13の最小内径を構成する部位よりも内周側に収まるよう形成されている。これにより、後述するように二次スプール13をコネクタモジュール5に対して組み付ける際、二次スプール13が後方鍔部23に干渉することを防止している。
図12に示すごとく、二次スプール13の内周面は、後端部に、内周側に突出する後述の係止部131を有し、当該係止部131が形成された領域が、二次スプール13の最小内径を構成する部位となっている。すなわち、中心コア2におけるX方向の後方鍔部23が存在する領域は、X方向から見たとき、二次スプール13の係止部131よりも内周側に収まるよう形成されている。本形態において、中心コア2の後方鍔部23の外周部には、一次スプール部54の一部が形成されており、一次スプール部54の当該一部も、X方向から見たとき二次スプール13の最小内径部分の内側に収まるよう形成されている。
【0060】
係止部131は、一次スプール部54に形成された被係止部541に係止される部位である。これにより、二次スプール13が、一次スプール部54を含むコネクタモジュール5に対して位置決めされる。
【0061】
次に、
図15~
図20を用いて、本形態において、コネクタモジュール5に対して二次スプール13、第一分割コア4a及び第二分割コア4bを組み付ける方法の一例につき説明する。
【0062】
まず、
図15~
図17に示すごとく、コネクタモジュール5に対して二次スプール13を組み付ける。二次スプール13は、コネクタモジュール5の後方から、二次スプール13の内側に中心コア2及び一次スプール部54を挿入するように、コネクタモジュール5に対して組み付ける。このとき、前述のごとく、中心コア2におけるX方向の後方鍔部23が存在する領域は、X方向から見たとき二次スプール13よりも内周側に収まるよう形成されているため、二次スプール13は、後方鍔部23に干渉せずに後方鍔部23を通過することができる。そして、二次スプール13を、その係止部131が一次スプール部54の被係止部541を乗り越えるようにすることで、二次スプール13の係止部131が被係止部541に係止し、
図17に示すごとく、コネクタモジュール5に対する二次スプール13の位置決めがなされる。
【0063】
次いで、
図18に示すごとく、中心コア2の前面に配された磁石体3の前方に第一分割コア4aの第一対向辺41が配されるよう、第一分割コア4aをコネクタモジュール5に組み付ける。そして、第一分割コア4aの第一対向辺41を、磁力により磁石体3に固定する。
【0064】
次いで、
図18、
図19に示すごとく、第二分割コア4bを、第一分割コア4aに対してY方向に近付けて第一分割コア4aに当接させる。次いで、
図19、
図20に示すごとく、第二分割コア4bを前方に移動させ、第二分割コア4bの第二対向辺42を中心コア2の後面に当接させる。これにより、第二対向辺42と中心コア2の後面との間のギャップを無くす。
以上のように、コネクタモジュール5に対して二次スプール13、第一分割コア4a及び第二分割コア4bを組み付けることができる。
【0065】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
本形態において、第二対向辺42の後面は、中心コア2の後面にX方向に重なる部位に後方凹部421を有する。それゆえ、後方凹部421を設けることで外周コア4の軽量化及び低コスト化を図ることができる。ここで、第二対向辺42に後方凹部421を形成することに起因して、第二対向辺42における後方凹部421周辺の部位の磁気抵抗が上昇し、当該領域において磁気飽和が生じやすくなることが懸念される。そこで、本形態においては、中心コア2の後端部に、Y方向において後方凹部421よりも外側まで突出する後方鍔部23を形成している。これにより、中心コア2及び外周コア4に形成される磁路に直交する断面積が小さくなることを抑制することができ、前記磁路の磁気抵抗を低減することができる。
【0066】
また、X方向から見たとき、中心コア2におけるX方向の後方鍔部23が形成された部位は、二次スプール13よりも内周側に収まっている。それゆえ、前述のごとく、二次スプール13を中心コア2の外周側に組み付けやすい。
【0067】
また、外周コア4は、一対の連結辺43を備えて環状に形成されており、かつ、第一対向辺41及び一方の連結辺43を備える第一分割コア4aと、第二対向辺42及び他方の連結辺43を有する第二分割コア4bとを組み合わせてなる。それゆえ、前述のごとく、磁石体3と第一対向辺41との間、及び、中心コア2の後面と第二対向辺42との間に、ギャップが形成され、中心コア2及び外周コア4によって構成される磁路の磁気抵抗が増加することを防止することができる。また、第一分割コア4aと第二分割コア4bとは、互いに同形状である。それゆえ、外周コア4の生産性を向上させやすい。
その他、実施形態1と同様の作用効果を有する。
【0068】
(実施形態8)
本形態は、
図21に示すごとく、実施形態7に対して、各連結辺43に連結凹部431を形成した実施形態である。
【0069】
連結凹部431は、連結辺43におけるY方向の外側面であって、X方向の中央位置に形成されている。連結凹部431は、Z方向の両側が開放されている。X方向において連結凹部431は、磁石側鍔部21より後方の位置から、後方鍔部23よりも前方の位置まで形成されている。本形態においても、第一分割コア4aと第二分割コア4bとは、互いに同形状となるよう形成されている。
その他は、実施形態7と同様である。
【0070】
本形態においては、さらなる軽量化、及びコスト低減を図ることができる。
その他、実施形態7と同様の作用効果を有する。
【0071】
(実施形態9)
本形態は、
図22~
図25に示すごとく、実施形態7に対して、第一分割コア4aと第二分割コア4bとの当接部の形状を変更した実施形態である。
図22に示すごとく、本形態において、第一分割コア4aの第一対向辺41と第二分割コア4bの連結辺43との当接部を第一当接部441といい、第二分割コア4bの第二対向辺42と第一分割コア4aの連結辺43との当接部を第二当接部442ということとする。
【0072】
第二分割コア4bの連結辺43は、第一分割コア4aの第一対向辺41のY方向の端面412とY方向に対向する部位に、第一対向辺41の端面412側に向かって突出した第二突出部46を有する。第二突出部46のY方向の端面461は、第一対向辺41の端面412と当接して第一当接部441を構成している。
【0073】
第一分割コア4aの連結辺43は、第二分割コア4bの第二対向辺42のY方向の端面422とY方向に対向する部位に、第二対向辺42の端面422側に向かって突出した第一突出部45を有する。第一突出部45のY方向の端面451は、第二対向辺42の端面422と当接して第二当接部442を構成している。
【0074】
第一当接部441と第二当接部442とのそれぞれは、前方に向かうほど、Y方向における第二分割コア4bに対する第一分割コア4a側に向かうよう傾斜して形成されている。また、第一当接部441と第二当接部442とのそれぞれは、X方向及びY方向の双方に傾斜する方向にまっすぐ形成されている。第一当接部441のX方向の長さLa、及び第二当接部442のX方向の長さLbは、第二対向辺42の最小厚みTminよりも大きい。
【0075】
次に、
図23~
図25に示すごとく、コネクタモジュール5に対して第一分割コア4a及び第二分割コア4bを組み付ける方法の一例につき説明する。
【0076】
まず、
図23に示すごとく、中心コア2の前面に配された磁石体3の前方に第一分割コア4aの第一対向辺41が配されるよう、第一分割コア4aをコネクタモジュール5に組み付ける。そして、第一分割コア4aの第一対向辺41を、磁力により磁石体3に固定する。
【0077】
次いで、
図23、
図24に示すごとく、第二分割コア4bを、第一分割コア4aに対して組み付ける。このとき、第二分割コア4bを第一分割コア4aに対してY方向に近付け、第二分割コア4bの第二対向辺42の端面422を第一分割コア4aの第一突出部45の端面451に、第二分割コア4bの第二突出部46の端面を第一分割コア4aの第一対向辺41の端面412に、それぞれ当接させる。この状態が、
図24に示す状態である。かかる状態においては、第二分割コア4bの第二対向辺42と中心コア2の後面と間にギャップが形成されている。
【0078】
かかる状態から、
図24、
図25に示すごとく、第二分割コア4bを、第一分割コア4aに近付くよう更にY方向に押す。これにより、第二分割コア4bは、第二対向辺42の端面422が第一分割コア4aの第一突出部45の端面451上をスライドするとともに、第二突出部46の端面461が第一対向辺41の端面412上をスライドする。これにより、第二分割コア4bは、Y方向において第一分割コア4a側へ移動すると同時に前方へ移動する(すなわち
図24において矢印で示す斜め方向に移動する)。この移動に伴い、
図25に示すごとく、第一対向辺41と第二対向辺42との間が狭まり、やがて第二分割コア4bの第二対向辺42が中心コア2の後面に当接する。これにより、第一分割コア4aの第一対向辺41が磁石体3の前面に接合され、第二分割コア4bの第二対向辺42が中心コア2の後面に接合された状態で、第二分割コア4bが第一分割コア4aに対してX方向及びY方向に位置決めされる。
【0079】
なお、本形態においては、第一分割コア4aと第二分割コア4bとを組み付ける直前の状態(つまり、
図23の状態)においては、外周コア4の前方に、イグナイタ16や嵌合壁52が存在する。それゆえ、第一分割コア4aと第二分割コア4bとの間のX方向の位置決めをするに当たり、第一分割コア4aと第二分割コア4bとをX方向に押圧することは困難である。一方、本形態によれば、Y方向から第二分割コア4bを押圧するだけで、磁石体3の前面と第一対向辺41とを当接させ、かつ、中心コア2の後面と第二対向辺42とを当接させつつ、第一分割コア4aと第二分割コア4bとのX方向とY方向との双方の位置決めができる。そのため、本形態によれば点火コイル1の生産性を向上させることができる。
【0080】
次に、本形態の作用効果につき説明する。
本形態の点火コイル1において、第一当接部441と第二当接部442とのそれぞれは、前方に向かうほどY方向における第二分割コア4bに対する第一分割コア4a側に向かうよう形成されている。それゆえ、中心コア2及び磁石体3に、第一分割コア4aと第二分割コア4bとを組み付ける際は、例えば前述のように行うことで、前述のごとく、点火コイル1の生産性の向上を図ることができる。
【0081】
また、中心コア2の前面と第一分割コア4aの第一対向辺41との間には、磁石体3が配されている。それゆえ、点火コイル1の生産性を向上させやすい。すなわち、例えば、中心コア2、磁石体3、第一分割コア4a、第二分割コア4bを組み付ける際は、中心コア2の前面に磁石体3を配し、第一分割コア4aを磁石体3の前面に配することで、磁石体3の磁力により、中心コア2、磁石体3、及び第一分割コア4aを一体化する。そして、第二分割コア4bは、中心コア2及び磁石体3と一体となった第一分割コア4aに組み付ければよい。
【0082】
ここで、例えば第一分割コア4a、第二分割コア4bの寸法ばらつき等により、第一分割コア4aと第二分割コア4bとを組み付けた状態において、第一対向辺41の端面と第二突出部46の端面との間、及び、第一突出部45の端面と第二対向辺42の端面との間にずれが生じることも想定される。かかるずれが生じた場合、第一分割コア4aと第二分割コア4bとが対面する面積が小さくなり、外周コア4において磁束の漏れが生じやすくなるという課題が生じる。
【0083】
そこで、第一当接部441を構成する第一対向辺41の端面412と第二突出部46の端面461のうちの少なくとも一方のX方向の長さLaを、第二対向辺42における最小厚みTminよりも長くしている。加えて、第二当接部442を構成する第二対向辺42の端面422と第一突出部45の端面451のうちの少なくとも一方のX方向の長さLbを、第二対向辺42の最小厚みTminよりも長くしている。これにより、第一対向辺41の端面412と第二突出部46の端面461との対面面積、及び、第二対向辺42の端面422と第一突出部45の端面451との対面面積を確保しやすく、外周コア4から磁束が漏れることを抑制し、点火コイル1の性能が低下することを抑制している。
【0084】
また、第一当接部441と第二当接部442とは、それぞれ平面状に形成されているとともに、互いに平行に形成されている。それゆえ、第一当接部441と第二当接部442とのそれぞれにおける当接面積を確保しやすい。それゆえ、点火コイル1の性能が低下することを抑制することができる。
【0085】
また、第一分割コア4aの連結辺43は第一突出部45を有し、第二分割コア4bの連結辺43は第二突出部46を有する。そして、第一突出部45の端面451が第二当接部442を構成しており、第二突出部46の端面461が第一当接部441を構成している。これにより、簡素な形状で、第一当接部441及び第二当接部442を構成しやすい。
【0086】
さらに、第一突出部45の端面451の全体は、第一分割コア4aの連結辺43からY方向に離れた位置に形成されており、第二突出部46の端面461の全体は、第二分割コア4bの連結辺43からY方向に離れた位置に形成されている。これにより、第一分割コア4aと第二分割コア4bとを第一当接部441及び第二当接部442においてスライドさせて組み付ける際、第一分割コア4aが第二分割コア4bの連結辺43に当接する、或いは第二分割コア4bが第一分割コア4aの連結辺43に当接することに起因して第一分割コア4aと第二分割コア4bとの間のスライドが阻害されることを抑制することができる。
【0087】
(実験例)
本例は、S1[mm
2]、S2[mm
2]、L、及びDが、(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998、を満たすことが好ましいことを、シミュレーションを用いて示す例である。前述のごとく、面積S1は、
図4に示すごとく、中心コア2の被挿入部221におけるX方向に直交する断面の面積である。
図4に示すごとく、面積S2は、外周コア4の磁路方向に直交する肉厚部40の断面の面積である。
図3に示すごとく、距離Lは、Y方向における磁石側鍔部21と連結辺43との間の距離である。
図4に示すごとく、距離Dは、Z方向における、中心コア2の被挿入部221の中心と外周コア4の中心との距離である。
【0088】
本例においては、
図7に示すような、実施形態2と基本構造を同様とする点火コイル1において、前記式の左辺の(2×S2/S1)、及び右辺の距離L[mm]、距離D[mm]について種々変更した。
【0089】
本例においては、点火コイル1の周囲の環境を室温環境とした。そして、点火コイル1の一次コイル11に10Aの一次電流を流し、当該一次電流を遮断したときに二次コイル12側に発生する二次エネルギーを確認した。二次コイル12の巻き線抵抗は、5kΩとし、放電維持電圧は800Vとした。
【0090】
まず、D=2.95mmで固定し、(2×S2)/S1、距離Lを種々変更して二次エネルギーE2[mJ]を確認した。ここで、(2×S2)/S1は、S1は不変としつつ、面積S2を種々変更することにより変更した。また、距離Lは、0.2mm、0.7mm、1.2mm、1.7mm、2.2mm、3.2mmのいずれかとした。結果を
図26に示す。
【0091】
図26から、(2×S2)/S1の値がある飽和開始値(すなわち、
図26において破線で囲った部分)を超えると、二次エネルギーE2の上昇はなくなる傾向が分かる。すなわち、(2×S2)/S1の値が飽和開始値以上であれば、取得し得る最大の二次エネルギーE2を得られることを意味する。
【0092】
そこで、次に、D=2.95mm(すなわち固定値)の場合における、(2×S2)/S1の飽和開始値を、
図27に示すごとく、横軸をL、縦軸を(2×S2)/S1としたグラフに示した。すなわち、このグラフからは、D=2.95mmにおける結果を示す実線部分から上側の領域である場合、(2×S2)/S1の値が前述の飽和開始値を超える値となり、最大の二次エネルギーが得られる。
図27のD=2.95mmの結果を示す実線は、前記式、(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998の不等号をイコールに代えた直線、(2×S2)/S1=-0.189L+0.086D+1.998において、Dに2.95を代入して表される直線である。
【0093】
同様のことを、Dを0mmで固定して行った場合の結果を
図27において一点鎖線で表しており、Dを5mmで固定して行った場合の結果を
図27において二点鎖線で表している。
図27のD=0mmの結果を示す一点鎖線は、前記式、(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998の不等号をイコールに代えた直線、(2×S2)/S1=-0.189L+0.086D+1.998において、Dに0を代入して表される直線である。また、
図27のD=5mmの結果を示す二点鎖線は、前記式、(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998の不等号をイコールに代えた直線、(2×S2)/S1=-0.189L+0.086D+1.998において、Dに5を代入して表される直線である。つまり、二次エネルギー確保の観点からは、(2×S2)/S1≧-0.189L+0.086D+1.998を満たすことが好ましいことが分かる。また、(2×S2)/S1=-0.189L+0.086D+1.998を満たせば、S2を小さくしつつ(すなわち外周コア4の小型化を図りつつ)、二次エネルギーを確保できるためより好ましい。
【0094】
なお、距離Lは、L≦1.0mmを満たすことが好ましい。Lが1.0mm以下になると、外周コア4の連結辺43と中心コア2の磁石側鍔部21とが近接し、前述のようなエネルギー変換に寄与しない磁束のループが形成されやすく、肉厚部40を形成することによる効果が大きい。
【0095】
本発明は、前記各実施形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲において種々の実施形態に適用することが可能である。
【0096】
例えば、前記各実施形態において、外周コアは、一対の連結辺を有する環状としたが、例えば外周コアは、連結辺を1つだけ有し、全体として略U字状に構成されていてもよい。また、前記各実施形態において、磁石側鍔部はコイル軸方向の両側に突出している例を示したが、これに限られない。例えば磁石側鍔部を、コイル軸方向の直交する方向の一方側のみに突出するよう変更してもよい。また、磁石側鍔部は、コイル軸方向に直交する特定方向に突出することに加えてコイル軸方向及び前記特定方向の双方に直交する方向に突出するよう変更してもよい。実施形態7~実施形態9で示した後方鍔部についても、磁石側鍔部と同様の変更が可能である。また、
【符号の説明】
【0097】
1 点火コイル
2 中心コア
21 磁石側鍔部
3 磁石体
4 外周コア
40 肉厚部
41 第一対向辺
42 第二対向辺
43 連結辺
Tmin 最小厚み