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特許7434998無線給電システムおよび人体照射電力量推定プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】無線給電システムおよび人体照射電力量推定プログラム
(51)【国際特許分類】
   H02J 50/20 20160101AFI20240214BHJP
   H02J 50/40 20160101ALI20240214BHJP
   H02J 50/80 20160101ALI20240214BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20240214BHJP
   H04B 5/45 20240101ALI20240214BHJP
   H04B 5/48 20240101ALI20240214BHJP
   H04B 5/79 20240101ALI20240214BHJP
【FI】
H02J50/20
H02J50/40
H02J50/80
H04B1/04 E
H04B5/45
H04B5/48
H04B5/79
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020023113
(22)【出願日】2020-02-14
(65)【公開番号】P2021129435
(43)【公開日】2021-09-02
【審査請求日】2022-12-07
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、SIP第2期事業「バックスキャッタ利用高度ビームフォーミング方式」委託研究、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】村井 彬人
(72)【発明者】
【氏名】グエン マイン タイ
【審査官】宮本 秀一
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-226604(JP,A)
【文献】特開2019-013100(JP,A)
【文献】特開2012-191268(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0110888(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J50/00-50/90
H04B1/02-1/04
H04B5/00-5/79
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
給電電波を出力する親機と、
前記給電電波によって給電を受ける複数の子機と、
前記親機が給電を行う環境内に存在する人体に保有させるものであり、前記親機との無線通信が可能な少なくとも1つの人体タグとを備え、
前記親機から前記子機への給電は、各子機に対してアンテナ指向性を変化させる指向性制御の下で行われるものであり、
1つの子機に対しての指向性制御を行う期間を1スロットとし、全ての子機に対しての指向性制御を行う期間を1サイクルとする場合、
前記親機は、
1スロットごとに前記人体タグとの通信を行って、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの人体照射電力量を推定し、推定されたスロットごとの人体照射電力量に基づいて1サイクル当たりの人体照射電力量を算出し、
1サイクル当たりの人体照射電力量が予め定められた規定値を超えた場合に、前記子機への給電制限を行うことを特徴とする無線給電システム。
【請求項2】
請求項1に記載の無線給電システムであって、
前記親機は、1スロットごとに前記人体タグとの通信を行って、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの人体照射電力量を推定し、さらに、1サイクル当たりの人体照射電力量を全てまたは一部のスロット分の人体照射電力量の平均として算出することを特徴とする無線給電システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載の無線給電システムであって、
前記人体タグは、前記親機からの受信信号の受信電力を測定し、測定した前記受信電力を前記親機に送信可能であり、
前記親機は、前記人体タグから送信された前記受信電力に基づいて、人体への1スロット当たりの照射電力量を推定することを特徴とする無線給電システム。
【請求項4】
給電電波を出力する親機と、前記給電電波によって給電を受ける複数の子機とを備える無線給電システムに適用され、前記親機が給電を行う環境内に存在する人体への照射電力量を推定する人体照射電力量推定プログラムであって、
前記無線給電システムは、前記親機が給電を行う環境内に存在する人体に保有させ、前記親機との無線通信が可能な少なくとも1つの人体タグを備え、
前記親機から前記子機への給電は、各子機に対してアンテナ指向性を変化させる指向性制御の下で行われるものであり、
前記親機は、
1スロットごとに行われる前記人体タグとの通信結果に基づいて、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの照射電力量を推定し、推定されたスロットごとの人体照射電力量に基づいて、1サイクル当たりの人体照射電力量を算出する人体照射電力量推定部と、
1サイクル当たりの人体照射電力量が予め定められた規定値を超えた場合に、前記子機への給電制限を行う給電電力制限部とを有しており、
前記親機が備えるコンピュータを前記各機能部として機能させることを特徴とする人体照射電力量推定プログラム。
【請求項5】
請求項4に記載の人体照射電力量推定プログラムであって、
前記人体照射電力量推定部は、1スロットごとに行われる前記人体タグとの通信結果に基づいて、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの照射電力量を推定し、さらに、1サイクル当たりの人体照射電力量を全てまたは一部のスロット分の人体照射電力量の平均として算出することを特徴とする人体照射電力量推定プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無線給電システム、および無線給電システムに適用される人体照射電力量推定プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
無線給電システムにおいては、給電を行う(給電電波を飛ばす)環境内に存在する人や機器などに対して、給電電波が及ぼす悪影響を低減する必要がある。例えば、特許文献1には、無線給電システムの送信機の周囲に無線タグがあるか否かを検出し、その検出結果に応じて給電状態を切り替える(例えば、無線タグが検出されたときに給電電力を下げる)ことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2012-191268号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1の無線タグは、給電電波を忌避すべきデバイス(ペースメーカなど)に付随するものであるが、無線タグを保有する人体への照射電力量(電力密度)を低減することにも使用できる。但し、特許文献1の技術では、環境内における無線タグの有無しか検出できないため、人体照射電力量が規定値を超える場合のみに給電電力を制限するといったことはできない。
【0005】
給電電波を行う環境内に人がいる(人体が存在する)場合、給電対象への給電電力向上と、環境に存在する人体への照射電力量の低減とを両立することが好ましい。人体照射電力量を低減する過程では、給電対象への給電時に人体の全体に照射される電力量を知る必要がある。
【0006】
人体の全体に照射される電力量を知るに当たっては、人体に照射電力量を計測するための無線タグを保有させ、無線タグからの信号を用いて環境内の人体の有無を検出したり、人体照射電力量を推定したりすることが考えられる。人体照射電力量が推定できれば、この推定値を規定値と比較し、推定値が規定値を超えた場合に給電電力を制限する(出力を下げる、もしくは出力を停止する)ことで人体照射電力量を低減することができる。
【0007】
人体に保有させる無線タグを用いて人体照射電力量を推定する場合、無線タグは人体の所定の箇所(例えば頭部)に1つのみ取り付け、その1つの無線タグの信号から人体の全体に照射される電力量を推定することが現実的である。しかしながら、金属の多い環境下では、電波の反射などによってマルチパスが発生し、人体の場所(頭部、腹部、足部など)によって照射される電力にバラつきが生じ易くなる。このため、1つの無線タグの信号から人体の全体に照射される電力量を推定すると、推定誤差が大きくなるといった問題がある。
【0008】
人体照射電力量の推定値に基づいて給電電力を制限する場合、推定誤差が大きいと、当然ながら給電電力を適切に制限することができなくなる。例えば、人体照射電力量の推定値が実際よりも大きいと、給電電力が過剰に制限されて給電対象への給電電力が低下する場合がある。また、人体照射電力量の推定値が実際よりも小さいと、給電電力が適切に制限されずに人体照射電力量が規定値を上回ることが起こり得る。
【0009】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、人体照射電力量の推定誤差を低減することのできる無線給電システムおよび人体照射電力量推定プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明の第1の態様である無線給電システムは、給電電波を出力する親機と、前記給電電波によって給電を受ける複数の子機と、前記親機が給電を行う環境内に存在する人体に保有させるものであり、前記親機との無線通信が可能な少なくとも1つの人体タグとを備え、前記親機から前記子機への給電は、各子機に対してアンテナ指向性を変化させる指向性制御の下で行われるものであり、1つの子機に対しての指向性制御を行う期間を1スロットとし、全ての子機に対しての指向性制御を行う期間を1サイクルとする場合、前記親機は、1スロットごとに前記人体タグとの通信を行って、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの人体照射電力量を推定し、推定されたスロットごとの人体照射電力量に基づいて1サイクル当たりの人体照射電力量を算出し、1サイクル当たりの人体照射電力量が予め定められた規定値を超えた場合に、前記子機への給電制限を行うことを特徴としている。
【0011】
上記の構成によれば、スロットごとの人体照射電力量に基づいて算出される1サイクル当たりの人体照射電力量は、その推定誤差がスロットごとの人体照射電力量に比べて低減されるものとなり、人体照射電力量の推定誤差を低減することができる。
【0012】
また、上記無線給電システムでは、前記親機は、1スロットごとに前記人体タグとの通信を行って、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの人体照射電力量を推定し、さらに、1サイクル当たりの人体照射電力量を全てまたは一部のスロット分の人体照射電力量の平均として算出する構成とすることができる。
【0013】
また、上記無線給電システムでは、前記人体タグは、前記親機からの受信信号の受信電力を測定し、測定した前記受信電力を前記親機に送信可能であり、前記親機は、前記人体タグから送信された前記受信電力に基づいて、人体への1スロット当たりの照射電力量を推定する構成とすることができる。
【0014】
また、上記の課題を解決するために、本発明の第2の態様である人体照射電力量推定プログラムは、給電電波を出力する親機と、前記給電電波によって給電を受ける複数の子機とを備える無線給電システムに適用され、前記親機が給電を行う環境内に存在する人体への照射電力量を推定する人体照射電力量推定プログラムであって、前記無線給電システムは、前記親機が給電を行う環境内に存在する人体に保有させ、前記親機との無線通信が可能な少なくとも1つの人体タグを備え、前記親機から前記子機への給電は、各子機に対してアンテナ指向性を変化させる指向性制御の下で行われるものであり、前記親機は、1スロットごとに行われる前記人体タグとの通信結果に基づいて、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの照射電力量を推定し、推定されたスロットごとの人体照射電力量に基づいて、1サイクル当たりの人体照射電力量を算出する人体照射電力量推定部と、1サイクル当たりの人体照射電力量が予め定められた規定値を超えた場合に、前記子機への給電制限を行う給電電力制限部とを有しており、前記親機が備えるコンピュータを前記各機能部として機能させることを特徴としている。
【0015】
また、上記人体照射電力量推定プログラムでは、前記人体照射電力量推定部は、1スロットごとに行われる前記人体タグとの通信結果に基づいて、前記人体タグを保有する人体への1スロット当たりの照射電力量を推定し、さらに、1サイクル当たりの人体照射電力量を全てまたは一部のスロット分の人体照射電力量の平均として算出する構成とすることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の無線給電システムおよび人体照射電力量推定プログラムは、複数のスロットの人体照射電力量に基づいて1サイクル当たりの人体照射電力量を求めることで、人体照射電力量の推定誤差を低減することができるといった効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明が適用される無線給電システムの構成例を示す図である。
図2図1の無線給電システムにおける給電装置の概略構成を示す機能ブロック図である。
図3図1の無線給電システムにおけるワイヤレスセンサの概略構成を示す機能ブロック図である。
図4図1の無線給電システムにおける人体タグの概略構成を示す機能ブロック図である。
図5図1の無線給電システムにおける1サイクル分の給電および通信手順を示すタイミングチャートである。
図6図1の無線給電システムにおける給電装置の1サイクル分の制御動作を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照して詳細に説明する。
【0019】
本発明が適用される無線給電システム(以下、本システム)の用途の一例として、例えば、工場などで使用されるワイヤレスセンサシステムが挙げられる。工場などで使用される各種ロボットは、ロボット制御のための各種センサ(例えば位置センサ)などを必要とするが、センサへの給電をマイクロ波を用いた無線給電とすることがある。このとき、センサへの給電電波は工場内の作業員にも照射されるため、作業員の人体に対しての照射電力量が規定値(電波防護指針にて規定される安全基準に基づく)を超えないようにする必要がある。以下の説明では、このような用途での人体照射電力量推定方法を例示する。但し、本システムの用途は上記例に限定されるものではない。例えば、本発明の無線給電システムにおける子機は、親機からの給電を受けて所定の動作を行い、その動作に関連する通信を親機と行うものであればよく、子機はワイヤレスセンサに限られるものではない。
【0020】
図1は、本システムの構成例を示す図である。本システムは、給電装置(親機)100、ワイヤレスセンサ(子機)200、および人体タグ300を含んで構成される。給電装置100は、ワイヤレスセンサ200に給電を行うと共に、ワイヤレスセンサ200との間でデータ通信を行い、ワイヤレスセンサ200からセンシング情報を取得する。尚、本システムにおいて、ワイヤレスセンサ200は複数存在する。
【0021】
人体タグ300は、例えば、作業員のヘルメットなどに取り付けられるものであり、作業員の頭部付近における照射電力量を測定する機能を有する。給電装置100による給電環境内に人体タグ300がある場合、給電装置100は、人体タグ300にも給電を行うと共に、人体タグ300との間で無線通信を行い、人体タグ300からセンシング情報(照射電力量の測定結果)を取得する。
【0022】
図2は、本システムにおける給電装置100の概略構成を示す機能ブロック図である。給電装置100は、主要部として、信号送信部110、信号受信部120、アンテナ指向性制御部130、および全体制御部140を有しており、さらにアレイアンテナ150および記憶部160を有している。
【0023】
信号送信部110は、給電信号発信部111、通信信号発信部112、および信号分配部113を備えている。給電信号発信部111は、ワイヤレスセンサ200または人体タグ300に給電を行う場合の給電信号(給電電波)を生成する。通信信号発信部112は、ワイヤレスセンサ200または人体タグ300と通信を行う場合の通信信号を生成する。信号分配部113は、生成された給電信号および通信信号を、後述するアンテナ指向性制御を行うために複数の信号に分配する。
【0024】
信号受信部120は、信号合成部121、および信号判定部122を備えている。アレイアンテナ150は複数のアンテナ素子を備えて構成されているため、給電装置100が受信する受信信号は、アレイアンテナ150のそれぞれのアンテナ素子で受信される複数の信号の集合となる。信号合成部121は、アレイアンテナ150で受信される複数の信号を合成し、1つの受信信号とする。信号判定部122は、信号合成部121で合成された受信信号に対する判定を行う。信号判定部122での具体的な判定内容については後述する。
【0025】
アンテナ指向性制御部130は、ワイヤレスセンサ200への給電時、給電効率を向上できるようにアレイアンテナ150の指向性を制御する。アンテナ指向性制御部130は、位相・振幅調整量計算部131、および位相・振幅調整部132を備えている。上述したように、アレイアンテナ150は複数のアンテナ素子を備えて構成されており、各アンテナ素子の振幅・位相を電気的に制御することで指向性の制御が行える。位相・振幅調整量計算部131は、所望のアンテナ指向性を得るために必要となる各アンテナ素子の位相・振幅を計算する。位相・振幅調整部132は、位相・振幅調整量計算部131の計算結果に基づき、各アンテナ素子の位相・振幅を調整する。
【0026】
全体制御部140は、給電装置100の全体を制御するものであり、特に、ワイヤレスセンサ200への給電電力向上と人体(作業員)への照射電力量の低減とを両立するための機能を有する。このため、全体制御部140は、人体照射電力量推定部141、および給電電力計算部142を備えている。人体照射電力量推定部141は、人体タグ300からの受信信号を信号判定部122で判定した結果に基づき、人体タグ300を保有する各作業員における人体照射電力量を推定する。給電電力計算部142は、人体照射電力量推定部141での推定値に基づき、給電信号の電力(給電電力)を計算する。給電装置100は、人体照射電力量とこれに対応する適切な給電電力とを関連付けたテーブルを記憶部160に格納している。給電電力計算部142は、人体照射電力量の推定値を上記テーブルへの入力とし、対応する適切な給電電力をテーブルから読み出すことで給電電力を計算する。
【0027】
図3は、本システムにおけるワイヤレスセンサ200の概略構成を示す機能ブロック図である。ワイヤレスセンサ200は、電源部210、センサ部220、記憶部230、通信部240、およびアンテナ250を有している。
【0028】
電源部210は、給電装置100から送信される給電信号を直流に変換し、他の処理部(ここではセンサ部220および通信部240)へ動作電力として供給する。尚、電源部210は、図示しない充電池を備えており、給電期間中に給電信号から得られる電力を充電池に充電して使用することができる。センサ部220は、所望のセンシング動作を行う。尚、センサ部220におけるセンシング動作は特に限定されるものではなく、例えば、位置センサによる位置検出動作であったり、温度センサによる温度検出動作であったりしてもよい。記憶部230は、センサ部220によるセンシング情報を給電装置100への送信まで一時的に保存する。通信部240は、給電装置100とのデータ通信を行う。すなわち、通信部240は、給電装置100からのコマンド信号に応じて記憶部230に保存しているセンシング情報を送信する。
【0029】
図4は、本システムにおける人体タグ300の概略構成を示す機能ブロック図である。人体タグ300は、電源部310、電力監視部320、記憶部330、通信部340、およびアンテナ350を有している。尚、人体タグ300における電源部310、記憶部330、通信部340、およびアンテナ350の構成は、ワイヤレスセンサ200における電源部210、記憶部230、通信部240、およびアンテナ250の構成と基本的に同じであってよい。電力監視部320は、給電装置100からの受信信号の受信電力を計測する。電力監視部320で計測された受信電力は、記憶部330に一時的に保存された後、給電装置100からのコマンド信号に応じて送信される。
【0030】
続いて、本システムの動作について、図5および図6を参照して詳細に説明する。図5は本システムにおける1サイクル分の給電および通信手順を示すタイミングチャート、図6は給電装置100の1サイクル分の制御動作を示すフローチャートである。
【0031】
本システムの1サイクルの動作は、図5に示すように、大略的に指向性制御期間と給電・通信期間とに分けられる。ここでは、本システムに3つのワイヤレスセンサ200(図5におけるセンサ1~センサ3)が含まれ、1つの人体タグ300が含まれる場合を例示する。
【0032】
まず、指向性制御期間では、給電装置100はワイヤレスセンサ200に対して選択的に信号要求を行い(図6のS1)、信号要求を受けたワイヤレスセンサ200(例えば図5におけるセンサ1)はこれに対して応答する(返信信号を送信する)。指向性制御期間において、ワイヤレスセンサ200からの返信信号には、給電装置100におけるアンテナ指向性制御に必要な情報(例えば、ワイヤレスセンサ200での電波強度)が含まれる。
【0033】
給電装置100は、ワイヤレスセンサ200からの返信信号を受信すると(S2でYES)、これに基づいて当該ワイヤレスセンサ200へのアンテナ指向性を生成する(S3)。具体的には、給電装置100における信号判定部122が、ワイヤレスセンサ200からの返信信号に含まれる情報を抽出し、抽出した情報を位相・振幅調整量計算部131へ出力する。位相・振幅調整量計算部131がこの情報に基づいて各アンテナ素子の位相・振幅を計算することで、アンテナ指向性を生成することができる。
【0034】
給電装置100がワイヤレスセンサ200からの信号受信に失敗した場合(S2でNO)、失敗が規定回数未満(S4でNO)であればS1~S2のステップを繰り返し、失敗が規定回数以上(S4でYES)になると当該ワイヤレスセンサ200へのアンテナ指向性を前回値と同じにする(S5)
S3またはS5のステップ後、給電装置100は、人体タグ300に対して信号要求を行う(S6)。信号要求を受けた人体タグ300はこれに対して応答する(返信信号を送信する)。人体タグ300からの返信信号には、人体タグの電力監視部320で計測された給電信号の受信電力の情報が含まれる。
【0035】
給電装置100は、人体タグ300からの返信信号を受信すると(S7でYES)、これに基づいて、人体タグ300を保有する人体への1スロット当たりの照射電力量を推定する(S8)。具体的には、給電装置100における信号判定部122が、人体タグ300からの返信信号に含まれる情報(給電信号の受信電力)を抽出し、抽出した情報を人体照射電力量推定部141へ出力する。人体照射電力量推定部141は、給電信号の受信電力から人体照射電力量を算出する換算式もしくは換算テーブルを有しており、この換算式もしくは換算テーブルを用いて人体への照射電力量を推定することができる。人体照射電力量を算出(推定)するための換算式もしくは換算テーブルは、予め実験的に求められるものである。
【0036】
給電装置100が人体タグ300からの返信信号を受信しなかった場合(S7でNO)は、1スロット当たりの照射電力量として最低受信感度を代入する(S9)。すなわち、給電装置100に対して人体タグ300からの返信信号が無い場合、人体タグ300への電波状況が悪く通信に失敗した可能性があると考えられるが、この場合は最低受信感度に対応する人体照射電力量であると仮定される。
【0037】
尚、ここでの1スロットとは、1つのワイヤレスセンサ200に対する指向性生成処理と、その後の人体タグ300による人体照射電力量の推定処理からなる。上記例では、ワイヤレスセンサ200の数を3つと想定しているため、指向性制御期間は3スロットを有している。また、上記例では人体タグ300の数を1つと想定しているが、人体タグ300の数は複数であってもよい。人体タグ300の数が複数の場合は、1スロットの中でS6~S9の処理を人体タグ300の数だけ繰り返せばよい。
【0038】
S8またはS9のステップ後、給電装置100は、全てのワイヤレスセンサ200に対して指向性生成処理が実施されたか否かを確認し、実施されていれば(S10でYES)S11のステップに進み、実施されていなければS1~S9のステップを繰り返す。
【0039】
S11では、人体タグ300に対して1スロットごとに求められた人体照射電力量から、1サイクル当たりの人体照射電力量が求められる。すなわち、上記例のように指向性制御期間が3スロットからなる場合、1サイクル当たりでの人体照射電力量は3スロット分の人体照射電力量の平均として求められる。人体タグ300が複数ある場合は、それぞれの人体タグ300に対して1サイクル当たりの人体照射電力量が求められる。尚、1サイクル当たりの人体照射電力量を求めるに当たっては、全てのスロット分の人体照射電力量を平均することは必須ではなく、一部のスロット分の人体照射電力量を平均することで1サイクル当たりの人体照射電力量を求めてもよい。
【0040】
S11で求められた1サイクル当たりの人体照射電力量が規定値以下である場合(S12でYES)、給電装置100は給電・通信期間において通常給電を行う(S13)。通常給電のシーケンシャルは、各ワイヤレスセンサ200に対してアレイアンテナ150の指向性を変えながら順次給電を行うものであるが、給電電力の制限は行わない。また、ここでの規定値は、電波防護指針にて規定される安全基準に基づいて設定されるものであり、1サイクル当たりの人体照射電力量が規定値以下であれば人体に悪影響が無いレベルであると見なすことができる。
【0041】
一方、S11で求められた1サイクル当たりの人体照射電力量が規定値を超えている場合(S12でNO)、給電装置100は給電の制限を行う(S14)。ここでの給電制限は、給電時の給電電力を下げることや、給電自体を停止することを含む。より具体的には、給電電力計算部(給電電力制限部)142において、推定された人体照射電力量に対応する適切な給電電力を記憶部160に格納されたテーブルから読み出すことで給電電力の制限を行うことができる。このような給電制限を行うことで、本システムは、人体照射電力量が電波防護指針にて規定される安全基準を超えることを防止できる。尚、人体タグ300が複数ある場合は、そのうちの1つでも規定値を超えていればS12でNO判定となり、S14での給電制限が行われる。
【0042】
本システムの動作においては、人体タグ300を用いた人体照射電力量の推定が1スロットごとに実施されるが、1スロット当たりの照射電力量は推定誤差が大きくなることもある。このため、本システムは、1スロット当たりの照射電力量が規定値を超えた時点で給電制限を行うことはせず、1サイクル当たりの照射電力量が規定値を超えた時点で給電制限を行うものとしている。各スロットの照射電力量に含まれる推定誤差は、給電時のアンテナ指向性が変えられることで大きく変化する可能性が高く、かつ推定誤差の発生方向に特定の偏りは無いものと考えられる。このため、複数のスロットの照射電力量の平均として求められる1サイクル当たりの人体照射電力量は、その推定誤差も平均化によって低減することができる。その結果、本システムでは、給電対象への給電電力向上と、給電を行う環境に存在する人体への照射電力量の低減とを両立することが容易となる。
【0043】
尚、本システムにおける上記効果を得るには、複数のスロットの人体照射電力量の平均を求めることが前提となる。すなわち、子機であるワイヤレスセンサ200が複数存在することが効果を得るための前提となり、スロット数が多いほど(ワイヤレスセンサ200の数が多いほど)その効果も大きくなる。
【0044】
以上説明した本システムにおいて、人体照射電力量推定の機能は給電装置100が備えるCPU(例えば全体制御部140)にて実施されるプログラムにて実現される。本発明の対象は、このプログラムそのものや、このプログラムがコンピュータで読み取り可能な記録媒体に格納されているものを含む。
【0045】
本発明では、この記録媒体として、図1に示されている全体制御部140で処理が行われるために必要なメモリ、例えばROMのようなものそのものがプログラムメディアであってもよいし、また、図示していない外部記憶装置としてプログラム読み取り装置が設けられ、そこに記録媒体を挿入することで読み取り可能なプログラムメディアであってもよい。いずれの場合においても、格納されているプログラムはマイクロコンピュータがアクセスして実行させる構成であってもよいし、あるいはいずれの場合もプログラムを読み出し、読み出されたプログラムは、マイクロコンピュータのプログラム記憶エリアにロードされて、そのプログラムが実行される方式であってもよい。このロード用のプログラムは予め本体装置に格納されているものとする。
【0046】
ここで、上記プログラムメディアは、本体と分離可能に構成される記録媒体であり、磁気テープやカセットテープなどのテープ系、FD(フレキシブルディスク)やHD(ハードディスク)などの磁気ディスクやCD-ROM/MO/MD/DVD/BDなどの光ディスク系、ICカード(メモリカードを含む)/光カードなどのカード系、あるいはマスクROM、EPROM、EEPROM、フラッシュROMなどによる半導体メモリを含めた固定的にプログラムを担持する媒体であってもよい。
【0047】
また、本発明においては、インターネットを含む通信ネットワークと接続可能なシステム構成とし、通信ネットワークからプログラムをダウンロードするように流動的にプログラムを担持する媒体であってもよい。尚、このように通信ネットワークからプログラムをダウンロードする場合には、そのダウンロード用プログラムは予め装置本体に格納しておくか、あるいは別の記録媒体からインストールされるものであってもよい。
【0048】
今回開示した実施形態は全ての点で例示であって、限定的な解釈の根拠となるものではない。したがって、本発明の技術的範囲は、上記した実施形態のみによって解釈されるものではなく、特許請求の範囲の記載に基づいて画定される。また、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0049】
100 給電装置(親機)
110 信号送信部
111 給電信号発信部
112 通信信号発信部
113 信号分配部
120 信号受信部
121 信号合成部
122 信号判定部
130 アンテナ指向性制御部
131 位相・振幅調整量計算部
132 位相・振幅調整部
140 全体制御部
141 人体照射電力量推定部
142 給電電力計算部(給電電力制限部)
150 アレイアンテナ
160 記憶部
200 ワイヤレスセンサ(子機)
210 電源部
220 センサ部
230 記憶部
240 通信部
250 アンテナ
300 人体タグ
310 電源部
320 電力監視部
330 記憶部
340 通信部
350 アンテナ
図1
図2
図3
図4
図5
図6