(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】透析装置、透析患者の心拍出量の測定方法、算出装置及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
A61M 1/16 20060101AFI20240214BHJP
A61B 5/029 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
A61M1/16 111
A61B5/029
(21)【出願番号】P 2020030771
(22)【出願日】2020-02-26
【審査請求日】2023-01-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000135036
【氏名又は名称】ニプロ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000110
【氏名又は名称】弁理士法人 快友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新里 徹
(72)【発明者】
【氏名】三輪 真幹
(72)【発明者】
【氏名】柴田 和彦
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 正富
(72)【発明者】
【氏名】水野 亘
【審査官】細川 翔多
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2005/0148923(US,A1)
【文献】特表2002-528181(JP,A)
【文献】特表2019-510598(JP,A)
【文献】特開2000-254222(JP,A)
【文献】特開2015-003871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/16
A61M 1/14
A61B 5/029
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の除去量(R)を取得する尿素除去量取得部と、
透析患者の心拍出量(CO)を算出する算出部と、を備え、
前記算出部は、CO×C2=Q×C1+(Qf×C2-R)
と、CO×C2a=Q×C1+(Qf×C2-Ka×C2a)との
2つの方程式を
連立させて解くことで、前記心拍出量(CO)を算出し、
C1は、透析患者のシャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度であり、
C2は、透析患者の心臓から拍出される血液中の尿素濃度であり、
Qは、全身組織血液還流量であり、
Qfは、シャント血管血流量であ
り、
C2aは、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させてから所定時間後の透析患者の心臓から拍出される血液中の尿素濃度であり、
Kaは、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させたときのダイアライザの尿素クリアランスである、透析装置。
【請求項2】
ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときに前記ダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第2濃度を取得する第2濃度取得部と、
前記ダイアライザに前記第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態
であって、前記第2の流量は、前記第1の流量より小さく、ダイアライザに供給する透析液の流量を前記第1の流量から前記第2の流量に変化させてから所定の時間が経過したときの状態である、第2の状態のときに前記ダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第3濃度を取得する第3濃度取得部と、
前記第1の状態のときに前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第1除去量を取得する第1尿素除去量取得部と、
前記第2の状態のときに前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第2除去量を取得する第2尿素除去量取得部と、
前記第2濃度と前記第3濃度と前記第1除去量と前記第2除去量とに基づいて
、心拍出量を算出する算出部と、を備える、透析装置。
【請求項3】
前記ダイアライザの尿素クリアランスを取得するクリアランス取得部をさらに備えており、
前記第1尿素除去量取得部は、前記第2濃度と前記第1の状態における前記尿素クリアランスとに基づいて、単位時間当たりの尿素の除去量を算出し、
前記第2尿素除去量取得部は、前記第3濃度と前記第2の状態における前記尿素クリアランスとに基づいて、単位時間当たりの尿素の除去量を算出する、請求項2に記載の透析装置。
【請求項4】
前記ダイアライザの流入口に設けられる採血ポートをさらに備えており、
前記第2濃度取得部は、前記第1の状態のときに前記採血ポートで採血される血液中の尿素濃度から前記第2濃度を取得し、
前記第3濃度取得部は、前記第1の状態から前記第2の状態としてから所定時間経過後に前記採血ポートで採血される血液中の尿素濃度から前記第3濃度を取得する、請求項2又は3に記載の透析装置。
【請求項5】
ダイアライザの流入口に設けられる採血ポートと、
前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の除去量を取得する尿素除去量取得部と、
透析患者の心拍出量を算出する算出部と、を備え、
前記算出部は、
前記ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときに前記採血ポートで採血される血液中の尿素の第2の濃度と、
前記ダイアライザに前記第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態のときに前記採血ポートで採血される血液中の尿素の第3の濃度と、
前記尿素除去量取得部で取得される前記第1の状態のときの尿素の第1除去量及び前記第2の状態のときの尿素の第2除去量と、に基づいて、前記心拍出量を算出する、透析装置。
【請求項6】
透析患者の心拍出量を算出する算出装置であって、
ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときに前記ダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第2濃度を取得する第2濃度取得部と、
前記ダイアライザに前記第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態
であって、前記第2の流量は、前記第1の流量より小さく、ダイアライザに供給する透析液の流量を前記第1の流量から前記第2の流量に変化させてから所定の時間が経過したときの状態である、第2の状態のときに前記ダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第3濃度を取得する第3濃度取得部と、
前記第1の状態のときに前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第1除去量を取得する第1尿素除去量取得部と、
前記第2の状態のときに前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第2除去量を取得する第2尿素除去量取得部と、
前記第2濃度と前記第3濃度と前記第1除去量と前記第2除去量とに基づいて、前記透析患者の心拍出量を算出する算出部と、を備える、算出装置。
【請求項7】
透析患者の心拍出量を算出するためのコンピュータプログラムであって、
コンピュータを、
ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときに前記ダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第2濃度を取得する第2濃度取得部と、
前記ダイアライザに前記第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態
であって、前記第2の流量は、前記第1の流量より小さく、ダイアライザに供給する透析液の流量を前記第1の流量から前記第2の流量に変化させてから所定の時間が経過したときの状態である、第2の状態のときに前記ダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第3濃度を取得する第3濃度取得部と、
前記第1の状態のときに前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第1除去量を取得する第1尿素除去量取得部と、
前記第2の状態のときに前記ダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第2除去量を取得する第2尿素除去量取得部と、
前記第2濃度と前記第3濃度と前記第1除去量と前記第2除去量とに基づいて、前記透析患者の心拍出量を算出する算出部として機能させる、コンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本明細書に開示する技術は、透析患者の心拍出量を測定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
透析治療においては、透析患者の循環動態を把握する際に、心拍出量は重要な指標となる。一般的に、心拍出量の測定には熱希釈法や超音波希釈法が用いられる。熱希釈法では、カテーテルを心臓内まで挿入して、心臓内に温度既知(例えば、ゼロ度)のブドウ糖液を注入し、その結果生じる血液温度の変化を肺動脈内のサーミスタによって検出し、検出された温度変化を基に心拍出量を算出する(非特許文献1)。一方、超音波希釈法では、透析中に、ダイアライザの下流の血液回路である静脈側血液回路の末端であって、静脈穿刺針の直上流から所定量の生理食塩水を血液中に急速に注入し、その後、心臓を経てダイアライザの上流の血液回路である動脈側血液回路に流入した血液において、急速注入された生理食塩水による血液の希釈度を超音波法により測定し、これにより心拍出量を算出する(非特許文献2)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】Ganz W, et al: A new technique for measurement of cardiac output by thermodilution in man. Am J Cardiol 27:392-396, 1971.
【文献】Nikolai M, et al: Cardiac Output and Central Blood Volume During Hemodialysis: Methodology. Advances in Renal Replacement Therapy 6: 225-232, 1999.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述したように、心拍出量を測定する際には、一般的に熱希釈法又は超音波希釈法が用いられる。しかしながら、熱希釈法では、心臓内にカテーテルを挿入する必要があり、日常的に用いることはできない。一方、超音波希釈法については、測定する医療従事者の手間が大きいため、頻回に施行することができない。
【0005】
本明細書は、透析患者や医療従事者の負担を軽減しながら、透析患者の心拍出量を取得する技術を開示する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本明細書に開示する透析装置は、透析中の任意の時点においてダイアライザにより除去される単位時間あたりの尿素量(R)と、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度C1と、シャント血管血流量Qfと、心臓から拍出される血液中の尿素濃度(C2)の関係を示す式であるCO×C2=Q×C1+(Qf×C2-R)の方程式を解くことで、心拍出量(CO)を算出する。
【0007】
上記の方程式を解いて心拍出量(CO)を算出するにあたって、本発明者らは、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度(C1)と、シャント血管血流量(Qf)を取得しなくても、心拍出量(CO)を算出できる方法を見い出した。例えば、単位時間あたりにダイアライザにより除去される尿素量(R)と、心臓から拍出される血液中の尿素濃度(C2)は、容易に取得できるが、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度(C1)とシャント血管血流量(Qf)は取得し難いためである。本発明者らが見い出した方法では、単位時間あたりにダイアライザにより除去される尿素量(R)と、心臓から拍出される血液中の尿素濃度(C2)とを取得した後、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させることにより、単位時間あたりにダイアライザにより除去される尿素量を変化させる。そして、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させた時点から所定の時間が経過した後に、単位時間あたりにダイアライザにより除去される尿素量(Ra)と、心臓から拍出される血液中の尿素濃度(C2a)とを取得する。
【0008】
そのうえで、まず、上記のCO×C2=Q×C1+(Qf×C2-R)を第1の方程式とする一方、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させることにより、ダイアライザにより除去される単位時間あたりの尿素量を変化させた後における以下の方程式を第2方程式とする。第2方程式は、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させたときの、単位時間あたりにダイアライザにより除去される尿素量(Ra)と、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度C1と、シャント血管血流量(Qf)と、心臓から拍出される血液中の尿素濃度C2aの関係を示す式である。すなわち、第2方程式はCO×C2a=Q×C1+(Qf×C2-Ra)である。そして、第1の方程式と第2の方程式を連立させ、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度C1と、シャント血管血流量Qfを消去することにより、心拍出量COを算出することができる。
【0009】
ここで、尿素濃度C2aを定義する。ダイアライザから静脈側血液回路を通ってシャント血管に流出する血液と、ダイアライザを流通せずにシャント血管を静脈穿刺針の穿刺位置まで流通して来た血液は、静脈穿刺針の穿刺位置で混合し、次いで心臓の上流の静脈に流入する。今、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させると、ダイアライザにより除去される単位時間あたりの尿素量は低下するが、これに伴って、心臓の上流の静脈に流入する血液中の尿素濃度は、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させる前よりも高くなる。この尿素濃度が上昇した血液は、心臓、動脈、シャント血管と流通して、再び静脈穿刺針の穿刺位置に到達し、ここでこの血液とダイアライザから静脈側血液回路を通して流出して来た血液との2度目の混合が生じる。そして、この2度目に混合した血液は再び心臓の上流の静脈に流れ込み、全身組織を還流してきた血流と混合する。尿素濃度C2aとは、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させた後に、ダイアライザから静脈側血液回路を通ってシャント血管に流出した血液と、ダイアライザを流通せずにシャント血管を流通して静脈穿刺針の穿刺位置に到達した血液とが、静脈穿刺針の穿刺位置で一度だけ混合し、その後、心臓の上流の静脈に流れ込み、全身組織を還流してきた血流とさらに混合して、心臓から拍出された血液中の尿素濃度である。
【0010】
また、本明細書は、透析患者の心拍出量を測定する方法を開示する。測定方法は、ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときにダイアライザに流入する血液中の尿素の濃度である第2濃度を取得する第2濃度取得工程と、ダイアライザに第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態のときにダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第3濃度を取得する第3濃度取得工程と、第1の状態のときにダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第1除去量を取得する第1尿素除去量取得工程と、第2の状態のときにダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第2除去量を取得する第2尿素除去量取得工程と、第2濃度と第3濃度と第1除去量と第2除去量とに基づいて、透析患者の心拍出量を算出する算出工程と、を備える。
【0011】
また、明細書は、透析患者の心拍出量を算出する算出装置を開示する。算出装置は、ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときにダイアライザに流入する血液中の尿素の濃度である第2濃度を取得する第2濃度取得部と、ダイアライザに第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態のときにダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第3濃度を取得する第3濃度取得部と、第1の状態のときにダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第1除去量を取得する第1尿素除去量取得部と、第2の状態のときにダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第2除去量を取得する第2尿素除去量取得部と、第2濃度と第3濃度と第1除去量と第2除去量とに基づいて、透析患者の心拍出量を算出する算出部と、を備える。
【0012】
また、本明細書は、透析患者の心拍出量を算出するためのコンピュータプログラムを開示する。コンピュータプログラムは、コンピュータを、ダイアライザに第1の流量で透析液を供給している第1の状態のときにダイアライザに流入する血液中の尿素の濃度である第2濃度を取得する第2濃度取得部と、ダイアライザに第1の流量とは異なる第2の流量で透析液を供給している第2の状態のときにダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である第3濃度を取得する第3濃度取得部と、第1の状態のときにダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第1除去量を取得する第1尿素除去量取得部と、第2の状態のときにダイアライザにより除去される単位時間当たりの尿素の第2除去量を取得する第2尿素除去量取得部と、第2濃度と第3濃度と第1除去量と第2除去量とに基づいて、透析患者の心拍出量を算出する算出部として機能させる。
【0013】
本明細書に開示する心拍出量の測定法においては、尿素は赤血球膜を通過しうるので血液全体に分布し、その測定値は正確であり、さらに測定に要する費用は安価であるので、尿素を指標物質とすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施例に係る透析装置の構成と透析患者の体内の血流との関係を示す模式図。
【
図2】実施例に係る透析装置の演算装置の構成を示すブロック図。
【
図3】血液が静脈側血液回路から心臓を経て動脈側血液回路に到達するまでの血液の循環時間に関する実験の結果を示す図。
【
図4】本実施例に係る透析装置を用いて取得した心拍出量と、従来の方法を用いて取得した心拍出量との相関関係を示す図。
【
図5】透析患者の心拍出量を測定する処理の一例を示すフローチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に説明する実施例の主要な特徴を列記しておく。なお、以下に記載する技術要素は、それぞれ独立した技術要素であって、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。
【0016】
本明細書が開示する透析装置の一態様では、第1濃度C1と、第2濃度C2と、第3濃度C2aと、心拍出量COと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管血流量Qfとを用いて表される2つの方程式を利用する。第1濃度C1は、透析中の任意の時点において、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液中の尿素濃度である。第1濃度C1は、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qとともに測定し難い。一方、シャント血管血流量にも個人差が大きく、測定し難い。第2濃度C2は、心臓から拍出される血液中の尿素の濃度であって、かつダイアライザに流入する血液中の尿素濃度でもある。第3濃度C2aは、第2濃度を取得すると同時に、あるいは第2濃度を取得した後に、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させ、その後、所定の時間が経過した後に取得されるダイアライザに流入する血液中の尿素濃度である。ここで、透析中の任意の時点における心拍出量(CO)と、同時点においてダイアライザにより除去される単位時間あたりの尿素の除去量(R)と、第1濃度C1と、第2濃度C2と、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管血流量Qfとの関係を示す式であるCO×C2=Q×C1+(Qf×C2-R)を第1方程式とする。ダイアライザの血液の流通量を低下させてから所定の時間が経過した後における、心拍出量COと、同時点において、単位時間にダイアライザにより除去される尿素の量(Ra)と、第1濃度C1と、第3濃度C2aと、シャント血管が静脈と合流する点よりも上流の静脈を流れる血液の流量Qと、シャント血管血流量Qfとの関係を示す式であるCO×C2a=Q×C1+(Qf×C2-Ra)を第2方程式とする。そして、本明細書が開示する透析装置の一態様では、第1方程式と第2方程式を連立させて解くことにより、心拍出量COを算出してもよい。
【0017】
第3濃度Ca2の取得については、例えば、第2濃度を取得すると同時に、あるいは第2濃度を取得した後に、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させ、その後、所定の時間が経過した後に、ダイアライザの上流の動脈側血液回路の採血ポートから、第3濃度C2aを取得するための採血を行ってもよい。
【0018】
その際の所定の時間とは、例えば、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させたために、尿素濃度が上昇したシャント血管を流通する血流の先端が、心臓の上流の静脈に到達し、さらに心臓に流入し、心臓を通過して動脈に流出し、動脈から分枝するシャント血管に流出し、そしてシャント血管と動脈側血液回路との接続部である動脈穿刺針の位置に達し、さらに動脈側血液回路上の採血ポートに到達する時点よりも後の時点であって、且つ当該血液(心臓を通過した後、シャント血管に流出した血液)の動脈側血液回路に流出しなかった部分がシャント血管と動脈側血液回路との接続部である動脈穿刺針の穿刺位置を通過して、シャント血管と静脈側血液回路との接続部である静脈穿刺針の穿刺位置に達し(血液が動脈穿刺針の位置から静脈穿刺針の位置まで流通するのに要する時間は1秒程度の短時間である)、ここで、ダイアライザから静脈側血液回路を通してシャント血管に流出して来た血液とさらに混合し、心臓の上流の静脈に流出し、心臓、動脈、シャント血管と流通して、再び動脈側血液回路に流出し、ついに採血ポートに達した時点よりも前の時点である。すなわち、所定の時間とは、約20秒ないし35秒である。
【0019】
第2濃度を取得すると同時に、あるいは取得した後に、ダイアライザを流通する血液の流量を低下させ、その後、所定の時間が経過した後に第3濃度C2aを取得するためには、例えば、ダイアライザの上流の動脈側血液回路の採血ポートから採血をすればよいが、この時、ダイアライザを流通する血液の流量を大きく低下させたままで動脈側血液回路の採血ポートから血液を採取すると、採取された血液は1~2分も前にシャント血管を流通していた血液であることになる。すなわち、ダイアライザを流通する血液の流量を大きく低下させたままでは、シャント血管と動脈側血液回路との接続部である動脈穿刺針の穿刺位置から動脈側血液回路上の採血ポートまで血液が流通するのに1~2分もかかる。そこで、本発明では、動脈側血液回路上の採血ポートから採血する前に、ダイアライザを流通する血液の流量を元のレベル(例えば、200ml/分)にまで増やし、その後、所定時間(例えば、5ないし10秒)が経過してから、動脈側血液回路の採血ポートから第3濃度C2aを取得するための採血を行ってもよい。
【0020】
また、ダイアライザの上流の動脈側血液回路の採血ポートから採血する前に、ダイアライザを流通する血液の流量を元のレベルにまで増やし、その後、所定時間(例えば、5ないし10秒)が経過してから、動脈側血液回路の採血ポートから第3濃度C2aを取得するための採血を行おうとすると、ダイアライザを流通する血液の流量を元のレベルにまで増やした後では、採血可能な時間は5秒ほどの極めて短い時間となる。これに対し、ダイアライザを流通する血液の流量を元のレベルにまで増やし、所定時間(例えば、10秒)が経過してから、再び、ダイアライザを流通する血液の流量を大きく低下させると、採血可能な時間は延長し、採血操作が極めて楽になる。
【0021】
第3濃度C2aを取得するにあたって、ストップウォッチを見ながら、ダイアライザを流通する血液の流量を所定の時間だけ大きく低下させ、続いてこれを元のレベルに戻し、さらに所定の時間が経過したところで、ダイアライザを流通する血液の流量を所定の時間だけ、再び大きく低下させてもよい。また、透析装置は、タイマーを備えていてもよく、予めタイマーで設定したタイミングに従い、ダイアライザを流通する血液の流量を上記のように自動的に変更してもよい。これにより、医療従事者の負担の作業負担を軽減することができる。
【0022】
心拍出量を測定するためのダイアライザによる尿素除去量の変更は急速に行うことが好ましい。ダイアライザによる尿素除去量を変更する方法には、ダイアライザを流通する透析液の流量を変更あるいは停止する方法と、ダイアライザを流通する血液の流量を変更する方法がある。しかし、ダイアライザを流通する透析液の流れを停止しても、血液がダイアライザを通過するのにおおよそ40秒を要し、さらに静脈側血液回路を通過するのにおおよそ10秒、合計50秒を要するので、シャント血管の静脈穿刺針の穿刺部からシャント血管を経て心臓よりも上流の静脈に流入する血液中の尿素濃度の変化は緩徐となる。これに対し、ダイアライザを流通する血液の流量を変更すれば、シャント血管の静脈穿刺針の穿刺部でシャント血管に流れ出る、ダイアライザを通過した血液の流量は瞬間的に減少するので、シャント血管の静脈穿刺針の穿刺部からシャント血管を経て心臓よりも上流の静脈に流出する血液中の尿素濃度は一瞬にして変化する。したがって、本明細書では、ダイアライザによる尿素除去量の変更は、ダイアライザを流通する血液の流量を急速に変更することにより実施してもよい。
【0023】
本明細書に開示の技術では、ダイアライザによる尿素除去量の変更は、ダイアライザを流通する血液の流量を急速に変更することにより実施してもよい。例えば、ダイアライザを流通する血液の流量を停止すると、ダイアライザ内で血液が凝固する虞がある。このため、ダイアライザによる尿素除去量を変更するために、ダイアライザにおける血液の流通を停止せず、ダイアライザを流通する血液の流量を大きく低下させた方がよい。
【実施例】
【0024】
以下、本実施例に係る透析装置10について説明する。透析装置10は、透析中に取得可能な各種の測定値を用いて、透析患者の心拍出量を算出することができる。
図1及び
図2に示すように、透析装置10は、ダイアライザ12と、動脈側血液回路14aと、静脈側血液回路14bと、血液ポンプ16と、透析液回路19と、採血ポート20と、演算装置30と、入力部40を備えている。
【0025】
ダイアライザ12は、尿素、クレアチニン、尿酸等の尿毒症物質を除去する。動脈側血液回路14aは、透析患者の血液をシャント血管13からダイアライザ12に送る回路であり、ダイアライザ12と接続する側とは反対側に接続されている動脈穿刺針18aでシャント血管13を穿刺することにより、シャント血管13に連結されている。一方、静脈側血液回路14bは、透析患者の血液をダイアライザ12からシャント血管13に戻す回路であり、ダイアライザ12と接続する側とは反対側に接続されている静脈穿刺針18bでシャント血管13を穿刺することにより、シャント血管13に連結されている。血液ポンプ16は、動脈側血液回路14a上に配置されており、ダイアライザ12へ流入する血液流量QBを調整する。透析液回路19は、ダイアライザ12に透析液を供給すると共に、ダイアライザ12から尿素を含む透析液を回収する回路である。透析液回路19は、図示しない制御機構を備えており、制御機構により透析液流量が調整される。採血ポート20は、動脈側血液回路14aの血液ポンプ16より上流側に配置されている。動脈側血液回路14a内の血液は、採血ポート20から採取することができる。
【0026】
演算装置30は、例えば、CPU、ROM、RAM等を備えたコンピュータによって構成することができる。コンピュータがプログラムを実行することで、演算装置30は、
図2に示す算出部34として機能する。算出部34の処理については、後で詳述する。また、演算装置30は、測定値記憶部32を備えている。測定値記憶部32は、入力部40を介して入力された各種の測定値が記憶される。
【0027】
ここで、
図1を参照して、透析装置10を用いてどのように透析患者の心拍出量を算出するのかについて説明する。あらゆる患者において、循環動態を把握するにあたっては、心拍出量は重要な指標である。透析治療においても、透析治療中の透析患者の循環状態を把握するために心拍出量は重要な指標である。腎臓が正常で、透析を受けていない患者では、心拍出量は、全身組織血液還流量に等しい。しかし、透析患者ではシャント血管13が存在するため、心拍出量と全身組織血液還流量とは異なる。透析を受けている患者では全身組織血液還流量とシャント血管血流量の和が心拍出量に相当する。すなわち、
図1に示すように、透析患者の場合、全身組織血液還流量Qとシャント血管血流量Qfとの合計が心拍出量COとなる。このため、以下の数1で表す式が成立する。
【0028】
【0029】
シャント血管13が静脈と合流する点Aより上流を流れる血液中の尿素濃度をC1(以下、単に「第1濃度C1」ともいう)とし、心臓50の下流を流れる血液中の尿素濃度をC2(以下、単に「第2濃度C2」ともいう)とし、ダイアライザ12の尿素クラランスをKとする。ダイアライザ12に流入する血液中の尿素濃度は、心臓50の下流の動脈を流れる血液中の尿素濃度C2と一致するので、ダイアライザ12から単位時間当たりに除去される尿素量R(以下、尿素除去量Rともいう)は、以下の数2で表す式を用いて算出できる。
【0030】
【0031】
また、心臓50を中心としたmass-balance modelでは、単位時間あたりに心臓50より下流であってシャント血管13が動脈から分岐する点Bよりも上流の動脈を流れる血液中の尿素量(CO×C2)は、心臓50より上流である点Aよりさらに上流の静脈を単位時間あたりに流れる血液中の尿素量(Q×C1)に、動脈からシャント血管13に流入する血流が運ぶ尿素量(Qf×C2)からダイアライザ12により単位時間あたりに除去される尿素量(R)を差し引いたものを加えたものと等しい。この関係は、以下の数3で表す式で示される。
【0032】
【0033】
上記の数2及び数3で表す式からは、以下の数4で表す式が導かれる。
【0034】
【0035】
理論的には、シャント血管13が静脈と合流する点Aより上流を流れる血液の尿素濃度(第1濃度)C1と、心臓50より上流である点Aよりさらに上流の静脈を単位時間あたりに流れる血液の流量Qと、シャント血管血流量Qfと、心臓50の下流の動脈を流れる血液中の尿素濃度(第2濃度)C2と、ダイアライザ12の尿素クリアランスKを取得すれば、上記の数4で表す式により、心拍出量COを算出することができる。しかし、実際には、心臓50の下流を流れる血液中の尿素濃度(第2濃度)C2と、ダイアライザ12の尿素クリアランスKは容易に取得できるが、シャント血管13が静脈と合流する点Aより上流を流れる血液中の尿素濃度(第1濃度)C1も、シャント血管13が静脈と合流する点Aより上流を流れる血液の流量Qも、シャント血管血流量Qfも容易に測定することができない。
【0036】
そこで、本発明者らは、心臓50から拍出される血液中の尿素濃度(C2)と、単位時間あたりにダイアライザ12より除去される尿素量(K×C2)とを取得した後、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させることにより(以下、このときの流量を流量QBaとする)、単位時間あたりにダイアライザ12により除去される尿素量を変化させ、それから所定時間(例えば、20ないし35秒)の後に、心臓50から拍出される血液中の尿素濃度(以下、この濃度を第3濃度C2aとする)と、単位時間あたりにダイアライザ12により除去される尿素量(Ka×C2a、Kaは、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させたときのダイアライザ12の尿素クリアランス)を取得することにより、心拍出量を算出することに着目した。
【0037】
ところで、静脈穿刺針18bを通って静脈側血液回路14bからシャント血管13に流出した血液は、動脈からシャント血管13に流出してシャント血管13を流通していた血液(
図1の点B、点C、点Dの順でシャント血管13内を流通する血液)と、静脈穿刺針18bの穿刺位置Dで混合する。心拍出量を測定するために、ダイアライザ12を流通する血液の流量を流量QBaに低下させると、流量をQBaに低下させる前より混合血の尿素濃度は上昇する。そして、尿素濃度が上昇した混合血液の先端は、点Aに向かってシャント血管13を流通して行き、点Aで心臓50の上流の静脈に流入し、全身組織を還流してきた血液とさらに混合する。この混合血液の尿素濃度が第3濃度C2aである。尿素濃度が第3濃度C2aである混合血液の先端は、続いて心臓50を通り、点Bでシャント血管13に流出し、ダイアライザ12を流通する血液の流量を流量QBaに低下させてから約15秒後に、再び、静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに戻って来る。
【0038】
すなわち、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させた時点から、その約15秒後までの間は、シャント血管13を流通して静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに到達する血液中の尿素濃度はC2であり、その後は、シャント血管13を流通して静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに到達する血液中の尿素濃度はC2aとなる。ところで、動脈穿刺針18aの穿刺位置Cと静脈穿刺針18bの穿刺位置Dとの距離は2cm程と極めて短く、したがって、血液が動脈穿刺針18aの穿刺位置Cに到達するのに要する時間も、静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに到達するのに要する時間も実質的に等しいと考えてよい。一方、動脈穿刺針18aの穿刺位置Cから動脈側血液回路14aの採血ポート20に到達するのにはおおよそ5秒を要する。したがって、動脈側血液回路14aの採血ポート20から第3濃度C2aの血液を取得するための採血を行うタイミングは、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させてから、約20秒(15秒+5秒)以上が経過した時点であることになる。
【0039】
シャント血管13を流通して静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに到達する血液中の尿素濃度が第2濃度C2から第3濃度C2aに変わるのは、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させた時点から15秒後である。尿素濃度が第3濃度C2aになった血液は、点Aで心臓50の上流の静脈に流入し、全身組織を還流してきた血液と混合し、続いて心臓50を通り、点Bでシャント血管13に流出し、静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに戻って来て、ここでダイアライザ12から静脈側血液回路14bを流通して来た血液とさらに混合して、尿素濃度はさらに上昇し、さらにその約15秒後、すなわちダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させた時点からなら約30秒後に、静脈の点A、続いて心臓50を通り、点Bでシャント血管13に流出し、再び動脈穿刺針18aの穿刺位置Cに戻って来る。そして、この血液が動脈側血液回路14aの採血ポート20に到達するのにはおおよそ5秒を要するので、動脈側血液回路14aの採血ポート20から第3濃度C2aを取得するための採血を行うタイミングは、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させてから、約35秒(30秒+5秒)よりも早い時点であることになる。すなわち、採血のタイミングを基準にすると、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させてから約20秒後ないし約35秒後の約15秒間については、心臓50を中心としたmass-balanceは、以下の数5で表す式で示される。
【0040】
【0041】
ここで、上記の数4で表す式CO×C2=Q×C1+(Qf×C2-K×C2)を第1の方程式とし、一方、上記の数5で表す式CO×C2a=Q×C1+(Qf×C2-Ka×C2a)を第2の方程式とする。そして、第1の方程式と第2の方程式を連立させて解くことにより、心拍出量(CO)を算出する数6で表す式を導く。
【0042】
【0043】
ダイアライザ12の尿素クリアランスKは、ダイアライザ12を流通する血液流量QB、ダイアライザ12を流通する透析液流量QD、ダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAから、数7に示す、既知の式を用いて算出する。
【0044】
【0045】
また、上記の数7で表す式のQBをQBaに置き換えると、血流量がQBaのときのダイアライザ12の尿素クリアランスKaが算出される。
【0046】
ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させた後において、第3濃度C2aを取得するための採血を行うのは、以下で説明する時点T1より後、かつ、時点T2より前の時点に、時間t3を加えた時点である。時点T1とは、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させた時点で、静脈穿刺針18bを通して静脈側血液回路14bからシャント血管13に流出していた血液が、点Aを経て、心臓50を通り、点Bでシャント血管13に流出し、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させてから、静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに戻って来るまでの時間が経過した時点であり、ダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させてから約15秒が経過した時点である。一方、時点T2とは、当該血液(ダイアライザ12を流通する血液の流量を流量QBaに低下させ、点A、心臓50、点B、点Cを通過して再びダイアライザ12を通過した血液)が、その後、さらに点Aを経て、心臓50を通り、点Bでシャント血管13に流出し、動脈穿刺針18aの穿刺位置Cに戻って来るまでの時間が経過した時点であり、時点T1からさらに約15秒後、すなわちダイアライザ12を流通する血液の流量をQBaに低下させてからなら約30秒後の時点である。なお、動脈穿刺針18aの穿刺位置Cから静脈穿刺針18bの穿刺位置Dまで、シャント血管13を血液が流通するのに要する時間は1秒前後なので、血液が動脈穿刺針18aの穿刺位置Cに到達するのに要する時間も、静脈穿刺針18bの穿刺位置Dに到達するのに要する時間も実質的に等しいと考えてよい。一方、時間t3は、動脈穿刺針18aの穿刺位置Cから動脈側血液回路14aを通って、血液が採血ポート20に到達するのに要する時間であり、ダイアライザ12を流通する血液の流量を200ml/分(通常の透析処置時にダイアライザ12を流通する血液の流量)に設定したときには約5秒である。この採血のための至適時点は以下の実験の結果に基づいて決定した。
【0047】
ダイアライザ12を流通する血流量を200ml/分に設定したうえで、静脈側血液回路14bの末端である静脈穿刺針18b(
図1の点Dの位置)の直上流から、50mlの生理的食塩水を5秒で急速に注入し、動脈側血液回路14a上の動脈穿刺針18a付近に設置した超音波法による血液希釈度連続モニター装置を使用して、血液の希釈度をモニターした。換言すると、採血ポート20の位置に到達した生理的食塩の量を連続的にモニターした。それによると、
図3に示すように、注入された生理的食塩水は波状に広がった状態で、注入15秒後に動脈側血液回路14a上の動脈穿刺針18a付近に到達した。
【0048】
この実験の結果から、尿素濃度上昇血液が、静脈穿刺針18bの穿刺位置(
図1の点Dの位置)からシャント血管13と動脈側血液回路14aとの接続部である動脈穿刺針18aの穿刺位置(
図1の点C)まで流通するのに要する時間は、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させてから、約15秒後であることがわかった。一方、血液が、動脈穿刺針18aの穿刺位置Cから採血ポート20の位置に到達するのに要する時間は約5秒である。したがって、採血ポート20からの採血は、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させてから約15秒後に血液が動脈穿刺針18aの穿刺位置(点Cの位置)を通過してから、動脈側血液回路14a上の採血ポート20に到達するのに要する時間(約5秒)を加えた時間(おおよそ20秒)が経過した時点(上記の時点T1+時間t3)よりも後でなければならないことがわかった。
【0049】
同様に、シャント血管13と動脈側血液回路14aとの接続部である動脈穿刺針18aの位置(
図1の点C)に到達した血液が、シャント血管13と静脈側血液回路14bとの接続部である静脈穿刺針18bの穿刺位置(
図1の点D)を通過して、再びシャント血管13と静脈とが合流する点A(
図1参照)に到達し、さらに心臓50から動脈に拍出され、動脈から点B(
図1参照)において分枝するシャント血管13を流通し、そして再びシャント血管13と動脈側血液回路14aとの接続部である動脈穿刺針18aの穿刺位置(
図1の点C)に達するのにも同じ時間(約15秒)を要することになる。したがって、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させてから、血液がシャント血管13、点A、心臓50、点B、シャント血管13からなる循環ループの2度目の循環を終えるまでの時間は、約30秒ということになる。そこで、採血ポート20からの採血は、この約30秒に、血液が動脈穿刺針18aの穿刺位置(点Cの位置)から動脈側血液回路14a上の採血ポート20に到達するのに要する時間(約5秒)を加えた時間(おおよそ35秒)が経過した時点(上記の時点T2+時間t3)よりも前でなければならないことになる。
【0050】
以上から、第3濃度C2aを取得するための採血を行うのは、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させてから約15秒(時点T1)より後、かつ、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させてから約30秒(時点T2)より前の時点に、時間t3(約5秒)を加えた時点である、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させてから約20秒~35秒の間であることがわかった。
【0051】
図4は、本実施例の透析装置10を用いて取得した心拍出量COと、従来の方法(具体的には、超音波希釈法)を用いて取得した心拍出量との相関関係を示している。また、透析装置10ではダイアライザ12を流通する血液の流量は10ml/分に低下させた。
図4に示すように、本実施例の透析装置10を用いて取得した心拍出量COと、従来の方法を用いて取得した心拍出量との間には、高い相関関係が認められた。
【0052】
次に、
図5を参照して、透析患者の心拍出量を測定する処理について説明する。
図5に示すように、演算装置30は、まずダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAを取得し(S12)、ダイアライザ12を流通する透析液流量QDを取得する(S14)。なお、ダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAはダイアライザ製造会社のカタログから取得可能である。演算装置30は、入力部40を介してダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAとダイアライザ12を流通する透析液流量QDを取得する。取得したダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAとダイアライザ12を流通する透析液流量QDは、測定値記憶部32に記憶される。
【0053】
さらに、演算装置30は、心拍出量の測定を開始する時点においてダイアライザ12を流通する血液の流量QBを取得する(S16)。また、ステップS16においてダイアライザ12を流通する血液の流量QBを取得したときと同じ時点において心臓50から拍出される血液中の尿素濃度である第2濃度C2を取得する(S18)。ダイアライザ12を流通する血液の流量QBは、血液ポンプ16の駆出速度として取得可能である。また、心臓50の下流を流れる血液中の尿素濃度である第2濃度C2は、透析中に採血ポート20から採取される血液の尿素濃度を測定することにより取得可能である。具体的には、測定者は、透析中に動脈側血液回路14a上に設置された採血ポート20から血液を採取し、採取した血液の尿素濃度を測定する。演算装置30は、上記の方法で取得した血液の流量QBと第2濃度C2を、入力部40を介して取得する。取得した血液の流量QBと第2濃度C2は、測定値記憶部32に記憶される。
【0054】
さらに、演算装置30は、第2濃度C2を取得した後、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させたときのダイアライザ12を流通する血液の流量QBaを取得する(S20)。例えば、測定者はダイアライザ12を流通する血液の流量を10ml/分に低下させる。そして、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させた時点から、シャント血管13から心臓50の上流に流入した、尿素濃度が上昇した血液と全身の血管を還流して心臓50に戻ってきた血液が心臓50で完全に混合するのに要する時間(例えば、20ないし35秒)が経過した時点に、心臓50から動脈に拍出される血液中の尿素濃度である第3濃度C2aを取得する(S22)。具体的には、測定者は、所定時間の経過後に、透析中に動脈側血液回路14a上に設置された採血ポート20から血液を採取し、採取した血液の尿素濃度を測定する。演算装置30は、低下させた血液の流量QBa(例えば、10ml/分)と上記の方法で取得した第3濃度C2aを、入力部40を介して取得する。取得した血液の流量QBaと第3濃度C2aは、測定値記憶部32に記憶される。
【0055】
次いで、演算装置30は、心拍出量COを算出する(S24)。具体的には、算出部34は、上記の数6で表す式を用いて、心拍出量COを算出する。詳細には、まず、算出部34は、上記の数7で表す式を用いて、心拍出量の測定を開始する時点の尿素クリアランスKと、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させたときの尿素クリアランスKaを算出する。尿素クリアランスKは、ステップS12で取得したダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAと、ステップS14で取得したダイアライザ12を流通する透析液流量QDと、ステップS16で取得した心拍出量の測定を開始する時点のダイアライザ12を流通する血液の流量QBを、数7で表す式に代入することによって算出する。また、尿素クリアランスKaは、ステップS12で取得したダイアライザ12の尿素に関する総括移動物質-面積係数KoAと、ステップS14で取得したダイアライザ12を流通する透析液流量QDと、ステップ220で取得したダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させたときのダイアライザ12を流通する血液の流量QBを、数7で表す式に代入することによって算出する。そして、算出部34は、算出された尿素クリアランスK及び尿素クリアランスKaと、ステップS18で取得された第2濃度C2と、ステップS22で取得された第3濃度C2aを、数6で表す式に代入して、心拍出量COを算出する。
【0056】
本実施例では、透析の際に容易に取得可能な測定値のみを用いて、心拍出量COを算出できる。このため、心拍出量COを測定するために透析患者や医療従事者にかかる負担を軽減することができる。
【0057】
上記の実施例では、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させた後に、採血ポート20から血液を採取し、採取した血液中の尿素濃度である第3濃度C2aを取得したが、このような構成に限定されない。例えば、ダイアライザ12を流通する血液の流量を低下させて第3濃度C2aを測定するための血液を採取した後に、ダイアライザ12を流通する血液の流量を増加させて採血ポート20から血液を採取し、採取した血液中の尿素濃度である第2濃度C2を取得してもよい。
【0058】
実施例で説明した透析装置10に関する留意点を述べる。実施例の測定値記憶部32は、「第2濃度取得部」、「第3濃度取得部」、「第1尿素除去量取得部」、「第2尿素除去量取得部」、及び「クリアランス取得部」の一例である。
【0059】
以上、本明細書に開示の技術の具体例を詳細に説明したが、これらは例示にすぎず、特許請求の範囲を限定するものではない。特許請求の範囲に記載の技術には、以上に例示した具体例を様々に変形、変更したものが含まれる。また、本明細書または図面に説明した技術要素は、単独であるいは各種の組合せによって技術的有用性を発揮するものであり、出願時請求項記載の組合せに限定されるものではない。また、本明細書または図面に例示した技術は複数目的を同時に達成するものであり、そのうちの一つの目的を達成すること自体で技術的有用性を持つものである。
【符号の説明】
【0060】
10:透析装置
12:ダイアライザ
13:シャント血管
14a:動脈側血液回路
14b:静脈側血液回路
16:血液ポンプ
18a:動脈穿刺針
18b:静脈穿刺針
19:透析液回路
20:採血ポート
30:演算装置
32:測定値記憶部
34:算出部
40:入力部
50:心臓
52:毛細血管
A:静脈とシャント血管の合流部
B:動脈からのシャント血管の分枝部
C:動脈穿刺針の穿刺位置
D:静脈穿刺針の穿刺位置
CO:心拍出量
Q:全身組織血液還流量
Qf:シャント血管血流量