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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 29/02 20060101AFI20240214BHJP
   F02D 17/00 20060101ALI20240214BHJP
   F02D 29/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F02D29/02 321C
F02D17/00 Q
F02D29/00 F
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2020030925
(22)【出願日】2020-02-26
(65)【公開番号】P2021134708
(43)【公開日】2021-09-13
【審査請求日】2023-02-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】100121821
【弁理士】
【氏名又は名称】山田 強
(74)【代理人】
【識別番号】100139480
【弁理士】
【氏名又は名称】日野 京子
(74)【代理人】
【識別番号】100125575
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100175134
【弁理士】
【氏名又は名称】北 裕介
(72)【発明者】
【氏名】奥村 文博
【審査官】小関 峰夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-094496(JP,A)
【文献】特開2001-173478(JP,A)
【文献】特開2004-308685(JP,A)
【文献】特開2009-097284(JP,A)
【文献】特開2009-292219(JP,A)
【文献】特開2010-112217(JP,A)
【文献】特開2013-092194(JP,A)
【文献】特開2019-203422(JP,A)
【文献】特許第3959846(JP,B2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 17/00
F02D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン(10)と、手動変速機(13)と、前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達経路を接続又は遮断するクラッチ(12)と、前記手動変速機のシフト位置がニュートラル位置にあることを検出するニュートラル検出装置(33)とを備える車両に適用され、前記ニュートラル検出装置により前記シフト位置がニュートラル位置にあると検出されているニュートラル検出状態であることを含む所定の自動停止条件の成立に伴い前記エンジンを自動停止させるとともに、自動停止後における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させるアイドリングストップ制御を実施する制御装置(30)であって、
前記ニュートラル検出状態において、前記車両の加速又は前記手動変速機の変速に関するドライバ操作情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記ドライバ操作情報に基づいて、前記ニュートラル検出状態が正しいか否かを判定する判定部と、
前記ニュートラル検出状態が正しくないと判定された場合に、前記エンジンが自動停止しないように制限制御を実施する制御部と、を備え
前記制御部は、前記判定部により前記ニュートラル検出状態が正しくないと判定された後において、前記ニュートラル検出装置により前記シフト位置がニュートラル位置にないと検出された場合に、前記制限制御の実施を解除する制御装置。
【請求項2】
前記取得部は、前記ドライバ操作情報として、前記車両の走行時に、前記ニュートラル検出状態でのドライバによるアクセル操作情報を取得し、
前記判定部は、前記アクセル操作情報がドライバによる車両加速意思を示すものである場合に、前記ニュートラル検出状態が正しくない旨を判定する請求項1に記載の制御装置。
【請求項3】
前記取得部は、前記ドライバ操作情報として、前記車両の走行時に、前記ニュートラル検出状態でのドライバによるクラッチ操作情報を取得し、
前記判定部は、前記クラッチ操作情報がドライバによる変速意思を示すものである場合に、前記ニュートラル検出状態が正しくない旨を判定する請求項1又は請求項2に記載の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動停止条件が成立した場合にエンジンを自動停止する車両に適用される制御装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
車両が停車中等の所定条件を満たした場合に車両のエンジンを自動停止すること(いわゆるアイドリングストップ)により、車両の燃費向上を図る取り組みがなされている。例えば、特許文献1のAT車両のアイドリングストップシステムでは、シフト位置がニュートラル位置やパーキング位置等の非駆動位置にある場合に、エンジンの自動停止が実施される。この場合、アイドリングストップシステムでは、シフト位置の検出結果に直接依存させつつエンジンの自動停止及び再始動が適宜行われる。そのため、シフト位置の検出を正しく行う必要があり、シフト位置を検出するシフト位置センサの検出結果について異常の有無が適宜判定される。例えば、複数のシフト位置が同時に検出される場合や、パーキング位置にあると検出されているのに車速がゼロでない場合等、シフト位置センサの検出結果と車両状況とが不整合となる場合に、センサ異常が生じていると判定される。そして、その異常の発生時に、自動停止の実施が禁止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第3959846号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、手動変速機を有するMT車両の場合には、シフトチェンジがドライバの手動操作に委ねられているためにシフト位置センサが設けられておらず、ニュートラルスイッチによりニュートラル位置であると検出されていること(ニュートラル検出状態であること)を条件に、エンジンの自動停止が実施される。ここで、ニュートラルスイッチの場合には、シフト位置センサとは異なり、単に検出結果と車両状況とを比較する構成では異常判定が困難となる。そのため、仮にニュートラルスイッチによりニュートラル検出状態が誤って検出されると、手動変速機がギアイン状態であるのにエンジンの自動停止が行われてしまうといった不都合が懸念される。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主たる目的は、手動変速機を備える車両において、エンジンの自動停止を適正に実施することができる制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の手段は、
エンジンと、手動変速機と、前記エンジンと前記手動変速機との間の動力伝達経路を接続又は遮断するクラッチと、前記手動変速機のシフト位置がニュートラル位置にあることを検出するニュートラル検出装置とを備える車両に適用され、前記ニュートラル検出装置により前記シフト位置がニュートラル位置にあると検出されているニュートラル検出状態であることを含む所定の自動停止条件の成立に伴い前記エンジンを自動停止させるとともに、自動停止後における所定の再始動条件の成立に伴い前記エンジンを再始動させるアイドリングストップ制御を実施する制御装置であって、
前記ニュートラル検出状態において、前記車両の加速又は前記手動変速機の変速に関するドライバ操作情報を取得する取得部と、
前記取得部により取得された前記ドライバ操作情報に基づいて、前記ニュートラル検出状態が正しいか否かを判定する判定部と、
前記ニュートラル検出状態が正しくないと判定された場合に、前記エンジンが自動停止しないように制限制御を実施する制御部と、を備える。
【0007】
上記構成では、手動変速機を備える車両(MT車両)にニュートラル検出装置が設けられており、ニュートラル検出装置は、手動変速機のシフト位置がニュートラル位置にあることを検出する。そして、シフト位置がニュートラル位置にあると検出されているニュートラル検出状態であることを含む所定の自動停止条件が成立すると、エンジンの自動停止が実施される。この場合、ニュートラル検出装置によりニュートラル検出状態が正しく検出されているかを判定する必要がある。
【0008】
車両走行時において、手動変速機のシフト位置が実際にニュートラル位置になっているニュートラル走行状態では、ドライバのアクセル踏み込みによる加速操作や、ドライバのクラッチ踏み込みによるクラッチ操作が行われる可能性は低い。そのため、ニュートラル検出装置によるニュートラル検出状態で、ドライバによる加速操作やクラッチ操作が行われた場合には、ニュートラル検出装置によるニュートラル検出状態が誤りである可能性があると考えられる。この点、上記構成では、ニュートラル検出状態において、車両の加速又は手動変速機の変速に関するドライバ操作情報を取得し、そのドライバ操作情報に基づいて、ニュートラル検出状態が正しいか否かを判定するようにした。そして、ニュートラル検出状態が正しくないと判定された場合に、エンジンが自動停止しないように制限制御を実施するようにした。この場合、ドライバ操作情報により、ドライバの車両加速意思又は変速意思を把握することが可能であり、それらを示すドライバ操作情報を用いることで、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かを適正に判定できる。その結果、手動変速機を備える車両において、エンジンの自動停止を適正に実施することができる。
【0009】
第2の手段では、前記取得部は、前記ドライバ操作情報として、前記車両の走行時に、前記ニュートラル検出状態でのドライバによるアクセル操作情報を取得し、前記判定部は、前記アクセル操作情報がドライバによる車両加速意思を示すものである場合に、前記ニュートラル検出状態が正しくない旨を判定する。
【0010】
手動変速機のシフト位置をニュートラル位置にしたまま車両走行が行われている場合には車両が惰性走行状態にあり、その惰性走行状態では、ドライバによるアクセル操作が行われる可能性が低いと考えられる。したがって、ニュートラル検出状態でのアクセル操作から把握されるドライバの車両加速意思により、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かを適正に判定することができる。
【0011】
第3の手段では、前記取得部は、前記ドライバ操作情報として、前記車両の走行時に、前記ニュートラル検出状態でのドライバによるクラッチ操作情報を取得し、前記判定部は、前記クラッチ操作情報がドライバによる変速意思を示すものである場合に、前記ニュートラル検出状態が正しくない旨を判定する。
【0012】
手動変速機のシフト位置をニュートラル位置にしたまま車両走行が行われている場合には車両が惰行状態にあり、その惰行状態では、ドライバによるクラッチ操作及び変速操作が行われる可能性が低いと考えられる。したがって、ニュートラル検出状態でのクラッチ操作から把握されるドライバの変速意思により、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かを適正に判定することができる。
【0013】
第4の手段では、前記制御部は、前記判定部により前記ニュートラル検出状態が正しくないと判定された後において、前記ニュートラル検出装置により前記シフト位置がニュートラル位置にないと検出された場合に、前記制限制御の実施を解除する。
【0014】
上記のとおり、車両のニュートラル走行状態ではドライバのアクセル加速操作やクラッチ操作が行われる可能性は低く、ニュートラル検出状態でのアクセル加速操作やクラッチ操作、すなわちドライバの車両加速意思又は変速意思に基づいて、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かの判定が可能である。ただし、実際のニュートラル走行状態で、ドライバが敢えて又は誤ってアクセル加速操作やクラッチ操作を行うことも考えられる。この場合、ニュートラル検出状態が正しくないと判定されたままであると、エンジン自動停止の機会が無用に減じられてしまう。この点、ニュートラル検出状態が正しくないと判定された後において、ニュートラル検出装置によりシフト位置がニュートラル位置にないと検出された場合(すなわちギアイン状態になったと判定された場合)に、制限制御の実施を解除する構成としたため、エンジン自動停止の制限(すなわちエンジンが自動停止されないようにすること)が無用に実施されることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】手動変速機を備える車両の制御システムの概略構成図
図2】アイドリングストップ制御においてエンジン自動停止を行う際の処理手順を示すフローチャート
図3】アイドリングストップ制御を具体的に説明するためのタイムチャート
図4】アイドリングストップ制御を具体的に説明するためのタイムチャート
図5】アイドリングストップ制御を具体的に説明するためのタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を具体化した実施形態を図面に基づいて説明する。本実施形態では、制御装置が、所定の自動停止条件の成立に伴いエンジン(内燃機関)を一時的に自動停止させるとともに、自動停止後における所定の再始動条件の成立に伴いエンジンを再始動させるアイドリングストップ制御を実施するECUとして具現化されている。このECUは、例えばエンジンと、手動変速機(マニュアルトランスミッション)とを搭載した車両に適用される。
【0017】
図1は、手動変速機を備える車両の制御システムの概略構成図である。エンジン10は例えば多気筒ガソリンエンジンであり、図示しないインジェクタや点火装置等を備えている。エンジン10のクランク軸11には、クラッチ12を介して変速機13が接続されている。また、エンジン10には、エンジン始動時及び再始動時において当該エンジン10に初期回転(クランキング回転)を付与するスタータ19が設けられている。
【0018】
クラッチ12は、エンジン10と変速機13との間の動力伝達経路を接続又は遮断する。クラッチ12は、クランク軸11に接続されたエンジン10側の円板12a(フライホイール等)と、入力軸14に接続された変速機13側の円板12b(クラッチディスク等)とを備えている。クラッチ12は、ドライバによるクラッチペダル21の踏込み操作又は踏込みの解除操作により、両円板12a,12b同士が接触及び離間のいずれかの状態に切り替えられるようになっている。ドライバによりクラッチペダル21が踏み込まれると、両円板12a,12bが相互に離れてエンジン10から変速機13への動力が遮断され、その踏込み操作が解除されると、両円板12a,12bが相互に接触してエンジン10から変速機13に動力が伝達されるようになっている。
【0019】
変速機13は、ドライバによるシフト装置22の手動操作によりシフト位置(変速比)が切り替えられるマニュアルトランスミッションである。変速機13は、入力軸14の回転をトランスミッション出力軸15の回転に変換するものである。
【0020】
トランスミッション出力軸15には、ディファレンシャルギア16を介して車軸17が接続されている。車軸17には、車輪18が接続されており、車輪18と共に回転する。また、車輪18には、各車輪18に対して制動力を付与するブレーキが設けられている。
【0021】
ECU30は、CPU、ROM、RAM、フラッシュメモリ等からなる周知のマイクロコンピュータを備えた電子制御装置である。このECU30は、接続された各種センサの検出結果等(各種情報)を取得可能に構成されている。ECU30は、各種情報に基づいて、エンジン10の運転状態(始動及び停止を含む)を制御する。例えば、ECU30は、エンジン10の運転状態の制御として、エンジン10のアイドリングストップ制御を実施する。また、ECU30は、スタータ19の駆動制御を実施する。
【0022】
センサ類について詳しくは、ECU30には、図示しないアクセルペダルの踏込み操作量を検出するアクセルセンサ31、クラッチペダル21の踏込み操作を検出するクラッチセンサ32、シフト装置22のシフト位置がニュートラル位置にあるか否かを検出するニュートラル検出装置33、車速を検出する車速センサ34等が接続されており、これら各センサの検出信号がECU30に逐次入力されるようになっている。その他、本システムには回転速度センサや負荷センサ(エアフロメータ、吸気圧センサ)等も設けられている。
【0023】
クラッチセンサ32は、クラッチペダル21が踏み込まれていること及びクラッチペダル21の踏み込みが解除されたことを検出する。ニュートラル検出装置33は、シフト装置22のシフト位置がニュートラル位置にあるかどうかを検出するニュートラルスイッチである。ニュートラル検出装置33は、シフト装置22のシフト位置がニュートラル位置にあると検出しているニュートラル検出状態でオン信号を出力し、ニュートラル位置でなくギアイン位置にあると検出しているギアイン検出状態でオフ信号を出力する。
【0024】
次に、上記のシステム構成において実施されるアイドリングストップ制御について詳述する。アイドリングストップ制御は、概略として、所定の自動停止条件が成立すると当該エンジン10を自動停止させるとともに、その後、所定の再始動条件が成立するとエンジン10を再始動させるものである。自動停止条件としては、例えば、シフト位置がニュートラル位置にあること、クラッチペダル21の踏込み操作が解除されていること(クラッチ係合状態であること)、及び車速が所定速度よりも小さいことが含まれる。ECU30は、クラッチセンサ32、ニュートラル検出装置33、及び車速センサ34から入力される検出信号に基づいて自動停止条件が成立したか否かを判定する。
【0025】
また、エンジン再始動条件としては、シフト位置がニュートラル位置にあること、クラッチペダル21が踏み込まれたことが含まれる。ECU30は、クラッチセンサ32及びニュートラル検出装置33から入力される検出信号に基づいて再始動条件が成立したか否かを判定する。
【0026】
このように、エンジン10の自動停止及び再始動には、シフト位置がニュートラル位置にあることが条件となっている。仮に、ニュートラル検出装置33によるニュートラル検出状態が誤りである場合、つまり変速機13のギアが入っている場合に、エンジン10の自動停止が実施されると、その後の再始動時にスタータ19に大電流が流れ、スタータ19の故障等の要因となることが懸念される。そこで、ニュートラル検出状態が正しいものであるか否かを判定する必要がある。
【0027】
車両走行時において、変速機13のシフト位置が実際にニュートラル位置になっているニュートラル走行状態では、ドライバのアクセル踏み込みによる加速操作や、ドライバのクラッチ踏み込みによるクラッチ操作が行われる可能性は低い。そのため、ニュートラル検出装置33によりシフト位置がニュートラル位置であると検出されているニュートラル検出状態で、ドライバによる加速操作やクラッチ操作が行われた場合には、ニュートラル検出装置33によるニュートラル検出状態が誤りである可能性があると考えられる。
【0028】
そこで本実施形態では、ニュートラル検出状態において、車両の加速又は変速機13の変速に関するドライバ操作情報を取得し、そのドライバ操作情報に基づいて、ニュートラル検出状態が正しいか否かを判定する。そして、ニュートラル検出状態が正しくないと判定された場合に、エンジン10が自動停止しないように制限制御を実施することとしている。この場合特に、ニュートラル検出状態が正しくないと判定された場合において、制限制御として、エンジン10の自動停止を禁止することとしている。
【0029】
ECU30は、ドライバ操作情報として、ニュートラル検出状態でのドライバによるアクセル操作情報を取得するとよい。この場合、アクセル操作情報がドライバによる車両加速意思を示すものである場合に、ニュートラル検出状態が正しくない旨を判定する。また、ECU30は、ドライバ操作情報として、ニュートラル検出状態でのドライバによるクラッチ操作情報を取得するとよい。この場合、クラッチ操作情報がドライバによる変速意思を示すものである場合に、ニュートラル検出状態が正しくない旨を判定する。
【0030】
図2は、アイドリングストップ制御においてエンジン自動停止を行う際の処理手順を示すフローチャートである。本フローチャートによる処理は、ECU30により所定周期で実行される。
【0031】
S11では、車両が走行状態であるか否かを判定する。より詳しくは、車速が所定速度よりも大きく、かつエンジン10が自動停止された状態でないことを判定する。S11が肯定されるとS12に進み、S11が否定されると本処理を終了する。
【0032】
S12では、正常判定フラグF1が0であるか否かを判定する。正常判定フラグF1は、ニュートラル検出装置33によるニュートラル検出状態が正常であると判定されていることを示すフラグである。正常判定フラグF1は、ギアイン検出状態からニュートラル検出状態に変化すること(ニュートラル検出信号がオフからオンに変化すること)に伴い1がセットされ、ニュートラル検出状態からギアイン検出状態に変化すること(ニュートラル検出信号がオンからオフに変化すること)に伴い0にリセットされるフラグである。ただし、正常判定フラグF1は、ニュートラル検出状態においてその検出状態に異常の懸念が生じる場合に0にリセットされる。そして、S12において、正常判定フラグF1が0であれば、S13に進む。
【0033】
S13では、ニュートラル検出装置33の検出信号がオフからオンに変化したか否か、すなわちギアイン検出状態からニュートラル検出状態に変化したか否かを判定する。そして、S13が肯定されるとS14に進み、正常判定フラグF1に1をセットする。
【0034】
正常判定フラグF1に1がセットされた後は、S12からS21に進む。S21では、エンジン自動停止を禁止する禁止フラグF2が0であるか否かを判定する。禁止フラグF2は、初期値が0であり、エンジン自動停止を禁止する場合に1がセットされる。そして、禁止フラグF2が0であることを条件に後続のS22に進む。
【0035】
S22では、ニュートラル検出状態下において、ドライバによるアクセル操作情報としてアクセルセンサ31の検出信号を取得するとともに、ドライバによるクラッチ操作情報としてクラッチセンサ32の検出信号を取得する。
【0036】
その後、S23では、ドライバによる車両加速意思があるか否かを判定する。このとき、S22で取得したアクセル操作情報がドライバによる車両加速意思を示すものであるか否かを判定する。より具体的には、ニュートラル検出状態でアクセルオン状態が所定時間(例えば、数秒間)継続したことに基づいて車両加速意思有りと判定する構成や、ニュートラル検出状態でアクセルペダルが踏み増しされたことに基づいて車両加速意思有りと判定する構成とする。又は、ニュートラル検出状態において、クラッチ係合状態でアクセルオン状態であることに基づいて車両加速意思有りと判定する構成であってもよい。
【0037】
また、S24では、ドライバによる変速意思があるか否かを判定する。このとき、ステップS22で取得したクラッチ操作情報がドライバによる変速意思を示すものであるか否かを判定する。より具体的には、ニュートラル検出状態が継続されている状態(ニュートラル検出状態の継続時間が所定以上である状態)で、でクラッチ12が係合状態から切断状態に変化したことに基づいて変速意思有りと判定するとよい。
【0038】
そして、S23,S24がいずれも否定されると、ステップS25に進む。通常は、ニュートラル検出状態でアクセル操作やクラッチ操作が行われる可能は低く、S23,S24がいずれも否定されることが想定される。S25では、ニュートラル検出装置33の検出信号がオンからオフに変化したか否か、すなわちニュートラル検出状態からギアイン検出状態に変化したか否かを判定する。そして、S25が肯定されるとS29に進み、正常判定フラグF1を0にリセットする。例えば、ニュートラル検出状態での走行からギアイン検出状態での走行に切り替えられる際に、S25が肯定され、S29で正常判定フラグF1が0にリセットされる。
【0039】
また、S25が否定され、S26に進むと、自動停止条件として、ニュートラル検出状態であること以外の各条件が成立しているか否かを判定する。このとき、クラッチ係合状態であり、かつ車速が所定速度よりも小さくなっていれば、自動停止条件が成立していると判定する。自動停止条件が成立していればS27に進み、自動停止条件が成立していなければそのまま処理を終了する。S27では、エンジン10の自動停止を実施する。
【0040】
また、S23,S24のいずれかが肯定されると、ステップS28に進む。このとき、ニュートラル検出状態でアクセル操作又はクラッチ操作が行われている状況は、ニュートラル検出装置33によるニュートラル検出状態が正しくないとみなされ、S28において、禁止フラグF2に1をセットする。続くS29では、正常判定フラグF1を0にリセットする。
【0041】
S12に戻り、正常判定フラグF1が0である場合にS13に進み、さらにS13が否定されると、S31に進む。S31では、ニュートラル検出装置33の検出信号がオンからオフに変化したか否か、すなわちニュートラル検出状態からギアイン検出状態に変化したか否かを判定する。そして、S31が肯定されるとS32に進み、禁止フラグF2を0にリセットする。
【0042】
ここで、正常判定フラグF1が0である状況は、ニュートラル検出装置33がギアイン検出状態である場合、又はニュートラル検出状態が誤って検出されている場合のいずれかである。このうち後者の場合は、ニュートラル検出装置33がオン固着していることが一要因として考えられるが、ニュートラル検出状態からギアイン検出状態に変化したことは、オン固着でないことに相当する。例えば、変速機13がニュートラル状態になっている場合(すなわち、ニュートラル検出状態が正常に検出されている場合)には、ドライバにより敢えて又は誤ってアクセル加速操作やクラッチ操作が行われた際にエンジン自動停止が禁止されることは望ましくない。そのため、エンジン自動停止を再度許可すべく禁止フラグF2を0にリセットする。
【0043】
次に、本実施形態におけるアイドリングストップ制御を、図3図5のタイムチャートを用いてより具体的に説明する。
【0044】
まず、図3は、ニュートラル検出状態が誤って検出されていることを、ドライバのアクセル操作情報に基づいて判定する事例を示すタイムチャートである。
【0045】
図3において、タイミングt11では、アクセルオン操作により車両が加速状態にあり、その状態下でドライバによるクラッチ切断操作が行われ、続くタイミングt12では、シフト装置22の操作により実シフト位置がギアイン位置からニュートラル位置に切り替えられる。このタイミングt12では、シフト位置の切り替えに伴い、ニュートラル検出装置33の出力がオフ(ギアイン検出状態)からオン(ニュートラル検出状態)に変化する。また、正常判定フラグF1に1がセットされる。
【0046】
その後、タイミングt13では、シフト装置22の操作により実シフト位置がニュートラル位置からギアイン位置に切り替えられる。ただしこの場合、タイミングt12においてニュートラル検出装置33でオン固着が生じていることで、ニュートラル検出装置33の出力がオンのままとなる。なお、図3には、実シフト位置に対応するニュートラル検出装置33の正常出力が破線にて示されている。タイミングt14では、ドライバによるクラッチ係合操作が行われる。
【0047】
その後、タイミングt15では、ニュートラル検出状態においてドライバによるアクセル操作情報とクラッチ操作情報とが取得され、それら各情報に基づいて、エンジン自動停止を禁止する禁止フラグF2に1がセットされる。また、正常判定フラグF1が0にリセットされる。このとき、アクセル操作情報とクラッチ操作情報とによれば、ドライバに車両加速意思があることを把握することができる。そして、その車両加速意思に基づいて、現時点でのニュートラル検出状態が誤りであるとみなされて、以降のエンジン自動停止が禁止される。
【0048】
補足すると、タイミングt15では、クラッチ係合状態下でドライバがアクセルオン操作をしており、現時点においてドライバに車両を加速させる意思があると推測できる。これにより、ニュートラル検出状態であることが誤りであると推測できる。ニュートラル検出状態が正しく検出できていない状況では、仮にニュートラル検出状態になっていても、実際にはギアイン状態になっていることも考えられるため、エンジン自動停止が禁止される。
【0049】
なお、タイミングt15において、ニュートラル検出状態でアクセルオン状態が所定時間継続したことに基づいて車両加速意思有りと判定されてもよい。また、ニュートラル検出状態でアクセルペダルが踏み増しされたことに基づいて車両加速意思有りと判定されてもよい。
【0050】
タイミングt15以降において、禁止フラグF2に1がセットされていれば、車速の低下等に応じて自動停止条件が成立しても、エンジン自動停止が禁止される。これにより、変速機13がギアイン状態であるままで再始動が行われるといった不都合が抑制される。
【0051】
図4は、ニュートラル検出状態が誤って検出されていることを、ドライバのクラッチ操作情報に基づいて判定する事例を示すタイムチャートである。
【0052】
図4において、タイミングt21では、アクセルオフにより車両が減速状態にあり、その状態下でドライバによるクラッチ切断操作が行われ、続くタイミングt22では、シフト装置22の操作により実シフト位置がギアイン位置からニュートラル位置に切り替えられる。このタイミングt22では、シフト位置の切り替えに伴い、ニュートラル検出装置33の出力がオフ(ギアイン検出状態)からオン(ニュートラル検出状態)に変化する。また、正常判定フラグF1に1がセットされる。
【0053】
その後、タイミングt23では、シフト装置22の操作により実シフト位置がニュートラル位置からギアイン位置に切り替えられる。ただしこの場合、タイミングt22においてニュートラル検出装置33でオン固着が生じていることで、ニュートラル検出装置33の出力がオンのままとなる。ニュートラル検出装置33の正常出力を破線にて示す。タイミングt24では、ドライバによるクラッチ係合操作が行われる。
【0054】
その後、タイミングt25では、ニュートラル検出状態においてクラッチ操作情報が取得され、その情報に基づいて、エンジン自動停止を禁止する禁止フラグF2に1がセットされる。また、正常判定フラグF1が0にリセットされる。このとき、クラッチ操作情報によれば、ドライバに変速意思があることを把握することができる。そして、その変速意思に基づいて、現時点でのニュートラル検出状態が誤りであるとみなされて、以降のエンジン自動停止が禁止される。
【0055】
補足すると、タイミングt25では、クラッチ係合状態下でドライバがクラッチ踏み込み操作をしており、現時点においてドライバに変速機13の変速を行う意思があると推測できる。これにより、ニュートラル検出状態であることが誤りであると推測できる。
【0056】
タイミングt25以降において、禁止フラグF2に1がセットされていれば、車速の低下等に応じて自動停止条件が成立しても、エンジン自動停止が禁止される。
【0057】
図5は、ニュートラル検出状態が正しくないと判定されてエンジン自動停止を禁止した後(禁止フラグF2に1をセットした後)に、その禁止を解除する事例を示すタイムチャートである。
【0058】
図5において、タイミングt31では、ニュートラル検出状態においてドライバによるクラッチ操作情報に基づいてドライバに変速意思があるとされる。そして、現時点でのニュートラル検出状態が誤りであるとみなされて、禁止フラグF2に1がセットされる。また、正常判定フラグF1が0にリセットされる。ただしこの場合には、図4のタイミングt25とは異なり、ニュートラル検出装置33のオン固着は生じておらず、実シフト位置とニュートラル検出状態とは一致している。なお、タイミングt31では、ドライバが誤ってクラッチ12の踏み込み操作をしたことが考えられる。
【0059】
その後、タイミングt32では、シフト装置22の操作により実シフト位置がニュートラル位置からギアイン位置に切り替えられる。この場合、実シフト位置の切り替えに応じて、ニュートラル検出装置33の出力がオンからオフに変化する。これに伴い、禁止フラグF2が0にリセットされる。これにより、エンジン自動停止の実施が再び許可される。
【0060】
なお、図5では、タイミングt33において、ニュートラル検出装置33でオン固着が生じている。そして、タイミングt34で、ニュートラル検出状態においてドライバによるアクセル操作情報に基づいて、禁止フラグF2に1がセットされるとともに、正常判定フラグF1が0にリセットされる。
【0061】
以下、本実施形態の奏する効果について説明する。
【0062】
ニュートラル検出状態において、車両の加速又は変速機13の変速に関するドライバ操作情報を取得し、そのドライバ操作情報に基づいて、ニュートラル検出状態が正しいか否かを判定するようにした。そして、ニュートラル検出状態が正しくないと判定された場合に、制限制御として、エンジン10の自動停止を禁止するようにした。この場合、ドライバ操作情報により、ドライバの車両加速意思又は変速意思を把握することが可能であり、それらを示すドライバ操作情報を用いることで、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かを適正に判定できる。その結果、変速機13を備える車両において、エンジン10の自動停止を適正に実施することができる。
【0063】
ニュートラル検出状態でのアクセル操作から把握されるドライバの車両加速意思により、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かを適正に判定することができる。
【0064】
ニュートラル検出状態でのクラッチ操作から把握されるドライバの変速意思により、都度のニュートラル検出状態が正しいか否かを適正に判定することができる。
【0065】
ニュートラル検出状態が正しくないと判定された後において、ニュートラル検出装置33によりシフト位置がニュートラル位置にないと検出された場合(すなわちギアイン状態になったと判定された場合)に、エンジン10の自動停止の禁止を解除する構成としたため、エンジン自動停止の禁止が無用に実施されることを抑制できる。
【0066】
<他の実施形態>
・上記実施形態において、スタータ19により再始動を実施していたが、スタータ19に加えて又はスタータ19に代えて、ISG(Integrated Starter Generator)やモータジェネレータ(MG)が設けられ、これらISGやMGにより、再始動が実施されてもよい。
【0067】
・本開示に記載の制御部(ECU30)及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウエア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリーと一つ以上のハードウエア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていてもよい。
【符号の説明】
【0068】
10…エンジン、12…クラッチ、13…変速機、19…スタータ、30…ECU、33…ニュートラル検出装置。
図1
図2
図3
図4
図5