IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社大林組の特許一覧

<>
  • 特許-地中構造物の構築方法 図1
  • 特許-地中構造物の構築方法 図2
  • 特許-地中構造物の構築方法 図3
  • 特許-地中構造物の構築方法 図4
  • 特許-地中構造物の構築方法 図5
  • 特許-地中構造物の構築方法 図6
  • 特許-地中構造物の構築方法 図7
  • 特許-地中構造物の構築方法 図8
  • 特許-地中構造物の構築方法 図9
  • 特許-地中構造物の構築方法 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】地中構造物の構築方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/46 20060101AFI20240214BHJP
   E02D 5/20 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
E02D5/46
E02D5/20 101
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2020041580
(22)【出願日】2020-03-11
(65)【公開番号】P2021143490
(43)【公開日】2021-09-24
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000000549
【氏名又は名称】株式会社大林組
(74)【代理人】
【識別番号】110000176
【氏名又は名称】弁理士法人一色国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】須藤 敏巳
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 剛
(72)【発明者】
【氏名】幸山 大己
(72)【発明者】
【氏名】三浦 俊彦
【審査官】石川 信也
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-125389(JP,A)
【文献】特開平08-199567(JP,A)
【文献】米国特許第05234288(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/00-5/20
E02D 5/22-5/80
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地中孔に造成した地盤改良体に芯材を貫入してなる地中構造物の構築方法であって、
ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった掘削泥水で満たす工程と、
前記地中孔に、前記掘削泥水をゲル化させる量のセメントミルクを添加して混合攪拌し、前記地中孔をゲル状泥水で満たす工程と、
該ゲル状泥水で満たされた前記地中孔に、前記ゲル状泥水を利用して地盤改良液を作液するためのセメント系固化液を添加して混合攪拌し、前記地中孔を地盤改良液で満たす工程と、
該地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建て込む工程と、
を備えることを特徴とする地中構造物の構築方法。
【請求項2】
請求項1に記載の地中構造物の構築方法において、
前記ベントナイト液に含むベントナイト量は、前記掘削泥水の比重が約1.5となるように調整され、
前記ベントナイト量と前記掘削泥水をゲル化させる量のセメントミルクに含まれるセメント量の比は、体積比で3~4:1となるように、調整されていることを特徴とする地中構造物の構築方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地盤改良体を用いた地中構造物を構築するための地中構造物の構築方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、地中に地盤改良体を造成し、これを利用して支持杭等の地中構造物を構築する方法が広く知られている。例えば特許文献1では、ソイルセメント構造物を構成する地盤改良体を、小型の地盤改良装置にて造成する方法が開示されている。
【0003】
具体的には、下端部近傍に掘削ビットを備えるロッドに起振力を伝達する起振装置を接続し、ロッドに上下方向の起振力を付与しながら回転させることにより地盤を削孔しつつロッドの先端よりセメントミルクを吐出し、掘削土とセメントミルクを混合撹拌して地盤中にソイルセメントよりなる地盤改良体を造成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5443928号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1の方法によれば、地盤中に硬質な領域が存在する場合等、様々な地盤条件にあっても、効率よく掘削撹拌して地盤中に地盤改良体を築造することができる。
【0006】
ところが、例えば地盤中に礫質土層が存在する場合、硬化直前の地盤改良体の底部には礫を多く含む掘削土砂が沈降によって堆積している。このような地盤改良体を利用して支持杭を構築するべく、地盤改良体に芯材を建て込む場合は、底部に堆積した掘削土砂により、芯材を所定深度まで挿入することができない事態となる。
【0007】
こうした芯材の高止まりへの対策としては、地盤を掘削攪拌する際、礫を含む掘削土砂の沈降による堆積量を考慮した分だけ余分に深度方向への掘削を行い、余長分を設ける方法がある。しかし、孔底近傍の硬質地盤を余分に掘削攪拌すること、及び地盤改良体を造成することとなるため、地中構造物の構築時間が長期化し、施工効率に劣る。
【0008】
また、バイブロハンマ等を利用するなどして、芯材に振動を付与しつつを硬化直前の地盤改良体に挿入する方法も考えられるが、施工現場で発生する振動や騒音は、周辺の住環境に与える影響が大きく、実施するには課題が多い。
【0009】
本発明は、かかる課題に鑑みなされたものであって、その主な目的は、効率よくソイルセメント造の地盤改良体を利用した地中構造物を構築することの可能な、地中構造物の構築方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
かかる目的を達成するため、本発明の地中構造物の構築方法は、地中孔に造成した地盤改良体に芯材を貫入してなる地中構造物の構築方法であって、ベントナイト液を供給しながら地盤を削孔し、地中孔を前記ベントナイト液に掘削土が混じった掘削泥水で満たす工程と、前記地中孔に、前記掘削泥水をゲル化させる量のセメントミルクを添加して混合攪拌し、前記地中孔をゲル状泥水で満たす工程と、該ゲル状泥水で満たされた前記地中孔に、前記ゲル状泥水を利用して地盤改良液を作液するためのセメント系固化液を添加して混合攪拌し、前記地中孔を地盤改良液で満たす工程と、該地盤改良液で満たされた前記地中孔内に、芯材を建て込む工程と、を備えることを特徴とする。また、前記ベントナイト液に含むベントナイト量は、前記掘削泥水の比重が約1.5となるように調整され、前記ベントナイト量と前記掘削泥水をゲル化させる量のセメントミルクに含まれるセメント量の比は、体積比で3~4:1となるように、調整されていることを特徴とする。
【0011】
上述する本発明の地中構造物の構築方法によれば、地中孔内を満たす掘削泥水をゲル化させ、掘削土砂の沈降を抑制可能なゲル状泥水で地中孔を満たしたのち、このゲル状泥水とセメント系固化液を攪拌混合し、地盤改良液を作液するから、地盤改良液にも掘削土の沈降を抑制可能な程度のゲル化状態を維持させることができる。
【0012】
これにより、地盤改良液で満たされた地中孔内に芯材を挿入すると、ゲル化状態を維持した地盤改良液は、芯材から作用された下向きの押圧力により、掘削土を伴って孔壁に沿って上昇するように流動するため、芯材を所定の深さまで挿入し建て込むことができる。
【0013】
したがって、地盤中に礫を多く含む礫質土層が存在し、掘削土砂に礫が多く含まれる場合にも、これらが孔底に堆積して芯材の高止まりを生じさせるような現象を抑制することができ、施工性を大幅に向上することが可能となる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、掘削土砂の沈降を抑制可能な程度に地盤改良液をゲル化できるから、地盤改良液に芯材を建て込む際の高止まりを抑制でき、施工性を大幅に向上できるとともに、効率よく地中構造物を構築することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態における地中構造物の概略を示す図である。
図2】本発明の実施の形態における地中削孔する様子を示す図である。
図3】本発明の実施の形態における地中孔が掘削泥水で満たされている様子を示す図である。
図4】本発明の実施の形態における掘削泥水とセメントミルクを混合攪拌している様子を示す図である。
図5】本発明の実施の形態における地中孔がゲル状泥水W3で満たされている様子を示す図である。
図6】本発明の実施の形態におけるゲル状泥水W3とセメント系固化液とを混合攪拌している様子を示す図である。
図7】本発明の実施の形態における地中孔が地盤改良液で満たされている様子を示す図である。
図8】本発明の実施の形態における地中孔に芯材を建て込む様子を示す図である(その1)。
図9】本発明の実施の形態における地中孔に芯材を建て込む様子を示す図である(その2)。
図10】本発明の実施の形態における地盤改良液の性状試験結果及び地盤改良体の圧縮強度の試験結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、地盤改良体を用いた山留杭や支持杭等の地中構造物を構築するための方法であって、特に地盤中に粒径が0.2~2mm程度の粗砂と、2~75mm程度の礫等を多く含む礫質土層が存在する場合に好適な方法である。本実施の形態では、地中構造物として、地盤改良体に芯材を貫入した支持杭を事例に挙げ、その詳細を説明する。
【0017】
≪地中構造物≫
図1(a)(b)で示すように、支持杭1は、円柱状に形成された地中構造物であり、本実施の形態では、断面径400mm~800mm程度の地中孔Hに建て込まれた芯材2と、芯材2を内包するように地中孔Hに造成される地盤改良体3とにより構成されている。
【0018】
なお、地中孔Hの断面径は、必ずしも限定されるものではなく、例えば800mm以上の断面径を採用してよい。また、芯材2は、長尺鋼材であれば鋼管等いずれを採用してもよいが、本実施の形態では、H型鋼を採用している。
【0019】
地盤改良体3は、砂や礫の沈降を抑制できる程度のゲル化状態にある地盤改良液W4を硬化させたものであり、地盤改良液W4は、ゲル状泥水W3とセメント系固化液Cとを攪拌混合したものである。また、ゲル状泥水W3は、少量のセメントミルクMを添加することにより掘削泥水W2をゲル化させたものである。
【0020】
具体的には、ベントナイト液W1を供給しつつ地中を削孔すると、削孔により発生した粘土分や、砂及び礫を含む掘削土とベントナイト液W1とが混じりあうことにより、地中孔H内は掘削泥水W2で満たされた状態にある。
【0021】
しかし、掘削土中の砂や礫は地中孔内で沈降し堆積しやすいことから、掘削泥水W2をゲル化させることにより、これら掘削土の沈降を抑制することとした。掘削泥水W2のゲル化は、ベントナイトがセメント中のカルシウムイオンと結合すると、ベントナイトの分散性が失われてゾル状態からゲル状体に移行する現象を利用し、掘削泥水W2に少量のセメントミルクMを添加することで、ゲル状泥水W3を作液している。
【0022】
このようなゲル状泥水W3とセメント系固化液Cとを攪拌混合した地盤改良液4は、砂や礫の沈降を抑制可能な程度のゲル化状態を維持していることから、芯材2を建て込む段階で地中孔H内の底部に堆積する掘削土の量が大幅に低減される。したがって、地中孔Hを掘削するにあたり、従来のように、考慮した分だけ余分に深度方向への掘削を行い、余長分を設ける手間を省略することができる。
【0023】
上記の地盤改良液4を作液するにあたっては、まず、ベントナイト液W1に含むベントナイト量を、掘削泥水W2の比重が1.5程度になるよう調整する。この調整したベントナイト量とセメント量の比が体積比で3~4:1程度、重量比で2~3:1程度となるように、セメントミルクMに含まれるセメント量を調整することが好ましい。そして、セメントミルクMにより掘削泥水W2をゲル化させたゲル状泥水W3とセメント系固化液Cとを混合攪拌した地盤改良液4が硬化した際に、所望の圧縮強度を発現可能な地盤改良体3となるよう、セメント系固化液Cに添加するセメント量を調整するとよい。
【0024】
≪地中構造物の構築方法≫
上記の構成を有する支持杭1の構築方法を、図1で示すように、地盤中に礫を多く含む礫質土層Gが存在する場合を事例に挙げ、施工時に使用する削孔撹拌装置10、門型リフター20の詳細と併せて、以下に詳述する。
【0025】
≪第1の工程≫
まず、図2で示すように、支持杭1の施工対象領域の所定位置に後述する削孔撹拌装置10を据え付け、ベントナイト液W1を供給しながら削孔撹拌装置10を介して地盤を削孔する。
【0026】
<削孔撹拌装置>
地中削孔に使用する削孔撹拌装置10は、図2で示すように、キャタピラからなる移動機構11と、移動機構11によって移動可能な台座部12と、台座部12により鉛直方向に延びるように支持されたリーダー13とを備えている。
【0027】
また、リーダー13に沿って上下方向に移動可能に設置された起振装置14と、頭部が起振装置14に接続されたロッド15と、ロッド15の先端に取り付けられた掘削撹拌部16とを備えている。
【0028】
さらには、掘削撹拌部16の先端から吐出されるベントナイト液W1をロッド15の内部に供給するベントナイトの調整液供給装置17と、ロッド15に回転力を付与する回転装置18と、を備えている。
【0029】
起振装置14は、偏芯重錘を回転させることで上下方向の起振力を発生させる装置であり、リーダー13に沿って鉛直移動可能に設置されている。なお、起振装置14は、ロッド15に対して上下方向又は横方向のうち少なくとも何れかの成分を含む振動を伝達可能な起振力を発生できる装置であればいずれを用いてもよい。
【0030】
回転装置18は、その内方に備えられた図示しないロッド把持部にてロッド15の周面を把持し、ロッド15に対してその軸を中心とした正方向もしくは逆方向の回転力を付与する装置である。その配置位置は、起振装置14の下側に位置し、起振装置14とともにリーダー13に沿って鉛直移動可能に設置されている。
【0031】
ロッド15は、中空を備える一重管よりなり、起振装置14にて頭部を支持された状態で立設され、中間部に設置されたスイベル151を介してベントナイト液W1を調整し供給する調整液供給装置17に接続されるとともに、先端部に掘削撹拌部16が接続されている。
【0032】
掘削撹拌部16は、ロッド15に接続される軸部161と、軸部161の先端部近傍であって側方に延びるように取り付けられた掘削翼本体162と、掘削翼本体162に取り付けられた掘削ビット163とを備える。また、軸部161の先端には、先端ビット164が取り付けられるとともに、吐出口(図示せず)が設けられている。
【0033】
ベントナイト液W1を調整し供給する調整液供給装置17は、前述したベントナイト液W1を製造するプラント171と、製造されたベントナイト液W1をロッドに供給するためのベントナイト泥水供給管172とを備える。本実施の形態では、地中孔Hを満たす掘削泥水W2が比重1.5程度となるよう、ベントナイト液W1の比重を地盤の性状等を考慮しつつ調整管理している。
【0034】
上記の構成により削孔撹拌装置10の掘削撹拌部16は、余掘りした口元管P内に貫入させた状態で作動させると、起振装置14により上下方向の振動を付与されつつ回転装置18によりロッド15の軸を中心に正回転する。これと同時に、掘削撹拌部16の軸部161先端に設けられた吐出口より、ベントナイトの調整液供給装置17から供給されロッド15の中空部を流下したベントナイト液W1が吐出される。
【0035】
なお、本実施の形態では、支持杭1の構築予定位置にあらかじめ、孔壁保護のため地表面から口元管Pを貫入し、口元管P内をあらかじめ余掘りをしておく。こののち、削孔撹拌装置10にて支持杭1の構築予定位置を削孔しているが、口元管Pは必ずしも適用する必要はない。例えば、作業地盤が強固であれば、素掘りおよび敷き鉄板等による整備のみでもよい。また、地中孔Hを構築するべく削孔作業を開始する際には、ベントナイト液W1を利用して削孔により発生した余剰な掘削土を排泥するための排泥管Sを、地中孔Hの孔口近傍に設置しておく。
【0036】
これにより、掘削撹拌部16に備えた掘削ビット163および先端ビット164にて地盤が回転掘削されて、図3で示すように、地中孔Hが構築されるとともに、地中孔H内で掘削土とベントナイト液W1が混合撹拌され、地中孔H内は掘削土が混じった掘削泥水W2で満たされる。
【0037】
なお、上記の削孔撹拌装置10を用いた削孔作業は、余剰な掘削泥水W2を排泥管Sを介して排泥しつつ行う。この時点では、礫を多く含む礫質土層Gを掘削したことにより発生した礫混じりの掘削土砂Eの多くが、地中孔Hの孔底に沈降している。
【0038】
≪第2の工程≫
次に、図4で示すように、掘削泥水W2で満たされた地中孔H内で、前述したセメント量を含むごく少量のセメントミルクMを注入して、セメントミルクMと掘削泥水W2とを攪拌混合する。併せて、孔底に沈降している礫混じりの掘削土砂Eも攪拌混合し巻き上げる。
【0039】
ここで、混合攪拌作業は、ベントナイト液W1の供給を停止した状態の削孔撹拌装置10を用いて行えばよく、回転装置18にてロッド15の軸を中心に正回転させることにより、掘削撹拌部16を回転させつつ、これらをリーダー13に沿って上下方向に移動させる。
【0040】
もしくは、削孔撹拌装置10にエアコンプレッサ(図示せず)を接続し、ロッド15を介して掘削撹拌部16に設けた吐出口(図示せず)から圧縮空気を噴射させ、圧縮空気によるエア噴射攪拌を行ってもよい。すると、地中孔Hは、掘削泥水W2に含まれるベントナイトがセメントミルクMに含まれるセメントのカルシウムイオンと結合し、掘削泥水W2がゲル化したゲル化泥水W3で満たされる。
【0041】
ゲル化泥水W3は、通常時は静止状態にあるが、何らかの外力が作用すると流動性が生じる性質を有する。また、礫混じり掘削土砂Eの多くの沈降を抑制することができる性質を有する。したがって、図5で示すように、攪拌混合時に巻き上げられた礫混じり掘削土砂Eの多くは沈降がゲル化泥水W3中により抑制された状態となる。
【0042】
≪第3の工程≫
地中孔Hがゲル状泥水W3で満たされたのち、図6で示すように、地中孔Hを満たすゲル状泥水W3の一部を、セメント系固化液Cに置換し、これらを攪拌混合して地盤改良液W4を作液する。
【0043】
セメント系固化液Cは、削孔撹拌装置10に接続されていたベントナイトの調整液供給装置17に代えて、固化液供給装置19を接続し、削孔撹拌装置10を利用して地中孔Hに注入する。なお、固化液供給装置19は、セメント系固化液Cを製造するプラント191と、製造されたセメント系固化液Cをスイベル151を介してロッド15に供給するための固化液供給管192とを備える。
【0044】
削孔撹拌装置10による攪拌作業は、回転装置18によりロッド15を軸周りに正回転しつつ、掘削撹拌部16の軸部161先端に設けられた吐出口(図示せず)より、固化液供給装置19から供給されたセメント系固化液Cを吐出する。なお、地中孔Hにセメント系固化液Cを吐出した際に余剰となったゲル化泥水W3は、排泥管Sを介して排泥する。
【0045】
これにより、掘削撹拌部16にて、地中孔H内でゲル化泥水W3とセメント系固化液Cが混合撹拌され、図7で示すように、地中孔H内は地盤改良液W4で満たされる。このとき、地盤改良液4は、ゲル状泥水W3と比較してやや劣るものの、礫混じり掘削土砂Eの沈降を抑制可能な程度のゲル化状態が維持されている。
【0046】
したがって、地盤改良液W4で満たされた地中孔Hでは、礫混じり掘削土砂Eの多くが、沈降を地盤改良液W4により抑制されている。また、沈降した礫混じり掘削土砂Eが存在した場合にも、その量は、地盤改良液W4をゲル化状態とする場合と比較すると大幅に低減されている。
【0047】
≪第4の工程≫
このような孔底に堆積する礫混じり掘削土砂Eが大幅に低減された状態で、地中孔Hへの芯材2の建込み作業を行う。なお、本実施の形態では、作業スペースとして空頭に制限がある場合を事例とし、芯材2の建込み作業に門型リフター20を用いるが、これに限定されるものではない。空頭制限がない現場等では、クレーン等により建込み作業を行ってもよい。
【0048】
<門型リフター>
図8で示すように、門型リフター20は、間隔を有して並列配置される一対の脚部21と、脚部21の上端部どうしを連結する梁部22とを備えている。脚部21には、その下端にホイール等の走行手段23が備えられているとともに、例えば油圧ジャッキ等の伸縮装置24を備えており、高さ方向に伸縮自在な構成となっている。
【0049】
また、梁部22には、芯材2を支持するワイヤー25がフック26に備えられている。このフック26は、梁部22の長さ方向(水平方向)に移動自在に設置されている。
【0050】
したがって、門型リフター20を梁部22の軸線が地中孔Hの直径方向と鉛直面内で平行となるように据え付け、フック26を梁部22に適宜移動させることにより、フック26に吊持された状態の芯材2は、その軸心を地中孔Hの軸心と合致させることが可能となる。
【0051】
上記の門型リフター20を用いて芯材2を建て込む際には、芯材2を自重により地盤改良液W4中に沈降させるよう、門型リフター20の伸縮装置24を操作する。こうして芯材2を、地盤改良液W4で満たされた地中孔H内に挿入すると、芯材2から作用された押圧力により地盤改良液W4が、礫混じり掘削土砂Eを伴って孔壁に向かって流動したのち、孔壁に沿って上昇する。
【0052】
そして、図9で示すように、孔底近傍では芯材2の先端から作用された押圧力により、地盤改良液4が礫混じり掘削土砂Eを伴って、孔底から孔壁に沿って上昇するようにして流動する。これにより、芯材2に振動や押込み力を作用させることなく、その先端を所定の深度までスムーズに自沈させることができ、芯材2の高止まりを防止することができる。
【0053】
芯材2が所定の高さ位置に建て込まれたことを確認したのち、地盤改良液4を所定期間にわたって養生することにより、地盤改良液4が硬化して地盤改良体3となり、図1で示すような支持杭1が構築されることとなる。
【0054】
このように、地盤中に礫を多く含む礫質土層Gが存在し、掘削土砂に粒径の大きい礫が含まれる場合にも、地中孔H内で芯材2の高止まりを防止でき、施工性を大幅に向上できるとともに、効率よく支持杭1を構築することが可能となる。
【0055】
≪地中構造物のB型粘度試験及び一軸圧縮強度試験≫
上述する地中構造物の構築方法について施工性を確認するために実施した、地盤改良液4の粘度測定結果と地盤改良液4が硬化した地盤改良体3の圧縮強度試験結果を、以下に説明する。
【0056】
試験対象は、断面径が750mm、設計体長が約17m、地盤改良体3の設計強度が1000kN/m2の支持杭1とした。試験対象の支持杭1を製造するにあたっては、まず、ベントナイト液W1を供給しつつ地盤を削孔した。ベントナイト液W1は、削孔後の地中孔Hに貯留する掘削泥水W2が比重約1.5程度(孔内平均)となるよう、その比重を1.04程度に調整した。
【0057】
次に、掘削泥水W2が貯留する地中孔H内に、W/Cを300%に調整したセメントミルクMを掘削泥水1m3当たり40kg注入しつつ攪拌混合を行って、ゲル化泥水W3を作成した。なお、セメントミルクMの作成にあたり、セメントとして高炉セメントB種を採用した。また、掘削泥水W2に含まれるベントナイト量とセメントミルクMに含まれるセメント量の比は、重量比でおおよお3:1程度に設定している。
【0058】
地中孔Hで作成したゲル化泥水W3から試料A-1を採取して、B型粘度計を用いた粘度測定を採取直後、採取1日後、採取3日後のそれぞれで行うとともに、試料A-1に少量の礫を投下し、礫が沈降する様子を観察した。なお、B型粘度計は、試料中でロータを一定速度で回転させた際の粘性トルクに基づいて降伏値(Pa.s:試料が流動し始める応力の限界値)を算定できる計測器である。
【0059】
その一方で、地中孔Hに貯留するゲル化泥水W3の一部をセメント系固化液Cに置換し混合攪拌を行って、地盤改良液W4を作成した。セメント系固化液Cには、高炉セメントB種を主材とするものを採用した。なお、本実施の形態では、遅延材を添加しているが必ずしも添加しなくてもよく、また必要に応じて他の混和材を添加してもよい。
【0060】
作成した地盤改良液W4から試料A-2を採取して、ゲル化泥水W3から採取した試料A-1と同様に、採取直後、採取1日後、採取3日後にそれぞれB型粘度試験を行うとともに、試料に少量の礫を投下し沈降する様子を観察した。また、試料A-2については、材令28日の時点で一軸圧縮強度試験を実施した。
【0061】
図10を見ると、ゲル化泥水W3から採取した試料A-1では、作成直後のB型粘度降伏値が54.4Pa・sと高く、7.4mm以上の礫が沈降し、これより粒径の小さい礫は沈降が抑制されている。そして、日にちを追うごとに降伏値が低下しているものの、作成3日後では、降伏値が21.2Pa・sで2.9mm以上の礫が沈降し、これより粒径の小さい礫は沈降していない様子がわかる。
【0062】
一方、地盤改良液W4から採取した試料A-2を見ると、作成直後では、B型粘度降伏値が24.2Pa・sと、ゲル化泥水W3から採取した試料A-1の作成3日後と同程度の降伏値を維持している。
【0063】
また、地盤改良液W4から採取した試料A-2は、作成3日後で降伏値が16.5Pa・sとやや低下したものの、2.2mm以上の礫が沈降し、これより粒径の小さい礫は沈降していない様子がわかる。また、圧縮強度も1864kN/m2と設計強度を上回る強度を発現している様子がわかる。
【0064】
これにより、掘削泥水W2をゲル化させたゲル化泥水W3を作成したのち、このゲル化泥水W3とセメント系固化液Cとを攪拌混合して地盤改良液W4を作成する。すると、少なくとも作成3日後程度までは、地中孔H内に礫混じり掘削土砂Eが存在する場合にも、2mm程度の礫の沈降を地盤改良液W4中で抑制できる様子がわかる。
【0065】
なお、本発明の地中構造物の構築方法は、上記の実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、種々の変更が可能であることはいうまでもない。
【0066】
例えば、本実施の形態では、地盤改良体3を用いた地中構造物として支持杭1を事例に挙げたが、支持杭1に限定されるものではなく、地盤改良体3を用いた地中構造物であればいずれを採用してもよい。
【0067】
また、本実施の形態では、削孔撹拌装置10を用いて地中孔Hを構築したが、必ずしもこれに限定されるものではなく、ベントナイト液W1を供給しつつ地盤を削孔し、掘削土が混じった掘削泥水W2で満たされた地中孔Hを構築可能であれば、いずれの掘削装置を採用してもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 支持杭(地中構造物)
2 芯材
3 地盤改良体
10 削孔撹拌装置
11 移動機構
12 台座部
13 リーダー
14 起振装置
15 ロッド
151 スイベル
16 掘削撹拌部
161 軸部
162 掘削翼本体
163 掘削ビット
164 先端ビット
17 調整液供給装置
18 回転装置
20 門型リフター
21 脚部
22 梁部
23 走行手段
24 伸縮装置
25 ワイヤー
26 フック

S 排泥管
P 孔壁保護管
W1 ベントナイト液
W2 掘削泥土
W3 ゲル状泥土
W4 地盤改良液
G 礫質土層
M セメントミルク
E 礫混じり掘削土砂
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10