(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】診断装置、診断方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
H02S 50/00 20140101AFI20240214BHJP
【FI】
H02S50/00
(21)【出願番号】P 2020043381
(22)【出願日】2020-03-12
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000002945
【氏名又は名称】オムロン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002860
【氏名又は名称】弁理士法人秀和特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石見 太郎
(72)【発明者】
【氏名】大谷 賢
(72)【発明者】
【氏名】吉田 陽子
【審査官】桂城 厚
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-186409(JP,A)
【文献】特開2016-039684(JP,A)
【文献】特開2014-038961(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0039270(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第108923748(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02S 50/00-50/15
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の太陽光発電モジュールから構成される太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断する診断装置であって、
前記太陽電池について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方
である第1特性値および他方
である第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する前記第2特性値の変化の傾きを算出することと、
前記第1特性値のうちの所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される
、前記所定の第1特性値が計測されたサンプル点である計測点から一定の前記第1特性値をオフセットしたサンプル点である判定点に対応する推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記
判定点に対応して計測された
前記第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を実行する制御部を備えることを特徴とする診断装置。
【請求項2】
前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の、前記推定第2特性値が前記
判定点に対応して計測された
前記第2特性値より小さいと判定されたサンプル点数を計数するとともに、
計数された前記サンプル点数の総サンプル数に占める割合が判定基準値以下のときには前記太陽電池の発電状態が正常状態と診断する、請求項1に記載の診断装置。
【請求項3】
前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の、前記推定第2特性値が前記
判定点に対応して計測された
前記第2特性値より小さいと判定されたサンプル点数を計数するとともに、
計数された前記サンプル点数の総サンプル数に占める割合が判定基準値をこえるときには前記太陽電池の発電状態が非正常状態と診断する、請求項1または2に記載の診断装置。
【請求項4】
前記制御部は、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点の中の、第1サンプル点で計測された
前記第
2特性値と、前記第1サンプル点の第1特性値より低位側に隣接するサンプル点で計測された低位側第2特性値との差分が第1閾値未満であり、かつ、前記第2特性値と、前記第1サンプル点の高位側に隣接するサンプル点で計測された高位側第2特性値との差分が第2閾値未満であるときに、前記第1サンプル点を間引きする、請求項1から3の何れか一項に記載の診断装置。
【請求項5】
前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点の中の、
前記所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される
前記推定第2特性値が、前記電流電圧特性において前記
判定点に対応して計測された
前記第2特性値より小さいと判定された連続するサンプル点群をグループ化するとともに、
グループ化された前記サンプル点群において低位側のサンプル点で計測された低位第2特性値と高位側のサンプル点で計測された高位第2特性値との差分である差分第2特性値の、前記第1特性値が0値における基準第2特性値に対する割合に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断する、請求項1から4の何れか一項に記載の診断装置。
【請求項6】
複数の太陽光発電モジュールから構成される太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断する診断方法であって、
前記太陽電池について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方
である第1特性値および他方
である第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する
前記第2特性値の変化の傾きを算出することと、
前記第1特性値のうちの所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される
、前記所定の第1特性値が計測されたサンプル点である計測点から一定の前記第1特性値をオフセットしたサンプル点である判定点に対応する推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記
判定点に対応して計測された
前記第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を含むことを特徴とする診断方法。
【請求項7】
複数の太陽光発電モジュールから構成される太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断するコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記太陽電池について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方
である第1特性値および他方
である第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する
前記第2特性値の変化の傾きを算出することと、
前記第1特性値のうちの所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される
、前記所定の第1特性値が計測されたサンプル点である計測点から一定の前記第1特性値をオフセットしたサンプル点である判定点に対応する推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記
判定点に対応して計測された
前記第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を実行させることを特徴とするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽電池を用いた太陽光発電システムの施工状態を診断可能な診断装置、診断方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
太陽光をエネルギー源として直接的に発電する太陽電池を用いた太陽光発電システムでは、太陽電池の電流電圧特性(「I-V特性」ともいう)、または、電圧発電力(P-V特性ともいう)を測定し、当該測定結果に基づいて、架台や屋上等に設けられた当該太陽電池の動作状態を把握することが知られている。例えば、特許文献1では、太陽電池の異常を判定するための基準となる電流電圧特性を簡易に取得し、太陽電池の異常を判定する、とされる技術が開示されている。太陽電池のI-V特性やP-V特性の測定は、一般的にIVカーブトレーサを用いて計測される。
【0003】
ここで、太陽光発電システムにおいては、セルと称する発電単位を複数に直並列させてモジュール化した太陽電池モジュールを構成単位として施工が行われる。太陽光発電システムの施工においては、複数の太陽電池モジュールを直列に接続させた構成のストリング、当該ストリングをさらに並列に接続させた構成の太陽電池アレイ(または、単に「アレイ」)が採用される。そして、発電電力の規模に応じて、複数の太陽電池アレイが架台や屋上等に設けられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述したように、太陽光発電システムは複数の太陽電池モジュールを含んで構成される。このため、太陽電池モジュール間を接続する配線数は、発電電力の規模大きさに比例して増大することになる。太陽光発電システムの施工現場においては、カーブトレーサで計測されたI-V特性やP-V特性のグラフ形状を見て太陽電池モジュール間の配線状態の正常/非正常を判断している。しかしながら、上記グラフ形状から、陽電池モジュール間の配線状態の正常/非正常を判断するためには、作業者の知識や経験に依存しており、判断品質にばらつきがある。太陽電池モジュール間の接続配線に施工不良(配線忘れ、接続ミス等)が生じた場合には、発電電力量の低下を招くことになり、設計時に意図した発電量が得られない。また、複数の太陽電池アレイを有する場合には、アレイ間の電圧バランスが崩れるため、各アレイを構成する太陽電池モジュールの故障を引き起こす虞がある。
【0006】
ところで、特許文献1に開示の技術では、太陽電池モジュールの定格から異常判断の基準になる基準IVカーブ特性を求め、当該基準IVカーブの面積と、計測された実測IVカーブの面積との差分から、正常と非正常との切り分けを行っている。このため、各面積の算出や、基準IVカーブの算出が行われるため、算出に係る処理コストが大きい。また、面積による比較のため、面積差が小さい場合には、日照の変化といった環境変化に起因するものなのか、施工ミスによるものなのかが判別できない。
【0007】
本発明は、上記のような問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良を簡易に判別可能にし、太陽光発電システムにおける施工品質を向上させる技術を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するための本発明に係る診断装置は、複数の太陽光発電モジュールから構成される太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断する診断装置であって、
前記太陽電池について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方の第1特性値および他方の第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する前記第2特性値の変化の傾きを算出することと、
所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を実行する制御部を備えることを特徴とする。
【0009】
ここで、「第1特性値」が電圧値の場合には「第2特性値」は電流値であり、「第1特性値」が電流値の場合には「第2特性値」は電圧値である。これにより、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)に到達するまで、第1特性値が電圧値の場合には、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化傾向を示すIVカーブ曲線の形状において、電流値の減少傾向が変化する肩部分g2aとg2bとの間の段差領域g2cの有無を判定することができる。太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が生じた場合には、発電に係るモジュール数が正常状態と異なるため、当該モジュール数の異なりがIVカーブ曲線上に段差領域として生じることになる。本発明によれば、段差領域の有無に基づいて、施工後の太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線状態が診断可能になる。また、各計測点における接線の傾きDpに基づいてIVカーブにおける段差領域が判定できるため、実測されたIVカーブの面積および実測IVカーブに基準IVカーブの面積を求めなくともよい。本発明においては、診断に係る演算の処理コストを低減できる。本発明によれば、IVカーブデータの形状に基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が判別可能になり、太陽光発電システムにおける施工品質が向上できる。
【0010】
また、本発明において、前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の、前記推定第2特性値が前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値より小さいと判定されたサンプル点数を計数するとともに、前記計数されたサンプル点数の総サンプル数に占める割合が判定基準値以下のときには前記太陽電池の発電状態が正常状態と診断するようにしてもよい。これにより、IVカーブデータ計測時に重畳されたノイズ等の影響が低減できる。本発明によれば、太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態の正常/非正常の判定確度を高めることができる。
【0011】
また、本発明において、前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の、前記推定第2特性値が前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値より小さいと判定されたサンプル点数を計数するとともに、前記計数されたサンプル点数の総サンプル数に占める割合が判定基準値をこえるときには前記太陽電池の発電状態が非正常状態と診断するようにしてもよい。これにより、IVカーブデータ計測時に重畳されたノイズ等の影響が低減できる。本発明によれば、太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態の正常/非正常の判定確度を高めることができる。
【0012】
また、本発明において、前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点の中の、第1サンプル点で計測された第2特性値と、前記第1サンプル点の第1特性値より低
位側に隣接するサンプル点で計測された低位側第2特性値との差分が第1閾値未満であり、かつ、前記第2特性値と、前記第1サンプル点の高位側に隣接するサンプル点で計測された高位側第2特性値との差分が第2閾値未満であるときに、前記第1サンプル点を間引きするようにしてもよい。ここで、「低位側」とは、第1特性値が電圧値のときには低電圧側を表し、第1特性値が電流値のときには低電流側をあらわす。「高位側」についても同様である。
【0013】
これにより、間引き処理が施された各計測点を処理対象として、太陽光発電システム1を構成する太陽電池30の、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常が診断できる。本発明によれば、段差判定に係る実測データについての、電流の計測誤差やノイズの影響による段差誤差検出を低減することが可能になり、太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態の正常/非正常の判定制度を高めることができる。
【0014】
また、本発明において、前記制御部は、前記電流電圧特性が計測されたサンプル点の中の、所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される推定第2特性値が、前記電流電圧特性において前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値より小さいと判定された連続するサンプル点群をグループ化するとともに、
前記グループ化されたサンプル点群において低位側のサンプル点で計測された低位第2特性値と高位側のサンプル点で計測された高位第2特性値との差分である差分第2特性値の、前記第1特性値が0値における基準第2特性値に対する割合に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断するようにしてもよい。ここで、「低位側」とは、第1特性値が電圧値のときには低電圧側を表し、第1特性値が電流値のときには低電流側をあらわす。「高位側」についても同様である。また、「前記第1特性値が0値における基準第2特性値」とは、第1特性値が電圧値のときには「短絡電流値」を表し、第1特性値が電流値のときには「開放電圧値」を表す。
【0015】
これにより、グループ化された計測点群の電流変化幅を、段差判定を行うための評価対象にできるため、段差のサイズの影響による誤差検出を低減することが可能になる。本発明によれば、段差判定に関する判定精度をさらに高めることが可能になり、太陽光発電システム1を構成する太陽電池30の、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常の診断精度を高めることが可能になる。
【0016】
また、本発明は、複数の太陽光発電モジュールから構成される太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断する診断方法であって、
前記太陽電池について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方の第1特性値および他方の第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する第2特性値の変化の傾きを算出することと、
所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を含むことを特徴とする。
【0017】
本発明によれば、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)に到達するまで、第1特性値が電圧値の場合には、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化傾向を示すIVカーブ曲線の形状において、電流値の減少傾向が変化する肩部分g2aとg2bとの間の段差領域g2cの有無を判定することができる。太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が生じた場合には、発電に係るモジュール数が正常状態と異なるため、
当該モジュール数の異なりがIVカーブ曲線上に段差領域として生じることになる。これにより、段差領域の有無に基づいて、施工後の太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線状態が診断可能になる。また、各計測点における接線の傾きDpに基づいてIVカーブにおける段差領域が判定できるため、実測されたIVカーブの面積および実測IVカーブに基準IVカーブの面積を求めなくともよい。本発明においては、診断に係る演算の処理コストを低減できる。本発明によれば、IVカーブデータの形状に基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が判別可能になり、太陽光発電システムにおける施工品質が向上できる。
【0018】
さらに、本発明は、複数の太陽光発電モジュールから構成される太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断するコンピュータに実行させるプログラムであって、
前記太陽電池について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方の第1特性値および他方の第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する第2特性値の変化の傾きを算出することと、
所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を実行させることを特徴とする。
【0019】
本発明に係るプログラムによれば、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)に到達するまで、第1特性値が電圧値の場合には、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化傾向を示すIVカーブ曲線の形状において、電流値の減少傾向が変化する肩部分g2aとg2bとの間の段差領域g2cの有無を判定することができる。太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が生じた場合には、発電に係るモジュール数が正常状態と異なるため、当該モジュール数の異なりがIVカーブ曲線上に段差領域として生じることになる。これにより、段差領域の有無に基づいて、施工後の太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線状態が診断可能になる。また、各計測点における接線の傾きDpに基づいてIVカーブにおける段差領域が判定できるため、実測されたIVカーブの面積および実測IVカーブに基準IVカーブの面積を求めなくともよい。本発明においては、診断に係る演算の処理コストを低減できる。本発明に係るプログラムによれば、IVカーブデータの形状に基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が判別可能になり、太陽光発電システムにおける施工品質が向上できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良を判別可能にし、太陽光発電システムにおける施工品質が向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図1】本発明の実施例1に係る太陽光発電システムの概略構成を示すブロック図である。
【
図2】本発明の実施例1における太陽電池モジュールの数量と、I-Vカーブとの関係を説明する図である。
【
図3】本発明の実施例1における太陽電池モジュールの数量と、I-Vカーブとの関係を説明する図である。
【
図4】本発明の実施例1における非正常状態におけるI-Vカーブの変化傾向を説明する図である。
【
図5】本発明の実施例1における段差領域を有するI-Vカーブの特徴を説明する図である。
【
図6】本発明の実施例1における診断装置のハードウェア構成の一例を示す図である。
【
図7】本発明の実施例1における診断装置のより詳細な機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図8】本発明の実施例1における各種データの一例を示す図である。
【
図9】本発明の実施例1における接線の傾きを求める処理を説明する図である。
【
図10】本発明の実施例1における計測点に対する接線の内外判定を説明する図である。
【
図11】本発明の実施例1における診断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図12】本発明の実施例2に係る診断装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図13】本発明の実施例2における間引き用設定値の一例を示す図である。
【
図14】本発明の実施例2における間引き処理を説明する図である。
【
図15】本発明の実施例2における診断処理の一例を示すフローチャートである。
【
図16】本発明の実施例3に係る診断装置の機能構成の一例を示すブロック図である。
【
図17】本発明の実施例3におけるグルーピング処理を説明する図である。
【
図18】本発明の実施例3における診断処理の一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
〔適用例〕
以下、本発明の適用例について、図面を参照しつつ説明する。
図1は、本発明の適用例に係る診断装置20と連携可能な太陽光発電システム1の機略構成を示すブロック図である。
図1には、太陽光発電システム1を構成するパワーコンディショナ(PCS)10と接続される、太陽電池30と、商用電力系統(単に系統ともいう)40と、負荷50とが例示されている。本発明の適用例に係る診断装置20は、パワーコンディショナ(PCS)10と所定の通信回線を介して接続される。
【0023】
図1に示すように、太陽電池30は、発電単位であるセル33aを複数に直並列させてモジュール化した太陽電池モジュール33を構成単位として施工される。例えば、ストリング32は、1以上の太陽電池モジュール33がバイパスダイオードを介して直列に組合せられて接続された構成であり、太陽電池アレイ31は、ストリング32を並列に組み合わせて接続させた構成である。太陽電池30を構成する各アレイの出力電流は、それぞれブロッキングダイオード15を通じてPCS10に入力される。PCS10は、太陽電池30で発電された直流電力を交流電力に変換するためのユニットである電力変換部10aと、太陽電池30のI-V特性を測定するためのI-Vカーブ計測処理が行われる制御部10bとを備える。なお、PCS10においては、各ブロッキングダイオードを通じて入力された電流の総和を検出するための電流センサ11、電力変換部10aの入力端子間の電圧を検出するための電圧センサ12が設けられている。I-Vカーブ計測処理においては、制御部10bは、電力変換部10aを制御し、動作点電圧(電力変換部10aの入力電圧(DCV))を変化させながら、当該入力電圧(DCV)に対応する入力電流(DCI)を測定する。測定の結果、所定のステップ単位で変化させた入力電圧値および当該入力電圧値に応じて測定された入力電流値の複数の組合せが取得される。制御部10bは、取得された測定結果を太陽電池30のI-V特性を示すデータとして診断装置20に送信する。
【0024】
図2から
図5に示すように、太陽電池30の状態が正常なときには、一般的にI-Vカーブは、短絡電流(Isc)を開始点として、電圧増加に伴って電流値が緩やかに減少し
、太陽電池30の発電出力が最大電力となる最大電力点の最大電力点電流(Impp)および最大電力点電圧(Vmpp)に推移変化する。そして、最大電力点を経過すると、I-Vカーブは、電圧増加に伴って電流値が相対的に急峻に下降変化し、開放電圧(Voc)に到達するように推移する。これに対し、太陽電池30のアレイ31aを構成するモジュール33の数量が正常状態と異なる場合(非正常状態)には、電圧増加に伴うI-Vカーブの緩やかな形状が崩れ、正常状態と異なるモジュール数の発電電力の低下に起因する形状変化が、I-Vカーブ上の新たな肩部分となって生じることになる。
【0025】
本適用例に係る診断装置20は、太陽電池30の施工後にPCS10を介して測定された、当該太陽電池のI-V特性を示すデータに基づいて、段差領域g2cの有無を判定する。具体的には、
図5に示すように、計測点毎に接線を求め、当該接線の傾き方向の延長点が短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)へ推移するI-Vカーブと交差するかを判定する。そして、本診断装置20は、施工後の太陽電池30から計測されたI-Vカーブについて段差領域g2cが存在する場合には、太陽電池モジュール間を接続する配線の施工状態は非正常状態と診断する。この結果、IVカーブデータの形状に基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が判別可能になり、太陽光発電システムにおける施工品質が向上できる。なお、太陽電池30のI-V特性を示すデータとして取得された電圧値の推移を用いても、電流値の推移と同様にして評価できることは言うまでもない。
【0026】
〔実施例1〕
以下では、本発明の実施例に係る診断装置について、図面を用いて、より詳細に説明する。
【0027】
<システム構成>
図1は、本発明の実施例に係る太陽光発電システムの機略構成を示すブロック図である。本実施例における診断装置20は、太陽光発電システム1を構成するパワーコンディショナ(PCS)10と所定の通信回線を介して接続可能な情報処理装置である。本実施例に係る太陽光発電システム1においては、パワーコンディショナ(以下、「PCS」とも称す)10は、太陽電池30と、商用電力系統(単に系統ともいう)40と、負荷50とに接続される装置である。太陽電池30は、発電単位であるセル33aを複数に直並列させてモジュール化した太陽電池モジュール(以下、単に「モジュール」ともいう)33を構成単位として施工される。太陽光発電システム1においては、複数のモジュール33が組み合わされて使用される。
図1に示すように、ストリング32は、1以上の太陽電池モジュール33がバイパスダイオードを介して直列に組合せられて接続された構成であり、太陽電池アレイ31a、31b、31c、31dは、それぞれ、ストリング32を並列に組み合わせて接続させた構成である。
図1の太陽電池30は、3個のモジュール33を直列に接続させたストリング32を、さらに3列に並列させて接続させた太陽電池アレイ(以下、単に「アレイ」ともいう)を4段に備えて構成される。以下においては、
図1に示す太陽電池30のモジュール構成を説明例として採用するが、本実施形態に係る診断装置20の診断対象は、
図1に示すモジュール構成に限定されない。例えば、太陽電池30を構成する一段のアレイが、9個の直列接続されたモジュール33であってもよい。太陽電池30を構成する各アレイの出力電流は、それぞれブロッキングダイオード15を通じてPCS10に入力される。
【0028】
PCS10は、電力変換部10aと、制御部10bとを備える。電力変換部10aは、太陽電池30で発電された直流電力を交流電力に変換するためのユニットであり、太陽電池30によって発電された直流電力を昇圧するDC/DCコンバータと、当該昇圧された電力を商用電力系統40と同期のとれた交流電力に変換するDC/ACコンバータを含み構成される。図示するように、電力変換部10aと各アレイのブロッキングダイオード1
5との間は、各ブロッキングダイオード15を通じて出力される直流電流の総和が電力変換部10aに入力するように接続されている。また、PCS10においては、各ブロッキングダイオードを通じて入力された電流の総和を検出するための電流センサ11、電力変換部10aの入力端子間の電圧を検出するための電圧センサ12が設けられている。なお、PCS10においては、電流センサ11、電圧センサ12以外のセンサも設けられている。
【0029】
制御部10bは、プロセッサ(CPU、MPU,DSP等)、ゲートドライバ、診断装置20と通信を行うための通信インタフェース回路等を含んで構成されるユニットである。制御部10bには、電流センサ11と電圧センサ12を含む各種のセンサの出力が入力される。制御部10bでは、各種センサを通じて検出された情報に基づいて、太陽電池30の発電出力が最大となる最大電力(電流×電圧の値)点あるいは最適動作点で電力変換部10aが動作するように最大電力点追従制御(Maximum power point tracking、MPPT)が行われる。また、本実施例では、制御部10bを通じて、太陽電池30のI-V特性を測定するためのI-Vカーブ計測処理が行われる。
【0030】
I-Vカーブ計測処理においては、制御部10bは、電力変換部10aを制御し、動作点電圧(電力変換部10aの入力電圧(DCV))を変化させながら、当該入力電圧(DCV)に対応する入力電流(DCI)を測定する。測定の結果、所定のステップ単位で変化させた入力電圧値および当該入力電圧値に応じて測定された入力電流値の複数の組合せが取得される。制御部10bは、取得された測定結果を太陽電池30のI-V特性を示すデータとして診断装置20に送信する。
【0031】
本実施例に係る診断装置20は、太陽光発電システム1の備える太陽電池30について、当該太陽電池を構成するモジュール間の接続配線状態の正常/非正常を診断する機能を有する情報処理装置である。本診断装置においては、制御部10bを通じて測定されたI-V特性を示すデータに基づいて、モジュール間を接続する配線の接続状態が正常状態であるか、非正常状態であるかが診断される。
【0032】
図2および
図3は、太陽電池モジュール33の数量と、I-Vカーブとの関係を説明する図である。
図2および
図3では、
図1に示す4段のアレイ31a、31b、31c、31dで構成された太陽電池30において、発電に係るモジュール数を異ならせて計測されたI-V特性データに基づく曲線グラフ(I-Vカーブ)が例示される。なお、以下では、直列に接続されたn個のモジュール33の構成形態を「n直」とも称し、同様にして並列に接続されたm個のモジュール33の構成形態を「m並」とも称する。例えば、
図1に示すアレイ31aのモジュール33の構成形態は「3直3並」として表される。
図2および
図3に例示のI-Vカーブにおいては、縦軸は正規化された電流値を表し、横軸は正規化された電圧値を表す。また、
図2および
図3において、I-Vカーブと縦軸の交点は、太陽電池30の短絡電流(Isc)を表し、I-Vカーブと横軸の交点は、開放電圧(Voc)を表す。
【0033】
図2において、(a)には、アレイ31aを構成するモジュール33の構成形態を3直3並から、1直3並に変えたときに計測されたI-Vカーブが例示される。同様にして、(b)には、アレイ31aのモジュール33の構成形態を3直3並から1直3並に変更した場合のI-Vカーブ、(c)には、アレイ31aのモジュール33の構成形態を3直3並から「3直2並+1直1並」に変更した場合のI-Vカーブが例示される。また、
図3(a)には、アレイ31aを構成するモジュール33の構成形態を3直3並から、2直3並に変えたときに計測されたI-Vカーブ、
図3(b)には、アレイ31aのモジュール33の構成形態を3直3並から「3直1並+2直1並+1直1並」に変えた場合のI-Vカーブが例示される。
図3(c)には、アレイ31aのモジュール33の構成形態を3直
3並から「3直1並+1直2並」に変えた場合のI-Vカーブが例示される。
【0034】
太陽光発電システム1において、太陽電池30の状態が正常なときには、一般的にI-Vカーブの形状は滑らかである。すなわち、I-Vカーブは、短絡電流(Isc)を開始点として、電圧増加に伴って電流値が緩やかに減少し、太陽電池30の発電出力が最大電力となる最大電力点の最大電力点電流(Impp)および最大電力点電圧(Vmpp)に推移変化する。そして、最大電力点を経過すると、I-Vカーブは、電圧増加に伴って電流値が相対的に急峻に下降変化し、開放電圧(Voc)に到達するように推移する。I-Vカーブ上において、電圧増加に伴って電流値の減少傾向が相対的に急峻に変化する部分を「肩部分」とも称し、正常状態のI-Vカーブは、一つの肩部分を有するということもできる。
【0035】
これに対し、
図2および
図3に示すように、太陽電池30のアレイ31aを構成するモジュール33の数量が正常状態と異なる場合(非正常状態)には、電圧増加に伴うI-Vカーブの緩やかな形状が崩れることになる。具体的には、正常状態と異なるモジュール数の発電電力の低下に起因する形状変化が、I-Vカーブ上の新たな肩部分となって生じることになる。例えば、正常状態のI-Vカーブでは、肩部分以降の電圧増加に伴う電流値の減少傾向が、緩やかな減少傾向から相対的に急峻な減少傾向に変化し、解放電圧(Voc)に到達する。一方、非正常状態のI-Vカーブでは、肩部分ごとに上記電圧増加に伴う電流値の減少傾向が、「緩やか」から「急峻」に変化する。
【0036】
図4は、非正常状態におけるI-Vカーブの変化傾向を説明する図である。
図4において、一点鎖線で示されるグラフg1は、正常状態におけるI-Vカーブの推移変化を表し、実線で示されるグラフg2は、非正常状態におけるI-Vカーブの推移変化を表す。また、縦軸は電流(A)を表し、横軸は電圧(V)を表す。なお、I-Vカーブと縦軸の交点は、太陽電池30の短絡電流(Isc)を表し、I-Vカーブと横軸の交点は、開放電圧(Voc)を表す。
【0037】
図4のグラフg1においては、電圧増加に伴って電流値の減少傾向が変化する領域である肩部分g1aが例示されている。そして、非正常状態のI-Vカーブ(グラフg2)においては、電圧増加に伴って電流値の減少傾向が変化する肩部分が、低電圧側領域(肩部分g2a)と高電圧側領域(肩部分g2b)の2か所に生じることになる。このように、非正常状態のI-Vカーブに生じる肩部分g2aとg2bとの間の推移領域g2cを、本実施形態においては「段差領域g2c」と称する。段差領域g2cにおいては、電圧増加に伴う電流値の減少傾向が、一旦、急峻に変化した後、再び緩やかな減少傾向に移行する。そして、当該減少傾向は、肩部分g2bを過ぎて再び急峻な減少傾向に変化し、解放電圧(Voc)に到達する。
【0038】
図2および
図3で説明したように、施工後の太陽電池30を構成するモジュール33の接続数が正常状態と異なる場合には、I-Vカーブの推移曲線に段差領域g2cが確実に生じることになる。したがって、太陽電池30の施工後に計測されたI-V特性を示すデータに基づいて、段差領域g2cの有無を判定することにより、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が判別可能になる。
【0039】
図5は、段差領域を有するI-Vカーブの特徴を説明する図である。
図5(a)に示すように、太陽電池30が正常状態の場合のI-Vカーブの形状は、最大電力点を変曲点として、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)へ推移する凸状曲線である。このため、I-V特性のデータ計測が行われた全区間において、計測点毎に求められる接線は、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)へ推移するI-Vカーブと交差することはない。一方、
図5(b)に示すように、段差領域g2cが存在する場合には、肩部分g2aと
g2bとの間の推移領域で計測点毎に求められる接線の一部が、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)へ推移するI-Vカーブと交差することになる。
【0040】
本実施形態に係る診断装置20は、太陽電池30の施工後にPCS10を介して測定された、当該太陽電池のI-V特性を示すデータに基づいて、段差領域g2cの有無を判定する。具体的には、
図5で説明したように、計測点毎に接線を求め、当該接線の傾き方向に存在する延長点が短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)へ推移するI-Vカーブと交差するかを判定する。そして、本診断装置20は、施工後の太陽電池30から計測されたI-Vカーブについて段差領域g2cが存在する場合には、太陽電池モジュール間を接続する配線の施工状態は非正常状態と診断する。
【0041】
<装置構成>
図6は、診断装置20のハードウェア構成の一例を示す図である。
図6に示すように、診断装置20は、接続バス26によって相互に接続されたプロセッサ21、主記憶装置22、補助記憶装置23、通信IF24、入出力IF25を構成要素に含むコンピュータである。主記憶装置22および補助記憶装置23は、診断装置20が読み取り可能な記録媒体である。上記の構成要素はそれぞれ複数に設けられてもよいし、一部の構成要素を設けないようにしてもよい。
【0042】
プロセッサ21は、診断装置20全体の制御を行う中央処理演算装置である。プロセッサ21は、例えば、CPU(Central Processing Unit)やMPU(Micro-Processing Unit)、DSP(Digital Signal Processor)等である。プロセッサ21は、例えば、補助記憶装置23に記憶されたプログラムを主記憶装置22の作業領域に実行可能に展開し、当該プログラムの実行を通じて周辺機器の制御を行うことで所定の目的に合致した機能を提供する。但し、プロセッサ21が提供する一部または全部の機能が、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)、GPU(Graphics Processing Unit)等によっ
て提供されてもよい。同様にして、一部または全部の機能が、FPGA(Field-Programmable Gate Array)、数値演算プロセッサ、ベクトルプロセッサ、画像処理プロセッサ等
の専用LSI(large scale integration)、その他のハードウェア回路で実現されても
よい。本実施形態では、診断装置20のプロセッサ21は、「制御部」の一例である。
【0043】
主記憶装置22は、プロセッサ21が実行するプログラム、当該プロセッサが処理するデータ等を記憶する。主記憶装置22は、フラッシュメモリ、RAM(Random Access Memory)やROM(Read Only Memory)を含む。補助記憶装置23は、プロセッサ21等により実行されるプログラムや、動作の設定情報などを記憶する記憶媒体である。補助記憶装置23は、例えば、HDD(Hard-disk Drive)やSSD(Solid State Drive)、EPROM(Erasable Programmable ROM)、フラッシュメモリ、USBメモリ、SD(Secure Digital)メモリカード等を含む。通信IF24は、診断装置20とPCS10といっ
た他の装置とを接続させるための通信インタフェースである。通信IF24は、他の機器との接続方式に応じて適宜の構成を採用できる。入出力IF25は、診断装置20に接続される入力デバイス、出力デバイスとの間でデータの入出力を行うインタフェースである。入出力IF25を通じて、診断結果が診断装置20のLCD等の表示デバイスや、診断装置20に接続されたプリンタ等の出力デバイスに出力される。なお、太陽電池30の、正常/非正常状態に関する診断結果は、通信IF24を通じて接続された他の装置(スマートフォン、データサーバ、PCS等)に通知されてもよい。
【0044】
<機能構成>
図7は、本実施例に係る診断装置20のより詳細な機能構成の一例を示すブロック図である。本実施例に係る診断装置20は、機能要素として、IVカーブデータ読み込み部110と、段差検出用設定値保持部120と、判定基準保持部130と、交差有無判定部1
40と、段差判定部150と、判定結果表示部160と、判定結果送信部170を備える。本診断装置20は、プロセッサ21が補助記憶装置23等に格納されたソフトウェアプログラムの実行を通じて上記機能要素を提供することで、I-Vカーブと各計測点における接線との交差を求め、段差領域g2cの有無の判定を行う。
【0045】
先ず、IVカーブデータ読み込み部110は、通信IF24を通じて接続されたPCS10から、所定の場所(架台や屋上等)に設けられた太陽電池30のI-V特性を示すデータ(IVカーブデータ)を取得する。取得されたIVカーブデータは、例えば、日時情報、PCS10を識別する識別番号等と関連付けされて、補助記憶装置23の所定の領域に格納される。
図8(a)は、PCS10によって取得された太陽電池30のIVカーブデータの一例を示す図である。
図8(a)においては、開放電圧(Voc)から短絡電流(Isc)に至る動作領域において、動作点電圧を変化させて取得されたテーブル形式のIVカーブデータが例示される。
図8(a)に示すように、IVカーブデータは、動作点電圧を変化させるサンプリング番号(j)と、当該番号に対応付けされた電圧値(電圧(V_j)[V])、電流値(電流(I_j[A])によって構成される。
【0046】
次に、交差有無判定部140においては、PCS10から取得したIVカーブデータの各計測点における接線の傾きが求められる。
図9は、交差有無判定部140において提供される接線の傾きを求める処理を説明する図である。本実施形態においては、接線の傾きは、サンプリング番号(j)で低電圧側に隣接する隣接点Aと、高電圧側に隣接する隣接点Cとの電流差(ΔIj)/電圧差(ΔVj)によって求められる。
【0047】
図9に示す計測点A、B、Cは、PCS10から取得されたIVカーブデータにおいて、サンプリング番号で隣接する計測点のデータである。本診断装置20においては、計測点Bの傾きは、以下の式(3)によって、高電圧側に隣接する計測点Cと、低電圧側に隣接する計測点Aの電圧値および電流値の差分によって算出される。
Db=(Ic-Ia)/(Vc-Va) ・・・式(3)
ここで、「Db」は、計測点Bにおける接線の傾きを表し、「Vx」は、計測点Xにおける電圧値を表し、「Ix」は計測点Xにおける電流値を表す。
【0048】
式(3)により、計測点Pにおける接線の傾きDpが求められると、交差有無判定部140においては、当該接線の内外判定が行われる。ここで、「内外判定」とは、計測点Pで求められた傾きDpの接線がI-Vカーブと交差し、当該カーブ曲線で区別される領域内に到達するか否かの判定をいう。「内外判定」においては、計測点Pで求められた傾きDpの接線が、I-Vカーブ曲線で区別される領域内に到達するか否かを判定するための設定基準(段差検出用設定値)が用いられる。このような設定基準は、段差検出用設定値保持部120によって保持される。
【0049】
図10は、本実施例における、計測点Pに対する接線の内外判定を説明する図である。
図5(b)で説明したように、太陽電池30から取得されたI-Vカーブにおいて、段差領域g2cが存在する場合には、少なくとも低電圧側に形成される肩部分g2aと、高電圧側に形成される肩部分g2bを有することになる。そして、肩部分g2aとg2bとの間の推移領域で計測点毎に求められる接線の一部が、短絡電流(Isc)から開放電圧(Voc)へ推移するI-Vカーブと交差することになる。このため、
図10(a)に示すように、低電圧側に形成される肩部分g2aに到達するまでの領域においては、各計測点の接線は、I-Vカーブと交差せず、当該カーブ曲線で区別される領域外となる。また、肩部分g2aとg2bとの間の推移領域では、
図10(b)に示すように、計測点毎に求められる接線の一部が、I-Vカーブと交差し、当該カーブ曲線で区別される領域内となる。
【0050】
図10(a)において、
図5(b)に示す肩部分g2aに到達するまでの領域における計測点Pでは、当該計測点Pで求められた接線Tが、破線で示されるようにIVカーブと交差することはない。一方、
図10(b)において、
図5(b)に示す肩部分g2aから肩部分g2bに到達するまでの領域における計測点Pでは、該計測点Pで求められた接線Tは、破線で示されるようにIVカーブと交差し、当該カーブ曲線で区別される領域内となる。本実施例における段差判定においては、各計測点で求められた接線TがIVカーブと交差するか否かを特定するため、計測点Pに対して一定の電圧値をオフセットさせた判定点PThreshにおける実測電流値と、計測点Pの接線Tによる判定点PThreshにおける電流値(接線電流値)との大きさを比較する。そして、実測電流値と接線電流値の比較結果を計測点毎の評価値Jpとして保持する。
【0051】
図10(a)に示すように、段差判定を行うための一定のオフセット電圧値は、計測点Pに対する電圧距離dとして与えられ、「段差検出用設定値」として段差検出用設定値保持部120に保持される。
図8(b)には、テーブル形式で保持される段差検出用設定値が例示される。
図8(b)に示すように、段差検出用設定値は計測点Pに対する電圧距離(d)として設定されたオフセット電圧値(図例では「30V」が単位とともに格納される。なお、段差検出用設定値は、太陽光発電システム1の発電量やモジュール数、アレイ数等に応じて任意に設定できる。
【0052】
図10に戻り、判定点PThreshにおける実測電流値を「IThresh」、実測電圧値を「VThresh」とすると、計測点Pで求められた接線Tによる、判定点PThreshにおける接線電流値(IT@Thresh)は、以下の式(1)で表される。
IT@Thresh=(Dp)×(VThresh)+((Ip)-(Dp)×(Vp))
・・・式(1)
ここで、「IT@Thresh」は計測点Pで接線Tの直線方程式に判定点PThreshの電圧値(実測電圧値:VThresh)を代入して求められる電流値を表し、「Dp」は、式(3)によって求められた計測点Pの接線傾きを表す。判定点PThreshは、計測点Pの電圧値(Vp)に段差検出用設定値(d)を加えた電圧値に最も近いサンプル点を表す。「Vx」および「Ix」は、計測点Xの電圧値および電流値を表す。
【0053】
式(1)により、計測点Pにおける接線の判定点PThreshにおける接線電流値(IT@Thresh)が求められると、交差有無判定部140においては、以下の式(2)を用いて内外判定(段差内外判定)が行われる。
段差内点:IThresh > IT@Thresh ・・・式(2)
式(2)による判定の結果は、計測点毎の評価値Jpに保持される。例えば、
図10(a)に示すように判定点PThreshにおける実測電流値「IThresh」より、計測点Pで求められた接線Tによる接線電流値(IT@Thresh)が大きいときには、段差外を示す値(例えば、「0」)が評価値Jpに保持される。一方、
図10(b)に示すように判定点PThreshにおける実測電流値「IThresh」より、計測点Pで求められた接線Tによる接線電流値(IT@Thresh)が小さいときには、段差内であることを示す値(例えば、「1」)が評価値Jpに保持される。交差有無判定部140は、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータの全てのデータに対して、式(1)から(3)に示す演算処理を行い、サンプリング番号で指定される計測点毎の評価値Jpを取得する。計測点毎の評価値Jpは、段差判定部150に引き渡される。
【0054】
段差判定部150においては、交差有無判定部140から引き渡された計測点毎の評価値Jpと、判定基準保持部130に保持された段差の有無を判定する判定基準値とに基づいて、取得されたIVカーブデータに段差領域g2cが存在するか否かが判断される。
【0055】
段差判定部150は、交差有無判定部140から引き渡された計測点毎の評価値Jpか
ら、段差の有無を判断するためのスコア値(J)を、以下の式(4)を用いて算出する。
J=(ΣXp)/L ・・・式(4)
ここで、Pは、1からNまでのサンプリング番号を表し、「Xp」はサンプリング番号で指定される各計測点の評価値Jpを表す。「N」はスコア算出用データのサンプル点数を表す。したがって、「L」=「N」である。段差判定部150は、計測点毎に処理された評価値Jpの総和をサンプル点数で除算し、判定に係るスコア値(J)を算出する。
【0056】
そして、段差判定部150は、式(4)を用いて求められたスコア値(J)と、判定基準保持部130に保持された判定基準値(Thr)との大小比較を行い、取得されたIVカーブデータに段差領域g2cが存在するか否かを判定する。スコア値(J)に対する判定は、以下の式(5)を用いて行われる。なお、判定基準保持部130に保持される判定基準値は、
図8(c)に例示される。
図8(c)に示すように、判定基準値(Thr)はスコア値に対する判定閾値(図例では、「0.2」)として格納される。また、スコア値を評価するための判定基準値は、太陽光発電システム1の発電量やモジュール数、アレイ数等に応じて任意に設定できる。
J≦Thr ・・・・式(5)
【0057】
段差判定部150は、スコア値(J)が判定基準値(Thr)以下のときには、太陽電池30から取得されたIVカーブデータには、段差領域g2cは存在しないと判断する。つまり、太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態は正常状態と判定される。一方、スコア値(J)が判定基準値(Thr)を超えるときには、太陽電池30から取得されたIVカーブデータには、段差領域g2cが存在していると判断される。すなわち、太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態は、接続ミス等が生じた非正常状態と判定される。
【0058】
図7に戻り、段差判定部150は、スコア値(J)と判定基準値(Thr)に基づいて処理された判定結果を判定結果表示部150および判定結果送信部160に引き渡す。判定結果表示部150は、例えば、診断装置20の備えるLCD等の表示デバイス上に、判定結果を表示させる。診断装置20の表示画面には、例えば、PCS10から取得されたデータに基づくIVカーブとともに、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常状態が表示される。また、判定結果送信部160は、診断装置20に接続されたPCS10や、他の装置(スマートフォン、サーバ等)に対して、判定結果を送信する。判定結果は、例えば、太陽光発電システム1を識別する識別情報(PCS10の識別番号)、日時情報とともに、取得されたIVカーブとともに送信される。診断装置20と接続される装置においては、当該太陽光発電システムについての、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常に係る診断結果が、PCS10から取得されたデータに基づくIVカーブとともに閲覧することが可能になる。
【0059】
<処理の流れ>
図11は、本実施例に係る診断装置20で提供される診断処理の一例を示すフローチャートである。
図10のフローにおいては、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータに基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常状態が診断される。診断装置20は、通信IF24を通じて接続されたPCS10から、実測されたI-V特性を示す電圧値および電流値(IVカーブデータ)を取得する(ステップS101)と、取得したIVカーブデータを補助記憶装置23の所定の領域に記憶し、処理はステップS102に進む。ステップS102においては、取得されたIVカーブデータの各計測点における接線の傾きDpが式(3)を用いて算出されると、処理がステップS103に進む。ステップS103においては、
図8、
図9、
図10を用いて説明したように、式(1)から式(3)を用いて各計測点の接線とIVカーブ曲線の交差の有無が判定される。ステップS103の処理後、処理はステップS104に進む。
【0060】
ステップS104では、式(4)を用いて段差判定用のスコア値(J)が算出されると、処理がステップS105に進む。ステップS105では、式(5)を用いて、取得されたIVカーブ曲線上に段差領域が存在するか否かが判定される。例えば、スコア値(J)が判定基準値(Thr)以下のときには、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータには、段差領域g2cは存在しないと判断する。つまり、診断対象の太陽光発電システム1の太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態は正常状態と判定される。一方、スコア値(J)が判定基準値(Thr)を超えるときには、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータには、段差領域g2cが存在すると判断される。すなわち、診断対象の太陽光発電システム1の太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態は、接続ミス等が生じた非正常状態と判定される。ステップS105の処理後、処理はステップS106に進む。ステップS106では、判定結果が診断装置20の備える表示デバイス等の表示部に表示され、また、通信部である通信IF24を通じて接続された他の装置(PCS10、スマートフォン、サーバ等)に送信される。例えば、診断装置20と接続される装置においては、当該太陽光発電システムについての、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常に係る診断結果が、PCS10から取得されたデータに基づくIVカーブとともに閲覧可能になる。ステップS106の処理が終了すると本ルーチンを一旦終了する。
【0061】
以上、説明したように、本実施例においては、IVカーブデータの形状に基づいて、太陽光発電システム1を構成する太陽電池30の、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常が診断できる。具体的には、実測された各計測点から当該計測点における接線Tの傾きDpが求められる。そして、計測点Pに対して一定の電圧値(段差検出用設定値)をオフセットさせた判定点PThreshにおける実測電流値と、当該判定点の実測電圧値に対する接線Tの傾きDpから求められた電流値(接線電流値)とを比較する。判定点PThreshにおける実測電流値「IThresh」より、計測点Pで求められた接線Tによる接線電流値(IT@Thresh)が大きいときには、IVカーブ曲線と交差しないことを示す値(例えば、「0」)を評価値Jpとして保持する。一方、判定点PThreshにおける実測電流値「IThresh」より、計測点Pで求められた接線Tによる接線電流値(IT@Thresh)が小さいときには、IVカーブ曲線と交差することを示す値(例えば、「1」)を評価値Jpとして保持する。そして、IVカーブデータが計測された全区間の計測点に対して保持された評価値Jpの総和に基づいて、段差領域の有無を判断する。
【0062】
本実施例においては、IVカーブデータが計測された全区間の計測点に対して保持された評価値Jpの総和が判定基準以下のときには段差領域は存在しないと判断し、太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態は正常状態と診断する。また、上記評価値Jpの総和が判定基準を超えるときには段差領域は存在していると判断し、太陽電池30を構成する太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態は非正常状態と診断する。この結果、本実施形態においては、IVカーブデータの形状に基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線の接続不良が判別可能になり、太陽光発電システムにおける施工品質が向上できる。
【0063】
また、本実施形態においては、各計測点における接線の傾きDpに基づいてIVカーブにおける段差領域が判定できるため、実測されたIVカーブの面積および実測IVカーブに基準IVカーブの面積を求めなくともよい。本実施形態によれば、診断に係る演算の処理コストを低減できる。さらに、本実施形態においては、IVカーブの計測点毎に算出された評価値(Jp)の総和に基づいてスコア値を算出するため、例えば、IVカーブデータ計測時に重畳されたノイズ等の影響が低減できる。本実施形態によれば、太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態の正常/非正常の判定確度を高めることができる。
【0064】
〔実施例2〕
図12は、実施例2に係る診断装置20の機能構成の一例を示すブロック図である。実施例2においては、診断装置20は、機能要素として、間引き用設定値保持部210と、データの間引き処理部220とをさらに備える。実施例2に係る診断装置20においては、間引き用設定値保持部210とデータの間引き処理部220の機能により、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータに対する間引き処理が行われる。本実施例においては、間引き処理を行うことにより、段差判定に係る実測データについての、電流の計測誤差やノイズの影響による段差誤差検出が低減される。本実施形態によれば、太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態の正常/非正常の判定制度を高めることができる。なお、
図12において、実施例1と同様の構成については同様の符号を用いて詳細な説明を省略するとともに、実施例1との相違点を主に説明する。
【0065】
図12において、データの間引き処理部220は、間引き用設定値保持部210に保持された間引き用設定値にしたがって、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータに対する間引き処理を実行し、間引き処理後のデータを交差有無判定部140に引き渡す。そして、本実施例の交差有無判定部140では、間引き用設定値にしたがって間引きされたIVカーブデータに基づいて、実施例1で説明した式(1)から式(3)に示す演算処理が行われ、計測点毎の評価値Jpが算出される。
【0066】
図13は、間引き用設定値保持部210に保持された間引き用設定値の一例を示す図である。間引き用設定値においては、電流の計測誤差やノイズの影響による変動幅を低減するために設定された電流幅(IThr)が単位とともに格納される。
図13においては、電
流幅(IThr)として「0.08A」が設定されている。なお、間引き用設定値は、太陽光発電システム1の発電量やモジュール数、アレイ数等の規模に応じて任意に設定可能である。
【0067】
図14は、IVカーブデータに対する間引き処理を説明する図である。
図14において、計測点p-1、p、p+1は、注目Index(サンプリング番号)をpとした場合に低電圧側および高電圧側に隣接する計測点である。計測点p-1、p、p+1のそれぞれの実測電流値をIp-1、Ip、Ip+1とする。データの間引き処理部220においては、間引き用設定値として設定された電流幅(IThr)に基づいて、以下の式(6)を用
いて間引き処理を実行する。
|Ip-Ip+1|<IThr 、かつ、|Ip-1-Ip|<IThr ・・・式(6)
すなわち、注目点pに隣接する低電圧側p-1との差分、および、注目点pに隣接する高電圧側p+1との差分電流値が、電流幅(IThr)以上になるように、IVカーブデー
タの間引きが行われる。データの間引き処理部220は、式(6)の条件を満たす計測点が存在しなくなるまで、データ間引きを実行する。
【0068】
図15は、本実施例に係る診断装置20で提供される診断処理の一例を示すフローチャートである。
図15のフローにおいては、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータに基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常状態が診断される。診断装置20は、通信IF24を通じて接続されたPCS10から、実測されたI-V特性を示す電圧値および電流値(IVカーブデータ)を取得する(ステップS101)と、取得したIVカーブデータを補助記憶装置23の所定の領域に記憶し、処理はステップS111に進む。ステップS111においては、間引き用設定値として設定された電流幅(IThr)に基づいて、式(6)に示す計測データ間の間引き処理が実行される。取得
されたIVカーブデータに対して、式(6)の条件を満たす計測点が存在しなくなると、処理はステップS102に進む。ステップS102以降においては、
図11に示すステップS102からステップS106と同様の処理が実行される。ステップS106の処理が
終了すると本ルーチンを一旦終了する。
【0069】
以上、説明したように、本実施例においては、間引き用設定値保持部210とデータの間引き処理部220の機能により、PCS10を通じて取得されたIVカーブデータに対する間引き処理が行われる。そして、間引き処理が施されたIVカーブデータの形状を処理対象として、太陽光発電システム1を構成する太陽電池30の、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常が診断できる。本実施例においては、間引き処理を行うことにより、間引き用設定値として設定された電流幅(IThr)未満の変化幅を有する
計測点を間引くことが可能になる。この結果、段差判定に係る実測データについての、電流の計測誤差やノイズの影響による段差誤差検出を低減することが可能になり、太陽電池モジュール間の接続配線の施工状態の正常/非正常の判定制度を高めることができる。また、本実施例によれば、実施例1と比較して、間引き処理が施されたIVカーブデータを対象として診断が行われるため、診断に係る演算の処理コストをさらに低減することが可能になる。
【0070】
〔実施例3〕
図16は、実施例3に係る診断装置20の機能構成の一例を示すブロック図である。実施例3においては、診断装置20は、機能要素として、データのグルーピング機能310をさらに備える。実施例3に係る診断装置20においては、実施例2で説明した間引き処理が施されたIVカーブデータを対象として、段差を判定するためのデータのグルーピング処理がさらに行われる。本実施例においては、グルーピング処理を行うことにより、段差のサイズ(電流変動幅)の影響による段差誤検出を低減することが可能になる。本実施形態によれば、段差判定に関する判定精度をさらに高めることが可能になる。なお、
図16において、実施例1、実施例2と同様の構成については同様の符号を用いて詳細な説明を省略するとともに、実施例2との相違点を主に説明する。
【0071】
図16において、データのグルーピング機能310は、間引き処理が施されたIVカーブデータに対して交差有無判定が行われた計測点毎の評価値Jpが交差有無判定部140から引き渡される。データのグルーピング機能310は、交差有無判定部140から引き渡された評価値Jpに保持された内外判定結果(段差内:1、段差外:0)に基づいて、グルーピング処理を実行する。グルーピング処理の結果は、グループ毎の電流変化幅を評価する評価値Ygとして、形成されたグループ数を示す情報とともに、段差判定部150に引き渡される。
【0072】
図17は、グルーピング処理を説明する図である。
図17においては、間引き処理が施された計測点に対して、接線Tの傾きDpに基づいて、段差検出用設定値で設定されたオフセット電圧位置におけるIVカーブ曲線で区分けされた領域内(段差内)、あるいは、領域外(段差外)判定が行われた結果の計測点が例示される。接線Tの傾きDpに基づく内外判定の結果は、評価値Jpに保持される。
【0073】
図17に示すように、データのグルーピング機能310においては、評価値Jpに保持された判定値、すなわち、段差内は「1」、段差外は「0」に基づいて、IVカーブデータのグルーピング処理を行う。具体的には、評価値Jpに保持された値が「1」である計測点が2点以上に連続する場合に、一つの段差グループを形成する計測点群としてグループ化する。
図17においては、連続する2つの計測点によって段差グループ1が形成され、連続する3つの計測点によって段差グループ2が形成されている。なお、段差グループ1と段差グループ2との間には、段差内と判定された単一の計測点が存在するが、当該計測点は、隣接する低電圧側または高電圧側に段差内と判定された計測点が存在しないためグループ化されない。
【0074】
そして、データのグルーピング機能310においては、グループ化された計測点群の両端(低電圧側計測点および高電圧側計測点)についての電圧値および電流値をそれぞれ記録する。実施例3の診断装置20においては、グループ化された両端の電圧値および電流値が、当該計測点を識別するサンプリング番号に関連付けされて主記憶部22の所定の領域に一時的に記憶される。
【0075】
図17においては、例えば、段差グループ1を形成する低電圧側の計測点における電圧値(VL1)と電流値(IL1)と、高電圧側の計測点における電圧値(VH1)と電流値(IH1)とが記録される。また、段差グループ2では、当該グループを形成する計測点の中の、低電圧側の計測点についての電圧値(VL2)と電流値(IL2)と、高電圧側の計測点における電圧値(VH2)と電流値(IH2)とが記録される。
【0076】
本実施例に係るデータのグルーピング機能310においては、以下の式7を用いて段差グループ毎の評価値Ygを算出する。
Yg=(IHg)-(ILg) ・・・式(7)
ここで、「g」は、グルーピングされた計測点群を識別するグループ番号を表し、「G」はグループピングされた計測点群の総数(グループ数)を表す。式(7)により、グループ化された各計測点群の電流軸に対する投影値(電流変化幅)が評価値として求められる。
【0077】
段差判定部150においては、データのグルーピング機能310から引き渡された、グループ毎の電流変化幅を評価する評価値Yg、グループ数(G)に基づいて、段差判定処理が行われる。具体的には、式(4)における評価値Xpを評価値Ygに置き換え、スコア算出用のデータのサンプル数(L)を短絡電流値(Isc)に置き換えて、総グループ数に対する総和に基づいてスコア値Jが算出される。スコア値の判定は、実施例1と同様に、式(5)を用いて判定される。すなわち、スコア値Jが判定基準値(Thr)以下のときには段差なし(モジュール間配線の接続状態は正常)と判断され、そうでない場合には段差あり(モジュール間配線の接続状態は非正常)と判断される。
【0078】
図18は、本実施例に係る診断装置20で提供される診断処理の一例を示すフローチャートである。
図18のフローにおいては、グルーピング処理を用いた段差判定に基づいて、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常状態が診断される。ステップS101において、実施例2と同様にして、PCS10から実測されたI-V特性を示す電圧値および電流値(IVカーブデータ)が取得されると、間引き処理が行われ(ステップS111)、処理はステップS102に進む。ステップS102とステップS103では、実施例1と同様の処理が行われ、処理の結果として間引き処理後の各計測点に関する評価値JpがステップS121に引き渡される。
【0079】
ステップS121においては、引き渡された評価値Jpの判定値(「1」または「0」)に基づいて、段差内と判定された計測点についてのグルーピング処理が行われる。
図17を用いて説明したように、評価値Jpに保持された値が「1」である計測点が2点以上に連続する場合に、一つの段差グループを形成する計測点群としてグループ化される。そして、グループ化された計測点群の低電圧側計測点と高電圧側計測点に対する電圧値および電流値がグループ毎に抽出される。そして、グループ毎に抽出された低電圧側計測点と高電圧側計測点に対するそれぞれの電流値に基づいて、式(7)を用いて、段差グループ毎の評価値Ygが求められる。ステップS121では、段差グループ毎に求められた評価値Ygおよびグループ数GがステップS104に引き渡されて、処理がステップS104に進む。
【0080】
ステップS104では、ステップS121から引き渡された段差グループ毎の評価値Y
gとグループ数G、および、短絡電流値(Isc)に基づいて段差判定用のスコア値Jが算出される。具体的には、式(4)における評価値Xpを評価値Ygに置き換え、スコア算出用のデータのサンプル数(L)を短絡電流値(Isc)に置き換えて、総グループ数に対する総和に基づいてスコア値Jが算出される。スコア値Jが算出されると処理がステップS105に進む。ステップS105以降においては、
図11に示すステップS105からステップS106と同様の処理が実行される。ステップS106の処理が終了すると本ルーチンを一旦終了する。
【0081】
以上、説明したように、本実施例においては、データのグルーピング機能310の機能により、評価値Jpに保持された段差内および段差外を示す判定値に基づいて、IVカーブデータに対するグルーピング処理が行われる。そして、所定の条件を満たす計測点(評価値Jpに保持された値が「1」である計測点が連続する)群をグループ化して、当該グループにおける電流変化幅を段差判定を行うための評価対象とする。本実施例においては、グループ化された計測点群の電流変化幅を、段差判定を行うための評価対象にできるため、段差のサイズの影響による誤差検出を低減することが可能になる。本実施形態によれば、段差判定に関する判定精度をさらに高めることが可能になり、太陽光発電システム1を構成する太陽電池30の、太陽電池モジュール間を接続する配線状態の正常/非正常の診断精度を高めることが可能になる。
【0082】
なお、実施例1から3においては、IVカーブデータとして取得された電流値の推移に基づいて評価するものとして説明したが、同様にして、IVカーブデータとして取得された電圧値の推移に基づいて評価できることは言うまでもない。
【0083】
(その他)
上記の実施形態はあくまでも一例であって、本実施の形態の開示はその要旨を逸脱しない範囲内で適宜変更して実施し得る。本開示において説明した処理や手段は、技術的な矛盾が生じない限りにおいて、自由に組合せて実施することができる。
【0084】
また、1つの装置が行うものとして説明した処理が、複数の装置によって分担して実行されてもよい。あるいは、異なる装置が行うものとして説明した処理が、1つの装置によって実行されても構わない。コンピュータシステムにおいて、各機能をどのようなハードウェア構成(サーバ構成)によって実現するかは柔軟に変更可能である。
【0085】
《コンピュータが読み取り可能な記録媒体》
情報処理装置その他の機械、装置(以下、コンピュータ等)に上記何れかの機能を実現させるプログラムをコンピュータ等が読み取り可能な記録媒体に記録することができる。そして、コンピュータ等に、この記録媒体のプログラムを読み込ませて実行させることにより、その機能を提供させることができる。
【0086】
ここで、コンピュータ等が読み取り可能な記録媒体とは、データやプログラム等の情報を電気的、磁気的、光学的、機械的、または化学的作用によって蓄積し、コンピュータ等から読み取ることができる記録媒体をいう。このような記録媒体のうちコンピュータ等から取り外し可能なものとしては、例えばフレキシブルディスク、光磁気ディスク、CD-ROM、CD-R/W、DVD、ブルーレイディスク、DAT、8mmテープ、フラッシュメモリなどのメモリカード等がある。また、コンピュータ等に固定された記録媒体としてハードディスクやROM等がある。
【0087】
なお、以下には本発明の構成要件と実施例の構成とを対比可能とするために、本発明の構成要件を図面の符号付きで記載しておく。
<発明1>
複数の太陽光発電モジュール(33)から構成される太陽電池(30)の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断する診断装置(20)であって、
前記太陽電池(30)について所定のサンプル数で計測された、電圧値の増加または減少に伴って推移する電流値の変化に関する電流電圧特性を取得することと、
前記電流電圧特性が計測されたサンプル点毎の電圧値または電流値の一方の第1特性値および他方の第2特性値に基づいて、前記サンプル点における前記第1特性値の増加または減少に伴って推移する第2特性値の変化の傾きを算出することと、
所定の第1特性値に対する前記変化の傾きから推定される推定第2特性値と、前記電流電圧特性において前記所定の第1特性値に対応して計測された第2特性値との大小比較の判定結果に基づいて、前記太陽電池(30)の発電状態が正常状態であるか非正常状態であるかを診断することと、
を実行する制御部(21)を備えることを特徴とする診断装置(20)。
【符号の説明】
【0088】
1:太陽光発電システム
10:パワーコンディショナ(PCS)
10a:電力変換部
10b:制御部
11:電流センサ
12:電圧センサ
15:ブロッキングダイオード
20:診断装置
21:プロセッサ
22:主記憶装置
23:補助記憶装置
24:通信IF
25:入出力IF
26:接続バス
30:太陽電池
31:太陽電池アレイ
32:ストリング
33:太陽電池モジュール
40:商用電力系統
50:負荷
110:IVカーブデータ読み込み部
120:段差検出用設定値保持部
130:判定基準保持部
140:交差有無判定部
150:段差判定部
160:判定結果表示部
170:判定結果送信部
210:間引き用設定値保持部
220:データの間引き処理部
310:グルーピング機能