(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】推定装置、蓄電デバイス、推定方法、及びコンピュータプログラム
(51)【国際特許分類】
G01R 31/392 20190101AFI20240214BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20240214BHJP
H01M 10/42 20060101ALI20240214BHJP
H02J 7/00 20060101ALI20240214BHJP
G01R 31/367 20190101ALI20240214BHJP
G01R 31/385 20190101ALI20240214BHJP
G01R 31/387 20190101ALI20240214BHJP
G01R 31/382 20190101ALI20240214BHJP
【FI】
G01R31/392
H01M10/48 P
H01M10/42 P
H02J7/00 Y
G01R31/367
G01R31/385
G01R31/387
G01R31/382
(21)【出願番号】P 2020048368
(22)【出願日】2020-03-18
【審査請求日】2022-12-12
(73)【特許権者】
【識別番号】507151526
【氏名又は名称】株式会社GSユアサ
(74)【代理人】
【識別番号】100114557
【氏名又は名称】河野 英仁
(74)【代理人】
【識別番号】100078868
【氏名又は名称】河野 登夫
(72)【発明者】
【氏名】岡部 洋輔
(72)【発明者】
【氏名】山内 翔太
(72)【発明者】
【氏名】人見 周二
(72)【発明者】
【氏名】山手 茂樹
【審査官】青木 洋平
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-238526(JP,A)
【文献】特開2017-126462(JP,A)
【文献】特開2017-040615(JP,A)
【文献】特開2018-147827(JP,A)
【文献】特開2019-168453(JP,A)
【文献】特開2019-148537(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0077880(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01R 31/392
H01M 10/48
H01M 10/42
H02J 7/00
G01R 31/367
G01R 31/385
G01R 31/387
G01R 31/382
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
蓄電デバイスに関する計測データを取得する取得部と、
取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定する推定部と、
該推定部の推定結果に基づく情報を出力する出力部と
を備え
、
前記蓄電デバイスは、
電荷担体を含有する電解質と、活物質粒子を含有する電極とを備え、前記電荷担体が前記活物質粒子に脱挿入することで放電及び蓄電が行われるデバイスであり、
前記取得部は、
前記蓄電デバイスの放電電流を計測する電流センサと、前記蓄電デバイスの温度を計測する温度センサとから、前記放電電流及び前記温度の計測データを取得し、
前記劣化メカニズムは、
前記活物質粒子の孤立化によって、前記電極内で蓄電に寄与する活物質粒子の固相体積比率が低下し、前記蓄電デバイスの充放電容量が減少する第1の劣化メカニズムと、
前記活物質粒子の表面に前記電荷担体が抵抗体被膜として付着することによって、充放電に関与する前記電解質中の前記電荷担体の濃度が低下し、前記蓄電デバイスの充放電容量が減少する第2の劣化メカニズムと
を含み、
前記推定部は、
前記取得部が取得した前記放電電流及び前記温度の計測データを用いて、前記孤立化が進行する速度を計算し、計算した速度を用いて、充放電サイクルあたりの前記固相体積比率の低下量を計算し、計算した前記固相体積比率の低下量を用いて、前記蓄電デバイスの製造時点より後の任意の時点での充放電容量を計算することによって、前記任意の時点での前記第1の劣化メカニズムによる劣化量を推定し、
前記取得部が取得した前記放電電流及び前記温度の計測データと前記抵抗体被膜が生成される副反応の量論係数とを用いて、前記電荷担体が前記電解質から消失する単位時間あたりの消失量を計算し、計算した消失量を用いて、前記電荷担体の消失により低下した充放電容量を計算することにより、前記任意の時点での前記第2の劣化メカニズムによる劣化量を推定する
推定装置。
【請求項2】
前記劣化メカニズムは、前記蓄電デバイスを構成する各要素における電気抵抗の増加
による第3の劣化メカニズム、又は電解液における導電性の低下
による第4の劣化メカニズムを更に含
み、
前記推定部は、
前記蓄電デバイス全体の容量低下分から前記第1の劣化メカニズムによる容量低下分及び前記第2の劣化メカニズムによる容量低下分を減算し、残りの容量低下分を前記第3の劣化メカニズム又は前記第4の劣化メカニズムによる劣化量として推定する
請求項
1に記載の推定装置。
【請求項3】
前記劣化メカニズムは、前記蓄電デバイスを構成する各要素における電気抵抗の増加による第3の劣化メカニズム、及び電解液における導電性の低下による第4の劣化メカニズムを更に含み、
前記推定部は、
前記蓄電デバイス全体の容量低下分から前記第1の劣化メカニズムによる容量低下分及び前記第2の劣化メカニズムによる容量低下分を減算し、残りの容量低下分を前記第3の劣化メカニズム及び前記第4の劣化メカニズムによる劣化量として推定し、
前記第1の劣化メカニズムにおける前記固相体積比率、前記第2の劣化メカニズムにおける前記電荷担体の量、及び前記第4の劣化メカニズムにおける前記電解液の伝導率の値をそれぞれ製造時の値に変更して、前記残りの容量低下分の内の、前記第3の劣化メカニズムによる容量低下分を計算し、
前記第1の劣化メカニズムにおける前記固相体積比率、及び前記第2の劣化メカニズムにおける前記電荷担体の量を製造時の値、前記第3の劣化メカニズムにおける前記電気抵抗の増加量をゼロにそれぞれ変更して、前記残りの容量低下分の内の、前記第4の劣化メカニズムによる容量低下分を計算することによって、
前記第3の劣化メカニズム及び前記第4の劣化メカニズムによる劣化量を推定する
請求項1に記載の推定装置。
【請求項4】
前記出力部は、前記推定部による推定結果に基づき、前記蓄電デバイスの劣化要因を特定し、特定した劣化要因
が前記第1の劣化メカニズムである場合、推奨する前記蓄電デバイスのリユース方法
として、常時充放電を行わない短時間用途の補助電源又は防災用蓄電池向け電源を推奨する旨の情報を出力し、特定した劣化要因が前記第2の劣化メカニズムである場合、推奨する前記蓄電デバイスのリユース方法として、常時充放電を行わない短時間用途の補助電源又は防災用蓄電池向け電源を推奨する旨の情報を出力すると共に、解体洗浄後のリサイクルを提案する旨の情報を出力する
請求項
1に記載の推定装置。
【請求項5】
前記出力部は、前記推定部による推定結果に基づき、前記蓄電デバイスの劣化要因を特定し、特定した劣化要因が前記第3の劣化メカニズムである場合、推奨する前記蓄電デバイスのリユース方法として、自然エネルギの蓄電用途を推奨する旨の情報を出力する
請求項2又は請求項3に記載の推定装置。
【請求項6】
前記出力部は、前記計測データに基づき推定される劣化量と、前記蓄電デバイスの運用条件として
放電電流及び温度を変更した場合に推定される劣化量とを比較し、前記計測データを用いて推定した劣化量よりも、劣化量が少なくなる運用条件を見出した場合、前記運用条件を、推奨する前記蓄電デバイスの運用条件
として決定し、決定した運用条件の情報を出力する
請求項1から請求項
5の何れか1つに記載の推定装置。
【請求項7】
前記出力部は、前記推定部による推定結果に基づき、前記蓄電デバイスの残価値を出力する
請求項1から請求項
6の何れか1つに記載の推定装置。
【請求項8】
請求項1から請求項
7の何れか1つに記載の推定装置を搭載した回路基板を備える蓄電デバイス。
【請求項9】
蓄電デバイスに関する計測データを取得し、
取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、
推定結果に基づく情報を出力する
コンピュータ実装される推定方法
であって、
前記蓄電デバイスは、
電荷担体を含有する電解質と、活物質粒子を含有する電極とを備え、前記電荷担体が前記活物質粒子に脱挿入することで放電及び蓄電が行われるデバイスであり、
前記劣化メカニズムは、
前記活物質粒子の孤立化によって、前記電極内で蓄電に寄与する活物質粒子の固相体積比率が低下し、前記蓄電デバイスの充放電容量が減少する第1の劣化メカニズムと、
前記活物質粒子の表面に前記電荷担体が抵抗体被膜として付着することによって、充放電に関与する前記電解質中の前記電荷担体の濃度が低下し、前記蓄電デバイスの充放電容量が減少する第2の劣化メカニズムと
を含み、
前記コンピュータは、
前記蓄電デバイスの放電電流を計測する電流センサと、前記蓄電デバイスの温度を計測する温度センサとから、前記放電電流及び前記温度の計測データを取得し、
取得した前記放電電流及び前記温度の計測データを用いて、前記孤立化が進行する速度を計算し、計算した速度を用いて、充放電サイクルあたりの前記固相体積比率の低下量を計算し、計算した前記固相体積比率の低下量を用いて、前記蓄電デバイスの製造時点より後の任意の時点での充放電容量を計算することによって、前記任意の時点での前記第1の劣化メカニズムによる劣化量を推定し、
取得した前記放電電流及び前記温度の計測データと前記抵抗体被膜が生成される副反応の量論係数とを用いて、前記電荷担体が前記電解質から消失する単位時間あたりの消失量を計算し、計算した消失量を用いて、前記電荷担体の消失により低下した充放電容量を計算することにより、前記任意の時点での前記第2の劣化メカニズムによる劣化量を推定する
推定方法。
【請求項10】
コンピュータに、
蓄電デバイスに関する計測データを取得し、
取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、
推定結果に基づく情報を出力する
処理を実行させるためのコンピュータプログラム
であって、
前記蓄電デバイスは、
電荷担体を含有する電解質と、活物質粒子を含有する電極とを備え、前記電荷担体が前記活物質粒子に脱挿入することで放電及び蓄電が行われるデバイスであり、
前記劣化メカニズムは、
前記活物質粒子の孤立化によって、前記電極内で蓄電に寄与する活物質粒子の固相体積比率が低下し、前記蓄電デバイスの充放電容量が減少する第1の劣化メカニズムと、
前記活物質粒子の表面に前記電荷担体が抵抗体被膜として付着することによって、充放電に関与する前記電解質中の前記電荷担体の濃度が低下し、前記蓄電デバイスの充放電容量が減少する第2の劣化メカニズムと
を含み、
前記蓄電デバイスの放電電流を計測する電流センサと、前記蓄電デバイスの温度を計測する温度センサとから、前記放電電流及び前記温度の計測データを取得し、
取得した前記放電電流及び前記温度の計測データを用いて、前記孤立化が進行する速度を計算し、計算した速度を用いて、充放電サイクルあたりの前記固相体積比率の低下量を計算し、計算した前記固相体積比率の低下量を用いて、前記蓄電デバイスの製造時点より後の任意の時点での充放電容量を計算することによって、前記任意の時点での前記第1の劣化メカニズムによる劣化量を推定し、
取得した前記放電電流及び前記温度の計測データと前記抵抗体被膜が生成される副反応の量論係数とを用いて、前記電荷担体が前記電解質から消失する単位時間あたりの消失量を計算し、計算した消失量を用いて、前記電荷担体の消失により低下した充放電容量を計算することにより、前記任意の時点での前記第2の劣化メカニズムによる劣化量を推定する
処理を前記コンピュータに実行させるためのコンピュータプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、推定装置、蓄電デバイス、推定方法、及びコンピュータプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、蓄電デバイスは、無停電電源装置、安定化電源に含まれる直流又は交流電源装置等に広く利用されている。また、蓄電デバイスは、再生可能エネルギ又は既存の発電システムにて発電された電力を蓄電しておく大規模なシステムにおいて利用が拡大している。
【0003】
蓄電デバイスは、充放電を繰り返すことによって劣化が進行する、すなわち容量が低下することが知られている。特許文献1には、蓄電デバイスの等価回路モデルを用いて、残容量を推定する手法が開示されている。特許文献2には、ニューラルネットワークを用いた機械学習により、蓄電デバイスの劣化を推定する手法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2019-148537号公報
【文献】特開2019-168453号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1及び2では、蓄電デバイスの劣化メカニズムを考慮せずに、等価回路モデルや機械学習を用いてデバイス全体の劣化を近似的に推定しているに過ぎない。このため、特許文献1及び2に開示された手法では、劣化メカニズム毎の劣化量を推定することはできず、例えば劣化メカニズム毎に推定した劣化量に基づき、蓄電デバイスのリユース方法を提案することはできない。更には、製品設計や運用方法の改善など、次の行動を決定するためのフィードバックが困難である。
【0006】
本発明は、劣化メカニズムを考慮した蓄電デバイスの劣化シミュレーションを実現できる推定装置、蓄電デバイス、推定方法、及びコンピュータプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係る推定装置は、蓄電デバイスに関する計測データを取得する取得部と、取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定する推定部と、該推定部の推定結果に基づく情報を出力する出力部とを備える。
【0008】
本発明の一態様に係る蓄電デバイスは、前述の推定装置を搭載した回路基板を備える。
【0009】
本発明の一態様に係るコンピュータ実装される推定方法は、蓄電デバイスに関する計測データを取得し、取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、推定結果に基づく情報を出力する。
【0010】
本発明の一態様に係るコンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電デバイスに関する計測データを取得し、取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、推定結果に基づく情報を出力する処理を実行させる。
【発明の効果】
【0011】
上記態様によれば、劣化メカニズムを考慮した蓄電デバイスの劣化シミュレーションを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】実施の形態1に係る推定装置が搭載される蓄電デバイスの構成例を示す模式図である。
【
図2】推定装置の内部構成を説明するブロック図である。
【
図4】集電箔と電極との間の剥離を説明する説明図である。
【
図5】導電助剤の伝導経路切れを説明する説明図である。
【
図7】電解液中のリチウムイオン濃度とイオン導電率との関係を示すグラフである。
【
図8】蓄電デバイスの容量低下の内訳を説明する説明図である。
【
図9】実施の形態1に係る推定装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図11】実施の形態2に係る推定装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【
図13】実施の形態3に係る推定装置が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
推定装置は、蓄電デバイスに関する計測データを取得する取得部と、取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定する推定部と、該推定部の推定結果に基づく情報を出力する出力部とを備える。
したがって、推定装置は、劣化の物理的なメカニズムを考慮したシミュレーションにより、例えば蓄電デバイスの稼働中にリアルタイムに劣化量を推定することができる。推定装置は、物理的な原理に基づいたシミュレーションを行うため、シミュレーション結果についての考察が容易であり、例えば、劣化メカニズム毎に推定される劣化量に基づき、蓄電デバイスのリユース方法、運用条件、残価値に基づく交換時期等をユーザに提案できる。本明細書中におけるリユースとは、単電池(セル)を解体することなく、他用途に転用することを指す。
【0014】
前記取得部が取得する計測データは、前記蓄電デバイスの電流及び温度に関するデータを含んでもよい。この構成によれば、蓄電デバイスの電流及び温度の実測値に基づき例えばリアルタイムに劣化シミュレーションを実行できる。
【0015】
前記劣化メカニズムは、活物質粒子の孤立化、及び充放電に関与する電荷担体の減少を含んでもよい。本明細書中において電荷担体とは、固相内又は液相内に存在する電荷のキャリアのことを指し、例えばリチウムイオン電池であればリチウムイオン(Li+ )のことである。この構成によれば、活物質粒子の孤立化に起因する劣化量と、電荷担体の減少に起因する劣化量とを個別に推定できる。蓄電デバイスの劣化の主要因が活物質粒子の孤立化である場合、例えば、リユース方法として低レートで使用するように提案することができる。蓄電デバイスの劣化の主要因が電荷担体の減少である場合、例えば、リユース用途としてUPS(Uninterruptible Power Supply)などの補助電源を提案することができる。
【0016】
前記劣化メカニズムは、前記蓄電デバイスを構成する各要素における電気抵抗の増加、及び電解液における導電性の低下の少なくとも一方を更に含んでもよい。この構成によれば、活物質粒子の孤立化に起因する劣化量と、電荷担体の減少に起因する劣化量と、電気抵抗の増加と、電解液における導電性の低下とを個別に推定できる。蓄電デバイスの劣化の主要因が電気抵抗の増加である場合、例えば、リユース用途として太陽光などの自然エネルギの蓄電用途を提案することができる。
【0017】
前記出力部は、前記推定部による推定結果に基づき、前記蓄電デバイスの劣化要因を特定し、特定した劣化要因に応じて、推奨する前記蓄電デバイスのリユース方法の情報を出力してもよい。この構成によれば、特定した劣化要因に応じて、蓄電デバイスのリユース方法をユーザに提案できる。
【0018】
前記出力部は、前記計測データに基づき推定される劣化量と、前記蓄電デバイスの運用条件を仮想的に変更して推定される劣化量とに基づき、推奨する前記蓄電デバイスの運用条件を決定し、決定した運用条件の情報を出力してもよい。この構成によれば、劣化進行を抑制できるような運用条件をユーザに提案できる。
【0019】
前記出力部は、前記推定部による推定結果に基づき、前記蓄電デバイスの残価値を算出し出力してもよい。前記出力部は、算出した残価値に基づいた交換時期の情報を出力してもよい。この構成によれば、残価値が急減する前の交換をユーザに促すことができる。
【0020】
推定方法は、コンピュータを用いて、蓄電デバイスに関する計測データを取得し、取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、推定結果に基づく情報を出力する。この構成によれば、劣化の物理的なメカニズムを考慮したシミュレーションにより、例えば蓄電デバイスの稼働中にリアルタイムに劣化量を推定することができる。
【0021】
コンピュータプログラムは、コンピュータに、蓄電デバイスに関する計測データを取得し、取得した計測データに基づき、前記蓄電デバイスの劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、推定結果に基づく情報を出力する処理を実行させる。
【0022】
以下、本発明をその実施の形態を示す図面に基づいて具体的に説明する。
(実施の形態1)
図1は実施の形態1に係る推定装置10が搭載される蓄電デバイス1の構成例を示す模式図である。蓄電デバイス1は、例えば、電解質が液体のリチウムイオン電池である。代替的に、蓄電デバイス1は、ラミネートタイプ(パウチ型)のリチウムイオン電池、電解質がイオン液体のリチウムイオン電池、電解質がゲル状のリチウムイオン電池、全固体リチウムイオン電池、バイポーラ型リチウムイオン電池(電極が電気的直列に接続された電池)、亜鉛空気電池、ナトリウムイオン電池、鉛電池などの任意の電池であってもよい。蓄電デバイス1は、単一のセル、複数のセルを直列及び/又は並列に接続したモジュール、複数のモジュールを直列に接続したバンク、複数のバンクを並列に接続したドメイン等であってもよい。
【0023】
推定装置10は、推定対象の蓄電デバイス1に搭載されてもよい。例えば、推定装置10と蓄電デバイス1とが同一の収容体(筐体、電池盤など)に収容されてもよい。推定装置10は、蓄電デバイス1に関する計測データを取得し、蓄電デバイス1の劣化メカニズムに基づく劣化シミュレータを用いて、蓄電デバイス1の劣化状態を推定する。推定装置10が取得する計測データは、蓄電デバイス1の電流に関するデータ、及び蓄電デバイス1の温度に関するデータを含む。蓄電デバイス1の劣化とは、例えば蓄電デバイス1を繰り返し使用していると充放電容量が低下するようになり、長持ちしなくなる事象を表す。劣化は、時間が経過するだけで生じる経時劣化と、蓄電デバイス1の使用(充放電)に応じて生じるサイクル劣化とに区別される。サイクル数の代わりに総通電電気量を用いてもよい。
【0024】
図1の例では、推定装置10は、蓄電デバイス1の上面に設置された平板状の回路基板として示されている。代替的に、推定装置10は、蓄電デバイス1の側面等に設置されてもよく、蓄電デバイス1から離隔して設置されてもよい。推定装置10の形状も平板状に限定されない。推定装置10は、BMU(Battery Management Unit)に設けられてもよく、遠隔地に設置されるサーバ装置に設けられてもよい。後者の場合、蓄電デバイス1に関して計測される計測データは、通信によりサーバ装置へ送信されるとよい。
【0025】
図2は推定装置10の内部構成を説明するブロック図である。推定装置10は、例えば、制御部11、記憶部12、入力部13、及び出力部14を備える。
【0026】
制御部11は、例えば、CPU(Central Processing Unit)、ROM(Read Only Memory)、RAM(Random Access Memory)などにより構成される。制御部11が備えるCPUは、ROM又は記憶部12に記憶されている各種コンピュータプログラムをRAM上に展開して実行することにより、装置全体を本願の推定装置として機能させる。
【0027】
代替的に、制御部11は、複数のCPU、マルチコアCPU、GPU(Graphics Processing Unit)、マイコン、揮発性又は不揮発性のメモリ等を備える任意の処理回路又は演算回路であってもよい。制御部11は、計測開始指示を与えてから計測終了指示を与えるまでの経過時間を計測するタイマ、数をカウントするカウンタ、日時情報を出力するクロック等の機能を備えてもよい。
【0028】
記憶部12は、フラッシュメモリなどの記憶装置である。記憶部12には、制御部11によって実行される各種コンピュータプログラム、及びコンピュータプログラムの実行に必要なデータ等が記憶される。記憶部12に記憶されるコンピュータプログラムの1つは、蓄電デバイス1の劣化メカニズムに基づく劣化シミュレータを用いて、蓄電デバイス1の劣化状態を推定する推定処理プログラムである。推定処理プログラムが用いる劣化シミュレータは、例えば実行バイナリにより構成される。劣化シミュレータの元となる理論式は、蓄電デバイス1の劣化メカニズムを表す代数方程式又は微分方程式によって記述される。劣化シミュレータは、劣化メカニズム毎に用意してもよく、1つのコンピュータプログラムとして用意してもよい。
【0029】
劣化シミュレータは、MATLAB(登録商標)、Amesim(登録商標)、Twin Builder(登録商標)、MATLAB&Simulink(登録商標)、Simplorer(登録商標)、ANSYS(登録商標)、Abaqus(登録商標)、Modelica(登録商標)、VHDL-AMS(登録商標)、C言語、C++、Java(登録商標)などの市販の数値解析ソフトウェア又はプログラミング言語によって記述されてもよい。数値解析ソフトウェアは、1D-CAEと称される回路シミュレータであってもよく、3D形状で行う有限要素法や有限体積法などのシミュレータであってもよい。代替的に、これらに基づいた縮退モデル(ROM : Reduced-Order Model)を用いてもよい。
【0030】
推定処理プログラムや劣化シミュレータを含むコンピュータプログラムは、当該コンピュータプログラムを読み取り可能に記録した非一時的な記録媒体M1により提供されてもよい。記録媒体M1は、例えば、CD-ROM、USB(Universal Serial Bus)メモリ、SD(Secure Digital)カード、マイクロSDカード、コンパクトフラッシュ(登録商標)などの可搬型メモリである。この場合、制御部11は、不図示の読取装置を用いて記録媒体M1からコンピュータプログラムを読み取り、読み取ったコンピュータプログラムを記憶部12にインストールする。推定装置10が通信手段を備える場合、推定処理プログラムや劣化シミュレータを含むコンピュータプログラムは、通信により提供されてもよい。この場合、制御部11は、通信により推定処理プログラムや劣化シミュレータを含むコンピュータプログラムを取得し、取得したコンピュータプログラムを記憶部12にインストールする。
【0031】
記憶部12は、蓄電デバイス1の情報を記憶する電池テーブルを有していてもよい。
図3は電池テーブルの一例を示す概念図である。電池テーブルに登録される電池情報は、例えば、正極及び負極の情報、電解液の情報、タブの情報などを含む。正極及び負極の情報とは、正極及び負極の活物質名、厚み、幅、奥行き、開回路電位などの情報である。電解液及びタブの情報とは、イオン種、輸率、拡散係数、導電率などの情報である。電池テーブルには、蓄電デバイス1の物理的性質、動作状態、回路構成等の情報を参照するリンクが含まれてもよい。電池テーブルに記憶される情報は、推定装置10が搭載される蓄電デバイス1に応じて、事前に設定されるとよい。電池テーブルに記憶されている情報は、蓄電デバイス1の劣化をシミュレートする際に、シミュレーション条件の一部として利用される。
【0032】
入力部13は、各種センサを接続するためのインタフェースを備える。入力部13に接続されるセンサは、電流センサ131及び温度センサ132を含む。電流センサ131は、変流器、ホール効果型電流センサなどの既存のセンサであり、蓄電デバイス1の放電電流を時系列的に計測する。推定装置10は、入力部13を通じて、電流センサ131により計測される電流のデータを随時取得する。温度センサ132は、熱電対、サーミスタなどの既存のセンサであり、蓄電デバイス1の温度を時系列的に計測する。推定装置10は、入力部13を通じて、温度センサ132により計測される温度のデータを随時取得する。
【0033】
出力部14は、表示装置140を接続する接続インタフェースを備える。表示装置140の一例は、液晶ディスプレイ装置である。推定装置10の制御部11は、上述した劣化シミュレータによる推定結果が得られた場合、推定結果に基づく情報を出力部14から表示装置140へ出力する。表示装置140は、出力部14から出力される情報に基づき推定結果を表示する。
【0034】
代替的に、出力部14は、外部装置と通信する通信インタフェースを備えてもよい。出力部14に通信可能に接続される外部装置は、ユーザや管理者等が使用するパーソナルコンピュータ、スマートフォンなどの端末装置である。推定装置10の制御部11は、劣化シミュレータによる推定結果が得られた場合、推定結果に基づく情報を出力部14から端末装置へ送信する。端末装置は、出力部14より送信される情報を受信し、受信した情報に基づき自装置のディスプレイに推定結果を表示させる。
【0035】
推定装置10は、以下で説明する第1~第4の劣化メカニズムに基づく劣化シミュレータを用いて、蓄電デバイス1の劣化メカニズム毎の劣化量を推定する。劣化メカニズムは、蓄電デバイス1の物理モデルによって表現される。物理モデルは、確立されている自然現象(物理法則又は化学法則)に則り、蓄電デバイス1内部の現象を代数方程式又は微分方程式等により表現したモデルである。推定装置10は、劣化メカニズムに基づくシミュレータ(ホワイトボックス)を用いて劣化推定を行うので、自然現象を把握せずに、等価回路モデルや機械学習(ブラックボックス)を用いて劣化推定を行う従来の手法と比較して、劣化メカニズム毎の劣化量を把握できるという利点を有する。
【0036】
第1の劣化メカニズムとして、活物質粒子の孤立化による劣化ついて説明する。活物質粒子の孤立化による劣化メカニズムとは、充放電による膨張収縮を繰り返しにより活物質粒子が割れ、電荷担体の脱挿入ができない領域が徐々に増え、活物質粒子の電荷担体の吸蔵を行える箇所が減り、貯蔵できる電気量(すなわち電池容量)が減少する現象である。吸蔵とは、固相内、すなわち活物質粒子内に電荷担体が保持される現象のことである。
【0037】
推定装置10の制御部11は、数1又は数2の式により、活物質粒子の孤立化が進行する速度を計算する。
【0038】
【0039】
ここで、rcycle,iso はサイクル数によって活物質粒子の孤立化が進行する速度(1/サイクル数)を表す。本明細書において、サイクル数は充放電を行った回数を表す。典型的には、rcycle,iso <0である。k0,iso は反応速度定数であり、例えばサイクル数の関数である。Ea0,isoはサイクル劣化の活性化エネルギ(J/mol)を表し、温度の影響を表す係数である。iは電流密度(A/m2 )である。電流密度iの大きさは、電極の膨張収縮速度に関連し、クリープや亀裂進展のような歪み速度依存の破壊現象を表す係数である。αiso は定数である。k0,iso 、Ea0,iso、αiso の値はユーザによって設定されてもよく、推定装置10において予め設定されてもよい。
【0040】
【0041】
ここで、rt,iso は経過時間によって活物質粒子の孤立化が進行する速度である(1/s)を表す。典型的には、rt,iso <0である。k1,iso は反応速度定数であり、例えば時間の関数である。代替的に、k1,iso は実験データに基づく任意の関数により定義してもよい。Ea1,isoは経時劣化の活性化エネルギ(J/mol)を表し、温度の影響を表す係数である。Δtは経過時間(s)である。電池内部の応力が低い場合、経時のみによって孤立化が進行することは少ないが、外部から強力な拘束を受けて高応力状態にある場合は無視しがたい。k1,iso 、Ea1,isoの値はユーザによって設定されてもよく、推定装置10において予め設定されてもよい。
【0042】
Nサイクル時点の活物質粒子の固相体積比率をεs (N)とすると、εs (N+1)は、εs (N)にサイクル劣化速度と1サイクルの経時劣化速度とを足した数3の式により表される。
【0043】
【0044】
ここで、活物質粒子の固相体積比率εs が低下すると蓄電デバイス1が劣化する、すなわち蓄電デバイス1に電荷担体の吸蔵が行える箇所が減り、貯蔵できる電気量すなわち電気容量が減少する理由を説明する。
【0045】
吸蔵された電荷担体の最小濃度csminと最大濃度csmaxとを用いて電気容量の減少を説明する。正極の場合、最大濃度となるのは放電末期、最小濃度となるのは満充電時である。これらの電荷担体濃度を算出するために必要な体積は、吸蔵された電荷担体が存在できる相の体積である。電極の見かけ体積(例えば、塗工面積×塗工厚み)をVapp (m3 )、製造時の電極に占める活物質粒子の固相体積比率をεs0とすると、吸蔵された電荷担体が存在できる相の体積はVapp εs0である。製造時における電池容量をQ0 (CまたはAh)とすると、数4が成立する。zは価数、Fはファラデー定数(C/mol)である。
【0046】
【0047】
この電池が劣化し、電極の孤立化が進行すると、蓄電に寄与する活物質粒子の固相体積比率εs はεs0よりも低下する。活物質粒子の固相体積比率がεs となったときの電池容量をQとすると、数5が成立する。
【0048】
【0049】
数4と数5とから不要な文字を消去し、数6を得る。
【0050】
【0051】
すなわち、εs がεs0よりも小さくなると、QはQ0 よりも小さくなることが示された。これが、孤立化によって電池容量が低下する理由である。孤立化によって低減する容量(劣化量)は、次の数7により表される。
【0052】
【0053】
ここで、Q0 は製造時における電池容量を示し、Qはシミュレーションによって下限電圧まで放電させたときの放電容量を示す。
【0054】
実施の形態1では、活物質粒子の孤立化が進行する速度を数1及び数2の式により計算する構成について説明したが、演算式は例示に過ぎず、実験結果や文献データなどに基づいて自由に改変してもよい。
【0055】
実施の形態1では、活物質粒子の孤立化が進行する速度をサイクル数または経過時間の関数として計算する構成について説明した。代替的または追加的に、制御部11は、通電方向の切り替わりが生じるときのSOCの上限及び下限の関数を因数とした数8を用いて、活物質粒子の孤立化が進行する速度を計算してもよい。SOCは、State Of Chargeの略称であり、満充電状態を100%、完全放電状態を0%として表す。上限値SOCmax 及び下限値SOCmin の値はユーザによって設定されてもよく、推定装置10において予め設定されてもよい。多くの場合、(SOCmax -SOCmin )の値が大きくなるほど孤立化の進行速度が速くなることが知られているため、(SOCmax -SOCmin )が大きくなるにつれて反応速度が速くなる関数が用いられることが好ましい。サイクル数の代わりに、総通電電気量を用いてもよい。
【0056】
【0057】
孤立化の進展を決定する速度式の中で、k0,iso 、Ea0,iso、αiso 、k1,iso 、Ea1,iso、SOCmax,iso 、SOCmin,iso のパラメータを用いたが、これらの値は、正極及び負極において異なる値を用いることが望ましい。上記の値は、充電過程と放電過程とで異なる値であってもよい。推定装置10は、電池全体での孤立化の原因のうち、正極の寄与分と負極の寄与分とを分離してシミュレーションしてもよい。孤立化を考慮する必要がない場合には、k0,iso =0.0とするなど、適宜に無効化してよい。
【0058】
第2の劣化メカニズムとして、充放電に関与する電荷担体の減少(容量バランスずれ)による劣化について説明する。電荷担体の減少による劣化メカニズムとは、充電時に電極の表面で電解液中のイオンが副反応によって消失する現象である。
【0059】
例えばリチウムイオン電池の場合、電解液中のリチウムイオンが黒鉛に入る際(すなわち充電の際)、主反応(Li+ +e- +6C→LiC6)以外に、LiC6 が有機物などと反応して抵抗体被膜として電極活物質粒子表面に付着する副反応が生じる。主反応は可逆反応であり、電圧を逆に印加すれば、Li→Li+ +e- の反応が起こるが、副反応は不可逆である。すなわち、一旦抵抗体被膜となってしまったリチウムイオンは以後充放電に参加することができなくなり、容量が低下する。このメカニズムを充放電に関与する電荷担体の減少(若しくは容量バランスずれ)と呼ぶ。第2の劣化メカニズムは、電解液のリチウムイオン濃度が低下することが原因であり、電極材料が劣化するわけではない。すなわち、第2の劣化メカニズムは、解体洗浄後に再利用する余地がある。
【0060】
第2の劣化メカニズムは、リチウムイオン電池の場合、経時及びサイクルの両方によって加速されることが知られている。充電時には、Li+ +6C+P→xLiC6 +(1-x)LiSEI の反応によって表されるように、Liが生成される主反応(理想的にはx=1)以外に、LiSEI という副生成物が生成される。Pは副生成物の元となる物質である。ここで、x:(1-x)は主反応:副反応の量論比であるが、通常は(1-x)/x<<1であり、副反応の量論係数は非常に小さい。副反応の量論係数に電流密度と電極の表面積を乗じてファラデー定数で割ったリチウムイオンが電解液から消失する。第2の劣化メカニズムを表現するためには、液相でのLi+ の消失量をJLi+ (mol/m2 s)としたとき、固相へのLiの流入量JLi(mol/m2 s)を、JLi=xJLi+ とすればよい。
【0061】
xは適宜に上限値SOCmax 及び下限値SOCmin 、温度T、電流密度iの関数としてよい。例えば、数9に記載するような関数としてもよい。hは実験データに適合するように定められた関数である。0.0≦x≦1.0であることに注意する。
【0062】
【0063】
副反応は充電時以外に、通電をしていなくても生じるが、こちらは実測データを元に、リチウムイオンの消失速度rLiを時間の関数(rLi=g(t))として与えるとよい。関数gとして、時間tの平方根に比例する関数がしばしば用いられる。関数gは、更に温度に関する因数を含んでもよい。
【0064】
推定装置10は、活物質粒子の孤立化の影響やオーム過電圧及び活性化過電圧の影響を排除した上で、電荷担体の減少による容量の低下を計算する。例えば、活物質粒子の孤立化の影響を排除するために、推定装置10は、計算時刻での正極及び負極における活物質粒子の固相体積比率εs を、製造時の固相体積比率εs0に変更する。同様に、オーム過電圧及び活性化過電圧の影響を排除するために、推定装置10は、通電電流の値を極めて小さな値に設定する。例えば、0.01C(1Cは1時間をかけて蓄電デバイス1の全電気量を放電するときの電流)に設定すればよい。代替的に、電池の内部抵抗を小さくするために、交流電流密度、電子導電率、イオン導電率を極端に大きな値を設定してもよい。
【0065】
推定装置10は、活物質粒子の固相体積比率や通電電流の値を変更した上で、電荷担体の減少(容量バランスずれ)により低下した容量(劣化量)ΔQimb を数8により計算する。
【0066】
【0067】
ここで、Q0 は製造時における電池容量を示し、Qはシミュレーションによって下限電圧まで放電させたときの放電容量を示す。
【0068】
第3の劣化メカニズムとして、蓄電デバイス1を構成する各要素における電気抵抗の増加について説明する。電気抵抗が増大する要因として、集電箔と電極との間の剥離、導電助剤の伝導経路切れ、及び抵抗体被膜の形成が蓄電デバイス1の正極及び負極のそれぞれにおいて発生することが挙げられる。
【0069】
図4は集電箔と電極との間の剥離を説明する説明図である。使用開始直後における蓄電デバイス1では、集電箔と電極(正極又は負極)とが互いに密着した状態にあり、集電箔及び電極間の電気抵抗は比較的小さい。しかしながら、集電箔と電極とは結合性が良いわけではないので、充放電に伴う粒子(電極を構成する活物質粒子)の膨張収縮によって間に亀裂が入り、密着性が低下し、剥離する。この結果、電流の流れる経路が減少し、電気抵抗が増加する。
【0070】
図5は導電助剤の伝導経路切れを説明する説明図である。蓄電デバイス1における電極材料は電子伝導性に劣ることが多いので、アセチレンブラックなどの導電性の助剤を少量添加することで導電性を保っている。しかしながら、充放電に伴う粒子(電極を構成する活物質粒子)の膨張収縮によって助剤が切断されてしまうことがある。または、導電助剤が化学反応により消失する場合もある。この結果、電流の流れる経路が減少し、電気抵抗が増大する。
【0071】
図6は抵抗体被膜形成を説明する説明図である。充放電に伴って、活物質粒子の表面に抵抗体の被膜が形成される。例えば、リチウムイオン電池の場合、電解液中の有機物とリチウムイオンとからなる化合物による被膜が形成される。このような被膜は、導電性に劣るため電気抵抗が増大する。
【0072】
電気抵抗が増大する速度、すなわち電気伝導率が減少する速度は、例えば、以下の数11及び数12の式により計算される。
【0073】
【0074】
ここで、rcycle,res はサイクル数によって電気伝導率が減少する速度(S/m/サイクル数)を表す。典型的には、rcycle,res <0である。k0,res は反応速度定数であり、例えばサイクル数の関数である。Ea0,resはサイクル劣化の活性化エネルギ(J/mol)を表し、温度の影響を表す係数である。iは電流密度(A/m2 )であり、||は絶対値を表す。電流密度iの大きさは、電極の膨張収縮速度に関連し、クリープや亀裂進展のような歪み速度依存の破壊現象を表す係数である。αres は定数である。k0,res 、Ea0,res、αres の値はユーザによって設定されてもよく、推定装置10において予め設定されてもよい。温度が低下するほど電気伝導率の減少が速くなることが多いため、Ea0,res<0.0とされることが好ましい。電気伝導率の減少を考慮する必要がない場合には、k0,res =0.0とするなど、適宜に無効化してよい。
【0075】
【0076】
ここで、rt,res は経過時間によって電気伝導率が減少する速度である(S/m/s)を表す。典型的には、rt,res <0である。k1,res は反応速度定数であり、例えば時間の関数である。代替的に、k1,res は実験データに基づく任意の関数により定義してもよい。Ea1,resは経時劣化の活性化エネルギ(J/mol)を表し、温度の影響を表す係数である。Δtは経過時間(s)である。k1,res 、Ea1,resの値はユーザによって設定されてよく、推定装置10において予め設定されてもよい。
【0077】
Nサイクル時点の電気伝導率をσs (N)とすると、σs (N+1)は、σs (N)にサイクル劣化速度と、1サイクルの経時劣化速度とを足した数11の式により表される。rcycle,res <0及びrt,res <0に注意すると、典型的には、σs (N+1)<σs (N)であり、サイクル数増加や時間の経過と共に、電気伝導率は低下する。
【0078】
【0079】
数12及び数13に示す演算式は例示に過ぎず、実験結果や文献データなどに基づいて自由に改変してもよい。例えば、電気伝導率が減少する速度は、SOCの上限及び下限の関数とした数14を用いて計算されてもよい。ここで、SOCの上限及び下限とは、蓄電デバイス1の使用範囲における上限及び下限を表す。
【0080】
【0081】
電気抵抗の増加などの劣化が進行するのは、充放電による膨張収縮による応力が原因と言われている。膨張収縮の大きさはSOCの使用範囲と関係があることが知られており、特にSOCの下限まで使用することで膨張収縮が大きくなることが知られている。そこで、SOCの上限と下限との関数として劣化速度を与えるとよい。通電しない場合は膨張収縮しないので、サイクル劣化のみを考慮すれば十分であることが多い。このため、電気伝導率が減少する速度は、SOCの上限値SOCmax と下限値SOCmin とを引数とする関数を因数として乗じた数12により計算されてもよい。上限値SOCmax 及び下限値SOCmin の値は、電流積算法によって算出される各時刻のSOCから導出される。多くの場合、(SOCmax -SOCmin )の値が大きくなるほど電気抵抗増大の速度が速くなることが知られているため、(SOCmax -SOCmin )が大きくなるにつれて反応速度が速くなる関数が用いられることが好ましい。
【0082】
電気伝導率が減少する速度を計算する上述の数11~数14の中で、k0,res 、Ea0,res、αres 、k1,res 、Ea1,res、SOCmax 、SOCmin のパラメータを用いたが、これらの値は、集電箔と電極との間の剥離、導電助剤の伝導経路切れ、抵抗体被膜形成に関し、正極及び負極においてそれぞれ異なる値を用いることが好ましい。これらの値は、充電過程と放電過程とで異なる値であってもよい。代替的に、これらの値は、必要に応じて一部または全部を同一の値としてもよい。更に代替的に、k0,res の値を0.0として、適宜に無効化してよい。
【0083】
第4の劣化メカニズムとして、電解液における導電性の低下について説明する。電解液における導電性の低下による劣化メカニズムとは、電荷のキャリアが消失することによる導電性低下、電極体内の微小な気泡発生による導電性の低下、溶媒和の分子構造変化、セパレータの目詰まりなどによって、電解液の抵抗率が増加し、電池の内部抵抗が大きくなり、容量が低下する現象である。電荷のキャリア消失は、主として活物質粒子の表面に抵抗体被膜が形成された場合に生じる。
【0084】
充放電を繰り返すと、電解液中のリチウムイオンが減少することが知られている。電解液のイオン導電率は、リチウムイオン濃度の関数であり、一般的に初期製造時に最大であるが、リチウムイオン濃度の低下と共に低下することが知られている。
図7は電解液中のリチウムイオン濃度とイオン導電率との関係を示すグラフである。
図7に示すグラフの横軸は電解液中のリチウムイオン濃度を示し、縦軸はイオン導電率を示している。電解液中のリチウムイオン濃度とイオン導電率との関係は、
図7に示すような関係になることが多い。導電性の低下速度は、例えば、数11及び数12と同様の関数により計算される。代替的に、導電性の低下速度は、SOCの上限及び下限の関数を因数とした数14と同様の式を用いて計算されてもよい。代替的に、イオン導電率だけでなく、拡散係数を変更してもよい。
【0085】
電解液のリチウムイオン濃度が減少する要因は、ごく微量の電解液の正極での酸化反応の生成物などによって、電解質塩が不溶物として析出することが考えられる。その結果として、負極での電解液の還元分解で消費された電子数よりも多くのリチウムイオンをトラップする反応が生じている。この反応が進むことによって、徐々に電解液中のリチウムイオン濃度が低下し、イオン導電率の低下に繋がる。
【0086】
図8は蓄電デバイス1の容量低下の内訳を説明する説明図である。
図8の上段に示すグラフは、蓄電デバイス1の放電特性を示すグラフであり、横軸は放電容量(Ah)、縦軸は電池電圧(V)を表す。蓄電デバイス1の容量が
図8に示すように、破線で示す初期状態から実線で示す劣化状態に遷移した場合、その容量低下は、孤立化に起因する容量低下(ΔQ
iso )、電荷担体の減少に起因する容量低下(ΔQ
imb )、及びその他に起因する容量低下(ΔQ
res )の和として表される。その他に起因する容量低下ΔQ
res は、第3の劣化メカニズム(電気抵抗の増加)に起因する容量低下と、第4の劣化メカニズム(電解液の導電性低下)に起因する容量低下とを含む。
【0087】
制御部11は、容量低下ΔQres を計算する際、第1の劣化メカニズムに起因する容量低下ΔQiso を数7に従って計算し、第2の劣化メカニズムに起因する容量低下ΔQimb を数10に従って計算した後、全体の容量低下分からΔQiso 及びΔQimb を減算することによって、残りの容量低下ΔQres を計算すればよい。
【0088】
制御部11は、残りの容量低下ΔQres の内訳を計算する場合、注目する劣化メカニズム以外の影響を排除するために、これらの劣化メカニズムで用いる導電率や交換電流密度の値を非常に大きな値(例えば、初期値の1000倍)に変更した上で、注目する劣化メカニズムに起因する容量低下を計算すればよい。例えば、第3の劣化メカニズムに起因する容量低下を計算する場合、第1の劣化メカニズムにおける固相体積比率を製造時の値とし、第2の劣化メカニズムにおける電荷担体量を製造時の値とし、第4の劣化メカニズムにおける電解液の導電率や拡散係数を製造時の値として、計算すればよい。同様に、第4の劣化メカニズムに起因する容量低下を計算する場合、第1の劣化メカニズムにおける固相体積比率を製造時の値とし、第2の劣化メカニズムにおける電荷担体量を製造時の値とし、第3の劣化メカニズムにおける電気抵抗の増加量をゼロとして計算すればよい。
【0089】
実施の形態1に係る推定装置10は、劣化メカニズム毎の劣化量を推定することにより、劣化要因を特定し、特定した劣化要因に応じて、蓄電デバイス1のリユース方法を提案する。
【0090】
例えば、蓄電デバイス1が寒冷地の自動車に使用されている場合、放電電流は大きく、温度は低く、SOCの変動幅は大きくなることが多いので、集電箔及び電極間の剥離や導電助剤間の切断が発生し、電気抵抗の増加が起こりやすい。一方で、孤立化や電荷担体の減少は生じにくい。すなわち、このような蓄電デバイス1では、電気抵抗の増加が劣化の主要因となる可能性が高い。実施の形態1に係る推定装置10は、劣化メカニズム毎の劣化量を推定することにより、劣化要因を特定できる。主な劣化要因が電気抵抗の増加であり、孤立化や電荷担体の減少が進んでいない場合、貯蔵できる電気量は製造時から減少していないと推定される。この蓄電デバイス1をリユースする場合、小電流での使用には問題がないので、太陽光発電、風力発電、地熱発電などの変動が比較的小さい発電機で生じる電流を蓄電する用途に用いればよい。このことから、主な劣化要因が電気抵抗の増加である場合、推定装置10の制御部11は、リユースの用途として、自然エネルギの蓄電用途を推奨する旨の情報を出力する。
【0091】
蓄電デバイス1が熱帯地の自動車に使用されている場合、放電電流は大きく、温度は高く、SOCの変動幅は大きくなることが多いので、孤立化が顕著に進行している可能性が高い。孤立化が進行した蓄電デバイス1は、貯蔵できる電気量が減っているため、長時間用途や大電流用途には向かない。このことから、主な劣化要因が孤立化である場合、推定装置10の制御部11は、リユース用途として、無停電電源装置(UPS)などの短時間の補助電源や防災用蓄電池向け電源を推奨する旨の情報を出力する。
【0092】
蓄電デバイス1が建築物の補助電源や電源システムに使用されている場合、放電電流は小さく、温度変化は少なく、SOCの変動幅は小さくなることが多いので、電気抵抗の増加や孤立化は進行していない可能性が高い。一方で、長期にわたり使用されることが多いため、負極表面の被膜が成長し、電荷担体の減少(容量バランスずれ)が進行していることが多い。この場合、蓄電デバイス1の開回路電位は低下する。このことから、主な劣化要因が電荷担体の減少である場合、推定装置10の制御部11は、リユース用途として、無停電電源装置(UPS)などの短時間の補助電源や防災用蓄電池向け電源を推奨する旨の情報を出力する。補助電源や防災用蓄電池向け電源としてのリユースが困難である場合、制御部11は、解体洗浄後のリサイクルを提案してもよい。リサイクルとは電池の回収及び解体を経て再利用することであり、単電池の解体を伴わないリユースとは異なる。劣化要因が電荷担体の減少である場合、負極の活物質粒子表面にある被膜を剥がせば、電極材料は新品同様となるので、リサイクルが比較的容易となる。一方、孤立化や電気抵抗の増加が進行した電極材料をリサイクルするのは、造粒からやり直しとなるため、容易ではない。
【0093】
以下、推定装置10が実行する処理について説明する。
図9は実施の形態1に係る推定装置10が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。推定装置10の制御部11は、入力部13を通じて、蓄電デバイス1の放電電流及び温度の計測データを取得する(ステップS101)。蓄電デバイス1の放電電流は、電流センサ131により時系列的に計測される計測値であり、蓄電デバイス1の温度は、温度センサ132により時系列的に計測される計測値である。
【0094】
次いで、制御部11は、取得した計測データに基づき、劣化メカニズム毎の劣化量を推定する(ステップS102)。制御部11は、入力部13より計測データを取得する都度、その時点の劣化量を推定してもよく、一定期間の計測データを記憶部12に記憶させた後、記憶部12から順次計測データを読み出して各時点の劣化量を推定してもよい。
【0095】
制御部11は、孤立化(第1の劣化メカニズム)に起因する容量低下ΔQiso を数7に従って計算し、電荷担体の減少(第2の劣化メカニズム)に起因する容量低下ΔQimb を数10に従って計算する。製造時の電池容量Q0 は初期値として事前に与えられてもよく、初回の動作時に数4に従って制御部11が計算してもよい。制御部11は、蓄電デバイス1を構成する各要素における電気抵抗の増加(第3の劣化メカニズム)、及び電解液における導電性の低下(第4の劣化メカニズム)の少なくとも一方に起因する劣化量(容量低下)を更に計算してもよい。第3及び第4の劣化メカニズムに起因する劣化量は、全体の容量低下分からΔQiso 及びΔQimb を減算することによって計算される。第3及び第4の劣化メカニズムに起因する劣化量を個別に計算する場合、他の劣化メカニズムによる影響を排除するために、導電率や交換電流密度等のパラメータを変更した上で、第3又は第4の劣化メカニズムに起因する劣化量を計算すればよい。
【0096】
次いで、制御部11は、蓄電デバイス1の主な劣化要因を特定する(ステップS103)。制御部11は、ステップS102において算出した劣化メカニズム毎の劣化量を参照し、主な劣化メカニズムを決定する。主な劣化メカニズムは、必ずしも最も劣化量が大きい劣化メカニズムである必要はない。
【0097】
次いで、制御部11は、特定した主な劣化要因に応じて、蓄電デバイス1に関して推奨するリユース方法の情報を生成し、生成したリユース方法の情報を出力部14より出力する(ステップS104)。例えば、主な劣化要因が電気抵抗の増加である場合、制御部11は、リユースの用途として、自然エネルギの蓄電用途を推奨する旨の情報を出力する。主な劣化要因が孤立化である場合、制御部11は、リユースの用途として、補助電源や防災用蓄電池向け電源を推奨する旨の情報を出力する。主な劣化要因が電荷担体の減少である場合、制御部11は、リユースの用途として、補助電源や防災用蓄電池向け電源を推奨する旨の情報を出力してもよく、リユースが困難である場合、解体洗浄後のリサイクルを提案してもよい。出力部14より出力される情報は、例えば表示装置140にて表示される。代替的に、制御部11は、リユース方法の情報を、ユーザや電池管理業者等が使用する端末装置に通知してもよい。
【0098】
以上のように、実施の形態1に係る推定装置10は、劣化メカニズム毎の劣化量を推定し、推定した劣化メカニズム毎の劣化量に応じて劣化要因を特定する。推定装置10は、劣化要因に応じた蓄電デバイス1のリユース方法をユーザや電池管理業者等に提案できる。
【0099】
実施の形態1では、劣化要因に応じた蓄電デバイス1のリユース方法をユーザや電池管理業者等に提案する構成とした。代替的に、ユーザの使用環境に適した電池機種や設計案を提案してもよい。例えば、ユーザの使用環境において、電解液枯れによる劣化が進行しやすいと推定される場合、推定装置10は、電解液枯れの劣化対策に特化した機種をユーザに提案してもよく、電解液枯れの劣化対策を施した機種の開発を電池管理業者に提案してもよい。
【0100】
(実施の形態2)
実施の形態2では、計測データより推定される蓄電デバイス1の劣化量と、運用条件を仮想的に変更して推定される蓄電デバイス1の劣化量とに基づき、推奨する運用条件を決定し、決定した運用条件の情報を出力する構成について説明する。
【0101】
図10は放電容量の時間推移を示すグラフである。グラフの横軸は運用開始後の経過時間を示し、縦軸は蓄電デバイス1の放電容量を示す。実線で示すグラフは、計測データから推定される放電容量の時間推移であり、実線に連なる点線部分は放電容量の予測値の時間推移である。破線で示すグラフは、運用条件を仮想的に変更して推定される放電容量の時間推移である。
【0102】
計測データから推定される放電容量の時間推移は推定装置10の制御部11により導出される。制御部11は、電流センサ131及び温度センサ132により時系列的に計測される放電電流及び温度の計測データを取得し、実施の形態1で説明した劣化シミュレーションを用いることにより、過去の各時点における蓄電デバイス1の劣化量を推定する。制御部11は、推定した各時点の劣化量を初期状態の放電容量から減算することにより、放電容量の時間推移(履歴)を導出する。制御部11は、導出した放電容量の時間推移(履歴)から、将来における放電容量の時間推移を予測することができる。例えば、制御部11は、現時点までの放電容量の履歴を用いて、例えば将来にわたり同様の使用方法を継続すると仮定して、将来の各時点における放電容量を予測すればよい。代替的に、制御部11は、将来の時点の放電電流及び温度を推定し、推定した放電電流及び温度に基づき劣化量を求めることにより、将来における放電容量の時間推移を予測してもよい。
【0103】
運用条件を仮想的に変更したときの放電容量の時間推移は推定装置10の制御部11により推定される。制御部11は、変更後の運用条件に応じて、シミュレーションに用いる各時点の放電電流、温度、SOC等の値を適宜設定し、実施の形態1で説明した劣化シミュレータを用いることにより、各時点における蓄電デバイス1の劣化量を推定する。制御部11は、推定した各時点の劣化量を初期状態の放電容量から減算することにより、運用条件を仮想的に変更したときの放電容量の時間推移(予測値)を導出する。
【0104】
制御部11は、計測データから推定される放電容量の時間推移と、運用条件を仮想的に変更して推定される放電容量の時間推移とに基づき、推奨する蓄電デバイス1の運用条件を決定し、決定した運用条件の情報を出力する。例えば、温度を5℃低く設定した運用条件にてシミュレーションを実行し、寿命が1年延びるとの推定結果が得られた場合、制御部11は、蓄電デバイス1の使用温度を5℃下げた場合、寿命が1年延びる旨の情報を出力する。同様に、SOCの使用範囲を現状の範囲(例えば0~100%)から狭めた範囲(例えば10~100%)に変更した運用条件にてシミュレーションを実行し、寿命が1年延びるとの推定結果が得られた場合、制御部11は、電池残量(SOC)が残り10%まで低下した場合に充電することにより、寿命が1年延びる旨の情報を出力してもよい。代替的に、制御部11は、蓄電デバイス1の寿命を、蓄電デバイス1が搭載される装置の駆動時間や車両の走行距離などに換算し、換算して得られる駆動時間や走行距離などの情報を出力してもよい。
【0105】
図11は実施の形態2に係る推定装置10が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。推定装置10の制御部11は、入力部13を通じて、蓄電デバイス1の放電電流及び温度の計測データを取得する(ステップS201)。蓄電デバイス1の放電電流は、電流センサ131により時系列的に計測される計測値であり、蓄電デバイス1の温度は、温度センサ132により時系列的に計測される計測値である。
【0106】
次いで、制御部11は、計測データに基づき放電容量の時間推移を導出する(ステップS202)。このとき、制御部11は、ステップS201で取得した計測データに基づき、蓄電デバイス1の劣化量を推定する。劣化量の推定には、実施の形態1において説明した劣化シミュレータが用いられる。制御部11は、入力部13より計測データを取得する都度、その時点の劣化量を推定してもよく、一定期間の計測データを記憶部12に記憶させた後、記憶部12から順次計測データを読み出して各時点の劣化量を推定してもよい。制御部11は、各時点の劣化量を初期状態の放電容量から減算することにより、放電容量の時間推移(履歴)を導出する。制御部11は、導出した放電容量の時間推移(履歴)から、将来における放電容量の時間推移を予測してもよい。
【0107】
次いで、制御部11は、運用条件を仮想的に変更し(ステップS203)、変更後の運用条件に従って、放電容量の時間推移を導出する(ステップS204)。このとき、制御部11は、変更後の運用条件に応じて、シミュレーションに用いる各時点の放電電流、温度、SOC等の値を適宜設定し、劣化シミュレータを用いて各時点における蓄電デバイス1の劣化量を推定する。制御部11は、各時点の劣化量を初期状態の放電容量から減算することにより、運用条件を変更した場合の放電容量の時間推移(予測値)を導出する。
【0108】
次いで、制御部11は、推奨する運用条件を決定する(ステップS205)。制御部11は、推奨する運用条件を決定するために、放電電流、温度、SOC等の条件を様々に変更して、ステップS203及びステップS204の処理を複数回実行してもよい。制御部11は、運用条件を変更することによって、例えば蓄電デバイス1の寿命が延びることを見出した場合、その運用条件を、推奨する運用条件として決定すればよい。
【0109】
次いで、制御部11は、推奨する運用条件の情報を出力部14より出力する(ステップS206)。制御部11は、出力部14に接続された表示装置140に情報を出力し、表示装置140に推奨する運用条件の情報を表示させてもよい。代替的に、制御部11は、推奨する運用条件の情報を、ユーザや電池管理業者等が使用する端末装置に通知してもよい。
【0110】
以上のように、実施の形態2に係る推定装置10は、計測データから導出した放電容量の時間推移と、運用条件を仮想的に変更して導出した放電容量の時間推移とに基づき、推奨する運用条件を決定する。推定装置10は、蓄電デバイス1に関して推奨する運用条件をユーザや電池管理業者等に提案できる。
【0111】
(実施の形態3)
実施の形態3では、蓄電デバイス1の残価値を算出し、算出した残価値に基づき交換時期の情報を出力する構成について説明する。
【0112】
図12は残価値の時間推移を示すグラフである。グラフの横軸は運用開始後の経過時間を示し、縦軸は蓄電デバイス1の残価値を示す。推定装置10の制御部11は、例えば活物質粒子の孤立化による容量低下が蓄電デバイス1の残価値に概ね比例することに基づき、蓄電デバイス1の残価値を算出する。活物質粒子の孤立化は、実施の形態1において説明したように、第1の劣化メカニズム(活物質粒子の孤立化)に起因した蓄電デバイス1の劣化量から推定される。制御部11は、推定した劣化量を初期状態の放電容量から減算して残容量を算出し、算出した残容量に予め設定した比例定数を乗算することにより、残価値を導出する。
【0113】
制御部11は、将来における残価値の時間推移を予測してもよい。例えば、制御部11は、現時点までの残価値の履歴を用いて、例えば将来にわたり同様の使用方法を継続すると仮定して、将来の各時点における残価値を予測すればよい。制御部11は、将来時点における残価値の予測値に基づいて、リユース品の取引価格を決定してもよい。代替的に、制御部11は、将来の時点の放電電流及び温度を推定し、推定した放電電流及び温度に基づき活物質粒子の孤立化に起因した劣化量を求めることにより、将来における残価値の時間推移を予測してもよい。
【0114】
制御部11は、導出した残価値に基づき、蓄電デバイス1の交換時期に関する情報を出力する。蓄電デバイス1における活物質粒子の孤立化はサイクル末期に急激に進展することが知られている。サイクル末期において孤立化が急激に進展した場合、蓄電デバイス1の残価値は急減する。そこで、制御部11は、残価値が急減するタイミングよりも前の所定期間を蓄電デバイス1の交換時期としてユーザ等に通知すればよい。
【0115】
電池は期待される寿命を超えて使われる懸念がある。寿命末期の電池は、抵抗が大きく、容量が小さく、更には、使用に伴って急激な劣化が生じることがある。このような電池を他の電池と組合せて電池システムとして利用した場合、用いた電池が期待通りの性能を発揮できないばかりか、電池システム全体の性能が大幅に低下する懸念がある。本技術により、ユーザへの廃棄時期の提案を行うこと、あるいは、BMUで電池の充放電を禁止したり、バイパスする処置をとれば、このような懸念を払拭することができる。
【0116】
図13は実施の形態3に係る推定装置10が実行する処理の手順を説明するフローチャートである。推定装置10の制御部11は、入力部13を通じて、蓄電デバイス1の放電電流及び温度の計測データを取得する(ステップS301)。蓄電デバイス1の放電電流は、電流センサ131により時系列的に計測される計測値であり、蓄電デバイス1の温度は、温度センサ132により時系列的に計測される計測値である。
【0117】
次いで、制御部11は、計測データに基づき蓄電デバイス1の残価値の時間推移を導出する(ステップS302)。このとき、制御部11は、ステップS301で取得した計測データに基づき、第1の劣化メカニズム(活物質粒子の孤立化)に起因した蓄電デバイス1の劣化量を推定する。劣化量の推定には、実施の形態1において説明した劣化シミュレータが用いられる。制御部11は、入力部13より計測データを取得する都度、その時点の劣化量を推定してもよく、一定期間の計測データを記憶部12に記憶させた後、記憶部12から順次計測データを読み出して各時点の劣化量を推定してもよい。制御部11は、推定した各時点の劣化量から各時点の残容量を求め、残容量に予め設定した比例定数を乗算することにより、残価値の時間推移を導出する。
【0118】
次いで、制御部11は、導出した残価値の時間推移に基づき、蓄電デバイス1の交換時期に関する情報を出力する(ステップS303)。制御部11は、残価値が急減するタイミングよりも前の所定期間を蓄電デバイス1の交換時期として通知すればよい。残価値が急減するタイミングは、例えば単位時間当たり残価値の減少度合いが閾値よりも大きくなるタイミングとして特定される。交換時期は、残価値が急減するタイミングより前の所定期間(例えば3ヶ月前~1ヶ月前)として定めればよい。制御部11は、出力部14に接続された表示装置140に推奨する交換時期の情報を表示させる。代替的に、制御部11は、推奨する交換時期の情報を、ユーザや電池管理業者等が使用する端末装置に通知してもよい。
【0119】
電池管理業者は、シミュレーション結果として得られた劣化の進行度合い、すなわち残価値を元に、中古買取価格を設定し、ユーザに買取価格を提示してもよい。
【0120】
以上のように、実施の形態3に係る推定装置10は、蓄電デバイス1の残価値を算出し、算出した残価値に基づき交換時期の情報を出力するので、蓄電デバイス1が再利用可能なタイミングでユーザに交換を促すことができる。
【0121】
実施の形態3では、例示的に活物質粒子の孤立化によって残価値が決まるとして説明した。代替的に、電気抵抗の増加、電荷担体の減少、電解液における導電性の低下などの影響を含めて残価値を判定してもよく、組み合わせや重み付けは残価値判定の実施者によって自由になされてよい。
推定装置10が、蓄電デバイス1に備えられる回路基板により実装される場合(
図1参照)、システムから取外されて推定装置10が付属した状態で流通された蓄電デバイス1について、ユーザや電池管理業者等が使用する端末装置において、残価値判定や種々評価を行うことができる。
【0122】
開示された実施形態は、全ての点において例示であって、制限的なものではない。本発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0123】
1 蓄電デバイス
10 推定装置
11 制御部
12 記憶部
13 入力部
14 出力部
131 電流センサ
132 温度センサ
140 表示装置