(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ボールねじ装置
(51)【国際特許分類】
F16H 25/22 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
F16H25/22 F
(21)【出願番号】P 2020056298
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2023-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001247
【氏名又は名称】株式会社ジェイテクト
(74)【代理人】
【識別番号】110000280
【氏名又は名称】弁理士法人サンクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】新本 元東
【審査官】増岡 亘
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2016/0186825(US,A1)
【文献】特表2010-505072(JP,A)
【文献】特開2018-168926(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102017127404(DE,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 25/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外周に第一螺旋溝が形成されているねじ軸と、
前記ねじ軸の外周側に設けられ内周に第二螺旋溝が形成されているナットと、
前記第一螺旋溝と前記第二螺旋溝との間に設けられている複数のボールと、
前記第二螺旋溝の端部に設けられているストッパと、
前記複数のボールのうち前記ストッパに最も近い端部ボールと当該ストッパとの間に配置されているばね体と、を備え、
前記ばね体は、前記第一螺旋溝及び前記第二螺旋溝に沿って
直列状態となって並んで設けられている複数のコイルばねにより構成され、隣り合う前記コイルばね同士は接触していて、
隣り合う前記コイルばねそれぞれは、ばね中間部よりも剛性が高くなるばね端部を有する、ボールねじ装置。
【請求項2】
前記ばね端部は、前記ばね中間部よりもピッチが狭いことにより、当該ばね中間部が弾性圧縮変形する荷重で圧縮されると線間密着可能である、請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項3】
前記ばね端部は、線間密着の状態にある、請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項4】
前記ばね端部は、前記ばね中間部よりもピッチが広いことでばね定数が高い、請求項1に記載のボールねじ装置。
【請求項5】
隣り合う二つの前記ばね端部のばね長手方向の合計寸法は、前記コイルばねのコイル平均径よりも小さい、請求項1~3のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【請求項6】
前記端部ボールと前記ストッパとの間に配置されている複数のコイルばねにおいて、前記ストッパ側のコイルばねは、前記端部ボール側のコイルばねよりも、ばね定数が小さい、請求項1~5のいずれか一項に記載のボールねじ装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボールねじ装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1に、自動車のブレーキ装置に適用可能なボールねじ装置が開示されている。このボールねじ装置は、外周に螺旋溝が形成されているねじ軸と、ねじ軸の外周側に設けられ内周に螺旋溝が形成されているナットと、ねじ軸の螺旋溝とナットの螺旋溝との間に設けられている複数のボールとを有する。ねじ軸が回転することにより、ナットがねじ軸の軸方向に沿って移動する。特許文献1に開示のボールねじ装置は、ナットの移動の際、複数のボールが循環する型式の装置ではなく、複数のボールがナットの螺旋溝内に留まって転動する非循環式の装置である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図9は、非循環式のボールねじ装置が有するねじ軸の螺旋溝及びナットの螺旋溝の一部を軸方向から見た説明図である。ナット90の螺旋溝90aの端部にストッパ(ストッパボール)92が設けられている。複数のボール99のうちストッパ92に最も近い端部ボール99aと、ストッパ92との間にコイルばね93が設けられている。
【0005】
ねじ軸94の回転によりナット90が移動する際、複数のボール99は、ねじ軸94の螺旋溝94a及びナット90の螺旋溝90aに沿って、矢印Jに示す方向に移動する。このため、端部ボール99aはコイルばね93を押し、そのコイルばね93を圧縮させる。そのコイルばね93のうち、端部ボール99a側の部分93aは圧縮されやすいが、ストッパ92側の部分93bは圧縮され難い。これは、コイルばね93と螺旋溝90a,94aとの間の摩擦抵抗によって、端部ボール99aがコイルばね93を押す力が、ストッパ92側に向かうにしたがって伝わり難くなるためである。
【0006】
このため、端部ボール99aとストッパ92との間でコイルばね93を全体として均等に圧縮変形させることができず、変形が大きい部分、つまり、端部ボール99a側の部分93aでの疲労が進む。その結果、コイルばね93の寿命は、全体として均等に圧縮変形する場合と比較して、短くなる可能性がある。
また、コイルばね93を全体的に圧縮変形させることができれば、ナット90の移動ストロークを大きくすることも可能となる。
【0007】
そこで、本開示は、従来よりも端部ボールとストッパとの間でコイルばねを全体的に圧縮変形させることが可能となる新たな技術的手段を備えたボールねじ装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のボールねじ装置は、外周に第一螺旋溝が形成されているねじ軸と、前記ねじ軸の外周側に設けられ内周に第二螺旋溝が形成されているナットと、前記第一螺旋溝と前記第二螺旋溝との間に設けられている複数のボールと、前記第二螺旋溝の端部に設けられているストッパと、前記複数のボールのうち前記ストッパに最も近い端部ボールと当該ストッパとの間に配置されているばね体と、を備え、前記ばね体は、前記第一螺旋溝及び前記第二螺旋溝に沿って直列状態となって並んで設けられている複数のコイルばねにより構成されている。
【0009】
前記ボールねじ装置によれば、端部ボールとストッパとの間においてコイルばねが複数に分けられて一列に並んで設けられている。このため、例えば、複数のコイルばねの特性をそれぞれ違えることで、従来よりも端部ボールとストッパとの間でコイルばねを全体的に圧縮変形させることが可能となる。その結果、コイルばねの寿命を延ばすことができる。
【0010】
本開示のボールねじ装置では、隣り合う前記コイルばね同士は接触していて、隣り合う前記コイルばねそれぞれは、ばね中間部よりも剛性が高くなるばね端部を有する。
コイルばねが複数に分けられると、ばね端部同士が接触する。ばね端部の形態がばね中間部の形態と同様であると、つまり、ばね端部の剛性が低いと、そのばね端部同士が接触した状態で、例えばばね端部の中心が不揃いとなったりして予期せぬ挙動が生じる可能性がある。この場合、ボールねじ装置としての機能が低下する。しかし、本開示のボールねじ装置によれば、ばね端部の剛性が高くなっている。その結果、隣り合うばね端部の姿勢及び挙動を安定させることが可能となる。
【0011】
ばね端部の剛性を高くするために、好ましくは、前記ばね端部は、前記ばね中間部よりもピッチが狭いことにより、当該ばね中間部が弾性圧縮変形する荷重で圧縮されると線間密着可能である。
この場合、コイルばねが圧縮されると、ばね中間部は弾性圧縮変形するが、ばね端部では線間密着可能である。コイルばねが圧縮され線間密着することで、ばね端部の剛性がばね中間部よりも高くなる。
【0012】
または、前記ばね端部は、線間密着の状態にある構成であってもよい。この構成により、ばね端部の剛性がばね中間部よりも高くなる。
【0013】
または、前記ばね端部は、前記ばね中間部よりもピッチが広いことでばね定数が高い構成であってもよい。コイルばねは、巻線のピッチが広く巻数が少ないことで、ばね定数が大きくなることから、前記構成によれば、ばね端部の剛性がばね中間部よりも高くなる。また、この構成の場合、ばね端部も弾性圧縮変形することが可能であることから、端部ボールとストッパとの間に配置されている複数のコイルばねにより構成されるばね体の有効長さが長くなる。このため、ナットの移動ストロークをより一層大きくすることが可能となる。
【0014】
また、好ましくは、隣り合う二つの前記ばね端部のばね長手方向の合計寸法は、前記コイルばねのコイル平均径よりも小さい。
複数のコイルばねの間に仮にスペーサボールを介在させる場合、そのスペーサボールの直径は、コイルばねのコイル平均径とほぼ同程度となる。そこで、前記構成によれば、ばね端部は短くなり、スペーサボールを採用するよりも、コイルばねの有効長を長くすることが可能となる。
【0015】
ねじ軸の回転により、ナットがねじ軸の軸方向に沿って移動し、複数のボールも第一螺旋溝及び第二螺旋溝に沿って移動する。複数のボールに含まれる端部ボールの移動により圧縮される複数のコイルばねにおいて、端部ボール側では圧縮されやすいが、ストッパ側では圧縮され難い。そこで、好ましくは、前記端部ボールと前記ストッパとの間に配置されている複数のコイルばねにおいて、前記ストッパ側のコイルばねは、前記端部ボール側のコイルばねよりも、ばね定数が小さい。
前記構成によれば、ストッパ側のコイルばねが圧縮変形しやすくなる。このため、複数のコイルばねにより構成されるばね体を全体的に圧縮変形させやすくなる。その結果、ナットの移動ストロークを大きくすることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本開示によれば、従来よりも端部ボールとストッパとの間でコイルばねを全体的に圧縮変形させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】ボールねじ装置を備えるブレーキ装置の一例を示す断面図である。
【
図4】第一螺旋溝及び第二螺旋溝を平面に展開した状態を示す説明図である。
【
図5】第一のばね体を、ボールねじ装置の軸方向から見た説明図である。
【
図6】隣接するコイルばねのばね端部(その1)の説明図である。
【
図7】隣接するコイルばねのばね端部(その2)の説明図である。
【
図8】隣接するコイルばねのばね端部(その3)の説明図である。
【
図9】非循環式のボールねじ装置が有するねじ軸の螺旋溝及びナットの螺旋溝の一部を軸方向から見た説明図である(従来技術)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
〔ブレーキ装置について〕
図1は、ボールねじ装置を備えるブレーキ装置の一例を示す断面図である。
図1に示すボールねじ装置17は、例えば、車両(自動車)のブレーキ装置5に用いられる。ブレーキ装置5は、自動車の車輪と一体回転するディスク6に対して摩擦による制動力を付与する。この制動力を発生させるために、ブレーキ装置5はボールねじ装置17を備える。
図1では、ブレーキ装置5は非制動状態にある。
【0019】
ブレーキ装置5は、図示しないナックル等に支持されたフローティングタイプのキャリパ7と、ディスク6を挟む一対のパッド8とを備える。キャリパ7は、第一ボディ9と、この第一ボディ9と一体となっている第二ボディ10とを備える。
【0020】
ボールねじ装置17が有する後述のハウジング21に、第一バックアッププレート12を介して、一方(
図1では右側)のパッド8が取り付けられている。他方(
図1では左側)のパッド8は、第二バックアッププレート13を介して、第二ボディ10に取り付けられている。
【0021】
第一ボディ9は、筒本体部14と底板部15とを含む筒形状(有底筒形状)を有し、ディスク6側に向かって開口している。筒本体部14の内側にボールねじ装置17が設けられている。ボールねじ装置17は、ねじ軸18と、ねじ軸18の外周側に設けられているナット19と、複数のボール20とを備える。ナット19にハウジング21が取り付けられている。ねじ軸18の中心線Cがボールねじ装置17の中心線となる。本開示では、この中心線Cに平行な方向を軸方向と呼ぶ。
【0022】
第一ボディ9の底板部15に、貫通孔16が形成されている。この貫通孔16に軸受22が取り付けられている。ねじ軸18は、軸受22により回転自在に支持されている。ハウジング21と筒本体部14との間にはキー24が設けられている。ハウジング21は、筒本体部14に対して軸方向に往復移動可能であるが、中心線C回りの周方向に回転不能となっている。
【0023】
ナット19とハウジング21とは一体となっている。ねじ軸18が中心線C回りに一方向に回転(正回転)すると、ナット19とハウジング21とは、ねじ軸18に沿って軸方向一方側(
図1では右側)から軸方向他方側(
図1では左側)へ移動する。これに対して、ねじ軸18が中心線C回りに他方向に回転(逆回転)すると、ナット19とハウジング21とは、ねじ軸18に沿って軸方向他方側から軸方向一方側へ移動する。
【0024】
筒本体部14の外側に、モータ(電動モータ)51と、減速装置23とが設けられている。モータ51にコントロールユニット52から指令信号が入力され、この指令信号に基づいてモータ51の出力軸は正回転、逆回転、停止する。減速装置23は、例えば複数のギアにより構成されていて、モータ51の出力軸の回転を減速してねじ軸18を回転させる。以上より、モータ51が回転するとナット19及びハウジング21が軸方向に移動する。つまり、モータ51から減速装置23を介して伝達されるねじ軸18の回転運動が、ボールねじ装置17によって、ナット19及びハウジング21の軸方向の直線運動に変換される。これにより、一対のパッド8がディスク6を挟み、制動力を発生させる。
【0025】
図2は、ボールねじ装置17の分解斜視図である。
図3は、ボールねじ装置17の断面図である。ねじ軸18の外周に、第一螺旋溝29が形成されている。ナット19の内周に、第二螺旋溝30が形成されている。複数のボール20により構成されているボール列25は、第一螺旋溝29と第二螺旋溝30との間に設けられている。
【0026】
図4は、第一螺旋溝29及び第二螺旋溝30を平面に展開した状態を示す説明図である。全てのボール20(ボール列25)は、ナット19の内周側に収容された状態にある。ボールねじ装置17は、更に、第二螺旋溝30の両端部に設けられているストッパ26,27を備える。ストッパ26,27は、ナット19の内周側(第二螺旋溝30)であって軸方向両側に設けられている。一方側の第一ストッパ26は、第二螺旋溝30の一方側の端の壁部により構成されている。前記壁部はナット19の一部である。他方側の第二ストッパ27は、第二螺旋溝30の他方側の端の壁部により構成されている。なお、第一ストッパ26及び第二ストッパ27の一方又は双方は、例えば、ナット19に移動不能となって設けられているボール、又は、ナット19に固定されているピン部材により構成されていてもよい。
【0027】
ボール列25に含まれる複数のボール20のうち、第一ストッパ26に最も近いボール20、つまり、
図4において最も右側のボール20を「第一端部ボール20a」と称する。第一端部ボール20aと第一ストッパ26との間に、コイルばねにより構成されている第一のばね体31が設けられている。第一のばね体31は、圧縮した状態にある。
【0028】
ボール列25に含まれる複数のボール20のうち、第二ストッパ27に最も近いボール20、つまり、
図4において最も左側のボール20を「第二端部ボール20b」と称する。第二端部ボール20bと第二ストッパ27との間に、コイルばねにより構成されている第二のばね体37が設けられている。第二のばね体37は、圧縮した状態にある。
【0029】
以上の構成を備えるボールねじ装置17は、ナット19がねじ軸18の軸方向に沿って移動する際、複数のボール20が第二螺旋溝30内に留まって転動する非循環式のボールねじ装置である。ナット19が初期位置にある状態から所定ストロークについて移動する。ナット19が初期位置から移動する場合、ボール列25の移動方向は第一ストッパ26に向かう方向である。つまり、ナット19が初期位置から移動する場合、ボール列25の移動方向は、第一のばね体31が更に圧縮される方向である。
【0030】
図5は、第一のばね体31を、ボールねじ装置17の軸方向から見た説明図である。前記のとおり、第一端部ボール20aと第一ストッパ26との間に、第一のばね体31が設けられている。第一のばね体31は、複数のコイルばね32を含む。その複数のコイルばね32は、第一螺旋溝29及び第二螺旋溝30に沿って直列状態となって並んで設けられている。隣り合うコイルばね32,32同士は端部において直接的に接触している。本開示では、第一のばね体31に、三つのコイルばね32a,32b,32cが含まれる。なお、第一のばね体31に含まれるコイルばね32の数は、ボールねじ装置17の型番等に応じて変更自在である。
【0031】
コイルばね32それぞれは、中間部と、その中間部分の両側の端部とを有する。本開示では、前記中間部を「ばね中間部33」と呼び、前記端部を「ばね端部34」と呼ぶ。隣り合うコイルばね32,32のばね端部34,34同士は相互で接触した状態にある。本開示の場合、第一コイルばね32aのばね端部34a-2と第二コイルばね32bの一方のばね端部34b-1とが接触した状態にあり、第二コイルばね32bの他方のばね端部34b-2と第三コイルばね32cのばね端部34c-1とが接触した状態にある。
【0032】
第一のばね体31において、複数のコイルばね32a,32b,32cの特性(ばね定数)は、それぞれ異なっている。第一ストッパ26側の第三コイルばね32cは、第二コイルばね32bよりもばね定数が小さく、第二コイルばね32bは、端部ボール20a側の第一コイルばね32aよりもばね定数が小さい。なお、ここで説明するばね定数は、ばね中間部33における値である。つまり、第一のばね体31において、第一ストッパ26側のコイルばね32のばね中間部33は、端部ボール20a側のコイルばね32のばね中間部33よりも、ばね定数が小さい。
なお、コイルばね32a,32b,32cそれぞれのコイル平均径D(
図6参照)は、同じである。コイルばね32a,32b,32cそれぞれの素線(巻線)の直径は、同じであってもよく、異なっていてもよい。コイルばね32a,32b,32cそれぞれの長さは、同じであってもよく、異なっていてもよい。
【0033】
端部ボール20aに直接、接触する第一コイルばね32aについて説明する。
第一コイルばね32aの一方のばね端部34a-1は、端部ボール20aに接触している。ばね端部34a-1は、ばね中間部33aと同じ特性(同じ剛性)を有している。
第一コイルばね32aの他方のばね端部34a-2は、第一コイルばね32aのばね中間部33aよりも剛性が高くなる構成を備える。本開示では、
図6に示すように、ばね端部34a-2は線間密着している。つまり、コイルばね32aを構成する巻線の間隔がばね端部34a-2でゼロとなっている。なお、剛性を高くするために、他の構成であってもよく、後に説明する。
図6では、第一コイルばね32aと第二コイルばね32bとの境界を一点鎖線で示している。
【0034】
第一コイルばね32aの隣りの第二コイルばね32bについて説明する。
第二コイルばね32bの一方のばね端部34b-1は、第一コイルばね32aのばね端部34a-2に接触している。第二コイルばね32bの一方のばね端部34b-1は、第二コイルばね32bのばね中間部33bよりも剛性が高くなる構成を備える。本開示では、
図6に示すように、ばね端部34b-1は線間密着している。
第二コイルばね32bの他方のばね端部34b-2(
図5参照)は、第三コイルばね32cのばね端部34c-1に接触している。第二コイルばね32bの他方のばね端部34b-2は、第二コイルばね32bのばね中間部33bよりも剛性が高くなる構成を備える。本開示では、ばね端部34b-2は線間密着している。
【0035】
第一ストッパ26に直接、接触する第三コイルばね32cについて説明する。
第三コイルばね32cの一方のばね端部34c-1は、第二コイルばね32bのばね端部34b-2に接触している。第三コイルばね32cの一方のばね端部34c-1は、第三コイルばね32cの中間部33cよりも剛性が高くなる構成を備える。本開示では、ばね端部34c-1は線間密着している。
第三コイルばね32cの他方のばね端部34c-2は、第一ストッパ26に接触している。ばね端部34c-2は、ばね中間部33cと同じ特性(同じ剛性)を有している。
【0036】
以上のように、隣り合う第一コイルばね32a及び第二コイルばね32bそれぞれは、ばね中間部33a,33bよりも剛性が高くなるばね端部34a-2,34b-1を有する。隣り合う第二コイルばね32b及び第三コイルばね32cそれぞれは、ばね中間部33b,33cよりも剛性が高くなるばね端部34b-2,34c-1を有する。
【0037】
〔ばね端部34の剛性を高くするための構成(その1)〕
前記のとおり、ばね端部34の剛性をばね中間部33よりも高くするために、そのばね端部34は線間密着の状態にある。この構成により、隣り合うばね端部34,34それぞれの姿勢及び挙動を安定させることが可能となる。更に、隣りのコイルばね32の素線がばね端部34に入り込みにくい。例えば、
図6において、第一コイルばね32aのばね端部34a-2が線間密着していることで、そのばね端部34a-2と接触する第二コイルばね32bのばね端部34b-1の素線が、ばね端部34a-2に入り込み難くなる。また、同様に、第二コイルばね32bのばね端部34b-1が線間密着していることで、そのばね端部34b-1と接触する第一コイルばね32aのばね端部34a-2の素線が、ばね端部34b-1に入り込み難くなる。
【0038】
前記のとおり、三つのコイルばね32のコイル平均径Dは同じである。
一方のばね端部34a-2と、他方のばね端部34b-1とが接触している。一方のばね端部34a-2のばね長手方向の寸法はL1であり、他方のばね端部34b-1のばね長手方向の寸法はL2である。なお、ばね長手方向とは、コイルばね32の中心線に沿った方向の長さである。
図6に示す形態では、寸法L1,L2それぞれは、線間密着している部分のばね長手方向の寸法である。本開示では、一方のばね端部34a-2のばね長手方向の寸法L1と、他方のばね端部34b-1のばね長手方向の寸法L2との和(L1+L2)は、コイルばね32のコイル平均径Dよりも小さい(L1+L2<D)。
【0039】
また、第二コイルばね32bと第三コイルばね32c(
図5参照)とのばね端部34b-2とばね端部34c-1とにおいても、同様の構成を有する。つまり、一方のばね端部34b-2のばね長手方向の寸法と、他方のばね端部34c-1のばね長手方向の寸法との和は、コイルばね32b,32cのコイル平均径よりも小さい。
【0040】
以上のように(
図6参照)、隣り合う二つのばね端部34a-2,34b-1のばね長手方向の合計寸法(L1+L2)は、コイルばね32a,32bのコイル平均径Dよりも小さい(L1+L2<D)。
【0041】
図6において、第一コイルばね32aと第二コイルばね32bとの間に、仮に(二点鎖線で示す)スペーサボール38を介在させる。この場合、そのスペーサボール38の直径dは、コイルばね32a(32b)のコイル平均径Dとほぼ同程度となる(d=D)。そこで、前記のようなL1+L2<Dの構成によれば、ばね端部34a-2,34b-1はばね長手方向に短くなり、スペーサボール38を採用する場合よりも、コイルばね32a,32bの有効長を長くすることが可能となる。
また、本開示のボールねじ装置17では、スペーサボール38が不要であり、ボールねじ装置17の部品点数が削減される。
【0042】
〔ばね端部34の剛性を高くするための構成(その2)〕
ばね端部34の剛性をばね中間部33よりも高くするために、ばね端部34は次のように構成されていてもよい。つまり、
図7に示すように、第一コイルばね32aのばね端部34a-2は、ばね中間部33aよりもピッチが狭い(
図7においてP2<P1)ことにより、そのばね中間部33aが弾性圧縮変形する荷重で圧縮されると、そのばね端部34a-2は線間密着可能となる。これと同様に、第二コイルばね32bのばね端部34b-1は、ばね中間部33bよりもピッチが狭いことにより、そのばね中間部33bが弾性圧縮変形する荷重で圧縮されると、そのばね端部34b-1は線間密着可能となる。
【0043】
図7に示す構成によれば、コイルばね32a,32bが圧縮されると、ばね中間部33a,33bは弾性圧縮変形するが、ばね端部34a-2,34b-1では線間密着可能である。コイルばね32a,32bが圧縮され、ばね端部34a-2,34b-1がそれぞれ線間密着することで、ばね端部34a-2,34b-1それぞれの剛性が、ばね中間部33a,33bよりも高くなる。このため、隣り合うばね端部34a-2,34b-1それぞれの姿勢及び挙動を安定させることが可能となる。そして、
図6に示す形態と同様、ばね端部34a-2(34b-1)が線間密着すれば、コイルばね32b(32a)の素線がそのばね端部34a-2(34b-1)に入り込み難くなる。
【0044】
第二コイルばね32bと第三コイルばね32cとが接触する接触部となる、ばね端部34b-2とばね端部34c-1においても、
図7に示す構成と同じ構成を備えている。このため、隣り合うばね端部34b-2,34c-1それぞれの姿勢及び挙動を安定させることが可能となる。
【0045】
図7に示す形態においても、隣り合う二つのばね端部34a-2,34b-1(34b-2,34c-1)が線間密着すると、
図6の形態と同様に、これらばね端部34a-2,34b-1(34b-2,34c-1)のばね長手方向の合計寸法は、コイルばね32a,32bのコイル平均径よりも小さくなるのが好ましい。
【0046】
〔ばね端部34の剛性を高くするための構成(その3)〕
ばね端部34の剛性をばね中間部33よりも高くするために、ばね端部34は、ばね中間部33よりもピッチが広いことで、ばね定数が高くなっている。
具体的に説明すると、
図8に示すように、第一コイルばね32aにおいて、ばね端部34a-2は、ばね中間部33aよりもピッチが広い(
図8においてP2>P1)。説明するまでもないが、コイルばねは、巻線(素線)のピッチが広く巻数が少ないことで、ばね定数が大きくなる。そこで、第一コイルばね32aにおいて、前記構成によれば、ばね端部34a-2の剛性がばね中間部33aよりも高くなる。
【0047】
第二コイルばね32bにおいて、ばね端部34b-1は、ばね中間部33bよりもピッチが広い。この構成によれば、第二コイルばね32bにおいて、ばね端部34b-1の剛性がばね中間部33bよりも高くなる。
【0048】
また、この構成(その3)の場合、ばね端部34a-2及びばね端部34b-1も、弾性圧縮変形することが可能である。このため、第一ばね体31の有効長さが長くなり、ナット19の移動ストロークを大きくすることが可能となる。
【0049】
〔本開示のボールねじ装置17について〕
以上のように、本開示のボールねじ装置17は(
図5参照)、ねじ軸18と、ナット19と、ねじ軸18の第一螺旋溝29とナット19の第二螺旋溝30との間に設けられている複数のボール20と、第二螺旋溝30の端部に設けられている第一ストッパ26と、端部ボール20aと第一ストッパ26との間に配置されている第一のばね体31とを備える。第一のばね体31は、第一螺旋溝29及び第二螺旋溝30に沿って一列となって並んで設けられている複数のコイルばね32(32a,32b,32c)により構成されている。
【0050】
前記構成を有するボールねじ装置17によれば、端部ボール20aと第一ストッパ26との間においてコイルばね32(32a,32b,32c)が複数に分けられて一列に並んで設けられている。このため、これらコイルばね32(32a,32b,32c)の特性(ばね定数)をそれぞれ違えることで、従来よりも端部ボール20aと第一ストッパ26との間で、第一のばね体31、つまり、コイルばね32(32a,32b,32c)を全体的に圧縮変形させることが可能となる。その結果、コイルばね32の疲労による寿命を延ばすことができる。更に、後にも説明するが、複数のコイルばね32(32a,32b,32c)が全体的にできるだけ均等に圧縮変形するように、これらコイルばね32の特性(ばね定数)が設定されることで、ナット19の移動ストロークをより一層大きくすることが可能となる。
【0051】
そして、本開示のボールねじ装置17では、隣り合うコイルばね32,32同士は、ばね端部34,34で接触している。隣り合う第一コイルばね32aと第二コイルばね32bそれぞれは、ばね中間部33a,33bよりも剛性が高くなるばね端部34a-2,34b-1を有する。隣り合う第二コイルばね32bと第三コイルばね32cそれぞれは、ばね中間部33b,33cよりも剛性が高くなるばね端部34b-2,34c-1を有する。
【0052】
前記のとおり、コイルばね32(32a,32b,32c)が複数に分けられると、ばね端部34,34同士が接触する。ばね端部34の形態が、ばね中間部33の形態と同様であると、つまり、ばね端部34の剛性が低いと、そのばね端部34,34同士が接触した状態で、例えば、ばね端部34の中心が不揃いとなったりして予期せぬ挙動が生じる可能性がある。この場合、ボールねじ装置17としての機能が低下する。しかし、本開示のボールねじ装置17によれば、ばね端部34の剛性が高くなっている。その結果、隣り合うばね端部34,34の姿勢及び挙動を安定させることが可能となる。
【0053】
ボールねじ装置17では、ねじ軸18の回転により、ナット19がねじ軸18の軸方向に沿って移動し、複数のボール20も第一螺旋溝29及び第二螺旋溝30に沿って移動する。ナット19が初期位置にある状態から所定ストロークについて移動する場合、その移動方向は
図4及び
図5において、矢印Jに示す方向である。複数のボール20に含まれる端部ボール20aの移動により、複数のコイルばね32a,32b,32cは圧縮される。このように圧縮される複数のコイルばね32a,32b,32cにおいて、端部ボール20a側では圧縮されやすいが、第一ストッパ26側では圧縮され難い。
【0054】
そこで、本開示では、第一のばね体31において、前記のとおり、第一ストッパ26側のコイルばね32(ばね中間部33)は、端部ボール20a側のコイルばね32(ばね中間部33)よりも、ばね定数が小さく設定されている。この構成によれば、第一ストッパ26側のコイルばね32が、端部ボール20a側のコイルばね32よりも、圧縮変形しやすくなる。このため、複数のコイルばね32a,32b,32cにより構成される第一のばね体31を、全体としてできるだけ均等に圧縮変形させやすくなる。その結果、ナット19の移動ストロークをより一層大きくすることが可能となる。
【0055】
また、隣のコイルばね32と接するばね端部34では、ばね中間部33よりも剛性が高いことから、隣接するばね端部34,34の双方において、ばねの座りが良好となる。つまり、ばね端部34,34の中心が揃いやすく、第一のばね体31において、あたかも一つのコイルばね32のように挙動させることが可能となる。
【0056】
今回開示した実施形態はすべての点で例示であって制限的なものではない。本発明の権利範囲は、上述の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された構成と均等の範囲内でのすべての変更が含まれる。
【符号の説明】
【0057】
17:ボールねじ装置 18:ねじ軸 19:ナット
20:ボール 20a:第一端部ボール 26:第一ストッパ
29:第一螺旋溝 30:第二螺旋溝 31:第一のばね体
32:コイルばね 32a,32b,32c:コイルばね
33:ばね中間部 33a,33b,33c:ばね中間部
34:ばね端部 34a,34b,34c:ばね端部