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特許7435167演算装置、解析方法、及び解析プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】演算装置、解析方法、及び解析プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 21/59 20060101AFI20240214BHJP
   G01N 21/552 20140101ALI20240214BHJP
【FI】
G01N21/59 Z
G01N21/552
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020061884
(22)【出願日】2020-03-31
(65)【公開番号】P2021162380
(43)【公開日】2021-10-11
【審査請求日】2022-12-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006507
【氏名又は名称】横河電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001416
【氏名又は名称】弁理士法人信栄事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 宏樹
(72)【発明者】
【氏名】土橋 万知夫
(72)【発明者】
【氏名】手塚 賢太郎
【審査官】比嘉 翔一
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-117931(JP,A)
【文献】特開2015-203632(JP,A)
【文献】特開2012-052957(JP,A)
【文献】特開2007-068857(JP,A)
【文献】特開2007-101479(JP,A)
【文献】特開平11-155844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N21/00-G01N21/01
G01N21/17-G01N21/74
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
演算装置であって、
全反射測定法の入射光が当たる第1部分の面積に対する、当該第1部分のうち測定対象物が有る第2部分の面積の比率を算出し、前記面積の比率に対して負の相関を持つ補正値を算出する第1算出部と、
前記全反射測定法で測定された吸光スペクトルに対して前記補正値を掛けることで補正された前記吸光スペクトルに基づき、前記測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する第2算出部と、
を有する演算装置。
【請求項2】
前記入射光が当たる部分の画像を、前記演算装置に有線または無線で接続されたカメラから取得する第1取得部
をさらに有し、
前記第1算出部は、前記第1取得部により取得された前記画像の解析に基づき、前記第1部分の面積に対する前記第2部分の面積の比率を算出する、
請求項1に記載の演算装置。
【請求項3】
前記第2算出部は、
補正された前記吸光スペクトルと、プリズム上に前記測定対象物が無い状態の吸光スペクトルとに基づき算出されたスペクトルから特長量を抽出し、前記測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する、
請求項1又は2のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項4】
前記演算装置に有線または無線で接続された分光器または受光素子から、前記全反射測定法で測定された吸光スペクトルを取得する第2取得部、
をさらに有する請求項1から請求項3のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項5】
前記測定対象物は液滴である、
請求項1から請求項4のいずれか1つに記載の演算装置。
【請求項6】
コンピュータが、
全反射測定法の入射光が当たる第1部分の面積に対する、当該第1部分のうち測定対象物が有る第2部分の面積の比率を算出し、前記面積の比率に対して負の相関を持つ補正値を算出し、
前記全反射測定法で測定された吸光スペクトルに対して前記補正値を掛けることで補正された前記吸光スペクトルに基づき、前記測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する、
処理を実行する解析方法。
【請求項7】
コンピュータに、
全反射測定法の入射光が当たる第1部分の面積に対する、当該第1部分のうち測定対象物が有る第2部分の面積の比率を算出し、前記面積の比率に対して負の相関を持つ補正値を算出し、
前記全反射測定法で測定された吸光スペクトルに対して前記補正値を掛けることで補正された前記吸光スペクトルに基づき、前記測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する、
処理を実行させる解析プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、演算装置、解析方法、及び解析プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
ATR(Attenuated Total Reflection)は、少量の物質の濃度を光学的に測定する方法のひとつである。図1はATRを模式的に示す図である。図1において、光源からの入射光401はプリズムを通り、測定対象物700とプリズムが接する面において全反射し、出射光402として出射する。全反射においては、測定対象物700内に潜り込み深さdだけ入射光が潜り込み測定対象物の吸光情報を得る。したがって出射光402を測定することで、測定対象物に起因する吸光のスペクトルを得ることができる。
【0003】
ATRは、少なくとも光が当たる範囲において測定対象物が切れ間なく存在することを前提とする方法である。光が当たる範囲において測定対象物が点在するような場合には正確な測定が難しいので、測定対象物を上から押さえつけて、少なくとも光が当たる範囲に潜り込み深さより厚くなるように、プリズム上に広げるといったことが行われる。
【0004】
図2および図3は、測定対象物が点在する場合の測定例を示す図である。図2は測定対象物701を横から見た図であり、図3は測定対象物701を上から見た図である。測定対象物701はプリズム600上に点在している。図3に示すように、光が当たる範囲900は、測定対象物701が有る部分と、測定対象物701が無い部分とを含む。図2に示すように、測定対象物701は、押しつけ力が上方から板800に加わることによってプリズム600に押しつけられる。この場合において、押しつけられた測定対象物701がプリズム600上に広がり、光が当たる範囲900が測定対象物701で覆われれば、測定は可能である。
【0005】
測定対象物が固体である場合だけでなく、測定対象物が液体である場合においても、上で説明した例のように測定対象物を上から押しつけることで測定が可能になる。ただし、押しつけることによって測定対象物の状態が変わってしまうことが好ましくない場合がある。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【文献】“ATRの注意点 その2:定量分析”、[令和2年3月23日検索]、インターネット<URL:https://www.an.shimadzu.co.jp/ftir/support/lib/ftirtalk/letter2/atr2.htm>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本開示は、点在する測定対象物の状態を維持したまま、測定対象物内の物質の濃度を高精度で測定することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示に係る演算装置は、全反射測定法の入射光が当たる第1部分の面積に対する、当該第1部分のうち測定対象物が有る第2部分の面積の比率を算出する第1算出部と、全反射測定法で測定された吸光スペクトルを、第1算出部により算出された比率に基づき補正した吸光スペクトルに加工し、補正された吸光スペクトルに基づき、測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する第2算出部と、を有する。
【0009】
また、本演算装置は、入射光が当たる部分の画像を、演算装置に有線または無線で接続されたカメラから取得する第1取得部をさらに有してもよい。第1算出部は、第1取得部により取得された画像の解析に基づき、第1部分の面積に対する第2部分の面積の比率を算出してもよい。
【0010】
また、第2算出部は、補正された吸光スペクトルと、プリズム上に測定対象物が無い状態の吸光スペクトルとに基づき算出されたスペクトルから特長量を抽出し、測定対象物に含まれる物質の濃度を算出してもよい。
【0011】
また、本演算装置は、演算装置に有線または無線で接続された分光器または受光素子から、全反射測定法で測定された吸光スペクトルを取得する第2取得部をさらに有してもよい。
【0012】
また、測定対象物は液滴であってもよい。
【0013】
本開示に係る解析方法は、全反射測定法の入射光が当たる第1部分の面積に対する、当該第1部分のうち測定対象物が有る第2部分の面積の比率を算出し、全反射測定法で測定された吸光スペクトルを、算出された比率に基づき補正し、補正された吸光スペクトルに基づき、測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する処理を含む。
【0014】
本開示に係る解析プログラムは、全反射測定法の入射光が当たる第1部分の面積に対する、当該第1部分のうち測定対象物が有る第2部分の面積の比率を算出し、全反射測定法で測定された吸光スペクトルを、算出された比率に基づき補正し、補正された吸光スペクトルに基づき、測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する処理をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0015】
点在する測定対象物の状態を維持したまま、測定対象物内の物質の濃度を高精度で測定できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、ATRを模式的に示す図である。
図2図2は、測定対象物が点在する場合の測定例を示す図である。
図3図3は、測定対象物が点在する場合の測定例を示す図である。
図4図4は、第1の実施の形態のシステム構成図である。
図5図5は、カメラが設置される位置の一例を示す図である。
図6図6は、演算装置の機能ブロック図である。
図7図7は、ATRプリズムにおいて起こる全反射を模式的に示す図である。
図8図8は、液滴の分布の一例を示す図である。
図9図9は、補正値Fを算出する処理の処理フローを示す図である。
図10図10は、濃度を算出する処理の処理フローを示す図である。
図11図11は、波長と吸光スペクトルとの関係の一例を示す図である。
図12図12は、過酸化水素濃度と微分吸光度との関係の一例を示す図である。
図13図13は、液滴の面積比と純水内の過酸化水素濃度との関係を示す図である。
図14図14は、第2の実施の形態のシステム構成図である。
図15図15は、第3の実施の形態のシステム構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下では、本実施の形態について説明する。
【0018】
[第1の実施の形態]
図4は、第1の実施の形態のシステム構成図である。第1の実施の形態のシステムは、演算装置1と、分光器2と、カメラ3と、光源4と、出射ファイバ5と、ATRプリズム6と、入射ファイバ7とを有する。
【0019】
第1の実施の形態においてはATRが行われる。ATRプリズム6の材料は、測定対象物である液滴に関して全反射条件を満たす材料である。入射光は、液滴がATRプリズム6に接する面において少なくとも1回以上反射する。入射光の角度は、液滴に含まれる物質の濃度及びATRプリズム6の屈折率の条件下において、ATRプリズム6の表面で全反射条件を満たすように調整される。分光器2は、測定対象物である液滴が吸光する波長を含む波長範囲を有し、濃度変化に追従できる測定速度を有する。
【0020】
光源4は、液滴が吸光する波長帯を含む光を発し、分光器2に十分な光を届けることができる。入射ファイバ7は、光源4とATRプリズム6とを接続し、吸光スペクトルの測定に使用される光を光源4からATRプリズム6に届ける。出射ファイバ5は、ATRプリズム6と分光器2とを接続し、吸光情報をもつ光をATRプリズム6から分光器2に届ける。
【0021】
カメラ3は、ATRプリズム6を通して液滴を撮影できるように設置される。図5は、カメラ3が設置される位置の一例を示す図である。カメラ3は、光の反射が起こる範囲と同等な範囲を撮影可能なように設置される。すなわち、カメラ3は、光の反射が起こる位置を撮影可能であり且つ光の反射が起こる面積と同等な面積を撮影可能である。
【0022】
演算装置1は、有線又は無線で分光器2およびカメラ3に接続され、分光器2およびカメラ3と通信可能である。演算装置1は、例えば、パーソナルコンピュータ又はサーバ装置等のコンピュータである。演算装置1は、CPU(Central Processing Unit)などのプロセッサと、記憶装置であるメモリとを有する。本実施の形態の処理を実行するためのプログラムはメモリにロードされ、プロセッサに実行されることで図6における第1取得部101と、第2取得部103と、第1算出部105と、第2算出部107とを実現する。また、演算装置1は、複数の機器で構成されてもよい。
【0023】
図6は、演算装置1の機能ブロック図である。演算装置1は、第1取得部101と、第2取得部103と、第1算出部105と、第2算出部107とを含む。
【0024】
第1取得部101は、カメラ3によって撮像された画像をカメラ3から通信によって取得する。第2取得部103は、全反射法にて測定された吸光スペクトルを分光器2から通信によって取得する。第1算出部105は、第1取得部101によって取得された画像を解析して補正値Fを算出する。第2算出部107は、第1算出部105によって算出された補正値Fと、第2取得部103によって取得された吸光スペクトルとに基づき、測定対象物に含まれる物質の濃度を算出する。
【0025】
図7は、ATRプリズム6において起こる全反射を模式的に示す図である。図7において、入射光41は、入射ファイバ7を通りATRプリズム6に入り、液滴61乃至63とATRプリズム6とが接する面において反射する。入射光41のうち液滴61乃至63が有る部分に到達した光は、液滴61乃至63内にエバネッセント光を発生させ、液滴の吸光情報をもつ光42として反射する。入射光41のうち液滴61乃至63が有る部分以外に到達した光は、液滴の吸光情報をもたない光43として反射する。出射光44は、液滴の吸光情報をもつ光42と液滴に吸光情報をもたない光43との合成光である。出射光44はATRプリズム6から出ると出射ファイバ5を通って分光器2へ到達し、分光器2によって吸光スペクトルとして測定される。
【0026】
図8は、液滴の分布の一例を示す図である。図8においては、ハッチングされた部分が液滴である。液滴のサイズは数十μm程度である。液滴はATRプリズム6の表面を完全に覆っているわけではないので、以下において説明する第1の実施の形態の処理が有効である。
【0027】
図9は、補正値Fを算出する処理の処理フローを示す図である。
【0028】
カメラ3は、ATRプリズム6上の液滴の画像を撮像し(ステップS101)、撮像された画像を演算装置1に送信する。なお、カメラ3は吸光スペクトルを取得するタイミングと同期するように、定期的に又は予め定められたタイミング又はユーザから指示を受けた場合において画像を撮像する。画像は、吸光スペクトルを取得するタイミングで取得された画像であってもよいし、連続撮影された映像から必要なタイミングで抜き出された画像であってもよい。
【0029】
演算装置1の第1取得部101は、カメラ3が送信した画像を受信する。第1算出部105は、第1取得部101によって受信された画像を解析して、全反射測定法の入射光が当たる部分の面積のうち液滴が有る部分の面積の比率(以下、面積比と呼ぶ)を算出する(ステップS103)。入射光が当たる部分の面積がカメラによって撮像される部分の面積に等しい場合、カメラによって撮像される部分の面積を入射光が当たる部分の面積として利用できる。
【0030】
第1算出部105は、予め生成された式に対して、ステップS103において算出された面積比を含む1又は複数のパラメータを与えることで、補正値Fを算出する(ステップS105)。補正値Fは面積比に対して負の相関を持つ値であるので、面積比が小さいほど補正の程度は大きくなる。そして処理は終了する。
【0031】
以上のようにして算出された補正値Fを利用すれば、ATRプリズム全体に物質がある場合と同様な吸光スペクトルを得ることができるようになる。
【0032】
図10は、濃度を算出する処理の処理フローを示す図である。図9の処理フローは、本処理フローが実行されるタイミングにおいて実行される。
【0033】
分光器2は、吸光スペクトルSRを測定する(ステップS111)。吸光スペクトルSRは、ATRプリズム6上に液滴が無い状態で測定されるリファレンススペクトルである。既に吸光スペクトルSRを算出済みである場合には、ステップS111の処理をスキップしてもよい。分光器2は、測定された吸光スペクトルSRを演算装置1に送信する。
【0034】
分光器2は、吸光スペクトルSAを測定する(ステップS113)。吸光スペクトルSAは、ATRプリズム6上に液滴が有る状態で測定される吸光スペクトルである。分光器2は、測定された吸光スペクトルSAを演算装置1に送信する。
【0035】
演算装置1の第2取得部103は、分光器2が送信した吸光スペクトルSR及び吸光スペクトルSAを受信する。第2算出部107は、第2取得部103によって受信された吸光スペクトルSAを、第1算出部105によって算出された補正値Fで補正することで、液滴の吸光スペクトルSBを算出する(ステップS115)。具体的には、第2算出部107は、SB=SA*F(すなわち、吸光スペクトルSAに対して補正値Fを掛けることで)によって液滴の吸光スペクトルSBを算出する。
【0036】
第2算出部107は、波長ごとに吸光度ABSを算出する(ステップS117)。吸光度ABSは、例えば、ABS=-log(SB/SR)として算出される。ステップS117の処理を実行することで、濃度への換算についてランベルト・ベールの法則が成立するようになる。
【0037】
第2算出部107は、スペクトルの特長量抽出(例えば、二階微分法または面積法)を行う(ステップS119)。第1の実施の形態において、特長量抽出には二階微分法による微分吸光度dABSが用いられる。波長について二階微分を行い、計算結果の1900nm付近の範囲における最小値を微分吸光度dABSとする。1900nm付近の範囲とは、例えば、1900nmより所定長短い波長から1900nmより所定長長い波長までである。第1の実施形態において微分吸光度dABSを用いたのは、物質濃度に対する吸光度ABSのピーク高さの差が小さい場合等に、吸光度ABSのピーク高さから物質濃度を算出するのが困難であるからである。吸光度と同様に、微分吸光度にもランベルト・ベールの法則が成立する。
【0038】
第2算出部107は、微分吸光度dABS=濃度C*吸光係数という関係式を用いて、吸光係数とステップS119において算出された微分吸光度dABSとに基づき、ATRプリズム6上の液滴に含まれる物質の濃度を算出する(ステップS121)。吸光係数は予め算出される値であり、ATRプリズム6の表面が切れ間なく液体で満たされている状態で測定されたときの微分吸光度dABSと濃度Cとから算出される。
【0039】
演算装置1は、ステップS121において算出された濃度Cを、ディスプレイ等の表示装置に出力するための処理または印刷装置から出力される紙面に印刷するための処理などを実行してもよい。そして処理は終了する。
【0040】
以上のような処理を実行すれば、液滴をプレートで潰したりすることなく、点在する液滴に含まれる物質の濃度を測定することができるようになる。例えば、ガラスの表面上に付着した成長する液滴に含まれる物質の濃度を、その成長に影響を与えることなくインラインで測定することができるようになる。液滴の数およびサイズに限定は無い。
【0041】
図11乃至図13は、第1の実施の形態の方法で過酸化水素の濃度を測定した場合に得られたデータ等を示す図である。過酸化水素の濃度を測定するため、白色光を発する光源4が使用され、1900nm付近の範囲に含まれる吸光度であってOH結合に由来する吸光度を測定可能な分光器2が使用された。
【0042】
図11は、波長と吸光スペクトル(すなわち吸光度の生データ)との関係の一例を示す図である。縦軸は吸光スペクトルの生データを表し、横軸は波長を表す。実線は面積比が0.4である場合の吸光スペクトルであり、破線は面積比が0.6である場合の吸光スペクトルである。面積比が大きい(すなわち、液滴が有る部分の面積が大きい)ほど液滴による吸光が増加する。よって図11に示すように、面積比が0.4である場合よりも面積比が0.6である場合の方が吸光度の値は大きい。
【0043】
図12は、面積比が0.4から0.6の間にある場合における過酸化水素濃度と微分吸光度との関係の一例を示す図である。図12において、縦軸は微分吸光度dABSを表し、横軸は過酸化水素濃度(%)を表す。図12に示すように、微分吸光度dABSとATRプリズム6上の液滴に含まれる過酸化水素の濃度との間には直線関係がある。
【0044】
図13は、液滴の面積比と図12の関係を表す式から算出された純水内の過酸化水素濃度との関係を示す図である。図13において、縦軸は純水に含まれる過酸化水素の濃度(%)を表し、横軸は面積比を表す。面積比が0.4である場合、面積比が0.5である場合、および面積比が0.6である場合のいずれにおいても、純水に含まれる過酸化水素の濃度はほぼ0(%)として算出された。面積比の変化は濃度の測定結果にほとんど影響を及ぼさない。
【0045】
[第2の実施の形態]
第1の実施の形態においては、光源4および分光器2はファイバを介してATRプリズム6に接続されるが、光源4および分光器2の両方又は片方がレンズによって光学的にATRプリズム6に接続されてもよい。
【0046】
図14は、第2の実施の形態のシステム構成図である。図14においては、分光器2がレンズ8によって光学的にATRプリズム6に接続され、光源4がレンズ9によって光学的にATRプリズム6に接続される。その他の部分については、第1の実施の形態と同じである。
【0047】
[第3の実施の形態]
第1の実施の形態においては、光源4は、液滴が吸光する波長帯を含む光(白色光)
を発光し、分光器2によって吸光スペクトルを取得している。ただし、光源4の光を分光器で分光し、出射ファイバから出た光を受光素子で受け、分光器と受光素子の同期を取りながら入射光の波長をスキャンすることで、システムを実現しても良い。
【0048】
図15は、第3の実施の形態のシステム構成図である。図15においては、光源4の光を分光器11で分光した光が入射ファイバ7を介してATRプリズム6に入射し、受光素子10が出射ファイバ5を介してATRプリズム6に接続される。
【0049】
以上のとおり本開示の一実施の形態を説明したが、本開示はこれに限定されない。例えば、上で説明した演算装置1の機能ブロック構成は実際のプログラムモジュール構成に一致しなくてもよい。
【0050】
また、処理フローにおいても、処理結果が変わらなければ処理の順番を入れ替えてもよい。さらに、処理を並列に実行させてもよい。
【0051】
例えば、カメラ3を用いて算出する方法以外の方法によって面積比を算出してもよい。
【0052】
また、カメラ3を使用することで個々の液滴のサイズを求めることができるので、測定対象物の形状を半球や立方体と見なす事ができ密度が分かっていれば、物質の重量を算出してもよい。
【0053】
第1乃至第3の実施の形態の技術は、例えば、除染および滅菌が必要な医療分野の装置(例えばアイソレータ)を管理する場合、微量な物質の濃度測定が必要な場合、および採取できる対象物が液滴程度である場合などに対して適用することが可能である。
【0054】
第1乃至第3の実施の形態においては、液滴がATRプリズム6上に点在する場合の吸光スペクトルが、液滴がATRプリズム6の全体を覆っている場合の吸光スペクトルに補正される。よって、検量線が有る場合は本開示の演算装置を定量分析器として使用することができる。また、検量線が無い場合であっても、本開示の演算装置で得られたスペクトル形状を用いた定性分析器として使用することができる。
【0055】
また、吸光スペクトルおよび面積比を求めることができれば、測定対象物は必ずしも液滴ではなくてもよい。例えば、測定対象物の検量線が有るのであれば濃度の測定は可能である。また、測定対象物が固体であって検量線が無い場合であっても、本開示の演算装置を定性分析器として使用することができる。
【符号の説明】
【0056】
1:演算装置
2:分光器
3:カメラ
4:光源
5:出射ファイバ
6:ATRプリズム
7:入射ファイバ
8:レンズ
9:レンズ
10:受光素子
11:分光器
101:第1取得部
103:第2取得部
105:第1算出部
107:第2算出部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15