(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】燃料電池システム
(51)【国際特許分類】
H01M 8/04701 20160101AFI20240214BHJP
H01M 8/0612 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/0432 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/04746 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/04537 20160101ALI20240214BHJP
H01M 8/12 20160101ALN20240214BHJP
【FI】
H01M8/04701
H01M8/0612
H01M8/0432
H01M8/04746
H01M8/04537
H01M8/12 101
(21)【出願番号】P 2020067639
(22)【出願日】2020-04-03
【審査請求日】2023-02-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】太田 光国
(72)【発明者】
【氏名】遠藤 聡
【審査官】橋本 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-162746(JP,A)
【文献】特開2018-106969(JP,A)
【文献】特開2006-302881(JP,A)
【文献】特開2015-127998(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 8/00-8/2495
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料ガスと酸化剤ガスとにより発電する燃料電池と、
水蒸気を用いて原燃料ガスを改質して前記燃料ガスを生成する改質部と、
改質水を蒸発させて前記水蒸気を生成する蒸発部と、
前記蒸発部へ前記改質水を供給する改質水供給装置と、
前記燃料電池へ前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池の温度に相関する温度を検出する温度センサと、
前記燃料電池の運転状態が安定運転状態になると、前記温度センサにより検出される温度が目標温度となるように前記酸化剤ガス供給装置を制御すると共に、前記改質部におけるスチームカーボン比の目標比を基準比よりも低下させて前記スチームカーボン比が前記目標比となるように前記改質水供給装置を制御する制御装置と、
を備える燃料電池システム。
【請求項2】
請求項1に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記運転状態が前記安定運転状態になると、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給量が最大供給量を超えない範囲内で前記目標比を前記基準比よりも低下させる、
燃料電池システム。
【請求項3】
請求項2に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記運転状態が前記安定運転状態になると、前記温度センサにより検出される温度と前記目標温度との偏差に基づくフィードバック制御により目標供給量を設定して酸化剤ガス供給装置を制御し、前記目標供給量が前記最大供給量を超えない範囲内で前記目標比を前記基準比よりも低下させる、
燃料電池システム。
【請求項4】
請求項2または3に記載の燃料電池システムであって、
前記制御装置は、前記運転状態が前記安定運
転状態になると、前記酸化剤ガス供給装置からの前記酸化剤ガスの供給量が前記最大供給量に近づくほど前記基準比に近づくように前記目標比を設定する、
燃料電池システム。
【請求項5】
請求項1ないし4いずれか1項に記載の燃料電池システムであって、
前記安定運転状態は、前記温度センサにより検出される温度、前記燃料電池から出力される電流、前記燃料電池から出力される電圧および前記燃料電池から排出される排ガスの温度がそれぞれ予め定められた所定範囲内に含まれる際に成立する、
燃料電池システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料電池システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の燃料電池システムとしては、原燃料ガスを供給する燃料ガスポンプと、改質水を供給するための水ポンプと、原燃料ガスを水蒸気改質する改質器と、改質燃料ガスおよび酸化剤ガス(酸化材)の酸化および還元により発電する燃料電池スタックと、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。この燃料電池システムでは、燃料電池スタックの運転状態が部分負荷運転から定格負荷運転に移行すると、部分負荷運転に比して大きい値を燃料利用率に設定すると共に、部分負荷運転に比して小さい値を改質器におけるスチームカーボン比(S/C)に設定する。これにより、燃料利用率を大きくすることにより発電効率が向上すると共に、低S/Cの設定により改質燃料ガスに含まれる水分を少なくすることで燃料利用率を大きくしたことによる燃料電池スタックの温度低下が抑制される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料電池システムでは、低S/Cの設定により燃料ガス中の水素分圧が上昇して起電力が上昇することで更なる発電効率の向上を図ることができる。しかしながら、上述した燃料電池システムでは、低S/Cの設定により燃料電池スタックの温度が上昇し続けると、燃料電池スタックの高温化による劣化を招くおそれがある。
【0005】
本発明の燃料電池システムは、燃料電池の運転状態が安定運転状態になった際に、燃料電池の温度を適正な温度に維持してその耐久性を確保しつつ、スチームカーボン比を低下させることによる発電効率の向上を図ることを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の燃料電池システムは、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の燃料電池システムは、
燃料ガスと酸化剤ガスとにより発電する燃料電池と、
水蒸気を用いて原燃料ガスを改質して前記燃料ガスを生成する改質部と、
改質水を蒸発させて前記水蒸気を生成する蒸発部と、
前記蒸発部へ前記改質水を供給する改質水供給装置と、
前記燃料電池へ前記酸化剤ガスを供給する酸化剤ガス供給装置と、
前記燃料電池の温度に相関する温度を検出する温度センサと、
前記燃料電池の運転状態が安定運転状態になると、前記温度センサにより検出される温度が目標温度となるように前記酸化剤ガス供給装置を制御すると共に、前記改質部におけるスチームカーボン比の目標比を基準比よりも低下させて前記スチームカーボン比が前記目標比となるように前記改質水供給装置を制御する制御装置と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の燃料電池システムでは、燃料電池の運転状態が安定運転状態になると、温度センサにより検出される温度(燃料電池の温度に相関する温度)が目標温度となるように酸化剤ガス供給装置を制御すると共に、改質部におけるスチームカーボン比の目標比を基準比よりも低下させてスチームカーボン比が目標比となるように改質水供給装置を制御する。この本発明の燃料電池システムによれば、安定運転状態中にスチームカーボン比を低下させることで、燃料ガス中の水素分圧の上昇により起電力を上昇させることができ、発電効率を向上させることができる。一方、スチームカーボン比の低下によって燃料電池の温度は上昇するが、温度センサからの温度が目標温度となるように酸化剤ガス供給装置が制御されることで、燃料電池は、スチームカーボン比を低下させることによる温度上昇が抑制されて適正な温度に維持される。この結果、燃料電池の運転状態が安定運転状態になった際に、燃料電池の温度を適正な温度に維持してその耐久性を確保しつつ、スチームカーボン比を低下させることによる発電効率の向上を図ることができる。
【0009】
こうした本発明の燃料電池システムにおいて、前記制御装置は、前記運転状態が前記安定運転状態になると、前記酸化剤ガス供給装置による前記酸化剤ガスの供給量が最大供給量を超えない範囲内で前記目標比を前記基準比よりも低下させるものとしてもよい。これにより、酸化剤ガスの供給量が最大供給量に近づいても、燃料電池の温度を適正な温度に維持してその耐久性を確保することができる。この場合、前記制御装置は、前記運転状態が前記安定運転状態になると、前記温度センサにより検出される温度と前記目標温度との偏差に基づくフィードバック制御により目標供給量を設定して酸化剤ガス供給装置を制御し、前記目標供給量が前記最大供給量を超えない範囲内で前記目標比を前記基準比よりも低下させるものとしてもよい。こうすれば、フィードバック制御によって燃料電池の温度をより確実に適正な温度に維持することができると共に当該フィードバック制御が適正に実施される範囲内でスチームカーボン比を低下させるため、耐久性の確保と発電効率の向上とを両立させることができる。これらの場合、前記制御装置は、前記運転状態が前記安定運転状態になると、前記酸化剤ガス供給装置からの前記酸化剤ガスの供給量が前記最大供給量に近づくほど前記基準比に近づくように前記目標比を設定するものとしてもよい。こうすれば、酸化剤ガスの供給量が最大供給量に近づいている場合には、スチームカーボン比を低下させることよりも酸化剤ガスの供給による燃料電池の冷却を優先し、燃料電池の温度を適正な温度に維持することができる。
【0010】
また、本発明の燃料電池システムにおいて、前記安定運転状態は、前記温度センサにより検出される温度、前記燃料電池から出力される電流、前記燃料電池から出力される電圧および前記燃料電池から排出される排ガスの温度がそれぞれ予め定められた所定範囲内に含まれる際に成立するものとしてもよい。こうすれば、燃料電池の安定運転状態をより適正に判定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図2】定格運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。
【
図3】目標比設定用マップの一例を示す説明図である。
【
図4】燃料電池スタックの温度を適正温度に維持するためのスチームカーボン比SCとエア流量Qaとの関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明を実施するための形態について図面を参照しながら説明する。
【0013】
図1は、燃料電池システムの概略構成図である。本実施形態の燃料電池システム10は、
図1に示すように、アノードガス(燃料ガス)中の水素とカソードガス(酸化剤ガス)中の酸素との電気化学反応により発電する燃料電池スタック21を含む発電モジュール20と、発電モジュール20にアノードガスの原料となる原燃料ガス(例えば天然ガスやLPガス)を供給する原燃料ガス供給装置30と、発電モジュール20に原燃料ガスからアノードガスへの水蒸気改質に必要な改質水を供給する改質水供給装置40と、発電モジュール20(燃料電池スタック21)にカソードガスとしてのエア(空気)を供給するエア供給装置50と、発電モジュール20で発生した排熱を回収するための排熱回収装置60と、燃料電池スタック21の出力端子に接続されると共にリレーを介して電力系統2から負荷4への電力ライン3に接続されるパワーコンディショナ70と、を備える。これらは、筐体12に収容されている。筐体12には、吸気口12aと排気口12bとが形成されており、吸気口12aの近傍には、外気を取り込んで筐体12の内部を換気するための換気ファン14が設置されている。
【0014】
発電モジュール20は、燃料電池スタック21や、気化器22、2つの改質器23を含み、これらは、本実施形態の燃料電池ケースとしてのモジュールケース29に収容されている。本実施形態では、発電モジュール20は、2つの燃料電池スタック21を有し、2つの燃料電池スタック21は、間隔をおいて互いに対向するようにモジュールケース29内に配置されたマニホールド24上に設置される。
【0015】
各燃料電池スタック21は、酸化ジルコニウム等の電解質と当該電解質を挟持するアノード電極およびカソード電極とをそれぞれ有すると共に
図1中、左右方向(水平方向)に配列された複数の固体酸化物形の単セルを有する。各単セルのアノード電極内には、図示しないアノードガス通路が単セルの配列方向と直交する方向すなわち上下方向に延在するように形成されている。また、各単セルのカソード電極の周囲には、カソードガスを流通させる図示しないカソードガス通路が単セルの配列方向に直交する方向すなわち上下方向に延在するように形成されている。各単セルのアノードガス通路は、マニホールド24に接続され、各単セルのカソードガス通路は、モジュールケース29内のエア通路に接続される。更に、2つの燃料電池スタック21の間(近傍)には、両者との距離が同一となるように温度センサ94が設置されている。温度センサ94は、各燃料電池スタック21の温度に相関する温度T4を検出する。
【0016】
発電モジュール20の気化器22および改質器23は、モジュールケース29内の2つの燃料電池スタック21の上方に両者と間隔をおいて配設される。本実施形態では、一方の燃料電池スタック21の上方に気化器22および一方の改質器23が配置され、他方の燃料電池スタック21の上方に他方の改質器23が配置される。更に、一方の燃料電池スタック21と気化器22および一方の改質器23との間、並びに他方の燃料電池スタック21と他方の改質器23との間には、燃料電池スタック21の作動や、気化器22および改質器23での反応に必要な熱を発生させる燃焼部25が画成されている。各燃焼部25には、着火ヒータ26が設置されている。
【0017】
気化器22は、燃焼部25からの熱により原燃料ガス供給装置30からの原燃料ガスと改質水供給装置40からの改質水とを加熱し、原燃料ガスを予熱すると共に改質水を蒸発させて水蒸気を生成する。気化器22により予熱された原燃料ガスは、水蒸気と混合され、その混合ガスは、当該気化器22から改質器23に流入する。また、改質器23には、当該改質器23に流入する混合ガスの温度T1を検出する温度センサ91が設置されている。
【0018】
改質器23は、その内部に充填された例えばRu系またはNi系の改質触媒を有し、燃焼部25からの熱の存在下で、改質触媒による気化器22からの混合ガスの反応(水蒸気改質反応)によって水素ガスと一酸化炭素とを生成する。更に、改質器23は、水蒸気改質反応にて生成された一酸化炭素と水蒸気との反応(一酸化炭素シフト反応)によって水素ガスと二酸化炭素とを生成する。これにより、改質器23によって、水素、一酸化炭素、二酸化炭素、水蒸気、未改質の原燃料ガス等を含むアノードガスが生成されることになる。改質器23により生成されたアノードガスは、配管やマニホールド24を介して各単セルのアノードガス通路へ流入し、アノード電極に供給される。
【0019】
また、燃料電池スタック21の各単セルのカソード電極には、モジュールケース29内に形成されたエア通路を介してカソードガスとしてのエアが供給される。各単セルのカソード電極では、酸化物イオン(O2
-)が生成され、当該酸化物イオンが電解質を透過してアノード電極で水素や一酸化炭素と反応することにより電気エネルギが得られる。各単セルにおいて電気化学反応(発電)に使用されなかったアノードガス(以下、「アノードオフガス」という)およびカソードガス(以下、「カソードオフガス」という)は、各単セルのアノードガス通路やカソードガス通路から上方の燃焼部25へと流出する。
【0020】
各単セルから燃焼部25に流入したアノードオフガスは、水素や一酸化炭素等の燃料成分を含む可燃性ガスであり、各単セルから燃焼部25に流入した酸素を含むカソードオフガスと混合される。以下、アノードオフガスとカソードオフガスとの混合ガスを「オフガス」という。そして、着火ヒータ26により点火させられて燃焼部25でオフガス(アノードオフガス)が着火すると、当該オフガスの燃焼により、燃料電池スタック21の作動や、気化器22での原燃料ガスの予熱や水蒸気の生成、改質器23での水蒸気改質反応等に必要な熱が発生することになる。また、燃焼部25では、未燃燃料や水蒸気を含む燃焼排ガスが生成され、当該燃焼排ガスは、燃焼触媒27を介して熱交換器62へ供給される。燃焼触媒27は、燃焼排ガス中の未燃燃料を再燃焼させるための酸化触媒である。更に、燃焼触媒27が設けられたガス通路には、燃焼触媒27を暖機するための触媒ヒータ28や、燃焼排ガスの温度T8を検出する温度センサ98が設置されている。
【0021】
原燃料ガス供給装置30は、原燃料ガスを供給する原燃料供給源1と気化器22とを接続する原燃料ガス供給管31と、当該原燃料ガス供給管31に組み込まれた開閉弁(2連弁)32,33、オリフィス34、ガスポンプ35および脱硫器36とを有する。原燃料ガスは、ガスポンプ35を作動させることで、原燃料供給源1から脱硫器36を介して気化器22へと圧送(供給)される。脱硫器36は、例えば常温脱硫式の脱硫器として構成され、モジュールケース29に接触するように設置されている。また、原燃料ガス供給管31の開閉弁33とオリフィス34との間には、原燃料ガス供給管31内の圧力を検出する圧力センサ37や、原燃料ガス供給管31を流れる原燃料ガスの単位時間当りの流量(ガス流量Qg)を検出する流量センサ38が設置されている。
【0022】
改質水供給装置40は、改質水を貯留する改質水タンク42と、改質水タンク42と気化器22とを接続する改質水供給管41と、改質水供給管41に組み込まれた改質水ポンプ43とを有する。改質水タンク42内の改質水は、改質水ポンプ43を作動させることで、当該改質水ポンプ43により気化器22へと圧送(供給)される。
【0023】
エア供給装置50は、モジュールケース29内に形成されたエア通路に接続されるエア供給管51と、エア供給管51の入口に設けられたエアフィルタ52と、エア供給管51に組み込まれたエアポンプ53とを有する。エアポンプ53を作動させることで、カソードガスとしてのエアは、エアフィルタ52を介してエア供給管51に吸引され、モジュールケース29内のエア通路を経て各燃料電池スタック21へと圧送(供給)される。
【0024】
排熱回収装置60は、湯水を貯留する貯湯タンク63と、発電モジュール20の燃焼部25で生成された燃焼排ガスと湯水とを熱交換する熱交換器62と、貯湯タンク63と熱交換器62とを接続する循環配管61と、循環配管61に組み込まれた循環ポンプ64とを有する。貯湯タンク63内に貯留されている湯水は、循環ポンプ64を作動させることで、熱交換器62へと導入され、熱交換器62で燃焼排ガスとの熱交換によって昇温させられた後、貯湯タンク63へと返送される。熱交換器62で湯水との熱交換によって燃焼排ガス中の水蒸気が凝縮し、これにより凝縮水が得られる。
【0025】
また、排熱回収装置60の熱交換器62は、配管66を介して改質水タンク42と接続されており、燃焼排ガス中の水蒸気が凝縮することにより得られた凝縮水は、当該配管66を介して改質水タンク42内へと導入される。更に、熱交換器62の燃焼排ガスの通路は、燃焼排ガス排出管67に接続されている。これにより、発電モジュール20の燃焼部25から排出されて熱交換器62で水分が除去された排ガスは、燃焼排ガス排出管67を介して大気中に排出される。
【0026】
パワーコンディショナ70は、燃料電池スタック21から出力された直流電圧を所定電圧(例えば、DC250V~300V)に変換するDC/DCコンバータや、変換された直流電圧を電力系統2と連系可能な交流電圧(例えば、AC200V)に変換するインバータを有する。燃料電池スタック21の出力端子には、当該燃料電池スタック21から出力される電流Iを検出する図示しない電流センサが設けられ、燃料電池スタック21の出力端子間には、燃料電池スタック21の端子間電圧を検出する図示しない電圧センサが設けられている。パワーコンディショナ70は、システムに要求される要求発電電力に応じた電流が燃料電池スタック21から出力されるようDC/DCコンバータやインバータが備えるスイッチング素子をスイッチング制御する。
【0027】
パワーコンディショナ70から分岐した電力ラインには電源基板72が接続されている。電源基板72は、燃料電池スタック21からの直流電圧や電力系統2からの交流電圧を補機類の作動に適した直流電圧に変換して当該補機類に供給するものである。実施形態では、補機類としては、換気ファン14や開閉弁32,33、ガスポンプ35、改質水ポンプ43、エアポンプ53、循環ポンプ64などを挙げることができる。
【0028】
制御装置80は、CPU81を中心としたマイクロプロセッサとして構成されており、CPU81の他に処理プログラムを記憶するROM82と、データを一時的に記憶するRAM83と、計時を行なうタイマ84と、図示しない入出力ポートと、を備える。制御装置80には、圧力センサ37や流量センサ38、温度センサ91,94,98などからの各種検出信号が入力ポートを介して入力されている。また、制御装置80からは、換気ファン14のファンモータや開閉弁32,33のソレノイド、ガスポンプ35のポンプモータ、改質水ポンプ43のポンプモータ、エアポンプ53のポンプモータ、循環ポンプ64のポンプモータ、パワーコンディショナ70のDC/DCコンバータやインバータ、電源基板72、着火ヒータ26、触媒ヒータ28などへの各種制御信号が出力ポートを介して出力されている。
【0029】
次に、こうして構成された本実施形態の燃料電池システム10の動作、特に、発電モジュール20が通常運転(部分負荷運転)から定格運転に移行した際の動作について説明する。なお、通常運転では、燃料電池スタック21の発電電流と燃料利用率Ufとの関係で発電電流が大きくなるにつれて大きくなるように燃料利用率Ufの目標利用率Uftagを設定する。また、改質器23におけるスチームカーボン比SC(原燃料ガス中の炭化水素に含まれる炭素と水蒸気改質のために添加される水蒸気とのモル比)の目標比SCtagを予め定められた基準比SCrefに設定する。そして、燃料利用率Ufが設定した目標利用率Uftagとなり、スチームカーボン比SCが設定した目標比SCtagとなるように燃料ガス、エアおよび改質水の供給量を制御する。なお、本実施形態において、通常運転では、温度センサ91により検出される温度T1が通常取り得る範囲を超えるときには、異常な高温状態を抑制するために、基準比SCrefよりも高い値を目標比SCtagに設定する。
【0030】
図2は、制御装置80のCPU81により実行される定格運転制御ルーチンの一例を示すフローチャートである。このルーチンは、所定時間毎に繰り返し実行される。
【0031】
定格運転制御ルーチンでは、制御装置80のCPU81は、まず、電流センサにより検出される燃料電池スタック21の電流Iや電圧センサにより検出される燃料電池スタック21の電圧V、温度センサ94,98により検出される温度T4,T8などの制御に必要なデータを入力する(ステップS100)。続いて、CPU81は、入力した電流I、電圧Vおよび温度T4,T8がそれぞれ予め定められた所定範囲内に含まれるか否かを判定する(ステップS110)。この判定は、燃料電池スタック21が定格運転状態になったか否かを判定するものである。入力した電流I、電圧Vおよび温度T4,T8のいずれかがそれぞれの所定範囲内に含まれていないと判定すると、燃料電池スタック21は定格運転状態に至っていないと判断し、本ルーチンを終了する。この場合、上述した通常運転における制御が実行される。
【0032】
一方、入力した電流I、電圧Vおよび温度T4,T8のいずれもがそれぞれの所定範囲内に含まれていると判定すると、燃料電池スタック21は定格運転状態に至ったと判断し、前回に設定した目標利用率(前回Uftag)に所定量ΔUfを加えた利用率と予め定められた上限利用率Ufmaxとのうち小さい方を新たな目標利用率Uftagに設定する(ステップS130)。上述したように、このルーチンは所定時間毎に繰り返し実行されるため、目標利用率Uftagは、上限利用率Ufmaxまで所定量ΔUfずつ段階的に大きくなるように設定されることになる。そして、燃料電池スタック21の運転状態(発電電流)に応じた目標ガス流量Qgtagを目標利用率Uftagに基づいて増加側に補正すると共に、流量センサ38により検出されるガス流量Qgが補正した目標ガス流量Qgtagに一致するようにフィードバック制御によりガスポンプ35を制御する(ステップS140)。これにより、発電モジュール20の定格運転中に燃料利用率Ufを徐々に大きくして燃料電池スタック21における発電効率を向上させることができる。
【0033】
続いて、温度センサ94により検出される温度T4が目標温度T4tag(例えば、660℃前後の温度)に一致するように目標温度T4tagと温度T4との偏差に基づいてフィードバック制御(例えば、比例積分制御や比例積分微分制御)により目標エア流量Qatagを設定し(ステップS150)、設定した目標エア流量Qatagでエアが供給されるようエアポンプ53を制御する(ステップS160)。次に、エアポンプ53から燃料電池スタック21へ供給されるエア流量Qaを取得する(ステップS170)。本実施形態の燃料電池システム10では、エア供給装置50には、エア供給管51を流れるエアの流量を検出する流量センサを備えていないため、ステップS170の処理は、ステップS150で設定した目標エア流量Qatagをエア流量Qaとして取得することにより行なう。勿論、エア供給装置50に流量センサを備えている場合には、当該流量センサにより検出される流量をエア流量Qaとして取得してもよい。
【0034】
エア流量Qaを取得すると、取得したエア流量Qaに基づいて改質器23におけるスチームカーボン比SCの目標比SCtagを設定する(ステップS180)。目標比SCtagの設定は、
図3に例示する目標比設定用マップを用いて行なわれる。図示するように、定格運転時におけるスチームカーボン比SCの目標比SCtagは、エア流量Qaが所定流量Qarefを超えるまでは、所定の下限比SCminに設定され、エア流量Qaが所定流量Qarefを超えると、エア流量Qaがエアポンプ53の性能等により定まる最大流量Qamaxに近づくにつれて下限比SCminから基準比SCrefに近づくように設定される。そして、スチームカーボン比SCが目標比SCtagとなるように流量センサ38により検出される原燃料ガスの流量(ガス流量Qg)に基づいて目標改質水流量Qwtagを設定し(ステップS190)、設定した目標改質水流量Qwtagで改質水が供給されるよう改質水ポンプ43を制御して(ステップS200)、本ルーチンを終了する。このように、スチームカーボン比SCを基準比SCrefよりも低下させることにより、燃料ガス中の水素分圧が上昇して起電力が上昇することで、発電効率の向上を図ることができる。
【0035】
図4は、スチームカーボン比SCとエア流量Qaとの関係を示す説明図である。なお、図中、太線(実線)は、燃料電池スタック21の温度が適正温度Tst1(例えば、760度前後の温度)に維持されるスチームカーボン比SCとエア流量Qaとの関係を示す。燃料電池スタック21は、スチームカーボン比SCが小さくなるほど気化器22における水蒸気の生成に必要なエネルギ消費が減少することで温度上昇が促進される一方、エア流量Qaが大きくなるほど冷却に用いられる空気の量が増量することで温度上昇が抑制される。したがって、
図4(a)に示すように、スチームカーボン比SCを基準比SCrefから下限比SCminへ低下させつつ、燃料電池スタック21へのエア流量Qaを流量Qa1から流量Qa2へ増量させることで、燃料電池スタック21の温度を適正温度Tst1に維持したままスチームカーボン比SCを低下させることができ、発電効率を向上させることができる。しかしながら、
図4(b)に示すように、エア流量Qa(流量Qa3)が最大流量Qamaxに近づいている状態では、スチームカーボン比SCを基準比SCrefから下限比SCminへ低下させると共にエア流量Qaを流量Qa3から増量しようとすると、最大流量Qamaxの制限にかかり、燃料電池スタック21の温度を適正温度Tst1に維持するために必要な流量Qa4まで増量することができない。本実施形態では、温度センサ94により検出される温度T4が目標温度T4tagに一致するようにフィードバック制御により目標エア流量Qatagが設定されるため、フィードバック制御が適正に実施されなくなってしまう。この場合、燃料電池スタック21の冷却に必要なエア流量Qaが不足し、燃料電池スタック21の温度はスチームカーボン比SCの低下によって適正範囲を超える温度Tst2まで上昇し、燃料電池スタック21の劣化を招くおそれがある。本実施形態では、温度センサ94により検出される温度T4が目標温度T4tagとなるように目標エア流量Qatagを設定する場合において、エア流量Qa(目標エア流量Qatag)が最大流量Qamaxを超えないようエア流量Qaが最大流量Qamaxに近づくにつれて下限比SCminから基準比SCrefに近づくように目標比SCtagを設定するため、燃料電池スタック21の温度を適正な温度に維持しつつ、スチームカーボン比SCを基準比SCrefよりも低下させて発電効率を向上させることができる。
【0036】
以上説明した本実施形態の燃料電池システム10では、燃料電池スタック21の運転状態が安定運転状態になると、温度センサ94により検出される温度T4が目標温度T4tagとなるようにエアポンプ53を制御すると共に、改質器23におけるスチームカーボン比SCの目標比SCtagを基準比SCrefよりも低下させてスチームカーボン比SCが目標比SCtagとなるように改質水ポンプ43を制御する。これにより、安定運転状態中にスチームカーボン比SCを低下させることで、燃料ガス中の水素分圧の上昇により起電力を上昇させることができ、発電効率を向上させることができる。一方で、温度センサ94からの温度T4が目標温度T4tagとなるようにエアポンプ53が制御されることで、燃料電池スタック21は、スチームカーボン比SCを低下させることによる温度上昇が抑制され、適正な温度に維持される。この結果、燃料電池スタック21の運転状態が安定運転状態になった際に、燃料電池スタック21の温度を適正な温度に維持してその耐久性を確保しつつ、スチームカーボン比SCを低下させることによる発電効率の向上を図ることができる。
【0037】
また、燃料電池スタック21の運転状態が安定運転状態になると、エアポンプ53のエア流量Qaが最大流量Qamaxを超えない範囲内で目標比SCtagを基準比SCrefよりも低下させるから、燃料電池スタック21の温度を適正な温度に維持するために必要な必要流量に対してエアの供給量に不足が生じないようにしつつ、スチームカーボン比SCを低下させて発電効率を向上させることができる。更に、エアポンプ53は、温度センサ94により検出される温度T4が目標温度T4tagに一致するようフィードバック制御により目標エア流量Qatagを設定すると共に、目標エア流量Qatagが最大流量Qamaxを超えない範囲内でスチームカーボン比SCの目標比SCtagを基準比SCrefよりも低下させる。これにより、フィードバック制御によって燃料電池スタック21の温度をより確実に適正な温度に維持することができると共に当該フィードバック制御が適正に実施される範囲内でスチームカーボン比SCを低下させるため、耐久性の確保と発電効率の向上とを両立させることができる。更に、エア流量Qa(目標エア流量Qatag)が最大流量Qamaxに近づくほど基準比SCrefに近づくように目標比SCtagを設定するため、エア流量Qaが最大流量Qamaxに近づいている場合には、目標比SCtagを低下させるよりもエアによる燃料電池スタック21の冷却を優先して、燃料電池スタック21の温度を適正な温度に維持することができる。
【0038】
上述した実施形態では、発電モジュール20の運転状態が安定運転状態になると、燃料利用率Ufを調整(上昇)するものとしたが、燃料利用率Ufの調整が省略されてもよい。
【0039】
実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施形態では、燃料電池スタック21が「燃料電池」に相当し、改質器23が「改質部」に相当し、気化器22が「蒸発部」に相当し、改質水供給装置40が「改質水供給装置」に相当し、エア供給装置50が「酸化剤ガス供給装置」に相当し、温度センサ94が「温度センサ」に相当し、制御装置80が「制御装置」に相当する。
【0040】
なお、実施形態の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施形態が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施形態は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0041】
以上、本発明を実施するための形態について実施形態を用いて説明したが、本発明はこうした実施形態に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0042】
本発明は、燃料電池システムの製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0043】
1 原燃料供給源、2 電力系統、3 電力ライン、4 負荷、10 燃料電池システム、12 筐体、12a 吸気口、12b 排気口、14 換気ファン、20 発電モジュール、21 燃料電池スタック、22 気化器、23 改質器、24 マニホールド、25 燃焼部、26 着火ヒータ、27 燃焼触媒、28 触媒ヒータ、29 モジュールケース、30 原燃料ガス供給装置、31 原燃料ガス供給管、32,33 開閉弁、34 オリフィス、35 ガスポンプ、36 脱硫器、37 圧力センサ、38 流量センサ、40 改質水供給装置、41 改質水供給管、42 改質水タンク、43 改質水ポンプ、50 エア供給装置、51 エア供給管、52 エアフィルタ、53 エアポンプ、60 排熱回収装置、61 循環配管、62 熱交換器、63 貯湯タンク、64 循環ポンプ、66 配管、67 燃焼排ガス排出管、70 パワーコンディショナ、72 電源基板、80 制御装置、81 CPU、82 ROM、83 RAM、84 タイマ、91,94,98 温度センサ。