(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】高周波増幅器
(51)【国際特許分類】
H03F 1/02 20060101AFI20240214BHJP
H03F 3/24 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H03F1/02 188
H03F3/24
(21)【出願番号】P 2020072400
(22)【出願日】2020-04-14
【審査請求日】2022-09-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋長 達也
(72)【発明者】
【氏名】森山 豊
【審査官】竹内 亨
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2017/0085228(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0276985(US,A1)
【文献】特開2010-213170(JP,A)
【文献】特開2010-245819(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03F 1/00-3/72
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
キャリアアンプと、前記キャリアアンプの出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始し、前記キャリアアンプとは異なる飽和出力を有するピークアンプとを備え、入力された高周波信号を増幅する非対称ドハティアンプと、
前記非対称ドハティアンプを駆動するドライバアンプと、
前記ドライバアンプにより増幅された高周波信号を前記ピークアンプ側の入力経路と前記キャリアアンプ側の入力経路に分岐する分岐回路と、
前記ピークアンプ側の入力経路または前記キャリアアンプ側の入力経路の少なくとも一方に設けられ、前記ピークアンプの入力信号の位相または前記キャリアアンプの入力信号の位相の少なくとも一方を遅延させる位相調整回路と、
前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプを搭載した第1の基板と、前記分岐回路、および前記位相調整回路を搭載した第2の基板と、
前記第1の基板および前記第2の基板を搭載するベース部材と、
を備え、
前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプは、所定の回路を形成した表面と、前記表面の反対側に位置する裏面とをそれぞれ有し、
前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプの裏面は、いずれも前記ベース部材に接しており、
前記第2の基板を前記第1の基板に重ね合わせて積層した状態で、前記ドライバアンプの
出力端子と前記ピークアンプの入力端子とが互いに隣接する位置にあり、
前記ドライバアンプの出力端子から前記ピークアンプの入力端子までの電気長が、nを0以上の整数とした場合、前記入力された高周波信号の位相換算で(2n+1)×π-π/4から(2n+1)×π+π/4の範囲内にあるように設定される、高周波増幅器。
【請求項2】
前記ドライバアンプの出力端子における高周波信号と前記ピークアンプの入力端子における高周波信号との位相差が、11π/4から13π/4までの範囲である、請求項1に記載の高周波増幅器。
【請求項3】
前記第1の基板と前記第2の基板との間に、接地された金属層を配置した、請求項1または請求項2に記載の高周波増幅器。
【請求項4】
前記ピークアンプは、前記キャリアアンプよりも大きな飽和出力を有するように構成される、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の高周波増幅器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、高周波増幅器に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、携帯電話等の移動体通信システムでは、広帯域化が進められている。このため、システムの基地局装置などで用いられる電力増幅器には、広周波数帯域における電力効率の高効率化などが望まれる。この電力効率の高効率化を実現するための電力増幅器として、キャリアアンプ(メインアンプともいう)およびピークアンプを有したドハティアンプが知られている。例えば、特許文献1には、ドハティアンプ(ドハティ型増幅器)の構造が開示されている。なお、ドハティアンプは、通常、ドライバアンプの後段に接続されて用いられる。
【0003】
また、プリント基板にドライバアンプおよびドハティアンプを搭載する場合、ドライバアンプ、キャリアアンプ、ピークアンプを同じ平面上に実装すると、大きなサイズのプリント基板が必要になる。このため、増幅器の小型化、省面積実装のための手段として、3次元実装にて対応する方法がある(特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第2005/093948号
【文献】特開2008-305937号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示が対象としている高周波増幅器(高周波パワーアンプ)は、入力された高周波信号を必要な出力まで増幅するため、扱う電力が大きく消費電流、あるいは消費電力が大きい。その結果、発熱が大きい。そのため、それら複数の高周波増幅器を前述の3次元実装するに際し、放熱効率をより優先する場合に、下段に、ドライバアンプ、キャリアアンプ、ピークアンプを配置し、それら増幅器以外の部品を上段に配置することが考えられる。しかし、レイアウトの制約から、ドライバアンプとピークアンプが近接して配置される可能性があり、ピークアンプの電気的特性が不安定になるという問題が生じるおそれがある。
【0006】
本開示は、上述のような実情に鑑みてなされたもので、放熱性に優れ、かつ、安定した、高周波増幅器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る高周波増幅器は、キャリアアンプと、前記キャリアアンプの出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始し、前記キャリアアンプとは異なる飽和出力を有するピークアンプとを備え、入力された高周波信号を増幅する非対称ドハティアンプと、前記非対称ドハティアンプを駆動するドライバアンプと、前記ドライバアンプにより増幅された高周波信号を前記ピークアンプ側の入力経路と前記キャリアアンプ側の入力経路に分岐する分岐回路と、前記ピークアンプ側の入力経路または前記キャリアアンプ側の入力経路の少なくとも一方に設けられ、前記ピークアンプの入力信号の位相または前記キャリアアンプの入力信号の位相の少なくとも一方を遅延させる位相調整回路と、前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプを搭載した第1の基板と、前記分岐回路、および前記位相調整回路を搭載した第2の基板と、前記第1の基板および前記第2の基板を搭載するベース部材と、を備え、前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプは、所定の回路を形成した表面と、前記表面の反対側に位置する裏面とをそれぞれ有し、前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプの裏面は、いずれも前記ベース部材に接しており、前記第2の基板を前記第1の基板に重ね合わせて積層した状態で、前記ドライバアンプの出力端子と前記ピークアンプの入力端子とが互いに隣接する位置にあり、前記ドライバアンプの出力端子から前記ピークアンプの入力端子までの電気長が、nを0以上の整数とした場合、前記入力された高周波信号の位相換算で(2n+1)×π-π/4から(2n+1)×π+π/4の範囲内にあるように設定される。
【発明の効果】
【0008】
上記によれば、放熱性に優れ、かつ、安定した、高周波増幅器を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】本開示の一態様に係る高周波増幅器を模式化して示した断面図である。
【
図2】
図1の高周波増幅器を説明するブロック図である。
【
図6】
図5の回路図に対応させた上段を説明する図である。
【
図8】
図7の回路図に対応させた下段を説明する図である。
【
図9】本開示の他の一態様に係る高周波増幅器を模式化して示した断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施形態の内容を列記して説明する。
本開示に係る高周波増幅器は、(1)キャリアアンプと、前記キャリアアンプの出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始し、前記キャリアアンプとは異なる飽和出力を有するピークアンプとを備え、入力された高周波信号を増幅する非対称ドハティアンプと、前記非対称ドハティアンプを駆動するドライバアンプと、前記ドライバアンプにより増幅された高周波信号を前記ピークアンプ側の入力経路と前記キャリアアンプ側の入力経路に分岐する分岐回路と、前記ピークアンプ側の入力経路または前記キャリアアンプ側の入力経路の少なくとも一方に設けられ、前記ピークアンプの入力信号の位相または前記キャリアアンプの入力信号の位相の少なくとも一方を遅延させる位相調整回路と、前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプを搭載した第1の基板と、前記分岐回路、および前記位相調整回路を搭載した第2の基板と、前記第1の基板および前記第2の基板を搭載するベース部材と、を備え、前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプは、所定の回路を形成した表面と、前記表面の反対側に位置する裏面とをそれぞれ有し、前記ドライバアンプ、前記キャリアアンプ、および前記ピークアンプの裏面は、いずれも前記ベース部材に接しており、前記第2の基板を前記第1の基板に重ね合わせて積層した状態で、前記ドライバアンプの出力端子と前記ピークアンプの入力端子とが互いに隣接する位置にあり、前記ドライバアンプの出力端子から前記ピークアンプの入力端子までの電気長が、nを0以上の整数とした場合、前記入力された高周波信号の位相換算で(2n+1)×π-π/4から(2n+1)×π+π/4の範囲内にあるように設定される。
ドライバアンプの出力端子とピークアンプの入力端子との物理的な距離が非常に近くなると、これら端子での出力信号のそれぞれの位相が同位相、もしくは、近い位相になって、発振など電気的に不安定な状態になるおそれがある。しかし、近接する2つの端子(ドライバアンプの出力端子とピークアンプの入力端子)間での互いの信号の位相が逆位相となるように、それら端子間の電気長を調整するため、ドライバアンプとピークアンプが近接して配置された場合でも、ピークアンプの電気的特性が不安定にならない。よって、2階建て構造を採用しても増幅器を安定させることができる。
また、ドライバアンプ、キャリアアンプおよびピークアンプの各裏面がいずれもベース部材に接するので、放熱性の良い高周波増幅器を提供可能となる。
(2)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記ドライバアンプの出力端子における高周波信号と前記ピークアンプの入力端子における高周波信号との位相差が、11π/4から13π/4までの範囲である。
近接する2つの端子(ドライバアンプの出力端子とピークアンプの入力端子)間の電気長が信号の位相に換算して(2n+1)×π±π/4の位相差になるようにしており、特に、ドライバアンプの出力信号とピークアンプの入力信号の位相差が11π/4から13π/4までの範囲とすれば、発振などの電気的に不安定な状態を確実に解消することができる。
【0011】
(3)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記第1の基板と前記第2の基板との間に、接地された金属層を配置した。
接地された金属層は電磁波を遮断できる。よって、第1の基板は第2の基板側で生ずる電磁波の影響を受け難くなり、第2の基板は第1の基板側で生ずる電磁波の影響を受け難くなる。
(4)本開示の高周波増幅器の一態様では、前記ピークアンプは、前記キャリアアンプよりも大きな飽和出力を有するように構成される。
ピークアンプでは、最適マッチングを得るための位相シフト量がキャリアアンプよりも大きくなる。
【0012】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、添付図面を参照しながら、本開示に係る高周波増幅器の具体例について説明する。
図1は、本開示の一態様に係る高周波増幅器を模式化して示した断面図である。
高周波増幅器1は、移動体通信システムの基地局装置などの通信装置に搭載され、例えば送信信号を増幅するために用いられる。高周波増幅器1はベース部材La4を有する。ベース部材La4は、放熱と外部端子を兼ねた金属(例えば銅)製の板であり、通信装置のプリント基板100上に配置される。
【0013】
ベース部材La4上には、下段10、上段20が搭載される。下段10が本開示の第1の基板に、上段20が本開示の第2の基板にそれぞれ相当する。
上段20は、下段10に重ね合わせて積層される。上段20は、第3誘電体層23(例えば厚さ0.1mm)、第1配線層La1(例えば厚さ10~35μm)、第4誘電体層24(例えば厚さ0.4mm)からなる。第1配線層La1には高周波線路パターンが形成されている。
【0014】
第4誘電体層24と下段10(第2誘電体層12)との間には、第2配線層La2(例えば厚さ10~35μm)が配置される。第2配線層La2は、例えば銅製のベタ面であり、第1配線層La1に対するGND面と、上段20と下段10との間で生ずる電磁波を遮蔽する役割を担う。第2配線層La2が本開示の接地された金属層に相当する。
下段10は、ベース部材La4と上段20との間に挟まれて配置されている。下段10は、第2誘電体層12(例えば厚さ0.2mm)、第3配線層La3(例えば厚さ10~35μm)、第1誘電体層11(例えば厚さ0.28mm)からなる。第3配線層La3には、GND面をなすベース部材La4を基準電圧とした高周波線路パターンが形成されている。
【0015】
高周波増幅器1を製造する場合、まず、第3誘電体層23の片面(表面)に第1配線層La1を設ける。次に、第1配線層La1の片面に、インダクタLやキャパシタCを実装した後、第4誘電体層24を配置する。続いて、第4誘電体層24の片面に第2配線層La2を設ける。次いで、この第2配線層La2の片面に第2誘電体層12を配置した後、この第2誘電体層12の片面に第3配線層La3を設ける。そして、第3配線層La3の片面に、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54およびピークアンプ64などの能動部品、並びにインダクタLやキャパシタCを実装してから、第1誘電体層11を配置する。
【0016】
ドライバアンプ40は、所定の回路を形成した表面40aと、表面40aの反対側に位置して例えば回路を形成しない裏面40bを有する。ドライバアンプ40は、第1誘電体層11に設けられており、表面40aが上段20に対向するように上方を向いて配置され、第3配線層La3の片面に実装される。裏面40bは上段20から離間するように下方に向けて配置され、焼結系銀ペースト、もしくは焼結系銅ペーストを塗布したベース部材La4に固着される。
【0017】
キャリアアンプ54およびピークアンプ64も同じく第1誘電体層11に設けられており、表面54a,64aがいずれも上方を向いて第3配線層La3の片面に実装される。裏面54b,64bは、いずれもベース部材La4に接するように下方に向けて配置され、焼結系銀ペースト、もしくは焼結系銅ペーストを塗布したベース部材La4に固着される。
第1誘電体層11の片面には、GND面をなすベース部材La4(例えば厚さ0.15~0.25mm)が配置される。
【0018】
なお、上段20の第1配線層La1とベース部材La4との間における電気的なパスは、例えば、信号ビア13c、13b、13aを用いて、それぞれパスを確保している。詳しくは、信号ビア13a~13cは、ベース部材La4、下段10、および上段20の第4誘電体層24を貫通しており、この信号ビア13aの一端が入力端子RFinに接続され、この信号ビア13cの他端が第1配線層La1に接続されている。
【0019】
また、第1配線層La1と下段10の第3配線層La3との間における電気的なパスは、例えば、信号ビア15a,15bや、信号ビア14aを用いて確保している。詳しくは、まず、信号ビア15a,15bは、上段20の第4誘電体層24、および下段10の第2誘電体層12を貫通している。信号ビア15aの一端が第1配線層La1に接続され、信号ビア15aの他端が第3配線層La3(ドライバアンプ40の入力)に接続されている。一方、信号ビア15bの一端が第3配線層La3(ドライバアンプ40の出力)に接続され、信号ビア15bの他端が第1配線層La1に接続されている。
【0020】
さらに、信号ビア14aも、上段20の第4誘電体層24、および下段10の第2誘電体層12を貫通しており、この信号ビアの一端が第1配線層La1に接続され、この信号ビアの他端が第3配線層La3(キャリアアンプ54の入力とピークアンプ64の入力)に接続されている。
そして、第3配線層La3とベース部材La4との間における電気的なパスは、例えば、信号ビア13a,16aを用いて確保している。具体的に、信号ビア13a,16aは、下段10の第1誘電体層11、およびベース部材La4を貫通している。信号ビア16aの一端は、第3配線層La3を経由してドハティアンプ50の出力に接続され、信号ビア16aの他端は、出力端子RFoutに接続されている。
【0021】
このように、上段20を下段10に重ね合わせて積層しており、ドライバアンプ40を含むアンプ回路とドハティアンプ50の回路を3次元的に実装するので、モジュールサイズが最外形6mm角で、厚さ2.2mmのような、高周波増幅器1の小型化を達成できる。
また、この高周波増幅器1では、ワイヤボンド接続が不要である。よって、例えば500mm角程度の大きなパネルを製造工程に流すことが可能であり、このパネルからは6mm角のものが例えば6千枚取れるので、加工費と材料費低減によるコストの大幅低減を達成できる。
【0022】
ここで、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、およびピークアンプ64をいずれも下段10に配置した場合、ドライバアンプ40の出力端子とピークアンプ64の入力端子とが互いに隣接する位置にあるため、ドライバアンプ40の出力端子とピークアンプ64の入力端子との物理的な距離が非常に近くなることがある。このような物理的な配置において、これら各端子からの出力信号と入力信号とのそれぞれの位相が同位相、もしくは、近い位相になると、発振など電気的に不安定な状態になるおそれがある。
【0023】
そこで、高周波増幅器1では、ドライバアンプ40の出力端子とピークアンプ64の入力端子での互いの信号の位相が逆位相となるように、それら端子間の電気長を調整しており、ドライバアンプ40の出力端子からピークアンプ64の入力端子までの電気長を、もしくは、ドライバアンプ40の出力端子からピークアンプ64の入力端子まで波長λの入力信号が伝搬する遅延時間を、波長λの入力信号の位相換算で(2n+1)×π-π/4から(2n+1)×π+π/4の範囲内にあるように設定している。nは0以上の整数である。
【0024】
これを達成するために、ドライバアンプ40のドレイン出力から分岐回路51に至るまでの経路では、例えば、
図3に曲線パターン49で示すような、上段20の中央から右半分にまで大きく迂回させたり、分岐回路51とピークアンプ64との間に位相調整回路61を配置したり、
図3の位相調整回路61の付近に曲線パターンで示すような、分岐回路51の出力からビア61aまでの経路では、直線ではなく、敢えて曲線で形成したり、また、分岐回路51とキャリアアンプ54との間に位相調整回路52を配置している。
【0025】
このように、ドライバアンプ40の出力端子とピークアンプ64の入力端子のような、近接する2つの端子間での互いの信号の位相が逆位相となるように、それら端子間の電気長を調整するため、ドライバアンプ40とピークアンプ64が近接して配置された場合でも、ピークアンプ64の電気的特性が不安定にならない。よって、2階建て構造を採用しても増幅器1を安定させることができる。
より具体的には、ドライバアンプ40の出力端子における高周波信号(以下、RF(Radio Frequency)と称する)とピークアンプ64の入力端子におけるRF信号との位相差を11π/4から13π/4までの範囲としている。これにより、発振などの電気的に不安定な状態を確実に解消することができる。
【0026】
なお、一般的なドハティアンプでは、キャリアアンプとピークアンプとの位相差をπ/2に設定するが、高周波増幅器1では、この位相差を敢えてπに設定している。つまり、キャリアアンプ54の出力端子におけるRF信号とピークアンプ64の出力端子におけるRF信号との位相差をπ/2から3π/2までの範囲としている。これにより、キャリアアンプ54から放出される電磁波およびピークアンプ64から放出される電磁波が近隣で打ち消し合うので、高周波増幅器1の外部に放出される電磁波を小さく抑えることができる。
また、このキャリアアンプ54の位相とピークアンプ64の位相は、
図3に示す位相調整回路52,61や、
図7,8で説明する入力マッチング回路53,63、出力マッチング回路55,65、伝送線TRL1(
図4で説明する90°伝送線路56a)により出力端子RFoutで同期させる。
【0027】
図2は、
図1の高周波増幅器を説明するブロック図である。また、
図3は、
図1の上段の平面図であり、
図4は、
図1の下段の平面図である。
高周波増幅器1は、ドライバアンプ40と、ドライバアンプ40の後段に設けられたドハティアンプ50と、を有し、例えば5GHz~6GHzの周波数帯域の信号を増幅可能に構成されている。
ドライバアンプ40を含む電気回路では、入力端子RFinに入力された波長λで規定されるRF信号を、ドハティアンプ50が所定の送信電力にまで増幅できる程度に増幅する。
【0028】
ドハティアンプ50は、分岐回路51、位相調整回路52,61、キャリアアンプ54、ピークアンプ64、およびドハティネットワーク56,66を含む電気回路であり、ドライバアンプ40が増幅したRF信号をさらに増幅して出力端子RFoutから出力する。
ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、増幅素子として例えばGaN-HEMT(High Electron Mobility Transistor)を用いた増幅器である。ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、いずれもゲートパッドが矩形状の一辺に設けられ、ドレインパッドがゲートパッドに対向する辺に設けられている。
【0029】
なお、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、ゲートパッドの両側にソースパッドが設けられている。ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64は、ソースパッドが、
図1で説明した裏面40b,54b,64bを介してベース部材La4に接続されている。これにより、GNDを確保すると共に、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64からベース部材La4までの放熱パスが形成される。
【0030】
図3に示す上段20と
図4に示す下段10は、略相似形の平面を有しており、いずれも例えば6mm角で形成されている。
図1に示すように通信装置のプリント基板100上に備えられた信号配線101aを経由して入力端子RFin(信号ビア13a)に入力されたRF信号は、
図1で説明したベース部材La4から下段10を貫通し、
図1に示す信号ビア13a、13b、13cを通り、下段10の何処にも接続されずに
図3で見て上段20の左下の隅部分に入力される。ドライバアンプ40は、
図4で見て下段10の左下付近に実装されており、上段20に入力されたRF信号は、信号ビア15aを経由して下段10に向かい、ドライバアンプ40に入力される。ドライバアンプ40で増幅されたRF信号は、信号ビア15bを経由して上段20に向かい、
図3に曲線パターン49で示すように大きく転回する。詳しくは、この
図3で見て上段20の上辺に向かった後、右折してこの上辺に沿って右に進み、さらに右折して上段20の下辺に向かい、この上段20に設けられた分岐回路51に達する。
【0031】
分岐回路51は、上段20の第1配線層La1に設けられている。分岐回路51は、例えばウィルキンソン型分配器であり、ドライバアンプ40により増幅されたRF信号をピークアンプ側の入力経路とキャリアアンプ側の入力経路に等分している。
分岐回路51で分配されたRF信号の一方(キャリアアンプ側の入力経路)は、上段20の第1配線層La1に設けられた位相調整回路52に至る。位相調整回路52は、キャリアアンプ54の入力信号の位相を、所定の分布定数分だけ遅延させる。位相調整回路52を経たRF信号は、
図3で見て上段20の下辺近傍に形成されたビア52aから下段10に向かう。これは例えば、
図1に示す信号ビア14aを通る信号経路と同様なパスを通る。
【0032】
これに対し、分岐回路51で分配されたRF信号の他方(ピークアンプ側の入力経路)は、上段20の第1配線層La1に設けられた位相調整回路61に至る。位相調整回路61は、ピークアンプ64の入力信号の位相を、所定の分布定数分だけ遅延させる。位相調整回路61を経たRF信号は、
図3で見て上段20の下辺近傍に形成されたビア61aから下段10に向かう。これも、
図1に示す信号ビア14aを通る信号経路と同様なパスを通る。
【0033】
なお、本実施形態では、位相調整回路52を、分岐回路51とキャリアアンプ54との間に配置し、位相調整回路61を、分岐回路51とピークアンプ64との間に配置した例を挙げて説明した。しかし、本開示はこの例に限定されない。例えば、位相調整回路を、分岐回路51とピークアンプ64との間、あるいは、分岐回路51とキャリアアンプ54との間のいずれかに配置して、入力信号の位相を遅延させることも可能である。
【0034】
本実施形態のドハティアンプ50は、非対称ドハティアンプであり、ピークアンプ64とキャリアアンプ54は、入力されたRF信号に対してそれぞれ異なる最大出力強度を示す。例えば、ピークアンプ64は、キャリアアンプ54よりも2倍程度大きな飽和出力(サイズ)を有しており、ピークアンプ64は、キャリアアンプ54の出力が飽和領域に至った場合に増幅動作を開始する。具体的には、キャリアアンプ54はAB級またはB級で動作する。ピークアンプ64はC級で動作する。瞬時電力が小さいときには、キャリアアンプ54が動作し、ピークアンプ64を動作させないので、電力効率が高まる。瞬時電力が大きいときには、キャリアアンプ54およびピークアンプ64の双方が動作するので、高い電力効率を維持しつつ飽和電力を大きくすることができる。
【0035】
一例として、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64、の出力例を記す。それぞれ、ドライバアンプ40は出力10W、キャリアアンプ54は出力15W、ピークアンプ64は出力30W、のアンプが用いられる。ここで、10W出力とは専らFETのサイズを表し、常に10Wを出力しているわけではなく、10W出力に足るサイズを有しているという意味で用いている。
【0036】
キャリアアンプ54で増幅されたRF信号は、下段10に設けたキャリアアンプ側のドハティネットワーク56に至る。このドハティネットワーク56には、90°伝送線路(λ/4線路ともいう)56aが設けられている。このため、キャリアアンプ54で増幅されたRF信号は、90°伝送線路56aを介して、
図4で見て下段10の右上の隅部分に設けられた出力端子RFoutから、後述のピークアンプ64の出力信号と合成されて、出力される。
【0037】
一方、ピークアンプ64で増幅されたRF信号は、下段10に設けたピークアンプ側のドハティネットワーク66に至り、キャリアアンプ54の出力信号と合成されて、
図1に示す信号ビア16a通る信号経路を通り、出力端子RFoutから出力される。出力端子RFoutから出力された信号は、
図1に示すように通信装置のプリント基板100上に備えられた信号配線101bを経由し、高周波増幅器1から外部へ伝搬していく。
【0038】
図5は、
図1のドライバアンプ回路図であり、
図6は、
図5の回路図に対応させた上段を説明する図である。また、
図7は、
図1のドハティアンプ回路図であり、
図8は、
図7の回路図に対応させた下段を説明する図である。
図5に示す入力端子RFinから入力したRF信号は、ドライバアンプ40(下段10に配置)のゲートに、入力マッチング回路30(上段20に配置。インダクタL1、キャパシタC1~C4の計5個)を介して入力する。ゲートバイアスは、電源VgからインダクタL2を介して供給される。キャパシタC5は電源Vgのバイパスキャパシタであり、抵抗R1は調整用の抵抗である。
【0039】
ドライバアンプ40のドレイン出力は、出力マッチング回路41(インダクタL4,L5、キャパシタC7~C9)を介して分岐回路51に与えられる。ドレインバイアスは、電源VdからインダクタL3を介して供給される。キャパシタC6は電源Vdのバイパスキャパシタである。
次に、
図7に示すように、分岐回路51では、ドライバアンプ40からのRF信号が、L11、C24によるマッチング回路と、C23、L12、C29によるマッチング回路と、に等分される。
【0040】
L11、C24によるマッチング回路で位相が調整されたRF信号は、位相調整回路52(インダクタL13,L14、キャパシタC30)でさらに位相が調整され、ビア52aを介して下段10に達し、キャリアアンプ54に向かう。
この下段10に達したRF信号は、キャリアアンプ54のゲートに、入力マッチング回路53(キャパシタC31,C11~14)を介して入力する。ゲートバイアスは、電源VgからインダクタL6を介して供給される。キャパシタC15は電源Vgのバイパスキャパシタであり、抵抗R4は調整用の抵抗である。
【0041】
キャリアアンプ54のドレイン出力は、DC遮断用のキャパシタC26を介してキャリアアンプ側のドハティネットワーク56に提供される。ドレインバイアスは、電源VdからインダクタL9を介して供給される。キャパシタC21は電源Vdのバイパスキャパシタである。
キャリアアンプ側のドハティネットワーク56は、伝送線TRL2、キャパシタC25により構成される出力マッチング回路55と、キャリアアンプ54の出力とピークアンプ64の出力を合成するための伝送線TRL1(
図4で説明した90°伝送線路56aを含む)により構成される。
【0042】
一方、分岐回路51で等分され、C23、L12、C29によるマッチング回路で位相が調整されたRF信号は、位相調整回路61(インダクタL15,L16、キャパシタC32)でさらに位相が調整され、ビア61aを介して下段10に達し、ピークアンプ64に向かう。
この下段10に達したRF信号は、ピークアンプ64のゲートに、入力マッチング回路63(インダクタL7、キャパシタC16~19)を介して入力する。ゲートバイアスは、電源VgからインダクタL8を介して供給される。キャパシタC20は電源Vgのバイパスキャパシタであり、抵抗R5は調整用の抵抗である。
【0043】
ピークアンプ64のドレイン出力は、DC遮断用のキャパシタC28を介してピークアンプ側のドハティネットワーク66に提供される。ドレインバイアスは、電源VdからインダクタL10を介して供給される。キャパシタC22は電源Vdのバイパスキャパシタである。
ピークアンプ側のドハティネットワーク66は、キャパシタC27とキャパシタC10の2段構成、伝送線TRL3により構成される出力マッチング回路65と、伝送線TRL4により構成される。
【0044】
前述のアンプ出力を比較すると、それぞれの消費電流、あるいは消費電力、そしてその結果発生する発熱の大きさは、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64、の順に大きくなるものと思われる。本実施形態の高周波増幅器1においては、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64のいずれも、金属(例えば銅)製のベース部材La4に接するので、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54、およびピークアンプ64の良好な放熱を達成できる。この結果、小型でかつ放熱性の良い高周波増幅器1を提供可能となる。
【0045】
ところで、上記
図1で説明したようなドライバアンプ40、キャリアアンプ54、ピークアンプ64を下段10に配置した場合、例えば、上述したドライバアンプ40の入力マッチング回路30(インダクタL1、キャパシタC1~C4)を下段10に配置し、ピークアンプ64の入力マッチング回路63(インダクタL7、キャパシタC16~19)を上段20に配置することも可能である。
【0046】
図9は、本開示の他の一態様に係る高周波増幅器を模式化した断面図である。なお、
図1の高周波増幅器1と同じ機能を有する構成には同一の符号を付して詳細な説明は省略する。
この
図9に示した高周波増幅器1も、ベース部材La4上には、下段10、上段20が搭載されている。ドライバアンプ40、キャリアアンプ54およびピークアンプ64は、いずれも第1誘電体層11に設けられており、ドライバアンプ40、キャリアアンプ54およびピークアンプ64の各裏面40b、54b、64bは、いずれもベース部材La4に接するように下方に向けて配置され、ベース部材La4に固着される。
【0047】
なお、下段10の第3配線層La3とベース部材La4との間における電気的なパスは、信号ビア13aを用いて確保している。信号ビア13aは、ベース部材La4、および下段10の第1誘電体層11を貫通しており、この信号ビアの一端が入力端子RFinに接続され、この信号ビアの他端が第3配線層La3に接続されている。
また、第3配線層La3と上段20の第1誘電体層11との間における電気的なパスは、信号ビア15bや、信号ビア14aを用いて確保している。詳しくは、まず、信号ビア15bは、上段20の第4誘電体層24、および下段10の第2誘電体層12を貫通している。信号ビア15bの一端が第3配線層La3を介してドライバアンプ40の出力に接続され、信号ビア15bの他端が第1配線層La1に接続されている。
【0048】
また、信号ビア14aも、上段20の第4誘電体層24、および下段10の第2誘電体層12を貫通しており、この信号ビアの一端が第1配線層La1に接続され、この信号ビアの他端が第3配線層La3を介してキャリアアンプ54の入力とピークアンプ64の入力とに接続されている。
なお、下段10の第3配線層La3とベース部材La4との間における電気的なパスは、第1誘電体層11を貫通する信号ビア17aを用いている。
【0049】
さらに、第3配線層La3とベース部材La4との間における電気的なパスは、信号ビア13a,16aを用いて確保している。信号ビア13a,16aは、下段10の第1誘電体層11、およびベース部材La4を貫通しており、信号ビア16aの一端が第3配線層La3を介してドハティアンプ50の出力に接続され、信号ビア16aの他端が出力端子RFoutに接続されている。
また、
図9に示す高周波増幅器1においても、ドライバアンプ40の出力端子におけるRF信号とピークアンプ64の入力端子におけるRF信号との位相差を11π/2から13π/2までの範囲としている。
【0050】
そして、信号配線101aを経由して入力端子RFin(信号ビア13a)に入力されたRF信号は、下段10の第3配線層La3に入力され、この下段10に設けた入力マッチング回路30を経てドライバアンプ40に入力される。ドライバアンプ40で増幅されたRF信号は、信号ビア15bを経由して上段20に向かい、この上段20に設けられた分岐回路51に達する。
分岐回路51で分配されたRF信号の一方(キャリアアンプ側の入力経路)は、位相調整回路52に至り、キャリアアンプ54の入力信号の位相を、所定の分布定数分だけ遅延させる。位相調整回路52を経たRF信号は、信号ビア14aを通る信号経路と同様なパスを通って下段10に向い、キャリアアンプ54に入力される。キャリアアンプ54で増幅されたRF信号は、下段10に設けたキャリアアンプ側のドハティネットワーク56に至り、後述のピークアンプ64の出力信号と合成される。
【0051】
一方、分岐回路51で分配されたRF信号の他方(ピークアンプ側の入力経路)は、位相調整回路61に至り、ピークアンプ64の入力信号の位相を、所定の分布定数分だけ遅延させる。位相調整回路61を経たRF信号は、上段20に設けた入力マッチング回路63を経てから、信号ビア14aを通る信号経路と同様なパスを通って下段10に向い、ピークアンプ64に入力される。ピークアンプ64で増幅されたRF信号は、ピークアンプ側のドハティネットワーク66に至り、キャリアアンプ54の出力信号と合成されて、信号ビア16a通る信号経路を通り、出力端子RFoutから出力される。出力端子RFoutから出力された信号は、信号配線101bを経由し、高周波増幅器1から外部へ伝搬していく。
【0052】
今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本開示の範囲は、上記した意味ではなく、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0053】
1…高周波増幅器、10…下段、11…第1誘電体層、12…第2誘電体層、13a,13b,13c,14a,15a,15b,16a,17a…信号ビア、20…上段、23…第3誘電体層、24…第4誘電体層、25…蓋材、30…入力マッチング回路、40…ドライバアンプ、40a…表面、40b…裏面、41…出力マッチング回路、49…曲線パターン、50…ドハティアンプ、51…分岐回路、52…位相調整回路、52a…ビア、53…入力マッチング回路、54…キャリアアンプ、54a…表面、54b…裏面、55…出力マッチング回路、56,66…ドハティネットワーク、56a…90°伝送線路、61…位相調整回路、61a…ビア、63…入力マッチング回路、64…ピークアンプ、64a…表面、64b…裏面、65…出力マッチング回路、100…プリント基板、101a,101b…プリント基板上の配線、La1…第1配線層、La2…第2配線層、La3…第3配線層、La4…ベース部材、RFin…入力端子、RFout…出力端子、L,L1~L16…インダクタ、C,C1~C32…キャパシタ、R1,R3~R5…抵抗、TRL1~TRL4…伝送線、Vd,Vg…電源。