(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/739 20060101AFI20240214BHJP
H01L 29/78 20060101ALI20240214BHJP
H01L 29/861 20060101ALI20240214BHJP
H01L 29/868 20060101ALI20240214BHJP
H01L 21/336 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
H01L29/78 655C
H01L29/78 653A
H01L29/78 657D
H01L29/78 655B
H01L29/78 652D
H01L29/91 D
H01L29/78 301D
(21)【出願番号】P 2020079269
(22)【出願日】2020-04-28
【審査請求日】2022-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001128
【氏名又は名称】弁理士法人ゆうあい特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】宮田 征典
(72)【発明者】
【氏名】米田 秀司
(72)【発明者】
【氏名】妹尾 賢
(72)【発明者】
【氏名】薬師川 裕貴
【審査官】石塚 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-4824(JP,A)
【文献】特開2003-303965(JP,A)
【文献】特開2016-86136(JP,A)
【文献】特許第6158123(JP,B2)
【文献】特開2007-12972(JP,A)
【文献】国際公開第2019/176810(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/739
H01L 29/78
H01L 29/861
H01L 21/336
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
IGBT素子を有するIGBT領域(1a)と、FWD素子を有するFWD領域(1b)とが共通の半導体基板(10)に形成されている半導体装置であって、
前記IGBT領域と前記FWD領域とを有し、第1導電型のドリフト層(11)と、前記ドリフト層上に形成された第2導電型のベース層(12)と、前記IGBT領域において、前記ドリフト層のうちの前記ベース層側と反対側に形成された第2導電型のコレクタ層(21)と、前記FWD領域において、前記ドリフト層のうちの前記ベース層側と反対側に形成された第1導電型のカソード層(22)と、を含み、前記ベース層側の面を一面(10a)とし、前記コレクタ層および前記カソード層側の面を他面(10b)とする前記半導体基板と、
前記IGBT領域において、前記ベース層の表層部に形成された第1導電型のエミッタ領域(16)と、
前記IGBT領域において、前記ベース層のうちの前記ドリフト層と前記エミッタ領域との間に形成されたゲート絶縁膜(14)と、
前記ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極(15)と、
前記半導体基板の一面側に配置され、前記ベース層および前記エミッタ領域と電気的に接続される第1電極(19)と、
前記半導体基板の他面側に配置され、前記コレクタ層および前記カソード層と電気的に接続される第2電極(24)と、を備え、
前記コレクタ層は、前記カソード層のうちの前記ドリフト層側に位置する全ての領域を覆う延設部(21a)を有し、
前記延設部は、面密度が3.5×10
12cm
-2以下とされている半導体装置。
【請求項2】
前記コレクタ層は、前記半導体基板の他面からの深さ方向において、キャリア濃度が最大となる最大ピーク位置(P1)が前記コレクタ層の深さ方向における中心(C1)よりも前記ドリフト層側に位置している請求項
1に記載の半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、絶縁ゲート構造を有する絶縁ゲートバイポーラトランジスタ(以下では、IGBTという)素子とフリーホイールダイオード(以下では、FWDという)素子とが共通の半導体基板に形成された半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来より、例えば、インバータ等に使用されるスイッチング素子として、IGBT素子を有するIGBT領域と、FWD素子を有するFWD領域とが共通の半導体基板に形成された半導体装置が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
具体的には、この半導体装置では、N-型のドリフト層を構成する半導体基板の一面側にベース層が形成され、ベース層を貫通するように複数のトレンチが形成されている。なお、各トレンチは、半導体基板の面方向における一方向が長手方向となるように延設されている。そして、各トレンチには、ゲート絶縁膜およびゲート電極が順に形成されている。
【0004】
ベース層の表層部には、トレンチに接するようにN+型のエミッタ領域が形成されている。半導体基板の他面側には、P+型のコレクタ層およびN+型のカソード層が形成されている。また、半導体基板の他面側には、ドリフト層と、コレクタ層およびカソード層との間の全領域に、P+型のシールド層が形成されている。つまり、カソード層は、ドリフト層側に位置する全領域がシールド層で覆われた状態となっている。
【0005】
そして、半導体基板の一面側には、エミッタ領域およびベース層と電気的に接続される上部電極が形成されている。半導体基板の他面側には、コレクタ層およびカソード層と電気的に接続される下部電極が形成されている。
【0006】
このような半導体装置では、コレクタ層が形成されている領域がIGBT領域とされ、カソード層が形成されている領域がFWD領域とされる。なお、FWD領域では、上記構成とされていることにより、N型のカソード層およびドリフト層と、P型のベース層とによってPN接合を有するFWD素子が構成される。
【0007】
そして、上記半導体装置では、IGBT素子がオン状態である際、エミッタ領域から電子がドリフト層に供給されると共にコレクタ層から正孔がドリフト層に供給される。この場合、カソード層のうちのドリフト層側に位置する全領域がシールド層で覆われているため、IGBT素子におけるスナップバックを抑制することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記半導体装置では、カソード層のうちのドリフト層側に位置する全領域がシールド層で覆われている。このため、FWD素子がオン状態となってダイオード動作する際、カソード層から供給される電子がシールド層によってベース層側に流れ難くなる可能性がある。つまり、上記半導体装置では、FWD素子の順方向電圧が高くなる可能性がある。
【0010】
本発明は上記点に鑑み、IGBT素子のスナップバックを抑制しつつ、FWD素子の順方向電圧が高くなることを抑制できる半導体装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記目的を達成するための請求項1では、IGBT素子を有するIGBT領域(1a)と、FWD素子を有するFWD領域(1b)とが共通の半導体基板(10)に形成されている半導体装置であって、IGBT領域とFWD領域とを有し、第1導電型のドリフト層(11)と、ドリフト層上に形成された第2導電型のベース層(12)と、IGBT領域において、ドリフト層のうちのベース層側と反対側に形成された第2導電型のコレクタ層(21)と、FWD領域において、ドリフト層のうちのベース層側と反対側に形成された第1導電型のカソード層(22)と、を含み、ベース層側の面を一面(10a)とし、コレクタ層およびカソード層側の面を他面(10b)とする半導体基板と、IGBT領域において、ベース層の表層部に形成された第1導電型のエミッタ領域(16)と、IGBT領域において、ベース層のうちのドリフト層とエミッタ領域との間に形成されたゲート絶縁膜(14)と、ゲート絶縁膜上に形成されたゲート電極(15)と、半導体基板の一面側に配置され、ベース層およびエミッタ領域と電気的に接続される第1電極(19)と、半導体基板の他面側に配置され、コレクタ層およびカソード層と電気的に接続される第2電極(24)と、を備え、コレクタ層は、カソード層のうちのドリフト層側に位置する全ての領域を覆う延設部(21a)を有し、延設部は、面密度が3.5×1012cm-2以下とされている。
【0014】
これによれば、カソード層のうちのドリフト層側に延設部が形成されているため、IGBT素子がオン状態となる際のスナップバックを抑制することができる。そして、延設部は、面密度が3.5×1012cm-2以下とされている。このため、FWD素子の順方向電圧が増加することを抑制できる。
【0015】
なお、各構成要素等に付された括弧付きの参照符号は、その構成要素等と後述する実施形態に記載の具体的な構成要素等との対応関係の一例を示すものである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態における半導体装置の断面図である。
【
図2A】
図1中のIIA-IIA線に沿ったキャリア濃度と、深さとの関係を示す図である。
【
図2B】
図1中のIIB-IIB線に沿ったキャリア濃度と、深さとの関係を示す図である。
【
図3】IGBT素子がオン状態である際の電子の流れを示す模式図である。
【
図4A】IGBT素子がオン状態である際の正孔濃度に関するシミュレーション結果を示す図であり、延設部が形成されていない場合の図である。
【
図4B】IGBT素子がオン状態である際の正孔濃度に関するシミュレーション結果を示す図であり、延設部が形成されている場合の図である。
【
図5A】コレクタ-エミッタ間電圧と、コレクタ電流との関係に関するシミュレーション結果を示す図である。
【
図5B】
図5A中の二点鎖線で囲まれる領域VB部の拡大図である。
【
図6】延設部の長さと、IGBT素子のオン電圧およびFWD素子の順方向電圧との関係に関するシミュレーション結果を示す図である。
【
図7】第2実施形態における半導体装置の断面図である。
【
図8】コレクタ層のキャリア濃度を一定とした場合における、コレクタ層の深さとFWD素子の順方向電圧との関係に関するシミュレーション結果を示す図である。
【
図9】コレクタ層の深さを一定とした場合における、コレクタ層のキャリア濃度とFWD素子の順方向電圧との関係に関するシミュレーション結果を示す図である。
【
図10】面密度と、FWD素子の順方向電圧との関係を示す図である。
【
図11】第3実施形態における、
図1中のXI-XI線に沿ったキャリア濃度と、深さとの関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について図に基づいて説明する。なお、以下の各実施形態相互において、互いに同一もしくは均等である部分には、同一符号を付して説明を行う。
【0018】
(第1実施形態)
第1実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本実施形態の半導体装置は、例えば、インバータ、DC/DCコンバータ等の電源回路に使用されるパワースイッチング素子として利用されると好適である。
【0019】
図1に示されるように、本実施形態の半導体装置は、IGBT素子を有するIGBT領域1aとFWD素子を有するFWD領域1bとが共通の半導体基板10に形成されたRC(Reverse Conductingの略)-IGBTとされている。なお、具体的には後述するが、本実施形態では、後述するように、半導体基板10の他面10bに位置するコレクタ層21上の部分がIGBT領域1aとされ、半導体基板10の他面10bに位置するカソード層22上の部分がFWD領域1bとされている。
【0020】
半導体装置は、N-型のドリフト層11を構成する半導体基板10を有している。なお、本実施形態の半導体基板10は、シリコン基板で構成されており、厚さが127μm程度とされている。そして、ドリフト層11上には、ベース層12が形成されている。すなわち、半導体基板10の一面10a側には、ベース層12が形成されている。
【0021】
半導体基板10には、一面10a側からベース層12を貫通してドリフト層11に達するように複数のトレンチ13が形成されている。これにより、ベース層12は、トレンチ13によって複数個に分離されている。本実施形態では、複数のトレンチ13は、IGBT領域1aおよびFWD領域1bにそれぞれ形成されている。また、本実施形態では、複数のトレンチ13は、IGBT領域1aおよびFWD領域1bの配列方向と交差する一方向を長手方向(すなわち、
図1中の紙面奥行き方向)としてストライプ状に形成されている。
【0022】
各トレンチ13は、各トレンチ13の壁面を覆うように形成されたゲート絶縁膜14と、このゲート絶縁膜14の上に形成されたポリシリコン等により構成されるゲート電極15とにより埋め込まれている。これにより、トレンチゲート構造が構成されている。
【0023】
なお、特に図示しないが、IGBT領域1aに形成されたゲート電極15は、図示しないゲートパッド等を介してゲートドライバ等に接続され、所定の電圧が印加されるようになっている。FWD領域1bに形成されたゲート電極15は、後述する上部電極19と接続され、上部電極19と同電位とされるようになっている。
【0024】
ベース層12の表層部には、IGBT領域1aにおいて、ドリフト層11よりも高キャリア濃度とされたN+型のエミッタ領域16が形成されている。すなわち、半導体基板10の一面10a側には、IGBT領域1aにおいて、エミッタ領域16が形成されている。また、ベース層12の表層部には、IGBT領域1aにおいて、ベース層12よりも高キャリア濃度とされたP+型のコンタクト領域17が形成されている。具体的には、エミッタ領域16は、ベース層12内において終端し、かつ、トレンチ13の側面に接するように形成されている。また、コンタクト領域17は、ベース層12内において終端し、かつ2つのエミッタ領域16に挟まれるように形成されている。
【0025】
より詳しくは、エミッタ領域16は、隣合うトレンチ13間の領域において、トレンチ13の長手方向に沿ってトレンチ13の側面に接するように棒状に延設され、トレンチ13の先端よりも内側で終端する構造とされている。また、コンタクト領域17は、エミッタ領域16と接するように、トレンチ13の長手方向に沿って棒状に延設されている。
【0026】
なお、本実施形態では、トレンチ13の壁面のうちのエミッタ領域16とドリフト層11との間に位置する部分が、エミッタ領域とドリフト層との間に位置するベース層の表面に相当する。また、本実施形態では、コンタクト領域17は、エミッタ領域16よりも深くまで形成されている。
【0027】
半導体基板10の一面10a上には、BPSG(Borophosphosilicate Glassの略)等で構成される層間絶縁膜18が形成されている。層間絶縁膜18には、半導体基板10の一面10aのうちのIGBT領域1aにおいて、隣合うトレンチ13の間に位置するエミッタ領域16およびコンタクト領域17を露出させるコンタクトホール18aが形成されている。また、層間絶縁膜18には、半導体基板10の一面10aのうちのFWD領域1bにおいて、ベース層12を露出させるコンタクトホール18bが形成されていると共に、ゲート電極15を露出させるコンタクトホール18cが形成されている。
【0028】
そして、層間絶縁膜18上には、上部電極19が形成されている。上部電極19は、IGBT領域1aでは、層間絶縁膜18に形成されたコンタクトホール18aを通じてエミッタ領域16およびコンタクト領域17と電気的に接続されている。また、上部電極19は、FWD領域1bでは、層間絶縁膜18に形成されたコンタクトホール18bを通じてベース層12と電気的に接続されていると共に、コンタクトホール18cを通じてゲート電極15と電気的に接続されている。
【0029】
つまり、層間絶縁膜18上には、IGBT領域1aにおいてエミッタ電極として機能し、FWD領域1bにおいてアノード電極として機能する上部電極19が形成されている。なお、本実施形態では、上部電極19が第1電極に相当している。
【0030】
ドリフト層11のうちのベース層12側と反対側には、ドリフト層11よりも高キャリア濃度とされたN型のフィールドストップ層(以下では、FS層という)20が形成されている。つまり、半導体基板10の他面10b側には、FS層20が形成されている。
【0031】
そして、IGBT領域1aでは、FS層20を挟んでドリフト層11と反対側にP+型のコレクタ層21が形成され、FWD領域1bでは、FS層20を挟んでドリフト層11と反対側にN+型のカソード層22が形成されている。
【0032】
ここで、本実施形態では、コレクタ層21は、カソード層22よりも半導体基板10の他面10bからの深さ(以下では、単に深さともいう)が深くされている。そして、コレクタ層21は、カソード層22上まで延設された延設部21aを有する構成とされている。つまり、コレクタ層21は、カソード層22のうちのドリフト層11側の部分を覆う延設部21aを有する構成とされている。但し、本実施形態の延設部21aは、カソード層22上の全領域には形成されておらず、カソード層22は、ドリフト層11側の部分において、コレクタ層21と反対側の部分が延設部21aから露出した状態となっている。なお、以下では、延設部21aにおけるコレクタ層21とカソード層22との配列方向に沿った長さを延設部21aの長さxとする。
【0033】
そして、カソード層22のうちの延設部21aから露出する部分とFS層20との間には、N-型の連結領域23が配置されている。本実施形態では、連結領域23は、カソード層22よりもキャリア濃度が低くされており、ドリフト層11と同じキャリア濃度とされている。より詳しくは、連結領域23は、ドリフト層11の一部で構成されている。
【0034】
なお、上記のようなFS層20、コレクタ層21、カソード層22、および連結領域23は、例えば、以下のように形成される。すなわち、FS層20を構成する不純物をイオン注入した後、延設部21aを含むコレクタ層21を構成する不純物をイオン注入する。その後、延設部21aを構成する部分と、半導体基板10の他面10bとの間にカソード層22を構成する不純物をイオン注入し、熱処理されることで構成される。
【0035】
また、FS層20、コレクタ層21、カソード層22は、上記のように不純物がイオン注入されて熱処理されることで構成されるため、
図2Aおよび
図2Bに示されるように、キャリア濃度が正規分布となっている。そして、本実施形態の連結領域23は、ドリフト層11の一部で構成されているため、キャリア濃度が一定とされている。
【0036】
また、
図1に示されるように、半導体基板10の他面10bでは、コレクタ層21とカソード層22とが隣接して形成されている。そして、本実施形態では、IGBT領域1aとFWD領域1bとは、半導体基板10の他面10bに位置する層がコレクタ層21であるかカソード層22であるかによって区画されている。つまり、本実施形態では、半導体基板10の他面10bに位置するコレクタ層21上の部分がIGBT領域1aとされ、半導体基板10の他面10bに位置するカソード層22上の部分がFWD領域1bとされている。このため、本実施形態の延設部21aは、FWD領域1bに形成されているともいえる。
【0037】
コレクタ層21およびカソード層22を挟んでドリフト層11と反対側には、コレクタ層21およびカソード層22と電気的に接続される下部電極24が形成されている。言い換えると、半導体基板10の他面10bには、下部電極24が形成されている。つまり、IGBT領域1aにおいてはコレクタ電極として機能し、FWD領域1bにおいてはカソード電極として機能する下部電極24が形成されている。本実施形態では、下部電極24が第2電極に相当している。
【0038】
本実施形態の半導体装置は、このように構成されることにより、IGBT領域1aにおいては、ベース層12をベースとし、エミッタ領域16をエミッタとし、コレクタ層21をコレクタとするIGBT素子が構成される。また、FWD領域1bにおいては、ベース層をアノードとし、ドリフト層11、FS層20、カソード層22、連結領域23をカソードとしてPN接合されたFWD素子が構成される。
【0039】
以上が本実施形態における半導体装置の構成である。なお、本実施形態では、N型、N+型、N-型が第1導電型に相当しており、P型、P+型が第2導電型に相当している。また、本実施形態では、上記のように構成されることにより、半導体基板10は、コレクタ層21、カソード層22、連結領域23、FS層20、ドリフト層11、ベース層12、エミッタ領域16、コンタクト領域17を含んだ構成となっている。
【0040】
次に、上記半導体装置の作動および効果について説明する。まず、上記半導体装置の基本的な作動について説明する。
【0041】
半導体装置は、下部電極24に上部電極19より高い電圧が印加されると、ベース層12とドリフト層11との間に形成されるPN接合が逆導通状態となって空乏層が形成される。そして、ゲート電極15に、絶縁ゲート構造の閾値電圧Vth未満であるローレベル(例えば、0V)の電圧が印加されているときには、上部電極19と下部電極24との間に電流は流れない。
【0042】
IGBT素子をオン状態にするには、下部電極24に上部電極19より高い電圧が印加された状態で、IGBT領域1aのゲート電極15に、絶縁ゲート構造の閾値電圧Vth以上であるハイレベルの電圧が印加されるようにする。これにより、IGBT領域1aでは、ベース層12のうちのゲート電極15が配置されるトレンチ13と接している部分に反転層が形成される。そして、IGBT素子は、エミッタ領域16から反転層を介して電子がドリフト層11に供給されることによってコレクタ層21から正孔がドリフト層11に供給され、伝導度変調によりドリフト層11の抵抗値が低下することでオン状態となる。
【0043】
また、IGBT素子をオフ状態にし、FWD素子をオン状態にする(すなわち、FWD素子をダイオード動作させる)際には、上部電極19と下部電極24に印加する電圧をスイッチングし、上部電極19に下部電極24より高い電圧を印加する順電圧印加を行う。これにより、ベース層12へ正孔が供給されると共にカソード層22へ電子が供給されることでFWD素子がダイオード動作をする。
【0044】
以上が本実施形態における半導体装置の基本的な作動である。そして、本実施形態では、カソード層22上に延設部21aが形成されている。このため、IGBT素子をオン状態にする、またはIGBT素子がオン状態である際には、
図3に示されるように、電子は、FS層20のうちのIGBT領域1aに位置する部分に達した後、半導体基板10の面方向に沿ってFWD領域1b側に移動してカソード層22から排出される。そして、コレクタ層21からドリフト層11に供給される正孔は、延設部21aからもドリフト層11に供給される。このため、
図4Aおよび
図4Bに示されるように、延設部21aがカソード層22上に配置される構成とした場合、延設部21aがカソード層22上に配置されていない場合と比較すると、IGBT領域1aとFWD領域1bとの境界の正孔濃度が高くなることが確認される。
【0045】
なお、
図4Bは、カソード層22におけるIGBT領域1aおよびFWD領域1bの配列方向をカソード層22の幅とすると、延設部21aの長さxをカソード層22の幅と同じにしたシミュレーション結果である。つまり、
図4Bは、延設部21aがカソード層22上の全領域を覆うように配置した場合のシミュレーション結果である。但し、本実施形態のように延設部21aがカソード層22上の全領域を覆うように配置されていなくても、正孔が延設部21aからもドリフト層11に供給されるため、IGBT領域1aとFWD領域1bとの境界の正孔濃度を高くできる。
【0046】
そして、
図5Aおよび
図5Bに示されるように、延設部21aがカソード層22上の全領域に配置される構成とした場合、スナップバックが発生することを抑制できることが確認される。なお、
図5Aおよび
図5B中の延設部ありとは、延設部21aがカソード層22上の全領域を覆うように配置された場合のシミュレーション結果である。但し、本実施形態のように延設部21aがカソード層22上の全領域を覆うように配置されていなくても、上記のようにIGBT領域1aとFWD領域1bとの境界の正孔濃度を高くできるため、スナップバックが発生することを抑制できる。
【0047】
一方、FWD素子をオン状態にする際には、カソード層22上の全領域に延設部21aが配置されると、カソード層22からベース層12側に電子が移動し難くなる。このため、
図6に示されるように、カソード層22上の全領域に延設部21aが配置されている場合には、FWD素子の順方向電圧が増加してしまう。なお、
図6は、カソード層22の幅を24μmとしたシミュレーション結果であり、延設部21aは、長さが24μmである場合にカソード層22上の全領域に配置された状態となる。
【0048】
したがって、本実施形態では、上記のように、延設部21aは、カソード層22上の全領域を覆うようには形成されておらず、カソード層22の一部は、延設部21aから露出した状態となっている。つまり、延設部21aは、長さxが24μm未満とされている。このため、
図6に示されるように、FWD素子の順方向電圧が高くなることを抑制できる。
【0049】
なお、
図6は、150℃で400Aの電流を流した際のシミュレーション結果であり、オン電圧をVonとして示し、順方向電圧をVfとして示している。そして、
図6に示されるように、オン電圧は、延設部21aの長さxを長くするほど低くなる。このため、延設部21aは、カソード層22の一部が延設部21aから露出すると共に、要求されるオン電圧等に応じて長さxが設定されることが好ましい。例えば、本実施形態では、長さxが23μmである際、オン電圧を十分に低減しつつ、順方向電圧も高くなることを抑制できる。つまり、カソード層22の幅に対する延設部21aの長さxの比率が23/24である際、オン電圧を十分に低減しつつ、順方向電圧も高くなることを抑制できる。
【0050】
また、本実施形態では、FS層20とカソード層22との間の連結領域23は、カソード層22よりもキャリア濃度が低くされている。このため、例えば、カソード層22上のうちの延設部21aから露出する部分がFS層20と接続されている場合と比較して、コレクタ層21とFS層20とのPN接合に印加される電圧を大きくできる。したがって、IGBT素子がオン状態である場合には、コレクタ層21に供給される正孔の増加を図ることができ、カソード層22上の全領域に延設部21aを配置しなかったことによってオン電圧が上昇することを抑制できる。
【0051】
以上説明した本実施形態では、カソード層22上の一部を覆うように延設部21aが形成されている。このため、IGBT素子がオン状態となる際のスナップバックを抑制することができる。そして、カソード層22は、延設部21aから露出する部分を有する状態となっている。このため、FWD素子がオン状態である場合には、カソード層22からベース層12側に電子が移動し難くなることを抑制でき、順方向電圧が増加することを抑制できる。
【0052】
さらに、本実施形態では、FS層20とカソード層22との間に、カソード層22よりもキャリア濃度が低くされた連結領域23が配置されている。このため、例えば、カソード層22上のうちの延設部21aから露出する部分がFS層20と接続されている場合と比較して、コレクタ層21とFS層20とのPN接合に印加される電圧を大きくできる。したがって、IGBT素子がオン状態である場合には、コレクタ層21に供給される正孔の増加を図ることができ、カソード層22上の全領域に延設部21aを配置しなかったことによってオン電圧が上昇することを抑制できる。
【0053】
(第2実施形態)
第2実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、延設部21aの構成を変更したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0054】
本実施形態の半導体装置は、
図7に示されるように、延設部21aは、カソード層22上の全領域に形成されている。つまり、カソード層22は、ドリフト層11側の全領域が延設部21aに覆われた状態となっている。このため、本実施形態の半導体装置では、上記のように、FWD素子の順方向電圧が高くなる可能性がある。したがって、本実施形態の半導体装置では、延設部21aが以下の構成とされている。以下、本実施形態における延設部21aの構成について、
図8~
図10を参照しつつ説明する。なお、
図8~
図10では、半導体基板10の他面10bを深さの基準としてカソード層22の深さを0.15μmとし、コレクタ層21の深さを深さdとしている。また、
図8~
図10では、FWD素子の順方向電圧をVfとして示している。
【0055】
まず、
図8に示されるように、コレクタ層21のキャリア濃度を1.0×10
18cm
-3で固定した場合、FWD素子の順方向電圧は、コレクタ層21の深さdが0.5μm以上になると急峻に増加することが確認される。また、
図9に示されるように、コレクタ層21の深さdを0.5μmで固定した場合、キャリア濃度が1.0×10
17cm
-3以上になると、FWD素子の順方向電圧が急峻に増加することが確認される。なお、
図8および
図9は、キャリア濃度が深さ方向に沿って一定である場合のシミュレーション結果である。
【0056】
そして、
図8および
図9に基づいて延設部21aの面密度を導出すると、面密度とFWD素子の順方向電圧との関係は
図10に示されるようになる。すなわち、
図10に示されるように、順方向電圧は、面密度が3.5×10
12cm
-2より大きくなると急峻に大きくなる。このため、本実施形態では、延設部21aは、面密度が3.5×10
12cm
-2以下とされている。
【0057】
以上説明した本実施形態によれば、延設部21aがカソード層22上の全領域に形成されている。このため、IGBT素子がオン状態となる際のスナップバックを抑制することができる。また、延設部21aは、面密度が3.5×1012cm-2以下とされている。このため、FWD素子の順方向電圧が増加することを抑制できる。
【0058】
(第3実施形態)
第3実施形態について説明する。本実施形態は、第1実施形態に対し、コレクタ層21のキャリア濃度のピーク位置を規定したものである。その他に関しては、第1実施形態と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0059】
本実施形態の半導体装置における基本的な構成は、上記第1実施形態と同様であるが、コレクタ層21は、
図11に示されるように、キャリア濃度が複数のピークを有するように構成されている。そして、コレクタ層21は、半導体基板10の深さ方向において、キャリア濃度が最大となる最大ピーク位置P1がコレクタ層21の中心C1よりもドリフト層11(すなわち、FS層20側)に位置するように形成されている。
【0060】
なお、このようなコレクタ層21は、例えば、加速電圧を変更した複数回のイオン注入を行うことによって形成される。
【0061】
以上説明した本実施形態によれば、コレクタ層21は、最大ピーク位置P1が中心C1よりもドリフト層11側に位置している。このため、アバランシェ降伏が発生することを抑制でき、SCSOA(Short Circuit Safe Operating Areaの略)を改善できる。
【0062】
すなわち、上記のような半導体装置が短絡すると、電界強度は、注入される正孔が少なくなって電子が過多状態となるため、半導体基板10の他面10b側にピークが発生する状態となる。本実施形態では、FS層20が形成されているため、FS層20内にピークが発生する。そして、半導体装置は、電界強度のピークが下部電極24側となると、アバランシェ降伏が発生し易くなる。
【0063】
しかしながら、本実施形態では、コレクタ層21のキャリア濃度の最大ピーク位置P1がドリフト層11側となるようにしている。このため、例えば、最大ピーク位置P1が中心C1よりも半導体基板10の他面10b側に位置する場合と比較して、短絡時には、電界強度のピークと成り得る位置に注入される正孔を増加し易くなり、電子の過多状態を緩和することができる。したがって、アバランシェ降伏が発生することを抑制できる。
【0064】
(他の実施形態)
本発明は上記した実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載した範囲内において適宜変更が可能である。
【0065】
例えば、上記各実施形態では、第1導電型をN型とし、第2導電型をP型とした例について説明したが、第1導電型をP型とし、第2導電型をN型とすることもできる。
【0066】
また、上記各実施形態において、トレンチゲート型の半導体装置ではなく、半導体基板10の一面10a上にゲート電極15が配置されるプレーナ型の半導体装置としてもよい。
【0067】
さらに、上記各実施形態において、FWD領域1bにおける半導体基板10の一面10a側の構成は、適宜変更可能である。例えば、FWD領域1bにおける半導体基板10の一面10a側には、エミッタ領域16に相当するN型領域等が形成されていてもよい。
【0068】
また、上記第1、第3実施形態において、カソード層22は、延設部21aから露出する部分がFS層20と接続されていてもよい。また、連結領域23は、カソード層22よりもキャリア濃度が高くされていてもよい。このような半導体装置としても、カソード層22が延設部21aから露出する部分を有する構成とすることにより、IGBT素子のスナップバックを抑制しつつ、FWD素子の順方向電圧が高くなることを抑制できる。
【0069】
そして、上記各実施形態を適宜組み合わせることもできる。例えば、上記第2実施形態を上記第3実施形態に組み合わせ、コレクタ層21の最大ピーク位置P1が中心C1よりもドリフト層11側となるようにしてもよい。
【符号の説明】
【0070】
1a IGBT領域
1b FWD領域
10 半導体基板
10a 一面
10b 他面
11 ドリフト層
12 ベース層
19 上部電極(第1電極)
21 コレクタ層
21a 延設部
22 カソード層
24 下部電極(第2電極)