(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】インクジェット用インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/322 20140101AFI20240214BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20240214BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
C09D11/322
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2020087486
(22)【出願日】2020-05-19
【審査請求日】2023-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006150
【氏名又は名称】京セラドキュメントソリューションズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100168583
【氏名又は名称】前井 宏之
(72)【発明者】
【氏名】小澤 範晃
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-274037(JP,A)
【文献】特表2008-536963(JP,A)
【文献】特開平8-295835(JP,A)
【文献】特開2002-088290(JP,A)
【文献】特開平7-138510(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/322
B41M 5/00
B41J 2/01
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有し、
前記顔料粒子を含む分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下であり、
前記顔料粒子に対する、前記樹脂の質量比率は、0.05以上0.10以下であり、
前記樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを少なくとも有し、
前記式(1)で表される繰り返し単位に対する、前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比率は、0.35以上0.80以下である、インクジェット用インク。
【化1】
(前記式(2)中、R
1は、炭素原子数3又は4のアルキル基を表す。)
【請求項2】
前記樹脂は、スチレン骨格を有する化合物由来の繰り返し単位を更に有する、請求項1に記載のインクジェット用インク。
【請求項3】
濃度10質量%の前記樹脂の水溶液の表面張力は、35mN/m以上40mN/m以下である、請求項1又は2に記載のインクジェット用インク。
【請求項4】
前記樹脂のうちの少なくとも一部は、前記顔料粒子の表面に付着しており、
前記分散粒子は、前記顔料粒子と、前記顔料粒子の前記表面に付着した前記樹脂とを備える粒子である、請求項1~3の何れか一項に記載のインクジェット用インク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェット用インクに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録装置の記録ヘッドから、インクジェット用インクを吐出して、記録媒体に画像を形成する。記録ヘッドとしてライン型記録ヘッドを使用して画像を形成する場合には、重ね描きが実施されないことが多く、形成画像の画像濃度が低下し易い。形成画像の画像濃度を向上させるために、特許文献1には、インクジェット記録用水性インクと、多価金属塩溶液とを含むインクセットが記載されている。このインクジェット記録用水性インクは、カーボンブラック、及び(メタ)アクリル酸とその他の共重合可能なエチレン性不飽和単量体との共重合体を含有する。この共重合体(B)とカーボンブラック(A)との比率(B/A)は0.30以上0.55以下である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1に記載のインクセットは、形成画像の画像濃度を高めるために、多価金属塩溶液のような処理液をインクジェット記録用水性インクと併用する必要がある。また、特許文献1に記載のインクセットに含まれるインクジェット記録用水性インクは、上記共重合体を含有するため、形成画像の耐擦過性が低下することが、本発明者の検討により判明した。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、処理液を併用しない場合であっても、画像濃度が高く耐擦過性に優れた画像を形成できる、インクジェット用インクを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係るインクジェット用インクは、顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有する。前記顔料粒子を含む分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下である。前記顔料粒子に対する、前記樹脂の質量比率は、0.05以上0.10以下である。前記樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを少なくとも有する。前記式(1)で表される繰り返し単位に対する、前記式(2)で表される繰り返し単位のモル比率は、0.35以上0.80以下である。前記式(2)中、R1は、炭素原子数3又は4のアルキル基を表す。
【0007】
【発明の効果】
【0008】
本発明に係るインクジェット用インクによれば、処理液を併用しない場合であっても、画像濃度が高く耐擦過性に優れた画像を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
まず、本明細書に記載の用語について説明する。明細書に記載の各成分は、1種を単独で用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0010】
数平均分子量(Mn)及び質量平均分子量(Mw)の各々の測定値は、何ら規定していなければ、ゲルパーミエーションクロマトグラフィーを用いて測定した値である。
【0011】
炭素原子数3又は4のアルキル基、及び炭素原子数1以上12以下のアルキル基は、各々、特記なき限り、直鎖状又は分枝鎖状で非置換である。炭素原子数1以上12以下のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、1-メチルブチル基、2-メチルブチル基、3-メチルブチル基、1-エチルプロピル基、2-エチルプロピル基、1,1-ジメチルプロピル基、1,2-ジメチルプロピル基、2,2-ジメチルプロピル基、n-ヘキシル基、1-メチルペンチル基、2-メチルペンチル基、3-メチルペンチル基、4-メチルペンチル基、1,1-ジメチルブチル基、1,2-ジメチルブチル基、1,3-ジメチルブチル基、2,2-ジメチルブチル基、2,3-ジメチルブチル基、3,3-ジメチルブチル基、1,1,2-トリメチルプロピル基、1,2,2-トリメチルプロピル基、1-エチルブチル基、2-エチルブチル基及び3-エチルブチル基、直鎖状及び分枝鎖状のヘプチル基、直鎖状及び分枝鎖状のオクチル基、直鎖状及び分枝鎖状のノニル基、直鎖状及び分枝鎖状のデシル基、直鎖状及び分枝鎖状のウンデシル基、並びに直鎖状及び分枝鎖状のドデシル基が挙げられる。炭素原子数3又は4のアルキル基の例は、炭素原子数1以上12以下のアルキル基の例として述べた基のうち、炭素原子数が3又は4である基である。以上、本明細書に記載の用語について説明した。
【0012】
<インクジェット用インク>
以下、本発明の実施形態に係るインクジェット用インク(以下、インクと記載することがある)について説明する。本実施形態のインクは、顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有する。本実施形態のインクは、水を含有する水性インクである。
【0013】
(顔料粒子)
顔料粒子は、インク中で分散している。顔料粒子の表面には、樹脂の少なくとも一部が付着していてもよいし、付着していなくてもよい。
【0014】
顔料粒子に対する樹脂の質量比率は、0.05以上0.10以下である。以下、「顔料粒子に対する樹脂の質量比率」を「樹脂/顔料比率」と記載することがある。ここで、形成画像の画像濃度を高めるためには、記録媒体の表層領域(例えば、記録媒体の表面から、深さ方向に20μmまでの領域)に、顔料粒子を留めることが有効である。樹脂/顔料比率が0.10を超えると、顔料粒子の表面に付着する樹脂の量が多くなる傾向があり、インクに含有される水に対する顔料粒子の親水性が高まる。このため、記録媒体の表層領域よりも深くまで顔料粒子が浸透して、形成画像の画像濃度が低下する。一方、樹脂/顔料比率が0.05未満であると、顔料粒子の表面に付着する樹脂の量が少なくなる傾向があり、インクに含有される水に対する顔料粒子の親水性が低下する。このため、記録媒体の表層領域に顔料粒子が浸透し難く、記録媒体の最表面に顔料粒子が留まる。その結果、形成画像の耐擦過性が低下する。また、樹脂/顔料比率が0.05未満であると、顔料粒子の表面に付着する樹脂の量が少なくなる傾向があり、擦過により形成画像中の顔料粒子が崩れ易くなる。これによっても、形成画像の耐擦過性が低下する。従って、樹脂/顔料比率が0.05以上0.10以下であることにより、形成画像の画像濃度及び耐擦過性を両立できる。なお、樹脂/顔料比率は、式「樹脂/顔料比率=樹脂の質量/顔料粒子の質量」により算出される。
【0015】
顔料粒子を構成する顔料は、特に限定されない。顔料粒子を構成する顔料としては、例えば、黒色顔料、白色顔料、黄色顔料、橙色顔料、赤色顔料、青色顔料、及び紫色顔料が挙げられる。黒色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブラック7、及びカーボンブラックが挙げられる。白色顔料としては、例えば、C.I.ピグメントホワイト6が挙げられる。黄色顔料としては、例えばC.I.ピグメントイエロー74、93、95、109、110、120、128、138、139、151、154、155、173、180、185、及び193が挙げられる。橙色顔料としては、例えばC.I.ピグメントオレンジ34、36、43、61、63、及び71が挙げられる。赤色顔料としては、例えばC.I.ピグメントレッド122、及び202が挙げられる。赤色顔料として、キナクリドン・マゼンタ(PR122)が使用されてもよい。青色顔料としては、例えばC.I.ピグメントブルー15、及び15:3が挙げられる。紫色顔料としては、例えばC.I.ピグメントバイオレット19、23、及び33が挙げられる。
【0016】
顔料粒子の含有率は、インクの質量に対して、3質量%以上30質量%以下であることが好ましく、3質量%以上10質量%以下であることがより好ましい。顔料粒子の含有率が3質量%以上であれば、所望の画像濃度を有する画像が得られ易い。顔料粒子の含有率が30質量%以下であれば、流動性、及び記録媒体に対する浸透性に優れたインクが得られる。
【0017】
(分散粒子)
分散粒子は、インク中に分散している粒子である。分散粒子は、顔料粒子を少なくとも含む。ここで、樹脂のうちの少なくとも一部が、顔料粒子の表面に付着していることが好ましい。顔料粒子の表面に樹脂が付着すれば、樹脂が分散剤として機能し、インク中での顔料粒子の分散性を高めることができる。樹脂の一部が顔料粒子の表面に付着し、樹脂の残りは顔料粒子に付着することなくインク中に分散していてもよい。また、樹脂の全てが、顔料粒子の表面に付着していてもよい。また、顔料粒子の表面の全体が樹脂により被覆されていてもよく、顔料粒子の表面の一部が樹脂により被覆されていてもよい。
【0018】
分散粒子は、顔料粒子のみを含んでいてもよい。即ち、分散粒子は、樹脂が付着していない顔料粒子であってもよい。また、分散粒子は、顔料粒子に加えて、顔料粒子の表面に付着した樹脂を更に含んでいてもよい。即ち、分散粒子は、顔料粒子と、顔料粒子の表面に付着した樹脂(顔料粒子の表面に備えられる樹脂)とを備える粒子であってもよい。以下、「樹脂が付着していない顔料粒子」を「未被覆顔料粒子」と記載することがある。また、「顔料粒子と、顔料粒子の表面に付着する樹脂とを備える粒子」を「被覆顔料粒子」と記載することがある。インクは、被覆顔料粒子のみを含有してもよく、未被覆顔料粒子のみを含有してもよく、被覆顔料粒子及び未被覆顔料粒子の両方を含有してもよい。
【0019】
顔料粒子を含む分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下である。分散粒子の平均粒子径が90nm未満であると、記録媒体の表層領域よりも深くまで顔料粒子が浸透する傾向がある。その結果、形成画像の画像濃度が低下する。分散粒子の平均粒子径が100nmを超えると、記録媒体の表層領域に顔料粒子が浸透し難く、記録媒体の最表面に顔料粒子が留まる傾向がある。その結果、形成画像の耐擦過性が低下する。従って、分散粒子の平均粒子径が90nm以上100nm以下であることにより、形成画像の画像濃度及び耐擦過性を両立できる。
【0020】
形成画像の画像濃度及び耐擦過性をバランス良く向上させるために、分散粒子の平均粒子径は、90nm以上97nm以下であることが好ましく、90nm以上93nm以下であることがより好ましい。
【0021】
分散粒子の平均粒子径は、ISO 13321:1996(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy)に従い測定される。分散粒子の平均粒子径は、例えば、<インクの製造方法>で後述する方法により調整できる。なお、この測定において、インクに含有される被覆顔料粒子と未被覆顔料粒子とは区別されることなく、インクに分散している分散粒子(被覆顔料粒子及び未被覆顔料粒子)が測定対象となる。従って、インクに被覆顔料粒子及び未被覆顔料粒子の両方が含有される場合、被覆顔料粒子及び未被覆顔料粒子を包括的に測定した平均粒子径が、分散粒子の平均粒子径となる。
【0022】
(樹脂)
樹脂は、式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを少なくとも有する。式(1)で表される繰り返し単位に対する、式(2)で表される繰り返し単位のモル比率は、0.35以上0.80以下である。式(2)中、R1は、炭素原子数3又は4のアルキル基を表す。
【0023】
【0024】
以下、「式(1)で表される繰り返し単位」を「繰り返し単位(1)」と、「式(2)で表される繰り返し単位」を「繰り返し単位(2)」と記載することがある。また、「式(1)で表される繰り返し単位と、式(2)で表される繰り返し単位とを少なくとも有する樹脂」を「所定樹脂」と記載することがある。また、「式(1)で表される繰り返し単位に対する、式(2)で表される繰り返し単位のモル比率」を「繰り返し単位比率」と記載することがある。
【0025】
無水マレイン酸由来の繰り返し単位である繰り返し単位(1)が、炭素原子数3又は4のアルコール(R1-OH)により開環してエステル化(ハーフエステル化)されることで、所定樹脂中に繰り返し単位(2)が導入される。以下、「アルコールにより無水マレイン酸由来の繰り返し単位が開環してエステル化されること」を「ハーフエステル化」と記載することがある。
【0026】
所定樹脂が繰り返し単位(1)及び(2)を有することで、所定樹脂を水に溶解させたときの水溶液の表面張力が、適度に低下する。このような所定樹脂の影響により、顔料粒子が記録媒体の表層領域に好適に浸透し、記録媒体の最表面に留まり難い。その結果、耐擦過性に優れた画像が形成できる。
【0027】
所定樹脂の繰り返し単位比率が0.35以上であることで、形成画像の耐擦過性に優れたインクが得られる。一方、所定樹脂の繰り返し単位比率が0.80以下であることで、形成画像の画像濃度が向上する。形成画像の画像濃度及び耐擦過性をバランス良く向上させるために、繰り返し単位比率は、0.35以上0.60以下であることが好ましい。所定樹脂の繰り返し単位比率は、所定樹脂を合成する際の無水マレイン酸の量に対する、ハーフエステル化に使用されるアルコール(ハーフエステル化用アルコール)の量を変更することにより、調整できる。
【0028】
既に述べたように、式(2)中、R1は、炭素原子数3又は4のアルキル基を表す。R1が炭素原子数2以下のアルキル基である場合、即ちハーフエステル化用アルコールが炭素原子数2以下のアルコールである場合には、このような樹脂を水に溶解させたときの水溶液の表面張力が高くなり過ぎる。このため、顔料粒子が記録媒体の最表面に留まり易く、形成画像の耐擦過性が低下する。一方、R1が炭素原子数5以上のアルキル基である場合、即ちハーフエステル化用アルコールが炭素原子数5以上のアルコールである場合には、ハーフエステル化の反応が進行し難い。従って、式(2)中のR1が炭素原子数3又は4のアルキル基を表すことで、インクを用いて耐擦過性に優れた画像を形成でき、且つ所定樹脂を好適に合成できる。
【0029】
式(2)中のR1が表す炭素原子数3又は4のアルキル基としては、iso-プロピル基、又はn-ブチル基が好ましい。
【0030】
所定樹脂は、スチレン骨格を有する化合物由来の繰り返し単位を更に有することが好ましい。スチレン骨格を有する化合物としては、例えば、スチレン、o-メチルスチレン、m-メチルスチレン、p-メチルスチレン、p-フェニルスチレン、p-エチルスチレン、2,4-ジメチルスチレン、p-tert-ブチルスチレン、p-n-ヘキシルスチレン、p-n-オクチルスチレン、p-n-ノニルスチレン、p-n-デシルスチレン、及びp-n-ドデシルスチレンが挙げられる。スチレン骨格を有する化合物としては、スチレンが好ましい。
【0031】
スチレン骨格を有する化合物由来の繰り返し単位としては、式(3)で表される繰り返し単位が好ましく、式(3A)で表される繰り返し単位がより好ましい。
【0032】
【0033】
式(3)中、R2は、炭素原子数1以上12以下のアルキル基又はフェニル基を表し、nは0以上5以下の整数を表す。R2が表す炭素原子数1以上12以下のアルキル基としては、メチル基、エチル基、tert-ブチル基、n-ヘキシル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、又はn-ドデシル基が好ましい。nは、0以上2以下の整数を表すことが好ましく、0を表すことがより好ましい。
【0034】
繰り返し単位(1)及び(2)の合計に対する、スチレン骨格を有する化合物由来の繰り返し単位のモル比率は、0.5以上1.5以下であることが好ましく、0.9以上1.1以下であることがより好ましく、1.0であることが特に好ましい。所定樹脂がスチレン骨格を有する化合物由来の繰り返し単位を有する場合、所定樹脂は、繰り返し単位として、繰り返し単位(1)、(2)、及びスチレン骨格を有する化合物由来の繰り返し単位のみを有してもよい。また、所定樹脂は、繰り返し単位として、これら以外の繰り返し単位を更に有していてもよい。
【0035】
濃度10質量%の樹脂の水溶液の表面張力は、35mN/m以上40mN/m以下であることが好ましい。以下「濃度10質量%の樹脂の水溶液の表面張力」を、「樹脂表面張力」と記載することがある。樹脂表面張力が35mN/m以上であると、樹脂を含有するインクが、記録媒体の表層領域よりも深くにまで浸透し難い。その結果、形成画像の画像濃度が向上する。樹脂表面張力が40mN/m以下であると、樹脂を含有するインクが、記録媒体の表層領域に適度に浸透し、記録媒体の最表面に留まり難い。その結果、耐擦過性に優れた画像が形成できる。
【0036】
形成画像の画像濃度及び耐擦過性をバランス良く向上させるために、樹脂表面張力は、35mN/m以上38mN/m以下であることが好ましい。
【0037】
例えば、インクが所定樹脂を含有することで、樹脂表面張力が35mN/m以上40mN/m以下の範囲内に調整され易くなる。例えば、所定樹脂の繰り返し単位比率が高くなる程、樹脂表面張力は小さくなる。例えば、所定樹脂が有する一般式(2)中のR1が表すアルキル基の炭素原子数が少なくなる程、樹脂表面張力は大きくなる。樹脂表面張力は、実施例に記載の方法により測定される。なお、インクから樹脂を分離した後、分離した樹脂を樹脂表面張力の測定に用いることができる。
【0038】
所定樹脂の酸価は、150mgKOH/g以上300mgKOH/g以下であることが好ましい。所定樹脂の酸価が150mgKOH/g以上であると、顔料粒子の分散性が高いインクが得られ、形成画像の発色が良好となる。所定樹脂の酸価が300mgKOH/g以下であると、保存安定性に優れたインクが得られる。酸価は、JIS(日本産業規格)K0070-1992に従い測定される。
【0039】
インクは、樹脂として、所定樹脂のみを含有してもよい。また、インクは、樹脂として、所定樹脂に加えて、それ以外の樹脂を更に含有してもよい。所定樹脂以外の樹脂としては、例えば、アクリル樹脂、スチレン-アクリル樹脂、ポリビニル樹脂、ポリエステル樹脂、アミノ樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、フェノール樹脂、シリコーン樹脂、フッ素樹脂、ビニルナフタレン-アクリル酸共重合体、及びビニルナフタレン-マレイン酸共重合体が挙げられる。
【0040】
樹脂の含有率は、インクの質量に対して、0.1質量%以上5.0質量%以下であることが好ましく、0.3質量%以上0.6質量%以下であることが更に好ましい。
【0041】
(水)
水の含有率は、インクの質量に対して、40質量%以上90質量%以下であることが好ましく、50質量%以上70質量%以下であることが更に好ましく、60質量%以上65質量%以下であることが一層好ましい。
【0042】
(水溶性有機溶媒)
インクは、必要に応じて、水溶性有機溶媒を含有してもよい。本実施形態において、水溶性有機溶媒は、温度25℃の環境下において液体であり、水溶性を有する有機溶媒である。インクが水溶性有機溶媒を含有すれば、所望の粘度を有するインクが得られ易い。
【0043】
水溶性有機溶媒としては、例えば、グリコール化合物、多価アルコールのエーテル化合物、ラクタム化合物、含窒素化合物、アセテート化合物、チオジグリコール、グリセリン、3-メチル-1,5-ペンタンジオール、及びジメチルスルホキシドが挙げられる。
【0044】
グリコール化合物としては、例えば、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、1,3-ブタンジオール(即ち、1,3-ブチレングリコール)、1,3-プロパンジオール(即ち、トリメチレングリコール)、トリエチレングリコ-ル、及びテトラエチレングリコールが挙げられる。
【0045】
多価アルコールのエーテル化合物としては、例えば、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及びプロピレングリコールモノメチルエーテルが挙げられる。
【0046】
ラクタム化合物としては、例えば、2-ピロリドン、及びN-メチル-2-ピロリドンが挙げられる。
【0047】
含窒素化合物としては、例えば、1,3-ジメチルイミダゾリジノン、ホルムアミド、及びジメチルホルムアミドが挙げられる。
【0048】
アセテート化合物としては、例えば、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートが挙げられる。
【0049】
水溶性有機溶媒としては、グリコール化合物、多価アルコールのエーテル化合物、及びラクタム化合物からなる群から選択される少なくとも1種(好ましくは1種以上3種以下、より好ましくは3種)が好ましい。水溶性有機溶媒としては、プロピレングリコール、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、及び2-ピロリドンからなる群から選択される(好ましくは1種以上3種以下、より好ましくは3種)がより好ましい。
【0050】
水溶性有機溶媒の含有率は、インクの質量に対して、10質量%以上50質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましい。
【0051】
(界面活性剤)
インクは、必要に応じて、界面活性剤を含有してもよい。インクが界面活性剤を含有すれば、記録媒体に対する濡れ性に優れたインクが得られる。界面活性剤としては、例えば、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、非イオン界面活性剤、及び両性界面活性剤が挙げられる。
【0052】
界面活性剤は、非イオン界面活性剤であることが好ましい。非イオン界面活性剤は、アセチレン結合を有する界面活性剤であることが好ましく、アセチレングリコール構造又はアセチレンアルコール構造を有する界面活性剤であることがより好ましい。界面活性剤のHLB値は、3以上20以下であることが好ましく、6以上16以下であることがより好ましい。界面活性剤のHLB値は、例えば、グリフィン法により式「HLB値=20×(親水部の式量の総和)/分子量」から算出される。
【0053】
界面活性剤の好適な一例としては、HLB値が8以上10以下であるアセチレングリコールのエチレンオキサイド付加物が挙げられる。界面活性剤の好適な別の例としては、HLB値が13以上14以下であるアセチレン結合を有する界面活性剤が挙げられる。
【0054】
画像のオフセットを抑制しつつ、画像濃度を向上させるために、界面活性剤の含有率は、インクの質量に対して、0.1質量%以上10.0質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上1.0質量%以下であることが更に好ましい。
【0055】
(その他の成分)
インクは、必要に応じて、既に述べた成分以外の成分(より具体的には、溶解安定剤、保湿剤、浸透剤、及び粘度調整剤等)を含有してもよい。
【0056】
<インクの製造方法>
次に、本実施形態のインクを製造する方法の一例について説明する。
【0057】
(顔料分散液の調製)
まず、顔料分散液を調製する。詳しくは、メディア型分散機を用いて、樹脂と、顔料粒子と、水と、必要に応じて添加される成分(より具体的には、水溶性有機溶媒、界面活性剤、溶解安定剤、保湿剤、浸透剤、及び粘度調整剤等)を混合して、顔料粒子を含有する顔料分散液を得る。メディア型分散機は、湿式であることが好ましい。メディア型分散機としては、例えば、サンドミル、ボールミル、ロールミル、ビーズミル、ナノマイザー、及びホモジナイザーが挙げられる。
【0058】
インク中の分散粒子の平均粒子径を所定の範囲内に調整し易いことから、メディア型分散機としては、ビーズミルが好ましい。ビーズミルの具体例としては、淺田鉄工株式会社製のナノグレンミル、日本コークス工業株式会社製のMSCミル、及びWAB社製のダイノ(登録商標)ミルが挙げられる。ビーズミルに使用されるビーズの直径は、0.5mm以上1.0mm以下であることが好ましい。また、ビーズは、ジルコニアビーズであることが好ましい。使用されるビーズの直径が小さくなる程、分散粒子の平均粒子径が小さくなる。また、使用されるビーズの直径が小さくなる程、顔料粒子の表面に付着する樹脂の量が多くなる。また、実施例で後述する分散回数が多くなる程、分散粒子の平均粒子径が小さくなる。
【0059】
(インクの調製)
次に、攪拌機を用いて、得られた顔料分散液と、水と、必要に応じて添加される成分(より具体的には、水溶性有機溶媒、界面活性剤、溶解安定剤、保湿剤、浸透剤、及び粘度調整剤等)とを混合して、混合液を得る。得られた混合液を、必要に応じて濾過する。このようにして、インクが得られる。以上、本実施形態のインクの製造方法について説明した。
【実施例】
【0060】
本発明の実施例を説明する。以下の記載において「質量部」を「部」と、「質量%」を「wt%」と記載することがある。まず、以下の実施例において測定される樹脂の水溶液の表面張力の測定方法、及び分散粒子の平均粒子径の測定方法について説明する。
【0061】
[表面張力の測定方法]
樹脂の濃度が10wt%となるように、樹脂をイオン交換水に溶解させて、樹脂の水溶液を得た。温度25℃の環境下で、Wilhelmy法(プレート法)に従い、表面張力測定計(協和界面科学株式会社製「自動表面張力計 DY-300」)を用いて、得られた樹脂の水溶液の表面張力を測定した。
【0062】
[平均粒子径の測定方法]
顔料分散液をイオン交換水で300倍に希釈し、測定試料を得た。測定試料に含有される分散粒子の平均粒子径を、レーザー回折式粒度分布測定装置(マルバーン社製「ゼータサイザー ナノZS」)を用いて、ISO 13321:1996(Particle size analysis-Photon correlation spectroscopy)に従い測定した。なお、顔料分散液及びインクの何れを測定対象とした場合であっても、測定結果は変わらない。
【0063】
以下、分散粒子の平均粒子径、樹脂/顔料比率、樹脂の繰り返し単位比率及び種類、並びに樹脂の調製に使用されるハーフエステル化用アルコールの各々を変更させたインクを用いて、形成画像の画像濃度及び耐擦過性への影響を検討した。
【0064】
[分散粒子の平均粒子径の検討]
平均粒子径の異なる分散粒子を含有したインク(A-1)~(A-3)及び(B-1)~(B-2)を、以下の方法により調製した。これらのインクの組成を、後述する表4に示す。
【0065】
<インク(A-1)の調製>
(樹脂(R-A)の調製)
まず、樹脂(R-A)を調製した。樹脂(R-A)の組成を、表1に示す。
【0066】
【0067】
表1、並びに後述する表7及び表10において、「ST-MA共重合体」は、スチレン-無水マレイン酸共重合体を示し、「単位比率」は、繰り返し単位比率を示し、「表面張力」は、樹脂表面張力を示す。表1、並びに後述する表7、表9、及び表10において、「-」は該当する成分を含有しないこと、又は該当する値がないことを示す。
【0068】
樹脂(R-A)を、次に示す方法により合成した。詳しくは、ガス導入管、コンデンサー、攪拌羽根、及び温度計を備えた反応槽を準備した。この反応槽に、82部のスチレン-無水マレイン酸共重合体(Cray Valley社「SMA(登録商標)1000」、スチレン/無水マレイン酸のモル比率=1/1)、18部の1-ブタノール、及び0.2部の強塩基(1,8-ジアザビシクロ[5.4.0]-7-ウンデセン)を入れ、110℃で8時間加熱した。このようにして、スチレン-無水マレイン酸共重合体が有する無水マレイン酸由来の繰り返し単位の一部が、1-ブタノールによりハーフエステル化された。次いで、反応槽の内容物を冷却した。反応槽の内容物を130℃に加熱して、水を蒸発させた。このようにして、樹脂(R-A)を得た。
【0069】
得られた樹脂(R-A)は、スチレン由来の繰り返し単位と、無水マレイン酸由来の繰り返し単位と、1-ブタノールによりエステル化された無水マレイン酸由来の繰り返し単位とを有していた。また、樹脂(R-A)において、無水マレイン酸由来の繰り返し単位(繰り返し単位(1)に相当)と、1-ブタノールによりエステル化された無水マレイン酸由来の繰り返し単位(繰り返し単位(2)に相当)との繰り返し単位比率を、表1に示す。また、樹脂(R-A)の樹脂表面張力を、表1に示す。
【0070】
(顔料分散液の調製)
次に、表2に示す分散液配合Aの顔料分散液を調製した。
【0071】
【0072】
表2に示す分散液配合Aにおいて、樹脂/顔料比率は、0.08であった。また、インク(A-1)に使用される顔料分散液の調製においては、分散液配合Aに示す「樹脂」として、樹脂(R-A)を使用した。また、表2、並びに後述する表3、表5、及び表8において、「水」は、イオン交換水を示す。表2、並びに後述する表5において、「オルフィン」は、日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」を示す。
【0073】
次に示す方法により、インク(A-1)に使用される顔料分散液を調製した。詳しくは、イオン交換水、樹脂(R-A)、顔料(C.I.ピグメントブルー15:3)、界面活性剤(アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物、日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」)を、表2の分散液配合Aに示す割合で混合して、混合液を得た。充填率80%でビーズ(ジルコニアビーズ)を充填した容器を、ビーズミル(WAB社製「ダイノ(登録商標)ミル」)にセットした。流量250g/分で、得られた混合液を容器内に流した後、混合液を回収した。以下、この混合液を流して回収する操作を所定操作と記載し、所定操作を行う回数を分散回数と記載する。後述する表4のインク(A-1)欄に示す条件で、所定操作を実施した。詳しくは、ビーズ径が0.5mmであるビーズを用い、分散回数が2回である条件で、所定操作を実施した。所定操作後、回収した混合液を、目開き5μmのメンブレンフィルターを用いて濾過して、顔料分散液を得た。顔料分散液に含有される分散粒子の平均粒子径は、後述する表4のインク(A-1)欄に示すとおりであった。
【0074】
なお、上記の顔料分散液の調製には、水酸化カリウムを用いて樹脂(R-A)を中和したアルカリ可溶性樹脂を使用した。この水酸化カリウムを用いた中和は、105wt%のKOH水溶液による等量中和により行った。KOHの添加量は中和する樹脂(R-A)の質量に基づいて計算した。なお、表2のイオン交換水の質量は、KOH水溶液に含まれる水の質量と、中和反応で生じた水の質量とを含んでいる。
【0075】
(インクの調製)
次に、表3に示すインク配合1で、インク(A-1)を調製した。
【0076】
【0077】
インク(A-1)の調製においては、表3に示す顔料分散液として、上記(顔料分散液の調製)で得られた顔料分散液を使用した。また、表3及び後述する表8において、「オルフィン」は、日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」(アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物)を示す。表3及び後述する表8において、「残量」は、インクの合計量100.0wt%からイオン交換水以外の成分の添加量を引いた量を意味する。
【0078】
攪拌機を用いて、上記(顔料分散液の調製)で得られた顔料分散液、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、2-ピロリドン、プロピレングリコール、非イオン性界面活性剤(日信化学工業株式会社製「オルフィン(登録商標)E1010」、アセチレンジオールのエチレンオキサイド付加物)、及びイオン交換水を、表3のインク配合1に示す割合で混合して、混合液を得た。次いで、目開き5μmのメンブレンフィルターを用いて、得られた混合液を濾過し、インク(A-1)を得た。
【0079】
<インク(A-2)~(A-3)及び(B-1)~(B-2)の調製>
上記(顔料分散液の調製)において、表4に示すビーズ径及び分散回数で所定操作を実施したこと以外は、インク(A-1)の調製と同じ方法により、インク(A-2)~(A-3)及び(B-1)~(B-2)を調製した。インク(A-2)~(A-3)及び(B-1)~(B-2)の調製に用いた顔料分散液に含有される分散粒子の平均粒子径は、後述する表4に示すとおりであった。
【0080】
<画像濃度の評価>
画像濃度の評価は、温度25℃且つ相対湿度60%RHの環境下で実施した。評価機としてインクジェット記録装置(ライン型記録ヘッドを備えるインクジェット記録装置、京セラドキュメントソリューションズ株式会社製試験機)を使用した。記録媒体として、A4サイズの普通紙(富士ゼロックス株式会社製「C2」)を使用した。インクを、評価機のシアン用インクタンクに充填した。記録ヘッドから記録媒体へ吐出するインクの量が1画素当たり11pLとなるように、評価機を設定した。評価機を用いて、記録媒体に、ソリッド画像(サイズ:4cm×5cm)を形成した。反射濃度計(X-Rite社製「RD-19」)を用いて、形成されたソリッド画像の画像濃度を測定した。詳しくは、ソリッド画像中において無作為に選択した10箇所の画像濃度を各々測定し、10箇所の画像濃度の算術平均値を、画像濃度の評価値として採用した。画像濃度の評価値を、表4の「画像濃度」欄に示す。画像濃度の評価値から、下記基準に従って、画像濃度を評価した。
(画像濃度の評価基準)
良好 :画像濃度が、1.20以上である。
不良(NG):画像濃度が、1.20未満である。
【0081】
<耐擦過性の評価>
上記<画像濃度の評価>で形成されたソリッド画像の上に、未印刷の白紙を載せた。白紙の上から1kgの重りで5回往復擦った。ソリッド画像から白紙への色移りの有無を確認するために、白紙のソリッド画像と接触していた部分の画像濃度(色移り濃度)を測定した。色移り濃度は、上記<画像濃度の評価>の画像濃度の測定と同じ方法により測定した。10箇所の色移り濃度の算術平均値を、色移り濃度の評価値として採用した。色移り濃度の評価値を、表4の「耐擦過性」欄に示す。色移り濃度の評価値から、下記基準に従って、耐擦過性を評価した。
(耐擦過性の評価基準)
良好 :色移り濃度が、0.20以下である。
不良(NG):色移り濃度が、0.20超である。
【0082】
【0083】
表4において「粒子径」は、分散粒子の平均粒子径を示す。なお、表4に示す各インクの樹脂/顔料比率は、何れも、0.08であった。また、表4に示す各インクに含有される樹脂(R-A)の繰り返し単位比率は、0.51であった。
【0084】
表4に示すように、インク(B-1)に含有される分散粒子の平均粒子径は、90nm未満であった。このため、表4に示すように、インク(B-1)を用いて形成された画像の画像濃度の評価は、不良であった。
【0085】
表4に示すように、インク(B-2)に含有される分散粒子の平均粒子径は、100nm超であった。このため、表4に示すように、インク(B-2)を用いて形成された画像の耐擦過性の評価は、不良であった。
【0086】
一方、インク(A-1)~(A-3)の各々は、次の構成を有していた。即ち、インクは、顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有していた。表4に示すように、分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下であった。樹脂/顔料比率は、0.05以上0.10以下であった。樹脂は繰り返し単位(1)と(2)とを少なくとも有し、繰り返し単位比率は、0.35以上0.80以下であった。このため、表4に示すように、インク(A-1)~(A-3)を用いて形成された画像の画像濃度の評価、及び耐擦過性の評価は、何れも良好であった。
【0087】
[樹脂/顔料比率の検討]
<インク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)の調製>
次に、樹脂/顔料比率の異なるインク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)を、以下の方法により調製した。これらのインクの組成を、表6に示す。表6に示す分散液配合A~Eの組成を、表5に示す。表6に示すインク配合1は、表3に既に示した。なお、分散液配合Aは、表2において既に示されているが、説明の便宜上、表5において再度示した。また、表6に示すインク(C-2)は、表4に示したインク(A-2)と同じインクであるが、説明の便宜上、表6においてインク(C-2)として再度示した。
【0088】
【0089】
【0090】
上記<インク(A-1)の調製>の(顔料分散体の調製)において、表2の分散液配合Aに示す割合を表5の分散液配合A~Eの各々に示す割合に変更したこと、及び分散回数を2回から1回に変更したこと以外は、インク(A-1)の調製と同じ方法により、インク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)を調製した。インク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)の調製においては、表5の分散液配合A~Eに示す「樹脂」として、樹脂(R-A)を使用した。
【0091】
表6に示すインク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)に含有される分散粒子の平均粒子径は、何れも、95nmであった。インク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)の樹脂/顔料比率は、表6に示すとおりであった。また、表6に示す各インクに含有される樹脂(R-A)の繰り返し単位比率は、0.51であった。
【0092】
<インク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)の評価>
得られたインク(C-1)~(C-3)及び(D-1)~(D-2)に対して、上記<画像濃度の評価>及び<耐擦過性の評価>と同じ方法により、画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を、表6に示す。
【0093】
表6に示すように、インク(D-1)の樹脂/顔料比率は、0.05未満であった。このため、表6に示すように、インク(D-1)を用いて形成された画像の耐擦過性の評価は、不良であった。
【0094】
表6に示すように、インク(D-2)の樹脂/顔料比率は、0.10超であった。このため、表6に示すように、インク(D-2)を用いて形成された画像の画像濃度の評価は、不良であった。
【0095】
一方、インク(C-1)~(C-3)の各々は、次の構成を有していた。即ち、インクは、顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有していた。分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下であった。表6に示すように、樹脂/顔料比率は、0.05以上0.10以下であった。樹脂は繰り返し単位(1)と(2)とを少なくとも有し、繰り返し単位比率は、0.35以上0.80以下であった。このため、表6に示すように、インク(C-1)~(C-3)を用いて形成された画像の画像濃度の評価、及び耐擦過性の評価は、何れも良好であった。
【0096】
[樹脂の繰り返し単位比率及び樹脂の種類の検討]
次に、繰り返し単位比率の異なる樹脂を含有したインク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-2)、並びにスチレン-無水マレイン酸共重合体とは異なる樹脂を含有したインク(F-3)を、以下の方法により調製した。これらのインクの組成を、後述する表9に示す。
【0097】
<インク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-3)の調製>
(樹脂(R-1)~(R-4)の調製)
まず、樹脂(R-1)~(R-4)を調製した。樹脂(R-1)~(R-4)の組成を、表7に示す。
【0098】
【0099】
スチレン-無水マレイン酸共重合体の添加量を82部から表7に示す添加量に変更したこと、及び1-ブタノールの添加量を18部から表7に示す添加量に変更したこと以外は、樹脂(R-A)の調製と同じ方法により、樹脂(R-1)~(R-4)を調製した。樹脂(R-1)~(R-4)の繰り返し単位比率、及び樹脂表面張力を、表7に示す。
【0100】
(インクの調製)
インク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-3)の組成を、表9に示す。表9に示す分散液配合Aは、表2及び表5で既に示した。表9に示すインク配合2を、表8に示す。
【0101】
【0102】
【0103】
表9における「スチレンアクリル」は、スチレンアクリル樹脂SA(MAA(メタクリル酸)とMMA(メタクリル酸メチル)とBA(アクリル酸ブチル)とST(スチレン)との共重合体、モル比率(MAA:MMA:BA:ST)=30:20:20:30、質量平均分子量20000)を示す。スチレンアクリル樹脂SAの樹脂表面張力は、45mN/mであった。
【0104】
上記<インク(A-1)の調製>の(顔料分散液の調製)において、樹脂(R-A)を表9に示す樹脂に変更したこと、及び上記<インク(A-1)の調製>の(インクの調製)において、表3のインク配合1に示す割合を表8のインク配合2に示す割合に変更したこと以外は、インク(A-1)の調製と同じ方法により、インク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-3)を調製した。
【0105】
インク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-3)の樹脂/顔料比率は、何れも、0.08であった。これらのインクに含有される分散粒子の平均粒子径は、何れも、90nmであった。また、インク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-2)に含有される樹脂(より具体的には、樹脂(R-1)~(R-4))の繰り返し単位比率は、表9に示すとおりであった。インク(F-3)に含有されるスチレンアクリル樹脂は、繰り返し単位(1)及び(2)を有していないため、繰り返し単位比率を有していなかった。
【0106】
<インク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-3)の評価>
得られたインク(E-1)~(E-2)及び(F-1)~(F-3)に対して、上記<画像濃度の評価>及び<耐擦過性の評価>と同じ方法により、画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を、表9に示す。
【0107】
表9に示すように、インク(F-1)に含有される樹脂の繰り返し単位比率は、0.35未満であった。このため、表9に示すように、インク(F-1)を用いて形成された画像の耐擦過性の評価は、不良であった。耐擦過性が低下する理由は、表7に示すように、樹脂(R-1)の樹脂表面張力が、繰り返し単位比率が0.35以上0.80以下である所定樹脂と比較して、高いからだと考えられる。
【0108】
表9に示すように、インク(F-2)に含有される樹脂の繰り返し単位比率は、0.80超であった。このため、表9に示すように、インク(F-2)を用いて形成された画像の画像濃度の評価は、不良であった。画像濃度が低下する理由は、表7に示すように、樹脂(R-4)の樹脂表面張力が、繰り返し単位比率が0.35以上0.80以下である所定樹脂と比較して、低いからだと考えられる。
【0109】
既に述べたように、インク(F-3)に含有されるスチレンアクリル樹脂は、繰り返し単位(1)及び(2)を有していなかった。このため、表9に示すように、インク(F-3)を用いて形成された画像の耐擦過性の評価は、不良であった。耐擦過性が低下する理由は、スチレンアクリル樹脂の樹脂表面張力が、繰り返し単位(1)及び(2)を有する所定樹脂と比較して、高いからだと考えられる。
【0110】
一方、インク(E-1)~(E-2)の各々は、次の構成を有していた。即ち、インクは、顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有していた。分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下であった。樹脂/顔料比率は、0.05以上0.10以下であった。表9に示すように、樹脂(より具体的には、樹脂(R-2)及び(R-3))は繰り返し単位(1)と(2)とを少なくとも有し、繰り返し単位比率は、0.35以上0.80以下であった。このため、表9に示すように、インク(E-1)~(E-2)を用いて形成された画像の画像濃度の評価、及び耐擦過性の評価は、何れも良好であった。
【0111】
[樹脂の調製に使用されるハーフエステル化用アルコールの検討]
次に、異なるハーフエステル化用アルコールを用いて調製された樹脂を含有したインク(G-1)~(G-2)及び(H-1)を、以下の方法により調製した。これらのインクの組成を、後述する表11に示す。
【0112】
<インク(G-1)~(G-2)及び(H-1)の調製>
(樹脂(R-5)~(R-7)の調製)
まず、樹脂(R-5)~(R-7)を調製した。樹脂(R-5)~(R-7)の組成を、表10に示す。
【0113】
【0114】
スチレン-無水マレイン酸共重合体の添加量を82部から表10に示す添加量に変更したこと、及び18部の1-ブタノールを表10に示す添加量のハーフエステル化用アルコール(より具体的には、2-プロパノール又はエタノール)に変更したこと以外は、樹脂(R-A)の調製と同じ方法により、樹脂(R-5)~(R-7)を調製した。樹脂(R-5)~(R-7)の繰り返し単位比率、及び樹脂表面張力を、表10に示す。
【0115】
(インクの調製)
インク(G-1)~(G-2)及び(H-1)の組成を、表11に示す。表11に示す分散液配合Aは、表2及び表5で既に示した。表11に示すインク配合2は、表8で既に示した。
【0116】
【0117】
上記<インク(A-1)の調製>の(顔料分散液の調製)において、樹脂(R-A)を表11に示す樹脂に変更したこと、及び上記<インク(A-1)の調製>の(インクの調製)において、表3のインク配合1に示す割合を表8に示すインク配合2に示す割合に変更したこと以外は、インク(A-1)の調製と同じ方法により、インク(G-1)~(G-2)及び(H-1)を調製した。
【0118】
インク(G-1)~(G-2)及び(H-1)の樹脂/顔料比率は、何れも、0.08であった。これらのインクに含有される分散粒子の平均粒子径は、何れも、90nmであった。また、インク(G-1)~(G-2)及び(H-1)に含有される樹脂(より具体的には、樹脂(R-5)~(R-7))の繰り返し単位比率は、表10に示すとおりであった。
【0119】
<インク(G-1)~(G-2)及び(H-1)の評価>
得られたインク(G-1)~(G-2)及び(H-1)に対して、上記<画像濃度の評価>及び<耐擦過性の評価>と同じ方法により、画像濃度及び耐擦過性を評価した。評価結果を、表11に示す。
【0120】
表11に示すように、インク(H-1)に含有される樹脂(R-7)は、エタノールを用いてハーフエステル化されたため、式(2)中のR1が炭素原子数2のアルキル基を表す樹脂であった。このため、表11に示すように、インク(H-1)を用いて形成された画像の耐擦過性の評価は、不良であった。耐擦過性が低下する理由は、表10に示すように、樹脂(R-7)の樹脂表面張力が、式(2)中のR1が炭素原子数3又は4のアルキル基を表す所定樹脂と比較して、高いからだと考えられる。
【0121】
一方、インク(G-1)~(G-2)の各々は、次の構成を有していた。即ち、インクは、顔料粒子と、樹脂と、水とを少なくとも含有していた。分散粒子の平均粒子径は、90nm以上100nm以下であった。樹脂/顔料比率は、0.05以上0.10以下であった。表10に示すように、樹脂(より具体的には、樹脂(R-5)及び(R-6))は繰り返し単位(1)と(2)とを少なくとも有し、繰り返し単位比率は、0.35以上0.80以下であった。このため、表11に示すように、インク(G-1)~(G-2)を用いて形成された画像の画像濃度の評価、及び耐擦過性の評価は、何れも良好であった。
【0122】
以上のことから、インク(A-1)~(A-3)、(C-1)~(C-3)、(E-1)~(E-2)、及び(G-1)~(G-2)を包含する本発明に係るインクによれば、処理液が併用されない場合であっても、画像濃度が高く耐擦過性に優れた画像を形成できることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0123】
本発明に係るインクは、例えば、インクジェット記録装置を用いて記録媒体に画像を形成するために利用できる。