(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】車両用シート
(51)【国際特許分類】
B60N 2/16 20060101AFI20240214BHJP
A47C 7/02 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
B60N2/16
A47C7/02 D
(21)【出願番号】P 2020089770
(22)【出願日】2020-05-22
【審査請求日】2022-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】丸尾 和樹
(72)【発明者】
【氏名】足立 勇
(72)【発明者】
【氏名】山下 友騎
【審査官】望月 寛
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-150915(JP,A)
【文献】国際公開第2020/013131(WO,A1)
【文献】特開2010-000960(JP,A)
【文献】特開2011-213149(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60N 2/16
A47C 7/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
着座乗員の臀部を支持するシートクッション(52)と、
着座乗員の背部を支持するシートバック(54)と、
一方側及び他方側へ変位可能に支持された従動ギヤ(78)を有し、前記従動ギヤが一方側及び他方側へ変位されることで前記シートクッション又は前記シートバックが一方側及び他方側へ変位される変位機構(58)と、
作動されることで回転すると共に前記従動ギヤと噛合う出力ギヤ(30C)と、前記出力ギヤの一方側への回転を停止する停止部(26C,28E)と、を有し、前記出力ギヤが一方側へ回転されることで前記従動ギヤが一方側へ変位され、前記出力ギヤの一方側への回転が前記停止部によって停止されることで前記従動ギヤの一方側への変位が停止し、前記出力ギヤが他方側へ回転されることで前記従動ギヤが他方側へ変位され、前記従動ギヤの他方側への変位が制限されることで前記出力ギヤの他方側への回転が停止されるモータ(10)と、
を備え
、
前記変位機構は、前記シートクッションをシート上下方向へ変位させるリフタリンク機構(58)とされ、
前記従動ギヤが一方側へ変位されることで前記シートクッションがシート下方側へ変位され、
前記従動ギヤが他方側へ変位されることで前記シートクッションがシート上方側へ変位され、
前記出力ギヤの一方側への回転が前記停止部によって停止されることで、前記出力ギヤから前記リフタリンク機構側へ荷重が入力されない状態となる車両用シート(50)。
【請求項2】
前記従動ギヤには、前記出力ギヤとの噛合いが不能な噛合不能部(78C)が設けられ、
他方側へ回転された前記出力ギヤが前記噛合不能部に当接することで前記従動ギヤの他方側への変位が停止する請求項1に記載の車両用シート。
【請求項3】
前記従動ギヤには、規制ピン(86)が挿入される規制溝(84A)が形成され、
前記従動ギヤが他方側へ変位される際に、前記規制溝の縁が前記規制ピンに当接することで前記従動ギヤの他方側への変位が停止する請求項1に記載の車両用シート。
【請求項4】
前記停止部は、前記出力ギヤの他方側への回転を停止することで前記出力ギ
ヤの回転範囲を制限し、
前記出力ギヤの他方側への回転が前記停止部によって停止される前に、前記従動ギヤの他方側への変位が制限されることで前記出力ギヤの他方側への回転が停止される請求項1~請求項
3のいずれか1項に記載の車両用シート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両用シートに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、車両用シートのシートクッションをシート上下方向に移動させるために用いられる減速機付モータが開示されている。この文献に記載された減速機付モータは、シートクッションをシート上下方向に移動させる機構と係合するピニオンギヤを備えている。また、減速機付モータは、ピニオンギヤの回転範囲を所定の範囲に制限する機構を備えている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記の減速機付モータのピニオンギヤの回転範囲とシートクッションのシート上下方向への移動範囲とが対応するように設定すると、減速機付モータ側によってシートクッションのシート上下方向への移動範囲を所定の範囲に制限することができる。しかしながら、このように構成した場合、シートクッションのシート上下方向への移動範囲が互いに異なる車両用シート毎にピニオンギヤの回転範囲を設定しなければならず、減速機付モータの共通化を図ることが難しい。
【0005】
本開示は上記事実を考慮し、シートクッションやシートバックを変位させるモータの共通化を図ることができる車両用シートを得ることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決する車両用シート(50)は、 着座乗員の臀部を支持するシートクッション(52)と、 着座乗員の背部を支持するシートバック(54)と、 一方側及び他方側へ変位可能に支持された従動ギヤ(78)を有し、前記従動ギヤが一方側及び他方側へ変位されることで前記シートクッション又は前記シートバックが一方側及び他方側へ変位される変位機構(58)と、 作動されることで回転すると共に前記従動ギヤと噛合う出力ギヤ(30C)と、前記出力ギヤの一方側への回転を停止する停止部(26C,28E)と、を有し、前記出力ギヤが一方側へ回転されることで前記従動ギヤが一方側へ変位され、前記出力ギヤの一方側への回転が前記停止部によって停止されることで前記従動ギヤの一方側への変位が停止し、前記出力ギヤが他方側へ回転されることで前記従動ギヤが他方側へ変位され、前記従動ギヤの他方側への変位が制限されることで前記出力ギヤの他方側への回転が停止されるモータ(10)と、を備えている。
【0007】
この様に構成することで、シートクッションやシートバックを変位させるモータの共通化を図ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本実施形態の車両用シートを示す側面図である。
【
図3】減速機付モータを分解して示す分解斜視図である。
【
図4】減速機付モータを分解して示す分解斜視図であり、
図3とは反対側から見た図を示している。
【
図5】減速機の一部を構成する偏心軸、固定ギヤ、伝達用ギヤ及び出力ギヤ体を示す分解斜視図である。
【
図6】減速機の一部を構成する偏心軸、固定ギヤ、伝達用ギヤ及び出力ギヤ体を出力
【
図7】ストロークA仕様のセクタギヤ及びピニオンギヤを示す側面図である。
【
図8】セクタギヤの回転範囲とピニオンギヤの回転範囲等を比較して示す図である。
【
図9】ストロークB仕様のセクタギヤ及びピニオンギヤを示す側面図である。
【
図10】ストロークC仕様のセクタギヤ及びピニオンギヤを示す側面図である。
【
図11】セクタギヤの回転範囲とピニオンギヤの回転範囲等を比較して示す図である。
【
図12】他の仕様のセクタギヤ及びピニオンギヤを示す側面図である。
【
図13】セクタギヤの回転範囲とピニオンギヤの回転範囲等を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1~
図8を用いて、実施形態に係る車両用シート50について説明する。なお、図中に示す矢印FR、矢印UPは、車両用シート50に着座した乗員から見たシート前方側(シート前後方向の前方側)、シート上方側(シート上下方向の上方側)をそれぞれ示している。また、以下の説明におけるシート右側及びシート左側は、車両用シート50に着座した乗員から見たシート右側及びシート左側をそれぞれ示している。以下の説明においては、上記の各方向を単に前後、上下、左右の方向として扱う場合がある。
【0010】
図1に示されるように、車両用シート50は、着座乗員の臀部を支持するシートクッション52と、着座乗員の背部を支持すると共にシートクッション52の後端部に取付けられたシートバック54と、着座乗員の頭部を支持すると共にシートバック54の上端部に取付けられたヘッドレスト56と、を備えている。また、車両用シート50は、シートクッション52をシート上下方向に移動可能とするリフタリンク機構58と、リフタリンク機構58を動かすモータとしての減速機付モータ10と、を備えている。
【0011】
シートクッション52は、表皮材に覆われたシートクッションパッド60がシートクッションフレーム62に取付けられること等により構成されている。
【0012】
図2に示されるように、リフタリンク機構58は、シート幅方向に間隔をあけて配置されていると共に前後方向に延びる左右一対のサイドフレーム64と、左右一対のサイドフレーム64の前方側の部分を左右方向につなぐ前軸66と、左右一対のサイドフレーム64の後方側の部分を左右方向につなぐ後軸68と、を備えている。左右一対のサイドフレーム64、前軸66及び後軸68は、シートクッションフレーム62の一部を構成している。また、前軸66及び後軸68の左右の両端部は、左右一対のサイドフレーム64に挿通された状態で左右方向を回転軸方向として回転可能となっている。
【0013】
リフタリンク機構58は、左右一対のサイドフレーム64の下方側に配置された左右一対のアッパレール70を備えている。この左右一対のアッパレール70は、図示しないロアレールと共にシートスライドレール72を構成している。そして、左右一対のアッパレール70が、車体のフロアに固定されたロアレールに沿ってスライドすることで、シートクッション52が前後方向に移動するようになっている。
【0014】
リフタリンク機構58は、一方側の端部が前軸66の左右の両端部に溶接等により接合されていると共に他方側の端部が左右一対のアッパレール70の前端部に左右方向を軸方向として回動可能に連結された左右一対の前接続部74を備えている。また、リフタリンク機構58は、一方側の端部が後軸68の左右の両端部に溶接等により接合されていると共に他方側の端部が左右一対のアッパレール70の後端部に左右方向を軸方向として回動可能に連結された左右一対の後接続部76を備えている。
【0015】
リフタリンク機構58は、後軸68に溶接等により接合された従動ギヤとしてのセクタギヤ78を備えている。このセクタギヤ78は、左側のサイドフレーム64に対して右側に配置されていると共に左側のサイドフレーム64と左右方向に近接して配置されている。なお、セクタギヤ78の細部の構成は、後に詳述する。そして、セクタギヤ78は、左側のサイドフレーム64に固定された減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cと噛合っている。
【0016】
次に、
図3~
図6を用いて減速機付モータ10について説明する。なお、図中に適宜示す矢印Z方向、矢印R方向及び矢印C方向は、出力ギヤであるピニオンギヤ30Cの回転軸方向一方側、回転径方向外側及び回転周方向一方側をそれぞれ示すものとする。また、矢印Z方向とは反対側、矢印R方向とは反対側及び矢印C方向とは反対側は、出力ギヤであるピニオンギヤ30Cの回転軸方向他方側、回転径方向内側及び回転周方向他方側をそれぞれ示すものとする。さらに、単に軸方向、径方向、周方向を示す場合は、特に断りのない限り、ピニオンギヤ30Cの回転軸方向、回転径方向、回転周方向を示すものとする。
【0017】
図3、
図4及び
図5に示されるように、本実施形態の減速機付モータ10は、車両用シートのシートクッションをシート上下方向に移動させるためのパワーシート用モータである。この減速機付モータ10は、直流モータであるモータ12を備えている。また、減速機付モータ10は、モータ12の回転軸12Aの回転を出力部としての出力ギヤ体30に減速して伝達させるための減速機14を備えている。さらに、減速機付モータ10は、モータ12が取付けられていると共にその内部に減速機14が設けられたハウジング16を備えている。
【0018】
減速機14は、モータ12の回転軸12Aに固定されたウォームギヤ18と、ウォームギヤ18と噛み合う第1ギヤとしてのヘリカルギヤ20と、ヘリカルギヤ20と一体に設けられた偏心軸22と、を備えている。
【0019】
また、減速機14は、偏心軸22に支持された伝達用ギヤ24及びロック用ギヤ26と、ロック用ギヤ26と噛合う固定ギヤ28と、を備えている。さらに、減速機14は、固定ギヤ28に支持されていると共に伝達用ギヤ24が係合することで当該伝達用ギヤ24の自転を制限する自転制限部材としてのスライダプレート52を備えている。また、減速機14は、伝達用ギヤ24と噛合うと共にピニオンギヤ30Cを有し、その軸方向がヘリカルギヤ20、伝達用ギヤ24及びロック用ギヤ26の軸方向と同じ方向(矢印Z方向及び矢印Z方向とは反対方向)に向けられていると共にヘリカルギヤ20と同軸上に配置された出力ギヤ体30を備えている。
【0020】
また、減速機付モータ10は、偏心軸22及びヘリカルギヤ20等の軸方向へのガタ付きを抑制するためのスプリング32を備えている。また、減速機付モータ10は、ハウジング16に固定されることで、減速機14がハウジング16内に収容されるカバープレート34を備えている。
【0021】
図3及び
図4に示されるように、ハウジング16は、樹脂材料を用いて形成されている。このハウジング16は、モータ12の回転軸12Aが軸方向(矢印Z方向)と直交する方向に向けられた状態で固定されるモータ固定部16Aを備えている。また、ハウジング16は、減速機14が収容される減速機収容凹部16Cを備えている。この減速機収容凹部16Cは、軸方向一方側(矢印Z方向側)が開放された凹状に形成されている。
【0022】
図3に示されるように、減速機収容凹部16Cは、当該減速機収容凹部16Cの底を形成する底壁部と、底壁部の外周部から軸方向一方側へ延びると共に内周面が略円筒面状に形成された側壁部16Eと、を含んで構成されている。減速機収容凹部16Cの底壁部の中央部には、後述する回転中心軸40の軸方向他方側の端部がクリアランスを有して挿入される円筒状のボス部が立設されている。また、底壁部におけるボス部のまわりには、スプリング32が配置されている。なお、底壁部とスプリング32との間には、樹脂ワッシャ36が介在している。
【0023】
減速機収容凹部16Cの側壁部16Eの内周部には、後述する固定ギヤ28の一部が嵌合されることで、当該固定ギヤ28の周方向への回転変位を規制する3つの固定ギヤ係合部16Gが形成されている。3つの固定ギヤ係合部16Gには、円柱状の柱部16Iが設けられている。
【0024】
カバープレート34は、鋼板材等を用いて形成されている。このカバープレート34には、ピニオンギヤ30Cをハウジング16の減速機収容凹部16Cの外側へ露出させるための露出開口34Aが形成されている。また、カバープレート34における露出開口34Aの周縁部には、軸方向他方側へ向けて屈曲された環状のリブ34Bが形成されている。
【0025】
ウォームギヤ18の外周部には螺旋状の歯部が形成されている。このウォームギヤ18が回転軸12Aに固定された状態のモータ12が、ハウジング16に固定されることで、ウォームギヤ18がハウジング16の減速機収容凹部16Cの底壁部側かつ側壁部16Eの内周面側に配置される。
【0026】
図3及び
図4に示されるように、ヘリカルギヤ20は、樹脂材料を用いて形成されている。このヘリカルギヤ20の外周部には、ウォームギヤ18の歯部と噛み合う複数の外歯が形成されている。また、ヘリカルギヤ20の軸心部には、後述する偏心軸22がインサート成形により固定されている。そして、ヘリカルギヤ20は、偏心軸22及び回転中心軸40を介してハウジング16に回転可能に支持されている。
【0027】
図4及び
図5に示されるように、偏心軸22は、金属材料を用いて形成されていると共にその一部がヘリカルギヤ20にインサートされることで当該ヘリカルギヤ20と一体回転可能となっている。具体的には、偏心軸22は、軸方向を厚み方向として径方向に延在する円板状に形成された円板部22Aを備えている。この円板部22Aの外周部は、周方向に沿って凹凸状に形成されている。また、円板部22Aの軸中心とヘリカルギヤ20の回転中心とが一致した状態で、円板部22Aがヘリカルギヤ20の内周部に固定されている。
【0028】
また、
図3及び
図5に示されるように、偏心軸22は、円板部22Aの中心部から軸方向一方側へ向けて突出する支持部22Bを備えている。支持部22Bにおける軸方向一方側は、後述する伝達用ギヤ24が回転可能に支持される第1支持部22B1とされている。また、支持部22Bにおける軸方向他方側は、第1支持部22B1よりも大径に設定されていると共に後述するロック用ギヤ26が回転可能に支持される第2支持部22B2とされている。第1支持部22B1及び第2支持部22B2の軸中心は、円板部22Aの軸中心に対して径方向外側の一方向へオフセットされている。
【0029】
また、
図4、
図5及び
図6に示されるように、偏心軸22には、円板部22A、第1支持部22B1及び第2支持部22B2を軸方向に貫通すると共に回転中心軸40が挿通される回転中心軸挿通孔22Cが形成されている。この回転中心軸挿通孔22Cの軸中心(回転中心軸挿通孔22Cに挿通された回転中心軸40の軸中心)は、円板部22Aの軸中心と一致している。
【0030】
図4及び
図6に示されるように、出力ギヤとしての出力ギヤ体30は、金属材料を用いて形成されている。この出力ギヤ体30は、伝達用ギヤ24と係合する伝達用ギヤ係合部30Bを備えている。
図4に示されるように、伝達用ギヤ係合部30Bには、伝達用ギヤ24側(軸方向他方側)が開放されていると共に当該伝達用ギヤ24の伝達用ギヤ本体部24Dが内部に配置される収容凹部30Eが形成されている。この収容凹部30Eの径方向外側の内周部には、伝達用ギヤ24の外歯24Aと噛み合う複数の内歯30Fが形成されている。
【0031】
また、出力ギヤ体30は、伝達用ギヤ係合部30Bに対して軸方向一方側において当該伝達用ギヤ係合部30Bと同軸上に配置されていると共に複数の外歯が外周部に形成されたピニオンギヤ30Cとを備えている。また、出力ギヤ体30における伝達用ギヤ係合部30Bとピニオンギヤ30Cとの間の中間部は、カバープレート34に形成されたリブ34Bに軸支される被軸支部30Dとされている。なお、リブ34Bの内周面には、樹脂材料等を用いて形成された軸受ブッシュ42が係合されている。これにより、出力ギヤ体30の被軸支部30Dとカバープレート34のリブ34Bとの金属同士の接触が防止又は抑制されている。また、出力ギヤ体30の軸心部には、金属材料を用いて棒状に形成された回転中心軸40が圧入等により固定されている。
【0032】
図3及び
図4に示されるように、固定ギヤ28は、金属材料にプレス加工等が施されることにより形成されている。この固定ギヤ28は、軸方向視で環状に形成された固定ギヤ本体部28Aを備えている。また、固定ギヤ28は、固定ギヤ本体部28Aから径方向外側へ向けて突出する3つ係合突起部28Bを備えている。そして、係合突起部28Bがハウジング16の固定ギヤ係合部16Gに係合された状態で、図示しないプッシュナットが柱部16Iに係合されることで、固定ギヤ28がハウジング16に固定されるようになっている。
【0033】
また、固定ギヤ本体部28Aの内周部には、後述するロック用ギヤ26が噛合う複数の内歯28Dが形成されている。
【0034】
さらに、固定ギヤ28は、固定ギヤ本体部28Aから軸方向他方側へ向けて突出する停止部としての第2規制部28Eを備えている。この第2規制部28Eは、固定ギヤ本体部28Aにおける周方向の一部分から軸方向他方側へ突出している。
【0035】
また、固定ギヤ28の固定ギヤ本体部28Aにおいて内歯28Dが形成されている部分の軸方向一方側の軸芯部には、軸方向視で縁部が矩形状(長方形状)に形成されていると共にその内部にスライダプレート52が配置されるスライダプレート係合孔28Fが形成されている。また、スライダプレート係合孔28Fの縁部において、後述するスライダプレート52の一対の第1スライダ面52Cとそれぞれ径方向に対向して配置される面は、第2スライダ面28Gとされている。そして、第1スライダ面52Cと第2スライダ面28Gとが対向してかつ近接して配置されることで、スライダプレート52の固定ギヤ28に対する回転が制限されている。また、第1スライダ面52Cが第2スライダ面28G上を摺動することで、スライダプレート52及び伝達用ギヤ24の径方向の一方向R1への変位が許容されるようになっている。これにより、偏心軸22が回転した際に、当該偏心軸22の第1支持部22B1に支持された伝達用ギヤ24の自転が制限された状態で、当該伝達用ギヤ24が回転中心軸40の軸中心回りに公転するようになっている。
【0036】
図3、
図4、
図5及び
図6に示されるように、伝達用ギヤ24は、金属材料にプレス加工等が施されることにより略円板状に形成されている。この伝達用ギヤ24は、その外周部に複数の外歯24Aが形成された伝達用ギヤ本体部24Dを備えている。伝達用ギヤ本体部24Dの中心部には、偏心軸22の第1支持部22B1に支持される支持孔24Bが形成されている。また、伝達用ギヤ24は、伝達用ギヤ本体部24Dの軸方向他方側の面から軸方向他方側へ向けて突出する2つの制限突起部24Eを備えている。この2つの制限突起部24Eは周方向に沿って等間隔に(180度のピッチで)配置されている。そして、2つの制限突起部24Eが後述するスライダプレート52に係合されることで、伝達用ギヤ24の偏心軸22の第1支持部22B1まわりへの回転(自転)が制限されるようになっている。
【0037】
図3及び
図5に示されるように、スライダプレート52は、金属製の板材を用いて形成されており、軸方向視で矩形状(長方形状)に形成されている。このスライダプレート52は、固定ギヤ28に形成されたスライダプレート係合孔28Fの内部において伝達用ギヤ24の2つの制限突起部24Eの間に配置される。また、スライダプレート52の外周部において2つの制限突起部24Eとそれぞれ径方向に対向して配置される面は被係合面52Bとされている。そして、スライダプレート52が伝達用ギヤ24の2つの制限突起部24Eの間に配置された状態では、被係合面52Bと制限突起部24Eとが対向する方向(径方向の一方向R1)への伝達用ギヤ24のスライダプレート52に対する変位が制限されると共に伝達用ギヤ24のスライダプレート52に対する回転(自転)が制限されるようになっている。また、制限突起部24Eが被係合面52B上を摺動することで、被係合面52Bと制限突起部24Eとが摺動する方向(径方向の一方向R1と直交する径方向の他方向R2)への伝達用ギヤ24のスライダプレート52に対する変位が許容されるようになっている。また、スライダプレート52の外周部においてスライダプレート係合孔28Fの第2スライダ面28Gと対向してかつ近接してそれぞれ配置される一対の面は第1スライダ面52Cとされている。なお、スライダプレート52の軸芯部には、偏心軸22の第1支持部22B1が挿通される長孔状(径方向の他方向R2を長手方向とする長孔状)の挿通孔52Aが形成されている。また、本実施形態では、スライダプレート52の一対の被係合面52B間の間隔が、一対の第1スライダ面52C間の間隔よりも小さな寸法に設定されている。これにより、スライダプレート52が、軸方向視で一対の被係合面52Bが長辺となると共に一対の第1スライダ面52Cが短辺となる矩形状となっている。
【0038】
図3及び
図4に示されるように、ロック用ギヤ26は、伝達用ギヤ24と同様に金属材料にプレス加工等が施されることにより円板状に形成されている。このロック用ギヤ26の外周部には、固定ギヤ28の内歯28Dと噛合う外歯26Bが全周にわたって形成されている。また、ロック用ギヤ26の中心部には、偏心軸22の第2支持部22B2に支持される支持孔26Bが形成されている。さらに、ロック用ギヤ26は、径方向外側へ向けて突出すると共に軸方向から見て扇状に形成された停止部としての第1規制部26Cを備えている。この第1規制部26Cは、ロック用ギヤ26の周方向の一部分に設けられている。また、ロック用ギヤ26の外歯26Aが固定ギヤ28の内歯28Dと噛合った状態では、第1規制部26Cが固定ギヤ28の固定ギヤ本体部28Aの軸方向他方側の面に沿って配置される。
【0039】
図3及び
図4に示されるように、以上説明したの減速機付モータ10によれば、モータ12の回転軸12Aが回転するとウォームギヤ18が回転する。また、ウォームギヤ18が回転すると、当該ウォームギヤ18と噛み合うヘリカルギヤ20が偏心軸22と共に回転する。
【0040】
さらに、偏心軸22が回転すると、偏心軸22の第1支持部22B1に支持された伝達用ギヤ24が回転中心軸40の周りを公転する。詳述すると、偏心軸22が回転すると、伝達用ギヤ24の制限突起部24Eがスライダプレート52の被係合面52B上を摺動しながら径方向(矢印R2及びR2とは反対方向)へ移動する。また、スライダプレート52の第1スライダ面52Cが固定ギヤ28の第2スライダ面28G上を摺動しながら、スライダプレート52及び伝達用ギヤ24が径方向(矢印R1及びR1とは反対方向)へ移動する。これにより、偏心軸22の第1支持部22B1に支持された伝達用ギヤ24の自転が制限された状態で、当該伝達用ギヤ24が回転中心軸40の軸中心回りに公転する。
【0041】
図3及び
図4に示されるように、伝達用ギヤ24が公転すると、この公転に伴う回転力が伝達用ギヤ24の外歯24Aから出力ギヤ体30の内歯30Fを介して当該出力ギヤ体30に伝達される。これにより、出力ギヤ体30が回転する。
【0042】
また、偏心軸22が回転すると、偏心軸22の第2支持部22B2に支持された停止用ギヤ26が固定ギヤ28と噛合ったまま回転中心軸40の周りを公転及び自転する。そして、
図4及び
図5に示されるように、停止用ギヤ26の第1規制部26Cが固定ギヤ28の第2規制部28Eに当接すると、停止用ギヤ26の公転及び自転が拘束される。詳述すると、モータ本体12の回転軸12Aが一方側へ回転している際においては、停止用ギヤ26の第1規制部26Cが固定ギヤ28の第2規制部28Eの周方向一方側の端面に当接する。これにより、ピニオンギヤ30Cの一方側への回転が停止する。なお、この位置のピニオンギヤ30Cの位置を「モータ下端位置M1」と呼ぶことにする。その一方で、モータ本体12の回転軸12Aが他方側へ回転している際においては、停止用ギヤ26の第1規制部26Cが固定ギヤ28の第2規制部28Eの周方向他方側の端面に当接する。これにより、ピニオンギヤ30Cの他方側への回転が停止する。なお、この位置のピニオンギヤ30Cの位置を「モータ上端位置M2」と呼ぶことにする。また、第1規制部26C及び第2規制部28Eを有するによって所定の範囲に制限されているピニオンギヤ30Cの回転範囲を「モータ作動域M」と呼ぶことにする。
【0043】
図7に示されるように、セクタギヤ78は、左右方向を厚み方向とする板状に形成されていると共にシート側面視で略扇型の形状に形成されている。このセクタギヤ78の内周部は、後軸68に溶接等により接合されている。また、セクタギヤ78の外周部は、後軸68に対して前方側に配置されている。セクタギヤ78の外周部には、減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cと噛合う複数の外歯78Aが後軸68の回転周方向(矢印D方向及び矢印D方向とは反対方向)に沿って形成されている。ここで、セクタギヤ78の外周部に形成された複数の外歯78Aと噛合うことが可能なピニオンギヤ30Cのセクタギヤ78に対する相対的な移動範囲を「システム作動域S」と呼ぶことにする。なお、このシステム作動域Sは、後述する第1噛合不能部78Bと第2噛合不能部78Cとの間の範囲に対応している。
【0044】
セクタギヤ78の外周部において複数の外歯78Aが形成されている部分の下方側は、減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cと噛合うことが不能な噛合不能部としての第1噛合不能部78Bとなっている。なお、ピニオンギヤ30Cが第1噛合不能部78Bに当接する際の当該ピニオンギヤ30Cの位置を「システム下端位置S1」と呼ぶことにする。また、セクタギヤ78の外周部において複数の外歯78Aが形成されている部分の上方側は、減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cと噛合うことが不能な噛合不能部としての第2噛合不能部78Cとなっている。なお、ピニオンギヤ30Cが第2噛合不能部78Cに当接する際の当該ピニオンギヤ30Cの位置を「システム上端位置S2」と呼ぶことにする。
【0045】
そして、
図1、
図2及び
図7に示されるように、減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cが一方側(矢印E方向)に回転すると、セクタギヤ78が後軸68と共に当該後軸68の回転周方向一方側(矢印D方向)へ回転する。これにより、シートクッション52が下降する。これに対して、減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cが他方側(矢印E方向とは反対側)に回転すると、セクタギヤ78が後軸68と共に当該後軸68の回転周方向他方側(矢印D方向とは反対側)へ回転する。これにより、シートクッション52が上昇する。ここで、シートクッション52の上下方向への昇降範囲を「シート作動域H」と呼ぶことにする。また、シートクッション52が最も下方側に位置している状態の当該シートクッション52の位置を「シート下端位置H1」と呼ぶことにする。さらに、シートクッション52が最も上方側に位置している状態の当該シートクッション52の位置を「シート上端位置H2」と呼ぶことにする。
【0046】
図8に模式的に示されるように、本実施形態の車両用シート50では、所定のシート作動域Hとなるように前述のモータ作動域Mとシステム作動域Sとをオフセットさせている。具体的には、シート下端位置H1とモータ下端位置M1とが対応するように、かつシート上端位置H2とシステム上端位置S2とが対応するように、モータ作動域Mとシステム作動域Sとをオフセットさせている。
【0047】
(本実施形態の作用並びに効果)
次に、本実施形態の作用並びに効果について説明する。
【0048】
図1~
図4及び
図7及び
図8に示されるように、以上説明した本実施形態の車両用シート50では、減速機付モータ10のモータ本体12の回転軸12Aが一方側へ回転すると、ピニオンギヤ30Cが一方側(矢印E方向側)へ回転して、セクタギヤ78が後軸68と共に当後軸68の回転周方向一方側(矢印D方向側)へ回転する。これにより、シートクッション52が下降する。そして、減速機付モータ10のモータ本体12の回転軸12Aが一方側へ回転している際に、すなわち、ピニオンギヤ30Cが一方側へ回転している際に、停止用ギヤ26の第1規制部26Cが固定ギヤ28の第2規制部28Eの周方向一方側の端面に当接すると、ピニオンギヤ30Cがセクタギヤ78の第1噛合不能部78Bに当接する前に、ピニオンギヤ30Cの一方側への回転が停止する。これにより、セクタギヤ78の一方側への回転が停止して、シートクッション52の下降が停止する。すなわち、シートクッション52がシート下端位置H1と対応する位置で停止する。
【0049】
これに対して、減速機付モータ10のモータ本体12の回転軸12Aが他方側へ回転すると、ピニオンギヤ30Cが他方側(矢印E方向とは反対側)へ回転して、セクタギヤ78が後軸68と共に当後軸68の回転周方向他方側(矢印D方向とは反対側)へ回転する。これにより、シートクッション52が上昇する。そして、減速機付モータ10のモータ本体12の回転軸12Aが他方側へ回転している際に、すなわち、ピニオンギヤ30Cが他方側へ回転している際に、当該ピニオンギヤ30Cがセクタギヤ78の第2噛合不能部78Cに当接すると、セクタギヤ78の他方側への回転が停止する。これにより、セクタギヤ78の他方側への回転が停止して、シートクッション52の上昇が停止する。すなわち、シートクッション52がシート上端位置H2と対応する位置で停止する。また、ピニオンギヤ30Cがセクタギヤ78の第2噛合不能部78Cに当接した状態では、ピニオンギヤ30Cは他方側へこれ以上回転できないため、当該ピニオンギヤ30Cの他方側への回転が停止する。
【0050】
以上説明したように、本実施形態の車両用シート50では、シートクッション52の下降がシート下端位置H1で停止する際においては、減速機付モータ10のピニオンギヤ30Cからセクタギヤ78を含むリフタリンク機構58側へ不要な力が入力されないようになっている。これにより、リフタリンク機構58が変形することによる着座乗員の不快感を防止することができる。特に、本実施形態の構成では、リフタリンク機構58の変形に伴う不快感が大きくなり易いシートバック54の下降時におけるリフタリンク機構58の変形を抑制することが可能となっている。
【0051】
ところで、本実施形態の車両用シート50の一部を構成する減速機付モータ10の構成では、シート下端位置H1とモータ下端位置M1とが対応するように、かつシート上端位置H2とモータ上端位置M2とが対応するように設定することもできる。しかしながら、このように設定すると、シート作動域Hが互いに異なる車両用シート50毎にピニオンギヤ30Cの回転範囲を設定する必要がある。すなわち、シート作動域Hが互いに異なる車両用シート50毎に停止用ギヤ26の第1規制部26C及び固定ギヤ28の第2規制部28Eの形状や寸法等を設定する必要がある。これにより、減速機付モータ10の共通化を図ることが難しい。
【0052】
しかしながら、本実施形態の車両用シート50の構成では、シート下端位置H1とモータ下端位置M1とが対応するように、かつシート上端位置H2とシステム上端位置S2とが対応するように、モータ作動域Mとシステム作動域Sとをオフセットさせている。この構成では、シート作動域Hが互いに異なる車両用シート50毎にモータ作動域Mとシステム作動域Sとのオフセット量を調節することで、同一の仕様の減速機付モータ10を用いることができる。すなわち、シート作動域Hが互いに異なる車両用シート50について減速機付モータ10の共通化を図ることができる。
【0053】
なお、以上説明した実施形態よりもシート作動域Hが広い車両用シート50においては、
図9及び
図10に示されるように、外歯78Aの数がより多く設定された従動ギヤとしてのセクタギヤ80、82を用いればよい。なお、セクタギヤ80、82において前述のセクタギヤ78と対応する部分には、セクタギヤ78と同じ符号を付している。
【0054】
ここで、
図5に示されたセクタギヤ78をストロークA仕様とする。また、
図9に示されたセクタギヤ80をストロークB仕様とし、
図10に示されたセクタギヤ82をストロークC仕様とする。そして、
図11に示されるように、モータ作動域Mと各セクタギヤ78、80、82の構成を採ることによるシステム作動域Sとをオフセットさせることにより、各々のシート作動域Hに対応させることができる。
【0055】
なお、各仕様のセクタギヤ78、80、82を用いた例では、ピニオンギヤ30Cがセクタギヤ78の第2噛合不能部78Cに当接することによってピニオンギヤ30Cの他方側への回転が停止するようにした例について説明したが、本発明はこれに限定されない。例えば、
図12に示されるように、従動ギヤとしてのセクタギヤ84に規制溝としての長溝84Aを形成し、この長溝84Aに規制ピン86を挿入する。そして、セクタギヤ84が後軸68と共に当後軸68の回転周方向他方側(矢印D方向とは反対側)へ回転する際に、長溝84Aの縁が規制ピン86に当接することで、セクタギヤ84の他方側への回転が停止されて、ピニオンギヤ30Cの他方側への回転が停止するように構成してもよい。
【0056】
また、
図13に示されるように、
図11に示された設定とは反対の設定となるように、モータ作動域Mとシステム作動域Sとをオフセットさせてもよい。
【0057】
また、以上説明した減速機付モータ10の共通化を図るための構成は、シートバック54をシートクッション52に対してリクライニングさせる機構を作動させるモータの共通化やシートクッション52をシート前後方向にスライドさせる機構を作動させるためのモータの共通化を図るために適用することもできる。
【0058】
以上、本開示の一実施形態について説明したが、本開示は、上記に限定されるものでなく、その主旨を逸脱しない範囲内において上記以外にも種々変形して実施することが可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0059】
10 減速機付モータ(モータ)、26C 第1規制部(停止部)、28E 第2規制部(停止部)、30C ピニオンギヤ(出力ギヤ)、50 車両用シート、52 シートクッション、54 シートバック、58 リフタリンク機構(変位機構)、78 セクタギヤ(従動ギヤ)、78B 第1噛合不能部(噛合不能部)、78C 第2噛合不能部(噛合不能部)、80 セクタギヤ(従動ギヤ)、82 セクタギヤ(従動ギヤ)、84 セクタギヤ(従動ギヤ)、84A 長溝(規制溝)、86 規制ピン