(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】高熱伝導性グリース組成物
(51)【国際特許分類】
C09K 5/14 20060101AFI20240214BHJP
【FI】
C09K5/14 101E
(21)【出願番号】P 2020104728
(22)【出願日】2020-06-17
【審査請求日】2023-03-16
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】110001047
【氏名又は名称】弁理士法人セントクレスト国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 由香
(72)【発明者】
【氏名】田中 洋充
(72)【発明者】
【氏名】須田 明彦
【審査官】中野 孝一
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-45457(JP,A)
【文献】特開2019-43804(JP,A)
【文献】特開2018-159062(JP,A)
【文献】特開2018-162335(JP,A)
【文献】特表2003-509578(JP,A)
【文献】特開2000-169873(JP,A)
【文献】特開2009-185212(JP,A)
【文献】特開2014-84331(JP,A)
【文献】特開2018-95845(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K5/00-5/20
C01B21/064
C10M101/00-177/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粒子と、該高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子と、多孔性窒化ホウ素とを含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子及び前記多孔性窒化ホウ素により形成される窒化ホウ素相の空隙率が10~50vol%である焼結体の粉砕物からなり、前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、該高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している熱伝導性フィラー、
酸化亜鉛粒子、及び
マトリックスオイルを含有し、
前記熱伝導性フィラー及び酸化亜鉛粒子が前記マトリックスオイル中に分散していることを特徴とする高熱伝導性グリース組成物。
【請求項2】
前記高熱伝導性粒子が窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、及びダイヤモンド粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子であることを特徴とする請求項1に記載の高熱伝導性グリース組成物。
【請求項3】
前記熱伝導性フィラーが二峰性以上の粒度分布を有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の高熱伝導性グリース組成物。
【請求項4】
前記酸化亜鉛粒子の平均粒子径が0.1~1μmであることを特徴とする請求項1~3のうちのいずれか一項に記載の高熱伝導性グリース組成物。
【請求項5】
前記マトリックスオイルがシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン及び合成油からなる群から選択される少なくとも1種であることを特徴とする請求項1~4のうちのいずれか一項に記載の高熱伝導性グリース組成物。
【請求項6】
真球状ナノ粒子を更に含有することを特徴とする請求項1~5のうちのいずれか一項に記載の高熱伝導性グリース組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高熱伝導性グリース組成物に関し、より詳しくは、熱伝導性フィラーを含有する高熱伝導性グリース組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
マトリックスオイル中に熱伝導性粒子が分散したグリース組成物は熱伝導性に優れており、発熱した電子部品から、熱を冷却部材へ伝導させるための熱伝導材料や熱を取り除くための放熱材料として有用である。
【0003】
このようなグリース組成物として、例えば、特開2000-169873号公報(特許文献1)には、平均粒径が0.5~5μmの窒化アルミニウム粉末αと平均粒径が6~20μmの窒化アルミニウム粉末βの2種類の窒化アルミニウム粉末が混合後の平均粒径が1~10μmとなるように混合された窒化アルミニウム粉末混合物と、オルガノポリシロキサンと、平均粒径が0.5~100μmの、酸化亜鉛、アルミナ、窒化ホウ素及び炭化ケイ素からなる群から選択される少なくとも1種の無機化合物粉末と、を含有するシリコーングリース組成物が開示されている。
【0004】
また、特開2009-185212号公報(特許文献2)には、平均粒子径が15~30μmである熱伝導性材料(A)と、平均粒子径が1.0~5μmである熱伝導性材料(B)と、平均粒子径が0.1~0.9μmである熱伝導性材料(C)と、アルキル基で変性されたシリコーンオイルとを含有し、前記熱伝導性材料(A)、(B)及び(C)が金属アルミニウム、窒化アルミニウム及び酸化亜鉛からなる群から選択される少なくとも1種である熱伝導性グリースが開示されている。
【0005】
さらに、特開2010-242022号公報(特許文献3)には、(A)オルガノポリシロキサンと、(B)平均粒径が5~20μmの、アルミナ粉末及び窒化アルミニウム粉末のうちの少なくとも1種と、(C)平均粒径が0.5~5μmの、酸化亜鉛粉末及び水酸化アルミニウム粉末のうちの少なくとも1種とを含有する熱伝導性シリコーングリース組成物が開示されている。
【0006】
また、特開2019-43804号公報(特許文献4)には、窒化ホウ素粉末と窒化アルミニウム粉末との混合物を圧縮しながら焼成することによって圧縮焼成体を作製し、この圧縮焼成体を粉砕することによって得られる、窒化ホウ素粒子と窒化アルミニウム粒子とを含有し、前記窒化アルミニウム粒子の外表面の50%以上が前記窒化ホウ素粒子の内部に包含され、かつ、前記窒化ホウ素粒子に当接した状態で形成されている複合粒子を含む熱伝導性フィラーが、マトリックスオイル中に分散している熱伝導性複合材料(グリース組成物)が開示されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1~4に記載のグリースは、熱伝導性が必ずしも十分に高いものではなく、未だ改良の余地があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2000-169873号公報
【文献】特開2009-185212号公報
【文献】特開2010-242022号公報
【文献】特開2019-43804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記従来技術の有する課題に鑑みてなされたものであり、熱伝導性に優れたグリース組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、高熱伝導性粉末と非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末とホウ酸錯体との混合物を特定の圧力で圧縮成形した後、焼成し、得られた圧縮焼結体を粉砕することによって得られる、高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に多孔性窒化ホウ素を介して六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を個数基準で40%以上含有する熱伝導性フィラーがマトリックスオイル中に分散しているグリース組成物に、さらに、酸化亜鉛粒子を分散させることによって、熱伝導性に優れたグリース組成物が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明の高熱伝導性グリース組成物は、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粒子と、該高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子と、多孔性窒化ホウ素とを含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子及び前記多孔性窒化ホウ素により形成される窒化ホウ素相の空隙率が10~50vol%である焼結体の粉砕物からなり、前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、該高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している熱伝導性フィラー、酸化亜鉛粒子、及びマトリックスオイルを含有し、前記熱伝導性フィラー及び酸化亜鉛粒子が前記マトリックスオイル中に分散していることを特徴とするものである。
【0012】
本発明の高熱伝導性グリース組成物においては、前記高熱伝導性粒子が窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、及びダイヤモンド粒子からなる群から選択される少なくとも1種の粒子であることが好ましく、また、前記熱伝導性フィラーが二峰性以上の粒度分布を有するものであることが好ましい。
【0013】
また、本発明の高熱伝導性グリース組成物においては、前記酸化亜鉛粒子の平均粒子径が0.1~1μmであることが好ましく、また、前記マトリックスオイルがシリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン及び合成油からなる群から選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0014】
さらに、本発明の高熱伝導性グリース組成物は、真球状ナノ粒子を更に含有することが好ましい。
【0015】
なお、本発明のグリース組成物が熱伝導性に優れている理由は必ずしも定かではないが、本発明者らは以下のように推察する。すなわち、熱伝導性フィラーをマトリックスオイル中に分散させたグリース組成物においては、フィラー粒子が接触した部位を通じて熱が伝達されるが、窒化アルミニウム粒子等の高熱伝導性粒子は粒子内熱抵抗が小さいという利点があるものの、概して硬い粒子であることから、粒子間接触する際に粒子が変形することなく、接触面積が小さい点接点となり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が大きくなる。
【0016】
そこで、高熱伝導性粒子の中でも窒化ホウ素粒子が比較的軟らかい粒子であり、点接点よりは接触面積が大きくなり、粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が小さくなることから、従来のグリース組成物においては、前記高熱伝導性粒子と窒化ホウ素粒子とを併用することによって、接触面積を増加させ、粒子間熱抵抗を低下させていた。しかしながら、粒子間熱抵抗の低下は必ずしも十分なものではなかった。
【0017】
また、酸化亜鉛粒子が熱伝導性に優れていることから、従来のグリース組成物においては、前記高熱伝導性粒子と酸化亜鉛粒子とを併用することによって、多くの熱伝導パスを形成し、熱伝導性を向上させていた。しかしながら、前記高熱伝導性粒子と酸化亜鉛粒子との間の粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が大きいため、熱伝導性は必ずしも十分なものではなかった。
【0018】
これに対して、本発明のグリース組成物においては、窒化アルミニウム粒子等の高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している熱伝導性フィラーが含まれている。ここで、前記多孔性窒化ホウ素は、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とを高い結合力で結合するだけでなく、これらの粒子の接触面積を増大させる役割も備えている。このため、本発明のグリース組成物においては、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の粒子間熱抵抗が更に小さくなると推察される。
【0019】
また、本発明のグリース組成物においては、熱伝導性に優れた酸化亜鉛粒子が含まれているため、この酸化亜鉛粒子によって多くの熱伝導性パスが形成される。さらに、窒化ホウ素と酸化亜鉛との間の接触熱抵抗(界面熱抵抗)が小さいため、本発明のグリース組成物においては、前記酸化亜鉛粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の粒子間熱抵抗も小さくなると推察される。
【0020】
このように、本発明のグリース組成物においては、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の粒子間熱抵抗が更に小さくなること、また、前記酸化亜鉛粒子によって多くの熱伝導性パスが形成されること、さらには、前記酸化亜鉛粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の粒子間熱抵抗が小さくなることによって、熱伝導性が向上すると推察される。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、熱伝導性に優れたグリース組成物を得ることが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明をその好適な実施形態に即して詳細に説明する。
【0023】
本発明の高熱伝導性グリース組成物は、熱伝導性フィラー、酸化亜鉛粒子、及びマトリックスオイルを含有するものであり、前記熱伝導性フィラー及び酸化亜鉛粒子が前記マトリックスオイル中に分散している。
【0024】
(熱伝導性フィラー)
本発明に用いられる熱伝導性フィラーは、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粒子と、該高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子と、多孔性窒化ホウ素とを含有し、前記六方晶窒化ホウ素粒子及び前記多孔性窒化ホウ素により形成される窒化ホウ素相の空隙率が10~50vol%である焼結体の粉砕物からなるものである。また、この熱伝導性フィラーにおいては、前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、該高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している。
【0025】
本発明に用いられる高熱伝導性粒子としては、熱伝導率が20W/mK以上の等方性の熱伝導性粒子であれば特に制限はなく、例えば、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、酸化アルミニウム粒子、酸化亜鉛粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子が挙げられる。これらの高熱伝導性粒子は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。また、これらの高熱伝導性粒子の中でも、焼結により前記六方晶窒化ホウ素粒子との間に密に接触した界面を形成でき、前記六方晶窒化ホウ素粒子との複合粒子が優れた熱伝導性を示すという観点から、窒化アルミニウム粒子、窒化ケイ素粒子、立方晶窒化ホウ素粒子、炭化ケイ素粒子、ダイヤモンド粒子が好ましく、窒化アルミニウム粒子が特に好ましい。なお、本明細書における熱伝導率とは、室温(20℃)における熱伝導率である。
【0026】
前記高熱伝導性粒子の平均粒子径は0.2~100μmである。前記高熱伝導性粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、得られるグリース組成物において前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記高熱伝導性粒子との間及び前記高熱伝導性粒子間の粒界数が増大するため全体の熱抵抗が増大する。他方、前記高熱伝導性粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、得られるグリース組成物において熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する。また、同様の観点から、前記高熱伝導性粒子の平均粒子径としては、0.3~95μmが好ましく、0.5~90μmがより好ましく、0.5~50μmが更に好ましく、1~20μmが特に好ましい。なお、本発明において、前記高熱伝導性粒子の平均粒子径は、熱伝導性フィラーに含まれる全ての前記高熱伝導性粒子、すなわち、前記六方晶窒化ホウ素粒子との複合粒子を形成している前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子と複合粒子を形成していない前記高熱伝導性粒子とを含む全ての前記高熱伝導性粒子の平均粒子径である。
【0027】
なお、本明細書において、「平均粒子径」は、原料粉末等に関するカタログ値を除き、走査型電子顕微鏡(SEM)観察等により無作為に抽出した300個以上の粒子の粒子径の平均値を意味する。また、粒子が球形状(断面が円形状)でない場合には、粒子(断面)の外接円を想定し、その外接円の直径を粒子径とする。
【0028】
本発明に用いられる窒化ホウ素粒子は、非多孔性の六方晶窒化ホウ素粒子であり、熱伝導性に優れている。このような六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、組合せて用いられる前記高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.01~5倍である。前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、得られるグリース組成物において前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記高熱伝導性粒子との間、前記六方晶窒化ホウ素粒子と後述する酸化亜鉛粒子との間及び前記六方晶窒化ホウ素粒子間の粒界数が増大するため全体の熱抵抗が増大する。他方、前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径が前記上限を超えると、得られるグリース組成物において熱伝導性フィラーの分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する。また、同様の観点から、前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径としては、組合せて用いられる前記高熱伝導性粒子の平均粒子径の0.03~3倍が好ましく、0.05~1倍がより好ましい。なお、本発明において、前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径は、熱伝導性フィラーに含まれる全ての前記六方晶窒化ホウ素粒子、すなわち、前記高熱伝導性粒子との複合粒子を形成している前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記高熱伝導性粒子と複合粒子を形成していない前記六方晶窒化ホウ素粒子とを含む全ての前記六方晶窒化ホウ素粒子の平均粒子径である。
【0029】
また、前記六方晶窒化ホウ素粒子においては、黒鉛化指数が2.0以下であることが好ましい。前記六方晶窒化ホウ素粒子の黒鉛化指数が前記上限を超えると、前記六方晶窒化ホウ素粒子の熱伝導率そのものが小さくなるため、得られるグリース組成物の熱伝導性が低下する。
【0030】
さらに、前記高熱伝導性粒子及び前記六方晶窒化ホウ素粒子においては、マトリックスオイルへの分散性をより向上させるという観点から、それらの表面に水酸基、カルボキシル基、エステル基、アミド基、アミノ基等の官能基が結合していてもよい。
【0031】
本発明にかかる多孔性窒化ホウ素は、本発明にかかる焼結体や本発明に用いられる熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とを高い結合力で結合させるものである。また、このような多孔性窒化ホウ素は、配向性が高すぎると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の熱伝導を妨げる位置に配置される可能性があるため、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の効率的な熱伝導という観点から、乱層構造を有していることが好ましい。
【0032】
また、前記多孔性窒化ホウ素においては、002面に由来するX線回折ピークの半値幅が0.5~10°であることが好ましく、0.5~5°であることがより好ましく、0.5~2°であることが特に好ましい。多孔性窒化ホウ素の002面に由来するX線回折ピークの半値幅が前記下限未満になると、乱層構造の割合が少なくなり、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の結合力や接合力が低下する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、乱層構造により結晶が乱れるため、熱伝導率が低下する傾向にある。
【0033】
このような多孔性窒化ホウ素は、例えば、後述するように、ホウ酸錯体を不活性ガス雰囲気下で焼成することによって形成することができる。ホウ酸錯体は、不活性ガス雰囲気下での焼成によって、窒化ホウ素に変換される。このとき、酸素や炭素化合物が脱離するため、前記窒化ホウ素に空隙が形成され、多孔性の窒化ホウ素が得られる。
【0034】
本発明に用いられる熱伝導性フィラーは、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素とを含有する焼結体の粉砕物である。前記焼結体において、前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素とによって形成される窒化ホウ素相の空隙率は10~50vol%である。前記窒化ホウ素相の空隙率が前記範囲内にあると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との接触面積が増加し、粒子間の熱抵抗が低減される。また、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との密着性の向上と前記窒化ホウ素相の熱伝導性の向上とを両立させることができる。一方、前記窒化ホウ素相の空隙率が前記下限未満になると、前記窒化ホウ素相の熱伝導性は向上するものの、焼結体の粉砕時に、前記多孔性窒化ホウ素が優先的に破断されないため、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子が形成しにくく、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記複合粒子の含有量が少なくなる。他方、前記窒化ホウ素相の空隙率が前記上限を超えると、前記窒化ホウ素相の熱伝導性が低下するため、得られるグリース組成物の熱伝導性も低下する。また、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との密着性が低下するため、焼結体の粉砕時に、前記高熱伝導性粒子の表面から前記六方晶窒化ホウ素粒子が脱離しやすく、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子の含有量が少なくなる。また、同様の観点から、前記窒化ホウ素相の空隙率としては、15~40vol%が好ましい。
【0035】
また、本発明に用いられる熱伝導性フィラーにおいては、前記粉砕物中の全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で40%以上の粒子が、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を形成している。全ての前記高熱伝導性粒子のうちの40%以上の粒子が前記複合粒子を形成している熱伝導性フィラーは、粒子間の熱抵抗が小さく、得られるグリース組成物の熱伝導性が向上する。一方、前記複合粒子を形成している粒子の割合が前記下限未満の熱伝導性フィラーは、粒子間の熱抵抗が高く、得られるグリース組成物の熱伝導性が低下する。熱伝導性フィラーにおいて粒子間の熱抵抗が更に小さくなり、得られるグリース組成物の熱伝導性が更に向上するという観点から、全ての前記高熱伝導性粒子のうちの個数基準で50%以上の粒子が前記複合粒子を形成していることが好ましく、55%以上の粒子が前記複合粒子を形成していることがより好ましい。なお、全ての高熱伝導性粒子の個数は、表面の少なくとも一部に前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合している高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合していない高熱伝導性粒子とを含む全ての前記高熱伝導性粒子の個数を意味する。
【0036】
さらに、本発明に用いられる熱伝導性フィラーにおいては、前記複合粒子が必ずしも前記高熱伝導性粒子の全表面が前記六方晶窒化ホウ素粒子により被覆されていなくてもよいが、前記高熱伝導性粒子の表面の40%以上が被覆されていることが好ましく、55%以上が被覆されていることがより好ましく、全表面が被覆されていることが特に好ましい。
【0037】
本発明に用いられる熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素相(前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素とにより形成される相)との体積比率(高熱伝導性粒子:窒化ホウ素相)としては特に制限はないが、30:70~98:2が好ましく、40:60~90:10がより好ましい。前記高熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素相との体積比率が前記下限未満になると、前記高熱伝導性粒子による熱伝導性の向上効果が十分に得られず、得られるグリース組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるグリース組成物において、前記高熱伝導性粒子が関与する熱抵抗の大きい接触界面が相対的に増加するため、優れた熱伝導性を有するグリース組成物が得られない傾向にある。
【0038】
また、本発明に用いられる熱伝導性フィラーにおいて、前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素との体積比率(六方晶窒化ホウ素粒子:多孔性窒化ホウ素)としては特に制限はないが、10:90~90:10が好ましく、20:80~80:20がより好ましい。前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素との体積比率が前記下限未満になると、前記六方晶窒化ホウ素粒子が関与する熱抵抗の小さい接触界面が相対的に減少するため、優れた熱伝導性を有するグリース組成物が得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子との密着性が低下するため、焼結体の粉砕時に、前記高熱伝導性粒子の表面から前記六方晶窒化ホウ素粒子が脱離しやすく、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記複合粒子の含有量が少なくなり、優れた熱伝導性を有するグリース組成物が得られない傾向にある。
【0039】
さらに、本発明に用いられる熱伝導性フィラーにおいては、表面がアルキル化されていることが好ましい。これにより、マトリックスオイル中での前記熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、グリース組成物の流動性が向上するため、熱抵抗が更に低減された、熱伝導性に更に優れたグリース組成物を得ることが可能となる。
【0040】
(熱伝導性フィラーの製造方法)
このような熱伝導性フィラーは、以下の方法よって製造することができる。すなわち、平均粒子径が0.2~100μmであり、熱伝導率が20W/mK以上である等方性の高熱伝導性粉末と、該高熱伝導性粉末の平均粒子径の0.01~5倍の平均粒子径を有する非多孔性の六方晶窒化ホウ素粉末と、ホウ酸錯体との混合物を20MPa以上の圧力で圧縮成形し〔第一の工程〕、前記第一の工程で得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下、1800~2200℃の温度で焼成し〔第二の工程〕、前記第二の工程で得られた圧縮焼結体を粉砕する〔第三の工程〕ことにより、高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に多孔性窒化ホウ素を介して六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子を含有する熱伝導性フィラーを得ることができる。
【0041】
また、このようにして得られる前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させて前記熱伝導性フィラーの表面をアルキル化することが好ましい〔第四の工程〕。
【0042】
(第一の工程)
第一の工程においては、先ず、高熱伝導性粉末と六方晶窒化ホウ素粉末とホウ酸錯体との混合物を調製する。ここで用いる高熱伝導性粉末は、前記熱伝導性フィラーにおける高熱伝導性粒子となる原料粉末であり、その平均粒子径は0.2~100μmであり、0.3~95μmであることが好ましく、0.5~90μmであることがより好ましく、0.5~50μmであることが更に好ましく、1~20μmであることが特に好ましい。また、ここで用いる六方晶窒化ホウ素粉末は、前記熱伝導性フィラーにおける六方晶窒化ホウ素粒子となる原料粉末であり、その平均粒子径は組合せて用いられる前記高熱伝導性粉末の平均粒子径の0.01~5倍であり、0.03~3倍であることが好ましく、0.05~1倍であることがより好ましい。
【0043】
また、前記ホウ酸錯体としては不活性ガス雰囲気下での焼成によって多孔性の窒化ホウ素を形成できるものであれば特に制限はなく、例えば、ホウ酸メラミン錯体、ホウ酸尿素錯体が挙げられる。
【0044】
前記混合物を調製する際の混合方法としては特に制限はなく、例えば、湿式ボールミル粉砕混合法、乾式ボールミル粉砕混合法、機械混合法、撹拌混合法、乳鉢等による混合法等を採用することができ、必要に応じて、ろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理を施してもよい。このようなろ過、洗浄、乾燥、分粒等の処理としてはいずれも特に制限されず、公知の方法を適宜採用することができる。
【0045】
前記高熱伝導性粉末と前記六方晶窒化ホウ素粉末と前記ホウ酸錯体との混合比率としては特に制限はないが、得られる熱伝導性フィラーにおいて、前記高熱伝導性粒子と前記窒化ホウ素相との体積比率及び前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記多孔性窒化ホウ素との体積比率が前記範囲内となる混合比率が好ましい。
【0046】
次に、このようにして得られた混合物を所定の圧力で圧縮成形する。これにより、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記ホウ酸錯体を介して密着した圧縮成形体を得ることができる。
【0047】
圧縮成形時の圧力は20MPa以上であり、60MPa以上であることが好ましく、80MPa以上であることがより好ましい。圧縮成形時の圧力が前記下限未満になると、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記ホウ酸錯体を介して十分に密着せず、前記高熱伝導性粒子と前記六方晶窒化ホウ素粒子とが前記多孔性窒化ホウ素を介して高い結合力で結合している複合粒子が形成されにくく、得られる熱伝導性フィラー及びグリース組成物の熱伝導性が向上しにくい傾向にある。
【0048】
前記混合物を圧縮成形する方法としては特に制限はないが、静水圧下での圧縮成形が好ましい。これにより、前記混合物に均一に圧力が印加され、効果的な密着状態の圧縮成形体を得ることができる。また、静水圧下で圧縮成形することにより、窒化ホウ素の配向による熱伝導性フィラーの熱伝導率異方性を抑制することができる。このような熱伝導性フィラーの熱伝導率異方性は成形履歴による熱伝導率異方性を生じさせるため、場合によっては好ましくない。
【0049】
(第二の工程)
第二の工程においては、前記第一の工程で得られた圧縮成形体を不活性ガス雰囲気下で焼成する。これにより、前記圧縮成形体中の前記ホウ酸錯体が窒化ホウ素に変換されるとともに、酸素や炭素化合物が脱離するため、前記窒化ホウ素内に空隙が形成され、多孔性の窒化ホウ素が得られる。
【0050】
前記不活性ガスとしては、窒素、希ガス(例えば、アルゴン、ヘリウム、ネオン)等が挙げられる。焼成温度としては、前記混合物が十分に焼結する温度であれば特に制限はないが、1600~2200℃が好ましく、1650~1900℃がより好ましい。また、焼成時間としては、前記混合物が十分に焼結する時間であれば特に制限はないが、0.5~6時間が好ましく、1~4時間がより好ましい。
【0051】
(第三の工程)
第三の工程においては、前記第二の工程で得られた圧縮焼結体を粉砕する。このとき、前記圧縮成形体の多孔性窒化ホウ素が選択的に破断されるため、前記高熱伝導性粒子の表面の少なくとも一部に前記多孔性窒化ホウ素を介して前記六方晶窒化ホウ素粒子が結合した複合粒子が形成され、この複合粒子を多く含有する熱伝導性フィラーが得られる。
【0052】
前記圧縮焼結体の粉砕方法としては特に制限はなく、例えば、各種粉砕機(ミル)や乳鉢を用いた粉砕方法や湿式ボールミルや乾式ボールミルを用いた粉砕方法等を採用することができる。
【0053】
(第四の工程)
第四の工程においては、前記第三の工程で得られた熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させる。このとき、前記熱伝導性フィラー中の前記六方晶窒化ホウ素粒子とシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とが反応することによって、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化され、マトリックスオイル中での前記熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができ、グリース組成物の流動性が向上するため、熱抵抗が更に低減された、熱伝導性に更に優れたグリース組成物を得ることが可能となる。
【0054】
一方、前記第三の工程で得られた熱伝導性フィラーの表面をシラン系カップリング剤又はアルミネート系カップリング剤で処理した場合、シラン系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤の加水分解反応が進行してカップリング剤のゲル化が起こり、前記熱伝導性フィラー中の前記六方晶窒化ホウ素粒子とシラン系カップリング剤やアルミネート系カップリング剤との反応が進行しないため、前記熱伝導性フィラーの表面がアルキル化されず、マトリックスオイル中での前記熱伝導性フィラーの凝集を抑制することができず、グリース組成物の流動性が低下する。また、生じたゲルの介在により、熱伝導性フィラー間の接触熱抵抗が上昇する。これらの結果、グリース組成物は、熱抵抗が低減されず、熱伝導性が向上しない。
【0055】
前記シラザン系カップリング剤及び前記チタネート系カップリング剤のうち、熱伝導性フィラーの凝集を十分に抑制することができ、グリース組成物の流動性が向上し、また、ゲルの介在による熱伝導性フィラー間の接触熱抵抗の上昇も起こらないため、得られるグリース組成物の熱抵抗がより低減され、熱伝導性がより高くなるという観点から、シラザン系カップリング剤が好ましい。
【0056】
前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤とを反応させる方法としては、例えば、トルエン等の有機溶媒中に前記熱伝導性フィラーを分散させ、得られた分散液にシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤を添加した後、加熱する方法が挙げられる。
【0057】
前記熱伝導性フィラーとシラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤との混合比としては、前記熱伝導性フィラー100質量部に対して、シラザン系カップリング剤又はチタネート系カップリング剤の量が1~20質量部であることが好ましく、5~10質量部であることがより好ましい。
【0058】
反応温度としては室温~100℃が好ましく、40~60℃がより好ましい。また、反応時間としては0.5~20時間が好ましく、1~5時間がより好ましい。
【0059】
(酸化亜鉛粒子)
本発明に用いられる酸化亜鉛粒子は、熱伝導性に優れた粒子であり、本発明のグリース組成物において、多くの熱伝導パスを形成する。また、この酸化亜鉛粒子は、前記熱伝導性フィラー中の前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が小さいため、得られるグリース組成物の熱伝導性が向上する。一方、酸化亜鉛粒子の代わりに、銀粒子やアルミナ粒子を用いると、得られるグリース組成物中には多くの熱伝導パスが形成されるものの、これらの粒子と前記熱伝導性フィラー中の前記六方晶窒化ホウ素粒子との間の粒子間熱抵抗(界面熱抵抗)が大きいため、得られるグリース組成物の熱伝導性が十分に向上しない。
【0060】
このような酸化亜鉛粒子の平均粒子径としては特に制限はないが、0.1~1μmが好ましく、0.2~1μmがより好ましく、0.5~1μmが更に好ましく、0.7~0.9μmが特に好ましい。酸化亜鉛粒子の平均粒子径が前記下限未満になると、得られるグリース組成物において前記六方晶窒化ホウ素粒子と前記酸化亜鉛粒子との間及び前記酸化亜鉛粒子間の粒界数が増大するため全体の熱抵抗が増大する傾向にあり、他方、前記上限を超えると、得られるグリース組成物において前記酸化亜鉛粒子の分散均一性及び充填率が低下して熱伝導性が低下する傾向にある。
【0061】
(マトリックスオイル)
本発明に用いられるマトリックスオイルとしては、前記熱伝導性フィラー及び前記酸化亜鉛粒子を均一に分散できるものであれば特に制限はないが、絶縁性のオイルが好ましく、例えば、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、フルオロエーテルオイル、鉱物油、動植物性天然油、パラフィン、合成油等が挙げられ、沸点が200℃以上の、シリコーンオイル、変性シリコーンオイル、パラフィン、合成油が好ましい。これらのオイルは1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。
【0062】
(真球状ナノ粒子)
本発明のグリース組成物においては、粒子間の転がりが促進され、グリース組成物の粘度が低減されるという観点から、真球状ナノ粒子を含んでいてもよい。また、このような真球状ナノ粒子は、表面処理が施されていてもよい。なお、前記グリース組成物に真球状ナノ粒子が含まれていても、熱抵抗の低減効果は維持され、熱伝導性に優れたグリース組成物を得ることができる。
【0063】
このような真球状ナノ粒子としては、熱伝導性フィラー表面への吸着性、及びマトリックスオイル中での分散性の向上によるグリース組成物の流動性の向上という観点から、真球状シリカナノ粒子、表面処理が施された真球状シリカナノ粒子が好ましい。また、このような真球状ナノ粒子は、熱伝導性フィラー表面に吸着していることが好ましい。これにより、マトリックスオイル中での分散性が向上し、粒子間摩擦が低減されるため、グリース組成物の粘度が低減される。
【0064】
また、このような真球状ナノ粒子の平均粒子径としては、熱伝導性フィラー表面への吸着の均一性、真球状ナノ粒子による界面熱伝導阻害の回避という観点から、前記熱伝導性フィラーの平均粒子径の1/2倍以下が好ましく、1/4倍以下がより好ましく、1/5倍以下が特に好ましい。
【0065】
〔グリース組成物〕
本発明のグリース組成物においては、前記マトリックスオイル中に前記熱伝導性フィラー、前記酸化亜鉛粒子、及び必要に応じて真球状ナノ粒子が分散している。
【0066】
本発明のグリース組成物において、前記熱伝導性フィラーの含有量としては特に制限はないが、前記グリース組成物の全量に対して、10~90vol%が好ましく、15~70vol%がより好ましく、20~60vol%が特に好ましい。前記熱伝導性フィラーの含有量が前記下限未満になると、グリース組成物中で前記熱伝導性フィラー間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られるグリース組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記熱伝導性フィラーの含有率が前記上限を超えると、粒子間摩擦力が大きくなりすぎ、グリース組成物の流動性が低下するため、グリース組成物膜の厚さを薄くすることができず、熱抵抗の低減が困難となる傾向にある。
【0067】
また、本発明のグリース組成物において、前記酸化亜鉛粒子の含有量としては特に制限はないが、前記グリース組成物の全量に対して、1~50vol%が好ましく、5~40vol%がより好ましく、5~30vol%が特に好ましい。前記酸化亜鉛粒子の含有量が前記下限未満になると、グリース組成物中で前記酸化亜鉛粒子間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られるグリース組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にあり、他方、前記酸化亜鉛粒子の含有量が前記上限を超えると、グリース組成物中で前記熱伝導性フィラー間や前記熱伝導性フィラーと前記酸化亜鉛粒子との間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られるグリース組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0068】
さらに、本発明のグリース組成物において、前記マトリックスオイルの含有量としては特に制限はないが、前記グリース組成物の全量に対して、10~90vol%が好ましく、20~70vol%がより好ましく、40~70vol%が特に好ましい。前記マトリックスオイルの含有量が前記下限未満になると、前記マトリックスオイルが粒子間の空隙を充たすことができず、粒子が前記マトリックスオイル中で流動しにくくなり、グリース組成物の流動性が低下するため、グリース組成物が薄く広がりにくく、熱抵抗が高くなる傾向にあり、他方、前記酸化亜鉛粒子の含有量が前記上限を超えると、グリース組成物中で前記熱伝導性フィラー間や前記酸化亜鉛粒子間、前記熱伝導性フィラーと前記酸化亜鉛粒子との間の接触部位を通じて熱が拡散する熱伝導パスのネットワーク構造が十分に形成されず、得られるグリース組成物の熱伝導性が十分に向上しない傾向にある。
【0069】
また、本発明のグリース組成物が前記真球状ナノ粒子を含む場合、その含有量としては、前記グリース組成物の全量に対して、0.1~20質量%が好ましく、0.5~10質量%がより好ましく、0.5~5質量%が特に好ましい。前記真球状ナノ粒子の配合量が前記下限未満になると、前記真球状ナノ粒子を配合する効果が十分に得られない傾向にあり、他方、前記上限を超えると、熱伝導性フィラー間の接触を妨げ、界面熱伝導を阻害し、グリース組成物の熱伝導性を低下させる傾向にある。
【0070】
さらに、本発明のグリース組成物においては、前記熱伝導性フィラーが二峰性以上の粒度分布を有するものであることが好ましい。これにより、グリース組成物の粘度が低減され、グリース組成物の流動性が向上することにより、グリース組成物の厚みが薄くなるため、グリース組成物の熱抵抗が更に低減され、熱伝導性が更に向上する。このような二峰性以上の粒度分布を有する熱伝導性フィラーとしては、例えば、粒度分布が異なる2種以上の熱伝導性フィラーの混合物が挙げられるが、本発明のグリース組成物に含まれる二峰性以上の粒度分布を有する前記熱伝導性フィラーはこれに限定されるものではない。また、二峰性以上の粒度分布を有する前記熱伝導性フィラーにおいては、得られるグリース組成物の粘度が低減され、グリース組成物の流動性が向上することにより、グリース組成物の厚みが薄くなるため、グリース組成物の熱抵抗が更に低減され、熱伝導性が更に向上するという観点から、前記粒度分布におけるピークのうちの粒子径が最も大きいピークを形成する熱伝導性フィラーの割合が70~95質量%であることが好ましく、75~90質量%であることがより好ましい。
【0071】
このような本発明のグリース組成物は、例えば、以下のようにして製造することができる。すなわち、前記熱伝導性フィラーと前記酸化亜鉛粒子と前記マトリックスオイルとを混合して均一スラリーとすることにより、本発明のグリース組成物を得ることができる。その際、得られるグリース組成物中の熱伝導性フィラー及び酸化亜鉛粒子の含有率が目的の含有率となるように熱伝導性フィラーと酸化亜鉛粒子とマトリックスオイルとの混合割合を定める。また、熱伝導性フィラーと酸化亜鉛粒子とマトリックスオイルとを混合する方法は特に制限されず、公知の混合方法が適宜用いられる。
【0072】
また、本発明のグリース組成物が前記真球状ナノ粒子を含む場合、前記真球状ナノ粒子は、前記熱伝導性フィラーと前記酸化亜鉛粒子と前記マトリックスオイルとを混合する際に、これらとともに混合してもよいが、前記熱伝導性フィラーと前記酸化亜鉛粒子と前記マトリックスオイルとを混合する前に、予め、前記熱伝導性フィラーと混合して前記熱伝導性フィラーに真球状ナノ粒子を吸着させることが好ましい。これにより、前記真球状ナノ粒子が前記マトリックスオイル中に分散しやすく、粒子間摩擦の低減により、グリース組成物の粘度が低減される。
【実施例】
【0073】
以下、実施例及び比較例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、実施例及び比較例で使用したホウ酸メラミン錯体の合成方法及び熱伝導性フィラーの調製方法を以下に示す。
【0074】
(合成例1)
95℃に加熱した800mlの水に、ホウ酸24gを添加し、攪拌することにより溶解させた後、さらに、メラミン16gを添加し、攪拌することにより溶解させた。加熱攪拌を10分間継続してホウ酸とメラミンとを反応させ、得られた反応液を水冷した後、室温で12時間放置した。その後、析出した結晶を濾過により回収し、40℃で真空乾燥して、ホウ酸メラミン錯体31.5gを得た。
【0075】
(調製例1)
先ず、得られる圧縮焼結体の組成比が窒化アルミニウム粒子(AlN粒子)/窒化ホウ素粒子(BN粒子)/多孔性窒化ホウ素(多孔性BN)=70vol%/15vol%/15vol%となるように、ポリエチレン製ポットに、等方性の高熱伝導性粒子であるAlN粉末(古河電子株式会社製「高熱伝導AlNフィラーFAN-f05」、平均粒子径5μm、熱伝導率170W/mK)22.8g、非多孔性の六方晶BN粉末(スリーエム社製「3MTM窒化ホウ素クーリングフィラー Platelets001」、平均粒子径1μm)3.40g及び合成例1で得られたホウ酸メラミン錯体17.01gを投入し、さらに、ジルコニアボール(3mm径)500g及びアセトン165gを投入して、ボールミルにより400rpmの条件で12時間混合した。その後、濾過によりジルコニアボールを取り除き、さらに、エバポレーション及び真空乾燥によりアセトンを完全に除去した。得られた混合物を294MPaの静水圧下で圧縮した後、窒素雰囲気下、1800℃で1時間焼成して圧縮焼結体を得た。この圧縮焼結体を室温まで冷却した後、下記の方法に従って窒化ホウ素相の空隙率を求めた。その結果を表1に示す。
【0076】
次に、得られた圧縮焼結体を60秒間ミル粉砕し、目開き53μmの篩を通して粗粒子を得た。この粗粒子を分級により8μm以下の粒子を回収して、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを得た。下記の方法に従って、前記熱伝導性フィラー中のAlN/BN複合粒子の割合を求めた。また、下記の方法に従って、前記熱伝導性フィラーの体積基準の粒度分布を測定し、最大粒子径及び平均粒子径を求めた。これらの結果を表1に示す。
【0077】
次に、前記熱伝導性フィラー10gをトルエン100mlに分散させ、さらにヘキサメチルジシラザン(HMDS)1mlを添加した後、容器を密閉し、時々振とうしながら50℃で5時間加熱した。その後、遠心分離及びトルエン洗浄を2回繰返し、ベンゼンを用いて凍結乾燥を行い、表面がHMDSでメチル化された熱伝導性フィラーAを得た。
【0078】
<窒化ホウ素相の空隙率>
得られた圧縮焼結体から電子顕微鏡観察用の断面を切出し、この断面において無作為に抽出した20箇所の測定領域(縦60μm、横40μm)に、研磨剤としてダイヤモンドサスペンション及びコロイダルシリカを用いて研磨機(ビューラー社製「ミニメットTM1000」)により機械研磨を施した後、小型プラズマ装置(ヤマト科学株式会社製「PR300」)を用いて120Wで3分間の酸素プラズマエッチングを施し、さらに、オスミウムコーターを用いてオスミウムコーティングを施した。得られた測定用断面を走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。
【0079】
得られたSEM像において、BN相に相当する領域の合計面積及びBN相内の空隙に相当する領域の合計面積を求め、下記式:
BN相の空隙率[vol%]=BN相内の空隙に相当する領域の合計面積/{BN相内の空隙に相当する領域の合計面積+BN相に相当する領域の合計面積}×100
により各測定領域におけるBN相の空隙率を算出し、20箇所の測定領域におけるBN相の空隙率の平均値を求めた。
【0080】
<AlN/BN複合粒子の割合>
得られた熱伝導性フィラーを走査型電子顕微鏡(株式会社日立ハイテクノロジーズ製「NB-5000」)を用いて観察した。得られたSEM像において、明度と形状に基づいて、
(i)AlN粒子
(ii)表面の少なくとも一部がBN粒子で被覆されているAlN粒子(AlN/BN複合粒子)
を抽出し、視野内の(i)AlN粒子の数及び(ii)AlN/BN複合粒子の数をそれぞれ求め、視野内の全てのAlN粒子のうちのBN粒子で被覆されているAlN粒子の割合{(ii)/[(i)+(ii)]}を算出した。この割合を10視野について求め、その平均値を求めた。
【0081】
<熱伝導性フィラーの粒径分布>
得られた熱伝導性フィラーをエタノールに分散させ、レーザ回折・散乱式粒子径分布測定装置(マイクロトラック・ベル株式会社製「MT3300EX」)を用いて、レーザ回折・散乱法により前記熱伝導性フィラーの体積基準の粒径分布を測定した。
【0082】
(調製例2)
平均粒子径が5μmの前記AlN粉末(古河電子株式会社製「高熱伝導AlNフィラーFAN-f05」)の代わりに等方性の高熱伝導性粒子である平均粒子径が1μmのAlN粉末(株式会社トクヤマ製「高純度窒化アルミニウム粉末・顆粒 Eグレード」、熱伝導率180W/mK)を用い、得られる圧縮焼結体の組成比がAlN粒子/BN粒子/多孔性BN=80vol%/10vol%/10vol%となるように、前記AlN粉末22.8g、前記BN粉末1.98g及び前記ホウ酸メラミン錯体9.98gを混合した以外は調製例1と同様にして圧縮成形体を調製し、さらに、前記AlN粒子と前記BN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを調製した。調製例1と同様にして、窒化ホウ素相の空隙率、前記熱伝導性フィラー中のAlN/BN複合粒子の割合、前記熱伝導性フィラーの最大粒子径及び平均粒子径を求めた。これらの結果を表1に示す。また、調製例1と同様にして、表面がHMDSでメチル化された熱伝導性フィラーBを得た。
【0083】
【0084】
(実施例1)
調製例1で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーA362mg、真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)3.6mg、酸化亜鉛グリース(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンG-776」、酸化亜鉛粒子含有量:40vol%、酸化亜鉛粒子の平均粒子径:0.8μm)359mg及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)177mgを混合し、得られた混合物を、自転・公転ミキサー(株式会社シンキー製「あわとり練太郎ARV-310」)を用いて1200rpmで2分間、さらに2000rpmで2分間攪拌してグリース組成物(熱伝導性フィラーA:28vol%、酸化亜鉛粒子:12vol%)を得た。
【0085】
(実施例2)
調製例1で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーA289mg、調製例2で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーB72mg、真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)3.6mgを乾式混合して、前記2種類の熱伝導性フィラーの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記2種類の熱伝導性フィラーと酸化亜鉛グリース(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンG-776」、酸化亜鉛粒子含有量:40vol%、酸化亜鉛粒子の平均粒子径:0.8μm)359mg及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)177mgを混合し、得られた混合物を実施例1と同様に撹拌してグリース組成物(熱伝導性フィラーA:22.4vol%、熱伝導性フィラーB:5.6vol%、酸化亜鉛粒子:12vol%)を得た。
【0086】
(実施例3)
前記熱伝導性フィラーAの量を350mgに、前記熱伝導性フィラーBの量を39mgに、前記真球状シリカナノ粒子の量を3.9mgに、前記酸化亜鉛グリースの量を386mgに、前記シリコーンオイルの量を159mgに変更した以外は実施例2と同様に撹拌してグリース組成物(熱伝導性フィラーA:27.1vol%、熱伝導性フィラーB:3vol%、酸化亜鉛粒子:12.9vol%)を得た。
【0087】
(比較例1)
グリース組成物として、酸化亜鉛グリース(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンG-776」、酸化亜鉛粒子含有量:40vol%、酸化亜鉛粒子の平均粒子径:0.8μm)をそのまま使用した。
【0088】
(比較例2)
調製例1で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーA500mg、真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)5mgを乾式混合して、前記熱伝導性フィラーAの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記熱伝導性フィラーA及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)253mgを混合し、得られた混合物を実施例1と同様に撹拌してグリース組成物(熱伝導性フィラーA:40vol%)を得た。
【0089】
(比較例3)
高熱伝導グリース(TIMTRONICS社製「Silver Ice 710NS」)に遠心分離(4800rpm、1分間)とトルエン洗浄を施してフィラーを分離回収し、得られたフィラーを真空乾燥した。このフィラーのX線回折パターンを測定したところ、前記フィラーが銀フィラーであることが確認された。また、前記銀フィラーの平均粒子径は2.5μmであった。さらに、銀フィラーの質量分率、銀の密度及びオイルの密度(1g/cm3とした)から、前記グリース中の銀フィラーの体積分率を求めたところ、23vol%であった。この銀フィラーを含有するグリースをグリース組成物としてそのまま使用した。
【0090】
(比較例4)
調製例1で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーA245mg、調製例2で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーB63mg、真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)3.0mgを乾式混合して、前記2種類の熱伝導性フィラーの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記2種類の熱伝導性フィラーと前記銀フィラー含有グリース(TIMTRONICS社製「Silver Ice 710NS」、銀フィラーの平均粒子径:2.5μm、銀フィラー含有量:23vol%)613mg及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)126mgを混合し、得られた混合物を実施例1と同様に撹拌してグリース組成物(熱伝導性フィラーA:22.4vol%、熱伝導性フィラーB:5.6vol%、銀フィラー:12vol%)を得た。
【0091】
(比較例5)
グリース(MOMENTIVE社製「SilCool TIG400BX」)に遠心分離(4800rpm、1分間)とトルエン洗浄を施してフィラーを分離回収し、得られたフィラーを真空乾燥した。このフィラーのX線回折パターンを測定したところ、前記フィラーがアルミナフィラーであることが確認された。また、前記アルミナフィラーの平均粒子径は7.3μmであった。さらに、アルミナフィラーの質量分率、アルミナの密度及びオイルの密度(1g/cm3とした)から、前記グリース中のアルミナフィラーの体積分率を求めたところ、87.8vol%であった。このアルミナフィラーを含有するグリースをグリース組成物としてそのまま使用した。
【0092】
(比較例6)
調製例1で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーA245mg、調製例2で得られた、表面がHMDSでメチル化された前記熱伝導性フィラーB63mg、真球状シリカナノ粒子(信越化学工業株式会社製「信越シリコーンQSB-170」、平均粒子径:170nm)3.0mgを乾式混合して、前記2種類の熱伝導性フィラーの表面に真球状シリカナノ粒子を吸着させた。表面に真球状シリカナノ粒子が吸着した前記2種類の熱伝導性フィラーと前記アルミナ含有グリース(MOMENTIVE社製「SilCool TIG400BX」、アルミナフィラーの平均粒子径:7.3μm、アルミナフィラー含有量:87.8vol%)198mg及びシリコーンオイル(東レ・ダウコーニング株式会社製「SRX310」)253mgを混合し、得られた混合物を実施例1と同様に撹拌してグリース組成物(熱伝導性フィラーA:22.4vol%、熱伝導性フィラーB:5.6vol%、銀フィラー:12vol%)を得た。
【0093】
<グリース組成物の熱抵抗>
実施例及び比較例で得られたグリース組成物(約4μl)を、直径14mm、厚さ1mmのセラミック板で挟持して積層板を作製し、この積層板に3MPaの圧力を印加した状態でキセノンフラッシュアナライザー(NETZSCH社製「LFA447 NanoFlash」)を用いて前記積層板の熱拡散率を測定した。また、マイクロメーターを用いて前記積層板の厚さを測定した。得られた前記積層板の熱拡散率及び厚さ、前記セラミック板の熱拡散率、密度、比熱、厚さ、並びにグリース組成物の密度、比熱を用いてグリース組成物の熱抵抗率を算出した。また、添加粒子(酸化亜鉛粒子、銀フィラー又はアルミナフィラー)のみを含有するグリース組成物(比較例1、3、5)に対する各グリース組成物の熱抵抗比を求めた。これらの結果を表2に示す。
【0094】
【0095】
表2に示したように、AlN粒子とBN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーと酸化亜鉛粒子とを含有するグリース組成物(実施例1~3)は、酸化亜鉛粒子のみ(比較例1)又は前記熱伝導性フィラーのみ(比較例2)を含有するグリース組成物に比べて、熱抵抗が小さく、熱伝導性に優れていることがわかった。
【0096】
一方、前記熱伝導性フィラーと銀フィラーとを含有するグリース組成物(比較例4)は、銀フィラーのみ(比較例3)又は前記熱伝導性フィラーのみ(比較例2)を含有するグリース組成物に比べて、熱抵抗が大きく、熱伝導性に劣ることがわかった。
【0097】
また、前記熱伝導性フィラーとアルミナフィラーとを含有するグリース組成物(比較例6)は、アルミナフィラー(比較例5)又は前記熱伝導性フィラーのみ(比較例2)を含有するグリース組成物に比べて、熱抵抗が極めて大きく、熱伝導性に更に劣ることがわかった。
【0098】
以上の結果から、AlN粒子とBN粒子とが多孔性BNを介して結合した複合粒子(AlN/BN複合粒子)を含有する熱伝導性フィラーを含有するグリース組成物において、熱伝導性を向上させるためには、酸化亜鉛粒子を配合することが有効であることがわかった。
【産業上の利用可能性】
【0099】
以上説明したように、本発明によれば、熱伝導性に優れたグリース組成物を得ることが可能となる。したがって、本発明のグリース組成物は、熱伝導性に優れるため、例えば、自動車、電子素子、各種電気製品等に用いられる熱伝導性グリース組成物として有用である。