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特許7435322超音波探傷装置、超音波探傷方法、および、プログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】超音波探傷装置、超音波探傷方法、および、プログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 29/07 20060101AFI20240214BHJP
   G01N 29/26 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
G01N29/07
G01N29/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020115544
(22)【出願日】2020-07-03
(65)【公開番号】P2022013166
(43)【公開日】2022-01-18
【審査請求日】2022-12-23
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001900
【氏名又は名称】弁理士法人 ナカジマ知的財産綜合事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 泰仁
【審査官】小澤 瞬
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-109107(JP,A)
【文献】特開2019-211215(JP,A)
【文献】特開2012-127812(JP,A)
【文献】特開2011-247676(JP,A)
【文献】再公表特許第2014/007023(JP,A1)
【文献】特開2008-298454(JP,A)
【文献】特開2017-049215(JP,A)
【文献】特開2018-044876(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 29/00 - G01N 29/52
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造品又はキャスト成形品を含む被検査体を液体内に浸漬して被検査体の探傷を行う超音波探傷装置であって、
複数の振動子を備え、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在する状態で保持されていて、超音波ビームの向きが調整可能な超音波探触子と、
超音波ビームの方向が被検査体の表面の法線方向から所定の角度をなすよう超音波探触子が保持されている状態で前記超音波探触子に超音波ビームを送信させ、前記被検査体から反射された反射超音波を前記超音波探触子に受信させる送受信部と、
前記反射超音波に基づいて前記送受信部が生成した受信信号に基づいて超音波画像を生成して、探傷を含む画像処理を行う超音波信号処理部とを備え、
前記反射超音波に基づいて生成される受信信号のS/N比が4以上になる場合に、超音波ビームが被検査体の表面の鉛直方向に対して所定の角度をなすとする
超音波探傷装置。
【請求項2】
前記所定の角度は、5度以上9度以下の角度である
請求項1に記載の超音波探傷装置。
【請求項3】
前記超音波信号処理部は、前記超音波探触子からの相対位置として前記被検査体内に走査範囲を設定し、前記超音波ビームの伝搬時間である送信時間と前記反射超音波の伝搬時間である受信時間とに基づいて、前記超音波画像における傷の位置を決める
請求項1からのいずれか1項に記載の超音波探傷装置。
【請求項4】
前記超音波画像のうち、液体の像については第1の縮尺とし、被検査体の像については第2の縮尺とし、第1の縮尺は、前記所定の角度に基づき、第2の縮尺は超音波ビームが前記所定の角度で被検査体に入射して、被検査体内で出射する際の出射角に基づく
請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項5】
前記第1の縮尺は所定の角度θsのcos値、前記第2の縮尺は出射角θtのcos値であり、前記出射角θtは、前記所定の角度θs、前記液体と前記被検査体とのそれぞれの屈折率に応じて定める
請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項6】
前記走査範囲は前記出射角θtに基づき設定される
請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項7】
前記超音波信号処理部は、前記被検査体のうち、前記被検査体の表面からの距離が遠い部分を対象として第2の走査範囲を設定し、
前記送受信部は、前記第2の走査範囲に対して超音波ビームを送信するとき、前記走査範囲に対して超音波ビームを送信するよりも更に前記被検査体の表面の法線方向に対する超音波探触子の傾きを小さくして、超音波ビームを送信させる
請求項4から6のいずれか1項に記載の超音波探傷装置。
【請求項8】
前記超音波探触子の送信面において前記振動子が並ぶ向きと直交する方向が前記被検査体の表面に対して前記所定の角度をなすように、前記超音波探触子を保持する
請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項9】
前記超音波探触子は、行列状に振動子を備え、前記振動子の並ぶ向きのうち、振動子の並ぶ数が少ない方向が前記被検査体の表面に対して前記所定の角度をなすように、前記超音波探触子は超音波ビームを送信する
請求項に記載の超音波探傷装置。
【請求項10】
鋳造品又はキャスト成形品を含む被検査体を液体内に浸漬して被検査体の探傷を行う超音波探傷方法であって、
複数の振動子を備える超音波探触子を、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在していて、超音波ビームの向きが調整可能な状態で保持し、
超音波ビームの方向が被検査体の表面の法線方向から所定の角度をなすよう超音波探触子が保持されている状態で前記超音波探触子に超音波ビームを送信させ、前記被検査体から反射された反射超音波を前記超音波探触子に受信させ、
前記反射超音波に基づいて受信信号を生成し、前記受信信号に基づいて超音波画像を生成し、
前記反射超音波に基づいて生成される受信信号のS/N比が4以上になる場合に、超音波ビームが被検査体の表面の鉛直方向に対して所定の角度をなすとする超音波探傷方法。
【請求項11】
鋳造品又はキャスト成形品を含む被検査体を液体内に浸漬して被検査体の探傷をコンピュータに行わせるプログラムであって、
複数の振動子を備える超音波探触子が、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在していて、超音波ビームの向きが調整可能な状態で保持し、
前記探傷は、
超音波ビームの方向が被検査体の表面の法線方向から所定の角度をなすよう超音波探触子が保持されている状態で前記超音波探触子に超音波ビームを送信させ、前記被検査体から反射された反射超音波を前記超音波探触子に受信させ
前記反射超音波に基づいて受信信号を生成し、前記受信信号に基づいて超音波画像を生成して、探傷を含む画像処理を行うようコンピューターに指示することでなされ、
前記反射超音波に基づいて生成される受信信号のS/N比が4以上になる場合に、超音波ビームが被検査体の表面の鉛直方向に対して所定の角度をなすとするプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、超音波探傷装置、及び、超音波探傷方法に関し、特に、反射超音波の処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
超音波探傷方法は、構造物の非破壊検査として用いられている。特に、溶接された構造物の溶接部周辺の欠陥、一体成形された構造物の表面や内部の欠陥を検出する目的において、放射線透過試験と比較して、遮蔽などの大掛かりな付帯装置が不要であるため、広く利用されている。
【0003】
形状の定まった被検査体に対して検査を行う場合、被検査体に密着する形状の超音波探触子(プローブ)を用いる(例えば、特許文献1-3参照)。これらの超音波探触子は、送信用の振動子と受信用の振動子とを個別に備え、被検査体の構造に適した超音波の送受信が可能となっている。一方、これらの超音波探触子は、複雑な形状をした被検査体、例えば、形状の異なる部材を溶接したもの、CFRP(Carbon Fiber Reinforced Plastics)等の複合材や軽金属をキャスト法(鋳造法)で一体成形したもの、等に対して直接密着させることができないため、これらの検査には適さない。したがって、このような被検査体を検査する場合には、水などの液体内に被検査体を浸漬し、複数の振動子を備える超音波探触子を液体内に配置することで、液体を介して超音波を送受信する手法が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2014-232044号公報
【文献】特開2013-88240号公報
【文献】特開2001-249116号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液体中に被検査体を浸漬する手法において、被検査体の表面と超音波探触子からの超音波ビームの照射方向との関係によっては、受信信号の品質が十分に向上しない。特に、被検査体の表面に対して直交する向きに超音波ビームの照射を行うと、受信信号の品質が十分でない場合がある。
【0006】
本開示の態様は、上記課題に鑑み、液体中に被検査体を浸漬する手法において、受信信号の品質を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、鋳造品又はキャスト成形品を含む被検査体を液体内に浸漬して被検査体の探傷を行う超音波探傷装置であって、複数の振動子を備え、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在する状態で保持されていて、超音波ビームの向きが調整可能な超音波探触子と、超音波ビームの方向が被検査体の表面の法線方向から所定の角度をなすよう超音波探触子が保持されている状態で超音波ビームを送信し、前記被検査体から反射された反射超音波を受信する送受信部と、前記反射超音波に基づいて前記送受信部が生成した受信信号に基づいて超音波画像を生成して、探傷を含む画像処理を行う超音波信号処理部とを備え、
前記反射超音波に基づいて生成される受信信号のS/N比が4以上になる場合に、超音波ビームが被検査体の表面の鉛直方向に対して所定の角度をなすとする。
【発明の効果】
【0008】
本開示の一態様に係る超音波探傷装置、超音波探傷方法、および、プログラムによれば、振動子の並ぶ方向が被検査体の表面と平行な状態の超音波探触子から、超音波ビームが被検査体の表面と直交しないように超音波の送受信が行われる。したがって、超音波の多重反射や被検査体の表面波が受信信号の品質を劣化することを抑止することができ、受信信号の品質を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施の形態に係る超音波探傷システム1000の構成を示す機能ブロック図である。
図2】実施の形態に係るプローブ101の使用状態を示す模式図である。
図3】実施の形態および比較例に係るプローブ101と被検査体300との相対位置関係を示す模式図である。
図4】実施の形態および比較例に係るプローブ101と被検査体300との間の超音波多重反射について説明する模式図である。
図5】実施の形態および比較例に係る被検査体300の表面波と超音波ビーム進行方向との関係を示す模式図である。
図6】実施の形態に係る送信ビームフォーミングの概要を示す模式図である。
図7】実施の形態に係る受信ビームフォーマ部104の構成を示す機能ブロック図である。
図8】実施の形態に係る整相加算部1041の構成を示す機能ブロック図である。
図9】実施の形態に係る受信ビームフォーマ部104の音響線信号生成動作を示すフローチャートである。
図10】被検査体300表面法線に対するプローブ101の短軸方向の傾きと受信信号のS/N比との関係を示すグラフである。
図11】実施の形態及び比較例に係る超音波画像の例である。
図12】変形例1に係る超音波ビームの伝搬経路を示す模式図と、超音波画像の例である。
図13】比較例2に係る超音波ビームの伝搬経路を示す模式図と、超音波画像の例である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
≪発明を実施するための形態に至った経緯≫
発明者は、液体中に被検査体を浸漬する手法において複数の振動子を有する超音波探触子を用いる場合に、受信信号の品質を向上させるために各種の検討を行った。
【0011】
受信信号の品質を向上させる手法としては、超音波の総伝搬距離を短縮することと、反射超音波の信号強度が高い場所に受信振動子を設置することが挙げられる。液体中に被検査体を浸漬する手法において、超音波の総伝搬距離を短縮するためには、超音波探触子の振動子表面と被検査体の表面とを近接させることが好ましい。また、送受信兼用の振動子列を有する超音波探触子を用いて反射超音波の信号強度が高い場所に受信振動子を設置するためには、被検査体の表面に対して直交する方向に超音波ビームを送信して反射超音波を受信することが好ましい。しかしながら、発明者は、当該構成では、ノイズ成分が強いため、却ってS/N比が低下する課題を見出した。
【0012】
図4は、振動子が一方向に列設された超音波探触子において、超音波探触子の短軸と被検査体の表面との関係と、被検査体の表面における超音波ビームの反射の状態を示した概略図である。なお、超音波探触子の長軸方向とは、超音波探触子の振動子表面において超音波振動子の並ぶ方向、短軸方向とは、超音波探触子の振動子表面において長軸方向と直交する方向を指す。図4(b)は、超音波探触子の振動子表面(xy平面)と被検査体の表面(XY平面)とを平行に対向させ、双方に直交する方向(z方向、Z方向)に超音波を送信した状態を示している。このとき、被検査体と液体との界面は超音波ビームの進行方向に直交しているため、被検査体の表面からの反射超音波は主として超音波ビームの進行方向の逆向きに伝搬する。したがって、被検査体の表面からの反射超音波の信号強度が大きくなる。一方、超音波探触子の振動子表面と液体との間にも屈折率の差が存在するため、超音波探触子の振動子表面において、超音波の反射が発生する。このとき、振動子表面と反射超音波の進行方向が直交しているため、振動子表面からの反射波は振動子表面と直交する方向、すなわち、当初の超音波ビームの進行方向(z方向、Z方向)に主として進行する。さらに、同様の反射が被検査体の表面についても起きるため、超音波探触子の振動子表面と被検査体の表面との間を超音波が何度も反射しながら往復する「多重反射」が発生する。そのため、超音波画像において、被検査体の内部に、被検査体の表面の虚像(アーチファクト)が発生する。
【0013】
また、図5は、振動子が一方向に列設された超音波探触子において、超音波探触子の短軸と被検査体の表面との関係と、被検査体の表面における表面波の状態を示した概略図である。図5(b)は、超音波探触子の振動子表面と被検査体の表面とを平行に対向させ、双方に直交する方向に超音波を送信した状態を示している。被検査体と液体との界面では、界面に直交する向きに振動し、界面に沿った方向に伝搬する表面波(せん断波)が発生しやすい。したがって、被検査体の表面に対して直交する方向に伝搬する粗密波である超音波ビームを照射すると、表面波の振動方向と超音波ビームの振動方向とが一致するため、超音波ビームにより表面波が励起されやすい。さらに、被検査体の表面に対して直交する方向に超音波ビームを照射すると、反射超音波の進行方向および振動方向と表面波の振動方向とも一致するため、反射超音波に表面波に起因するノイズが混入しやすくなり、ノイズ音量が大きくなってS/N比の低下が発生する。
【0014】
そこで、発明者は、上述の課題を解決する方法について模索し、受信信号の品質を向上させる方法について検討し、本開示の態様に至ったものである。
【0015】
以下、実施の形態に係る超音波探傷方法およびそれを用いた超音波探傷装置について図面を用いて詳細に説明する。
【0016】
≪実施の形態≫
以下、実施の形態に係る超音波探傷装置100について、図面を参照しながら説明する。
【0017】
図1は、実施の形態に係る超音波探傷システム1000の機能ブロック図である。図1に示すように、超音波探傷システム1000は、被検査体に向けて超音波を送信しその反射を受信する複数の振動子101aを有するプローブ101、プローブ101に超音波の送受信を行わせプローブ101からの出力信号に基づき超音波画像を生成する超音波探傷装置100、超音波画像を画面上に表示する表示部106を有する。プローブ101、表示部106は、それぞれ、超音波探傷装置100に各々接続可能に構成されている。図1は超音波探傷装置100に、プローブ101、表示部106が接続された状態を示している。なお、プローブ101と、表示部106とは、超音波探傷装置100の内部にあってもよい。
【0018】
図2は、超音波探傷システム1000と被検査体300との関係を示す模式図である。被検査体300は、液体310が満たされた機密性容器(水槽)210に、全体が液体310に浸漬された状態に配される。被検査体300は、例えば、チタンやアルミニウムの鋳造品、CFRPのキャスト成形品等であるが、これに限られない。液体310は、例えば、水であるが、被検査体300、プローブ101を浸食するものでなければ、これに限られない。プローブ101は、保持部材211によって、少なくとも振動子面の全体が液体310に浸漬された状態に保持される。保持部材211は、少なくとも、プローブ101の短軸方向においてプローブ101の向きを調整可能かつ所望の向きにプローブ101を保持可能な機能を有する。
【0019】
図3は、プローブ101と被検査体300との関係を示す模式断面図であり、図3(a)に示すように、プローブ101の長軸方向(振動子の並ぶ向き)dLは、被検査体300の表面と略平行であり、そのなす角θLは、0または0と見なせる程度に小さい。すなわち、プローブ101の表面において長軸方向をx方向、被検査体300の表面における1方向をX方向としたとき、x軸とX軸は平行となる。一方、図3(b)に示すように、プローブ101の短軸方向(振動子面において長軸方向と直交する向き)dSは、被検査体300の表面に対して所定の角θSをなす。すなわち、プローブ101の表面において短軸方向をy方向、被検査体300の表面におけるX方向に直交する向きをY方向としたとき、y軸とY軸は所定の角θSをなす。また、プローブ101の表面に直交する方向をx方向、被検査体300の表面に直交する方向をX方向としたとき、z軸とZ軸も所定の角θSをなす。本構成により、図4(a)の模式図に示すように、被検査体300の表面で反射された反射超音波の主成分がプローブ101の振動子101aに直接的に入射しないため、多重反射を抑止することができる。また、図5(a)の模式図に示すように、超音波ビームの伝搬方向(z方向)と表面波の振動方向dsw(Z方向)とが平行とならないため、超音波ビームによる表面波の励起を抑制するとともに、反射超音波における表面波起因のノイズを低減することができる。したがって、所定の角θSは、少なくとも、被検査体300の表面で反射された反射超音波の主成分がプローブ101の振動子101aに直接的に入射しない程度に大きいことが好ましい。一方、角θSが大きくなるほど振動子101aにおける反射超音波の信号強度が低下するため、過度に大きくならないことが好ましい。すなわち、角θSは、反射超音波の信号強度が過少とならない程度に小さく多重反射や表面波に起因する雑音強度が小さくなる程度に大きいことが好ましい。
【0020】
<超音波探傷装置100の構成>
超音波探傷装置100は、プローブ101の複数ある振動子101aのうち、送信又は受信の際に用いる振動子を各々に選択し、選択された振動子に対する入出力を確保するマルチプレクサ部102と、超音波の送信を行うためにプローブ101の各振動子101aに対する高電圧印加のタイミングを制御する送信ビームフォーマ部103と、プローブ101で受信した超音波の反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号を増幅し、A/D変換し、受信ビームフォーミングして音響線信号を生成する受信ビームフォーマ部104を有する。また、受信ビームフォーマ部104からの出力信号に基づいて超音波画像(Bモード断層画像)を生成する超音波画像生成部105、受信ビームフォーマ部104が出力する音響線信号及び超音波画像生成部105が出力する超音波画像を保存するデータ格納部107と、各構成要素を制御する制御部108を備える。
【0021】
このうち、マルチプレクサ部102、送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105は、超音波信号処理装置150を構成する。
【0022】
超音波探傷装置100を構成する各要素、例えば、マルチプレクサ部102、送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105、制御部108は、それぞれ、例えば、FPGA(Field Programmable Gate Array)、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)などのハードウエア回路により実現される。あるいは、プロセッサなどのプログラマブルデバイスとソフトウェアにより実現される構成であってもよい。プロセッサとしてはCPU(Central Processing Unit)やGPU(Graphics Processing Unit)を用いることができ、GPUを用いる構成はGPGPU(General-Purpose computing on Graphics Processing Unit)と呼ばれる。これらの構成要素は一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。また、複数の構成要素を組合せて一個の回路部品とすることができるし、複数の回路部品の集合体にすることもできる。
【0023】
データ格納部107は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体であり、例えば、フレキシブルディスク、ハードディスク、MO、DVD、DVD-RAM、BD、半導体メモリ等を用いることができる。また、データ格納部107は、超音波探傷装置100に外部から接続された記憶装置であってもよい。
【0024】
なお、本実施の形態に係る超音波探傷装置100は、図1で示した構成の超音波探傷装置に限定されない。例えば、マルチプレクサ部102がなく、送信ビームフォーマ部103と受信ビームフォーマ部104とが直接、プローブ101の各振動子101aに接続されていてもよい。また、プローブ101に送信ビームフォーマ部103や受信ビームフォーマ部104、またその一部などが内蔵される構成であってもよい。これは、本実施の形態に係る超音波探傷装置100に限られず、後に説明する変形例に係る超音波探傷装置でも同様である。
【0025】
<超音波探傷装置100の細部構成>
以下、超音波探傷装置100の主要部分である送信ビームフォーマ部103、受信ビームフォーマ部104、超音波画像生成部105について、より詳細に説明する。
【0026】
1.送信ビームフォーマ部103
送信ビームフォーマ部103は、マルチプレクサ部102を介してプローブ101と接続され、プローブ101から超音波の送信を行うためにプローブ101に存する複数の振動子101aの全てもしくは一部に当たる送信振動子列からなる送信開口Txに含まれる複数の振動子の各々に対する高電圧印加のタイミングを制御する。送信ビームフォーマ部103は送信部1031から構成される。
【0027】
送信部1031は、制御部108からの送信制御信号に基づき、プローブ101に存する複数の振動子101a中、送信開口Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるためのパルス状の送信信号を供給する送信処理を行う。具体的には、送信部1031は、例えば、クロック発生回路、パルス発生回路、遅延回路を備えている。クロック発生回路は、超音波ビームの送信タイミングを決定するクロック信号を発生させる回路である。パルス発生回路は、各振動子を駆動するパルス信号を発生させるための回路である。遅延回路は、超音波ビームの送信タイミングを振動子毎に遅延時間を設定し、遅延時間だけ超音波ビームの送信を遅延させることで所望の形状の波面を形成することにより超音波ビームの送信ビームフォーミングを行うための回路である。送信開口Txを構成する振動子の数としては、例えば、プローブ101に存する振動子101a全数を192としたとき、20~100を選択することができる。
【0028】
送信ビームフォーマ部103において、送信開口Txの中心に位置する振動子ほど送信タイミングを遅らせるように各振動子の送信タイミングを制御する。これにより、例えば、図6(a)の模式図に示すように、送信開口Tx内の振動子列から送信された超音波送信波は、液体内または被検査体のある深度(Focal depth)において、波面がある一点、すなわち送信フォーカス点F(Focal point)で、フォーカスがあう(集束する)状態となる。送信フォーカス点Fの深さ(Focal depth)は、任意に設定することができる。送信フォーカス点Fで合焦した波面は、再び拡散し、送信開口Txを底とし送信フォーカス点Fを節とする交差する2つの直線で区切られた砂時計型の空間内を超音波送信波が伝搬する。すなわち、送信開口Txで放射された超音波は、次第にその空間上での幅(x方向)を小さくし、送信フォーカス点Fでその幅を最小化し、それよりも深部(z方向)に進行するにしたがって、再び、その幅を大きくしながら拡散し、伝搬することとなる。この砂時計型の領域が超音波主照射領域である。
【0029】
または、例えば、送信ビームフォーマ部103において、送信開口Tx内の全ての振動子の送信タイミングを一致させるように各振動子の送信タイミングを制御してもよい。または、例えば、送信ビームフォーマ部103において、隣接する振動子の送信タイミングの差が一定となるように各振動子の送信タイミングを制御してもよい。これにより、例えば、図6(b)の模式図に示すように、送信開口Tx内の振動子から送信された超音波送信波は、波面がx方向に対して一定の傾斜角(0であってもよい)を持つ直線である平面波となる。そのため、超音波主照射領域は、送信開口Txを一つの辺とする長方形または平行四辺形の領域となる。
【0030】
2.受信ビームフォーマ部104の構成
受信ビームフォーマ部104は、プローブ101で受信した超音波の反射波に基づき、複数の振動子101aで得られた電気信号から音響線信号を生成する。なお、「音響線信号」とは、ある観測点に対する、整相加算処理がされた後の信号である。整相加算処理については後述する。図7は、受信ビームフォーマ部104の構成を示す機能ブロック図である。図7に示すように、受信ビームフォーマ部104は、受信部1040と整相加算部1041とを備える。
【0031】
以下、受信ビームフォーマ部104を構成する各部の構成について説明する。
【0032】
(1)受信部1040
受信部1040は、マルチプレクサ部102を介してプローブ101と接続され、送信イベントに同期してプローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号を増幅した後AD変換した受信信号(RF信号)を生成する回路である。送信イベントの順に時系列に受信信号を生成しデータ格納部107に出力し、データ格納部107に受信信号を保存する。
【0033】
ここで、受信信号(RF信号)とは、各振動子にて受信された反射超音波から変換された電気信号をA/D変換したデジタル信号であり、各振動子にて受信された超音波の送信方向(被検査体の深さ方向)に連なった信号の列を形成している。
【0034】
上述のとおり、送信部1031は、プローブ101に存する複数の振動子101a中、送信開口Txに含まれる複数の振動子の各々に超音波ビームを送信させる。これに対し、受信部1040は、超音波ビームの送信に同期してプローブ101に存する複数の振動子101aの一部又は全部にあたる振動子の各々が得た反射超音波に基づいて、各振動子に対する受信信号の列を生成する。ここで、反射超音波を受波する振動子を「受波振動子」と称呼する。受波振動子の数は、送信開口Txに含まれる振動子の数よりも多いことが好ましい。また、受波振動子の数はプローブ101に存する振動子101aの全数としてもよい。
【0035】
(2)整相加算部1041
整相加算部1041は、超音波ビームの送信に同期して、被検査体中においてサブフレーム音響線信号の生成を行う複数の観測点Pijを設定する。次に、観測点Pijのそれぞれについて、観測点から各受信振動子Rkが受信した受信信号列を整相加算する。そして、各観測点における音響線信号を生成する回路である。図8は、整相加算部1041の構成を示す機能ブロック図である。図8に示すように、整相加算部1041は、観測点設定部1042、受信開口設定部1043、送信時間算出部1044、受信時間算出部1045、遅延量算出部1046、遅延処理部1047、重み算出部1048、及び加算部1049を備える。
【0036】
以下、整相加算部1041を構成する各部の構成について説明する。
【0037】
i)観測点設定部1042
観測点設定部1042は、被検査体中において音響線信号の生成を行う対象である複数の観測点Pijを設定する。観測点Pijは、音響線信号の生成が行われる観測対象点として、超音波ビームの送信に同期して計算の便宜上設定される。
【0038】
ここで、「音響線信号群」とは、超音波ビームの送信に同期して設定される全ての観測点Pijに対する音響線信号の集合である。すなわち、音響線信号群は、1回の超音波ビームの送信とそれに伴う受信処理により得られる、観測点Pijに対応するまとまった信号を形成する単位をさす。なお、超音波探傷装置100の1フレーム分の音響線信号は、1の音響線信号群からなってもよいし、複数の音響線信号群からなってもよい。
【0039】
観測点設定部1042は、超音波ビームの送信に同期して、送信ビームフォーマ部103から取得する送信開口Txの位置を示す情報に基づき複数の観測点Pijを設定する。例えば、観測点設定部1042は、超音波ビームとして集束波を送信する場合には、送信中心軸(送信開口Txの中央とフォーカス点Fとを結ぶ直線)上、または、その近傍に観測点Pijを設定する。より具体的には、中心軸、および/または、中心軸の近傍かつ中心軸と平行な直線上に、複数の観測点Pijを設定する。または、例えば、観測点設定部1042は、超音波ビームとして平面波を送信する場合には、超音波主照射領域内に、空間密度が一定となるように等間隔に複数の観測点Pijを設定する。
【0040】
設定された観測点Pijは送信時間算出部1044、受信時間算出部1045、遅延処理部1047に出力される。
【0041】
ii)受信開口設定部1043
受信開口設定部1043は、制御部108からの制御信号と、送信ビームフォーマ部103からの送信開口Txの位置を示す情報とに基づき、プローブ101に存する複数の振動子の一部または全部の振動子列(受信振動子列)を受信振動子として設定して受信開口Rxを設定する回路である。
【0042】
受信開口Rxは、例えば、列中心が観測点Pijに最も空間的に近接する振動子と合致するように選択することができる(観測点同期型)。この場合、観測点Pijごとに受信開口Rxが設定される。または、例えば、送信開口Txの列中心と受信開口Rxの列中心とが一致するように受信開口Rxを設定してもよい(送信開口同期型)。この場合、超音波ビームの送信に同期して、受信開口Rxが設定される。
【0043】
いずれの場合においても、超音波主照射領域全体からの反射波を受信するために、受信開口Rxに含まれる振動子の数は、対応する送信イベントにおける送信開口Txに含まれる振動子の数以上に設定することが好ましい。受信開口Rxを構成する振動子列の数は、例えば32、64、96、128、192等としてもよい。
【0044】
選択された受信開口Rxの位置を示す情報は制御部108を介してデータ格納部107に出力される。
【0045】
データ格納部107は、受信開口Rxの位置を示す情報と受信振動子に対応する受信信号とを、送信時間算出部1044、受信時間算出部1045、遅延処理部1047、重み算出部1048に出力する。
【0046】
iii)送信時間算出部1044
送信時間算出部1044は、送信された超音波が被検査体中の観測点Pijのそれぞれに到達する送信時間を算出する回路である。送信時間算出部1044は、データ格納部107から取得した送信開口Txに含まれる振動子の位置を示す情報と、観測点設定部1042から取得した観測点Pijの位置を示す情報とに基づき、各観測点Pijについて、送信された超音波が被検査体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出する。送信時間算出部1044は、例えば、幾何学的に算出される送信開口Txと観測点Pijとの距離に基づき、送信時間を算出する。
【0047】
送信時間算出部1044は、超音波ビームの送信に同期して、全ての観測点Pijについて、送信された超音波が被検査体中の観測点Pijに到達する送信時間を算出して遅延量算出部1046に出力する。
【0048】
iv)受信時間算出部1045
受信時間算出部1045は、観測点Pijからの反射波が、受信開口Rxに含まれる受信振動子Rkの各々に到達する受信時間を算出する回路である。受信時間算出部1045は、超音波ビームの送信に同期して、データ格納部107から取得した受信振動子Rkの位置を示す情報と、観測点設定部1042から取得した観測点Pijの位置を示す情報に基づき、送信された超音波が被検査体中の観測点Pijで反射され受信開口Rxの各受信振動子Rkに到達する受信時間を算出する。受信時間算出部1045は、例えば、幾何学的に算出される観測点Pijと受信振動子Rkとの距離に基づき、受信時間を算出する。
【0049】
受信時間算出部1045は、超音波ビームの送信に同期して、全ての観測点Pijについて、送信された超音波が観測点Pijで反射して各受信振動子Rkに到達する受信時間を算出して遅延量算出部1046に出力する。
【0050】
v)遅延量算出部1046
遅延量算出部1046は、送信時間と受信時間とから受信開口Rx内の各受信振動子Riへの総伝播時間を算出し、当該総伝播時間に基づいて、各受信振動子Rkに対する受信信号の列に適用する遅延量を算出する回路である。遅延量算出部1046は、送信時間算出部1044から送信された超音波が観測点Pijに到達する送信時間と、観測点Pijで反射して各受信振動子Rkに到達する受信時間を取得する。そして、送信された超音波が各受信振動子Rkへ到達するまでの総伝播時間を算出し、各受信振動子Rkに対する総伝播時間の差異により、各受信振動子Rkに対する遅延量を算出する。遅延量算出部1046は、全ての観測点Pijについて、各受信振動子Rkに対する受信信号の列に適用する遅延量を算出して遅延処理部1047に出力する。
【0051】
vi)遅延処理部1047
遅延処理部1047は、受信開口Rx内の受信振動子Rkに対する受信信号の列から、各受信振動子Rkに対する遅延量に相当する受信信号を、観測点Pijからの反射超音波に基づく各受信振動子Rkに対応する受信信号として同定する回路である。
【0052】
遅延処理部1047は、超音波ビームの送信に同期して、受信開口設定部1043から受信振動子Rkの位置を示す情報、データ格納部107から受信振動子Rkに対応する受信信号、観測点設定部1042から取得した観測点Pijの位置を示す情報、遅延量算出部1046から各受信振動子Rkに対する受信信号の列に適用する遅延量を入力として取得する。そして、各受信振動子Rkに対応する受信信号の列から、各受信振動子Rkに対する遅延量を差引いた時間に対応する受信信号を観測点Pijからの反射波に基づく受信信号として同定し、加算部1049に出力する。
【0053】
vii)重み算出部1048
重み算出部1048は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受信振動子Rkに対する重み数列(受信アポダイゼーション)を算出する回路である。重み数列は受信開口Rx内の各振動子に対応する受信信号に適用される重み係数の数列である。重み数列は、送信フォーカス点Fを中心として対称な分布をなす。重み数列の分布の形状は、ハミング窓、ハニング窓、矩形窓などを用いることができ、分布の形状は特に限定されない。重み数列は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるように設定され、重みの分布の中心軸は、受信開口中心軸Rxoと一致する。重み算出部1048は、受信開口設定部1043から出力される受信振動子Rkの位置を示す情報を入力として、各受信振動子Rkに対する重み数列を算出し加算部1049に出力する。
【0054】
viii)加算部1049
加算部1049は、遅延処理部1047から出力される各受信振動子Rkに対応して同定された受信信号を入力として、それらを加算して、観測点Pijに対する整相加算された音響線信号を生成する回路である。あるいは、さらに、重み算出部1048から出力される各受信振動子Rkに対する重み数列を入力として、各受信振動子Rkに対応して同定された受信信号に、各受信振動子Rkに対する重みを乗じて加算して、観測点Pijに対する音響線信号を生成する構成としてもよい。遅延処理部1047において受信開口Rx内に位置する各受信振動子Rkが検出した受信信号の位相を整えて加算部1049にて加算処理をすることにより、観測点Pijからの反射波に基づいて各受信振動子Rkで受信した受信信号を重ね合わせてその信号S/N比を増加し、観測点Pijからの受信信号を抽出することができる。
【0055】
1回の超音波ビームの送信とそれに伴う処理から、全ての観測点Pijについて音響線信号を生成することができる。
【0056】
3.超音波画像生成部105の構成
超音波画像生成部105は、1フレーム分の音響線信号を取得し、直交座標系への座標変換と、輝度値への変換とを行い、超音波画像(Bモード断層画像)に変換する。直交座標系への座標変換は、例えば、観測点Pijの位置を示す情報を、xz座標またはXZ座標に変換することで行われる。また、輝度値への変換は、音響線信号に対して包絡線検波を行って送信超音波の周波数成分を除去し、対数圧縮を行って超音波画像のコントラストを向上することで行われる。上記処理により、1フレーム分の音響線信号に基づいて、1フレームの超音波画像を生成する。
【0057】
<動作>
以上の構成からなる超音波探傷装置100の動作について説明する。
【0058】
図9は、受信ビームフォーマ部104のビームフォーミング処理動作を示すフローチャートである。
【0059】
先ず、ステップS1において、観測点設定部1042は、送信部1031から送信開口Txの位置を示す情報を取得し、複数の観測点Pijを設定する。
【0060】
次に、ステップS2において、送信部1031は、プローブ101に存する複数の振動子101a中送信開口Txに含まれる各振動子に超音波ビームを送信させるための送信信号を供給し、被検査体内に超音波ビームを送信させる。
【0061】
次に、ステップS3において、受信部1040は、プローブ101での超音波反射波の受信から得た電気信号に基づき受信信号を生成してデータ格納部107に出力し、データ格納部107に受信信号を保存する。
【0062】
次に、ステップS4において、受信開口設定部1043は、受信開口Rxを設定する。ここでは、受信開口Rxは、送信開口Txの列中心と受信開口Rxの列中心が一致するように選択される。
【0063】
次に、観測点Pijについて音響線信号を生成する。まず、ステップS5、S6において変数i、jを初期化する。
【0064】
次に、ステップS7において、送信時間算出部1044は、観測点Pijについて、送信された超音波が被検査体内の観測点Pijに到達する時間を算出する。送信時間は、送信開口Txから観測点Pijまでの経路長を超音波の音速で除することにより算出される。ここでは、経路長は、送信開口Txから観測点Pijまでの直線距離であるとする。なお、送信開口Txから観測点Pijまでの直線距離は経路長の例示の1つであり、経路長をこれに限定するものではなく、送信ビームフォーミング方法および受信ビームフォーミング方法に適した経路を選択してよい。
【0065】
次に、ステップS8において、受信開口Rx内の受信振動子Rkの位置を示す座標kを受信開口Rx内の最小値に初期化し、ステップS9において、超音波が観測点Pijで反射され受信開口Rxの受信振動子Rkに到達する受信時間を算出する。ここでは、経路長は、観測点Pijから受信振動子Rkまでの直線距離であるとする。なお、観測点Pijから受信振動子Rkまでの直線距離は経路長の例示の1つであり、経路長をこれに限定するものではなく、送信ビームフォーミング方法および受信ビームフォーミング方法に適した経路を選択してよい。
【0066】
次に、ステップS10において、受信開口Rx内に存在する全ての受信振動子Rkについて受信時間を算出したか否かを判定し、完了していない場合はステップS11でkをインクリメントしてステップS9をさらに行い、完了している場合はステップS11に進む。これにより、受信開口Rx内に存在する全ての受信振動子Rkについて受信時間が算出されている。
【0067】
次に、ステップS12において、送信時間と受信時間の和を用いて、観測点Pijからの反射超音波に基づく受信信号を同定する。まず、遅延量算出部1046が、ステップS7で算出した送信時間と、ステップS8~S11で算出した受信振動子Rkごとの受信時間とを用いて、受信振動子Rkごとの総伝搬時間を算出し、受信開口Rx内の各受信振動子Rkに対する総伝播時間の差異により、各受信振動子Rkに対する遅延量を算出する。次に、遅延処理部1047は、受信開口Rx内の受信振動子Rkに対応する受信信号の列から、各受信振動子Rkに対する遅延量を差引いた時間に対応する受信信号を観測点Pijからの反射波に基づく受信信号として同定する。
【0068】
次に、ステップS13において、同定した受信信号を加算してPijの音響線信号を生成する。まず、重み算出部1048は、受信開口Rxの列方向の中心に位置する振動子に対する重みが最大となるよう各受信振動子Rkに対する重み数列を算出する。加算部1049は、各受信振動子Rkに対応して同定された受信信号に、各受信振動子Rkに対する重みを乗じて加算して、観測点Pijに対する音響線信号を生成する。生成された観測点Pijの音響線信号はデータ格納部107に出力され保存される。
【0069】
次に、座標ijをインクリメントしてS7~S13を繰り返すことにより、全ての観測点Pijについて音響線信号が生成される。全ての観測点Pijについて音響線信号の生成を完了したか否かを判定し(ステップS14、S16)、完了していない場合は座標ijをインクリメントして(ステップS15、S17)、観測点Pijについて音響線信号を生成する。全ての観測点Pijについて音響線信号が生成されることで、ステップS2の超音波ビームの送信に対応した音響線信号群の生成が終了する。
【0070】
<効果>
以下、本実施の形態による効果をより詳細に説明する。
【0071】
図10は、プローブ101の短軸方向dSが、被検査体300の表面に対してなす角θSと、被検査体300の表面または内部に設けた観測点Pijに対する音響線信号におけるS/N比の平均値との関係を示すグラフである。上述したように、反射超音波の主成分が振動子101aに直接的に入射する程度に角θSが小さいと、多重反射によってノイズの強度が大きくなる。また、角θSが小さいほど表面波が強く、かつ反射超音波にもたらすノイズが大きくなるので、角θSが小さいほどノイズが大きく、角θSが大きいほどノイズが小さくなる。一方で、角θSが大きいほど反射超音波の受信強度も小さくなるため、角θSが小さいほど信号強度が大きく、角θSが大きいほど信号強度が小さくなる。したがって、少なくとも、多重反射を抑止できる程度に角θSが大きいことが好ましく、また、信号強度が過度に低すぎない程度に角θSが小さいことが好ましい。より具体的には、S/N比が4以上あれば、欠陥等を視認可能かつノイズを欠陥等と誤認しない程度の超音波画像が得られるため、これを実現するためには、角θSは5度以上10度以下が好ましい。例えば、角θSが0度程度においては、図11(b)の超音波画像例に示すように、被検査体300の像400と液体310の像410との境界に、表面波によるアーチファクト403が現れ、S/N比が小さいためボイドの像402が明確ではない。これに対し、角θSが適切であれば、図11(a)の超音波画像例に示すように、被検査体300の像400と液体310の像410との境界に、表面波によるアーチファクトがなく、S/N比が大きいためボイドの像401が明確な超音波画像を取得することができる。したがって、本実施の形態に係る超音波探傷システム1000によれば、欠陥等の像が明確であり、かつ、誤検知の原因となるアーチファクトの少ない、高品質な超音波画像を得ることができる。
【0072】
<まとめ>
以上、説明したように本実施の形態に係る超音波探傷システム1000によれば、超音波の多重反射や表面波に起因するノイズの影響を抑止し、空間分解能とS/N比を向上させた超音波画像を生成することができる。したがって、被検査体内の割れ、ボイドなどの欠陥を高精度に見つけることができる。特に、表面波に起因するノイズを抑止することにより、表面の粗さや陥没の有無などについても評価が可能であり、被検査体の形状に関わらず、被検査体全体を検査することができる。
【0073】
また、超音波探傷システム1000では、プローブ101の短軸方向を被検査体300に対して傾ける。本構成により、超音波の多重反射や表面波に起因するノイズの影響を抑止する一方で、振動子間で被検査体300の表面に対する距離が変化しない。したがって、プローブ101の長軸方向を被検査体300に対して傾ける場合と異なり、被検査体と液体との間で屈折率が大きく異なる場合でも、被検査体と液体との界面に対する送信時間補正、受信時間補正において受信開口の位置に依存しないため、演算量を削減することができる。
【0074】
≪変形例1≫
実施の形態では、被検査体内と液体内とで送信ビームフォーミングおよび受信ビームフォーミングについて、特に制御を変更しないとした。しかしながら、被検査体と液体とで屈折率が異なる場合、超音波の伝搬経路は被検査体と液体との界面においてy方向およびY方向に、スネルの法則に従って屈曲する。したがって、被検査体内において、計算上の観測点の位置と、被検査体内において観測点に相当する位置との間にずれが生じることとなる。
【0075】
そこで、変形例1では、超音波の伝搬方向(Z方向)について、座標変換の際に補正を行う構成とした。
【0076】
図12(a)は、Z方向における補正を説明するための模式図である。図12(a)に示されるように、プローブ101は、プローブ101の振動子面と直交するz方向に超音波ビームを送信する。このとき、被検査体300の表面に直交するZ方向とz方向とは角θSをなす。したがって、z方向に沿って幅Δlの範囲は、Z方向においては、以下の式を満たす幅Δdの範囲に対応する。
Δd=Δl×cosθS …式(A)
一方、超音波ビームは、被検査体300の表面において、その伝搬の向きを変える。超音波に対する液体の屈折率をn1、被検査体300の屈折率をn2としたとき、超音波ビームは、被検査体300内部において、被検査体300の表面に対して以下の角θtをなす向きに伝搬する。
1/n2=sinθS/sinθt
したがって、超音波の伝搬方向に沿って幅Δlの範囲は、Z方向においては、以下の式を満たす幅Δdの範囲に対応する。
Δd=Δl×cosθt …式(B)
変形例1では、超音波画像を生成するときの直交座標系への変換において、上述の通り、液体内と被検査体内とで、Z方向の縮尺を変更する。すなわち、図12(b)の超音波画像において、液体310の像401においては、式(A)により座標変換を行い、被検査体300の像310においては、式(B)により座標変換を行う。これにより、超音波画像内において、Z方向に一定の幅を有する範囲は、対応する領域が、液体内であっても、被検査体内であっても、液体内と被検査体内とに跨っていても、Z方向に同じ幅を有する範囲に対応する。したがって、被検査体と液体との間で屈折率の差の大小にかかわらず、超音波画像内においてZ方向の縮尺が一定であるため、被検査体の欠陥等と被検査体の表面との距離を誤認することなく正確に把握することが可能となる。
【0077】
≪変形例2≫
実施の形態及び変形例1では、プローブ101の位置を固定して被検査体300の表面に対する超音波ビームの入射角を一定にする場合について説明した。しかしながら、被検査体300の表面に対して直交する向きに超音波ビームを入射することによる影響の範囲は主として被検査体300の表面近傍に現れ、必ずしも被検査体300の全域に及ばない。一方で、被検査体300において超音波の減衰が大きい場合、プローブ101の短軸方向dSが被検査体300の表面に対してなす角θSが大きいと被検査体300の深部からの反射超音波の信号強度が十分でない場合がある。
【0078】
そこで、変形例2では、被検査体300内の観測点について、被検査体300の表面からの距離に応じて、被検査体300の表面に直交する方向とプローブ101の超音波照射方向とがなす角θSを変更する。より具体的には、図13(a)の模式図に示すように、被検査体300の表面から所定距離内の範囲raについては、被検査体300の表面に直交する方向とプローブ101の超音波照射方向とがなす角θS1を大きく設定し、範囲raより被検査体300の表面から遠い範囲rbについては、被検査体300の表面に直交する方向とプローブ101の超音波照射方向とがなす角θS2を角θS1より小さく設定する。超音波画像を生成する際には、図13(b)の超音波画像に示すように、被検査体300の像について、範囲raについては、角θS1で超音波ビームを送信した際の超音波伝搬パス301に沿って像401を生成し、範囲rbについては、角θS2で超音波ビームを送信した際の超音波伝搬パス302に沿って像402を生成する。本構成によれば、範囲raについては、表面波の励起と、反射超音波に対する表面波の影響とをいずれも抑止し、S/N比の低下を抑止することができる。その一方で、範囲rbについては、反射超音波の主たる伝搬経路にプローブ101を近づけて反射超音波の信号強度を向上させ、S/N比の低下を抑止する。したがって、被検査体300内の観測点について、観測点が被検査体300の表面に近いか遠いかに関わらず、受信信号のS/N比を向上させることができる。
【0079】
≪実施の形態に係るその他の変形例≫
(1)実施の形態及び各変形例では、プローブ101を保持部材211によって所定の方向に保持する場合について説明した。しかしながら、例えば、保持部材211は、プローブ101の短軸方向にプローブ101を回転可能な構成となっていてもよい。本構成により、被検査体300の大きさや形状に合わせてプローブ101の向きを調整可能である。また、例えば、保持部材211は、プローブ101の短軸方向にプローブ101の向きや位置を調整できる機構を有していてもよく、超音波探傷装置100から制御可能であってもよい。
【0080】
また、プローブ101は、2次元的に振動子を有するマトリックス型プローブであってもよい。この場合、振動子列の短軸側について、振動子間で送信タイミングを変更して超音波ビームの照射方向を変更するステアリング制御を行うことにより、プローブ101を短軸方向に回転した場合と同様の制御を行うことができる。
【0081】
(2)実施の形態および各変形例では、送信ビームフォーミングおよび受信ビームフォーミングにおいて被検査体と液体との屈折率差を考慮していないが、変形例1におけるプローブ101の短軸方向における補正と同様、プローブ101の長軸方向における補正を行ってもよい。なお、プローブ101の振動子面の長軸方向と、被検査体の表面とが平行である場合においては、送信時間の補正値は振動子の位置と送信開口中心との相対位置関係のみに依存するため、送信開口の位置が変わっても振動子の位置と送信開口中心との相対位置関係が同じであれば、同じ補正値を用いることができる。同様に、受信時間の補正値は振動子の位置と観測点Pijの位置との相対位置関係のみに依存するため、観測点Pijの位置が変わっても振動子の位置と観測点Pijの位置との相対位置関係が同じであれば、同じ補正値を用いることができる。
【0082】
(3)実施の形態及び各変形例では、受信ビームフォーミング処理を超音波の送信に同期させて行うとしたが、この場合に限られない。例えば、合成開口法において本開示の態様を適用し、1フレーム分の複数回の超音波送受信が完了してから整相加算を行うとしてもよい。また、受信時間の算出以外の各動作についても、上述の場合に限らず任意の制御を行ってよい。
【0083】
(4)なお、本開示の一態様を上記実施の形態に基づいて説明してきたが、本開示の一態様は、上記の実施の形態に限定されず、以下のような場合も本開示の一態様に含まれる。
【0084】
例えば、本開示の一態様は、マイクロプロセッサとメモリを備えたコンピュータシステムであって、上記メモリは、上記コンピュータプログラムを記憶しており、上記マイクロプロセッサは、上記コンピュータプログラムにしたがって動作するとしてもよい。例えば、本発明の超音波信号処理方法のコンピュータプログラムを有しており、このプログラムに従って動作する(又は接続された各部位に動作を指示する)コンピュータシステムであってもよい。
【0085】
また、上記超音波探傷装置の全部、もしくは一部、また超音波信号処理装置の全部又は一部を、マイクロプロセッサ、ROM、RAM等の記録媒体、ハードディスクユニットなどから構成されるコンピュータシステムで構成した場合も本発明に含まれる。上記RAM又はハードディスクユニットには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、各装置はその機能を達成する。
【0086】
また、上記の各装置を構成する構成要素の一部又は全部は、1つのシステムLSI(Large Scale Integration(大規模集積回路))から構成されているとしてもよい。システムLSIは、複数の構成部を1個のチップ上に集積して製造された超多機能LSIであり、具体的には、マイクロプロセッサ、ROM、RAMなどを含んで構成されるコンピュータシステムである。これらは個別に1チップ化されてもよいし、一部又は全てを含むように1チップ化されてもよい。なお、LSIは、集積度の違いにより、IC、システムLSI、スーパーLSI、ウルトラLSIと呼称されることもある。上記RAMには、上記各装置と同様の動作を達成するコンピュータプログラムが記憶されている。上記マイクロプロセッサが、上記コンピュータプログラムにしたがって動作することにより、システムLSIは、その機能を達成する。例えば、本発明のビームフォーミング方法がLSIのプログラムとして格納されており、このLSIがコンピュータ内に挿入され、所定のプログラム(ビームフォーミング方法)を実施する場合も本発明に含まれる。
【0087】
なお、集積回路化の手法はLSIに限るものではなく、専用回路または汎用プロセッサで実現してもよい。LSI製造後に、プログラムすることが可能なFPGA(Field Programmable Gate Array)や、LSI内部の回路セルの接続や設定を再構成可能なリコンフィギュラブル・プロセッサー(Reconfigurable Processor)を利用してもよい。
【0088】
さらには、半導体技術の進歩または派生する別技術によりLSIに置き換わる集積回路化の技術が登場すれば、当然、その技術を用いて機能ブロックの集積化を行ってもよい。
【0089】
また、各実施の形態に係る、超音波探傷装置の機能の一部又は全てを、CPU等のプロセッサがプログラムを実行することにより実現してもよい。上記超音波探傷装置の探傷方法や、ビームフォーミング方法を実施させるプログラムが記録された非一時的なコンピュータ読み取り可能な記録媒体であってもよい。プログラムや信号を記録媒体に記録して移送することにより、プログラムを独立した他のコンピュータシステムにより実施するとしてもよい、また、上記プログラムは、インターネット等の伝送媒体を介して流通させることができるのは言うまでもない。
【0090】
上記実施形態に係る超音波探傷装置では、記憶装置であるデータ格納部を超音波探傷装置内に含む構成としたが、記憶装置はこれに限定されず、半導体メモリ、ハードディスクドライブ、光ディスクドライブ、磁気記憶装置、等が、超音波探傷装置に外部から接続される構成であってもよい。
【0091】
また、ブロック図における機能ブロックの分割は一例であり、複数の機能ブロックを一つの機能ブロックとして実現したり、一つの機能ブロックを複数に分割したり、一部の機能を他の機能ブロックに移してもよい。また、類似する機能を有する複数の機能ブロックの機能を単一のハードウエア又はソフトウェアが並列又は時分割に処理してもよい。
【0092】
また、上記のステップが実行される順序は、本発明を具体的に説明するために例示するためのものであり、上記以外の順序であってもよい。また、上記ステップの一部が、他のステップと同時(並列)に実行されてもよい。
【0093】
また、超音波探傷装置には、プローブ及び表示部が外部から接続される構成としたが、これらは、超音波探傷装置内に一体的に具備されている構成としてもよい。
【0094】
また、上記実施の形態においては、プローブは、複数の圧電素子が一次元方向に配列されたプローブ構成を示した。しかしながら、プローブの構成は、これに限定されるものではなく、例えば、複数の圧電変換素子を二次元方向に配列した二次元配列振動子や、一次元方向に配列された複数の振動子を機械的に揺動させて三次元の断層画像を取得する揺動型プローブを用いてもよく、測定に応じて適宜使い分けることができる。例えば、2次元に配列されたプローブを用いた場合、圧電変換素子に電圧を与えるタイミングや電圧の値を個々に変化させることによって、送信する超音波ビームの照射位置や方向を制御することができる。
【0095】
また、プローブは、送受信部の一部の機能をプローブに含んでいてもよい。例えば、送受信部から出力された送信電気信号を生成するための制御信号に基づき、プローブ内で送信電気信号を生成し、この送信電気信号を超音波に変換する。併せて、受信した反射超音波を受信電気信号に変換し、プローブ内で受信電気信号に基づき受信信号を生成する構成を採ることができる。
【0096】
また、各実施の形態に係る超音波探傷装置、及びその変形例の機能のうち少なくとも一部を組み合わせてもよい。更に上記で用いた数字は、全て本発明を具体的に説明するために例示するものであり、本発明は例示された数字に制限されない。
【0097】
さらに、本実施の形態に対して当業者が思いつく範囲内の変更を施した各種変形例も本発明に含まれる。
【0098】
≪まとめ≫
(1)本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、超音波探触子を用いて液体内の被検査体の傷を判定する超音波探傷装置であって、複数の振動子を備え、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在する状態で保持された超音波探触子と、前記複数の振動子を用いて、前記被検査体の表面の法線方向に対して所定の角度をなす第1の方向に超音波ビームを送信し、前記被検査体から反射された反射超音波を受信する送受信部と、前記反射超音波に基づいて前記送受信部が生成した受信信号に基づいて前記被検査体の傷を特定する超音波信号処理部とを備える。
【0099】
また、本開示の一態様に係る超音波探傷方法は、超音波探触子を用いて液体内の被検査体の傷を判定する超音波探傷方法であって、複数の振動子を備える超音波探触子を、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在する状態で保持し、前記複数の振動子を用いて、前記被検査体の表面の法線方向に対して所定の角度をなす第1の方向に超音波ビームを送信し、前記被検査体から反射された反射超音波を受信し、前記反射超音波に基づいて受信信号を生成し、前記受信信号に基づいて前記被検査体の傷を特定する。
【0100】
また、本開示の一態様に係るプログラムは、超音波探触子を用いて液体内の被検査体の傷を判定する超音波探傷処理をコンピュータに行わせるプログラムであって、複数の振動子を備える超音波探触子が、振動子の並ぶ方向と前記被検査体の表面とが平行となるように、かつ、前記複数の振動子が液体内に存在する状態で保持され、前記超音波探傷処理は、前記複数の振動子を用いて、前記被検査体の表面の法線方向に対して所定の角度をなす第1の方向に超音波ビームを送信し、前記被検査体から反射された反射超音波を受信し、前記反射超音波に基づいて受信信号を生成し、前記受信信号に基づいて前記被検査体の傷を特定する。
【0101】
本開示の一態様に係る超音波探傷装置、超音波探傷方法、および、プログラムによれば、振動子の並ぶ方向が被検査体の表面と平行な状態の超音波探触子から、超音波ビームが被検査体の表面と直交しないように超音波の送受信が行われる。したがって、超音波の多重反射や被検査体の表面波が受信信号の品質を劣化することを抑止することができ、受信信号の品質を向上させることができる。
【0102】
(2)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記受信信号におけるS/N比が4以上となるように前記第1の方向が設定される、としてもよい。
【0103】
上記構成により、ノイズを欠陥等と誤認することなく被検査体の欠陥等を発見するために十分な品質の超音波画像を得ることができる。
【0104】
(3)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記第1の方向は、5度以上9度以下である、としてもよい。
【0105】
上記構成により、被検査体と液体との界面に発生する表面波に起因するノイズや、超音波探触子と被検査体との間の超音波の多重反射に起因するノイズを抑止し、かつ、受信信号の強度が過度に低下しないため、受信信号におけるS/N比を向上させることができる。
【0106】
(4)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記超音波信号処理部は、前記超音波探触子からの相対位置として前記被検査体内に走査範囲を設定し、前記超音波ビームの伝搬時間である送信時間と前記反射超音波の伝搬時間である受信時間とに基づいて、走査範囲内に存在する前記被検査体の傷を特定する、としてもよい。
【0107】
上記構成により、任意の送信ビームフォーミング方法と任意の受信ビームフォーミング方法とを組み合わせて超音波の送受信及び信号処理を行うことができる。
【0108】
(5)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記超音波信号処理部は、前記液体と前記被検査体とのそれぞれの屈折率に基づき、前記走査範囲内の位置と前記被検査体の表面との相対位置関係を算出する、としてもよい。
【0109】
上記構成により、スネルの法則に基づいて被検査体内の位置を正確に取得することができる。
【0110】
(6)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記超音波信号処理部は、前記液体と前記被検査体とのそれぞれの屈折率に基づき、前記被検査体の表面の法線方向に対して第2の方向に前記走査範囲を設定する、としてもよい。
【0111】
上記構成により、スネルの法則に基づいて被検査体内の位置を正確に取得することができる。
【0112】
(7)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記超音波信号処理部は、前記被検査体内に前記走査範囲と異なる第2の走査範囲を設定し、前記送受信部は、前記第2の走査範囲に対して超音波ビームを送信するとき、前記被検査体の表面の法線方向に対して前記所定の角度と異なる第2の所定の角度をなす第3の方向に超音波ビームを送信させる、としてもよい。
【0113】
上記構成により、被検査体内の位置に応じて超音波ビームの傾斜度を変更することができる。
【0114】
(8)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記第2の走査範囲は、前記走査範囲より前記被検査体の表面からの距離が遠く、前記第2の所定の角度は、前記所定の角度より小さい、としてもよい。
【0115】
上記構成により、表面波の影響が大きい被検査体表面付近については超音波ビームの傾斜度を大きくすることで表面波の影響を避け、一方で、表面波の影響が小さい被検査体深部については超音波ビームの傾斜度を小さくすることで受信信号の強度を向上することができる。
【0116】
(9)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記超音波探触子の送信面において前記振動子が並ぶ向きと直交する方向を第4の方向としたとき、前記第4の方向が前記被検査体の表面に対して前記所定の角度となるように、前記保持部は前記超音波探触子を保持する、としてもよい。
【0117】
上記構成により、超音波探触子の短軸方向を傾斜させることで超音波ビームの傾斜度を所望の向きに設定することができる。
【0118】
(10)また、本開示の一態様に係る超音波探傷装置は、前記超音波探触子は、行列状に振動子を備え、前記振動子の並ぶ向きのうち、振動子の並ぶ数が少ない方向を第5の方向としたとき、前記第5の方向が前記被検査体の表面に対して前記所定の角度となるように、前記超音波探触子は超音波ビームを送信する、としてもよい。
【0119】
上記構成により、超音波探触子の短軸方向についてステアリング処理により超音波プローブの向きを変更しなくても超音波ビームの傾斜度を所望の向きに設定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0120】
本開示にかかる超音波探傷装置、超音波探傷方法、プログラム、及びコンピュータ読み取り可能な非一時的な記録媒体は、振動子列を備える超音波プローブを用いて非破壊検査を行う場合における性能向上、特に、解像度およびS/N比の向上に有用である。
【符号の説明】
【0121】
1000 超音波探傷システム
100 超音波探傷装置
150 超音波信号処理装置
101 プローブ
101a 振動子
102 マルチプレクサ部
103 送信ビームフォーマ部
1031 送信部
104 受信ビームフォーマ部
1040 受信部
1041 整相加算部
1042 観測点設定部
1043 受信開口設定部
1044 送信時間算出部
1045 受信時間算出部
1046 遅延量算出部
1047 遅延処理部
1048 重み算出部
1049 加算部
105 超音波画像生成部
106 表示部
107 データ格納部
108 制御部
211 保持部材
300 被検査体
図1
図2
図3
図4
図5
図6
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図10
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図13