IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社デンソーの特許一覧

<>
  • 特許-噴射制御装置 図1
  • 特許-噴射制御装置 図2
  • 特許-噴射制御装置 図3
  • 特許-噴射制御装置 図4
  • 特許-噴射制御装置 図5
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】噴射制御装置
(51)【国際特許分類】
   F02D 41/20 20060101AFI20240214BHJP
   F02D 41/14 20060101ALI20240214BHJP
   F02M 51/00 20060101ALI20240214BHJP
【FI】
F02D41/20
F02D41/14
F02M51/00 A
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2020122092
(22)【出願日】2020-07-16
(65)【公開番号】P2022018760
(43)【公開日】2022-01-27
【審査請求日】2022-09-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000567
【氏名又は名称】弁理士法人サトー
(72)【発明者】
【氏名】加藤 浩介
(72)【発明者】
【氏名】福田 寛之
(72)【発明者】
【氏名】石川 恭雅
【審査官】西山 智宏
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2004/053317(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/021122(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/174820(WO,A1)
【文献】特開2015-151871(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 41/00
F02D 41/14
F02D 41/20
F02D 43/00
F02D 45/00
F02M 51/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁(2)を電流駆動することにより、燃料噴射を制御する噴射制御装置であって、
前記燃料噴射弁に流れる電流値を検出する電流検出部(7)と、
燃料噴射量指令値に応じた通電電流積算値を得るような通電時間と通電電流値との関係を示した通電電流プロファイル(PI)に基づき、該通電電流プロファイルの積算電流値と、前記電流検出部の検出した電流値の積算電流値との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量(ΔTi)を算出して補正を行う電流面積補正を実行する電流面積補正制御部(13)とを備え、
前記電流面積補正制御部は、前記燃料噴射弁に対する通電開始から複数の基準電流値(I1、I2)に夫々到達するまでの到達時間に基づいて、前記積算電流値を求めるように構成されていると共に、
前記燃料噴射弁に対する通電開始から複数の基準電流値に夫々到達するまでの基準到達時間を記憶部(14)に記憶し、実駆動時の該燃料噴射弁に対する通電開始から前記各基準電流値に夫々到達するまでの検出到達時間と前記基準到達時間との差に基づいて、前記基準電流値を補正する基準電流値補正部を備える噴射制御装置。
【請求項2】
前記記憶部に記憶される基準到達時間は、前記燃料噴射弁の一つ以上の特定温度条件における到達時間である請求項1記載の噴射制御装置。
【請求項3】
前記記憶部に記憶される基準到達時間は、前記燃料噴射弁の常温時における到達時間、及び、それ以外の特定温度条件における到達時間を含んでいる請求項1又は2記載の噴射制御装置。
【請求項4】
前記燃料噴射弁の温度に相関のある温度情報を検出するセンサ(9)を備え、前記燃料噴射弁の温度条件の入力に、該センサの検出値が用いられる請求項2又は3記載の噴射制御装置。
【請求項5】
前記燃料噴射弁の温度に相関のある温度情報を検出するセンサ(9)を備え、
前記基準電流値補正部は、前記センサの検出値を所定の温度条件に換算するための温度補正係数を任意の温度条件における前記検出到達時間と前記基準到達時間との差に乗算することにより、任意の温度条件における前記検出到達時間と前記基準到達時間との差を前記所定の温度条件の時の値に換算するように補正し、その補正後の前記検出到達時間と前記基準到達時間との差に基づいて前記基準電流値を補正し、
前記温度補正係数は、前記温度に対して負の傾きを持つ一次関数の関係にある係数として定められている請求項1に記載の噴射制御装置。
【請求項6】
前記基準電流値補正部は、ノミナル状態の基準到達時間を前記記憶部に記憶し、検出到達時間と前記基準到達時間との差に基づいて、前記電流値を補正するための補正係数を算出する請求項1からのいずれか一項に記載の噴射制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料噴射弁を電流駆動することにより、内燃機関に対する燃料噴射を制御する噴射制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
噴射制御装置は、インジェクタと称される燃料噴射弁を開弁・閉弁することで燃料を内燃機関例えば自動車エンジンに噴射するために用いられる(例えば、特許文献1参照)。噴射制御装置は、電気的に駆動可能な燃料噴射弁に電流を通電することで開弁制御する。近年では、PN規制強化に伴い微小噴射即ちパーシャルリフト噴射を多用するようになり、燃費向上や有害物質排出量減少のため、高い噴射精度が要求される。そこで、指令噴射量に応じた通電電流プロファイルが定められ、噴射制御装置は、その通電電流プロファイルに基づいて燃料噴射弁に電流を印加するという開弁制御が行われる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-33343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
燃料噴射弁の制御においては、燃料噴射弁の通電電流の勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として通電電流プロファイルよりも低下し、実噴射量が指令噴射量から低下する虞がある。本出願人は、燃料噴射量が通電電流の積算値に応じて得られることから、燃料噴射弁の駆動時の電流をモニタして通電電流の傾きを検出し、傾きに応じて通電時間を延ばすように補正する電流面積補正を行う技術を開発し、先に出願している(特願2019-41574号)。
【0005】
ところで、燃料噴射弁の通電制御において電流面積補正を行う場合、通電開始から所定の基準電流値I1、I2に到達するまで時間を計測することに基づいて、通電電流プロファイルとの差異を求めるといった処理が行われる。しかし、電流検出部の検出電流値に回路誤差が生じている場合がある。例えば図5に示すように、電流検出部で、基準電流値I1である3.0A到達を検出したとしても、実際の電流値は2.9Aであるといったことが起こり得る。このような回路誤差によって、電流面積補正が正確に行えなくなる虞がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、燃料噴射弁の通電制御に、通電電流の積算値に基づく電流面積補正を行うものにあって、電流面積補正をより正確に行うことができる噴射制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、噴射制御装置(1)は、内燃機関に燃料を供給する燃料噴射弁(2)を電流駆動することにより、燃料噴射を制御するものであって、前記燃料噴射弁に流れる電流値を検出する電流検出部(7)と、燃料噴射量指令値に応じた通電電流積算値を得るような通電時間と通電電流値との関係を示した通電電流プロファイル(PI)に基づき、該通電電流プロファイルの積算電流値と、前記電流検出部の検出した電流値の積算電流値との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量(ΔTi)を算出して補正を行う電流面積補正を実行する電流面積補正制御部(11)とを備え、前記電流面積補正制御部は、前記燃料噴射弁に対する通電開始から複数の基準電流値(I1、I2)に夫々到達するまでの到達時間に基づいて、前記積算電流値を求めるように構成されていると共に、前記燃料噴射弁に対する通電開始から複数の基準電流値に夫々到達するまでの基準到達時間を記憶部(14)に記憶し、実駆動時の該燃料噴射弁に対する通電開始から前記各基準電流値に夫々到達するまでの検出到達時間と前記基準到達時間との差に基づいて、前記基準電流値を補正する基準電流値補正部を備えている。
【0008】
上記構成によれば、電流面積補正制御部は、燃料噴射弁に対する電流制御を実行するにあたり、通電電流の積算値に応じた燃料噴射量が得られることから、通電電流プロファイルの積算電流と、電流検出部の検出した燃料噴射弁に流れる電流値の積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量を算出して電流面積補正を実行する。この場合、一般に、通電電流プロファイルに示される通電電流の理想的な傾きに対し、電流検出部の検出した実際の電流値との間には、傾きが小さくなる方へのずれが生ずる。そこで、上記電流面積補正を行うことにより、燃料噴射量指令値に応じた燃料噴射弁に対する通電電流積算値、ひいては適切な燃料噴射量を得ることができる。
【0009】
ここで、電流検出部における検出電流値に回路誤差が生じている場合には、電流面積補正が正確に行えなくなる虞がある。このとき、通電時間と燃料噴射弁に流れる電流値とはほぼ直線的な比例の関係にあり、回路誤差のないノミナルの通電時間と電流値との関係に対し、回路誤差が、傾きのずれとして現れる。この点に着目すれば、所定の電流値に至るまでのノミナルと実際との時間の差を、電流値の誤差とみなすことが可能となる。基準電流値補正部は、実駆動時の通電開始から各基準電流値に夫々到達するまでの検出到達時間と、記憶部に記憶されている基準到達時間との差に基づいて、基準電流値を補正する。
【0010】
これにより、電流検出部における検出電流値に回路誤差が生じている場合でも、電流検出部の検出電流値と実電流値との誤差を解消するような基準電流値の補正を行うことが可能となる。従って、燃料噴射弁の通電制御に、通電電流の積算値に基づく電流面積補正を行うものにあって、電流面積補正制御をより正確に行うことができるという優れた効果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】一実施形態を示すもので、噴射制御装置の電気的構成を示すブロック図
図2】電流面積補正制御を説明するための燃料噴射弁の通電時間と通電電流との関係を示す図
図3】基準電流値の補正制御の処理を示すブロック線図
図4】2種類の温度における電流検出値と真値との関係を示す図
図5】電流検出値と真値との間で誤差が生じている様子の例を示す図
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、内燃機関としての自動車のガソリンエンジンの直噴制御に適用した一実施形態について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る噴射制御装置としての電子制御装置1は、ECU(Electronic Control Unit)と称され、図1に示すように、エンジンの各気筒に設けられた燃料噴射弁2の燃料噴射を制御する。燃料噴射弁2は、インジェクタとも称され、ソレノイドコイル2aに通電してニードル弁を駆動することにより、エンジンの各気筒内に燃料を直接噴射する。尚、図1では4気筒のエンジンを例としているが、3気筒、6気筒、8気筒等でも適用できる。また、ディーゼルエンジン用の噴射制御装置に適用しても良い。
【0013】
図1に示すように、前記電子制御装置1は、昇圧回路3、マイクロコンピュータ4(以下、マイコン4と略す)、制御IC5、駆動回路6、及び電流検出部7としての電気的構成を備える。このマイコン4は、1又は複数のコア4a、ROM、RAMなどのメモリ4b、A/D変換器などの周辺回路4cを備えて構成される。また、マイコン4には、エンジンの運転状態などを検出するための各種センサ8からのセンサ信号Sが入力される。後述するように、マイコン4は、メモリ4bに記憶されたプログラム、及び、各種センサ8から取得されるセンサ信号S等に基づいて、燃料噴射量の指令値を求める。
【0014】
このとき、前記各種センサ8としては、エンジンの冷却水の温度を検出するための水温センサ9を含んでいる。本実施形態では、この水温センサ9が、燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aの温度に相関のある温度情報を検出するセンサとして機能する。水温センサ9の温度検出値が、前記制御IC5に入力される。図示は省略するが、各種センサ8には、それ以外にも、排気の空燃比を検出するA/Fセンサ、エンジンのクランク角を検出するクランク角センサ、エンジンの吸入空気量を検出するエアフロメータ、エンジンに噴射する際の燃料圧力を検出する燃圧センサ、スロットル開度を検出するスロットル開度センサ等を含んでいる。図1では、センサ8を簡略化して示している。
【0015】
前記マイコン4のコア4aは、燃料噴射量指令値出力部としての機能を実現する。燃料噴射量指令値出力部は、前記各種センサ8のセンサ信号Sからエンジンの負荷を把握し、そのエンジン負荷に基づいて、燃料噴射弁2の要求される燃料噴射量を算出する。そして、前記制御IC5に対し、燃料噴射量指令値TQとして噴射開始指示時刻t0と共に出力する。このとき、詳しい説明は省略するが、前記A/Fセンサの検出した空燃比に基づいて、目標空燃比となるようにA/F補正量を算出し、空燃比フィードバック制御を実行する。また、A/F補正の履歴に基づいてA/F学習が行われ、前記A/F補正量の計算に、学習補正値が加味される。
【0016】
前記制御IC5は、例えばASICによる集積回路装置であり、図示はしないが、例えばロジック回路、CPUなどによる制御主体と、RAM、ROM、EEPROMなどの記憶部、コンパレータを用いた比較器などを備えている。この制御IC5は、そのハードウェア及びソフトウェア構成により、前記駆動回路6を介して前記燃料噴射弁2の電流制御等を実行する。このとき、制御IC5は、燃料噴射弁2を駆動するにあたり、後述する電流面積補正制御を実行する。この制御IC5は、昇圧制御部10、通電制御部11、電流モニタ部12、面積補正量算出部13、記憶部14としての機能を備える。
【0017】
前記昇圧回路3は、詳しい図示は省略するが、バッテリ電圧VBが入力され、そのバッテリ電圧VBを昇圧して、充電部としての昇圧コンデンサ3aに昇圧電圧Vboostを充電させるように構成されている。このとき、前記昇圧制御部10は、この昇圧回路3の動作を制御し、入力されたバッテリ電圧VBを昇圧制御し、昇圧コンデンサ3aの昇圧電圧Vboostを満充電電圧まで充電させる。この昇圧電圧Vboostは、例えば65Vとされ、前記燃料噴射弁2の駆動用の電力として駆動回路6に供給される。
【0018】
前記駆動回路6には、前記バッテリ電圧VB及び昇圧電圧Vboostが入力される。図示は省略するが、この駆動回路6は、前記各気筒の燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに対し昇圧電圧Vboostを印加するためのトランジスタやバッテリ電圧VBを印加するためのトランジスタ、通電する気筒を選択する気筒選択用のトランジスタ等を備えている。このとき、駆動回路6の各トランジスタは、前記通電制御部11によりオン、オフ制御される。これにより、駆動回路6は通電制御部11の通電制御に基づいて、ソレノイドコイル2aに電圧を印加して燃料噴射弁2を駆動する。
【0019】
前記電流検出部7は、図示しない電流検出抵抗等から構成され、前記ソレノイドコイル2aに流れる電流を検出する。前記制御IC5の電流モニタ部12は、例えば図示しないコンパレータによる比較部やA/D変換器等を用いて構成され、各気筒の燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに流れる通電電流値EIについて、電流検出部7を通じてモニタする。ここで、電流検出部7の検出電流値には、回路誤差が生じている場合がある。例えば図5に示すように、電流検出部7で、一つの基準電流値I1である3.0A到達を検出したとしても、実際の電流値は2.9Aであるといったことが起こり得る。そこで本実施形態では、電流モニタ部12は、基準電流値補正部としての機能を備えている。この基準電流値補正部の機能については後述する。
【0020】
前記制御IC5には、図2に示すように、燃料噴射量指令値TQに応じた燃料噴射弁2の通電電流積算値を得るような通電時間Tiと通電電流値との理想的な関係を示した通電電流プロファイルPIが記憶されている。制御IC5の通電制御部11は、通電電流プロファイルPIに基づいて駆動回路6を介して燃料噴射弁2に対する電流制御を実行する。このとき、燃料噴射弁2の制御においては、燃料噴射弁2の通電電流の勾配が、周辺温度環境、経年劣化等の様々な要因を理由として通電電流プロファイルPIよりも低下し、実噴射量が指令噴射量よりも低くなる事情がある。一方、燃料噴射弁2を通電制御するにあたり、通電電流の積算値に応じたつまり比例した燃料噴射量が得られる。
【0021】
そこで、通電制御部11は、通電電流プロファイルPIの積算電流と、電流検出部7の検出した燃料噴射弁2に実際に流れる通電電流値EIの積算電流との差に基づいて、電流値を同等とするように通電時間の面積補正量ΔTiを算出して補正を行う電流面積補正を実行するように構成されている。燃料噴射弁2のパーシャルリフト噴射を行う場合の、制御IC5の通電制御部11が実行する電流面積補正制御について、図2を参照しながら簡単に述べる。
【0022】
即ち、通電電流プロファイルPIに基づいた制御では、オンタイミングt0から通電を開始すると、通電電流がやや曲線を描きながら次第に上昇し、通電時間Tiの通電により、時刻taにおいてピーク電流Ipkに達し、燃料噴射量指令値TQの燃料噴射量が得られる。しかし、実際の燃料噴射弁2の通電電流値EIは、それより緩やかな傾きで曲線を描きながら上昇し、時刻taにおいてピーク電流Ipkよりも低い電流値となる。そのため、燃料噴射量は、通電電流プロファイルPIと通電電流値EIとの積算電流値の差、言い替えれば、図2の時刻t0から時刻taまでの、通電電流プロファイルPIの曲線と、通電電流値EIの曲線との間のグラフの面積即ち面積差A1に該当する分だけ不足する。
【0023】
電流面積補正制御においては、前記面積補正量算出部13により、通電時間の面積補正量ΔTiが算出される。この面積補正量ΔTiは、通電電流プロファイルPIと通電電流値EIとの積算電流値を同等とするように、即ち、図2の面積差A1と、面積A2とが同等となるように求められる。そして、算出された面積補正量ΔTiによって、通電制御部11は通電時間の補正即ち延長を行い、上記した燃料噴射量の不足分が補われる。
【0024】
面積補正量ΔTiを算出する手法としては、例えば、通電電流プロファイルPI及び検出された通電電流値EIの夫々において、通電開始から、複数の基準電流値、この場合第1の基準電流値I1に到達する時間t1n及び時間t1を求めると共に、第2の基準電流値I2に到達する時間t2n及び時間t2を求める。第1の基準電流値I1及び第2の基準電流値I2は、例えば、夫々3.0A及び6.0Aとされる。そして、それら到達時間から面積差A1を推定し、その面積差A1と同等の面積A2を得るような面積補正量ΔTiを算出するといった方法を用いることができる。このような電流面積補正制御の実行により、燃料噴射量指令値TQに応じた燃料噴射弁2の適切な燃料噴射量を得ることができる。
【0025】
さて、上記したように、電流検出部7における検出電流値に回路誤差が生じている場合があり、そのような場合には、正しい電流値が得られないため、電流面積補正が正確に行えなくなる虞がある。このとき、図4図5に示すように、通電時間tと、燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに流れる電流値Iとの関係を見ると、ほぼ直線的に変化する比例の関係にある。図4に(a)、(c)で示す回路誤差の存在しないノミナルの場合の通電時間tと電流値Iとの関係に対し、図4に(b)、(d)で示す回路誤差を有する場合には、傾きのずれとして現れる。この点に着目すれば、所定の電流値に至るまでのノミナルと実駆動時との時間の差を、実際の電流値と検出電流値とのずれとみなして補正することが可能となる。
【0026】
そこで、本実施形態では、前記記憶部14には、燃料噴射弁2に対する通電開始から複数の基準電流値、この場合、第1の基準電流値I1及び第2の基準電流値I2に夫々到達するまでのノミナルの基準到達時間が記憶される。尚、前記記憶部14に、基準到達時間を記憶させるにあたっては、製品出荷時、初回の実使用時など適宜のタイミングで行うことが可能であり、さらに、使用途中で基準到達時間を学習し、更新していくといったことも可能である。
【0027】
そして、前記電流モニタ部12は、実駆動時の該燃料噴射弁2に対する通電開始から前記各基準電流値I1、I2に夫々到達するまでの検出到達時間と、前記記憶部14に記憶されている基準到達時間との時間差Δtに基づいて、電流面積補正制御に用いる基準電流値I1、I2を補正するように構成されている。補正された基準電流値I1、I2は、燃料噴射弁2の実駆動時における、時間t1及び時間t2の検出に用いられる。
【0028】
後の作用説明でも述べるように、基準電流値I1、I2の補正は、各基準電流値I1、I2への検出到達時間と基準到達時間との時間差Δtに基づいて、基準電流値I1、I2を補正するための電流補正係数Ciを算出し、その電流補正係数Ciを乗算することにより行われる。電流補正係数Ciの算出は、図3のブロックB3内に関数を示すように、時間差Δtと電流補正係数Ciとが比例関係にあることに基づいて行われる。検出電流値のずれがない場合、つまり時間差Δtが0のときには、電流補正係数Ciは1となる。時間差Δtが0より大きくなると、補正係数Ciも1より大きくなる。
【0029】
また本実施形態においては、前記記憶部14に記憶される基準到達時間は、燃料噴射弁2の常温時つまり20℃における到達時間、及び、それ以外の特定温度条件例えば高温時である80度℃における到達時間を含んでいる。このとき、図4に示したように、燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aの温度に応じて、(a)、(b)のように温度が常温即ち比較的低い場合には、電流値の傾きが比較的大きくなる。これに対し、(c)、(d)のように温度が高温即ち比較的高い場合には、それに比べて電流値の傾きが比較的小さくなる。常温の場合と高温の場合とで、基準到達時間自体が異なると共に、基準電流値I1、I2に到達した際の時間差Δtも異なる場合がある。
【0030】
本実施形態では、実際の燃料噴射時において、電流モニタ部12は、前記水温センサ9が検出した温度を用い、その温度に応じて、上記時間差Δtを、温度補正係数Ctにより常温時における時間差Δtに換算する補正が行われる。図3のブロックB1内に、検出温度に対し温度補正係数Ctを求める関数を示すように、温度補正係数Ctは、検出温度が高くなるほど小さくなるような負の傾きを持つ一次関数の関係にある。検出温度が20℃の場合には、温度補正係数Ctは1であり、検出温度が20℃よりも大きくなると温度補正係数Ctは1より小さくなり、検出温度が20℃よりも小さい場合には温度補正係数Ctは1より大きくなる。
【0031】
次に、上記のように構成された電子制御装置1における作用、効果について述べる。上記構成の電子制御装置1によれば、マイコン4及び制御IC5が燃料噴射弁2に対する電流制御を実行するにあたり、燃料噴射弁2の通電電流の積算値に応じた燃料噴射量が得られることを利用して、電流面積補正制御を行う構成とした。この電流面積補正制御においては、図2に示すように、通電電流プロファイルPIの積算電流と、電流検出部7の検出した燃料噴射弁2に流れる通電電流値EIの積算電流との差に基づいて積算電流値を同等とするように通電時間の面積補正量ΔTiを算出して電流面積補正を行う。
【0032】
この場合、一般に、通電電流プロファイルPIに示される通電電流の理想的な傾きに対し、燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aに流れる実際の電流値EIとの間には、傾きが小さくなる方へのずれが生ずる。そこで、そのような電流面積補正を行うことにより、燃料噴射量指令値TQに応じた燃料噴射弁2に対する実際の通電電流積算値つまり燃料噴射量の不足分を補うことができ、適切な燃料噴射量を得ることができる。
【0033】
ここで、電流検出部7における検出電流値に回路誤差が生じている場合には、電流面積補正が正確に行えなくなる虞がある。このとき、図4図5に示すように、通電時間と燃料噴射弁2に流れる電流値とはほぼ直線的な比例の関係にあり、回路誤差のないノミナルの通電時間と電流値との関係に対し、回路誤差が、傾きのずれとして現れる。この点に着目すれば、通電開始から所定の電流値に到達するまでのノミナルと実際との時間の差を、電流値の誤差とみなすことが可能となる。本実施形態では、電流モニタ部12は、実駆動時の通電開始t0から各基準電流値I1、I2に夫々到達するまでの検出到達時間と、記憶部14に記憶されている基準到達時間との時間差Δtに基づいて、基準電流値I1、I2を補正する。
【0034】
図3は、電流モニタ部12が実行する、基準電流値I1、I2の補正処理のシステムを示すブロック線図である。即ち、まずブロックB1においては、水温センサ9の検出水温の入力に基づいて、図示の関数に従って温度補正係数Ctが求められ、出力される。ブロックB2では、電流検出部7の検出に基づく基準電流値I1、I2への各検出到達時間と、記憶部14に記憶されている各基準到達時間との時間差Δtに、前記温度補正係数Ctが乗算される。これにて、任意の温度条件で検出された電流値に基づく時間差Δtが、常温時の値に換算されるように補正される。ちなみに、具体例をあげると、例えば基準電流値I1への基準到達時間が100μsecであるのに対し、検出到達時間が105μsecである場合、時間差Δtは、5μsecとなる。
【0035】
次のブロックB3では、補正された時間差Δtの入力に基づいて、図示のような比例関係にある関数に従って電流補正係数Ciが求められ、出力される。例えば、時間差Δtが5μsecの場合には、電流補正係数Ciは1.03とされる。そして、ブロックB4において、基準電流値I1、I2に、電流補正係数Ciが乗算され、基準電流値I1、I2が補正される。例えば、基準電流値電I1が3.0Aで電流補正係数Ciが1.03の場合、基準電流値電I1が3.09Aに補正されることになる。
【0036】
これにて、電流検出部7における検出電流値に回路誤差が生じている場合でも、電流面積補正制御に用いられる基準電流値I1、I2が、電流検出部7の回路誤差を見込んで、実電流値との誤差を解消するような値に補正されるようになる。従って、電流モニタ部12は、例えば、電流検出部7が3.09Aを検出した時点で、基準電流値I1への到達を検出し、このときのソレノイドコイル2aに流れる実電流値が3.0Aとなる。これにより、電流検出部7に回路誤差が生じている場合でも、正確に電流面積補正制御を行うことが可能となるのである。
【0037】
このように本実施形態によれば、燃料噴射弁2の通電制御に、通電電流の積算値に基づく電流面積補正を行うものにあって、電流検出部7における検出電流値に回路誤差が生じている場合でも、電流検出部7の検出電流値と実電流値との誤差を解消するような基準電流値I1、I2の補正を行うことが可能となる。この結果、電流面積補正制御をより正確に行うことができるという優れた効果を得ることができる。
【0038】
また、燃料噴射弁2の通電開始から基準電流値I1、I2に到達するまでの到達時間は、燃料噴射弁2の温度よっても変動する事情がある。本発明者の研究によれば、燃料噴射弁2の常温時と高温時とでは、高温時の方が、電流値の上昇度合つまり傾きが緩やかになる傾向が確認されている。本実施形態では、記憶部14に記憶される基準到達時間を、燃料噴射弁2の特定温度条件である常温時における到達時間とするようにした。そして、実駆動時においては、時間差Δtを、温度補正係数Ctを用いて常温換算しながら基準電流値I1、I2を補正する構成とした。
【0039】
これにより、特定温度条件として例えば常温での基準到達時間を記憶し、その後の実駆動時においては、時間差Δtを常温換算にしながら基準電流値I1、I2の補正を行うことにより、温度を考慮したより緻密で正確な補正を行うことができる。このとき、燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aの温度を直接的に検出することが困難な事情がある。ところが、燃料噴射弁2のソレノイドコイル2aの温度とエンジンの冷却水温との間は比例する相関関係にあり、本実施形態では、燃料噴射弁2の温度に相関のあるエンジンの水温センサ9を用いることにより、センサの増加等を招くことなく、温度検出を容易に実施することができる。
【0040】
さらに本実施形態では、記憶部14にノミナル状態の基準到達時間を記憶し、検出到達時間と基準到達時間との時間差Δtに基づいて、基準電流値I1、I2を補正するための電流補正係数Ciを算出する構成とした。これにより、基準電流値I1、I2の補正を、電流補正係数Ciを乗算することによって簡易に行うことができる。時間差Δtの温度補正についても、ブロックB1の関数によって温度補正係数Ctを求め、その温度補正係数Ctを乗算するだけの簡易な手法により行うことができる。
【0041】
尚、上記実施形態では、燃料噴射弁2に対する面積補正制御を実行するにあたり、通電電流プロファイルPI及び通電電流値EIの夫々において、基準電流値I1に達する時間t1n及び時間t1、基準電流値I2に達する時間t2n及び時間t2を求め、それらから面積差A1を推定するといった手法を採用したが、3つ以上の基準電流値を用いて積算電流値を求めるといった手法を採用することも可能である。電流面積補正量ΔTiを求める手法としても、様々な変形が考えられる。
【0042】
また、上記実施形態では、記憶部14に記憶される基準到達時間として、常温時における到達時間を基準とするように構成したが、基準到達時間を、燃料噴射弁2の常温時における到達時間、及び、それ以外の特定温度条件、例えば80℃や100℃の高温における到達時間を含むように構成しても良い。これによれば、複数の温度条件での基準到達時間を記憶して、補正を行うことができ、基準電流値I1、I2の補正を、周辺温度に応じてより緻密に実行することが可能となる。
【0043】
上記したマイコン4及び制御IC5は、一体化しても良く、この場合、高速演算可能な演算処理装置を用いることが望ましい。マイコン4、制御IC5が提供する手段、機能は、実体的なメモリ装置に記録されたソフトウェア及びそれを実行するコンピュータ、ソフトウェア、ハードウェア、あるいはそれらの組み合わせによって提供することができる。例えば制御装置がハードウェアである電子回路により提供される場合、1又は複数の論理回路を含むデジタル回路、または、アナログ回路により構成できる。また、例えば制御装置がソフトウェアにより各種制御を実行する場合には、記憶部にはプログラムが記憶されており、制御主体がこのプログラムを実行することで当該プログラムに対応する方法が実施される。
【0044】
その他、燃料噴射弁、昇圧回路や駆動回路、電流検出部などのハードウェア構成等についても、種々な変更が可能である。本開示は、実施例に準拠して記述されたが、本開示は当該実施例や構造に限定されるものではないと理解される。本開示は、様々な変形例や均等範囲内の変形をも包含する。加えて、様々な組み合わせや形態、さらには、それらに一要素のみ、それ以上、あるいはそれ以下、を含む他の組み合わせや形態をも、本開示の範疇や思想範囲に入るものである。
【0045】
本開示に記載の制御部及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。或いは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によりプロセッサを構成することにより提供された専用コンピュータにより実現されても良い。若しくは、本開示に記載の制御部及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路により構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより実現されても良い。又、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されていても良い。
【符号の説明】
【0046】
図面中、1は電子制御装置(噴射制御装置)、2は燃料噴射弁、2aはソレノイドコイル、3は昇圧回路、4はマイコン、5は制御IC、6は駆動回路、7は電流検出部、9は水温センサ、11は通電制御部(電流面積補正制御部)、12は電流モニタ部(基準電流補正部)、13は面積補正量算出部、14は記憶部を示す。
図1
図2
図3
図4
図5