(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】ステアリング装置
(51)【国際特許分類】
B62D 1/18 20060101AFI20240214BHJP
B62D 5/04 20060101ALI20240214BHJP
F16D 3/06 20060101ALI20240214BHJP
F16J 15/10 20060101ALN20240214BHJP
【FI】
B62D1/18
B62D5/04
F16D3/06 Z
F16J15/10 L
(21)【出願番号】P 2020127061
(22)【出願日】2020-07-28
【審査請求日】2023-06-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】森山 誠一
【審査官】佐々木 智洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-060092(JP,A)
【文献】特表2019-525080(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 1/18
B62D 5/04
F16D 3/06
F16J 15/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周に複数の第1歯が設けられるアウターシャフトと、
前記複数の第1歯と嵌合する複数の第2歯が外周に設けられる歯部と、前記歯部と軸方向に隣接するシャフト部と、を有するインナーシャフトと、
前記アウターシャフトの軸方向端部に固定され、前記アウターシャフトに対して前記インナーシャフトの前記軸方向の抜けを抑制するストッパー部材と、
を備え、
前記シャフト部の表面は、前記第2歯の頂部よりも径方向内側に位置し、
前記ストッパー部材は、
前記アウターシャフトにおける前記軸方向端部の外周面に固定されるベース部と、前記ベース部から径方向内側に延び
、且つ、周方向に沿って複数配置される爪部と、を備え、
前記爪部の径方向内側端は、前記第2歯の頂部よりも径方向内側で、且つ、前記シャフト部の前記表面よりも径方向外側に位置
し、
前記インナーシャフトは、前記アウターシャフトに対して前記軸方向にスライド可能である、
ステアリング装置。
【請求項2】
前記インナーシャフトにおいて、
前記シャフト部の前記歯部とは軸方向の反対側に第1部材が設けられ、当該第1部材の径方向外側端は、前記第2歯の頂部よりも径方向外側に位置し、
前記歯部、前記シャフト部及び前記第1部材は一体である、
請求項1に記載のステアリング装置。
【請求項3】
前記ストッパー部材の前記爪部は、径方向内側端が径方向外側端よりも
、前記シャフト部の前記軸方向において前記第2歯側に位置する、
請求項1または2に記載のステアリング装置。
【請求項4】
前記ストッパー部材の前記爪部の周方向に沿った幅は、前記インナーシャフトにおいて周方向に隣接する前記第2歯同士の周方向に沿った最大距離よりも大きい、
請求項1から3のいずれか1項に記載のステアリング装置。
【請求項5】
前記ストッパー部材の
前記複数の
前記爪部及び前記インナーシャフトの前記複数の第2歯はそれぞれ周方向に沿って等間隔に配置され、
前記ストッパー部材の前記爪部の周方向に沿った幅が、前記インナーシャフトにおいて周方向に隣接する前記第2歯同士の最大距離よりも小さく、
前記ストッパー部材の前記爪部の数は、前記第2歯の数の約数と異なる、
請求項1から3のいずれか1項に記載のステアリング装置。
【請求項6】
前記ストッパー部材を覆うシール部材を備
え、
当該シール部材は、
前記ストッパー部材の前記ベース部の外周側に配置される円筒部と、前記爪部に対して前記軸方向で対向配置されるリング部と、を有する、
請求項1から5のいずれか1項に記載のステアリング装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、ステアリング装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両には、操作者(運転者)のステアリングホイールに対する操作を車輪に伝えるための装置としてステアリング装置が設けられている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1において、ステアリング装置は、ステアリングシャフトを備える。ステアリングシャフトは、筒状のアウターシャフトと、アウターシャフトの内周側にスライド可能に収納されるインナーシャフトとを備える。
【0003】
ステアリング装置を車体に組み付ける前、又は、車両衝突でステアリング装置に荷重が入力される際などに、アウターシャフトからインナーシャフトが抜け出る場合がある。このため、特許文献1では、アウターシャフトの軸方向端部に、インナーシャフトの抜けを抑制する抜け止め部材を設けている。抜け止め部材は、アウターシャフトの外周面に固定される中空円筒部と、中空円筒部の軸方向端から径方向内側に延びる中空円盤部と、を備える。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、インナーシャフトは、ヨーク部と、シャフト部と、シャフト部よりも大径の雄スプライン部と、を備える。抜け止め部材の中空円盤部の内径は、雄スプライン部の外径(スプライン歯の頂部を通る円の直径)よりも小さい。また、抜け止め部材の中空円盤部は、周方向に繋がっているため、軸方向に変形しにくい。従って、インナーシャフトが一体成形品である場合(ヨーク部とシャフト部が一体に成形されている場合)、抜け止め部材が雄スプライン部を通過しにくいため、抜け止め部材をインナーシャフトに挿入することができない可能性がある。
【0006】
本開示は、前記の課題に鑑みてなされたものであって、インナーシャフトが一体成形品である場合にインナーシャフトに挿入することが容易な抜け止め部材を備えたステアリング装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記の目的を達成するため、本開示の一態様のステアリング装置は、内周に複数の第1歯が設けられるアウターシャフトと、前記複数の第1歯と嵌合する複数の第2歯が外周に設けられる歯部と、前記歯部と軸方向に隣接するシャフト部と、を有するインナーシャフトと、前記アウターシャフトの軸方向端部に固定され、前記アウターシャフトに対して前記インナーシャフトの前記軸方向の抜けを抑制するストッパー部材と、を備え、前記シャフト部の表面は、前記第2歯の頂部よりも径方向内側に位置し、前記ストッパー部材は、前記アウターシャフトにおける前記軸方向端部の外周面に固定されるベース部と、前記ベース部から径方向内側に延びる爪部と、を備え、前記爪部の径方向内側端は、前記第2歯の頂部よりも径方向内側で、且つ、前記シャフト部の前記表面よりも径方向外側に位置する。
【0008】
このように、ストッパー部材は、ベース部と、ベース部から径方向内側に延びる複数の爪部と、を備える。従来の抜け止め部材の中空円盤部は、周方向に繋がっているため、軸方向に変形しにくい。これに対して、本実施形態のストッパー部材の複数の爪部は、互いに繋がっていないため、従来の抜け止め部材の中空円盤部よりも軸方向に変形しやすい。従って、インナーシャフトが一体成形品である場合にインナーシャフトの歯部側からストッパー部材を挿入することが容易になる。
【0009】
前記ステアリング装置の望ましい態様として、前記インナーシャフトにおいて、前記シャフト部の前記歯部とは軸方向の反対側に第1部材が設けられ、当該第1部材の径方向外側端は、前記第2歯の頂部よりも径方向外側に位置し、前記歯部、前記シャフト部及び前記第1部材は一体である。
【0010】
このように、インナーシャフトが一体成形品であっても、例えば、歯部側からストッパー部材を挿入することにより、インナーシャフトにストッパー部材を挿入することが容易となる。
【0011】
前記ステアリング装置の望ましい態様として、前記ストッパー部材の前記爪部は、径方向内側端が径方向外側端よりも前記第2歯側に位置する。
【0012】
爪部は、径方向外側端から第2歯側に傾斜して径方向内側端まで延びる。従って、径方向内側端と径方向外側端とが軸方向で同じ位置に配置される場合に対して、爪部が第2歯側に変形しやすい。以上より、インナーシャフトの歯部側からストッパー部材を挿入することが、より容易になる。
【0013】
前記ステアリング装置の望ましい態様として、前記ストッパー部材の前記爪部の周方向に沿った幅は、前記インナーシャフトにおいて周方向に隣接する前記第2歯同士の周方向に沿った最大距離よりも大きい。
【0014】
これによれば、インナーシャフトに対してストッパー部材が周方向の任意の位置において爪部と第2歯とが軸方向に対向する。従って、インナーシャフトがアウターシャフトに対してスライドする際に、インナーシャフトの第2歯がストッパー部材の爪部に当たるため、インナーシャフトが、より抜けにくくなる。
【0015】
前記ステアリング装置の望ましい態様として、前記ストッパー部材の前記爪部は、複数設けられ、当該複数の爪部及び前記インナーシャフトの前記複数の第2歯はそれぞれ周方向に沿って等間隔に配置され、前記ストッパー部材の前記爪部の周方向に沿った幅が、前記インナーシャフトにおいて周方向に隣接する前記第2歯同士の最大距離よりも小さく、
前記ストッパー部材の前記爪部の数は、前記第2歯の数の約数と異なる。
【0016】
これによれば、ストッパー部材の爪部の周方向に沿った幅が、インナーシャフトにおいて周方向に隣接する第2歯同士の最大距離よりも小さい場合であっても、インナーシャフトに対してストッパー部材が周方向の任意の位置において爪部と第2歯とが軸方向に対向する。従って、インナーシャフトがアウターシャフトに対して軸方向にスライドする際に、インナーシャフトの第2歯がストッパー部材の爪部に当たるため、インナーシャフトが、より抜けにくくなる。
【0017】
前記ステアリング装置の望ましい態様として、前記ストッパー部材を覆うシール部材を備える。
【0018】
ストッパー部材が金属製で開口部や切欠きなどが設けられる場合、開口部や切欠きの部位に腐食が発生しやすい。このため、ストッパー部材の材質を例えばステンレス鋼(SUS材)にし、又はメッキ処理等を施す必要がある。しかし、本開示では、シール部材でストッパー部材を覆うことにより、ストッパー部材の材質を変更すること、又は、ストッパー部材にメッキ処理等を施すことなどが不要となる。
【発明の効果】
【0019】
本開示によれば、インナーシャフトが一体成形品である場合にインナーシャフトに挿入することが容易な抜け止め部材を備えたステアリング装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】
図1は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、
図2のステアリングシャフトを示す側面図である。
【
図7】
図7は、実施形態に係るインナーシャフトを示す斜視図である。
【
図9】
図9は、実施形態に係るストッパー部材の正面図である。
【
図12】
図12は、アウターシャフトにインナーシャフトが嵌合された状態を示す模式的な断面図である。
【
図13】
図13は、インナーシャフトが軸方向に移動してストッパー部材に当たった状態を示す模式的な断面図である。
【
図14】
図14は、シール部材でストッパー部材を覆った状態の変形例を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0022】
[実施形態]
図1は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す模式図である。
図2は、実施形態に係るステアリング装置の概略を示す斜視図である。
【0023】
図1及び
図2に示すように、ステアリング装置80は、操作者から与えられる力が伝達する順に、ステアリングホイール81と、アッパーシャフト82と、操舵力アシスト機構83と、ユニバーサルジョイント84と、ステアリングシャフト1と、ユニバーサルジョイント86と、を備え、ピニオンシャフト87に接合されている。また、ステアリング装置80は、ECU(Electronic Control Unit)90と、トルクセンサ94とを備える。車速センサ95は、車体に備えられ、CAN(Controller Area Network)通信により車速信号VをECU90に出力する。
【0024】
アッパーシャフト82は、入力軸82aと、出力軸82bとを備える。入力軸82aの一方の端部がステアリングホイール81に連結され、入力軸82aの他方の端部が出力軸82bに連結される。また、出力軸82bの一方の端部が入力軸82aに連結され、出力軸82bの他方の端部がユニバーサルジョイント84に連結される。本実施形態では、入力軸82a及び出力軸82bは、機械構造用炭素鋼(SC材(Carbon Steel for Machine Structural Use))又は機械構造用炭素鋼鋼管(いわゆるSTKM材(Carbon Steel Tubes for Machine Structural Purposes))等の一般的な鋼材等から形成される。
【0025】
ステアリングシャフト1は、ユニバーサルジョイント84を介して出力軸82bに連結される部材である。ステアリングシャフト1の一方の端部がユニバーサルジョイント84に連結され、他方の端部がユニバーサルジョイント86に連結される。ピニオンシャフト87の一方の端部がユニバーサルジョイント86に連結され、ピニオンシャフト87の他方の端部がステアリングギヤ88に連結される。
【0026】
ステアリングギヤ88は、ピニオン88aと、ラック88bとを備える。ピニオン88aは、ピニオンシャフト87に連結される。ラック88bは、ピニオン88aに噛み合う。ステアリングギヤ88は、ピニオン88aに伝達された回転運動をラック88bで直進運動に変換する。ラック88bは、タイロッド89に連結される。即ち、ステアリング装置80は、ラックアンドピニオン式である。
【0027】
操舵力アシスト機構83は、減速装置92と、電動モータ93とを備える。電動モータ93は、例えばブラシレスモータであるが、ブラシ(摺動子)及びコンミテータ(整流子)を備えるモータであってもよい。減速装置92は、例えばウォーム減速装置である。電動モータ93で生じたトルクは、減速装置92の内部のウォームを介してウォームホイールに伝達され、ウォームホイールを回転させる。減速装置92は、ウォーム及びウォームホイールによって、電動モータ93で生じたトルクを増加させる。そして、減速装置92は、出力軸82bに補助操舵トルクを与える。即ち、ステアリング装置80は、コラムアシスト方式である。
【0028】
トルクセンサ94は、ステアリングホイール81を介して入力軸82aに伝達された操作者の操舵力を操舵トルクとして検出する。車速センサ95は、ステアリング装置80が搭載される車体の走行速度(車速)を検出する。電動モータ93、トルクセンサ94及び車速センサ95は、ECU90と電気的に接続される。
【0029】
ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。また、ECU90は、トルクセンサ94及び車速センサ95のそれぞれから信号を取得する。即ち、ECU90は、トルクセンサ94から操舵トルクTを取得し、且つ車速センサ95から車体の車速信号Vを取得する。ECU90は、イグニッションスイッチ98がオンの状態で、電源装置(例えば車載のバッテリ)99から電力が供給される。ECU90は、操舵トルクTと車速信号Vとに基づいてアシスト指令の補助操舵指令値を算出する。そして、ECU90は、その算出された補助操舵指令値に基づいて電動モータ93へ供給する電力値Xを調節する。ECU90は、電動モータ93から誘起電圧の情報又は電動モータ93に設けられたレゾルバ等から出力される情報を動作情報Yとして取得する。
【0030】
ステアリングホイール81に入力された操作者(運転者)の操舵力は、入力軸82aを介して操舵力アシスト機構83の減速装置92に伝わる。この時、ECU90は、入力軸82aに入力された操舵トルクTをトルクセンサ94から取得し、且つ車速信号Vを車速センサ95から取得する。そして、ECU90は、電動モータ93の動作を制御する。電動モータ93が作り出した補助操舵トルクは、減速装置92に伝えられる。
【0031】
出力軸82bを介して出力された操舵トルク(補助操舵トルクを含む)は、ユニバーサルジョイント84を介してステアリングシャフト1に伝達され、さらにユニバーサルジョイント86を介してピニオンシャフト87に伝達される。ピニオンシャフト87に伝達された操舵力は、ステアリングギヤ88を介してタイロッド89に伝達され、車輪を変位させる。
【0032】
図3は、
図2のステアリングシャフトを示す側面図である。
図4は、
図3のIV-IV線による断面図である。
図5は、
図4の一部を拡大した模式図である。
図6は、
図3のVI-VI線による断面図である。
図7は、実施形態に係るインナーシャフトを示す斜視図である。
図8は、
図7の断面図である。
【0033】
図3に示すように、ステアリングシャフト1は、アウターシャフト2と、インナーシャフト3と、ストッパー部材4と、を備える。アウターシャフト2及びインナーシャフト3は、中心軸Axに沿って延びる。
【0034】
図7及び
図8に示すように、インナーシャフト3は、歯部31と、シャフト部33と、ヨーク部(第1部材)34と、を備える。インナーシャフト3は、一体成形品であり、歯部31とシャフト部33とヨーク部34とは一体である。なお、ヨーク部34は第1部材とも称する。
図6及び
図7に示すように、歯部31には、中心軸Axの軸回りの周方向に第2歯32が等間隔で複数配置されている。それぞれの第2歯32は、軸方向に沿って延びる。シャフト部33は、歯部31と軸方向で隣接する。シャフト部33の表面331は、平滑な円筒面である。シャフト部33の表面331は、第2歯32の頂部321よりも径方向内側に位置する。これにより、シャフト部33と歯部31との境界には、段差部332が設けられる。また、アウターシャフト2の内部には、歯部31が収納される。シャフト部33の一部は、アウターシャフト2の外側に位置する。ヨーク部34は、軸方向において、シャフト部33を挟んで歯部31の反対側に位置する。即ち、インナーシャフト3の一端部には、ヨーク部34が設けられ、他端部には、歯部31が設けられる。また、
図7に示すように、ヨーク部34は、分岐部341と分岐部342とに二股に分岐している。分岐部341と分岐部342との最大距離は距離L10である。さらに、分岐部341の高さ及び分岐部341の高さは共に距離L20である。即ち、ヨーク部34の径方向の距離のうち、最大距離は距離L10である。
【0035】
図3及び
図6に示すように、アウターシャフト2は、内周21に複数の第1歯22を備える。第1歯22は、中心軸Axの軸回りの周方向に等間隔で複数配置されている。それぞれの第1歯22は、軸方向に沿って延びる。第1歯22は、第2歯32と嵌合する。なお、第1歯22及び第2歯32は、例えばスプライン歯又はセレーション歯である。即ち、例えば、第1歯22が雌スプライン歯で、第2歯32が雄スプライン歯である。また、第1歯22が雌セレーション歯で、第2歯32が雄セレーション歯である。雌スプライン歯と雄スプライン歯とがスプライン嵌合し、又は、雌セレーション歯と雄セレーション歯とがセレーション嵌合する。外周面23における軸方向端部25には、径方向内側に凹む凹部24が設けられる。軸方向端部25は、アウターシャフト2におけるインナーシャフト3側の端部である。軸方向端部25には、ストッパー部材4が固定されている。
【0036】
図9は、実施形態に係るストッパー部材の正面図である。
図10は、
図9の側面図である。
図11は、
図9のXI-XI線による断面図である。
【0037】
図6、及び
図9から
図11に示すように、ストッパー部材4は、ベース部41と、複数の爪部42と、を備える。ストッパー部材4は、例えば弾性変形しやすい高張力鋼(ばね鋼)が適用可能である。ベース部41は、中心軸Axの軸回りの周方向に延びる円環状である。ベース部41には、矩形状の開口部411が設けられ、折曲げ片部43が開口部411の一部を塞ぐように設けられる。開口部411及び折曲げ片部43は、ベース部41に周方向に沿って等間隔に6つ配置される。ただし、本開示では、開口部411及び折曲げ片部43の数は6つに限定されない。折曲げ片部43は、根本部431で屈曲し先端432が根本部431よりも径方向内側に位置する。即ち、折曲げ片部43は、根本部431から径方向内側に向けて傾斜して延びる。折曲げ片部43は、根本部431を中心として径方向に弾性変形が可能である。
【0038】
また、爪部42は、ベース部41から径方向内側に延びる。
図6に示すように、爪部42の径方向内側端421は、第2歯32の頂部321よりも径方向内側で、且つ、シャフト部33の表面331よりも径方向外側に位置する。即ち、爪部42の径方向内側端421は、軸方向において段差部332と対向する。爪部42は、径方向内側端421が径方向外側端422よりも第2歯32側に位置する。即ち、爪部42は、径方向外側端422から
図6の左側に向けて傾斜し径方向内側端421まで延びる。従って、爪部42とベース部41とが直交する場合と比較すると、爪部42は
図11の矢印に示す方向に径方向外側端422を中心として弾性変形しやすくなる。なお、
図6に示すように、折曲げ片部43を凹部24に嵌合させることによって、ストッパー部材4をアウターシャフト2の軸方向端部25の外周面23に固定することができる。なお、ベース部41をアウターシャフト2の軸方向端部25の外周面23に加締めることによって、ストッパー部材4をアウターシャフト2の軸方向端部25の外周面23に固定する態様も適用可能である。
【0039】
次に、
図4及び
図5を参照して、ストッパー部材4の爪部42とインナーシャフト3の第2歯32との関係を説明する。
図4に示すように、ストッパー部材4の爪部42は、周方向に沿って等間隔に12設けられる。換言すると、周方向に隣接する爪部42同士の間には、周方向に沿った空間部が設けられる。なお、爪部42が一つのみの場合は、
図5に示すように、当該爪部42の一対の側面423、424のうち、一方の側面423から時計回り方向の周方向に沿って他方の側面424に至るまでの部位が空間部となる。これらの空間部が設けられることにより、後述する
図11に示すように、
図11の矢印方向に向けて爪部42が変形しやすくなるメリットがある。インナーシャフト3の第2歯32は、周方向に沿って等間隔に18設けられる。ただし、本開示は、爪部42の数は12に限定されず、及び第2歯32の数は18に限定されない。例えば、爪部42の数は1であってもよく、任意の複数であってもよい。
図5に示すように、インナーシャフト3の複数の第2歯32について、隣接する第2歯32同士の底部322の周方向に沿った距離は距離L0であり、隣接する第2歯32の頂部321同士の周方向に沿った距離(間隔)は距離L1である。距離L1は、隣接する第2歯32同士の周方向に沿った距離のうちで最大である。爪部42は、正面視において矩形状である。即ち、爪部42の周縁は、径方向に延びる一対の側面423、424と、周方向に延びる径方向内側端421とで矩形状である。爪部42における周方向に沿った距離(幅)L2は、距離L1よりも大きい。この場合、インナーシャフト3に対してストッパー部材4が周方向にどのような位置になっても、爪部42と第2歯32とが軸方向に対向する。
【0040】
なお、爪部42における周方向に沿った距離(幅)L2が距離L1よりも小さい場合であって、且つ、爪部42及び第2歯32が周方向に沿って等間隔に配置される場合は、ストッパー部材4の爪部42の数は、第2歯32の数の約数と異なることが好ましい。本実施形態では、第2歯32の数は、18である。18の約数は、1、2、3、6、9、18である。従って、距離(幅)L2が距離L1よりも小さい場合は、爪部42の数は、1、2、3、6、9、18と異なる数(例えば、10など)であれば、インナーシャフト3に対してストッパー部材4が周方向でどのような位置になっても、爪部42と第2歯32とが軸方向に対向する。
【0041】
また、
図5に示すように、シャフト部33の表面331の半径(中心軸Axから表面331までの距離)を距離L3とし、第2歯32の頂部321の半径(中心軸Axから頂部321までの距離)を距離L4とし、中心軸Axから爪部42の径方向内側端421までの距離を距離L5とする。この場合、距離L5は距離L3よりも大きく、距離L4は距離L5よりも大きい。即ち、爪部42の径方向内側端421は、第2歯32の頂部321よりも径方向内側で、且つ、シャフト部33の表面331よりも径方向外側に位置する。また、
図7で説明したように、ヨーク部34における分岐部341と分岐部342との最大距離は距離L10であるため、中心軸Axから分岐部341の側面までの距離は、距離L10の半分である距離L6である。距離L6は、距離L4よりも大きい。従って、ヨーク部(第1部材)34の径方向外側端は、第2歯32の頂部321よりも径方向外側に位置する。
【0042】
図12は、アウターシャフトにインナーシャフトが嵌合された状態を示す模式的な断面図である。
図13は、インナーシャフトが軸方向に移動してストッパー部材に当たった状態を示す模式的な断面図である。
【0043】
図12に示すように、インナーシャフト3の歯部31がアウターシャフト2の内周21に収容され、第1歯22と第2歯32とが嵌合している場合、段差部332は、ストッパー部材4の爪部42よりも
図12の左側に位置する。次に、
図13に示すように、インナーシャフト3が
図13の右側(矢印参照)にスライドすると、段差部332がストッパー部材4の爪部42に当たり爪部42を
図13の右側に向けて屈曲変形させる。すると、
図6に示す爪部42の径方向内側端421が、径方向内側に移動してシャフト部33の表面331を径方向内側に向けて押し付ける。この状態では、インナーシャフト3がアウターシャフト2に対して移動が困難な所謂ロック状態となる。なお、この押し付け力が、より大きい場合は、爪部42の径方向内側端421がシャフト部33の表面331に食い込んで、インナーシャフト3の移動が更に抑制される。これにより、アウターシャフト2に対するインナーシャフト3の軸方向の抜けを抑制することができる。
【0044】
次いで、ステアリングシャフト1の組付手順を簡単に説明する。まず、インナーシャフト3にストッパー部材4を組み付ける。具体的には、
図7に示すインナーシャフト3の歯部31に、
図11に示すストッパー部材4の爪部42を押し当てて爪部42を
図11の矢印の方向に撓ませながらヨーク部34に向けて軸方向にスライドさせる。ストッパー部材4が歯部31に挿入された状態では、ストッパー部材4の爪部42の径方向内側端421は、第2歯32の頂部321に当たることにより
図11に示す位置よりも径方向外側に移動し、歯部31を通過した後のシャフト部33では、
図11に示す位置に戻る。これにより、ストッパー部材4はシャフト部33に挿入された状態となる。
【0045】
次に、インナーシャフト3をアウターシャフト2に組み付ける。具体的には、インナーシャフト3の歯部31をアウターシャフト2の内方に挿入する。このとき、第1歯22と第2歯32とが嵌合する。
【0046】
そして、アウターシャフト2の軸方向端部25にストッパー部材4を組み付ける。具体的には、
図11に示すストッパー部材4を
図11での右方向に移動させる。ここで、
図11に示すように、折曲げ片部43は、根本部431から径方向内側に向けて傾斜して延びる。また、
図6に示すように、アウターシャフト2の軸方向端部25には凹部24が設けられる。従って、
図6の軸方向端部25にストッパー部材4のベース部41を挿入すると、ストッパー部材4の折曲げ片部43は、根本部431を中心として径方向に弾性変形し、凹部24に篏合される。これにより、
図6に示すように、アウターシャフト2の軸方向端部25にストッパー部材4が固定され、ステアリングシャフト1の組付けが完了する。
【0047】
以上説明したように、実施形態に係るステアリング装置80は、内周21に複数の第1歯22が設けられるアウターシャフト2と、複数の第1歯22と嵌合する複数の第2歯32が外周に設けられる歯部31と、歯部31と軸方向に隣接するシャフト部33と、を有するインナーシャフト3と、アウターシャフト2の軸方向端部25に固定され、アウターシャフト2に対してインナーシャフト3の軸方向の抜けを抑制するストッパー部材4と、を備える。シャフト部33の表面331は、第2歯32の頂部321よりも径方向内側に位置する。ストッパー部材4は、アウターシャフト2における軸方向端部25の外周面23に固定されるベース部41と、ベース部41から径方向内側に延びる複数の爪部42と、を備える。爪部42の径方向内側端421は、第2歯32の頂部321よりも径方向内側で、且つ、シャフト部33の表面331よりも径方向外側に位置する。
【0048】
このように、ストッパー部材4は、ベース部41と、ベース部41から径方向内側に延びる複数の爪部42と、を備える。従来の抜け止め部材の中空円盤部は、周方向に繋がっているため、軸方向に変形しにくい。これに対して、本実施形態のストッパー部材4の複数の爪部42は、互いに繋がっていない。換言すると、周方向に隣接する爪部42同士の間には、周方向に沿った空間部が設けられる。このため、従来の抜け止め部材の中空円盤部よりも
図11の矢印に示す軸方向に変形しやすい。従って、インナーシャフト3の歯部31側からヨーク部34に向けてストッパー部材4を挿入することが容易になる。
【0049】
インナーシャフト3において、シャフト部33の歯部31とは軸方向の反対側にヨーク部(第1部材)34が設けられ、ヨーク部(第1部材)34の径方向外側端は、第2歯32の頂部321よりも径方向外側に位置する。歯部31、シャフト部33及びヨーク部34は一体である。このように、インナーシャフト3が一体成形品であっても、例えば、歯部31側からストッパー部材4を挿入することにより、インナーシャフト3にストッパー部材4を挿入することが容易となる。
【0050】
ストッパー部材4の複数の爪部42のそれぞれは、径方向内側端421が径方向外側端422よりも第2歯32側に位置する。爪部42は、径方向外側端422から
図6の左側に向けて、傾斜して径方向内側端421まで延びる。従って、径方向内側端421と径方向外側端422とが軸方向で同じ位置に配置される場合に対して、
図11の矢印に示す向きに爪部42が変形しやすい。以上より、インナーシャフト3の歯部31側からヨーク部34に向けてストッパー部材4を挿入することが、より容易になる。
【0051】
ストッパー部材4の爪部42の周方向に沿った距離(幅)L2は、インナーシャフト3において周方向に隣接する第2歯32同士の周方向に沿った最大距離である距離L1よりも大きい。この場合、インナーシャフト3に対してストッパー部材4が周方向でどのような位置になっても、爪部42と第2歯32とが軸方向に対向する。従って、インナーシャフト3がアウターシャフト2に対してスライドする際に、インナーシャフト3の第2歯32の段差部332がストッパー部材4の爪部42に当たるため、インナーシャフト3が、より抜けにくくなる。
【0052】
ストッパー部材4の複数の爪部42及びインナーシャフト3の複数の第2歯32はそれぞれ周方向に沿って等間隔に配置され、且つ、ストッパー部材4の爪部42の周方向に沿った距離(幅)L2が、インナーシャフト3において周方向に隣接する第2歯32同士の周方向に沿った最大距離である距離L1よりも小さい場合、ストッパー部材4の爪部42の数は、第2歯32の数の約数と異なる。
【0053】
例えば、第2歯32の数が18の場合を考える。18の約数は、1、2、3、6、9、18である。従って、幅L2が距離L1よりも小さい場合は、爪部42の数は、1、2、3、6、9、18と異なる数(例えば、10など)であれば、インナーシャフト3に対してストッパー部材4が周方向でどのような位置になっても、爪部42と第2歯32とが軸方向に対向する。従って、インナーシャフト3がアウターシャフト2に対してスライドする際に、インナーシャフト3の第2歯32の段差部332がストッパー部材4の爪部42に当たるため、インナーシャフト3が、より抜けにくくなる。
【0054】
[変形例]
次いで、変形例について説明する。
図14は、シール部材でストッパー部材を覆った状態の変形例を示す正面図である。
図15は、
図14の側面部である。
図16は、
図14のXVI-XVI線による断面図である。
【0055】
シール部材5は、ゴムなどの弾性体である。シール部材5は、円筒部51と、リング部52と、を備える。円筒部51は、中心軸Axを中心とする周方向に円環状に延びる。円筒部51の軸方向の一端511は、ストッパー部材4のベース部41の端と軸方向で同一の位置である。なお、一端511は、ストッパー部材4のベース部41の端から突出していてもよい。リング部52は、円筒部51の軸方向の他端512から径方向内側に延びる。円筒部51は、ストッパー部材4のベース部41の開口部411を径方向で覆い、リング部52は、複数の爪部42の間を軸方向で覆う。
【0056】
以上説明したように、変形例では、ストッパー部材4を覆うシール部材5を備える。具体的には、シール部材5の円筒部51は、ストッパー部材4のベース部41の開口部411を径方向で覆い、リング部52は、複数の爪部42の間を軸方向で覆う。ここで、ストッパー部材4に開口部や切欠きなどが設けられる場合、ストッパー部材4が金属製であると、開口部や切欠きの部位に腐食が発生しやすいため、ストッパー部材4の材質をステンレス鋼(SUS材)にし、又はストッパー部材4にメッキ処理等を施す必要がある。しかし、シール部材5でストッパー部材4を覆うことにより、ストッパー部材4の材質変更やメッキ処理等が不要となる。なお、シール部材5は、ゴムなどの弾性体であるため、弾性変形した状態でインナーシャフト3に固定することが可能であり、接着等が不要となる。
【符号の説明】
【0057】
1 ステアリングシャフト
2 アウターシャフト
3 インナーシャフト
4 ストッパー部材
22 第1歯
23 外周面
24 凹部
25 軸方向端部
31 歯部
32 第2歯
33 シャフト部
34 ヨーク部(第1部材)
41 ベース部
42 爪部
43 折曲げ片部
80 ステアリング装置
81 ステアリングホイール
82 アッパーシャフト
82a 入力軸
82b 出力軸
83 操舵力アシスト機構
84、86 ユニバーサルジョイント
87 ピニオンシャフト
88 ステアリングギヤ
88a ピニオン
88b ラック
89 タイロッド
90 ECU
92 減速装置
93 電動モータ
94 トルクセンサ
95 車速センサ
99 電源装置
321 頂部
322 底部
331 表面
332 段差部
411 開口部
421 径方向内側端
422 径方向外側端
431 根本部
432 先端
Ax 中心軸
L1 距離
L2 幅
L3 距離
L4 距離
L6 距離