(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】電子制御装置
(51)【国際特許分類】
F01N 3/08 20060101AFI20240214BHJP
H02P 6/182 20160101ALI20240214BHJP
【FI】
F01N3/08 B
H02P6/182
(21)【出願番号】P 2020131650
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2023-01-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】舛永 康英
(72)【発明者】
【氏名】座間 賢太郎
【審査官】鷲巣 直哉
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-203347(JP,A)
【文献】特開2019-024284(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F01N 3/08
H02P 6/182
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両に搭載される電子制御装置(5)であって、
前記車両は、
内燃機関(100)と、
前記内燃機関から排出された排気を前記車両の外部へ導くように構成された排気管(101)と、
前記排気管内の前記排気へ尿素水を噴射するように構成された噴射部(12)と、
前記尿素水が貯留されるように構成されたタンク(11)と、
前記タンクに貯留されている前記尿素水を前記噴射部へ圧送するように構成されたポンプ(16)と、
前記ポンプを駆動するように構成されたモータ(20)と、
を備え、
前記電子制御装置は、
前記モータへ電流を供給することにより前記モータを駆動するように構成された駆動回路(33)と、
前記モータが回転することに応じて前記モータにおいて発生する誘起電圧を取得し、取得した前記誘起電圧に基づいて前記モータの回転位置を検出するように構成された位置検出部(31)と、
前記位置検出部により検出された前記回転位置に基づいて前記駆動回路を制御するように構成された制御部(31)と、
を備え、
前記制御部は、
前記噴射部へ圧送される前記尿素水の圧力が目標圧に保持されるように前記モータを回転させる加圧制御処理(S200)と、
前記加圧制御処理よりも前に実行される通電制御処理であって、前記モータが回転しないように設定された通電パターンに基づく電流を前記モータへ通電設定時間の間通電させる通電制御処理(S190)と、
前記電子制御装置の温度または前記モータの温度を示す温度情報を取得する温度情報取得処理(S410)と、
前記温度情報取得処理により取得された前記温度情報に基づいて前記通電設定時間を設定する時間設定処理(S420)と、
を実行するように構成されて
おり、
前記通電制御処理は、前記時間設定処理により設定された前記通電設定時間の間、前記通電パターンに基づく電流を前記モータへ通電させる、
電子制御装置。
【請求項2】
請求項1に記載の電子制御装置であって、
前記駆動回路は、前記モータへ三相交流電流を供給するように構成されており、
前記モータは、第1端子(20a)、第2端子(20b)及び第3端子(20c)を備え、前記駆動回路から前記第1端子、前記第2端子及び前記第3端子へ前記三相交流電流が供給されることにより回転するように構成されており、
前記通電制御処理における前記通電パターンは、前記第1端子及び前記第2端子のうちの一方から他方へ一定方向に電流を通電させる第1通電パターンを含む、
電子制御装置。
【請求項3】
請求項2に記載の電子制御装置であって、
前記通電制御処理における前記通電パターンは、さらに、
前記第2端子及び前記第3端子のうちの一方から他方へ一定方向に電流を通電させる第2通電パターンと、
前記第1端子及び前記第3端子のうちの一方から他方へ一定方向に電流を通電させる第3通電パターンと、
を含み、
前記通電制御処理は、前記第1通電パターンに基づく通電、前記第2通電パターンに基づく通電、及び前記第3通電パターンに基づく通電を、設定された順序で順次実行する、
電子制御装置。
【請求項4】
請求項3に記載の電子制御装置であって、
前記通電制御処理は、前記第1通電パターンに基づく通電、前記第2通電パターンに基づく通電、及び前記第3通電パターンに基づく通電を、それぞれ同じ時間実行するように構成されている、電子制御装置。
【請求項5】
請求項1に記載の電子制御装置であって、
前記時間設定処理は、前記温度情報が示す温度が高いほど前記通電設定時間が短くなるように、前記通電設定時間を設定する、電子制御装置。
【請求項6】
請求項1に記載の電子制御装置であって、
前記制御部は、さらに、前記加圧制御処理よりも前の、前記モータの回転が停止されているときに、初期処理を実行するように構成されており、
前記初期処理は、凍結対応処理(S120,S130)及び回転チェック処理(S160)のうちの少なくとも一方を含み、
前記凍結対応処理は、前記尿素水の温度を取得し、取得した前記温度が温度閾値以下であることに応じて前記尿素水を加熱する処理を含み、
前記回転チェック処理は、前記モータが回転し得る電流を前記モータへ供給して、前記モータが回転するか否かを判断する処理を含み、
前記回転チェック処理を実行するように構成された前記制御部は、前記回転チェック処理により前記モータが回転すると判断されたことに応じて前記加圧制御処理を実行するように構成されており、
前記制御部は、前記初期処理の実行後に前記通電制御処理を実行するように構成されている、
電子制御装置。
【請求項7】
請求項6に記載の電子制御装置であって、
前記初期処理は、前記凍結対応処理を含み、
前記制御部は、前記凍結対応処理において前記尿素水の加熱が行われなかった場合に前記通電制御処理を実行し、
前記凍結対応処理において前記尿素水の加熱が行われた場合は前記通電制御処理の実行を回避するように構成されている、
電子制御装置。
【請求項8】
請求項6に記載の電子制御装置であって、
前記凍結対応処理は、前記モータが回転しないように前記モータへ電流を通電させる処理を含む、電子制御装置。
【請求項9】
請求項1に記載の電子制御装置であって、
前記加圧制御処理は、
前記モータの回転数を、前記圧力を前記目標圧に保持させるために必要な回転速度よりも高い目標回転速度に到達させる第1制御処理(S310,S320)と、
前記第1制御処理により前記モータの回転速度が前記目標回転速度に到達した後、前記モータの回転速度を前記目標回転速度から低下させつつ前記圧力を前記目標圧に到達させる第2制御処理(S330,S340)と、
前記第2制御処理により前記圧力が前記目標圧に到達することに応じて、前記圧力が前記目標圧に保持されるように前記モータを回転させる第3制御処理(S350)と、
を含む、電子制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、車両に搭載される電子制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両の内燃機関から排出される排気を尿素水によって浄化する排気浄化システムが知られている。この排気浄化システムは、尿素SCRシステムとも呼ばれている。「SCR」は、「Selective Catalytic Reduction」(選択触媒還元)の略称である。排気浄化システムでは、尿素水タンクに貯留されている尿素水が、尿素水ポンプによって尿素水インジェクタに圧送され、尿素水インジェクタから排気管内へ噴射される。尿素水ポンプはモータにより駆動され、モータは電子制御装置により制御される。
【0003】
電子制御装置は、例えば次のようにモータを制御することにより、尿素水を尿素水インジェクタへ圧送する。即ち、まずモータの回転速度を目標回転速度まで上昇させる。これにより、圧送される尿素水の圧力が上昇していく。電子制御装置は、目標回転速度まで上昇したモータの回転速度を徐々に低下させつつ、尿素水の圧力を目標圧に到達させる。尿素水の圧力が目標圧に到達すると、電子制御装置は、尿素水の圧力が目標圧に保持されるようにモータの回転速度を制御する。尿素水の圧力を目標圧に保持するためのモータの回転速度(以下、「保持回転速度」と称する)は、前述の目標回転速度よりも低い。つまり、電子制御装置は、尿素水の圧送の開始時、尿素水の圧力を目標圧へ迅速に到達させるために、保持回転速度よりも高い目標回転速度までモータの回転数を高める。
【0004】
尿素水ポンプを駆動するモータとして、例えばブラシレスモータが用いられる。電子制御装置は、ブラシレスモータを駆動するために、ブラシレスモータの回転位置を検出する必要がある。回転位置を検出する技術として、例えば特許文献1に開示されているような、いわゆるセンサレス技術が知られている。センサレス技術は、ホールセンサやレゾルバなどのセンサを用いることなく、モータのステータコイルに発生する誘起電圧に基づいて回転位置を検出する技術である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、尿素水ポンプを駆動するモータをセンサレス技術を用いて制御する場合において、次のような課題が見出された。即ち、尿素水ポンプの性能のばらつきなどによって、尿素水ポンプごとに保持回転速度にばらつきがあり、保持回転速度が低い尿素水ポンプも存在する。
【0007】
モータに発生する誘起電圧は、モータの回転速度が低いほど低くなる。電子制御装置が誘起電圧に基づいて回転位置を検出するためには、一般に、一定レベル以上の誘起電圧が必要である。誘起電圧が一定レベルに満たない場合、電子制御装置は回転位置を適正に検出できず、モータを適正に制御できなくなる。
【0008】
そのため、保持回転速度が低い尿素水ポンプを駆動する場合、保持回転速度で回転するモータから一定レベル以上の誘起電圧が発生せず、モータを適正に制御できなくなる可能性がある。
【0009】
また、回転速度が目標回転速度から保持回転速度へ低下する過渡期において、回転速度が一時的に保持回転速度よりも低くなるいわゆるアンダーシュートが発生する場合がある。アンダーシュートが発生すると、たとえ保持回転速度において一定レベル以上の誘起電圧が発生するモータであっても、アンダーシュート発生時に誘起電圧が一定レベルを下回り、これにより当該モータを適正に制御することが困難になる可能性がある。
【0010】
本開示の1つの局面は、尿素水ポンプにより圧送される尿素水の圧力が目標圧に保持されるように、尿素水ポンプを駆動するモータの回転速度をモータの回転位置に基づいて制御する際に、尿素水ポンプの性能のばらつきによらず、モータで発生する誘起電圧に基づいてモータの回転位置を適正に検出することが可能な電子制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本開示の1つの態様による電子制御装置(5)は、車両に搭載される。車両は、内燃機関(100)と、排気管(101)と、噴射部(12)と、タンク(11)と、ポンプ(16)と、モータ(20)とを備える。
【0012】
排気管は、内燃機関から排出された排気を車両の外部へ導く。噴射部は、排気管内の排気へ尿素水を噴射する。タンクは、尿素水が貯留される。ポンプは、タンクに貯留されている尿素水を噴射部へ圧送する。モータは、ポンプを駆動する。
【0013】
電子制御装置は、駆動回路(33)と、位置検出部(31)と、制御部(31)とを備える。駆動回路は、モータへ電流を供給することによりモータを駆動する。位置検出部は、モータが回転することに応じてモータにおいて発生する誘起電圧を取得する。位置検出部は、取得した誘起電圧に基づいてモータの回転位置を検出する。制御部は、位置検出部により検出された回転位置に基づいて駆動回路を制御する。 制御部は、加圧制御処理(S200)と、通電制御処理(S190)とを実行する。加圧制御処理は、噴射部へ圧送される尿素水の圧力が目標圧に保持されるようにモータを回転させる。通電制御処理は、加圧制御処理よりも前に実行される。通電制御処理は、通電パターンに基づく電流を、モータへ、通電設定時間の間通電させる。通電パターンは、モータが回転しないように設定されている。なお、ここでいう「回転しない」とは、文字通り厳密に全く回転しないことのみに限定されるものではなく、例えば、通電により生じた磁界によって瞬間的に微動(1回転よりは少ない回転)することも包含する。
【0014】
このような電子制御装置では、加圧制御処理が実行される前に、通電制御処理が実行される。通電制御処理が実行されると、モータにおいて通電される巻線にジュール熱が発生し、これにより巻線の温度が上昇する。モータに発生する誘起電圧、即ち巻線に発生する誘起電圧は、巻線のインダクタンスに依存する。具体的には、巻線のインダクタンスが大きいほど、巻線に発生する誘起電圧は大きくなる。そのため、通電制御処理によりモータの巻線の温度が高められることで、巻線のインダクタンスが上昇し、これにより、同じ回転速度あたりの誘起電圧の値が大きくなる。
【0015】
つまり、本開示の電子制御装置は、モータで発生する誘起電圧を高めるために、加圧制御処理を実行する前に、モータにおいて誘起電圧が生じる巻線を加熱させることにより、巻線のインダクタンスを上昇させる。そのため、尿素水ポンプの性能のばらつき(具体的には尿素水の圧力を目標圧に保持するために必要な回転速度)によらず、モータで発生する誘起電圧に基づいてモータの回転位置を適正に検出することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】第1実施形態の排気浄化システムの概略構成を示す説明図である。
【
図2】第1実施形態の電子制御装置及び尿素水ポンプの電気的構成を示す説明図である。
【
図3】第1実施形態のポンプ制御処理のフローチャートである。
【
図4】第1実施形態の負荷通電制御処理のフローチャートである。
【
図5】第1実施形態の通電パターンの一例を示す説明図である。
【
図6】第1実施形態の加圧制御処理のフローチャートである。
【
図7】第1実施形態のポンプ制御処理が実行されることによる、尿素水圧力及びモータ回転速度の変化例を示す説明図である。
【
図8】第1実施形態の効果を説明するための説明図である。
【
図9】第2実施形態の通電パターンの一例を示す説明図である。
【
図10】第2実施形態の負荷通電制御処理のフローチャートである。
【
図11】第2実施形態の、温度と通電設定時間との関係の一例を示す説明図である。
【
図12】第3実施形態のポンプ制御処理のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本開示の例示的な実施形態について、図面を参照しながら説明する。
[1.第1実施形態]
(1-1)排気浄化システムの構成
図1に示す第1実施形態の排気浄化システム1は、例えば不図示の車両に搭載されている。車両には、内燃機関100と、排気管101とが搭載されている。内燃機関100はどのように構成されていてもよい。第1実施形態では、内燃機関100は例えばディーゼルエンジンである。内燃機関100から排出された排気は、排気管101を通じて車両の外部へ放出される。
【0018】
排気浄化システム1は、浄化装置3と、電子制御装置5とを備える。浄化装置3は、内燃機関100から排出された排気を、車両の外部へ放出される前に浄化する。電子制御装置5は、浄化装置3を制御する。
【0019】
浄化装置3は、尿素水タンク11と、尿素水インジェクタ12と、配管13と、SCR触媒14と、NOxセンサ15と、尿素水ポンプ16と、圧力センサ17と、第1温度センサ18とを備える。
【0020】
尿素水タンク11は、尿素水が貯留される。尿素水タンク11は、配管13によって尿素水インジェクタ12と接続されている。尿素水タンク11に貯留されている尿素水は、配管13を介して尿素水インジェクタ12へ供給される。具体的には、尿素水は、尿素水ポンプ16によって尿素水インジェクタ12へ圧送、即ち加圧されて供給される。
【0021】
尿素水インジェクタ12は、排気管101における、内燃機関100とSCR触媒14との間に設けられている。より詳しくは、尿素水インジェクタ12は、SCR触媒14における、排気が流入する流入口の近傍に設けられている。尿素水インジェクタ12は、尿素水ポンプ16により供給された尿素水を、排気管101内に噴射する。尿素水インジェクタ12による尿素水の噴射は、例えば電子制御装置5により制御される。
【0022】
SCR触媒14は、排気管101に設けられている。内燃機関100から排出された排気は、SCR触媒14を通じて車両の外部へ放出される。SCR触媒14は、尿素水に含まれるアンモニアによって排気中の窒素酸化物(NOx)を還元することによりNOxを窒素と水蒸気に分解するための触媒である。
【0023】
尿素水インジェクタ12から噴射された尿素水は、SCR触媒14に流入し、SCR触媒14に吸着される。SCR触媒14に吸着した尿素水は、排気の熱により所定温度以上になると加水分解される。具体的には、尿素水は、アンモニアと二酸化炭素とに分解される。
【0024】
NOxセンサ15は、排気管101に設けられている。第1実施形態では、NOxセンサ15は、例えば、SCR触媒14よりも排気の下流側において、SCR触媒14の近傍に配置されている。NOxセンサ15は、排気管101内の排気に含まれているNOxの濃度を検出する。
【0025】
尿素水ポンプ16は、後述するモータ20(
図2参照)を備える。尿素水ポンプ16はモータ20により駆動される。即ち、モータ20が回転することにより、尿素水が配管13を通じて尿素水インジェクタ12へ圧送される。
【0026】
第1温度センサ18は、尿素水の温度を検出する。第1実施形態では、第1温度センサ18は例えば尿素水タンク11内に配置され、尿素水タンク11に貯留されている尿素水の温度を検出する。第1温度センサ18は、具体的には、検出した温度に応じた第1温度検出信号を出力する。第1温度検出信号は、電子制御装置5へ入力される。
【0027】
尿素水ポンプ16について、
図2を参照してより具体的に説明する。
図2に示すように、尿素水ポンプ16は、モータ20と、圧力センサ17とを備える。
圧力センサ17は、尿素水ポンプ16から配管13へて圧送される尿素水の圧力を検出する。具体的には、圧力センサ17は、圧送される尿素水の圧力に応じた圧力検出信号を出力する。圧力検出信号は、電子制御装置5へ入力される。
【0028】
モータ20は、第1実施形態では例えばブラシレスDCモータである。即ち、モータ20は、第1巻線21と、第2巻線22と、第3巻線23と、U相端子20aと、V相端子20bと、W相端子20cとを備える。第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23は、ステータとして機能する。モータ20は、不図示のロータを備える。ロータは、第1実施形態では例えば永久磁石型のロータである。
【0029】
第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23は、第1実施形態では例えば互いにスター結線されている。即ち、第1巻線21の第1端と、第2巻線22の第1端と、第3巻線23の第1端とは、互いに接続されている。第1巻線21の第2端は、U相端子20aに接続されている。第2巻線22の第2端は、V相端子20bに接続されている。第3巻線23の第2端は、W相端子20cに接続されている。U相端子20a、V相端子20b及びW相端子20cは、電子制御装置5に接続されている。
【0030】
(1-2)電子制御装置の構成
電子制御装置5の具体的構成について、
図2を参照して説明する。電子制御装置5は、制御部31と、駆動部32と、駆動回路33と、第2温度センサ34と、電流検出抵抗器R2とを備える。
【0031】
駆動回路33は、不図示のバッテリから抵抗器R1を介して直流電力が供給される。駆動回路33は、バッテリから供給された直流電力を変換してモータ20へ出力する。駆動回路33は、基本的には、バッテリからの直流電力を三相交流電流に変換して出力する。モータ20は、駆動回路33から三相交流電流が供給されることにより回転する。ただし、駆動回路33は、後述するように、三相交流電流とは異なる所定の通電パターンでモータ20へ通電することもある。
【0032】
駆動回路33は、6つのスイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6を備える。即ち、第1実施形態の駆動回路33は、いわゆる三相フルブリッジ回路として構成されている。スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6の各々は、第1実施形態では例えばnチャネル型のMOSFETである。
【0033】
スイッチング素子Q1,Q2,Q3は、いわゆるハイサイドスイッチとして機能する。スイッチング素子Q1は、バッテリの正極からモータ20のU相端子20aに至る第1の通電経路に設けられ、この第1の通電経路を導通または遮断する。具体的には、スイッチング素子Q1のドレインは抵抗器R1を介してバッテリの正極に接続されている。スイッチング素子Q1のソースはモータ20のU相端子20aに接続されている。スイッチング素子Q1のゲートは駆動部32に接続されている。
【0034】
スイッチング素子Q2は、バッテリの正極からモータ20のV相端子20bに至る第2の通電経路に設けられ、この第2の通電経路を導通または遮断する。具体的には、スイッチング素子Q2のドレインは抵抗器R1を介してバッテリの正極に接続されている。スイッチング素子Q2のソースはモータ20のV相端子20bに接続されている。スイッチング素子Q2のゲートは駆動部32に接続されている。
【0035】
スイッチング素子Q3は、バッテリの正極からモータ20のW相端子20cに至る第3の通電経路に設けられ、この第3の通電経路を導通または遮断する。具体的には、スイッチング素子Q3のドレインは抵抗器R1を介してバッテリの正極に接続されている。スイッチング素子Q3のソースはモータ20のW相端子20cに接続されている。スイッチング素子Q3のゲートは駆動部32に接続されている。
【0036】
スイッチング素子Q4,Q5,Q6は、いわゆるローサイドスイッチとして機能する。スイッチング素子Q4は、モータ20のU相端子20aからバッテリの負極に至る第4の通電経路に設けられ、この第4の通電経路を導通または遮断する。具体的には、スイッチング素子Q4のドレインはモータ20のU相端子20aに接続されている。スイッチング素子Q4のソースは、電流検出抵抗R2を介してバッテリの負極に接続されている。スイッチング素子Q4のゲートは駆動部32に接続されている。
【0037】
スイッチング素子Q5は、モータ20のV相端子20bからバッテリの負極に至る第5の通電経路に設けられ、この第5の通電経路を導通または遮断する。具体的には、スイッチング素子Q5のドレインはモータ20のV相端子20bに接続されている。スイッチング素子Q5のソースは、電流検出抵抗R2を介してバッテリの負極に接続されている。スイッチング素子Q5のゲートは駆動部32に接続されている。
【0038】
スイッチング素子Q6は、モータ20のW相端子20cからバッテリの負極に至る第6の通電経路に設けられ、この第6の通電経路を導通または遮断する。具体的には、スイッチング素子Q6のドレインはモータ20のW相端子20cに接続されている。スイッチング素子64のソースは、電流検出抵抗R2を介してバッテリの負極に接続されている。スイッチング素子Q6のゲートは駆動部32に接続されている。
【0039】
駆動部32は、制御部31からの駆動指令に従って、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6のそれぞれのゲートへ個別に駆動信号を出力することにより、スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6を個別に駆動する。スイッチング素子Q1,Q2,Q3,Q4,Q5,Q6が駆動部32により駆動されることにより、モータ20へ電流が供給される。具体的には、駆動部32は、スイッチング素子Q1のゲートへ第1駆動信号UHを出力し、スイッチング素子Q2のゲートへ第2駆動信号VHを出力し、スイッチング素子Q3のゲートへ第3駆動信号WHを出力し、スイッチング素子Q4のゲートへ第4駆動信号ULを出力し、スイッチング素子Q5のゲートへ第5駆動信号VLを出力し、スイッチング素子Q6のゲートへ第6駆動信号WLを出力する。
【0040】
駆動部32は、さらに、モータ20のU相端子20a、V相端子20b及びW相端子20cのそれぞれに接続されている。これにより、駆動部32は、U相端子20aの電圧(以下、「U相電圧」と称する)と、V相端子20bの電圧(以下、「V相電圧」と称する)と、W相端子20cの電圧(以下、「W相電圧」と称する)とが入力される。駆動部32は、入力されたU相電圧、V相電圧及びW相電圧をそれぞれ、そのまま又は適宜変換して、制御部31へ出力する。
【0041】
第2温度センサ34は、電子制御装置5の温度を検出する。第2温度センサ34は、具体的には、検出した温度に応じた第2温度検出信号を出力する。第2温度検出信号は、制御部31へ入力される。なお、第2温度検出信号は、後述する第2実施形態で参照される。
【0042】
電流検出抵抗器R2は、モータ電流、即ちモータ20を流れる電流を検出する。電流検出抵抗器R2の両端間の電圧は、モータ電流に応じて変化する。電流検出抵抗器R2の両端間の電圧は、モータ電流の値を示す電流検出信号として、駆動部32へ入力される。なお、第1実施形態では、電流検出信号はフィルタ回路を介して駆動部32へ入力される。フィルタ回路は、
図2に示すように、抵抗器R5と、抵抗器R6と、コンデンサC1とを備える。フィルタ回路は、主に、電流検出信号に含まれる高周波成分を除去するいわゆるローパスフィルタとして機能する。駆動部32は、入力された電流検出信号を、そのまま又は適宜変換して、制御部31へ出力する。
【0043】
制御部31は、第1実施形態では例えばCPU41及びメモリ42を含むマイクロコンピュータを備えている。制御部31の各種機能は、CPU41が非遷移的実体的記録媒体に格納されたプログラムを実行することにより実現される。この例では、メモリ42が、プログラムを格納した非遷移的実体的記録媒体に該当する。また、このプログラムの実行により、プログラムに対応する方法が実行される。制御部31を構成するマイクロコンピュータの数は1つでも複数でもよい。
【0044】
制御部31は、U相電圧と、V相電圧と、W相電圧と、電流検出信号と、圧力検出信号と、第1温度検出信号と、第2温度検出信号とが入力される。制御部31は、入力されるこれら各種の電圧及び信号に基づいて駆動指令を生成し、その駆動指令を駆動部32へ出力することにより、モータ20への通電を制御(ひいてはモータ20の回転を制御)する。
【0045】
制御部31は、モータ20を回転させる際は、基本的に、1つのハイサイドスイッチと、当該ハイサイドスイッチとはモータ20における接続先が異なる1つのローサイドスイッチとをオンさせることにより、モータ20へ通電する。また、第1実施形態では、制御部31は、パルス幅変調を用いたいわゆるPWM駆動を行うことによりモータ20を回転させる。具体的には、例えば、オンさせる2つのスイッチのうち、一方をオンに維持させ、他方を、演算されたデューティ比に従って周期的にオン及びオフさせる。
【0046】
制御部31は、モータ20を回転させるために、モータ20の回転位置(詳しくはロータの回転位置)に同期して、オンさせるスイッチング素子を切り替える。モータ20の回転位置に同期して駆動回路33を制御するために、制御部31は、モータ20の回転位置を取得する。第1実施形態では、制御部31は、いわゆるセンサレス方式によって回転位置を取得する。
【0047】
即ち、制御部31は、U相電圧、V相電圧及びW相電圧に基づいて、モータ20の回転によりモータ20に発生した誘起電圧を取得する。具体的には、制御部31は、例えば、U相電圧に基づいて、U相端子20aに生じている誘起電圧(以下、「U相誘起電圧」と称する)を取得する。U相誘起電圧は、第1巻線21で発生する誘起電圧に対応する。制御部31は、例えば、V相電圧に基づいて、V相端子20bに生じている誘起電圧(以下、「V相誘起電圧」と称する)を取得する。V相誘起電圧は、第2巻線22で発生する誘起電圧に対応する。制御部31は、例えば、W相電圧に基づいて、W相端子20cに生じている誘起電圧(以下、「W相誘起電圧」と称する)を取得する。W相誘起電圧は、第3巻線23で発生する誘起電圧に対応する。
【0048】
制御部31は、取得したU相誘起電圧、V相誘起電圧及びW相誘起電圧に基づいて、回転位置を演算する。制御部31は、演算した回転位置に基づいて駆動指令を生成することにより、駆動回路33を制御し、延いてはモータ20の回転をさせる。
【0049】
なお、
図2では図示を省略したが、制御部31には、NOxセンサ15からの検出信号も入力される。制御部31は、NOxセンサ15からの検出信号、圧力センサ17からの圧力検出信号などに基づいて、排気中に含まれるNOxがSCR触媒14における還元反応で除去されるように尿素水量を算出する。そして制御部31は、算出した尿素水量の尿素水が噴射されるように尿素水インジェクタ12を制御する。
【0050】
(1-3)ポンプ制御処理
次に、制御部31が実行(詳しくはCPU41が実行)するポンプ制御処理の概要について、
図3を参照して説明する。制御部31は、実行開始条件が成立することに応じて、ポンプ制御処理を実行する。実行開始条件は適宜決めてよい。実行開始条件は、例えば、内燃機関100を始動させるための不図示のスイッチがオンされることに応じて成立してもよい。また例えば、実行開始条件は、内燃機関100が実際に始動したこと、或いは始動して一定時間経過したこと、などに応じて成立してもよい。
【0051】
制御部31は、ポンプ制御処理を開始すると、S110で、始動判定を実行する。具体的には、内燃機関100が始動したか否かを確認し、始動したことが確認された場合、内燃機関100が始動したと判定して、S120に移行する。なお、S110の処理において、内燃機関100が始動したか否かをどのような方法で判定してもよい。
【0052】
S120では、第1温度検出信号に基づき、尿素水の温度が温度閾値以下であるか否かを判断する。S120の処理の主目的は、尿素水が凍結している可能性の有無を確認することにある。温度閾値は、この主目的を適正に達成できるように設定されている。第1実施形態では、温度閾値は例えば0℃である。
【0053】
S120で、尿素水の温度が温度閾値以下である場合は、尿素水が凍結している可能性があると判断して、S130に移行する。S130では、解凍制御処理を実行する。解凍制御処理は、尿素水を加熱することにより尿素水を解凍する処理である。尿素水の加熱はどのように行われてもよい。例えば、尿素水タンク11及び配管13のどちらか一方または両方にヒータを設け、そのヒータを駆動することにより尿素水を加熱してもよい。また例えば、モータ20が回転しない程度の電流をモータ20に供給することによりモータ20を加熱させ、その熱を尿素水に伝達させることにより尿素水を加熱してもよい。
【0054】
S140では、S130の解凍制御処理の実施回数をメモリ42に累積記憶する。なお、この実施回数は、本ポンプ制御処理の開始時に0回に初期化される。S140の処理後はS150に移行する。また、S120で尿素水温度が温度閾値より高い場合は、尿素水が凍結していないものと判断して、S150に移行する。
【0055】
S150では、モータ20を回転させる。S150の処理の目的は、尿素水を圧送することではなく、モータ20が適正に回転するか否かを確認することにある。よって、S150では、その目的を達成し得る程度の電流をモータ20へ供給する。具体的には、モータ20が正常であればモータ20の回転速度がチェック閾値以上となるような値の電流をモータ20へ供給する。
【0056】
S160では、モータ20の回転速度がチェック閾値以上であるか否か判断する。回転速度がチェック閾値より低い場合は、S170へ移行する。S170では、メモリ42に累積記憶されている解凍制御処理の実施回数を確認する。実施回数が規定回数未満の場合は、回転速度がチェック閾値に達しない原因として尿素水が凍結している可能性があると判断し、S130に移行する。規定回数は適宜設定可能である。本実施形態では、規定回数は例えば3回である。
【0057】
実施回数が規定回数に達している場合は、モータ20に何らかの異常が発生している可能性があると判断して、S180に移行する。S180では、モータ異常判定処理を実行する。具体的には、例えばモータ20への通電を停止し、メモリ42に異常判定履歴を記憶する。S180の処理が行われた後は、本ポンプ制御処理を終了する。
【0058】
S160で、回転速度がチェック閾値以上の場合は、モータ20が適正に回転する、つまり正常であると判断して、S190に移行する。
S190では、負荷通電制御処理を実行する。負荷通電制御処理の詳細は、
図4に示す通りである。負荷通電制御処理に移行すると、S210で、通電パターンに基づいてモータ20への通電を行う。
【0059】
負荷通電制御処理の目的は、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23の温度を上昇させることにより、これら第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23のインダクタンス値を上昇させることにある。インダクタンス値を上昇させる目的は、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23のそれぞれで発生する誘起電圧の値を大きくすることにある。一般に、インダクタンス素子に発生する誘起電圧は、インダクタンス値が大きいほど大きくなる。そのため、少しでも高い誘起電圧を発生させるために、後述する加圧制御の前に、負荷通電制御処理を行うことによって、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23を加熱させる。
【0060】
負荷通電制御処理における通電パターンは、第1実施形態では例えば予め設定されている。通電パターンの一例を、
図5に示す。
図5に示す通電パターンは、例えば負荷通電制御が開始された直後の時刻t01から、通電設定時間T後の時刻t02までの間に、モータ20に電流を供給するように設定されている。より具体的には、第1駆動信号UHをHレベルに維持して第1スイッチング素子Q1をオンに維持させる。そして、第6駆動信号WLを、設定されたデューティ比に従って周期的にHレベルまたはLレベルに切り替えることにより、第6スイッチング素子Q6をデューティ駆動(即ち周期的にオン及びオフ)する。
【0061】
通電設定時間Tは、どのように設定されてもよい。第1実施形態では、通電設定時間Tは予め一定の値に設定されている。
この通電パターンにより、モータ20において、U相端子20aから第1巻線21、第3巻線23を経てW相端子20cに至る経路で、一定方向に電流が流れる。なお、この通電パターンに基づく通電が行われても、モータ20は回転しない。逆に言えば、負荷通電制御処理では、モータ20が回転しないように設定された通電パターンでモータ20への通電を行う。なお、ここでいう「回転しない」とは、文字通り厳密に全く回転しないことのみに限定されるものではなく、例えば、通電により生じた磁界によって瞬間的に微動(1回転よりは少ない回転)することも包含する。
【0062】
S220では、通電時間、即ち通電パターンに基づく通電を開始してからの経過時間が、通電設定時間Tに達したか否か判断する。通電時間が通電設定時間Tに達していない場合は、S210に戻り、通電を継続する。通電時間が通電設定時間Tに達した場合は、負荷通電制御を終了し、S200(
図3参照)に移行する。
【0063】
S200では、加圧制御を実行する。加圧制御の詳細は、
図6に示す通りである。加圧制御に移行すると、S310で、起動制御を実行する。即ち、モータ20の回転速度を目標回転速度へ迅速に上昇させるための電流をモータ20へ供給する。目標回転速度は、尿素水の圧力を目標値に保持するために必要な保持回転速度よりも高い速度に設定されている。
【0064】
S320では、回転速度が目標回転速度に達したか否か判断する。目標回転速度に達していない場合は、S310に移行する。目標回転速度に達した場合は、S330に移行する。
【0065】
S330では、圧力調整制御処理を実行する。具体的には、モータ20の回転速度を、目標回転速度から低下させつつ、尿素水の圧力を上昇させて目標圧に到達させる。S340では、圧力検出信号に基づき、尿素水の圧力が目標圧に到達したか否か判断する。尿素水の圧力が目標圧に到達していない場合は、S330に移行する。尿素水の圧力が目標圧に到達した場合は、S350に移行する。
【0066】
S350では、圧力保持制御を実行する。具体的には、圧力検出信号に基づき、尿素水の圧力が目標圧に保持されるようにモータ20の回転速度を制御する。圧力保持制御においては、モータ20の回転速度は概ね保持回転速度またはその近傍に制御される。
【0067】
上記のようなポンプ制御処理が実行されることにより尿素水の圧力及びモータの回転速度が変化することの一例を、
図7を参照して説明する。
図7の例では、時刻t1でポンプ制御処理の実行開始条件が成立すると、まず、凍結チェックが実行される。凍結チェックは、
図3のS120の処理に対応する。
図7は、凍結チェックの結果、尿素水が凍結していなかった例、即ち尿素水温度が温度閾値より大きかった例を示している。
【0068】
時刻t2では、モータチェックが実行される。モータチェックは、
図3のS150~S170の処理に対応する。
図7は、モータチェックの結果、回転速度がチェック閾値以上であって、モータチェック時に解凍制御が実行されなかった例を示している。
【0069】
時刻t3では、
図3のS190(詳しくは
図4)に示す負荷通電制御処理が実行される。この負荷通電制御処理により、第1実施形態では第1巻線21及び第3巻線23に電流が流れ、この電流により発生するジュール熱により第1巻線21及び第3巻線23の温度が上昇する。第1巻線21及び第3巻線23で発生したジュール熱は、近傍の第2巻線22に伝導されるため、第2巻線22の温度も上昇する。これにより、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23それぞれのインダクタンス値が上昇する。
【0070】
負荷通電制御処理の終了後、時刻t4で、
図3のS200(詳しくは
図6)に示す加圧制御が実行される。加圧制御の開始後、S310~S320の処理により、時刻t5で回転速度が目標回転速度に到達する。その後、S330~S340の処理により、尿素水の圧力が目標圧に到達するようにモータ20の回転速度が制御される。
【0071】
時刻t6で尿素水の圧力が目標圧に到達すると、S350の処理が実行されることにより、尿素水の圧力が目標圧を維持するようにモータ20の回転速度が制御される。
(1-4)第1実施形態の効果
以上説明した第1実施形態によれば、以下の効果を奏する。
【0072】
即ち、第1実施形態では、加圧制御処理200が実行される前に、負荷通電制御処理190が実行される。負荷通電制御処理190が実行されると、第1巻線21及び第3巻線23にジュール熱が発生し、これにより第1巻線21及び第3巻線23の温度が上昇する。さらに、隣接する第2巻線22の温度も、第1巻線21及び第3巻線23から熱が伝達されることによって上昇する。これにより、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23のインダクタンス値が上昇し、同じ回転速度あたりの誘起電圧の値が大きくなる。
【0073】
そのため、尿素水ポンプ16の性能のばらつき(具体的には尿素水の圧力を目標圧に保持するために必要な保持回転速度)によらず、モータ20で発生する誘起電圧に基づいてモータ20の回転位置を適正に検出することが可能となる。
【0074】
また、第1実施形態の負荷通電制御処理では、
図5に例示した通電パターンでモータ20への通電が行われる。このような通電パターンにより、モータ20を回転させることなく、また制御部31による制御負荷を増大させることなく、モータ20の温度を容易に上昇させることができる。
【0075】
第1実施形態による作用効果を、
図8を参照して補足説明する。
図8において、「参考例」とは、負荷通電制御処理を含まないポンプ制御処理を実行した場合の回転速度、尿素水圧力及び誘起電圧の変化例を模式的に示したものである。一方、
図8において「実施形態」とは、第1実施形態のポンプ制御処理を実行した場合の回転速度、尿素水圧力及び誘起電圧の変化例を模式的に示したものである。
【0076】
図8に示すように、「参考例」では、時刻t11で加圧制御処理が開始されることにより、モータ20の回転速度が上昇していき、目標回転速度に達する。その後、圧力調整制御処理が行われることにより、時刻t12で尿素水の圧力が目標圧に達する。その後、圧力保持制御処理が実行されることにより、圧力を目標圧に保持させるべく、回転速度が低下され、やがて保持回転速度またはその近傍で推移するようになる。このとき、尿素水ポンプ16の性能のばらつきによって、保持回転速度が低く、その保持回転速度で発生する誘起電圧を制御部31が検出できない可能性がある。
【0077】
制御部31は、誘起電圧が例えば所定の検出下限レベル以上の場合に、その誘起電圧に基づいて回転位置を検出できるように構成されており、誘起電圧が検出下限レベル未満の場合は、回転位置を検出できない。制御部31は、誘起電圧に基づいて回転位置を検出できない状態においては、モータ20を停止させるように構成されている。
【0078】
図8に示す「参考例」は、保持回転速度が低く、その保持回転速度で発生する誘起電圧は検出下限レベル未満となる例を示している。そのため、「参考例」では、圧力保持制御処理への移行後、回転位置が検出できなくなって、モータ20が停止される。
【0079】
これに対し、
図8に示す「実施形態」では、時刻t11の前に予め負荷通電制御が実行されることにより、モータ20が加熱されている。そのため、圧力保持制御処理への移行後に回転速度が保持回転速度に低下しても、検出下限レベル以上の誘起電圧が発生する。また、圧力保持制御処理に移行したとき、「実施形態」における時刻t13に示すように、回転速度が一時的に保持回転速度よりも低下するアンダーシュートが発生する場合があるが、
図8の例では、アンダーシュートが発生したときも、検出下限レベル以上の誘起電圧が発生する。
【0080】
このように、第1実施形態によれば、加圧制御処理の前に予め負荷通電制御が実行されることで、圧力保持制御への移行後も誘起電圧に基づいて回転速度を適切に検出してモータ20を適切に回転させることができる。
【0081】
[2.第2実施形態]
負荷通電制御処理の他の例を、第2実施形態として説明する。第2実施形態では、
図9に例示する通電パターンにてモータ20への通電を行う。この通電パターンは、第1通電パターンと、第2通電パターンと、第3通電パターンとを有する。第1通電パターンは、例えば負荷通電制御処理の開始直後の時刻t21から時刻t22までの第1通電設定時間T1の間で用いられる。第2通電パターンは、第1通電パターンによる通電が終了した後の時刻t23から時刻t24までの第2通電設定時間T2の間で用いられる。第3通電パターンは、第2通電パターンによる通電が終了した後の時刻t25から時刻t26までの第3通電設定時間T3の間で用いられる。
【0082】
第1通電パターンは、
図5に例示した第1実施形態の通電パターンと同じである。
第2通電パターンは、第3駆動信号WHをHレベルに維持して第3スイッチング素子Q3をオンに維持させる。そして、第5駆動信号VLを、設定されたデューティ比に従って周期的にHレベルまたはLレベルに切り替えることにより、第5スイッチング素子Q5をデューティ駆動する。この第2通電パターンにより、モータ20において、W相端子20cから第3巻線23、第2巻線22を経てV相端子20bに至る経路で、一定方向に電流が流れる。この第2通電パターンに基づく通電が行われても、モータ20は回転しない。
【0083】
第3通電パターンは、第2駆動信号VHをHレベルに維持して第2スイッチング素子Q2をオンに維持させる。そして、第4駆動信号ULを、設定されたデューティ比に従って周期的にHレベルまたはLレベルに切り替えることにより、第4スイッチング素子Q4をデューティ駆動する。この第3通電パターンにより、モータ20において、V相端子20bから第2巻線22、第1巻線21を経てU相端子20aに至る経路で、一定方向に電流が流れる。この第3通電パターンに基づく通電が行われても、モータ20は回転しない。
【0084】
第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3は、
図5に示した第1実施形態の通電設定時間Tと同じであってもよいし、異なっていてもよい。また、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3は、いずれも同じ値であってもよいし、少なくとも2つ以上が互いに異なる値であってもよい。また、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3の少なくとも一つは、予め一定値に設定されていてもよいし、制御部31により演算されてもよい。
【0085】
第2実施形態では、例えば、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3はそれぞれ、制御部31により、ポンプ制御処理が実行される毎に演算されて設定される。
【0086】
制御部31は、具体的には、第2温度センサ34からの第2温度検出信号が示す電子制御装置5の温度に応じて、
図11に例示する設定テーブルに基づき、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3を設定する。即ち、制御部31は、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3をそれぞれ、電子制御装置5の温度が高いほど短くなるように設定する。この場合においても、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3は互いに同じ値に設定されてもよいし、少なくとも二つ以上が互いに異なる値に設定されてもよい。
【0087】
なお、第2温度センサ34は、本実施形態では一例として電子制御装置5に設けられている。そのため、第2温度センサ34により検出される温度は、電子制御装置5の温度である。ただし、第2温度センサ34が設けられている主目的の1つは、モータ20の温度に応じた通電設定時間を決定することにある。
【0088】
つまり、第2実施形態では、第2温度センサ34により検出された温度は概ねモータ20の温度を表しているものと推定する。そして、その推定に基づき、第2温度検出信号が示す温度が高いほど、モータ20の温度も高く、加熱が必要な熱量は少ないものと推定して、温度が高いほど通電時間が短くなるように通電設定時間を設定する。
【0089】
第2実施形態の負荷通電制御処理について、
図10を参照して説明する。制御部31は、
図10の負荷通電制御処理に移行すると、S410で、温度情報を取得する。具体的には、第2温度検出信号が示す電子制御装置5の温度を取得する。S420では、通電設定時間を設定する。具体的には、S410で取得した温度に基づき、
図11に示す設定テーブルを参照して、第1通電設定時間T1、第2通電設定時間T2及び第3通電設定時間T3を演算により設定する。
【0090】
S430では、第1通電パターンに基づいてモータ20への通電を行う。S440では、通電時間、即ち第1通電パターンに基づく通電を開始してからの経過時間が、第1通電設定時間T1に達したか否か判断する。通電時間が第1通電設定時間T1達していない場合は、S430に戻り、通電を継続する。通電時間が第1通電設定時間T1に達した場合は、S450に移行する。
【0091】
S450では、第2通電パターンに基づいてモータ20への通電を行う。S460では、通電時間、即ち第2通電パターンに基づく通電を開始してからの経過時間が、第2通電設定時間T2に達したか否か判断する。通電時間が第2通電設定時間T2達していない場合は、S450に戻り、通電を継続する。通電時間が第2通電設定時間T2に達した場合は、S470に移行する。
【0092】
S470では、第3通電パターンに基づいてモータ20への通電を行う。S480では、通電時間、即ち第3通電パターンに基づく通電を開始してからの経過時間が、第3通電設定時間T3に達したか否か判断する。通電時間が第3通電設定時間T3達していない場合は、S470に戻り、通電を継続する。通電時間が第3通電設定時間T3に達した場合は、負荷通電制御を終了し、S200(
図3参照)に移行する。
【0093】
このような第2実施形態によれば、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23をそれぞれ自ら発熱させることにより、これらを均等に加熱させることができる。そのため、保持回転速度で回転しているときであっても、第1巻線21、第2巻線22及び第3巻線23からの誘起電圧に基づいて回転位置をより適正に検出することが可能となる。
【0094】
なお、第1通電パターン、第2通電パターン及び第3通電パターンに基づく通電を、
図9に示した順序とは異なる順序で実行してもよい。また、第1通電パターン、第2通電パターン及び第3通電パターンのうちいずれか2つのみを実行してもよい。
【0095】
[3.第3実施形態]
ポンプ制御処理の他の例を、第3実施形態として説明する。
図12に示す第3実施形態のポンプ制御処理は、S185を除き、
図3に示した第1実施形態のポンプ制御処理と同じである。
【0096】
第3実施形態のポンプ制御処理では、S160で回転速度がチェック閾値以上と判断された場合、S185で、本ポンプ制御処理の開始後にS130解凍制御を実行した履歴が有るか否か判断する。この判断は、例えば、S140でメモリ42に記憶された実施回数を参照し、実施回数が所定回数(例えば1回)以上である場合に、解凍制御の実行履歴があると判断してもよい。
【0097】
S185で、解凍制御の実行履歴が無いと判断された場合は、モータ20の温度が低い可能性があることから、S190に移行して負荷通電制御処理を実行する。
一方、S185で、解凍制御の実行履歴が有ると判断された場合は、解凍制御処理によって発生した熱がモータ20に伝達してモータ20が加熱されている可能性がある。特に、解凍制御処理が例えばモータ20への通電によって行われる場合は、その解凍制御処理によってモータ20がある程度加熱されている。そこで、S185で、解凍制御の実行履歴が有ると判断された場合は、S190の負荷通電制御処理を実行することなく、S200に移行して加圧制御処理を実行する。
【0098】
このような第3実施形態によれば、負荷通電制御処理を必ずしも実行する必要がないことが想定される状況においては負荷通電制御処理が実行されない。そのため、負荷通電制御処理にかかる消費電力を低減することが可能となる。
【0099】
[4.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0100】
(4-1)負荷通電制御処理における通電パターンは、モータ20が回転しないような通電パターンである限り、どのように設定されていてもよい。例えば、モータ20のU相端子20a、V相端子20b及びW相端子20cのうちどの端子から流入させてどの端子から流出させてもよい。また、PWM駆動することは必須ではない。
【0101】
(4-2)駆動回路33は、三相フルブリッジ回路に限定されない。駆動回路33は、モータ20へ三相交流電流を供給可能などのような回路であってもよい。
(4-3)圧力センサ17は、尿素水インジェクタ12へ供給される尿素水の圧力を検出可能などの位置に配置されていてもよい。例えば配管13内に配置されてもよい。
【0102】
(4-4)第2温度センサ34は、モータ20の温度に応じた通電設定時間を決定するために設けられている。そのため、第2温度センサ34は、当該目的を達成し得るどの位置に設けられてもよい。第2温度センサ34は、モータ20の温度を直接検出できるようにモータ20に設けられてもよい。
【0103】
(4-5)本開示のモータは、ブラシレスモータに限定されない。本開示のモータは、回転により誘起電圧が発生するモータであって、その誘起電圧が回転位置の検出に用いられるようなモータであれば、どのようなモータであってもよい。
【0104】
(4-6)本開示のモータは、スター結線されたモータに限定されない。本開示は、例えばデルタ結線されたモータに対し手も適用可能である。
(4-7)本開示に記載の電子制御装置5及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の電子制御装置5及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の電子制御装置5及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。電子制御装置5に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0105】
(4-8)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0106】
(4-9)上述した電子制御装置5の他、当該電子制御装置5を構成要素とするシステム、当該電子制御装置5としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、電子制御装置5により実現される方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0107】
1…排気浄化システム、5…電子制御装置、11…尿素水タンク、12…尿素水インジェクタ、13…配管、14…SCR触媒、16…尿素水ポンプ、17…圧力センサ、18…第1温度センサ、20…モータ、20a…U相端子、20b…V相端子、20c…W相端子、21…第1巻線、22…第2巻線、23…第3巻線、31…制御部、33…駆動回路、34…第2温度センサ、100…内燃機関、101…排気管。