(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2024-02-13
(45)【発行日】2024-02-21
(54)【発明の名称】航跡予測装置、航跡予測方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
G08G 5/00 20060101AFI20240214BHJP
B64F 1/36 20240101ALI20240214BHJP
【FI】
G08G5/00 A
B64F1/36
(21)【出願番号】P 2020137927
(22)【出願日】2020-08-18
【審査請求日】2023-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000004237
【氏名又は名称】日本電気株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】半田 泰
(72)【発明者】
【氏名】吉田 太郎
(72)【発明者】
【氏名】藤田 裕貴
【審査官】高島 壮基
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-42694(JP,A)
【文献】国際公開第2020/116264(WO,A1)
【文献】特開2008-14870(JP,A)
【文献】特開2008-97454(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G08G 1/00-99/00
B64F 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、前記注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出し、算出した複数の前記重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出する重心航跡算出部と、
複数の過去航跡のそれぞれを前記注目する過去航跡とすることにより算出された前記重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出する信頼度算出部と、
前記重心航跡のうち前記信頼度に基づいて一つの前記重心航跡を選択する重心航跡選択部と、
移動体の予測される航跡として、前記移動体の観測された座標から、選択された前記重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する航跡予測部と
を有する航跡予測装置。
【請求項2】
前記信頼度算出部は、前記注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から前記所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点とから構成される測定点群のばらつき度合いに基づいて前記信頼度を算出する
請求項1に記載の航跡予測装置。
【請求項3】
前記信頼度算出部は、一つの前記重心航跡に対して前記重心座標点毎の前記ばらつき度合いを算出し、算出した前記ばらつき度合いに基づいて前記重心座標点毎の信頼度を算出し、算出した信頼度の平均値を当該重心航跡の前記信頼度とする
請求項2に記載の航跡予測装置。
【請求項4】
前記航跡予測部は、収束の度合いを定めるパラメータ値として、前記航跡予測部により前記移動体の予測される航跡として算出される航跡と、正解データである所定の航跡との差分が所定の閾値以下となるよう学習された値を用いて、前記移動体の予測される航跡を算出する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の航跡予測装置。
【請求項5】
前記重心航跡算出部は、前記所定の範囲の大きさを定めるパラメータ値として、前記航跡予測部により前記移動体の予測される航跡として算出される航跡と、正解データである所定の航跡との差分が所定の閾値以下となるよう学習された値を用いて、前記重心航跡を算出する
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の航跡予測装置。
【請求項6】
前記航跡予測部により予測された航跡を表示するよう制御する表示制御部をさらに有する
請求項1乃至5のいずれか1項に記載の航跡予測装置。
【請求項7】
前記移動体は、航空機である
請求項1乃至6のいずれか1項に記載の航跡予測装置。
【請求項8】
注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、前記注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出し、算出した複数の前記重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出し、
複数の過去航跡のそれぞれを前記注目する過去航跡とすることにより算出された複数の前記重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出し、
前記複数の重心航跡のうち前記信頼度に基づいて一つの前記重心航跡を選択し、
移動体の予測される航跡として、前記移動体の観測された座標から、選択された前記重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する
航跡予測方法。
【請求項9】
注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、前記注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出し、算出した複数の前記重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出する重心航跡算出ステップと、
複数の過去航跡のそれぞれを前記注目する過去航跡とすることにより算出された複数の前記重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出する信頼度算出ステップと、
前記複数の重心航跡のうち前記信頼度に基づいて一つの前記重心航跡を選択する重心航跡選択ステップと、
移動体の予測される航跡として、前記移動体の観測された座標から、選択された前記重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する航跡予測ステップと
をコンピュータに実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は航跡予測装置、航跡予測方法、及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
移動体の移動を予想する技術についての研究が行われている。例えば、特許文献1は、所定の運動モデルに基づいて、目標の移動の予測を行うことについて開示している。
【0003】
ところで、レーダーによる通常の目標予測とは、目標である航空機の位置(緯度、経度、高度)・速度などの測定量をデジタル処理により推定し、次の測定量を予測することである。このデジタル処理を行う追尾フィルタは、カルマンフィルタなどを用いて次の測定量を求める。基本的には一連の測定量(航空機一機の航跡位置)が処理の対象であり、現在の測定量と1つ前の状態予測値のみから、現在の推定値と1つ先の状態予測値を推定する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述した目標予測方式では過去の測定量、すなわち過去の別の航跡についての測定量は使われない。このことは複数の航跡位置による膨大な測定量が得られていても、それらの相関関係は処理されないことを示す。言い換えれば、過去の複数の航跡の位置を取り込み、その統計処理から一本の航跡を予測する予測方法が提供されていないことになる。
【0006】
本開示はこのような背景を鑑みてなされたものであり、過去の複数の航跡の情報に基づいて、移動体の航跡を予測することができる航跡予測装置、航跡予測方法、及びプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の第1の態様にかかる航跡予測装置は、
注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、前記注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出し、算出した複数の前記重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出する重心航跡算出部と、
複数の過去航跡のそれぞれを前記注目する過去航跡とすることにより算出された前記重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出する信頼度算出部と、
前記重心航跡のうち前記信頼度に基づいて一つの前記重心航跡を選択する重心航跡選択部と、
移動体の予測される航跡として、前記移動体の観測された座標から、選択された前記重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する航跡予測部と
を有する。
【0008】
本開示の第2の態様にかかる航跡予測方法では、
注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、前記注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出し、算出した複数の前記重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出し、
複数の過去航跡のそれぞれを前記注目する過去航跡とすることにより算出された複数の前記重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出し、
前記複数の重心航跡のうち前記信頼度に基づいて一つの前記重心航跡を選択し、
移動体の予測される航跡として、前記移動体の観測された座標から、選択された前記重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する。
【0009】
本開示の第3の態様にかかるプログラムは、
注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、前記注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出し、算出した複数の前記重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出する重心航跡算出ステップと、
複数の過去航跡のそれぞれを前記注目する過去航跡とすることにより算出された複数の前記重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出する信頼度算出ステップと、
前記複数の重心航跡のうち前記信頼度に基づいて一つの前記重心航跡を選択する重心航跡選択ステップと、
移動体の予測される航跡として、前記移動体の観測された座標から、選択された前記重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する航跡予測ステップと
をコンピュータに実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本開示によれば、過去の複数の航跡の情報に基づいて、移動体の航跡を予測することができる航跡予測装置、航跡予測方法、及びプログラムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】実施の形態1にかかる航跡予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】重心航跡算出部が参照する過去航跡の例を示す模式図である。
【
図3】重心座標点及び重心航跡について示す模式図である。
【
図5】表示制御部による表示内容の一例を示す模式図である。
【
図6】実施の形態1にかかる航跡予測装置のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
【
図7】実施の形態1にかかる航跡予測装置の動作の一例を示すフローチャートである。
【
図8】実施の形態2にかかる航跡予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。
<実施の形態1>
図1は実施の形態1にかかる航跡予測装置100の構成の一例を示すブロック図である。航跡予測装置100は、移動体の移動を予測する装置である。本実施の形態では、一例として、移動体は航空機である。
【0013】
図1に示すように、航跡予測装置100は、データ取得部101と、データ記憶部102と、重心航跡算出部103と、信頼度算出部104と、重心航跡選択部105と、航跡予測部106と、表示制御部107とを有する。
【0014】
データ取得部101は、移動体の位置についてのデータを取得する。ここで、データ取得部101は、過去の移動体の航跡についてのデータを取得してもよいし、移動の予測対象の移動体の最新の位置データを取得してもよい。
【0015】
以下の説明では、過去の航跡を過去航跡と称す。すなわち、過去航跡は、後述する航跡予測部106による予測対象の航跡とは別の航跡であって、過去に観測された当該移動体の航跡もしくは過去に観測された当該移動体とは別の移動体の航跡をいう。
【0016】
データ取得部101は、例えば、パッシブセンサが受信した信号に基づいて、移動体の位置の観測値を生成することにより、当該移動体の位置データ(座標データ)を取得してもよい。また、データ取得部101は、位置の観測値を生成する他の装置から位置データを受信することにより、これを取得してもよい。データ取得部101は、取得したデータをデータ記憶部102に記憶する。
【0017】
航跡は、離散的に観測された移動体の位置データ(座標データ)を観測時刻の順に並べたデータである。すなわち、航跡は、同一の移動体について観測された当該移動体の位置を示す座標点を観測順に連結して得られる軌跡である。位置の観測は、例えば不定期に行われるが、定期的に行われてもよい。本実施の形態では、位置データ、すなわち座標データは、移動体の経度、緯度、及び高度からなる。ここで、例えば、移動体の経度はx座標に対応し、移動体の緯度はy座標に対応し、移動体の高度はz座標に対応する。
【0018】
データ記憶部102は、航跡予測装置100に用いられる、移動体の位置についてのデータを記憶する記憶媒体である。なお、本実施の形態では、データ記憶部102には、後述する重心航跡算出部103の処理に先立ち、予め、複数の過去航跡が記憶されているものとする。
【0019】
重心航跡算出部103は、データ記憶部102に記憶されている複数の過去航跡を参照し、これらの平均的な航跡(以下で述べる重心航跡)を算出する。
【0020】
図2は、重心航跡算出部103が参照する過去航跡の例を示す模式図である。
図2に示した例では、重心航跡算出部103が参照する過去航跡群の一例として5本の過去航跡90が示されている。これらの過去航跡90は、例えば、データ記憶部102に記憶されている過去航跡のうち、所定の空間領域に存在する航跡群であってもよいし、ユーザにより選択された航跡群であってもよい。また、複数の過去航跡90は、同一の移動体についての複数回の飛行により得られる航跡であってもよいし、異なる移動体による飛行により得られる航跡であってもよい。
図2に示されるように、各過去航跡90は、観測された移動体の位置の座標である測定点を、同一の移動体について時系列に接続した軌跡のデータである。なお、
図2に示した例では、例えば、各航空機が、3次元座標系を左から右に、すなわちx座標の値が大きくなる方向に移動した場合の軌跡が示されている。
【0021】
重心航跡算出部103は、複数の過去航跡90のうち注目する過去航跡90を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡90を構成する測定点との重心座標点(平均座標点)を算出する。重心航跡算出部103は、当該注目する過去航跡90を構成する測定点のそれぞれに対して重心座標点を算出する。そして、重心航跡算出部103は、算出した複数の重心座標点(平均座標点)により表される航跡である重心航跡を算出する。
【0022】
重心座標点と重心航跡について、図を用いてより詳細に説明する。
図3は、重心座標点及び重心航跡について示す模式図である。なお、
図3では、理解を容易にするために、重心航跡算出部103が3本の過去航跡90a、90b、90cを参照する場合を示す。過去航跡90aは、測定点P
a1、P
a2、P
a3により構成される過去航跡である。また、過去航跡90bは、測定点P
b1、P
b2、P
b3により構成される過去航跡である。また、過去航跡90cは、測定点P
c1、P
c2、P
c3により構成される過去航跡である。また、過去航跡90a、90b、90cは、図に示されるように、各航空機が、3次元座標系を左から右に、すなわちx座標の値が大きくなる方向に移動した場合の軌跡である。換言すると、過去航跡90a、90b、90cは、ある軸(ここではx軸)における移動方向が同じである航跡群である。
【0023】
なお、以下の説明では、過去航跡90a、90b、90cについて、特に区別することなく言及する場合、単に過去航跡90と称すこととする。また、同様に、測定点Pa1、Pa2、Pa3、Pb1、Pb2、Pb3、Pc1、Pc2、Pc3について、特に区別することなく言及する場合、単に測定点Pと称すこととする。
【0024】
図3に示した例では、各測定点Pを中心とし、半径がrである球91が描かれている。この半径rは、上述の所定の範囲を規定するパラメータである。ここで、過去航跡90aを注目する過去航跡とした場合の重心航跡の算出について説明する。この場合、重心航跡算出部103は、まず、過去航跡90aを構成する測定点のうち最初の測定点である測定点P
a1を中心とする半径がrの球91を座標系に設定する。そして、この球91内に存在する他の過去航跡90(すなわち、過去航跡90b及び過去航跡90c)の測定点を抽出する。ただし、重心航跡算出部103は、一つの他の過去航跡90について、球91内に複数の測定点がある場合には、注目する過去航跡90aを構成する測定点P
a1との距離が最短である一つの測定点を抽出する。
【0025】
図3に示した例では、重心航跡算出部103は、測定点P
a1を中心とする球91内の他の過去航跡90の測定点Pとして、測定点P
b1と測定点P
c1を抽出する。なお、他の過去航跡90の測定点Pが球91内に含まれるか否かは、半径rと、以下の式(1)により算出される、球91の中心である測定点Pと他の測定点Pの距離とを比較することにより判定できる。すなわち、球91の中心である測定点Pの座標P
Oと他の過去航跡90の測定点Pの座標P
Pとがなすベクトルの距離を半径rと比較することにより判定できる。
【0026】
【0027】
なお、式(1)において、PO,xはPOのx座標であり、PO,yはPOのy座標であり、PO,zはPOのz座標である。同様に、PP,xはPPのx座標であり、PP,yはPpのy座標であり、PP,zはPPのz座標である。
【0028】
次に、重心航跡算出部103は、球91の中心である測定点P
a1と抽出された測定点P
b1及びP
c1からなる点群について、それらの重心座標点(平均座標点)を算出する。すなわち、
図3に示した例では、測定点P
a1、P
b1、及びP
c1の重心座標点G
1が算出される。なお、重心座標点は公知の任意の計算手法により算出可能である。
【0029】
重心航跡算出部103は、注目する過去航跡90である過去航跡90aの次の測定点である測定点Pa2についても、同様に、重心座標点を算出する。すなわち、重心航跡算出部103は、測定点Pa2を中心とする半径がrの球91を座標系に設定し、この球91内に存在する他の過去航跡90(すなわち、過去航跡90b及び過去航跡90c)の測定点を抽出する。
【0030】
図3に示した例では、重心航跡算出部103は、測定点P
a2を中心とする球91内の他の過去航跡90の測定点Pとして、測定点P
b2と測定点P
c2を抽出する。そして、重心航跡算出部103は、球91の中心である測定点P
a2と抽出された測定点P
b2及びP
c2からなる点群について、それらの重心座標点を算出する。すなわち、
図3に示した例では、測定点P
a2、P
b2、及びP
c2の重心座標点G
2が算出される。
【0031】
そして、重心航跡算出部103は、注目する過去航跡90である過去航跡90aの次の測定点である測定点Pa3についても、同様に、重心座標点を算出する。すなわち、重心航跡算出部103は、測定点Pa3を中心とする半径がrの球91を座標系に設定し、この球91内に存在する他の過去航跡90(すなわち、過去航跡90b及び過去航跡90c)の測定点を抽出する。
【0032】
図3に示した例では、重心航跡算出部103は、測定点P
a3を中心とする球91内の他の過去航跡90の測定点Pとして、測定点P
b3を抽出する。そして、重心航跡算出部103は、球91の中心である測定点P
a3と抽出された測定点P
b3からなる点群について、それらの重心座標点を算出する。すなわち、
図3に示した例では、測定点P
a3及びP
b3の重心座標点(すなわち、これらの中点)G
3が算出される。
【0033】
このような重心座標点の算出により、重心航跡算出部103は、算出した複数の重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出する。すなわち、上述した例では、重心航跡算出部103は、重心座標点G1、G2、及びG3を繋げることにより表される重心航跡81を得る。つまり、第1の時刻の測定点(この例ではPa1)に対応する重心座標点(この例ではG1)から第N(Nは2以上の整数であり、この例ではN=3)の時刻の測定点(この例ではPa3)に対応する重心座標点(この例ではG3)までを順番に連結した航跡を得る。
【0034】
重心航跡算出部103は、注目する過去航跡90を別の過去航跡90に変更して、同様に、重心航跡を算出する。具体的には、重心航跡算出部103は、過去航跡90bを注目する過去航跡90として、重心航跡を算出する。すなわち、重心航跡算出部103は、過去航跡90bを構成する測定点Pを中心とする球91を設定し、球91に含まれる他の過去航跡90a及び90cの測定点Pを抽出する。そして、重心航跡算出部103は、球91の中心の測定点Pと抽出された測定点Pからなる点群の重心座標点を算出することで、重心航跡を算出する。
図3に示した例では、過去航跡90aを注目する過去航跡とした場合と同じ重心座標点G
1、G
2、及びG
3が算出される。すなわち、過去航跡90aを注目する過去航跡とした場合と同じ重心航跡81が得られる。
【0035】
そして、重心航跡算出部103は、過去航跡90cを注目する過去航跡90として、同様に、重心航跡を算出する。すなわち、重心航跡算出部103は、過去航跡90cを構成する測定点Pを中心とする球91を設定し、球91に含まれる他の過去航跡90a及び90bの測定点Pを抽出する。そして、重心航跡算出部103は、球91の中心の測定点Pと抽出された測定点Pからなる点群の重心座標点を算出することで、重心航跡を算出する。
【0036】
図3に示した例では、球91の中心を測定点P
c1及びP
c2とすることにより、過去航跡90aもしくは90bを注目する過去航跡とした場合と同じ重心座標点G
1及びG
2が算出される。しかしながら、球91の中心を測定点P
c3とした場合には、他の過去航跡90の測定点Pが球91内には存在しない。このため、球91の中心の測定点Pと抽出された測定点Pからなる点群は、測定点P
c3のみを含み、この点群の重心座標点(平均座標点)は、測定点P
c3に一致する。このため、過去航跡90cを注目する過去航跡90とした場合、重心座標点G
1、G
2、及びP
c3を繋げることにより表される重心航跡82が得られる。
【0037】
このように、
図3に示した例では、重心座標点G
2で分岐する2種類の重心航跡81及び82が算出される。
【0038】
信頼度算出部104は、複数の過去航跡のそれぞれを注目する過去航跡とすることにより算出された重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出する。具体的には、信頼度算出部104は、注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲(上述した半径r)以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点とから構成される測定点群のばらつき度合いに基づいて信頼度を算出する。すなわち、信頼度算出部104は、重心座標点の算出のために用いられた測定点群のばらつき度合いに基づいて信頼度を算出する。
【0039】
以下、信頼度算出部104による信頼度の算出について詳細を説明する。信頼度算出部104は、一つの重心航跡に対して、当該重心航跡を構成する重心座標点毎に、上述したばらつき度合いを算出する。例えば、重心座標点G1に関するばらつき度合いの算出は、この重心座標点G1の算出のために用いられた測定点群(すなわち、測定点Pa1、Pb1、及びPc1)のばらつき度合いの算出により求められる。本実施の形態では、信頼度算出部104は、ばらつき度合いとして、具体的には、以下の式(2)に示される不偏標準偏差scを算出する。
【0040】
【0041】
式(2)において、nは、重心座標点の算出のために用いられた測定点の数である。例えば、重心座標点G1の算出のためには、測定点Pa1、Pb1、及びPc1が用いられるため、この場合、n=3である。また、miは、重心座標点の算出のために用いられた測定点の座標であり、mGは、重心座標点の座標である。例えば、重心座標点G1に関するばらつき度合いの算出は、mGとして、重心座標点G1の座標を設定し、miとして、測定点Pa1、Pb1、及びPc1の座標を順に設定することにより算出される。
【0042】
このようにして、信頼度算出部104は、一つの重心航跡に対して、当該重心航跡を構成する重心座標点毎に、不偏標準偏差scを算出する。そして、信頼度算出部104は、一つの重心航跡に対して、当該重心航跡を構成する重心座標点毎に、不偏標準偏差scに基づいて以下の式(3)に示される信頼度cdを算出する。
【0043】
【0044】
式(3)に示されるように、信頼度cdの算出にあたって、ばらつき度合いを示す不偏標準偏差scを球91の直径(すなわち、2r)で除している。したがって、球91の大きさを考慮した、ばらつき度合いが算出されている。式(3)からわかるように、ばらつき度合いを表すscの値が大きいほど信頼度cdの値が小さく、scの値が小さいほど信頼度cdの値が大きくなる。なお、信頼度算出部104は、式(3)に示した数式に示される信頼度に限らず、ばらつき度合いが大きいほど信頼度が低下し、ばらつき度合いが小さいほど信頼度が高まるように定義された任意の信頼度を算出してもよい。例えば、式(3)では、不偏標準偏差scを球91の直径で除しているが、必ずしも、そのような演算が行われなくてもよい。すなわち、例えば、式(3)において、sc/2rを、scと置き換えてもよい。
【0045】
このように、信頼度算出部104は、各重心座標点について、ばらつき度合いに基づいて信頼度cdを算出する。そして、信頼度算出部104は、一つの重心航跡の重心座標点の全ての信頼度cdの平均値を当該重心航跡の信頼度とする。なお、本実施の形態では、このように平均値を算出しているが、重心航跡を構成するいずれかの重心座標点についての信頼度を当該重心航跡の信頼度としてもよい。しかしながら、本実施の形態のように平均をとることにより、より適切に、重心航跡の信頼度を評価することができる。
【0046】
重心航跡選択部105は、信頼度算出部104が算出した重心航跡毎の信頼度に基づいて、重心航跡算出部103が算出した重心航跡のうち一つの重心航跡を選択する。具体的には、重心航跡選択部105は、重心航跡算出部103が算出した重心航跡のうち、信頼度が最大である重心航跡を選択する。例えば、
図3に示した例では、重心航跡選択部105は、重心航跡81と重心航跡82のうち、重心航跡81を選択する。
【0047】
航跡予測部106は、予測対象の移動体の観測された測定点(具体的には、当該移動体の最新の位置を示す座標)と、重心航跡選択部105により選択された重心航跡とに基づいて、当該移動体の予測される航跡(予測される将来の進路)を算出する。なお、予測対象の移動体の観測された測定点は、選択された重心航跡の存在する領域の近傍に存在しているものとする。すなわち、重心航跡との距離が所定の範囲内の領域において、予測対象の移動体の観測された測定点が存在するものとする。
【0048】
航跡予測部106は、移動体の予測される航跡として、移動体の観測された測定点(座標)から、選択された重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する。以下、航跡予測部106が算出する航跡を予測航跡と称す。また、選択された重心航跡について、選択航跡と称することとする。
【0049】
航跡予測部106は、収束の度合いを定めるパラメータsを用いて予測航跡を算出する。
図4は、予測航跡の算出について示す模式図である。
図4において、P
m(k)は、移動体の観測された最新の測定点、又は、航跡予測部106が予測した移動体のk番目の予測位置の座標点を表す。具体的には、k=0の場合、P
m(k)は移動体の観測された最新の測定点を表し、k>0の場合、P
m(k)は航跡予測部106が予測した移動体のk番目の予測位置の座標点を表す。また、P
p(k)及びP
p(k+1)は、選択航跡を構成する隣り合う重心座標点を表す。つまり、選択航跡は、P
p(k)からP
p(k+1)へと移動する航跡を含んでいる。特に、k=0の場合、P
p(k)は、選択航跡を構成する重心座標点のうち、最も測定点P
m(k)に近い重心座標点である。k=0の場合、重心座標点P
p(k)は、測定点P
m(k)との距離が所定閾値以下である重心座標点ともいえる。また、P’
m(k)は、P
p(k)を始点としてP
p(k+1)を終点とするベクトルが示す方向に、当該ベクトルの長さだけ、P
m(k)から移動した先の座標点である。
【0050】
航跡予測部106は、これらの座標点とパラメータsを用いて、移動体のk+1番目の予測位置Pm(k+1)を以下の式(4)により算出する。
【0051】
【0052】
ここで、式(4)において、sは、0<s<1を満たす所定値に設定されている。航跡予測部106は、Pp(k+1)が、選択航跡を構成する最後の重心座標点となるまで、kの値を1ずつ増加させて、移動体の予測位置Pm(k+1)を算出する。そして、航跡予測部106は、この一連の予測位置を結ぶことにより得られる航跡を予測航跡として算出する。
【0053】
表示制御部107は、航跡予測部106により予測された予測航跡をディスプレイ153(
図6参照)などに表示するよう制御する。例えば、表示制御部107は、
図5に示すような表示を行うよう制御する。なお、
図5に示すように、表示制御部107は、予測航跡の他に、予測航跡の算出に用いられた過去航跡及び重心航跡を表示するよう制御してもよい。また、表示制御部107は、重心航跡について、算出された信頼度を表示するよう制御してもよい。なお、
図5において、上述したパラメータsの値は、0.4に設定されている。
【0054】
次に、航跡予測装置100のハードウェア構成について説明する。
図6は、航跡予測装置100のハードウェア構成の一例を示すブロック図である。
図6に示すように、航跡予測装置100は、ネットワークインタフェース150、メモリ151、プロセッサ152、ディスプレイ153、及び入力装置154を含む。
【0055】
ネットワークインタフェース150は、他の任意の装置と通信するために使用される。ネットワークインタフェース150は、例えば、ネットワークインタフェースカード(NIC)を含んでもよい。
【0056】
メモリ151は、例えば、揮発性メモリ及び不揮発性メモリの組み合わせによって構成される。メモリ151は、プロセッサ152により実行される、1以上の命令を含むソフトウェア(コンピュータプログラム)、及び航跡予測装置100の各種処理に用いるデータなどを格納するために使用される。上述したデータ記憶部102は、例えば、メモリ151により実現されるが、他の記憶装置により実現されてもよい。
【0057】
プロセッサ152は、メモリ151からソフトウェア(コンピュータプログラム)を読み出して実行することで、上述した
図1に示す各構成要素の処理を行う。具体的には、プロセッサ152は、データ取得部101、重心航跡算出部103、信頼度算出部104、重心航跡選択部105、航跡予測部106、及び表示制御部107の処理を行う。
【0058】
プロセッサ152は、例えば、マイクロプロセッサ、MPU(Micro Processor Unit)、又はCPU(Central Processing Unit)などであってもよい。プロセッサ152は、複数のプロセッサを含んでもよい。
このように、航跡予測装置100は、コンピュータとして機能する装置である。
【0059】
なお、上述したプログラムは、様々なタイプの非一時的なコンピュータ可読媒体(non-transitory computer readable medium)を用いて格納され、コンピュータに供給することができる。非一時的なコンピュータ可読媒体は、様々なタイプの実体のある記録媒体(tangible storage medium)を含む。非一時的なコンピュータ可読媒体の例は、磁気記録媒体(例えばフレキシブルディスク、磁気テープ、ハードディスクドライブ)、光磁気記録媒体(例えば光磁気ディスク)、CD-ROM(Read Only Memory)CD-R、CD-R/W、半導体メモリ(例えば、マスクROM、PROM(Programmable ROM)、EPROM(Erasable PROM)、フラッシュROM、RAM(Random Access Memory))を含む。また、プログラムは、様々なタイプの一時的なコンピュータ可読媒体(transitory computer readable medium)によってコンピュータに供給されてもよい。一時的なコンピュータ可読媒体の例は、電気信号、光信号、及び電磁波を含む。一時的なコンピュータ可読媒体は、電線及び光ファイバ等の有線通信路、又は無線通信路を介して、プログラムをコンピュータに供給できる。
【0060】
ディスプレイ153は、航跡などを表示するために用いられる。ディスプレイ153は、例えば、液晶ディスプレイ、プラズマディスプレイ、有機EL(Electro-Luminescence)ディスプレイなどのプラットパネルディスプレイである。
【0061】
入力装置154は、ユーザからの入力を受付ける装置である。例えば、入力装置154は、キーボード又はマウスであってもよいし、ディスプレイ153と一体的にタッチパネルとして構成されていてもよい。
【0062】
次に、航跡予測装置100の処理の流れについて説明する。
図7は、航跡予測装置100による動作の一例を示すフローチャートである。以下、
図7を参照しつつ、動作の一例について説明する。
【0063】
ステップS101において、重心航跡算出部103が、データ記憶部102に記憶されている過去航跡を参照して、重心航跡を算出する。
次に、ステップS102において、信頼度算出部104が、算出された各重心航跡の信頼度を算出する。
次に、ステップS103において、重心航跡選択部105が、算出された信頼度に基づいて、重心航跡を選択する。具体的には、重心航跡選択部105は、算出された信頼度の値が最も大きい重心航跡を選択する。
次に、ステップS104において、航跡予測部106が、予測対象の移動体の観測された測定点と、ステップS103で選択された重心航跡とに基づいて、当該移動体の予測航跡を算出する。
次に、ステップS105において、表示制御部107が、算出された予測航跡をディスプレイ153に表示する。
【0064】
以上、実施の形態1について説明した。航跡予測装置100によれば、過去航跡に基づいて重心航跡が生成され、それら重心航跡のうち信頼性の高いものを用いて、予測航跡が生成される。このため、航跡予測装置100によれば、過去の複数の航跡の情報に基づいて、移動体の航跡を予測することができる。
【0065】
<実施の形態2>
次に、実施の形態2について説明する。実施の形態2は、実施の形態1の特徴的な要素から構成される実施の形態である。
図8は、実施の形態2にかかる航跡予測装置1の構成の一例を示すブロック図である。
【0066】
航跡予測装置1は、重心航跡算出部2と、信頼度算出部3と、重心航跡選択部4と、航跡予測部5とを有する。
【0067】
重心航跡算出部2は、注目する過去航跡を構成する測定点と、当該測定点から所定の範囲以内に存在する他の過去航跡を構成する測定点との重心座標点を、当該注目する過去航跡を構成する測定点のそれぞれに対して算出する。そして、重心航跡算出部2は、算出した複数の重心座標点により表される航跡である重心航跡を算出する。
【0068】
信頼度算出部3は、複数の過去航跡のそれぞれを注目する過去航跡とすることにより算出された重心航跡のそれぞれについて、信頼度を算出する。
【0069】
重心航跡選択部4は、算出された重心航跡のうち信頼度に基づいて一つの重心航跡を選択する。
航跡予測部5は、移動体の予測される航跡として、移動体の観測された座標から、選択された重心航跡に徐々に収束する航跡を算出する。
【0070】
このような航跡予測装置1によれば、過去航跡に基づいて重心航跡が生成され、それら重心航跡のうち信頼性の高いものを用いて、予測航跡が生成される。このため、航跡予測装置1によれば、過去の複数の航跡の情報に基づいて、移動体の航跡を予測することができる。
【0071】
なお、本発明は上記実施の形態に限られたものではなく、趣旨を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。例えば、航跡予測装置が用いるパラメータの値として、機械学習により学習されたパラメータ値が用いられてもよい。これにより、より精度の高い予測が可能になることが期待される。例えば、収束の度合いを定めるパラメータ値(sの値)として、航跡予測部により算出される予測航跡と、正解データである所定の航跡との差分が所定の閾値以下となるよう学習された値が用いられてもよい。同様に、所定の範囲の大きさを定めるパラメータ値(半径rの値)として、航跡予測部により算出される予測航跡と、正解データである所定の航跡との差分が所定の閾値以下となるよう学習された値が用いられてもよい。すなわち、航跡予測装置は、このようにして学習されたパラメータ値を用いて、移動体の予測航跡を算出してもよい。
【0072】
また、上述した実施の形態では、移動体が航空機であったが、予測対象の移動体は航空機に限らず任意の対象物とすることができる。例えば、移動体は台風などであってもよい。また、上述した予測手法と、他の予測手法、例えば、カルマンフィルタ処理を用いた航跡予測とを組み合わせて、予測が行われてもよい。
【符号の説明】
【0073】
1 航跡予測装置
2 重心航跡算出部
3 信頼度算出部
4 重心航跡選択部
5 航跡予測部
81 重心航跡
82 重心航跡
90 過去航跡
91 球
100 航跡予測装置
101 データ取得部
102 データ記憶部
103 重心航跡算出部
104 信頼度算出部
105 重心航跡選択部
106 航跡予測部
107 表示制御部
150 ネットワークインタフェース
151 メモリ
152 プロセッサ
153 ディスプレイ
154 入力装置